(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】車両用ウインド装置、及び車両用ウインド装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60J 1/14 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
B60J1/14 C
(21)【出願番号】P 2018210399
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】河原崎 浩司
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-067293(JP,A)
【文献】特表2014-508072(JP,A)
【文献】特開2004-210041(JP,A)
【文献】特開昭62-018315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第1面及び第2面を有するガラス板と、
前記第1面は車外側の面であり、前記第2面は車内側の面であり、
前記ガラス板の一辺
の周縁を保持する樹脂製モールと、
前記樹脂製モールに一部が埋め込まれ、前記ガラス板の第2面を保持する一対の支持部材と、
前記ガラス板の第2面の側に位置し、前記樹脂製モールを挟んで前記支持部材と反対の側
である前側に延設され、前記ガラス板の開閉を可能にする一対のヒンジ部材と、
を備え、
前記ヒンジ部材は金属材料であり、
前記支持部材と前記ヒンジ部材とが固定され、
前記ヒンジ部材は、
前記支持部材に固定される領域Aと、
前記領域Aの位置から前側に延設され、貫通孔が形成され、前記領域Aより車内側に位置する領域Bと、
折り曲げられ、前記領域Aと前記領域Bとを連結する領域Cと、
を有し、
その一部が弾性変形することで前記ガラス板の開閉を可能にする、
車両用ウインド装置。
【請求項2】
前記ガラス板と前記支持部材とがウレタン系接着剤を介して接着される請求項1に記載の車両用ウインド装置。
【請求項3】
前記支持部材の後側のエッジには、前記支持部材のエッジに沿って樹脂製部材が設けられる、請求項1又は2に記載の車両用ウインド装置。
【請求項4】
前記樹脂製モールは、断面視でU字型の形状を有し、前記U字型の形状の開口部である挿入口から、前記ガラス板の一辺が挿入される、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用ウインド装置。
【請求項5】
車両に装着された際に、前記支持部材は、前側において前記樹脂製モールの断面形状に沿うようにU字型に形成され、かつ、前記支持部材の前記U字型の部分が、前記樹脂製モールの前記U字型の形状の部位に埋め込まれている、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用ウインド装置。
【請求項6】
前記樹脂製モールは、一対の前記支持部材間に延設される延出部を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用ウインド装置。
【請求項7】
前記延出部と前記樹脂製モールとは一体成形品である、請求項6に記載の車両用ウインド装置。
【請求項8】
一対の支持部材を樹脂成形型に固定し、前記樹脂成形型に樹脂を射出し、前記支持部材の一部が埋め込まれた樹脂製モールを作製する工程と、
前記樹脂成形型から取り出された前記樹脂製モールの前記支持部材と金属材料で形成されるヒンジ部材とを固定する工程と、
前記樹脂製モールにガラス板の一辺を保持させる工程と、
を備える車両用ウインド装置の製造方法。
【請求項9】
前記固定する工程において、前記支持部材と前記ヒンジ部材とがスポット溶接で固定される請求項8に記載の車両用ウインド装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ウインド装置、及び車両用ウインド装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒンジ部材を介して開閉される車両用ウインド装置が知られている。例えば、特許文献1の車両用ウインド装置は、ヒンジ部材を埋め込んだ樹脂製モールと、樹脂製モールに挟み込まれたガラス板と、を備える。ヒンジ部材がピラー部に装着され、ヒンジ部材を介して車両用ウインド装置が開閉される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1ではガラス板が樹脂製モールのみで保持されているため、走行中にガラス板が脱落等する懸念がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、ガラス板の脱落を防止することが可能な車両用ウインド装置、及び車両用ウインド装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用ウインド装置は、対向する第1面及び第2面を有するガラス板と、前記ガラス板の一辺を保持する樹脂製モールと、前記樹脂製モールに一部が埋め込まれ、前記ガラス板の第2面を保持する一対の支持部材と、前記ガラス板の第2面の側に位置し、前記樹脂製モールを挟んで前記支持部材と反対の側に延設され、前記ガラス板の開閉を可能にする一対のヒンジ部材と、を備える。
【0007】
本発明の車両用ウインド装置の製造方法は、一対の支持部材を樹脂成形型に固定し、前記樹脂成形型に樹脂を射出し、前記支持部材の一部が埋め込まれた樹脂製モールを作製する工程と、前記樹脂成形型から取り出された前記樹脂製モールの前記支持部材とヒンジ部材とを固定する工程と、前記樹脂製モールにガラス板の一辺を保持させる工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両用ウインド装置からガラス板の脱落等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、車両用ウインド装置が適用された車両の側面図である。
【
図2】
図2は、車両用ウインド装置の組立斜視図である。
【
図3】
図3は、ヒンジユニットを車外側から見た図である。
【
図4】
図4は、ヒンジユニットを車内側から見た図である。
【
図7】
図7は、車両用ウインド装置の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面にしたがって本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施の形態により説明される。但し、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、実施形態以外の他の実施形態を利用することができる。したがって、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。ここで、図中、同一の記号で示される部分は、基本的に、同様の機能を有する同様の要素である。
【0011】
また、本明細書中で、数値範囲を“~”を用いて表す場合は、“~”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。本明細書では、「前(F)」、「後(R)」、「上(U)」、「下(D)」、「内(In)」及び「外(Out)」の語は、車両に装着された際の、方向、及び位置を基準として使用される。
【0012】
図1に示されるように、車両1は、例えば、前方から後方に向けて、ウインドシールド2と、サイドドア3に昇降可能に装着されるドアガラス4と、サイドガラス5、及びリアガラス8と、を備える。サイドガラス5は、前側にヒンジユニット6を備え、後側にロック機構7を備える。
【0013】
ヒンジユニット6及びロック機構7は、車両1のボディに取り付けられる。ロック機構7を操作することにより、サイドガラス5は、ヒンジユニット6を支点に、車外側に向けて開き、車内側に向けて閉じる。
【0014】
図2から
図6を参照して、実施形態の車両用ウインド装置について説明する。
図2に示されるように、車両用ウインド装置10は、対向する第1面12A及び第2面12Bを有するガラス板12と、ガラス板12の一辺を保持する樹脂製モール14と、樹脂製モール14に一部が埋め込まれガラス板12の第2面12Bを保持する一対の支持部材16と、支持部材16に固定されるヒンジ部材18と、を備える。ここで、第1面12Aは車外側の面を指し、第2面12Bは車内側の面を指す。支持部材16とヒンジ部材18とは、樹脂製モール14を挟んで互いに反対方向に延設されている。支持部材16は樹脂製モール14から後側に延設されている。ヒンジ部材18は樹脂製モール14から前側に延設されている。
【0015】
ガラス板12が、例えば、
図1におけるサイドガラス5に相当する。また、樹脂製モール14と、支持部材16と、ヒンジ部材18との組立体が、ヒンジユニット6に相当する。
【0016】
ガラス板12は、車両用のガラス板である。ガラス板12の種類としては、単板のガラス板、合わせガラス、強化ガラスなど、どのようなガラス板でもよい。ガラス板12は、例えば、フロート法、フュージョン法等により製造されたガラス板である。ガラス板12は、無機ガラスであってもよい。ガラス板12は、ソーダライムガラスでもよいし、アルミノシリケートガラスであってもよいし、無アルカリガラスであってもよい。ガラス板がソーダライムガラスである場合、グリーンガラスであってもよいし、クリアガラスであってもよい。また、ガラス板12は有機ガラスであってもよい。有機ガラスとしては、ポリカーボネートなどの透明樹脂が挙げられる。ガラス板12は、デザイン上、または機能上の観点から、曲げ成形されてもよい。
【0017】
ガラス板12は、未強化ガラス、強化ガラスのいずれでもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものである。強化ガラスは、物理強化ガラス(例えば風冷強化ガラス)、化学強化ガラスのいずれでもよい。物理強化ガラスである場合は、均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることにより、ガラス表面を強化してもよい。化学強化ガラスである場合は、イオン交換法などによってガラス表面に圧縮応力を生じさせることにより、ガラス表面を強化してもよい。ガラス板12の板厚は特に限定されないが、0.5mm以上5.0mm以下であることが好ましい。
【0018】
樹脂製モール14は、断面視でU字型(
図5参照)の形状を有する。樹脂製モール14はガラス板12の一辺の周縁を保持することができる。ガラス板12の一辺の周縁を保持できる限り、断面視において、U字型以外の、C字型、J字型であってもよい。
図2において、樹脂製モール14の一部が、ガラス板12の側に延設され、延出部26を備える。樹脂製モール14は、延出部26での断面視で、J字型の形状(
図6参照)を有している。
【0019】
延出部26のガラス板12の第2面12Bに対向する面に、例えば、両面テープ28が配置される。両面テープ28が、ガラス板12を樹脂製モール14の側に引き込ませることができる。延出部26と樹脂製モール14とは一体的に成形される。
【0020】
樹脂製モール14は、熱可塑性樹脂から形成されることが好ましい。熱可塑性樹脂として、PVC(polyvinyl chloride:ポリ塩化ビニル)又はPP(polypropylene:ポリプロリレン樹脂)を挙げることができる。ただし、これらの熱可塑性樹脂に限定されない。
【0021】
支持部材16、及びヒンジ部材18は金属材料から形成される。金属材料は、例えば、SUS(ステンレス鋼)であることが好ましい。
【0022】
一つのヒンジ部材18には、二つの貫通孔20、21が形成されている。貫通孔20、21にボルト、スクリューなど締結具(不図示)が挿入される。これらの締結具を介して、ヒンジ部材18がボディ(不図示)に固定されることが好ましい。ヒンジ部材18では、貫通孔20の形成される領域と貫通孔21の形成される領域とを比較すると、貫通孔21の形成される領域が車内側に位置している。
【0023】
樹脂製モール14がガラス板12の一辺の周縁を保持するが、樹脂製モール14は外観の意匠に影響するので、樹脂製モール14を大きくすることは難しい。そのため、樹脂製モール14のガラス板12の保持力が大きくできない。実施形態の車両用ウインド装置10では、樹脂製モール14に加えて、支持部材16がガラス板12の第2面12Bを保持するので保持力を大きくでき、ガラス板12が樹脂製モール14から脱落することを防止する。
【0024】
ガラス板12と支持部材16とは、ウレタン系接着剤22を介して接着されることが好ましい。ウレタン系接着剤22はガラス板12に対する支持部材16の保持力を向上させることができる。ウレタン系接着剤22を適用する場合、支持部材16のガラス板12の第2面12Bに対向する面は、平坦であることが好ましい。支持部材16の平坦面は、ウレタン系接着剤22の厚さを均一にすることができる。接着強度が安定する。
【0025】
支持部材16の後側のエッジには、支持部材16のエッジに沿って樹脂製部材24が設けられる。樹脂製部材24は、支持部材16とガラス板12との接触に起因してガラス板12が損傷を受けるのを防止できる。
【0026】
図3及び
図4に示されように、支持部材16とヒンジ部材18とが別部材で構成され、支持部材16とヒンジ部材18とが固定される。支持部材16とヒンジ部材18との固定は、例えば、スポット溶接、またはカシメ等を適用することができる。
【0027】
ヒンジ部材18は、貫通孔21の形成された領域から、支持部材16の側に延設される領域と、樹脂製モール14に沿って延設され貫通孔20の形成された領域とを有し、全体として略L字型の形状を有している。
【0028】
図4に示されるように、支持部材16の車内側であって、貫通孔20の周囲にはグロメット30が配置される。
【0029】
図5に示されるように、支持部材16は、前側において、樹脂製モール14の断面形状に沿うようにU字型に形成される。支持部材16の一部であるU字型の部分が、樹脂製モール14のU字型の形状の部位に埋め込まれる。樹脂製モール14と支持部材16とが固定される。断面視でU字型の樹脂製モール14の開口部である挿入口15から、ガラス板12(不図示)の一辺が挿入される。樹脂製モール14がガラス板12の端面、第1面12A、及び第2面12Bの三面を保持する。ガラス板12と樹脂製モール14とは接着剤を介して接続することができる。接着剤は、樹脂製モール14のガラス板12に対する保持力を向上させる。
【0030】
ヒンジ部材18は、支持部材16の車内側の面に、固定される。ヒンジ部材18は、支持部材16に固定される領域18Aの位置から前側に延設されている。延設されたヒンジ部材18の領域18Bに貫通孔21が形成される。貫通孔21の形成される領域18Bは、領域18Aより車内側に位置する。領域18Aと領域18Bとは、ヒンジ部材18の折り曲げられた領域18Cにより連結される。ヒンジ部材18の領域18Bがボディ(不図示)に固定される。ヒンジ部材18の丸印を支点に、ヒンジ部材18が弾性変形することにより、ガラス板12(不図示)が開閉可能になる。
【0031】
図6に示されるように、樹脂製モール14は、延出部26を備えるので、断面視でJ字型を有している。
図5と同様に、樹脂製モール14の挿入口15からガラス板12(不図示)の一辺が挿入される。一方、
図5と異なり、樹脂製モール14の内部には何もインサートされていない。
【0032】
図3に示されるように、樹脂製モール14の領域M1には支持部材16の一部がインサートされる。樹脂製モール14の中央部の領域M2は何もインサートされていない。一対の支持部材16は離間され、かつ機械的には連結されていない。樹脂製モール14の領域M2は、樹脂製モール14の領域M1と比較すると、可撓性を有する。領域M2の可撓性は、組立時のガラス板12の曲率のばらつき、及び樹脂製モール14の自身の曲率のばらつきを吸収することを可能にする。
【0033】
次に、車両用ウインド装置の製造方法の一例について説明する。
図7に示されるように、車両用ウインド装置の製造方法は、樹脂製モール作製工程(ステップS1)、支持部材とヒンジ部材との固定工程(ステップS2)、及び樹脂製モールへのガラス板の保持工程(ステップS3)とを少なくとも備える。
【0034】
樹脂製モール作製工程(ステップS1)は、一対の支持部材を樹脂成形型に固定し、樹脂成形型に樹脂を射出し、支持部材の一部が埋め込まれた樹脂製モールを作製する工程である。いわゆるインジェクション成形である。一対の支持部材は機械的に連結されていない、別々の部材として準備される。
【0035】
例えば、支持部材に形成された貫通孔が、樹脂成形型に形成されたピンに挿入され、支持部材と樹脂成形型との位置決めが行われる。樹脂成形型のキャビティに樹脂を射出し、樹脂を固化することにより支持部材の一部が埋め込まれた樹脂製モールが作製される。
【0036】
支持部材とヒンジ部材との固定工程(ステップS2)は、樹脂成形型から取り出された樹脂製モールの支持部材とヒンジ部材とを固定する工程である。樹脂製モールに連結された支持部材が、不図示の治具に固定される。支持部材の車内面の側とヒンジ部材とが固定される。固定方法として、例えば、スポット3点溶接が用いられる。但し、固定方法は特に限定されない。この工程により、ヒンジユニットが作製される。
【0037】
樹脂製モールへのガラス板の保持工程(ステップS3)は、樹脂製モールにガラス板の一辺を保持させる工程である。
【0038】
樹脂製モールの挿入口からガラス板の一辺が挿入される。樹脂製モールが、ガラス板の周縁の三面を、例えば、保持する。ガラス板は、樹脂製モールだけでなく、支持部材にも保持される。
【0039】
樹脂製モールがガラス板を保持する保持力を向上するため、樹脂製モールとガラス板との間、及び支持部材とガラス板との間に、ウレタン系接着剤が配置される。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよい。
【符号の説明】
【0041】
1・・・車両、2・・・ウインドシールド、3・・・サイドドア、4・・・ドアガラス、5・・・サイドガラス、6・・・ヒンジユニット、7・・・ロック機構、8・・・リアガラス、10・・・車両用ウインド装置、12・・・ガラス板、12A・・・第1面、12B・・・第2面、14・・・樹脂製モール、15・・・挿入口、16・・・支持部材、18・・・ヒンジ部材、18A、18B、18C・・・領域、20、21・・・貫通孔、22・・・ウレタン系接着剤、24・・・樹脂製部材、26・・・延出部、28・・・両面テープ、30・・・グロメット