(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】保存性の向上した澱粉性食品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20230509BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20230509BHJP
A23L 3/365 20060101ALI20230509BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20230509BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20230509BHJP
A23L 29/20 20160101ALI20230509BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20230509BHJP
【FI】
A23L5/00 N
A23D7/00 504
A23L3/365 Z
A23L7/10 E
A23L7/109 C
A23L29/20
A23L29/269
(21)【出願番号】P 2019510087
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2018013083
(87)【国際公開番号】W WO2018181643
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-08-31
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2017064667
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 智子
(72)【発明者】
【氏名】川田 可南子
(72)【発明者】
【氏名】味谷 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 亘
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】加藤 友也
【審判官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-5167(JP,A)
【文献】特開平7-274824(JP,A)
【文献】特開平10-262585(JP,A)
【文献】特開平4-4863(JP,A)
【文献】特公昭53-36009(JP,B1)
【文献】特開昭52-105211(JP,A)
【文献】食べやすい♪野菜たっぷりパスタサラダ☆, クックパッド, [online], 2010.1.9, [2021年8月6日検索], <URL:https://cookpad.com/recipe/985392>
【文献】高橋克嘉 外,味覚センサー及び官能評価によるドレッシングの分類,宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告,2016年,No.59,p.33-38
【文献】スパサラって冷凍保存できますか?たくさん作りすぎてしまいました。, Yahoo!知恵袋, [online], 2008.7.2, [2021年8月6日検索], <URL:https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1317511773>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L5/00
A23D7/00
A23L3/365
A23L7/10
A23L7/109
A23L29/20
A23L29/269
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂、有機酸及び酸性ヘキサメタリン酸を含有する乳化物が表面に付着していることを特徴とする、調理済み澱粉性食品
であって、該調理済み澱粉性食品に対する該乳化物の付着量が、該乳化物が付着する前の該澱粉性食品100質量部に対して2~20質量部である、調理済み澱粉性食品。
【請求項2】
前記乳化物のpHが5.2以下である、請求項1記載の食品。
【請求項3】
前記乳化物中における前記酸性ヘキサメタリン酸と前記有機酸との質量比が1:1~100である、請求項1又は2記載の食品。
【請求項4】
前記乳化物中における前記酸性ヘキサメタリン酸の含有量が0.01質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項記載の食品。
【請求項5】
前記乳化物中における前記油脂の含有量が10質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項記載の食品。
【請求項6】
前記有機酸がクエン酸、乳酸及び酢酸からなる群より選択される1種以上である、請求項1~5のいずれか1項記載の食品。
【請求項7】
前記乳化物が増粘多糖類をさらに含有する、請求項1~
6のいずれか1項記載の食品。
【請求項8】
冷凍されている、請求項1~
7のいずれか1項記載の食品。
【請求項9】
前記澱粉性食品が麺類又は米飯である、請求項1~
8のいずれか1項記載の食品。
【請求項10】
加熱調理された澱粉性食品の表面に油脂、有機酸及び酸性ヘキサメタリン酸を含有する乳化物を付着させることを含む、調理済み澱粉性食品の製造方法
であって、該調理済み澱粉性食品に対する該乳化物の付着量が、該乳化物が付着する前の該澱粉性食品100質量部に対して2~20質量部である、方法。
【請求項11】
前記乳化物のpHが5.2以下である、請求項
10記載の製造方法。
【請求項12】
前記乳化物中における前記酸性ヘキサメタリン酸と前記有機酸との質量比が1:1~100である、請求項
10又は11記載の製造方法。
【請求項13】
前記乳化物中における前記酸性ヘキサメタリン酸の含有量が0.01質量%以上である、請求項
10~12のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項14】
前記乳化物中における前記油脂の含有量が10質量%以上である、請求項
10~13のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項15】
前記有機酸がクエン酸、乳酸及び酢酸からなる群より選択される1種以上である、請求項
10~14のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項16】
前記乳化物が増粘多糖類をさらに含有する、請求項
10~15のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項17】
前記乳化物を付着させた食品を冷凍することをさらに含む、請求項
10~16のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項18】
前記澱粉性食品が麺類又は米飯である、請求項
10~17のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性の向上した澱粉性食品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品製造においては、微生物の増殖による食品の腐敗や変質を防ぐため、殺菌又は静菌作用のある組成物がしばしば使用されている。特許文献1には、エタノールに、ラウリン酸と、デカグリセリン脂肪酸モノエステル及びショ糖脂肪酸モノエステルの少なくとも一方と、有機酸とを混合溶解させた液状の食品保存剤が記載されている。特許文献2には、グリセリン、有機酸塩類及び重合リン酸塩類を添加した水で麺を茹でるか、又は茹で麺を浸漬することで、保存性の高い茹で麺を製造することが記載されている。特許文献3には、パスタを茹でた後、有機酸水溶液に浸漬し、その後重合リン酸塩水溶液に浸漬し、油脂をまぶし、さらに加圧加熱殺菌することで酸味の少ない加圧加熱殺菌済パスタを製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-080617号公報
【文献】特開昭56―164754号公報
【文献】特開平10-262585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品用の保存剤については、その微生物増殖抑制効果が重要であるだけでなく、安全性や食品の風味に与える影響も無視できない。従来、食品の微生物増殖抑制にはしばしば酸が使用されている。酸の使用量を多くすると、微生物増殖抑制効果は高まるが、食品が酸味を有し、風味が損なわれる。反面、食品の風味を考慮して酸の使用量を制限すると、充分な微生物増殖抑制効果が得られなくなるおそれがある。
【0005】
したがって、微生物増殖抑制に有効な量の酸を有しながらも、酸味が少なく食品の風味に影響を与えにくい食品用の保存剤が求められている。また、酸を含有することで高い保存性を有しながらも、当該酸に由来する酸味が抑えられた食品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、加熱調理された麺類、米飯等の澱粉性食品の表面に油脂、有機酸及び酸性ヘキサメタリン酸を含有する乳化物を付着させることにより、高い保存性を有しながらも酸味の少ない食品が得られることを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、油脂、有機酸及び酸性ヘキサメタリン酸を含有する乳化物が表面に付着していることを特徴とする、調理済み澱粉性食品を提供する。
さらに本発明は、加熱調理された麺類の表面に油脂、有機酸及び酸性ヘキサメタリン酸を含有する乳化物を付着させることを含む、調理済み澱粉性食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の調理済み澱粉性食品は、微生物増殖抑制に有効な量の酸を含有し、高い保存性を有しながらも、当該酸による酸味が抑えられており、良好な風味を維持している。また、本発明の調理済み澱粉性食品は、一旦冷凍した後、解凍して保存した場合であっても、保存性と良好な風味を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の調理済み澱粉性食品は、加熱調理された澱粉性食品の表面に油脂、有機酸及び酸性ヘキサメタリン酸を含有する乳化物を付着させることによって製造される。
【0010】
本発明による調理済み澱粉性食品の製造においては、まず加熱調理された澱粉性食品を準備する。該澱粉性食品としては、澱粉を多く含有する食品、例えば麺類、米飯、ベーカリー、お好み焼き、たこ焼き、パンケーキ、ピザ、蒸しパン等の生地製品、フライ食品の衣、イモ類などが挙げられる。本発明で提供される澱粉性食品は、好ましくは麺類又は米飯であり、より好ましくは麺類である。該麺類の種類や製造方法は特に限定されず、例えば、マカロニ、スパゲッティ等のパスタ、うどん、ひやむぎ、そうめん、平めん、日本蕎麦、中華麺、麺皮類(餃子、焼売、春巻き、ワンタンの皮等)などを挙げることができる。これらの麺類は、加熱調理前の状態において、乾麺であっても、半生麺もしくは生麺であってもよい。
【0011】
当該澱粉性食品の加熱調理の手段としては、該食品中の澱粉を喫食可能にアルファ化できる手段であればよく、例えば、焼く、煮る、揚げ、茹で、蒸し、電子レンジ等によるマイクロ波加熱などが挙げられる。好ましくは、該澱粉性食品は麺類であり、該加熱調理は水もしくは塩水による茹で調理、または蒸し調理である。好ましくは、該加熱調理において、当該澱粉性食品は喫食可能に調理される。例えば、該澱粉性食品が麺類の場合、加熱調理後の歩留まりが、乾麺の場合200~280%、生麺の場合120~250%になるように加熱調理することが好ましい。
【0012】
得られた加熱調理された澱粉性食品の表面に、油脂、有機酸及び酸性ヘキサメタリン酸を含有する乳化物を付着させる。当該乳化物は、優れた微生物増殖抑制作用を有している。したがって、当該乳化物を加熱調理された食品の表面に付着させることで、該食品における微生物の増殖を防止し、該食品の保存性を向上させる。なお本明細書における澱粉性食品の「保存性」とは、該食品の微生物増殖抑制能、又は該食品の防腐性をいう。
【0013】
当該乳化物に含有される油脂としては、食用の油脂であれば特に限定されず、例えば、大豆油、マーガリン、ショートニング、オリーブ油、カカオ脂、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、菜種油、ヒマワリ油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、バター、乳脂、魚油等の動物性油脂などが挙げられる。これらの油脂は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。好ましい油脂としては大豆油が挙げられる。該乳化物中における該油脂の含有量は、該乳化物の全質量中、好ましくは10質量%以上、より好ましくは10~90質量%である。
【0014】
当該乳化物に含有される有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、酢酸、グルコン酸などが挙げられ、好ましくは、クエン酸、乳酸及び酢酸が挙げられる。これらの有機酸は遊離体であっても、塩の形態であってもよい。有機酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。これらの有機酸又はその塩は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。該乳化物中における該有機酸の含有量(遊離体換算)は、該乳化物の全質量中、好ましくは0.01~4質量%、より好ましくは0.1~3質量%、さらに好ましくは0.2~2質量%である。
【0015】
酸性ヘキサメタリン酸は、ウルトラリン酸とも称される。本発明で用いる当該乳化物に含有される酸性ヘキサメタリン酸は、遊離体であっても塩の形態であってもよい。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。好ましくは、酸性ヘキサメタリン酸ナトリウムが用いられる。酸性ヘキサメタリン酸ナトリウムは市販されている(例えばウルトラポリホス(株式会社ポリホス化学研究所)など)。該乳化物中における酸性ヘキサメタリン酸の含有量(遊離体換算)は、該乳化物の全質量中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1~1質量%である。
【0016】
当該乳化物中における該酸性ヘキサメタリン酸と該有機酸との質量比(酸性ヘキサメタリン酸:有機酸、遊離体換算)は、好ましくは1:1~100であり、より好ましくは1:1~25であり、さらに好ましくは1:4~15である。有機酸の比率が高くなりすぎると、該乳化物を適用した食品の酸味が強くなり風味が低下する。
【0017】
当該乳化物は、増粘多糖類を含有していてもよい。該増粘多糖類の例としては、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、カラギナン、グアーガムなどが挙げられる。このうち、キサンタンガムが好ましい。これらの増粘多糖類は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。該乳化物中における該増粘多糖類の含有量は、該乳化物の全質量中、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01~1質量%である。
【0018】
さらに当該乳化物は、上述した油脂、有機酸、酸性ヘキサメタリン酸、及び増粘多糖類以外の他の成分、例えば、酸性ヘキサメタリン酸以外のリン酸(ポリリン酸、ピロリン酸、メタリン酸等)、塩酸等の無機酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の酸又はその塩や、食品に使用可能なpH調整剤、香料、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、トリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン等)、色素などの添加物や、調味料(食塩、醤油、砂糖等)などを含有していてもよい。ただし、該乳化物中におけるこれらの他の成分の種類及び含有量は、該乳化物を適用した食品の保存性や風味が失われない範囲に制限され得る。該乳化物中における当該他の成分の含有量は、該乳化物の全質量中、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0019】
当該乳化物は、さらに水性溶媒を含有する。好ましい水性溶媒としては、例えば水が挙げられる。好ましくは、当該乳化物において、上述した油脂は油相を形成し、上述した有機酸及び酸性ヘキサメタリン酸は、該水性溶媒とともに水相を形成している。好ましくは、該乳化物は、該水性溶媒に該有機酸及び酸性ヘキサメタリン酸を溶解させて水溶液を作製し、次いでこれを該油脂に添加して撹拌混合することにより調製することができる。該乳化物における水相と油相との質量比は、好ましくは10:90~90:10であり、より好ましくは25:75~75:25である。
【0020】
当該乳化物のpHは、好ましくは5.2以下、より好ましくは4.7以下、さらに好ましくは4.2以下である。該乳化物のpHが高い場合、該乳化物を適用した食品に充分な保存性が付与されないことがある。他方、当該乳化物のpHは、好ましくは2.7以上、より好ましくは3.5以上である。該乳化物のpHが低すぎると、該乳化物を適用した食品に酸味が出ることがある。よって、本発明の組成物のpHの範囲の例としては、好ましくは2.7~5.2、より好ましくは3.5~4.7が挙げられる。
【0021】
当該乳化物のpHは、主に有機酸と酸性ヘキサメタリン酸の添加によって調整され得る。あるいは、他の酸や食品に使用可能なpH調整剤を用いてpH調整してもよい。ただし、他の酸やpH調整剤の使用は、該乳化物の酸味を強めたり、必要なpHを達成するために大量添加を要したりするなどの不都合を生じることがある。したがって、他の酸やpH調整剤を用いる場合は、該乳化物の酸味に影響しない種類のものを使用するか、又は影響しない程度の使用量にとどめることが望ましい。
【0022】
当該乳化物を加熱調理された澱粉性食品の表面に付着させる手段としては、以下が挙げられる:該加熱調理された食品に、液状の乳化物(乳化液)を噴霧もしくは塗布する方法、該加熱調理された食品に乳化液を添加混合する方法;該加熱調理された食品を乳化液に浸漬する方法、など。このとき、該乳化液を食品の表面に満遍なく付着させる(又はコーティングする)ことが好ましい。あるいは、該加熱調理された食品が塊状に成形されていて、かつ乳化液の付着後に凍結される場合には、該塊の表面を乳化液でコーティングしてもよい。
【0023】
当該乳化物は、食品に付着させる際には液状(乳化液)であることが好ましいが、食品に付着した状態では液状であっても固体状であってもよい。必要に応じて、食品に付着させる前に該乳化物を加熱して液状にしてもよい。
【0024】
該加熱調理された澱粉性食品に対する当該乳化物の付着量は、該乳化物を付着させる前の加熱調理された該食品100質量部に対して、好ましくは2~20質量部、より好ましくは6~15質量部である。付着量が少ないと、得られた食品が充分な保存性を得られない。他方、付着量が多いと、得られた食品の風味が低下する。
【0025】
当該乳化物を付着させた澱粉性食品は、凍結させてもよい。例えば、該乳化物を付着させた加熱調理された澱粉性食品を、必要に応じて保存、流通又は販売されるときの一般的な形態(例えば、麺塊状)に成形した後、凍結処理してもよい。あるいは、加熱調理された澱粉性食品を、塊状に成形した後、該塊の表面に該乳化物を付着させ、凍結処理してもよい。さらに、凍結させた食品を冷凍保存してもよい。
【0026】
本発明により製造される調理済み澱粉性食品は、通常の保存手段、例えば常温、冷蔵、チルド又は冷凍で保存され得る。好ましくは、本発明により製造される調理済み澱粉性食品は、冷凍調理済み食品であり、より好ましくは冷凍調理済み麺類又は冷凍調理済み米飯である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0028】
参考例
(1)乳化液の調製
有機酸及びリン酸を水に溶解させて水相を得た。食用油脂に増粘多糖類を分散させて油相を得た。油相に水相を加え、ホイッパーで20秒程度撹拌混合して乳化液を作製した。
使用した材料は以下のとおり。
・有機酸:氷酢酸、乳酸、クエン酸、酢酸Na、乳酸Na、又はクエン酸Na
・リン酸:酸性ヘキサメタリン酸Na(ウルトラポリホス;(株)ポリホス化学研究所)、メタリン酸Na(メタリン酸Na;太平化学産業(株)、もしくは液体ウルトラK;オリエンタル酵母工業(株))、又は酸性ピロリン酸Na(ピロリン酸二水素二ナトリウム;太平化学産業(株))
・食用油脂:大豆油((株)J-オイルミルズ)、又はショートニング((株)J-オイルミルズ)
・増粘多糖類:キサンタンガム(三栄源エフ・エフ・アイ(株))
【0029】
(2)調理済み麺類の製造
乾燥スパゲッティを沸騰したお湯で約11分間茹でた後(歩留り245%)、15℃の水で約1分冷却し、水切りした。得られた茹で麺100質量部に対して、(1)に従って調製した乳化液6質量部を添加し、表面全体に均一に付着するよう和えた。次いで、この麺を-40℃で急速冷凍して冷凍調理済みスパゲッティを製造した。製造した冷凍スパゲッティは-20℃で冷凍保存した。
【0030】
(3)保存性試験
芽胞液(Bacillus属)を100℃で10分間ヒートショックし、約1.0×104cfu/mLとなるよう0.1%ペプトン水で希釈した。(2)で製造した冷凍調理済みスパゲッティを電子レンジで喫食可能な状態になるまで加熱解凍した。解凍したスパゲッティ25gを袋に入れ、そこに希釈した芽胞液を0.25mL接種し(初発菌数約1.0×102cfu/g)、袋の上からよく混合した。袋の口をシールし、35℃の恒温槽に12時間静置した。次いで、静置後の袋に0.1%ペプトン水225mLを入れ(10倍希釈)、マスティケーターを用いて90秒間ホモジナイズした。袋内の懸濁液を0.1mL採取し、0.1%ペプトン水で100倍希釈した。希釈液0.1mLを標準寒天培地に塗沫した。培地を35℃で24時間培養後、菌数をカウントし、初発からの増殖桁数を算出した。
【0031】
(4)官能評価
(2)で製造した冷凍調理済みスパゲッティを、-20℃で48時間冷凍保存後、電子レンジで喫食可能な状態になるまで加熱解凍した。解凍したスパゲッティについて酸味を評価した。評価では、10名のパネルが評価対象品と基準品とをそれぞれ食し、基準品との対比に基づいて、下記評価基準にて評価対象品の酸味レベルを評価した。基準品としては、酸性ヘキサメタリン酸Na又はその他リン酸塩を水に置き換えた以外は、評価対象品に用いたものと同様の組成の乳化液を用いて(2)の手順で製造した冷凍調理済みスパゲッティを準備し、これを上記と同様の手順で加熱解凍したものを用いた。各評価対象品について、10名の評価の平均点を求めた。
(酸味レベル)
+3:基準品より酸味を非常に強く感じる。
+2:基準品より酸味をかなり強く感じる。
+1:基準品より酸味をやや強く感じる。
±:基準品と同等の酸味を感じる。
-1:基準品より酸味をやや弱く感じる。
-2:基準品より酸味をかなり弱く感じる。
-3:基準品より酸味を非常に弱く感じる。
【0032】
試験例1
参考例(1)及び(2)の手順に従って、下記表1の組成で乳化液を調製し、それを用いて冷凍調理済みスパゲティ(製造例1~4)を製造した。得られた製造例1~4のスパゲティについて、参考例(3)及び(4)の手順に従って保存性試験及び官能評価を行った。
【0033】
保存性試験の結果を表1に、官能評価の結果を表2に示す。なお、表2には、参考として、製造例1~4それぞれの官能評価のための基準品である基準品1~4に用いた乳化液の組成も記載した。酸を含有する乳化液を付着させたスパゲティは、微生物の増殖を抑制した。さらに、酸性ヘキサメタリン酸を含有する乳化液を付着させた製造例1~4のスパゲティでは、酸性ヘキサメタリン酸を含有しない乳化液を付着させた基準品のスパゲティと比べて酸味が抑制されていた。
【0034】
【0035】
【0036】
試験例2
乳化液に用いるリン酸の種類を表3のとおりに変更した以外は、試験例1と同様の手順で冷凍調理済みスパゲティ(比較例1~3)を製造し、各々の基準品との比較による官能評価を行った。結果を表3に示す。なお、表3には製造例1の結果を再掲する。酸性ヘキサメタリン酸を含有する乳化液を付着させた製造例1のスパゲティは、基準品と比べて酸味が抑えられていた。一方、他のリン酸を含有する乳化液を付着させた比較例1~3のスパゲティは、基準品と同程度の酸味を有していた。
【0037】
【0038】
試験例3
乳化液に用いる有機酸の種類を表4のとおりに変更した以外は、試験例1と同様の手順で冷凍調理済みスパゲティ(製造例5~6)を製造し、各々の基準品との比較による官能評価を行った。結果を表4に示す。酸性ヘキサメタリン酸を含有する乳化液を付着させた製造例5~6のスパゲティは、いずれも基準品と比べて酸味が抑えられていた。
【0039】
【0040】
試験例4
乳化液のpHを表5のとおりに変更した以外は、試験例1と同様の手順で冷凍調理済みスパゲティ(製造例7~8)を製造し、各々の基準品との比較による官能評価を行った。結果を表5に示す。なお、表5には製造例1~3の結果を再掲する。
【0041】
【0042】
試験例5
乳化液中の有機酸と酸性ヘキサメタリン酸の量及び質量比を表6のとおりに変更した以外は、試験例1と同様の手順で冷凍調理済みスパゲティ(製造例9~12)を製造し、各々の基準品との比較による官能評価を行った。結果を表6に示す。なお、表6には製造例1の結果を再掲する。製造例9~12のスパゲティは、いずれも基準品と比べて酸味が抑えられていた。
【0043】
【0044】
試験例6
乳化液中の水相と油相の比率を表7のとおりに変更した以外は、試験例1と同様の手順で冷凍調理済みスパゲティ(製造例13~16)を製造した。比較例として、乳化液の代わりに、水相のみの液(比較例4)又は水相と油相を含むが乳化していない液(比較例5)を用いて試験例1と同様の手順で冷凍調理済みスパゲティを製造した。得られた冷凍調理済みスパゲティを、参考例(4)の手順に従って、各々の基準品との比較により官能評価した。結果を表7に示す。なお、表7には製造例1の結果を再掲する。乳化液を使用して製造した製造例13~16のスパゲティは、いずれも基準品と比べて酸味が抑えられていた。乳化液を使用せずに製造したスパゲティは、基準品と同程度の酸味を有していた。
【0045】
【0046】
試験例7
乳化液の付着量を表8のとおりに変更した以外は、試験例1と同様の手順で冷凍調理済みスパゲティ(製造例17~20)を製造し、各々の基準品との比較による官能評価を行った。乳化液としては、基準品1及び製造例1で用いた乳化液と同じ組成のものを用いた。結果を表8に示す。なお、表8には製造例1の結果を再掲する。
【0047】
【0048】
試験例8
乳化液としては、基準品1及び製造例1で用いた乳化液と同じ組成のものを用いた。乾燥うどんを沸騰したお湯で約13分間茹でた後(歩留り250%)、水で2~3回もみ洗いし、水切りした。得られた茹で麺100質量部に対して乳化液6質量部を添加し、表面全体に均一に付着するよう和えた。次いで、この麺を-40℃で急速冷凍し、冷凍調理済みうどんを製造した。また、生中華麺を沸騰したお湯で約3分間茹でた後(歩留り220%)、15℃の水で約1分冷却し、水切りした。得られた茹で麺100質量部に対して乳化液9質量部を添加し、表面全体に均一に付着するよう和えた。また、炊飯器で炊いた米飯100質量部に対して乳化液11質量部を添加し、表面全体に均一に付着するよう和えた。次いで、これらの麺及び米飯を-40℃で急速冷凍し、冷凍調理済み中華麺及び冷凍調理済み米飯を製造した。製造した冷凍麺類及び米飯は、-20℃で48時間保存した後、参考例(4)の手順に従って官能評価した。結果を表9に示す。
【0049】