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特許7273912シリコン基板の研磨方法および研磨用組成物セット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】シリコン基板の研磨方法および研磨用組成物セット
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230508BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20230508BHJP
【FI】
H01L21/304 621D
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021142978
(22)【出願日】2021-09-02
(62)【分割の表示】P 2018503007の分割
【原出願日】2017-02-13
(65)【公開番号】P2021192449
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2016039066
(32)【優先日】2016-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】高見 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 雄介
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/019706(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/129408(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/002525(WO,A1)
【文献】特開2015-185672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を研磨する方法であって、
研磨対象のシリコン基板に対し、予備ポリシングを行うことと、該予備ポリシングを経たシリコン基板の仕上げポリシングを行うこととを含み、
前記仕上げポリシングでは前記シリコン基板の片面のみを研磨し、該仕上げポリシングは、第1研磨スラリーSおよび第2研磨スラリーSを、この順に、前記シリコン基板の片面のみを研磨する途中で切り替えて供給することを含み、
前記第1研磨スラリーSは、砥粒Aおよび水溶性高分子Pを含有し、
前記水溶性高分子P は、ビニルアルコール系ポリマー鎖およびN-ビニル系ポリマー鎖を同一分子内に有する共重合体であり、
前記第2研磨スラリーSは、砥粒Aおよび水溶性高分子Pを含有し、
前記第2研磨スラリーSにおける前記砥粒Aの含有量は0.5重量%以下であり、
前記第1研磨スラリーSの研磨能率は、前記第2研磨スラリーSの研磨能率よりも高く、かつ
前記第2研磨スラリーSにおける前記水溶性高分子Pの濃度は、前記第1研磨スラリーSにおける前記水溶性高分子Pの濃度よりも高い、研磨方法。
【請求項2】
前記仕上げポリシングにおいて、前記第1研磨スラリーSで研磨する第1段階と前記第2研磨スラリーSで研磨する第2段階とは、同一定盤上で、該同一定盤上に前記第1研磨スラリーSと前記第2研磨スラリーSとを途中で切り替えて供給することにより行われる。請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子Pの重量平均分子量は30×10以下である、請求項1または2に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記第1研磨スラリーSは、前記水溶性高分子Pを0.001重量%以上0.005重量%以下の濃度で含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記砥粒AのBET径は前記砥粒AのBET径の-5nm以上+5nm以下であり、かつ、前記第2研磨スラリーSにおける前記砥粒Aの含有量は前記第1研磨スラリーSにおける前記砥粒Aの含有量の80%以上110%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項6】
前記第1研磨スラリーSは、塩基性化合物Bとしてアルカリ金属水酸化物を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項7】
前記砥粒AのBET径は60nm未満である、請求項1から6のいずれか一項に記載のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項8】
前記水溶性高分子P はヒドロキシエチルセルロースである、請求項1から7のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項9】
抵抗率が1Ω・cm以上のシリコン基板と、抵抗率が0.005Ω・cm未満のシリコン基板とに共通して適用される、請求項1から8のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の研磨方法に用いられる研磨用組成物であって、
前記第1研磨スラリーSまたはその濃縮液である、研磨用組成物。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の研磨方法に用いられる研磨用組成物であって、
前記第2研磨スラリーSまたはその濃縮液である、研磨用組成物。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載の研磨方法に用いられる研磨用組成物セットであって、
前記第1研磨スラリーSまたはその濃縮液である第1組成物Qと、
前記第2研磨スラリーSまたはその濃縮液である第2組成物Q
を含み、
前記第1組成物Qと前記第2組成物Qとは互いに分けて保管されている、研磨用組成物セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板を研磨するための研磨方法および該研磨方法に用いられる研磨用組成物セットに関する。本出願は、2016年3月1日に出願された日本国特許出願2016-39066号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の製造等に用いられるシリコン基板の表面は、一般に、ラッピング工程(粗研磨工程)とポリシング工程(精密研磨工程)とを経て高品位の鏡面に仕上げられる。上記ポリシング工程は、典型的には、予備ポリシング工程(予備研磨工程)と仕上げポリシング工程(仕上げ研磨工程)とを含む。シリコンウェーハの研磨に関する技術文献として特許文献1~3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2010/013390号
【文献】日本国特許出願公開第2014-103398号公報
【文献】日本国特許出願公開第2006-324417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、低抵抗率のシリコンウェーハの需要が増している。低抵抗率のシリコンウェーハは、例えば上述のようなラッピングやポリシングを経て鏡面に仕上げられた後、その表面にシリコンエピタキシャル層を成長させて、パワー半導体デバイス製造用の基板等として用いられる。上記低抵抗率シリコンウェーハには、一般に、ドーパントが高濃度にドープされている。ドーパントとしては、p型のシリコンウェーハではホウ素、n型のシリコンウェーハではリン、砒素等が用いられる。
【0005】
このような低抵抗率シリコンウェーハは、通常のシリコンウェーハに比べて、より研磨されにくい性質を有することが知られている。ここで、通常のシリコンウェーハとは、一般に、抵抗率1Ω・cm以上100Ω未満程度、典型的には抵抗率10Ω・cm程度のシリコンウェーハをいう。また、低抵抗率シリコンウェーハのなかでも研磨されやすさの程度は異なり、より抵抗率の低い(ドーパント濃度の高い)シリコンウェーハはより研磨されにくい傾向にある。
このように異なる抵抗率を有する複数種類のシリコンウェーハのポリシングは、各種類のシリコンウェーハを所望の表面品位に効率よく仕上げるために、互いに異なる研磨プロセスを適用しているのが現状である。例えば、使用する研磨スラリー、研磨装置、研磨条件(例えば研磨時間)等の少なくとも一部を異ならせて行われている。
【0006】
そこで本発明は、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板に共通して適用し得る研磨方法を提供することを目的とする。関連する他の目的は、かかる研磨方法に好ましく用いられ得る研磨用組成物セットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書により提供される研磨方法は、研磨対象のシリコン基板に対し、第1研磨スラリーSおよび第2研磨スラリーSを、この順に、上記シリコン基板の研磨途中で切り替えて供給することを含む。ここで、上記第1研磨スラリーSは、砥粒Aおよび水溶性高分子Pを含有する。上記第1研磨スラリーSとしては、その研磨能率が上記第2研磨スラリーSの研磨能率よりも高いものが用いられる。
【0008】
かかる研磨方法によると、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板の表面粗さをそれぞれ的確に低減することができる。したがって、上記研磨方法を適用することにより、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板を効率よく製造することができる。上記研磨方法は、上記複数種類のシリコン基板の製造における研磨設備の簡略化や研磨装置の高稼働率化にも役立ち得る。
【0009】
ここに開示される研磨方法の好ましい一態様において、上記第1研磨スラリーSは、上記水溶性高分子Pを0.001重量%以上の濃度で含む。かかる態様によると、高抵抗率(例えば、抵抗率1Ω・cm以上)のシリコン基板を、低抵抗率(例えば、抵抗率0.005Ω・cm未満)のシリコン基板と同じ研磨プロセスで研磨しても、上記高抵抗率のシリコン基板の表面粗さを好適に低減し得る。
【0010】
ここに開示される技術の一態様において、上記水溶性高分子Pは、ビニルアルコール系ポリマー鎖を含むことが好ましい。このような態様において、本発明の適用効果が好適に発揮され得る。
【0011】
ここに開示される技術の他の一態様において、上記水溶性高分子Pは、N-ビニル系ポリマー鎖を含むことが好ましい。このような水溶性高分子Pを含む第1研磨スラリーSによると、高抵抗率のシリコン基板を低抵抗率のシリコン基板と同じ研磨プロセスで研磨しても、上記高抵抗率のシリコン基板の表面粗さを好適に低減し得る。また、上記高抵抗率のシリコン基板の表面粗さを好適に低減し得る研磨プロセスを低抵抗率のシリコン基板に適用しても、該低抵抗率のシリコン基板を効率よく研磨することができる。
【0012】
ここに開示される研磨方法の好ましい一態様において、上記第1研磨スラリーSは、塩基性化合物Bとしてアルカリ金属水酸化物を含む。かかる態様によると、高抵抗のシリコン基板を低抵抗のシリコン基板と同じ研磨プロセスで研磨しても、上記高抵抗のシリコン基板の表面粗さを好適に低減し得る。また、上記高抵抗率のシリコン基板の表面粗さを好適に低減し得る研磨プロセスを低抵抗率のシリコン基板に適用しても、該低抵抗率のシリコン基板を効率よく研磨することができる。
【0013】
ここに開示される研磨方法における上記第2研磨スラリーSとしては、砥粒Aおよび水溶性高分子Pを含有するものが好ましく用いられる。上記第2研磨スラリーSにおける上記水溶性高分子Pの濃度は、上記第1研磨スラリーSにおける上記水溶性高分子Pの濃度よりも高いことが好ましい。このような第2スラリーSを用いることにより、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板について、高品位の表面を効率よく実現することができる。
【0014】
上記第2研磨スラリーSが砥粒Aを含有する態様において、該砥粒Aの含有量は、0.5重量%以下とすることが好ましい。このような第2スラリーSによると、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板について、より高品位の表面を効率よく実現することができる。
【0015】
ここに開示される研磨方法の好ましい一態様において、上記第1研磨スラリーSに含まれる上記砥粒AのBET径は60nm未満である。かかる態様によると、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板について、より高品位の表面を効率よく実現することができる。上記第2研磨スラリーSに含まれる上記砥粒AのBET径もまた60nm未満であることが好ましい。
【0016】
ここに開示される研磨方法は、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板の表面粗さをそれぞれ的確に低減し得ることから、例えば、抵抗率が100倍以上異なる複数種類のシリコン基板の研磨に共通して適用することができる。好ましい一態様において、上記複数種類のシリコン基板には、抵抗率が1Ω・cm以上のシリコン基板と、抵抗率が0.005Ω・cm未満のシリコン基板とが含まれ得る。ここに開示される研磨方法は、これらのシリコン基板の研磨(例えば仕上げ研磨)に好ましく適用され得る。
【0017】
この明細書によると、また、ここに開示されるいずれかの研磨方法に用いられる研磨用組成物セットが提供される。その研磨用組成物セットは、上記第1研磨スラリーSまたはその濃縮液である第1組成物Qと、上記第2研磨スラリーSまたはその濃縮液である第2組成物Qとを含む。ここで、上記第1組成物Qと上記第2組成物Qとは、互いに分けて保管されている。ここに開示される研磨方法は、このような構成の研磨用組成物セットを用いて好適に実施することができる。
この明細書により開示される事項には、ここに開示されるいずれかの研磨方法に用いられる研磨用組成物であって、上記第1研磨スラリーSまたはその濃縮液である研磨用組成物が含まれる。上記研磨用組成物は、例えば、ここに開示される研磨用組成物セットを構成する上記第1組成物Qとして好ましく用いられ得る。
この明細書により開示される事項には、ここに開示されるいずれかの研磨方法に用いられる研磨用組成物であって、上記第2研磨スラリーSまたはその濃縮液である研磨用組成物が含まれる。上記研磨用組成物は、例えば、ここに開示される研磨用組成物セットを構成する上記第2組成物Qとして好ましく用いられ得る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
ここに開示される技術は、シリコン基板を研磨対象物とする研磨に適用される。特に、シリコンウェーハを研磨対象物とする研磨に好適である。ここでいうシリコンウェーハの典型例はシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。ここに開示される技術における研磨対象面は、典型的には、シリコンからなる表面である。
ここに開示される研磨方法は、シリコン基板のポリシング工程に好ましく適用することができる。上記シリコン基板には、ここに開示される研磨工程(ポリシング工程)の前に、ラッピングやエッチング等の、ポリシング工程より上流の工程においてシリコン基板に適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
【0020】
なお、以下の説明において、いずれの研磨段階に用いられる研磨スラリーであるかを問わず、例えば、第1研磨スラリーSであるか第2研磨スラリーSであるかを問わず、ここに開示される研磨方法において使用される研磨スラリー一般を指す用語として「研磨スラリー」の語を用いることがある。
【0021】
ここに開示される研磨方法は、研磨対象のシリコン基板に対し、第1研磨スラリーSおよび第2研磨スラリーSを、この順に、上記シリコン基板の研磨途中で切り替えて供給する研磨工程を含む。この研磨工程は、典型的には同一定盤上で、研磨対象物を第1研磨スラリーSで研磨する第1段階(第1研磨段階)と、該研磨対象物を第2研磨スラリーSで研磨する第2段階(第2研磨段階)とをこの順に実施する態様で行われる。すなわち、第1段階と第2段階とは、途中で研磨対象物を別の研磨装置または別の定盤に移動させることなく行われる。第1段階および第2段階は、同一の研磨対象物に対して、段階を追って(すなわち、逐次的に)行われる。ただし、各研磨段階において複数の研磨対象物を同時にまたは並行して研磨すること、すなわちバッチ式の研磨を行うことは妨げられない。
【0022】
<第1研磨スラリーS
第1研磨スラリーSは、砥粒Aおよび水溶性高分子Pを含み、典型的にはさらに水を含む。
【0023】
(砥粒A
砥粒は、シリコン基板の表面を物理的に研磨する働きをする。ここに開示される技術における第1研磨スラリーSは、砥粒Aを含有する。砥粒Aの材質や性状は特に制限されず、使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒Aの例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。なかでも無機粒子が好ましい。砥粒Aは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
上記砥粒Aとしては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。ここに開示される技術は、第1研磨スラリーSに含まれる砥粒Aが実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒Aを構成する粒子の95重量%以上(好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、100重量%であってもよい。)がシリカ粒子であることをいう。
【0025】
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。研磨対象物表面にスクラッチを生じにくく、かつ良好な研磨性能を発揮し得ることから、コロイダルシリカが特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカを好ましく採用することができる。ここで、アルコキシド法コロイダルシリカとは、アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカである。コロイダルシリカは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大により、研磨能率は高くなる傾向にある。かかる観点から、真比重が2.0以上、例えば2.1以上のシリカ粒子が特に好ましい。シリカの真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下、例えば2.2以下である。シリカの真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0027】
第1研磨スラリーSに含まれる砥粒(典型的にはシリカ粒子)AのBET径は特に限定されない。研磨効率等の観点から、上記BET径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、特に好ましくは20nm以上、例えば25nm以上である。より高い研磨効果を得る観点から、BET径が30nmを超える砥粒Aを好ましく用いることができる。例えば、BET径が32nm以上の砥粒Aを好ましく用いることができる。また、スクラッチ防止等の観点から、砥粒AのBET径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは70nm以下、例えば60nm以下である。ここに開示される技術は、砥粒AのBET径が、好ましくは60nm未満、より好ましくは55nm以下、さらに好ましくは45nm以下、例えば40nm以下である態様で実施することができる。このような砥粒Aを含む第1研磨スラリーSを用いて研磨(典型的には仕上げ研磨)を行うことにより、抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板について、高品位な表面を効率よく得ることができる。
なお、本明細書においてBET径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm)×BET値(m/g))の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、BET径(nm)=2727/BET値(m/g)によりBET径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0028】
砥粒Aの形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。例えば、粒子の多くがピーナッツ形状をした砥粒Aを好ましく採用し得る。
【0029】
特に限定するものではないが、砥粒Aの長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、原理的に1.0以上であり、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨能率が実現され得る。また、砥粒Aの平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0030】
砥粒Aの形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)のシリカ粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0031】
第1研磨スラリーSにおける砥粒Aの含有量は、特に制限されない。一態様において、上記含有量は、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、例えば0.2重量%以上である。砥粒Aの含有量の増大によって、より高い研磨能率が実現され得る。また、研磨対象物からの除去性等の観点から、上記含有量は、通常、10重量%以下が適当であり、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下、例えば2重量%以下である。
【0032】
(水)
第1研磨スラリーSは、典型的には水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、第1研磨スラリーSに含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
【0033】
(水溶性高分子P
第1研磨スラリーSは、水溶性高分子Pを含有する。上記水溶性高分子Pとしては、分子中に、カチオン性基、アニオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリマーを、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。より具体的には、例えば、分子中に水酸基、カルボキシ基、アシルオキシ基、スルホ基、第1級アミド構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造等を有するポリマーから選択される1種または2種以上のポリマーを水溶性高分子Pとして使用し得る。凝集物の低減や洗浄性向上等の観点から、水溶性高分子Pとしては、ノニオン性のポリマーを好ましく採用し得る。
水溶性高分子Pとして使用し得るポリマーの非限定的な例には、ビニルアルコール系ポリマー(例えば、ポリビニルアルコール)、セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシエチルセルロース)、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー等が含まれる。窒素原子を含有するポリマーの非限定的な例には、N-ビニルラクタムやN-ビニル鎖状アミド等のようなN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー;イミン誘導体;N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー;等が含まれる。
【0034】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、水溶性高分子Pは、少なくともビニルアルコール系ポリマー鎖を含む。このような第1研磨スラリーSを用いて第1段階の研磨を行うことにより、抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板の表面粗さを効率よく低下させることができる。
【0035】
ここで、本明細書において「ビニルアルコール系ポリマー鎖」とは、ビニルアルコール単位(以下「VA単位」ともいう。)を主繰返し単位とするポリマー鎖をいう。また、本明細書において主繰返し単位とは、特記しない場合、50重量%以上を超えて含まれる繰返し単位をいう。上記VA単位とは、ビニルアルコール(CH=CH-OH)のビニル基が重合して生じる構造に相当する構造部分をいう。上記VA単位は、具体的には、化学式「-CH-CH(OH)-」により表される構造部分である。VA単位は、例えば、酢酸ビニルがビニル重合した構造の繰返し単位(-CH-CH(OCOCH)-)を加水分解(けん化ともいう。)することにより生成し得る。以下、ビニルアルコール系ポリマー鎖を「ポリマー鎖A」ともいう。
なお、本明細書において「ポリマー鎖」とは、一分子のポリマー全体を構成するポリマー鎖と、一分子のポリマーの一部を構成するポリマー鎖とを包含する概念である。
【0036】
ポリマー鎖Aは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えてVA単位以外の繰返し単位(以下「非VA単位」ともいう。)を含んでいてもよい。ポリマー鎖Aが非VA単位を含む態様において、該非VA単位は、例えば、エチレンオキサイド基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する繰返し単位であり得る。ポリマー鎖Aは、1種類の非VA単位のみを含んでもよく、2種類以上の非VA単位を含んでもよい。
【0037】
ポリマー鎖Aに含まれ得る非VA単位の好適例として、モノカルボン酸ビニルエステル単位、すなわちモノカルボン酸ビニルエステルに由来する繰返し単位が挙げられる。上記モノカルボン酸ビニルエステル単位の好ましい具体例として、酢酸ビニル単位、プロピオン酸ビニル単位、ヘキサン酸ビニル単位等が挙げられる。
【0038】
ポリマー鎖Aを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、典型的には50%以上であり、通常は65%以上が適当であり、好ましくは75%以上、例えば80%以上である。好ましい一態様において、ポリマー鎖Aを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、90%以上(より好ましくは95%以上、例えば98%以上)であり得る。ポリマー鎖Aを構成する繰返し単位の実質的に100%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100%」とは、少なくとも意図的にはポリマー鎖Aに非VA単位を含有させないことをいう。
【0039】
ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量(重量基準の含有量)は、典型的には50重量%超であり、好ましくは70重量%以上である。以下、VA単位の含有量が70重量%以上であるポリマー鎖Aを「PVA鎖」ということがある。好ましい一態様において、ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、例えば98重量%以上であり得る。ポリマー鎖Aを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100重量%」とは、少なくとも意図的にはポリマー鎖Aを構成する繰返し単位として非VA単位を含有させないことをいう。
【0040】
水溶性高分子Pは、ポリマー鎖Aに代えて、あるいはポリマー鎖Aに加えて、ポリマー鎖Aに該当しないポリマー鎖を含んでいてもよい。ここで、ポリマー鎖Aに該当しないポリマー鎖とは、非VA単位を主繰返し単位とするポリマー鎖をいう。以下、非VA単位を主繰返し単位とするポリマー鎖を「ポリマー鎖B」ともいう。
【0041】
ポリマー鎖Bを構成する非VA単位は、例えば、エチレンオキサイド基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する繰返し単位であり得る。ポリマー鎖Bの一好適例として、後述するN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー鎖が挙げられる。なかでも、N-ビニル型のモノマー単位を主繰返し単位とするポリマー鎖が好ましい。以下、N-ビニル型のモノマー単位を主繰返し単位とするポリマー鎖を「N-ビニル系ポリマー鎖」ともいう。
【0042】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、水溶性高分子Pは、ポリマー鎖Aを有する水溶性高分子Pと、ポリマー鎖Bを有する水溶性高分子Pとを組み合わせて含み得る。すなわち、第1研磨スラリーSに含まれる水溶性高分子Pは、水溶性高分子Pと水溶性高分子Pとの混合物であり得る。
【0043】
上記水溶性高分子Pの非限定的な例には、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー等が含まれる。窒素原子を含有するポリマーの非限定的な例には、N-ビニルラクタムやN-ビニル鎖状アミド等のようなN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー;イミン誘導体;N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー;等が含まれる。
【0044】
セルロース誘導体(以下「ポリマーPBA」ともいう。)は、主繰返し単位としてβ-グルコース単位を含むポリマーである。セルロース誘導体の具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。なかでもヒドロキシエチルセルロース(HEC)が好ましい。
【0045】
デンプン誘導体(以下「ポリマーPBB」ともいう。)は、主繰返し単位としてα-グルコース単位を含むポリマーである。デンプン誘導体の具体例としては、アルファ化デンプン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、シクロデキストリン等が挙げられる。なかでもプルランが好ましい。
【0046】
オキシアルキレン単位を含むポリマー(以下「ポリマーPBC」ともいう。)としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)や、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)またはブチレンオキサイド(BO)とのブロック共重合体、EOとPOまたはBOとのランダム共重合体等が例示される。そのなかでも、EOとPOのブロック共重合体またはEOとPOのランダム共重合体が好ましい。EOとPOとのブロック共重合体は、PEOブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック共重合体、トリブロック共重合体等であり得る。上記トリブロック共重合体の例には、PEO-PPO-PEO型トリブロック共重合体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック共重合体が含まれる。通常は、PEO-PPO-PEO型トリブロック共重合体がより好ましい。
【0047】
なお、本明細書中において共重合体とは、特記しない場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の各種の共重合体を包括的に指す意味である。
【0048】
N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー(以下「ポリマーPBD」ともいう。)の例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーが含まれる。このようなポリマーPBDの例には、N-ビニルラクタム型モノマーの単独重合体および共重合体(例えば、N-ビニルラクタム型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)、N-ビニル鎖状アミドの単独重合体および共重合体(例えば、N-ビニル鎖状アミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)等が含まれる。
N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン(VP)、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム(VC)、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニルラクタム型のモノマー単位を含むポリマーの具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、VPとVCとのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方と他のビニルモノマー(例えば、アクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマー等)とのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方を含むポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体(例えば、ポリビニルアルコールにポリビニルピロリドンがグラフトしたグラフト共重合体)等が挙げられる。
N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。
【0049】
イミン誘導体(以下「ポリマーPBE」ともいう。)としては、N-アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの具体例としては、N-アセチルエチレンイミン、N-プロピオニルエチレンイミン、N-カプロイルエチレンイミン、N-ベンゾイルエチレンイミン、N-アセチルプロピレンイミン、N-ブチリルエチレンイミン等が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体としては、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)等を用いることができる。具体例としては、ポリ(N-アセチルエチレンイミン)、ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)、ポリ(N-カプロイルエチレンイミン)、ポリ(N-ベンゾイルエチレンイミン)、ポリ(N-アセチルプロピレンイミン)、ポリ(N-ブチリルエチレンイミン)等が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの共重合体の例には、2種以上のN-アシルアルキレンイミン型モノマーの共重合体や、1種または2種以上のN-アシルアルキレンイミン型モノマーと他のモノマーとの共重合体が含まれる。
【0050】
N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー(以下「ポリマーPBF」ともいう。)の例には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体(典型的には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が含まれる。N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。
【0051】
N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、アクリルアミド;N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、N-イソブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-ヘプチルアクリルアミド、N-オクチルアクリルアミド、N-tert-オクチルアクリルアミド、N-ドデシルアクリルアミド、N-オクタデシルアクリルアミド等のN-モノアルキルアクリルアミド;N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(1-エチル-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-クロロエチル)アクリルアミド、N-(2,2,2-トリクロロ-1-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド、N-[3-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノプロピル]アクリルアミド、N-(1,1-ジメチル-2-ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N-(2-メチル-2-フェニル-3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド、N-(2,2-ジメチル-3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド、N-(2-モルホリノエチル)アクリルアミド、N-(2-アミノ-1,2-ジシアノエチル)アクリルアミド等の置換N-モノアルキルアクリルアミド;N-アリルアクリルアミド等のN-モノアルケニルアクリルアミド;N-(1,1-ジメチルプロピニル)アクリルアミド等のN-モノアルキニルアクリルアミド;N-フェニルアクリルアミド、N-ベンジルアクリルアミド、N-[4-(フェニルアミノ)フェニル]アクリルアミド等の芳香族基含有アクリルアミド;N-メチロールアクリルアミド、N-エチロールアクリルアミド、N-プロピロールアクリルアミド等のN-モノアルキロールアクリルアミド;N-メトキシメチルアクリルアミド、N-エトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-イソブトキシメチルアクリルアミド等のN-アルコキシアルキルアクリルアミド;N-メトキシアクリルアミド、N-エトキシアクリルアミド、N-プロポキシアクリルアミド、N-ブトキシアクリルアミド等のN-アルコキシアクリルアミド;N-アセチルアクリルアミド;N-ジアセトンアクリルアミド;メタクリルアミド;N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-ブチルメタクリルアミド、N-イソブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド、N-ヘプチルメタクリルアミド、N-オクチルメタクリルアミド、N-tert-オクチルメタクリルアミド、N-ドデシルメタクリルアミド、N-オクタデシルメタクリルアミド等のN-モノアルキルメタクリルアミド;N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N-(1-エチル-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N-(2-クロロエチル)メタクリルアミド、N-(2,2,2-トリクロロ-1-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N-(2-ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、N-[3-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノプロピル]メタクリルアミド、N-(1,1-ジメチル-2-ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド、N-(2-メチル-2-フェニル-3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、N-(2,2-ジメチル-3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、N-(2-モルホリノエチル)メタクリルアミド、N-(2-アミノ-1,2-ジシアノエチル)メタクリルアミド等の置換N-モノアルキルメタクリルアミド;N-アリルメタクリルアミド等のN-モノアルケニルメタクリルアミド;N-(1,1-ジメチルプロピニル)メタクリルアミド等のN-モノアルキニルメタクリルアミド;N-フェニルメタクリルアミド、N-ベンジルメタクリルアミド、N-[4-(フェニルアミノ)フェニル]メタクリルアミド等の芳香族基含有メタクリルアミド;N-メチロールメタクリルアミド、N-エチロールメタクリルアミド、N-プロピロールメタクリルアミド等のN-モノアルキロールメタクリルアミド;N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-エトキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシメチルメタクリルアミド、N-イソブトキシメチルメタクリルアミド等のN-アルコキシアルキルメタクリルアミド;N-メトキシメタクリルアミド、N-エトキシメタクリルアミド、N-プロポキシメタクリルアミド、N-ブトキシメタクリルアミド等のN-アルコキシメタクリルアミド;N-アセチルメタクリルアミド;N-ジアセトンメタクリルアミド;N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジプロピルアクリルアミド、N,N-ジイソプロピルアクリルアミド、N,N-ジブチルアクリルアミド、N,N-ジイソブチルアクリルアミド、N,N-ジ-tert-ブチルアクリルアミド、N,N-ジヘプチルアクリルアミド、N,N-ジオクチルアクリルアミド、N,N-ジ-tert-オクチルアクリルアミド、N,N-ジドデシルアクリルアミド、N,N-ジオクタデシルアクリルアミド等のN,N-ジアルキルアクリルアミド;N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド;N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N,N-ビス(2-シアノエチル)アクリルアミド等の置換N,N-ジアルキルアクリルアミド;N,N-ジアリルアクリルアミド等のN,N-ジアルケニルアクリルアミド;N,N-ジフェニルアクリルアミド、N,N-ジベンジルアクリルアミド等の芳香族基含有アクリルアミド;N,N-ジメチロールアクリルアミド、N,N-ジエチロールアクリルアミド、N,N-ジプロピロールアクリルアミド等のN,N-ジアルキロールアクリルアミド;N-メチル-N-メトキシアクリルアミド、N-メチル-N-エトキシアクリルアミド、N-メチル-N-プロポキシアクリルアミド、N-メチル-N-ブトキシアクリルアミド、N-エチル-N-メトキシアクリルアミド、N-エチル-N-エトキシアクリルアミド、N-エチル-N-ブトキシアクリルアミド、N-プロピル-N-メトキシアクリルアミド、N-プロピル-N-エトキシアクリルアミド、N-ブチル-N-メトキシアクリルアミド、N-ブチル-N-エトキシアクリルアミド等のN-アルコキシ-N-アルキルアクリルアミド;N,N-ジアセチルアクリルアミド;N,N-ジアセトンアクリルアミド;N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N-ジプロピルメタクリルアミド、N,N-ジイソプロピルメタクリルアミド、N,N-ジブチルメタクリルアミド、N,N-ジイソブチルメタクリルアミド、N,N-ジ-tert-ブチルメタクリルアミド、N,N-ジヘプチルメタクリルアミド、N,N-ジオクチルメタクリルアミド、N,N-ジ-tert-オクチルメタクリルアミド、N,N-ジドデシルメタクリルアミド、N,N-ジオクタデシルメタクリルアミド等のN,N-ジアルキルメタクリルアミド;N,N-ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルメタクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド;N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N,N-ビス(2-シアノエチル)メタクリルアミド等の置換N,N-ジアルキルメタクリルアミド;N,N-ジアリルメタクリルアミド等のN-ジアルケニルメタクリルアミド;N,N-ジフェニルメタクリルアミド、N,N-ジベンジルメタクリルアミド等の芳香族基含有メタクリルアミド;N,N-ジメチロールメタクリルアミド、N,N-ジエチロールメタクリルアミド、N,N-ジプロピロールメタクリルアミド等のN,N-ジアルキロールメタクリルアミド;N-メチル-N-メトキシメタクリルアミド、N-メチル-N-エトキシメタクリルアミド、N-メチル-N-プロポキシメタクリルアミド、N-メチル-N-ブトキシメタクリルアミド、N-エチル-N-メトキシメタクリルアミド、N-エチル-N-エトキシメタクリルアミド、N-エチル-N-ブトキシメタクリルアミド、N-プロピル-N-メトキシメタクリルアミド、N-プロピル-N-エトキシメタクリルアミド、N-ブチル-N-メトキシメタクリルアミド、N-ブチル-N-エトキシメタクリルアミド等のN-アルコキシ-N-アルキルメタクリルアミド;N,N-ジアセチルメタクリルアミド;N,N-ジアセトンメタクリルアミド;等が挙げられる。
N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-イソプロピルアクリルアミドの単独重合体およびN-イソプロピルアクリルアミドの共重合体(例えば、N-イソプロピルアクリルアミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。
【0052】
N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-アクリロイルモルホリン、N-アクリロイルチオモルホリン、N-アクリロイルピペリジン、N-アクリロイルピロリジン、N-メタクリロイルモルホリン、N-メタクリロイルピペリジン、N-メタクリロイルピロリジン等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、アクリロイルモルホリン系ポリマー(PACMO)が挙げられる。アクリロイルモルホリン系ポリマーの典型例として、N-アクリロイルモルホリン(ACMO)の単独重合体およびACMOの共重合体(例えば、ACMOの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。アクリロイルモルホリン系ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるACMO単位のモル数の割合は、通常は50%以上であり、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることが適当である。水溶性高分子の全繰返し単位が実質的にACMO単位から構成されていてもよい。
【0053】
一態様において、水溶性高分子Pとして、ポリマーPBD(すなわち、N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー)を好ましく採用することができる。例えば、VPやVC等のN-ビニルラクタム型モノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマーPBDを好ましく使用し得る。なかでも好ましいポリマーPBDとして、ビニルピロリドン系ポリマー(PVP)が挙げられる。ここでビニルピロリドン系ポリマーとは、VPの単独重合体およびVPの共重合体をいう。ビニルピロリドン系ポリマーにおけるVP単位(すなわち、ビニルピロリドンに由来する繰返し単位)の含有量は、典型的には50重量%超であり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、例えば95重量%以上である。ビニルピロリドン系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVP単位であってもよい。
【0054】
水溶性高分子Pが水溶性高分子Pと水溶性高分子Pとを組み合わせて含む態様において、水溶性高分子P全体に占める水溶性高分子Pの割合は、例えば5重量%以上とすることができ、通常は10重量%以上とすることが適当であり、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、例えば40重量%以上である。上記水溶性高分子Pの割合は、通常、95重量%以下とすることが適当であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下、例えば60重量%以下である。ここに開示される技術は、水溶性高分子P全体に占める水溶性高分子Pの割合が10重量%以上90重量%以下(より好ましくは20重量%以上80重量%以下、例えば30重量%以上70重量%以下)である態様で好ましく実施され得る。かかる態様において、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板の表面粗さを的確に低減する効果が好適に発揮され得る。
【0055】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、水溶性高分子Pは、水溶性高分子Pとして、ポリマー鎖Aおよびポリマー鎖Bを同一分子内に有する共重合体を含み得る。以下、このような水溶性高分子Pを「ポリマーP-P」ともいう。
【0056】
ポリマーP-Pの一好適例として、ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bとからなるブロック共重合体が挙げられる。
【0057】
ポリマーP-Pの他の一好適例として、ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bを有するグラフト共重合体が挙げられる。上記グラフト共重合体は、ポリマー鎖A(主鎖)にポリマー鎖B(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよく、ポリマー鎖B(主鎖)にポリマー鎖A(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよい。ポリマー鎖A(主鎖)にポリマー鎖B(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体によると、より高い効果が発揮される傾向にある。
【0058】
ポリマーP-Pを構成するポリマー鎖Bの好適例として、上述したN-ビニル型のモノマー単位に由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖や、N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位に由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖が挙げられる。なかでも、N-ビニル型のモノマー単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわちN-ビニル系ポリマー鎖が好ましい。上記N-ビニル系ポリマー鎖は、窒素を含有する複素環を有するモノマー(典型的にはN-ビニルラクタム型モノマー)の共重合割合が50重量%を超えるポリマー鎖であり得る。例えば、N-ビニルピロリドン(VP)、N-ビニルピペリドンおよびN-ビニルカプロラクタム(VC)から選択されるN-ビニルラクタム型モノマーに由来する繰返し単位の含有量が50重量%を超えるポリマー鎖Bが好ましい。例えば、VP単位の含有量が50重量%超、好ましくは70重量%以上であるポリマー鎖Bが好ましい。以下、VP単位の含有量が70重量%以上であるポリマー鎖Bを「PVP鎖」ということがある。
【0059】
ここに開示される技術の一態様において、水溶性高分子Pとしては、ポリマー鎖BとしてPVP鎖を有するポリマーP-P、すなわちP-PVPを好ましく使用し得る。P-PVPを構成するPVP鎖におけるVP単位の含有量は、好ましくは90重量%以上、例えば95重量%以上であり、実質的に100重量%であってもよい。
上記P-PVPの一好適例として、ポリマー鎖AがPVA鎖であるP-PVP、すなわちPVA-PVPが挙げられる。PVA-PVPを構成するPVA鎖におけるVA単位の含有量は、好ましくは90重量%以上、例えば95重量%以上であり、実質的に100重量%であってもよい。
PVA-PVPとしては、PVAを主鎖とし、側鎖としてPVPがグラフトした構造のグラフト共重合体、すなわちPVA主鎖-PVPグラフト共重合体が特に好ましい。
【0060】
水溶性高分子Pの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。水溶性高分子PのMwは、通常、0.2×10以上であることが適当であり、好ましくは0.4×10以上、より好ましくは1×10以上、さらに好ましくは1.5×10以上である。水溶性高分子PのMwの増大につれて、研磨後の表面の平滑性が高まる傾向にある。水溶性高分子PのMwは、通常、200×10以下であることが適当であり、好ましくは150×10以下、より好ましくは100×10以下、さらに好ましくは50×10以下である。水溶性高分子PのMwの減少につれて、第1研磨スラリーSから第2研磨スラリーSへの切り替えがより円滑に進行しやすくなる傾向にある。水溶性高分子PのMwは、30×10以下であってもよく、20×10以下であってもよく、例えば10×10以下であってもよい。
【0061】
水溶性高分子Pがポリマー鎖Aとポリマー鎖Bとを含むブロック共重合体である場合、該ブロック共重合体を構成する各ポリマー鎖のMw(すなわち、ポリマー鎖Aおよびポリマー鎖Bの各々のMw)は、特に限定されない。一態様において、上記各ポリマー鎖のMwは、0.1×10以上であることが好ましく、より好ましくは1×10以上、さらに好ましくは1.5×10以上、例えば2×10以上である。また、上記各ポリマー鎖のMwは、100×10以下であることが好ましく、より好ましくは50×10以下、さらに好ましくは30×10以下である。
【0062】
水溶性高分子Pがポリマー鎖Aとポリマー鎖Bとを含むグラフト共重合体である場合、該グラフト共重合体を構成する各ポリマー鎖のMwは特に限定されない。
一態様において、上記グラフト共重合体の主鎖を構成するポリマー鎖のMwは、0.1×10以上(例えば0.2×10以上)であることが適当であり、好ましくは0.4×10以上、より好ましくは1×10以上、さらに好ましくは1.5×10以上である。また、上記主鎖を構成するポリマー鎖のMwは、通常、100×10以下であることが適当であり、好ましくは50×10以下、より好ましくは30×10以下、さらに好ましくは20×10以下、例えば10×10以下である。
上記グラフト共重合体の側鎖を構成するポリマー鎖のMwは、0.1×10以上(例えば0.2×10以上)であることが適当であり、好ましくは1×10以上、より好ましくは1.5×10以上である。また、上記側鎖を構成するポリマー鎖のMwは、通常、100×10以下であることが適当であり、好ましくは50×10以下、より好ましくは30×10以下、さらに好ましくは20×10以下、例えば10×10以下である。
【0063】
水溶性高分子Pが水溶性高分子Pを含む態様において、水溶性高分子PのMwは特に限定されない。濾過性や洗浄性等の観点から、例えば、Mwが200×10以下、好ましくは170×10以下、より好ましくは150×10以下のものを用いることができる。水溶性高分子PのMwが大きくなると、同添加量当たりのモル数が少なくなるため研磨速度が高くなる傾向にある。かかる観点から、通常は、Mwが0.1×10以上の水溶性高分子Pを用いることが適当であり、例えば、Mwが1×10以上の水溶性高分子Pを好ましく採用し得る。
【0064】
より好ましいMwの範囲は、水溶性高分子Pの種類によっても異なり得る。例えば、水溶性高分子PBAおよび水溶性高分子PBBのMwは、それぞれ、典型的には200×10未満、好ましくは170×10以下、より好ましくは150×10以下である。一態様において、水溶性高分子PBAおよび水溶性高分子PBBのMwは、100×10以下であってもよく、例えば50×10以下であってもよい。また、水溶性高分子PBAおよび水溶性高分子PBBのMwは、それぞれ、典型的には1×10以上、好ましくは2×10以上であり、より好ましくは3×10以上、さらに好ましくは5×10以上、例えば7×10以上である。一態様において、水溶性高分子PBAおよび水溶性高分子PBBのMwは、例えば15×10以上であってよく、30×10以上であってもよい。
また、例えば水溶性高分子PBC、水溶性高分子PBDおよび水溶性高分子PBEのMwは、それぞれ、好ましくは50×10以下、より好ましくは30×10以下である。一態様において、これらの水溶性高分子のMwは、それぞれ、20×10以下であってもよく、さらには10×10以下であってもよく、例えば5×10以下であってもよい。また、水溶性高分子PBC、水溶性高分子PBDおよび水溶性高分子PBEのMwは、それぞれ、典型的には0.2×10以上、好ましくは0.4×10以上であり、より好ましくは1×10以上、例えば3×10以上である。
【0065】
水溶性高分子Pとして用いられる各水溶性高分子や、それらを構成するポリマー鎖において、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係は特に制限されない。凝集物の発生防止等の観点から、例えば分子量分布(Mw/Mn)が10.0以下であるものが好ましく、7.0以下であるものがさらに好ましい。
【0066】
なお、水溶性高分子のMwおよびMnとしては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。
【0067】
ポリマー鎖A(例えばPVA鎖)とポリマー鎖B(例えばN-ビニル系ポリマー鎖)とを同一分子中または異なる分子中に含む水溶性高分子Pにおいて、該水溶性高分子Pにおけるポリマー鎖Aの含有量(水溶性高分子P全体に占めるポリマー鎖Aの割合)は、例えば5重量%以上とすることができ、通常は10重量%以上とすることが適当であり、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、例えば35重量%以上である。水溶性高分子Pにおけるポリマー鎖Aの含有量は、通常、95重量%以下とすることが適当であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下、例えば60重量%以下である。ここに開示される技術は、水溶性高分子Pにおけるポリマー鎖Aの含有量が5重量%以上90重量%以下(より好ましくは10重量%以上80重量%以下、例えば20重量%以上70重量%以下)である態様で好ましく実施され得る。このような水溶性高分子Pを含む第1研磨スラリーSを用いることにより、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板の表面粗さをそれぞれ的確に低減する効果が好適に発揮され得る。
【0068】
第1研磨スラリーSにおける水溶性高分子Pの濃度は、特に制限されない。水溶性高分子Pの濃度は、例えば、第1研磨スラリーSの0.0001重量%以上とすることができ、好ましくは0.0005重量%以上、より好ましくは0.001重量%以上、さらに好ましくは0.0015重量%以上である。水溶性高分子Pの濃度の増大により、より高品位の表面が得られる傾向にある。一方、研磨効率の観点から、水溶性高分子Pの濃度は、第1研磨スラリーSの0.1重量%以下とすることが好ましく、0.05重量%以下(例えば0.01重量%以下)とすることがより好ましい。特に、抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板を効率よく研磨する観点から、水溶性高分子Pの濃度は、0.01重量%未満とすることが好ましく、0.008重量%以下とすることがより好ましく、0.005重量%以下とすることがさらに好ましい。
【0069】
また、水溶性高分子Pの含有量は、第1研磨スラリーSに含まれる砥粒Aの1g当たり、0.0002g以上とすることが適当であり、好ましくは0.001g以上、より好ましくは0.002g以上、さらに好ましくは0.003g以上、例えば0.005g以上である。また、水溶性高分子Pの含有量は、第1研磨スラリーSに含まれる砥粒Aの1g当たり、0.05g以下とすることが好ましく、0.03g以下(例えば0.02g以下)とすることがより好ましい。
【0070】
水溶性高分子Pが水溶性高分子Pおよび水溶性高分子Pを含む態様において、第1研磨スラリーSにおける水溶性高分子Pの濃度は、例えば0.00001重量%以上とすることができ、好ましくは0.0001重量%以上、より好ましくは0.0005重量%以上、さらに好ましくは0.001重量%以上である。水溶性高分子Pの濃度の増大により、より高品位の表面が得られる傾向にある。一方、研磨効率の観点から、水溶性高分子Pの濃度は、第1研磨スラリーSの0.1重量%未満とすることが好ましく、0.05重量%未満(例えば0.01重量%未満)とすることがより好ましい。特に、抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板を効率よく研磨する観点から、水溶性高分子Pの濃度は、第1研磨スラリーSの0.008重量%未満とすることが好ましく、0.005重量%未満とすることがより好ましく、0.003重量%未満であってもよい。
【0071】
また、水溶性高分子Pが水溶性高分子Pおよび水溶性高分子Pを含む態様において、水溶性高分子Pの含有量は、第1研磨スラリーSに含まれる砥粒Aの1g当たり、0.0001g以上とすることが適当であり、好ましくは0.0005g以上、より好ましくは0.001g以上、さらに好ましくは0.002g以上、例えば0.003g以上である。また、水溶性高分子Pの含有量は、第1研磨スラリーSに含まれる砥粒Aの1g当たり、0.05g未満とすることが好ましく、0.03g未満(例えば0.02g未満)とすることがより好ましく、0.015g未満であってもよい。
【0072】
(塩基性化合物B
第1研磨スラリーSは、好ましくは塩基性化合物Bを含有する。本明細書において塩基性化合物とは、水に溶解して水溶液のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物Bとしては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。窒素を含む塩基性化合物の例としては、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物、アンモニア、アミン(好ましくは水溶性アミン)等が挙げられる。このような塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。第四級ホスホニウム化合物の具体例としては、水酸化テトラメチルホスホニウム、水酸化テトラエチルホスホニウム等の水酸化第四級ホスホニウムが挙げられる。
【0074】
第四級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム塩、ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩(典型的には強塩基)を好ましく用いることができる。かかる第四級アンモニウム塩におけるアニオン成分は、例えば、OH、F、Cl、Br、I、ClO 、BH 等であり得る。なかでも好ましい例として、アニオンがOHである第四級アンモニウム塩、すなわち水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。水酸化第四級アンモニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム;水酸化2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム(コリンともいう。)等の水酸化ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム;等が挙げられる。これらのうち水酸化テトラアルキルアンモニウムが好ましく、なかでも水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)が好ましい。
【0075】
第1研磨スラリーSに含まれる塩基性化合物Bとしては、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアから選択される少なくとも1種の塩基性化合物が好ましい。これらのうち、アルカリ金属水酸化物および水酸化第四級アンモニウムがより好ましく、アルカリ金属水酸化物が特に好ましい。ここに開示される技術は、第1研磨スラリーSが、PVA鎖とN-ビニル系ポリマー鎖(例えばPVP鎖)とを同一のまたは異なる分子中に有する水溶性高分子Pと、アルカリ金属水酸化物および水酸化第四級アンモニウムから選択される少なくとも1種(より好ましくはアルカリ金属水酸化物、例えば水酸化カリウム)の塩基性化合物Bとを含む態様で好ましく実施され得る。
【0076】
(界面活性剤)
第1研磨スラリーSは、界面活性剤(典型的には、Mwが1×10未満の水溶性有機化合物)を含んでもよい。界面活性剤は、第1研磨スラリーSまたはその濃縮液の分散安定性向上に寄与し得る。界面活性剤としては、アニオン性またはノニオン性のものを好ましく採用し得る。低起泡性やpH調整の容易性の観点から、ノニオン性の界面活性剤がより好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン付加物;複数種のオキシアルキレンの共重合体(例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体);等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
界面活性剤のMwは、典型的には1×10未満であり、研磨スラリーの濾過性や研磨対象物の洗浄性等の観点から9500以下(例えば1000未満)が好ましい。また、界面活性剤のMwは、典型的には200以上であり、ヘイズレベルを低下させる効果等の観点から250以上が好ましく、300以上(例えば500以上)がより好ましい。なお、界面活性剤のMwとしては、GPCにより求められる値(水系、ポリエチレングリコール換算)または化学式から算出される値を採用することができる。なお、ここに開示される技術は、第1研磨スラリーSが上述のような界面活性剤を実質的に含まない態様で実施することができる。
【0078】
(キレート剤)
第1研磨スラリーSは、キレート剤を含んでもよい。キレート剤は、研磨スラリー中に含まれ得る金属不純物と錯イオンを形成してこれを捕捉することにより、金属不純物による研磨対象物の汚染を抑制する働きをする。キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。キレート剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ここに開示される技術は、キレート剤を実質的に含まない第1研磨スラリーSを用いる態様で実施することができる。
【0079】
(その他の成分)
その他、第1研磨スラリーSは、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨スラリー(典型的には、シリコン基板のポリシング工程に用いられる研磨スラリー)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0080】
第1研磨スラリーSは、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。第1研磨スラリーS中に酸化剤が含まれていると、当該第1研磨スラリーSが研磨対象物(ここではシリコン基板)に供給されることで該研磨対象物の表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨能率が低下してしまうことがあり得るためである。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、第1研磨スラリーSが酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。
【0081】
(pH)
第1研磨スラリーSのpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上、例えば10.0以上である。第1研磨スラリーSのpHが高くなると、研磨能率が向上する傾向にある。一方、砥粒(例えばシリカ粒子)の溶解を防ぎ、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、第1研磨スラリーSのpHは、12.0以下であることが適当であり、11.8以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましく、11.0以下であることがさらに好ましい。後述する第2研磨スラリーSにおいても同様のpHを好ましく採用し得る。
【0082】
なお、ここに開示される技術において、液状の組成物(研磨スラリー、その濃縮液、後述するリンス液等であり得る。)のpHは、pHメーターを使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。pHメーターとしては、例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23)またはその相当品を使用する。
【0083】
<第2研磨スラリーS
第2研磨スラリーSは、砥粒Aを含み、典型的にはさらに水を含み、好ましくはさらに水溶性高分子Pを含む。水としては、第1研磨スラリーSと同様のものを好ましく使用し得る。
【0084】
(砥粒A
第2研磨スラリーS用の砥粒Aは、第1研磨スラリーSに使用し得る砥粒として上記で例示したものから選択することができる。砥粒Aは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。砥粒Aと砥粒Aとは、同一の砥粒であってもよく、材質、サイズ(例えばBET径)、形状等の少なくともいずれかが互いに異なる砥粒であってもよい。
【0085】
上記砥粒Aとしては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。ここに開示される技術は、第2研磨スラリーSに含まれる砥粒Aが実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒Aを構成する粒子の95重量%以上(好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、100重量%であってもよい。)がシリカ粒子であることをいう。ここに開示される技術は、砥粒Aおよび砥粒Aがいずれもシリカ粒子である態様で好ましく実施することができる。例えば、同一のシリカ粒子を砥粒Aおよび砥粒Aとして用いることができる。
【0086】
好ましい一態様において、砥粒AのBET径は、砥粒AのBET径の-10nm以上+10nm以下であることが好ましく、-10nm以上+5nm以下であることがより好ましく、-5nm以上+5nm以下であることがさらに好ましい。砥粒AのBETと砥粒AのBET径とが上記関係を満たすことにより、第1研磨スラリーSから第2研磨スラリーSへの切り替えがより円滑に進行しやすくなる傾向にある。ここに開示される技術は、砥粒AのBETが砥粒AのBET径の-2nm以上+2nm以下である態様で好ましく実施され得る。例えば、砥粒Aおよび砥粒Aに同一の砥粒を用いることができる。
【0087】
ここに開示される技術は、砥粒Aおよび砥粒AのBET径がいずれも、好ましくは20nm以上60nm未満、より好ましくは25nm以上55nm以下、さらに好ましくは30nm以上45nm以下、例えば30nmを超えて40nm以下である態様で実施することができる。これにより、抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板について、高品位な表面を効率よく得ることができる。ここに開示される研磨方法をシリコン基板の仕上げ研磨に適用する場合には、上記BET径を有する砥粒Aおよび砥粒Aを用いることが特に効果的である。
【0088】
第2研磨スラリーSにおける砥粒Aの含有量は特に制限されない。一態様において、上記含有量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、例えば0.2重量%以上である。砥粒Aの含有量の増大によって、より高い研磨能率が実現され得る。また、研磨対象物からの除去性等の観点から、上記含有量は、通常、5重量%以下が適当であり、好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下、例えば0.5重量%以下である。
【0089】
好ましい一態様において、第2研磨スラリーSにおける砥粒Aの含有量は、第1研磨スラリーSにおける砥粒Aの含有量(重量基準の含有率)に対して、その75%以上125%以下の含有量とすることができ、80%以上110%以下とすることが好ましく、90%以上105%以下とすることがより好ましい。これにより、第1研磨スラリーSから第2研磨スラリーSへの切り替えがより円滑に進行しやすくなる傾向にある。ここに開示される研磨方法は、第1研磨スラリーSにおける砥粒Aの含有量と第2研磨スラリーSにおける砥粒Aの含有量とが概ね同じである態様、例えば、第2研磨スラリーSにおける砥粒Aの含有量が第1研磨スラリーSにおける砥粒Aの含有量の-3%以上+3%以下である態様で好ましく実施することができる。
【0090】
(水溶性高分子P
第2研磨スラリーSは、好ましくは水溶性高分子Pを含有する。使用する水溶性高分子Pは特に限定されず、例えば、第1研磨スラリーSの水溶性高分子Pに利用し得るものとして例示した水溶性高分子Pや水溶性高分子Pのなかから、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。一態様において、水溶性高分子Pは、水溶性高分子Pに含まれるポリマーと同種のポリマーや、水溶性高分子Pに含まれるポリマーと同種であってMwの異なるポリマー(例えば、より高いMwを有するポリマー)であり得る。
【0091】
水溶性高分子Pの一好適例としてセルロース誘導体(ポリマーPBA)が挙げられ、例えばHECを好ましく用いることができる。ここに開示される技術は、水溶性高分子PとしてHECを単独で使用する態様で好ましく実施され得る。ここに開示される技術は、また、水溶性高分子PがHECと他の水溶性高分子とを組み合わせて含む態様で実施してもよい。かかる態様において、水溶性高分子P全体に占めるHECの割合は、例えば30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上とすることができる。
【0092】
一態様において、水溶性高分子PのMwは、水溶性高分子PのMwよりも高いことが好ましい。水溶性高分子PのMwは、例えば、水溶性高分子PのMwの1.5倍以上、好ましくは2倍以上、例えば3倍以上であり得る。このことによって、抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板について、より高品質の表面が効率よく実現され得る。ここで、水溶性高分子Pおよび水溶性高分子Pの一方または両方がMwの異なる複数種類の水溶性高分子を含む場合、上記Mwの対比は、水溶性高分子P,Pの各々に含まれる水溶性高分子のうち、最もMwの高い種類の水溶性高分子同士により行うものとする。
【0093】
第2研磨スラリーSにおける水溶性高分子Pの濃度は、特に制限されない。水溶性高分子Pの濃度は、例えば、第2研磨スラリーSの0.0005重量%以上とすることができ、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.002重量%以上、例えば0.005重量%以上である。水溶性高分子Pの濃度の増大により、より高品位の表面が得られる傾向にある。一方、研磨効率の観点から、水溶性高分子Pの濃度は、第2研磨スラリーSの0.5重量%以下とすることが好ましく、0.2重量%以下とすることがより好ましく、0.1重量%以下(例えば0.05重量%以下)とすることがより好ましい。抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板を効率よく研磨する観点から、水溶性高分子Pの濃度は、0.05重量%未満とすることができ、0.02重量%以下とすることが好ましく、0.015重量%以下とすることがより好ましい。
【0094】
また、水溶性高分子Pの含有量は、第2研磨スラリーSに含まれる砥粒Aの1g当たり、0.0005g以上とすることが適当であり、好ましくは0.002g以上、より好ましくは0.005g以上である。また、水溶性高分子Pの含有量は、第2研磨スラリーSに含まれる砥粒Aの1g当たり、0.5g以下とすることが好ましく、0.3g以下とすることがより好ましく、0.1g以下とすることがより好ましい。
【0095】
一態様において、第2研磨スラリーSにおける水溶性高分子Pの濃度は、第1研磨スラリーSにおける水溶性高分子Pの濃度Cよりも高いことが好ましく、例えば1.2倍以上(好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上)高いことが好ましい。また、第2研磨スラリーSに含まれる砥粒Aの1g当たりの水溶性高分子Pの含有量は、第1研磨スラリーSに含まれる砥粒Aの1g当たりの水溶性高分子Pの含有量よりも多いことが好ましく、例えば1.2倍以上(好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上)多いことが好ましい。上記濃度および含有量の一方または両方を満たすことにより、抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板について、より高品質の表面が効率よく実現される傾向にある。
【0096】
(塩基性化合物B
第2研磨スラリーSは、好ましくは塩基性化合物Bを含有する。使用する塩基性化合物Bは特に限定されず、例えば、第1研磨スラリーSに使用し得る塩基性化合物Bとして例示したものから、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。塩基性化合物Bは、塩基性化合物Bと同じ化合物であってもよく、異なる化合物であってもよい。
【0097】
塩基性化合物Bとしては、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアから選択される少なくとも一種の塩基性化合物が好ましい。これらのうち、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。ここに開示される技術は、第2研磨スラリーSが、セルロース誘導体(例えばHEC)を含有する水溶性高分子Pと、アンモニアを含む塩基性化合物Bとを含む態様で好ましく実施され得る。
【0098】
第2研磨スラリーSは、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、第1研磨スラリーSと同様のものを使用し得る。ここに開示される技術は、第2研磨スラリーSが界面活性剤を実質的に含まない態様で実施することができる。
第2研磨スラリーSは、キレート剤を含んでもよい。キレート剤としては、第1研磨スラリーSと同様のものを使用し得る。ここに開示される技術は、第2研磨スラリーSがキレート剤を実質的に含まない態様で実施することができる。
【0099】
(その他の成分)
その他、第2研磨スラリーSは、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨スラリー(典型的には、シリコン基板のポリシング工程に用いられる研磨スラリー)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。第2研磨スラリーSは、第1研磨スラリーSと同様、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。
【0100】
<研磨能率>
上記第1研磨スラリーSは、上記第2研磨スラリーSと同等以上の研磨能率を示すことが好ましく、上記第2研磨スラリーSよりも高い研磨能率を示すことがより好ましい。このことによって、抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板について、高品位の表面をより効率よく実現することができる。ここで、第1研磨スラリーSが第2研磨スラリーSよりも高い研磨能率を示すとは、同一の研磨対象物を同一の研磨条件で研磨した場合において、研磨スラリーとして第1研磨スラリーSを用いた場合の研磨取り代が、研磨スラリーとして第2研磨スラリーSを用いた場合の研磨取り代よりも多いことをいう。第1研磨スラリーSが第2研磨スラリーSよりも高い研磨能率を示すことは、例えば、後述する実施例に記載の方法で各研磨スラリーの研磨能率を求め、それらを対比することにより確認することができる。研磨能率の対比に用いるシリコン基板は特に限定されず、例えば後述する実施例におけるP-、P++、P+++のいずれのシリコン基板でもよい。研磨能率の差が大きくなりやすく、研磨能率の相対関係を把握しやすいことから、P-基板を好ましく使用し得る。
各研磨スラリーの研磨能率は、例えば、砥粒の材質、砥粒のBET径、砥粒の濃度、水溶性高分子の種類、水溶性高分子の濃度、塩基性化合物の種類、研磨スラリーのpH等により制御することができる。当業者であれば、後述する具体的な実施例を含む本願明細書の記載および技術常識に基づいて、第1研磨スラリーSおよび第2研磨スラリーSの研磨能率や、それらの相対関係を適切に調節し得る。
【0101】
<研磨>
ここに開示される研磨方法では、研磨対象のシリコン基板に対し、第1研磨スラリーSおよび第2研磨スラリーSを、この順に、上記シリコン基板の研磨途中で切り替えて供給する。上記研磨方法は、例えば以下の操作を含む態様で行うことができる。
すなわち、研磨対象物としてのシリコン基板を研磨装置にセットし、該研磨装置の定盤(研磨定盤ともいう。)に固定された研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面(研磨対象面)に第1研磨スラリーSを供給して研磨する第1段階を行う。典型的には、上記研磨スラリーを連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。第1研磨スラリーSによる研磨開始から時間Tが経過したら、上記研磨対象物に供給する研磨スラリーを第2研磨スラリーSに切り替え、該研磨対象物を第2研磨スラリーSで研磨する第2段階を時間Tに亘って行う。
【0102】
第1段階の研磨時間Tと、第2段階の研磨時間Tとの関係は、特に限定されない。一態様において、第1段階の研磨時間Tを第2段階の研磨時間Tより長くすることができる。すなわち、ここに開示される研磨方法は、研磨対象のシリコン基板に第2研磨スラリーSを供給して研磨する時間Tが、該シリコン基板に第1研磨スラリーSを供給して研磨する時間Tよりも短い態様で実施することができる。このように、より研磨能率の高い第1研磨スラリーSで研磨する時間を相対的に長くすることにより、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板について、高品位の表面を効率よく実現することができる。ここに開示される研磨方法は、例えば、第1段階の研磨時間Tが第2段階の研磨時間Tの1.2倍以上(より好ましくは1.5倍以上、例えば2倍以上)である態様で好ましく実施され得る。
【0103】
特に限定するものではないが、第1段階と第2段階との合計研磨時間(T+T)は、例えば60分以下とすることができ、生産性の観点から40分以下とすることが好ましく、20分以下とすることがより好ましい。一方、上記合計研磨時間は、高品位の表面を得る観点から、通常、3分以上とすることが適当であり、5分以上とすることが好ましく、例えば7分以上とすることができる。
【0104】
各研磨スラリーは、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態、すなわち研磨スラリーの濃縮液の形態であってもよい。上記濃縮液は、研磨スラリーの原液としても把握され得る。このように濃縮された形態の研磨スラリーは、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度(例えば10倍~40倍程度)が適当である。
【0105】
このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨スラリー(ワーキングスラリー)を調製し、該研磨スラリーを研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0106】
上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば50重量%以下とすることができる。上記濃縮液の取扱い性(例えば、砥粒の分散安定性や濾過性)等の観点から、通常、上記濃縮液における砥粒の含有量は、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば0.5重量%以上とすることができ、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、例えば4重量%以上である。好ましい一態様において、砥粒の含有量は、5重量%以上としてもよく、10重量%以上としてもよく、15重量%以上としてもよく、20重量%以上としてもよく、30重量%以上としてもよい。
【0107】
ここに開示される技術において使用される研磨スラリーまたはその濃縮液は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、研磨スラリーの構成成分のうち少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとを混合し、必要に応じて適切なタイミングで希釈することにより研磨スラリーが調製されるように構成されていてもよい。
【0108】
研磨スラリーまたはその濃縮液の調製方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨スラリーまたはその濃縮液に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0109】
各研磨段階において、研磨スラリーは、いったん研磨に使用したら使い捨てにする態様(いわゆる「かけ流し」)で使用されてもよいし、循環して繰り返し使用されてもよい。研磨スラリーを循環使用する方法の一例として、研磨装置から排出される使用済みの研磨スラリーをタンク内に回収し、回収した研磨スラリーを再度研磨装置に供給する方法が挙げられる。ここに開示される研磨方法は、第1段階で用いられる第1研磨スラリーSおよび第2段階で用いられる第2研磨スラリーSを、いずれも、かけ流しで使用する態様で好ましく実施することができる。
【0110】
ここに開示される研磨方法において用いられる研磨パッドは、特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。各研磨パッドは、砥粒を含んでもよく、砥粒を含まなくてもよい。通常は、砥粒を含まない研磨パッドが好ましく用いられる。
【0111】
ここに開示される研磨方法は、シリコン基板(例えばシリコン単結晶ウェーハ)の予備研磨工程および仕上げ研磨工程のいずれにも適用可能である。なかでも、ラッピングおよび予備ポリシングを経たシリコン基板の仕上げポリシングに好ましく適用することができる。第1段階の開始時におけるシリコン基板の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))は、例えば、0.01nm~100nm程度であり得る。ここに開示される研磨方法は、上流の工程によって表面粗さRaが0.01nm~100nm程度の表面状態に調製されたシリコン基板のポリシング(典型的には仕上げポリシング)に好ましく適用され得る。シリコン基板の表面粗さRaは、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製のレーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」を用いて測定することができる。
【0112】
ここに開示される研磨方法に使用する研磨装置は、同一の定盤に供給される研磨スラリーを途中で切り替えることにより、上記第1段階および上記第2段階を同一の定盤上で行い得るように構成されている。上記研磨装置は、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置であってもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置であってもよい。特に限定するものではないが、ここに開示される研磨方法を仕上げ研磨に適用する場合、第1段階および第2段階を行う研磨装置として、片面研磨装置を好ましく採用し得る。第1段階の前に予備研磨を行う場合、該予備研磨は、両面研磨装置または片面研磨装置を用いて行うことができ、例えば両面研磨装置を用いて好ましく行うことができる。各研磨装置の備える定盤の数は、1でもよく2以上でもよい。各研磨装置は、一度に一枚の研磨対象物を研磨するように構成された枚葉式の研磨装置でもよく、同一の定盤上で複数の研磨対象物を同時に研磨し得るバッチ式の研磨装置でもよい。
【0113】
ここに開示される研磨方法は、研磨対象物に対して第2段階の研磨を行った後に、該第2段階の研磨と同一の定盤上で上記研磨対象物にリンス液を供給して該研磨対象物をリンスする段階を含み得る。上記リンス液としては、水性溶媒(例えば水)を用いることができる。また、第2研磨スラリーSに使用し得る成分のうち砥粒以外の任意の成分を水性溶媒中に含むリンス液を用いてもよい。
【0114】
第2段階の研磨を終えた研磨対象物は、典型的には洗浄される。この洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、例えば、半導体等の分野において一般的なSC-1洗浄液(水酸化アンモニウム(NHOH)と過酸化水素(H)と水(HO)との混合液)、SC-2洗浄液(HClとHとHOとの混合液)等を用いることができる。洗浄液の温度は、例えば室温(典型的には約15℃~25℃)以上、約90℃程度までの範囲とすることができる。洗浄効果を向上させる観点から、50℃~85℃程度の洗浄液を好ましく使用し得る。上記洗浄は、典型的には、第1段階および第2段階の研磨に用いた研磨装置の外部で、すなわち上記研磨装置から研磨対象物を取り外した後に行われる。
【0115】
<研磨対象物>
ここに開示される研磨方法は、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板(典型的にはシリコン単結晶ウェーハ)の研磨に共通して適用することができる。ここで「共通して適用」とは、上記複数種類のシリコン基板に対して、同一組成の第1研磨スラリーSで研磨する第1段階と、同一組成の第2研磨スラリーSで研磨する第2段階とを、この順に行うことをいう。このことによって、例えば、第1研磨スラリーSと第2研磨スラリーSとを切り替えて供給し得るように構成された一台の研磨装置を用いて、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板を、該研磨装置に任意の順序やタイミングでセットして研磨することができる。
【0116】
ここに開示される研磨方法の一態様において、第1段階の研磨時間Tおよび第2段階の研磨時間Tは、互いに抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板に対して同一のTおよび同一のTを共通して適用することができる。かかる態様によると、例えばバッチ式の研磨装置を使用する場合、互いに抵抗率の異なるシリコン基板を同一定盤上で同時に研磨し得る。また、研磨対象のシリコン基板の種類を問わず(例えば、該シリコン基板の抵抗率を問わず)同じ合計研磨時間を適用し得るので、研磨装置を効率よく利用することができる。
【0117】
ここに開示される研磨方法は、例えば、抵抗率が10倍以上異なる複数種類のシリコン基板の研磨に共通して適用することができる。抵抗率が20倍以上(好ましくは100倍以上、より好ましくは150倍以上、例えば200倍以上)異なる上記複数種類のシリコン基板の研磨への適用が特に効果的である。
【0118】
好ましい一態様において、上記複数種類のシリコン基板には、抵抗率が1Ω・cm以上のシリコン基板と、抵抗率が0.005Ω・cm未満のシリコン基板とが含まれ得る。ここに開示される研磨方法は、これらのシリコン基板の研磨(例えば仕上げ研磨)に好ましく適用され得る。例えば、抵抗率が0.1Ω・cm以上、例えば1Ω・cm以上のシリコン基板と、抵抗率が0.05Ω・cm未満、例えば0.005Ω・cm未満のシリコン基板とに、共通して適用され得る。これらのシリコン基板の仕上げ研磨への適用が特に好ましい。ここに開示される研磨方法は、このように抵抗率の異なるシリコン基板に共通して適用されて、これらのシリコン基板を効率よく高品位の表面に仕上げることができる。
【0119】
<研磨用組成物セット>
この明細書によると、ここに開示される研磨方法に好ましく使用され得る研磨用組成物セットが提供される。その研磨用組成物セットは、互いに分けて保管される第1組成物Qと第2組成物Qとを少なくとも含む。第1組成物Qは、上記第1段階で使用される第1研磨スラリーSまたはその濃縮液であり得る。第2組成物Qは、上記第2段階で使用される第2研磨スラリーSまたはその濃縮液であり得る。ここに開示される研磨方法は、かかる研磨用組成物セットを用いて好適に実施することができる。したがって、上記研磨用組成物セットは、ここに開示される研磨方法や、該研磨方法を実施することを含む研磨物製造方法等に好ましく利用され得る。研磨用組成物セットを構成する各研磨用組成物は、それぞれ、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。多剤型の研磨用組成物は、例えば、各研磨用組成物の構成成分のうち少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとに分けて保管され、上記パートAと上記パートBとを混合して必要に応じて適切なタイミングで希釈することにより研磨用組成物または研磨スラリーが調製されるように構成され得る。
【0120】
なお、以上の説明および以下に示す実施例から理解されるように、この明細書により開示される事項には、次のものが含まれる。
(1) ここに開示されるいずれかの第1研磨スラリーSを用いて抵抗率0.005Ω・cm未満のシリコンウェーハを研磨(好ましくは仕上げ研磨)することを含む、シリコンウェーハの研磨方法。
(2) ここに開示されるいずれかの第1研磨スラリーSを、抵抗率0.005Ω・cm未満のシリコンウェーハの研磨(好ましくは仕上げ研磨)および抵抗率1Ω・cm以上のシリコンウェーハの研磨(好ましくは仕上げ研磨)に共通して使用することを含む、シリコンウェーハの研磨方法。
(3) 上記第1研磨スラリーSによる研磨に続いて、同一定盤上で、ここに開示されるいずれかの第2研磨スラリーSを用いて上記シリコンウェーハを研磨(好ましくは仕上げ研磨)することを含む、上記(1)または(2)に記載のシリコンウェーハの研磨方法。
(4)上記(1)~(3)のいずれかの研磨方法を含む、研磨されたシリコンウェーハ(ポリッシュドウェーハ)の製造方法。
(5) ここに開示されるいずれかの第1研磨スラリーSまたはその濃縮液であって、抵抗率0.005Ω・cm未満のシリコンウェーハの研磨(好ましくは仕上げ研磨)に用いられる、研磨用組成物。
(6) ここに開示されるいずれかの第1研磨スラリーSまたはその濃縮液であって、抵抗率0.005Ω・cm未満のシリコンウェーハの研磨(好ましくは仕上げ研磨)および抵抗率1Ω・cm以上のシリコンウェーハの研磨(好ましくは仕上げ研磨)に共通して用いられる、研磨用組成物。
(7) ここに開示されるいずれかの第2研磨スラリーSまたはその濃縮液であって、上記(5)または(6)に記載の研磨用組成物または該研磨用組成物を用いて調製された第1研磨スラリーSによるシリコンウェーハの研磨に続いて同一定盤上で上記シリコンウェーハを研磨するために用いられる、研磨用組成物。
【実施例
【0121】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0122】
1.研磨液の調製
(スラリーA)
イオン交換水中に、砥粒としてのコロイダルシリカ(BET径35nm)と、水溶性高分子としてのヒドロキシエチルセルロース(HEC;Mw140×10)と、塩基性化合物としてのアンモニアとを含む、表1に示す組成のスラリーAを調製した。
【0123】
(スラリーB)
イオン交換水中にコロイダルシリカ(BET径35nm)、HEC(Mw120×10)および水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を含む、表1に示す組成のスラリーBを調製した。
【0124】
(スラリーC~E,J,K)
イオン交換水中にコロイダルシリカ(BET径35nm)、PVA、PVPおよびKOHを含む、表1に示す組成のスラリーC~E,J,Kをそれぞれ調製した。各スラリーの調製に使用したPVAおよびPVPのMwは、表1に示すとおりである。これらのスラリーの調製に用いたPVAのけん化度は、いずれも98モル%以上である。また、これらのスラリーの調製に用いたPVPは、いずれもビニルピロリドンの単独重合体である。表1中のC10PEO5は、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5のポリオキシエチレンデシルエーテルを表す。
【0125】
(スラリーF~H)
イオン交換水中にコロイダルシリカ(BET径35nm)、PVA主鎖-PVPグラフト共重合体およびKOHを含む、表1に示す組成のスラリーF~Hを調製した。各スラリーの調製に使用したPVA主鎖-PVPグラフト共重合体の主鎖および側鎖のMwは、表1に示すとおりである。これらのグラフト共重合体は、いずれも、主鎖を構成するPVAのけん化度が98モル%以上であり、側鎖を構成するPVPがビニルピロリドンの単独重合体である。
【0126】
(スラリーI)
イオン交換水中にコロイダルシリカ(BET径35nm)、HEC(Mw140×10)およびKOHを含む、表1に示す組成のスラリーIを調製した。
【0127】
なお、コロイダルシリカのBET径は、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて測定した。また、スラリーA~Iは、いずれもpHが10以上11以下の範囲内となるように調製した。
【0128】
【表1】
【0129】
2.シリコンウェーハの研磨
以下の3種類のシリコン基板(直径300mmのシリコン単結晶ウェーハ)を用いて研磨試験を行った。
P-:抵抗率1Ω・cm以上100Ω・cm未満
P++:抵抗率0.006Ω・cm以上0.010Ω・cm未満
P+++:抵抗率0.002Ω・cm未満
【0130】
<予備研磨工程>
イオン交換水中に、コロイダルシリカ(BET径35nm)0.7重量%、TMAH0.04重量%およびピペラジン0.25重量%を含む予備研磨用スラリー(ワーキングスラリー)を調製した。この予備研磨用スラリーを用いて研磨対象のシリコン基板を下記の条件で予備研磨することにより、各シリコン基板(P-、P++、P+++)の表面を約0.4nmの表面粗さRaに調整した。
【0131】
[予備研磨条件]
研磨装置:不二越機械工業社製の片面研磨機、型番「SPM-15」
研磨荷重:320g/cm
定盤回転数:30rpm
ヘッド回転数:30rpm
研磨パッド:ニッタ・ハース社製、不織布タイプ、製品名「SUBA600」
供給レート:6リットル/分(循環使用)
研磨環境の保持温度:23℃
【0132】
(洗浄)
予備研磨後のシリコン基板を研磨装置から取り外し、NHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=1:1:15(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。より具体的には、周波数950kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を2つ用意し、それら第1および第2の洗浄槽の各々に上記洗浄液を収容して80℃に保持し、予備研磨後のシリコン基板を、第1の洗浄槽に5分、その後超純水と超音波によるリンス槽を経て、第2の洗浄槽に5分、それぞれ上記超音波発振器を作動させた状態で浸漬した。
【0133】
<仕上げ研磨工程>
上記スラリーA~Kをそのまま研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、上記洗浄後のシリコン基板に対して以下の条件で仕上げ研磨を行った。
【0134】
[仕上げ研磨条件]
研磨対象物:表2に示すとおり。
研磨装置:不二越機械工業社製の片面研磨機、型番「SPM-15」
研磨荷重:150g/cm
定盤回転数:40rpm
ヘッド回転数:40rpm
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製、スウェードタイプ、製品名「Supreme RN-H」
供給レート:0.5リットル/分(かけ流し使用)
研磨環境の保持温度:20℃
研磨時間:第1段階を7分、続いて第2段階を3分
(ただし、例8~11では第1段階を10分継続し、第2段階は行わなかった。)
【0135】
具体的には以下のようにして仕上げ研磨工程を実施した。
【0136】
(例1)
上記研磨装置にシリコン基板をセットし、スラリーCを供給して第1段階の研磨を開始した。第1段階の開始から7分経過後、供給するスラリーをスラリーCからスラリーAに切り替えて、引き続き第2段階の研磨を行った。第2段階の開始から3分経過後、スラリーAの供給および研磨装置の作動を停止した。
【0137】
(例2~7,12,13)
第1段階で供給するスラリーを表2に示すように変更した他は例1と同様にして、シリコン基板の仕上げ研磨を行った。
【0138】
(例8~11)
上記研磨装置にシリコン基板をセットし、表2に示すスラリーを供給して研磨を開始した。研磨開始から10分経過後、スラリーの供給および研磨装置の作動を停止した。
【0139】
仕上げ研磨後のシリコン基板を研磨装置から取り外し、上述した予備研磨後の洗浄と同様にして洗浄した。このようにして、例1~13による仕上げ研磨後シリコンウェーハを得た。
【0140】
3.評価
(ヘイズレベル測定)
ADE社製のウェーハ研磨システム、商品名「AWIS 3110」を使用して、例1~11に係る仕上げ研磨後シリコンウェーハのヘイズレベル[ppm]を測定した。結果を表2の「ヘイズ」の欄に示した。
【0141】
(研磨能率測定)
仕上げ研磨前後のシリコン基板の重量差および研磨対象面積から、仕上げ研磨工程において除去された厚さ(研磨取り代)を求め、それを研磨時間(ここでは10分間)で除すことにより、単位時間当たりの平均研磨取り代(研磨能率)を算出した。得られた値を、シリコン基板の種類毎に、それぞれ例1の研磨能率を1.00とする相対値に換算した。結果を表2の「研磨能率」の欄に示した。
また、例1~例10,12,13の各々について、P-基板についての研磨能率[nm/分]をP+++基板についての研磨能率[nm/分]で除すことにより、P-基板/P+++基板の研磨能率比(すなわち、P-基板の研磨能率の、P+++基板の研磨能率に対する倍率)を算出した。結果を表2の「研磨能率比」の欄に示した。
【0142】
なお、表2に示す各例について、ヘイズおよび研磨能率の欄における「-」は、当該種類のシリコン基板については研磨試験が未実施であることを表している。
また、例8においてスラリーAに代えてスラリーD,E,G~Kの各々を使用してシリコン基板の研磨を行い、上記と同様にして研磨能率を求めたところ、表3に示すように、いずれもスラリーAよりも高い研磨能率を示すことが確認された。
【0143】
【表2】
【0144】
【表3】
【0145】
表1に示されるように、水溶性高分子Pを含む第1段階用スラリーC~Kをより研磨能率の低い第2段階用スラリーに切り替えて第1段階および第2段階の研磨を行った例1~7,12,13では、同一の研磨プロセスにより、いずれの抵抗率を有するシリコンウェーハの研磨においても例8に概ね匹敵する低いヘイズレベルの表面が得られた。スラリーC~E,Iを用いた例1~3,7に比べて、スラリーF~Hを用いた例4~6では、よりヘイズレベルの低い表面が得られる傾向がみられた。また、スラリーAによる研磨のみを行った例8に比べて、例1~7,12,13では、P+++基板の研磨において約2倍という高い研磨能率が得られた。また、例1~7,12,13と例8との研磨能率比の対比からわかるように、例8に比べて例1~7,12,13ではシリコンウェーハの抵抗率による研磨能率の違いが緩和されていた。
【0146】
一方、スラリーBによる研磨のみを行った例11は、研磨能率は高いものの、P-基板およびP++基板のいずれの研磨においてもヘイズレベルを低下させる効果が不十分であった。スラリーCまたはスラリーFによる研磨のみを行った例9,10は、いずれも、P-基板の研磨においてヘイズレベルを十分に低下させることができなかった。
【0147】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。