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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20230511BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B15/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020026158
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021130574
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】高島 祥
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-027928(JP,A)
【文献】特開2003-002780(JP,A)
【文献】特開2009-274903(JP,A)
【文献】特開2003-221296(JP,A)
【文献】特開2004-284860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液表面より上部に位置するHZ部品として遮熱筒、該遮熱筒内に設置される遮熱筒断熱材、及び前記遮熱筒上部に配置され引上げ中の前記単結晶から吸熱を促進する吸熱筒を具備する製造装置を用いて、CZ法により、るつぼに収容した前記シリコン融液からシリコン単結晶を引上げた後、該シリコン単結晶を製品直径に円筒研削するシリコン単結晶の製造方法であって、
前記HZ部品のFe濃度を、グラファイト部品の場合は0.05ppm以下、炭素繊維部品の場合は0.5ppm以下とし、
前記シリコン融液表面より上部に位置する前記HZ部品を交換してからの前記装置の使用時間と、前記引上げたシリコン単結晶のアズグロウン直径からの円筒研削した研削量と、該研削量でのシリコン単結晶周辺部のFe濃度との相関関係を予め取得しておき、
該相関関係に基づき、前記製品直径の前記シリコン単結晶の周辺部のFe濃度が、目標とするFe濃度以下となる円筒研削量になるように、前記引上げるシリコン単結晶のアズグロウン直径を前記製品直径に対して予め定められた引き上げ目標直径より太くなるように制御することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記製品直径の前記シリコン単結晶の周辺部の前記目標とするFe濃度を5.0×10atoms/cm以下とすることを特徴する請求項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記HZ部品を新品に交換後、累計使用時間が100時間に達するまでは、直胴部のアズグロウン直径を前記引上げ目標直径より3mm以上太くなるように制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記製品直径を300mm以上とすることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法による単結晶の製造において、引上げ速度は引上げられる単結晶の引上げ方向における温度勾配と密接に関連があり、温度勾配を大きくすることにより引上げ速度を速くすることが出来る。この為、単結晶の周囲を囲繞するように遮熱筒等のホットゾーン(HZ)部品を配置し、ヒーター、ルツボならびに原料融液からの輻射熱を遮蔽し、単結晶の引上げ方向における温度勾配を大きくする方法、ならびに、単結晶の引上げ方向における温度勾配を大きくするためにアズグロウン結晶からの輻射熱を水冷されたチャンバーへ伝熱を促進する吸熱筒等が採用されている。
【0003】
CZ法によるシリコン半導体結晶の製造では炉内の石英ルツボ内にシリコン原料融液を生成し、種結晶を着液させ単結晶を引上げる。シリコン単結晶製造時、石英ルツボの内面からシリコン原料融液に酸素が溶け出し、これがシリコン原料融液と反応し酸化珪素(SiOやSiO)を生じる。また、酸化珪素とヒーター等の黒鉛部材が反応してCOやCOが生じる。酸化珪素は昇華性で、炉内で温度が低下する事で固体となり、シリコン原料融液に落下し単結晶成長時の有転位の原因となる。COやCOは原料融液に取り込まれ、結晶をカーボン汚染させる原因となる。そのため、これらの有害ガスを排出する為に炉内にArガス等の不活性ガスを流通させることが行われている。
【0004】
シリコン単結晶製造中の炉内のHZ部品は高温となっており、HZ部材中に存在している不純物は熱拡散により部品表面から不活性ガス中に放出される。不活性ガスが成長中のシリコン単結晶と接触すると、不活性ガス中の不純物はシリコン単結晶表面から拡散し単結晶を汚染し、単結晶の外表面部での不純物濃度が高くなり、ウェーハ加工後でも外表面部不純物不良が発生する。
【0005】
これに対し、製造工程のクリーン化による汚染低減の他、原材料の高純度化、HZ部品の高純度化で単結晶の汚染を改善させてきた。しかし、半導体デバイスのさらなる微細化の進展で、より一層の不純物低減が求められてきている。
【0006】
先に述べたように、単結晶製造に使用するHZ部品は高純度処理を行ったものを使用しているが、HZ部品の基材に不純物汚染が残っている場合があり、HZ部品交換直後からシリコン単結晶の外表面部での重金属汚染量が高くなり、シリコン単結晶の品質不良となることがある。
【0007】
このシリコン単結晶の外表面部での重金属汚染量を低減するため、例えば、特許文献1に示されるように、炉内構造で不活性ガスの流路を制御し、且つガス流量ならびに炉内圧力を制御する事で引上げ結晶周辺雰囲気中の金属不純物量を低減することが提案されている。また、特許文献2には、炉内に設置する整流筒の表面へ高純度な被膜処理を施すことで、Fe汚染を防ぐ方法が提案されている。また、特許文献3には、整流筒の内部へ石英製の筒を設ける事でFe汚染を防ぐ方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2005-019506号公報
【文献】WO2001-081661号公報
【文献】特開2007-314375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような様々な対策を行っていても、なおHZ部品の交換した直後に引上げた結晶から切り出されたウェーハでは、周辺部でライフタイム低下等のFe汚染起因の不良が発生することがあり、HZ部品交換直後に製造した結晶でも確実に結晶周辺のFe汚染を防止することが望まれていた。
【0010】
これに対し、単結晶周辺に配置する遮熱筒、遮熱筒断熱材及び吸熱筒等のHZ部品の不純物低減を行ってきており、グラファイト部品(黒鉛部品)の場合はFe濃度を0.05ppm以下、炭素繊維部品(断熱材部品)の場合はFe濃度を0.5ppm以下の物を使用しているが、現行以上にHZ部品を高純度化する場合、大幅なコスト増となり、工業的量産には適さない。
【0011】
また、引上げ結晶周辺雰囲気中の金属不純物が単結晶の外表面から拡散してもウェーハ加工後に不純物量を悪化させない為には、結晶直径を常に太くする事でも改善できるが、アズグロウン結晶からの円筒研削する量が多くなり原料ロスを多くする事となり原料歩留りを悪化させる。
【0012】
以上述べたように、現行のHZ部品の不純物濃度レベルでの単結晶への重金属汚染低減が望まれていた。
【0013】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたもので、HZ部品交換により発生することがある単結晶外周部のFe汚染を抑制するシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、HZ部品を具備する製造装置を用いて、CZ法により、るつぼに収容したシリコン融液からシリコン単結晶を引上げた後、シリコン単結晶を製品直径に円筒研削するシリコン単結晶の製造方法であって、シリコン融液表面より上部に位置するHZ部品を交換してからの装置の使用時間と、引上げたシリコン単結晶のアズグロウン直径からの円筒研削した研削量と、該研削量でのシリコン単結晶周辺部のFe濃度との相関関係を予め取得しておき、該相関関係に基づき、前記製品直径の前記シリコン単結晶の周辺部のFe濃度が、目標とするFe濃度以下となる円筒研削量になるように、引上げるシリコン単結晶のアズグロウン直径を制御するシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0015】
このような方法であれば、HZ部品交換時に発生することがあるシリコン単結晶外周部のFe汚染を抑制することができる。
【0016】
このとき、HZ部品のFe濃度を、グラファイト部品の場合は0.05ppm以下、炭素繊維部品の場合は0.5ppm以下とすることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、現行のHZ部品と同様の純度の部品を用いることができ、必要以上にHZ部品を高純度化しなくてよく、コストを増加させずにFe汚染を抑制したシリコン単結晶を製造ができる。
【0018】
このとき、製品直径のシリコン単結晶の周辺部の目標とするFe濃度を5.0×10atoms/cm以下とすることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、Fe汚染に起因するライフタイム低下等を抑制することができる。
【0020】
このとき、融液表面より上部に位置するHZ部品を、遮熱筒、遮熱筒内に設置される遮熱筒断熱材、及び遮熱筒上部に配置され引上げ中の単結晶から吸熱を促進する吸熱筒とすることが好ましい。
【0021】
これらのHZ部品は特に、シリコン単結晶を直上でかつ取り囲むものであるから、Fe濃度への影響が大きい。そこで、これらのHZ部品を採用することで、単結晶の引上げ方向における温度勾配をより大きくすることができ、引上げ速度をより速くできるとともに、シリコン単結晶外周部のFe汚染をより抑制することができる。
【0022】
このとき、HZ部品を新品に交換後、累計使用時間が100時間に達するまでは、直胴部のアズグロウン直径を引上げ目標直径より3mm以上太くなるように制御することが好ましい。
【0023】
このようにすれば、HZ部品を新品に交換後の特にFe濃度が高い間に引上げたシリコン単結晶のアズグロウン直径を確実に太くすることができ、効率よくFe汚染を抑制したシリコン単結晶を製造ができる。
【0024】
このとき、製品直径を300mm以上とすることが好ましい。
【0025】
本発明では、このような大直径で低Fe濃度のシリコン単結晶を生産性高く製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明のシリコン単結晶の製造方法によれば、HZ部品交換時に発生することがある単結晶外表面のFe汚染を抑制し、Fe汚染起因の不良発生を防止する事ができる。さらに品質不良を削減することで原料ロスの削減も可能になり、歩留まり向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】グラファイト製の吸熱筒を新品交換した場合ならびに500時間以上使用している吸熱筒を使用した場合のアズグロウン結晶の外表面からの深さとFe濃度の測定結果を示す図である。
図2】本発明で用いることができる単結晶製造装置の一例について、その主要部の構造を示す断面図である。
図3】実施例、比較例1及び比較例2での装置の使用時間、単結晶引上げ直径及びFe濃度の推移の測定例を示す図である。
図4】実施例及び比較例1における原料ロス重量の比較結果を示す図である。なお、比較例1の結果を1.0とした。
【発明を実施するための形態】
【0028】
上述のように、HZ部品交換により発生することがある結晶外周部のFe汚染を抑制するシリコン単結晶の製造方法が求められていた。
【0029】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、シリコン融液表面より上部に位置するHZ部品を交換してからのシリコン単結晶製造装置の使用時間と、引上げたシリコン単結晶のアズグロウン直径からの円筒研削した研削量と、これらの研削量でのシリコン単結晶周辺部のFe濃度との間に相関関係があることを見出し、この相関関係に基づいてシリコン単結晶を製造することで、HZ部品交換により発生することがある単結晶外周部のFe汚染を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0030】
すなわち、本発明は、HZ部品を具備する製造装置を用いて、CZ法により、るつぼに収容したシリコン融液からシリコン単結晶を引上げた後、該シリコン単結晶を製品直径に円筒研削するシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン融液表面より上部に位置する前記HZ部品を交換してからの前記装置の使用時間と、前記引上げたシリコン単結晶のアズグロウン直径からの円筒研削した研削量と、該研削量での前記シリコン単結晶周辺部のFe濃度との相関関係を予め取得しておき、該相関関係に基づき、前記製品直径の前記シリコン単結晶の周辺部のFe濃度が、目標とするFe濃度以下となる円筒研削量になるように、前記引上げるシリコン単結晶のアズグロウン直径を制御するシリコン単結晶の製造方法である。
【0031】
以下、本発明について図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
図2は本発明で用いることができる単結晶製造装置の一例についてその主要部の構造を示す断面図である。単結晶引上げ装置100は、メインチャンバー1内に石英るつぼ3aとこれを保持する外るつぼ3bが配置され、これらを回転支持体6を介してるつぼ駆動機構7により回転ならびに昇降を行う。原料融液12は石英るつぼ3aの中に入れられ、保温筒4により保温されたヒーター5により加熱される。さらに、引上げた単結晶11を囲繞する吸熱筒13、遮熱筒15ならびに遮熱筒断熱材14が配置される。また、不活性ガスは、プルチャンバー2上部から供給され、単結晶11周辺を経てメインチャンバー下部に設けた圧力調整バルブ機構8及び真空ポンプ9を含む排気配管より排出される。
【0033】
単結晶の製造では、プルチャンバー2より吊り下げたシードワイヤー10に取り付けた種結晶(不図示)を原料融液12に着液させ、ヒーター5の電力を制御して単結晶11を引上げて育成する。
【0034】
この一例では、HZ部品である単結晶11を囲繞する吸熱筒13、遮熱筒15ならびに遮熱筒断熱材14は、単結晶11からの輻射熱を受け高温になる。単結晶11、吸熱筒13、遮熱筒15ならびに遮熱筒断熱材14の間を不活性ガスが流れるが、吸熱筒13、遮熱筒15、遮熱筒断熱材14のいずれかまたは複数を新品交換した場合、新品交換した部品に含まれる不純物は高温となることで不活性ガス中に放出され、単結晶の外表面に付着、拡散し、単結晶を汚染する。
【0035】
単結晶内での不純物は外表面からの拡散によって内部へ進行するため、汚染量の多さは結晶の外表面からの距離に依存し、内部に比べ外表面での汚染量が多い。
【0036】
次に、本発明で予め取得する相関関係について説明する。
【0037】
上述のように、HZ部品を交換してからのシリコン単結晶製造装置の使用時間が長くなる程、HZ部品のFe濃度は低くなり、Fe汚染量は少なくなる。また、引上げたシリコン単結晶のアズグロウン直径からの円筒研削した研削量が多くなるほど、研削後のシリコン単結晶周辺部のFe濃度は低くなる。従って、シリコン融液表面より上部に位置するHZ部品を交換してからのシリコン単結晶製造装置の使用時間と、引上げたシリコン単結晶のアズグロウン直径からの円筒研削した研削量と、該研削量でのシリコン単結晶周辺部のFe濃度には、相関関係がある。本発明では、この相関関係を定量的に把握し、これを利用することで、より効率よくシリコン単結晶を製造できる。
【0038】
相関関係を得るために、本発明では以下に説明する検討実験を行ったが、これに限定されるものではない。
【0039】
<検討実験>
検討実験では、対象とする部品の選定、HZ部品を新品に交換後の累計使用時間、アズグロウン単結晶の直径、アズグロウン単結晶から製品直径までの深さ(研削量)、及びFe濃度を以下のようにして得た。
【0040】
まず、黒鉛ルツボより上部に配置されるHZ部品の内1つ選定して、予め基材のFe濃度を測定しておいた新品部品へ交換する。その他の部品は、過去の操業結果より不具合が発生していない新品交換後の500時間以上経過したもののみとした。
【0041】
このHZ構成で単結晶を引上げ、引上げた単結晶について円筒研削を行わない状態で最初に直胴10cm毎に単結晶の直径ならびにFe濃度を調べた。この結果から単結晶外表面でのFe濃度が5.0×10atoms/cmを超える部分について、この後円筒研削を行い、直径を1mm細い状態とし、直径ならびにFe濃度を測定した。以下、同様に直径を少しずつ研削しながらこれを直径が297mmになるまで繰り返し、単結晶外表面からの深さ方向でのFe濃度変化を調べた。
【0042】
図1にその一例として、部品基材のFe濃度が0.026ppmであるグラファイト製の吸熱筒を新品交換した場合ならびに500時間以上使用している吸熱筒を使用した場合のアズグロウン単結晶外表面からの深さとFe濃度の測定結果を示す。
【0043】
この結果より、HZ部品を新品交換した場合、アズグロウン単結晶外表面のFe濃度が交換しない場合に比べ高くなるが、通常の円筒研削深さ2mmに対し、3.5mmまで研削する事で円筒研削後のブロック円筒部でのFe濃度を新品交換しない場合と同じレベルに出来ることが分かった。
【0044】
さらに、異なるHZ部品交換を繰り返し、単結晶外表面のFe濃度へ影響を及ぼすHZ部品を絞り込んだ。この結果、HZ部品に含まれているFe濃度が、グラファイト部品の場合は0.05ppm以下、炭素繊維部品の場合は0.5ppm以下の物で、単結晶外表面のFe濃度へ影響を及ぼすHZ部品は、特に、遮熱筒と遮熱筒断熱材ならびに吸熱筒である事が分かった。
【0045】
また、上記条件のHZ部品交換後に結晶外表面のFe濃度へ影響を及ぼす時間は、単結晶が遮熱筒と遮熱筒断熱材ならびに吸熱筒内に在る時間の累計が各々100時間を超えるまでの期間である事が分かった。
【0046】
以上の結果より、シリコン融液表面より上部に位置するHZ部品を交換してからの装置の使用時間と、引上げたシリコン単結晶のアズグロウン直径からの円筒研削した研削量と、該研削量でのシリコン単結晶周辺部のFe濃度との間に相関関係があることを明らかにした。
【0047】
そこで、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法では、シリコン融液表面より上部に位置するHZ部品を交換してからの単結晶引上げ装置の使用時間と、引上げたシリコン単結晶のアズグロウン直径からの円筒研削した研削量と、該研削量でのシリコン単結晶周辺部のFe濃度との相関関係を予め取得しておく。相関関係は、例えば、上述の検討実験のようにして取得することができる。
【0048】
ブロック円筒部のFe濃度の測定は、特に限定はされないが、例えば、ブロック円筒部でのライフタイム測定をSinton Instruments社製BCT-400装置で行うとともに、またポリッシュドウェーハ(PW)に加工後のFe濃度を、表面光電力効果(SPV)法により測定する。そして、ブロック円筒部でのライフタイムの測定結果とPW加工後のFe濃度の測定結果の相関関係から、ブロック円筒部でのFe濃度を求めることができる。
【0049】
このようにして予め取得した相関関係に基づき、製品直径に含まれるFe濃度が、目標とするFe濃度以下となる円筒研削量になるように、引上げるシリコン単結晶のアズグロウン直径を制御し、シリコン単結晶の製造を行う。
【0050】
チャンバー内のHZ部品を交換した際、シリコン単結晶の引上げ直径を所定の直径より太く引上げる。シリコン単結晶をアズグロウン結晶からブロックへ加工する際に、円筒研削で太く引き上げた部分を削り取ることで、単結晶外表面部から拡散した重金属等の不純物濃度が高い部分を除去し、ブロック外表面部での重金属等の汚染物質の拡散量が少ない単結晶を得る事ができる。さらに、チャンバー内HZ部品を交換した後、所定の時間経過した後は、引上げ直径を所定の直径より太く引上げる事を止める事で、原料ロスを低減する事が可能とできる。
【0051】
HZ部品を交換した後の結晶直径を太くする期間ならびに太くする直径の量は、試験により求めた値や、結晶外表面から汚染物質が拡散する深さについて熱履歴と炉内部品の配置を考慮し、単結晶を太くする度合を結晶の長さ方向で拡散深さが深い部分では多く、拡散深さが浅い部分では少なく設定することが好ましい。結晶外表面から汚染物質が拡散する深さが結晶全長にわたって同等の場合は、結晶全長にわたって一律に太く製造を行っても良い。また、累計使用時間が100時間に達した後は、アズグロウン直径を、目標直径に戻しても良い。このようにすれば、原料歩留まりを向上させることができる。
【0052】
このとき、HZ部品のFe濃度を、グラファイト部品の場合は0.05ppm以下、炭素繊維部品の場合は0.5ppm以下とすることが好ましい。
【0053】
HZ部品のFe濃度が上記の濃度以下であれば、現行のHZ部品と同様の純度の部品を用いることができ、HZ部品を高純度化しなくてよく、本発明によりコストを増加させずにFe汚染を抑制したシリコン単結晶を製造ができる。
【0054】
このとき、目標とするFe濃度を5.0×10atoms/cm以下とすることが好ましい。
【0055】
上記のようなFe濃度以下であれば、Fe汚染に起因するライフタイム低下等を抑制することができる。
【0056】
また、このとき、融液表面より上部に位置するHZ部品を、遮熱筒、遮熱筒内に設置される遮熱筒断熱材、及び遮熱筒上部に配置され引上げ中の単結晶から吸熱を促進する吸熱筒とすることが好ましい。
【0057】
これらの部品により、単結晶の引上げ方向における温度勾配をより大きくすることができ、引上げ速度をより速くしつつ、本発明によりシリコン単結晶外周部のFe汚染をより抑制することができる。なお、対象とするHZ部品は、上記のものに限定されるものではなく、シリコン融液表面より上部に位置するものであれば適用でき、不活性ガスの流れ方向において融液表面より上流となる経路に配置しているものである。
【0058】
このとき、HZ部品を新品に交換後、累計使用時間が100時間に達するまでは、直胴部のアズグロウン直径を引上げ目標直径より3mm以上太くなるように制御することが好ましい。
【0059】
このようにすれば、HZ部品を新品に交換後のFe濃度が高い間に引上げたシリコン単結晶のアズグロウン直径だけ太くすることができ、確実にFe濃度を抑制して効率よくシリコン単結晶を製造することができる。
【0060】
このとき、製品直径を300mm以上とすることが好ましい。
【0061】
本発明では特に、このような大直径で低Fe濃度のシリコン単結晶を生産性高く製造することができる。
【実施例
【0062】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0063】
本実施例では汚染物質として重金属のFe元素について検討した。Fe濃度の測定は、ブロック円筒部でのライフタイム測定をSinton Instruments社製BCT-400装置で行った結果と、PW加工後のウェーハをSPV法により測定して得たFe濃度の測定結果の相関を得ておき、本評価ではブロック円筒部でのライフタイム測定結果を、先の相関を用いてFe濃度に換算した。
【0064】
(実施例)
上述の検討実験で予め求めた相関関係に基づき、図2に示す引上げ装置を用いて、HZ部品は遮熱筒15と遮熱筒断熱材14のみ新品を装着し、その他部品はいずれも累計使用時間が100時間以上のものを使用した。シリコン単結晶製造条件はチャージ量430kgとし、引上げ速度0.5mm/分、不活性ガス流量100L/分をプルチャンバー2の上部より供給し、メインチャンバー下部より排出する状態で結晶を製造し、遮熱筒15と遮熱筒断熱材14を新品交換後継続使用しながらこれを繰り返した。取り付けた新品部品のFe濃度は、遮熱筒15にあっては0.04ppmで、遮熱筒断熱材14にあっては0.28ppmである。アズグロウン結晶の直径は引上げ目標直径(基準直径)305mmに対し一律3mm太い直径308mmの単結晶を引上げた。上記の条件で製造した単結晶を研削代3.5mmとして直径301mmまで円筒研削した。さらに、遮熱筒15と遮熱筒断熱材14の累計使用時間が100時間経過後に単結晶の引上げ直径を基準直径305mmに戻した。
【0065】
(比較例1)
図2に示す引上げ装置を用いて、HZ部品は遮熱筒15と遮熱筒断熱材14のみ新品を装着し、その他のHZ部品はいずれも累計使用時間が100時間以上のものを使用した。
シリコン単結晶製造条件はチャージ量430kgとし、引上げ速度0.5mm/分、不活性ガス流量100L/分をプルチャンバー2の上部より供給し、メインチャンバー下部より排出する状態で結晶を製造し、遮熱筒15と遮熱筒断熱材14を新品交換後継続使用しながらこれを繰り返した。取り付けた新品部品のFe濃度は、遮熱筒15にあっては0.04ppmで、遮熱筒断熱材14にあっては0.22ppmである。結晶の直径は基準直径305mmのまま単結晶引上げを継続した。上記の条件で製造した単結晶を研削代2.0mmとして直径301mmまで円筒研削した。
【0066】
(比較例2)
図2に示す引上げ装置を用いて、遮熱筒15と遮熱筒断熱材14を含む全てのHZ部品を累計使用結果が100時間以上のものを使用した。シリコン単結晶製造条件はチャージ量430kgとし、引上げ速度0.5mm/分、不活性ガス流量100L/分をプルチャンバー2の上部より供給し、メインチャンバー下部より排出する状態で結晶製造を繰り返した。結晶の直径は基準直径305mmのまま単結晶引上げを継続した。上記の条件で製造した単結晶を研削代2.0mmとして直径301mmまで円筒研削した。
【0067】
図3は、上記3例の条件で製造した円筒研削後の単結晶について、円筒部の結晶中のFe濃度測定した推移グラフである。条件毎に使用時間の推移として示した。
【0068】
図3から明らかなように、比較例1では遮熱筒15と遮熱筒断熱材14を新品交換後にFe濃度が上昇したが、本発明である実施例ではFe濃度の上昇が無かった。比較例2と本発明を比べても、遮熱筒15と遮熱筒断熱材14を新品交換したことによる、Fe元素の上昇は見られない。一方、比較例1では遮熱筒15と遮熱筒断熱材14を新品交換した後、Fe元素の急激な上昇が見られ累計使用時間が100時間到達まで継続している。
【0069】
図4は、原料ロスの比較を示したグラフで、比較例1の結果を1.0とした。比較例1の方法では、製品のSPV品質不良が発生していた。一方、実施例では製品のSPV品質不良は発生せず、比較例1に対し、原料ロスが約5分の1へ低減することができた。
【0070】
以上説明したように、本発明のシリコン単結晶の製造方法よれば、HZ部品交換時に発生することがある結晶外周部のFe汚染を抑制する事ができた。さらに品質不良を削減できたことで原料ロスの削減も得られた。
【0071】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0072】
1…メインチャンバー、 2…プルチャンバー、 3a…石英るつぼ、
3b…外るつぼ、 4…保温筒、 5…ヒーター、 6…回転支持体、
7…るつぼ駆動機構、 8…圧力調整バルブ機構、 9…真空ポンプ、
10…シードワイヤー、 11…単結晶、 12…原料融液、 13…吸熱筒、
14…遮熱筒断熱材、 15…遮熱筒、 100…単結晶引上げ装置。
図1
図2
図3
図4