(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】廃石膏ボードからの二水石膏の回収方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/46 20060101AFI20230509BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20230509BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C01F11/46 C
B09B3/40
B09B5/00 F
(21)【出願番号】P 2018244395
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(73)【特許権者】
【識別番号】512232399
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ・チヨダジプサム
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】平中 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】松尾 健太郎
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-117617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/46
B09B 3/40
B09B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃石膏ボード由来の石膏をか焼することにより半水及び/又は無水III型の石膏粒体とし、前記石膏粒体を混合器で二水石膏粒子を含む水性スラリーと混合することによりスラリー原液とし、前記スラリー原液を析出槽へ供給して石膏スラリーとし、析出槽中で石膏スラリー中に二水石膏粒子を析出させ、固液分離する二水石膏の回収方法において、
前記混合器及び混合器から析出槽までの配管中の、スラリー原液の合計体積をV0(m
3)、前記石膏粒体の混合器への時間当たりの投入量をw0(ton/hr)、石膏粒体の真比重をd(g/cm
3)、前記混合器への水性スラリーの時間当たりの投入量をu0(m
3/hr)とする際に、 Tr=V0/(u0+w0・d
-1)×3600(秒)で定まる、混合器及び配管でのスラリー原液の滞在時間Trを5秒以下0.1秒以上とすることを特徴とする、廃石膏ボードからの二水石膏の回収方法。
【請求項2】
前記析出槽が複数段の槽から成る場合は初段の析出槽での、1段の槽から成る場合には析出槽全体での、石膏スラリーの体積をVとして、Tc=V/(u0+w0・d
-1)×60(分)で定まる時間Tcを5分以上100分以下とすることを特徴とする、請求項1の廃石膏ボードからの二水石膏の回収方法。
【請求項3】
前記水性スラリーの温度Tsを60℃±20℃、前記水性スラリー中の石膏分の二水石膏換算での濃度Cを20mass%以上50mass%以下とすることを特徴とする、請求項1または2の廃石膏ボードからの二水石膏の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は廃石膏ボードからの二水石膏の回収に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は廃石膏ボードからの二水石膏の回収を工業化することに成功した。二水石膏の回収方法を、出願人の特許文献1(WO2012/176688A)に従って説明する。廃石膏ボードを粉砕し、紙片等の異物を二水石膏から分離し、二水石膏をか焼し半水石膏等に変換する。半水石膏を混合槽で石膏スラリーと混合し、析出槽へ移してスラリー中に二水石膏粒子を析出させると共に、スラリーを混合槽へ還流する。振動篩等により残存する紙片等を除去した後、析出した二水石膏粒子をフィルタープレス等の固液分離装置により抽出する。なお抽出した二水石膏は石膏ボードの原料等となる。
【0003】
混合槽の役割を説明する。混合槽で半水石膏を石膏スラリーと混合すると、石膏スケールが器壁等に発生する。スケールの発生を完全に防止することは難しく、スケールの除去作業が必要である。仮に半水石膏を析出槽へ直接投入すると、析出槽に石膏スケールが発生し、スケールの除去作業が大がかりになる。これに対して、析出槽の上流に混合槽を設け、スケールの発生個所を混合槽に限定すると、スケールの除去が簡単になる。
【0004】
混合槽には、二水石膏粒子を含むスラリー、例えば析出槽の石膏スラリー、を供給する。石膏スラリーは二水石膏の種結晶を含んでいるので、スラリー中の石膏分は種結晶表面に析出し、同時にスラリー中の石膏の過飽和度も低下する。このため、比較的大きな二水石膏粒子が得られる。そして平均粒径が大きな二水石膏は、付着水量が少ないため取り扱いやすく、工業的価値も高い。
【0005】
混合槽に関する先行特許を説明する。出願人の特許文献2(WO2014/141926A)では、混合槽への半水石膏の投入口付近を加熱し、投入口が石膏スケールにより塞がれることを防止する。
【0006】
出願人の特許文献3(特許6336385B)では、混合槽内に石膏スラリーの旋回流を生成させ、旋回流と同じ向きに石膏スラリーを排出する。これにより排出する石膏スラリーへの空気の巻き込みを抑制する。石膏スラリーは混合槽から析出槽へ流体ポンプで送り出されるので、空気の巻き込みを抑制すると、ポンプのキャビテーションを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2012/176688A
【文献】WO2014/141926A
【文献】特許6336385B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の課題は、廃石膏ボードから二水石膏を回収するに際して、二水石膏粒子の平均粒径を大きくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、廃石膏ボード由来の石膏をか焼することにより半水及び/又は無水III型の石膏粒体とし、前記石膏粒体を混合器で二水石膏粒子を含む水性スラリーと混合することによりスラリー原液とし、前記スラリー原液を析出槽へ供給して石膏スラリーとし、析出槽中で石膏スラリー中に二水石膏粒子を析出させ、固液分離する二水石膏の回収方法において、
前記混合器及び混合器から析出槽までの配管中の、スラリー原液の合計体積をV0(m3)、前記石膏粒体の混合器への時間当たりの投入量をw0(ton/hr)、石膏粒体の真比重をd(g/cm3)、前記混合器への水性スラリーの時間当たりの投入量をu0(m3/hr)とする際に、 Tr=V0/(u0+w0・d-1)×3600(秒)で定まる、混合器及び配管でのスラリー原液の滞在時間Trを5秒以下0.1秒以上とすることを特徴とする。
【0010】
発明者は、混合器と配管の構造と配置等を変え、上記の滞在時間Trを10.0秒及び17.2秒から例えば2.4秒へ短縮することを試みた。他の条件を同じにした場合、固液分離後の二水石膏の平均粒径は、Trが10.0秒で34μm、17.2秒で33μmであるのに対し、Trが2.4秒では61μmに増加した。このことは、スラリー原液が混合器と配管に滞在している間に、二水石膏の結晶核が大量に発生し、析出槽での結晶成長を遅らせていることを示している。
【0011】
上記のデータから、混合器及び配管でのスラリー原液の滞在時間Trを短くすると、結晶核の発生を制限し、析出槽で種結晶の成長を促進でき、大きな平均粒径の二水石膏を回収できることが分かる。上記の滞在時間Trは短いほど良く、例えば2.4秒で二水石膏の平均粒径を充分大きくできるので5秒以下とし、好ましくは4秒以下とする。滞在時間Trを極端に短くすると混合器と配管の設計が難しくなるのでTrは0.1秒以上とし、好ましくは1.0秒以上とする。滞在時間Trの範囲は、この発明では5秒以下0.1秒以上で、好ましくは4秒以下1.0秒以上である。
【0012】
好ましくは、前記析出槽が複数段の槽から成る場合は初段の析出槽での、1段の槽から成る場合には析出槽全体での、石膏スラリーの体積をVとして、
Tc=V/(u0+w0・d-1)×60(分)で定まる時間Tcを5分以上100分以下とする。Tcは、析出槽の石膏スラリーと、混合器から投入するスラリー原液の投入速度との比を意味する。Tcが5分以上であると、析出槽に種結晶が充分に存在し、かつスラリー中の石膏の過飽和度も小さくできる。Tcを5分未満にすると、スラリーを混合器へ供給する流体ポンプの容量が過剰になり、種結晶が不足し、過飽和度の低下も遅くなる。一方Tcを大きくすると析出槽の体積が増加し、100分を越えると不必要に大きな析出槽が必要になる。そこでTcを好ましくは5分以上100分以下とし、より好ましくは10分以上30分以下とする。
【0013】
また好ましくは、前記水性スラリーの温度Tsを60℃±20℃とし、前記水性スラリー中の石膏分の、二水石膏換算での濃度Cを20mass%以上50mass%以下、より好ましくは30mass%以上50mass%以下とする。析出槽の二水石膏スラリーを混合器へ循環させることが実用上好ましいので、水性スラリーの温度Tsは析出槽のスラリー温度とほぼ等しくなる。そして析出槽のスラリー温度を高くすると、二水石膏粒子の平均粒径が増加する傾向にあるが、エネルギーコストが増加する。これらの兼ね合いから、析出槽のスラリー温度を好ましくは60℃±20℃とし、混合器へ供給するスラリー温度も好ましくは60℃±20℃とする。上記の濃度Cは、スラリー中にある石膏分が全て二水石膏であるものとして換算した濃度である。濃度Cが低いと二水石膏の回収量が低下するので好ましくは20mass%以上とし、より好ましくは30mass%以上とする。また濃度Cが高すぎると、スラリー粘度が増すので、好ましくは50mass%以下とする。
【0014】
これ以外の要素として、水性スラリーの投入速度u0と石膏粒体の投入速度w0の比u0/w0がある。比u0/w0が大きいほど、スラリー原液の結晶核の濃度が低下し、過飽和度も低下するが、より大きな流体ポンプが必要になる。これらの兼ね合いから、比u0/w0は10m3/ton以上100m3/ton以下が好ましく、特に20m3/ton以上50m3/ton以下が好ましい。
【0015】
石膏粒体の混合器への投入温度は任意である。しかし投入時の粒体温度を90℃以上にすると、投入時の起泡が少なくなるため、粒体がスラリーに均一に分散し、二水石膏粒子の平均粒径が増加する。ところで、半水石膏等へのか焼温度は130℃以上160℃以下程度である。石膏粒体の混合器への投入温度は任意であるが、か焼時の余熱を利用するため、90℃以上130℃以下が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき、明細書の記載とこの分野での周知技術とを参酌し、当業者の理解に従って定められるべきである。
【実施例】
【0018】
図1に二水石膏の回収方法を示す。粉砕機2で廃石膏ボードを平均粒径が0.5~20mm、好ましくは1~10mmに粉砕し、篩S1により紙片等の異物を除去し、か焼炉4で例えば130℃~160℃に加熱し、半水石膏及び又は無水III型石膏に変化させる。
【0019】
6は混合器で、半水石膏及び/又は無水III型石膏の粒体と、析出槽11からの石膏スラリーを混合してスラリー原液とし、配管7を介して初段の析出槽8へスラリー原液を供給する。混合器6へ供給する石膏スラリーは、二水石膏粒子が水性の媒体に分散しているスラリーである。析出槽8で、スラリー原液を石膏スラリーと混合し、石膏の過飽和度を低下させると共に、Ca2+、SO4
2-等のイオンを二水石膏の種結晶と接触させる。
【0020】
混合器6は実施例では円筒状であるが、樋状などでも良く、形状、構造は任意であるが、混合器6と配管7中のスラリー原液の合計体積V0を小さくすることが重要である。このため混合器6の内容積を小さくし、配管7を短くする。さらに配管7の体積を小さくするため、配管7に流体ポンプを設けず、析出槽11から混合器6へ投入する際の石膏スラリーの運動エネルギーと重力で、スラリー原液を析出槽8へ移送する。
【0021】
混合器6の下流側に例えば直列4段の析出槽8~11を設け、析出槽8~11を全体として析出部12と呼ぶ。析出槽8~11に攪拌機14を設けてスラリーを撹拌し、上流側の析出槽でオーバーフローした石膏スラリーを配管15を介して下流側の析出槽に導入する。なお流体ポンプにより析出槽間を移送しても良い。なお析出槽8~11の段数は任意で、1段のみの析出槽により析出部12を構成しても良い。析出槽8~11の石膏スラリーは二水石膏粒子を含む水性のスラリーで、二水石膏粒子が種結晶として作用し、混合器6に投入した半水石膏等を消費し、スラリー中の石膏の過飽和度を低下させながら、二水石膏粒子が成長する。
【0022】
例えば最下段の析出槽11から、石膏スラリーを流体ポンプP1により配管18を介して混合器6へ導入し、混合器6から析出部12の範囲を循環させる。なお最下段の析出槽11以外の析出槽8~10から、石膏スラリーを混合器6へ循環させても良い。
【0023】
最下段の析出槽11から石膏スラリーを抽出し、篩S2により紙片等の異物を除去し、フィルタープレス16等の固液分離装置により、ろ液と二水石膏粒子に分離する。分離したろ液にフィルタープレス16等で失われた水を補給し、流体ポンプP2と配管19により例えば初段の析出槽8へ還流する。
【0024】
実施例で用いるパラメータを説明する。時間当たりの半水石膏及び又は無水III型石膏の投入量をw0(ton/時)、混合器6と配管7のスラリー原液の体積をV0(m3)とする。w0は二水石膏の時間当たりの回収量に直結するパラメータである。混合器6への水性スラリーの循環量をu0(m3/hr)、二水石膏の真比重をd(g/cm3)、析出槽8の石膏スラリーの体積をV(m3)とする。dは約2である。なお実施例では、析出槽8~11はいずれも同じ体積Vを持つ。析出部12での、石膏スラリー中の石膏分の濃度(二水石膏に換算した濃度)をC(mass%)、石膏スラリーの温度をTsとし、混合器6等のスラリー原液の温度もTsである。
【0025】
混合器6と配管7内のスラリー原液の体積V0を小さくし、配管7から析出槽8へのスラリー原液の移送速度(u0+w0・d-1)を大きくすることにより、混合器6と配管7にスラリー原液が留まる時間を短縮する。これにより、スラリー原液中に生成する結晶核の数を少なくし、かつスラリー原液の過飽和度を小さくする。スラリー原液が混合器6と配管7に留まる時間を秒単位でTrとすると、 Tr=V0/(u0+w0・d-1)×3600 となる。Trは5秒以下で0.1秒以上とし、4秒以下で1秒以下とすることが好ましい。
【0026】
Tr以外の要素で重要なものに、Tc=V/(u0+w0・d-1)×60(分)で定まる時間Tcがある。これは初段の析出槽8内にスラリーが滞在する時間を意味する。この時間Tcが長いと、スラリー原液は析出槽8内の石膏スラリーにより直ちに希釈され、スラリーの過飽和度も混合器6と配管7で生じた結晶核の濃度も速やかに低下する。時間Tcが5分以上、好ましくは8分以上で、スラリー原液を石膏スラリーで速やかに希釈するとの条件が充たされる。時間Tcを大きくすると析出部12の体積が過剰に大きくなるので、実用的には時間Tcは100分以下が好ましい。
【0027】
上記以外の要素の多くは二水石膏の回収での他の条件に制約され、自由に変更することは難しい。石膏スラリーの温度Tsを高くすると、二水石膏粒子の平均粒径が増加するが、析出槽の加熱のためエネルギーコストが増加する。従って、スラリー温度Tsは60℃±20℃が好ましく、より好ましくは60℃±10℃とする。析出部12でのスラリー濃度Cが低いと、二水石膏の回収量が低下するので20mass%以上が好ましく、より好ましくは30mass%以上とし、濃度Cが高すぎると、スラリーの粘度が過剰に増すので好ましくは50mass%以下とする。析出部12の総体積Vtはスラリーの熟成時間に比例するので、熟成時間を定めると析出部12の総体積も定まる。析出部12の総体積Vt(m3)と石膏粒体の投入速度w0(ton/hr)との比Vt/w0は20m3・時/ton以上50m3・時/ton以下が好ましく、特に30m3・時/ton以上50m3・時/ton以下が好ましい。
【0028】
水性スラリーの投入速度u0と石膏粒体の投入速度w0の比u0/w0を大きくすると、スラリー原液の過飽和度が低下するがより大きな流体ポンプが必要になる。そこで比u0/w0は10m3/ton以上100m3/ton以下が好ましく、特に20m3/ton以上50m3/ton以下が好ましい。
【0029】
石膏粒体の混合器6への投入温度は任意であるが、90℃以上にすると投入時の起泡が少なくなるため、粒体がスラリーに均一に分散し、二水石膏粒子の平均粒径が増加する。石膏粒体の混合器6への投入温度は、か焼時の余熱を利用することが好ましいので、90℃以上130℃以下が好ましい。
【0030】
実験例
実用プラントでの混合器6と配管7の構造及び配置を変更し、混合器6と配管7でのスラリー原液の体積V0を変化させ、析出した二水石膏粒子の平均粒径への影響を調べた。混合器6への石膏粒体の投入速度w0を4ton/hrに固定し、温度は室温とした。石膏スラリーは混合器6への供給速度u0を120m3/hrに、濃度Cを40mass%に、温度Tsを60℃に固定した。析出槽8~11は体積が各35m3とした。また流体ポンプP2によりろ液と水を合計8m3/hrで析出槽8へ導入した。析出槽11から抽出したスラリーをろ過し、レーザー光散乱法により二水石膏粒子の平均粒径を測定した。
【0031】
実験例1
混合器6と配管7内のスラリー原液の体積を0.08m3とした。滞在時間Trは2.4秒で、析出した二水石膏粒子の平均粒径は61μmであった。
【0032】
比較例1
混合器内のスラリー原液量を0.16m3とし、流体ポンプを介し混合器から析出槽8へスラリーを供給した。混合器から析出槽までの配管でのスラリー原液は総量が0.18m3であった。滞在時間Trは10.0秒、析出した二水石膏粒子の平均粒径は34μmであった。
【0033】
比較例2
混合器内のスラリー原液量を0.16m3とし、混合器から析出槽までの配管(流体ポンプ有)でのスラリー原液を総量0.42m3とした。滞在時間Trは17.1秒、析出した二水石膏粒子の平均粒径は33μmであった。
【0034】
滞在時間Trが2.4秒と10秒以上では析出した二水石膏粒子の平均粒径が著しく異なり、滞在時間Trを5秒以下にすることが重要であることが分かった。
【0035】
実験例2
実験例1と同じ条件で、混合器6への投入時の石膏粒体の温度を95℃に変更すると、析出した二水石膏粒子の平均粒径は71μmとなった。
【0036】
考察
混合器6及び配管7でのスラリー原液の滞在時間Trを短くすることにより、抽出した二水石膏の平均粒径が増加する機構について検討する。一旦生成した結晶核は析出槽8~11で成長して二水石膏の種結晶となり、最終的には二水石膏粒子としてフィルタープレス16により抽出される。粒度分布が一定の正規分布で安定した場合、二水石膏粒子の平均粒径の3乗と粒子数の積は一定で、粒子数は種結晶の生成速度に比例する。従って、二水石膏粒子の平均粒径は、結晶核の生成速度の-1/3乗に比例する。
【0037】
混合器6及び配管7でスラリー原液が過飽和であることにより、二水石膏の結晶核が生成すると考えられる。またスラリー原液が初段の析出槽8に投入されると、過飽和度は急激に低下する。配管7の出口でスラリー原液は運動エネルギーを持っており、かつスラリー原液は石膏粒体の分だけ二水石膏スラリーよりも比重が大きいので、スラリー原液は析出槽8内を沈降しながら撹拌される。このため析出槽8内でスラリー原液は二水石膏スラリーと急速に混合し、過飽和度は急速に低下する。このため、析出槽8~11での結晶核の生成は僅かであると考えて良い。
【0038】
これらのメカニズムのため、混合器6及び配管7での結晶核の生成数を減少させると、二水石膏粒子の平均粒径が増加すると考えられる。そして結晶核の生成速度は、混合器6及び配管7でのスラリー原液の滞在時間に依存するので、滞在時間を短くすることにより、結晶核の生成を抑制し、二水石膏粒子の平均粒径を増加させることに成功したものと考えられる。
【符号の説明】
【0039】
2 粉砕機
4 か焼炉
6 混合器
7 配管
8~11 析出槽
12 析出部
14 撹拌機
15 配管
16 フィルタープレス
18,19 配管
S1,S2 篩
P1,P2 流体ポンプ