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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】育苗鉢体及びその分解促進方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/02 20180101AFI20230511BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230511BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A01G9/02 101U
B32B27/36 ZBP
B32B27/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020016396
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021122204
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000231981
【氏名又は名称】日本甜菜製糖株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000166649
【氏名又は名称】五洋紙工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】太田 泰臣
(72)【発明者】
【氏名】川村 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 永久也
(72)【発明者】
【氏名】北本 宏子
(72)【発明者】
【氏名】中元 道徳
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-121054(JP,A)
【文献】特開2016-023194(JP,A)
【文献】特開2019-088226(JP,A)
【文献】特開2017-212912(JP,A)
【文献】特開2012-205538(JP,A)
【文献】特開2010-178639(JP,A)
【文献】特開2014-083687(JP,A)
【文献】特開2019-119025(JP,A)
【文献】特開2001-103847(JP,A)
【文献】特開2019-147615(JP,A)
【文献】特開2013-142153(JP,A)
【文献】特開2013-192469(JP,A)
【文献】特開2013-048563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/02
B32B 27/36
B32B 27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂組成物を紙基材上に積層してなる育苗鉢体用原紙であり、該原紙からなる育苗鉢体は圃場に植付けする直前酵素処理されることにより分解される方法に使用される原紙であって、
該樹脂組成物は、樹脂(A)としてポリ乳酸系樹脂、樹脂(B)としてポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂および樹脂(C)として芳香族ポリエステル系樹脂を含み、樹脂(A)と樹脂(B)の質量比が5:95~13:87であり、
さらに当該生分解性樹脂組成物100質量%当り、アンチブロッキング剤を0.01~5質量%含有することを特徴とする育苗鉢体用原紙。
【請求項2】
樹脂(C)の含有量が、生分解性樹脂組成物成分の合計質量に対して0.1~30質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の育苗鉢体用原紙。
【請求項3】
樹脂(C)の含有量が、生分解性樹脂組成物成分の合計質量に対して12~30質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の育苗鉢体用原紙。
【請求項4】
樹脂(C)の含有量が、生分解性樹脂組成物成分の合計質量に対して16~25質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の育苗鉢体用原紙。
【請求項5】
樹脂(C)の含有量が、生分解性樹脂組成物成分の合計質量に対して20~25質量%
の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の育苗鉢体用原紙。
【請求項6】
樹脂(A)が、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
【請求項7】
樹脂(B)が、脂肪族ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分と脂肪族ジオールからなるジオール成分を重縮合してなる脂肪族ポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
【請求項8】
樹脂(B)が、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)及びポリヒドロキシ酪酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
【請求項9】
樹脂(C)が、脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分と脂肪族ジオールからなるジオール成分を重縮合してなる芳香族ポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
【請求項10】
樹脂(C)が、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙からなることを特徴とする育苗鉢体。
【請求項12】
生分解性樹脂分解酵素を請求項11に記載の育苗鉢体に接触させ、請求項11に記載の育苗鉢体を生分解する工程を有することを特徴とする、育苗鉢体を分解する方法。
【請求項13】
前記生分解性樹脂分解酵素が、Pseudozyma属酵母、Cryptococcus属酵母、Acremonium属糸状菌、Alternaria属糸状菌、Arthrinium属糸状菌、Aureobasidium属糸状菌、Cladosporium属糸状菌、Epicoccum属糸状菌、Fusarium属糸状菌、Paraphoma属糸状菌及びPeniciccium属糸状菌からなる群から選ばれる少なくとも1種の微生物により産生される生分解性樹脂分解酵素であることを特徴とする、請求項12に記載の育苗鉢体を分解する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
農業または園芸の分野で使用され、育苗鉢体用原紙から成型加工により成形される育苗鉢体に関するもので、育苗期間中は鉢体の形態を保ち、育苗後はそのまま地中に植付けが可能で、さらに、植付け後の分解制御が可能であることを特徴とする育苗鉢体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、四角柱状あるいは六角柱状に加工された紙製の鉢体を用いて植物を栽培する、育苗移植栽培法が広く実用されている。この栽培法は、具体的には、紙で作られた四角柱状あるいは六角柱状の鉢体に培養土を詰め、播種し、灌水管理下にて育苗し、育苗の完了した苗を鉢に付けたままの状態の苗、すなわち鉢苗で圃場に植え付けて栽培するものである。
【0003】
特許文献1で示される育苗移植用連続集合鉢体においては、四角または六角筒状の個別鉢体を連結片にて連結して連続体をなしている。また、特許文献2には、簡易移植機にて当該鉢苗を一端から連続して引き出して順次植付ける際には、連続鉢苗を一個一個に分離することなく連続状態を保持する必要があることが示されている。
【0004】
特許文献3、特許文献4には、紙基材上に熱可塑性生分解性樹脂層を設けた積層シートを用いて作製された育苗ポットが圃場に植付け後に速やかに分解する性質を有する点が開示されている。
【0005】
一方で、特許文献5、特許文献6においては、圃場に敷設された農業用マルチフィルムに微生物由来の酵素を直接投与することによって任意のタイミングで分解の進行を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4543393号公報
【文献】特許第6126486号公報
【文献】特許第4763123号公報
【文献】特開2004-121054号公報
【文献】特許第6338183号公報
【文献】特許第5849297号公報
【文献】特公昭38-025715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に提案または示唆されるように、連続鉢体の紙には、圃場へ植付けられるまでの一連の流れの中で主に圃場に向けて引き出される際のテンションに耐えうる物理的強度、すなわち引張強度が要求される。しかしながら、従来技術の育苗鉢体用原紙にあっては、育苗期間及び植付け時の十分な強度を備えることに伴って、圃場での分解速度が遅くなる傾向にある。従って、次作までに分解が間に合わずに不完全になると農作業並びに作物の収穫に支障をきたす場合がある。よって、育苗鉢体には、育苗中には分解の進行を抑制させて植付け時に十分な強度を保持する一方で、圃場に植付けた後に速やかに分解するという相反する両特性を有することが求められる。
特許文献3及び特許文献4においては、熱可塑性生分解性樹脂層を育苗ポットに適用することにより、育苗ポットが圃場に植付け後に分解する性質が開示されているが、育苗時
と植付け後とで任意に分解を制御する技術がまだ確立されていない。
さらに、特許文献5及び特許文献6に微生物由来の酵素を直接投与することによって任意のタイミングで農業用マルチフィルムを生分解の進行を制御する技術が開示されているが、そもそも農業用マルチフィルムと育苗用鉢体とは、資材の使用目的、適用場面・条件、並びに、それに伴って要求される物理的強度・化学的性質等を含めた物品の特性が異なるため、単純には転用できない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、生分解性樹脂であるポリ乳酸系樹脂、ポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂、および芳香族ポリエステル系樹脂を下記の割合で配合した生分解性樹脂組成物を、紙基材の少なくとも一方の面にラミネートして、育苗鉢体用原紙を提供する。また本発明は、該育苗鉢体用原紙からなる該育苗鉢体に対して、微生物由来の酵素を処理することで、植付け時には一定の強度を保持する一方で、植付け後には分解の進行を制御することを可能とした育苗鉢体を提供する。
すなわち本発明は、以下の一群の発明に関する。
1.生分解性樹脂組成物を紙基材上に積層してなる育苗鉢体用原紙であって、
該樹脂組成物は、樹脂(A)としてポリ乳酸系樹脂、樹脂(B)としてポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂および樹脂(C)として芳香族ポリエステル系樹脂を含み、
樹脂(A)と樹脂(B)の質量比が5:95~13:87である、育苗鉢体用原紙。
2.樹脂(C)の含有量が、生分解性樹脂組成物成分の合計質量に対して0.1~30質量%の範囲であることを特徴とする上記1項に記載の育苗鉢体用原紙。
3.樹脂(C)の含有量が、生分解性樹脂組成物成分の合計質量に対して12~30質量%の範囲であることを特徴とする上記1項に記載の育苗鉢体用原紙。
4.樹脂(C)の含有量が、生分解性樹脂組成物成分の合計質量に対して16~25質量%の範囲であることを特徴とする上記1項に記載の育苗鉢体用原紙。
5.樹脂(C)の含有量が、生分解性樹脂組成物成分の合計質量に対して20~25質量%の範囲であることを特徴とする上記1項に記載の育苗鉢体用原紙。
6.生分解性樹脂組成物は、当該生分解性樹脂組成物100質量%当り、アンチブロッキング剤をさらに0.01~5質量%含有することを特徴とする上記1項乃至上記5項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
7.樹脂(A)が、ポリ乳酸であることを特徴とする上記1項乃至上記6項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
8.樹脂(B)が、脂肪族ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分と脂肪族ジオールからなるジオール成分を重縮合してなる脂肪族ポリエステル系樹脂であることを特徴とする上記1項乃至上記7項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
9.樹脂(B)が、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)及びポリヒドロキシ酪酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記1項乃至上記8項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
10.樹脂(C)が、脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分と脂肪族ジオールからなるジオール成分を重縮合してなる芳香族ポリエステル系樹脂であることを特徴とする上記1項乃至上記9項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
11.樹脂(C)が、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)であることを特徴とする上記1項乃至上記10項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙。
12.上記1項乃至上記11項のいずれか1項に記載の育苗鉢体用原紙からなることを特徴とする育苗鉢体。
13.生分解性樹脂分解酵素を上記12項の育苗鉢体に接触させ、上記12項に記載の育苗鉢体を生分解する工程を有することを特徴とする、育苗鉢体を分解する方法。
14.前記生分解性樹脂分解酵素が、Pseudozyma属酵母、Cryptococ
cus属酵母、Acremonium属糸状菌、Alternaria属糸状菌、Arthrinium属糸状菌、Aureobasidium属糸状菌、Cladosporium属糸状菌、Epicoccum属糸状菌、Fusarium属糸状菌、Paraphoma属糸状菌及びPeniciccium属糸状菌からなる群から選ばれる少なくとも1種の微生物により産生される生分解性樹脂分解酵素であることを特徴とする、上記13項に記載の育苗鉢体を分解する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下記の特徴を有する育苗鉢体用原紙及び育苗鉢体を提供することができる。
即ち、本発明の育苗鉢体用原紙からなる育苗鉢体は、育苗中の分解が抑制されることで、育苗期間及び植付け時に十分な強度を備えることができる。これにより、圃場への植付け作業を滞りなく進めることが可能となる。そして、育苗鉢体が育苗中に鉢体の形を維持できるため、植付け時に苗を傷めないので植付けの活着率が高い。さらに、本発明の育苗鉢体用原紙からなる育苗鉢体は圃場に植付けする直前及び/又は直後に酵素処理により、土の中で鉢体の生分解の進行が制御され、鉢体を徐々に崩壊させることができる。これで、苗の根が自由に伸張でき、苗の成長に妨げとならない。そして、分解が不十分のため残る育苗鉢体残渣の発生を低減することができ、次作にも影響しない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、酵素処理あり及び酵素処理なしの生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙について、埋没2週間経過後における当該紙の引張強度を示すグラフである。
図2図2は、酵素処理あり及び酵素処理なしの生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙について、埋没4週間経過後における当該紙の引張強度を示すグラフである。
図3図3は、生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙から作製した育苗鉢体の写真である。
図4図4は、生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙から作製した育苗鉢体を用いて4週間育苗した後、移植直前の酵素処理なし及び酵素処理あり(上面散布、浸漬30秒、浸漬1時間)の場合、プランターに移植し3週間栽培した後、当該紙の引張強度を示すグラフである。
図5図5は、生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙から作製した育苗鉢体にコマツナを播種し4週間育苗した後(プランターへの移植直前)の苗の成長状況を撮影した写真(上図)、並びに、育苗鉢体を作製する生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙を展開した状態を撮影した写真(下図)であり、下図の写真E~Hは、実施例サンプルE~Hを示す。
図6図6は、生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙から作製した育苗鉢体にコマツナを播種し4週間育苗し、移植直前の酵素処理なしの場合、プランターに移植し3週間栽培した後の苗の成長状況を撮影した写真(上図)、並びに、育苗鉢体を作製する生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙を展開した状態を撮影した写真(下図)であり、上図及び下図の写真E~Hは、実施例サンプルE~Hを示す。
図7図7は、生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙から作製した育苗鉢体にコマツナを播種し4週間育苗し、移植直前の酵素処理あり(上面散布)の場合、プランターに移植し3週間栽培した後の苗の成長状況を撮影した写真(上図)、並びに、育苗鉢体を作製する生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙を展開した状態を撮影した写真(下図)であり、上図及び下図の写真E~Hは、実施例サンプルE~Hを示す。
図8図8は、生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙から作製した育苗鉢体にコマツナを播種し4週間育苗し、移植直前の酵素処理あり(30秒浸漬処理)の場合、プランターに移植し3週間栽培した後の苗の成長状況を撮影した写真(上図)、並びに、育苗鉢体を作製する生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙を展開した状態を撮影した写真(下図)であり、上図及び下図の写真E~Hは、実施例サンプルE~Hを示す。
図9図9は、生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙から作製した育苗鉢体にコマツナを播種し4週間育苗し、移植直前の酵素処理あり(1時間浸漬処理)の場合、プランターに移植し3週間栽培した後の苗の成長状況を撮影した写真(上図)、並びに、育苗鉢体を作製する生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙を展開した状態を撮影した写真(下図)であり、上図及び下図の写真E~Hは、実施例サンプルE~Hを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<育苗鉢体>
育苗鉢体は、生分解性樹脂組成物を紙基材の少なくとも一方の面にラミネートしたラミネート紙を、例えば四角あるいは六角柱状に成型することによりなる。さらに当該個別の鉢体を連結片にて連結することにより連続鉢体を成型することができる。
【0012】
育苗鉢体用原紙に求められる主な特性としては、(1)鉢体の製造時の折り曲げ、引っ張り等の機械的な加工に耐える乾燥時の紙力を有すること、(2)育苗中の微生物による生分解に対する耐性(耐腐性)を有すること、(3)耐腐性を維持することによって、育苗後に圃場へ植付ける際に、機械的・人為的な取扱いに耐える湿潤時の紙力を有すること、(4)植付け後においては土壌の性質に左右されずに、鉢側壁からの速やかな根の伸張を許容する脆性を有し、土壌の微生物などの作用によって生分解する土壌崩壊性を有することが挙げられる。特に(4)の特性は(3)の特性と相反することから、両特性を両立させることが課題となる。また、適用する作物又はその作業の態様によって、育苗鉢体の仕様(下述の通り、例えば、特許文献1と特許文献7の違い)、育苗期間、育苗管理の条件(管理温度、灌水量等)、植付けの際に要求される育苗鉢体の湿潤時の紙力等が異なることから、(1)~(4)の各特性を任意のバランスになるよう調整することにより、各種作物に応じて育苗鉢体の物理的・化学的強度等を適宜設定することが合理的である。
【0013】
具体的には、(3)の特性については、引張強度を指標として示すことができるところ(JIS P8113:1998に準じて、オートグラフ引張試験機により測定)、特許文献1で示される育苗移植用連続集合鉢体を、特許文献2で示される簡易移植機で植付けることを想定した場合には、育苗終了時(植付けの際)の引張強度が、10N/30mm以上、より好ましくは15N/30mm以上、特に好ましくは20N/30mm以上であることが望ましい。一方で、特許文献7で示される個々の紙器(鉢体)に分離するタイプの育苗鉢体においては、筒状の紙器の形状を保持できれば良く、引張強度は5N/30mm以上であることが望ましい。尚、当該強度は、紙基材の坪量と生分解性樹脂層の厚さを適宜設定することによって、調整することができる。
【0014】
<紙基材>
本発明に使用される紙基材は、セルロース繊維を主成分として含有するものであれば、その原料パルプの種類やセルロース繊維の含有量は特に限定されない。例えば、通常の製紙材料として使用するパルプを含有する紙が挙げられる。より具体的には、未晒、半晒または晒のクラフトパルプ、サルファイトパルプ、セミケミカルパルプ、ソーダパルプ、針葉樹および広葉樹からの機械パルプ、および古紙などが挙げられ、これらを単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。特に、漂白していない未晒のパルプからなるものを好適に用いることができる。
本発明で使用する紙には、必要に応じて、バインダー、填料、紙力増強剤、サイズ剤、歩留まり向上剤、防腐剤等の通常抄紙に用いられる各種助剤や、ポリエチレンやポリエステル等の合成繊維を含有することができる。また、澱粉、ポリビニルアルコール等によりサイズ処理されていてもよく、無機顔料を主成分とするコート層やレジンコート層を有していてもよい。
【0015】
紙基材の坪量は、特に限定されないが、20~200g/m2であることが好ましく、30~100g/m2がより好ましく、45~85g/m2が特に好ましい。
【0016】
<生分解性樹脂>
「生分解性樹脂」
生分解性樹脂とは、使用時は従来の石油由来のプラスチックと同様の機能を有し、使用後は自然界の土壌中や水中の微生物により一定の時間で生分解され、最終的に水と二酸化炭素に加水分解される樹脂を指す。
本発明で使用する生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂を挙げることができる。
なお、本発明の脂肪族ポリエステルは、芳香環を含まない脂肪族ポリエステルを指し、脂肪族ポリエステル系樹脂は、芳香環を含まない脂肪族ポリエステル系樹脂を指す。さらに、本発明の芳香族ポリエステルは、芳香環を含むポリエステルを指し、芳香族ポリエステル系樹脂は、芳香環を含むポリエステル系樹脂を指す。
【0017】
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)またはポリヒドロキシバリレート(PHV)もしくはその共重合体(PHVB)等が挙げられる。
【0018】
尚、ポリ乳酸系樹脂は、本発明の樹脂(A)とする。ポリ乳酸系樹脂は、乳酸の縮合体であれば、特に制限されるものではなく、ポリ-L-乳酸樹脂であっても、ポリ-D-乳酸樹脂であっても、それらの混合物(例えば、ポリ-L-乳酸樹脂とポリ-D-乳酸樹脂とを混合したステレオコンプレックス型ポリ乳酸樹脂)であってもよい。
【0019】
また、ポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂は、本発明の樹脂(B)とする。ポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂は、脂肪族ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分と脂肪族ジオールからなるジオール成分とをエステル化又はエステル交換反応と、重縮合反応を行って得られる脂肪族ポリエステル系樹脂である。例えば、ポリブチレンサクシネート(PBS)の場合は、コハク酸からなるジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールからなるジオール成分をエステル化又はエステル交換反応と、重縮合反応を行って得られる。そして、その他の成分を含めることもできる。例えば、その他のジカルボン酸成分やその他のジオール成分を含めることができる。その他のジカルボン酸成分として、アジピン酸、セバシン酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。その他のジオール成分としては、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等を挙げられる。
【0020】
芳香族ポリエステル系樹脂は、本発明の樹脂(C)として、ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレートアルキレート系樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート系樹脂が挙げられる。特に、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)が好ましい。ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)は、アジピン酸およびテレフタル酸からなるジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールからなるジオール成分との重縮合反応することによりなるが、その他の成分を含めることができる。例えば、その他のジオール成分を含めることができる。その他のジオール成分としては、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等を挙げることができる。
【0021】
「生分解性樹脂の配合割合」
上記生分解性樹脂は、混合樹脂として、フィルム成形性、物性を考慮する場合、融点が50~180℃であり、かつ重量平均分子量が50000以上である脂肪族ポリエステル
または芳香族ポリエステルが良好な成形品を得るうえで好ましい。当該混合樹脂を育苗鉢体に用いることにより、育苗中は分解せずに植付け時に一定の強度を維持し、植付け直前及び/又は直後に酵素処理することで圃場への植付け後の分解の進行を速めることを可能とする。
【0022】
ポリ乳酸系樹脂と脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸系樹脂以外)の質量比は、5:95~13:87である。この範囲で構成する生分解性樹脂組成物が、育苗期間の耐腐性及び生分解性樹脂分解酵素による被分解性、成形性、柔軟性の各特性を保持する上で好適である。
【0023】
上記脂肪族ポリエステル系樹脂の他に、芳香族ポリエステル系樹脂を含有することによって、圃場での土壌分解の進行速度や酵素反応性を任意に調整することができる。生分解性樹脂組成物の合計質量に対して、0.1~30質量%、好ましくは12~30質量%、さらに好ましくは16~25質量%、特に好ましくは20~25質量%の範囲で含有するものが、育苗期間の耐腐性及び生分解性樹脂分解酵素による被分解性、さらに成形性、柔軟性の各特性を保持する上で好適である。
【0024】
脂肪族ポリエステル系樹脂は、PTTMCCバイオケム社製「BioPBS(登録商標) FZ71PM」(コハク酸と1,4-ブタンジオールを重縮合してなる脂肪族ポリエステル系樹脂、融点:約115℃)、三菱ケミカル社製「GSPLA(登録商標) FZ71PN」(同上、融点:約115℃)を挙げることができる。
ポリ乳酸系樹脂は、ネイチャーワークス社製の「Ingeo(登録商標)4032D」を挙げることができる。
芳香族ポリエステル系樹脂は、BASF社製の「エコフレックス」(1,4-ブタンジオールとアジピン酸およびテレフタル酸からなる芳香族ポリエステルを重縮合してなる芳香族ポリエステル系樹脂、融点:約110℃)を挙げることができる。
【0025】
さらに、生分解性樹脂組成物に、該生分解性樹脂組成物100質量%当り、0.01~5質量%のアンチブロッキング剤を併用することで、成形性をより向上させることができる。アンチブロッキング剤の具体例としては、シリカ、二酸化チタン、アルミナ等の安定な金属酸化物、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム等の安定な金属塩、またはポリ乳酸系樹脂を不活性な有機樹脂で被覆した、いわゆる有機系ビーズなどが挙げられる。これらのアンチブロッキング剤は1種類を単独で用いても良く、また2種以上を併用しても良い。
【0026】
また、本発明においては、発明の目的を逸脱しない範囲で、PCL、生分解性芳香族ポリエステル樹脂、造核剤のほか、公知の生分解性樹脂、非生分解性樹脂、無機充填剤、有機充填剤、無機顔料、有機顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤を配合して良い。
【0027】
「積層方法(ラミネート)」
本発明の生分解性の育苗鉢体は、以上のような生分解性樹脂を紙の少なくとも一方の面に積層することによって作製した積層シートよりなる。積層シートは、基材となる紙の表面をコロナ放電処理、フレーム処理、アンカーコート処理等を行って、その処理面に生分解性樹脂を押出してラミネートする。この際、押出しラミネートの加工安定性を増すために、生分解性樹脂と一緒にポリエチレン等の汎用プラスチックを共押出しし、その後汎用プラスチックフィルムを剥離して紙と生分解性樹脂の積層シートを得る方法もある。
紙基材に積層する生分解樹脂層の厚みは、特に限定されないが、5~80μmであることが好ましく、15~50μmがより好ましく、20~35μmが特に好ましい。尚、樹脂層の厚みによって育苗鉢体の物理的強度及び酵素処理による分解の進行を任意に調整す
ることができる。
【0028】
<生分解性樹脂を分解する方法>
「生分解性樹脂分解酵素」
生分解性樹脂分解酵素としては、従来公知の酵素を使用することができ、例えば、リパーゼ、クチナーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、リゾホスホリパーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、ペプチターゼ、セリンハイドロラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ等の加水分解酵素及びペルオキシターゼ、モノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、ラッカーゼ等の酸化還元酵素を挙げることができ、リパーゼ、クチナーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼが好ましい。具体的には、酵母Pseudozyma antarcticaの産生するクチナーゼ様酵素PaE、Cryptococcus magnus類縁株BPD1Aの産生するCmCut1、Cryptococcus flavus GB-1株の産生するCfCLE GB-1及びCryptococcus flavus Sb19-1株の産生するCfCLE Sb19-1、Cryptococcus sp. S-2株の産生するCLE、Paraphoma属糸状菌B47-9株の産生するPCLEを使用することができる。
【0029】
「酵素の由来」
生分解性樹脂分解酵素を産生する微生物としては、特に限定されるものではないが、自然界から単離された株等、任意の株を使用する。具体的には、シュードモナス(Pseudomonas)属、シュードザイマ(Pseudozyma)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、ムコール(Mucor)属、フミコラ(Humicola)属、テルモミセス(Thermomyces)属、タラロミセス(Talaromyces)属、ケトミウム(Chaetomium)属、トルラ(Torula)属、スポロトリクム(Sporotrichum)属、マルブランケア(Malbranchea)属、アシドボラックス(Acidovorax)属等の微生物を挙げることができる。具体的には、葉面酵母であるPseudozyma antarctica、Cryptococcus magnus類縁株BPD1A、Cryptococcus flavus GB-1株、Cryptococcus flavus Sb19-1株、茨城県において採取された稲籾から単離された受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarctica、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに寄託された受託番号NITE P-573である糸状菌や、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターにおいて提供されているPseudozyma antarctica JCM10317株、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに寄託された受託番号FERM P-15155であるCryptococcus属酵母を使用することができる。酵母Pseudozyma antarcticaの産生するクチナーゼ様酵素PaE、Cryptococcus magnus類縁株BPD1Aの産生するCmCut1、Cryptococcus flavus GB-1株の産生するCfCLE GB-1及びCryptococcus flavus Sb19-1株の産生するCfCLE Sb19-1、Cryptococcus属酵母FERM P-15155の産生するCLE、受託番号NITE P-573であるParaphoma属糸状菌の産生するPCLEからなる群から選択される少なくとも1種又はそれらの培養液の混合物を用いることが好ましい。
【0030】
「高分子吸水剤」
本発明の生分解性の育苗鉢体を生分解する方法は、当該鉢体に、上記生分解性樹脂分解酵素のほかに、高分子吸水剤を適用してもよい。高分子吸水剤としては、特に限定されないが、十分な水保持能力を有し、水を保持した状態で生分解性の育苗鉢体表面に付着する性質を有する高吸水性ポリマー、デンプン誘導体、カルボキシアルキルセルロース、ヒド
ロキシアルキルセルロース、多糖誘導体、ポリアミノ酸架橋体及び青果物の廃棄物を原料とする吸水材等を挙げることができる。これらの中でも、カルボキシアルキルセルロースが好ましく、カルボキシメチルセルロースが特に好ましい。これらの高分子吸水剤を生分解性の育苗鉢体に適用することにより、高分子吸水剤が水と生分解性樹脂分解酵素を含有した状態で長時間、生分解性樹脂資材の表面に維持され、生分解性の育苗鉢体の生分解を容易にすることができる。
【0031】
「カルシウム成分を酵素に混合」
生分解性樹脂分解酵素にカルシウム成分を混合することで酵素反応を一層促進させることができる(特許文献5)。生分解性樹脂分解酵素等を含む酵素溶液に生分解性樹脂を浸漬して生分解性樹脂を分解した場合、酵素溶液のpHが緩やかに低下する。そこで生分解性樹脂分解酵素の至適pH等も参考に、酵素処理の対象物のpHを中性から微アルカリ性に維持することにより、生分解性樹脂分解酵素による分解を効率的に実施可能となる。土壌や作物への悪影響を及ぼす可能性が低い材料の中では、カルシウム塩やカルシウム含有土壌改良剤が挙げられる。
【0032】
「酵素液による処理方法」
育苗鉢体底面からの給水、表面への塗布、散布、噴霧灌注も良い。さらに、高分子吸水剤を同時または別々に適用してもよい。
【実施例
【0033】
<分解酵素の調整>
特許文献6に記載の方法で、PaEを含むPseudozyma antarctica培養液を調整し、以下に詳述するような方法で、酵素活性に基づく濃度の測定を行った。
その後、所定の酵素溶液量となるように、20mMのTris-HCl緩衝液(pH8.0)で溶液を調整した。さらに、必要に応じて、炭酸カルシウム(ソフトン)を混合した。
【0034】
<生分解性樹脂分解酵素の活性測定>
生分解性樹脂分解酵素の活性は、特許文献5中の段落0019において記載される以下の分解酵素の活性測定方式に従って行った。
「まず、内径10mmの試験管に、20mMのTris-HCl緩衝液(pH6.8)1730μLと、基質として、所定量のPBSAエマルジョンEM-301溶液を水に溶解した水溶液30μLと、を添加して混合し、更に必要に応じて100mM 塩化カルシウム溶液40μLを添加する。
次いで、生分解性樹脂分解酵素を産生する微生物の培養液を得て、遠心分離により微生物を除去した後、上清200μLを得て、上記試験管中に添加する。上清を添加した混合液をボルテックスで撹拌し、濁度計を用いて660nmにおける透過率を測定する。その後、30℃において、220rpmで試験管を振とうしながら、混合時及び混合後15分の透過率を求める。濁度計により得られた透過率を以下の式(1)により吸光度に変換し、得られた吸光度から以下の式(2)により酵素活性を求める。
At=-log(X/100) ・・・(1)
C=(A0-A15)×10/15[U/mL/min] ・・・(2)
(上記式(1)中、Atは時間t(min.)における吸光度を示し、Xは透過率を示す。また、上記式(2)中、Cは酵素活性を示し、A0及びA15は、それぞれ混合時及び混合から15分経過した後の吸光度を示す。)」
【0035】
<試験サンプルの性能の測定と評価>
(1)湿潤引張強度(基準)、酵素処理引張強度:JIS P8113:1998「紙お
よび及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法」に準じた方法により、定速伸張形引張試験機((株)島津製作所製、オートグラフ引張試験機)を使用して測定を実施した。サンプルの大きさを30mm×70mmとし、チャックスパン50mm、引張速度10mm/minで伸長し、破断時の強度を測定した。同測定は8回繰り返し、平均値(及び標準偏差)を算出した。
(2)埋没処理引張強度: JIS P8113:1998「紙および及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法」に準じた方法により、定速伸張形引張試験機((株)島津製作所製、オートグラフ引張試験機)を使用して測定を実施した。サンプルの大きさを30mm×70mm、チャックスパン30mm、引張速度100mm/minで伸長し、破断時の強度を測定した。同測定は4回繰り返し、平均値(及び標準偏差)を算出した。
【0036】
<実施例1> 生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙の作製
下記表1で示す(E)~(H)の配合割合の樹脂組成物を予備乾燥し、これらを坪量50g/m2の未晒しクラフト紙(紙基材)にラミネート加工することで得た樹脂組成物層(ラミネーション層)の厚さ30μmのラミネート紙を作製した。
【0037】
【表1】
表中のカッコ内の数値は、添加剤を含めない樹脂組成物の合計質量を100として換算した数値。
サンプルGとHが、アンチブロッキング剤を添加剤として使用する樹脂組成物になる。それに対して、サンプルEとFが、添加剤使用しない樹脂組成物になる。
【0038】
<実施例2> 酵素液浸漬試験
特許文献6記載の方法で調製したPaE粗酵素液を20mM Tris-HCl(pH
8.0)緩衝液で2.77±0.32U/mLになるように希釈した。
試験片を30mm四方に切り出し、サンプルの重量を測定した。その後、酵素液に浸漬させ24時間人工気象器30℃条件で振とうした。サンプルを取り出し水洗いし、乾燥させて重量を測定した。浸漬前の重量と浸漬後の重量から分解率を算出した。
【0039】
表2に示すように、酵素浸漬試験において、24時間後の分解率は、すべてのサンプルで30%程度であった。またサンプルの紙部分はほとんど分解しておらず、酵素によって樹脂部分の大半が分解された。
微生物由来の酵素が、本発明の生分解性樹脂組成物に対して、生分解効果があると考えられる。
【0040】
【表2】
【0041】
<実施例3> 埋没試験
上記サンプルE~Hの樹脂組成物で作製したラミネート紙を試験片として、それぞれ30mm×80mmで切り出し、水分率を50%に調整した蔬菜用培土(「スーパー培土」:日本甜菜製糖製、pH6.74、EC1.84dS/m)に埋没させ、温度30℃、湿度90%の人工気象器(日本医科製)に保管した。保管後2、4週間目にサンプルを取り出し、形状を観察し、サンプルはオートグラフ(SHIMADZU製)を用いてチャックスパン30mm、試験速度10mm/minの条件で引張強度を測定した。また、酵素液に常温で3時間浸漬したサンプルを土壌に埋没させ、これを酵素処理サンプルとした。埋没前のサンプルの強度は、サンプルを水に24時間浸し、同様の条件で測定した値を用いた。試験は4反復で実施した。
【0042】
図1に示すように、埋没後2週間で、全てのサンプルで引張強度が低下した。これは紙部分が分解したためだと考えられる。また、図1に示すように、酵素処理したサンプルは、生分解し強度が測定できないほどであった。
【0043】
図2に示すように、埋没後4週間では、酵素処理の有無にかかわらず2週間目に比べてサンプルの分解が進行した。埋没後4週間目の未処理サンプルの結果より、分解のしやすさはG≒H<F<Eであると判断した。サンプルEは難分解性のPLAが一番少なく、易分解性のPBSが一番多い比率のサンプルであったためであり、G、HはPBATの比率を高めたことで、生分解しにくくなって、PBATの比率により、生分解の進行が制御されると考えられた。
【0044】
<実施例4> 育苗時の分解試験
特許文献6記載の方法で調製したPaE粗酵素液を20mM Tris-HCl (pH 8.0)緩衝液で希釈し、活性2.77±0.32U/mLとした酵素液に、さらに重量比で2%になるように炭酸カルシウム(ソフトン)を混合して用いた。
生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙から作製した図3に示す育苗鉢体(底なし)(ポットとも称する)にスーパー培土(日本甜菜製糖製)を充填しコマツナを播種し4週間育苗した。その後、火山灰土壌と道内葱培土(日本甜菜製糖製)を2:1で混合したもの入れたプランターに移植し3週間栽培した。プランターへの移植前に上記酵素液に、30秒浸すもの(以下、酵素浸漬30秒)、1時間浸すもの(以下、酵素浸漬1時間)、上面からじょうろでの散布(以下、酵素上面散布)を設け、移植時と3週間栽培後の育苗鉢体を回収し、分解程度を評価した。分解程度は分解の進んでいないものを引張強度(機器:オートグラフ(SHIMADZU製)、条件:チャックスパン30mm、試験速度10mm/min)で測定した。また分解の進んでいるものは観察にて評価した。
【0045】
図4に示すように、育苗4週間後(播種後4週目)の育苗鉢体の強度はいずれのサンプ
ルも20N以上であり、育苗前の強度に比べてやや小さかったものの、図5の写真に示すように、4週間育苗しても鉢体の形が維持され、鉢体を作製した分解性樹脂組成物積層ラミネート紙の破れも観察されず、実用的に問題ないと考えられる。
【0046】
また、図4に示すように、3週間栽培した育苗鉢体の強度は、酵素未処理が10N程度であり、酵素処理した育苗鉢体はいずれも分解が進み測定が不能であったが、特に図9の生分解性樹脂組成物積層ラミネート紙の写真に示すように、浸漬1時間の分解程度が激しかった。根の伸張状況も図6図9の写真から確認でき、特に図9のように育苗鉢体がほぼ分解され、根の伸張が最も顕著である。これで、酵素処理方式により、土の中で鉢部分の生分解の進行が制御できる。図6図9の苗の成長状況に示すように、本発明の育苗鉢体そして酵素で生分解する育苗鉢体を分解する方法は苗の成長に妨害しないと確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9