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特許7273596流量算出装置、流量算出システム、及び、流量算出装置用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】流量算出装置、流量算出システム、及び、流量算出装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01F 25/10 20220101AFI20230508BHJP
   G05D 7/06 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
G01F25/10 R
G01F25/10 Z
G05D7/06 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019073730
(22)【出願日】2019-04-08
(65)【公開番号】P2020173121
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】磯部 泰弘
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/034169(WO,A1)
【文献】特開2020-139864(JP,A)
【文献】特開2012-032983(JP,A)
【文献】特開2006-337346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 25/10-25/17
G05D 7/00- 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流量制御機器で所定の設定流量に制御した流体を容器内へ流入させ始めてから当該流入を停止させるまでの流入期間中に、前記流量制御機器を流れていたと推定される前記流体の推定流量を、前記流入期間中における前記容器内の圧力の変化率に基づき算出する流量算出部と、
基準流体を前記容器へ流入させて算出された前記推定流量と実流量との間の流量差に対する、前記基準流体とは種類の異なる異種流体を前記容器へ流入させて算出された前記推定流量と実流量との間の流量差のずれ量(以下、流量差ずれ量)と、前記基準流体の熱伝導率に基づき算出される基準熱拡散値に対する、前記異種流体の熱伝導率に基づき算出される異種熱拡散値のずれ量(以下、熱拡散値ずれ量)との関係を示すずれ量関係データを記憶するずれ量関係データ記憶部と、
前記流量算出部で算出された前記流体の推定流量を前記ずれ量関係データに基づき補正する流量補正部とを具備することを特徴とする流量算出装置。
【請求項2】
前記ずれ量関係データ記憶部が、前記基準流体の熱拡散率に基づき算出される値を前記基準熱拡散値とし、前記異種流体の熱拡散率に基づき算出される値を前記異種熱拡散値とするものである請求項1記載の流量算出装置。
【請求項3】
前記ずれ量関係データ記憶部が、前記容器内の圧力が初期圧力から所定圧力になるように前記基準流体を前記容器へ流入させたと仮定して算出される前記容器内の前記基準流体の温度変化量と前記基準流体の熱拡散率の平方根との比を前記基準熱拡散値とし、前記容器内の圧力が前記初期圧力から前記所定圧力になるように前記異種流体を前記容器へ流入させたと仮定して算出される前記容器内の前記異種流体の温度変化量と前記異種流体の熱拡散率の平方根との比を前記異種熱拡散値とし、前記基準熱拡散値と前記異種熱拡散値との比を前記熱拡散値ずれ量とするものである請求項2記載の流量算出装置。
【請求項4】
前記ずれ量関係データ記憶部が、前記基準流体を前記容器へ所定流量で流入させて算出される前記容器の推定容積に対する、前記異種流体を前記容器へ前記所定流量で流入させて算出される前記容器の推定容積のずれの割合を前記流量差ずれ量とするものである請求項1乃至3のいずれかに記載の流量算出装置
【請求項5】
前記請求項1乃至4のいずれかに記載の流量算出装置と、
前記容器と、
前記流量制御機器で流量が制御された流体を前記容器へ流入する流入ラインと、
前記容器内の圧力を検出する圧力センサと、
前記容器の温度又は前記容器内の温度を検出する温度センサとを具備する流量算出システム。
【請求項6】
前記流入ラインから分岐する分岐ラインと、
前記分岐ラインのみへ流体を流す第1状態と前記流入ラインの前記分岐ラインとの分岐点よりも下流側のみへ流体を流す第2状態とを切り替える切替機構とをさらに具備し、
前記流入ラインの前記分岐ラインとの分岐点よりも上流側に前記流量制御機器が設けられている請求項5記載の流量算出システム。
【請求項7】
流量制御機器で所定の設定流量に制御した流体を容器内へ流入させ始めてから当該流入を停止させるまでの流入期間中に、前記流量制御機器を流れていたと推定される前記流体の推定流量を、前記流入期間中における前記容器内の圧力の変化率に基づき算出する流量算出部と、
基準流体を前記容器へ流入させた場合における前記推定流量と実流量との間の流量差に対する、前記基準流体とは種類の異なる異種流体を前記容器へ流入させた場合における前記推定流量と実流量との間の流量差のずれ量を、前記基準流体の熱伝導率に基づき算出される基準熱拡散値に対する、前記異種流体の熱伝導率に基づき算出される異種熱拡散値のずれ量との関係を示すずれ量関係データを記憶するずれ量関係データ記憶部と、
前記流量算出部で算出された前記流体の推定流量を前記ずれ量関係データに基づき補正する流量補正部としての機能を発揮させることを特徴とする流量算出装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量算出装置、流量算出システム、及び、流量算出装置用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス等における成膜装置のチャンバに対し、材料ガス(以下、流体ともいう)を供給する流体供給システムにおいては、チャンバに供給する流体の流量を正確に管理する必要があるため、流体が流れる流路に流量制御機器が設けられる。なお、前記流量制御機器は、所謂マスフローコントローラであり、流路を流れる流体の流量を検出する流量センサを備え、流量センサで検出される流量が設定流量に近づくようにフィードバック制御する構成になっている。
【0003】
しかし、前記流量制御機器は、流路の詰まりなどの経年劣化等が原因となって設定流量通りに流量を制御できなくなることがある。このため、流量制御機器は、定期的に設定流量通りに流量を制御できているか否かを検査する必要がある。
【0004】
このため、従来の流体供給システムには、流量制御機器を検査するための流量算出システムを組み込んだものがある。例えば、特許文献1には、流量制御機器を流れる流体をチャンバに供給するための流体供給流路とは別に、流量制御機器を検査するための流体検査流路を設け、当該流体検査流路の途中に容器を設置した構成の流量算出システムが開示されている。
【0005】
前記流量算出システムにおいては、容器を利用し、動的定積法(圧力上昇率(ROR)法)によって流量制御機器を流れていたと推定される流体の推定流量を算出して検査するように構成されている。具体的には、流量算出システムは、流量制御機器で流量を制御した流体を真空状態にした容器内へ所定期間流入し、この時生じる容器内の圧力の変化率(ΔP/Δt)に基づき、前記所定期間中に流量制御機器を流れていたと推定される流体の推定流量を算出する。そして、推定流量と設定流量とを比較することにより、流量制御機器を流れる流体の流量が設定流量通りになっているか否かを検査する。
【0006】
具体的には、前記推定流量Qは、次の数1によって算出される。
【数1】
【0007】
ここで、ΔP/Δtは容器内の単位時間当たりの圧力の変化率、Vは容器の容積、Tは容器の温度又は容器内の温度、Rはガス定数、Ccompは流体の圧縮係数に起因する補正係数、CKFFは装置起因の補正係数を、それぞれ示している。
【0008】
ところで、出願人は、前記従来の流量算出システムを用いて流量制御機器で同一流量に制御しながら、複数の異種流体を容器内へ流入して推定流量を算出する実験を行ったところ、各異種流体の推定流量が異なっている事象を発見した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-87318号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、流体の種類にかかわらず、動的定積法によって推定流量を精度良く算出できる流量算出装置を得ることを主な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
出願人は、前記事象が生じる原因を検討したところ、容器内へ流体を流入させると、エネルギー保存則により、容器内の流体の温度が上昇するが、この流体の温度上昇の仕方が、流体の種類によって異なっており、これが前記事象の原因となっているとの結論に至った。
【0012】
詳述すると、エネルギー保存則により、容器内の流体の温度が上昇する。そして、容器内の流体の温度上昇は、推定流量を算出するために用いられる圧力の変化率に影響を及ぼす。ところで、容器内の流体の温度上昇の仕方は、流体の比熱比に依存すると共に、容器の壁に対する流体の熱の伝わり方にも依存する。すなわち、容器の壁に対して流体の熱が伝わり易いと、容器内の流体の温度上昇が小さくなり、逆に、容器の壁に対して流体の熱が伝わり難いと、容器内の流体の温度上昇が大きくなる。そして、容器の壁に対する流体の熱の伝わり方は、流体の熱拡散率(なお、熱拡散率は、熱伝導率に基づき算出できる値、具体的には、λ/ρcである。ここで、λは流体の熱伝導率、ρは流体の密度、cは流体の比熱、をそれぞれ示している)によって決まる。そして、比熱比や熱拡散率は、流体固有の値であるため、種類の異なる異種流体を容器へ流入して推定流量を算出すると、前記事象が生じる。
【0013】
そして、出願人は、前記検討に基づき本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る流量算出装置は、流量制御機器で所定の設定流量に制御した流体を容器内へ流入させ始めてから当該流入を停止させるまでの流入期間中に、前記流量制御機器を流れていたと推定される前記流体の推定流量を、前記流入期間中における前記容器内の圧力の変化率に基づき算出する流量算出部と、基準流体を前記容器へ流入させて算出された前記推定流量と実流量との間の流量差に対する、前記基準流体と異種流体を前記容器へ流入させて算出された前記推定流量と実流量との間の流量差のずれ量(以下、流量差ずれ量)と、前記基準流体の熱伝導率に基づき算出された基準熱拡散値に対する、前記異種流体の熱伝導率に基づき算出された異種熱拡散値のずれ量(以下、熱拡散値ずれ量)と、の関係を示すずれ量関係データを記憶するずれ量関係データ記憶部と、前記流量算出部で算出された前記流体の推定流量を前記ずれ量関係データに基づき補正する流量補正部とを具備することを特徴とするものである。
【0015】
このようなものであれば、基準流体を容器へ流入させて算出された推定流量と実流量との間の流量差に対する、基準流体と異種流体を容器へ流入させて算出された推定流量と実流量との間の流量差のずれ量と、基準流体の熱伝導率に基づき算出された基準熱拡散値に対する、異種流体の熱伝導率に基づき算出された異種熱拡散値のずれ量との関係を示すずれ量関係データを用いて、流量算出部で算出される流体の推定流量を補正するように構成したので、流量制御機器の制御対象となる流体の種類の違いによって生じる推定流量のずれを抑制でき、精度の高い推定流量を算出することができる。なお、異種流体とは、基準流体と種類の異なる流体であり、具体的には、熱伝導率や熱拡散率の異なる流体を示している。
【0016】
また、前記ずれ量関係データ記憶部の具体的な構成としては、前記基準流体の熱拡散率に基づき算出される値を前記基準熱拡散値とし、前記異種流体の熱拡散率に基づき算出される値を前記異種熱拡散値とするものが挙げられる。
【0017】
また、前記ずれ量関係データ記憶部の具体的な構成としては、前記容器内の圧力が初期圧力から所定圧力になるように前記基準流体を前記容器へ流入させたと仮定して算出される前記容器内の前記基準流体の温度変化量と前記基準流体の熱拡散率の平方根との比を前記基準熱拡散値とし、前記容器内の圧力が前記初期圧力から前記所定圧力になるように前記異種流体を前記容器へ流入させたと仮定して算出される前記容器内の前記異種流体の温度変化量と前記異種流体の熱拡散率の平方根との比を前記異種熱拡散値とし、前記基準熱拡散値と前記異種熱拡散値との比を前記熱拡散値ずれ量とするものが挙げられる。
【0018】
また、前記ずれ量関係データ記憶部の具体的な構成としては、前記基準流体を前記容器へ所定流量で流入させて算出された前記容器の推定容積に対する、前記異種流体を前記容器へ前記所定流量で流入させて算出された前記容器の推定容積のずれの割合を前記流量差ずれ量とするものが挙げられる。
【0019】
また、本発明に係る流量算出システムは、前記流量算出装置と、前記容器と、前記流量制御機器で流量が制御された流体を前記容器へ流入する流入ラインと、前記容器内の圧力を検出する圧力センサと、前記容器の温度又は前記容器内の温度を検出する温度センサとを具備することを特徴とするものである。
【0020】
また、前記流量算出システムの具体的な構成としては、前記流入ラインから分岐する分岐ラインと、前記分岐ラインのみへ流体を流す第1状態と前記流入ラインの前記分岐ラインとの分岐点よりも下流側のみへ流体を流す第2状態とを切り替える切替機構とをさらに備えるものが挙げられる。
【0021】
このようなものであれば、流入期間前に容器内を真空引きした後、容器内を真空状態に保った状態で分岐ラインを介して流量制御機器に流体を流すことができる。これにより、前記流入ラインから前記容器へ流体を流入し始めると共に、切替機構によって第1状態から第2状態へ切り替えることにより、即座に流量制御機器から安定した流量の流体を容器内へ流入させることができるようになる。
【0022】
また、本発明に係る流量算出装置用プログラムは、流量制御機器で所定の設定流量に制御した流体を容器内へ流入させ始めてから当該流入を停止させるまでの流入期間中に、前記流量制御機器を流れていたと推定される前記流体の推定流量を、前記流入期間中における前記容器内の圧力の変化率に基づき算出する流量算出部と、基準流体を前記容器へ流入させて算出された前記推定流量と実流量との間の流量差に対する、前記基準流体と異種流体を前記容器へ流入させて算出された前記推定流量と実流量との間の流量差のずれ量を、前記基準流体の熱伝導率に基づき算出される基準熱拡散値に対する、前記異種流体の熱伝導率に基づき算出される異種熱拡散値のずれ量と、の関係を示すずれ量関係データを記憶するずれ量関係データ記憶部と、前記流量算出部で算出された前記流体の推定流量を前記ずれ量関係データに基づき補正する流量補正部としての機能を発揮させることを特徴とするものである。
【0023】
このように構成した流量算出装置によれば、流体の種類にかかわらず、動的定積法によって推定流量を精度良く算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係る流量算出システムを示す模式図である。
図2】実施形態に係る流量算出装置の機能を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る流量算出システムの動作を示すフローチャートである。
図4】実施形態に係る流量算出装置に係るずれ量関係データを示すグラフである。
図5】その他の実施形態に係る流量算出システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係る流量算出システムを図面に基づいて説明する。
【0026】
本発明に係る流量算出システムは、例えば半導体製造ライン等に組み込まれる流量制御機器を検査・校正するために使用されるものである。
【0027】
本実施形態に係る流量算出システム100は、図1に示すように、流体が流入される容器10と、容器10へ流入する流入ラインL1と、容器10から流体を流出する流出ラインL2と、流入ラインL1から分岐する分岐ラインL3と、流量算出装置Cを備えている。
【0028】
前記容器10には、容器10内の圧力を検出する圧力センサPと、容器10の温度又は容器10内の温度を検出する温度センサTと、が設けられている。
【0029】
前記流入ラインL1には、流入ラインL1を流れる流体の流量を制御する流量制御機器MFCが設けられている。具体的には、流量制御機器MFCは、熱式又は圧力式等の流量センサと、ピエゾバルブ等の流量調整弁と、CPUやメモリ等を備えた制御回路とを具備したマスフローコントローラである。なお、本実施形態の流量算出システム100は、当該流量制御機器MFCを検査するものである。
【0030】
前記流出ラインL2には、下流側に容器10から流体を排出するためのポンプ20が設けられている。
【0031】
前記分岐ラインL3は、上流端が流入ラインL1の流量制御機器MFCよりも下流側に接続されていると共に、下流端が流出ラインL2のポンプ20よりも上流側に接続されている。すなわち、分岐ラインL3は、容器10を迂回するように流入ラインL1及び流出ラインL2に接続されている。
【0032】
また、前記流入ラインL1、前記流出ラインL2、及び、前記分岐ラインL3には、それぞれ開閉弁V1~V3が設けられている。そして、流量算出システム100は、各開閉弁V1~V3の開閉を切替えることにより、容器10内を真空排気する排気モードと、容器10内を真空状態に保持すると共に、流量制御装置MFCの流量を安定させる準備モードと、容器10内へ流体を流入する流入モードと、容器10内への流体の流入を停止する停止モードと、に順次切り替わるように構成されている。
【0033】
具体的には、前記流入ラインL1には、分岐ラインL3との分岐点よりも下流側に第1開閉弁V1が設けられている。また、前記流出ラインL2には、分岐ラインL3との合流点よりも上流側に第2開閉弁V2が設けられている。また、前記分岐ラインL3には、その途中に第3開閉弁V3が設けられている。なお、第1開閉弁V1及び第3開閉弁V3は、流入ラインL1の分岐ラインL3との分岐点よりも上流側を流れる流体を、分岐ラインL3のみへ流す第1状態と流入ラインL1の分岐ラインL3との分岐点よりも下流側のみへ流す第2状態とを切り替える切替機構の役割を果たしている。すなわち、第1開閉弁V1及び第3開閉弁V3は、流入ラインL1の分岐ラインL3との分岐点よりも上流側を流れる流体を、分岐ラインL3と、流入ラインL1の分岐ラインL3との分岐点よりも下流側と、に選択的に流すように切り替える切替機構の役割を果たしている。
【0034】
そして、前記各開閉弁V1~V3は、排気モードへの切替信号を受け付けると、第1開閉弁V1を閉止し、第2開閉弁V2を開放し、第3開閉弁V3を閉止する。これにより、容器10は、流出ラインL2に設けられたポンプ20によって真空排気される。なお、流入ラインL1を流れる流体は、第1開閉弁V1及び第3開閉弁V3によって容器10よりも下流側へ流れなくなる。これにより、ポンプ20が、流量制御装置MFCとは接続されず、容器10とのみ接続された状態となり、容器10内が十分に排気される。
【0035】
次に、前記各開閉弁V1~V3は、準備モードへの切替信号を受け付けると、第1開閉弁V1を閉止し、第2開閉弁V2を閉止し、第3開閉弁V3を開放する。これにより、容器10は、第1開閉弁V1と第2開閉弁V2とによって封止されて真空状態に保持される。なお、流入ラインL1を流れる流体は、分岐ラインL3を介して容器よりも下流側へ流れる。これにより、流量制御装置MFCが、排気モードで流量が安定しない状態から流量が安定した状態に戻る。
【0036】
次に、前記各開閉弁V1~V3は、流入モードへの切替信号を受け付けると、第1開閉弁V1を開放し、第2開閉弁V2を閉止し、第3開閉弁V3を閉止する。これにより、流入ラインL1を流れる流体、言い換えれば、流量制御機器MFCを流れる流体が、全て容器10へ流入するようになる。
【0037】
次に、前記各開閉弁V1~V3は、停止モードへの切替信号を受け付けると、第1開閉弁V1を閉止し、第2開閉弁V2を閉止し、第3開閉弁V3を開放する。これにより、容器10は、第1開閉弁V1と第2開閉弁V2とによって封止された状態に保持される。なお、流入ラインL1を流れる流体は、再び分岐ラインL3を介して容器10よりも下流側へ流れ始める。
【0038】
また、前記流量算出装置Cは、各開閉弁V1~V3、圧力センサP、温度センサT、流量制御機器MFC、及び、図示しない表示部及び入力部に接続されている。なお、流量算出装置Cは、具体的には、CPU、メモリ、ADコンバータ、DCコンバータ、入力手段等を有したコンピュータであり、前記メモリに格納されたプログラムをCPUによって実行することによって、図2に示すように、弁制御部C1、圧力変化データ記憶部C2、温度変化データ記憶部C3、平均温度算出部C4、流量算出部C5、ずれ量関係データ記憶部C6、流量補正部C7、表示制御部C8等としての機能を発揮するように構成されている。なお、表示部は、例えば、ディスプレイ等である。
【0039】
前記弁制御部C1は、第1開閉弁V1、第2開閉弁V2、及び、第3開閉弁V3の開閉を制御するものである。具体的には、弁制御部C1は、流量算出開始信号を受け付けると、各開閉弁V1~V3に対し、排気モード、準備モード、流入モード、及び、停止モードへ切り替える切替信号をこの順番で順次送信する。
【0040】
前記圧力変化データ記憶部C2は、圧力センサPで検出される圧力の時間変化を示す圧力変化データを記憶するものである。具体的には、圧力変化データ記憶部C2は、流入モードへ切り替えられてから停止モードへ切り替えられるまでの流入期間中に、圧力センサPで検出される圧力の時間変化を示す圧力変化データを記憶するものである。
【0041】
前記温度変化データ記憶部C3は、流入期間中に、温度センサTで検出される温度の時間変化を示す温度変化データを記憶するものである。
【0042】
前記平均温度算出部C4は、流入期間中に、温度センサTで検出される温度の平均温度を算出するものである。具体的には、平均温度算出部C4は、温度変化データ記憶部C3に記憶された流入期間に係る温度変化データに基づき平均温度を算出する。
【0043】
前記流量算出部C5は、流入期間中に、流量制御機器MFCを流れていたと推定される流体の推定流量を理論式によって算出するものである。具体的には、流量算出部C5は、圧力変化データ記憶部C2に記憶された流入期間に係る圧力変化データから算出される圧力の変化率(上昇率)と、平均温度算出部C4で算出された平均温度と、に基づき推定流量を算出する。より具体的には、流量算出部C5は、圧力の変化率ΔP/Δtと、平均温度Tと、実容積Vと、を前記数1に代入して推定流量を算出する。なお、流量算出部C5は、圧力変化データに含まれる複数の時点における圧力を参照して単位時間に対する圧力の変化率を算出する。
【0044】
また、前記実容積Vは、例えば、流量制御装置MFCの代わりに、標準流量計を搭載した標準流量制御機器を使用し、得られた実測値を前記数1に代入して算出される値を用いればよい。具体的には、実容積Vは、基準流体を標準流量制御機器によって所定の設定流量に制御して容器10へ流入して得られる実測値を前記数1に代入して算出される値を用いればよい。より具体的には、実容積Vは、基準流体を標準流量制御機器によって所定の設定流量に制御して容器10へ流入した場合における、容器内の圧力の変化率ΔP/Δt、平均温度T、設定流量Qを前記数1に代入して算出される値を用いればよい。この場合、前記数1におけるCkffとVとを合わせて実容積として算出する。なお、基準流体としては、例えば、Nを使用すればよい。
【0045】
なお、前記標準流量計とは、流量制御機器MFCに搭載された流量計やその他の流量計を校正するために用いられるものであり、流量を正確に測定できるものである。
【0046】
前記ずれ量関係データ記憶部は、基準流体を容器10へ流入させた場合に流量算出部C5で算出された推定流量(以下、基準推定流量ともいう)と実流量との間の流量差に対する、異種流体を容器10へ流入させた場合に流量算出部C5で算出された推定流量(以下、比較推定流量ともいう)と実流量との間の流量差のずれ量(以下、流量差ずれ量ともいう)を、次に説明する値を指標として示したずれ量関係データを記憶するものである。すなわち、ずれ量関係データは、基準流体の熱伝導率に基づき算出される基準熱拡散値に対する、異種流体の熱伝導率に基づき算出される値を異種熱拡散値のずれ量(以下、熱拡散値ずれ量)を指標として前記流量差ずれ量を示したものである。
【0047】
具体的には、前記基準熱拡散値は、基準流体の熱拡散率に基づき算出される値である。また、前記異種熱拡散値は、異種流体の熱拡散率に基づき算出される値である。
【0048】
より具体的には、前記基準熱拡散値は、容器10内の圧力が初期圧力から所定圧力になるように基準流体を容器10へ流入させたと仮定し、算出された容器10内の基準流体の温度変化量(以下、基準温度変化量ともいう)と、基準流体の熱拡散率の平方根と、の比である。また、前記異種熱拡散値は、容器10内の圧力が前記初期圧力から前記所定圧力になるように異種流体を容器10へ流入させたと仮定し、算出された容器10内の異種流体の温度変化量(以下、比較温度変化量)と、異種流体の熱拡散率の平方根と、の比である。そして、前記熱拡散値ずれ量は、基準熱拡散値と異種熱拡散値との比である。
【0049】
また、本実施形態においては、前記流量差ずれ量として、基準流体を容器10へ所定流量で流入させて算出した容器10の推定容積(以下、基準推定容積ともいう)に対する、異種流体を容器10へ流入させて算出した容器10の推定容積(以下、比較推定容積ともいう)のずれの割合を用いている。
【0050】
ここで、本実施形態に係る前記ずれ量関係データの作成方法をより具体的に説明する。なお、前記ずれ量関係データは、流量算出システム100に対し、流量制御機器MFCに代えて標準流量制御機器を設置し、当該標準流量制御機器を用いて作成することが好ましい。
【0051】
先ず、流量算出システム100において、比熱比γ(定圧比熱Cp/定容比熱Cv)の流体の推定流量を算出する場合に次の仮定を設ける。(1)容器が断熱されている。(2)容器内の温度は一様である。(3)容器へ流入される流体の運動エネルギーはエンタルピーに対して無視できる。(4)容器へ流入される流体は比熱比γが一定である(言い換えれば、流体が熱量的に完全である)。(5)容器へ流入される流体が理想気体である。
【0052】
前記仮定の下、容積Vの容器10内が初期温度Tの流体で満たされて初期圧力Pになった第1状態から、容器10が所定圧力Pになる第2状態まで、標準流量制御機器で所定の設定流量Qになるように制御された温度Tinの流体を容器10内へ流入したとする。そうすると、(1)~(3)の仮定に基づき、次の数2が成り立つ。なお、T=Tinと仮定する。
【数2】
ここで、ρは容器10内の流体密度、eは容器10内の単位質量当たりの内部エネルギー、minは単位時間当たりの質量流量、hinは容器10へ流入する流体の単位質量当たりのエンタルピーを、それぞれ示している。
【0053】
そして、第1状態から第2状態までの時間をΔtとして数2を積分すると、次の数3が得られる。
【数3】
【0054】
ここで、第2状態における容器10内の流体の温度をTとすると、(4)の仮定に基づき、次の数4が成り立つ。
【数4】
【0055】
さらに、(5)の仮定に基づき、次の数5が成り立つ。
【数5】
【0056】
そして、数5からTを表す数6が得られる。
【数6】
【0057】
次に、容器10内が第1状態から第2状態になるように、基準流体を容器10内へ流入したと仮定し、前記数6を用いて基準温度変化量を算出する。そして、基準温度変化量と、基準流体の熱拡散率の平方根と、の比を基準熱拡散値とする。
【0058】
また、容器10内が第1状態から第2状態になるように、実際に標準流量制御機器を用いて、基準流体を容器10内へ流入し、容器10内の圧力の変化率ΔP/Δt、容器10の平均温度T、標準流量制御機器の設定流量Q(言い換えれば、標準流量計で測定される流量)を実測する。そして、これら実測値を前記数1に代入し、基準推定容積を算出する。
【0059】
次に、同様に、容器10内が第1状態から第2状態になるように、異種流体を容器10内へ流入したと仮定し、前記数6を用いて比較温度変化量を算出する。そして、比較温度変化量と、異種流体の熱拡散率と平方根と、の比を異種熱拡散値とする。
【0060】
また、容器10内が第1状態から第2状態になるように、実際に標準流量制御装置を用いて、異種流体を容器10内へ流入し、容器10内の圧力の変化率ΔP/Δt、容器10の平均温度T、標準流量制御機器MFCの設定流量Q(言い換えれば、標準流量計で測定される流量)を実測する。そして、これら実測値を前記数1に代入し、比較推定容積を算出する。
【0061】
そして、基準推定容積に対する比較推定容積のずれの割合を、基準熱拡散値に対する異種熱拡散値の比を指標(以下、熱拡散値ずれ量ともいう)として示したずれ量関係データを作成する。
【0062】
なお、例えば、図4に示すように、複数の流体に係る熱拡散値(基準熱拡散値又は異種熱拡散値)及び推定容積(基準推定容積又は比較推定容積)を取得し、前記ずれの割合と前記熱拡散指標との関係を示す関数をずれ量関係データとすればよい。この場合、複数の流体とは、基準流体と少なくとも一種の異種流体でもよく、複数種の異種流体であってもよい。なお、図4中、Aが、基準流体に対応する点であり、Bが、異種流体に対応する点であり、Xが、前記関数を示す線である。
【0063】
また、前記ずれの割合は、標準流量制御機器の設定流量が変わると、異なる関係を示すため、容器10へ流入させる流体の流量(すなわち、標準流量制御機器の設定流量)を変更してずれ量関係データを作成することが好ましい。
【0064】
因みに、出願人は、複数の実験により、次のことを確認している。すなわち、熱拡散値ずれ量は、流量差ずれ量と相関関係があること。基準推定容積に対する比較推定容積のずれの割合は、流量差ずれ量と相関関係があり、また、熱拡散値ずれ量と相関関係にあること。
【0065】
前記流量補正部C7は、流量算出部C5で算出された推定流量をずれ量関係データに基づき補正するものである。具体的には、基準流体の熱拡散率と、流量制御機器MFCの制御対象となる流体の熱拡散率と、に基づき熱拡散値ずれ量を算出する。そして、当該熱拡散値ずれ量に対応するずれの割合をずれ量関係データを参照して取得し、当該ずれの割合から算出した補正係数を流量算出部C5で算出した推定流量へ乗じて補正する。
【0066】
次に、前記流量算出システム100の動作を説明する。
【0067】
先ず、弁制御部C1は、流量算出開始信号を受け付けると、各開閉弁V1~V3に対し、排気モード、準備モード、流入モード、及び、停止モードへ切り替える切替信号を順次送信する。これにより、各開閉弁V1~V3は、順次各モードへ切り替わる(ステップS1、S2、S3、S5)。
【0068】
なお、圧力変化データ記憶部C2は、流入モードへ切り替わると、圧力変化データの記憶を開始する(ステップS4)。そして、圧力変化データ記憶部C2は、流入モードから停止モードへ切り替わると、圧力変化データの記憶を終了する(ステップS6)。すなわち、圧力変化データ記憶部C2は、流入期間に係る圧力変化データを記憶する。
【0069】
また、温度変化データ記憶部C3は、流入モードへ切り替わると、温度変化データの記憶を開始する(ステップ4)。そして、温度変化データ記憶部C3は、流入モードから停止モードへ切り替わると、温度変化データの記憶を終了する(ステップS6)。すなわち、温度変化データ記憶部C3は、流入期間に係る温度変化データを記憶する。
【0070】
次に、平均温度算出部C4は、温度変化データ記憶部C3に記憶された温度変化データに基づき流入期間中の容器10の平均温度を算出する(ステップS7)。
【0071】
次に、流量算出部C5は、圧力変化データ記憶部C2に記憶された圧力変化データに基づき流入期間中における圧力の変化率を算出する。そして、流量算出部C5は、圧力の変化率と平均温度とに基づき、流入期間中に流入ラインL1を流れていたと推定される流体の推定流量を算出する(ステップS8)。具体的には、流量算出部C5は、圧力の変化率及び平均温度を前記数1に代入し、流入期間中に流入ラインL1を流れていたと推定される流体の推定流量を算出する。
【0072】
次に、流量補正部C7が、ずれ量関係データを参照し、流量算出部C5で算出された推定流量を補正する(ステップS9)。具体的には、流量補正部C7は、基準流体の熱拡散率と、流量制御機器MFCの制御対象となる流体の熱拡散率とに基づき、熱拡散値ずれ量を算出する。そして、ずれ量関係データから算出した熱拡散値ずれ量に対応するずれの割合を取得し、当該ずれの割合から算出した補正係数を推定流量へ乗じて補正する。
【0073】
その後、表示制御部C8は、流量補正部C7で補正された補正後の推定流量を表示部に表示する(ステップS10)。
【0074】
<その他の実施形態> 前記実施形態に係る流量算出システム100においては、流入ラインL1から分岐する分岐ラインL3を、容器10を迂回するように流出ラインL2に接続している。しかし、図5に示すように、分岐ラインL3の下流側を流体の供給対象となるチャンバCHへ接続し、流量算出システム100を組み込んだ流体供給システムを構成してもよい。このような構成の流体供給ラインであれば、流入ラインL1を流れる流体を、流入期間以外はチャンバCHへ供給し続けることができる。これにより、推定流量を算出する場合に、チャンバCHへの供給停止時間を短くすることができる。
【0075】
また、前記実施形態においては、ずれ量関係データとして、基準熱拡散値と異種熱拡散値との比を熱拡散値ずれ量として使用しているが、基準熱拡散値に対する異種熱拡散値の差をずれ量として使用してもよい。
【0076】
また、前記実施形態においては、ずれ量関係データとして、複数の流体に係る熱拡散値(基準熱拡散値又は異種熱拡散値)及び推定容積(基準推定容積又は比較推定容積)を取得し、前記ずれ割合と前記熱拡散値ずれ量との関係を示す関数を利用しているが、テーブルデータを利用してもよい。
【0077】
また、前記実施形態に係る流量算出システム100において、流量算出装置Cを、当該流量算出装置Cが備える各機能に加えて、流量比較部としての機能を発揮する流量検査装置としてもよい。この場合、流量比較部は、流入期間中における流量制御装置MFCの設定流量と、流量補正部C7で算出された補正後の推定流量と、を比較するように構成すればよい。さらに、流量算出装置Cを、当該流量算出装置Cが備える各機能に加えて、流量比較部及び校正部としての機能を発揮する流量校正装置としてもよい。この場合、校正部は、流量比較部の比較結果に基づいて流量制御装置MFCを校正するように構成すればよい。なお、前記流量検査装置及び前記流量校正装置は、前記流量算出装置と同様に、CPU、メモリ、ADコンバータ、DCコンバータ、入力手段等を有したコンピュータであり、前記メモリに格納されたプログラムをCPUによって実行することによって前記各機構を発揮するものである。
【0078】
その他、本発明は前記各実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0079】
100 流量算出システム
10 容器
20 ポンプ
L1 流入ライン
L2 流出ライン
L3 分岐ライン
V1 第1開閉弁
V2 第2開閉弁
V3 第3開閉弁
P 圧力センサ
T 温度センサ
C 流量算出装置
C1 弁制御部
C2 圧力変化データ記憶部
C3 温度変化データ記憶部
C4 平均温度算出部
C5 流量算出部
C6 ずれ量関係データ記憶部
C7 流量補正部
C8 表示制御部
MFC 流量制御機器

図1
図2
図3
図4
図5