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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】重合装置
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/01 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
C08F2/01
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022124785
(22)【出願日】2022-08-04
【審査請求日】2022-11-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】平原 和弘
(72)【発明者】
【氏名】大柿 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼口 隆彰
【審査官】蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/093611(WO,A1)
【文献】特開平11-347397(JP,A)
【文献】特開平05-339304(JP,A)
【文献】特開2007-321146(JP,A)
【文献】特開2015-218230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 ~ 2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リビングアニオン重合を行うための重合装置であって、
原料を収容する原料容器と、
原料供給配管を介して前記原料容器に接続され、供給された前記原料をアニオン重合させる反応容器と、
前記原料供給配管に設けられ、当該原料供給配管を開閉する開閉バルブとを備え、
前記原料供給配管はその継手部分がメタルガスケットを用いてシールされており、
前記開閉バルブが、リーク・レートが4×10 -9 std・cm /s以下のガスバルブである重合装置。
【請求項2】
前記継手部分は、リーク・レートが、4×10-11std・cm/s以下のものである請求項1に記載の重合装置。
【請求項3】
前記原料供給配管は、前記反応容器及び前記原料容器に溶接接合により接続されている請求項1に記載の重合装置。
【請求項4】
複数の前記原料容器と、当該複数の原料容器と前記反応容器とをそれぞれ接続する複数の前記原料供給配管とを備え、
当該複数の原料供給配管が有する全ての継手部分がメタルガスケットを用いてシールされており、
前記複数の原料供給配管に設けられた全ての前記開閉バルブがガスバルブである請求項1に記載の重合装置。
【請求項5】
前記複数の原料供給配管の全てが、前記反応容器及び対応する前記原料容器に溶接接合により接続されている請求項に記載の重合装置。
【請求項6】
前記反応容器に供給される原料を撹拌する撹拌機構を備え、
前記撹拌機構が、前記反応容器内に収容された撹拌翼と、前記反応容器外に配置され、前記撹拌翼を磁力により回転させる駆動機構とを備える請求項1に記載の重合装置。
【請求項7】
前記原料容器内の原料を前記原料供給配管に圧送するための圧送機構を備え、
前記圧送機構は、
加圧ガスを収容する加圧ガス容器と、
前記加圧ガス容器と前記原料容器とを接続する加圧ガス供給配管と、
前記加圧ガス供給配管を開閉する加圧ガス用バルブと、
前記原料容器の重量を測定する計量器と、
前記計量器が取得した前記原料容器の重量に基づいて前記加圧ガス用バルブの開度を調整する制御部とを備える請求項1に記載の重合装置。
【請求項8】
前記加圧ガス供給配管の継手部分がメタルガスケットを用いてシールされており、
前記加圧ガス用バルブがガスバルブであり、
前記加圧ガス供給配管は、溶接接合により前記加圧ガス容器と前記原料容器に接続されている請求項に記載の重合装置。
【請求項9】
44,000≦Mw≦1,023,000の範囲で、1.024≦Mw/Mn≦1.094であるブロック共重合体を収率90%以上で合成することができる請求項1に記載の重合装置。
ここで、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量、である。
【請求項10】
リビングアニオン重合を行うための重合装置であって、
原料を収容する原料容器と、
原料供給配管を介して前記原料容器に接続され、供給された前記原料をアニオン重合させる反応容器と、
前記原料供給配管に設けられ、当該原料供給配管を開閉する開閉バルブとを備え、
前記原料供給配管の継手部分は、リーク・レートが4×10-11std・cm/s以下であり、
前記開閉バルブは、リーク・レートが4×10-9std・cm/s以下のものである重合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン重合を行うための重合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の重合装置としては、特許文献1に示すように、原料モノマーや重合開始剤を収容する複数の原料容器と、重合反応を行う反応容器とを配管で接続し、これらの原料を反応容器に連続的に供給して重合反応を行い、ポリマーを合成するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2015-093611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記したような従来の重合装置を用いてモノマーの重合を行うと、配管内や反応容器内に意図せず混入した空気中の成分(CO,O、HO)が、重合開始剤や生長末端を失活させる等して重合反応を阻害し、安定してポリマーを合成できないことがある。このような現象は、重合装置を用いてアニオン重合によりポリマー合成する際に特に顕著に現れる。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、空気中の成分による重合反応の阻害を抑制し、安定してアニオン重合を行える重合装置を提供することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討した結果、重合装置では、反応容器と原料容器等とを接続する配管に、容器交換のために流路を閉鎖するバルブや原料の供給量を調整するバルブ等の複数のバルブが設けられており、またこのようなバルブを設けるために配管が複数の配管部材を接続して構成されていることに着目した。本発明者らがさらに鋭意検討した結果、従来の重合装置では、配管の継手部分に気密性の低い樹脂製のガスケットシールが用いられるとともに、バルブとしても気密性の低いものが使用されており、このような配管の継手部分とバルブとが空気の主たる混入流路となっていることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明に係る重合装置は、アニオン重合を行うためのものであって、原料を収容する原料容器と、原料供給配管を介して前記原料容器に接続され、供給された前記原料をアニオン重合させる反応容器と、前記原料供給配管に設けられ、前記原料供給配管を開閉する開閉バルブとを備え、前記原料供給配管はその継手部分がメタルガスケットを用いてシールされており、前記開閉バルブがガスバルブであることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、原料供給配管の継手部分を気密性の高いメタルガスケットを用いてシールするとともに、原料供給配管に設けたバルブとして、液体用バルブよりも気密性の高いガスバルブを用いているので、アニオン重合反応を阻害する空気中の成分(O、CO,HO等)が原料供給配管の継手部分やバルブの隙間を通じて混入するのを防止できる。これにより、継手部分をフッ素樹脂製のガスケットを用いてシールしているものや、液体用のバルブを用いているものに比べて、安定してアニオン重合を行うことができる。
【0009】
前記開閉バルブの具体的態様としては、リーク・レートが、4×10-9std・cm/s以下のものが挙げられる。
開閉バルブのリーク・レートがこのような範囲であれば、空気中の成分(O、CO,HO等)の混入をより防ぐことができ、安定してアニオン重合を行うことができる。
【0010】
また前記原料供給配管における前記継手部分の具体的態様としては、リーク・レートが、4×10-11std・cm/s以下のものが挙げられる。
原料供給配管の継手部分のリーク・レートがこのような範囲であれば、空気中の成分(O、CO,HO等)の混入をより一層防ぐことができ、より安定してアニオン重合を行うことができる。
【0011】
なお本明細書において、「リーク・レート」とは、JIS Z 2331:2006 ヘリウム漏れ試験方法 の付属書1(規定)真空吹付け法(スプレー法)又はこれに準ずる評価方法により試験して得られる値を意味する。なお、「std・cm/s」は、「standard cc/s」を意味している。
【0012】
前記重合装置は、前記原料供給配管が前記反応容器及び前記原料容器に溶接接合により接続されているのが好ましい。
このようにすれば、原料供給配管と反応容器及び原料容器とを溶接接合で接続しているので、接続部における空気の混入経路を無くすことができる。これにより、混入する空気中の成分(O、CO,HO等)をより一層低減することができ、反応容器においてより安定してアニオン重合を行うことができる。
【0013】
原料供給配管を通じて混入する空気中の成分をより一層低減するために、前記重合装置は、複数の前記原料容器と、当該複数の原料容器と前記反応容器とをそれぞれ接続する複数の前記原料供給配管とを備え、当該複数の原料供給配管が有する全ての継手部分がメタルガスケットを用いてシールされているのが好ましい。同様の理由から、前記重合装置は、前記複数の原料供給配管に設けられた全ての前記開閉バルブがガスバルブであるのがより好ましく、前記複数の原料供給配管の全てが、前記反応容器及び対応する前記原料容器に溶接接合により接続されているのがさらに好ましい。
【0014】
また前記重合装置は、前記反応容器内に供給された原料を撹拌する撹拌機構を備え、前記撹拌機構が、前記反応容器内に収容された撹拌翼と、前記反応容器外に配置され、前記撹拌翼を磁力により回転させる駆動機構とを備えるものであるのが好ましい。
このような撹拌機構を用いれば、攪拌機構の一部の構成部材(例えばシャフト部材等)を反応容器の壁を貫通させるよう設けることなく、撹拌翼と駆動機構とを反応容器の内部と外部に分離して設けることができる。これにより、攪拌機構の設置部からの空気の混入を防ぐことができる。
【0015】
また原料容器に収容された原料を原料供給配管に送り出すための具体的態様として、前記重合装置が、前記原料容器内の原料を前記原料供給配管に圧送するための圧送機構を備え、前記圧送機構は、加圧ガスを収容する加圧ガス容器と、前記加圧ガス容器と前記原料容器とを接続する加圧ガス供給配管と、前記加圧ガス供給配管を開閉する加圧ガス用バルブと、前記原料容器の重量を測定する計量器と、前記計量器が取得した前記原料容器の重量に基づいて前記加圧ガス用バルブの開度を調整する制御部とを備えるものが好ましい。
このようにすれば、ユーザ自ら加圧ガス用バルブを手動操作するのではなく、制御部により加圧ガス用バルブの開度を調整するようにしているので、所望の量の原料を精度よく送り出すことができる。
【0016】
また前記重合装置は、前記加圧ガス供給配管の継手部分がメタルガスケットを用いてシールされており、前記加圧ガス用バルブがガスバルブであり、前記加圧ガス供給配管は、溶接接合により前記加圧ガス容器と前記原料容器に接続されているのが好ましい。
このようにすれば、加圧ガス供給配管の継手部分や加圧ガス用バルブから混入する空気の量を低減でき、より安定してアニオン重合を行うことができる。
【0017】
前記重合装置がリビングアニオン重合を行うためのものであれば、前記した本発明の効果をより顕著に奏することができる。
【0018】
そして前記した気密性の高い各重合装置を用いれば、44,000≦Mw≦1,023,000の範囲で、1.024≦Mw/Mn≦1.094であるブロック共重合体を収率90%以上で合成することができる。ここで、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量、である。
【0019】
また本発明の重合装置は、アニオン重合を行うためのものであって、原料を収容する原料容器と、原料供給配管を介して前記原料容器に接続され、供給された前記原料をアニオン重合させる反応容器と、前記原料供給配管に設けられ、当該原料供給配管を開閉する開閉バルブとを備え、前記原料供給配管の継手部分は、リーク・レートが4×10-11std・cm/s以下であり、前記開閉バルブは、リーク・レートが4×10-9std・cm/s以下のものであることを特徴としてもよい。
このような重合装置であっても、上記した重合装置と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0020】
このように構成した本発明によれば、空気中の成分による重合反応の阻害を抑制し、安定してアニオン重合を行える重合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る重合装置の全体構成を示す図。
図2】同実施形態の重合装置によるアニオン重合反応の一例を示す化学式。
図3】同実施形態の重合装置の継手部分の構造の一例を模式的に示す部分断面図。
図4】同実施形態の重合装置の継手部分の構成の一例を模式的に示す分解図。
図5】同実施形態の重合装置のバルブの構成の一例を模式的に示す断面図。
図6】同実施形態の重合装置を用いてリビングアニオン重合により合成したポリマーの分子量等を示す表。
図7】他の一実施形態に係る重合装置の全体構成を示す図。
図8】他の一実施形態に係る原料容器の構成を示す図。
図9】実験例で用いた装置の構成を示す図。
図10】実験例の条件及び分析結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の一実施形態に係る重合装置100について図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態の重合装置100は、アニオン重合(具体的にはリビングアニオン重合)を行うのに用いられるものである。具体的にこの重合装置100は、図1に示すように、原料モノマー及び重合開始剤等の原料を収容する複数の原料容器1と、各原料容器1から供給される原料を反応させてリビングアニオン重合させる反応容器2と、重合用の溶媒を収容する溶媒容器3とを備える。なお本実施形態の重合装置100は、溶媒が供給された反応容器2内に、原料モノマーと重合開始剤を各原料容器1から連続的に供給して重合させる連続式のものである。ここでは、高分子ポリスチレン(具体的にはポリスチレン-ポリメチルメタクリレート共重合体)を合成するものとして、以下各部を説明する。
【0024】
原料容器1は、例えばステンレス等の金属からなる気密性の高い容器である。本実施形態の重合装置100は、原料容器1として、リビングアニオン重合させる原料モノマーを収容する複数(ここでは3つ)のモノマー容器11と、重合開始剤を収容する開始剤容器12とを備えている。各モノマー容器11には、原料モノマーとして、スチレン(St)、メタクリル酸メチル(MMA)、バインダーとして1,1-ジフェニルエチレン(DPE)がそれぞれ収容されている。また開始剤容器12には、重合開始剤としてセカンダリーブチルリチウム(Sec-BuLi)が収容されている。なお各容器に収容される原料モノマー及び重合開始剤はこれらのものに限らず、目的とするポリマーの種類に応じて適宜変更されてよい。また原料容器1として、重合反応を停止させる反応停止剤(MeOH)等を収容する停止剤容器(不図示)を備えていてもよい。
【0025】
反応容器2は、例えばステンレス等の金属からなる気密性の高い容器である。この反応容器2内に、原料モノマー(例えばスチレン)と重合開始剤(例えばセカンダリーブチルリチウム)とが所定の比率で供給されることで、図2に示すように、開始反応と生長反応で構成されるリビングアニオン重合が行われる。この反応容器2は、冷却機構4によりその表面が冷却されている。冷却機構4は、例えばドライアイスとメタノール(MeOH)の混合物を寒剤とする冷却槽等を備えており、反応容器2は冷却槽に入れられて例えば約-70℃以下まで冷却されている。また反応容器2には、反応容器2内に供給された原料を撹拌する攪拌機構5が設けられている。
【0026】
この反応容器2と上記した各原料容器1は、原料供給配管Psを介してそれぞれ接続されている。各原料供給配管Psは、金属製の配管部材を複数接続して構成したものであり、配管部材間の継手部分はガスケットを用いて気密にシールされている。具体的には、連続する配管部材のフランジ間にガスケットを挟みこみ、両フランジをボルト締めで固定することで継手部分がシールされている。各原料供給配管Psは、その上流側端部が原料容器1の上面に接続されており、下流側端部が反応容器2の上面に接続されている。また各原料供給配管Psには、流路を開閉するための1又は複数の開閉バルブVs(以下、原料供給用バルブという)が設けられている。この開閉バルブVsもまた、継手部分を介して配管部材に接続されており、このバルブVsと配管部材間の継手部分もガスケットを用いて気密にシールされている。
【0027】
溶媒容器3は、例えばステンレス等の金属からなる気密性の高い容器であり、溶液重合を行うための重合用溶媒を内部に貯留するとともに、重合用溶媒を減圧蒸留させるために用いられるものである。この溶媒容器3は、内部に貯留している重合用溶媒が所定の温度に維持されるよう温調機構6により温調されている。この温調機構6は例えば恒温水槽等を備えて構成されるものであり、溶媒容器3は恒温水槽に漬けられて約40℃に温度調整される。本実施形態の重合用溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)にベンゾフェノンとナトリウムを加えて脱水してなるものであるが、これに限らない。
【0028】
この溶媒容器3と反応容器2とは、溶媒配管Pcを介して接続されている。この溶媒配管Pcは金属製の配管部材を複数接続して構成したものであり、配管部材間の継手部分はガスケットを用いて気密にシールされている。溶媒配管Pcは、その上流側端部が反応容器2の上面に接続されており、下流側端部が溶媒容器3の上面に接続されている。また溶媒配管Pcには、流路を開閉するための1又は複数の溶媒用バルブVcが設けられている。
【0029】
また重合装置100は、各原料容器1内の原料を原料供給配管Psに圧送するための圧送機構7を備えている。この圧送機構7は、加圧ガスを収容する加圧ガス容器71と、加圧ガス容器71と各原料容器1とを接続する複数の加圧ガス供給配管72と、各加圧ガス供給配管72に設けられた加圧ガス用バルブ73と、各原料容器1の重量を測定する計量器74と、各原料供給配管Psに圧送される原料の量を制御する制御部75とを備えている。
【0030】
加圧ガス容器71は、例えばアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス等からなる加圧ガスを収容するガスボンベ等である。この加圧ガスの圧力は、各原料容器1内の圧力及び反応容器2内の圧力よりも高く設定されている。
【0031】
加圧ガス供給配管72は、原料供給配管Ps等と同様に、金属製の配管部材を複数接続して構成したものであり、配管部材間の継手部分はガスケットを用いて気密にシールされている。各加圧ガス供給配管72は、その下流側端部が各原料容器1の上面に接続されている。
【0032】
加圧ガス用バルブ73は各加圧ガス供給配管72に1又は複数個設けられており、各加圧ガス供給配管72の流路を開閉する。
【0033】
計量器74は、原料を貯蔵している各原料容器1の重量(すなわち、原料容器1自体の重量と、貯蔵されている原料の重量との合計)を個別に測定し、その測定結果を重量データとして制御部75に送信する。計量器74は、各原料容器1の重量を測定できるものであれば、バネはかり、ロードセル式はかり又は電磁式はかり等の任意の測定原理を利用したものであってよい。
【0034】
制御部75は、CPUや内部メモリ等を内蔵する汎用乃至専用のコンピュータであり、内部メモリに記憶された所定のプログラムに基づきCPU及びその周辺機器が協働することによって、設定受付部75a、重量取得部75b、弁制御部75cとしての機能を少なくとも発揮する。
【0035】
設定受付部75aは、各原料供給配管Psに圧送する原料の重量の設定値をユーザから受け付け、これを記憶しておくものである。重量取得部75bは、各原料容器1の重量を示す重量データを各計量器74から常時取得し、これを弁制御部75cに送信するものである。弁制御部75cは、設定受付部75aが受け付けた設定値と、各原料容器1の重量とに基づいて、各加圧ガス用バルブ73の開度を調整するものである。具体的にこの弁制御部75cは、各原料容器1の重量の時間変化に基づいて、各原料容器1から圧送された各原料の重量を算出し、当該重量の値と設定値とを比較する。そして弁制御部75cは、圧送された原料の値が設定値に到達すると、加圧ガス用バルブ73を閉止し、原料の圧送を停止する。
【0036】
また重合装置100は、反応容器2内を脱ガスする脱ガス機構8を備えている。この脱ガス機構8は、反応容器2に上流端部が接続された脱ガス用配管81と、脱ガス用配管81の下流端部に接続された真空ポンプ(具体的には分子ターボポンプ)82とを備えている。脱ガス用配管81は、原料供給配管Ps等と同様に、金属製の配管部材を複数接続して構成したものであり、配管部材間の継手部分はガスケットを用いて気密にシールされている。脱ガス用配管81はその上流端が反応容器2の上面に接続されている。そして脱ガス用配管81には、脱ガス流路を開閉する1又は複数個の脱ガス用バルブ83が設けられている。
【0037】
しかして本実施形態の重合装置100は、空気中の成分による重合反応の阻害を抑制すべく、少なくとも、原料供給配管Psが有する継手部分がメタルガスケットを用いてシールされるとともに、原料供給用バルブVsがガスバルブを用いて構成されている。
【0038】
メタルガスケットは、例えば、ニッケル、ステンレス又は銅等の金属からなものである。本実施形態の重合装置100では、少なくとも開始剤容器12と反応容器2とを接続する原料供給配管Psが有する全ての継手部分がメタルガスケットを用いてシールされており、ここでは複数の原料供給配管Psの全てが有する全ての継手部分がメタルガスケットを用いてシールされている。
【0039】
ここで、本実施形態の原料供給配管Psが有する継手部分の一態様を図3及び図4に示す。具体的にこの継手部分は、円環薄板状をなすメタルガスケット91と、当該メタルガスケットを両面から挟み込む管状をなす一対のスリーブ部材92、93と、当該一対のスリーブ部材をメタルガスケットに向けて締め込むための雄ナット部材94及び雌ナット部材95とを備えている。一対のスリーブ部材92、93は、その管軸方向の端面92a,93aを、メタルガスケット91のシール面に両側から食い込ませるように接触させることにより、その端面92a,93a間をシールする。この一対のスリーブ部材92,93は、雄ナット部材94と雌ナット部材95の貫通孔にそれぞれ挿通されている。雄ナット部材94とこれに挿通される一方のスリーブ部材92には、管軸方向に直交し、かつ互いに対向する当たり面94s、92sがそれぞれ設けられている、雄ナット部材94にスリーブ部材92を挿通させると、互いの当たり面94s、92s同士が接触するようになっている。雌ナット部材95と、これに挿通される他方のスリーブ部材93にも同様に当たり面95s、93sがそれぞれ設けられている。そして雌ナット部材95に対して雄ナット部材94を締め込むと、一対のスリーブ部材92,93は、メタルガスケット91を挟んで互いの端面92a、93aを突き合わせるように締め付けられる。これにより、スリーブ部材92,93の端面92a、93aがメタルガスケット91のシール面に食い込むことによりシールされる。なお図3及び図4では、バルブと配管部材との間の継手部分の一態様を示しているが、配管部材間の継手部分も同様の構成であってもよい。またこれらの継手部分の構造は、メタルガスケットを用いてシールするものであれば、図3及び図4に示すものに限らず、他の構造であってもよい。
【0040】
この継手部分は、メタルガスケットを用いることで高い気密性を有しており、例えば、JIS Z 2331:2006 ヘリウム漏れ試験方法 の付属書1(規定)真空吹付け法(スプレー法)に準拠して行われるヘリウムリークテストにおけるリーク・レートが4×10―11std・cm/s以下となっている。
【0041】
本明細書においてガスバルブとは、半導体製造用に適した気密性の高い(すなわち低リーク・レートの)バルブを意味するものであり、気体を制御するだけでなく液体を制御するものであってもよい。より具体的にこのガスバルブは、JIS Z 2331:2006 ヘリウム漏れ試験方法 の付属書1(規定)真空吹付け法(スプレー法)に準拠して行われるヘリウムリークテストにおけるリーク・レートが4×10―9std・cm/s以下のものである。このガスバルブは、ダイヤフラム式及びベローズ・シール式のいずれであってもよい。本実施形態の重合装置100では、少なくとも開始剤容器12と反応容器2とを接続する原料供給配管Psに設けられた全ての原料供給用バルブVsがガスバルブを用いて構成されており、ここでは複数の原料供給配管Psの全てに設けられた全ての原料供給用バルブVsがガスバルブを用いて構成されている。ベローズ・シール式のバルブの内部構成の一例を図5に示す。
【0042】
さらに本実施形態の重合装置100では、原料供給配管Psだけでなく、原料容器1に直接的又は間接的に接続される全ての配管において、その継手部分がメタルガスケットを用いてシールされるとともに、流路を開閉するバルブがガスバルブを用いて構成されている。
【0043】
具体的には、溶媒配管Pc、脱ガス用配管81及び複数の加圧ガス供給配管72が有する全ての継手部分がメタルガスケットを用いてシールされている。またこれらの配管に設けられた全てのバルブが、ガスバルブを用いて構成されている。
【0044】
なお、重合装置100を構成する配管のうち、液体が流れる配管(原料供給配管Ps及び溶媒配管Pc)にはベローズ・シール式のガスバルブが用いられるのが好ましく、気体が流れる配管(加圧ガス供給配管72及び脱ガス用配管81)にはダイヤフラム式のガスバルブが用いられるのが好ましい。
【0045】
そして本実施形態の重合装置100では、少なくとも原料供給配管Psは、反応容器2及び原料容器1に溶接接合により接続されている。より具体的には複数の原料供給配管Psの全てが、反応容器2及び対応する各原料容器1に溶接接合されている。これにより、原料供給配管Psと各容器との接続部における気密性を高めるようにしている。
【0046】
また本実施形態では、原料供給配管Ps以外の他の全ての配管も、溶接接合により対応する各容器に接続されている。具体的には、複数の加圧ガス供給配管72は、いずれも加圧ガス容器71と対応する原料容器1に溶接接合により接続されている。また、溶媒配管Pcも、反応容器2及び溶媒容器3に溶接接合により接続されており、さらに脱ガス用配管81も溶接接合により反応容器2に接続されている。
【0047】
さらに本実施形態では。反応容器2の気密性を向上させるため、攪拌機構5は、その構成部材が反応容器2の壁を貫通しないように構成されている。具体的にこの攪拌機構5は、反応容器2内に収容された攪拌翼51と、反応容器2外(反応容器2の外表面近傍)に配置され、磁力により攪拌翼51を回転させる駆動機構52とを備えて構成される。
【0048】
攪拌翼51は、反応容器2の内表面近傍において、壁を挟んで駆動機構52に対向する位置に回転自在に設けられた磁石部材51aと、当該磁石部材51aに連結された棒状のシャフト部材51bと、当該シャフト部材51bに連結した翼部材51cとを備えている。そして駆動機構52は、例えば図示しないコイルに電流を流すことで磁場を生じさせ、当該磁場を利用して反応容器2内の磁石部材51aを回転させることで、これに連結されるシャフト部材51b及び翼部材51cを回転させる。なお駆動機構52及び磁石部材51aは、反応容器2の上面側又は底面側に設けられるのが好ましい。
【0049】
次に、本実施形態の重合装置100の動作について簡単に説明する。
まず、真空ポンプ82を始動させ、脱ガス用機構8により反応容器2内及びこれに接続された原料供給配管Ps内を脱気する。次に、冷却機構4により反応容器2内を-70℃以下に冷却する。反応容器2内を十分に脱気及び減圧した後、原料供給用バルブVsと脱ガス用バルブ83を閉止する。次いで、複数の溶媒用バルブVcを下流側(反応容器2側)から順に開放し、溶媒容器3内に収容された重合用溶媒を反応容器2内に供給する。この際、重合用溶媒は、減圧された溶媒配管Pc内で気化された状態で反応容器2内に供給され、反応容器2内で冷却されて再び液化する。そして、反応容器2内が十分に冷却された後、圧送機構7を駆動して各原料容器1から原料を圧送し、重合開始剤(Sec-BuLi)と、第1の原料モノマー(スチレン)と、バインダー(1,1-ジフェニルエチレン)と、第2の原料モノマー(メタクリル酸メチル)とを反応容器2内に順番に供給し、重合反応を実施する。ここで、各原料を反応容器2に供給する毎に、攪拌機構5により攪拌を行う。最後に、メタノール等の反応停止剤を反応容器2に供給し、重合反応を停止させる。このようにして、ポリスチレン-ポリメチルメタクリレート共重合体を合成することができる。
【0050】
このように構成した本実施形態の重合装置100によれば、各配管が有する全ての継手部分を気密性の高いメタルガスケットを用いてシールするとともに、各配管に設けたバルブとして気密性の高いガスバルブを用いており、さらには各配管と容器とを溶接接合により接続し、しかも攪拌機構5が反応容器2の壁を貫かない構成としているため、各配管内や反応容器2内に混入する空気中の成分(O、CO及びHO)の量を劇的に減らすことができる。これにより、HOの混入に起因する重合開始剤の失活や生長末端の失活を抑制し、開始反応中や生長反応中におけるアニオン重合反応の停止を防止できる。その結果、安定してアニオン重合を行い、分子量分布のバラツキが小さいポリマーを合成することができる。さらに、COやOの混入量を低減することで、合成されるポリマーの組成を理論値に近づけることができる。
【0051】
また本実施形態の重合装置100を用いて、アニオン重合を行った結果(実験例1~8)を図6に示す。この実験例1~8では、重合装置100を用いて、重合開始剤(Sec-BuLi)と、原料モノマーA(スチレン)と、バインダー(1,1-ジフェニルエチレン)と、原料モノマーB(メタクリル酸メチル)と、反応停止剤(MeOH)とを反応容器2内に順番に供給して、ポリスチレン-ポリメチルメタクリレート共重合体を合成した。そして得られたポリスチレン-ポリメチルメタクリレート共重合体をTHFで0.1wt%まで希釈し、その分子量をGPCにてポリスチレン換算で測定した。図6の結果から分かるように、本実施形態の重合装置100によれば、気密性を高めて混入する空気中の成分を劇的に減らすことにより、重量平均分子量(Mw)が44,000以上1,023,000以下の範囲で、分子量分布(Mw/Mn)が1.024以上1.094以下であるBCP(ブロック共重合体)を収率90%で合成することができることを確認できた。また、いずれの実験例もGPCの波形は単峰性を示した。
【0052】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態の重合装置100は、圧送機構7を用いて原料供給配管Psに原料を供給するものであったがこれに限らない。他の実施形態の重合装置100は、図7に示すように、圧送機構7を用いることなく、原料を手動で供給するよう構成されてよい。この場合、各原料容器1を反応容器2よりも上方に配置し、原料が自重により反応容器2に流れるようにしてもよい。そしてこの形態では、反応容器2に供給された原料の量をユーザが確認できるよう、図8に示すように、各原料容器1はガラス製であり、かつ該表面に計量用の目盛りが設けられているのが好ましい。そして金属製の各原料供給配管Psは、その外表面がガラス製の原料容器1の口部1cにより覆われるとともに、溶接により接続されているのが好ましい。
【0053】
また前記実施形態では、重合装置100が備える全ての配管の全ての継手部分がメタルガスケットを用いてシールされていたがこれに限らない。少なくとも一部の原料供給配管Psが有する一部の継手部分がメタルガスケットを用いてシールされていれば、他の継手部分は例えばフッ素樹脂製等の金属製以外のガスケットを用いてシールされていてもよい。
【0054】
さらに前記実施形態では、重合装置100が備える全ての配管に設けられている全てのバルブがガスバルブであったがこれに限らない。少なくとも一部の原料供給配管Psに設けられた一部の原料供給バルブがガスバルブであれば、他のバルブは、ガスバルブでなくてもよい。
【0055】
また他の実施形態では、各配管とこれに接続される容器とは、溶接により接合されていなくてもよい。さらに攪拌機構5は磁力により攪拌翼51を回転させるように構成されていたがこれに限らない。攪拌機構5は、構成部材の一部が反応容器2の壁を貫通するように構成されていてもよい。
【0056】
さらに前記実施形態の重合装置100はリビングアニオン重合を行うためのものであったが、これに限らない。
【0057】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【0058】
<配管の継手部分をメタルガスケットでシールすることによる有効性>
また発明者らは、重合装置において配管の継手部分をメタルガスケットでシールすることによる有効性を実験により確認した。具体的には、図9に示す実験モデルを用いて、以下の手順によりアニオン重合を行い、得られた合成物であるポリマーを分析した(実験例9、10)。実験例9と実験例10は、アニオン重合時における配管の継手部分のガスケットの材質を変えて行った。具体的には、実験例9では、配管の継手部分をメタルガスケットでシールし、実験例10では、配管の継手部分を樹脂製のガスケットでシールして重合を行った。以下、具体的な実験手順を記載する。
【0059】
(ポリスチレンの合成)
まず反応容器に、原料モノマー(スチレン)、重合開始剤(Sec-BuLi)及び反応停止剤(メタノール)をそれぞれ収容する試薬容器と、サーモセンサを取り付けた。この反応容器を、メタノール及びドライアイスを満たしたステンレス容器に浸漬させた後、THF(溶剤)を減圧蒸留にて充填した。THFの充填後、反応容器内が-70℃以下になったことを確認し、重合開始剤を滴下し、攪拌した。経時後、原料モノマーを滴下し、攪拌した。経時後、反応停止剤を滴下し、攪拌することで反応液を得た。
【0060】
(ポリスチレンの再沈殿)
次いで、ビーカに純水を加え、攪拌を行いながら、重合実験で得られた反応液を所定の速度で滴下した。滴下後、攪拌を行い洗浄、ろ過し、白色の粉体を得た。得られた粉体を減圧乾燥器で乾燥を行った。
【0061】
(ポリスチレンの分子量測定)
そして乾燥後、得られたポリスチレンをTHFで希釈し、GPCにて分子量をポリスチレン換算で測定した。分析結果を図10に示す。
【0062】
図10の表から分かるように、配管の継手部分をメタルガスケットでシールした実験例9では、実測分子量が理論分子量に近い値(50,500)を示すとともに、分子量分布も単分散に近い値(1.063)を示すことを確認できた。さらにGPC波形が単峰性を示しており、空気のリークによる重合反応の阻害を抑えられていることを確認できた。一方で、配管の継手部分をゴムのガスケットでシールした実験例10では、実測分子量が理論分子量の2倍以上の値(127,500)になるとともに、分子量分布も広い値(1.233)を示した。またGPCの波形が多峰性を示しており、空気のリークによる重合反応の阻害が生じたものと思われる。
【符号の説明】
【0063】
100・・・重合装置
1 ・・・原料容器
2 ・・・反応容器
Ps ・・・原料供給配管
Vs ・・・開閉バルブ

【要約】
【課題】空気中の成分による重合反応の阻害を抑制し、安定してアニオン重合を行える重合装置を提供する。
【解決手段】アニオン重合を行うための重合装置であって、原料を収容する原料容器と、原料供給配管を介して前記原料容器に接続され、供給された前記原料をアニオン重合させる反応容器と、前記原料供給配管に設けられ、前記原料供給配管を開閉する開閉バルブとを備え、前記原料供給配管はその継手部分がメタルガスケットを用いてシールされており、前記開閉バルブがガスバルブである重合装置。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10