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特許7275767末端に相補領域を有する一本鎖核酸の増幅試薬および増幅方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】末端に相補領域を有する一本鎖核酸の増幅試薬および増幅方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20230511BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20230511BHJP
   C12Q 1/25 20060101ALI20230511BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20230511BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20230511BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230511BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20230511BHJP
   C12Q 1/6865 20180101ALN20230511BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/34
C12Q1/25
C12N9/12
C12N9/22
C12N15/09 Z
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6865 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019068903
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162550
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】半澤 敏
(72)【発明者】
【氏名】牧野 友理子
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀峰
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-116136(JP,A)
【文献】特表平08-509382(JP,A)
【文献】特開2016-007176(JP,A)
【文献】東ソー研究/技術報告, 2015, Vol.59, pp.47-50
【文献】Journal of Virology, 1996, Vol.70, No.7, pp.4495-4501
【文献】Human Gene Therapy Methods: Part B, 2012, Vol.23, pp.1-7
【文献】Molecular Therapy - Methods & Clinical Development, 2016, Vol.5, No,16019, pp.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)から(7)を少なくとも含む、少なくとも3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸の増幅試薬であって、以下の(6)および(7)のうちいずれか一方には、その5’末端側に以下の(4)の酵素のプロモータ配列を付加している、増幅試薬
(1)RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素;
(2)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素;
(3)リボヌクレアーゼH活性を有する酵素;
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素;
(5)鎖置換活性を有する酵素;
(6)前記一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相補的な配列を有する第一のプライマー;および
(7)前記一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相同的な配列を有する第二のプライマー。
【請求項2】
前記(1)、前記(2)および前記(3)がAMV逆転写酵素である、請求項1に記載の増幅試薬。
【請求項3】
以下の(I)から(VIII)の工程を少なくとも含む、’末端側および5’末端側に相補領域を有した、一本鎖DNAである一本鎖核酸の増幅方法;
(I)前記一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相補的な配列を有する第一のプライマーと、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、鎖置換活性を有する酵素を用いて、前記一本鎖核酸に相補的なDNAを合成する工程;
(II)鎖置換活性を有する酵素を用いて、前記(I)で合成したDNAを3’末端側に相補領域を有した一本鎖DNAとする工程;
(III)前記一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相同的な配列を有する第二のプライマーと、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、鎖置換活性を有する酵素とを用いて、前記一本鎖核酸に相同的なDNAを合成する工程;
(IV)前記第一のプライマーと、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素とを用いて、前記第一のプライマーおよび前記第二のプライマーのうちいずれか一方が有するRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加した前記(III)で合成したDNAから二本鎖DNAを合成する工程;
(V)前記プロモータ配列に対応したRNAポリメラーゼ活性を有する酵素を用いて、前記二本鎖DNAからRNA転写産物を合成する工程;
(VI)前記第一のプライマーおよび前記第二のプライマーのうち前記RNA転写産物と相補的な配列を有したプライマーと、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素を用いて、前記RNA転写産物に相補的なcDNAを合成する工程;
(VII)リボヌクレアーゼ活性を有する酵素を用いて、前記cDNAを一本鎖DNAとする工程;および
(VIII)前記(VII)で得られた一本鎖DNAを鋳型として、連続的にRNA転写産物を合成する工程。
【請求項4】
請求項3に記載の一本鎖核酸の増幅方法を用いてRNA転写産物を合成する工程;および
RNA転写産物の一部と相補的二本鎖を形成することで形成前と比較し蛍光特性が変化するオリゴヌクレオチドプローブを用いて、RNA転写産物を検出する工程を含む、少なくとも3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸の検出方法。
【請求項5】
ウイルスベクターを含む試料の品質を評価する方法であって、
請求項4に記載の一本鎖核酸の検出方法における一本鎖核酸がウイルスベクターの一本鎖核酸であり、当該一本鎖核酸の検出方法を用いて前記試料中に含まれる前記ウイルスベクターを定性的および/または定量的に検出し、当該検出結果に基づき、前記ウイルスベクターを含む試料の品質を評価する工程、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれる標的核酸の増幅方法および増幅試薬に関する。特に本発明は、アデノ随伴ウイルスに代表されるパルボウイルス科のウイルスゲノムといった、末端に相補領域を有した一本鎖核酸の増幅試薬および増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子疾患の治療において、当該治療のための遺伝子を含むウイルスベクターを用いて細胞に導入する方法が、当該細胞への導入効率がよい点で広く用いられている。ウイルスベクターの中でもアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、AAV自体に病原性がなく、当該ベクターに挿入した遺伝子を効率よく非分裂細胞に導入でき、かつ導入した遺伝子の発現が長期間持続するため、近年特に注目されている(非特許文献1)。
【0003】
AAVはゲノムがカプシドタンパク質に内包された直径20nmから26nmの粒子である。AAVのゲノムは4.7kbの線状の一本鎖DNAであり、その3’末端側および5’末端側には逆位反復(Inverted Terminal Repeat、以下ITRと略記)配列と呼ばれるT字型のループ構造が存在する。遺伝子治療用のAAVベクターとして前記ゲノムを用いる際は、前記ゲノムの両末端側にあるITR配列に挟まれたRep遺伝子とCap遺伝子を、遺伝子を導入したい組織に特異的なプロモータ配列、遺伝子治療に用いる遺伝子、ポリAシグナル配列などに置換する。
【0004】
AAVベクターの製造は、前述した方法で遺伝子治療に用いる遺伝子に置換したAAVゲノムと、Rep遺伝子とCap遺伝子を含むベクター、およびアデノウイルスやヘルペスシンプレックスウイルスなどのヘルパーウイルスとを、宿主細胞(HEK293細胞やHeLa細胞など)へ同時にトランスフェクションし製造する。なお近年では、前記ヘルパーウイルスの代わりに、より安全性の高い、アデノウイルスの複製遺伝子をクローニングしたAdvヘルパープラスミドを用いた方法も行なわれている。
【0005】
前述した方法で製造したAAVベクターの中には、遺伝子治療に必要なAAVゲノムがないベクター(いわゆる空ベクター)も存在する。したがって、産生したAAVベクターを遺伝子治療に用いるためには、当該ベクター中に前記AAVゲノムが存在するかの確認や、AAVベクターを含む試料(細胞培養液など)中に含まれるAAVゲノムの定量が必要であった。
【0006】
AAVベクター中に含まれるAAVゲノムの定性的および/または定量的測定法として、透過型電子顕微鏡によるAAVベクター粒子の画像解析や、分析超遠心法や、定量PCR(qPCR)法や、デジタルドロップレットPCR(ddPCR)法や、ドットブロット法や、電気泳動法が知られている。これらのうちqPCR法は、操作の簡便性や迅速性から、AAVベクターの定量に広く用いられている。しかしながら、qPCR法と電気泳動法など他の方法とで定量結果に相関性がとれない点や、測定の対象とする遺伝子領域によっても定量結果が異なる点などの問題があった(非特許文献2から4、ならびに特許文献1および2)。またqPCR法やddPCR法といったPCRを利用した方法は、急激に反応温度を昇降させる必要があるため、自動化の際、反応工程の省力化や反応装置の低コスト化の点で問題があった。
【0007】
反応工程の省力化や反応装置の低コスト化が比較的容易な核酸増幅方法として、比較的低温(例えば40℃から50℃の範囲)の一定温度で核酸増幅が可能な、NASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification
)法、TMA(Transcription Mediated Amplification)法、TRC(Transcription Reverse transcription Concerted)法が知られている。これら増幅法は通常一本鎖RNAを標的核酸とした増幅法であるが、反応系を工夫することでDNAの増幅も可能である。
【0008】
例えば特許文献3には、TRC法によるRNA増幅で用いる酵素群およびプライマーセット、ならびに鎖置換酵素および/または増幅した核酸を一本化するためのプライマーを含む試薬を用いた、B型肝炎ウイルス核酸の増幅を開示している。特許文献4には、TRC法によるRNA増幅で用いる酵素群およびプライマーセットを含む試薬を用いた、B型肝炎ウイルス核酸の増幅を開示している。しかしながら、AAVゲノムといった、末端に相補領域を有した一本鎖核酸の増幅については、特許文献3および4を含め、これまで開示がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-235562号公報
【文献】WO2015/080223
【文献】特開2015-116136号公報
【文献】特開2014-140367号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】小澤敬也、ウイルス、57(1)、47-56(2007)
【文献】P.Fagone et al.、Human Gene Therapy Methods:B、23、1-7(2012)
【文献】M.Lock et al.、Human Gene Therapy Methods、25、115-125(2014)
【文献】S.D’Costa et al.、Methods And Clinical Development 5、16019(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、少なくとも3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸を、試料中に混在する二本鎖DNAやAAVベクター遺伝子断片の影響を受けず、かつ一定温度で高感度、迅速、簡便に増幅定量可能な試薬、ならびに前記試薬を用いた前記一本鎖核酸の増幅方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、TRC(Transcription Reverse transcription Concerted)法によるRNA増幅で用いる酵素群に、鎖置換活性酵素および少なくとも3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相補的および相同的な配列を有したプライマーセットを少なくとも添加した試薬により、前記一本鎖核酸を一定温度で高感度、迅速、簡便に増幅定量できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち本発明の第一の態様は、
以下の(1)から(7)を少なくとも含む、少なくとも3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸の増幅試薬である(ただし、以下の(6)および(7)のうちいずれか一方には、その5’末端側に以下の(4)の酵素のプロモータ配列を付加している)。
(1)RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素;
(2)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素;
(3)リボヌクレアーゼH活性を有する酵素;
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素;
(5)鎖置換活性を有する酵素;
(6)前記一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相補的な配列を有する第一のプライマー;および
(7)前記一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相同的な配列を有する第二のプライマー。
【0014】
また本発明の第二の態様は、前記(1)、前記(2)および前記(3)がAMV逆転写酵素である、前記第一の態様に記載の増幅試薬である。
【0015】
さらに本発明の第三の態様は、
以下の(I)から(VIII)の工程を少なくとも含む、少なくとも3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸の増幅方法である。
(I)前記一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相補的な配列を有する第一のプライマーと、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、鎖置換活性を有する酵素を用いて、前記一本鎖核酸に相補的なDNAを合成する工程;
(II)鎖置換活性を有する酵素を用いて、前記(I)で合成したDNAを3’末端側に相補領域を有した一本鎖DNAとする工程;
(III)前記一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相同的な配列を有する第二のプライマーと、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、鎖置換活性を有する酵素とを用いて、前記一本鎖核酸に相同的なDNAを合成する工程;
(IV)前記第一のプライマーと、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素とを用いて、前記第一のプライマーおよび前記第二のプライマーのうちいずれか一方が有するRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加した前記(III)で合成したDNAから二本鎖DNAを合成する工程;
(V)前記プロモータ配列に対応したRNAポリメラーゼ活性を有する酵素を用いて、前記二本鎖DNAからRNA転写産物を合成する工程;
(VI)前記第一のプライマーおよび前記第二のプライマーのうち前記RNA転写産物と相補的な配列を有したプライマーと、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素を用いて、前記RNA転写産物に相補的なcDNAを合成する工程;
(VII)リボヌクレアーゼ活性を有する酵素を用いて、前記cDNAを一本鎖DNAとする工程;および
(VIII)前記(VII)で得られた一本鎖DNAを鋳型として、連続的にRNA転写産物を合成する工程。
なお、上記各工程は、同時的、連続的および/または、自動的に行われるものであってよい。
【0016】
また本発明の第四の態様は、第三の態様に記載の一本鎖核酸の増幅方法を用いてRNA転写産物を合成する工程;およびRNA転写産物の一部と相補的二本鎖を形成することで形成前と比較し蛍光特性が変化するオリゴヌクレオチドプローブを用いて、RNA転写産物を検出する工程を含む、少なくとも3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸の検出方法である。
【0017】
さら本発明の第五の態様は、ウイルスベクターを含む試料の品質を評価する方法であって、前記第四の態様に記載の一本鎖核酸の検出方法における一本鎖核酸がウイルスベクターの一本鎖核酸であり、当該一本鎖核酸の検出方法を用いて前記試料中に含まれる前記ウイルスベクターを定性的および/または定量的に検出し、当該検出結果に基づき、前記ウイルスベクターを含む試料の品質を評価する工程、を含む方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の増幅試薬は、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、リボヌクレアーゼH活性を有する酵素と、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、鎖置換活性を有する酵素と、少なくとも3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相補的な配列を有した第一のプライマーと、前記相補領域以外の領域の一部と相同的な配列を有した第二のプライマー(ただし、前記第一のプライマーおよび前記第二のプライマーのうち、いずれか一方にはその5’末端側に前記RNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加している)と、を含むことを特徴としている。
【0019】
本発明の増幅試薬により、NASBA法、TMA法、TRC法といった一定温度で核酸を増幅する方法で、高特異的、高感度、かつ迅速に前記一本鎖核酸を増幅できる。なお本発明の増幅試薬で増幅される一本鎖核酸に、5’末端側の相補領域が含まれる場合には、検出用オリゴヌクレオチドプローブを前記相補領域に設定すると、PCR法による検出で問題となっている、挿入した目的遺伝子が同時検出される問題も解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)ゲノムのうち、3’末端側の逆位反復(ITR)配列を含む領域(配列番号20の塩基番号4526~4675)を示した図である。配列番号20の塩基番号4551~4675がITR配列に相当する。
図2】増幅対象の一本鎖核酸が、5’末端側および3’末端側に相補領域を有し、それ以外の領域が相補領域を有していない一本鎖DNAである場合の、本発明の増幅試薬を用いた一本鎖核酸の増幅方法の一例を示した図である。
図3】増幅対象の一本鎖核酸が、5’末端側および3’末端側に相補領域を有し、それ以外の領域が相補領域を有していない一本鎖DNAである場合の、本発明の増幅試薬を用いた一本鎖核酸の増幅方法の別の例を示した図である。
図4】増幅対象の一本鎖核酸が、5’末端側および3’末端側に相補領域を有し、かつそれ以外の領域にも相補領域を有している一本鎖DNAである場合の、本発明の増幅試薬を用いた一本鎖核酸の増幅方法のさらに別の例を示した図である。
図5】増幅対象の一本鎖核酸が、5’末端側および3’末端側に相補領域を有し、かつそれ以外の領域にも相補領域を有している一本鎖DNAである場合の、本発明の増幅試薬を用いた一本鎖核酸の増幅方法のさらに別の例を示した図である。
図6】増幅対象の一本鎖核酸が、3’末端側に相補領域を有し、それ以外の領域が相補領域を有していない一本鎖DNAである場合の、本発明の増幅試薬を用いた一本鎖核酸の増幅方法の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一態様は、以下の(1)から(7)を少なくとも含む、少なくとも3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸の増幅試薬(ただし、以下の(6)および(7)のうちいずれか一方には、その5’末端側に以下の(4)の酵素のプロモータ配列を付加している)に関する。
(1)RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素;
(2)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素;
(3)リボヌクレアーゼH活性を有する酵素;
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素;
(5)鎖置換活性を有する酵素;
(6)前記一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相補的な配列を有する第一のプライマー;および
(7)前記一本鎖核酸のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相同的な配列を有する第
二のプライマー。
【0022】
<一本鎖核酸>
本発明が増幅対象とする一本鎖核酸とは、本発明の増幅試薬および増幅方法で増幅される一本鎖核酸領域、または当該領域を含む少なくとも3’末端側に有する相補領域を含めた核酸全体のことをいう。一本鎖核酸は、好ましくはDNAである。
【0023】
本発明の一本鎖核酸の増幅試薬は、少なくとも3’末端側に相補領域を有した任意の一本鎖核酸を対象として実施することができる。一本鎖核酸は、さらに5’末端側に相補領域を有していてもよい。DNAを増幅対象とする場合には、人工的に作製されたDNA、環境由来試料や生物由来中に存在するDNAが例示される。本発明を特に限定するものではないが、DNAの由来としては、ウイルス、好ましくはAAVが例示される。
【0024】
本明細書において相補領域とは、一本鎖核酸の数塩基から数十塩基が、数塩基から数十塩基からなるループ構造を介して一本鎖核酸の内側の核酸(5’末端相補領域の場合はループ構造を介して3’末端側に位置する核酸、3’末端相補領域の場合はループ構造を介して5’末端側に位置する核酸)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし二重鎖を形成した領域(二重鎖形成領域)をいう。本発明が増幅対象とする一本鎖核酸は、少なくとも3’末端側に相補領域を有する。なお、相補領域の末端の塩基は、対応する塩基とハイブリダイズする。ただし、一本鎖核酸のうち、3’末端側に有する相補領域の5’末端側領域(一本鎖核酸が、5’末端側と3’末端側の両方に相補領域を有している場合は、両末端側の相補領域に挟まれた領域)に存在する、当該一本鎖核酸の二次構造に由来した相補的二本鎖は、本発明の増幅工程において用いられる相補領域には含めない。
【0025】
ここでストリンジェントな条件下とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性(例えば、同一性や類似性)が高いポリヌクレオチド同士、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより低い相同性を示すポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件である。具体的に本発明におけるストリンジェントな条件の例として、限定されないが、42℃において、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン、0.1%(w/v)フィコール、0.1%(w/v)のポリビニルピロリドン、50mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムが存在する条件があげられる。
【0026】
相補領域のうち、二重鎖形成領域の長さは、上記ストリンジェントな条件で、ループ構造を介した状態を維持しながら、二重鎖を形成可能な長さであれば特に限定はなく、一例として2塩基から150塩基、2塩基から100塩基、2塩基から50塩基、または2塩基から30塩基である。
【0027】
相補領域のうちループ構造とは、二重鎖形成領域において、二重鎖形成領域で挟まれた領域のうち、少なくとも一塩基が、一本鎖核酸の内側の核酸とはハイブリダイズしない構造を意味し、当該ループ構造の一部に一本鎖核酸の内側の核酸と二重鎖を形成する領域があってもよい。ループ構造を形成する塩基長に特に限定はなく、一例として1塩基から100塩基、1塩基から50塩基、1塩基から40塩基、または1塩基から30塩基である。ループ構造の塩基配列は、相補領域中の二重鎖形成領域におけるハイブリダイズを妨げない限り、任意の配列としてよい。
【0028】
一本鎖核酸の内側の核酸と二重鎖を形成する領域を一部有したループ構造の例として、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)ゲノムの逆位反復(ITR)配列があげられる
図1)。図1において、本発明における相補領域はA-B-C-B’-D-E-F-E’-A’の領域のことを、二重鎖形成領域はA-A’の領域のことを、ループ構造はB-C-B’-D-E-F-E’の領域のことを、それぞれ指す。
【0029】
一本鎖核酸の反応系への添加量は、本明細書の記載および公知の核酸増幅技術を参照し、必要な目的物量等に応じて、適宜設定可能である。
【0030】
<プライマー>
本発明の増幅試薬で用いるプライマーは、
増幅対象の一本鎖核酸のうち、前述した相補領域以外の領域の一部と相補的な配列を有した第一のプライマー、および
増幅対象の一本鎖核酸のうち、前述した相補領域以外の領域の一部と相同的な配列を有した第二のプライマーであり、
ただし前記第一のプライマーおよび前記第二のプライマーのうちいずれか一方には、その5’末端側に後述するRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加している。
【0031】
なお本明細書において、「相補的な配列を有する」とは対象核酸に対しストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列を有することをいい、「相同的な配列を有する」とは対象核酸の相補鎖に対しストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列を有することをいう。したがって、前記ハイブリダイズが維持される限り、プライマーは、1又は数塩基程度(例えば、プライマー配列の10%以下程度)の置換、欠失、付加、または修飾などが生じていてもよい。プライマーの長さは任意に設定できるが、好ましくは10塩基から50塩基までの範囲である。プライマーの具体例としては、限定されないが、配列番号11~17に記載の配列を有するものが挙げられる。
プライマーは1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。プライマーの反応系への添加量は、本明細書の記載および公知の核酸増幅技術を参照し、反応系に応じ適宜決定することができる。プライマーは、本明細書の記載および公知技術に基づいて、設計および製造することができる。
【0032】
例えば、一本鎖核酸が5’末端側および3’末端側にAAV2ゲノムのITR(図1)を有した核酸の場合、前記ITR以外の領域の一部と相補的な配列を有し、かつ当該配列の5’末端側に後述するRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加したオリゴヌクレオチドを本発明の増幅試薬で用いる第一のプライマーとして、前記ITR以外の領域(ただし、前記第一のプライマーに対して、一本鎖核酸に対し3’末端側の位置)の一部と相同的な配列を有したオリゴヌクレオチドを本発明の増幅試薬で用いる第二のプライマーとして、それぞれ用いればよい。なお前述した例では、第一のプライマーの5’末端側にRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加しているが、第二のプライマーの5’末端側に前記プロモータ配列を付加してもよい(その場合は第一のプライマーへの前記プロモータ配列の付加は不要である)。また前記相補的な配列は、一本鎖核酸の中央部より3’末端側の位置に設定すると好ましい。
【0033】
<RNAポリメラーゼ活性を有する酵素>
本発明の増幅試薬で用いるRNAポリメラーゼ活性を有する酵素として、限定されないが、分子生物学的実験などで汎用されているバクテリオファージ由来のT7RNAポリメラーゼ、T3RNAポリメラーゼ、SP6RNAポリメラーゼまたはこれらの誘導体が例示できる。前述したプライマーに付加するRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列は、本発明で用いるRNAポリメラーゼ活性を有する酵素に対応した配列を用いればよい。RNAポリメラーゼ活性を有する酵素としてT7RNAポリメラーゼを用いる場合、例えば公知のT7プロモータを用いればよい。これらの1種または2種以上を組み
合わせて使用することができる。RNAポリメラーゼ活性を有する酵素の反応系への添加量は、本明細書の記載および公知の核酸増幅技術を参照し、反応系に応じ適宜決定すればよい。
【0034】
<RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、リボヌクレアーゼH活性を有する酵素>
本発明の増幅試薬には、前述したRNAポリメラーゼ活性を有する酵素の他に、少なくともRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素と、リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素も含んでいる。RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、およびRNaseH活性を有する酵素は、いくつかの活性を併せ持つ酵素を用いてもよく、それぞれの活性を有する複数の酵素を用いてもよい。トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)逆転写酵素、マウス白血病ウイルス(MMLV)逆転写酵素、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)逆転写酵素ならびにこれらの誘導体は、前述した三つの酵素活性のすべてを有しているため好ましく、中でもAMV逆転写酵素およびその誘導体が特に好ましい。これらの1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。各酵素の反応系への添加量は、本明細書の記載および公知の核酸増幅技術を参照し、反応系に応じ適宜決定すればよい。
【0035】
<鎖置換活性を有する酵素>
本発明の増幅試薬で用いる鎖置換活性を有する酵素は、鋳型となる二本鎖DNAの水素結合を自ら解離しつつ、新しいDNA鎖を合成する酵素のことをいう。なお、前記DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素が鎖置換活性を有する酵素としても機能するものであれば、これらの活性を併せ持つ酵素を、DNA依存性DNAポリメラーゼおよび鎖置換活性を有する酵素として、使用してもよい。限定されないが、具体的には、E.coli DNAポリメラーゼI、DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント、T7またはT5バクテリオファージDNAポリメラーゼ、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)逆転写酵素、マウス白血病ウイルス(MMLV)逆転写酵素、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)逆転写酵素、Bsu DNAポリメラーゼ、Bst DNAポリメラーゼ、Aac DNAポリメラーゼ、phi29 DNAポリメラーゼ、96-7 DNAポリメラーゼ、Bca DNAポリメラーゼ、およびこれらの誘導体などがあげられる。またヘリカーゼも、鎖置換効果、すなわち、同じ配列の核酸合成と結びつけられた核酸の置換を生じることから、本発明における鎖置換活性を有する酵素として用いることができる。さらにRecAや一本鎖結合蛋白質も、本発明における鎖置換活性を有する酵素として用いることができる。これらの1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。鎖置換活性を有する酵素の反応系への添加量は、本明細書の記載および公知の核酸増幅技術を参照し、反応系に応じ適宜決定すればよい。
【0036】
<その他の成分>
本発明の増幅試薬には、本発明の効果を妨げない限り、上記成分以外に、さらに任意の反応、検出等に用いられる成分、例えば、反応緩衝剤、2価の金属イオン、デオキシリボヌクレオチド、オリゴヌクレオチドプローブ、およびインターカレーティング色素等から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0037】
本発明の増幅試薬に、標的核酸である、5’末端側および3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸を含む試料を添加し、一定温度で反応させることで、当該一本鎖核酸(正確にはRNA転写産物)を増幅できる。すなわち、本発明の増幅試薬は、例えば、NASBA法、TMA法、TRC法といった一定温度で核酸を増幅する方法に好適に適用できる。反応温度は、使用する各酵素の耐熱性や活性、ならびにプライマーのTm等に依存するが、使用する酵素がAMV逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼであり、プライマー
の長さが17塩基から30塩基の範囲である場合は、35℃から65℃の範囲で反応温度を設定すればよく、40℃から50℃の範囲で設定するとより好ましい。反応時間は、必要な目的物量等に応じて、適宜設定可能である。
【0038】
<検出方法>
本発明の増幅試薬および増幅方法で増幅した一本鎖核酸(RNA転写産物)を検出する(本発明の検出方法を行なう)ことで、測定試料中の一本鎖核酸の有無や当該試料中に含まれる一本鎖核酸の量を測定できる。検出には従来から知られた核酸検出方法を利用することができる。具体的には、
(i)電気泳動や液体クロマトグラフィーを用いた方法、
(ii)検出可能な標識で標識されたオリゴヌクレオチドプローブによるハイブリダイゼーション法、
(iii)前記一本鎖核酸の塩基配列の一部とハイブリダイズ(相補的二本鎖を形成)することで蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブを用いた方法、
などがあげられる。前記標識オリゴヌクレオチドプローブとしては、本明細書の記載および公知の公知の合成技術に基づき合成したもの、または、市販のものを使用可能である。前記(iii)の蛍光色素標識プローブの一例として、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用した蛍光標識プローブや、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブがあげられる。
【0039】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブの一例として、増幅した一本鎖核酸の特定塩基配列を含む核酸の一部とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドの3’末端側、5’末端側、リン酸ジエステル部または塩基部分に、適当なリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドプローブがある。前記プローブは増幅した一本鎖核酸の特定塩基配列と相補的二本鎖を形成すると、インターカレーター性蛍光色素部分が前記相補的二本鎖部分にインターカレートすることで蛍光特性が変化するプローブである。標識するインターカレーター性蛍光色素に特に限定はなく、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド、ヘミシアニン等の汎用されている蛍光色素、およびこれらの誘導体の中から、蛍光強度や蛍光特性を考慮して、適宜選定すればよい。なお3’末端側に蛍光色素を標識する場合を除き、オリゴヌクレオチドの3’末端側は当該末端側からの核酸伸長反応を防止する意味で、グリコール酸などの適当な修飾がされているとよい。
【0040】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを構成するオリゴヌクレオチドの好ましい例として、増幅した一本鎖核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドがあげられる。このようなオリゴヌクレオチドプローブをあらかじめ本発明の増幅試薬に添加し、当該蛍光特性の変化を蛍光分光光度計で経時的に測定すると、試料中に含まれる標的核酸の増幅と検出を一段階かつ密閉容器内で行なえるため、好ましい。また蛍光強度を経時的に測定することから有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、核酸増幅および測定をあわせて通例20分以内で終了可能である。
【0041】
本発明の検出方法により、少なくとも3’末端側に相補領域を有した一本鎖核酸を有するベクターの品質を評価できる。具体例として、少なくとも3’末端側がAAVゲノムのITR(図1)のようなウイルスゲノムが有する相補領域であり、当該3’末端側に有する相補領域の5’末端側領域に目的遺伝子を挿入した、ウイルスベクターを評価する際は、当該目的遺伝子の位置にプライマーを設計し、本発明の検出方法を行なえばよい。検出できた場合は前記ウイルスベクターに目的遺伝子が挿入されていることが、検出できなか
った場合は前記ウイルスベクターに目的遺伝子が挿入されていない(いわゆる空ベクターである)ことが、それぞれわかる(定性的検出)。また検出できた場合、その量を測定することで試料中に含まれるウイルスベクター量が適切か、評価できる(定量的検出)。
【0042】
以下、図を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの図に記載の態様に限定されるものではない。
【0043】
増幅対象の一本鎖核酸が、5’末端側および3’末端側に相補領域を有し、それ以外の領域(両相補領域に挟まれた領域)が相補領域を有していない一本鎖DNAであり、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加したプライマーが第二のプライマーである場合の、本発明の増幅試薬を用いた一本鎖核酸増幅の流れを以下に説明する(図2)。なお以下の(A-10)以降の工程は、通常のTRC(Transcription Reverse-transcription Concerted)法による増幅工程と同じため、図2では「TRC反応」と略している。
【0044】
(A-1)増幅対象の一本鎖DNA(鋳型一本鎖DNA)のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相補的な配列を有した第一のプライマーを、当該一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。
(A-2)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素および鎖置換活性を有する酵素により、第一のプライマー由来の一本鎖DNAおよび鋳型一本鎖DNAを伸長させる。
(A-3)鎖置換活性を有する酵素および伸長した鋳型一本鎖DNAにより、第一のプライマー由来の一本鎖DNAを鋳型一本鎖DNAから遊離させる。
(A-4)第一のプライマー由来の一本鎖DNAの一部と相補的な(鋳型一本鎖DNAに対しては相同的な)配列を有し、かつ当該配列の5’末端側にRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加した第二のプライマーを、(A-3)で遊離した第一のプライマー由来の一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(センスプライマーの付加)。(A-5)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、第一のプライマー由来の一本鎖DNAおよびプロモータを付加した(第二のプライマー由来の)一本鎖DNAを伸長させる。
(A-6)鎖置換活性を有する酵素および伸長した第一のプライマー由来の一本鎖DNAにより、プロモータを付加した一本鎖DNAを第一のプライマー由来の一本鎖DNAから遊離させる。
(A-7)第一のプライマーを、(A-6)で遊離したプロモータを付加した一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。
(A-8)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、5’末端側にプロモータ配列を付加した二本鎖DNAを合成する。
(A-9)(A-8)で合成したプロモータ付加二本鎖DNAに、当該プロモータに対応したRNAポリメラーゼを作用させて、RNA転写産物を合成する(RNA転写産物の増幅)。
(A-10)第一のプライマーを、RNA転写産物にハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。
(A-11)RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、RNA転写産物に相補的なcDNAを合成する(RNA-DNA二本鎖の合成)。
(A-12)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、(A-11)で合成したcDNAを一本鎖DNAとする(RNA転写産物の分解)。
(A-13)(A-12)で得られた一本鎖DNAを鋳型として連続的にRNA転写産物を合成する(RNA転写産物の増幅)。
【0045】
次に、増幅対象の一本鎖核酸が、5’末端側および3’末端側に相補領域を有し、それ
以外の領域(両相補領域に挟まれた領域)が相補領域を有していない一本鎖DNAであり、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加したプライマーが第一のプライマーである場合の、本発明の増幅試薬を用いた一本鎖核酸増幅の流れを以下に説明する(図3)。なお図3も、図2と同様、TRC法による増幅工程(以下の(B-10)以降の工程)は「TRC反応」と略している。
【0046】
(B-1)増幅対象の一本鎖DNA(鋳型一本鎖DNA)のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相補的な配列を有し、かつ当該配列の5’末端側にRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加した第一のプライマーを、当該一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。
(B-2)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素および鎖置換活性を有する酵素により、第一のプライマー由来の一本鎖DNAおよび鋳型一本鎖DNAを伸長させる。
(B-3)鎖置換活性を有する酵素および伸長した鋳型一本鎖DNAにより、第一のプライマー由来の一本鎖DNAを鋳型一本鎖DNAから遊離させる。
(B-4)第一のプライマー由来の一本鎖DNAの一部と相補的な(鋳型一本鎖DNAに対しては相同的な)配列を有した第二のプライマーを、(B-3)で遊離した第一のプライマー由来の一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(センスプライマーの付加)。
(B-5)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、第一のプライマー由来の一本鎖DNAおよび第二のプライマー由来の一本鎖DNAを伸長させる。
(B-6)鎖置換活性を有する酵素および伸長した第一のプライマー由来の一本鎖DNAにより、第二のプライマー由来の一本鎖DNAを第一のプライマー由来の一本鎖DNAから遊離させる。
(B-7)第一のプライマーを、(B-6)で遊離した第二のプライマー由来の一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。
(B-8)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、5’末端側にプロモータ配列を付加した二本鎖DNAを合成する。
(B-9)(B-8)で合成したプロモータ付加二本鎖DNAに、当該プロモータに対応したRNAポリメラーゼを作用させて、RNA転写産物を合成する(RNA転写産物の増幅)。
(B-10)第二のプライマーを、RNA転写産物にハイブリダイズさせる(センスプライマーの付加)。
(B-11)RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、RNA転写産物に相補的なcDNAを合成する(RNA-DNA二本鎖の合成)。
(B-12)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、(B-11)で合成したcDNAを一本鎖DNAとする(RNA転写産物の分解)。
(B-13)(B-12)で得られた一本鎖DNAを鋳型として連続的にRNA転写産物を合成する(RNA転写産物の増幅)。
【0047】
次に、増幅対象の一本鎖核酸が、5’末端側および3’末端側に相補領域を有し、かつそれ以外の領域(両相補領域に挟まれた領域)にも相補領域を有している一本鎖DNAであり、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加したプライマーが第二のプライマーである場合の、本発明の増幅試薬を用いた一本鎖核酸増幅の流れを以下に説明する(図4)。なお図4も、図2と同様、TRC法による増幅工程(以下の(C-11)以降の工程)は「TRC反応」と略している。
【0048】
(C-1)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素および鎖置換活性を有する酵素により、増幅対象の一本鎖DNA(鋳型一本鎖DNA)を伸長させ、相補領域における結合を解離させる。
(C-2)(C-1)で解離した領域の一部と相補的な配列を有した第一のプライマーを
、当該一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。
(C-3)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素および鎖置換活性を有する酵素を用いて、第一のプライマー由来の一本鎖DNAおよび鋳型一本鎖DNAを伸長させる。
(C-4)鎖置換活性を有する酵素および伸長した鋳型一本鎖DNAにより、第一のプライマー由来の一本鎖DNAを鋳型一本鎖DNAから遊離させる。
(C-5)第一のプライマー由来の一本鎖DNAの一部と相補的な(鋳型一本鎖DNAに対しては相同的な)配列を有し、かつ当該配列の5’末端側にRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加した第二のプライマーを、(C-4)で遊離した第一のプライマー由来の一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(センスプライマーの付加)。(C-6)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、第一のプライマー由来の一本鎖DNAおよびプロモータを付加した(第二のプライマー由来の)一本鎖DNAを伸長させる。
(C-7)鎖置換活性を有する酵素および伸長した第一のプライマー由来の一本鎖DNAにより、プライマーを付加した一本鎖DNAを第一のプライマー由来の一本鎖DNAから遊離させる。
(C-8)第一のプライマーを、(C-7)で遊離したプライマーを付加した一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。
(C-9)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、5’末端側にプロモータ配列を付加した二本鎖DNAを合成する。
(C-10)(C-9)で合成したプロモータ付加二本鎖DNAに、当該プロモータに対応したRNAポリメラーゼを作用させて、RNA転写産物を合成する(RNA転写産物の増幅)。
(C-11)第一のプライマーを、RNA転写産物にハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。
(C-12)RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、RNA転写産物に相補的なcDNAを合成する(RNA-DNA二本鎖の合成)。
(C-13)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、(C-12)で合成したcDNAを一本鎖DNAとする(RNA転写産物の分解)。
(C-14)(C-13)で得られた一本鎖DNAを鋳型として連続的にRNA転写産物を合成する(RNA転写産物の増幅)。
【0049】
次に、増幅対象の一本鎖核酸が、5’末端側および3’末端側に相補領域を有し、かつそれ以外の領域(両相補領域に挟まれた領域)にも相補領域を有している一本鎖DNAであり、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加したプライマーが第一のプライマーである場合の、本発明の増幅試薬を用いた一本鎖核酸増幅の流れを以下に説明する(図5)。なお図5も、図2と同様、TRC法による増幅工程(以下の(D-11)以降の工程)は「TRC反応」と略している。
【0050】
(D-1)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素および鎖置換活性を有する酵素により、増幅対象の一本鎖DNA(鋳型一本鎖DNA)を伸長させ、相補領域における結合を解離させる。
(D-2)(D-1)で解離した領域の一部と相補的な配列を有し、かつ当該配列の5’末端側にRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加した第一のプライマーを、当該一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。(D-3)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素および鎖置換活性を有する酵素を用いて、第一のプライマー由来の一本鎖DNAおよび鋳型一本鎖DNAを伸長させる。
(D-4)鎖置換活性を有する酵素および伸長した鋳型一本鎖DNAにより、第一のプライマー由来の一本鎖DNAを鋳型一本鎖DNAから遊離させる。
(D-5)第一のプライマー由来の一本鎖DNAの一部と相補的な(鋳型一本鎖DNAに対しては相同的な)配列を有した第二のプライマーを、(D-4)で遊離した第一のプライマー由来の一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(センスプライマーの付加)。
(D-6)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、第一のプライマー由来の一本鎖DNAおよび第二のプライマー由来の一本鎖DNAを伸長させる。
(D-7)鎖置換活性を有する酵素および伸長した第一のプライマー由来の一本鎖DNAにより、第二のプライマー由来の一本鎖DNAを第一のプライマー由来の一本鎖DNAから遊離させる。
(D-8)第一のプライマーを、(D-7)で遊離したプライマーを付加した一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。
(D-9)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、5’末端側にプロモータ配列を付加した二本鎖DNAを合成する。
(D-10)(D-9)で合成したプロモータ付加二本鎖DNAに、当該プロモータに対応したRNAポリメラーゼを作用させて、RNA転写産物を合成する(RNA転写産物の増幅)。
(D-11)第二のプライマーを、RNA転写産物にハイブリダイズさせる(センスプライマーの付加)。
(D-12)RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、RNA転写産物に相補的なcDNAを合成する(RNA-DNA二本鎖の合成)。
(D-13)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、(C-12)で合成したcDNAを一本鎖DNAとする(RNA転写産物の分解)。
(D-14)(D-13)で得られた一本鎖DNAを鋳型として連続的にRNA転写産物を合成する(RNA転写産物の増幅)。
【0051】
次に、増幅対象の一本鎖核酸が、3’末端側に相補領域を有し、それ以外の領域(両相補領域に挟まれた領域)が相補領域を有していない一本鎖DNAであり、RNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加したプライマーが第一のプライマーである場合の、本発明の増幅試薬を用いた一本鎖核酸増幅の流れを以下に説明する(図6)。なお図6も、図2と同様、TRC法による増幅工程(以下の(6)以降の工程)は「TRC反応」と略している。
【0052】
(1)増幅対象の一本鎖DNA(鋳型一本鎖DNA)のうち、前記相補領域以外の領域の一部と相補的な配列を有し、かつ当該配列の5’末端側にRNAポリメラーゼ活性を有する酵素のプロモータ配列を付加した第一のプライマーを、当該一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(アンチセンスプライマーの付加)。
(2)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素および鎖置換活性を有する酵素により、第一のプライマー由来の一本鎖DNAおよび鋳型一本鎖DNAを伸長させる。
(3)鎖置換活性を有する酵素および伸長した鋳型一本鎖DNAにより、第一のプライマー由来の一本鎖DNAを鋳型一本鎖DNAから遊離させる。
(4)第一のプライマー由来の一本鎖DNAの一部と相補的な(鋳型一本鎖DNAに対しては相同的な)配列を有した第二のプライマーを、(3)で遊離した第一のプライマー由来の一本鎖DNAにハイブリダイズさせる(センスプライマーの付加)。
(5)DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、5’末端側にプロモータ配列を付加した二本鎖DNA(TRC反応複合体)を合成する。
(6)(5)で合成したプロモータ付加二本鎖DNAに、当該プロモータに対応したRNAポリメラーゼを作用させて、RNA転写産物を合成する(RNA転写産物の増幅)。
(7)第二のプライマーを、RNA転写産物にハイブリダイズさせる(センスプライマーの付加)。
(8)RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、RNA転写産物に相補的なcDNAを合成する(RNA-DNA二本鎖の合成)。
(9)リボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有する酵素により、(8)で合成したcDNAを一本鎖DNAとする(RNA転写産物の分解)。
(10)(9)で得られた一本鎖DNAを鋳型として連続的にRNA転写産物を合成する(RNA転写産物の増幅)。
【0053】
なお(A-9)、(A-13)、(B-9)、(B-13)、(C-10)、(C-14)、(D-10)、(D-14)、(6)、および(10)で合成したRNA転写産物の一部とハイブリダイズ(相補的二本鎖を形成)することで蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが前記増幅系に含まれていると、当該蛍光特性の変化を蛍光分光光度計で経時的に測定することで、試料中に含まれる標的核酸の増幅と検出を一段階かつ密閉容器内で行なえる。
【実施例
【0054】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
<実施例1> 一本鎖DNAの合成
一本鎖DNAの合成には、Long ssDNA Preparation Kit for 3.0 kb(BioDynamics Laboratory社製)を用いた。
【0056】
(1)キット付属のpLSODN-3(配列番号3)を、配列番号1および配列番号2のプライマーを用いて、PCRにより増幅した。具体的には、以下の組成からなる反応液を滅菌水で20μLとなるようPCRチューブ16本それぞれに調製し、98℃2分、(98℃10秒、65℃5秒、72℃35秒)×40サイクル、72℃1分で反応した。
【0057】
反応液の組成:
1×PrimeSTAR MAX Premix
0.2μM Fプライマー(配列番号1)
0.2μM Rプライマー(配列番号2)
1ng Template(配列番号3)
【0058】
増幅したPCR産物を、0.8%アガロースゲル電気泳動により泳動し、目的と思われるバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIA
GEN社製)を用いて精製し、ベクターとした。
【0059】
(2)pAAV-CMV(配列番号4)を、配列番号5および配列番号6のプライマーを用いて、PCRにより増幅した産物L1および配列番号7および配列番号6のプライマーを用いて増幅した産物L2を作製した。具体的には、以下の組成からなる反応液を滅菌水で20μLとなるようPCRチューブ8本それぞれに調製し、98℃2分、(98℃10秒、60.4℃5秒、72℃12秒)×40サイクル、72℃1分で反応した。
【0060】
反応液の組成:
1×PrimeSTAR MAX Premix
0.2μM Fプライマー(配列番号5もしくは7)
0.2μM Rプライマー(配列番号6)
1ng Template(配列番号4)
【0061】
増幅したPCR産物を、0.8%アガロースゲル電気泳動により泳動し、目的と思われるバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIA
GEN社製)を用いて精製し、L1もしくはL2とした。さらに、L1を鋳型として、配列番号5および配列番号8、L2を鋳型として、配列番号7および配列番号8、配列番号9および配列番号8、配列番号7および配列番号10のそれぞれのプライマーの組み合わせで上記同様PCR増幅し、それぞれS2、S3、S4-2、S5とした。なお、S2、S3、S5はPCRの伸長を72℃15秒、S4-2は72℃5秒で増幅した。増幅したPCR産物を、0.8%アガロースゲル電気泳動により泳動し、目的と思われるバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製
)を用いて精製し、それぞれインサートS2、S3、S4-2、S5とした。
【0062】
(3)(1)で作製したベクターおよび(2)で作製したインサートS2、S3、S4-2、S5をIn Fusion試薬を用いてプラスミドを合成した。ベクターを約50ng、インサートを各約45ng使用し、In-Fusion HD Enzymeを添加し、50℃15分反応後、一部をJM109に形質転換した。カルベニシリンナトリウムを含む寒天培地に塗布し、37℃でO/Nで培養した。コロニーを培養し、プラスミドを抽出してシーケンスした。目的のインサートが含まれるプラスミドを約15μg~28μg調製した。
【0063】
(4)調製した各プラスミドを、ニッキング酵素Nt BspQIおよびNb BsrDIを用いて、インサート部位にニックを挿入した。エタノール沈殿後、Denaturing Gel-Loading bufferを添加し、一本鎖DNAを遊離した状態で、アガロースゲル電気泳動により泳動した。一本鎖DNAと思われるバンドを切り出し、一本鎖DNA標準サンプルS2、S3、S4-2、S5とした。
【0064】
(5)各一本鎖DNAを、NanoDropを用いて吸光度測定により濃度を求め、塩基長からコピー数を算出した。
【0065】
<実施例2> 一本鎖DNAのTRC反応による検出
各種1本鎖DNA(3’末端側に相補領域を有し、それ以外の領域が相補領域を有していない一本鎖DNA)をTRC反応により増幅した。
(1)一本鎖DNAのS4-2(配列番号19;以下、単に標準DNAとも表記する)を、0.01%コール酸ナトリウム、0.01%アジ化ナトリウムを含むTEバッファーを用いて10コピー/2μLとなるように希釈し、これを一本鎖DNA試料とした。
【0066】
(2)以下の組成からなる反応液10μLを0.5mL容量PCRチューブ(Individual Dome Cap PCR Tube、SSI社製)に分注した後、前記DNA試料2μLを添加した。なお、標準DNA検出用プローブには、TaqManプローブ(IDT社製)を用いた。ここで、第一のプライマーがプロモーター付きアンチセンスプライマー、第二のプライマーがセンスプライマーである。
【0067】
反応液の組成:濃度は後述の開始剤添加後(20μL中)の最終濃度
60mM Tris-HCl緩衝液(pH8.65)
各0.3mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各3.0mM ATP、CTP、GTP、TTP
3.4mM ITP
67mM トレハロース
25nM TaqManプローブ(配列番号18)
1.0μM 第一のプライマー(配列番号11~15)
1.0μM 第二のプライマー(配列番号16もしくは17)
2U 96-7DNAポリメラーゼ
4.3U AMV逆転写酵素
95U T7 RNAポリメラーゼ
【0068】
(3)上記の反応液を46℃で3分間保温後、以下の組成からなる開始剤8μLを添加した。
開始剤の組成:濃度は開始剤添加後(20μL中)の最終濃度
19.0mM 塩化マグネシウム
95.0mM 塩化カリウム
3.8%(w/v) Glycerol
10.5%(v/v) DMSO
【0069】
(4)引き続きPCRチューブを直接測定可能な温調機能付き蛍光分光光度計を用い、46℃で反応させると同時に反応液の蛍光強度(励起波長470nm、蛍光波長520nm)を経時的に30分間測定した。
開始剤添加時を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時間の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度比で割った値)が1.8を超えた場合を陽性判定とした。30分以内に陽性判定となった場合を(+)、陽性判定とならなかった(陰性判定)場合を(-)とした。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
3’末端に反復配列を有するS4-2は、第二のプライマーが配列番号16の場合に、配列番号11~15で増幅が可能であることがわかった。また、配列番号17の場合には、配列番号13との組み合わせで増幅が確認された。なお、増幅効率には、プライマーの選択が検出に重要であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、試薬等に適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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