(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】離型条件評価方法、離型条件評価システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 33/42 20060101AFI20230509BHJP
B29C 45/76 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B29C33/42
B29C45/76
(21)【出願番号】P 2023507393
(86)(22)【出願日】2023-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2023003024
【審査請求日】2023-02-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 文広
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和夫
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-154536(JP,A)
【文献】特開2009-149845(JP,A)
【文献】特開2003-291175(JP,A)
【文献】特開2022-158689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 - 33/76
B29C 45/00 - 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面エネルギーを算出する算出手段と、データベースに登録されている付着仕事を抽出する抽出手段と、離型条件を評価する評価手段と、を備えた離型条件評価システムによる離型条件評価方法であって、
前記算出手段が、対象金型を構成する対象鋼材の表面における第1表面エネルギー、および、前記対象金型で成形品を成形する対象樹脂材料の表面における第2表面エネルギーに基づき、前記対象鋼材および前記対象樹脂材料それぞれの表面が接触して形成される界面の界面エネルギーを算出する算出手順と、
前記抽出手段が、複数種類の樹脂材料それぞれと前記対象鋼材との界面における温度に応じた付着仕事が登録されたデータベースから、前記対象樹脂材料に対応する付着仕事であり、かつ、前記算出手順にて算出した界面エネルギー以上となる付着仕事を抽出する抽出手順と、
前記評価手段が、前記抽出手順にて抽出した付着仕事に基づき、前記対象金型で前記対象樹脂材料による成形品を成形する際の離型条件を評価する評価手順と、を備え、
前記評価手順では、
前記評価手段が、前記抽出手順にて抽出した付着仕事および該付着仕事に対応する温度を前記離型条件として評価する、
離型条件評価方法。
【請求項2】
前記抽出手順では、
前記抽出手段が、複数種類の樹脂材料それぞれと前記対象鋼材との界面における温度に応じた付着仕事、および、温度に応じて降伏点を超えることなく弾性変形可能な特定離型速度が登録されたデータベースから、前記対象樹脂材料に対応し、かつ前記算出手順にて算出した界面エネルギー以上となる付着仕事、および、該付着仕事に対応する温度における前記特定離型速度を抽出して、
前記評価手順では、
前記評価手段が、前記抽出手順にて抽出した付着仕事、該付着仕事に対応する温度、および、前記特定離型速度を前記離型条件として評価する、
請求項1に記載の離型条件評価方法。
【請求項3】
前記離型条件評価システムが、それぞれ表面エネルギーを特定する第1特定手段および第2特定手段をさらに備えている場合において、
前記第1特定手段が、対象金型を構成する対象鋼材の表面における第1表面エネルギーを特定する第1特定手順と、
前記第2特定手段が、前記対象金型で成形品を成形する対象樹脂材料の表面における第2表面エネルギーを特定する第2特定手順と、を備え、
前記算出手順では、
前記算出手段が、前記第1特定手順にて特定した前記第1表面エネルギー、および、前記第2特定手順にて特定した前記第2表面エネルギーに基づいて前記界面エネルギーを算出する、
請求項1または請求項2に記載の離型条件評価方法。
【請求項4】
対象金型を構成する対象鋼材の表面における第1表面エネルギー、および、前記対象金型で成形品を成形する対象樹脂材料の表面における第2表面エネルギーに基づき、前記対象鋼材および前記対象樹脂材料それぞれの表面が接触して形成される界面の界面エネルギーを算出する算出手段と、
複数種類の樹脂材料それぞれと前記対象鋼材との界面における温度に応じた付着仕事が登録されたデータベースから、前記対象樹脂材料に対応する付着仕事であり、かつ、前記算出手段により算出された界面エネルギー以上となる付着仕事を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された付着仕事に基づき、前記対象金型で前記対象樹脂材料による成形品を成形する際の離型条件を評価する評価手段と、を備え、
前記評価手段は、前記抽出手段により抽出された付着仕事および該付着仕事に対応する温度を前記離型条件として評価する、
離型条件評価システム。
【請求項5】
コンピュータを請求項4に記載の各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型で樹脂材料による成形品を成形する際の離型条件を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型で樹脂材料による成形品を成形するに際しては、樹脂メーカの推奨する条件や職人の経験によって、離型時の温度やノックアウトピンによる離型速度などの離型条件まで定められることが一般的であるが、離型不良による意図しない成形品の変形が発生してしまい、離型条件の再設定が必要になるケースも多い。
【0003】
この問題の対策として、近年では、離型不良による成形品の変形を抑制すべく、事前に離型条件を評価することも提案されている(特許文献1参照)。具体的には、樹脂材料による組成物を金属板上でトランスファー成形してその表面エネルギーが一定値以上であれば離型性良好と判断する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただ、上記技術では、事前に各材料を用いた成形が必要になるため、離型性良好となるまでに多くの成形が必要になるなど、離型条件の評価に多くの時間とコストを要してしまうといった課題があった。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、より時間とコストを抑えて簡便に離型性を評価できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため第1局面は、対象金型を構成する対象鋼材の表面における第1表面エネルギー、および、前記対象金型で成形品を成形する対象樹脂材料の表面における第2表面エネルギーに基づき、前記対象鋼材および前記対象樹脂材料それぞれの表面が接触して形成される界面の界面エネルギーを算出する算出手順と、複数種類の樹脂材料それぞれと前記対象鋼材との界面における温度に応じた付着仕事が登録されたデータベースから、前記対象樹脂材料に対応する付着仕事であり、かつ、前記算出手順にて算出した界面エネルギー以上となる付着仕事を抽出する抽出手順と、前記抽出手順にて抽出した付着仕事に基づき、前記対象金型で前記対象樹脂材料による成形品を成形する際の離型条件を評価する評価手順と、を備え、前記評価手順では、前記抽出手順にて抽出した付着仕事および該付着仕事に対応する温度を前記離型条件として評価する、離型条件評価方法である。
【0008】
また、上記局面は以下に示す第2局面のようにしてもよい。
第2局面において、前記抽出手順では、複数種類の樹脂材料それぞれと前記対象鋼材との界面における温度に応じた付着仕事、および、温度に応じて降伏点を超えることなく弾性変形可能な特定離型速度が登録されたデータベースから、前記対象樹脂材料に対応し、かつ前記算出手順にて算出した界面エネルギー以上となる付着仕事、および、該付着仕事に対応する温度における前記特定離型速度を抽出して、前記評価手順では、前記抽出手順にて抽出した付着仕事、該付着仕事に対応する温度、および、前記特定離型速度を前記離型条件として評価する。
【0009】
また、上記局面は以下に示す第3局面のようにしてもよい。
第3局面において、対象金型を構成する対象鋼材の表面における第1表面エネルギーを特定する第1特定手順と、前記対象金型で成形品を成形する対象樹脂材料の表面における第2表面エネルギーを特定する第2特定手順と、を備え、前記算出手順では、前記第1特定手順にて特定した前記第1表面エネルギー、および、前記第2特定手順にて特定した前記第2表面エネルギーに基づいて前記界面エネルギーを算出する。
【発明の効果】
【0010】
上記局面の離型性評価方法では、対象金型で対象樹脂材料による成形品を成形する際の離型条件として、付着仕事および温度を評価することができる。そのため、この評価結果に基づいて離型温度など具体的な離型条件を簡易的に設定することができる。
【0011】
ここでは、対象鋼材、対象樹脂材料それぞれの表面エネルギーに基づいて簡便に離型条件を評価できるため、事前に各材料を用いた成形が不要となる結果、離型条件の評価に要する時間とコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態における離型性評価システム1の装置構成を示すブロック図
【
図2】本開示の一実施形態における離型条件評価方法の手順を示すフローチャート
【
図3】本開示の一実施形態における第1特定手順、第2特定手順の様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態を、図面を参照して詳細に説明する。
(1)装置構成
【0014】
離型性評価システム1は、本開示の離型性評価方法を実施するために使用される装置であり、
図1に示すように、画像撮影用のカメラ10、外部との通信を制御する通信部20、ユーザとのやりとりを行うユーザインタフェース30、情報を記憶するためのメモリ40、離型性評価システム1全体の動作を制御する制御部50を備える携帯情報端末である。
【0015】
ユーザインタフェース30は、ディスプレイ31や、ディスプレイ31の表示面に沿って設置されたタッチパネル33を備える。
【0016】
(2)離型性評価方法の手順;
図2
本離型性評価方法では、まず、対象金型を構成する対象鋼材の表面における第1表面エネルギーを特定する第1特定手順が実施される(s110)。ここでは、液滴法により第1表面エネルギーを特定する。
【0017】
具体的には、
図3に示すように、対象鋼材と同じ材料により構成されたサンプル100の表面に2種類の溶液110、120を別々に滴下し、それぞれの液滴における接触角θ1、θ2を測定した後、下記数式1、数式2の連立方程式を解くことにより対象鋼材における表面エネルギーをγA(=分散成分γAd+極性成分γAp)を算出する。これら数式では、各溶液における既知の表面エネルギーをγ1(=分散成分γ1d+極性成分γ1p)、γ2(=分散成分γ2d+極性成分γ2p)として計算する。
【0018】
【0019】
なお、液滴における接触角θ1、θ2の測定は、カメラ10などで液滴を側方から撮影した画像に基づいて実測する、滴下する液滴量や平面視で円形に拡がる液滴の面積などに基づいて近似的に算出する、といった方法が考えられる。
本実施形態では、サンプル100として合金鋼(SKD61)、溶液110として水(H2O)、溶液120としてジョードメタン(CH2I2)をそれぞれ用い、各溶液の接触角θ1、θ2の測定値(θ1=85.4°、θ2=37.7°)に基づいて上記数式の連立方程式を解いたところ、対象鋼材の表面エネルギーγAとして39.4mJ/mm2(=分散成分γAd+極性成分γAp=38.7+0.7)が算出された。
【0020】
次に、対象金型で成形品を成形する対象樹脂材料の表面における第2表面エネルギーを特定する第2特定手順が実施される(s120)。ここでは、上記と同様、液滴法により第2表面エネルギーを特定する。
【0021】
具体的には、対象樹脂材料と同じ材料により構成されたサンプル200の表面に2種類の溶液210、220を別々に滴下し、それぞれの液滴における接触角θ1、θ2を測定した後、下記数式3、数式4の連立方程式を解くことにより対象樹脂材料における表面エネルギーをγB(=分散成分γBd+極性成分γBp)を算出する。これら数式では、各溶液における既知の表面エネルギーをγ1(=分散成分γ1d+極性成分γ1d)、γ2(=分散成分γ2d+極性成分γ2p)として計算する。
【0022】
【数2】
本実施形態では、サンプル200としてポリアミド、溶液110として水(H2O)、溶液120としてジョードメタン(CH2I2)をそれぞれ用い、各溶液の接触角θ1、θ2の測定値(θ1=78.5°、θ2=27.9°)に基づいて上記数式の連立方程式を解いたところ、対象樹脂材料の表面エネルギーγBとして45.3mJ/mm2(=分散成分γAd+極性成分γAp=41.7+3.6)が算出された。
【0023】
次に、s110にて特定された第1表面エネルギーγA、および、s120にて特定された第2表面エネルギーγBに基づき、対象鋼材および対象樹脂材料それぞれの界面における界面エネルギーを算出する算出手順が実施される(s130)。ここでは、下記数式5に基づいて界面エネルギーγABを算出する。
【0024】
【数3】
本実施形態では、サンプル100である合金鋼およびサンプル200であるポリアミドそれぞれの界面エネルギーγABとして、上記数式に基づいて1.1mJ/mm2が算出された。
【0025】
本実施形態において、この算出手順は、制御部50が内蔵メモリ51に格納されたプログラムに従って実行する離型性評価処理の一ステップ(界面エネルギー算出処理)である。具体的には、タッチパネル33への所定の操作を受けたり、通信部20を介して受信したりすることで第1表面エネルギーγAおよび第2表面エネルギーγBを取得した後、これらに基づいて界面エネルギーγABを算出する処理が実行される。
【0026】
次に、対象樹脂材料に対応する付着仕事をあらかじめ用意されたデータベースから抽出する抽出手順が実施される(s140)。データベースは、複数種類の樹脂材料それぞれに対し、対象鋼材との界面における温度に応じた付着仕事(=界面の剥離に必要なエネルギー)、および、温度に応じて降伏点を超えることなく弾性変形可能な特定離型速度が登録されたものである。そして、この抽出手順では、上記データベースから、対象樹脂材料に対応する付着仕事であり、かつ算出手順にて算出した界面エネルギー以上となる付着仕事と、この付着 仕事に対応する温度における特定離型速度と、を抽出する。
【0027】
本実施形態において、この抽出手順は、上述した離型性評価処理の一ステップ(付着仕事抽出処理)である。具体的には、界面エネルギー算出処理にて算出された界面エネルギー、および、メモリ40にあらかじめ格納されたデータベースから該当する付着仕事および特定離型速度を抽出する処理が実行される。
【0028】
そして、上述した抽出手順にて抽出した付着仕事に基づき、対象金型で対象樹脂材料による成形品を成形する際の離型条件を評価する評価手順、が実施される(s150)。ここでは、抽出手順にて抽出した付着仕事、この付着仕事に対応する温度、および、特定離型速度を離型条件として評価する。
【0029】
本実施形態において、この評価手順は、上述した離型性評価処理の一ステップ(条件評価処理)である。具体的には、付着仕事抽出処理にて抽出された付着仕事、温度および特定離型速度を、これらパラメータに基づいてどのような離型条件とすべきかといった情報とともにディスプレイ31に表示する処理が実行される。
【0030】
(3)変形例
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0031】
例えば、上記実施形態では、離型性評価システム1としての機能が単一の携帯情報端末に搭載されている構成を例示した。しかし、離型性評価システム1は、必要な機能それぞれが複数の装置に分散して搭載されたものであってもよい。
【0032】
(4)作用効果
上記実施形態の離型性評価方法では、対象金型で対象樹脂材料による成形品を成形する際の離型条件として、付着仕事、温度および特定離型速度を評価することができる。そのため、この評価結果に基づいて離型温度や離型速度など具体的な離型条件を簡易的に設定することができる。
【0033】
ここでは、対象鋼材、対象樹脂材料それぞれの表面エネルギーに基づいて簡便に離型条件を評価できるため(
図3参照)、事前に各材料を用いた成形が不要となる結果、離型条件の評価に要する時間とコストを削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本開示の離型性評価方法では、対象金型で対象樹脂材料による成形品を成形する際の離型条件として、付着仕事、温度および特定離型速度を評価することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…離型性評価システム、10…カメラ、20…通信部、30…ユーザインタフェース、31…ディスプレイ、33…タッチパネル、40…メモリ、50…制御部、51…内蔵メモリ、100…サンプル、110…溶液、120…溶液、200…サンプル、210…溶液、220…溶液。
【要約】
対象金型を構成する対象鋼材の表面における第1表面エネルギー、および、前記対象金型で成形品を成形する対象樹脂材料の表面における第2表面エネルギーに基づき、前記対象鋼材および前記対象樹脂材料それぞれの表面が接触して形成される界面の界面エネルギーを算出する算出手順と、複数種類の樹脂材料それぞれと前記対象鋼材との界面における温度に応じた付着仕事が登録されたデータベースから、前記対象樹脂材料に対応する付着仕事であり、かつ、前記算出手順にて算出した界面エネルギー以上となる付着仕事を抽出する抽出手順と、前記抽出手順にて抽出した付着仕事に基づき、前記対象金型で前記対象樹脂材料による成形品を成形する際の離型条件を評価する評価手順と、を備え、前記評価手順では、前記抽出手順にて抽出した付着仕事および該付着仕事に対応する温度を前記離型条件として評価する、離型条件評価方法。