(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】含フッ素ポリマーの製造方法および含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 34/02 20060101AFI20230511BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230511BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20230511BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20230511BHJP
H01M 8/1069 20160101ALI20230511BHJP
【FI】
C08F34/02
H01M4/86 B
H01M8/10 101
H01M8/1039
H01M8/1069
(21)【出願番号】P 2020519922
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2019019567
(87)【国際公開番号】W WO2019221243
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018096465
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貢
(72)【発明者】
【氏名】本村 了
(72)【発明者】
【氏名】渡部 浩行
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062193(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/033776(WO,A1)
【文献】米国特許第03978030(US,A)
【文献】米国特許第04973142(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の少なくとも一方を含む原料混合物を重合する含フッ素ポリマーの製造方法であって、
前記モノマー組成物M11は、下式m11で表されるペルフルオロモノマー
m11と該ペルフルオロモノマーm11の製造上の不純物とからなり、該不純物が下式m21で表される含フッ素モノマーである含フッ素モノマーm11Hを含
み、
モノマー組成物M12は、下式m12で表されるペルフルオロモノマー
m12と該ペルフルオロモノマーm12の製造上の不純物とからなり、該不純物が下記式m22で表される含フッ素モノマーである含フッ素モノマーm12Hを含
み、
前記原料混合物中の、前記含フッ素モノマーm11Hおよび前記含フッ素モノマーm12Hの合計量が、前記モノマー組成物M11および前記モノマー組成物M12の合計量に対して10~1,100ppmであることを特徴とする、含フッ素ポリマーの製造方法。
【化1】
ただし、
R
11、R
12およびR
14は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基または炭素数2~10のペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基であり、
R
13は、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基である。
【請求項2】
前記原料混合物がテトラフルオロエチレンをさらに含む、請求項
1に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記原料混合物が重合媒体をさらに含む、請求項1
又は2に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記原料混合物が連鎖移動剤を含まない、請求項1~
3のいずれか一項に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記原料混合物が、下式m31で表されるモノマー、下式m32で表されるモノマー、下式m33で表されるモノマー、下式m34で表されるモノマー、下式m35で表されるモノマー、下式m36で表されるモノマーおよび下式m37で表されるモノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを更に有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【化2】
ただし、
Qは、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基であり、
qは、0または1であり、
Y
1は、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基であり、
Q
1は、エーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、
Q
2は、単結合、またはエーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、
mは、0または1であって、pが0のときmは0であり、
pは、0または1であり、
nは、1~12の整数であり、
Xは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、
rは、1~3の整数であり、
tは、0または1であり、
sは、1~12の整数であり、
R
F1及びR
F2は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、R
F1及びR
F2は同一であっても異なっていてもよく、
R
F3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。
【請求項6】
前記原料混合物に含まれる全てのモノマーの合計量中のモノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計量の割合が20~90モル%である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の含フッ素ポリマーの製造方法において使用される前記原料混合物であって、イオン交換基の前駆体基を有するモノマー
を含む前記原料混合物を重合して前駆体基含有含フッ素ポリマーを得て、次いで、前記前駆体基含有含フッ素ポリマーを塩基と接触させて前記前駆体基をイオン交換基に変換することを特徴とする、含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記イオン交換基がスルホン酸基である、請求項
7に記載の含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記前駆体基を有するモノマーが、下式m31で表されるモノマー、下式m32で表されるモノマー、下式m33で表されるモノマー、下式m34で表されるモノマー、下式m35で表されるモノマー、下式m36で表されるモノマーおよび下式m37で表されるモノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項
7または
8に記載の含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法。
【化3】
ただし、
Qは、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基であり、
qは、0または1であり、
Y
1は、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基であり、
Q
1は、エーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、
Q
2は、単結合、またはエーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、
mは、0または1であって、pが0のときmは0であり、
pは、0または1であり、
nは、1~12の整数であり、
Xは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、
rは、1~3の整数であり、
tは、0または1であり、
sは、1~12の整数であり、
R
F1及びR
F2は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、R
F1及びR
F2は同一であっても異なっていてもよく、
R
F3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。
【請求項10】
モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の少なくとも一方を含む原料混合物を重合してなる含フッ素ポリマーであって、
前記モノマー組成物M11は、下式m11で表されるペルフルオロモノマー
m11と該ペルフルオロモノマーm11の製造上の不純物とからなり、該不純物が下式m21で表される含フッ素モノマーである含フッ素モノマーm11Hを含
み、
前記モノマー組成物M12は、下式m12で表されるペルフルオロモノマー
m12と該ペルフルオロモノマーm12の製造上の不純物とからなり、該不純物が下式m22で表される含フッ素モノマーである含フッ素モノマーm12Hを含
み、
前記原料混合物中の、前記含フッ素モノマーm11Hおよび前記含フッ素モノマーm12Hの合計量が、前記モノマー組成物M11および前記モノマー組成物M12の合計量に対して10~1,100ppmであることを特徴とする含フッ素ポリマー。
【化4】
ただし、
R
11、R
12およびR
14は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基または炭素数2~10のペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基であり、
R
13は、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基である。
【請求項11】
前記原料混合物が、下式m31で表されるモノマー、下式m32で表されるモノマー、下式m33で表されるモノマー、下式m34で表されるモノマー、下式m35で表されるモノマー、下式m36で表されるモノマーおよび下式m37で表されるモノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを更に有する、請求項10に記載の含フッ素ポリマー。
【化5】
ただし、
Qは、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基であり、
qは、0または1であり、
Y
1
は、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基であり、
Q
1
は、エーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、
Q
2
は、単結合、またはエーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、
mは、0または1であって、pが0のときmは0であり、
pは、0または1であり、
nは、1~12の整数であり、
Xは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、
rは、1~3の整数であり、
tは、0または1であり、
sは、1~12の整数であり、
R
F1
及びR
F2
は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、R
F1
及びR
F2
は同一であっても異なっていてもよく、
R
F3
は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。
【請求項12】
請求項
10又は11に記載の含フッ素ポリマー
であって、イオン交換基の前駆体基を有する前駆体基含有含フッ素ポリマーの、前記前駆体基をイオン交換基に変換した含フッ素イオン交換ポリマーを含む電解質材料。
【請求項13】
分散液と、該分散液に分散された請求項12に記載の電解質材料とを含み、
前記分散液が水酸基を有する有機溶媒と水のどちらか一方又は両方を含む、液状組成物。
【請求項14】
プロトン伝導性ポリマーを含む触媒層を有するアノードと、
プロトン伝導性ポリマーを含む触媒層を有するカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置される固体高分子電解質膜と、
を備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体において、
前記カソードおよび前記アノードの少なくとも一方の触媒層に含まれるプロトン伝導性ポリマーが、請求項12に記載の電解質材料であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項15】
請求項14に記載の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオキソラン環構造を有する含フッ素ポリマーの製造方法および含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環構造を有する含フッ素ポリマーは、環構造モノマーを含むモノマー成分を重合することによって得られる。環構造モノマーとしては、下式m11-1で表される、環骨格に重合性二重結合を含むジオキソラン環構造を有するペルフルオロモノマーが、合成の容易さ、重合性、得られたポリマーの特性などから有用であることが知られている。
【0003】
【0004】
環骨格に重合性二重結合を含むジオキソラン環構造を有するペルフルオロモノマー(以下、「PDDモノマー」とも記す。)を重合して得られる、ジオキソラン環構造を有する含フッ素ポリマーは、透明性が高く、光ファイバーの原料に用いられたり、酸素との親和性が高いことから、酸素透過性が要求される膜に用いられたりする。
【0005】
近年、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の触媒層や固体高分子電解質膜に含ませる電解質材料として、膜電極接合体の発電特性に優れる点から、環構造およびイオン交換基を有する含フッ素ポリマーが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0006】
イオン交換基を有する含フッ素ポリマーは、-SO2Fのような、イオン交換基に変換し得る前駆体基を有するモノマーおよび必要に応じて他のモノマーを重合して前記前駆体基を有する前駆体含フッ素ポリマーを得て、前記前駆体基をイオン交換基に変換することによって得られる。たとえば、-SO2Fは、塩基を用いて加水分解する工程を経てスルホン酸基に変換できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4032738号公報
【文献】国際公開第2013/157395号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
PDDモノマーを合成する際に、不純物としてPDDモノマー中の一部のフッ素原子が水素原子である含フッ素モノマー(以下、「PDD-Hモノマー」とも記す。)が生成する。PDDモノマー中にPDD-Hモノマーが多く含まれると、重合の際にポリマーの分子量を高くすることができない等の問題が発生する。そこで通常、PDD-Hモノマーは蒸留等の精製方法により分離、除去されるが、PDD-Hモノマーを充分に除去してPDDモノマーの純度を高くすると、蒸留等の精製時にPDDモノマーのロスが多くなりPDDモノマーの収率が大きく低下してしまう。また、純度が高いPDDモノマーを重合に用いた場合には、含フッ素ポリマーの分子量が高くなりやすく、含フッ素ポリマーの分子量を適切な範囲とするために、重合の際に連鎖移動剤等が必要となる。
一方、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーの製造においては、前記前駆体基を加水分解してイオン交換基に変換する際に塩基を用いるが、前駆体含フッ素ポリマーがPDD-Hモノマーに基づく単位を有する場合、塩基の作用により含フッ素ポリマーの分子量が低下してしまうことがあった。
【0009】
本発明の目的は、PDDモノマーを重合する際に、PDDモノマーを効率良く活用できるとともに容易に適切な分子量に制御でき、得られる含フッ素ポリマーが、塩基と接触しても分子量が低下しにくい、ジオキソラン環構造を有する含フッ素ポリマーの製造方法および含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の〔1〕~〔15〕の構成を有する、含フッ素ポリマーの製造方法を提供する。
〔1〕下式m11で表されるペルフルオロモノマーおよび該ペルフルオロモノマー中のフッ素原子の少なくとも一部が水素原子に置換されてなる含フッ素モノマーm11Hを含むモノマー組成物M11、ならびに
下式m12で表されるペルフルオロモノマーおよび該ペルフルオロモノマー中のフッ素原子の少なくとも一部が水素原子に置換されてなる含フッ素モノマーm12Hを含むモノマー組成物M12、
の少なくとも一方を含む原料混合物を重合する含フッ素ポリマーの製造方法であって、
前記含フッ素モノマーm11Hおよび前記含フッ素モノマーm12Hの合計量が、前記モノマー組成物M11および前記モノマー組成物M12の合計量に対して10~1,100ppmであることを特徴とする、含フッ素ポリマーの製造方法。
【化2】
ただし、
R
11、R
12およびR
14は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基または炭素数2~10のペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基であり、
R
13は、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基である。
〔2〕前記含フッ素モノマーm11Hが下式m21で表される含フッ素モノマーであり、前記含フッ素モノマーm12Hが下記式m22で表される含フッ素モノマーである、〔1〕に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【化3】
〔3〕前記原料混合物がテトラフルオロエチレンをさらに含む、〔1〕または〔2〕に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
〔4〕前記原料混合物が重合媒体をさらに含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
〔5〕前記原料混合物が連鎖移動剤を含まない、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
〔6〕前記原料混合物が、下式m31で表されるモノマー、下式m32で表されるモノマー、下式m33で表されるモノマー、下式m34で表されるモノマー、下式m35で表されるモノマー、下式m36で表されるモノマーおよび下式m37で表されるモノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを更に有する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【化4】
ただし、
Qは、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基であり、
qは、0または1であり、
Y
1は、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基であり、
Q
1は、エーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、
Q
2は、単結合、またはエーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、
mは、0または1であって、pが0のときmは0であり、
pは、0または1であり、
nは、1~12の整数であり、
Xは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、
rは、1~3の整数であり、
tは、0または1であり、
sは、1~12の整数であり、
R
F1及びR
F2は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、R
F1及びR
F2は同一であっても異なっていてもよく、
R
F3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。
〔7〕前記原料混合物に含まれる全てのモノマーの合計量中のモノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計量の割合が20~90モル%である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
〔8〕〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の含フッ素ポリマーの製造方法において使用される前記原料混合物であって、イオン交換基の前駆体基を有するモノマーを更に含む前記原料混合物を重合して前駆体基含有含フッ素ポリマーを得て、次いで、前記前駆体基含有含フッ素ポリマーを塩基と接触させて前記前駆体基をイオン交換基に変換することを特徴とする、含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法。
〔9〕前記イオン交換基がスルホン酸基である、〔8〕に記載の含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法。
〔10〕前記前駆体基を有するモノマーが、下式m31で表されるモノマー、下式m32で表されるモノマー、下式m33で表されるモノマー、下式m34で表されるモノマー、下式m35で表されるモノマー、下式m36で表されるモノマーおよび下式m37で表されるモノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔8〕または〔9〕に記載の含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法。
【化5】
ただし、
Qは、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基であり、
qは、0または1であり、
Y
1は、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基であり、
Q
1は、エーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、
Q
2は、単結合、またはエーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、
mは、0または1であって、pが0のときmは0であり、
pは、0または1であり、
nは、1~12の整数であり、
Xは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、
rは、1~3の整数であり、
tは、0または1であり、
sは、1~12の整数であり、
R
F1及びR
F2は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、R
F1及びR
F2は同一であっても異なっていてもよく、
R
F3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。
〔11〕下式m11で表されるペルフルオロモノマーおよび該ペルフルオロモノマー中のフッ素原子の少なくとも一部が水素原子に置換されてなる含フッ素モノマーm11Hを含むモノマー組成物M11、ならびに
下式m12で表されるペルフルオロモノマーおよび該ペルフルオロモノマー中のフッ素原子の少なくとも一部が水素原子に置換されてなる含フッ素モノマーm12Hを含むモノマー組成物M12、
の少なくとも一方を含む原料混合物を重合してなる含フッ素ポリマーであって、
前記含フッ素モノマーm11Hおよび前記含フッ素モノマーm12Hの合計量が、前記モノマー組成物M11および前記モノマー組成物M12の合計量に対して10~1,100ppmであることを特徴とする含フッ素ポリマー。
【化6】
ただし、
R
11、R
12およびR
14は、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基または炭素数2~10のペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基であり、
R
13は、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基である。
〔12〕〔11〕に記載の含フッ素ポリマーを使用した電解質材料。
〔13〕分散液と、該分散液に分散された〔12〕に記載の電解質材料とを含み、
前期分散液が水酸基を有する有機溶媒と水のどちらか一方又は両方を含む、液状組成物。
〔14〕プロトン伝導性ポリマーを含む触媒層を有するアノードと、
プロトン伝導性ポリマーを含む触媒層を有するカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置される固体高分子電解質膜と、
を備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体において、
前記カソードおよび前記アノードの少なくとも一方の触媒層に含まれるプロトン伝導性ポリマーが、〔12〕に記載の電解質材料であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
〔15〕〔14〕に記載の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法によれば、PDDモノマーを重合する際に、PDDモノマーを効率良く活用できるとともに容易に適切な分子量に制御できる。また、得られる含フッ素ポリマーは、塩基と接触しても分子量が低下しにくい。
本発明の含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法によれば、PDDモノマーおよびイオン交換基の前駆体基を有するモノマーを重合する際に、PDDモノマーを効率良く活用できるとともに容易に適切な分子量に制御できる。また、得られる含フッ素ポリマーを塩基と接触させて前駆体基をイオン交換基に変換する際に分子量が低下しにくい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における以下の用語の意味は、以下の通りである。
ポリマーにおける「単位」とは、モノマーが重合することによって形成された前記モノマーに基づく単位を意味する。単位は、モノマーの重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
「イオン交換基」とは、基に含まれる陽イオンの一部が、他の陽イオンに交換し得る基を意味し、H+、一価の金属カチオン、アンモニウムイオン等を有する基を意味する。イオン交換基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、スルホンメチド基、カルボン酸基等が挙げられる。
「イオン交換基の前駆体基」とは、塩基と接触させるなどして加水分解することによりイオン交換基に変換し得る基である。
「スルホン酸基」は、-SO3
-H+および-SO3
-M+(ただし、M+は、一価の金属イオン、または1以上の水素原子が炭化水素基と置換されていてもよいアンモニウムイオンである。)を包含する。
「TQ値」は、ポリマーの分子量および軟化温度の指標である。TQ値が大きいほど分子量が大きいことを示す。長さ1mm、内径1mmのノズルを用い、2.94MPaの押出し圧力の条件で、溶融押出しを行った際のポリマーの押出し量が100mm3/秒となる温度である。
モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計量に対する、含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12Hの合計量(ppm)は、ガスクロマトグラフィ(以下、「GC」とも記す。)により測定されるピーク面積比から算出される値である。すなわち、モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12を分析した際の、モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計のピーク面積に対する、含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12Hの合計のピーク面積の割合である。GCの測定条件は、後述する実施例に記載のとおりである。
本明細書においては、式m11で表されるモノマーをモノマーm11とも記す。他の式で表されるモノマー、化合物等も同様に記す。
【0013】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法は、下記の原料混合物を重合する(重合工程)。
【0014】
〔原料混合物〕
原料混合物は、モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の少なくとも一方を含む。
モノマー組成物M11は、下式m11で表されるペルフルオロモノマー(以下、ペルフルオロモノマーm11とも記す。)およびペルフルオロモノマーm11中のフッ素原子の少なくとも一部が水素原子に置換されてなる含フッ素モノマーm11Hを含む。
モノマー組成物M12は、下式m12で表されるペルフルオロモノマー(以下、ペルフルオロモノマーm12とも記す。)およびペルフルオロモノマーm12中のフッ素原子の少なくとも一部が水素原子に置換されてなる含フッ素モノマーm12Hを含む。
【0015】
【0016】
R11は、フッ素原子、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基または炭素数2~10のペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基である。R11としては、炭素数1~5のペルフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0017】
R12およびR14は、それぞれ独立して、フッ素原子、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基または炭素数2~10のペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基である。R12およびR14としては、それぞれ独立に、トリフルオロメチル基が好ましい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0018】
R13は、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基である。R13としては、炭素数2~4のペルフルオロアルキレン基または炭素数3~4のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基が好ましい。ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0019】
ペルフルオロモノマーm11としては、たとえば、モノマーm11-1~m11-6が挙げられる。これらの中でも、分子量が小さいことによる高イオン交換容量化、沸点が低いことによるモノマー回収性の点から、モノマーm11-1、モノマーm11-2、モノマーm11-3が好ましく、モノマーm11-1がより好ましい。
【0020】
【0021】
ペルフルオロモノマーm12としては、たとえば、モノマーm12-1~m12-2が挙げられる。
【0022】
【0023】
ペルフルオロモノマーm11は、Macromolecule,第26巻,第22号,1993年,p.5829-5834;特開平6-92957号公報等に記載された方法により合成できる。
ペルフルオロモノマーm12は、特開2006-152249号公報等に記載された方法により合成できる。
【0024】
含フッ素モノマーm11Hは、ペルフルオロモノマーm11の製造上の不純物として生成する。含フッ素モノマーm12Hは、ペルフルオロモノマーm12の製造上の不純物として生成する。
含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12Hのそれぞれが有する水素原子は1つでもよく2つ以上でもよい。
含フッ素モノマーm11Hとしては、ペルフルオロモノマーm11のジオキソラン環の環骨格中、重合性二重結合を構成する炭素原子に結合したフッ素原子の一つが水素原子であるものが多く副生しやすい。含フッ素モノマーm12Hも同様である。したがって、含フッ素モノマーm11Hとしてはモノマーm21が多く副生し、含フッ素モノマーm12Hとしてはモノマーm22が多く副生する。
【0025】
【0026】
含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12Hの合計量は、モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計量に対して10~1,100ppmであり、10~700ppmが好ましく、12~300ppmが特に好ましい。
含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12Hの合計量が前記範囲内であれば、モノマー組成物M11、M12の製造の際に、過剰な含フッ素モノマーm11H、m12Hの分離、除去にともなうペルフルオロモノマーm11、m12のロスを低減して、ペルフルオロモノマーm11、m12を効率よく重合に活用できる。
また、含フッ素モノマーm11H、m12Hが連鎖移動剤としても働くため、原料混合物が連鎖移動剤等の分子量調節剤を含まなくても得られた含フッ素ポリマーの分子量を適切に制御でき、含フッ素ポリマーや含フッ素イオン交換ポリマーのポリマー溶液を製造する際の溶媒への溶解性が良好となる。
さらに、含フッ素ポリマーが過剰に水素原子を有することがないため、塩基と接触しても分子鎖の切断が起こりにくく、分子量が低下しにくい含フッ素ポリマーが得られる。そのため、たとえば後述する加水分解工程においても含フッ素ポリマーの分子量の低下が少なく、含フッ素イオン交換ポリマーとして高分子量のものが得られる。
【0027】
モノマー組成物M11は、たとえば、公知の方法によりペルフルオロモノマーm11を合成し、含フッ素モノマーm11Hを含む粗生成物を得て、前記粗生成物を蒸留等により精製し、含フッ素モノマーm11Hの含有量を所定の量に調整することにより得られる。また、モノマー組成物M12も同様にして得られる。
粗生成物において、含フッ素モノマーm11Hまたはm12Hの含有量は、たとえば、粗生成物の総質量に対して2,000~10,000ppmである。
得られた粗生成物に重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤としては、たとえば、2-tert-ブチル-1,4-ベンゾキノン、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、p-メンタ-1,8-ジエン、2,5-ジ-tert-ブチル-1,4-ベンゾキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-1,4-ベンゾキノン、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン アルミニウム塩等が挙げられる。これらの重合禁止剤は、蒸留時にペルフルオロモノマーm11またはm12と分離できる。
粗生成物を蒸留する方法としては、単蒸留、充填塔付単蒸留、精製蒸留等の公知の蒸留法が挙げられる。蒸留の際の温度、圧力等は、ペルフルオロモノマーm11またはm12の沸点等に応じて適宜設定すればよい。
【0028】
原料混合物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、他のモノマーを含んでいてもよい。
他のモノマーとしては、イオン交換基の前駆体基(以下、単に「前駆体基」とも記す。)を有するモノマー(ただし、ペルフルオロモノマーm12および含フッ素モノマーm12Hを除く。)(以下、「モノマーm3」とも記す。)、前駆体基を有しないモノマー(ただし、ペルフルオロモノマーm11および含フッ素モノマーm12Hを除く。)(以下、「モノマーm4」とも記す。)等が挙げられる。
【0029】
モノマーm3において、前駆体基は、塩基の作用により加水分解してイオン交換基となる。前駆体基としては、プロトン導電性や化学的耐久性の点で、-SO2Fが好ましい。
モノマーm3としては、たとえば、前駆体基および環構造を有するモノマー、前駆体基を有し、環構造を有しないモノマーが挙げられる。
前駆体基および環構造を有するモノマーとしては、たとえば、モノマーm31が挙げられる。
【0030】
【0031】
Qは、単結合、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基または炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基である。Qとしては、炭素数2~4のペルフルオロアルキレン基または炭素数3~4のペルフルオロアルキレン基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基が好ましい。ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0032】
モノマーm31としては、たとえば、モノマーm31-1~m31-3が好ましく、軟化温度が高くなり過ぎない点から、モノマーm31-1がより好ましい
【0033】
【0034】
モノマーm31は、国際公開第2003/037885号、特開2005-314388号公報、特開2009-040909号公報等に記載された方法により合成できる。
【0035】
前駆体基を有し、環構造を有しないモノマーとしては、たとえば、モノマーm32~モノマーm37が挙げられる。
【0036】
【0037】
qは、0または1である。
qは、PDDモノマーとの反応性に優れる点から、0が好ましい。
Y1は、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基である。
Y1は、フッ素原子、またはエーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1~6の直鎖のペルフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0038】
Q1は、エーテル性の酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。
Q2は、単結合、またはエーテル性の酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。
Q1、Q2のペルフルオロアルキレン基がエーテル性の酸素原子を有する場合、前記酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、前記酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素原子-炭素原子結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよいが、硫黄原子と直接結合する末端には挿入されない。
ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、1~6が好ましく、1~4がより好ましい。炭素数が6以下であれば、原料の化合物の沸点が低くなり、蒸留精製が容易となる。また、炭素数が6以下であれば、含フッ素ポリマーのイオン交換容量の低下が抑えられ、プロトン伝導性の低下が抑えられる。
Q2は、エーテル性の酸素原子を有してもよい炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。Q2がエーテル性の酸素原子を有してもよい炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であれば、Q2が単結合である場合に比べ、長期にわたって固体高分子形燃料電池を運転した際に、発電性能の安定性に優れる。
Q1およびQ2の少なくとも一方は、エーテル性の酸素原子を有する炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。エーテル性の酸素原子を有する炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基を有する単量体は、フッ素ガスによるフッ素化反応を経ずに合成できるため、収率が良好で、製造が容易である。
【0039】
mは、0または1であって、pが0のときmは0である。
mは、PDDモノマーとの反応性に優れる点から、0が好ましい。
pは、0または1である。
nは、1~12の整数である。
【0040】
Xは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。
rは、1~3の整数である。
tは、0または1である。
sは、1~12の整数である。
RF1及びRF2は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。RF1及びRF2は同一であっても異なっていてもよい。
RF3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。
【0041】
モノマーm32としては、含フッ素ポリマーの製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、モノマーm32-1~m32-8が好ましく、モノマーm32-1がより好ましい。
【0042】
【0043】
モノマーm33としては、モノマーm33-1~m33-2が好ましい。
CF2=CF-CF2-O-CF2CF2-SO2F m33-1
CF2=CF-O-CF2CF2-SO2F m33-2
【0044】
モノマーm34としては、モノマーm34-1が好ましい。
CF2=CF-OCF2CF(CF3)-O-CF2CF2-SO2F m34-1
【0045】
モノマーm32は、国際公開第2007/013533号、特開2008-202039号公報等に記載された方法により合成できる。
モノマーm33、モノマーm34は、たとえば、D.J.Vaugham著、“Du Pont Innovation”、第43巻、第3号、1973年、P.10に記載の方法、米国特許第4358412号明細書の実施例に記載の方法等、公知の合成法により製造できる。
【0046】
モノマーm4としては、モノマーm41、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン、ペルフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロα-オレフィン(ヘキサフルオロプロピレン等)、(ペルフルオロアルキル)エチレン((ペルフルオロブチル)エチレン等)、(ペルフルオロアルキル)プロペン(3-ペルフルオロオクチル-1-プロペン等)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、モノマーm42等が挙げられ、好ましくは、TFEである。TFEは高い結晶性を有するため、ポリマー(H)が含水した際の膨潤を抑える効果があり、ポリマーの含水率を低減できる。これらのモノマーm4はいずれか1種を用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
【0048】
R15は、フッ素原子、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基または炭素数2~10のペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基である。R15としては、炭素数1~4のペルフルオロアルキル基または炭素数2~4のペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基が好ましく、炭素数1~4のペルフルオロアルキル基がより好ましく、トリフルオロメチル基がさらに好ましい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0049】
モノマーm41としては、たとえば、モノマーm41-1~m41-2が挙げられ、分子量が小さいことによる高イオン交換容量化、沸点が低いことによるモノマー回収性の点から、モノマーm41-1が好ましい。
【0050】
【0051】
モノマーm41は、国際公開第2000/056694号;Izvestiya Akademii Nauk SSSR,Seriya Khimicheskaya,1989年,第4巻,p.938-42等に記載された方法により合成できる。
【0052】
モノマーm42を共重合すると、含フッ素ポリマーのガラス転移温度(Tg)を下げることができる。
CF2=CF-O-Rf m42
ここで、Rfは、炭素数1~12のペルフルオロアルキル基、炭素数2~10のペルフルオロアルキル基の炭素-炭素結合間にエーテル性の酸素原子を有する基、または炭素数2~12のペルフルオロアルケニル基である。
モノマーm42としては、たとえば、m42-1~m42-26が挙げられる。
CF2=CF-O-CF3 m42-1
CF2=CF-O-CF2CF2CF3 m42-2
CF2=CF-O-CF2CF(CF3)-O-CF2CF2CF3 m42-3
CF2=CF-O-CF2CF2CF=CF2 m42-4
CF2=CF-O-CF2CF2OCF2CF2OCF2CF3 m42-5
CF2=CF-O-CF2CF2OCF2CF2OCF2OCF3 m42-6
CF2=CF-O-CF2OCF2CF2CF3 m42-7
CF2=CF-O-CF2OCF2OCF2OCF3 m42-8
CF2=CF-O-CF2OCF3 m42-9
CF2=CF-O-CF2(CF2)3OCF3 m42-10
CF2=CF-O-CF2CF2CF2OCF2CF2CF3 m42-11
CF2=CF-O-CF2CF2OCF2CF2OCF3 m42-12
CF2=CF-O-CF2OCF2CF2OCF3 m42-13
CF2=CF-O-CF2OCF2CF3 m42-14
CF2=CF-O-CF2CF2OCF2OCF2OCF3 m42-15
CF2=CF-O-CF2CF2CF2O(CF2)3O(CF2)3OCF2CF2CF3 m42-16
CF2=CF-O-CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF3 m42-17
CF2=CF-O-CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF3 m42-18
CF2=CF-O-CF2CF2CF2O(CF2)3OCF2CF2CF3 m42-19
CF2=CF-O-CF2CF2OCF2OCF2OCF2OCF3 m42-20
CF2=CF-O-CF2CF2OCF2OCF2OCF2OCF2OCF3 m42-21
CF2=CF-O-CF2CF2CF2OCF3 m42-22
CF2=CF-O-CF2CF2OCF2OCF3 m42-23
CF2=CF-O-CF2CF2OCF3 m42-24
CF2=CF-O-CF2CF2OCF2CF3 m42-25
CF2=CF-O-CF2CF2CF2OCF2CF2F3 m42-26
【0053】
原料混合物は、前駆体基を有するモノマーを含むことが好ましい。この場合、原料混合物を重合した後、得られた含フッ素ポリマーを塩基と接触させて前駆体基をイオン交換基に変換することで、ジオキソラン環構造およびイオン交換基を有する含フッ素イオン交換ポリマーが得られる。このような含フッ素イオン交換ポリマーは、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の触媒層や固体高分子電解質膜に含ませる電解質材料として用いたときに、膜電極接合体の発電特性に優れる。
【0054】
前駆体基を有するモノマーとしては、ペルフルオロモノマーm12、モノマーm3が挙げられ、合成しやすい点で、ペルフルオロモノマーm12、モノマーm31、モノマーm32、モノマーm33およびモノマーm34からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、イオン交換容量を高くしつつ、他の成分を多く含有できる点で、モノマーm32が特に好ましい。
【0055】
原料混合物が前駆体基を有するモノマーを含む場合としては、(1)モノマー組成物M12を含み、モノマーm3を含まない場合、(2)モノマー組成物M12を含まず、モノマーm3を含む場合、(3)モノマー組成物M12およびモノマーm3を含む場合、が挙げられる。
(2)の場合、原料混合物はモノマー組成物M11を含む。(1)、(3)の場合、原料混合物は、必要に応じて、モノマー組成物M11をさらに含んでよい。いずれの場合においても原料混合物はモノマーm4をさらに含んでよい。
【0056】
原料混合物は、モノマーm4として、TFEを含むことが好ましい。TFEは高い結晶性を有するため、含フッ素ポリマーが含水した際の膨潤を抑える効果があり、含フッ素ポリマーの含水率を低減できる。
【0057】
原料混合物に含まれる全てのモノマーの合計量中のモノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計量の割合は、20~90モル%が好ましく、40~80モル%がより好ましい。モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計量の割合が前記下限値以上であれば、得られる含フッ素イオン交換ポリマーを固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の触媒層や固体高分子電解質膜に用いたときに、膜電極接合体が優れた発電特性を発現しやすい。モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計量の割合が前記上限値以下であれば、得られる含フッ素ポリマーや含フッ素イオン交換ポリマーのガラス転移温度が高くなりすぎず、低温、高湿条件下において触媒層におけるフラッディング現象(水詰まり現象)が起こりにくく、膜電極接合体の発電特性が低下しにくい。
【0058】
原料混合物に含まれる全てのモノマーの合計量中の前駆体基を有するモノマーの割合は、前駆体基をイオン交換基に変換した後の含フッ素ポリマーの所望のイオン交換容量に応じて設定できる。
たとえば、前駆体基を有するモノマーがモノマーm32である場合は、原料混合物に含まれる全てのモノマーの合計量に対する前駆体基を有するモノマーの割合は、5~60モル%が好ましく、10~50モル%がより好ましい。
【0059】
原料混合物に含まれる全てのモノマーの合計量中のTFEの割合は、0~30モル%が好ましく、0~20モル%がより好ましい。
【0060】
具体的な好ましい原料組成物中のモノマーの組み合わせと割合の例としては、TFEの0~15モル%とモノマーm32の40~70モル%とモノマーm11-1および該モノマーm11-1中のフッ素原子の少なくとも一部が水素原子に置換されてなる含フッ素モノマーを含むモノマー組成物M11の15~45モル%との組み合わせ、TFEの0~15モル%とモノマーm33の55~95モル%とモノマーm11-1および該モノマーm11-1中のフッ素原子の複なくとも一部が水素原子に置換されてなる含フッ素モノマーを含むモノマー組成物M11の5~40モル%との組み合わせ、TFEの0~15モル%とモノマーm34の50~90モル%とモノマーm11-1および該モノマーm11-1中のフッ素原子の複なくとも一部が水素原子に置換されてなる含フッ素モノマーを含むモノマー組成物M11の10~40モル%との組み合わせが挙げられる。
【0061】
原料混合物は、モノマーの他に、必要に応じて、重合媒体、重合開始剤、連鎖移動剤(モノマーm11Hおよびモノマーm12Hを除く)、重合禁止剤等を含んでいてもよい。
【0062】
原料混合物が重合媒体を含むと、重合時の除熱が良好になるなど、重合の制御が容易となる。重合媒体としては、クロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ペルフルオロカーボン等の重合媒体が好ましく、オゾン層に影響のないハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルがより好ましい。
原料混合物中の重合媒体の含有量は、たとえば、0~50質量%である。
【0063】
重合開始剤としては、一般的な重合開始剤が使用でき、ジアシルペルオキシド類(ジコハク酸ペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ペルフルオロ-ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ビス(ペンタフルオロプロピオニル)ペルオキシド等)、アゾ化合物(2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)塩酸類、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、ジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート、アゾビスイソブチロニトリル等)、ペルオキシエステル類(t-ブチルペルオキシイソブチレート、t-ブチルペルオキシピバレート等)、ペルオキシジカーボネート類(ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート等)、ハイドロペルオキシド類(ジイソプロピルベンゼンハイドロペルオキシド、t-ブチルハイドロペルオキシド等)、ジアルキルペルオキシド(ジ-t-ブチルペルオキシド、ペルフルオロ-ジ-t-ブチルペルオキシド)等が挙げられる。
【0064】
原料混合物中の重合開始剤の含有量は、モノマーの種類、重合形態に応じて適宜設定できるが、原料混合物に含まれる全てのモノマーの合計100質量部に対して、0.0001~3質量部が好ましく、0.0001~2質量部がより好ましい。
【0065】
本発明の製造方法においては、含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12Hがモノマーとしても連鎖移動剤としても作用するので、連鎖移動剤の添加は必ずしも必要ではない。しかし、必要に応じて原料混合物が含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12H以外の連鎖移動剤を含んでいてもよい。
連鎖移動剤としては、一般に連鎖移動剤として用いられているものが挙げられる。具体例としては、アルコール類(メタノール、エタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール等)、ハイドロカーボン類(n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハイドロフルオロカーボン類(CF2H2等)、ケトン類(アセトン等)、メルカプタン類(メチルメルカプタン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、エーテル類(ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等)が挙げられる。
【0066】
原料混合物中の連鎖移動剤の含有量は、原料混合物に含まれる全てのモノマーの合計100質量部に対して、0~50質量部が好ましく、0~10質量部がより好ましく、0質量部が特に好ましい。すなわち、原料混合物が連鎖移動剤を含まないことが特に好ましい。連鎖移動剤の含有量が少ないほど、含フッ素ポリマーの機械的強度に優れる。
【0067】
〔重合工程〕
重合工程では、前記した原料混合物を重合する。
重合法は、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、バルク重合法等の重合法を用いることができる。重合法としては、生体蓄積性が懸念される炭素数7以上のペルフルオロアルキル基を有するフッ素系乳化剤を用いないことから、溶液重合法またはバルク重合法が好ましい。
【0068】
原料混合物は、一括で仕込んでもよく、連続的または断続的に仕込んでもよい。また、重合中に原料混合物の成分の一部を連続または断続的に仕込んでもよい。
重合温度は、モノマーの種類、仕込み割合等により最適値が選定され得るが、工業的実施に好適であることから、10~150℃が好ましい。
重合圧力(ゲージ圧)は、工業的実施に好適であることから、0.1~5.0MPaが好ましい。
また、モノマーとしてTFE等の気体状のモノマーを用いる場合には、気相のモノマー濃度が高い場合は、窒素で希釈してもよい。
【0069】
溶液重合法の場合、必要により、従来公知の方法で、混合物から未反応のモノマーを回収し、得られた含フッ素ポリマー溶液を凝集媒体と混合して、含フッ素ポリマーを得る。次いで、必要に応じて、含フッ素ポリマーを洗浄媒体にて洗浄する。洗浄媒体や洗浄方法は、特に限定なく、従来公知の方法を用いることができる。
【0070】
原料混合物を重合させて得られる含フッ素ポリマーは、ペルフルオロモノマーm11に基づく単位および含フッ素モノマーm11Hに基づく単位、ならびにペルフルオロモノマーm12に基づく単位および含フッ素モノマーm12Hに基づく単位、の少なくとも一方を有する。
含フッ素ポリマーは、必要に応じて、他のモノマーに基づく単位をさらに有していてもよい。含フッ素ポリマーを、膜電極接合体の触媒層に含ませる電解質材料の前駆体として用いる場合には、含フッ素ポリマーは、前駆体基を有するモノマーに基づく単位を有することが好ましい。
含フッ素ポリマーにおける好ましい単位の組み合わせとしては、前記の好ましい原料組成物中のモノマーの組み合わせと割合において、それらのモノマーを重合した単位の組み合わせが好ましく、その含フッ素ポリマー中の単位の好ましい割合も同様である。
【0071】
含フッ素ポリマーのTQ値は、230~320℃が好ましく、250~300℃がより好ましい。含フッ素ポリマーのTQ値が前記範囲の下限値以上であれば、機械的強度および熱水耐性が良好となりやすい。含フッ素ポリマーのTQ値が前記範囲の上限値以下であれば、成形しやすい。また塩基との接触により前駆体基をイオン交換基に変換して含フッ素イオン交換ポリマーを得る場合に、含フッ素イオン交換ポリマーの液状組成物を得やすい。
【0072】
含フッ素ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、10万~100万が好ましく、20万~80万がより好ましい。含フッ素ポリマーのMwが前記範囲の下限値以上であれば、機械的強度および熱水耐性が良好となりやすい。含フッ素ポリマーのMwが前記範囲の上限値以下であれば、成形しやすい。また塩基との接触により前駆体基をイオン交換基に変換して含フッ素イオン交換ポリマーを得る場合に、含フッ素イオン交換ポリマーの液状組成物を得やすい。
含フッ素ポリマーのMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される、標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。詳しくは、後述する実施例に記載の測定方法により測定される。
【0073】
〔加水分解工程〕
加水分解工程においては、原料混合物が前駆体基を有するモノマーを含む場合、すなわち含フッ素ポリマーが、前駆体基を有するモノマーに基づく単位を有する場合(以下、このようなポリマーを「前駆体基含有含フッ素ポリマー」とも記す。)、必要に応じて、含フッ素ポリマーを塩基と接触させる。これにより、前駆体基含有含フッ素ポリマーが加水分解され、前駆体基含有含フッ素ポリマーの前駆体基がイオン交換基に変換された含フッ素イオン交換ポリマーが得られる。
【0074】
加水分解工程は、公知の方法により実施でき、たとえば、国際公開第2011/013578号に記載の方法が挙げられる。たとえば、-SO2F基を酸型のスルホン酸基(-SO3
-H+基)に変換する方法としては、含フッ素ポリマーの-SO2F基を塩基と接触させて加水分解して塩型のスルホン酸基とし、塩型のスルホン酸基を酸と接触させて酸型のスルホン酸基に変換する方法が挙げられる。塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。酸としては、塩酸、硫酸が挙げられる。
【0075】
含フッ素イオン交換ポリマーのイオン交換容量は、0.5~2.5ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、1.0~2.0ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。イオン交換容量が前記範囲の下限値以上であれば、含フッ素イオン交換ポリマーの導電性が高くなるため、膜電極接合体の触媒層に用いた場合、充分な電池出力を得ることできる。イオン交換容量が前記範囲の上限値以下であれば、含フッ素イオン交換ポリマーの製造が容易である。
【0076】
含フッ素イオン交換ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、50万~150万が好ましく、60万~140万がより好ましい。含フッ素イオン交換ポリマーのMwが前記範囲の下限値以上であれば、機械的強度および熱水耐性が良好となりやすい。含フッ素イオン交換ポリマーのMwが前記範囲の上限値以下であれば、成形しやすく、また含フッ素イオン交換ポリマーの液状組成物を得られやすい。
含フッ素イオン交換ポリマーのMwは、GPCにより測定される、標準ポリエチレングリコール(PEG)換算の値である。詳しくは、後述する実施例に記載の測定方法により測定される。
【0077】
含フッ素イオン交換ポリマーにおける好ましい単位の組み合わせとその割合としては、前記の好ましい含フッ素ポリマーの組み合わせと割合において、含フッ素ポリマーが前駆体基含有含フッ素ポリマーである場合に、該前駆体基を加水分解したポリマーと同じである。
【0078】
本発明においては、含フッ素ポリマーが加水分解工程等において、塩基と接触しても含フッ素ポリマーの分子量が低下しにくい。これは以下の理由によると推測される。
モノマー組成物M11、M12中の含フッ素モノマーm11H、m12Hは、重合すると含フッ素ポリマー中の単位となるが、この単位は水素原子を有する。特に含フッ素モノマーm11H、m12Hが、モノマーm21、m22であった場合には、含フッ素ポリマーは主鎖に水素原子を有するポリマーとなる。含フッ素ポリマーに塩基が接触すると、水素原子を有する部位で脱HF等反応が生じ、主鎖が切断され、分子量が低下する。
前記原料混合物を重合して得られる含フッ素ポリマーは、含フッ素モノマーm11H、m12Hの含有量が適切な範囲に調整されているので、含フッ素ポリマーの水素原子の含有量が適切な範囲に制御されており、塩基による主鎖の切断、それに伴う分子量低下が抑制されている。
【0079】
含フッ素イオン交換ポリマーは、ジオキソラン環構造およびイオン交換基を有するため、膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜の形成に好適に用いられる。また、他の膜(水電解、過酸化水素製造、オゾン製造、廃酸回収等に用いるプロトン選択透過膜、食塩電解用陽イオン交換膜、レドックスフロー電池の隔膜、脱塩または製塩に用いる電気透析用陽イオン交換膜等)の形成にも用いることができる。
【0080】
含フッ素イオン交換ポリマーは、たとえば、含フッ素イオン交換ポリマーと液状媒体とを含む液状組成物として用いられる。
液状媒体としては、水、炭化水素系アルコール、フッ素系溶媒等が挙げられる。これらの液状媒体は一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
液状組成物は、含フッ素イオン交換ポリマーおよび液状媒体以外の他の成分をさらに含んでもよい。
【実施例】
【0081】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例1~6のうち、例1~3は実施例であり、他の例は比較例である。
後述する各例で使用した評価方法を以下に示す。
【0082】
(TQ値)
フローテスタ(島津製作所社製、CFT-500D)を用いて、含フッ素ポリマーの押出し量が100mm3/秒となる温度を、TQ値として求めた。
【0083】
(ガスクロマトグラフィ(GC))
GCによる分析は、下記の条件にて行った。
装置:島津製作所社製GC-2014
カラム:キャピラリーカラム、DB-1 60m
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
キャリアガス:ヘリウム
インジェクション温度:170℃
検出器温度:250℃
カラム温度:40℃で10分保持、10℃/分で240℃まで昇温し、10分保持
スプリット比:1/30
注入量:0.2μL
【0084】
(含フッ素ポリマーの重量平均分子量(Mw))
含フッ素ポリマーのMwは、下記の条件にて測定した。
装置:東ソー社製、HLC-8320GPC
カラム:PL mixed-C(5μm、7.5×300mm)×2
検出器:ELSD(蒸発光散乱検出器)
移動相:AK225 SEC グレード1[AK225cb/HFIP(99/1vol%)]
流速:1.0mL/分
オーブン温度:37℃
システム温度:37℃
濃度:0.2w/v%
注入量:100μL
分子量標準:PMMA
なお、AK225cbは、CClF2CF2CHClFであり、HFIPは、ヘキサフルオロ-2-プロパノールである。
【0085】
(含フッ素イオン交換ポリマーのMw)
含フッ素イオン交換ポリマーのMwは、下記の条件にて測定した。
装置: 東ソー社製、HLC-8320GPC
カラム:TOSOH TSK-GEL(登録商標) α-M×TOSOH TSK-GEL α-3000
検出器:ELSD
移動相:10mMジ-n-ブチルアンモニウムアセテート(DBAA)添加メタノール
流速:1.0mL/分
オーブン温度:37℃
システム温度:37℃
濃度:0.5w/v%
注入量:50mL
分子量標準:PEG
【0086】
(分子量低下の評価)
加水分解による分子量低下の指標として、含フッ素ポリマーの加水分解後に、含フッ素イオン交換ポリマーHのMw(PEG換算)が50万以上である場合を〇、50万未満である場合を×とした。
【0087】
(AK225 SECグレード1への溶解性)
13ccのガラス製スクリュー管に、200℃で加熱処理した含フッ素ポリマーの塊0.03gを仕込み、AK225 SECグレード1の3ccを入れて、60℃乾燥機で静置した。途中、1時間で一度取り出し、振とう機で断続的に約1分間撹拌し、乾燥機に戻してさらに1時間後に取り出した。取り出し直後に、再び振とう機で約1分間撹拌して、室温にて1時間静置した。スクリュー管の底に未溶解物が残っていない場合を○、残っている場合を×とした。
【0088】
(含フッ素イオン交換ポリマーの溶解性)
重合体として含フッ素イオン交換ポリマーを用いた以外は、国際公開第2017/033685号に記載の例1の工程(α)と同様の方法で分散液を調製し、得られた分散液をステンレス製100メッシュフィルターで濾過した。その後、フィルター上に溶け残りが残存しているか否かを目視で確認し、溶け残りが残存していない場合を○、残存している場合を×とした。
【0089】
<モノマー組成物の製造>
(製造例1)
公知の方法(米国特許2,925,424、米国特許3,865,845、Journal оf Fluorine Chemistry,9(1977)359-375、に記載の方法)に従って、モノマーm11-1の3,865gを含む液状の粗生成物8,000gを得た。粗生成物には、モノマーm11-1に対応する含フッ素モノマーm11Hであるモノマーm21-1が含まれていた。粗生成物中の含フッ素モノマーm11H濃度は2,600ppmであった。濃度は、GCで、前記条件で測定した、面積パーセントである。
【0090】
【0091】
蒸留塔を用いて、下記の蒸留条件で、得られた粗生成物の精製蒸留を行った。
温水槽に粗生成物を入れ、粗生成物に対して1質量%のトパノールA(重合禁止剤、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、東京化成工業株式会社製)を粗生成物に添加した後、温水槽の温度を30℃から徐々に上げた。コンデンサーは-20℃で冷却し、蒸留中は充填塔上部から0.02mL/分で連続的にトパノールAを添加した。還流比は、電磁弁をタイマーで留出させる自動制御で行い、流出率15%までは還流比20で行い、以降、還流比を5に変更して実施した。留出分の合計が3,980gで、蒸留塔釜の内温が高くなったところで、冷却して蒸留を停止した。
モノマーm21-1の濃度は、流出率75%程度までは、300ppm未満程度で推移し、以降、留分毎に濃度は徐々に上昇し、最終留分中の濃度は2,200ppmであった。
留分の選択や留分の混合によって、モノマーm11-1およびモノマーm21-1を含み、モノマーm21-1の含有量が異なる複数の精製物(モノマー組成物M11-1~M11-6)を調製した。
【0092】
蒸留条件
ボトム容量:10L
充填塔:高さ700mm、内径50mm
理論段数:36段
還流比制御:電磁弁をタイマーで留出させる自動制御
初留還流比:20
主留還流比:5
圧力:大気圧
【0093】
<含フッ素ポリマーおよび含フッ素イオン交換ポリマーの製造>
(モノマーm3)
モノマーm3として、モノマーm32-1を用意した。
【0094】
【0095】
(重合開始剤)
PFB:(C3F7COO)2(日油社製、PFB、10時間半減期温度:21℃)
【0096】
(重合媒体)
AC2000:CF3CF2CF2CF2CF2CF2H
【0097】
(例1)
ジャケットおよび撹拌装置を備えた、容量495mLのステンレス製オートクレーブに、モノマーm32-1の283.74g、製造例1で得たモノマー組成物M11-1(モノマーm11-1中のモノマーm21-1の含有量が14ppmである精製物)の69.7g(モノマーm11-1換算で69.49g)、およびAC2000の26gを仕込んだ後、液体窒素を用いて、凍結脱気を2回実施した。オートクレーブ内を24℃に昇温した後、オートクレーブに0.1MPaの窒素ガスを導入した。圧力が変化しないことを確認した後、オートクレーブにTFEの8.59gを仕込み、全圧を0.172MPa[gauge]とした。PFBが3.33質量%でAC2000に溶解した溶液の2.535gを、オートクレーブに連結した添加ラインより、窒素ガスで加圧して添加した。次いで、該添加ラインを洗浄するため、AC2000の5gを該添加ラインより添加した。オートクレーブの内温を24℃、回転数を100rpmとして、重合した。重合開始から8.5時間後に、系内のガスをパージして、窒素置換を実施した。
【0098】
ジャケットの設定温度を24℃、撹拌回転数を10rpmにし、オートクレーブ内を200kPa[abs]までゆっくり減圧して、オートクレーブ内の混合液から未反応のモノマーm11-1、重合媒体等を留出させた。留出物をAK225cbおよびドライアイスの混合液の冷却トラップに通し、5時間後に60.1gを回収した。その間、オートクレーブ内の圧力も徐々に低下した。
【0099】
AC2000の200.6gでオートクレーブ内の残渣物を希釈して、回転数50rpmで4時間撹拌し、ポリマー溶液を得た。
AC2000の1000gおよびメタノールの250gの凝集媒体(20℃)に、オートクレーブからの抜き出したポリマー溶液(25℃)を加え、粒子状の含フッ素ポリマーを形成し、分散液を得た。30分間撹拌した後、分散液の650gを抜き出し、メタノールの188gをポリマー粒子分散液に加えた。30分間撹拌した後、ろ過して粒子状の含フッ素ポリマーF-1を得た。
【0100】
粒子状の含フッ素ポリマーF-1を、AC2000の145gおよびメタノールの60gの洗浄媒体に加えた後、撹拌およびろ過を行う洗浄を2回繰り返した。
粒子状の含フッ素ポリマーF-1を、80℃で16時間真空乾燥した後、210℃で16時間真空熱処理し、含フッ素ポリマーF-1の52.52gを得た。
19F-NMRによる含フッ素ポリマーF-1の各単位の割合は、モノマーm32-1/モノマーm11-1/TFE=18.7/68.1/13.2(モル比)であった。TQ値は271℃であった。含フッ素ポリマーF-1について、AK225 SECグレード1への溶解性を評価し、GPC測定を行った。Mwは61万であった。
【0101】
含フッ素ポリマーF-1を、ジメチルスルホキシド30質量%および水酸化カリウム15質量%を含む80℃の水溶液に、72時間浸漬させた。これにより、含フッ素ポリマーF-1中の-SO2F基を加水分解し、-SO3K基に変換した。80℃で水洗を3回繰り返した後、該ポリマーを、3モル/Lの塩酸水溶液に室温で30分浸漬した。塩酸水溶液を交換し水洗する処理を、さらに5回繰り返し後、水洗を3回繰り返し、ポリマー中の-SO3K基がスルホン酸基に変換された含フッ素イオン交換ポリマーH-1を得た。含フッ素イオン交換ポリマーH-1のMwは120万であった。
含フッ素イオン交換ポリマーH-1について、前記した方法で溶解性を評価したところ、フィルター上に溶け残りの残存は無かった。
結果を表1にまとめる。
【0102】
(例2~6)
モノマー組成物の種類、各原料の使用量、重合条件等を表1に示すように変更した以外は、例1と同様にして含フッ素ポリマーおよび含フッ素イオン交換ポリマーを得た。
結果を表1にまとめる。表1中、「MPaG」は「MPa[gauge]」を示す。「JKT」は「ジャケット」を示す。
【0103】
【0104】
例1~3では、連鎖移動剤を用いていないにもかかわらず、適切な分子量を有する含フッ素ポリマーが得られた。また、塩基を用いて含フッ素ポリマーの-SO2F基をイオン交換基に変換して含フッ素イオン交換ポリマーとする際に分子量が低下しなかった。
例4および5では、含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12Hの合計量が、モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計量に対して1,100ppm超であったため、塩基を用いて含フッ素ポリマーを加水分解する際に分子量が低下し50万未満となった。特に、含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12Hの合計量が多い例5の方が、分子量の低下率が大きかった。
例6では、含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12Hの合計量が、モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計量に対しが10ppm未満であったため、含フッ素ポリマーの分子量が高く、AK225 SECグレード1への溶解性に劣っていた。塩基を用いて含フッ素ポリマーを加水分解し、含フッ素イオン交換ポリマーの液状組成物(分散液)を調製したところ、溶け残りの含フッ素イオン交換ポリマーがフィルター上に確認された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の含フッ素ポリマーの製造方法および含フッ素イオン交換ポリマーの製造方法にあっては、含フッ素モノマーm11Hおよび含フッ素モノマーm12Hの合計量が、モノマー組成物M11およびモノマー組成物M12の合計量に対して10~1,100ppmであるため、原料混合物を重合する際に、ペルフルオロモノマーm11、m12を効率良く活用できるとともに容易に適切な分子量に制御できる。また、塩基と接触しても分子量が低下しにくい、ジオキソラン環構造を有する含フッ素ポリマーが得られる。
【0106】
本発明の製造方法で得られた含フッ素イオン交換ポリマーは、膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、食塩電解用陽イオン交換膜等に用いられる電解質材料の前駆体として有用である。
なお、2018年5月18日に出願された日本特許出願2018-096465号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。