(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】耐食性CuZn合金
(51)【国際特許分類】
C22C 9/04 20060101AFI20230502BHJP
C22C 18/02 20060101ALI20230502BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20230502BHJP
C22F 1/16 20060101ALN20230502BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230502BHJP
B21J 1/04 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C22C9/04
C22C18/02
C22F1/08 K
C22F1/16 B
C22F1/00 604
C22F1/00 640A
C22F1/00 682
C22F1/00 661Z
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 624
B21J1/04
(21)【出願番号】P 2020559236
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2019047271
(87)【国際公開番号】W WO2020116464
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018226858
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】高畑 雅博
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-116925(JP,A)
【文献】特開2000-129376(JP,A)
【文献】特開昭54-047823(JP,A)
【文献】特開2003-277856(JP,A)
【文献】特開2002-363718(JP,A)
【文献】特開2013-129876(JP,A)
【文献】国際公開第2019/097846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/04
C22C 18/02
C22F 1/08
C22F 1/16
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn含有量が36.8~56.5質量%であり、残余がCu及び不可避不純物であって、
β相の面積率が99.9%以上であ
り、
平均結晶粒径D50が、0.3~0.6mmの範囲にある、耐食性CuZn合金。
【請求項2】
Zn含有量とCu含有量の合計が99.999質量%以上である、請求項1に記載のCuZn合金。
【請求項3】
α相の面積率とγ相の面積率の合計が、0.01%以下である、
請求項1~2のいずれかに記載のCuZn合金。
【請求項4】
耐食性電極用合金である、
請求項1~3のいずれかに記載のCuZn合金。
【請求項5】
Na含有量が0.05
質量ppm未満、Mg含有量が0.01
質量ppm未満、Al含有量が0.01
質量ppm未満、Si含有量が0.5
質量ppm未満、P含有量が0.01
質量ppm未満、S含有量が0.05
質量ppm未満、Cl含有量が0.05
質量ppm未満、K含有量が0.01
質量ppm未満、V含有量が0.1
質量ppm未満、Cr含有量が1
質量ppm未満、Mn含有量が0.5
質量ppm未満、Fe含有量が1
質量ppm未満、Ni含有量が5
質量ppm未満、Ga含有量が0.1
質量ppm未満、As含有量が0.05
質量ppm未満、Se含有量が0.1
質量ppm未満、Mo含有量が0.5
質量ppm未満、Ag含有量が0.5
質量ppm未満、Cd含有量が0.5
質量ppm未満、Sn含有量が0.1
質量ppm未満、Sb含有量が0.01
質量ppm未満、Ba含有量が0.01
質量ppm未満、Pb含有量が5
質量ppm未満、Bi含有量が0.01
質量ppm未満、O含有量が10
質量ppm未満である、
請求項1~4のいずれかに記載のCuZn合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性雰囲気で使用される電極用として好適に使用可能な耐食性CuZn合金に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザー光が、近年、集積回路フォトリソグラフィに使用されるようになってきた。パルスレーザー光は、ガス放電媒体内で非常に短い放電かつ非常に高い電圧で1対の電極間にガス放電を与えて発生できる。例えばArFレーザーシステムにおいては、作動中に電極の対間にフッ素含有プラズマが発生する。フッ素含有プラズマは、金属に対する腐食性が非常に高い。その結果、電極は、パルスレーザーの発生装置の稼働中に時間と共に腐食する。電極の腐食は、腐食スポットを形成して、プラズマにアーキングを発生させ、電極の寿命の低下をさらに加速する。電極としては、例えばCu含有合金が使用される。
【0003】
電極の長寿命化のための技術として、Cu含有合金からなる放電用の電極の本体部分を、放電のために部分的に露出させて(放電受容領域)、その他の部分を他の合金で被覆することによって、電極として安定的に長期間使用する技術が開発されてきた(特許文献1、2)。一方、このような電極の構造の工夫に加えて、電極に使用する銅合金として、燐をドープした黄銅を使用して、黄銅中の微孔隙の発生を低減して、電極を長寿命化する技術が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-500942号公報
【文献】特表2007-510284号公報
【文献】特表2015-527726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電極の構造の工夫によって電極を長寿命化しようとする従来の技術においても、もし、Cu含有合金の耐食性が改善されれば、電極の長寿命化がさらに可能になる。また、燐をドープした黄銅を使用して長寿命化する技術においては、Cu含有合金に燐を目的濃度までドープする工程による工程数の増加負担が生じるが、このような負担は回避できることが望ましい。
【0006】
したがって、本発明の目的は、耐食性を向上させた、Cu含有合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、後述する組成のCuZn合金を多段鍛造することによって、他の元素を添加することなく優れた耐食性を発揮することを見いだして、本発明に到達した。
【0008】
したがって、本発明は、次の(1)を含む。
(1)
Zn含有量が36.8~56.5質量%であり、残余がCu及び不可避不純物であって、
β相の面積率が99.9%以上である、耐食性CuZn合金。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐食性のCuZn合金が得られる。本発明の耐食性CuZn合金は、酸性雰囲気で使用される電極用として好適に使用でき、特にArFレーザーシステム、及びKrFレーザーシステムの電極用として好適である。本発明の耐食性CuZn合金は、製造時において他の元素の添加の必要がなく、これらの添加工程による工程数増加の負担を回避して、製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2-1】
図2-1は試料1~3についての硝酸を使用した耐食性試験の結果である。
【
図2-2】
図2-2は試料4~6についての硝酸を使用した耐食性試験の結果である。
【
図3-1】
図3-1は試料1~3についてのフッ硝酸水溶液を使用した耐食性試験の結果である。
【
図3-2】
図3-2は試料4~6についてのフッ硝酸水溶液を使用した耐食性試験の結果である。
【
図4】
図4は試料1の断面の一例を示す光学顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は試料3の断面の一例を示す光学顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は試料1及び試料3の粒度分布のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施の態様をあげて詳細に説明する。本発明は以下にあげる具体的な実施の態様に限定されるものではない。
【0012】
[耐食性CuZn合金]
本発明に係る耐食性CuZn合金は、Zn含有量が36.8~56.5質量%であり、残余がCu及び不可避不純物であって、
β相の面積率が99.9%以上である、CuZn合金にある。このCuZn合金は、耐食性電極用合金として好適に使用できる。
【0013】
[Zn含有量とCu含有量]
Zn含有量は、36.8~56.5質量%とすることができ、例えば、好ましくは36.5~50.0質量%、さらに好ましくは36.5~46.0質量%、あるいは好ましくは36.8~50.0質量%、さらに好ましくは36.8~46.0質量%、あるいは40.0~46.0質量%とすることができる。Zn含有量とCu含有量の合計は、99.999質量%以上とすることができ、好ましくは99.9999質量%以上、さらに好ましくは99.99995質量%以上とすることができる。
【0014】
[不可避不純物]
本発明において、CuZn合金の不可避不純物として、さらに以下の各元素の含有量をそれぞれ以下の通りの含有量とすることができる。
Na含有量が0.05ppm未満、好ましくは0.01ppm未満(測定限界未満)、
Mg含有量が0.01ppm未満、好ましくは0.001ppm未満(測定限界未満)、
Al含有量が0.01ppm未満、好ましくは0.001ppm未満(測定限界未満)、
Si含有量が0.5ppm未満、好ましくは0.005ppm未満(測定限界未満)、
P含有量が0.01ppm未満、好ましくは0.005ppm未満(測定限界未満)、
S含有量が0.05ppm以下、好ましくは0.05ppm未満(測定限界未満)、
Cl含有量が0.05ppm未満、好ましくは0.005ppm未満(測定限界未満)、
K含有量が0.01ppm以下、好ましくは0.01ppm未満(測定限界未満)、
V含有量が0.1ppm未満、好ましくは0.001ppm未満(測定限界未満)、
Cr含有量が1ppm未満、好ましくは0.09ppm以下、
Mn含有量が0.5ppm未満、好ましくは0.3ppm以下、
Fe含有量が1ppm未満、好ましくは0.8ppm以下、
Ni含有量が5ppm未満、好ましくは0.2ppm以下、
Ga含有量が0.1ppm未満、好ましくは0.05ppm未満(測定限界未満)、
As含有量が0.05ppm未満、好ましくは0.005ppm未満(測定限界未満)、
Se含有量が0.1ppm未満、好ましくは0.04ppm以下、
Mo含有量が0.5ppm未満、好ましくは0.005ppm未満(測定限界未満)、
Ag含有量が0.5ppm未満、好ましくは0.15ppm以下、
Cd含有量が0.5ppm未満、好ましくは0.05ppm以下、
Sn含有量が0.1ppm未満、好ましくは0.005ppm未満(測定限界未満)、
Sb含有量が0.01ppm未満、好ましくは0.005ppm未満(測定限界未満)、
Ba含有量が0.01ppm未満、好ましくは0.005ppm未満(測定限界未満)、
Pb含有量が5ppm未満、好ましくは3ppm以下、
Bi含有量が0.01ppm以下、0.01ppm未満、好ましくは0.001ppm未満(測定限界未満)、
O含有量が10ppm未満、好ましくは1ppm未満(測定限界未満)とすることができる。
好適な実施の態様において、不純物元素の含有量を、後述する表1(表1-1、表1-2、表1-3)に記載された試料1の各元素の含有量の値以下とすることができ、試料1において測定限界値未満の各元素についてはその測定限界値未満とすることができる。
【0015】
金属元素はGD-MS(V.G.Scientific社製 VG-9000)によって分析することができ、気体成分は酸素(O)、窒素(N)及び水素(H)については、LECO社製の酸素窒素分析装置(型式TCH-600)を、炭素(C)及び硫黄(S)についてはLECO社製の炭素硫黄分析装置(型式CS-444)を使用して分析することができる。
【0016】
[β相の面積率]
好適な実施の態様において、本発明に係る耐食性CuZn合金は、β相の面積率が例えば99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上である。β相の面積率について、特に上限の制約はないが、例えば100%以下とすることができる。
β相の面積率は、実施例において後述する手段によって、算出することができる。
【0017】
CuZn合金においては、本発明において取り扱うZn含有量の範囲と温度では、α相、β相、γ相が表れることが知られている。好適な実施の態様において、本発明に係る耐食性CuZn合金は、β相の面積率が上述の範囲となっており、結果として、α相の面積率とγ相の面積率の合計が、例えば0.01%以下、好ましくは0.001%以下、さらに好ましくは0.0001%以下とすることができる。α相の面積率とγ相の面積率の合計について、特に下限の制約はないが、例えば0%以上とすることができる。
【0018】
[平均結晶粒径]
好適な実施の態様において、本発明に係る耐食性CuZn合金は、平均結晶粒径D50が、例えば0.3~0.6mm、好ましくは0.4~0.6mm、さらに好ましくは0.45~0.55mmの範囲、例えば0.3~0.7mm、好ましくは0.4~0.65mm、さらに好ましくは0.45~0.65mmの範囲とすることができる。好適な実施の態様において、本発明に係る耐食性CuZn合金は、平均結晶粒径D90が、例えば0.3~0.7mm、好ましくは0.5~0.7mm、さらに好ましくは0.55~0.65mmの範囲、例えば0.3~0.8mm、好ましくは0.5~0.75mm、さらに好ましくは0.55~0.75mmの範囲とすることができる。
【0019】
[耐食性]
本発明に係る耐食性CuZn合金は、フッ素含有環境中において、優れた耐食性を備えている。本発明における耐食性は、過酷な条件として、実施例に示したフッ硝酸試験によって、試験することができる。
【0020】
[耐食性CuZn合金の製造]
好適な実施の態様において、本発明の耐食性CuZn合金は、後述する実施例に開示された手段と条件によって、製造することができる。
すなわち、好適な実施の態様において、Cu原料とZn原料を真空溶解して、不活性ガス雰囲気下で加熱保持して、高純度CuZn合金を得る工程、得られた高純度CuZn合金に対して多段鍛造を行う工程、多段鍛造された高純度CuZn合金を所定形状へと鍛造する工程、を含む方法によって製造することができる。
【0021】
多段鍛造は、後述する実施例に開示された手段と条件によって、行うことができる。すなわち、好適な実施の態様において、例えば縦横比1:1.22の円柱状インゴットを550~680℃で3時間以上予熱し、縦横比0.8:1.52の角柱状、0.88:1.6の円柱状、1.2:0.8の円柱状と変形させ、もとの縦横比1:1.22の円柱状に変形して、550~680℃で10分以上の再加熱を行うことを3回以上くり返すことによって、行うことができる。
【0022】
[耐食性電極用合金]
本発明に係る耐食性CuZn合金は、フッ素含有環境中において、優れた耐食性を備えているので、耐食性電極用合金として、好適に使用できる。本発明に係る耐食性CuZn合金は、他の元素を添加するためのドープ処理によって生じる二次的な不純物混入を回避しつつ、優れた耐食性を発揮しているので、高純度の電極材料として使用することができる。そして、本発明に係る耐食性CuZn合金は、公知技術である電極構造の工夫による耐食性の向上技術を併用して、耐食性に優れた電極とすることができる。
【0023】
[好適な実施の態様]
好適な実施の態様として、本発明は、次の(1)以下の実施の態様を含む。
(1)
Zn含有量が36.8~56.5質量%であり、残余がCu及び不可避不純物であって、
β相の面積率が99.9%以上である、耐食性CuZn合金。
(2)
Zn含有量とCu含有量の合計が99.999質量%以上である、(1)に記載のCuZn合金。
(3)
平均結晶粒径D50が、0.3~0.6mmの範囲にある、(1)~(2)のいずれかに記載のCuZn合金。
(4)
α相の面積率とγ相の面積率の合計が、0.01%以下である、(1)~(3)のいずれかに記載のCuZn合金。
(5)
耐食性電極用合金である、(1)~(4)のいずれかに記載のCuZn合金。
(6)
Na含有量が0.05ppm未満、Mg含有量が0.01ppm未満、Al含有量が0.01ppm未満、Si含有量が0.5ppm未満、P含有量が0.01ppm未満、S含有量が0.05ppm未満、Cl含有量が0.05ppm未満、K含有量が0.01ppm未満、V含有量が0.1ppm未満、Cr含有量が1ppm未満、Mn含有量が0.5ppm未満、Fe含有量が1ppm未満、Ni含有量が5ppm未満、Ga含有量が0.1ppm未満、As含有量が0.05ppm未満、Se含有量が0.1ppm未満、Mo含有量が0.5ppm未満、Ag含有量が0.5ppm未満、Cd含有量が0.5ppm未満、Sn含有量が0.1ppm未満、Sb含有量が0.01ppm未満、Ba含有量が0.01ppm未満、Pb含有量が5ppm未満、Bi含有量が0.01ppm未満、O含有量が10ppm未満である、(1)~(5)のいずれかに記載のCuZn合金。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明の技術思想の範囲内における、他の実施例及び変形は、本発明に含まれる。
【0025】
[製造例1](実施例:試料1)
以下のようにCuZn合金を製造した。
原料として次のCu原料及びZn原料を用意した。
Cu原料:高純度金属銅(6N)(純度99.9999%)
Zn原料:高純度金属亜鉛(4N5)(純度99.995%)
この原料Cu11.45kgと原料Zn10.05kgを真空溶解し(条件:10-1Paまで真空引き後Ar400torr雰囲気とし、1050℃で30分保持)、高純度CuZn合金を得た。得られたCuZn合金からインゴット上部の引け巣の部分を取り除き、φ125mm、長さ152.5mm、重量15kgの円柱状インゴット(多段鍛造前円柱状インゴット)を得た。
【0026】
上記得られた多段鍛造前円柱状インゴットに対して、多段鍛造を行なった。鍛造は、縦横比1:1.22の円柱状インゴットを550~680℃で3時間以上予熱し、縦横比0.8:1.52の角柱状、0.88:1.6の円柱状、1.2:0.8の円柱状と変形させ、もとの1:1.22の円柱状に変形して、550~680℃で10分以上の再加熱を行うことを3回繰り返して行った。このようにして、φ125mm、長さ152.5mm、重量15kgの円柱状インゴット(多段鍛造後円柱状インゴット)を得た。
【0027】
得られた多段鍛造後円柱状インゴットを、φ41mmまで鍛造したのち、長さ650mm毎に切断することで2本の鍛造棒を得た。
得られた鍛造棒を試料1として、後の試験に供した。
製造例1の手順の説明図を、
図1に示す。
図1において、左端にはφ125mm、長さ152.5mm の円柱状インゴットを記載しており、対比のために125mmを1とした相対値によって、
図1中のそれぞれ長さを記載した。
【0028】
[製造例2](比較例:試料2)
製造例1と同様に、Cu原料及びZn原料を用意し、φ125mm、長さ152.5mm、重量15kgの円柱状インゴット(多段鍛造前円柱状インゴット)を得た。多段鍛造前円柱状インゴットに対して、製造例1の多段鍛造を行うことなく、φ41mmまで鍛造したのち、長さ650mm毎に切断することで2本の鍛造棒を得た。
得られた鍛造棒を試料2として、後の試験に供した。
【0029】
[製造例3](比較例:試料3)
市販のCuZn合金(JX金属社製)を、製造例1の多段鍛造を行うことなく、そのままφ41mmまで鍛造したのち、長さ650mm毎に切断することで2本の鍛造棒を得た。
得られた鍛造棒を試料3として、後の試験に供した。
【0030】
[製造例4](実施例:試料4)
製造例1で使用したものと同じ原料Cu及び原料Znを、原料Cu10.80kgと原料Zn10.45kgで使用して、製造例1と同様にして、φ124mm、長さ150.0mm、重量15.15kgの円柱状インゴット(多段鍛造前円柱状インゴット)を得た。
得られた多段鍛造前円柱状インゴットに対して製造例1と同様に多段鍛造を行って、φ124mm、長さ150mm、重量15.15kgの円柱状インゴット(多段鍛造後円柱状インゴット)を得た。
得られた多段鍛造後円柱状インゴットを、φ41mmまで鍛造したのち、長さ650mm毎に切断することで2本の鍛造棒を得た。
得られた鍛造棒を試料4として、後の試験に供した。
【0031】
[製造例5](実施例:試料5)
製造例1で使用したものと同じ原料Cu及び原料Znを、原料Cu10.14kgと原料Zn10.85kgで使用して、製造例1と同様にして、φ124mm、長さ148.0mm、重量14.9kgの円柱状インゴット(多段鍛造前円柱状インゴット)を得た。
得られた多段鍛造前円柱状インゴットに対して製造例1と同様に多段鍛造を行なって、φ124mm、長さ148.0mm、重量14.9kgの円柱状インゴット(多段鍛造後円柱状インゴット)を得た。
得られた多段鍛造後円柱状インゴットを、φ41mmまで鍛造したのち、長さ650mm毎に切断することで2本の鍛造棒を得た。
得られた鍛造棒を試料5として、後の試験に供した。
【0032】
[製造例6](実施例:試料6)
製造例1で使用したものと同じ原料Cu及び原料Znを、原料Cu156kgと原料Zn137kgで使用して、製造例1と同様にして、φ225mm、長さ870mm、重量292kgの円柱状インゴット(多段鍛造前円柱状インゴット)を得た。この原料Zn組成は、46.67重量%と算出される。このインゴットを長手方向に半分に切断し、φ225mm、長さ435mmとし、通常の熱間鍛造により、φ124mm、長さ1432mmまで鍛造した。その後、長さ方向を9等分に切断することで、φ125mm、長さ152mmの多段鍛造前インゴットとした。
【0033】
上記得られた多段鍛造前円柱状インゴットに対して、試料1、2、4、5、6と同様に多段鍛造を行なった。このようにして、φ125mm、長さ152mm、重量15.33kgの円柱状インゴット(多段鍛造後円柱状インゴット)を得た。
【0034】
得られた多段鍛造後円柱状インゴットを、φ41mmまで鍛造したのち、長さ650mm毎に切断することで2本の鍛造棒を得た。
得られた鍛造棒を試料6として、後の試験に供した。
【0035】
[組成分析]
試料1~6までの組成を、金属元素はGD-MS(V.G.Scientific社製 VG-9000)によって分析し、気体成分は酸素(O)、窒素(N)及び水素(H)については、LECO社製の酸素窒素分析装置(型式TCH-600)を、炭素(C)及び硫黄(S)については、LECO社製の炭素硫黄分析装置(型式CS-444)によって分析した。得られた結果を、次の表1(表1-1、表1-2、表1-3)に示す。不等号で記載された数値は測定限界未満の値であったことを示す。表1(表1-1、表1-2、表1-3)において、特に単位の記載のない数値の単位は、wtppm(質量ppm)を意味する。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
[耐食性試験]
[硝酸試験]
硝酸を使用した耐食性試験を、次の手順で行った。
試料1~6を、それぞれ8.3g(大きさ10mm×10mm×10mm)用意した。硝酸(65%)80mlと純水420mlを混合して硝酸水溶液を調整した。試料1~6をそれぞれ500mlの硝酸水溶液中に投入して、25℃で撹拌しながら、投入後10分後、30分後、60分後の重量減少を測定することによって、それぞれの時間での溶解量(mg/cm
2)を算出した。この硝酸を使用した耐食性試験の結果を、
図2(
図2-1及び
図2-2)に示す。
図2(
図2-1及び
図2-2)の横軸は、浸出時間(min)であり、縦軸は溶解量(mg/cm
2)を表す。
【0040】
[フッ硝酸試験]
フッ硝酸を使用した耐食性試験を、次の手順で行った。
試料1~6を、それぞれ8.3g(大きさ10mm×10mm×10mm)用意した。フッ酸(46%)20ml、硝酸(65%)60ml、及び純水420mlを混合してフッ硝酸水溶液を調整した。試料1~6をそれぞれ500mlのフッ硝酸水溶液中に投入して、25℃で撹拌しながら、投入後10分後、30分後、60分後の重量減少を測定することによって、それぞれの時間での溶解量(mg/cm
2)を算出した。このフッ硝酸水溶液を使用した耐食性試験の結果を、
図3(
図3-1及び
図3-2)に示す。
図3(
図3-1及び
図3-2)の横軸は、浸出時間(min)であり、縦軸は溶解量(mg/cm
2)を表す。
【0041】
[組織の均一性の検討]
組織の均一性を検討するために、試料1~6について、鍛造棒の断面の写真を、それぞれ約300枚撮影し、画像解析によって、粒度分布を求めて、うち、試料1および試料3についてグラフ化した。画像解析は、得られた写真の色調を256段階に区分けして閾値0~64までをα相、65~168までをβ相、168~255までがγ相であることをX線回折で明らかにして、統計処理した。これらの画像解析の処理は、自作のソフトウェアによって行った。尚、閾値はZn含有量35質量%から5質量%ごとに60質量%までの標準サンプル6種、各5個を作製し、Rigaku社の全自動多目的X線回折装置SmartLabを用いたX線回折により、測定箇所の相を同定し、X線回折箇所の光学顕微鏡写真の色調から決定した。
【0042】
試料1の断面写真の一例を
図4に示す。試料3の断面写真の一例を
図5に示す。
図4及び
図5の写真の視野は10mmであり、右下のスケールバーは1000μmである。
【0043】
粒度分布のグラフを
図6に示す。
図6のグラフの横軸は粒径(mm)を示し、縦軸は該当する粒径の割合(個数%)を示す。
【0044】
図6のグラフに示されるように、試料3と比較して、試料1では、粒径が小さく、均一性が高いものとなっていた。なお、試料2についても同様の測定を行ったところ、試料3と同様の分布の傾向を示した。
【0045】
上記測定値から算出した平均結晶粒径D50は、試料1が0.512mmであり、試料3が1.764mmであった。また、平均結晶粒径D90は、試料1が0.595mmであり、試料3が2.068mmであった。
【0046】
さらに、試料2及び4~6についても、同様にして、平均結晶粒径D50を求めたところ、試料2が1.58mmであり、試料4が0.554mmであり、試料5が0.611mmであり、試料6が0.508mmであった。また、平均結晶粒径D90は、試料2が1.912mmであり、試料4が0.622mmであり、試料5が0.724mmであり、試料6が0.565mmであった。
【0047】
[β相の面積率]
試料1~6に対して、光学顕微鏡観察を行った。観察は、研磨紙で#2000まで研磨後、バフ研磨を実施して、その後、光学顕微鏡(NikonECLIPSEMA)によって、200倍、100倍、400倍の倍率で観察した。顕微鏡観察から写真を撮影して、得られた写真の色調を256段階に区分けして、65~168までをβ相と判定した。
【0048】
顕微鏡観察に基づいて、5mm×5mmの面あたりのβ相の個数を、10箇所計数して、その平均値を算出した。計数は、各試料に付き2箇所については、目視によって個数を数え、その結果から目視の計数と一致するように二値化の閾値(256段階の65)を決定し、残りの8箇所については、その二値化の閾値に基づいて画像処理によりβ相を計数した。
【0049】
試料3では、5mm×5mmあたりのβ相の個数は、100個以上であり、径100μm以上の大きなβ相の存在が観察された。また、β相の面積率は14.9%であった。
【0050】
試料1では、5mm×5mmあたりのα相及びγ相の個数は、観察範囲においていずれも0個であった。そこで、α相の面積率は0%となり、γ相の面積率は0%となった。この場合の結果として、β相の面積率は100%と算出された。
【0051】
試料2では、5mm×5mmあたりのβ相の個数は、100個以上であり、径100μm以上の大きなβ相の存在が観察された。また、β相の面積率は13.1%であった。
【0052】
試料4では、5mm×5mmあたりのα相及びγ相の個数は、観察範囲においていずれも0個であった。そこで、α相の面積率は0%となり、γ相の面積率は0%となった。この場合の結果として、β相の面積率は100%と算出された。
【0053】
試料5では、5mm×5mmあたりのα相及びγ相の個数は、観察範囲においていずれも0個であった。そこで、α相の面積率は0%となり、γ相の面積率は0%となった。この場合の結果として、β相の面積率は100%と算出された。
【0054】
試料6では、5mm×5mmあたりのα相及びγ相の個数は、観察範囲においていずれも0個であった。そこで、α相の面積率は0%となり、γ相の面積率は0%となった。この場合の結果として、β相の面積率は100%と算出された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、耐食性CuZn合金を提供する。本発明は、産業上有用な発明である。