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特許7276246両面研磨装置用キャリアの製造方法及びウェーハの両面研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】両面研磨装置用キャリアの製造方法及びウェーハの両面研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230511BHJP
   B24B 37/28 20120101ALI20230511BHJP
   B24B 37/12 20120101ALI20230511BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20230511BHJP
【FI】
H01L21/304 621A
B24B37/28
B24B37/12 D
B24B41/06 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020087470
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021182586
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 容輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑宜
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-170536(JP,A)
【文献】特開2011-240460(JP,A)
【文献】特開2014-176954(JP,A)
【文献】特開2009-012086(JP,A)
【文献】特開2019-140156(JP,A)
【文献】特開2016-198864(JP,A)
【文献】特開2019-195866(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/28
B24B 37/12
B24B 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨布が貼付された上定盤及び下定盤を有する両面研磨装置で用いられ、ウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア母材と、前記保持孔の内周面に沿って配置され前記ウェーハの外周部と接する内周部が形成された樹脂インサートとを有する両面研磨装置用キャリアの製造方法であって、
前記キャリア母材と、該キャリア母材よりも厚い前記樹脂インサートを準備する準備工程と、
前記樹脂インサートを、前記保持孔の内周面に非接着かつ剥離強度が10N以上50N以下となるように形成する形成工程と、
前記キャリア母材及び前記樹脂インサートからなるキャリアを、前記両面研磨装置を用いて、荷重が2段以上の多段である立上研磨を行う立上研磨工程とを有することを特徴とする両面研磨装置用キャリアの製造方法。
【請求項2】
前記立上研磨工程において、前記2段以上の多段の1段目の荷重を150gf/cm以上250gf/cm以下とすることを特徴とする請求項1に記載の両面研磨装置用キャリアの製造方法。
【請求項3】
前記立上研磨工程において、前記2段以上の多段の1段目の荷重を、2段目の荷重より大きくすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の両面研磨装置用キャリアの製造方法。
【請求項4】
ウェーハの両面研磨方法であって、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の両面研磨装置用キャリアの製造方法により製造した両面研磨装置用キャリアの前記保持孔に前記ウェーハを保持し、前記両面研磨装置の前記上下定盤の間に挟み込んで前記上下定盤を回転させることにより、前記ウェーハの両面研磨を行い、該両面研磨後の前記ウェーハのエッジにおけるZDDの表裏差を5nm以下とすることを特徴とするウェーハの両面研磨方法。
【請求項5】
前記両面研磨において、荷重が2段以上の多段である両面研磨を行うことを特徴とする請求項4に記載のウェーハの両面研磨方法。
【請求項6】
前記両面研磨において、前記2段以上の多段の1段目の荷重を150gf/cm以上250gf/cm以下とすることを特徴とする請求項5に記載のウェーハの両面研磨方法。
【請求項7】
前記両面研磨において、前記2段以上の多段の1段目の荷重を、2段目の荷重より大きくすることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のウェーハの両面研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面研磨装置用キャリアの製造方法及びそれを用いたウェーハの両面研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
両面研磨装置は1バッチ当り5枚程のウェーハの両面を同時に研磨するため、ウェーハ枚数と同数の保持孔を有する両面研磨装置用キャリアを下定盤の上に設置する。キャリアの保持孔によりウェーハが保持され、上下定盤に設けられた研磨布により両面からウェーハが挟み込まれ、研磨面に研磨剤を供給しながら研磨が行われる。
【0003】
ウェーハを保持するための保持孔を有する両面研磨装置用キャリア(以下、単にキャリアとも言う)は金属製のキャリアが主流である。ウェーハの外周部を金属製のキャリアから保護するために、キャリアのウェーハ保持孔内周部には樹脂インサートを有している。樹脂インサートはウェーハの外周部と接するため、ウェーハのエッジ形状を作り込む上で重要となる。樹脂インサートに関するパラメータの一つとして金属基板(キャリア母材)との段差がある。この段差の一例を以下に説明する。
【0004】
図6に、従来技術によるキャリアの立上研磨後の樹脂インサートとキャリア母材との段差プロファイルのグラフを示した。上段は樹脂インサートとキャリア母材との段差を示す概略図であり、樹脂インサートとキャリア母材の間にある段差の高さを、キャリアの表面と裏面でそれぞれ接触式測定によって探針を走査させて測定した。
その段差量の測定結果が中段のグラフであり、横軸にキャリアの半径方向の距離を、縦軸に段差量を示している。横軸の0mmはキャリア母材(マイナス)と樹脂インサート(プラス)の境目に該当する。段差量は、キャリア母材の部分ではほぼ0μmである。樹脂インサートの部分ではキャリア母材の表面又は裏面からの段差が示されており、プラスであればキャリア母材から突出しており、マイナスであればキャリア母材から凹んでいることを示す。
下段のグラフは、樹脂インサート上を90°ずつ移動した計4箇所について、表面と裏面の段差量と表裏差をそれぞれ測定した結果を示している。いずれの箇所においても、段差量の表裏差が大きくなっていることがわかる。
【0005】
この段差がウェーハのエッジ形状の品質であるZDD(radial Double Derivative of Z-height)に影響することが分かっている。特にウェーハ表裏のZDDを同等とするためには、樹脂インサートと金属基板との表裏の段差量が同等であることが望ましい。そこで従来技術では、金属基板よりも厚い樹脂インサートを接着し、上下定盤の回転数を調整することで表裏の段差量の差を低減させていた(例えば特許文献1参照)。
なお、従来技術ではキャリアの樹脂インサート部分は、樹脂製の液剤による接着や金属基板へのアンカー導入など、脱落防止のため強固に固定されていた(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特願2016-56089号公報
【文献】特願2009-222183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記方法はパッド(研磨布)の目詰まりやスラリー(研磨剤)の凝集状態などの部材のライフだけでなく、装置精度やキャリアの反りなどの影響まで受けるために、設定条件とは想定外に樹脂インサートの表面側もしくは裏面側のどちらかが優先的に削れてしまい、段差量の表裏差の低減を十分に達成できず、その結果、ウェーハ加工時にウェーハの表裏のZDDに差が生じてしまうケースが見受けられた。よって、上記の影響に依存しにくい、より容易な、樹脂インサートを有するキャリアの立上研磨方法が望まれた。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、樹脂インサートとキャリア母材との段差量の表裏差を低減することができる両面研磨装置用キャリアの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、研磨布が貼付された上定盤及び下定盤を有する両面研磨装置で用いられ、ウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア母材と、前記保持孔の内周面に沿って配置され前記ウェーハの外周部と接する内周部が形成された樹脂インサートとを有する両面研磨装置用キャリアの製造方法であって、前記キャリア母材と、該キャリア母材よりも厚い前記樹脂インサートを準備する準備工程と、前記樹脂インサートを、前記保持孔の内周面に非接着かつ剥離強度が10N以上50N以下となるように形成する形成工程と、前記キャリア母材及び前記樹脂インサートからなるキャリアを、前記両面研磨装置を用いて、荷重が2段以上の多段である立上研磨を行う立上研磨工程とを有することを特徴とする両面研磨装置用キャリアの製造方法を提供する。
【0010】
樹脂インサートが保持孔の内周面に接着されておらず剥離強度が50N以下であれば、立上研磨を行うことで、樹脂インサートとキャリア母材との段差量の表面側と裏面側との差が小さくなるように、すなわち、樹脂インサートの突出具合がより一層表裏対称となるように樹脂インサートの上下方向の位置を調整することができる。また、剥離強度が10N以上であれば、研磨により樹脂インサートがキャリア母材から剥離するのを抑制することができる。
また、立上研磨の際の荷重を2段以上の多段とすることで、1段目の研磨で樹脂インサートとキャリア母材の段差量を低減しつつ、樹脂インサートを最適な位置に調整した上で、2段目以降の研磨で樹脂インサートとキャリア母材との段差量をさらに低減し、該段差量の表裏差を容易に低減することができる。さらにはこのようにして作られたキャリアを用いてウェーハを両面研磨することで、エッジのZDDの表裏差の小さい研磨ウェーハを得られる。なお、「立上研磨の際の荷重を2段以上の多段とする」とは、同じ荷重を掛けて複数回、立上研磨を行う場合も含む。
【0011】
また、前記立上研磨工程において、前記2段以上の多段の1段目の荷重を150gf/cm以上250gf/cm以下とすることができる。
1段目の荷重が150gf/cm(14.7kPa)以上であれば、樹脂インサートの位置を調整するのに十分な荷重となる。また、250gf/cm(24.5kPa)以下であれば、非接着である樹脂インサートが研磨布との摩擦力によりキャリア母材から剥離するのをより効果的に抑制することができる。
【0012】
また、前記立上研磨工程において、前記2段以上の多段の1段目の荷重を、2段目の荷重より大きくすることができる。
立上研磨の1段目の荷重が2段目の荷重より大きければ、1段目の研磨で調整した樹脂インサートの位置が、2段目の研磨で位置ズレしてしまうことをより効果的に抑制することができる。
【0013】
また、本発明では、ウェーハの両面研磨方法であって、上記の両面研磨装置用キャリアの製造方法により製造した両面研磨装置用キャリアの前記保持孔に前記ウェーハを保持し、前記両面研磨装置の前記上下定盤の間に挟み込んで前記上下定盤を回転させることにより、前記ウェーハの両面研磨を行い、該両面研磨後の前記ウェーハのエッジにおけるZDDの表裏差を5nm以下とすることを特徴とするウェーハの両面研磨方法を提供する。
このようなウェーハの両面研磨方法であれば、両面研磨後のウェーハのエッジにおけるZDDの表裏差が従来に比べて低減されたものとなる。
【0014】
また、前記両面研磨において、荷重が2段以上の多段である両面研磨を行うことができる。
両面研磨を2段以上の多段研磨とすることで、1段目の研磨でキャリアの樹脂インサートの位置を安定させた上で、2段目以降の研磨でウェーハの研磨を行うことができ、より効果的にZDDの改善を図ることができる。
【0015】
また、前記両面研磨において、前記2段以上の多段の1段目の荷重を150gf/cm以上250gf/cm以下とすることができる。
このような荷重であれば、樹脂インサートの位置を安定させるのに十分な荷重であり、かつ、樹脂インサートがキャリア母材から剥離するのをより効果的に抑制することができる。
【0016】
また、前記両面研磨において、前記2段以上の多段の1段目の荷重を、2段目の荷重より大きくすることができる。
このような荷重であれば、1段目の研磨で安定させた樹脂インサートの位置が、2段目の研磨を行った際に位置ズレしてしまうことをより効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の両面研磨装置用キャリアの製造方法及びウェーハの両面研磨方法であれば、樹脂インサートとキャリア母材との段差量の表裏差を容易に低減することができ、結果として、ウェーハの両面研磨に用いた際に研磨後のウェーハのZDDの表裏差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の両面研磨装置用キャリアの製造方法及びウェーハの両面研磨方法の概略を示すフロー図である。
図2】本発明の製造方法で製造される両面研磨装置用キャリアの一例を示した上面図である。
図3】樹脂インサートの剥離強度の測定点を示した拡大図である。
図4】本発明の両面研磨装置用キャリアの製造方法で用いることができる両面研磨装置の一例を示した概略断面図である。
図5】実施例1及び比較例1-5における両面研磨後のウェーハのエッジにおけるZDDの表裏差の測定結果を示したグラフである。
図6】従来技術によるキャリアの立上研磨後の樹脂インサートとキャリア母材との段差プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記したように、樹脂インサートとキャリア母材との段差量の表裏差を低減することができる両面研磨装置用キャリアの製造方法が求められていた。
【0020】
本発明者らは上記課題について鋭意検討を重ねた結果、従来技術のように樹脂インサートの接着を行わず、嵌合の楔形状の個数や樹脂インサートの外径などを調整することで、樹脂インサートのキャリア母材からの剥離強度が10N以上50N以下としたキャリアを用意し、樹脂インサートの立上研磨の際に荷重を2段以上の多段にすることによって課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
図2は本発明の製造方法で製造される両面研磨装置用キャリアの上面図である。
キャリア1はウェーハを保持する保持孔2が形成されたキャリア母材3と、保持孔2の内周部に非接着で形成された樹脂インサート4を有している。なお、ここでは保持孔2が1つのキャリア母材3を示すが、本発明はこれに限定されることはなく、複数の保持孔2を有するものでもよい。また、キャリア母材3の材質についても特に限定されず、例えば、金属基板とすることができる。樹脂インサート4の例としては、例えば図3に示すようにリング状部4aとリング状部4aから外方向に突き出た楔4bからなっているものとすることができる。楔4bの数やリング状部4aの外径は特に限定されない。ただし、後述する剥離強度が10N以上50N以下となるよう調整されて形成されている。さらに、段差の表裏差が小さいもの(例えば、段差量が11.034μm程度で、表裏差が11.77μm程度)となっている。
【0023】
このようなキャリア1は、例えば、図4に示すような4ウェイ式の両面研磨装置10においてウェーハWを両面研磨する際に用いられる。両面研磨装置10は、上下に相対向して設けられた上定盤11と下定盤12を備えている。上下定盤11、12には、それぞれ研磨布13が貼付されている。上定盤11と下定盤12の間の中心部にはサンギア14が、周縁部にはインターナルギア15が設けられている。
そして、サンギア14及びインターナルギア15の各歯部にはキャリア1の外周歯が噛合しており、上定盤11及び下定盤12が不図示の駆動源によって回転されるのに伴い、キャリア1は自転しつつサンギア14の周りを公転する。このとき、キャリア1の保持孔2で保持されたウェーハWの両面は、上下の研磨布13により同時に研磨される。ウェーハWの研磨時には、スラリー供給装置16からスラリー17がウェーハWの研磨面に供給される。
【0024】
以下、図4の両面研磨装置10を用いた、両面研磨装置用キャリアの製造方法及びウェーハの両面研磨方法について説明する。図1は本発明の両面研磨装置用キャリアの製造方法及びウェーハの両面研磨方法の概略を示すフロー図である。
まず、図1の工程1のように、キャリア母材3と、それよりも厚い樹脂インサート4を準備する。なお、ここでは保持孔2が1つのキャリア母材3を用いるが、本発明はこれに限定されることはなく、複数の保持孔2を有するものとしてもよい。
キャリア母材3及び樹脂インサート4の材質については特に限定されず、キャリア母材3は、例えば、ステンレスやチタンなどの金属製であるか、これに表面硬化処理を施したものとすることができる。また、樹脂インサート4は、例えば、硬質樹脂製のものとすることができる。
【0025】
次に、図1の工程2のように、保持孔2の内周面に樹脂インサート4を形成する。樹脂インサート4の形成方法については特に限定されず、例えば、嵌め込みや射出成型により形成することができる。
ここで、樹脂インサート4とキャリア母材3との接着は行わず、図3に示すような嵌合の楔4bの個数及び形状や、樹脂インサート4の外径などを調整することで、剥離強度が10N以上50N以下となるようにする。
ここでいう剥離強度とは、例えば図3に示したような測定点5をフォースゲージで上面から押し、樹脂インサート4がキャリア母材3から剥離する最大荷重を言う。
【0026】
剥離強度が50N以下であれば、次の立上研磨工程において、樹脂インサート4とキャリア母材3との段差量の表面側と裏面側の差が小さくなるように樹脂インサート4の上下方向の位置(キャリア母材3に対する厚さ方向の位置)を調整することができる。また、剥離強度が10N以上であれば、研磨により樹脂インサート4がキャリア母材3から剥離するのを抑制することができる。
なお、例えば、楔4bとして個数は100個以下、高さは5mm以下のものを用いることにより、より確実に50N以下の剥離強度を達成することができる。
【0027】
次に、図1の工程3のように、キャリア1の立上研磨を行い、樹脂インサート4とキャリア母材3との段差量を低減するとともに、表裏で段差量の差が少ないキャリア1を製造する。立上研磨は、図4に示すような両面研磨装置10にキャリア1を装着し、保持孔2にウェーハWを保持しない状態で両面研磨を行うことで可能である。なお、研磨布13やスラリー17の種類については特に限定されず、従来の方法と同様のものを使用することができる。
【0028】
このとき、立上研磨の際の荷重を2段以上の多段とする。すなわち、荷重を掛けて複数回立上研磨する。これにより、まず1段目の研磨で樹脂インサート4とキャリア母材3との段差量を低減し、かつ、樹脂インサート4を最適な位置に調整することができる。ここでいう最適な位置とは、例えば表面側と裏面側での樹脂インサート4の突出具合の差がほぼ等しくなるような位置を言う。次に、2段目以降の研磨で樹脂インサート4とキャリア母材3との段差量をさらに低減することができる。その結果、表面側と裏面側の段差量の差が従来品より低減された優れたキャリアを得ることができる。なお、多段荷重の段数は複数であれば良く、2段のみでも良いし、あるいは3段以上とすることもできる。
【0029】
このとき、例えば1段目の荷重を150gf/cm以上250gf/cm以下とすることができる。150gf/cm以上であれば、樹脂インサート4の位置を調整するのに十分な荷重となる。また、250gf/cm以下であれば、非接着である樹脂インサート4が研磨布との摩擦力によりキャリア母材3から剥離するのをより効果的に抑制することができる。
また、1段目の荷重を2段目の荷重より大きくすることができる。例えば、上記の150gf/cm以上250gf/cm以下の1段目の荷重に対し、2段目の荷重は200gf/cm(19.6kPa)以下で1段目の荷重より小さい値にすることができる。このようにすれば、1段目の研磨で調整した樹脂インサート4の位置が、2段目の研磨を行った際に移動して、位置がズレてしまうことをより効果的に抑制することができる。なお、荷重は各段で同じ値とすることもできるし、上記と逆に1段目の荷重を2段目の荷重より小さくすることもできるが、1段目の荷重を2段目の荷重より大きくすることで、効率良く段差量の表裏差を小さくできる。
【0030】
上記の工程1~3により、樹脂インサート4とキャリア母材3との段差量の表裏差が低減されたキャリア1を製造することができる。
【0031】
そして、図1の工程4のように、製造したキャリア1を用いてウェーハの両面研磨を行う。ウェーハの両面研磨は、キャリア1の保持孔2にウェーハWを保持し、両面研磨装置10の上定盤11と下定盤12の間に挟み込んで、上定盤11と下定盤12を回転させることにより行う。なお、研磨布13やスラリー17の種類については特に限定されず、従来の方法と同様のものを使用することができる。本発明で製造したキャリア1を用いることで、容易に、ZDDの表裏差が十分に低減された研磨ウェーハを得ることができる。具体的には、エッジにおけるZDDの表裏差が5nm以下のウェーハを得ることができる。
【0032】
このとき、工程3のキャリアの立上研磨と同様に、両面研磨の際の荷重を2段以上の多段とすることができる。このようにすれば、樹脂インサート4を最適な位置に安定させた上で、ウェーハの研磨を行うことができ、より効果的にZDDの改善を図ることができる。
また、1段目の荷重を150gf/cm以上250gf/cm以下とすることができる。このようにすれば、樹脂インサート4の位置を安定させるのに十分な荷重であり、かつ、樹脂インサートがキャリア母材から剥離するのをより効果的に抑制することができる。
また、1段目の荷重を2段目の荷重より大きくすることができる。このようにすれば、1段目の研磨で安定させた樹脂インサート4の位置が、2段目の研磨を行った際に移動して、位置がズレてしまうことをより効果的に抑制することができる。
【実施例
【0033】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
図1のフローに従って、本発明の両面研磨装置用キャリアの製造及び直径300mmのウェーハの両面研磨を行った。図2及び3に示すように、キャリア母材3(材質:チタン)の保持孔2の内周部に樹脂インサート4(材質:FRP)を非接着で形成した。その際、楔4bの数を80個にすることで、樹脂インサート4の剥離強度を40Nのものを製造した。
【0035】
キャリア1の立上研磨及びウェーハの両面研磨には、図4に示すような両面研磨装置10として、4ウェイ方式の両面研磨装置である不二越機械製DSP-20Bを用いた。研磨布13にはショアA硬度90の発泡ウレタンパッドを、スラリー17にはシリカ砥粒含有・平均粒径35nm・砥粒濃度1.0wt%・pH10.5・KOHベースのものを用いた。
また、キャリアの立上研磨とウェーハの両面研磨の両方において、1段目で150gf/cmの荷重を掛けることでインサートの位置を安定させ、2段目で100gf/cm(9.8kPa)の荷重を掛けて研磨を行う2段荷重とした。
【0036】
(比較例1)
立上研磨と両面研磨の両方において、100gf/cmの荷重を掛けて研磨を一度だけ行う1段荷重としたこと以外は、実施例1と同様にしてキャリアの製造及びウェーハの両面研磨を行った。
【0037】
(比較例2)
キャリアの樹脂インサートの楔の数を130個にすることで、剥離強度を60Nに設定したこと以外は、実施例1と同様にしてキャリアの製造及びウェーハの両面研磨を行った。
【0038】
(比較例3)
立上研磨と両面研磨の両方において、100gf/cmの荷重を掛けて研磨を一度だけ行う1段荷重としたこと以外は、比較例2と同様にしてキャリアの製造及びウェーハの両面研磨を行った。
【0039】
(比較例4)
キャリアとして、樹脂インサート(形状:リング状で、楔なし)をキャリア母材に接着させて固定する接着キャリアを採用し、その剥離強度は200Nとした。それ以外は実施例1と同様にしてキャリアの製造及びウェーハの両面研磨を行った。
【0040】
(比較例5)
立上研磨と両面研磨の両方において、100gf/cmの荷重を掛けて研磨を一度だけ行う1段荷重としたこと以外は、比較例4と同様にしてキャリアの製造及びウェーハの両面研磨を行った。
【0041】
それぞれのキャリアの樹脂インサートとキャリア母材との段差量の表裏差は、実施例1:0.932μm、比較例1:7.192μm、比較例2:7.71μm、比較例3:6.286μm、比較例4:12.272μm、比較例5:14.378μmであった。
【0042】
実施例1及び比較例1-5の両面研磨後のウェーハWに対しては、SC-1洗浄を条件NHOH:H:HO=1:1:15で行った。フラットネスについては、洗浄後ウェーハをKLA製のWafersight1を用いて測定し、ZDDはエッジから2mmを除外して算出し、Front部(表面側)とBack部(裏面側)の差について、1バッチ5枚の平均をとってプロットした。その結果を図5に示す。
【0043】
立上研磨及び両面研磨を多段荷重で行わない比較例1や、樹脂インサートの剥離強度が大きい比較例2-5では、両面研磨後のウェーハのエッジにおけるZDDの表裏差が大きい(いずれも5nmより大きい)。一方、立上研磨及び両面研磨を多段荷重で行い、かつ、剥離強度が50N以下である実施例1のキャリアを用いてウェーハの両面研磨を行えば、ウェーハのエッジにおけるZDDの表裏差を5nm以下(より具体的には1nm程度)に低減できることがわかる。
【0044】
(実施例2)
キャリアの樹脂インサートの楔の数を100個にすることで、剥離強度を50Nに設定したこと以外は、実施例1と同様にしてキャリアの製造及びウェーハの両面研磨を行った。
【0045】
(実施例3)
キャリアの樹脂インサートの楔の数を20個にすることで、剥離強度を10Nに設定したこと以外は、実施例1と同様にしてキャリアの製造及びウェーハの両面研磨を行った。
【0046】
(比較例6)
キャリアの樹脂インサートの楔の数を10個にすることで、剥離強度を5Nに設定したこと以外は、実施例1と同様にしてキャリアの製造を行ったところ、立上研磨中に樹脂インサートが外れてしまったため、製造を中止した。
【0047】
それぞれのキャリアの樹脂インサートとキャリア母材との段差量の表裏差は、実施例2:3.912μm、実施例3:3.514μmであった。また、両面研磨後のウェーハのエッジにおけるZDDの表裏差は、実施例2:4.7nm、実施例3:4.5nmであった。また、剥離強度が10Nより小さい状態で研磨を行う比較例6では、研磨中に樹脂インサートが外れることを確認した。
【0048】
このように、本発明の両面研磨装置用キャリアの製造方法であれば、樹脂インサートとキャリア母材との段差量の表裏差を低減することができ、結果としてウェーハのZDDの表裏差を低減することができる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0050】
1…両面研磨装置用キャリア、 2…保持孔、 3…キャリア母材、
4…樹脂インサート、 4a…リング状部、 4b…楔、 5…測定点、
10…両面研磨装置、 11…上定盤、 12…下定盤、 13…研磨布、
14…サンギア、 15…インターナルギア、 16…スラリー供給装置、
17…スラリー、 W…ウェーハ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6