(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】希土類化合物、発光体、発光デバイス、波長変換材料及びセキュリティ材料
(51)【国際特許分類】
C07F 5/00 20060101AFI20230509BHJP
C07C 49/167 20060101ALI20230509BHJP
C07F 9/53 20060101ALI20230509BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20230509BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230509BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20230509BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20230509BHJP
【FI】
C07F5/00 D
C07C49/167
C07F9/53
C07F19/00 CSP
C09K11/06 660
G02B5/20
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2019554282
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2018042320
(87)【国際公開番号】W WO2019098286
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2017221678
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】中西 貴之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖哉
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】伏見 公志
(72)【発明者】
【氏名】袴田 翔
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-094983(JP,A)
【文献】特開2016-166139(JP,A)
【文献】特開2007-210945(JP,A)
【文献】国際公開第2008/111293(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103320117(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07C
C09K
G02B
H01L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の3価の希土類イオンと、
下記式(I):
【化1】
で表され、C
1、C
2及びC
3は炭素原子を示し、ArはC
1、C
2及びC
3を含みX
1以外の置換基を有していてもよい、2価の単環芳香族基又は縮合多環芳香族基を示し、X
1はハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルカノイルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニルオキシ基、水酸基、カルボキシル基又はシアノ基を示し、R
1は置換基を有していてもよい芳香族基、又は直鎖若しくは環状脂肪族基を示し、同一分子内の複数のAr、X
1及びR
1は、それぞれ同一でも異なっていてもよい、2個のホスフィンオキシド配位子と、を含み、
Arが下記式(10)又は(11):
【化2】
で表される2価の芳香族基であり、式(10)及び(11)中、X
1
は式(I)中のX
1
と同義であり、複数のX
1
は同一でも異なっていてもよく、X
2
は芳香族環のX
1
が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した1価の置換基を示し、n1は0~2の整数を示し、n2は0~6の整数を示し、複数のX
2
は同一でも異なっていてもよく、X
1
が結合した炭素原子に隣接し結合手を有する炭素原子が、式(I)中のC
1
であり、
2個の前記希土類イオンが、それらの両方に配位した2個の前記ホスフィンオキシド配位子によって連結されている、希土類化合物。
【請求項2】
請求項
1に記載の希土類化合物を含む、発光体。
【請求項3】
請求項
2に記載の発光体を備える、発光デバイス。
【請求項4】
請求項
1に記載の希土類化合物を含む、波長変換材料。
【請求項5】
請求項
1に記載の希土類化合物を含む、セキュリティ材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類化合物、並びに、これを用いた発光体、発光デバイス、波長変換材料及びセキュリティ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
効率的に強く発光する蛍光材料は、発光デバイス、波長変換材料、セキュリティ材料のような種々の用途への適用が期待されている。蛍光材料としては、無機蛍光体(例えば、特許文献1)の他、有機配位子による強い光吸収を利用した希土類化合物も提案されている(例えば、特許文献2及び特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-196717号公報
【文献】国際公開第2012/150712号
【文献】国際公開第2016/143561号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光体は、高温下で発光強度が低下する傾向を有する。発光体を利用した各種デバイスの温度は、例えば発光ダイオード素子の場合150℃程度となることがあるが、そのような高温での発光強度低下は、効率低下、色収差のずれ、デバイス寿命の低下等の種々の問題の原因となり得る。特に、有機配位子を有する従来の希土類化合物は、高効率な強発光の点では優れているものの、高温下での発光強度が不足し易い傾向があった。
【0005】
そこで、本発明の一側面の目的は、有機配位子を有する希土類化合物に関して、高温下での発光強度の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、2個の3価の希土類イオンと、
下記式(I):
【化1】
で表される2個のホスフィンオキシド配位子と、を含み、2個の前記希土類イオンが、それらの両方に配位した2個の前記ホスフィンオキシド配位子によって連結されている、希土類化合物を提供する。式(I)において、C
1、C
2及びC
3は炭素原子を示し、ArはC
1、C
2及びC
3を含みX
1以外の置換基を有していてもよい、2価の単環芳香族基又は縮合多環芳香族基を示し、X
1はハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルカノイルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニルオキシ基、水酸基、カルボキシル基又はシアノ基を示し、R
1は置換基を有していてもよい芳香族基、又は直鎖若しくは環状脂肪族基を示す。同一分子内の複数のAr、X
1及びR
1は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0007】
式(I)において、C2とC1との結合は、便宜的に単結合として表記されているが、C2は単結合に限られず共有結合によってC1と直接結合していればよい。C2とC1との結合は、通常、芳香族基Arの共役系を構成する共有結合である。
【0008】
C1と隣接するC2に置換基X1がそれぞれ結合していることにより、平面性の芳香族基であるArが互いにねじれた配置となり易い。本発明者らの知見によれば、2個のホスフィンオキシド配位子が平面的な複数の芳香族基Arが互い違いにねじれた配置をとることで、安定したスタック構造を有する二核体が形成され、これが高温下での発光強度低下の抑制に寄与すると考えられる。
【0009】
本発明の別の一側面は、上記希土類化合物を含む、発光体及びセキュリティ材料を提供する。発光体は、例えば発光デバイスの光源として利用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、有機配位子を有する希土類化合物に関して、高温下での発光強度の低下を抑制することができる。本発明の一側面に係る希土類化合物は、半値福の狭い発光スペクトルを示すため、発光スペクトルの安定性の点でも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】Eu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2の熱重量・示差熱分析の結果を示すグラフである。
【
図2】Eu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2の25℃における発光励起スペクトルである。
【
図3】25℃及び200℃におけるEu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2の発光スペクトルである。
【
図4】希土類化合物の発光強度と、温度との関係を示すグラフである。
【
図5】Eu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2、Tb
2(hfa)
6(Fdpbp)
2及びYb
2(hfa)
6(Fdpbp)
2の25℃における発光励起スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
一実施形態に係る芳香族化合物は、2個の三価の希土類イオンと、
下記式(I):
【化2】
で表される2個のホスフィンオキシド配位子を含む。2個の希土類イオンが、それらの両方に配位した2個のホスフィンオキシド配位子によって連結されている。
【0014】
式(I)において、C1、C2及びC3は炭素原子を示す。ArはC1、C2及びC3を含みX1以外の置換基を有していてもよい、2価の単環芳香族基又は縮合多環芳香族基を示す。X1はハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルカノイルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニルオキシ基、水酸基、カルボキシル基又はシアノ基を示す。R1は置換基を有していてもよい芳香族基、又は直鎖若しくは環状脂肪族基を示す。同一分子内の複数のAr、X1及びR1は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0015】
X1としてのハロゲン原子は、フッ素原子、臭素原子又は塩素原子であってもよい。X1としての炭化水素基は、直鎖、分岐又は環状のアルキル基であってもよく、その例としてはメチル基及びエチル基が挙げられる。X1としてのアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、及びアルカノイルオキシ基の炭素数は1~20であってもよい。X1としてのアリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、又はアリールカルボニルオキシ基が有するアリール基は、フェニル基であってもよい。
【0016】
同一分子内の2個のArは、同一でも異なっていてもよいが、典型的には同一である。Arとしての単環芳香族基は、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基であることができる。単環芳香族基の例としては、ベンゼン、フラン、ピロール、又はチオフェンから2個の水素原子を除くことにより誘導される残基が挙げられる。Arとしての縮合多環芳香族基は、縮合多環芳香族炭化水素基又は縮合多環芳香族複素環基であることができる。縮合多環芳香族基の例としては、ピレン、コロネン、トリフェニレン、ナフタレン、又はフェナントレンから2個の水素原子を除くことにより誘導される残基が挙げられる。
【0017】
より具体的には、Arは、下記式(10)、(11)又は(12)で表される2価の芳香族基であってもよい。
【0018】
【0019】
式(10)中、X1は式(I)中のX1と同義であり、複数のX1は同一でも異なっていてもよい。X2は芳香族環のX1が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した1価の置換基を示し、n1は0~2の整数を示し、n2は0~6の整数を示し、n3は0~9の整数を示す。複数のX2は同一でも異なっていてもよい。X2は、例えば、炭素数1~20の炭化水素基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基又はメルカプト基であってもよい。X1とX2が同一の置換基であってもよい。これらの式において、X1が結合した炭素原子に隣接し結合手を有する炭素原子が、式(I)中の炭素原子C1に相当する。
【0020】
3価の希土類イオンは特に限定されず、発光色等に応じて、適宜選択することができる。希土類イオンは、例えば、Eu(III)イオン、Tb(III)イオン、Gd(III)イオン、Sm(III)イオン、Yb(III)イオン、Nd(III)イオン、Er(III)イオン、Y(III)イオン、Dy(III)イオン、Ce(III)イオン、及びPr(III)イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることができる。なかでも、高い発光強度を得る観点から、希土類イオンは、Eu(III)イオン、Tb(III)イオン、Yb(III)イオン及びGd(III)イオンからなる群、又は、Eu(III)イオン、Tb(III)イオン及びGd(III)イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0021】
希土類化合物は、式(I)で表されるホスフィンオキシド配位子を2個以上有していればよく、希土類イオンに配位したその他の配位子を更に有し得る。その他の配位子は、例えば下記式(II)で表されるジケトン配位子であってもよい。
【0022】
【0023】
式(II)中、R2は水素原子又は重水素原子を示し、R3は置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、R2及びR3が連結して環状基を形成していてもよい。2個のR2は同一でも異なっていてもよい。R3はアルキル基又はハロゲン化アルキル基であってもよく、その炭素数は1~10であってもよい。R3は炭素数1~5のフルオロアルキル基(例えばトリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基)であってもよい。
【0024】
式(II)で表される化合物であって、R2及びR3が連結して環状基を形成している化合物の例として、下記式(IIa)で表されるカンファー誘導体及びその鏡像異性体が挙げられる。2種の鏡像異性体を任意の比率で組み合わせてもよい。
【0025】
【0026】
式(IIa)中、R3は式(II)のR3と同義である。R4、R5及びR6はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、R7、R8、R9及びR10はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。
【0027】
R4、R5及びR6は置換基を有していてもよいアルキル基であってもよく、その炭素数は1~5であってもよい。R4、R5及びR6の具体例としては、メチル基が挙げられる。
【0028】
R7、R8、R9及びR10はそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基であってもよく、その炭素数は1~5であってもよい。R7、R8、R9及びR10が水素原子であってもよい。
【0029】
式(IIa)で表される化合物及びその鏡像異性体の具体例としては、3-(トリフルオロアセチル)カンホラート、及び3-(パーフルオロブチリル)-(±)-カンホラートが挙げられる。
【0030】
2個の希土類イオンと、2個の式(I)のホスフィンオキシド配位子と、式(II)のジケトン配位子とを有する希土類化合物は、例えば下記式(III)で表される。式(III)が示すように、芳香族基Arが、C1-C1結合のまわりに互い違いにねじれた配置となり易い。
【0031】
【0032】
希土類化合物は、既存の希土類化合物の配位子を交換する反応など、通常の反応を組み合わせた方法により、合成することができる。
【0033】
以上説明した実施形態に係る希土類化合物は、その蛍光特性を利用して、単独で又はその他の材料と組み合わせて、高温でも効率的に発光する発光体を構成することができる。発光体は、例えばLED、レーザー白色光源モジュールのような各種の発光デバイスにおいて用いることができる。発光デバイスの駆動温度は100℃を超えることが多く、高温下で強い発光を維持する希土類化合物が非常に有用である。さらに、本実施形態に係る希土類化合物は、波長変換材料、又はプラスチック材料等の各種の材料に暗号情報を付与するセキュリティ材料としても有用である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
検討1
1-1.希土類化合物の合成
ホスフィンオキシド配位子Fdpbp
下記反応式に従って、ホスフィンオキシド配位子Fdpbpを合成した。
【化7】
【0035】
アルゴン雰囲気下、フレームドライした三ツ口フラスコに4,4’-ジブロモオクタフルオロビフェニル(5.2 g, 11.4 mmol)を入れ、これを超脱水THF(70 mL)に溶解させた。フラスコ内を-80℃まで冷却してから、n-ブチルリチウム(1.6 M in hexane, 14 mL)をゆっくり滴下し、反応液を1時間撹拌した。次いで、クロロジフェニルホスフィン(4.4 mL, 23.8 mmol)を加え、反応液を更に1時間撹拌した。反応液を室温に戻して12時間撹拌した後、溶媒を除去し、残渣から塩化メチレンと食塩水で3回抽出した。有機層を氷浴中で過酸化水を用いて酸化してから、有機層から食塩水で3回抽出した。ヘキサンで再沈殿することでFdpbp(白色粉体、収率40~50%)を得た。
1H-NMR:(270 MHz, CDCl3, 25℃) δ 7.76-7.85 (8H, Ar), 7.59-7.66 (4H , Ar),7.50-7.58 (8H , Ar) ppm.
IR (ATR) : 1243 cm-1(st, P=O)
【0036】
希土類化合物Eu2(hfa)6(Fdpbp)2
ナス型フラスコにFdpbp(349.6mg, 0.5 mmol)を入れ、これを加熱したクロロホルム(20 mL)に溶解させた。別の容器内でEu(hfa)3(H2O)2(406.8 mg, 0.5 mmol)をメタノール(20 mL)に溶解させた。そのメタノール溶液をFdpbpのクロロホルム溶液に滴下し、12時間加熱還流した。その後、反応液からの再結晶により、Eu2(hfa)6(Fdpbp)2(無色透明結晶、300 mg、収率41%)を得た。
IR (KBr) : 1655 cm-1 (st, C=O),1255 cm-1 (st, P=O)
ESI-MS mass m/z = 2965.92 [M+Na]+
【0037】
【0038】
1-2.X線回析
Eu2(hfa)6(Fdpbp)2の単結晶のX線回析の結果から、2個のEuイオンに結合したホスフィンオキシド配位子Fdpbpの2個のテトラフルオロフェニレン基が、上記式に示されるように互い違いにねじれた向きで配置されている安定した構造が形成されていることが示唆された。
【0039】
1-3.熱重量・示差熱分析(TG-DTA)
図1は、Eu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2の熱重量・示差熱分析の結果を示すグラフである。Eu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2が300℃を超える高い分解温度を示すことが確認された。
【0040】
1-4.発光励起スペクトル
Eu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2の発光励起スペクトルを測定した。
図2は、Eu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2の25℃における発光励起スペクトルである。さらに、200℃における発光スペクトルも測定した。
図3は、25℃及び200℃におけるEu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2の発光スペクトルである。Eu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2は、200℃において、常温での値と比較して70%以上の発光強度を維持した。
【0041】
下記式で表される配位子TCPO及びdpbpと、配位子hfaと、Euイオンとで形成された繰り返し単位を有するユーロピウム錯体ポリマーを準備した。また、3-(トリフルオロメチルヒドロキシメチレン)-(+)-カンホラート(+facam)も準備し、これとhfaを配位子として有するユーロピウム錯体を準備した。これらとEu2(hfa)6(Fdpbp)2について、発光強度の温度による変化を測定した。
【0042】
【0043】
図4は、各種の希土類化合物について、波長613nmにおける発光強度と、温度との関係を示すグラフである。縦軸は、25℃における発光強度に対する相対値である。Eu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2は、他の希土類錯体と比較しても、高温での発光強度の減少が少ないことが確認された。
【0044】
検討2
2―1.希土類化合物の合成
希土類化合物Tb2(hfa)6(Fdpbp)2
ナス型フラスコにFdpbp(349.6mg, 0.5 mmol)を入れ、これを加熱したクロロホルム(20 mL)に溶解させた。別の容器内でTb(hfa)3(H2O)2(407.0 mg, 0.5 mmol)をメタノール(20 mL)に溶解させた。そのメタノール溶液をFdpbpのクロロホルム溶液に滴下し、12時間加熱還流した。その後、反応液からの再結晶により、Tb2(hfa)6(Fdpbp)2(無色透明結晶、350 mg、収率47%)を得た。
IR (KBr) : 1655 cm-1 (st, C=O),1253 cm-1 (st, P=O)
ESI-MS mass m/z = 2979.92 [M+Na]+
【0045】
希土類化合物Yb2(hfa)6(Fdpbp)2
ナス型フラスコにFdpbp(349.6mg, 0.5 mmol)を入れ、これを加熱したクロロホルム(20 mL)に溶解させた。別の容器内でYb(hfa)3(H2O)2(407.5 mg, 0.5 mmol)をメタノール(20 mL)に溶解させた。そのメタノール溶液をFdpbpのクロロホルム溶液に滴下し、12時間加熱還流した。その後、反応液からの再結晶により、Yb2(hfa)6(Fdpbp)2(無色透明結晶、270 mg、収率35%)を得た。
IR (KBr) : 1653 cm-1 (st, C=O),1253 cm-1 (st, P=O)
【0046】
2-2.発光励起スペクトル
Tb
2(hfa)
6(Fdpbp)
2及びYb
2(hfa)
6(Fdpbp)
2の25℃における発光スペクトル(励起光:350nm)を測定した。
図5は、Eu
2(hfa)
6(Fdpbp)
2、Tb
2(hfa)
6(Fdpbp)
2及びYb
2(hfa)
6(Fdpbp)
2の25℃における発光励起スペクトルである。Tb化合物は緑色、Eu化合物は赤色、Yb化合物は赤外域の発光を示した。