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特許7274677食品用澱粉組成物およびそれを用いた魚卵様食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】食品用澱粉組成物およびそれを用いた魚卵様食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20230509BHJP
   A23L 17/30 20160101ALI20230509BHJP
【FI】
A23L5/00 N
A23L17/30 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023520453
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2022045012
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021207424
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】窪田 淳平
(72)【発明者】
【氏名】松澤 俊
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-007642(JP,A)
【文献】特開2001-218570(JP,A)
【文献】SHARMA Shagun, et al.,Effect of extrusion on morphology, structural, functional properties and in vitro digestibility of corn, field pea and kidney bean starches,Starch,2015年,Vol.67,pp.721-728
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を80質量%以上含む食品用澱粉組成物であって、
前記澱粉が、エンドウ澱粉およびその加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上を含み、
前記澱粉の原料澱粉の総アミロース含量が、35質量%以上であり、
25℃の水に30分間浸漬後の前記食品用澱粉組成物の吸水率が、乾燥質量に対して350質量%以上650質量%以下である、食品用澱粉組成物。
【請求項2】
前記加工澱粉が、エンドウ澱粉に、ヒドロキシプロピル化処理、アセチル化処理、架橋処理、酸化処理、酸処理およびα化処理からなる群から選ばれる一種以上の加工処理を施してなる加工澱粉である、請求項1に記載の食品用澱粉組成物。
【請求項3】
前記加工澱粉が、酸処理エンドウ澱粉およびアセチル化エンドウ澱粉からなる群より選ばれる一種または二種である、請求項2に記載の食品用澱粉組成物。
【請求項4】
前記澱粉が、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、小麦澱粉、米澱粉およびそれらの加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上をさらに含む、請求項1に記載の食品用澱粉組成物。
【請求項5】
前記澱粉が、リン酸架橋タピオカ澱粉およびアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉からなる群より選ばれる一種または二種をさらに含む、請求項1に記載の食品用澱粉組成物。
【請求項6】
前記澱粉が、エンドウ澱粉およびその加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上を合計で50質量%以上含む、請求項1に記載の食品用澱粉組成物。
【請求項7】
前記食品用澱粉組成物の目開き0.71mmの篩の篩下かつ目開き0.125mmの篩の篩上の画分の含有量が、50質量%以上100質量%以下である、請求項1に記載の食品用澱粉組成物。
【請求項8】
25℃の水に30分間浸漬後の前記食品用澱粉組成物の粒平均面積が300,000μm以上1,000,000μm以下である、請求項1に記載の食品用澱粉組成物。
【請求項9】
25℃の水に30分間浸漬後の前記食品用澱粉組成物の吸水率(a)と、25℃の水に30分間浸漬後、65℃で30分間加熱後の前記食品用澱粉組成物の吸水率(b)との差(b)-(a)が350質量%以下である、請求項1に記載の食品用澱粉組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の食品用澱粉組成物に、0.01質量%以上30質量%以下の塩分濃度の調味液を含侵させてなる、魚卵様食品。
【請求項11】
請求項10に記載の魚卵様食品を含む、食品。
【請求項12】
前記食品が、魚卵加工食品である、請求項11に記載の食品。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項に記載の食品用澱粉組成物の製造方法であって、
前記澱粉を含む原料を、水の存在下、エクストルーダーにより加熱および加圧処理する工程を含む、食品用澱粉組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用澱粉組成物に関する。また本発明は、前記食品用澱粉組成物に調味液を含侵させてなる魚卵様食品および前記魚卵様食品を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な加工食品の食感を改良し、新しい機能を付与するために、澱粉が用いられている。近年、消費者ニーズの多様化により、食品業界における澱粉を用いた新規素材への期待は高まり、食品に様々な機能を付与しうる新規素材の提供が望まれている。
例えば、特許文献1および2では、アミロース含量が5重量%以上である原料澱粉に酸処理などを施してなる低分子化澱粉を含む組成物の粒状物が、吸水率が高く、べたつきがなく、ダマになりにくく、畜肉加工食品および魚肉加工食品などの食品に配合したときに良好な食感が得られることが記載されている。
また、特許文献3では、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉およびコーンスターチなどの澱粉を原料として用いたα型澱粉顆粒に調味液を含侵させてなる粒状物が、魚卵様の風味および外観を有しており、魚卵代替品として使用できることが記載されている。
また、特許文献4では、澱粉類と、こんにゃく粉、グルコマンナン、ゼラチン、多糖類およびガム類のいずれか一種以上と、澱粉糖とを含む細粒物に調味液を含侵させてなる粒状物が、魚卵様の外観および食感を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5160690号公報
【文献】特許第5551846号公報
【文献】特開2021-3096号公報
【文献】国際公開第2000/72702号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、食品業界において、澱粉を用いた新規素材の提供が望まれている。例えば、高価な天然素材の代替品となりうる新規素材を提供できれば、コスト低減などの点で加工食品に新たな価値を付与しうる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示す食品用澱粉組成物およびその製造方法、魚卵様食品、魚卵加工食品などの食品を提供するものである。
[1]澱粉を80質量%以上含む食品用澱粉組成物であって、
前記澱粉が、エンドウ澱粉およびその加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上を含み、
前記澱粉の原料澱粉の総アミロース含量が、35質量%以上であり、
25℃の水に30分間浸漬後の前記食品用澱粉組成物の吸水率が、乾燥質量に対して350質量%以上650質量%以下である、食品用澱粉組成物。
[2]前記加工澱粉が、エンドウ澱粉に、ヒドロキシプロピル化処理、アセチル化処理、架橋処理、酸化処理、酸処理およびα化処理からなる群から選ばれる一種以上の加工処理を施してなる加工澱粉である、前記[1]に記載の食品用澱粉組成物。
[3]前記加工澱粉が、酸処理エンドウ澱粉およびアセチル化エンドウ澱粉からなる群より選ばれる一種または二種である、前記[2]に記載の食品用澱粉組成物。
[4]前記澱粉が、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、小麦澱粉、米澱粉およびそれらの加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上をさらに含む、前記[1]から[3]のいずれか一項に記載の食品用澱粉組成物。
[5]前記澱粉が、リン酸架橋タピオカ澱粉およびアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉からなる群より選ばれる一種または二種をさらに含む、前記[1]から[4]のいずれか一項に記載の食品用澱粉組成物。
[6]前記澱粉が、エンドウ澱粉およびその加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上を合計で50質量%以上含む、前記[1]から[5]のいずれか一項に記載の食品用澱粉組成物。
[7]前記食品用澱粉組成物の目開き0.71mmの篩の篩下かつ目開き0.125mmの篩の篩上の画分の含有量が、50質量%以上100質量%以下である、前記[1]から[6]のいずれか一項に記載の食品用澱粉組成物。
[8]25℃の水に30分間浸漬後の前記食品用澱粉組成物の粒平均面積が300,000μm以上1,000,000μm以下である、前記[1]から[7]のいずれか一項に記載の食品用澱粉組成物。
[9]25℃の水に30分間浸漬後の前記食品用澱粉組成物の吸水率(a)と、25℃の水に30分間浸漬後、65℃で30分間加熱後の前記食品用澱粉組成物の吸水率(b)との差(b)-(a)が350質量%以下である、前記[1]から[8]のいずれか一項に記載の食品用澱粉組成物。
[10]前記[1]から[9]のいずれか一項に記載の食品用澱粉組成物に、0.01質量%以上30質量%以下の塩分濃度の調味液を含侵させてなる、魚卵様食品。
[11]前記[10]に記載の魚卵様食品を含む、食品。
[12]前記食品が、魚卵加工食品である、前記[11]に記載の食品。
[13]前記[1]から[9]のいずれか一項に記載の食品用澱粉組成物の製造方法であって、
前記澱粉を含む原料を、水の存在下、エクストルーダーにより加熱および加圧処理する工程を含む、食品用澱粉組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の食品用澱粉組成物は、吸水により独特の食感を呈することができ、食品素材として好適に用いることができる。本発明の好ましい態様によれば、吸水性が適度であり、吸水後の食感および外観に優れた食品用澱粉組成物を提供することができる。また、本発明のさらに好ましい態様によれば、上記に加えて、吸水後の加熱耐性、冷蔵耐性および冷凍耐性などの品質に優れた食品用澱粉組成物を提供することができる。
一実施態様によれば、本発明の食品用澱粉組成物は、調味液を含侵させることで、魚卵などの天然素材の代替品として好適に用いることができる。
本発明の食品用澱粉組成物を用いることにより、食感の改良やコスト低減など、加工食品に新たな価値を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の各実施態様について具体的に説明する。
【0008】
1.食品用澱粉組成物
本発明の食品用澱粉組成物は、澱粉を80質量%以上含む食品用澱粉組成物であって、
前記澱粉が、エンドウ澱粉およびその加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上を含み、
前記澱粉の原料澱粉の総アミロース含量が、35質量%以上であり、
25℃の水に30分間浸漬後の前記食品用澱粉組成物の吸水率が、乾燥質量に対して350質量%以上650質量%以下であることを特徴とする。
【0009】
<澱粉>
本発明の食品用澱粉組成物の主成分である澱粉は、エンドウ澱粉およびその加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上を含む。本発明の好ましい態様によれば、澱粉としてエンドウ澱粉およびその加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上を含むことにより、吸水性が適度であり、吸水後の食感および外観に優れた食品用澱粉組成物を提供することができる。また、本発明のさらに好ましい態様によれば、上記に加えて、吸水後の加熱耐性、冷蔵耐性および冷凍耐性などの品質に優れた食品用澱粉組成物を提供することができる。中でも、前記澱粉としては、エンドウ澱粉を含むことが好ましく、エンドウ澱粉を単独で用いるか、エンドウ澱粉およびその加工澱粉の組み合わせを用いることが特に好ましい。
【0010】
(エンドウ澱粉の加工澱粉)
エンドウ澱粉の加工澱粉としては、エンドウ澱粉に、当業界で一般に用いられている加工処理を施してなるものが挙げられる。加工処理としては、例えば、アセチル化、リン酸モノエステル化等のエステル化処理;リン酸架橋、アジピン酸架橋等の架橋処理;ヒドロキシプロピル化等のエーテル化処理;酸化処理;酸処理;アルカリ処理;酵素処理;油脂加工処理;加熱処理;α化処理;湿熱処理;ボールミル処理;微粉砕処理等が挙げられる。これらの中でも、エンドウ澱粉の加工澱粉としては、エンドウ澱粉に、ヒドロキシプロピル化処理、アセチル化処理、架橋処理、酸化処理、酸処理およびα化処理からなる群から選ばれる一種以上の加工処理を施してなるものが好ましく、エンドウ澱粉に、酸処理またはアセチル化処理を施してなるものがより好ましく、酸処理エンドウ澱粉およびアセチル化エンドウ澱粉からなる群より選ばれる一種または二種が特に好ましい。
【0011】
(エンドウ澱粉およびその加工澱粉の含有量)
前記澱粉におけるエンドウ澱粉およびその加工澱粉の含有量は特に限定されないが、前記澱粉は、エンドウ澱粉およびその加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上を合計で50質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは60質量以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは75質量%以上である。なお、上限値は特に限定されない。例えば、100質量%であってもよいし、90質量%以下または85質量%以下であってもよい。
本明細書において数値範囲を示したときは、各上限値および下限値を適宜組み合わせることができ、それによって得られる数値範囲も開示されているものとする。
【0012】
(他の澱粉)
一実施態様において、前記澱粉は、エンドウ澱粉およびその加工澱粉以外の他の澱粉を含んでいてもよい。
例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、小麦澱粉、米澱粉およびそれらの加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上をさらに含んでもよい。
【0013】
前記加工澱粉としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、小麦澱粉および米澱粉からなる群より選ばれる一種以上の未加工澱粉に、アセチル化、リン酸モノエステル化等のエステル化処理;リン酸架橋、アジピン酸架橋等の架橋処理;ヒドロキシプロピル化等のエーテル化処理;酸化処理;酸処理;アルカリ処理;酵素処理;油脂加工処理;加熱処理;α化処理;湿熱処理;ボールミル処理;微粉砕処理等の加工処理を一種または二種以上施してなる澱粉が挙げられる。
これらの中でも、他の澱粉としては、加工澱粉が好ましく、リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉およびヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉からなる群より選ばれる一種以上がより好ましく、リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉またはこれらの組み合わせが特に好ましい。
とりわけ、タピオカ澱粉の加工澱粉であることが好ましく、リン酸架橋タピオカ澱粉、アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉またはこれらの組み合わせが特に好ましい。
【0014】
前記澱粉が他の澱粉を含む場合、前記澱粉に占める他の澱粉の割合は、合計で50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。例えば、5質量%以上30質量%以下、10質量%以上30質量%以下、好ましくは10質量%以上25質量%以下、15質量%以上25質量%以下であってもよい。
【0015】
(総アミロース含量)
本発明の食品用澱粉組成物において、前記澱粉の原料澱粉の総アミロース含量は、前記澱粉の質量基準で、35質量%以上であり、好ましくは37質量%以上、より好ましくは38質量%以上、さらに好ましくは39質量%以上である。なお、上限値は特に限定されず、例えば、90質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、または50質量%以下であってもよい。ここで、「原料澱粉」とは、澱粉が未加工澱粉の場合は未加工澱粉をいい、加工澱粉の場合はその原料である未加工澱粉をいう。したがって、「前記澱粉の原料澱粉の総アミロース含量」は、前記澱粉に用いられる未加工澱粉、および加工澱粉が用いられている場合は、その原料である未加工澱粉のアミロース含量の合計である。
原料澱粉の総アミロース含量が上記範囲であると、得られる食品用澱粉組成物の吸水率が適度に高く、外観も半透明であり様々な食品に好適に用いることができる。
例えば、前記食品用澱粉組成物は吸水により、魚卵様のぷちぷちとした食感を呈することができ、色素による染色性の点でも問題がないため、魚卵様食品として好適に用いることができる。また、好ましい態様によれば、前記食品用澱粉組成物は、吸水後、加熱や冷蔵、さらには冷凍により食感が大きく変化することがなく、加熱耐性および冷蔵耐性、さらには冷凍耐性を有しているため、保存安定性の点でも優れている。
【0016】
本発明の食品用澱粉組成物は、澱粉を80質量%以上、好ましくは82質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは88質量%以上含む。例えば、澱粉が100質量%であってもよい。
澱粉以外の成分としては、例えば、水、炭酸カルシウム、食用油脂、乳化剤、植物性たんぱく、着色料、香料などが挙げられる。本発明の食品用澱粉組成物の水分含量は、0質量%以上20質量%以下であり、1質量%以上18質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは4質量%以上12質量%以下である。上記範囲で水分を含むことにより、後述するとおり本発明の食品用澱粉組成物の粒度を調整する際に粉砕工程で微粉を抑えることができ、所望の粒度に調整し易いという利点がある。
【0017】
<粒度>
本発明の食品用澱粉組成物の形状は特に限定されないが、吸水性および食感が良好であることから粒状物であることが好ましい。粒状物の大きさは特に限定されない。用途に応じて、食品用澱粉組成物を粉砕し、篩分けして、大きさを適宜調整するとよい。
本発明の食品用澱粉組成物が粒状物である場合、JIS―Z8801―1規格における目開き0.71mmの篩の篩下かつ目開き0.125mmの篩の篩上の画分の含有量が、50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。あるいは一態様では、JIS―Z8801―1規格における目開き0.71mmの篩の篩下かつ目開き0.25mmの篩の篩上の画分の含有量が、50質量%以上100質量%以下であってもよい。前記画分の含有量は、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは70質量%以上100質量%以下、特に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。前記画分の含有量が上記範囲であると、例えば、本発明の食品用澱粉組成物を魚卵様食品に用いる場合も魚卵に近い食感および外観を呈することができ、魚卵代替品として好適に用いることができる。
【0018】
<吸水率>
本発明の食品用澱粉組成物の25℃の水に30分間浸漬後の乾燥質量に対する吸水率(乾燥質量を100質量%としたときの吸水後の質量割合(質量%))は、吸水率と食感とのバランスの観点から、350質量%以上650質量%以下であることが好ましく、より好ましくは355質量%以上600質量%以下、さらに好ましくは360質量%以上540質量%以下、特に好ましくは370質量%以上480質量%以下である。あるいは一態様では、370質量%以上600質量%以下、390質量%以上540質量%以下、特に好ましくは410質量%以上480質量%以下であってもよい。後述の2.食品用澱粉組成物の製造方法に記載の方法により製造することで、本発明の食品用澱粉組成物の25℃の水に30分間浸漬後の吸水率が上記範囲となるように製造することができ、上記範囲であると、魚卵様のぷちぷちとした粒子感を呈することができ、魚卵代替品として好適に用いることができる。なお、「乾燥質量」は、本発明の食品用澱粉組成物を105℃で48時間乾燥させ、水分を完全に飛ばした状態での質量をいう。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、前記食品用澱粉組成物は、吸水後、低温殺菌や、冷蔵後のレンジアップ等の加熱処理を行った場合も吸水率の変化が小さく、加熱耐性を有している。
例えば、25℃の水に30分間浸漬後の前記食品用澱粉組成物の吸水率(a)と、25℃の水に30分間浸漬後、65℃で30分間加熱後の前記食品用澱粉組成物の吸水率(b)との差(b)-(a)が350質量%以下であることが好ましく、より好ましくは340質量%以下、さらに好ましくは330質量%以下、さらにより好ましくは320質量%以下、特に好ましくは300質量%以下、最も好ましくは280質量%以下である。なお、後述の2.食品用澱粉組成物の製造方法に記載の方法により製造することで、本発明の食品用澱粉組成物の(b)-(a)が上記範囲となるように製造することができる。
【0020】
<粒平均面積>
本発明の好ましい態様によれば、前記食品用澱粉組成物が粒状物である場合、25℃の水に30分間浸漬後の前記食品用澱粉組成物の粒平均面積は、300,000μm以上1,000,000μm以下であることが好ましく、より好ましくは350,000μm以上950,000μm以下、さらに好ましくは400,000μm以上900,000μm以下、特に好ましくは450,000μm以上850,000μm以下である。
また、25℃の水に30分間浸漬後、65℃で30分間加熱後の前記食品用澱粉組成物の粒平均面積は、500,000μm以上1,300,000μm以下であることが好ましく、より好ましくは530,000μm以上1,250,000μm以下、さらに好ましくは560,000μm以上1,200,000μm以下、特に好ましくは600,000μm以上1,150,000μm以下である。
また、25℃の水に30分間浸漬後、65℃で30分間加熱し、室温まで冷却後に、冷蔵庫(4℃)で一晩(24時間)保存後の前記食品用澱粉組成物の粒平均面積は、600,000μm以上1,500,000μm以下であることが好ましく、より好ましくは630,000μm以上1,400,000μm以下、さらに好ましくは660,000μm以上1,350,00μm以下、特に好ましくは700,000μm以上1,300,000μm以下である。
また、25℃の水に30分間浸漬後、65℃で30分間加熱し、室温まで冷却後に、冷蔵庫(4℃)で一晩(24時間)保存後、電子レンジ(500W)で沸騰するまで加熱後の前記食品用澱粉組成物の粒平均面積は、600,000μm以上1,500,000μm以下であることが好ましく、より好ましくは700,000μm以上1,450,000μm以下、さらに好ましくは750,000μm以上1,400,000μm以下、特に好ましくは800,000μm以上1,350,000μm以下である。
本発明の好ましい態様によれば、前記食品用澱粉組成物は、吸水後、加熱および冷蔵による粒平均面積の変化が小さく、冷蔵耐性および加熱耐性を有している。
また本発明の好ましい態様によれば、前記食品用澱粉組成物は、吸水後、冷凍庫で保存した場合も食感および外観が良好であり、冷凍耐性を有している。
なお、食品用澱粉組成物の粒平均面積の測定方法については、実施例の項で説明する。
【0021】
本発明の食品用澱粉組成物は、吸水により独特の食感を呈することができることから、食品素材として有用である。ここでいう独特の食感とは、一粒一粒がぷちぷちとした粒子感をいう。
本発明の好ましい態様によれば、前記食品用澱粉組成物は、吸水性が適度であり、吸水後の食感および外観に優れている。また、本発明のさらに好ましい態様によれば、前記食品用澱粉組成物は、上記に加えて、吸水後の加熱耐性、冷蔵耐性および冷凍耐性などの品質に優れている。
このような本発明の食品用澱粉組成物は、畜肉加工食品および水産加工食品などの様々な用途に用いることができる。
本発明の食品用澱粉組成物を用いることにより、食感の改良やコスト低減など、加工食品に新たな価値を付与することができる。
例えば、本発明の食品用澱粉組成物は、調味液を含侵させることで、魚卵様の風味および食感を呈することができるため、魚卵代替品として好適に用いることができる。魚卵加工食品などの魚卵を含む食品において、魚卵の少なくとも一部を本発明の魚卵様食品に置き換えることにより、原料コストを低減することができる。なお、本発明の魚卵様食品については後述する。
【0022】
2.食品用澱粉組成物の製造方法
次に、本発明の食品用澱粉組成物の製造方法について説明する。
本発明の食品用澱粉組成物の製造方法は、前記澱粉を含む原料を、水の存在下、エクストルーダーにより加熱および加圧処理する工程を含む。
本発明の製造方法によれば、前記澱粉を含む原料の少なくとも表面近傍を糊化させることができるとともに、密度が適度に低い組成物が得られるため、吸水率が適度に高く、加熱処理や冷蔵、あるいは冷凍保存などによる離水の抑制効果に優れた食品用澱粉組成物を安定的に得ることができる。
【0023】
前記工程では、まず、前記澱粉を含む原料に対して、水を添加し、水分含量を、原料と水を含む組成物の質量基準で、5質量%以上80質量%以下程度に調整し、その後、例えば、バレル温度30℃以上200℃以下、出口温度50℃以上140℃以下、スクリュー回転数50rpm以上1000rpm以下、処理時間1秒以上120秒以下の条件で、加熱および加圧処理する。
ここで、水分含量は、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは8質量%以上70質量%以下、特に好ましくは10質量%以上60質量%以下である。
また、バレル温度は、30℃以上200℃以下が好ましく、より好ましくは40℃以上150℃以下、特に好ましくは50℃以上120℃以下である。
出口温度は、50℃以上140℃以下が好ましく、より好ましくは60℃以上130℃以下、特に好ましくは70℃以上120℃以下である。
スクリュー回転数は、50rpm以上1000rpm以下が好ましく、より好ましくは60rpm以上800rpm以下、特に好ましくは75rpm以上700rpm以下である。
処理時間は、1秒以上120秒以下が好ましく、より好ましくは3秒以上90秒以下、特に好ましくは5秒以上60秒以下である。
【0024】
前記加熱および加圧処理する工程を経て得られる食品用澱粉組成物のα化度は、ダマの発生を抑制する観点から、例えば、20%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上、よりさらに好ましくは60%以上、なお好ましくは70%以上、さらになお好ましくは80%以上である。
【0025】
前記工程で得られた食品用澱粉組成物は、その後、必要に応じて、水分含量が、食品用澱粉組成物の質量基準で、0質量%以上20質量%以下程度になるまで乾燥処理することが好ましい。乾燥処理温度は、品質保持および作業性の観点から、70℃以上150℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以上130℃以下、さらに好ましくは90℃以上120℃以下である。
乾燥処理後の食品用澱粉組成物は、必要に応じて、粉砕機等を用いて粉砕し、篩分けをして、大きさを適宜調整することが好ましい。
【0026】
3.魚卵様食品およびそれを含む食品
前述したとおり、本発明の食品用澱粉組成物は、吸水により独特の食感を呈することができるため、食品素材として様々な加工食品に用いることができる。
例えば、本発明の食品用澱粉組成物に、0.01質量%以上30質量%以下の塩分濃度の調味液を含侵させることにより、魚卵様の風味および食感を呈することができるため、魚卵様食品として用いることができる。
調味液の塩分濃度は、0.01質量%以上30質量%以下が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上15質量%以下であり、用途に応じて適宜調整するとよい。
調味液の水分含量は、30質量%以上100質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、用途に応じて適宜調整するとよい。
調味液は、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、魚卵様の風味づけができるものが好ましく、例えば、食塩、グルタミン酸ナトリウム、魚介エキス、酵母エキス、アミノ酸、核酸、有機酸、無機塩、香料、着色料、甘味料などが挙げられる。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて増粘多糖類、酸化防止剤、pH調整剤などの品質改良剤を含んでいてもよい。
調味液の塩分濃度、水分濃度およびその他の成分は、具体的な用途に応じて適宜選択するとよい。
【0027】
本発明の魚卵様食品は、魚卵様の食感および外観を呈するため、魚卵代替品または増量剤などとして、魚卵を含む食品に好適に用いることができる。例えば、魚卵を含む食品において、魚卵の少なくとも一部を、本発明の魚卵様食品に置き換えることにより、原料コストを低減することができる。
【0028】
ここで、魚卵としては、タラコ、イクラ、すじこ、数の子、トビコ、キャビア、カラスミ、ブリコ、マスコ、シシャモの卵、ワカサギの卵、ヒラメの卵、カレイの卵、エビの卵、カニの卵などが挙げられる。
【0029】
魚卵を含む食品としては、魚卵を原材料として用いる食品であれば特に限定されないが、魚卵加工食品またはそれを含む食品が好ましい。
魚卵加工食品としては、例えば、魚卵の塩蔵品、燻製品、調味加工品、およびこれらを含む食品などが挙げられる。
塩蔵品としては、すじこ、イクラ、数の子、タラコ(明太子)、カラスミ、キャビアなどの魚卵塩蔵品などが挙げられる。
燻製品としては、タラコ、カラスミなどの燻製品などが挙げられる。
調味加工品としては、ふりかけ、ドレッシング、ソース、フィリング、パスタソース、ペースト状調味料などが挙げられる。
【0030】
魚卵加工食品を含む食品の例としては、おにぎり、リゾット、チャーハン、ピラフなどのご飯類;シーフードカレーライス、クラムチャウダーなどのシチュー類;サンドイッチ、明太子フランス、明太子ピッツァなどのパン類;明太子クリームパスタなどのパスタ類;即席麺、即席スープ、即席味噌汁などの即席調理飲食品;コロッケ、魚フライ、イカリングなどの揚げ物類;グラタン、サラダ、寿司などが挙げられる。
【0031】
魚卵加工食品における本発明の魚卵様食品の含有量は、用途に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、例えば、魚卵加工食品の質量基準で、0.1質量%以上20.0質量%以下が好ましく、より好ましくは0.25質量%以上10.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下であると、食感および外観の点で違和感なく、魚卵様食品を配合することができる。
【実施例
【0032】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されない。なお、特に言及しない限り「%」は質量基準である。
【0033】
[1]食品用澱粉組成物の調製
表1に記載の配合で食品用澱粉組成物を調製した。各食品用澱粉組成物の調製方法は、以下に示したとおりである。
【0034】
実施例1-1~1-6
表1に記載の原料を袋内で均一になるまで混合し、得られた混合物に対して、対粉51質量%(2mL/min)にて加水しながら、2軸エクストルーダー(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製「Process11 Hygienic」)にて、下記の処理条件で加圧および加熱処理を行い、春雨様のペレット(造粒物)を得た。
得られたペレットを、110℃にて乾燥し、水分含量を、前記ペレットの質量基準で、4質量%以上12質量%以下に調整した。
次いで、乾燥したペレットを、粉砕機(大阪ケミカル株式会社製「ワンダーブレンダーWB-1」)を用いて粉砕した。実施例1-1~1-5については、得られた粉砕物を、目開き0.71mmの篩の篩下かつ目開き0.25mmの篩にて篩分けし、篩上の画分を食品用澱粉組成物の試料として用いた。実施例1-6については、得られた粉砕物を、目開き0.71mmの篩の篩下かつ目開き0.125mmの篩にて篩分けし、篩上の画分を食品用澱粉組成物の試料として用いた。
【0035】
比較例1-1
コーンスターチを原料として用い、対粉50質量%(2mL/min)にて加水しながら、2軸エクストルーダーにて加圧および加熱処理を行ったこと以外は、実施例1-1~1-5と同様にしてペレットを得た。
【0036】
比較例1-2
馬鈴薯澱粉を原料として用い、対粉49質量%(2mL/min)にて加水しながら、2軸エクストルーダーにて加圧および加熱処理を行ったこと以外は、実施例1-1~1-5と同様にしてペレットを得た。
【0037】
比較例1-3
リン酸架橋タピオカ澱粉を原料として用い、対粉33質量%(2mL/min)にて加水しながら、2軸エクストルーダーにて加圧および加熱処理を行ったこと以外は、実施例1-1~1-5と同様にしてペレットを得た。
【0038】
<2軸エクストルーダー処理条件>
(実施例1-1~1-5、比較例1-1~1-3)
・バレル温度:原料入口から出口に向かって50℃、70℃、80℃、90℃、100℃
・出口温度:90℃~100℃
・スクリュー回転数:100rpm
・原料供給速度:3.9g/分(実施例1-1~1-5)、4.0g/分(比較例1-1)、4.1g/分(比較例1-2)、6.0g/分(比較例1-3)
(実施例1-6)
・バレル温度:原料入口から出口に向かって40℃、45℃
・出口温度:60℃~70℃
・スクリュー回転数:300rpm
・原料供給速度:200kg/時
【0039】
各実施例および比較例で得られた食品用澱粉組成物(ペレット)の外観性状を観察し、表1に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1中の成分は以下に示したとおりである。
・エンドウ澱粉:PURIS社製「PURIS Pea Starch」、アミロース含量45質量%
・アセチル化エンドウ澱粉:下記製造方法により調製、アミロース含量45質量%(原料ベース)
・酸処理エンドウ澱粉:下記製造方法により調製、アミロース含量45質量%(原料ベース)
・リン酸架橋タピオカ澱粉:株式会社J-オイルミルズ製「アクトボディー TP-1」、アミロース含量17質量%(原料ベース)
・アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉:株式会社J-オイルミルズ製「アクトボディー ATP-27」、アミロース含量17質量%(原料ベース)
・コーンスターチ:株式会社J-オイルミルズ製「コーンスターチ Y」、アミロース含量25質量%
・馬鈴薯澱粉:株式会社J-オイルミルズ製「ジェルコール BP-200」、アミロース含量20質量%
【0042】
<アセチル化エンドウ澱粉の製造方法>
エンドウ澱粉(PURIS社製「PURIS Pea Starch」)190部に水300部を加えて懸濁液とした。この懸濁液に3質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.4とした後、酢酸ビニルモノマーを10.2質量部加えて1時間反応させた。反応中の懸濁液のpHは、pHコントローラーにより8.4に維持した。反応後、3質量%塩酸水溶液でpH6に中和した。得られた澱粉を水で洗浄し、ろ過により回収した後、乾燥し、アセチル化エンドウ澱粉を得た。
【0043】
<酸処理エンドウ澱粉の製造方法>
35質量%のエンドウ澱粉(PURIS社製「PURIS Pea Starch」)の水分散液514質量部に、35質量%塩酸10.5質量部を加え(塩酸濃度0.7質量%)、55℃で26時間、攪拌しながら酸処理をおこなった。酸処理後、pHが6.5になる様に消石灰を用いて中和した。その後、得られた澱粉を水で洗浄し、ろ過により回収した後、乾燥し、酸処理エンドウ澱粉を得た。
【0044】
[2]食品用澱粉組成物の物性評価
各実施例および比較例で得られた食品用澱粉組成物について、以下の各段階における食品用澱粉組成物の冷蔵・加熱耐性、粒平均面積および吸水率の各物性を評価した。
(1)吸水後
各実施例および比較例で得られた食品用澱粉組成物3gに対し、8倍量の3質量%食塩水(25℃)を添加し、30分間浸漬後の食品用澱粉組成物の各物性を評価した。
(2)低温殺菌後
前記(1)の吸水後の食品用澱粉組成物を、パウチに充填し、65℃(品温)で30分間加熱後の食品用澱粉組成物の各物性を評価した。
(3)冷蔵後
前記(2)の低温殺菌後の食品用澱粉組成物を、室温まで冷却後に、冷蔵庫(4℃)で一晩(24時間)保存後の食品用澱粉組成物の各物性を評価した。
(4)再レンジアップ後
前記(3)の冷蔵後の食品用澱粉組成物を、電子レンジで、500Wで沸騰するまで加熱後の食品用澱粉組成物の各物性を評価した。
【0045】
<冷蔵・加熱耐性>
各段階における食品用澱粉組成物の粒形状の変化を3名の専門パネラーにより肉眼およびマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製「デジタルマイクロスコープ VHX-7000(ステージ:フリーアングル観察システム「VHX-S750」)(倍率40倍)にて観察し、冷蔵耐性および加熱耐性を評価した。
(冷蔵耐性)
前記(3)の冷蔵後の粒形状の変化を観察し、以下の基準に従って評価した。
〇:粒の大きさ、形状の変化がない
△:粒の大きさ、形状に多少の変化がある
×:粒が壊れている
(加熱耐性)
前記(4)の再レンジアップ後の粒形状の変化を観察し、以下の基準に従って評価した。
〇:粒の大きさ、形状の変化がない
△:粒の大きさ、形状に多少の変化がある
×:粒が溶けている
【0046】
<粒平均面積>
各段階における食品用澱粉組成物の粒平均面積(μm)を以下の手順で測定した。
マイクロスコープ(株式会社キーエンス社製「デジタルマイクロスコープ VHX-7000(ステージ:フリーアングル観察システム「VHX-S750」)にて倍率40倍、視野面積41755757μmの測定条件で食品用澱粉組成物を観察した。得られた画像について、前記マイクロスコープに搭載の画像解析ソフトを用い、面積計測で「フリーライン」を選択し、ランダムに選んだ5粒の外郭をなぞり、それぞれの粒面積を計測し、平均値を算出した。
【0047】
<吸水率>
前記(1)および(2)の各段階における食品用澱粉組成物の吸水率(質量%)を以下の手順で測定した。
まず、各段階の食品用澱粉組成物について、遠心分離をかけずに上清を除去し、沈殿質量(A)を測定した。次に、沈殿を105℃で48時間乾固し、完全に水分を飛ばした後の乾固質量(B)を測定した。次式により吸水率(質量%)を算出し、吸水率の変化を評価した。
吸水率(質量%)=A/B×100
【0048】
結果を表2-1、2-2および2-3に示す。なお、対照例として、以下に示した類似品についても同様に評価し、物性を比較した。
【0049】
【表2】
【0050】
対照例1-1:以下の方法により製造した食品用澱粉組成物
コーンスターチ(株式会社J-オイルミルズ製「コーンスターチY」)79質量%、下記の方法で得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチ20質量%、および炭酸カルシウム1質量%を充分に均一になるまで袋内で混合した。
2軸エクストルーダー(幸和工業社製KEI-45)を用いて、混合物を加圧加熱処理した。処理条件は、以下のとおりである。
・原料供給:450g/分
・加水:17質量%
・バレル温度:原料入口から出口に向かって50℃、70℃および100℃
・出口温度:100~110℃
・スクリューの回転数250rpm
このようにしてエクストルーダー処理により得られた加熱糊化物を110℃にて乾燥し、水分含量を10質量%に調整した。
次いで、乾燥した加熱糊化物を、卓上カッター粉砕機で粉砕した後、JIS-Z8801-1規格の篩で篩分けした。篩分けした加熱糊化物を、所定の配合割合で混合し、以下に示す粒度分布を有する食品用澱粉組成物を得た。なお、原料澱粉の総アミロース含量は、34質量%であった。
(粒度分布)
1mm篩下、0.5mm篩上画分 18.0質量%
0.5mm篩下、0.25mm篩上画分 42.0質量%
0.25mm篩下、0.15mm篩上画分 15.0質量%
0.15mm篩下、0.075mm篩上画分 20.0質量%
0.075mm篩下、0.038mm篩上画分 3.7質量%
0.038mm篩下画分 1.3質量%
合計 100.0質量%
【0051】
<酸処理ハイアミロースコーンスターチの製造方法>
ハイアミロースコーンスターチ(株式会社J-オイルミルズ製、HS-7、アミロース含量70質量%)を水に懸濁して35.6%(w/w)スラリーを調製し、50℃に加温した。そこへ、攪拌しながら4.25Nに調製した塩酸水溶液をスラリー質量比で1/9倍量加え反応を開始した。16時間反応後、3%NaOHで中和し、水洗、脱水、乾燥し、酸処理ハイアミロースコーンスターチを得た。
【0052】
対照例1-2:明王物産株式会社製「GS-SS」(春雨粉砕物)
【0053】
対照例1-3:有限会社田邊屋商店製「京のみじん粉」(馬鈴薯澱粉とコーンスターチに加水後、蒸煮、乾燥、破砕、篩別および焙煎工程を経て得られたα型澱粉顆粒)
【0054】
表2-1、2-2および2-3に示したとおり、本発明の食品用澱粉組成物は、冷蔵耐性および加熱耐性に優れており、各段階における粒平均面積の変化も小さく、外観性状が安定していた。また、本発明の食品用澱粉組成物は、吸水率が適度に高く、低温殺菌後も吸水率の変化も小さいため、食感および外観の変化が小さく、食品素材として、様々な食品に好適に用いることができる。
一方、比較例および対照例の食品用澱粉組成物は、加熱耐性が十分でなく、加熱処理が必要される食品には適していない。さらに対照例1-3では、加熱耐性だけでなく、冷蔵耐性も十分でなく、対照例1-2では、低温殺菌後に吸水率も大きく変化してしまうため、食品素材として安定性に劣ることがわかった。
【0055】
[3]魚卵様食品(タラコ様食品)
各実施例、比較例および対照例で得られた食品用澱粉組成物を用いて、表3に記載の配合で魚卵様食品(タラコ様食品)を製造し、3名の専門パネラーにより食感および外観を評価した。
<タラコ様食品の製造方法および評価方法>
(1)まず、タラコ(ほぐし)、6質量%食塩水および水飴を混ぜ合わせた。
(2)次に、うま味調味料、α化アセチルリン酸架橋タピオカ澱粉、食品用澱粉組成物を(1)の混合物に加え、混ぜ合わせた。
(3)ベニコウジ色素およびトウガラシ色素を(2)の混合物に加え、混ぜ合わせた。
(4)(3)の混合物を真空パウチに移し替えて、65℃で30分間湯煎し、タラコ様食品を得た。
(5)(4)で得られたタラコ様食品を、冷凍庫(-20℃)で24時間静置した。
(6)冷水でタラコ様食品を解凍し、以下の基準に従って食感および外観を評価した。なお、外観評価では、マイクロスコープは株式会社キーエンス社製「デジタルマイクロスコープ VHX-7000(ステージ:フリーアングル観察システム「VHX-S750」)を用いた。
(食感)
5点:まったく食感に違和感なし
4点:ほんの少し食感に違和感あるが許容範囲内
3点:多少食感に違和感あるが許容範囲内
2点:食感に違和感あり
1点:タラコとは別の食感
(外観(肉眼))
○:外観に違和感なし
△:多少粒の大きさや透明度に違和感あるが許容範囲内
×:粒の大きさや透明度に違和感あり
(外観(マイクロスコープ(倍率40倍)))
○:粒の形状、大きさ、透明度に違和感なし
△:多少粒の形状、大きさ、透明度に違和感あるが許容範囲内
×:粒の形状、大きさ、透明度に違和感あり
結果を表3に示す。なお、表3に示した評価は、3名の専門パネラー全員の総意による評価である。
【0056】
【表3】
【0057】
表3中の成分は以下に示したとおりである。
・水飴:株式会社林原製「ハローデックス」
・うま味調味料:味の素株式会社製「ハイミー」
・α化アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉:株式会社J-オイルミルズ製「ジェルコール GT-α」
・市販品(ソフト明太子顆粒):池田糖化工業株式会社製「ソフト明太子顆粒S」
・ベニコウジ色素:神戸化成株式会社製「KCレッド MR-20」
・トウガラシ色素:神戸化成株式会社製「オレオレジンパプリカ1000CV」
【0058】
表3に示したとおり、本発明の食品用澱粉組成物を用いた魚卵様食品は、比較例2-1および対照例2-1~2-2と比べて、冷凍後であっても、食感が良好であり、肉眼では外観も問題がなく、冷凍耐性を有していた。また、色素染色性も良好であり、魚卵代替品として好適に用いることができる。
【要約】
本発明は、加工食品に新たな価値を付与しうる澱粉を用いた新規素材に関する。本発明は、澱粉を80質量%以上含む食品用澱粉組成物であって、前記澱粉が、エンドウ澱粉およびその加工澱粉からなる群より選ばれる一種以上を含み、前記澱粉の原料澱粉の総アミロース含量が、35質量%以上であり、25℃の水に30分間浸漬後の前記食品用澱粉組成物の吸水率が、乾燥質量に対して350質量%以上650質量%以下であることを特徴とする。本発明の一実施態様によれば、前記食品用澱粉組成物は、吸水により独特の食感を呈することができるため、調味液を含侵させることにより魚卵様食品として好適に用いることができる。魚卵を含む食品において、魚卵の一部を前記魚卵様食品に置き換えることで、原料コストの低減を図ることができる。