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  • 特許-多孔質支持体-ゼオライト膜複合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】多孔質支持体-ゼオライト膜複合体
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20230511BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230511BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20230511BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20230511BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D71/02 500
B01D69/12
C01B39/48
C01B32/05
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019096353
(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公開番号】P2019202314
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2018098131
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 独立行政法人(現・国立研究開発法人)科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))、「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製/精密分子ふるい機能の高度設計に基づく無機系高機能分離材料の創製/超高透過性ゼオライト膜の合成と透過特性評価」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 美樹
(72)【発明者】
【氏名】武脇 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公則
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友貴
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/129625(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158582(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/148473(WO,A1)
【文献】特開2002-220225(JP,A)
【文献】特表2019-508241(JP,A)
【文献】特開2017-221945(JP,A)
【文献】特開2018-69133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
C01B 37/02
C01B 39/36
C01B 39/48
C01B 32/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上にゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
該ゼオライト膜を構成するゼオライトがアルミノケイ酸塩であり、
該アルミノケイ酸塩のSiO /Al モル比が30以上であり、
該ゼオライト膜表面に炭素を含有し、
該多孔質支持体-ゼオライト膜複合体表面のC/Si比が50以下である
ことを特徴とする、ガス分離用多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
【請求項2】
該ゼオライト膜表面に炭素を含有する層を有する、請求項1に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
【請求項3】
該ゼオライト膜表面の炭素を含有する層は、炭素/ケイ素比が1以上である請求項2に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
【請求項4】
該ゼオライト膜表面の炭素を含有する層の膜厚が100nm以上である請求項2または3に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体
【請求項5】
ゼオライト膜が酸素8員環構造のゼオライトを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
【請求項6】
複数の気体成分を含有する混合気体を請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に接触させて、
該混合気体のうち透過性の高い成分を透過させることにより、
該混合気体から該透過性の高い成分を分離する、または、該混合気体から透過性の高い成分を透過させ、透過性の低い成分を濃縮する、
気体の分離または濃縮方法。
【請求項7】
多孔質支持体上に空気透過量が1400L/m /h以下であるゼオライト膜を形成す
る工程と、
得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を、炭素源を含有する組成物中に接触させる工程と、
炭素質を担持する工程及び/又は炭素源を炭化させる工程とを有し
前記炭化させる工程を不活性雰囲気下で行う、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気体や液体の混合物の分離に使用される分離膜に関し、具体的には多孔質支持体上にゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分離方法・精製方法には膜分離法、吸着分離法、吸収分離法、蒸留分離法、深冷分離法などがあるが、この中で、膜分離法はガス分離の途中で相変化をほとんど伴わず、圧力差を駆動エネルギーとして、膜を透過するガスの速度差によって分離する手法である。膜分離法は他のガス分離方法・精製方法に比べて取り扱いも容易で設備規模も比較的小さいため、低コスト・省エネルギーで目的とするガスの分離や濃縮を行うことができる。
また、複数成分からなる液体の混合物の分離、濃縮においても、膜分離法による濃縮方法は、ガス分離の場合と同様に、蒸留法、共沸蒸留法、溶媒抽出/蒸留法、吸着分離など
に比べ、少ないエネルギーで分離ができるという利点がある。
【0003】
膜分離方法に用いられる膜としては、高分子膜やゼオライト膜があるが、高分子膜は加工性に優れる一方、熱や化学物質、圧力による劣化から性能が低下するという問題や、分離性能が低いといった問題がある。ゼオライト膜については、高い熱安定性、化学物質耐性を持ち、二酸化炭素とメタンなどの分離に高い分離性能を示すものの、細孔径のバリエーションが少なく、分離対象が限定されるという課題があった(特許文献1)。
【0004】
そこで、ゼオライト膜の分離対象を広げるために、ゼオライト膜の表面をシリル化剤などで処理することで、細孔径を制御し、二酸化炭素と窒素との分離性能、酸素と窒素との分離性能など、を向上させる試みが行われてきた(特許文献2)。しかしながら、従来のシリル化剤を用いる方法で表面処理された膜は、分離性能は向上するものの、透過性能が大きく低下するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5957828号公報
【文献】特開2015-44163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、多孔質支持体上にゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体(以下、単に「ゼオライト膜複合体」とも称する。)を用いて、特に気体の混合物の分離を行うに際し、水素/窒素の分離や、酸素/窒素の分離等、混合ガスから窒素を分離する場合や、水素、ヘリウム等のKinetic半径(Kinetic Diameter)が小さいガスを分離する場合において、分離性能が高く、かつ透過性能も高い、ゼオライト膜複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討した結果、ゼオライト膜表面に炭素を含有させることにより、上記課題を解決できることを見出し本発明に到達した。
【0008】
本発明は以下の要旨のもの含む。
[1]多孔質支持体上にゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、該ゼオライト膜表面に炭素を含有することを特徴とする、多孔質支持体-ゼオライト
膜複合体。
[2]該ゼオライト膜表面に炭素を含有する層を有する、[1]に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[3]該ゼオライト膜表面の炭素を含有する層は、炭素/ケイ素比が1以上である[2]に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[4]該ゼオライト膜表面の炭素を含有する層の膜厚が100nm以上である[2]または[3]に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[5]ゼオライト膜が酸素8員環構造のゼオライトを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[6]複数の気体成分を含有する混合気体を[1]~[5]のいずれかに記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に接触させて、該混合気体のうち透過性の高い成分を透過させることにより、
該混合気体から該透過性の高い成分を分離する、または、該混合気体から透過性の高い成分を透過させ、透過性の低い成分を濃縮する、
気体の分離または濃縮方法。
[7]多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、
得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を、炭素源を含有する組成物中に接触させる工程と、を有する、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水素/窒素の分離や、酸素/窒素の分離等、混合ガスから窒素を分離する場合や、水素、ヘリウム等のKinetic半径が小さいガスを分離する場合において、分離性能が高く、かつ透過性能も高い、ゼオライト膜複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例の単成分ガス透過試験に用いたガス分離装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明の範囲はこれらの内容にのみ限定されるものではない。
【0012】
本発明の実施形態は、多孔質支持体上にゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、該ゼオライト膜表面に炭素を含有する。
まず、多孔質支持体について説明する。
【0013】
(多孔質支持体)
ゼオライト膜複合体に使用される支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、無機の多孔質よりなる支持体(無機多孔質支持体)であれば如何なるものであってもよい。例えば、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体(セラミックス支持体)、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
【0014】
これら多孔質支持体の中で、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したもの(セラミックス支持体)を含む無機多孔質支持体が好ましい。この無機多孔質支持体を用いれば、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果がある。
【0015】
セラミックス支持体としては、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体が好ましいものとして挙げられる。これらの支持体を用いれば、部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり、緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなる。
【0016】
多孔質支持体の形状は、気体混合物や液体混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状のもの、管状のもの、円筒状、円柱状及び角柱状の孔が多数存在するハニカム構造のもの、並びにモノリス構造のものなどが挙げられる。
【0017】
本発明においては、多孔質支持体の表面などにゼオライトを膜状に結晶化させることで、ゼオライト膜複合体を製造し得る。膜を形成する支持体の表面は、支持体の形状に応じて、どの表面であってもよく、複数の面であってもよい。例えば、円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
【0018】
支持体の平均厚さ(肉厚) は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、よ
り好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1mm以上、特に好ましくは1.3mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。支持体はゼオライト膜に機械的強度を与える目的で使用しているが、支持体の平均厚さが薄すぎるとゼオライト膜複合体が十分な強度を持たずゼオライト膜複合体が衝撃や振動等に弱くなることがある。支持体の平均厚さが厚すぎると透過した物質の拡散が悪くなり透過流束が低くなることがある。
【0019】
支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持体の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、上限を超えると支持体の強度が低下する傾向がある。
【0020】
(ゼオライト膜)
本発明においては、前記多孔質支持体上にゼオライト膜を形成させる。
本発明において、膜を構成するゼオライトとしては、具体的にはケイ酸塩とリン酸塩が挙げられる。ケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が、リン酸塩としては、アルミニウムとリンからなるアルミノリン酸塩(ALPO-5などのALPOと称されるもの)、ケイ素とアルミニウムとリンからなるシリコアルミノリン酸塩(SAPO-34などのSAPOと称されるもの)、Feなどの元素を含むFAPO-5などのMeAPOと称されるメタロアルミノリン酸塩、等が挙げられる。これらの中で、骨格中の酸点、及び酸点に由来するイオン交換能等の活用が期待できることから、アルミノケイ酸塩、シリコアルミノリン酸塩が好ましく、アルミノケイ酸塩がより好ましい。
【0021】
アルミノケイ酸塩のSiO/Alモル比は特に限定されないが、通常6以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは32以上、さらに好ましくは35以上、特に好ましくは40以上である。上限は、通常、Alが不純物程度の量となる、500以下、好ましくは100以下、より好ましくは90以下、さらに好ましくは80以下、さらに好ましくは65以下、特に好ましくは48以下である。SiO/Alモル比が前記下限未満ではゼオライト膜の緻密性が低下する場合があり、また耐久性が低下する傾向がある。
SiO/Alモル比は、後に述べる水熱合成の反応条件により調整することができる。
【0022】
なお、SiO/Alモル比は、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により得られた数値である。数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常は特性X線を放出させるための電子線の加速電圧を10kVで測定する。
【0023】
本発明において、ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じ含んでいてもよい。
ゼオライト膜は、一部アモルファス成分などが含有されていてもよいが、好ましくは実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。
【0024】
ゼオライト膜の厚さは特に制限されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下の範囲である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下したり、膜強度が低下したりする傾向がある。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向がある。
【0025】
ゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それゆえ、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合が特に好ましい。ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなるためである。
【0026】
ゼオライト膜の形状(ゼオライト膜複合体としたときの形状)は特に限定されず、管状、中空糸状、モノリス型、ハニカム型などあらゆる形状を採用できる。また大きさも特に限定されず、例えば、管状の場合は、通常長さ2cm以上200cm以下、内径0.05cm以上2cm以下、厚さ0.5mm以上4mm以下が実用的で好ましい。
【0027】
ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、好ましくは酸素6~10員環構造を有するゼオライトを含むもの、より好ましくは酸素6~8員環構造を有するゼオライトを含むものである。ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0028】
酸素6~10員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、ABW、ACO、AEI、AEL、AEN、AEL、AFG、AFN、AFO、AFT、AFV、AFX、AHT、ANA、APC、APD、AST、ATN、ATT、ATV、AVL、AWO、AWW、BCT、BIK、BOF、BPZ、BRE、CAS、CDO、CGF、CGS、CHA、-CHI、CSV、DAC、DDR、DFT、DOH、EAB、EDI、EEI、EPI、ERI、ESV、ETL、EUO、EWS、FAR、FRA、FER、GIS、GIU、GOO、HEU、IFW、IFY、IMF、IHW、IRN、ITE、ITH、ITR、ITW、JBW、JNT、JOZ、JRY、JSN、JST、JSW、KFI、LAU、LEV、LIO、-LIT、LOS、LOV、LTA、LTJ、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MFS、MON、*MRE、MSO、MTF、MTN、MTT、MWF、MWW、NAB、NAT、NES、NON、NPT、NSI、OBW、OWE、-PAR、PAU、PCR、PHI、PON、PSI、RHO、RRO、RSN、RTE、RTH、RUT、RWR、SAS、SAT、SAV、SBN、SFF、SFG、SFW、SGT、SIV、SOD、STF、STI、STT、STW、-SVR、SV
V、SWY、SZR、TER、THO、TOL、TON、TSC、TUN、UEI、UFI、UOS、UOZ、VNI、VSV、WEI、-WEN、YUG、ZONなどが挙げられる。
【0029】
酸素6~8員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、ABW、ACO、AEI、AEN、AFG、AFN、AFT、AFV、AFX、ANA、APC、APD、AST、ATN、ATT、ATV、AVL、AWO、AWW、BCT、BIK、BRE、CAS、CDO、CHA、DDR、DFT、DOH、EAB、EDI、EEI、EPI、ERI、ESV、ETL、FAR、FRA、GIS、GIU、GOO、IFY、IHW、IRN、ITE、ITW、JBW、JNT、JOZ、JSN、JSW、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTJ、LTN、MAR、MEP、MER、MSO、MTF、MTN、MWF、NON、NPT、NSI、OWE、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、RWR、SAS、SAT、SAV、SBN、SFW、SGT、SIV、SOD、SVV、SWY、THO、TOL、TSC、UEI、UFI、UOZ、VNI、YUG、ZONなどが挙げられる。
【0030】
酸素n員環構造はゼオライトの細孔のサイズを決定するものであり、6員環よりも小さいゼオライトではH分子のKinetic半径よりも細孔径が小さくなるため透過流束が小さくなり実用的でない場合がある。また、酸素10員環構造よりも大きい場合は細孔径が大きくなり、サイズの小さな有機物では分離性能が低下することがあり、用途が限定的になる場合がある。
分子など小さい分子を他の分子と分離する場合には細孔のサイズが大きいとその細孔サイズより小さく、かつH分子よりも大きい分子を分離することが困難になるため酸素6~8員環構造を有するゼオライトがより好ましく、酸素8員環構造を有するゼオライトが特に望ましい。
【0031】
ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は特に制限されないが、通常17以下、好ましくは16以下、より好ましくは15.5以下、特に好ましくは、15以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Åあたりの酸素以外の骨格を構成する元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。したがってフレームワーク密度が小さいほど1000Åあたりの空間が広いことを意味するため、フレームワーク密度が小さいほどゼオライト中の物質の拡散速度が速く、ゼオライト膜にした場合に透過流束が大きくなる。したがってフレームワーク密度が小さいことが望ましい。
【0032】
一方でフレームワーク密度が小さすぎるとゼオライトの骨格構造が脆弱となり、結晶構造が壊れやすくなるため通常10以上であることが望ましい。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition
2001 ELSEVIERに示されている。
【0033】
本発明において、好ましいゼオライトの構造は、AEI、AFG、AFX、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、STI、TOL、UFIであり、より好ましい構造は、8員環構造を有し、かつ2次元または3次元構造を有するAEI、AFX、CHA、ERI、KFI、LEV、PAU、RHO、RTH、UFIであり、さらに好ましい構造は、AEI、AFX、CHA、LEV、RHOであり、最も好ましい構造はCHA型である。前記のゼオライトは、構造的に安定性が高く、またゼオライト中の物質の拡散速度が速いと考えられるため、当該支持体と組み合わせることで透過流束を大きくすることが可能となる点で、好ましい。
【0034】
ここで、CHA型のゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
【0035】
(ゼオライト膜の製造方法)
本発明において、ゼオライト膜の製造方法は、ゼオライトを含む膜が形成可能な方法であれば特に制限されず、例えば、(1)多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法、(2)多孔質支持体にゼオライトを無機バインダー、あるいは有機バインダーなどで固着させる方法、(3)ゼオライトを分散させたポリマーを固着させる方法、(4)ゼオライトのスラリーを多孔質支持体に含浸させ、場合によっては吸引させることによりゼオライトを多孔質支持体に固着させる方法などの何れの方法も用いることができる。
【0036】
これらの中で、多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法が特に好ましい。結晶化の方法に特に制限はないが、多孔質支持体を、ゼオライト製造に用いる水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)中に入れて、直接水熱合成することで支持体の表面などにゼオライトを結晶化させる方法が好ましい。
具体的には、例えば、組成を調整して均一化した水性反応混合物を、多孔質支持体を内部に緩やかに固定したオートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱すればよい。
【0037】
水性反応混合物としては、例えばアルミノケイ酸塩のゼオライトを調製する場合、Si元素源、Al元素源、必要に応じて有機テンプレート、および水を含み、さらに必要に応じてアルカリ源を含むものが好ましい。
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミノシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等を用いることができる。
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
【0038】
ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を用いることができるが、有機テンプレートを用いて合成したものが好ましい。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性が向上する。また、極性分子の吸着が抑制され、ガスの透過性能が高くなる。
【0039】
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成し得るものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
ゼオライトがCHA型の場合、有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
【0040】
具体的には、例えば、1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、3-キナクリジナールから誘導されるカチオン、3-exo-アミノノルボルネンから誘導されるカチ
オン等の脂環式アミンから誘導されるカチオンが挙げられる。これらの中で、1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオンがより好ましい。
1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを有機テンプレートとしたとき、緻密な膜を形成し得るCHA型ゼオライトが結晶化する。また、膜が高いガス透過性を持つのに十分な高いSiO/Al比のCHA型ゼオライトが生成し得るほか、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
【0041】
1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのうち、N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンがさらに好ましい。N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンの3つのアルキル基は、通常、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で最も好ましい化合物は、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンである。
このようなカチオンは、CHA型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられる。
【0042】
その他の有機テンプレートとしては、N,N,N-トリアルキルベンジルアンモニウムカチオンも用いることができる。この場合もアルキル基は、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で、最も好ましい化合物は、N,N,N-トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。また、このカチオンが伴うアニオンは上記と同様である。
【0043】
水性反応混合物に用いるアルカリ源としては、有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。
アルカリ源として用いるアルカリ金属、及び/またはアルカリ土類金属の種類は特に限定されず、通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Na、Kが好ましく、Kがより好ましい。
また、アルカリ源として用いるアルカリ金属、及び/またはアルカリ土類金属は2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとKを併用するのが好ましい。
【0044】
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO/Alモル比として表わす。
SiO/Al比は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは10以上、より好ましくは15以上、さらに好ましくは30以上、特に好ましくは50以上、最も好ましくは65以上である。また、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは100以下である。
SiO/Al比がこの範囲にあるときゼオライト膜が緻密に生成する。また耐酸性に強く脱Alしにくいゼオライト膜が得られる。
特に、SiO/Al比がこの範囲にあるとき、緻密な膜を形成し得るCHA型ゼオライトを結晶化させることができる。また、膜が高いガス透過性を持つのに十分な高いSiO/Al比のCHA型ゼオライトが生成し得るほか耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
【0045】
水性反応混合物中のシリカ源と有機テンプレートの比は、SiOに対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiOモル比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.1以下、特に好ましくは0.0
5以下である。
このモル比が上記範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得ることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性に強くAlが脱離しにくい。また、この条件において、特に緻密で耐酸性のCHA型ゼオライトを形成させることができる。
【0046】
Si元素源とアルカリ源の比は、M(2/n)O/SiO(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)のモル比で示し、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
【0047】
CHA型ゼオライト膜を形成する場合、アルカリ金属の中でKを含む場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましい。その場合のKと、Kを含むすべてのアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とのモル比は通常0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上であり、通常1以下、好ましくは0.5以下である。
【0048】
Si元素源と水の比は、SiOに対する水のモル比(HO/SiOモル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、さらに好ましくは60以上、特に好ましくは80以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得る。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが細かい結晶が生成して緻密な膜ができやすい傾向にある。
【0049】
一般的に、粉末のCHA型ゼオライトを合成する際の水の量は、HO/SiOモル比で、15~50程度である。ゼオライト膜を合成する際の水の量に関する条件については、HO/SiOモル比が高い(50以上1000以下)、すなわち水が多い条件にすることにより、支持体上にCHA型ゼオライトが緻密な膜状に結晶化した分離性能の高いゼオライト膜複合体を得ることができる。
さらに、水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在させる必要は無いが、種結晶を加えることで、支持体上にゼオライトの結晶化を促進できる。種結晶を加える方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができる。ゼオライト膜複合体を製造する場合は、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
【0050】
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。CHA型ゼオライト膜を形成する場合は、CHA型ゼオライトの種結晶を用いることが好ましい。
種結晶の粒子径は小さいほうが望ましく、必要に応じて粉砕して用いてもよい。多孔質支持体上に種結晶を付着させる観点から、粒径は支持体の細孔径に近いことが望ましく、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは100nm以上、特に好ましくは300nm以上であり、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下、特に好ましくは2μm以下である。
【0051】
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒
に分散させてその分散液に支持体を浸けて表面に種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良く膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、種結晶が分散しやすく、取扱いが簡便であることから、特に水が好ましい。分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0052】
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体表面に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。分散液中の種結晶の量が多すぎると、ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させた後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。
【0053】
支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、基材1mあたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下である。
種結晶の量が下限未満の場合には、結晶ができにくくなり、膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
【0054】
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
【0055】
ゼオライト膜を形成させる際の温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライト、すなわち本発明で好ましく用いられるタイプのゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難しくなることがある。
反応時間が長すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0056】
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥又はテンプレートを使用した場合にテンプレートを焼成することを意味する。
【0057】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。加熱処理の温度はテンプレートの焼成を目的とする場合は通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。
【0058】
加熱時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥、またはテンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
【0059】
焼成温度は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。焼成温度が低すぎると有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離濃縮の際の透過流束が減少する可能性がある。焼成温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。
【0060】
焼成時間は、昇温速度や降温速度により変動するが、有機テンプレートが十分に取り除かれる時間であれば特に限定されず、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上である。
上限は特に限定されず、例えば、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内、最も好ましくは24時間以内である。焼成は空気雰囲気で行えばよいが、酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0061】
焼成の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0062】
ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換することで、製造時に導入されたカチオンを除去したり、所望のカチオンを付加したりしてもよい。イオン交換は、テンプレートを用いて合成した場合は、通常、テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、Fe、Cu、Znなどの遷移金属のイオンなどが挙げられる。イオン交換が比較的容易に進むことから、これらの中で、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオンが好ましい。
【0063】
イオン交換は、焼成後(テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、NHNO、NaNOなどアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。さらに、必要に応じて200℃~500℃で焼成してもよい。
かくして得られる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体(加熱処理後のゼオライト膜複合体)の空気透過量[L/(m・h)]は、通常1400L/(m・h)以下、好ましくは1000L/(m・h)以下、より好ましくは700L/(m・h)以下、より好ましくは600L/(m・h)以下、さらに好ましくは500L/(m・h)以下、特に好ましくは300L/(m・h)以下、最も好ましくは200L/(m・h)以下である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0.01L/(m・h)以上、好ましくは0.1L/(m・h)以上、より好ましくは1L/(m・h)以上である。
【0064】
ここで、空気透過量とは、実施例で詳述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m・h)]である。
本発明の一実施形態であるゼオライト膜複合体は、上記のとおり優れた特性をもつものであり、本発明の別の実施形態である分離方法における膜分離手段として好適に用いることができる。
【0065】
(炭素)
本発明におけるゼオライト膜複合体では、ゼオライト膜表面に炭素を含有させる。ゼオライト膜表面に炭素を含有させることにより、ゼオライトの細孔を小さくする効果などにより、ゼオライト膜のみでは分離が困難な、N、H、ヘリウム等のKinetic半径が小さいガスを、従来のゼオライト膜よりも高い分離性能で分離することが可能となり、水素/窒素の分離や、酸素/窒素の分離等において、分離性能が高く、かつ透過性能も高いゼオライト膜複合体を得ることができる。本発明においてはゼオライト膜表面に炭素を含有させるが、炭素源には後述のように様々なものがあり、ゼオライトの細孔を小さくする際に、炭素源の選択によって、その度合いを様々に制御することが容易であるために、Kinetic半径が小さいガスを、従来のゼオライト膜よりも高い分離性能で分離することが可能となる。また、炭素を含有したゼオライト膜は炭素の効果により、疎水性が増すため、水蒸気が共存するような実際のガスの分離においても従来のゼオライト膜よりも高い分離性能で分離することが可能である。なお、ここでいうゼオライト膜表面とはゼオライト膜複合体のゼオライト層の最外表面および、その外側のことをいう。「ゼオライト膜表面に炭素を含有させる」とは、ゼオライト膜表面に炭素が存在する場合であってよく、また、ゼオライト膜表面に炭素を含有する層(膜)を有する場合であってもよい。ゼオライト膜表面の炭素の存在は、後述するXPSを用いた表面分析により確認することができるほか、SEMによる表面観察、断面観察により、炭素がゼオライト膜表面に存在することを確認することができる。また、本発明において、ゼオライト層の最外表面とその外側に炭素が存在していれば、最外表面よりも支持体側に炭素を含有していても構わない。
【0066】
また、炭素は一般に疎水的であるので、水蒸気が存在する環境下でのゼオライト膜複合体の使用において、性能低下の抑制や耐久性向上の点でも効果が得られる場合がある。
ゼオライト膜表面に炭素を含有させる方法としては、さまざまな方法があり、特に限定させるものでは無いが、次のような方法があげられる:
有機構造規定剤を用いて、ゼオライト膜を水熱合成した後、焼成する際に、酸素濃度を下げたガスを流通させて焼成する方法(以下、第一の方法とも称する);ゼオライト膜の酸点と反応または相互作用する、ゼオライト膜細孔よりも大きいポリマー前駆体などの炭素源物質(炭素源物質A)の蒸気をゼオライト膜表面に供給して付着させたのちに、必要
に応じて加熱してポリマー化し、その後、窒素雰囲気下、すなわち不活性雰囲気下などで焼成して炭化する方法(以下、第二の方法とも称する);溶媒に溶かした、ゼオライト膜細孔よりも大きいポリマーやポリマーの前駆体などの炭素源物質(炭素源物質B)でゼオライト膜複合体をコートしたのちに、必要に応じて乾燥や加熱によるポリマー化を行ったのちに、不活性雰囲気下などで焼成して炭化させる方法(以下、第三の方法とも称する);ゼオライトの細孔よりも小さい炭素源物質(炭素源物質C)を、蒸気、液体、または溶液としてゼオライト膜に供給することで、ゼオライト細孔内に吸着させ、その後、窒素雰囲気下、すなわち不活性雰囲気下などで焼成して炭化させる方法(以下、第四の方法とも称する);炭素質、炭素黒鉛質、黒鉛質のいずれか1種類以上を有するもの(以下炭素質等)(炭素源物質D)を、必要に応じてバインダーと混ぜて、ゼオライト膜表面に塗布等により付着させる方法(以下、第五の方法とも称する)などがあげられる。これらの方法を炭素コート処理と呼ぶことがある。
また、上記の方法のうち、複数を組み合わせて実施する方法もあげられる。
【0067】
これらの方法の中でも、第二の方法、第三の方法、がゼオライト膜表面を均一にコートできるという点で好ましく、第三の方法が製造効率の面から特に好ましい。
【0068】
第一の方法においては、ゼオライト膜合成時に用いる有機構造規定剤の分子量は、通常70以上であり、好ましくは100以上、より好ましくは150以上、さらに好ましくは200以上であり、通常100000以下、好ましくは10000以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下、特に好ましくは300以下である。有機構造規定剤の分子量がこの範囲にあるとき、ゼオライトの細孔を完全にふさぐことなく、適度に小さくすることが可能であり、透過性能をそれほど損なうことなく、分離性能を向上させることが期待できる。
【0069】
焼成時の酸素濃度としては、通常10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは0.5%以下であり、通常0.01%以上、好ましくは0.1%以上である。焼成の際に酸素濃度がこの範囲にあるとき、構造規定剤が適度に分解、除去され、ゼオライトの細孔を完全にふさぐことなく、適度に小さくすることが可能であり、透過性能を大きく損なうことなく、分離性能を向上させることが期待できる。
【0070】
焼成温度の好ましい範囲は、通常のゼオライト膜複合体合成時と同様であり、好ましい範囲の下限以上の焼成温度とすることで、細孔中の有機構造規定剤が十分に分解され、透過性能が向上する。好ましい範囲の上限以下の焼成温度とすることで、支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくならず、ゼオライト膜に亀裂が生じることを抑制し、ゼオライト膜の緻密性が良好となる。
また、焼成時の昇温速度、降温速度については、通常のゼオライト膜複合体合成時と同様であり、好ましい範囲、その理由についても同様である。
【0071】
第二の方法において、炭素源として用いる物質(炭素源物質A)は、有機物であれば特に制限されないが、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、ケトン類、エーテル類、スルフォン酸類、カルボン酸類が好ましく、特に、アルコール類、アルデヒド類、アミン類がゼオライト酸点との反応性がある程度高い点、または相互作用がある程度強い点から好ましい。また、炭化後に細孔径を適度に小さくできることから、芳香族化合物、複素芳香族化合物が好ましく、ベンゼン環、フラン環、ピロール環、チオール環、ピリジン環を有する有機物がより好ましい。より具体的には、フェノール、ベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、アニリン、ベンゾニトリル、スチレン、クレゾール、ベンゼンジオール、フルフラール、フルフリルアルコール、ヒドロキシメチルフルフラール、フランカルボン酸、フランジカルボン酸、ジホルミルフラン、ピロール、ピリジン、チオールが好ましく、フェノール、フルフリルアルコールが反応性と炭化後の細孔径が適度であることから特に
好ましい。
【0072】
炭素源物質の蒸気をゼオライト膜表面に供給する方法としては、特に限定されないが、容器内でゼオライト膜複合体を炭素源物質の沸点以上に保持し、その容器に気化させた炭素源物質を供給する方法や、オートクレーブ内に、液状の炭素源物質と、その液体に接触しないように台の上などに保持したゼオライト膜複合体とを入れ、必要に応じて、オートクレーブ内をN雰囲気、Ar雰囲気など不活性雰囲気にしたのちに、沸点以上に加熱して蒸気を発生させ、ゼオライト膜複合体表面のゼオライトの酸点に、気化させた炭素源物質を付着させる方法などがあげられる。
【0073】
ゼオライト膜複合体表面に付着させた炭素源物質は、必要に応じ加熱して、重合や縮合させてもよい。その場合の加熱温度は、経済性と重合・縮合の効果を得るために、通常50℃以上、好ましくは80℃以上であり、通常150℃以下、好ましくは120℃以下である。加熱時間は、経済性と、重合・縮合の効果の兼ね合いから、通常3時間以上、好ましくは5時間以上であり、通常、24時間以下、好ましくは12時間以下である。加熱して、重合や縮合させる場合の雰囲気は、加熱時の酸化を抑制するために、通常酸素濃度は10%以下、好ましくは5%以下であり、窒素雰囲気下、Ar雰囲気下など不活性雰囲気下で加熱することがより好ましく、さらに経済的性の面から窒素雰囲気下が特に望ましい。
【0074】
ゼオライト膜複合体表面に付着させた炭素源物質を焼成して、炭化させる方法は特に限定されず、酸素濃度を一定以下の雰囲気とした状態で、炭素源物質を表面に付着させたゼオライト膜複合体を加熱して焼成すればよい。焼成時の雰囲気としては酸化を抑制し、炭化を促進するために、酸素濃度は通常5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下であり、不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことが最も好ましい。不活性ガスの種類としては特に限定されず、窒素、Ar、Heなどがあげられ、経済性の観点から窒素が特に好ましい。また、加熱によって発生した、不要なガス類を除去するために、流通ガス雰囲気で焼成を行うことが好ましい。
【0075】
焼成温度としては、炭化を十分に行いかつゼオライト膜複合体に亀裂を生じさせず、緻密性を維持するために、通常400℃以上、好ましくは450℃以上、より好ましくは500℃以上であり、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下、より好ましくは600℃以下である。ゼオライト膜に亀裂を生じさせないために、昇温速度および降温速度は通常20℃/min以下、好ましくは10℃/min以下、より好ましくは7℃/min以下であり、経済性の観点から、通常1℃/min以上、好ましくは3℃/min以上、より好ましくは5℃/min以上である。最高温度での保持時間は十分に炭化させるために、通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、経済性の観点から通常12時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下である。
【0076】
第三の方法において用いられる、炭素源物質となるポリマーおよびポリマー前駆体(炭素源物質B)としては、特に限定されるものではないが、アクリロニトリル、ポリアクリロニトリル、セルロース、コールタールピッチ、木タール、縮合多環多核芳香族、ポリジメチルシロキサン、ポリイミド、アミック酸、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリエーテルイミン、ホルムアルデヒド、ポリフルフリルアルコール、ポリフルフリルアルコール、スルホン化フェノール樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタラート、ポリスチレン、ポリカーボネート、が挙げられ、好ましくは、ポリイミド、アミック酸、木タール、ポリエーテルイミン、ポリエーテルスルホンである。
ポリマー前駆体は、必ずしも重合又は縮合してポリマーとする必要はない。
【0077】
ポリマーあるいはポリマー前駆体を溶媒に溶かす際の濃度は特に限定されないが、ゼオライト膜表面を均一にコートしやすいという点で、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。
【0078】
ゼオライト膜複合体表面にポリマーやポリマーの前駆体をコートする方法としては、円筒管状のゼオライト膜複合体では通常、ゼオライト膜複合体を、ポリマーやポリマーの前駆体を溶媒に溶かした液に浸漬するディップ法を用いることができる。浸漬する際に支持体の内側にポリマーやポリマーの前駆体を溶媒に溶かした液が入っても入らなくても構わないが、高い透過性能を維持するために、液が入らない方が好ましく、浸漬の際にゼオライト膜の上端・下端をシリコンゴム栓などで封じることが好ましい。また、ゼオライト膜複合体が平板状の場合には、ポリマーやポリマーの前駆体を溶媒に溶かした液をゼオライト膜複合体上に滴下し、その後、バーコーターやスピンコーターを用いて、コートする手法をとることもできる。
【0079】
ゼオライト膜複合体表面を、ポリマーやポリマーの前駆体を溶媒に溶かした液でコートしたのちに、溶媒を飛ばす目的、あるいはポリマーおよびポリマー前駆体の重合や縮合を促進するために加熱してもよく、この場合の加熱温度としては、通常、溶媒の沸点±20℃以内の温度、好ましくは溶媒の沸点±10℃以内の温度である。加熱時間は、十分に溶媒を揮発させるため、あるいはポリマーおよびポリマー前駆体の重合や縮合を促進するため、通常2時間以上、好ましくは5時間以上であり、通常20時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは7時間以下である。
加熱時の雰囲気はポリマーおよびポリマー前駆体の酸化を抑制するために、酸素濃度は通常10%以下、好ましくは5%以下であり、窒素雰囲気下、Ar雰囲気下など不活性雰囲気下で加熱することがより好ましく、さらに経済性の面から窒素雰囲気下が特に望ましい。ポリマーの前駆体を用いてコートをした場合にはポリマー前駆体からポリマーを合成する際の標準的な加熱条件を適用することが最も好ましい。
【0080】
ゼオライト膜複合体表面に付着させたポリマーやポリマーの前駆体を焼成して、炭化させる方法は特に限定されず、酸素濃度を一定以下の雰囲気とした状態で、ポリマーやポリマーの前駆体でコートしたゼオライト膜複合体を加熱して焼成すればよい。焼成時の雰囲気としては酸化を抑制し、炭化を促進するために、酸素濃度は通常5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下であり、不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことが最も好ましい。不活性ガスの種類としては特に限定されず、窒素、Ar、Heなどがあげられ、経済性の観点から窒素が特に好ましい。また、加熱によって発生した、不要なガス類を除去するために、流通ガス雰囲気で焼成を行うことが好ましい。
【0081】
焼成温度としては、炭化を十分に行いかつゼオライト膜複合体に亀裂を生じさせず、緻密性を維持するために、通常400℃以上、好ましくは450℃以上、より好ましくは500℃以上であり、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下、より好ましくは600℃以下である。ゼオライト膜に亀裂を生じさせないために、昇温速度および降温速度は通常20℃/min以下、好ましくは10℃/min以下、より好ましくは7℃/min以下であり、経済性の観点から、通常1℃/min以上、好ましくは3℃/min以上、より好ましくは5℃/min以上である。最高温度での保持時間は十分に炭化させるために、通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、経済性の観点から通常12時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下である。
【0082】
第四の方法において、炭素源として用いる物質は、有機物であれば特に制限されないが、アルコール類、アルデヒド類、アンモニウムカチオンを含むアミン類、ケトン類、エー
テル類、スルフォン酸類、カルボン酸類が好ましく、特に、アルコール類、アルデヒド類、アミン類がゼオライト酸点との反応性がある程度高い点から好ましい。特にアンモニウムカチオン等の有機カチオンを含む物質は、ゼオライト細孔内のカチオンとのイオン交換反応により細孔内に入りやすく、好ましい。また、ゼオライト細孔内に吸着させるという観点から、ゼオライトの細孔径よりも動的分子径の小さい物質が好ましい。本発明において、ゼオライトの構造は制限されないが、例えば8員環構造を有するCHA型ゼオライトの場合には、直鎖構造を有する分子や、分岐構造を有する場合には炭素数が通常17個以下、好ましくは15個以下、より好ましくは10個以下の分子が好ましい。
【0083】
炭素源物質をゼオライト膜表面に供給する方法としては、特に限定されないが、第二の方法と同様に炭素源物質の蒸気をゼオライト膜表面に供給する方法が挙げられる。また、炭素源物質が液体である場合や、炭素源物質や炭素源物質を含む物質が溶媒に溶解可能な場合は、炭素源物質やその溶液にゼオライト膜を浸漬してもよい。
溶媒を用いる場合、炭素源物質を溶媒に溶かす際の濃度は特に限定されないが、ゼオライト細孔内に十分な量の炭素源物質を吸着させられるという点で、通常0.01M以上、好ましくは0.1M以上、より好ましくは0.5M以上である。炭素源物質が、通常、飽和となる濃度や、ゼオライト膜の溶解を抑制する観点から、通常10M以下、好ましくは5M以下、より好ましくは2M以下である。
【0084】
ゼオライト膜を炭素源物質やその溶液に浸漬する場合、炭素源物質の吸着を促進するために、炭素源物質や溶液を加熱してもよく、この場合の加熱温度としては、炭素源物質や溶媒を液体に保つため、通常、溶媒の沸点での還流か、それ以下の温度が好ましい。ただし、オートクレーブ等の耐圧容器内に密閉して加熱を行う場合には、その限りではない。炭素源物質の吸着を十分に進めるため、加熱時間は通常10分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間であり、通常20時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは7時間以下である。
ゼオライト膜に十分な量の炭素源物質を吸着させる観点から、浸漬処理は複数回繰り返してもよい。
高い透過性能を維持するために、浸漬処理後に支持体やゼオライト膜の表面を洗浄してもよい。洗浄溶媒としては、炭素源物質が溶解する、液体状の物質が好ましい。
【0085】
また、溶媒を飛ばす目的、あるいは炭素源物質の重合や縮合を促進するために加熱してもよく、この場合の加熱温度としては、通常、溶媒の沸点±20℃以内の温度、好ましくは溶媒の沸点±10℃以内の温度である。加熱時間は通常2時間以上、好ましくは5時間以上であり、通常20時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは7時間以下である。
加熱時の雰囲気はポリマーおよびポリマー前駆体の酸化を抑制するために、酸素濃度は通常10%以下、好ましくは5%以下であり、窒素雰囲気下、Ar雰囲気下など不活性雰囲気下で加熱することがより好ましく、さらに経済性の面から窒素雰囲気下が特に望ましい。ポリマーの前駆体を用いてコートをした場合にはポリマー前駆体からポリマーを合成する際の標準的な加熱条件を適用することが最も好ましい。
【0086】
ゼオライト細孔内に吸着させた炭素源物質を焼成して、炭化させる方法は特に限定されず、酸素濃度を一定以下の雰囲気とした状態で、細孔内に炭素源物質を吸着させたゼオライト膜複合体を加熱して焼成すればよい。焼成時の雰囲気としては酸化を抑制し、炭化を促進するために、酸素濃度は通常5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下であり、不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことが最も好ましい。不活性ガスの種類としては特に限定されず、窒素、Ar、Heなどがあげられ、経済性の観点から窒素が特に好ましい。また、加熱によって発生した、不要なガス類を除去するために、流通ガス雰囲気で焼成を行うことが好ましい。
【0087】
焼成温度としては、炭化を十分に行いかつゼオライト膜複合体に亀裂を生じさせず、緻密性を維持するために、通常400℃以上、好ましくは450℃以上、より好ましくは500℃以上であり、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下、より好ましくは600℃以下である。ゼオライト膜に亀裂を生じさせないために、昇温速度および降温速度は通常20℃/min以下、好ましくは10℃/min以下、より好ましくは7℃/min以下であり、経済性の観点から、通常1℃/min以上、好ましくは3℃/min以上、より好ましくは5℃/min以上である。最高温度での保持時間は十分に炭化させるために、通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、経済性の観点から通常12時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下である。
【0088】
第五の方法において、炭素源として用いる物質は、活性炭、グラファイト、グラフェン等、一般に炭素質、炭素黒鉛質、黒鉛質のいずれか1種類以上を有するもの(炭素質等)であれば特に制限されないが、ゼオライト膜表面に付着させる観点から、形状の小さいものが好ましく、特に、微粉末やナノ粒子、ナノプレートおよび、それらの分散液が好ましい。炭素質とは、炭素原子のみで形成されており、結晶の発達の程度の低いものをいう。黒鉛質とは炭素原子のみで形成されており、結晶の発達度合いが高いものをいう。炭素黒鉛質とは、炭素質と黒鉛質の中間的な状態を意味する。また、これらの炭素源をゼオライト膜表面に強固に付着させる観点から、バインダーを用いてもよい。バインダーとして用いる物質は、特に制限されないが、バインダーとして使用後に加熱により除去可能な低沸点の物質や、炭化可能な炭素源となる有機物が好ましい。ゼオライト膜全体に炭素を付着させる観点から、特に炭素源となる有機物が好ましく、例えば第三の方法にて述べた炭素源物質(炭素源物質B)が挙げられる。また、バインダーは1種類を単独で用いても、複数種類を併用してもよい。例えば、炭素源物質Bと溶媒をそれぞれバインダーとして用い、前記炭素添物質Bを溶媒に溶解または分散させた溶液を、炭素質の分散媒として用い、この炭素質分散液をゼオライト膜表面にコートすることが可能である。
【0089】
炭素質等をゼオライト膜表面に付着させる方法は、特に限定されないが、炭素質等を直接ゼオライト膜表面にこすりつける方法や、炭素質等をゼオライト表面に供給した後圧着する方法等が可能である。ただし、ゼオライトおよび炭素質等がともに固体であることや、ゼオライト膜に強い力を加えると破損の恐れがあることから、バインダーを使用することが好ましい。
炭素質等とバインダーの混合物をゼオライト膜表面に供給する方法としては、特に限定されないが、炭素質等とバインダーの混合物が液体のような流動性を有する場合は、第三の方法と同様の手法が可能である。また、炭素質等とバインダーの混合物が、流動性に乏しい固形物、スラリーあるいはペースト状である場合は、炭素質等とバインダーの混合物をゼオライト膜表面にこすり付けることによって、ゼオライト膜表面に付着させることができる。
炭素質等とバインダーの混合物の組成は、特に限定されず、前記のように、混合物の性状に合わせた付着方法を選択することが好ましい。
【0090】
バインダーを用いた場合、バインダーを除去、もしくはバインダーの重合や縮合を促進させるために、炭素質等とバインダーの混合物を付着させたゼオライト膜複合体を加熱してもよい。この場合の加熱温度としては、バインダーを除去する目的であれば、通常、バインダーの沸点または昇華点±20℃以内の温度、好ましくはバインダーの沸点±10℃以内の温度である。加熱時間は通常2時間以上、好ましくは5時間以上であり、通常20時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは7時間以下である。
加熱時の雰囲気は、炭素質等およびバインダーの酸化を抑制するために、酸素濃度は通常10%以下、好ましくは5%以下であり、窒素雰囲気下、Ar雰囲気下など不活性雰囲
気下で加熱することがより好ましく、さらに経済性の面から窒素雰囲気下が特に望ましい。ポリマーの前駆体をバインダーとして用いた場合には、ポリマー前駆体からポリマーを合成する際の標準的な加熱条件を適用することが最も好ましい。
更に、バインダーが炭素源物質である場合は、これを焼成して炭化させることが可能である。焼成の方法は特に限定されず、酸素濃度を一定以下の雰囲気とした状態で、炭素質等とバインダーの混合物を付着させたゼオライト膜複合体を加熱して焼成すればよい。焼成時の雰囲気としては酸化を抑制し、炭化を促進するために、酸素濃度は通常5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下であり、不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことが最も好ましい。不活性ガスの種類としては特に限定されず、窒素、Ar、Heなどがあげられ、経済性の観点から窒素が特に好ましい。また、加熱によって発生した、不要なガス類を除去するために、流通ガス雰囲気で焼成を行うことが好ましい。
【0091】
焼成温度としては、炭化を十分に行いかつゼオライト膜複合体に亀裂を生じさせず、緻密性を維持するために、通常400℃以上、好ましくは450℃以上、より好ましくは500℃以上であり、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下、より好ましくは600℃以下である。ゼオライト膜に亀裂を生じさせないために、昇温速度および降温速度は通常20℃/min以下、好ましくは10℃/min以下、より好ましくは7℃/min以下であり、経済性の観点から、通常1℃/min以上、好ましくは3℃/min以上、より好ましくは5℃/min以上である。最高温度での保持時間は十分に炭化させるために、通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、経済性の観点から通常12時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下である。
【0092】
第二の方法、第三の方法、および、第四の方法においては、処理の前にあらかじめ、ゼオライト膜複合体を加熱乾燥させることで、より効果的にゼオライト膜表面や細孔内に炭素を含有させることができる。加熱温度としては通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。この温度範囲である時、ゼオライト膜複合体に加熱による亀裂等を生じさせることなく、緻密性を維持したまま、乾燥させることができる。乾燥時間は、通常30分以上、より好ましくは1時間以上であり、通常5時間以下である。この範囲にあるとき、経済的かつ、十分に乾燥することが可能である。
【0093】
かくして得られた、ゼオライト膜表面に炭素を含有する、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体において、XPSで測定した、膜複合体表面のC/Si比は、通常1以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは8以上、特に好ましくは10以上であり、通常500以下、好ましくは300以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは50以下である。ゼオライト膜表面に炭素を含有する、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体において、膜複合体表面のC/Si比がこの範囲にあるとき、ゼオライトの細孔が炭素によって適度に小さくなり、水素/窒素の分離や、酸素/窒素の分離において、分離性能を高くすることができ、かつ、過度に炭素を含有していないため、透過性能も高くすることができる。
【0094】
ここで、XPSによるC/Si比の値は、市販されるXPS装置を用いた表面分析によって決定することができる。XPSによる表面分析は、X線源を単色化Al-Kαとし、出力を16kV-34W(X線発生面積170μmφ)、帯電中和を電子銃5μA、イオン銃3V、測定領域を300μm×100μm、取り出し角を試料表面より45°として行い、C1s、Si2pナロースペクトル測定によって得られた、各元素の光電子ピークについて、シャーリー法に基づきバックグラウンド除去処理を行った後、面積強度を求め、装置メーカーから提供された、相対感度補正係数を用いて、元素濃度を算出することで、C/Si比を得ることができる。C/Si比は、C/Siモル比とも記載する。
【0095】
ゼオライト膜表面に炭素を含有する、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体において、炭素の含有量は、ゼオライト膜表面全体を確実に処理する観点から通常3g/m以上、好ましくは5g/m以上、より好ましくは7g/m以上、特に好ましくは10g/m以上であり、また、過剰に炭素を有するとゼオライト膜の透過性能が低下する恐れがあることから、通常500g/m以下、好ましくは200g/m以下、より好ましくは150g/m以下、さらに好ましくは70g/m以下、特に好ましくは50g/m以下である。
【0096】
ゼオライト膜表面に炭素を含有する、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体において、炭素を含有する層の膜厚は特に限定されるものではないが、炭素が膜を形成するような場合は、炭素を含有する層の膜厚はゼオライト膜表面全体を確実に処理する観点から通常100nm以上、好ましくは500nm以上、より好ましくは1μm以上、また、炭素を含有する層の膜厚が厚すぎると、ゼオライト膜の透過性能が低下する恐れがあることから、通常10μm以下、好ましくは8μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。
炭素を含有する層の膜厚は、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の膜表面を断面方向からSEMで観察して求めることができる。
【実施例
【0097】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0098】
(1)X線回折(XRD)
XRD測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:オランダPANalytical社製X'PertPro MPD
・光学系仕様 入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit(0.04rad)
Divergence Slit(Valiable Slit)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(X’ Celerator)
Ni-filter
Soller Slit(0.04rad)
ゴニオメーター半径:240mm
・測定条件 X線出力(CuKα):45kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0-70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
計数時間:99.7sec
自動可変スリット(Automatic-DS):1mm(照射幅)
横発散マスク:10mm(照射幅)
【0099】
なお、X線は円筒管の軸方向に対して垂直な方向に照射した。またX線は、できるだけノイズ等がはいらないように、試料台においた円筒管状の膜複合体と、試料台表面に平行な面とが接する2つのラインのうち、試料台表面に接するラインではなく、試料台表面より上部にあるもう一方のライン上に主にあたるようにした。
【0100】
また、照射幅を自動可変スリットによって1mmに固定して測定し、Material
s Data,Inc.のXRD解析ソフトJADE7.5.2(日本語版)を用いて可変スリット→固定スリット変換を行ってXRDパターンを得た。
【0101】
(2)空気透過量
大気圧下で、ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、気密性を保持した状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインとゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターでゼオライト膜複合体を透過した空気の流量を測定し、空気透過量[L/(m・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、Nガス用、最大流量500ml/min(20℃、1気圧換算)を用いた。KOFLOC社製8300においてマスフローメーターの表示が10ml/min(20℃、1気圧換算)以下であるときはLintec社製MM-2100M、Airガス用、最大流量20ml/min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
【0102】
(3)ガス透過・分離試験
単成分ガス透過試験は、図1に模式的に示すガス分離装置100を用いて、以下のとおり行った。用いた試料ガスは、二酸化炭素(純度99.9%、高圧ガス工業社製)またはメタン(純度99.999%、ジャパンファインプロダクツ社製)、窒素(工業用窒素ガス、東邦酸素工業社製)、空気(G3、CO<1ppm、CO<1ppm、THC<1ppm、ジャパンファインプロダクツ社製)の混合ガスである。
【0103】
図1において、円筒形のゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で、恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料ガスの温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
円筒形のゼオライト膜複合体1の一端は、円柱状のエンドピン3で密封されている。他端は、接続部4で接続されている。接続部4の他端は耐圧容器2と接続されている(図示せず)。円筒形のゼオライト膜複合体の内側と、透過ガス8を排出する配管11が、接続部4を介して接続されており、配管11は、耐圧容器2から、耐圧容器の外側に伸びている。耐圧容器2には、試料ガスの供給側の圧力を測る圧力計5、供給側の圧力を調整する背圧弁6が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
【0104】
図1の装置において、試料ガス(供給ガス7)を、一定の流量で耐圧容器2の内壁とゼオライト膜複合体1の最外面の間に供給し、背圧弁6により供給側の圧力を一定とする。一方、ゼオライト膜複合体を透過した透過ガス8を、配管11に接続されている流量計(図示せず)にて測定する。また、非透過ガス10を配管12に接続されている流量計(図示せず)にて測定する。さらに透過ガス8、非透過ガス10のガスを分取してガスクロマトグラフによる成分分析を行った。
さらに具体的には、ガス分離装置100から及び分離膜1を含む、ガス流路全体から水分や空気などの成分を除去するため、測定温度以上での乾燥、及び、排気若しくは使用する供給ガスによるパージ処理をした後、試料温度及びゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧を一定として、透過ガス流速が安定したのちに、ゼオライト膜複合体1を透過した試料ガス(透過ガス8)の流速を測定し、ガスのパーミエンス[mol・(m・s・Pa)-1]を算出した。パーミエンスを計算する際の圧力は、供給ガスの供給側と透過側の圧力差(差圧)を用いた。
【0105】
ガス透過試験においては、上記測定結果に基づき、パーミエンス比αを下記式(1)により算出する。たとえば、水素、窒素のパーミエンス比については
α=PH2/PN2 (1)
〔式(1)中、PH2およびPN2は、それぞれ、水素および窒素のパーミエンス[mol・(m・s・Pa)-1]を示す〕で算出される。
他のガス種についても同様である。
【0106】
(4)X線光電子分光法測定(XPSまたはESCA)
・装置名:ULVAC-PHI社製 XPS光電子分光装置「Quantum2000」・X線源:単色化Al-Kα、出力 16kV-34W(X線発生面積170μmφ)
・帯電中和:電子銃(5μA)、イオン銃(3V)併用
・分光系:パルスエネルギー 187.85eV@ワイドスペクトル
93.90eV@ナロースペクトル(F1s、Al2p、Cl2p)
29.35eV@ワイドスペクトル(C1s、O1s、Si2p)
・測定領域:300μm×100μm
・取り出し角:45°(試料表面より)
・定量方法:C1s, Si2pナロースペクトルを測定し、各元素の光電子ピークについて、シャーリー法に基づきバックグラウンド除去処理を行った後、面積強度を求め、装置メーカーから提供された相対感度補正係数を用いて元素濃度を算出した。得られた元素濃度から、生成したゼオライト膜表面のC/Siモル比を求めた。
【0107】
(5)走査型電子顕微鏡(SEM)
ゼオライト膜表面に炭素を含有する、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体において、SEM測定は以下の条件に基づき行った。多孔質支持体-ゼオライト膜-炭素複合体の断面の測定を行う際にはクロスセクションポリッシャー(日本電子社製)で平滑化した断面を用いた。
機種名:ULTRA55(Zeiss社製)
加速電圧:6kV
観察倍率:3000倍
検出器:チャンバー二次電子検出器
炭素を含有する層の膜厚は、次の方法で算出した。まず、多孔質支持体-ゼオライト膜-炭素複合体の断面観察像のうち、代表的なものを1点選択した。前記断面観察像から、炭素層部分のみを抜き出した後、膜厚方向の画素数の平均値を算出した。その際、観察像全体における平均値を得た。前記平均値を、画素サイズに対応するスケールと対応させ、炭素を含有する層の膜厚を平均値として得た。
【0108】
ゼオライト膜の合成
(比較例1)
特許5957828号の記載を参考にセラミックス支持体上にCHA型アルミノケイ酸塩のゼオライトを直接水熱合成することで、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体(比較ゼオライト膜複合体)を合成した。水熱合成用の水性反応混合物は次のとおり調製した。
1mol/L-NaOH水溶液1.44g、1mol/L-KOH水溶液5.76g、及び脱塩水114.0gを混合したものに水酸化アルミニウム(Alとして53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.195gを加えて撹拌子溶解させ、ほぼ透明な溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」と称する。)水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.43gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック-40)10.8gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。この反応物の組成(モル比)はSiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.014/0.02/0.08/100/0.04、SiO/Al=70である。
【0109】
管状のセラミックス支持体(ノリタケ社製、非対称支持体、外径12mm、内径7.8mm)を8cmに切断したのち、脱塩水で洗浄し乾燥させたものを支持体として用いた。
SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/40/0.07のゲル組成(モル比)で、160℃、2日間水熱合成して結晶化させたものを、濾過、水洗、乾燥して得られたCHA型ゼオライトを種結晶として用いた。種結晶の粒径は0.3~3μm程度であった。この種結晶を1質量%水中に分散させたものに上記支持体を30秒間浸漬したのちに取り出し、ラテックス手袋を着用した指でこすりこむことにより、種結晶を支持体細孔に押し込むとともに余分な種結晶を除去した。
【0110】
その後、上記水性反応混合物が入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、180℃で17時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷したのちに膜複合体を反応混合物から取出し、洗浄後100℃で2時間以上乾燥させた。乾燥後のゼオライト膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた支持体上に結晶化したas-madeのCHA型ゼオライトの質量は109g/mであり、as-madeでの空気透過は0.0[L/(m・h)]だった。この膜複合体を空気中、電気炉で500℃10時間焼成し、比較ゼオライト膜複合体を得た。この時の昇温速度と降温速度はともに0.5℃/minとした。焼成後の比較ゼオライト膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの質量は75.0g/mであり、焼成後の空気透過は260[L/(m・h)]であった。
【0111】
<ガス透過性能の測定>
上記のように作成した比較ゼオライト膜複合体について、H、N、CO、CHそれぞれのガスの透過性能を測定した。その結果、Hのパーミエンスは1.07E-06[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.87E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、COのパーミエンスは3.06E-06[mol・(m・s・Pa)-1]、CHのパーミエンスは1.89E-08[mol・(m・s・Pa)-1]、であり、H/Nパーミエンス比は5.73、CO/CHパーミエンス比は162であった。
【0112】
(実施例1)
ポリフルフリルアルコール(以下、PFFAと略すことがある。)(テクノケミカル株式会社製90~95%)2gをテトラヒドロフラン(以下、THFと略すことがある。)(和光純薬工業株式会社製 試薬特級)18gと混合し、超音波洗浄機に約10分間浸漬して、溶解させ、PFFA10質量%-THF溶液を作製した。
【0113】
比較例1で得られた比較ゼオライト膜複合体を4cmに切断したものを、120℃で30分以上乾燥させ、上下にシリコン栓をしたのち、PFFA10質量%-THF溶液に2分間浸漬した。浸漬後取り出した膜を風乾し、N雰囲気下で100℃、12時間加熱乾燥した。加熱乾燥した後の重量増加は0.0713gであり、加熱乾燥後の空気透過は8.0[L/(m・h)]であった。この膜を、窒素気流下で500℃、2時間焼成し、炭素コートゼオライト膜複合体1を得た。昇温、高温の速度は0.6℃/minとした。焼成後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.0256gであり、炭素の含有量は17g/m、焼成後の空気透過は200[L/(m・h)]であった。炭素の含有量は、炭化したPFFAの重量を、支持体の外側の表面積で除算することで得た。
【0114】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体1のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは4.03E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.93E-08[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は20.9であった。
【0115】
(実施例2)
実施例1と同様に、比較例1で得られた比較ゼオライト膜複合体を4cmに切断したものを、実施例1と同様に乾燥させ、上下にシリコン栓をした。PFFA10質量%-THF溶液に浸漬して、100℃で12時間乾燥させることを3回繰り返した。浸漬及び乾燥を3回繰り返した後のPFFA付着量は0.1611gであり、空気透過量は0[L/(m・h)]であった。焼成時間を10時間とした以外は実施例1と同様に窒素気流下500℃で焼成して炭素コートゼオライト膜複合体2を得た。炭化したPFFAの重量は0.0599gであり、炭素の含有量は40g/m、焼成後の空気透過は130[L/(m・h)]であった。
【0116】
実施例1と同様に得られた、炭素コートゼオライト膜複合体2のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは2.65E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは7.41E-09[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は35.7であった。
【0117】
炭素コートゼオライト膜複合体2について、空気の分離試験を行った。恒温槽の温度を50℃とし、空気を1.9L/minで供給し、背圧弁で供給ガスの圧力を0.3MPaGに保持した。透過したガスについて流量をN用マスフローメーターで測定するとともに、透過したガスの組成を、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いてオンラインで確認した。通過ガスについても、同様に、流量の測定と組成の分析を行った。透過ガスの組成に従って、酸素のコンバージョンファクター(=0.99)を用いて流量を換算し、供給ガスの組成と透過ガスの組成の平均から分圧を算出することで、パーミエンスを求めた。透過ガスのO濃度は39.0%であり、Oのパーミエンスは3.60E-08[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは9.88E-09[mol・(m・s・Pa)-1]となり、O/Nパーミエンス比は3.6であった。
【0118】
(実施例3)
用いたPFFA-THF溶液を20質量%とし、100℃窒素下での乾燥時間を6時間とした以外は実施例1と同様にして、炭素コートゼオライト膜複合体3を得た。100℃で加熱乾燥した後の重量増加は0.0681gであり、加熱乾燥後の空気透過は8.0[L/(m・h)]であった。この膜を、窒素気流下で500℃、2時間焼成した。昇温、降温の速度は0.6℃/minとした。焼成後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.0272gであり、炭素の含有量は18g/m、焼成後の空気透過は40[L/(m・h)]であった。
【0119】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体3のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは2.69E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.46E-08[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は18.5であった。
【0120】
(実施例4)
用いたPFFA-THF溶液を50質量%とし、100℃窒素下での乾燥時間を5.5時間とした以外は実施例1と同様にして、炭素コートゼオライト膜複合体4を得た。100℃で加熱乾燥した後の重量増加は0.1016gであり、加熱乾燥後の空気透過は0[L/(m・h)]であった。この膜を、窒素気流下で500℃、2時間焼成した。昇温、降温の速度は0.6℃/minとした。焼成後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.0403gであり、炭素の含有量は27g/m、焼成後の空気透過は0[L/(m・h)]であった。
【0121】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体4のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは2.67E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.19E-08[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は22.5であった。
【0122】
(実施例5)
用いたPFFA-THF溶液を80質量%とし、100℃窒素下での乾燥時間を5.5時間とした以外は実施例1と同様にして、炭素コートゼオライト膜複合体5を得た。100℃で加熱乾燥した後の重量増加は0.3961gであり、加熱乾燥後の空気透過は0[L/(m・h)]であった。この膜を、窒素気流下で500℃、2時間焼成した。昇温、降温の速度は0.6℃/minとした。焼成後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.1638gであり、炭素の含有量は109g/m、焼成後の空気透過は100[L/(m・h)]であった。
【0123】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体5のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは8.98E-08[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは3.51E-09[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は25.6であった。
【0124】
実施例2と同様に空気を0.3MPaGで供給して測定した際の、透過ガスのO濃度は31.9%であり、Oのパーミエンスは6.47E-09[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは2.95E-09[mol・(m・s・Pa)-1]となり、O/Nパーミエンス比は2.2であった。
【0125】
(実施例6)
上下にシリコン栓をせずに、PFFA10質量%-THF溶液に2分間浸漬し、100℃窒素下での乾燥時間を6時間とした以外は実施例1と同様にして、炭素コートゼオライト膜複合体6を得た。シリコン栓をしないことでゼオライト膜が形成された管の外側だけでなく、外側と内側の両面に炭素をコートさせた。100℃で加熱乾燥した後の重量増加は0.1072gであり、加熱乾燥後の空気透過は0[L/(m・h)]であった。窒素気流下で500℃、2時間焼成した後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.0392gであり、炭素の含有量は26g/m、焼成後の空気透過は180[L/(m・h)]であった。
【0126】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体6のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは3.99E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.50E-08[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は26.7であった。
【0127】
(実施例7)
窒素気流下100℃での加熱乾燥時間を5.5時間とし、窒素気流下での焼成温度を400℃とした以外は実施例6と同様にして、炭素コートゼオライト膜複合体7を得た。100℃で加熱乾燥した後の重量増加は0.1034gであり、加熱乾燥後の空気透過は0[L/(m・h)]であった。窒素気流下で400℃、2時間焼成した後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.0459gであり、炭素の含有量は30g/m、焼成後の空気透過は600[L/(m・h)]であった。
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体7について、複合体表面のC/Siモル比をXPSで測定したところ、13.5であった。
【0128】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体7のHとNのガス透過性能を比較例1と
同様に測定した。Hのパーミエンスは2.24E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは8.18E-09[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は27.3であった。
実施例2と同様に空気を0.3MPaGで供給して測定した際の、透過ガスのO濃度は38.0%であり、Oのパーミエンスは3.43E-08[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.02E-08[mol・(m・s・Pa)-1]となり、O/Nパーミエンス比は3.4であった。
【0129】
(実施例8)
用いたPFFA-THF溶液を5質量%とし、窒素気流下100℃での加熱乾燥時間を5.5時間とした以外は実施例6と同様にして、炭素コートゼオライト膜複合体8を得た。100℃で加熱乾燥した後の重量増加は0.0484gであり、加熱乾燥後の空気透過は0[L/(m・h)]であった。窒素気流下で500℃、2時間焼成した後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.0116gであり、炭素の含有量は7.7g/m、焼成後の空気透過は210[L/(m・h)]であった。
【0130】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体8のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは5.17E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.90E-08[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は27.3であった。
【0131】
(実施例9)
ミクロオートクレーブに1.02gのフルフリルアルコール(東京化成製 純度>98.0%、以下FFAということがある。)をいれ、ゼオライト膜複合体とフルフリルアルコールが接触しないよう、比較ゼオライト膜複合体3本を、治具を用いて、垂直方向に並べてセットし、密閉して窒素置換したのち、185℃で1時間加熱して、FFAの蒸気を比較ゼオライト膜複合体に付着させた。FFA蒸気が付着した比較ゼオライト膜複合体のうち、上、中、下3本の真ん中にセットした1本を窒素気流下90℃で12時間加熱乾燥した。乾燥後のFFA付着量(一部、重合していると推測される。)は0.0685g(45g/m)であり、乾燥後の空気透過は8.0[L/(m・h)]であった。その後、この膜を窒素気流下で500℃で2時間焼成し、炭素コートゼオライト膜複合体9を得た。昇温、高温の速度は0.58℃/minとした。焼成後、処理前重量との差から求めた、炭化したFFA(一部、重合していると推測される。)の重量は0.0427gであり、炭素の含有量は28g/m、焼成後の空気透過は120[L/(m・h)]であった。
【0132】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体9のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは5.78E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは3.21E-08[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は18.0であった。
実施例2と同様に、炭素コートゼオライト膜複合体9について、空気の分離試験を行った。透過ガスのO濃度は38.1%であり、Oのパーミエンスは3.39E-08、Nのパーミエンスは9.93E-09となり、O/Nパーミエンス比は3.4であった。
【0133】
(実施例10)
PFFA-THF溶液の代わりに、ポリエーテルスルホン(以下PESと略すことがある。)(GoodFelllow社製 顆粒状、色:Clear amber、分子量58000g/mol)を1-メチル-2-ピロリドン(以下NMPと略すことがある)(和光純薬製 試薬1級)に溶かして作製した20質量%溶液を用い、シリコンゴム栓の代
わりにテフロン(登録商標)テープでゼオライト膜複合体の上端と下端を覆って内側に液が入らないようにし、加熱乾燥温度を205℃、乾燥時間を1時間とし、焼成時間を500℃で4時間としたほかは、実施例1と同様にして、炭素コートゼオライト膜複合体10を得た。205℃で1時間、加熱乾燥した後の重量増加は0.1804gであり、加熱乾燥後の空気透過は0[L/(m・h)]であった。窒素気流下で500℃、4時間焼成した後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.0250gであり、炭素の含有量は17g/m、焼成後の空気透過は20[L/(m・h)]であった。
【0134】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体10のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは6.56E-08[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは4.07E-09[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は16.0であった。
実施例2と同様に空気を0.3MPaGで供給して測定した際の、透過ガスのO濃度は37.0%であり、Oのパーミエンスは1.34E-08[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは4.26E-09[mol・(m・s・Pa)-1]となり、O/Nパーミエンス比は3.1であった。
【0135】
(実施例11)
PFFA-THF溶液の代わりに、ポリエーテルイミド(以下PEIと略すことがある。)(GoodFelllow製 顆粒状、色:natural、Grade:Ultem1000(登録商標))をNMPに溶かして作製した15質量%溶液を用い、加熱乾燥温度を200℃、乾燥時間を9時間とし、焼成時間を500℃で2時間としたほかは、実施例1と同様にして、炭素コートゼオライト膜複合体11を得た。200℃で9時間、加熱乾燥した後の重量増加は0.0628gであり、加熱乾燥後の空気透過は0[L/(m・h)]であった。窒素気流下で500℃、2時間焼成した後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.0269gであり、炭素の含有量は18g/m、焼成後の空気透過は460[L/(m・h)]であった。
【0136】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体11のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは2.26E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.15E-08[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は19.6であった。
実施例2と同様に空気を0.3MPaGで供給して測定した際の、透過ガスのO濃度は39.4%であり、Oのパーミエンスは3.10E-08[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは8.36E-09[mol・(m・s・Pa)-1]となり、O/Nパーミエンス比は3.7であった。
【0137】
(実施例12)
ゼオライト膜複合体を予めアンモニウム塩でイオン交換処理してから、実施例1と同様の炭素コート処理を行い、炭素コートゼオライト膜複合体12を得た。なお、イオン交換処理は、以下の手法で行った。テトラメチルアンモニウムブロミド(以下TMABrと略すことがある。)(東京化成工業株式会社製)を熱した脱塩水に溶解して、90℃のTMABr水溶液を調製した。ゼオライト膜複合体を4cmに切断したものを、0.1MのTMABr水溶液に1時間浸漬してイオン交換させ、その後90℃の脱塩水に1時間浸漬して洗浄した後、120℃で1時間乾燥した。その後、0.5MのTMABr水溶液に1時間浸漬してイオン交換させ、その後90℃の脱塩水に1時間浸漬して洗浄した後、120℃で1時間乾燥した。イオン交換前に対する重量増加は0.0146gであった。
PFFA10質量%-THF溶液に浸漬後、100℃で加熱乾燥した後、イオン交換前に対する重量増加は0.0699gであり、加熱乾燥後の空気透過は0[L/(m・h
)]であった。この膜を、窒素気流下で500℃、2時間焼成した。昇温、降温の速度は0.6℃/minとした。焼成後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.0253gであり、炭素の含有量は17g/mであった。
【0138】
(実施例12-2)
炭素コートゼオライト膜複合体12に更に実施例1と同様の炭素コート処理を再び行い、炭素コートゼオライト膜複合体12-2を得た。100℃で加熱乾燥した後、イオン交換前に対する重量増加は0.0620gであった。窒素気流下で500℃、2時間焼成した後、イオン交換後との差から求めた炭化したPFFAの重量は0.0370gであり、炭素の含有量は25g/mであった。
【0139】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体12-2のHとNのガス透過性能を、比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは3.47E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは3.56E-08[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は9.75であった。
【0140】
実施例2と同様に空気を0.3MPaGで供給して測定した際の、透過ガスのO濃度は32.7%であり、Oのパーミエンスは8.75E-08[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは3.72E-08[mol・(m・s・Pa)-1]となり、O/Nパーミエンス比は2.4であった。
【0141】
(実施例13)
実施例1と同様の炭素コート処理において焼成まで行う作業を、3回繰り返し行い、炭素コートゼオライト膜複合体13を得た。3回目の処理において、100℃で加熱乾燥した後の、重量増加は0.0903gであった。窒素気流下で500℃、2時間焼成後、処理前重量との差から求めた、炭化したPFFAの重量は0.0648gであり、炭素の含有量は43g/m、焼成後の空気透過は80[L/(m・h)]であった。
【0142】
得られた炭素コートゼオライト膜複合体13のHとNのガス透過性能を、比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは1.57E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは5.97E-09[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は26.4であった。
【0143】
実施例2と同様に空気を0.3MPaGで供給して測定した際の、透過ガスのO濃度は40.4%であり、Oのパーミエンスは2.38E-08[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは6.06E-09[mol・(m・s・Pa)-1]となり、O/Nパーミエンス比は3.9であった。
【0144】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体13について、複合体表面のC/Siモル比をXPSで測定したところ、15.8であった。また、炭素を含有する層の平均膜厚をSEMで観察したところ、0.37μmであった。
【0145】
(実施例14)
用いたPFFA10質量%-THF溶液に、1wt%のグラフェン(微小板(厚さ6-8nm×幅5μm))(Strem Chemicals製)を加えた以外は実施例1と同様にして、炭素コート処理を行い、炭素コートゼオライト膜複合体14を得た。100℃で加熱乾燥した後の重量増加は0.0373gであった。この膜を、窒素気流下で500℃、2時間焼成した。昇温、降温の速度は0.6℃/minとした。焼成後、処理前重量との差から求めた、グラフェンおよび炭化したPFFAの合計重量は0.0228gであり、炭素の含有量は15g/m、焼成後の空気透過は358[L/(m・h)]で
あった。
【0146】
(実施例14-2)
炭素コートゼオライト膜複合体14に更に実施例14と同様の炭素コート処理を再び行い、炭素コートゼオライト膜複合体14-2を得た。100℃で加熱乾燥した後、炭素コート処理前に対する重量増加は0.0455gであった。窒素気流下で500℃、2時間焼成した後、炭素コート処理前との差から求めた、グラフェンおよび炭化したPFFAの重量は0.0287gであり、炭素の含有量は19g/mであった。
【0147】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体14-2のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは2.52E-07[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.49E-08[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は16.9であった。
【0148】
実施例2と同様に空気を0.3MPaGで供給して測定した際の、透過ガスのO濃度は36.3%であり、Oのパーミエンスは4.77E-08[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.58E-08[mol・(m・s・Pa)-1]となり、O/Nパーミエンス比は3.0であった。
【0149】
(実施例15)
比較例1と同様の方法で得られたas-madeのCHA型ゼオライト膜複合体を4cmに切断したものを、窒素99.9%、酸素0.1%の混合気流下で500℃、5時間焼成し、炭素コートゼオライト膜複合体15を得た。昇温、降温の速度は0.6℃/minとした。
【0150】
得られた、炭素コートゼオライト膜複合体15のHとNのガス透過性能を比較例1と同様に測定した。Hのパーミエンスは8.07E-09[mol・(m・s・Pa)-1]、Nのパーミエンスは1.73E-10[mol・(m・s・Pa)-1]でありH/Nパーミエンス比は46.5であった。
【0151】
【表1】

【符号の説明】
【0152】
100 ガス分離装置
1 ゼオライト膜複合体
2 耐圧容器
3 エンドピン
4 接続部
5 圧力計
6 背圧弁
7 供給ガス
8 透過ガス
10 非透過ガス
11 ガス配管
図1