(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】電気脱イオン装置及びこれを用いた脱イオン水の製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20230511BHJP
B01D 61/48 20060101ALI20230511BHJP
B01D 63/08 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/48
B01D63/08
(21)【出願番号】P 2018212420
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃久
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-176968(JP,A)
【文献】特表2009-541032(JP,A)
【文献】特開2008-036486(JP,A)
【文献】特表2005-508729(JP,A)
【文献】特開2015-136685(JP,A)
【文献】特開2010-284639(JP,A)
【文献】特開2002-001345(JP,A)
【文献】国際公開第2018/146318(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46 - 1/48
1/44
1/42
B01D 61/00 - 71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間にイオン交換膜によって濃縮室と脱塩室とが区画され、この区画された脱塩室にイオン交換樹脂が充填され、濃縮水が前記濃縮室に通水されるとともに、原水が被処理水として前記脱塩室に流通されて生産水として取り出す電気脱イオン装置において、
前記脱塩室は、上側領域、中間領域、及び下側領域を備え、
前記中間領域は、前記脱塩室の通水入口から該脱塩室の高さに対して33~66%の範囲に相当し、
前記中間領域には、平均粒
径0.1~0.4mmのイオン交換樹脂が充填されており、
前記中間領域以外の前記上側領域及び前記下側領域には、平均粒径0.5~2.0mmのイオン交換樹脂
が充填されている、又は
、前記平均粒径0.1~0.4mmのイオン交換樹脂と前記平均粒径0.5~2.0mmのイオン交換樹脂との混合樹脂が充填されており、かつ、前記平均粒径0.1~0.4mmのイオン交換樹脂
が30容積%以下含まれている、電気脱イオン装置。
【請求項2】
前記中間領域は、前記脱塩室の通水入口から該脱塩室の高さに対して10~33%の範囲に相当する、請求項1に記載の電気脱イオン装置。
【請求項3】
前記生産水の一部が濃縮水として脱塩室の流れ方向と向流方向に濃縮室に流通される、請求項1又は2に記載の電気脱イオン装置。
【請求項4】
前記脱塩室の厚さが2.5~20mmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気脱イオン装置。
【請求項5】
前記脱塩室内に充填されるイオン交換樹脂がアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂であり、前記アニオン交換樹脂と前記カチオン交換樹脂との割合が60:40~90:10(乾燥重量比)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気脱イオン装置。
【請求項6】
前記アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂が、両者の混合樹脂、又はアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂をそれぞれ単層で積層した、請求項5に記載の電気脱イオン装置。
【請求項7】
前記請求項1~6のいずれか1項に記載の電気脱イオン装置の濃縮室に濃縮水を流通するとともに、脱塩室に被処理水としての原水を通水して、生産水を取り出す、脱イオン水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気脱イオン装置及びこれを用いた脱イオン水の製造方法に関し、特にホウ素を高度に除去するのに好適な電気脱イオン装置、及びこの電気脱イオン装置を用いた脱イオン水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体等の電子産業分野で用いられている超純水は、基本的に、前処理システム、一次純水システム及び一次純水を処理するサブシステムで構成される超純水製造装置で原水を処理することにより製造されている。特に電子産業分野用の超純水では、ホウ素濃度を0.1ppt以下にまで抑制することが要求されることもあり、これに伴い一次純水システムでの処理水のホウ素濃度を低減する必要性が高まっている。
【0003】
この一次純水システムは、上述したような超純水の用途に限らず、サブシステムを伴うことなく、医薬用や食品用などの純水製造装置としても利用可能な汎用的なシステムであり、そのシステム構成としては、1段又は2段構成の逆浸透膜(RO膜)装置と電気脱イオン装置とを備えるものが一般的である。この一次純水システムでは、RO膜装置はシリカや塩類を除去すると共に、イオン性、コロイド性のTOCを除去する。さらに電気脱イオン交換装置ではその他の各種無機あるいは有機性のアニオン及びカチオンの除去を行う。したがって、超純水(二次純水)のホウ素濃度を低下させるには、一次純水システムの電気脱イオン装置でのホウ素の除去率を高くすることが重要である。
【0004】
ここで、電気脱イオン装置とは、一般に陰極及び陽極間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とを交互に配置し、これらカチオン交換膜及びアニオン交換膜により区画形成することで脱塩室及び濃縮室を形成し、この脱塩室及び前記濃縮室にイオン交換樹脂を充填したものである。
【0005】
この電気脱イオン装置の従来の例を
図5に示す。
図5において、電気脱イオン装置1は、電極(陽極11、陰極12)の間に複数のアニオン交換膜(A膜)13及びカチオン交換膜(C膜)14を交互に配列して脱塩室15と濃縮室16とを交互に形成したものであり、脱塩室15にはイオン交換樹脂が充填されている。また、濃縮室16と、陽極室17及び陰極室18にも、イオン交換体、活性炭又は金属等の電気導電体が充填されている。
【0006】
このような電気脱イオン装置1において、原水W0は脱塩室15の入口側から導入され、脱塩室15の出口側から生産水(脱イオン水)W1が取り出される。この生産水W1の一部は、濃縮室16に脱塩室15の通水方向とは逆方向に向流一過式で通水され、濃縮室16の流出水(濃縮排水)W2は系外へ排出される。すなわち、この電気脱イオン装置1では、脱塩室15と濃縮室16とが交互に並設され、脱塩室15の生産水取り出し側に濃縮室16の流入口が設けられており、脱塩室15の原水流入側に濃縮室16の流出口が設けられている。また、生産水W1の一部は陽極室17の入口側に送給され、陽極室17の流出水は、陰極室18の入口側へ送給され、陰極室18の流出水は排水W3として系外へ排出されるか、あるいは全部または一部を回収して再利用する。
【0007】
このように、濃縮室16に生産水を脱塩室15と向流一過式で通水することにより、生産水取り出し側ほど濃縮室16内の濃縮水のイオン濃度が低いものとなり、イオン濃度拡散による脱塩室15への影響が小さくなり、イオンの除去率を高めることができるのである。
【0008】
近年、二次純水の要求水質が上がり、より高いイオン交換除去率が求められている。例えば、ホウ素1ng/L以下(除去率99.97%以上)、シリカ濃度50ng/L以下という厳しい要求水質が求められ、これに伴い一次純水システムの電気脱イオン装置でのホウ素の除去率を高くすることが求められている。
【0009】
この対策として、電気脱イオン装置の脱塩室の厚さを薄くすることで、弱イオンであるシリカやホウ素の除去率を向上させることが提案されている。また、平均粒径が0.1~0.4mmの小さい粒径のイオン交換樹脂を用いることでシリカやホウ素の除去率を向上させることも提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、電気脱イオン装置の脱塩室の厚さを薄くしたとしても、ある程度以上の高さ(長さ)の脱塩室としなければ、十分シリカやホウ素の除去率の向上が得られず、さらに、処理水量及び流量を一定とすると、より多くの脱塩室を形成しなければならず、電気脱イオン装置の製造コストが高くなり実用性に劣る、という問題点がある。
【0012】
また、特許文献1に記載されているように小粒径のイオン交換樹脂を用いた電気脱イオン装置では、原水を脱塩室に流通した際の圧損が大きくなるため、高圧で原水を通水しなければならず、電気脱イオン装置の密封性を向上させる必要があり、さらに電気脱イオン装置の耐久性が低下する、という問題点がある。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、効率良くホウ素を高度に除去するのに好適な電気脱イオン装置を提供することを目的とする。また、本発明は、この電気脱イオン装置を用いたホウ素を高度に除去した脱イオン水の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために第一に本発明は、陽極と陰極との間にイオン交換膜によって濃縮室と脱塩室とが区画され、この区画された脱塩室にイオン交換樹脂が充填され、濃縮水が前記濃縮室に通水されるとともに、原水が被処理水として前記脱塩室に流通されて生産水として取り出す電気脱イオン装置において、前記脱塩室の通水入口から該脱塩室の高さに対して33~66%の範囲に平均粒径が0.1~0.4mmのイオン交換樹脂が充填されている、電気脱イオン装置を提供する(発明1)。
【0015】
かかる発明(発明1)によれば、ホウ素やシリカなどの除去の困難な弱イオン成分を高度に除去した脱イオン水を得ることが可能となる。これは以下のような理由による。ホウ素やシリカなどは、塩化物などの強イオン性のアニオンがある程度除去された後イオン化して除去されていく。このため、ホウ素やシリカを除去するためには、塩化物イオン等の除去しやすい強イオン性の成分が除去されるまでの時間、すなわちある程度の樹脂層高が必要となる。一方、平均粒径が0.1~0.4mmと小粒径のイオン交換樹脂は、高いイオン除去性能を発揮するが、原水の流通圧の圧損が大きくなる。これらのことから、脱塩室の入り口側に小粒径のイオン交換樹脂を配置してもホウ素やシリカなどは通過してしまい、その高いイオン除去性能を発揮することができないことがわかる。そこで、塩化物イオン等の除去しやすい強イオン性の成分が除去される樹脂層高を考慮した結果、通水入口から該脱塩室の高さ方向の33~66%の範囲に小粒径のイオン交換樹脂を充填することにより、ホウ素やシリカなどの除去の困難な弱イオン成分の高度除去と、原水を流通した際の圧損の低減の両方を効率的に発揮することができることを見い出した。これらに基づき、本発明に想到した。
【0016】
上記発明(発明1)においては、前記平均粒径0.1~0.4mmのイオン交換樹脂の充填高さが、前記脱塩室の高さの10~33%であることが好ましい(発明2)。
【0017】
かかる発明(発明2)によれば、通水入口から該脱塩室の高さ方向の33~66の範囲で、10~33%の高さで小粒径のイオン交換樹脂を充填することにより、ホウ素やシリカなどの除去の困難な弱イオン成分の高度除去と、原水を流通した際の圧損の低減の両方をより効率的に発揮することができる。
【0018】
上記発明(発明1,2)においては、前記生産水の一部が濃縮水として脱塩室の流れ方向と向流方向に濃縮室に流通されることが好ましい(発明3)。
【0019】
かかる発明(発明3)によれば、電気脱イオン装置の脱塩室と濃縮室におけるイオンの濃度勾配の格差を緩和することができるので、ホウ素除去率をさらに向上させることができる。
【0020】
上記発明(発明1~3)においては、前記脱塩室の厚さが2.5~20mmであることが好ましい(発明4)。
【0021】
かかる発明(発明4)によれば、脱塩室を比較的厚く形成することにより、濃縮室の数及びイオン交換膜の数が削減され、もって電気抵抗を減らすことができるので、電気脱イオン装置の高寿命化を図ることができる。
【0022】
上記発明(発明1~4)においては、前記平均粒径0.1~0.4mmのイオン交換樹脂の充填箇所以外には、平均粒径0.4mmを超えるイオン交換樹脂、又は両者の混合樹脂が充填されていることが好ましい(発明5)。
【0023】
かかる発明(発明5)によれば、小粒径のイオン交換樹脂層以外は、粒径の大きなイオン交換樹脂を配置しているので、ホウ素やシリカなどの除去の困難な弱イオン成分の高度除去と、原水を流通した際の圧損の低減の両方をより効率的に発揮することができる。
【0024】
上記発明(発明1~5)においては、前記脱塩室内に充填されるイオン交換樹脂がアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂であり、前記アニオン交換樹脂と前記カチオン交換樹脂との割合が60:40~90:10(乾燥重量比)であることが好ましい(発明6)。特に上記発明(発明6)においては、前記アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂が、両者の混合樹脂、又はアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂をそれぞれ単層で積層したものであることが好ましい(発明7)。
【0025】
かかる発明(発明6,7)によれば、アニオン交換樹脂を多く充填することにより、ホウ素やシリカなどのなどの陰イオンを効率良く除去することができる。
【0026】
また、第二に本発明は、前記発明1~7のいずれかに記載の電気脱イオン装置の濃縮室に濃縮水を流通するとともに、脱塩室に被処理水としての原水を通水して、生産水を取り出す脱イオン水の製造方法を提供する(発明8)。
【0027】
かかる発明(発明8)によれば、ホウ素を高度に除去した脱イオン水を製造することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の電気脱イオン装置によれば、該電気脱イオン装置の脱塩室の通水入口から該脱塩室の高さ方向の33~66%の範囲に平均粒径が0.1~0.4mmのイオン交換樹脂を充填しているので、ホウ素やシリカなどの除去の困難な弱イオン成分を高度に除去した脱イオン水を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態による電気脱イオン装置の脱塩室のイオン交換樹脂の充填状態を概略的に示す断面図である。
【
図2】実施例1の電気脱イオン装置の脱塩室のイオン交換樹脂の充填状態を概略的に示す断面図である。
【
図3】比較例1の電気脱イオン装置の脱塩室のイオン交換樹脂の充填状態を概略的に示す断面図である。
【
図4】比較例2の電気脱イオン装置の脱塩室のイオン交換樹脂の充填状態を概略的に示す断面図である。
【
図5】電気脱イオン装置の一般的な構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態による電気脱イオン装置について添付図面を参照して説明する。
【0031】
図1は、本発明の一実施形態による電気脱イオン装置の脱塩室におけるイオン交換樹脂の充填状態を概略的に示している。本実施形態の電気脱イオン装置自体は、上述した
図5に示す電気脱イオン装置と同じ構成を有し、脱塩室15のイオン交換樹脂の充填構造のみが相違するので、その詳細な説明を省略する。
図1において、脱塩室15には、イオン交換樹脂が充填されており、脱塩室15の上側領域15A及び下側領域15Cには、通常の粒径のイオン交換樹脂、すなわち平均粒径0.4mmを超えるイオン交換樹脂21が充填されている一方、脱塩室15の中間領域15Bには、これより小粒径、具体的には平均粒径が0.1~0.4mmのイオン交換樹脂22が充填されている。小粒径のイオン交換樹脂22の平均粒径が0.4mmを超えると、小粒径のイオン交換樹脂22を用いることによる効果が得られない一方、小粒径のイオン交換樹脂22の平均粒径が0.1mm未満では、取扱い性が低下するばかりか、通水抵抗が大きくなり過ぎる。なお、平均粒径0.4mmを超えるイオン交換樹脂21としては、具体的には0.5~2.0mm、特に0.5~1.0mm程度の平均粒径を有するものを用いることができる。
【0032】
このようなイオン交換装置の脱塩室15において、小粒径のイオン交換樹脂22が充填される中間領域15Bは、脱塩室15の通水入口から脱塩室15の高さ[H]に対して33~66%の範囲に小粒径のイオン交換樹脂22を充填することにより形成される。前記小粒径のイオン交換樹脂22が充填される位置が、通水入口から脱塩室15の高さ方向の33%より上部では、ホウ素やシリカなどの除去の困難な弱イオン成分がイオン交換膜にまで移動するだけの時間が確保できず、小粒径のイオン交換樹脂22を配置する効果が十分でない。一方、前記小粒径のイオン交換樹脂22が充填される位置が、通水入口から脱塩室15の高さ方向の66%より下部では、イオン除去性能が高い小粒径のイオン交換樹脂22の性能を効率良く発揮できない。
【0033】
また、小粒径のイオン交換樹脂22が充填される中間領域15Bの高さ[h]は、脱塩室15の高さ[H]の10~33%であることが好ましい。中間領域15Bの高さ[h]が10%未満では、ホウ素やシリカなどの除去の困難な弱イオン成分を十分に除去することができない一方、33%を超えても、それ以上の弱イオン成分除去効果の向上が得られないばかりか、原水Wを流通した際の圧損が大きくなるため好ましくない。ここで電気脱イオン装置における脱塩室15の高さ[H]は、一般に400~800mm程度である。なお、脱塩室15の幅は30~60mm程度である。
【0034】
また、脱塩室15の厚さは2.5~20mm、特に10~15mmであることが好ましい。本実施形態のように小粒径のイオン交換樹脂22を脱塩室15の通水入口から脱塩室15の高さ方向の33~66%の範囲に配置することにより、脱塩室15を厚くしてもホウ素やシリカなどの除去の困難な弱イオン成分を高度に除去することができるので、脱イオン水W1の製造量を固定した場合における脱塩室15の数を削減することができる。これによりアニオン交換膜及びカチオン交換膜の数を削減することができるだけでなく、電気脱イオン装置の高寿命の運転が可能となる、という効果を奏する。なお、電気脱イオン装置における脱塩室15の数は、1~200個、特に40~80個程度とすることが好ましい。
【0035】
上側領域15A及び下側領域15Cには、平均粒径0.4mmを超えるイオン交換樹脂が充填されるが、小粒径のイオン交換樹脂を30容積%以下、特に10容積%以下程度含んでいてもよい。
【0036】
上述したような構成の脱塩室15を備えた本実施形態の電気脱イオン装置において、脱塩室の上側領域15A、中間領域15B及び下側領域15Cに充填されるイオン交換樹脂は、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の両方であることが好ましい。
【0037】
この場合、脱塩室15に充填するアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合割合は、アニオン交換樹脂:カチオン交換樹脂=50:50~90:10(乾燥重量比)、特に50:50~80:20(乾燥重量比)の範囲であることが好ましい。この脱塩室15に充填されるアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂は、混合樹脂とすることが好ましいが、上記範囲内の乾燥重量比となるようにアニオン交換樹脂の層とカチオン交換樹脂の層とをそれぞれ積層した構造としてもよい。また、混合樹脂とする場合、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とをすべての箇所で上記の割合で同一としてもよいし、脱塩室15の通水方向の入口側と出口側で異ならせてもよい。例えば、脱塩室15の通水方向の入り口側(図示上側)から通水長さのうち1/2~1/3の領域においては、アニオン交換樹脂:カチオン交換樹脂=70:30~80:20(乾燥重量比)の混合樹脂を充填し、その他の箇所(出口側)にはアニオン交換樹脂:カチオン交換樹脂=40:60~60:40(乾燥重量比)の混合樹脂を充填するなどしてもよい。アニオン交換樹脂をこのように入口側に十分な量を充填することにより、入口側でアニオンが効果的に除去され、アルカリ雰囲気となるので、炭酸、シリカ、ホウ素がよりイオン化しやすくなり、電気脱イオン装置で除去されやすくなる、という効果を奏する。なお、脱塩室15の中間領域15Bに充填される小粒径のイオン交換樹脂22は、これらアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂のそれぞれが上述の平均粒径を満たすようにすればよい。
【0038】
なお、ホウ素除去率をさらに向上させるためには、濃縮室にもイオン交換樹脂を充填することがこのましい。この場合、濃縮室に充填するイオン交換樹脂として小粒径のイオン交換樹脂を用いてもよい。
【0039】
また、濃縮室に充填するイオン交換樹脂のアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の比率は特に制限はないが、アニオン交換樹脂:カチオン交換樹脂=40:60~70:30、特に50:50~70:30(乾燥重量比)の混合樹脂とすることが好ましい。このような濃縮室の厚さは、脱塩室15の厚さと同等とすることができる。
【0040】
次に上述したような構成の脱塩室15を備えた電気脱イオン装置を用いた脱イオン水の製造方法について説明する。まず、RO処理水などの処理原水W0を電気脱イオン装置で処理する。これにより原水W0が脱塩室15に導入され、まず脱塩室15の上側領域15Aにおいて、平均粒径0.4mmを超えるイオン交換樹脂21で塩化物イオン等の除去しやすい強イオン性の成分が除去される。この上側領域15Aは、脱塩室15の高さ[H]の流入側から33%の範囲が確保されているので、この間にホウ素やシリカなどの除去の困難な弱イオン成分がアニオン交換膜側に移動し、中間領域15Bで小粒径のイオン交換樹脂22によりイオン化した弱イオン成分が除去される。そして、最後に脱塩室15の高さ[H]の流出側から34%の範囲が確保された下側領域15Cにおいて、除去しれきれなかった塩化物イオン、ホウ素やシリカなどが除去される。これにより、ホウ素を高度に除去した生産水(脱イオン水)W1を製造することができる。このときの脱塩室15の通水LVは50~150m/h程度とすることが好ましい。
【0041】
特に、本実施形態においては、
図5に示すように濃縮室16と脱塩室15とが交互に並設され、脱塩室15の生産水(脱イオン水)W1の取り出し側が濃縮室16の流入口となっているとともに脱塩室15の原水流入側が濃縮室16の流出口となっている。これにより、濃縮室16に脱イオン水W1の一部(例えば10~30%程度)を濃縮水として脱塩室15に対して向流一過式で通水することにより、脱塩室15の取り出し側ほど濃縮室16内の濃縮水中のイオン濃度が低いものとなるので、濃度拡散による脱塩室15への影響が小さくなり、イオン除去率、特にホウ素の除去率を大きく向上することができる。このときの濃縮室の通水LVは10~300m/h程度とすることが好ましい。
【0042】
このようにして電気脱イオン装置1を運転してRO処理水を原水W0として処理することにより、ホウ素除去率を99.9%以上程度にまで高めることができる。なお、運転電流密度50A/m2以上とすることが高いホウ素、シリカ除去率とするためには好ましい。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明してきたが、本発明は、電気脱イオン装置1の脱塩室15のイオン交換樹脂を上述したように充填すれば前記実施形態に限定されず、種々の変更実施が可能である。例えば、濃縮室16に脱イオン水W1を脱塩室15に対して向流一過式で通水せずに同方向に通水してもよいし、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の比率は、要求される水質や原水W0の水質に応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
電気脱イオン装置1、イオン交換樹脂として以下のものを使用した。
電気脱イオン装置:KCDI-UPz(栗田工業(株)製)、
図5に示すように脱塩室15を通水した脱イオン水W1の一部を対向流で濃縮水として濃縮室16に通水する方式を採用。脱塩室15の高さ[H]600mm、脱塩室15の厚み10mm、脱塩室15のセル枚数100枚。
【0046】
上記の電気脱イオン装置1において、
図2に示すように脱塩室15の通水入口から脱塩室15の高さに対して40~60%の範囲に小粒径のイオン交換樹脂22として平均粒径が0.3mmのイオン交換樹脂22(アニオン交換樹脂/カチオン交換樹脂=50/50(乾燥重量比))を100mmの高さに充填するとともに、上側領域15A及び下側領域15Cに平均粒径0.6mmのイオン交換樹脂21(アニオン交換樹脂/カチオン交換樹脂=50/50(乾燥重量比))を上側領域15A及び下側領域15Cに充填して、電気脱イオン装置1を構成した。
【0047】
栃木県下都賀郡野木町の市水(原水)を凝集・加圧浮上装置、ろ過装置及び活性炭塔からなる前処理システムで処理した後、2段RO膜装置により処理した。この2段RO処理水(原水)W0のシリカ濃度は1μg/L以下であり、ホウ素濃度は約3.5μg/Lであった。続いて、この被処理水(原水)W0を上述した電気脱イオン装置1に通水し、運転電流密度100A/m2で運転した。なお、この電気脱イオン装置における通水LVは100m/hであり、水回収率90%とした。
【0048】
この電気脱イオン装置により製造した生産水(脱イオン水)W1のホウ素濃度を測定し、ホウ素除去率を計算した。結果を小粒径樹脂の有無、小粒径樹脂の充填位置とともに表1に示す。
【0049】
〔実施例2〕
実施例1において、平均粒径が0.3mmのイオン交換樹脂22(アニオン交換樹脂/カチオン交換樹脂=50/50(乾燥重量比))を脱塩室15の通水入口から脱塩室15の高さに対して35~50%の範囲に充填した以外は同様にして電気脱イオン装置1を構成した。
【0050】
この電気脱イオン装置により、実施例1と同様の条件により、脱イオン水W1を製造し、この脱イオン水W1のホウ素濃度を測定し、ホウ素除去率を計算した。結果を小粒径樹脂の有無、小粒径樹脂の充填位置とともに表1にあわせて示す。
【0051】
〔比較例1〕
実施例1において、
図3に示すように平均粒径が0.3mmのイオン交換樹脂22(アニオン交換樹脂/カチオン交換樹脂=50/50(乾燥重量比))を脱塩室15の通水入口から脱塩室15の高さに対して0~20%の範囲(入口側から20%)に充填した以外は同様にして電気脱イオン装置1を構成した。
【0052】
この電気脱イオン装置により、実施例1と同様の条件により、脱イオン水W1を製造し、この脱イオン水W1のホウ素濃度を測定し、ホウ素除去率を計算した。結果を小粒径樹脂の有無、小粒径樹脂の充填位置とともに表1にあわせて示す。
【0053】
〔比較例2〕
実施例1において、
図4に示すように脱塩室15の全域に平均粒径0.6mmのイオン交換樹脂21(アニオン交換樹脂/カチオン交換樹脂=50/50(乾燥重量比))を充填した以外は同様にして電気脱イオン装置1を構成した。
【0054】
この電気脱イオン装置により、実施例1と同様の条件により、脱イオン水W1を製造し、この脱イオン水W1のホウ素濃度を測定し、ホウ素除去率を計算した。結果を小粒径樹脂の有無、小粒径樹脂の充填位置とともに表1にあわせて示す。
【0055】
【0056】
表1から明らかなとおり、小粒径のイオン交換樹脂22を脱塩室15の通水入口から脱塩室の高さ[H]に対して33~66%の範囲に、該脱塩室15の高さ[H]の10~33%の高さに充填した実施例1及び実施例2の電気脱イオン装置は、99.9%以上の高いホウ素除去率を得られることが確認できた。なお、実施例1及び実施例2の電気脱イオン装置は、小粒径のイオン交換樹脂22を充填していない比較例2と比べて通水時の差圧も大きく増加することはなかった。
【符号の説明】
【0057】
1 電気脱イオン装置
11 陽極
12 陰極
13 アニオン交換膜
14 カチオン交換膜
15 脱塩室
15A 上側領域
15B 中間領域
15C 下側領域
16 濃縮室
17 陽極室
18 陰極室
W0 原水
W1 生産水(脱イオン水)
W2 濃縮排水
W3 排水
H 脱塩室15の高さ
h 中間領域15Bの高さ