(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】水性エポキシ樹脂組成物、繊維集束剤、繊維束、成形材料、及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20230511BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230511BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08L67/00
C08L71/02
(21)【出願番号】P 2022558963
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2021037088
(87)【国際公開番号】W WO2022091732
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2020179488
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝史
(72)【発明者】
【氏名】永浜 定
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-107004(JP,A)
【文献】特開2016-160567(JP,A)
【文献】特開2010-194807(JP,A)
【文献】特開2016-117886(JP,A)
【文献】特開2016-204641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08L 67/00
C08L 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、スルホン酸塩基を有するポリエステル樹脂(B)、芳香族非イオン界面活性剤(C)、及び水性媒体を含有する水性エポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂(A)の含有量が全固形分中の75~95質量%であり、
前記ポリエステル樹脂(B)の含有量が、前記水性エポキシ樹脂組成物の固形分中に0.5~10質量%の範囲であり、
前記芳香族非イオン界面活性剤(C)が、オキシエチレン単位を40以上有する界面活性剤を含むものであり、
前記芳香族非イオン界面活性剤(C)の含有量が、前記水性エポキシ樹脂組成物の固形分中に1~25質量%の範囲であることを特徴とする水性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(B)のスルホン酸塩基濃度が0.2~0.6mol/kgである請求項1記載の水性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水性エポキシ樹脂組成物を含有することを特徴とする繊維集束剤。
【請求項4】
請求項3記載の繊維集束剤によって集束されたことを特徴とする繊維束。
【請求項5】
請求項4記載の繊維束、及びマトリックス樹脂を含有することを特徴とする成形材料。
【請求項6】
請求項5記載の成形材料の硬化物であることを特徴とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エポキシ樹脂組成物、繊維集束剤、繊維束、成形材料、及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度で優れた耐久性の求められる自動車部材や航空機部材等としては、例えばエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂等のマトリックス樹脂と、ガラス繊維や炭素繊維等を含む繊維強化プラスチックが使用されている。
【0003】
前記繊維強化プラスチックに使用するガラス繊維や炭素繊維としては、通常、高強度を付与する観点から、繊維集束剤によって概ね数千~数万程度に集束された繊維材料を使用することが多い。
【0004】
前記繊維集束剤としては、エポキシ樹脂、アルコキシポリオキシアルキレン構造とエポキシ基とを有するウレタン樹脂、スルホン酸塩基を有するポリエステル樹脂、及び水性媒体を含有することを特徴とする繊維集束剤が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、この繊維集束剤はマトリックス樹脂との接着性が不十分な場合があり、得られる成形品の機械的強度が劣る場合があった。また、繊維集束剤には、シランカップリング剤を配合した際の配合安定性が求められることから、配合安定性、長期保存安定性、及びマトリックス樹脂との接着性に優れる材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、成形品に優れた強度を付与可能な繊維束の製造に使用可能で、長期保存安定性及び配合安定性に優れる水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討した結果、エポキシ樹脂、スルホン酸塩基を有するポリエステル樹脂、芳香族非イオン界面活性剤、及び水性媒体を含有する水性エポキシ樹脂組成物が、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、エポキシ樹脂(A)、スルホン酸塩基を有するポリエステル樹脂(B)、芳香族非イオン界面活性剤(C)、及び水性媒体を含有する水性エポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂(A)の含有量が全固形分中の75~95質量%であることを特徴とする水性エポキシ樹脂組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物は、成形品に優れた強度を付与可能な繊維束の製造に使用可能で、かつ、長期保存安定性及び配合安定性に優れることから、ガラス繊維や炭素繊維の集束剤に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、スルホン酸塩基を有するポリエステル樹脂(B)、芳香族非イオン界面活性剤(C)、及び水性媒体を含有する水性エポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂(A)の含有量が全固形分中の75~95質量%であるものである。
【0012】
前記エポキシ樹脂(A)について説明する。前記エポキシ樹脂(A)としては、例えば、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ブチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、オクチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールADノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールSノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらの中でも、得られる成形品の耐熱性及び機械的強度がより向上することから、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂(A)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0013】
また、得られる成形品の強度がより向上することから、前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、100~3000g/当量の範囲が好ましく、100~1000g/当量の範囲がより好ましい。
【0014】
前記スルホン酸塩基を有するポリエステル樹脂(B)としては、例えば、芳香族ポリエステル樹脂や脂肪族ポリエステル樹脂等を使用することができるが、マトリックス樹脂との接着強さや保存安定性がより向上することから、芳香族ポリエステル樹脂を使用することが好ましい。
【0015】
前記ポリエステル樹脂(B)はスルホン酸塩基を有することから、水への分散剤としても機能することができる。
【0016】
前記ポリエステル樹脂(B)の有するスルホン酸塩基は、長期保存安定性がより向上することから、前記ポリエステル樹脂(C)中に、0.1~1.0mol/kgの範囲で存在することが好ましく、0.2~0.6mol/kgの範囲で存在することがより好ましい。
【0017】
前記ポリエステル樹脂(B)としては、得られる成形品の機械的強度や保存安定性がより向上することから、5,000~30,000の重量平均分子量を有するものが好ましく、5,000~15,000の範囲であることがより好ましい。
【0018】
前記ポリエステル樹脂(B)としては、得られる成形品の機械的強度がより向上することから、-20~80℃のガラス転移温度を有するものを使用することが好ましい。
【0019】
前記ポリエステル樹脂(B)としては、ポリオール(b1)とポリカルボン酸(b2)とを反応させて得られるものを使用することができる。
【0020】
また、前記ポリエステル樹脂(B)の有するスルホン酸塩基は、前記ポリオール(b1)や前記ポリカルボン酸(b2)の一部に、例えば、スルホン酸塩基を有するポリオールやスルホン酸塩基を有するポリカルボン酸等のスルホン酸塩を有する化合物を使用することによって、前記ポリエステル樹脂(B)中に導入することができる。
【0021】
前記ポリオール(b1)としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族環式構造を有するジオール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の水酸基を3以上有するポリオールなどを使用することができる。
【0022】
また、前記ポリオール(b1)としては、その一部または全部にスルホン酸塩基を有する化合物としてスルホン酸塩基を有するポリオールを使用することもでき、例えば、2-ブテン-1,4-ジオール等の不飽和基を有するポリオールをスルホン化することによって得られるスルホン酸塩基を有するポリオールを使用することができる。
【0023】
前記ポリカルボン酸(b2)としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、水添ダイマー酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等の飽和又は不飽和の脂肪族ポリカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸及びその無水物、テトラヒドロフタル酸及びその無水物等の脂肪族環式構造を有するポリカルボン酸などを使用することができる。これらの中でも、保存安定性がより向上することから、芳香族ポリカルボン酸を使用することが好ましく、テレフタル酸やイソフタル酸を使用することがより好ましい。
【0024】
また、前記ポリカルボン酸(b2)としては、前記したものの他に、トリメリット
酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸等の3以上のカルボキシル基を有するものを使用することもできる。
【0025】
前記ポリカルボン酸(b2)としては、その一部または全部にスルホン酸塩基を有するポリカルボン酸を使用することができる。例えば、4-スルホイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸等の金属塩などが挙げられる。これらの中でも、保存安定性がより向上することから、5-ナトリウムスルホイソフタル酸や、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル等の5-ナトリウムスルホイソフタル酸のエステル化物を使用することが好ましく、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを使用することがより好ましい。
【0026】
前記ポリエステル樹脂(B)は、無溶剤下または有機溶剤下で、前記ポリオール(b1)と前記ポリカルボン酸(b2)とを、従来知られる方法でエステル化反応することによって製造することができる。
【0027】
前記エステル化反応は、具体的には、不活性ガス雰囲気中で触媒の存在下または不存在下に、前記ポリオール(b1)と前記ポリカルボン酸(b2)とを180~300℃に加熱してエステル化あるいはエステル交換反応させ、次いで減圧下に重縮合させる方法で行うことができる。
【0028】
また、前記ポリエステル樹脂(B)を製造する際に使用するスルホン酸塩基を有する化合物は、保存安定性がより向上することから、前記ポリオール(b1)及び前記ポリカルボン酸(b2)の合計の3~30質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0029】
前記芳香族非イオン界面活性剤(C)としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル;ポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンベンジルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンクミルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンナフチルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンナフチルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンスチレン化(メチルフェニルエーテル)等のポリオキシアルキレンスチレン化(アルキルフェニルエーテル)などが挙げられる。これらの中でも、保存安定性及びシランカップリング剤配合安定性がより向上することから、オキシエチレン単位を40以上有するものが好ましく、オキシエチレン単位を40以上有するポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルがより好ましい。これらの芳香族非イオン界面活性剤(C)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0030】
また、本発明の水性エポキシ樹脂組成物には、前記芳香族非イオン界面活性剤(C)以外のその他の界面活性剤を併用することができるが、保存安定性及びシランカップリング剤配合安定性がより向上することから、界面活性剤中のその他の界面活性剤は10%未満であることが好ましい。
【0031】
前記水性媒体としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-
及びイソプロパノール等のアルコール化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール化合物;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル化合物;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム化合物、などが挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0032】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物は、例えば、前記エポキシ樹脂(A)、前記ポリエステル樹脂(B)、芳香族非イオン界面活性剤(C)、溶剤を混合、撹拌し、次いで、それらの混合物と水性媒体とを混合し、必要に応じて脱溶剤することによって得ることができる。
【0033】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物の固形分中の前記エポキシ樹脂(A)は、75~95質量%であるが、得られる成形品の層間せん断強度がより向上することから、80~95質量%が好ましい。
【0034】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物の固形分中の前記ポリエステル樹脂(B)は、分散安定性と配合安定性がより向上することから、0.5~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。
【0035】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物の固形分中の前記芳香族非イオン界面活性剤(C)は、配合安定性と成形品の機械強度がより向上することから、1~25質量%が好ましく、2~20質量%がより好ましい。
【0036】
また、本発明の繊維集束剤の固形分中の、前記ポリエステル樹脂(B)と記芳香族非イオン界面活性剤(C)との質量比(B/C)は、配合安定性と成形品の耐久性がより向上することから、0.1~0.75が好ましい。
【0037】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物の中の固形分は、保存安定性及び経済的な観点から、40~70質量%が好ましく、45~65質量%であることがより好ましい。
【0038】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物の中の前記水性媒体は、保存安定性及び経済的な観点から、30~60質量%が好ましく、35~55質量%であることがより好ましい。
【0039】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物の粘度は、使用時の容器からの取り出しなどの取り扱いが容易となることから、1000mPa・s以下が好ましく、500mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度は、回転式粘度計を用い、水性エポキシ樹脂組成物の温度が25℃で測定した時の値である。
【0040】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物の体積平均粒子径は、貯蔵中の粒子の沈降速度が減少し、長期間均一性が保たれること、繊維に対する粒子の付着が均一になることから、0.1~1.0μmが好ましく、0.1~0.5μmであることがより好ましい。なお、体積平均粒子径は、レーザー回折式の粒度分布計を用い測定した値である。
【0041】
また、本発明の水性エポキシ樹脂組成物は、必要に応じてシランカップリング剤、硬化触媒、潤滑剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤等の添加剤、pH調整剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、分散安定剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、耐熱性付与剤、無機充填剤、有機充填剤、可塑剤、補強剤、触媒、抗菌剤、防カビ剤、防錆剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、顔料、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤を併用することができる。
【0042】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物をガラス繊維の集束剤に使用する場合には、ガラス繊維に対する集束剤の接着強さをより一層向上するうえでシランカップリング剤を組み合わせ使用することが好ましい。
【0043】
前記シランカップリング剤としては、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(2-ヒドロキシルエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-ヒドロキシルエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシランまたはγ-(N,N-ジ-2-ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシランまたはγ-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトフェニルトリメトキシシラン等を使用することができる。
【0044】
前記シランカップリング剤は、本発明の水性エポキシ樹脂組成物の固形分100質量部に対して1~30質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0045】
また、本発明の水性エポキシ樹脂組成物は、例えば、酢ビ系、エチレン酢ビ系、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系等のエマルジョン;スチレン-ブタジエン系、アクリロニトリル-ブタジエン系、アクリル-ブタジエン系等のラテックス、更には、ポリビニルアルコールやセルロース等の水溶性樹脂等と組み合わせ使用することもできる。
【0046】
本発明の繊維集束剤は、本発明の水性エポキシ樹脂組成物を含有するものであるが、例えば、ガラス繊維や炭素繊維等の糸切れや毛羽立ち等を防止することを目的として、複数の繊維の集束や表面処理に使用できる。
【0047】
本発明の繊維集束剤を用いて処理可能な繊維材料としては、例えば、ガラス繊維や炭素繊維、シリコンカーバイド繊維、パルプ、麻、綿、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、ポリイミド、あるいはケブラー、ノーメックス等のアラミド等からなるポリアミド繊維等が挙げられる。これらの中でもガラス繊維や炭素繊維は、高強度であることから使用することが好ましい。
【0048】
前記繊維集束剤を用いて処理可能なガラス繊維としては、例えば含アルカリガラス、低アルカリガラス、無アルカリガラス等を原料にして得られたものを使用することができるが、特に、経時劣化も少なく機械的特性が安定している無アルカリガラス(Eガラス)を使用することが好ましい。
【0049】
また、前記繊維集束剤を用いて処理可能な炭素繊維としては、一般にポリアクリロニトリル系、ピッチ系等の炭素繊維を使用することができる。なかでも、前記炭素繊維としては、優れた強度を付与する観点から、ポリアクリロニトリル系の炭素繊維を使用することが好ましい。
【0050】
また、前記炭素繊維としては、より一層優れた強度等を付与する観点から、0.5~20μmの単糸径を有するものを使用することが好ましく、2~15μmのものを使用することがより好ましい。
【0051】
前記炭素繊維としては、例えば撚糸、紡糸、紡績加工、不織加工したものを使用することができる。また、前記炭素繊維としてはフィラメント、ヤーン、ロービング、ストランド、チョップドストランド、フェルト、ニードルパンチ、クロス、ロービングクロス、ミルドファイバー等のものを使用することができる。
【0052】
前記ガラス繊維や炭素繊維を、本発明の繊維集束剤を用いて集束化し、前記ガラス繊維束や炭素繊維束の表面に、皮膜を形成する方法としては、例えば、繊維集束剤をキスコーター法、ローラー法、浸漬法、スプレー法、刷毛などその他公知の方法で、繊維表面に繊維集束剤を均一に塗布する方法が挙げられる。前記繊維集束剤が溶媒として水性媒体や有機溶剤を含む場合には、前記塗布後に加熱ローラーや熱風、熱板等を用いて、加熱乾燥することが好ましい。
【0053】
前記繊維材料の表面に形成された皮膜の付着量は、集束化され表面処理の施された繊維束の全質量に対して0.1~5質量%であることが好ましく、0.3~1.5質量%であることがより好ましい。
【0054】
前記方法で得られた集束化され表面処理の施された繊維材料、特にガラス繊維や炭素繊維は、後述するマトリックス樹脂(D)等と組み合わせ使用することによって、高強度な成形品を製造するための成形材料に使用することができる。
【0055】
特に、本発明の繊維集束剤によって表面処理の施された繊維材料は、マトリックス樹脂(D)と組み合わせ使用し成形品等を形成した際に、前記繊維とマトリックス樹脂(D)との界面の密着性を著しく向上できるため、成形品の強度を向上することが可能である。
【0056】
前記マトリックス樹脂(D)としては、例えば熱硬化性樹脂(D1)または熱可塑性樹脂(D2)を使用することができる。前記熱硬化性樹脂(D1)としてはフェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂等を使用することができる。前記熱可塑性樹脂(D2)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の飽和ポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、6-ナイロン、6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリアセタール、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン等を使用することができる。
【0057】
本発明の繊維集束剤を用いて集束化等された繊維は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、6-ナイロン、6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトンのマトリックス樹脂と組み合わせ使用することが、高強度な成形品を得る上でより好ましい。
【0058】
前記表面処理の施された繊維材料と前記マトリックス樹脂(D)と、必要に応じて重合性単量体等とを含む成形材料としては、例えばプリプレグやシートモールディングコンパウンド(SMC)等が挙げられる。
【0059】
前記プリプレグは、例えば前記マトリックス樹脂(D)を離型紙上に塗布し、その塗布面に表面処理の施された繊維材料を載置し、必要に応じてローラー等を用いて押圧含浸することによって製造することができる。
【0060】
前記プリプレグを製造する際には、前記マトリックス樹脂(D)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂や、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0061】
また、前記シートモールディングコンパウンドは、例えば前記マトリックス樹脂(D1)と、スチレン等の重合性不飽和単量体との混合物を、前記表面処理の施された繊維材料に十分含浸し、シート状に加工等することによって製造することができる。前記シートモールディングコンパウンドを製造する際には、前記マトリックス樹脂(D1)として、不飽和ポリエステル樹脂や、ビニルエステル樹脂を使用することが好ましい。
【0062】
前記成形材料の硬化は、例えば加圧または常圧下、加熱または光照射によってラジカル重合させることによって進行する。かかる場合には、公知の熱硬化剤や光硬化剤等を組み合わせ使用することができる。
【0063】
また、前記成形材料としては、例えば前記熱可塑性樹脂(D2)と前記表面処理の施された繊維材料とを加熱下で混練等したものが挙げられる。かかる成形材料は、例えば射出成形法等による二次加工に使用することができる。
【0064】
また、前記熱可塑性樹脂(D2)によるプリプレグは、例えば表面処理の施された繊維材料をシート状に載置し、溶融した前記熱可塑性樹脂(D2)を含浸することによって製造することができる。
【0065】
前記熱可塑性樹脂(D2)によるプリプレグは、例えば1枚以上積層し、次いで加圧または常圧下、加熱し成形すること等による二次加工に使用することができる。
【0066】
前記成形材料を用いて得られた成形品は、高強度であることから、例えば自動車部材や航空機部材、産業用部材等に使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお、樹脂の平均分子量は、下記のGPC測定条件で測定したものである。
【0068】
[GPC測定条件]
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度4mg/mLのテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0069】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0070】
(製造例1:ポリエステル樹脂(B-1)の製造)
180℃に調整した反応容器にエチレングリコール558質量部、ジエチレングリコール478質量部、テレフタル酸896質量部、イソフタル酸478質量部、ブチルヒドロキシ錫オキシド0.5質量部を仕込み4時間かけて240℃まで昇温し、その後240℃で反応を続けて約260質量部の溜出液をトラップした。次いで、180℃まで冷却後、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル213質量部、テトライソプロピルチタネート0.5質量部を仕込み、更に、260℃まで昇温し水銀柱2.0mmの減圧下で1時間重縮合反応することによって、重量平均分子量8,900、ガラス転移温度44℃であるポリエステル樹脂(B-1)を得た。このポリエステル(B-1)のスルホン酸塩基濃度は0.31mol/kg、カルボキシル基濃度は0.05mmol/gであった。
【0071】
(製造例2:ポリエステル樹脂(RB-1)の製造)
製造例1で使用した5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルの全量の代わりにトリメリット酸53質量部を用いること以外は、製造例1と同様の方法で重縮合反応することによって、ポリエステル樹脂(RB-1)を得た。このポリエステル(RB-1)の重量平均分子量は11,000、カルボキシル基濃度は0.31mmol/gであった。
【0072】
(実施例1:水性エポキシ樹脂組成物(1)の製造及び評価)
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応容器に、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量209g/当量、軟化点75℃;以下「エポキシ樹脂(A-1)」と略記する。)180質量部、ポリエステル樹脂(B-1)4質量部、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(オキシエチレン平均付加モル数40;以下「芳香族非イオン界面活性剤(C-1)」と略記する。)8質量部、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(オキシエチレン平均付加モル数18;以下「芳香族非イオン界面活性剤(C-2)」と略記する。)8質量部及びメチルエチルケトン77質量部を加え、75℃で溶解した後、40℃に冷却した。次いで、ホモミキサーで撹拌しながらイオン交換水530質量部を徐々に加え水分散体を得た。この水分散体から溶剤を減圧留去し、不揮発分60%に濃縮することによって水性エポキシ樹脂組成物(1)を得た。
【0073】
(実施例2:水性エポキシ樹脂組成物(2)の製造及び評価)
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応容器に、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量182g/当量、半固形型;以下「エポキシ樹脂(A-2)」と略記する。)184質量部、ポリエステル樹脂(B-1)2質量部、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(オキシエチレン平均付加モル数60;以下「芳香族非イオン界面活性剤(C-3)」と略記する。)10質量部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリスチレン化フェニルエーテル(オキシエチレン平均付加モル数21、オキシプロピレン平均付加モル数4;以下「芳香族非イオン界面活性剤(C-4)」と略記する。))4質量部及びメチルエチルケトン79質量部を加え、75℃で溶解した後、40℃に冷却した。次いで、ホモミキサーで撹拌しながらイオン交換水530質量部を徐々に加え水分散体を得た。この水分散体から溶剤を減圧留去し、不揮発分50質量%に濃縮することによって水性エポキシ樹脂組成物(2)を得た。
【0074】
(実施例3:水性エポキシ樹脂組成物(3)の製造及び評価)
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応容器に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量475g/当量、軟化点70℃;以下「エポキシ樹脂(A-3)」と略記する。)188質量部、ポリエステル樹脂(B-1)4質量部、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル(オキシエチレン平均付加モル数40;以下「芳香族非イオン界面活性剤(C-5)」と略記する。)8質量部及びメチルエチルケトン81質量部を加え、75℃で溶解した後、40℃に冷却した。次いで、ホモミキサーで撹拌しながらイオン交換水520質量部を徐々に加え水分散体を得た。この水分散体から溶剤を減圧留去し、不揮発分55質量%に濃縮することによって水性エポキシ樹脂組成物(3)を得た。
【0075】
(実施例4:水性エポキシ樹脂組成物(4)の製造及び評価)
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応容器に、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量210g/当量、軟化点85℃;以下「エポキシ樹脂(A-4)」と略記する。)180質量部、ポリエステル樹脂(B-1)6質量部、芳香族非イオン界面活性剤(C-3)8質量部、芳香族非イオン界面活性剤(C-4)4質量部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(重量平均分子量17000、オキシエチレン成分80質量%)2質量部及びメチルエチルケトン77質量部を加え、75℃で溶解した後、40℃に冷却した。次いで、ホモミキサーで撹拌しながらイオン交換水511質量部を徐々に加え水分散体を得た。この水分散体から溶剤を減圧留去し、不揮発分50質量%に濃縮することによって水性エポキシ樹脂組成物(4)を得た。
【0076】
(比較例1:水性エポキシ樹脂組成物(R1)の製造及び評価)
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応容器に、エポキシ樹脂(A-1)200質量部及びポリエステル樹脂(B-1)200質量部、N-メチル-2-ピロリドン130質量部及びメチルエチルケトン50質量部を加え、75℃で溶解した後、60℃に冷却した。次いで、ホモミキサーで撹拌しながらイオン交換水1000質量部を徐々に加え水分散体を得た。この水分散体からメチルエチルケトンを減圧留去し、不揮発分35質量%に濃縮することによって水性エポキシ樹脂組成物(R1)を得た。
【0077】
(比較例2:水性エポキシ樹脂組成物(R2)の製造及び評価)
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応容器に、エポキシ樹脂(A-2)70質量部、ポリエステル(B-1)6質量部、芳香族非イオン界面活性剤(C-3)60質量部、芳香族非イオン界面活性剤(C-2)64質量部及びメチルエチルケトン30質量部を加え、75℃で溶解した後、40℃に冷却した。次いで、ホモミキサーで撹拌しながらイオン交換水570質量部を徐々に加え水分散体を得た。この水分散体から溶剤を減圧留去し、不揮発分35質量%に濃縮することによって水性エポキシ樹脂組成物(R2)を得た。
【0078】
(比較例3:水性エポキシ樹脂組成物(R3)の製造及び評価)
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応容器に、エポキシ樹脂(A-2)180質量部、ポリエステル(RB-1)4質量部、芳香族非イオン界面活性剤(C-3)8質量部、芳香族非イオン界面活性剤(C-2)8質量部及びメチルエチルケトン77質量部を加え、75℃で溶解した後、40℃に冷却した。次いで、トリエチルアミン6.2質量部を加えて均一になるまで撹拌、混合した。次いで、イオン交換水530質量部を徐々に加え水分散体を得た。この水分散体から溶剤を減圧留去し、不揮発分35質量%に濃縮することによって水性エポキシ樹脂組成物(R3)を得た。
【0079】
(比較例4:水性エポキシ樹脂組成物(R4)の製造及び評価)
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応容器に、エポキシ樹脂(A-1)180質量部、芳香族非イオン界面活性剤(C-1)10質量部、芳香族非イオン界面活性剤(C-2)10質量部及びメチルエチルケトン77質量部を加え、75℃で溶解した後、40℃に冷却した。次いで、ホモミキサーで撹拌しながらイオン交換水530質量部を徐々に加え水分散体を得た。この水分散体から溶剤を減圧留去し、不揮発分40質量%に濃縮することによって水性エポキシ樹脂組成物(R4)を得た。
【0080】
[不揮発分の測定方法]
風袋を予め小数点以下4桁目まで精秤しておいた金属シャーレ(内径65mm、深さ14mm)に、上記で得た水性エポキシ樹脂組成物の約1gを、小数点以下4桁目まで精秤し、イオン交換水5ml加えて、熱風循環式乾燥機内で107℃/1.5時間乾燥した後の試料の残量から不揮発分を求めた。以下に不揮発分の算出式を示す。
不揮発分(質量%)=[(W3-W1)/(W2-W1)]×100
W1;金属シャーレの質量(g)
W2;金属シャーレの質量+秤取した試料の質量(g)
W3;金属シャーレの質量+乾燥後の試料の質量(g)
【0081】
[粘度の測定方法]
上記で得た製造直後の水性エポキシ樹脂組成物について、下記の測定機器を用いて測定した。
測定機器;VISCOMETER MODEL RB100L(東機産業株式会社製)、測定温度;25℃、ローター回転数;60rpm、測定時間;60秒
【0082】
[平均粒子径の測定方法]
上記で得た製造直後の水性エポキシ樹脂組成物について、エポキシ樹脂の濃度が数十~数百ppmの範囲となるように、イオン交換水を用いて希釈したものを測定溶液として用い、下記測定機器を用いて体積平均粒子径を測定した。
測定機器;SALD-2300(株式会社島津製作所製)、測定温度;23℃
【0083】
[保存安定性(外観)の評価]
上記で得た水性エポキシ樹脂組成物を40℃で30日間保存し、沈殿物の発生や液の固化現象の有無を目視で確認し、下記の基準により保存安定性を評価した。
○:変化なし
△:若干の沈殿物あり
×:沈殿物の発生が激しい、または固化
【0084】
[保存安定性(エポキシ基残存率)の評価]
上記で得た水性エポキシ樹脂組成物を40℃で30日間保存し、保存前後のエポキシ当量を塩酸ピリジン法によって測定し、エポキシ基の残存率を算出した。
「エポキシ基の残存率(%)」=「保存前のエポキシ当量(g/当量)」/「保存後のエポキシ当量(g/当量)」×100
【0085】
[配合安定性の評価]
上記で得た水性エポキシ樹脂組成物にイオン交換水及びγ-アミノプロピルトリエトキシシランを加え、エポキシ樹脂/γ-アミノプロピルトリエトキシシラン=10/1(固形分比)の不揮発分20質量%水希釈液を作製した。次いで、40℃で3日間静置し、凝集物の発生や液の固化現象の有無を目視で確認し、下記の基準により配合安定性を評価した。
○:変化なし
△:若干の沈殿物あり
×:沈殿物の発生が激しい、または固化
【0086】
[炭素繊維の集束剤処理]
ポリアクリロニトリル系炭素繊維(直径7μm/7000本)のノーサイズ糸を束ね、上記で得た水性エポキシ樹脂組成物をイオン交換水で不揮発分5質量%に希釈したものを浸漬法で含浸し、ローラーで絞ることで有効成分の付着量を1質量%に調整し、次いで、150℃で30分間熱処理することによって、水性エポキシ樹脂組成物によって表面処理の施された炭素繊維束を得た。
【0087】
[エポキシ成形品の作製]
ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量188g/当量)50質量部、ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂(エポキシ当量475g/当量、軟化点70℃)20質量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量209g/当量、軟化点75℃)30質量部に、ジシアンジアミド4質量部及びN-(3,4-ジクロロフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア4質量部を調合し離型紙上に塗布した。塗布した樹脂フィルム上に上記で得た炭素繊維束を等間隔で一方向に引き揃え並べた後、加熱してエポキシ樹脂を含浸し、炭素繊維含有率が60体積%のプリプレグを作成した。作成したプリプレグを積層し、150℃加圧下で1時間、続いて140℃で4時間処理することによって、成形品を得た。
【0088】
[エポキシ成形品の層間せん断強度の評価]
成形品の厚さ2.5mm、幅6.0mmの試験板について、ASTM D-2344に準拠した方法で層間せん断強度を測定した。また、同様の試験板を蒸留水中で72時間煮沸処理した後のものについても、同様に層間せん断強度を測定した。
【0089】
[炭素繊維チョップドストランドの作製]
ポリアクリロニトリル系炭素繊維(直径7μm/6000本)のノーサイズ糸を束ね、上記で得た水性エポキシ樹脂組成物をイオン交換水で不揮発分5質量%に希釈したものを浸漬法で含浸し、ローラーで絞ることで有効成分の付着量を1質量%に調整した。次いで、炭素繊維束を約4mmの長さに裁断し、150℃で30分間熱処理することによって、炭素繊維集束剤によって表面処理の施された炭素繊維チョップドストランドを得た。
【0090】
[PPS成形品の作製]
上記で得られた炭素繊維チョップドストランド30質量部またはガラス繊維チョップドストランド30質量部とポリフェニレンスルフィド(PPS)70質量部とを均一に混合した。次いで、ベント付き2軸押出機に前記配合材料を投入し、設定樹脂温度330℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを用いて射出成形機にて成形し、PPS成形品を得た。
【0091】
[PPS成形品の引張強度の測定]
ISO527の測定方法に準拠して、各試験片について引張強度を測定した。試験片は、全長170mm、狭い平行部長さ80mm、狭い平行部幅10mm、広い平行部分の距離109mm、広い平行部幅20mm、厚さ4mmのダンベル型引張試験片を用いた。
【0092】
[PPS成形品の耐湿熱性の測定]
各試験片を140℃の高温下でエチレングリコール水溶液(50質量%)に3000時間浸漬した後、ISO527の測定方法に準拠して、各試験片について引張強度を測定した。
【0093】
上記の実施例1~4の組成及び評価結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
上記の比較例1~4の組成及び評価結果を表2に示す。
【0096】
【0097】
本発明の水性エポキシ樹脂組成物である実施例1~4のものは、保存安定性及び配合安定性に優れ、これを用いて得られる成形品は層間せん断強度及び引張強度に優れることが確認された。
【0098】
一方、比較例1は、本発明の必須成分である芳香族非イオン界面活性剤(C)を含有しない例であるが、配合安定性が劣り、成形品の層間せん断強度も不十分であることが確認された。
【0099】
比較例2は、エポキシ樹脂(A)の含有量が本願発明の下限より少ない例であるが、成形品の層間せん断強度及び耐湿熱試験後の引張強度が不十分であることが確認された。
【0100】
比較例3及び4は、本発明の必須成分であるスルホン酸基を有するポリエステル樹脂(B)を含有しない例であるが、保存安定性が不十分であることが確認された。