(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】油中水型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/015 20060101AFI20230502BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
A23D7/015
A23D7/015 500
A23D7/005
(21)【出願番号】P 2019040306
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018040741
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 理沙
(72)【発明者】
【氏名】松尾 光郎
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/142463(WO,A1)
【文献】特開2007-269909(JP,A)
【文献】特開2005-151834(JP,A)
【文献】特開昭61-067432(JP,A)
【文献】特開2011-130712(JP,A)
【文献】特開2008-022791(JP,A)
【文献】Jorge F. Toro-Vazquez et al.,Physical properties of organogels and water in oil emulsions structured by mixtures of candelilla wax and monoglycerides,Food Research International,2013年,Vol.54,p.1360-1368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00-7/06
A23L 2/00-35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂成分を1~42重量%含み、かつ、部分水素添加油脂を含まない油中水型乳化油脂組成物であって、
エステル交換油を1~5重量%
、
蝋を0.1~1重量%
、及び
重合度が5~29のイヌリンを25~30重量%含み、
前記油脂成分の全構成脂肪酸中、飽和脂肪酸が20重量%以下であ
り、
前記エステル交換油は、炭素数6~22の脂肪酸により構成され、各脂肪酸の割合が前記エステル交換油に対して0~30重量%である、油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
前記蝋が、蜜蝋、ライスワックス、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、及びヒマワリワックスからなる群から選択される少なくとも1以上である、請求項
1に記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
前記蝋が、蜜蝋及びライスワックスからなる群から選択される少なくとも1以上である、請求項1
又は2に記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項4】
前記蝋がライスワックスである、請求項1~
3のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項5】
トランス脂肪酸の含量が0重量%以上~0.05重量%未満である、請求項1~
4のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項6】
スプレッドである、請求項1~
5のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
健康志向の高まりから、低脂肪スプレッドにおけるトランス脂肪酸や飽和脂肪酸の低減が求められてきた。しかしながら、低脂肪スプレッドの低トランス脂肪酸化及び低飽和脂肪酸化においては、液状油に対する固体脂の割合が極めて低いことに起因する硬度低下や、液状油を固形又は半固形状にするために添加する油脂構造化剤の性状に起因する保存時の油脂収縮等の問題があった。
【0003】
特許文献1には、トランス脂肪酸の含量が少なくても、良好な口溶け、外観、可塑性及び酸化安定性を有し、耐熱保型性を有するフィリング用油中水型乳化油脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたフィリング用油中水型乳化油脂組成物はトランス脂肪酸の含量を少なくしたものであるが、飽和脂肪酸の含量については言及されていない。
そこで、本発明は、低脂肪、低飽和脂肪酸、低トランス脂肪酸であり、すぐれた特徴を有する、新規な油中水型乳化油脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意研究を行った結果、少量の蝋により液状油をゲル化することによって、従来求められてきた特徴(硬度・口溶け・保存性・耐熱性・乳化安定性)をすべて実現でき、かつ、低脂肪、低飽和脂肪酸、低トランス脂肪酸のすべてを兼ね備えた油中水型乳化油脂組成物を簡便に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明によれば、以下の油中水型乳化油脂組成物等を提供できる。
1.油脂成分を1~42重量%含み、かつ、部分水素添加油脂を含まない油中水型乳化油脂組成物であって、
エステル交換油を1~5重量%、及び
蝋を0.1~1重量%含み、
前記油脂成分の全構成脂肪酸中、飽和脂肪酸が20重量%以下である、油中水型乳化油脂組成物。
2.前記エステル交換油は、炭素数6~22の脂肪酸により構成され、各脂肪酸の割合が前記エステル交換油に対して0~30重量%である、1に記載の油中水型乳化油脂組成物。
3.前記蝋が、蜜蝋、ライスワックス、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、及びヒマワリワックスからなる群から選択される少なくとも1以上である、1又は2に記載の油中水型乳化油脂組成物。
4.前記蝋が、蜜蝋及びライスワックスからなる群から選択される少なくとも1以上である、1~3のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
5.前記蝋がライスワックスである、1~4のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
6.トランス脂肪酸の含量が0重量%以上~0.05重量%未満である、1~5のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
7.さらに、重合度が5~29のイヌリンを25~30重量%含む、1~6のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
8.スプレッドである、1~7のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低脂肪、低飽和脂肪酸、低トランス脂肪酸であり、すぐれた特徴(硬度・口溶け・保存性・耐熱性・乳化安定性)を有する、新規な油中水型乳化油脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、試験例3の固体脂含量(SFC、%)の測定結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の油中水型乳化油脂組成物の実施形態について説明する。
【0011】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、油脂成分を1~42重量%含み、かつ、部分水素添加油脂を含まない油中水型乳化油脂組成物であって、エステル交換油を1~5重量%、及び蝋を0.1~1重量%含み、前記油脂成分の全構成脂肪酸中、飽和脂肪酸が20重量%以下であるものである。
【0012】
本発明の油中水型乳化油脂組成物によれば、エステル交換油と蝋をそれぞれ特定の量で含むことにより、低脂肪、低飽和脂肪酸、低トランス脂肪酸の油中水型乳化油脂組成物における従来の課題を解決することができる。具体的には、低脂肪、低飽和脂肪酸、低トランス脂肪酸の油中水型乳化油脂組成物に対して、すぐれた硬度・口溶け・保存性・耐熱性・乳化安定性を付与できる。
本発明者らが知る限りにおいて、低脂肪、低飽和脂肪酸、低トランス脂肪酸のすべてを兼ね備えつつ、すぐれた硬度・口溶け・保存性・耐熱性・乳化安定性を有する油中水型乳化油脂組成物はこれまで知られていない。
【0013】
本発明において、油中水型乳化油脂組成物とは、油を連続相として水が分散する乳化組成物を意味する。本発明の油中水型乳化油脂組成物は、例えば、スプレッド等として提供することができる。
【0014】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、油脂成分を1~42重量%含む。これにより、本発明の油中水型乳化油脂組成物を低脂肪のものとすることができる。油脂成分の含量は、好ましくは、5~35重量%、より好ましくは、10~30重量%、さらにより好ましくは、15~25重量%である。
【0015】
本発明の油中水型乳化油脂組成物を構成する油脂成分としては、当技術分野において既知の任意の油脂を使用することができ、例えば、ナタネ油、大豆油、パーム油、コーン油、サフラワー油、ヤシ油、オリーブ油、ヒマワリ油、米ヌカ油、綿実油等の食用植物油脂、乳脂肪、魚油、牛脂、豚脂等の食用動物油脂を使用することができる。
【0016】
油脂成分は、製造する油中水型乳化油脂組成物において目的とする物性に依存して、液状油と固体脂を適宜組み合わせて使用することができる。
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、液状油を、例えば、5~35重量%、10~30重量%、15~25重量%の範囲で含むことができる。
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、固体脂を、例えば、1~4.5重量%、1~4重量%、1~3.5重量%の範囲で含むことができる。
尚、液状油は、製造環境、使用環境等の温度(例えば、15~25℃)において、液体の形態である油脂成分を意味し、固体脂は、製造環境、使用環境等の温度(例えば、15~25℃)において、固体の形態である油脂成分を意味する。
【0017】
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、液状油としては、ナタネ油、大豆油、パーム油、コーン油、サフラワー油、ヤシ油、オリーブ油、ヒマワリ油、米ヌカ油、綿実油等の植物油を使用することができ、好ましくは、植物の利用部位が種子類である植物油(例えば、ハイオレイックサフラワー油)である。
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、固体脂としては、製造環境、使用環境等の温度(例えば、15~25℃)において固形である、エステル交換油を使用することができる。
【0018】
本発明において、エステル交換油とは、ナトリウムメトキシド等の触媒又はリパーゼの作用により、油脂を構成するトリアシルグリセロールの分子内又は分子間でのアシル基を交換させて、脂肪酸の組み合わせの異なったトリアシルグリセロールを生じさせる反応(エステル交換反応)によって製造された油脂を意味する。また、本発明において、エステル交換油は、製造環境、使用環境等の温度(例えば、15~25℃)において固形であるものをいうものとする。
【0019】
本発明の一態様において、エステル交換油は、炭素数6~22の脂肪酸により構成され、各脂肪酸の割合がエステル交換油に対して0~30重量%であることが好ましい。
具体的には、例えば、構成脂肪酸として、C6:0+C8:0+C10:0=6重量%、C12:0=22重量%、C14:0+C16:0=17重量%、C18:0=22重量%、C22:0=22重量%、及びその他の脂肪酸=11重量%を含むエステル交換油等を使用することができる。
【0020】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、エステル交換油を1~5重量%含む。本発明の油中水型乳化油脂組成物は、エステル交換油を特定の量で含むことにより、トランス脂肪酸含量を低減(低トランス脂肪酸化)することができる。エステル交換油の含量は、好ましくは、1~4.5重量%、より好ましくは、1~4重量%、さらにより好ましくは、1~3.5重量%である。
【0021】
本発明において、部分水素添加油脂とは、不飽和脂肪酸を含む油脂に対して触媒等の存在下で水添反応を行うことにより水素を付加した油脂を意味する。
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、部分水素添加油脂を含まない。部分水素添加油脂の製造過程で水添反応を行う際、トランス脂肪酸が製造される可能性があるため、本発明の油中水型乳化油脂組成物は部分水素添加油脂を含まないものとすることにより、低トランス脂肪酸とすることができる。
【0022】
本発明の一態様において、トランス脂肪酸の含量が0重量%以上~0.05重量%未満であることが好ましい。トランス脂肪酸の含量は、より好ましくは、検出下限未満である。
【0023】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、蝋を0.1~1重量%含む。本発明の油中水型乳化油脂組成物は、蝋を特定の量で含むことにより、組成物中に含まれる液状油をゲル化させ固形又は半固形状にする機能を発揮し、これにより組成物に好ましい物性を付与することができる。蝋の含量は、好ましくは、0.1~0.85重量%、より好ましくは、0.1~0.7重量%、さらにより好ましくは、0.1~0.55重量%である。
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、蝋は、液状油をゲル化させ固形又は半固形状にする油脂構造化剤として機能する。
【0024】
本発明において、蝋とは、脂肪酸と高級一価アルコール類又は二価アルコール類とのエステルであり、両親媒性の低い非極性の疎水性分子を指す。動物由来及び植物由来のものを含む。例えば、蜜蝋、ライスワックス、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ヒマワリワックス等が挙げられる。
【0025】
本発明の一態様において、蝋は、蜜蝋及びライスワックスからなる群から選択される少なくとも1以上であることが好ましい。これを添加することにより、油脂組成物の硬度上昇や耐熱性付与の効果が得られる。
また、本発明の別の態様において、蝋は、ライスワックスであることが好ましい。
【0026】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、油脂成分の全構成脂肪酸中、飽和脂肪酸が20重量%以下である。これにより、本発明の油中水型乳化油脂組成物を低飽和脂肪酸のものとすることができる。油脂成分の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含量は、好ましくは、18重量%以下、より好ましくは、15重量%以下である。
【0027】
本発明の一態様では、油中水型乳化油脂組成物はイヌリンを含むことが好ましい。イヌリンは重合度が5~29であることが好ましい。本発明の油中水型乳化油脂組成物におけるイヌリンの含量は25~30重量%が好ましい。
【0028】
イヌリンは、一般式GFn(G:グルコース、F:フルクトース、n:フルクトースの数(n≧2))で表される分岐のないフラクタンである。一般に重合度の異なるイヌリンの集合体として販売されているが、個々の重合度のイヌリンに着目した場合、重合度の大きさにより性質は異なり、低重合体(特に重合度4以下)は甘味を呈し、高重合体(特に30以上)は水に溶けづらい特徴を有する。そのため、集合体においても、その重合度の分布が加工特性や味質・食感に影響を与える。
【0029】
本発明の一態様では、油中水型乳化油脂組成物がイヌリンを含むことにより、油脂含量を低減(低脂肪化)することができる。
【0030】
本発明において使用するイヌリンは、重合度5~29のイヌリンを95重量%以上含むイヌリン組成物が好ましい。本発明において使用するイヌリン組成物は、スクロースにイヌリン合成酵素のような糖転移酵素を作用させて合成することができる。具体的な製法は、例えば、WO03/027304に記載されているとおりである。
【0031】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、当技術分野において既知の任意の食品添加剤を含んでいてもよい。食品添加剤としては、例えば、酸化防止剤、香料、着色料、乳化剤、調味料(食塩等)等が挙げられる。食品添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわないことを条件として、適宜決定することができる。
【0032】
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、油脂成分及び食品添加剤以外の構成成分は、水相を構成する水である。尚、前述のとおり、本発明の一態様では、イヌリンを含んでもよい。
【0033】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、油相を構成する材料を混合して油相を調製し、水相を構成する材料を混合して水相を調製してから、油相と水相を任意の既知の手段で混合して乳化することにより製造することができる。具体的には、例えば、実施例に記載の方法により、製造することができる。
【0034】
本発明の一態様では、油中水型乳化油脂組成物の油相構成成分について5℃での固体脂含量(以下、「SFC」ともいう。)に対する35℃における固体脂含量の割合が34%以下であることが好ましい。これにより、口溶けにすぐれた油中水型乳化油脂組成物とすることができる。上記のSFC割合は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは25%以下であり、例えば、34%以下、33%以下、32%以下、31%以下、30%以下、29%以下、28%以下、27%以下、26%以下、25%以下、24%以下、又は23%以下であってもよい。上記割合の下限値は、特に限定されないが、例えば5%以上である。
SFCは、例えば、実施例に記載する方法により測定することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載には限定されない。
【0036】
試験例1
(1)スプレッドの調製
表1に示す配合にしたがって、油相及び水相の構成成分を用意し、以下に示す手順で、油脂構造化剤を変化させたスプレッド(油中水型乳化油脂組成物)を調製した。各成分の入手元を以下に示す。
・ハイオレイックサフラワー油(日清オイリオ株式会社)
・エステル交換油:構成脂肪酸として、C6:0+C8:0+C10:0=6重量%、C12:0=22重量%、C14:0+C16:0=17重量%、C18:0=22重量%、C22:0=22重量%、及びその他の脂肪酸=11重量%を含む(太陽油脂株式会社)
・油脂構造化剤
・・ライスワックス(横関油脂工業株式会社)
・・蜜蝋(三木化学工業株式会社)
・・TAISET-AD(太陽化学株式会社)
・乳化剤
・・グリセリン酸脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社)
・・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGPR)(太陽化学株式会社)
・香料
・イヌリン組成物(フジ日本精糖株式会社:重合度5~29のイヌリンを95重量%以上含む)
【0037】
【0038】
まず、75℃以上に加熱した水に食塩及びイヌリン組成物を溶解させて、水相部を調製した。
次いで、油相部を構成する材料を調合タンクに入れ、調合タンクのジャケットを約65℃に制御しながら、内容物を撹拌、混合して、油相部を調製した。
【0039】
次いで、調合タンク中の油相部に水相部を低流量で添加し、調合タンクのジャケットを約65℃に制御しながら、10分以上、内容物を撹拌、混合して、乳化液を得た。
【0040】
得られた乳化液を、殺菌、冷却後、混練機(コンビネーター)に供した。混練機に向けて送り出す高圧ポンプの出口圧力を0.3~0.5MPa、マーガリン製造機の出口温度を23~27℃、循環時間を15~240分間に設定して運転し、低脂肪スプレッドを得た。
【0041】
得られた低脂肪スプレッドについて、スプレッド中の飽和脂肪酸は3.12重量%であり、油脂成分の全構成脂肪酸組成中の飽和脂肪酸は14.5重量%であった。また、トランス脂肪酸は検出されず、検出下限(0.05重量%)未満であった。
【0042】
(2)スプレッドの評価
油脂構造化剤を変えて調製した実施例1~2及び比較例1のスプレッドについて、以下の項目の評価を行った。結果を表2に示す。
【0043】
[保存中の表面組織状態(保存性)]
実際のスプレッド使用時の環境を想定し、10℃で23.5時間、30℃で0.5時間のサイクル運転で14日間保存した。表面にひび割れがあり、組織状態の悪化が見られた場合は評点1、表面にひび割れはないが滑らかでなく、組織状態が良好でない場合は評点2、表面が滑らかで、組織状態が良い場合は評点3として、保存中の表面組織状態を評価した。
【0044】
[オイルオフ(乳化安定性)]
上述のサイクル運転を行った後、スプレッドの外観を以下の5段階の基準で評価した。
・評点5:通常の冷蔵状態と同じ外観を呈する。
・評点4:表面に照りがある、一度溶けた様子がある等、通常の冷蔵状態とは異なるが、液体の油の分離はない。
・評点3:カップ縁近くに濃い黄色の部分がある、又は表面にわずかな油滴がある。
・評点2:カップ縁近くに液体の油がわずかに分離している、又は表面に多くの油滴がある。
・評点1:明らかな液体の油の分離がある。
【0045】
[口溶け]
10名の専門パネルにより官能評価を行い、口溶けが良好(評点3)、口溶けがやや良い(評点2)、口どけが悪い(評点1)を判定した。
【0046】
[総合評価]
以上の各項目を総合的に評価し、5段階の基準で評点をつけた。1(不適)~5(良)とした。
【0047】
【0048】
従来既知の油脂構造化剤を使用した比較例1のスプレッドは、保存中にひび割れがみられ、保存性が不適であり、口溶けが悪かった。一方、ライスワックスを使用した実施例1及び蜜蝋を使用した実施例2のスプレッドは、保存中にひび割れがみられず、保存性が良好であり、口溶けが良好であった。
以上より、油脂構造化剤として、ライスワックス(実施例1)、蜜蝋(実施例2)を添加することにより、保存性・乳化安定性・口溶けの良好な、低脂肪・低トランス脂肪酸・低飽和脂肪酸のスプレッドを製造できた。
【0049】
試験例2
(1)スプレッドの調製
油脂構造化剤としてライスワックスを使用し、表3に示す配合にしたがって、試験例1と同様にスプレッド(油中水型乳化油脂組成物)を調製した。尚、比較例3は、実施例1と比較して、ライスワックスを配合しない代わりに、ハイオレイックサフラワー油を21%配合したものである。
【0050】
【0051】
実施例3の低脂肪スプレッドについて、スプレッド中の飽和脂肪酸は3.1重量%であり、油脂成分の全構成脂肪酸組成中の飽和脂肪酸は14.0重量%であった。また、トランス脂肪酸検出下限未満であった。
【0052】
(2)スプレッドの評価
実施例1、3、及び比較例2、3のスプレッドについて、以下の項目の評価を行った。結果を表4に示す。
【0053】
[保存中の表面組織状態(保存性)]
試験例1と同様に評価した。
【0054】
[オイルオフ(乳化安定性)]
試験例1と同様に評価した。
【0055】
[耐熱性]
得られたスプレッドのサンプルをカップに入れ、30℃の恒温室に4時間静置し、1時間毎に「オイルオフ」及び「状態」について検査を行った。
「オイルオフ」とは表面状態の観察であり、試験例1と同じ5段階の基準で評価した。
「状態」は、傾斜台にカップの片側をのせ、10秒間カウント(保持)した時の状態を以下の5段階の基準で評価した。
・評点5:スプレッドが流動していない状態である。
・評点4:10秒以内に5mm未満のスプレッドの流動がみられる。
・評点3:10秒以内に5mm以上10mm未満のスプレッドの流動がみられる。
・評点2:10秒以内に10mm以上のスプレッドの流動がみられるが、カップの外には垂れない。
・評点1:スプレッドが流動して10秒以内にカップの外に垂れる。
4時間後に、「オイルオフ」と「状態」の両方が評点3以上のものを良好、その他を不良と判断した。
【0056】
[製造適性]
得られたスプレッドのサンプルの表面を薬さじで削り取り、スプレッドの内部を露出させて、削った面に露出した水滴の有無、大きさ、数を確認した。異なる12個のサンプルについて測定し、その平均を以下の5段階の基準で評価した。評点の異なる複数の基準に該当する場合は、低い評点をつけた。
・評点5:水滴が全くない。
・評点4:1mm未満の水滴がある。
・評点3:1mm以上4mm未満の水滴が1~9個ある。
・評点2:1mm以上4mm未満の水滴が10個以上ある。
・評点1:4mm以上の水滴がある。
【0057】
[硬度]
レオメーター(島津製作所、EZ Test EZSX)により、5℃における初期硬度(gf/cm2)を測定した。具体的には、試験力(gf)にプランジャー直径に応じた係数を乗じて、単位面積当たりの試験力、すなわち応力(gf/cm2)を算出した。3回測定を行い、平均値を初期硬度とした。レオメーターの測定では、ロードセル容量500Nで、プランジャーは進入弾性治具(直径5mmのプランジャータイプ(ねじ接続型)(部品番号346-51687、島津製作所))を用い、試験速度を0.1mm/sとした。
【0058】
[口溶け]
試験例1と同様に評価した。
【0059】
[総合評価]
試験例1と同様に評価した。
【0060】
【0061】
ライスワックスを使用した実施例1及び3は、評価項目すべてが良好であった。
実施例と比較例とを比較すると、口溶けは、実施例2及び3と比較例2及び3とで差がみられず、その他の評価項目は、実施例は比較例より良好な評価が得られた。
口溶けについて、従来既知の油脂構造化剤を使用した場合(比較例1)には、試験例1の結果のとおり悪い評価となるが、実施例2及び3では、他の評価項目を良好にしながら、口溶けを悪くすることなく、油脂構造化剤を使用しない比較例2及び3と同等に維持する結果が得られた。
以上より、ライスワックスを添加することにより、硬度・口溶け・保存性・耐熱性・乳化安定性の良好な、低脂肪・低トランス脂肪酸・低飽和脂肪酸のスプレッドを製造できた。
【0062】
試験例3
試験例1の実施例1~2及び比較例1のスプレッドの油相を構成する成分について、冷蔵保存時の例示的な温度である5℃から、喫食時の環境温度(ヒトの体温)である35℃~37℃までの温度範囲における固体脂含量を測定した。
具体的には、表1に示す配合にしたがって、試験例1の実施例1~2及び比較例1のスプレッドの油相を構成する成分を用意した。これらの油相構成成分を70℃以上で完全に融解させた後、氷水浴にて急冷し、温度が5℃となるよう調温し、24時間保温して、固体脂含量(SFC)測定用サンプルを得た。
【0063】
サンプルを恒温槽に漬け、徐々に昇温させながら、5、10、15、20、25、30、35、36、37℃の各温度において、BRUKER社製パルス核磁気共鳴装置(p-NMR)ミニスペックmq-20(共鳴周波数:20MHz、磁場:0.23~1.4T)を用いて固体脂含量(SFC、%)を測定した。結果を
図1に示す。
また、油相構成成分の5℃における固体脂含量に対する各温度における固体脂含量の割合を表5に示す。尚、試験は各3回ずつ実施し、各水準における標準誤差(SE)は0.34未満であった。
【0064】
【0065】
試験例1における各スプレッドは、水相を構成する成分の組成は同じであるから、実施例1~2及び比較例1の間での評価結果の違いは、油相構成成分の組成の違いに起因すると言える。したがって、油相構成成分の5~37℃(スプレッドを冷蔵庫から取り出してから口中に含むまでの温度領域)での固体脂含量の挙動により、スプレッドの口溶けを評価することができると考えられる。図の結果から、実施例1及び2の油相構成成分は比較例1と比較して25~37℃でのSFCが低くなることが分かる。また、その結果として、試験例1において実施例1及び2のスプレッドは比較例1と比較して口溶けが良好であったと言える。
【0066】
表5の結果から、油相構成成分について5℃でのSFCに対する各温度でのSFCの割合を比較すると、25℃において実施例1~2と比較例1との間で大きな差が生じ、体温付近(35~37℃)においても実質的な差がみられた。冷蔵温度から体温付近の温度に変化させたときの固体脂含量の減少により、スプレッドの良好な口溶けが提供されると言える。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、低脂肪、低飽和脂肪酸、低トランス脂肪酸であり、すぐれた特徴を有する、新規な油中水型乳化油脂組成物を提供できる。本発明の油中水型乳化油脂組成物を用いることにより、すぐれた硬度・口溶け・保存性・耐熱性・乳化安定性を有するスプレッドを提供できる。