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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】磁気記録媒体のシード層用合金
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20230509BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20230509BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20230509BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20230509BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20230509BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20230509BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20230509BHJP
【FI】
G11B5/738
G11B5/84 Z
C22C30/00
C22C19/03 D
C22C19/07 C
C22C19/05 J
B22F3/00 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019113927
(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公開番号】P2021002414
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
(72)【発明者】
【氏名】井本 未由紀
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-130242(JP,A)
【文献】特開2005-174531(JP,A)
【文献】特開2007-004858(JP,A)
【文献】国際公開第2017/179466(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/738
G11B 5/84
C22C 30/00
C22C 19/03
C22C 19/07
C22C 19/05
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niと、Fe及びCoから選択される少なくとも1種と、W、Mo、Ta、Cr、V及びNbからなる群から選択される1種または2種以上の元素M1と、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Re及びPtからなる群から選択される1種又は2種以上の元素M2と、不可避的不純物とを含んでおり、
上記元素M1の含有率が、2at.%以上13at.%以下であり、
上記元素M2の含有率が、2at.%以上13at.%以下であり、
上記元素M1の含有率と上記元素M2の含有率との和が、4at.%以上15at.%以下であり、
この合金におけるNiの含有率(at.%)、Fe含有率(at.%)及びCoの含有率(at.%)の比Ni:Fe:CoがX:Y:Zとされるとき、Xが20以上100以下であり、Yが0以上50以下であり、Zが0以上60以下である磁気記録媒体のシード層用合金。
【請求項2】
Niと、Fe及びCoから選択される少なくとも1種と、W、Mo、Ta、Cr、V及びNbからなる群から選択される1種または2種以上の元素M1と、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Re及びPtからなる群から選択される1種又は2種以上の元素M2と、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Zr、Ti、Hf、B、Cu、P、C及びMnからなる群から選択される1種又は2種以上の元素M3と、不可避的不純物とを含んでおり、
上記元素M1の含有率が、2at.%以上13at.%以下であり、
上記元素M2の含有率が、2at.%以上13at.%以下であり、
上記元素M1の含有率と上記元素M2の含有率との和が、4at.%以上15at.%以下であり、
この合金におけるNiの含有率(at.%)、Fe含有率(at.%)及びCoの含有率(at.%)の比Ni:Fe:CoがX:Y:Zとされるとき、Xが20以上100以下であり、Yが0以上50以下であり、Zが0以上60以下である磁気記録媒体のシード層用合金。
【請求項3】
上記元素M3の含有率が、0at.%を超え、5at.%以下である、請求項2に記載のシード層用合金。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の合金を材質とするスパッタリングターゲット。
【請求項5】
スパッタリングにより得られるシード層を有しており、
上記スパッタリングに、請求項1から3のいずれかに記載の合金を材質とするターゲットが用いられている、磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体のシード層用合金に関する。詳細には、本発明は、シード層の形成に適したNi系合金に関する。
【背景技術】
【0002】
記録装置の大容量化のために、垂直磁気記録方式が採用された記録媒体が開発されている。垂直記録方式では、記録媒体の磁性膜中で、磁化容易軸が媒体面に対して垂直方向に配向される。この方式が採用された垂直磁気記録媒体の記録密度は、高い。
【0003】
垂直磁気記録媒体は、磁気記録層と軟磁性層とを有している。磁気記録層と軟磁性層との間には、シード層、下地膜層等の中間層が形成されている。垂直磁気記録媒体では、磁気記録層の結晶粒の微細化により、高い記録密度が得られる。シード層の結晶粒の微細化及び結晶配向性が、磁気記録層の微細化に寄与する。
【0004】
特開2009-155722公報には、その材質がNi-W合金である中間層用のターゲットが開示されている。このターゲットでは、X線回折におけるfcc相であるNi固溶体の強度比が制御されることにより、スパッタリングにより得られる合金膜のばらつきが抑制されている。
【0005】
特開2012-128933公報には、その材質がNi-Fe-Co-M合金であるシード層用ターゲットが開示されている。この合金は、元素MとしてW、Mo、Ta、Cr、V又はNbを含有する。このターゲットは、シード層における結晶粒の微細化及び(111)面への配向に寄与する。
【0006】
特開2017-191625公報には、その材質がNi-Fe-Co-M合金であるシード層用ターゲットが開示されている。この合金は、元素Mとして、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Re又はPtを含有する。このターゲットは、シード層における結晶粒の微細化及び(111)面への配向に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-155722公報
【文献】特開2012-128933公報
【文献】特開2017-191625公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、磁気記録媒体には、記録密度のさらなる向上が求められている。特許文献1-3に開示された合金を材質とするターゲットを用いて得られるシード層の、(111)面への配向性及び結晶粒の微細化には、未だ改善の余地がある。さらに、本発明者等は、特許文献3で提案されたターゲットを用いて得られるシード層は耐食性が低いため、記録媒体の使用環境下で腐食が発生するという課題があることを見出した。
【0009】
本発明の目的は、記録密度が高く、かつ耐食性に優れた磁気記録媒体が得られうるシード層用合金の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る磁気記録媒体のシード層用合金は、Niと、Fe及びCoから選択される少なくとも1種と、W、Mo、Ta、Cr、V及びNbからなる群から選択される1種または2種以上の元素M1と、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Re及びPtからなる群から選択される1種又は2種以上の元素M2と、不可避的不純物とを含んでいる。この元素M1の含有率は、2at.%以上13at.%以下である。この元素M2の含有率は、2at.%以上13at.%以下である。この元素M1の含有率と元素M2の含有率との和は、4at.%以上15at.%以下である。この合金におけるNiの含有率(at.%)、Feの含有率(at.%)及びCoの含有率(at.%)の比Ni:Fe:CoがX:Y:Zとされるとき、Xは20以上100以下であり、Yは0以上50以下であり、Zは0以上60以下である。
【0011】
好ましくは、この合金は、さらに、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Zr、Ti、Hf、B、Cu、P、C及びMnからなる群から選択される1種又は2種以上の元素M3を含んでいる。この元素M3の含有率は、0at.%を超え、5at.%以下である。
【0012】
他の観点によれば、本発明に係るスパッタリングターゲットは、このシード層用合金を材質として得られる。
【0013】
さらに他の観点によれば、本発明に係る磁気記録媒体は、スパッタリングにより得られるシード層を有している。このスパッタリングには、このシード層用合金を材質とするターゲットが用いられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るシード層用合金により、(111)面への配向性が高く、結晶粒度が微細であり、しかも耐食性に優れたシード層が得られうる。この合金は、磁気記憶媒体の記録密度向上及び腐食抑制に寄与しうる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特に注釈のない限り、「ppm」は「質量ppm」を意味する。
【0016】
本発明に係る磁気記録媒体のシード層用合金は、Niと、Fe及びCoから選択される少なくとも1種と、W、Mo、Ta、Cr、V及びNbからなる群から選択される1種または2種以上の元素M1と、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Re及びPtからなる群から選択される1種又は2種以上の元素M2と、不可避的不純物とを含んでいる。
【0017】
Niと、Fe及びCoから選択される少なくとも1種と、不可避的不純物とからなるNi-Fe-Co系合金は、fcc構造を有する。元素M1及び元素M2は、そのメカニズムは明確でないが、いずれも、Ni-Fe-Co系合金のfcc構造の優先配向を、(200)から(111)へ変化させ、かつ、その結晶粒を微細化させる機能を有している。ここで、本発明に係るシード層用合金の特徴は、Ni-Fe-Co系合金に、元素M1及び元素M2の両者をともに含有していることにある。この合金から得られるシード層では、元素M1及び元素M2の相乗効果により、(111)面への配向性が顕著に向上し、結晶粒が微細化する。しかも、本発明者等は、鋭意検討の結果、これまで着目されていなかったシード層の低い耐食性という課題が、元素M1及び元素M2の併用により解決されることを見出した。このシード層を含む垂直磁気記録媒体では、高い記録密度が達成され、使用環境下での腐食の発生が回避されうる。
【0018】
(111)面への配向性向上及び結晶粒の微細化の観点から、元素M1の含有率は、2at.%以上である。過剰の元素M1は、シード層をfcc構造以外の構造にシフトさせる。シード層がfcc構造を維持しうるとの観点から、元素M1の含有率は、13at.%以下であり、10at.%以下が好ましい。
【0019】
前述した通り、元素M1は、W、Mo、Ta、Cr、V及びNbからなる群から1種又は2種以上が選択される。2種以上の元素M1が選択される場合、選択された2種以上の合計量として、その含有率が調整される。
【0020】
(111)面への配向性向上及び結晶粒の微細化の観点から、元素M2の含有率は、2at.%以上である。シード層がfcc構造を維持しうるとの観点及び耐食性向上の観点から、元素M2の含有率は、13at.%以下であり、10at.%以下が好ましい。
【0021】
前述した通り、元素M2は、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Re及びPtからなる群から1種又は2種以上が選択される。2種以上の元素M2が選択される場合、選択された2種以上の合計量として、その含有率が調整される。
【0022】
垂直磁気記録媒体の高記録密度化及び耐食性向上の観点から、元素M1の含有率と元素M2の含有率との和は、4at.%以上であり、5at.%以上が好ましい。シード層がfcc構造を維持しうるとの観点から、元素M1の含有率と元素M2の含有率との和は、15at%以下であり、13at.%以下が好ましい。
【0023】
このシード層用合金において、Niの含有率(at.%)、Fe含有率(at.%)及びCoの含有率(at.%)の比Ni:Fe:Coは、X:Y:Zと表される。ここで、X+Y+Xは100である。
【0024】
このシード層用合金において、Xは20以上100以下である。Xが20以上の合金により、保磁力の抑制されたシード層が得られる。この観点から、Xは、40以上が好ましく、60以上がより好ましい。
【0025】
このシード層用合金において、Yは0以上50以下である。Yがこの範囲内にある合金により、保磁力が抑制されたシード層が得られる。この観点から、Yは、2以上が好ましく、10以上かつ40以下がより好ましい。
【0026】
このシード層用合金において、Zは0以上60以下である。Zがこの範囲内にある合金によって、特に(111)方向の保磁力が抑制されたシード層が得られる。この観点から、Zは、40以下が好ましく、30以下がより好ましい。
【0027】
このシード層用合金は、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Zr、Ti、Hf、B、Cu、P、C及びMnからなる群から選択される1種又は2種以上の元素M3を含みうる。元素M3は、得られるシード層の結晶粒の微細化を促進させる。元素M3を含む合金を用いて得られるシード層により、垂直磁気記録媒体のさらなる高記録密度が達成される。
【0028】
結晶粒の微細化及びシード層がfcc構造を維持しうるとの観点から、元素M3の含有率は、0at.%を超え、5at.%以下が好ましい。より好ましい元素M3の含有率は、3at.%以下である。2種以上の元素M3が選択される場合、選択された2種以上の合計量として、その含有率が調整される。
【0029】
本発明に係るスパッタリングターゲットは、前述したシード層用合金を材質とする原料粉末を、高圧下で加熱して固化成形することにより焼結体を形成し、この焼結体を、機械的手段等を用いて適正な形状に加工することにより製造される。換言すれば、このスパッタリングターゲットの材質は、Niと、Fe及びCoから選択される少なくとも1種と、W、Mo、Ta、Cr、V及びNbからなる群から選択される1種または2種以上の元素M1と、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Re及びPtからなる群から選択される1種又は2種以上の元素M2と、不可避的不純物とを含む合金である。この元素M1の含有率は、2at.%以上13at.%以下である。この元素M2の含有率は、2at.%以上13at.%以下である。この元素M1の含有率と元素M2の含有率との和は、4at.%以上15at.%以下である。この合金におけるNiの含有率(at.%)、Feの含有率(at.%)及びCoの含有率(at.%)の比Ni:Fe:CoがX:Y:Zとされるとき、Xは20以上100以下であり、Yは0以上50以下であり、Zは0以上60以下である。
【0030】
本発明の効果が得られる限り、シード層用合金を材質とする原料粉末を固化成形する方法及び条件は、特に限定されず、熱間静水圧法(HIP法)、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法(SPS法)、熱間押出法等が適宜選択される。
【0031】
例えば、熱間静水圧法(HIP法)によれば、始めに、シード層用合金を材質とする原料粉末を、炭素鋼製の缶に充填する。この缶を真空脱気後封止することにより、ビレットを形成する。このビレットに、HIP成形(熱間等法圧プレス)することにより焼結体を形成する。HIP成形の、好ましい圧力は50MPa以上300MPa以下であり、好ましい焼結温度は800℃以上1350℃以下である。得られた焼結体を、ワイヤーカット、旋盤加工及び平面研磨して、所定の形状に加工することにより、スパッタリングターゲットが得られる。
【0032】
スパッタリングターゲットの製造に用いる原料粉末は、既知のアトマイズ法により製造される。アトマイズ法の種類は特に限定されず、ガスアトマイズ法であってもよく、液体アトマイズ法であってもよく、遠心力アトマイズ法であってもよい。ガスアトマイズ法が好ましい。アトマイズ法の実施に際しては、既知のアトマイズ装置及び製造条件が適宜選択されて用いられる。
【0033】
アトマイズ法で得られる粉末は、必要に応じて分級される。分級により、例えば、焼結を阻害する粒子径500μm以上の粒子(粗粉)が除去されうる。この分級後の粉末が、ターゲット製造の原料粉末とされてもよい。
【0034】
本発明に係るシード層用合金を材質とするターゲットを用いてスパッタリングすることにより、この合金と同組成のシード層が形成される。換言すれば、このシード層は、その材質が、Niと、Fe及びCoから選択される少なくとも1種と、W、Mo、Ta、Cr、V及びNbからなる群から選択される1種または2種以上の元素M1と、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Re及びPtからなる群から選択される1種又は2種以上の元素M2と、不可避的不純物とを含む合金であるターゲットを用いたスパッタリングで得られる。この元素M1の含有率は、2at.%以上13at.%以下である。この元素M2の含有率は、2at.%以上13at.%以下である。この元素M1の含有率と元素M2の含有率との和は、4at.%以上15at.%以下である。この合金におけるNiの含有率(at.%)、Feの含有率(at.%)及びCoの含有率(at.%)の比Ni:Fe:CoがX:Y:Zとされるとき、Xは20以上100以下であり、Yは0以上50以下であり、Zは0以上60以下である。このシード層を組み込むことにより、磁気記録媒体が得られる。この磁気記録媒体は、垂直磁気記録媒体である。この磁気記録媒体の記録密度は、高い。この垂直磁気記録媒体は、耐食性に優れる。
【実施例
【0035】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0036】
磁気記録媒体のシード層は、その成分と同じ成分を有するターゲットを用いたスパッタリングにより、ガラス基板上に成膜される。このシード層は、急冷・凝固により得られる。シード層の形成には多大の労力を要する。そこで、シード層に代えて、単ロール式の急冷装置で作成した急冷薄帯を、後述する各評価試験にて評価した。単ロール式急冷装置では、スパッタリングと同様に、急冷・凝固の工程を経て、急冷薄帯が作成される。急冷薄帯を試験片として用いることにより、スパッタリングで得られるシード層の諸特性を、簡易的に評価することができる。
【0037】
下表1-3に示される組成となるように秤量した原料30gを、水冷銅鋳型(直径:10mm、長さ:40mm)に投入した。この鋳型を減圧して、アルゴンガス雰囲気中でアーク溶解し、溶解母材を得た。この溶解母材を、直径15mmの石英管に投入し、ノズルから出湯させ、単ロール式急冷装置に供して急冷薄帯を作成した。急冷薄帯の作成条件は、以下の通りである。得られた急冷薄帯を試験片として、各評価試験に供した。
出湯ノズルの直径:1mm
雰囲気の気圧:61kPa
噴霧差圧:69kPa
ロールの材質:銅
ロールの直径:300mm
ロールの回転数:3000rpm
ロールと出湯ノズルとのギャップ:0.3mm
【0038】
なお、表1-3に示される成分組成に関し、例えば、No.1の「2Ta」及び「3Pt」は、それぞれ、Taの含有率が2at.%であり、Ptの含有率が3at.%であることを意味しており、Ni、Fe及びCoの含有率(at.%)の比X:Y:Zが、100:0:0であることを示している。表1-3に示された合金の残部は、不可避的不純物である。
【0039】
[保持力]
振動試料型の保磁力メータの試料台に、両面テープで試験片を張り付け、初期印加磁場144kA/mの条件で保磁力を測定した。下記の基準に基づき、格付けを行った。この結果が、下表1-3に示されている。III、II、Iの順に、評価が高い。
I :保磁力が300A/m以下
II :保磁力が300A/mを超え500A/m以下
III:保磁力が500A/mを超える
【0040】
[飽和磁束]
急冷薄帯から試験片(約15mg)を採取し、VSM装置(振動試料型磁力計)を用いて、印可磁場1200kA/mの条件で飽和磁束を測定した。下記の基準に基づき、格付けを行った。この結果が、下表1-3に示されている。III、Iの順に評価が高い。
I :0.2T以上
III:0.2T未満
【0041】
[結晶粒径]
試験片の、ロール方向断面のミクロ組織像を得た。「JIS G 0551」の「鋼・結晶粒度の顕微鏡試験方法」の規定に準拠し、結晶粒径を測定した。下記の基準に基づき、格付けを行った。この結果が、下表1-3に示されている。III、II、Iの順に、評価が高い。
I :P/Ltが1.5以上
II :P/Ltが1.2以上1.5未満
III:P/Ltが1.2未満
【0042】
[配向性]
銅ロールとの接触面が測定面になるように、ガラス板に試験片を両面テープで貼り付け、X線回折装置にて回折パターンを得た。回折の条件は、下記の通りである。
X線源:Cu-α線
スキャンスピード:4°/min
【0043】
この回折パターンにて、(111)面で回折したX線の強度I(111)の、(200)面で回折したX線の強度I(200)に対する強度比I(111)/I(200)を求めた。下記の基準に基づき、格付けを行った。
I :強度比I(111)/I(200)が0.7以上
III:強度比I(111)/I(200)が0.7未満
なお、試験片がfcc構造を保っていないもの、及びアモルファス化したものも、IIIと評価した。この結果が、下表1-3に示されている。III、Iの順に、評価が高い。
【0044】
[耐食性]
急冷薄帯から試験片(50mg)を採取し、その質量を正確に秤量した。この試験片を、濃度3wt.%のHNO水溶液10mlに浸漬した。室温にて、1時間静置した後、浸漬液であるHNO水溶液中に溶出したNi、Fe及びCoの量をICPにて測定した。Ni、Fe及びCoの溶出量の合計(Ni+Fe+Co)を求め、下記基準に基づいて、格付けを行った。この結果が、下表1-3に示されている。III、II、Iの順に、評価が高い。
I :(Ni+Fe+Co)が50ppm未満
II :(Ni+Fe+Co)が50ppm以上150ppm未満
III:(Ni+Fe+Co)が150ppm以上
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表1-3に示される通り、実施例(No.1-39)では、Ni、Fe及びCoが所定の比率を満たす合金において、元素M1の含有率が2at.%以上13at.%以下、元素M2の含有率が2at.%以上13at.%以下、かつ元素M1と元素M2との含有率の和が4at.%以上15at.%以下に調整されることにより、保磁力、飽和磁束密度、結晶粒径、配向性及び耐食性において、良い評価結果が得られた。さらに、実施例(No.20-39)では、5at%以下の元素M3を含むことにより、結晶粒径が有意に向上した。
【0049】
一方、比較例(No.40、41及び45)では、元素M1及びM2の含有率の和が4at.%未満と少ないことにより、結晶粒が十分に微細化されず、耐食性に劣るものであった。比較例(No.48)では、元素M1及びM2の含有率の和が4at.%であるものの、元素M2が2at.%未満と少ないことにより、耐食性に劣り、(111)面への配向性も改善されなかった。比較例(No.42-44、46、47及び49)では、元素M1及びM2の含有率の和が15at.%を超えて多いことにより、(111)面への配向性が低下し、fcc構造が保てなくなるものもあった。さらに、磁気特性(飽和磁束密度)の低下も観察された。
【0050】
以上説明された通り、本発明に係るシード層用合金により、諸特性に優れたシード層が得られうる。このシード層を適用することにより、記録密度の高い磁気記録媒体が得られうる。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明されたシード層用合金及びこの合金からなるターゲットは、種々の磁気記録媒体に適用されうる。