(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストおよび非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230508BHJP
C01B 35/04 20060101ALI20230508BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230508BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230508BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20230508BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230508BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230508BHJP
【FI】
H01M4/525
C01B35/04 D
C01G53/00 A
H01M4/131
H01M4/1391
H01M4/36 C
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2019537694
(86)(22)【出願日】2018-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2018031247
(87)【国際公開番号】W WO2019039567
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2017162662
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】大下 寛子
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 元彬
(72)【発明者】
【氏名】漁師 一臣
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-099767(JP,A)
【文献】特開2013-239434(JP,A)
【文献】特表2015-536558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01B 35/04
C01G 53/00
H01M 4/131
H01M 4/1391
H01M 4/36
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶系の層状結晶構造を有し、一般式(1):Li
1+sNi
xCo
yMn
zM
wB
tO
2+α(前記式(1)中、-0.05≦s≦0.20、
0.55≦x≦0.95、0≦y≦0.5、0≦z≦0.35、0≦w≦0.10、0.02≦t≦0.04、x+y+z+w=1、0≦α≦0.2、及び、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を満たす。)で表される非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム金属複合酸化物と、前記一次粒子の表面の少なくとも一部に存在するリチウムホウ素化合物と、を含み、
中和滴定法によって測定される、前記正極活物質を水に分散させたときに溶出する、水酸化リチウム量が、正極活物質全体に対して、0.01質量%以上
0.1質量%以下であり、かつ、前記正極活物質の水分量が0.1質量%以下である、
非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
平均粒径が3μm以上25μm以下である請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
リートベルト解析によるLi席占有率が97%以上である、請求項1又は請求項2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
六方晶系の層状結晶構造を有し、一般式(1):Li
1+sNi
xCo
yMn
zM
wB
tO
2+α(前記式(1)中、-0.05≦s≦0.20、
0.55≦x≦0.95、0≦y≦0.5、0≦z≦0.35、0≦w≦0.10、0.02≦t≦0.04、x+y+z+w=1、0≦α≦0.2、及び、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を満たす。)で表される非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
一般式(2):Li
1+sNi
xCo
yMn
zM
wO
2+α(前記式(2)中、-0.05≦s≦0.20、0.45≦x≦0.95、0≦y≦0.5、0≦z≦0.35、0≦w≦0.10、x+y+z+w=1、0≦α≦0.2、及び、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を満たす。)で表されるリチウム金属複合酸化物と、リチウムを含まないホウ素化合物とを混合してホウ素混合物を得ることと、
前記ホウ素混合物を、酸化性雰囲気中において200℃以上300℃以下の温度で熱処理すること、を備え、
前記熱処理した後に得られる正極活物質を、水に分散させたときに溶出する、中和滴定法によって測定される水酸化リチウム量が、正極活物質全体に対して、0.01質量%以
上0.1質量%以下の範囲となるように調整する、
非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記ホウ素化合物が、酸化ホウ素、ホウ酸アンモニウムおよびホウ素のオキソ酸の少なくとも一つである請求項4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記ホウ素化合物が、オルトホウ酸である請求項4又は請求項5に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む、非水系電解質二次電池用正極合材ペースト。
【請求項8】
正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極は、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストおよび非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として出力特性と充放電サイクル特性が優れた二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池用正極活物質があり、代表的な二次電池としてリチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極および正極と非水系電解質などで構成され、負極および正極の活物質は、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウム金属複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。
【0006】
充放電サイクル特性のさらなる改善を図るためには、例えば、ニッケル、コバルト、マンガンなどの金属元素に対してリチウムを化学量論組成よりも過剰に含有させることが有効である。また、リチウムニッケルコバルト複合酸化物にホウ素などを含む化合物を添加することによって、電池特性を改善させることがいくつか提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在し、前記一次粒子のアスペクト比が1~1.8であり、前記粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。特許文献1によれば、粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、導電性が向上するとされている。
【0008】
特許文献2には、リチウムイオンの挿入・脱離が可能な機能を有するリチウム遷移金属系化合物を主成分とし、該主成分原料に、B及びBiから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物と、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物をそれぞれ1種併用添加した後、焼成されてなるリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案されている。特許文献2によれば、添加元素を併用添加した後、焼成することにより、粒成長及び焼結の抑えられた微細な粒子からなるリチウム遷移金属系化合物粉体が得られ、レートや出力特性が改善されるとともに、取り扱いや電極調製の容易なリチウム含有遷移金属系化合物粉体を得ることができるとしている。
【0009】
特許文献3には、一般式LiaNi1-x-yCoxM1
yWzM2
wO2(1.0≦a≦1.5、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.002≦z≦0.03、0≦w≦0.02、0≦x+y≦0.7、M1はMn及びAlからなる群より選択される少なくとも一種、M2はZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物と、少なくともホウ素元素及び酸素元素を含むホウ素化合物とを含む非水電解液二次電池用正極組成物が提案されている。特許文献3によれば、ニッケル及びタングステンを必須とするリチウム遷移金属複合酸化物と、特定のホウ素化合物とを含む正極組成物を用いることにより、リチウム遷移金属複合酸化物を用いた正極組成物において出力特性及びサイクル特性を向上させることができるとしている。
【0010】
特許文献4には、少なくとも層状の結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解液二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、粒子であるとともに、少なくとも前記粒子の表面にホウ酸リチウムを有する、非水電解液二次電池用正極活物質が提案されている。特許文献4によれば、粒子の表面にホウ酸リチウムを有することにより、初期放電容量および初期効率を同等に維持しつつ、熱安定性を向上させることができるとしている。
【0011】
特許文献5には、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)のうちの少なくとも一方とを含む複合酸化物粒子に、硫酸塩およびホウ酸化合物のうちの少なくとも一方を被着する工程と、上記硫酸塩およびホウ酸化合物のうちの少なくとも一方の被着した上記複合酸化物粒子を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程と、を有することを特徴とする正極活物質の製造方法が提案されている。特許文献5によれば、二次電池の高容量化と、充放電効率の向上とを実現することが可能な正極活物質を製造することができるとしている。
【0012】
特許文献6には、LiaNixCoyAlzO2(但し、Niは、Ni全体の量を1としたときに、Niの0.1以下の範囲内で、Mn、Cr、Fe、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、Ceからなる群から選択される1種または2種以上の金属元素と置換可能である。また、式中a、x、y、zは、0.3≦a≦1.05、0.60<x<0.90、0.10<y<0.40、0.01<z<0.20の範囲内の値であり、x、yおよびzの間にはx+y+z=1の関係がある。)で平均組成が表される複合酸化物粒子にホウ酸化合物を被着させて加熱処理を行ったもので、炭酸イオンの含有量が0.15重量%以下であり、かつホウ酸イオンの含有量が0.01重量%以上5.0重量%以下である正極活物質が提案されている。特許文献6よれば、ホウ酸化合物を被着させることにより、複合酸化物粒子に含まれる炭酸根とホウ酸化合物とが置換され、二次電池の電池内部におけるガス発生量を低減させることができるとしている。
【0013】
ところで、非水系電解質二次電池の正極は、例えば、正極活物質と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダーや、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶剤とを混合して正極合材ペーストにし、アルミ箔などの集電体に塗布することで形成される。このとき、正極合材ペースト中の正極活物質からリチウムが遊離した場合、バインダーなどに含まれる水分と反応し水酸化リチウムが生成することがある。この生成した水酸化リチウムとバインダーとが反応し、正極合材ペーストがゲル化を起こすことがある。正極合材ペーストのゲル化は、操作性の悪さ、歩留まりの悪化を招く。この傾向は、正極活物質におけるリチウムが化学量論比よりも過剰で、且つニッケルの割合が高い場合に顕著となる。
【0014】
正極合材ペーストのゲル化を抑制する試みがいくつかなされている。例えば、特許文献7には、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質と、酸性酸化物粒子からなる添加粒子とを含む非水電解液二次電池用正極組成物が提案されている。この正極組成物は、バインダーに含まれる水分と反応して生成した水酸化リチウムが酸性酸化物と優先的に反応し、生成した水酸化リチウムとバインダーとの反応を抑制し、正極合材ペーストのゲル化を抑制するとしている。また、酸性酸化物は、正極内で導電剤としての役割を果たし、正極全体の抵抗を下げ、電池の出力特性向上に寄与するとしている。
【0015】
また、特許文献8には、リチウムイオン二次電池製造方法であって、正極活物質として、組成外にLiOHを含むリチウム遷移金属酸化物を用意すること;正極活物質1g当たりに含まれるLiOHのモル量Pを把握すること;LiOHのモル量Pに対して、LiOH1モル当たり、タングステン原子換算で0.05モル以上の酸化タングステンを用意すること;および、正極活物質と酸化タングステンとを、導電材および結着剤とともに有機溶媒で混練して正極ペーストを調製することを包含する、リチウムイオン二次電池製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2005-251716号公報
【文献】特開2011-108554号公報
【文献】特開2013-239434号公報
【文献】特開2004-335278号公報
【文献】特開2009-146739号公報
【文献】特開2010-040382号公報
【文献】特開2012-028313号公報
【文献】特開2013-084395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記特許文献1~6に記載の提案は、いずれも出力特性などの電池特性が改善されるとされているが、ホウ素を添加することによって、電極作製時の正極合材ペーストのゲル化の問題が生じることがある。よって、出力特性や電池容量などの電池特性の改善とともに、ゲル化のさらなる改善が望まれている。
【0018】
また、上記特許文献7の提案では、酸性酸化物粒子が正極組成物中に残留することによってセパレータの破損およびそれにともなう安全性低下の恐れがある。また、正極合材ペーストにおける、さらなるゲル化抑制の向上が要求されている。なお、酸性酸化物の添加量を増やすことでゲル化の抑制を向上させることができると考えられるが、添加量の増加による原料費増や、添加したことによる重量増により単位質量当たりの電池容量が劣化することがある。
【0019】
また、上記特許文献8の提案においても、酸化タングステンの残留によるセパレータの破損の恐れがある。また、正極合材ペーストにおける、さらなるゲル化抑制の向上が要求されている。また、充放電に寄与しない重元素であるタングステンを添加することにより、重量当たりの電池容量低下が大きくなることがある。
【0020】
本発明は、上述の問題に鑑みて、非水系電解質二次電池に用いられた際の電池容量及び出力特性をより向上させ、かつ、電極作製時の正極合材ペーストのゲル化を抑制した正極活物質を提供することを目的とするものである。また、本発明は、このような正極活物質を、工業規模の生産において容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストのゲル化抑制に関して鋭意研究した結果、リチウム金属複合酸化物の粒子の一次粒子表面にリチウムホウ素化合物を存在させるとともに、一次粒子表面に存在する水酸化リチウム量を低減することで、この正極活物質を正極に用いた二次電池の出力特性及び電池容量の向上と、正極合材ペーストのゲル化の抑制とを両立させることが可能であると知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0022】
本発明の第1の態様では、六方晶系の層状結晶構造を有し、一般式(1):Li1+sNixCoyMnzMwBtO2+α(式(1)中、-0.05≦s≦0.20、0.45≦x≦0.95、0≦y≦0.5、0≦z≦0.35、0≦w≦0.10、0.02≦t≦0.04、x+y+z+w=1、0≦α≦0.2、及び、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を満たす。)で表される非水系電解質二次電池用正極活物質であって、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム金属複合酸化物と、一次粒子表面の少なくとも一部に存在するリチウムホウ素化合物と、を含み、中和滴定法によって測定される、正極活物質を水に分散させたときに溶出する水酸化リチウム量が、正極活物質全体に対して、0.01質量%以上0.5質量%以下であり、正極活物質中の水分量が0.1質量%以下である、非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。
【0023】
また、正極活物質は、平均粒径が3μm以上25μm以下であることが好ましい。また、正極活物質は、リートベルト解析によるLi席占有率が97%以上であることが好ましい。
【0024】
本発明の第2の態様では、六方晶系の層状結晶構造を有し、一般式(1):Li1+sNixCoyMnzMwBtO2+α(式(1)中、-0.05≦s≦0.20、0.45≦x≦0.95、0≦y≦0.5、0≦z≦0.35、0≦w≦0.10、0.02≦t≦0.04、x+y+z+w=1、0≦α≦0.2、及び、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を満たす。)で表される非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、一般式(2):Li1+sNixCoyMnzMwO2+α(式(2)中、-0.05≦s≦0.20、0.45≦x≦0.95、0≦y≦0.5、0≦z≦0.35、0≦w≦0.10、x+y+z+w=1、0≦α≦0.2、及び、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を満たす。)で表されるリチウム金属複合酸化物と、リチウムを含まないホウ素化合物とを混合してホウ素混合物を得ることと、ホウ素混合物を、酸化性雰囲気中において200℃以上300℃以下の温度で熱処理すること、を備える、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0025】
また、熱処理した後に得られる正極活物質を、水に分散させたときに溶出する、中和滴定法によって測定される水酸化リチウム量が、正極活物質全体に対して、0.01質量%以上0.5質量%以下の範囲となるように調整することが好ましい。また、ホウ素化合物が、酸化ホウ素、ホウ酸アンモニウムおよびホウ素のオキソ酸の少なくとも一つであることが好ましい。また、ホウ素化合物が、オルトホウ酸であることが好ましい。
【0026】
本発明の第3の態様では、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を含む、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストが提供される。
【0027】
本発明の第4の態様では、正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、正極は、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を含む、非水系電解質二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、非水系電解質二次電池に用いられた際の電池容量及び出力特性をより向上させ、かつ、電極作製時のゲル化が抑制され、安定性が高い正極合材ペーストを得ることができる正極活物質を提供することができる。さらに、その製造方法は、容易で工業的規模での生産に適したものであり、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、リチウムホウ素化合物の形成過程について模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、電池評価に使用したコイン型電池の概略断面図である。
【
図5】
図5は、インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極合材ペーストおよび非水系電解質二次電池について説明する。なお、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。
【0031】
1.非水系電解質二次電池用正極活物質
まず、本発明の第1の実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)について、
図1を参照して説明する。
図1(A)及び(B)は、本実施形態に係る正極活物質の一例、及び、
図2は、本実施形態に係るリチウムホウ素化合物の形成過程を模式的に示す図である。
【0032】
本実施形態の正極活物質20は、一般式(1):Li
1+sNi
xCo
yMn
zM
wB
tO
2+α(前記式(1)中、-0.05≦s≦0.20、0.45≦x≦0.95、0≦y≦0.5、0≦z≦0.35、0≦w≦0.10、0.02≦t≦0.04、x+y+z+w=1、0≦α≦0.2、及び、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を満たす。)で表され、六方晶系の層状結晶構造を有する。正極活物質20は、
図1(A)に示すように、リチウム金属複合酸化物10と、リチウムホウ素化合物3(以下、「LB化合物3」ともいう。)と、を含む。
【0033】
リチウム金属複合酸化物10は、一次粒子1が凝集して形成された二次粒子2を含み、一次粒子1の表面の少なくとも一部にLB化合物3が存在する。また、正極活物質20は、中和滴定法によって測定される余剰水酸化リチウム量が、正極活物質20全体に対して、の0.01質量%以上0.5質量%以下であり、かつ、正極活物質20の水分量が0.1質量%以下である。
【0034】
正極活物質20は、一次粒子1の表面にLB化合物3を存在させることによって、正極活物質20を用いた非水系電解質二次電池において、正極の反応抵抗(以下、「正極抵抗」ともいう。)を低減させ、かつ、初期充電容量(以下、「電池容量」ともいう。)を向上させることができる。そして、正極抵抗が低減されることで、二次電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。また、負荷側への印加電圧が高くなることで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池容量も向上されると考えられる。
【0035】
正極活物質20を用いた二次電池の正極抵抗が低下するメカニズムの詳細は不明であるが、一次粒子1表面に形成されるLB化合物3は、リチウムイオン伝導性が高く、リチウムイオンの移動を促す効果があるため、二次電池の正極において、電解液と正極活物質20との界面でリチウムの伝導パスを形成することにより、正極抵抗を低減して、電池の出力特性及び電池容量を向上させると考えられる。LB化合物3は、例えば、リチウムホウ素複合酸化物の形態を有する。
【0036】
また、正極活物質20は、正極合材ペーストのゲル化を抑制することができる。通常、正極活物質の一次粒子の表面には、水酸化リチウムを含む水溶性リチウム化合物(以下、余剰リチウムと総称する)が存在し、二次電池を製造する際、正極合材ペースト(以下、「ペースト」ともいう。)中に含まれる水分中に余剰リチウムが溶出して、ペーストのpH値を上昇させ、ペーストをゲル化させることがある。
【0037】
正極活物質20において、ペーストのゲル化が抑制されるメカニズムの詳細は不明であるが、LB化合物3の原料の一つであるホウ素が、正極活物質20の製造工程において、リチウム金属複合酸化物(母材)中の一次粒子表面に存在する余剰リチウムと反応して、LB化合物3を形成することにより、ペーストのゲルが抑制されると考えられる。
【0038】
図2は、LB化合物3の形成過程を模式的に示す図である。正極活物質20の製造工程において、
図2に示されるように、一次粒子1の表面に存在する余剰水酸化リチウムの少なくとも一部を、原料となるホウ素化合物(B化合物)と反応させて、形成されたLB化合物3を一次粒子1の表面に固定化する。なお、本発明者らの検討によれば、例えば、酸性化合物をペーストに添加して、ペースト中へ溶出する余剰リチウムを中和することによっても、ペーストのゲル化を抑制することができるが、ペースト中へ余剰リチウムが溶出した後に中和した場合、ゲル化抑制の効果が十分なものとはならず、電池特性を悪化させることが示されている。
【0039】
なお、ホウ素化合物は、リチウム金属複合酸化物(母材)の一次粒子表面の余剰水酸化リチウム以外にも、リチウム金属複合酸化物(母材)の結晶内から引き抜かれたリチウムとも反応すると考えられる。LB化合物3が過剰に形成された場合、充放電に寄与するリチウムイオンを減少させたり、リチウム金属複合酸化物(母材)の結晶性を低下させたりして、二次電池の電池容量の低下を引き起こすと考えられる。
【0040】
本発明者らは、1)未反応のリチウム(余剰リチウム)や、リチウム金属複合酸化物(結晶)中から溶出するリチウムの中でも、特に、正極活物質を溶媒に分散させたときに水酸化リチウム(LiOH)として溶出するリチウム(以下、まとめて「余剰水酸化リチウム」ともいう。)が、正極合材ペーストのゲル化の一因となること、及び、2)正極合材ペーストのゲル化を抑制するためには、LB化合物3を含む正極活物質20において、後述するように、正極合材ペースト中への余剰水酸化リチウムの溶出量を、特定の範囲に制御することが重要であることを見出した。
【0041】
ここで、一次粒子1の表面とは、例えば、
図1(A)に示すように、二次粒子2の外面(表面)に露出している一次粒子1aの表面だけでなく、二次粒子2の外面(表面)と通じて電解液が浸透可能な二次粒子2の表面近傍及び内部の空隙に露出している一次粒子1bの表面を含むものである。さらに、一次粒子1間の粒界であっても一次粒子1の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。また、一次粒子1の表面は、例えば、
図1(B)に示すように、二次粒子2内部の中空部4(空隙)に露出している一次粒子1表面を含んでもよい。
【0042】
すなわち、余剰リチウム(余剰水酸化リチウムを含む)の溶出は、電解液との接触面で生じるため、電解液との接触面に存在する未反応のリチウム化合物とホウ素化合物とが反応する、または、金属複合酸化物中の過剰なリチウムを引き出してホウ素化合物と反応することにより、一次粒子1表面にLB化合物3を形成させることで、余剰リチウム(余剰水酸化リチウムを含む)の溶出を抑制できる。また、LB化合物3が一次粒子表面上で部分的に形成されてもゲル化抑制の効果が得られる。
【0043】
(リチウムホウ素化合物)
LB化合物3は、Li原子及びB原子を有する化合物であり、ホウ酸リチウムを含むことが好ましい。ホウ酸リチウムとしては、例えば、LiBO2、その水和物、Li3BO3、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0044】
二次粒子2の表面に露出する一次粒子1a表面のLB化合物3の存在は、例えば、X線光電子分光分析(XPS)により確認することができる。また、二次粒子2内部の一次粒子1b表面のホウ素の存在は、例えば、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)に取り付けた軟X線発光分光装置(Soft X-ray Emission Spectroscopy;SXES)により、確認することができる。なお、二次粒子2内部に存在する微量のホウ素の存在形態は、直接、確認することは困難であるが、ホウ素と化合物を形成する元素としては、リチウムが考えられ、また、二次粒子2の表面に露出する一次粒子1a表面においては、ホウ素の少なくとも一部は、LB化合物3の形態で存在することを考慮すると、二次粒子2の内部の一次粒子1b表面においても、LB化合物3(例えば、リチウムホウ素複合酸化物)を形成しているものと推定される。
【0045】
なお、正極活物質20中のホウ素(B)の一部は、リチウム金属複合酸化物10の結晶中に固溶してもよい。しかし、すべてのホウ素がリチウム金属複合酸化物10の結晶中に固溶してしまうと、正極抵抗の低減効果が得られない。また、ホウ素がリチウム金属複合酸化物10へ固溶した場合、電池容量の低下が大きくなることがある。
【0046】
(余剰水酸化リチウム量)
正極活物質20は、水に分散させたときに溶出する水酸化リチウム量(余剰水酸化リチウム量)が、正極活物質20全体に対して、0.5質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。余剰水酸化リチウム量が上記範囲である場合、正極合材ペーストのゲル化を抑制することができ、かつ、電池特性を向上させることができる。ここで、正極活物質20全体とは、リチウム金属複合酸化物10、LB化合物3、及び、一次粒子1の表面に存在するリチウムホウ素化合物以外のリチウム(余剰リチウム)を含む化合物の合計を意味する。
【0047】
一方、余剰水酸化リチウム量が0.5質量%を超える場合、正極合材ペーストのゲル化の抑制効果が得られない。この理由の詳細は不明であるが、例えば、LB化合物3が過剰に形成されて、ゲル化の原因となる余剰水酸化リチウムが増加するためと考えられる。また、余剰水酸化リチウム量の下限は、正極活物質20全体に対して、例えば0.01質量%以上である。
【0048】
なお、本明細書において、余剰水酸化リチウム量とは、正極活物質20を水に分散させて溶出するリチウ化合物のうち、中和滴定により、第一中和点までに用いた酸の量から測定されるLi量が、すべて水酸化リチウム(LiOH)に由来するとして、算出される値である。なお、正極活物質20を水に分散させた際、LB化合物3の少なくとも一部が、上澄み液中に溶解し、水酸化リチウムと同じpH領域で中和されることがある。よって、余剰水酸化リチウム量は、LB化合物3に含まれるリチウムが溶出し、水酸化リチウムとして算出された量を含む。
【0049】
余剰水酸化リチウム量は、具体的には、以下の方法で測定することができる。まず、正極活物質15gを75mlの純水に十分に分散させ、10分間静置した後、上澄み液10mlを50mlの純水で希釈した水溶液を得る。次いで、得られた水溶液中に溶出したLi量を、塩酸等の酸を用いた中和滴定法によって測定する。中和滴定の際、上澄み液を希釈した水溶液のpHは、2段階で低下する。そして、1段目が、水酸化リチウムの中和により低下するpHを示す。よって、中和滴定により、第一中和点まで用いた酸の量から算出されるLi量が、水酸化リチウム(LiOH)にすべて由来するとして、余剰水酸化リチウム量を算出する。
【0050】
正極活物質20中の余剰水酸化リチウム量は、例えば、後述する正極活物質20の製造工程において、ホウ素混合工程で添加するホウ素化合物の量や、熱処理工程の熱処理温度を適宜調整することにより、上記範囲に制御することができる。なお、正極活物質20は、LB化合物3を含まない正極活物質と比較して、余剰水酸化リチウム量が増加することがある。これは、一次粒子1表面にLB化合物3が形成される際に、原料となるホウ素化合物が、リチウム金属複合酸化物(母材)中の結晶内から引き抜かれたリチウムと反応するためであると考えらえる。
【0051】
(正極活物質の水分量)
正極活物質20は、水分量が0.1質量%以下である。正極活物質20の水分量が上記範囲である場合、正極活物質20を用いた二次電池において、正極抵抗を低減させ、かつ、初期充電容量を向上させることができる。また、正極活物質20の水分量の下限は、特に限定されないが、例えば、0.001質量%以上である。なお、水分率の測定値は、気化温度300℃の条件においてカールフィッシャー水分計で測定した場合の測定値である。
【0052】
(Li席占有率)
正極活物質20は、六方晶系の層状結晶構造を有し、その結晶性は、例えば、X線回折結果のリートベルト解析を行うことによって得られるc軸の長さや、結晶中のリチウムサイトにおけるリチウム席占有率(以下、「Li席占有率」ということがある)などで評価することができる。
【0053】
正極活物質20のLi席占有率は、97%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましい。Li席占有率を上記範囲に制御した場合、リチウムサイトでのリチウム欠損が抑制されてリチウム金属複合酸化物10の結晶性を高く維持することができる。これにより、得られる二次電池の出力特性を向上させるとともに、高い電池容量を維持することができる。
【0054】
(正極活物質の組成)
正極活物質20は、一般式(1):Li1+sNixCoyMnzMwBtO2+α(前記式(1)中、-0.05≦s≦0.20、0.45≦x≦0.95、0≦y≦0.5、0≦z≦0.35、0≦w≦0.10、0.02≦t≦0.04、x+y+z+w=1、0≦α≦0.2、及び、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を満たす。)で表される。なお、各元素の含有量は、ICP発光分光法により測定することができる。
【0055】
上記一般式(1)中、ホウ素の含有量を示すtの範囲は、0.02≦t≦0.04である。また、ホウ素の少なくとも一部は、上述したように、一次粒子1表面に、LB化合物3として存在する。tが上記範囲である場合、正極活物質20を二次電池の正極に用いた際に、正極抵抗の十分な低減効果が得られるとともに、高い電池容量を得ることができ、正極合材ペーストのゲル化を抑制することができる。一方、tが0.02未満である場合、正極抵抗の十分な低減効果が得られず、正極合材ペーストのゲル化を抑制することができない。また、tが0.04を超える場合、二次電池の正極抵抗の低減の効果はあるものの、電池容量が急激に低下し、また、正極合材ペーストがゲル化することがある。より高い正極抵抗の低減効果と高い電池容量を得るという観点から、tの範囲を0.025≦t≦0.04とすることが好ましい。
【0056】
上記一般式(1)中、リチウムの含有量に対応するsの範囲は、-0.05≦s≦0.20である。すなわち、リチウム金属複合酸化物10中、リチウムの含有量は、リチウム以外の金属元素(Bを除く)の合計に対して、95原子%以上120原子%以下とすることができる。なお、正極活物質20中、Niの割合が高い場合、例えば、sの範囲は、0.05未満であってもよい。正極活物質20中のsが上記範囲である場合、正極活物質20を用いた二次電池において、高い電池容量と、より改善された正極抵抗の低減効果とを得ることができるとともに、正極合材ペーストのゲル化を抑制することができる。
【0057】
上記一般式(1)中、ニッケルの含有量を示すxは、0.45≦x≦0.95であり、好ましくは0.55≦x≦0.95である。すなわち、リチウム金属複合酸化物10は、金属元素としてニッケル含み、リチウム以外の金属元素(Bを除く)の合計に対して、ニッケルの含有量が45原子%以上95原子%以下、好ましくは55原子%以上95原子%以下である。リチウム金属複合酸化物10を構成する一次粒子1は、層状結晶構造(層状岩塩型構造)の結晶構造を有する。ニッケルの含有量が上記範囲である場合、正極活物質20を用いた二次電池は、高い電池容量を実現できる。
【0058】
上記一般式(1)中、コバルトの含有量を示すyは、0≦y≦0.5であり、好ましくは、0.05≦y≦0.15である。すなわち、リチウム金属複合酸化物10は、リチウム以外の金属元素(Bを除く)の合計に対して、コバルトの含有量が0原子%以上50原子%以下、好ましくは5原子%以上15原子%以下である。コバルト含有量が上記範囲である場合、高い結晶構造の安定性を有し、サイクル特性により優れる。
【0059】
上記一般式(1)中、マンガンの含有量を示すzは、0≦z≦0.35であり、好ましくは、0≦y≦0.15である。すなわち、リチウム以外の金属元素(Bを除く)の合計に対してマンガンの含有量が0原子%以上35原子%以下、好ましくは0原子%以上15原子%以下である。マンガンの含有量が上記範囲である場合、高い熱安定性を得ることができる。
【0060】
さらに、電池特性を向上させるため、添加元素MとしてV、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含有させることができる。この場合、上記一般式(1)中において、添加元素Mの含有量をwとして、0≦w≦0.1とすることが好ましく、x+y+z+w=1である。例えば、添加元素Mとして、Alを含むことができる。
【0061】
(正極活物質の平均粒径)
正極活物質20の平均粒径は、3μm以上25μm以下であることが好ましく、4μm以上20μm以下であることがより好ましい。正極活物質20の平均粒径が上記範囲である場合、得られる二次電池は、高い出力特性および高い電池容量と、正極への高い充填性とをさらに両立させることができる。正極活物質20の平均粒径が3μm未満である場合、正極への高い充填性が得られないことがあり、平均粒径が25μmを超える場合、高い出力特性や電池容量が得られないことがある。
【0062】
(一次粒子の平均粒径)
一次粒子1の平均粒径は、0.2μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.3μm以上0.7μm以下であることがより好ましい。これにより、電池の正極に用いた際のより高い出力特性と電池容量、さらに高いサイクル特性を得ることができる。一次粒子1の平均粒径が0.2μm未満になると、焼成不足が懸念され十分な電池性能が得られないことがあり、平均粒径が0.7μmを超えると、高い出力特性や高いサイクル特性が得られないことがある。平均粒径が0.7μmを超えると、高い出力特性や電池容量が得られないことがある。
【0063】
(正極活物質の構造)
なお、正極活物質20は、二次粒子2が、例えば、
図1(B)に示すように、粒内に中空部4を形成した中空構造を有してもよい。二次粒子2が中空構造を有する場合、二次粒子2の粒内への電解質の侵入がさらに容易となり、高い出力特性がさらに容易に得られる。なお、中空部4は、一つでもよく、複数あってもよい。また、中空構造は、二次粒子2の粒内に多数の空隙を有する多孔質構造も含む。
【0064】
なお、正極活物質20は、複数の一次粒子1が凝集して形成される二次粒子2から構成される上記リチウム金属複合酸化物10を含むが、例えば、二次粒子2として凝集しなかった一次粒子1や、凝集後に二次粒子2から脱落した一次粒子1など少量の単独の一次粒子1を含んでもよい。また、正極活物質20は、本発明の効果を阻害しない範囲で上述したリチウム金属複合酸化物10以外のリチウム金属複合酸化物を含んでもよい。
【0065】
2.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本実施形態の正極活物質の製造方法(以下、「製造方法」ともいう。)は、一般式(1):Li1+sNixCoyMnzMwBtO2+α(前記式(1)中、-0.05≦s≦0.20、0.45≦x≦0.95、0≦y≦0.5、0≦z≦0.35、0≦w≦0.10、0.02≦t≦0.04、x+y+z+w=1、0≦α≦0.2、及び、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を満たす。)で表され、六方晶系の層状結晶構造を有する非水系電解質二次電池用正極活物質を製造することができる。本実施形態の製造方法により、上述した正極活物質20を、工業的規模で簡便に生産性よく製造することができる。
【0066】
以下、
図3を参照して、本実施形態に係る正極活物質20の製造方法の一例について説明する。なお、以下の説明は、製造方法の一例であって、この方法に限定するものではない。
【0067】
図3に示すように、本実施形態の製造方法は、母材であるリチウム金属複合酸化物(焼成粉末)と、リチウムを含ないホウ素化合物(B化合物)と、を混合すること(ステップS1)と、混合して得られた混合物を熱処理すること(ステップS2)と、を備える。以下、各ステップについて説明する。
【0068】
(混合工程:ステップS1)
まず、公知技術で得られたリチウム金属複合酸化物からなる焼成粉末(母材)と、リチウムと反応可能なホウ素化合物と、を混合してホウ素混合物を得る(ステップS1)。ホウ素化合物の少なくとも一部は、後の熱処理工程(ステップS2)において、リチウム金属複合酸化物(母材)の粒子中のリチウムと反応して、一次粒子1表面に、LB化合物3を形成する。
【0069】
リチウム金属複合酸化物(母材)は、一般式(2):Li1+sNixCoyMnzMwO2+α(上記式(2)中、-0.05≦s≦0.20、0.45≦x≦0.95、0≦y≦0.5、0≦z≦0.35、0≦w≦0.10、x+y+z+w=1、0≦α≦0.2、及び、Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を満たす。)で表される。母材中の各元素の含有割合は、ホウ素(B)を除き、上述した正極活物質20と同様の含有割合の範囲とすることができる。
【0070】
ホウ素混合物中のホウ素含有量は、熱処理工程(ステップS2)後に得られる正極活物質20中でもほぼ維持される。したがって、ホウ素化合物は、目的とする正極活物質20のホウ素の含有量に見合った量を混合すればよく、例えば、リチウム金属複合酸化物(母材)中の金属の原子数に対して、2at%以上4at%以下の範囲で含有される。すなわち、上記一般式(1):Li1+sNixCoyMnzMwBtO2+αにおいて、ホウ素(B)の含有量を示すtの範囲が0.02≦t≦0.04となるようにホウ素原料を混合することにより、出力特性の向上と正極合材ペーストのゲル化の抑制とを両立させることができる。また、ホウ素原料をtが0.04を超えるように混合する場合、リチウム金属複合酸化物10の結晶中に固溶するホウ素が多くなり過ぎて、電池特性が低下することがある。
【0071】
用いられるホウ素化合物は、ホウ素を含む原料であれば、特に限定されないが、余剰リチウム量の増加を制御して、正極合材ペーストのゲル化をより抑制するという観点から、リチウムを含まないホウ素原料を用いることが好ましい。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ素及び酸素を含む化合物を用いることができる。また、取扱いが容易であり、品質の安定性に優れるという観点から、ホウ素化合物としては、好ましくは、酸化ホウ素、ホウ酸アンモニウム、ホウ素のオキソ酸及びこれらの混合物を用いることが好ましく、オルトホウ酸を用いることがより好ましい。
【0072】
リチウム金属複合酸化物(母材)と、ホウ素化合物との混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができる。混合は、リチウム金属複合酸化物(母材)の形骸が破壊されない程度でリチウム金属複合酸化物(母材)とホウ素化合物と十分に混合してやればよい。また、焼成工程において、リチウム金属複合酸化物(母材)間で均一にホウ素を含有させるため、ホウ素混合物中にリチウム金属複合酸化物とホウ素化合物とが均一に分散されるように、十分混合することが好ましい。
【0073】
(熱処理工程:ステップS2)
次いで、上記ホウ素化合物を、大気雰囲気中において200℃以上300℃以下の温度で、熱処理し、正極活物質20を得る(ステップS2)。上記温度範囲で熱処理する場合、ホウ素化合物と、母材の一次粒子表面に存在する余剰リチウムと、を反応させて、二次粒子2内にホウ素を拡散させ、一次粒子1表面にLB化合物3が形成される。得られた正極活物質20は、二次電池の正極抵抗が低減されるとともに、正極合材ペーストのゲル化を抑制することができる。
【0074】
一方、200℃未満の温度で熱処理した場合、ホウ素化合物と、母材中の余剰リチウムとの反応が十分でなく、未反応のホウ素化合物が残存する、あるいはLB化合物3が十分に形成されず、上述のような正極抵抗の低減効果が得られないことがある。また、300℃を超える温度で熱処理温度した場合、得られた正極活物質20を用いた正極合材ペーストのゲル化が十分抑制されず、二次電池の電池容量も低下することがある。この理由は、特に限定されないが、例えば、ホウ素が一次粒子表面の余剰リチウムと反応するだけでなく、一次粒子1の結晶内のリチウムとも過剰に反応して、一次粒子1内のリチウムが引き抜かれ過ぎる状態となり、充放電に寄与するリチウムイオンが減少し、かつ、一次粒子1表面の余剰リチウム量が増加するためと考えらえる。
【0075】
熱処理時間は、余剰リチウムの形成量に合わせて適宜調整する。熱処理時間は、例えば、5時間以上20時間以下であり、より好ましくは5時間以上10時間以下である。熱処理時間が上記範囲である場合、LB化合物3を十分に生成させ、二次電池の出力特性をさらに向上することができる。一方、熱処理時間が5時間未満の場合、LB化合物3が十分に生成されないことがある。また、熱処理時間が20時間を超える場合、リチウム金属複合酸化物10の結晶内のリチウムが引き抜かれ過ぎることがある。
【0076】
熱処理時の雰囲気は、酸化性雰囲気であればよいが、酸素濃度が18容量%以上100容量%以下であることが好ましい。すなわち、熱処理工程は、大気~酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満である場合、LB化合物3の形成が十分でないことがある。また、熱処理に用いられる炉は、上記焼成工程で用いられる炉と同様の炉を用いることができる。
【0077】
本実施形態で得られる正極活物質20は、余剰水酸化リチウム量が、正極活物質20全体に対して、0.5質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。余剰水酸化リチウム量が上記範囲である場合、正極合材ペーストのゲル化を抑制することができる。ここで、正極活物質全量とは、リチウム金属複合酸化物10を構成する、二次粒子2とLB化合物3、及び、一次粒子1の表面に存在する余剰リチウムの合計を意味する。なお、余剰水酸化リチウム量の下限は、正極活物質全量に対して、例えば0.01質量%以上であることが好ましい。
【0078】
ここで、正極活物質20中の余剰水酸化リチウム量は、母材として用いるリチウム金属複合酸化物(焼成粉末)の組成や、例えば、ホウ素混合工程(ステップS1)で添加するホウ素化合物の量でも異なる。本実施形態の製造方法においては、熱処理工程(ステップS2)の熱処理条件(熱処理温度及び熱処理時間など)を適宜調整することにより、得られる正極活物質20中の余剰水酸化リチウム量を上記範囲に制御することが好ましい。
【0079】
なお、リチウム金属複合酸化物(母材)中の余剰水酸化リチウム量は、組成や製造方法などにより異なり、特に限定されないが、混合工程(ステップS1)で混合するホウ素化合物と、リチウム金属複合酸化物(母材)中のリチウムとを十分に反応させて、LB化合物3を形成させるという観点から、例えば、リチウム金属複合酸化物(母材)全体に対して、0.1質量%を超えてもよく、0.5質量%を超えてもよい。また、リチウム金属複合酸化物(母材)中の余剰水酸化リチウム量は、熱処理工程(ステップS2)後に得られる正極活物質20中の余剰水酸化リチウム量よりも多いことが好ましい。なお、正極活物質20の水分量は、例えば、上述の熱処理工程(ステップS2)を行うことにより0.1質量%以下に調整することができ、他の工程を必要としない。
【0080】
3.非水系電解質二次電池用正極合材ペースト
次に、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極合材ペースト(以下、「正極合材ペースト」ともいう。)の製造方法について説明する。本実施形態の正極合材ペーストは、上記正極活物質20を含む。よって、正極合材ペースト中、正極活物質20からのリチウムの溶出が低減され、正極合材ペーストのゲル化が抑制される。したがって、正極合材ペーストを長期間保存した場合でも、正極合材ペーストの粘度変化が少なく、正極合材ペーストは高い安定性を有することができる。このような正極合材ペーストを用いて正極を製造した場合、安定して優れた特性を有する正極を得ることができ、最終的に得られる二次電池の特性を安定して高いものとすることができる。
【0081】
正極合材ペーストの構成材料は特に限定されず、公知の正極合材ペーストと同等なものを用いることができる。正極合材ペーストは、例えば、正極活物質20、導電材及びバインダーを含む。正極合材ペーストは、さらに溶剤を含んでもよい。正極合材ペーストは、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、例えば、正極活物質の含有量を60~95質量部、導電材の含有量を1~20質量部、および、結着剤の含有量を1~20質量部とすることができる。
【0082】
導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0083】
バインダー(結着剤)は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0084】
なお、正極活物質20に、導電材、および、活性炭を分散させ、必要に応じて、バインダー(結着剤)を溶解する溶剤を添加してもよい。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。正極合材ペーストは、例えば、粉末状の正極活物質20、導電材、および、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して作製することができる。
【0085】
4.非水系電解質二次電池
次に、本実施形態に係る非水系電解質二次電池について説明する。本実施形態の非水系電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)は、特に限定されず、公知の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。二次電池は、例えば、正極、負極、セパレータ、及び、非水系電解液を備えてもよく、正極、負極、及び、固体電解質を備えてもよい。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良した形態で実施することができる。また、本実施形態の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0086】
(正極)
上記正極活物質を含む正極合材ペーストを用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0087】
(負極)
負極には、金属リチウムやリチウム合金等を用いてもよく、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0088】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0089】
(セパレータ)
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0090】
(非水系電解質)
非水系電解質としては、非水電解液を用いることができる。非水系電解液は、例えば、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いてもよい。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状を示す塩をいう。
【0091】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることができる。
【0092】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0093】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、 無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0094】
無機固体電解質として、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が用いられる。
【0095】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、酸素(O)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4-Li3PO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3-ZnO、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3-XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等が挙げられる。
【0096】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、硫黄(S)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等が挙げられる。
【0097】
なお、無機固体系電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0098】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
【0099】
(電池の形状、構成)
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本実施形態の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0100】
(特性)
本実施形態の正極活物質を用いた二次電池は、高容量かつゲル化抑制に優れる。好ましい実施形態で得られた正極活物質を用いた二次電池は、例えば、2032型コイン型電池CBA(
図4)の正極に用いた場合、190mAh/g以上、好ましくは200mAh/以上の高い初期放電容量が得られる。なお、初期放電容量は、実施例で使用したコイン型電池CBAを製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を測定した値である。
【0101】
好ましい実施形態で得られた正極活物質を用いた二次電池は、例えば、上記コイン型電池CBAを用いて測定した正極抵抗を4Ω以下、好ましくは3Ω以下、より好ましくは2.5Ω以下とすることができる。なお、本実施形態における正極抵抗の測定方法を例示すれば、次のようになる。電気化学的評価手法として一般的な交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定を行うと、溶液抵抗、負極抵抗と負極容量、および正極抵抗と正極容量に基づくナイキストプロットが
図5のように得られる。電極における電池反応は、電荷移動に伴う抵抗成分と電気二重層による容量成分とからなり、これらを電気回路で表すと抵抗と容量の並列回路となり、電池全体としては溶液抵抗と負極、正極の並列回路を直列に接続した等価回路で表される。この等価回路を用いて測定したナイキスト線図に対してフィッティング計算を行い、各抵抗成分、容量成分を見積もることができる。正極抵抗は、得られるナイキストプロットの低周波数側の半円の直径と等しい。よって、作製される二次電池について、交流インピーダンス測定を行い、得られたナイキスト線図に対し等価回路でフィッティング計算することで、正極抵抗を見積もることができる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。本実施例では、複合水酸化物製造、正極活物質および二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。なお、実施例及び比較例における正極活物質の分析方法及び評価方法は、以下の通りである。
【0103】
(1)組成の分析:ICP発光分析法で測定した。
【0104】
(2)正極合材ペーストの粘度安定性
正極活物質25.0gと、導電材のカーボン粉1.5gと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)2.9gと、N-メチル-2ピロリドン(NMP)とを遊星運動混練機により混合し正極合材ペーストを得た。N-メチル-2ピロリドン(NMP)は、JIS Z 8803:2011に規定される振動粘度計による粘度測定方法により、粘度が1.5~2.5Pa・sとなるように添加量を調整した。得られた正極合材ペーストを76時間保管してゲル化の発生状況を目視で評価し、ゲル化が発生していないものを○、ゲル化が発生したものを×とした。
【0105】
(3)リチウムホウ素化合物の検出
正極活物質の表面をXPS(アルバック・ファイ社製、VersaProbe II)で分析した。ホウ素のピークにリチウムとの化合を示す波形が確認された場合、正極活物質(一次粒子)の表面にリチウムホウ素化合物(LB化合物)が形成されていると判断した。
【0106】
(4)水分量
水分量は、気化温度300℃の条件において、カールフィッシャー水分計で測定した。
【0107】
(5)余剰水酸化リチウム量の測定
余剰水酸化リチウム量は、得られた正極活物質15gを75mlの純水に分散させた後、10分間静置させ、上澄み液10mlを50mlの純水で希釈し、1mol/リットルの塩酸を加える中和滴定法により測定した。中和滴定では上澄み液の水溶液のpHは2段階で低下する。1段目の低下が余剰水酸化リチウム分を示すものとし(第一中和点)、第一中和点までの塩酸量から、溶出したLi量(余剰水酸化リチウム量)を算出した。なお、第一中和点までの塩酸量から測定されたLi量が、すべて水酸化リチウム(LiOH)に由来するとして、余剰水酸化リチウム量を算出した。
【0108】
(6)電池の作製及び評価
得られた正極活物質を用いて、
図4に示す2032型のコイン型電池CBAを作製し、電池特性を評価した。以下、コイン型電池CBAの製造方法について説明する。
【0109】
得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形し、
図4に示す正極(評価用電極)PEを作製した。作製した正極PEを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した後、この正極PEを用いて2032型のコイン型電池CBAを、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。負極NEには、直径17mm厚さ1mmのリチウム(Li)金属(KISCO株式会社製)を用い、電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータSEには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン型電池CBAは、ガスケットGAとウェーブワッシャーWWを有し、正極缶PCと負極缶NCを用いてコイン状の電池に組み立てられた。
【0110】
(初期放電容量)
初期放電容量は、コイン型電池CBAを作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量とした。放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0111】
(正極抵抗)
コイン型電池CBAを充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して、交流インピーダンス法により測定すると、
図5に示すナイキストプロットが得られる。ナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、及び、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表している。得られたナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0112】
(実施例1)
Niを主成分とする水酸化物粉末と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたLi1.025Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表される平均粒径12.5μm、〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.80のリチウム金属複合酸化物の焼成粉末を母材とした。前記リチウム金属複合酸化物粒子と、熱処理後の正極活物質の組成を示す一般式(1)において、t=0.03となるように秤量したオルトホウ酸を、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、ホウ素混合物を得た。このホウ素混合物を酸素気流中にて250℃で10時間保持して熱処理し、正極活物質を得た。
【0113】
得られた正極活物質をXPS(アルバック・ファイ社製、VersaProbe II)で分析したところ、ホウ素のピークにリチウムとの化合を示す波形が確認され、一次粒子の表面にリチウムホウ素化合物が存在することが確認された。また、二次粒子内部のホウ素の存在について、FE-SEMに取り付けた軟X線発光分光装置(Soft X-ray Emission Spectroscopy;SXES)によって分析した。その結果、一次粒子の中心部では、ホウ素の明確なピークが観察されなかったが、二次粒子内部の粒界(一次粒子の表面)にホウ素を示すピークが観察され、ホウ素が存在することが確認された。得られた正極活物質の評価結果を表1に示す。
【0114】
(実施例2)
オルトホウ酸を添加した後の熱処理温度を210℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例3)
オルトホウ酸を添加した後の熱処理温度を290℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例4)
熱処理後の正極活物質を示す一般式(1)において、t=0.02となるように秤量したオルトホウ酸をリチウム金属複合酸化物と混合した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例5)
熱処理後の正極活物質を示す一般式(1)において、t=0.04となるように秤量したオルトホウ酸をリチウム金属複合酸化物と混合した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例6)
リチウム金属複合酸化物の焼成粉末(母材)を、Li1.030Ni0.88Co0.09Mn0.03O2で表される平均粒径12.1μm、〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.85のリチウム金属複合酸化物とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
【0115】
(比較例1)
オルトホウ酸を添加せず、熱処理をしない以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(比較例2)
オルトホウ酸を添加した後の熱処理温度を150℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。得られた正極活物質をXPS(アルバック・ファイ社製、VersaProbe II)で分析したところ、ホウ素のピークにリチウムとの化合を示す波形が確認されなかった。この結果から、リチウムを含むホウ酸化合物が形成していないと考えられる。
(比較例3)
オルトホウ酸を添加した後の熱処理温度を350℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(比較例4)
熱処理後の正極活物質を示す一般式(1)において、t=0.01となるように秤量したオルトホウ酸をリチウム金属複合酸化物(母材)と混合した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(比較例5)
熱処理後の正極活物質を示す一般式(1)において、t=0.05となるように秤量したオルトホウ酸をリチウム金属複合酸化物(母材)と混合した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
(比較例6)
オルトホウ酸を添加せず、熱処理をしない以外は、実施例6と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1に示す。
【0116】
【0117】
(評価結果)
実施例1~6で得られた正極活物質は、ホウ素を含まない比較例1または6の正極活物質と比較して、二次電池の正極に用いた際、いずれも正極抵抗が低減され、高い電池容量が得られた。また、実施例で得られた正極活物質は、いずれも正極合材ペーストのゲル化が抑制された。
【0118】
比較例2で得られた熱処理温度150℃の正極活物質は、二次粒子表面の一次粒子にリチウムホウ素化合物が確認されず、正極合材ペーストのゲル化が生じていた。また、比較例3で得られた熱処理温度350℃の正極活物質は、余剰水酸化リチウム量の増加と正極合材ペーストのゲル化が見られた。さらに、熱処理温度が高いため、リチウム金属複合酸化物からのリチウムの引き抜きが多くなり、Li席占有率が低下して初期放電容量が低下していた。
【0119】
比較例4に示すようにホウ素添加量が少ない場合は、正極抵抗の低減が少なく、正極合材ペーストのゲル化が生じた。一方、比較例5に示すようにホウ素の添加量が多すぎる場合、正極抵抗の低減はみられるものの余剰リチウム量が多くなり、正極合材ペーストのゲル化が生じた。また、ホウ素添加量が多い場合、リチウム金属複合酸化物からのリチウムの引き抜きが多くなり、Li席占有率が低下して初期放電容量が低下していた。
【0120】
以上の結果から、本実施形態の正極活物質は、熱処理温度とホウ素原料の添加量を、適正な範囲に設定することにより、良好な出力特性及び高い電池容量と正極合材ペーストのゲル化抑制とを両立した正極活物質が得られることが明らかである。
【0121】
なお、本発明の技術範囲は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態で説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上記の実施形態で説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、日本国特許出願である特願2017-162662、及び上述の実施形態などで引用した全ての文献、の内容を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0122】
1、1a、1b…一次粒子
2…二次粒子
3…リチウムホウ素化合物
10…リチウム金属複合酸化物
20…正極活物質
CBA…コイン型電池
PE…正極(評価用電極)
NE…負極
SE…セパレータ
GA…ガスケット
WW…ウェーブワッシャー
PC…正極缶
NC…負極缶