IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ノヴァ メジャリング インスツルメンツ インコーポレイテッドの特許一覧

<>
  • 特許-二次イオン質量分析計 図1A
  • 特許-二次イオン質量分析計 図1B
  • 特許-二次イオン質量分析計 図2
  • 特許-二次イオン質量分析計 図2A
  • 特許-二次イオン質量分析計 図2B
  • 特許-二次イオン質量分析計 図2C
  • 特許-二次イオン質量分析計 図2D
  • 特許-二次イオン質量分析計 図2E
  • 特許-二次イオン質量分析計 図3
  • 特許-二次イオン質量分析計 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】二次イオン質量分析計
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/02 20060101AFI20230511BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20230511BHJP
   H01J 49/28 20060101ALI20230511BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H01J49/02 500
H01J49/14 200
H01J49/28
H01J37/244
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021195242
(22)【出願日】2021-12-01
(62)【分割の表示】P 2019562588の分割
【原出願日】2017-05-12
(65)【公開番号】P2022024157
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】518014357
【氏名又は名称】ノヴァ メジャリング インスツルメンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】ベヴィス・クリストファー・エフ.
(72)【発明者】
【氏名】リュー・ヤンマン・アラン
(72)【発明者】
【氏名】リード・デイビッド・アレン
(72)【発明者】
【氏名】チェイフェッツ・エリ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァインガルテン・アミット
(72)【発明者】
【氏名】カディシェヴィッチ・アレクサンダー
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-508905(JP,A)
【文献】特開2000-260384(JP,A)
【文献】特開平04-112443(JP,A)
【文献】Jean-Luc Guerquin-Kern et al.,Progress in analytical imaging of the cell by dynamic secondary ion mass spectrometry (SIMS microscopy),Biochimica et Biophysica Acta ,2005年06月14日,Vol.1724,p.228-238
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00-49/48
H01J 37/244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次イオンビームを提供するイオン源,
上記一次イオンビームによってサンプルからスパッタされる二次イオンを収集する二次イオン抽出器,
上記二次イオン抽出器から上記二次イオンを受け取り,二次イオンビームを形成するビーム形成光学系,
焦点面に軌道を形成する質量分析器,
上記焦点面に沿って移動可能に位置決めされる複数のイオン検出器を備え,
上記イオン検出器のそれぞれが,
上記二次イオンの衝突によって電子を放出するように構成される第1のセクション,
上記電子の衝突によって光子を放出するように構成される第2のセクション,
上記光子の衝突によって電気信号を放出するように構成される第3のセクション,および
一端が上記第2のセクションに結合され,他端が上記第3のセクションに結合されて上記光子の軌道を閉じ込める光ガイドをえ,
それぞれの検出器の上記第3のセクションが,共通バイアス入力線および共通出力線を有する複数のアバランシェ・フォトダイオードを備えている,
二次イオン質量分析計。
【請求項2】
所望帯域内の質量対電荷比を持つ二次イオンのみの通過を許すように構成された分光計をさらに備えている,請求項1に記載の二次イオン質量分析計。
【請求項3】
上記第1のセクションが,第1の電位に結合され,イオンが衝突することによって電子を放出するように構成される電子放出プレート,および
上記第2のセクションが,上記第1の電位と異なる第2の電位に結合され,上記電子放出プレートに面する前面および背面を有し,上記前面に電子が衝突することによって上記背面から光子を放出するように構成されるシンチレータを備えている,請求項に記載の二次イオン質量分析計。
【請求項4】
上記共通バイアス入力線に結合され,離散イベント・カウント出力を提供するように構成されるデジタル・イベント・カウンタ,および
上記共通出力線に結合され,上記デジタル・イベント・カウンタからの上記離散イベント・カウント出力と同時に積算アナログ出力を提供するように構成されるアナログ積分器,
をさらに備えている,請求項に記載の二次イオン質量分析計。
【請求項5】
上記デジタル・イベント・カウンタが,キャパシタまたは変圧器を介して上記共通バイアス入力線に結合されている,請求項に記載の二次イオン質量分析計。
【請求項6】
一次イオンビームを提供するイオン源,
上記一次イオンビームによってサンプルからスパッタされる二次イオンを収集する二次イオン抽出器,
上記二次イオン抽出器から上記二次イオンを受け取り,二次イオンビームを形成するビーム形成光学系,
焦点面に軌道を形成する質量分析器,
上記焦点面に沿って移動可能に位置決めされる複数のイオン検出器を備え,
上記イオン検出器のそれぞれが,
上記二次イオンの衝突によって電子を放出するように構成される第1のセクション,
上記電子の衝突によって光子を放出するように構成される第2のセクション,
上記光子の衝突によって電気信号を放出するように構成される第3のセクション,および
一端が上記第2のセクションに結合され,他端が上記第3のセクションに結合されて上記光子の軌道を閉じ込める光ガイドをえ,
上記第3のセクションが,上記光ガイドに結合され,上記光ガイドからの光子の衝突に対応する電気信号を出力するように構成される出力を有する固体光電子増倍管を備えている,
二次イオン質量分析計。
【請求項7】
一次イオンビームを提供するイオン源,
上記一次イオンビームによってサンプルからスパッタされる二次イオンを収集する二次イオン抽出器,
上記二次イオン抽出器から上記二次イオンを受け取り,二次イオンビームを形成するビーム形成光学系,
焦点面に軌道を形成する質量分析器,
上記焦点面に沿って移動可能に位置決めされる複数のイオン検出器を備え,
上記イオン検出器のそれぞれが,
上記二次イオンの衝突によって電子を放出するように構成される第1のセクション,
上記電子の衝突によって光子を放出するように構成される第2のセクション,
上記光子の衝突によって電気信号を放出するように構成される第3のセクション,および
一端が上記第2のセクションに結合され,他端が上記第3のセクションに結合されて上記光子の軌道を閉じ込める光ガイドをえ,
上記第3のセクションが電子増倍管を備え,さらに,上記電子増倍管のダイノードに結合され,離散イベント・カウント出力を提供するように構成されるデジタル・イベント・カウンタ,および上記電子増倍管のコレクタに結合され,上記デジタル・イベント・カウンタからの上記離散イベント・カウント出力と同時に積算アナログ信号を提供するように構成されるアナログ積分器を備えている,
二次イオン質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示は,二次イオン質量分析計(secondary ion mass spectrometers)の分野に関するもので,より詳細には,装置における粒子検出のダイナミックレンジを拡張して検出精度を改善する,改善された質量分析計検出器(mass spectrometer detector),ならびに上記検出器を用いるシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次イオン質量分析(Secondary ion mass spectrometry)(SIMS)は,集束一次イオンビームを用いてサンプルの表面をスパッタリングすることによって上記サンプルから放出される二次イオンを収集かつ分析することによってサンプルの組成を分析するために用いられる技術である。これらの二次イオンの質量電荷比(the mass to charge ratios)は,質量分析器を用いてこれらを空間的に分離することによって間接的に測定され,これによってサンプルの元素,同位体,または分子組成が決定される。二次イオンは,一般にファラデーカップまたは電子増倍管の2つの方法のいずれかを用いて検出される。ファラデーカップは金属カップに当たるイオン電流を測定するもので,大電流二次イオン信号(high current secondary ion signals)に特に使用される。電子増倍管では,単一のイオンの衝撃によって電子カスケードが始まり,その結果として電子のパルスが直接に記録される。電子増倍管は,一連の個々のダイノード,チャネル電子増倍管,またはマイクロチャネルプレートを備えることができる。
【0003】
一般に,質量分析計は,カウントモードとアナログモードの2つの方式(regimes)において動作する。図1Aに示すように,デジタルモードは検出器の特性により約1x10イオン/秒まで有効である。アナログモードは約1x10イオン/秒以上で有効である。図1Aに示すように,第1の問題は約1x10イオン/秒から約1x10イオン/秒の間に検出ギャップ(a detection gap)が存在することであり,これは,デジタルモードでは個々のイベントを分離するためには電流が高すぎるが,到来イオンを推定するための読み取りを提供するには不十分であるからである。別の問題は,図1Aには明示されていないが,デジタルモードとアナログモードの相関が正確でなく,および/または反復的でないことである。すなわち,デジタルモードとアナログモードとを切り替えると,読み取りにおいて人為的な「ジャンプ」が発生する。これらの問題は以下からさらに完全に理解することができる。
【0004】
パルスカウントモードでは個々の粒子が検出器出力信号中に「イベント」を生成するとみなされ,これを識別しかつカウントすることができる。パルスカウントモードは,到来粒子(incoming particle)ごとに単一の検出イベントが生成されるとみなされるので,本質的に定量化される利点がある(この場合,パルス高さ,総電荷などの定量的特性について各イベントを特徴付けようとはしていないことに留意することが重要である。)。適切に識別されるようにするためのパルスカウントモードの2つの制限は,(1)各到来粒子(または少なくともその十分な割合)が検出しきい値を超えるイベントを生成する必要があること,および(2)任意の2つの粒子が,パルスの形状および長さが与えられたときに,それらを独立して検出できるような分離を伴って到着する必要があることである。したがって,パルスカウントモードは比較的低いイオン到達(到着)率(relatively low rates of ion arrival)の検出に限定される。イオン到達率(ion arrival rate)はポアソン過程によって記述されると仮定され,変換ダイノードにおける電子の生成およびシンチレータ内の光子も統計処理によって記述される。
【0005】
平均イオン到達率は,イオンパルスを独立して検出できるのに時間的に十分に分離されるようなものであることもあるが,イオン到達時間の分布は,事実として,ある程度の割合が時間的に近すぎて発生することを示している(some percentage will occur too close together in time for this to be the case)。このため,カウントを使用できる最大イオン到達率には,どの程度の割合のイベントがパルススタックアップ(pulse stack-up)に起因して見逃されることがあるかについての詳細を算入しなければならない。この割合は,一部のイベントが検出されないとしても真のカウントの有効な統計的推定を行えるようにする必要がある。
【0006】
アナログモードに関して,SIMS機器は,一般に電流がイオン到達率に比例するファラデーカップ・アプローチを使用する。しかしながら,約1×10イオン/秒(ions/second)未満の割合では測定のためには電流が低すぎる。アナログモードにおいて電子増倍管を使用することは的確ではない。これは,ダイノード,チャネル壁,および/またはシンチレータの光子放出の二次電子放出の統計によるものである。これらの短期変動に加えて,変換ダイノードの表面状態の変化,シンチレータ,PMT光電陰極およびダイノードなどの経変劣化による長期的な変動もある。これらおよびその他の理由のために,アナログモードで動作している場合,到来イオンあたりのパルス領域のパーセント平均が正確にわからない限り,到来イオンフラックスを測定するための取得においてすべてのパルス下の積分面積(the integrated area under all the pulses)を使用することはできない。このため,電子増倍管を使用することによっては,ダイノード,シンチレータ,および検出器の特性によって決定される所定値を超えるイオン到達率を正確に測定することができない。
【0007】
したがって,必要とされるものは,到来イオンの分離が可能な高速な検出速度(faster detection speed)を有する改善された検出器である。到来イオンごとの平均パルス面積(the average pulse area per incoming ion)をキャリブレート(較正)する方法も必要であり,これによってイオン到達率について正確なアナログモード測定が可能になる。
【発明の開示】
【0008】
この発明のいくつかの態様および特徴の基本的な理解を提供するためにこの発明の要旨を以下に述べる。この要旨は,この発明の広範な概要ではなく,したがってこの発明のキーまたは重要な要素を特に識別すること,またはこの発明の範囲を確定することを意図するものではない。その唯一の目的は,以下にのべるさらに詳細な説明の前置きとして,この発明のいくつかの概念を簡略化した形で提示することである。
【0009】
この発明のいくつかの観点では,質量分析に使用するための改善されたイオン検出器を提供が提供される。上記改善された検出器は,高速の立上がりおよび立下り時間(a fast rise and decay time)を有しており,デジタルモードにおける検出イベントの分離を向上することができる。上記検出器は,改善された信号対雑音比も提供し,このため検出性能が向上する。
【0010】
この発明のいくつかの観点では,SIMS用イオン検出器が提供され,上記イオン検出器は,第1の電位に結合され,イオンが衝突することによって電子を放出する(to emit electrons upon incidence on ions)ように構成される電子放出プレート,上記第1の電位と異なる第2の電位に結合され,上記電子放出プレートに面する前面および背面を有し,上記前面に電子が衝突することによって背面から光子を放出するように構成されるシンチレータ(a scintillator),上記シンチレータの上記背面に結合され,上記シンチレータの上記背面から放出される光子の流れを閉じ込める(confining flow of photons)光ガイド(光導波路),および上記光ガイドに結合され,上記光ガイドからの光子の衝突に対応する電気信号を出力するように構成される出力を有する固体光電子増倍管を備えている。上記固体光電子増倍管は,シリコン光電子増倍管であってもよいし,単一の電気信号を提供するために結合された複数の出力(outputs coupled together)を有する複数のアバランシェ・フォトダイオードのアレイ(an array of avalanche photodiodes)であってもよい。上記光ガイドは上記光子を上記固体光電子増倍管に向かわせる(directs)反射面を備えていてもよい。上記固体光電子増倍管は上記光ガイドの後面に結合されていてもよい。
【0011】
様々な実施態様において,複数のスピーシーズ(種)(species)を同時に検出できるようにするために,複数(several)の検出器が空間的に分離して提供される。開示する実施態様において,上記検出器(複数)は移動可能であり,検出器の空間的な位置決めによって,同じ検出器を様々なスピーシーズの検出に用いることができる。したがって,たとえば半導体ウェハ上のさまざまな材料層など,材料組成が事前にわかっている場合,上記検出器(複数)を空間的に配置してサンプルからの予想されるスピーシーズを検出することができる。次に,各検出器からのカウントを使用して,上記サンプルが,予想されるスピーシーズを,予想される濃度および深さ,たとえば予想されるドーピング・レベルで実際に持っていることを確認することができる。同様にして,さまざまな検出器からのカウントを使用して,異なる材料の二層間の界面の組成を調べることができる。
【0012】
すなわち,開示される観点では,二次イオン質量分析計システムが提供され,上記システムは,一次イオンビームを提供するイオン源,上記一次イオンビームによってサンプルからスパッタされる二次イオンを収集する二次イオン抽出器(a secondary ion extractor collecting secondary ions),上記二次イオン抽出器から二次イオンを受け取り(receiving),二次イオンビームを形成するビーム形成光学系,焦点面に軌道(a trajectory)を形成する質量分析器,上記焦点面に沿って移動可能に位置決め(配置)される複数のイオン検出器を備え,上記イオン検出器のそれぞれが,二次イオンの衝突に応じて電子を放出するように構成される第1のセクション,電子の衝突に応じて光子を放出するように構成される第2のセクション,光子の衝突に応じて電気信号を放出するように構成される第3のセクション,および一端が上記第2のセクションに結合され,他端が上記第3のセクションに結合される光ガイドを備えている,
【0013】
様々な実施態様において,上記二次イオン質量分析計は,所望帯域内の質量対電荷比を持つ二次イオンのみの通過を許す(to allow only secondary ions within a desired band of mass-to-charge ratio to pass through)ように構成された分光計(a spectrometer)をさらに備えてもよい。上記質量分析器は,分光計,複数の四重極,少なくとも1つの六重極,および主マグネットを備えてもよい。上記第1のセクションは,第1の電位に結合され,イオンが衝突することによって電子を放出するように構成される電子放出プレートを備えてもよい。上記第2のセクションは,上記第1の電位と異なる第2の電位に結合され,上記電子放出プレートに面する前面および背面を有し,上記前面に電子が衝突することによって背面から光子を放出するように構成されるシンチレータを備えてもよい。上記第3のセクションは,光ガイドに結合され,上記光ガイドからの光子の衝突に対応する電気信号を出力するように構成される出力を有する固体光電子増倍管を備えてもよい。
【0014】
開示される観点は,カウントモードおよびアナログモードを同時に動作させることができるシステムも提供する。開示される実施態様によると,上記検出器から2つの信号が取得され,その両方が同じ検出イベントに関連付けられる。上記2つの信号が2つのチャネルに与えられ,一方のチャネルはカウントモード検出用に最適化された電子デバイスを含み,他方のチャネルはアナログモード検出用に最適化された電子デバイスを含む。2つの信号は同じ検出イベントに関連付けられているが,別々に生成されるので,両方のチャネルを同時に動作させることができる。
【0015】
開示される実施態様は,SIMS装置の光電子増倍管においてカウントモードとアナログモードを同時に動作させる方法を提供する。上記方法は,第1の信号線を上記光電子増倍管に結合し,上記第1の信号線から入力を受け付け,上記入力に対応する離散イベント・カウント出力(a discrete event count output)を提供するようにデジタル・イベント・カウンタを構成し,第2の信号線を上記第1の信号線と独立して上記光電子増倍管に結合し,上記第2の信号線から入力を受け付け,上記デジタル・イベント・カウンタからの上記離散イベント・カウント出力と同時に積算(統合)アナログ出力(integrated analog output)を提供するようにアナログ積分器(an analog integrator)を構成するものである。上記第1の信号線を上記光電子増倍管に結合することは,上記第1の信号線を上記光電子増倍管のバイアス入力線に結合し,他方上記第2信号線を結合することは,上記第2信号線を上記光電子増倍管の出力線に結合することを含む。上記第1の信号線を上記光電子増倍管に結合することは,上記第1の信号線を上記光電子増倍管のダイノードに結合し,他方上記第2の信号線を結合することは,上記第2の信号線を上記光電子増倍管のコレクタに結合することを含む。
【0016】
さらなる観点では,アナログモードとデジタルモードの同時信号を利用するキャリブレーション方法が提供される。特に,所望の方式(レジーム)に収まるべくいくつかの手段によってイオン到達率が生成される。パルスカウントモードを使用して多数のパルスが生成され,他方において同時にアナログ信号が積分され,すべてのパルスの合計面積(領域)(a total area over all pulses)が生成される。両方のチャネルからの信号がキャリブレーションに用いられる。たとえば,一実施態様において,上記信号(複数)が,カウントモードとアナログモードを切り替えるときに適用されるスケーリング係数(a scaling factor)を生成するために用いられる。他の例では,上記統合パルス面積(the integrated pulse area)がパルス数によって除算されてパルスあたりの平均面積がレンダリングされ,これがキャリブレーション係数として用いられる。
【0017】
この明細書の一部に組み込まれ,かつこの明細書の一部を構成する添付図面は,その説明とともにこの発明の実施態様を例示するものであり,この発明の原理を説明しかつ例示するのに役立つ。図面は,例示的な実施形態の主要な特徴を図式的に示すことを意図している。図面は,実際の実施形態のすべての特徴または描かれた要素の相対的寸法を描画することを意図するものではなく,縮尺通りには描かれていない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】従来技術によるデジタルおよびアナログ検出方式の概略図である。
図1B】この発明の一実施態様によるシステムの概略図である。
図2】この発明の一実施態様によるイオン検出器の概略図である。
図2A】この発明の他の実施態様によるイオン検出器の概略図であり,本書に開示する任意の実施形態において実施することができる他の特徴を示している。
図2B】開示する実施態様による,アイソレータを用いる回路の概略図である。
図2C】開示する実施態様による,アイソレータを用いる回路の概略図である。
図2D】開示する実施態様による,アイソレータを用いる回路の概略図である。
図2E】開示する実施態様による,複製器を用いる回路の概略図である。
図3】この発明の一実施態様による,イオン検出スキームの概略図である。
図4】イオンスパッタリングによってクレータの端と中央とで異なるスパッタリング率を持つクレータが発生する状態を示している。
【実施例
【0019】
以下,図面を参照して様々な実施態様を説明する。各実施態様は,1または複数の特徴または要素を参照して説明されるが,説明する各特徴および/または要素は,他の実施態様の他の特徴および/または要素とともに使用できることを理解されたい。すなわち,上記特徴および要素は,様々な実施形態の間で交換可能および/または付加的なものであってもよい。
【0020】
図1Bは一実施態様の構成を示している。サンプル100が検査されて上記サンプルの材料組成が決定される。イオン源110が用いられて集束イオンビーム(a focused ion beam)115が生成され,これがサンプル100上に衝突させられ,上記サンプルから二次イオンが放出される。抽出およびビーム整形光学素子(the extraction and beam shaping optical elements)117が帯電した二次イオンを収集して二次イオンビーム120を形成し,これが検出セクション130に伝達される。検出セクション130は質量分析器(a mass analyzer)135を含み,質量分析器によって二次イオン120の軌道(the trajectory)が変更される。イオンごとに質量電荷比(mass-to-charge ratio)が異なるので,それらの軌道における上記質量分析器の影響(効果)は異なるものとなり,このためイオンごとに異なる空間軌道経路となっている(そのうち3つが図示されている)。複数の検出器140が検出セクション130内の様々な空間位置に位置決めされており,各検出器は,特定の質量電荷比のイオンを捕える(intercept)ように位置決めされている。各検出器140は機械的位置決め手段(mechanized positioning means)を備えており,これによって各検出器140の空間位置は変更可能であり,様々な質量のイオンを検出する。
【0021】
図2は一実施態様による検出器240の一例を示している。図2の検出器240は固体光電子増倍管と結合されたシンチレータ(a scintillator)であり,改善されたダイナミックレンジおよび高速信号応答時間を提供し,素早く到達するイオンの分離を可能にする高速立下り(減衰)時間(fast decay time)を有している。すなわち,上記検出器はイオン流(ions stream)を電子流(electron stream)に変換し,次に上記電子流を光子流(photon stream)に変換し,最終的に上記光子流を電気信号に変換する。
【0022】
窓242を通じて二次イオンが筐体241に入り,電子放出プレート243にヒットする。電子放出プレートは電位V1によってバイアスされており,これによりイオンによってヒットされると電子を出射する。電子は様々な方向に放出されるが,シンチレータ・プレート244に電位V2を印加することによって,電子はシンチレータ・プレート244上に集束される。電子が上記シンチレータ・プレート244の前面にヒットすると,上記シンチレータ・プレート244はその背面から光子を放出する。管状の光ガイド245が上記シンチレータ・プレート244に光学的に結合されている。光ガイドは必要に応じて様々な断面形状,たとえば長方形または正方形の断面を有することができる。上記光ガイド245は光伝導性透明材料(light conducting transparent material)で作ることができる。光子は光ガイド245内を移動し,かつ全内部反射によって光ガイド内に閉じ込められたままとされる。図2の実施態様において,光ガイド245は(プリズムを形成する)反射面246を有しており,反射面が上記光子を(たとえば全内部反射によって)固体光電子増倍管(solid-state photomultiplier)247に方向づける。上記固体光電子増倍管247は,固体光電子増倍管にヒットする光子に対応する電気信号を生成する。この実施態様において,上記固体光電子増倍管はシリコン光電子増倍管(SiPMとも呼ばれる)とすることができ,アバランシェ・フォトダイオード(APD)のアレイを備えてもよい。フォトダイオードからの信号を合計することによって,図2に模式的に示すように,到達する光子の検出に応じて鋭いパルス251を持つ単一出力信号を提供することができる。上記固体光電子増倍管247の出力を用いて,検出器240の空間位置に応じて,特定スピーシーズ(特定種)の到達イオンに対応するパルス(pulses, corresponding to arriving ions of a specific species)をカウントすることができる。
【0023】
図2Aは他の実施態様による検出器240の実施態様を概略的に示している。図2Aの実施態様の構成要素は,光ガイド245がプリズムを形成する反射面を持たない点を除いて,図2の構成要素と類似している。上記固体光電子増倍管247は上記光ガイド245の背面に直接に取り付けられている。それ以外は,図2図2Aの検出器は同じである。
【0024】
図2Aは検出信号の収集に関する様々な特徴(features)も示している。これらの特徴のいずれか一つを,図2または本書に開示する他の任意の実施態様において同様に実装することができる。
【0025】
図2Aに示す第1の特徴はカウントモードおよびアナログモードの同時動作である。初めに,破線吹き出し内に示す構成要素を参照して説明する。従来技術では,システムは,カウントモード(個々の到達イベントを識別可能な程度に十分にイオン到達速度が遅い場合)またはアナログモード(上記到達速度が速すぎて分離できない場合)のいずれかにおいて動作している。従来技術において両モードを同時に動作できない別の理由は,信号が弱すぎ,2つのチャネルに分割できないことである。本質的に,出力信号は電子電流(electron current)からなるので,その信号を2つのチャネルに分割すると,各チャネルの電子は,上記検出器によって最初に出力されたものよりも少なくなる(つまり電流が弱まる)。その結果,到達率が低いと,検出信号は2つのチャネル間で共有できる電子が不足するものになる。
【0026】
しかしながら,本書に開示する実施態様は,両モードを同時に動作させることができるシステムを可能にするものである。図2Aに戻って,破線の吹き出しは,2つの信号が上記検出器から取得され,2つのチャネルに与えられる例を示している。上のチャネルがカウントモードのチャネルであり,下のチャネルがアナログチャネルである。2つの出力信号は同じ検出イベントに関連付けられ,したがって両チャネルは同じ増幅イオンフラックス(the same amplified ion flux)を同時に検出する。上のチャネルにおいて,信号はキャパシタ258によって調整され,増幅器260によって増幅され,増幅後の信号が弁別器(discriminator)262に入力され,弁別器は増幅器260からの入力に対応するデジタル信号を出力する。上記デジタル信号はカウンタ264に入力され,検出イベントがカウントされる。リセット信号によってカウントをリセットすることができる。下のアナログチャネルにおいては,検出器からの信号が積分器261によって積分され,その後増幅器263によって増幅される。上記積分器はリセット信号によってリセットすることができる。これらの2つのチャネルは同時にまたは一つずつ(simultaneously or one at a time)動作させることができる。
【0027】
上述したように,上記検出器の出力信号は,通常,カウントモードとアナログモードの両方を同時に動作させるには不十分である。以下の説明ではこの問題を克服するさまざまな実施形態を詳述する。本書において詳述される解決策は、本書に開示されるこの発明の検出器,または従来の検出器と組み合わせて実施できることに留意されたい。
【0028】
第1の例は図2Aの一点鎖線の吹き出しに示されている。一点鎖線の吹き出しにおいて,APD247’は固体光電子増倍管247を模式的に表している。APD247’はアイソレータ272を介して電位270によってバイアスされている。電位270からAPD247'に至るバイアス線に第1の出力が接続されている。この第1の出力線がカウントモード・チャネルに導かれる。他方,第2の出力信号はAPD247’の出力から取得される。第2の出力線はアナログモード・チャネルに導かれる。検出イベントが発生すると,電流がAPD247'の出力から流れ出し,検出のためにアナログチャネルに向かう。同時に,上記バイアス線に電圧降下が生じ,これがカウントモード・チャネルによって検出される。この構成によって,上記2つのチャネルが同じ出力信号を共有するまでもなく,上記2つのチャネルは同じイベントを同時に検出する。
【0029】
図2Aに類似する別の構成が図2Bに示されている。APD247'は固体光電子増倍管247を模式的に表している。APD247’は電位270によってバイアスされ,かつ複製器(replicator)273に接続されている。複製器273からの信号が,図2Aの破線吹き出しの実施態様のようにキャパシタ258および増幅器260を備えるチャネルに出力される。別の線が高利得積分器261'によって積分される信号を持つように接続され(connected to have the signal integrated by high gain integrator 261’),他方,第3の線が低利得積分器261'’によって積分される信号を持つように接続される。
【0030】
変形例の構成が二点鎖線の吹き出し中に示されている。この構成は一点鎖線の吹き出しの構成に類似するが,上記カウントチャネルの線が,電位270からのバイアス線に直接に接続されず,変圧器259を介してバイアスラインに結合されている点が異なる。これ以外について2つの構成は同じである。
【0031】
アイソレータを用いる回路例が図2C-2Dに示されている。これらの実施態様において,パルス信号経路およびアナログ信号経路は固体光電子増倍管247の両端(opposite ends)から始まっており,詳細には,上記パルス信号経路はフォトダイオードのカソード側に結合され,アナログ信号経路はフォトダイオードのアノード側に結合されている。両方の回路において,固体光電子増倍管247の動作電圧は,オペアンプ254の仮想接地に関してトランジスタ248によって調整される(regulated)(図示するように反転構成で接続されているので,オペアンプの反転入力がフォトダイオードのアノードに接続されている)。図2Cに示す回路では,上記オペアンプ254はアナログ信号を提供し,上部抵抗257の電圧降下(光電流によって生じる)がパルス信号を生じさせる。図2Dの回路では,抵抗の電圧降下に代えて,電流パルスがパルス変換器(変圧器)(a pulse transformer)259を介して送られる。
【0032】
換言すると,図2Cの実施態様はフォトダイオードを有するイオン検出器用アイソレータ回路を提供するもので,フォトダイオードのカソードに結合されたエミッタ(its emitted)および抵抗に結合されたコレクタ(a collector)を有するバイアス・トランジスタと,上記コレクタと上記抵抗の間に結合されたパルス信号経路と,上記フォトダイオードのアノードに結合されたアナログ経路とを備え,上記アナログ経路が,上記フォトダイオードのアノードに結合された一の入力,グランドに結合された(接地された)第2の入力,および上記フォトダイオード検出光子に対応するアナログ信号応答を提供する出力を有している差動増幅器(オペアンプ)を備えている。図2Cの実施態様において,上記オペアンプは反転構成において上記フォトダイオードのアノードに結合されており,上記オペアンプの反転入力が上記フォトダイオードのアノードに結合されている。また,フィードバック抵抗が上記オペアンプの反転入力と出力との間に結合されている。
【0033】
図2Dの実施態様は,フォトダイオードを有するイオン検出器用アイソレータ回路を提供するもので,フォトダイオードのカソードに結合されたエミッタおよび抵抗に結合されたコレクタを有するバイアス・トランジスタと,上記コレクタと上記抵抗の間に結合されたパルス信号経路と,上記フォトダイオードのアノードに結合されたアナログ経路とを備え,上記アナログ経路が,上記フォトダイオードのアノードに結合された一の入力,グランドに結合された第2の入力,および上記フォトダイオード検出光子に対応するアナログ信号応答を提供する出力を有している差動増幅器(オペアンプ)を備えている。図2Dの実施態様において,上記パルス信号経路は,上記抵抗と上記フォトダイオードのカソードの間に結合された入力側(an input side)およびフォトダイオード検出光子に対応するデジタルパルス応答を提供する出力側(an output side)を有する変換器(変圧器)(a transformer)を備えている。上記アナログ信号経路において,上記オペアンプが反転構成において上記フォトダイオードのアノードに結合されており,上記オペアンプの反転入力が上記フォトダイオードのアノードに結合されている。また,フィードバック抵抗が上記オペアンプの反転入力と出力との間に結合されている。
【0034】
図2Eは,一の実施態様による,複数の出力信号を提供する複製器回路(a replicator circuit)の一例を示している。この実施態様では,すべての出力信号がフォトダイオードのアノード側に結合されている。図2の実施態様において,カスケード接続されたトランジスタ(複数)がR1,R2,R3を通じて電流を流し,上記トランジスタ(複数)はすべて同じベースからエミッタへの電圧降下を維持する(maintain the same base to emitter voltage drop)ので,電流はRf/Rx*(SiPM電流)である。この例において抵抗R1は比較的低い値に設定され,これよってパルス出力に大きなゲインが提供される。すなわち,図2Eの実施態様は,フォトダイオードを有するイオン検出器用複製器回路を提供し,フォトダイオードのカソードに結合されたエミッタおよび抵抗に結合されたコレクタを有するバイアス・トランジスタを備え,上記フォトダイオードのアノードが,参照抵抗を介して,追加的に上記参照抵抗に接続されたカソードおよびフォトダイオードのアノードに接続されたアノードを有するダイオードを介して,グランドに結合され,第1,第2および第3のトランジスタのベースが上記抵抗および上記フォトダイオードのアノードの間に位置するタップ(接続口)に共通に接続され,上記抵抗とグランドの間に位置する第2のタップが第1,第2および第3の抵抗に共通に接続され,上記第1の抵抗が上記第1のトランジスタのエミッタに結合され,上記第2の抵抗が上記第2のトランジスタのエミッタに結合され,上記第3の抵抗が上記第3のトランジスタのエミッタに結合されており,パルス信号経路が上記第1のトランジスタのコレクタに結合され,第1のアナログ信号経路が上記第2のトランジスタのコレクタに結合され,第2のアナログ信号経路が上記第3のトランジスタのコレクタに結合されている。
【0035】
図示するように,この特徴は開示する検出器の使用に限定されず,他の検出器,たとえば光電子増倍管,チャネル電子増倍管(a channel electron multiplier)などを使用するシステムに実装することもできる。一例を実線の吹き出しに示す。図示する実施態様では,電子増倍管(electron multiplier)249が検出器として使用される(電子増倍管249は光電子増倍管または他の従来のセンサの一部であり得る)。電子e-が第1のダイノードにヒットし,コレクタ253にヒットするまで,一のダイノードから次のダイノードへの電子のカスケード(a cascade of electrons)が生成される。コレクタ253の出力はアナログチャネルに結合される。他方,最後のダイノード256がタップされてカウントチャネルに結合される。したがって,ここでも,2つの出力信号は,システムの異なる素子から生成されるが,同じ検出イベントに関連付けられ,2つのチャネルが同じ信号を共有する必要はない。
【0036】
図2Aの実施態様において,追加の第2のアナログ出力ラインが用意されており,これをキャリブレーションと測定の両方に使用することができる。DC電位V1を電子放出プレート243に導く線がタップされて電流メータ(a current meter)たとえば電流計(an ammeter)に,または破線吹き出しに示すようなアナログチャネルに導かれる。この測定は,到達するイオンに対応する直接アナログ測定を提供する。電子放出プレートにつながる線からの電流測定値と検出器の出力線の間は相関すべきであり,したがって両方の出力を用いることで上記検出器の変換効率を調べることができ,これによって検出器のデジタルカウント出力をキャリブレート(較正)することができる。
【0037】
図3はこの発明の一実施態様によるイオン検出方式(スキーム)の概略図である。図3に示す検出セクション330は,検出に直接に関連する構成要素のみを含み,検出セクション330の上流に挿入されて検出セクション330と連動して動作する抽出,電荷補償およびフィルタリングに関する構成要素は省略されている。抽出,電荷補償およびフィルタリング要素を通過したイオンビーム320は検出セクション330に入り,ビーム整形チューブ331を通過する。ビーム整形チューブ331は,磁気レンズ,または静電レンズたとえば四重極レンズといった複数のレンズ332を備えることができる。特定の実施態様では,四重極レンズが用いられてビームが成形されかつ集束される。ビーム整形チューブ331の出口に六重極(hexapole)333が設けられており,上記ビームに対する高次光学補正(higher order optical correction)が提供される。追加的に,スリット333’を六重極333の上流に設け,上記ビームのフリンジ(縁)におけるイオン(ions at the fringes of the beam)をフィルタアウト(除去)してもよい。これに代えてまたは加えて,六重極333の下流に別のスリットを設けることができる。
【0038】
整形されたイオンビームは次にビーム整形チューブ331から外に出て,質量分析器335に入り,質量分析器は質量電荷比にしたがってイオンを分離する。質量分析器335は分光計336を含み,これに四重極332,六重極333,および主磁石338が続いている。一般に,抽出およびビーム整形要素は抽出可能なすべての荷電粒子に作用するが,そのすべてが特定分析の対象となるわけではない。したがって,分光計336は選択電位に通電され(energized to a selected voltage potential),これによって四重極332へと通過する所望の質量電荷比帯域(mass-to-charge ratio)を選択することができる。四重極332および六重極333は,主磁石338と協働して,ビームを焦点面360(図3の一点鎖線)に集束させる。検出器(複数)340は質量分析器の焦点面360上に空間的に配置されている。イオンが六重極333を出ると,それらの軌道が個々のイオンの質量電荷比にしたがって変更され,これによって各イオンは焦点面360上の様々なポイントに到達する。検出器340は焦点面360に平行なトラック(複数)339上に移動可能に搭載されている。制御機構350を含めることで各検出器340の位置決めを個別に制御することができる。したがって,複数の検出器340を焦点面360に沿って空間的に配置して,分光計336によって選択される帯域内において,各イオンの質量電荷比にしたがって予想イオン(expected ions)を検出することができる。検出器340のそれぞれは本書に開示の実施形態のいずれかにしたがって実装することができる。
【0039】
ラスタ・スキャン二次イオン質量分析計では,一次イオンビームが用いられて対象のサンプルから材料がスパッタされる。材料がスパッタされると二次イオンが検出され,これによって上記サンプルの材料組成が決定される。一次イオンビームがサンプルをスキャンすると,サンプルの材料のスパッタリングに起因して,上記サンプルにはクレータが作られる。なお,各ラスタ・スキャンの縁部におけるスパッタリングは均一でないので,ラスタ・スキャンの縁部に関するデータは破棄される。図4はこの状態を示すもので,側面図はサンプル全体をテストするために必要とされる多くのスキャン・ラインのうちの1つのライン・スキャンを示している。上記サンプル上での一次ビームのスキャンは,上記サンプルからの材料のスパッタリングによってクレータを作る。上記クレータの比較的平坦な底面が,上記サンプルの材料構成を決定するためにデータが収集される領域である。なお,一般に傾斜が存在する領域によって規定される上記クレータの縁部では,サンプリングが不正確であるから,データは破棄される。
【0040】
図4は,イオンスパッタリングによって,クレータの縁部と中央とで異なるスパッタリング率を持つクレータ(a crater with different sputtering rate)が発生する状態を示している。図4において,対象領域470にわたって一次イオンビーム415をスキャンすることによってサンプル400は分析される。上記ビームが平面図において矢印で示すようにラスタ・スキャンされると,サンプル400の材料構成がスパッタリングで取り除かれる(sputtered away)ことでクレータが作られる。クレータの縁部472におけるスパッタリング率および二次イオンの軌道は,クレータの平坦な底部領域474からのものと異なる。したがって縁部472からのデータは従来破棄されている。
【0041】
一実施態様では,一次ビームが上記クレータの底部領域474をスキャンしている間にチャネルのうちの一つを用いて測定が実行される。たとえば,パルスカウントモードを使用するにはイオンカウントが高すぎるのであれば,一次ビームがクレータの底部領域474をスキャンする間,アナログモードが測定に用いられる。他方,一次ビームがクレータの縁部472をスキャンする間,データは質量分析測定に用いられない。これに代えて,パルスカウント・チャネルとアナログモード・チャネルからの同時データを用いてパルスカウント・チャネルに対してアナログチャネルをキャリブレートすることができる。
【0042】
別の実施態様では,一次ビームがクレータの底部を走査している間に一方のチャネルを用いて質量分析測定が実行される。同時に,他方のチャネルから取得されたデータが用いられてそのチャネルのデータが改善される(improve)。これに加えて,一次ビームがクレータの縁部をスキャンしているときに,パルスカウント・チャネルを用いてアナログチャネルがキャリブレーションされる。たとえば,2つのチャネルの出力の差からスケーリング係数(a scaling factor)を算出することができる。
【0043】
一実施態様では,このキャリブレーションは,検出信号が間違いなくパルスカウント・レジーム内(たとえば,約10イオン/秒未満)にある期間(periods of time when the detected signal is safely within the pulse counting regime)に実行され,十分な数のイオンイベントがアナログチャネルにおいて積分されかつパルスカウント・チャネルにおいてカウントされる,そのような取得期間の十分な時間にわたって実行され,検出に含まれる統計プロセスが本質的に静止している仕様および期間にイオンあたりの平均電流を決定する。この方法によると,スキャン期間が設定されてビームはサンプルの均一領域をスキャンする。アナログチャネルおよびカウントモード・チャネルが同時に動作するように駆動(アクティベート)される。スキャン期間の終わりでビームのスキャンが停止され,アナログチャネルおよびカウントモード・チャネルからの出力が用いられてキャリブレーション係数(a calibration factor)が生成される。この動作は同一のまたは異なるイオンフロー・レート(ion flow rates)を用いて複数回繰り返してもよい。
【0044】
この方法は,パルスカウントを使用するには高すぎるイオンフラックスを測定する必要がある(または測定することができる)場合に有用である。課題は,パルスカウントが可能な状況においてアナログモードが必要とされる各検出器において十分なデュアル・サンプリングを保証することである。いくつかの実施態様では,ラスタ・スキャン中に,収集が阻害されることなく,アナログモードが必要とされる各検出器における適切なイオン到着率(a suitable ion arrival rate)が生成される。
【0045】
一実施態様では,スキャンフレームの電子ゲート領域(electronic gating regions)が,このアプローチを実施するための実行可能な手段を提供する。最初のNスキャン中の各検出器におけるイオンフラックスの測定を使用して,単一の減衰係数を決定することができ,この単一の減衰係数によって,このキャリブレーションを必要とする各検出器における到着率が間違いなくパルスカウント領域内に収まるようになる。この減衰係数は,フレームの電子ゲート部分中の開口においてビームを偏向したりまたはデフォーカスしたりするといった二次イオン光学系における何らかの手段,ならびにアナログおよびパルスカウント・チャネルの両方で収集されるデータによって達成される。このデータは,移動平均を用いてパルスごとの平均電流を追跡するおよびキャリブレートするために使用され,これが次にフレームの測定セグメント中にアナログ信号をキャリブレートされたイオン到着率に変換するために使用される。
【0046】
減衰係数は,既知のイオン到着率を達成するために十分正確に把握されている必要はないことに留意すべきである。パルスカウントとアナログ出力の両方が可能なレジームにおいてイオン到達率を達成できることが十分に知られていることだけが必要とされる。いずれにせよ,目的とするところは,既知のイオン到達率を作成することではなく,アナログ出力をキャリブレートするために,アナログ信号とともに用いることができる測定可能なイオン到達率を作成することである。ゲート期間(gating periods)は一次ビームがクレータの縁部をスキャンする時間と一致してもよい。
【0047】
上記説明では,図2Aの吹き出し中のアナログチャネルを参照している。しかしながら,これに代えて,電子放出プレート243へのタップをアナログチャネルとして用いることができる。さらに,図2Aの吹き出しのアナログチャネルを用いる場合,電子放出プレート243のタップを用いてアナログチャネルをさらにキャリブレートすることができる。
【0048】
一実施態様では,二次イオン質量分析を実行するシステムが提供され,上記システムは,一次イオンビーム,サンプル上で上記一次イオンビームをスキャンする光学系構成(optics arrangement),上記サンプルから発する二次イオンを検出して検出信号を生成する検出器,ならびに第1および第2のチャネルに結合される第1の検出信号線および第2の検出信号線を備え,上記第1のチャネルがイオンカウント出力を提供するように構成される要素(素子)(elements)を備え,上記第2のチャネルが積分電流信号(integrated current signal)を提供するように構成される要素を備えている。上記システムはさらに,上記第1および第2のチャネルから信号を受け付け,上記一次ビームがそのスキャンの中央部分にあるときに測定データを生成し,上記ビームがそのスキャンの縁部にあるときに上記第1および第2のチャネルを互いにキャリブレートするようにプログラムされた制御装置を備えてもよい。
【0049】
さらなる実施態様では,カウントモードおよびアナログモードを有する二次イオン質量分析計を動作させる方法が提供され,この方法は,サンプル上において一次イオンビームをスキャンして上記サンプルから二次イオンをスパッタリングし(to sputter),上記サンプルからの二次イオンを収集して第1の検出信号および第2の検出信号を同時に生成し,上記第1の検出信号をイオンカウント・チャネルに適用し,上記第2の検出信号をイオンアナログ・チャネルに適用し,上記アナログチャネルおよびパルスカウント・チャネルの出力からキャリブレーション係数を生成する。上記第1の検出信号を上記検出器に結合されたバイアス線から生成してもよく,上記第2の検出信号を上記検出器の出力から生成してもよい。電子増倍管が検出器として用いられる場合,上記第1の検出信号をダイノードにタップされた線から生成してもよく,上記第2の検出信号をコレクタの出力から生成してもよい。
【0050】
さらに,二次イオン質量分析を実施する方法が提供され,この方法は,サンプルから二次イオンをスパッタリングし,上記二次イオンを収集して二次イオンビームを形成し,上記二次イオンビームを質量分析器に通過させて焦点面に並ぶ複数の二次イオン軌道を形成し,上記焦点面上において,質量対電荷比にしたがって予想される二次イオン軌道に複数の検出器を配置し,それぞれの検出器を,受け付けた二次イオンに対応する電子フローを生成し,上記電子フローに対応する光子フローを生成し,上記光子フローに対応する電流フローを生成するように動作させる。上記方法は,光ガイド内に光子フローを搬送することを含んでもよい。上記光子フローに対応する電流フローの生成は,光子フローを固体電子増倍管に向かわせることを含んでもよい。上記方法はさらに,電流フローをタップすることおよびタップのときに積分すること(integrating over the tapping)を含んでもよい。上記方法はさらに電子フローをタッピングすることおよびタップのときに電流を測定すること(measuring a current over the tapping)を含んでもよい。
【0051】
本書で説明される処理および技術は,何らかの特定装置に本質的に関連するものではなく,構成要素(コンポーネント)の任意の適切な組み合わせによって実装できることを理解されたい。さらに,本書で説明する教示にしたがって,さまざまなタイプの汎用デバイスを使用することができる。特定の例に関連してこの発明を説明したが,この例はあらゆる観点において限定的ではなく例示的であることを意図している。当業者は,多くの様々組み合わせがこの発明を実施するのに適していることを理解しよう。
【0052】
さらに,この明細書および本書に開示された発明の実施を考慮することによって,この発明の他の実装が当業者に明らかになるであろう。記述される実施態様の様々の観点および/または構成要素は単独でまたは任意の組合せで用いることができる。明細書および実施例は例示としてのみ考慮されることを意図しており,この発明の真の範囲および精神は以下の特許請求の範囲によって示される。
図1A
図1B
図2
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4