(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】塩化水素除去剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/12 20060101AFI20230509BHJP
B01D 53/68 20060101ALI20230509BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20230509BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20230509BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B01J20/12 A ZAB
B01J20/12 B
B01D53/68 100
B01D53/82
B01D53/14 100
B01D53/04
(21)【出願番号】P 2019091695
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-04-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.発行日:2018年12月1日、公開方法及び刊行物:USBメモリーにより講演予稿集を各発表者へ配布、The 7th Joint Conference on Renewable Energy and Nanotechnology(JCREN2018)講演予稿集(RE_09)、公開者:猿谷豪都志、徐維那、堂脇清志、亀山光男、鈴木正哉 2.ウェブサイトの掲載日:2019年1月9日、ウェブサイトのアドレス:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jiebiomassronbun/14/0/_contents/-char/ja、及び、https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jiebiomassronbun/14/0/_contents/-char/ja?from=1、公開者:猿谷豪都志、徐維那、堂脇清志、亀山光男、鈴木正哉 3.開催日:2019年1月16‐18日、集会名及び開催場所:第14回バイオマス科学会議、東広島芸術文化ホールくらら(広島県東広島市西条栄町7番19号)、公開者:猿谷豪都志、徐維那、堂脇清志、亀山光男、鈴木正哉
(73)【特許権者】
【識別番号】502229565
【氏名又は名称】株式会社ジャパンブルーエナジー
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113033
【氏名又は名称】平山 精孝
(72)【発明者】
【氏名】堂脇 直城
(72)【発明者】
【氏名】亀山 光男
(72)【発明者】
【氏名】堂脇 清志
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-200021(JP,A)
【文献】特開昭51-005287(JP,A)
【文献】特開2007-130598(JP,A)
【文献】特開昭49-062370(JP,A)
【文献】国際公開第2019/016927(WO,A1)
【文献】特開昭60-125225(JP,A)
【文献】特開2001-062289(JP,A)
【文献】特開2015-150543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28、20/30-20/34
B01D 53/02-53/12、53/14-53/18
F01N 3/00;3/02;3/04-3/38;9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鹿沼土、大沢土、味噌土及び水土より成る群から選ばれる一つ以上の物質
そのままのみからなることを特徴とする塩化水素除去剤。
【請求項2】
熱分解ガス、燃焼排ガス又は乾留ガスに含まれる塩化水素除去用の、請求項1記載の塩化水素除去剤。
【請求項3】
バイオマス熱分解ガスに含まれる塩化水素除去用の、請求項1記載の塩化水素除去剤。
【請求項4】
塩化水素除去温度が、100~350℃である、請求項1~3のいずれか一つに記載の塩化水素除去剤。
【請求項5】
塩化水素除去圧力が、0.090~0.150MPaである、請求項1~4のいずれか一つに記載の塩化水素除去剤。
【請求項6】
塩化水素含有ガスから、塩化水素除去剤を使用して塩化水素を除去する方法であって、該塩化水素除去剤が、鹿沼土、大沢土、味噌土及び水土より成る群から選ばれる一つ以上の物質
そのままのみからなることを特徴とする方法。
【請求項7】
上記塩化水素含有ガスが、バイオマス熱分解ガスである、請求項6記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化水素除去剤に関し、更に詳しくは、例えば、熱分解ガス、燃焼排ガス、乾留ガス等の塩化水素含有ガス中に含まれる塩化水素、とりわけ、バイオマス熱分解ガス中に含まれる塩化水素を除去するための塩化水素除去剤、及び、該塩化水素除去剤を使用して、上記塩化水素含有ガス中に含まれる塩化水素を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭及び石油等の化石燃料、一般廃棄物、可燃性廃棄物、食品残渣、バイオマス、例えば、木材、下水汚泥、畜産廃棄物等は、エネルギー源として焼却処理されたり、又は、熱処理されたりする。その際、焼却処理であれば燃焼排ガスが発生し、熱処理であれば熱分解ガス又は乾留ガスが発生する。燃焼排ガス中には、一般的に硫黄酸化物、塩化水素及び硝酸酸化物等が存在し、熱分解ガス及び乾留ガス中には、一般的に硫黄酸化物、塩化水素及び硝酸酸化物に加えて、硫化水素、シアン化水素及びアンモニア等が存在する。
【0003】
これら燃焼排ガス、熱分解ガス及び乾留ガス中に含まれる上記物質は、環境汚染物質とされている。そして、これら環境汚染物質を除去するための除去剤はいくつか知られている。例えば、アルミニウムの含水ケイ酸塩(以下「アロフェン」と称することがある。)を主成分とする多孔質土類、例えば、鹿沼土、大沢土を基質として、バインダー、及び酸又はアルカリを含有させてなるガス吸着材が提案されている(特許文献1)。該発明は、工場排ガスなどに含有される有害ガスを有効に吸着除去することができるガス吸着剤を提供することを目的とし、その実施例においては、アロフェンを主成分とする鹿沼土に、バインダーとしてのニトロセルロースを混合して乾燥した後、その乾燥鹿沼土に苛性ソーダ水溶液を十分噴霧することにより、HClガス等の酸性ガス吸着材を製造している。このように、該発明では、アロフェンを主成分とする多孔性土類に苛性ソーダ水溶液を含有させることにより、酸性ガス吸着材としての機能を発揮せしめるものである。また、本来、アロフェンを主成分とする多孔性土類に、水、又は、酸若しくはアルカリ等を含有する液体を流通されると、その粒子が崩壊してしまうことから、該発明においては、予め所定のバインダーを、該アロフェンを主成分とする多孔性土類に含浸せしめて、その粒子の崩壊を抑制した後、このようにして得られたバインダーを含浸した多孔性土類に、酸又はアルカリを含浸又は混合せしめて、粒子の崩壊の少ないガス吸着剤を得ようとするものである。該ガス吸着剤は、安価な基質、例えば、鹿沼土等を使用しながら、わざわざ手間暇をかけて吸着材を製造するのでコスト高になるという欠点があった。
【0004】
鹿沼土、味噌土、水土と呼ばれる火山灰軽石にはアロフェンが含まれ、そのアロフェンをアルカリ処理することによりメチレンブルー等の比較的大型のイオンの吸着性能に優れた吸着剤を得ることが提案されている(特許文献2)。このように、該吸着剤は、比較的大型のイオンの吸着に優れていることから、主として、染料、洗剤の廃水処理等の吸着剤として用いられる。また、該吸着剤は、鹿沼土、味噌土、水土等のアロフェン系粘土鉱物を微粉化した後、NaOH水溶液でアルカリ処理をし、次いで、乾燥成型することで製造される材料であり、微粉砕、アルカリ処理、成形等の工程を経て吸着剤を製造するので材料コストが高くなるという欠点があった。
【0005】
焼却炉排ガス中の酸性ガス、ダイオキシンの除去剤として、煙道に消石灰と、珪酸、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、合成珪酸、合成珪酸アルミニウム、合成珪酸マグネシウムを含む無機酸化物の多孔性物質、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、非晶質水酸化アルミニウム等の酸性ガス中和剤、酸性白土、活性白土、カオリン、ベントナイト、アロフェン、珪藻土等の粘土鉱物を酸処理したもの、活性炭又は活性コークスを含む焼却炉煙道吹込剤、及び、該吹込剤を使用する排ガス処理法が提案されている(特許文献3)。上記のように該吹込み剤においては、数多くの物質を使用し、場合によっては、合成物を使用したり、酸処理をすることにより製造されるため、材料コストが高くなるという欠点があった。
【0006】
燃焼排ガス中のダスト及び重金属を除去する方法として、アロフェン、イモゴライト、ゼオライト等の粘土鉱物をハニカム状のフィルター又はバグフィルターに塗布する方法が提案されている(特許文献4)。このように、該燃焼排ガスの処理方法は、ダスト及び重金属を対象とするものであり、かつ、該燃焼排ガス処理方法では微粉砕した粘土鉱物を、ハニカム構造物若しくはバグフィルターに塗布したり、又は、ハニカム構造物に成型したりする必要があるため、安価な基質(即ち、粘土鉱物等)を使用するにもかかわらず、微粉砕及び成型または塗布等の行程を必要とすることから材料コストが高くなるという欠点があった。
【0007】
従来、酸性ガス除去剤として消石灰が広く使用されている。この消石灰の酸性ガス除去性能を改善するために、ヒドロキシ基を含む有機系バインダーと、シリカゲル、珪藻土、ゼオライト、アロフェン、イモゴライト、酸性白土、活性白土、ベントナイト、ケイ酸塩、クリストバライト、カオリン、含水酸化ケイ素および石灰石等の無機化合物とを生石灰と混合して製造された酸性ガス除去剤が提案されている(特許文献5)。該酸性ガス除去剤においては、BET比表面積を十分に確保でき、かつ、十分な有効成分量を確保し得、加えて、COD値を低くすることができ、酸性ガス除去剤が用いられる際の環境負荷を抑えることができることから、焼却炉で発生する酸性ガスを効果的に除去し得るとしている。しかし、材料コストが著しく高くなるという欠点があった。
【0008】
アロフェンを、工業排水中に含まれるホスフィン酸イオン、ホスホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、鉛イオン等の重金属イオン等の有害イオンの吸着除去に有効に使用することを目的として、アロフェン系火山灰土壌から、所定の化学組成比を有するアロフェンを分離精製する方法が提案されている(特許文献6)。該方法は、工業排水に適用されるものであり、該方法によれば、粉砕したアロフェン系火山灰土壌を、乾式気流分級により不純物を分離して所定の化学組成比を有するアロフェンを得ることから、発生する微粉等の対策に更にサイクロン、バグフィルターを設ける必要があるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭51-5287号公報
【文献】特開平3-267144号公報
【文献】特開平11-33343号公報
【文献】特開2001-212427号公報
【文献】特開2013-166133号公報
【文献】特開平7-291617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、比較的低温で良好な塩化水素除去効果を奏するばかりではなく、該良好な塩化水素除去効果を比較的長時間に亘って保持し得、かつ、極めて安価な塩化水素除去剤を提供するものである。好ましくは、熱分解ガス、燃焼排ガス、乾留ガス等の塩化水素含有ガスの中に含まれる塩化水素、とりわけ、バイオマス熱分解ガスの中に含まれる塩化水素を除去するために有用な塩化水素除去剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
工場排ガス等に含まれる塩化水素を除去するための剤としては、一般的には炭酸カルシウム、消石灰等又はそれらを含む成形物が知られている。また、アロフェン系粘土鉱物を使用して塩化水素を除去する方法も知られている。しかし、上記の特許文献1に記載されているように、アロフェン系粘土鉱物は、そのままではガス吸着剤として実際に用いることが不可能であった。そこで、従来は、アロフェン系粘土鉱物にバインダーを含浸させ、次いで、酸又はアルカリ処理を施したり(特許文献1)、アロフェン系粘土鉱物を比較的アルカリが弱い特定条件下でアルカリ処理を施したり(特許文献2)、アロフェン系粘土鉱物を消石灰と混合したり(特許文献3及び5)してガス吸着剤として使用する試みがなされていた。また、アロフェン系粘土鉱物を、乾式気流分級を使用してアロフェンを分離精製することも試みられていた(特許文献6)。しかし、このような方法では、アロフェン系粘土鉱物の処理等にコストがかかるという欠点を有していた。
【0012】
そこで、本発明者らは、このようなアロフェン系粘土鉱物をそのまま使用することができないかについて鋭意検討を重ねた。その結果、下記所定の物質を使用すれば、該物質に何ら処理を施す必要がなく、該物質そのままで、十分に排ガス中の塩化水素の除去剤としての機能を発揮し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。好ましくは、下記の塩化水素除去温度及び/又は塩化水素除去圧力の条件下において、より良好な機能を発揮し得ることを見出したのである。
【0013】
即ち、本発明は、
(1)鹿沼土、大沢土、味噌土及び水土より成る群から選ばれる一つ以上の物質のみからなることを特徴とする塩化水素除去剤である。
【0014】
好ましい態様として、
(2)上記物質が、鹿沼土、大沢土、味噌土及び水土より成る群から選ばれる一つ以上である、上記(1)記載の塩化水素除去剤、
(3)上記物質が、鹿沼土である、上記(1)記載の塩化水素除去剤、
(4)熱分解ガス、燃焼排ガス又は乾留ガスに含まれる塩化水素除去用の、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の塩化水素除去剤、
(5)バイオマス熱分解ガスに含まれる塩化水素除去用の、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の塩化水素除去剤、
(6)塩化水素除去温度が、100~350℃である、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の塩化水素除去剤、
(7)塩化水素除去温度が、150~250℃である、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の塩化水素除去剤、
(8)塩化水素除去温度が、200~250℃である、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の塩化水素除去剤、
(9)塩化水素除去圧力が、0.090~0.150MPaである、上記(1)~(8)のいずれか一つに記載の塩化水素除去剤、
(10)塩化水素除去圧力が、0.100~0.120MPaである、上記(1)~(8)のいずれか一つに記載の塩化水素除去剤
を挙げることができる。
【0015】
また、本発明は、
(11)塩化水素含有ガスから、塩化水素除去剤を使用して塩化水素を除去する方法であって、該塩化水素除去剤が、鹿沼土、大沢土、味噌土及び水土より成る群から選ばれる一つ以上の物質のみからなることを特徴とする方法である。
【0016】
好ましい態様として、
(12)上記塩化水素除去剤が、鹿沼土、大沢土、味噌土及び水土より成る群から選ばれる一つ以上の物質のみからなる、上記(11)記載の方法、
(13)上記塩化水素除去剤が、鹿沼土のみからなる、上記(11)記載の方法、
(14)上記塩化水素含有ガスが、熱分解ガス、燃焼排ガス又は乾留ガスである、上記(11)~(13)のいずれか一つに記載の方法、
(15)上記塩化水素含有ガスが、バイオマス熱分解ガスである、上記(11)~(13)のいずれか一つに記載の方法、
(16)上記塩化水素の除去が、100~350℃の温度で実行される、上記(11)~(15)のいずれか一つに記載の方法、
(17)上記塩化水素の除去が、150~250℃の温度で実行される、上記(11)~(15)のいずれか一つに記載の方法、
(18)上記塩化水素の除去が、200~250℃の温度で実行される、上記(11)~(15)のいずれか一つに記載の方法、
(19)上記塩化水素の除去が、0.090~0.150MPaの圧力で実行される、上記(11)~(18)のいずれか一つに記載の方法、
(20)上記塩化水素の除去が、0.100~0.120MPaの圧力で実行される、上記(11)~(18)のいずれか一つに記載の方法
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塩化水素除去剤は、比較的低温で良好な塩化水素除去効果を奏するばかりではなく、該良好な塩化水素除去効果を比較的長時間に亘って保持し得る。加えて、塩化水素除去剤として、例えば、鹿沼土のような市販品を使用することができることから入手が容易であり、かつ、該物質をそのまま使用することができることから、他の物質との混合、特殊な形状への加工及びその他の処理を必要とせず、かつ、使用に際して特殊な装置を必要としない故にきわめて安価である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例において使用した塩化水素除去装置の概略図である。
【
図2】
図2は、実施例1および比較例1において、塩化水素含有窒素ガスの流通開始時から、30秒間毎に純水中に溶出した塩化水素量(体積ppm)の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の塩化水素除去剤は、鹿沼土、大沢土、味噌土及び水土より成る群から選ばれる一つ以上の物質のみからなる。本発明の塩化水素除去剤においては、上記の物質自体のみをそのまま使用するのであり、従来技術のようにバインダーを用いて成形したり、消石灰等と混合したり、酸又はアルカリ処理をしたり、あるいは、乾式気流分級等を用いて分離精製して濃縮処理しない。ここで、鹿沼土とは、栃木県鹿沼市産出の軽石の総称であり、長石、角閃石、カンラン石等を含有するものであり、大沢土とは、栃木県今市市大沢産出の軽石の総称であり、別名として今市土とも称され、磁鉄鉱、火山岩屑(安山岩、輝石、斜長石等)を含有するものであり、味噌土とは、長野県と山梨県北部の八ヶ岳山麓から産出する軽石の総称であり、水土とは、鳥取県の大山山麓から産出する軽石の総称である。
【0020】
上記本発明の塩化水素除去剤により、塩化水素を除去する際の温度は、その上限が、好ましくは350℃であり、より好ましくは250℃であり、一方、下限が、好ましくは100℃であり、より好ましくは150℃であり、更に好ましくは200℃である。上記下限未満では、塩化水素除去効果を十分に発揮できず、塩化水素除去量が減少することがある。一方、上記上限を超えては、温度を上昇させるために必要な熱エネルギーの増加及びそのための設備増強によるコスト高を招く。また、塩化水素を除去するに際しての圧力は、好ましくは、0.090~0.150MPaであり、より好ましくは0.100~0.120MPaである。通常、大気圧で実施することができる。
【0021】
本発明の塩化水素除去剤は、塩化水素含有ガスであれば特に制限はなく、いずれのガスについても使用することができる。例えば、熱分解ガス、燃焼排ガス又は乾留ガス等の塩化水素含有ガスに含まれる塩化水素の除去に使用することができ、とりわけ、バイオマス熱分解ガスに含まれる塩化水素の除去に好適に使用し得る。
【0022】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
実施例及び比較例において使用した物質及び装置は下記の通りである。
【0024】
<物質>
鹿沼土(平均粒径:2~5mm、市販品)
炭酸カルシウム:関東化学株式会社製、特級、粉末(平均粒径:12~15μm)
【0025】
<装置>
実験に使用した塩化水素除去装置(A)の概略図を
図1に示した。該装置(A)は、流通系の塩化水素除去装置であり、外径12.7mm、内径10.7mm及び高さ約50mmのステンレス鋼製の円筒形装置である。該塩化水素除去装置(A)内部の下部には焼結フィルター(3)が設置されており、その上にグラスウール(4)を敷き、該グラスウール(4)の上に塩化水素除去剤(6)を充填し、その上を、更に、グラスウール(4)で覆い、その上方に、気相部分(8)を介して焼結フィルター(3)を設置した。ここで、塩化水素除去剤(6)を充填した部分の高さ及び気相部分(8)の高さは、塩化水素除去剤(6)の充填量に依存して変化するが、夫々、約25~28mm及び約20~23mmである。塩化水素の除去に使用されるガスは、塩化水素除去装置(A)へのガス導入口(1)から取り入れられて、塩化水素除去装置(A)内を上昇して塩化水素の除去後に、ガス排出口(2)から取り出される。円筒形装置の外側には加熱装置(5)、ここではリボンヒーターが設けられている。また、塩化水素除去装置(A)上部の気相部分(8)には温度及び圧力測定装置(7)が設けられており、塩化水素除去装置(A)内部の温度及び圧力を測定できる。
【0026】
(実施例1)
塩化水素除去剤として、鹿沼土1.0gを使用した。これを軽くかき混ぜて混合し、塩化水素除去装置(A)の所定位置(6)に充填した。その後、塩化水素除去装置(A)内に窒素ガスを200ミリリットル/分で流通させて、塩化水素除去装置(A)内を窒素雰囲気(無酸素雰囲気)とし、次いで、該窒素ガスの流通を維持しつつ、加熱装置(5)であるリボンヒーターにより塩化水素除去装置(A)内の温度を200℃に昇温した。該温度が一定になったことを確認した後、窒素ガスから、塩化水素含有窒素ガス(HCl:1,177体積ppm、N2:balance)に切り替えて、これを塩化水素除去装置(A)内に、同じく200ミリリットル/分で流通させて、塩化水素除去装置(A)内の温度を200℃に維持しつつ、塩化水素の除去を実施した。このときの塩化水素除去装置(A)内の圧力は、0.015MPaG(絶対圧で0.116MPa)であった。
【0027】
上記の塩化水素含有窒素ガスの流通中、ガス排出口(2)から取り出された排ガス全量を、容器中に入れられた400ミリリットルの純水中に流通させることにより、該排ガス中の塩化水素を該純水中に溶出せしめた。この際、容器中の純水は攪拌機により全体が常に均一になるように十分に撹拌されていた。塩化水素が溶出した純水のpH値を、上記の塩化水素含有窒素ガスの流通開始時から30秒毎に測定することにより、30秒毎のpH値の変化を記録した。pH値の測定には、株式会社堀場製作所製ポータブル型pHメーターD-72(商標)を使用した。次いで、このようにして測定した、30秒毎のpH値の変化(ΔpH)から、対応する30秒間に純水中に溶出した塩化水素量(体積ppm)を算出した。
図2には、塩化水素含有窒素ガスの流通開始時点(0分)から、30秒間毎に純水中に溶出した塩化水素量(体積ppm)の変化を示した。そして、塩化水素含有窒素ガスの流通開始時点(0分)から、30秒間に純水中に溶出した塩化水素量が30体積ppmを超える直前のpH測定点までの時間を破過時間として記録した。該実質例における塩化水素除去剤の破過時間は、19.5分であった。
図2中、aが実施例1において使用した鹿沼土の破過曲線である。また、縦軸が、30秒間毎に純水中に溶出した塩化水素量(体積ppm)であり、横軸が、塩化水素含有窒素ガスの流通時間である。
【0028】
下記式(I)に基づいて、破過時間に至るまでの、塩化水素除去剤100質量部あたりの塩素除去量を算出した。これを塩化水素除去剤による塩化水素除去量の指標として用いた。上記の実験において、塩化水素除去剤100質量部あたり、塩素7.16質量部を除去することができた。
【化1】
上記の式(I)中、Frは、塩化水素含有窒素ガス流量[ミリリットル/分]、Fracは、塩化水素含有窒素ガス中の塩化水素濃度[体積ppm×10
-6]、BTは、破過時間[分]、Vは、ガスの標準状態のモル体積[リットル/モル]、Madsorbentは、塩化水素除去剤の使用量[g]である。また、式中の35.45は、塩素(Cl)の原子量である。ここで、塩化水素含有窒素ガス中の塩化水素濃度は、1,177体積ppmであり、ガスの標準状態のモル体積は22.4[リットル/モル]とした。
【0029】
(比較例1)
塩化水素除去剤を炭酸カルシウム1.0gに変更して使用した以外は、実施例1と同一にして塩化水素の除去を実施した。
図2には、塩化水素含有窒素ガスの流通開始時点(0分)から、30秒間毎に純水中に溶出した塩化水素量(体積ppm)の変化を示した。該比較例における塩化水素除去剤の破過時間は、2.5分であった。
図2中、bが比較例1において使用した炭酸カルシウムの破過曲線である。
【0030】
該実験において、塩化水素除去剤100質量部(炭酸カルシウム1.0g)あたり、塩素0.09質量部を除去することができた。
【0031】
(実施例2)
塩化水素除去装置(A)内の温度を150℃にした以外は、実施例1と同一にして実施した。該塩化水素除去剤の破過時間は、12.0分であった。塩化水素除去剤100質量部あたり、塩素4.59質量部を除去することができた。
【0032】
(比較例2)
塩化水素除去装置(A)内の温度を150℃にした以外は、比較例1と同一にして実施した。該塩化水素除去剤の破過時間は、2.0分であった。塩化水素除去剤100質量部あたり、塩素0.07質量部を除去することができた。
【0033】
(実施例3)
塩化水素除去装置(A)内の温度を100℃にした以外は、実施例1と同一にして実施した。該塩化水素除去剤の破過時間は、5.5分であった。塩化水素除去剤100質量部あたり、塩素2.02質量部を除去することができた。
【0034】
(比較例3)
塩化水素除去装置(A)内の温度を100℃にした以外は、比較例1と同一にして実施した。該塩化水素除去剤の破過時間は、1.5分であった。塩化水素除去剤100質量部あたり、塩素0.06質量部を除去することができた。
【0035】
上記の実施例1~3及び比較例1~3の結果を、下記の表1に示した。
【0036】
【0037】
実施例1は、塩化水素除去装置(A)内の温度200℃において、塩化水素除去剤として鹿沼土1.0g(100質量部)を使用して、塩化水素含有窒素ガスから塩化水素を除去したものである。塩化水素除去量の指標である塩素除去量は、塩化水素除去剤100質量部あたり7.16質量部と非常に良好であった。
【0038】
一方、比較例1は、鹿沼土に代えて炭酸カルシウム1.0gを使用して、塩化水素含有窒素ガスから塩化水素を除去したものである。塩化水素除去量の指標である塩素除去量は、0.09質量部であり、実施例1における塩素除去量7.16質量部と比較して著しく少ないものであった。
【0039】
実施例2及び比較例2は、塩化水素除去装置(A)内の温度を150℃としたものであり、また、実施例3及び比較例3は、塩化水素除去装置(A)内の温度を100℃としたものであり、その他の条件は、実施例1及び比較例1と同一にして塩化水素除去を実施したものである。
【0040】
表1の結果から明らかなように、鹿沼土を使用した実施例2における塩素除去量は、塩化水素除去剤100質量部あたり4.59質量部であり、炭酸カルシウムを使用した比較例2と比べて著しく良好であった。同様に、鹿沼土を使用した実施例3における塩素除去量は、塩化水素除去剤100質量部あたり2.02質量部であり、炭酸カルシウムを使用した比較例3における塩素除去量0.06質量部と比較して明らかに良好なものであった。
【0041】
上記のように、鹿沼土を塩化水素除去剤として使用すると、塩化水素除去量の指標である塩素除去量は、炭酸カルシウムに比べて著しく増大することが分かった。また、100℃から200℃へと塩化水素除去装置(A)内の温度が高くなるに従って、即ち、塩化水素を除去する際の温度が高くなるに従って、上記効果はより顕著になることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の塩化水素除去剤は、比較的低温で良好な塩化水素除去効果を有するばかりではなく、該良好な塩化水素除去効果を比較的長時間に亘って保持し得、加えて入手が容易できわめて安価であることから、今後、熱分解ガス、燃焼排ガス、乾留ガス等の塩化水素含有ガスに含まれる塩化水素の除去、とりわけ、バイオマス熱分解ガスに含まれる塩化水素の除去に使用されることが、大いに期待される。
【符号の説明】
【0043】
A 実験に使用した塩化水素除去装置
1 ガス導入口
2 ガス排出口
3 焼結フィルター
4 グラスウール
5 加熱装置(リボンヒーター)
6 塩化水素除去剤
7 温度及び圧力測定装置
8 気相部分
a 鹿沼土の破過曲線
b 炭酸カルシウムの破過曲線