(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】物性測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/04 20060101AFI20230512BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230512BHJP
G01N 25/18 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
G01N27/04 Z
G01N37/00 101
G01N25/18 F
(21)【出願番号】P 2019097781
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2022-04-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月30日~平成30年11月1日札幌市民交流プラザにおいて開催された化学とマイクロ・ナノシステム学会第38回研究会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】597095957
【氏名又は名称】株式会社アクアテック
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125221
【氏名又は名称】水田 愼一
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】森島 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】上杉 薫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 義之
(72)【発明者】
【氏名】八上 雄太
(72)【発明者】
【氏名】玉川 長雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛士
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-220850(JP,A)
【文献】特開昭61-201148(JP,A)
【文献】特開2019-039734(JP,A)
【文献】特開2013-228346(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0033435(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00 - G01N 25/72
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の物性を測定するためのセンサチップと、前記センサチップにmsオーダー以下の高速パルス電流を印加する電源回路と、前記センサチップにおけるmVオーダー以下の電圧を計測する電圧計側部と、を備えた物性測定装置であって、
前記センサチップは、前記電源回路と電気的に接続される一対の電源電極と、前記電圧計側部と電気的に接続される一対の計測電極と、前記一対の電源電極間に設けられる
幅がμmオーダー以下の狭窄部と、を有し、
前記電源回路は、前記狭窄部に対象物が接触しているとき前記高速パルス電流を所定時間に連続的に前記センサチップに印加し、
前記電圧計側部は、前記高速パルス電流に対応する前記狭窄部の電圧の積分値から対象物の物性を測定することを特徴とする物性測定装置。
【請求項2】
前記電圧計側部は、前記所定時間における前記積分値の平均値に基づいて対象物の物性を測定することを特徴とする請求項1に記載の物性測定装置。
【請求項3】
前記計測電極は、前記狭窄部の近傍から延出された配線パターンを介して前記電源電極と電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の物性測定装置。
【請求項4】
前記狭窄部上に配置され、対象物が注入される保持筒を更に備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の物性測定装置。
【請求項5】
前記狭窄部上に配置され、対象物が流入される流路を更に備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の物性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞や微小生体組織といった対象物の熱物性等の物性を測定する物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、対象物の熱物性を測定する方法として、プラチナ等から成る極細の熱線に電流を印加し、時間による熱線の温度上昇を利用して熱伝導度を測定する非定常熱線法(transient hot-wire method)を用いた熱伝導度測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この熱伝導度測定装置は、上部板及び下部板の間に設置されたシリンダ内に、上下移動が可能な稼動板を設け、上部板に結合された第1固定手段と、稼動板に設置された第2固定手段とで熱線を固定し、熱線の温度変化からシリンダ内に流入されるナノ流体の熱伝導度を測定する。
【0003】
また、基板に一対の電流・電圧端子を配置すると共に、一対の電流・電圧端子間に熱線を配置し、この熱線に直列に標準抵抗を接続し、熱線に対向するように熱溜端子を配置し、熱線の中央部と熱溜端子とを接続するように試料細線を配置した熱伝導率測定装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。この熱伝導率測定装置は、熱線と標準抵抗に直流電流を印加したときの熱線及び標準抵抗の両端の電圧を測定して、熱線の加熱量及び平均温度を求め、その結果から試料細線の熱流束及び温度を算出して、試料微細の熱伝導率を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-534322号公報
【文献】特開2000-352561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱線を用いた熱伝導測定装置では、熱線が適切な張力で配置されていなければ、適正な熱伝導度を測定できないことがあり、例えば、上記特許文献1では、熱線を固定する第1固定手段を上下に移動させる張力調節手段を設けているが、このような機構を設けると装置が複雑化してしまう。また、熱線に電流を印加し、所定の時間をかけて熱線の温度上昇を用いて試料の熱伝導度等を測定する場合には、試料に一定程度の熱が加わることが避けられない。上記特許文献2では、試料が細線なので、一定程度の熱が加わっても影響は少ないが、試料が細胞や微小生体組織である場合には、試料に対する侵襲性が問題となり、多様な対象物の物性を測定することができない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、簡易な構成で、細胞や微小生体組織といった対象物に対する侵襲性が低く、多様な対象物の物性を測定することができる汎用性の高い物性測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、対象物の物性を測定するためのセンサチップと、前記センサチップにmsオーダー以下の高速パルス電流を印加する電源回路と、前記センサチップにおけるmVオーダー以下の電圧を計測する電圧計側部と、を備えた物性測定装置であって、前記センサチップは、前記電源回路と電気的に接続される一対の電源電極と、前記電圧計側部と電気的に接続される一対の計測電極と、前記一対の電源電極間に設けられる幅がμmオーダー以下の狭窄部と、を有し、前記電源回路は、前記狭窄部に対象物が接触しているとき前記高速パルス電流を所定時間に連続的に前記センサチップに印加し、前記電圧計側部は、前記高速パルス電流に対応する前記狭窄部の電圧の積分値から対象物の物性を測定することを特徴とする。
【0008】
また、上記物性測定装置において、前記電圧計側部は、前記所定時間における前記積分値の平均値に基づいて対象物の物性を測定することが好ましい。
【0009】
また、上記物性測定装置において、前記計測電極は、前記狭窄部の近傍から延出された配線パターンを介して前記電源電極と電気的に接続されていることが好ましい。
【0010】
また、上記物性測定装置において、前記狭窄部上に配置され、対象物が注入される保持筒を更に備えることが好ましい。
【0011】
また、上記物性測定装置において、前記狭窄部上に配置され、対象物が流入される流路を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電源回路によってセンサチップの狭窄部に印加される高速パルス電流は、短時間の微小電流なので、狭窄部から発するジュール発熱による熱量も僅かとなり、狭窄部と接触する対象物への熱による侵襲性も小さくすることができる。また、ジュール発熱に伴う狭窄部の電圧変化が微小値であっても、高速パルス電流が印加される所定時間における積分値から、物性の相違を検出することができる。従って、簡易な構成で、対象物に対する侵襲性が低く、多様な対象物の物性を測定することができる汎用性の高い物性測定装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る物性測定装置の概略構成を示す図。
【
図2】上記物性測定装置に用いられるセンサチップの平面図。
【
図3】(a)は
図2の一点鎖線部の拡大図、(b)は(a)の二点鎖線部の拡大図
【
図4】(a)乃至(e)は上記センサチップの作成工程を示す図。
【
図5】上記センサチップに保持筒を取り付けた構成を示す斜視図。
【
図6】上記物性測定装置の概略的な回路構成を示す図。
【
図7】上記物性測定装置の具体的な回路構成と、実行される処理を示す図。
【
図8】(a)は上記物性測定装置の動作において、高速パルス電流の電流波形の変化を示す図、(b)は抵抗温度の変化を示す図、(c)は電圧波形の変化を示す図、(d)は電圧から積分値と、その平均値を求めるための数式を示す図。
【
図9】(a)は対象物が液体(水)である場合の動作を説明するための図、(b)は対象物が細胞である場合の動作を説明するための図。
【
図10】上記実施形態の変形例であり、狭窄部上に流路が設けられた構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る物性測定装置について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、物性測定装置1は、対象物の物性を測定するためのセンサチップ2と、センサチップ2に高速パルス電流を印加する電源回路3と、センサチップ2における微電圧を計測する電圧計側部4と、を備える。
【0015】
センサチップ2は、ヒートシンク5上に、後述する電極が設けられた面を上面にして載置される。また、ヒートシンク5は、水冷用のチラー6と接続され、センサチップ2は定温に維持される。センサチップ2の各電極には電極パッドが配置され、それらの電極パットと繋がれた導線3a、3b、4a、4bを介して、センサチップ2は、電源回路3及び電圧計側部4と夫々によって電気的に接続される。また、センサチップ2の略中央には、対象物が注入される保持筒7が配置される。
【0016】
電源回路3は、商用電源を受けてセンサチップ2への入力電源を生成し、矩形波に変換して出力することができるパルス電源回路を備えたものであり、本実施形態では、msオーダー以下、好ましくはμsオーダーの高速パルス電流を印加することができるものが用いられる。
【0017】
電圧計側部4には、アナログ―デジタル変換回路を用いて電流、電圧、抵抗としった測定値をモニタにデジタル数字で表示するデジタルマルチメータ(DMM)と、DMMで計測されたデータを計算、解析等を行うためのソフトウェアを実行するデバイス(パーソナルコンピュータ等、不図示)が用いられる。なお、本実施形態のDMMには、直流電圧計として、mVオーダー以下、好ましくはμVオーダーの微電圧を計測することができるものが用いられる。
【0018】
図2及び
図3に示すように、センサチップ2は、基板21と、基板21上に形成され電源回路3と電気的に接続される一対の電源電極22、23と、基板21上に形成され電圧計側部4と電気的に接続される一対の計測電極24、25と、基板21上に形成され一対の電源電極22、23間に設けられるμmオーダー以下の狭窄部26と、を有する。基板21は、ガラスであり、電源電極22、23、計測電極24、25、狭窄部26は、いずれも、例えば、μmオーダー以下、好ましくはnmオーダーの厚みで成膜された金属材料により形成される。金属材料としては、細胞や生体計測が可能なように、生体適合性が高い金属、例えば、金(Au)が好適に用いられる。また、対象物が生体材料ではない場合には、安価なニッケル(Ni)等が用いられてもよい。なお、狭窄部26は、微細な構造であり、
図2では殆ど確認できず、
図3(a)(b)に示される。
【0019】
電源電極22、23は、電極パッドが配置される一対のパッド部22a、23aが、基板21の2隅に所定の間隔を空けて、相対的に大きな面積で設けられている。また、各パッド部22a、23aの内側辺の中央寄りの位置から、夫々延出部22b、23bが設けられている。延出部22b、23bの互いに向かい合う辺の間隔は、μmオーダーである。そして、狭窄部26は、延出部22b、23bの互いに向かい合う辺を架橋するように形成される。狭窄部26の長さLは、延出部22b、23bの間隔に等しく、例えば、5~30μmであり、より好ましくは、10~15μmである。また、狭窄部26の幅Wは、例えば、1~15μmであり、より好ましくは、2~6μmである。狭窄部26の厚みは、電源電極22、23と等しく、例えば、10~50nmであり、より好ましくは、20~30nmである。
【0020】
計測電極24、25は、電極パッドが配置される一対のパッド部24a、25aが、基板21のうち、電源電極22、23のパッド部22a、23aとは対峙する2隅に所定の間隔を空けて設けられている。また、計測電極24、25のパッド部24a、25aは、電源電極22、23に比べて、互いに離れて設けられ、配線パターン24b、25bを介して電源電極22、23と電気的に接続されている。ここで、電源電極22、23のうち計測電極24、25側の辺は、狭窄部26に向けて掘り込まれており、配線パターン24b、25bが狭窄部26の近傍から延出された形状となっている。配線パターン24b、25bが狭窄部26の近傍から延出されることにより、電圧計側部4により、狭窄部26の微細な電圧変化を計測することができる。
【0021】
センサチップ2は、
図4に示すように、一般的なフォトリソグラフィ技術及びウェットエッチングにより作製される。まず、
図4(a)に示すように、ガラス製の基板21上に所定膜厚でニッケル層20Aがめっき等により成膜された基材が用意される。次に、
図4(b)に示すように、ニッケル層20A上に感光性樹脂等によるフォトレジスト層20Bが形成される。そして、
図4(c)に示すように、フォトレジスト層20B上に、電源電極22、23、計測電極24、25、狭窄部26といった電極パターンに対応するように紫外線を照射することで、紫外線が照射された部分のフォトレジスト層20Bが除去される。
【0022】
続いて、
図4(d)に示すように、ウェットエッチングにより、フォトレジスト層20Bから露出したニッケル層20Aが溶融除去される。最後に、紫外線で残ったフォトレジスト層20Bを除去することで、
図4(e)に示すように、基板21上に所望の電極パターンの形状に対応したニッケル層20Aを設けることができる。
【0023】
なお、1枚のガラス製の基板21上に、複数の電極パターンが形成されるように紫外線を照射し、最後のフォトレジスト層20Bの除去後に、各電極パターン毎に基板21を分割すれば、一度の製造工程で多数の同じセンサチップ2を製造することができる。従って、上述したフォトリソグラフィ技術及びウェットエッチングを用いて作製すれば、微細な狭窄部26を有するセンサチップ2を、容易に大量生産することができ、測定対象毎に使い切りできるような安価なセンサチップ2を得ることができる。このようにして作製されたセンサチップ2は、
図5に示すように、狭窄部26を覆うように、且つ電源電極22、23及び計測電極24、25の電極パッドが配置される箇所には被らないにように、保持筒7が配置される。
【0024】
図6は、物性測定装置1の概略的な回路構成を示す。まず、定電流電源I(電源回路3)から、試料(物性を測定する対象部)と接触する可変抵抗R(狭窄部26)に、微量な高速パルス電流が印加される。このとき、可変抵抗Rは、ジュール発熱し、発熱によって抵抗の温度が上昇することから、印加電圧も上昇する。この印加電圧を、積分回路を経て積分値として出力する。
【0025】
図7は、
図6よりも具体的な物性測定装置1の回路構成と、物性測定装置1(主に電源回路3)によって実行される処理を示す。励起・検知(Excitation&Detection)回路は、定電流電源Iによるセンサ抵抗Rs、標準抵抗Rfの電圧降下を測定する。センサ抵抗Rsの測定では、試料による電極の温度変化を測定する。また、標準抵抗Rfの測定では試料の影響を除いた、抵抗値が既知である抵抗を測定する。なお、ここでの、電圧変化はμVオーダーとなる。参照信号(Reference signal)回路は、センサ抵抗Rs及び標準抵抗Rfを使わずに、電圧の読み取り自体の精度を評価する。バッファー(Buffer)回路は、ボルテージフォロワ回路であり、検知された電圧を変えることなく、電流のみ増幅する。積分(Integration)回路は、一般的なRC積分回路であり、バッファー回路から流れてくる電流を貯めて、微小な変化をDMM(電圧計側部4)で検出可能とする。
【0026】
ここで、物性測定装置1の動作について、
図6で示した概略的な回路構成と併せて、
図8を参照して説明する。まず、電源回路3は、狭窄部26が物性を測定する対象部と接触しているときに、
図8(a)に示すような、高速パルス電流を、所定時間に連続的にセンサチップ2に印加する。ここで、高速パルス電流のパルス周期は、5000μs~10000μsである。また、高速パルス電流のパルス幅は、例えば、0.1~20μsであり、好ましくは、0.4~10μsである。高速パルス電流の高速パルス電流を連続的に印加する所定時間は、例えば、1~20sであり、高速パルス電流印加回数nは200~500回である。また、高速パルス電流の電流値は、例えば、1~15mAであり、好ましくは、3~10mAである。
【0027】
このとき、狭窄部26は、微小電流により僅かなジュール発熱し、
図8(b)に示すように、抵抗温度が上昇し、
図8(c)に示すように、電圧も上昇する。ここで、狭窄部26は、対象物に接触しているので、抵抗温度の上昇具合は、試料の熱物性に依存して異なり、電圧の上昇具合もまた、試料の熱物性に依存して異なることになる。つまり、狭窄部26(抵抗)の電圧値を計測することで、狭窄部26と接触する対象物の熱物性を測定することができる。
【0028】
また、本実施形態では、
図8(d)に示すように、電圧計側部4では、高速パルス電流に対応する狭窄部26の電圧の積分値を測定し、更に、上記の所定時間における積分値の平均値に基づいて、対象物の熱物性を測定する。なお、
図8(d)中の数式におけるVsは狭窄部26の電圧の積分値であり、C、Rは、
図7に示した積分回路のコンデンサCの静電容量と、抵抗Riの抵抗値であり、Voutputが電圧計側部4に出力される積分値の平均値である。
【0029】
本実施形態によれば、電源回路3によって狭窄部26に印加される高速パルス電流は、短時間の微小電流なので、狭窄部から発するジュール発熱による熱量も僅かとなり、狭窄部26と接触する対象物への熱による侵襲性も小さくすることができる。また、ジュール発熱に伴う狭窄部26の電圧変化が微小値であっても、高速パルス電流が印加される所定時間における積分値とすることで読み取り可能な差とすることができ、更に積分値の平均値を用いることで、ノイズを除去し、正確に物性の相違を検出することができる。
【0030】
ここで、物性の相違と電圧変化の関係について、
図9を参照して説明する。
図9(a)における試料は、液体(例えば、水)であり、
図9(b)における試料は、細胞である。
水は、細胞に比べて熱伝導率が大きいと予測される。そのため、狭窄部26の表面からの熱の伝わり方が早く、抵抗温度が小さくなるので、電圧変化も小さくなる。一方、細胞は、水に比べて熱伝導率が小さいと予測される。そのため、狭窄部26の表面からの熱の伝わり方が遅く、抵抗温度が大きくなるので、電圧変化も大きくなる。つまり、電圧変化を計測すれば、対象物の熱伝導率を逆算することができる。
図9では、水と細胞の例を挙げたが、正常な細胞と異常な細胞でも、熱伝導率に相違が生じることが知られており、本実施形態の物性測定装置1によれば、生体内における細胞異常を検出することも可能となる。
【0031】
また、電圧変化は、熱伝導率以外にも、試料の比熱の濃度、粘度等とも相関があるので、それらの相関に関するデータを蓄積することで、熱伝導率以外に、狭窄部26の電圧変化を計測することで、狭窄部26と接触する対象物の様々な物性を測定することも可能となる。なお、本実施形態の物性測定装置1によれば、1μV以上の電圧を計測できれば、5.0×10-4[K]の微小な温度変化を計測することができる。このような微小な温度変化であれば、対象物への熱による侵襲性は殆ど無視できる。また、対象物は、固体・液体・気体のいずれにも適用するこができる。従って、多様な対象物の物性を測定することができる汎用性の高い物性測定装置を得ることができる。
【0032】
図10は、上記実施形態の変形例であり、狭窄部26上に、保持筒7に替えて、対象物が流入される流路8を設けたものである。流路8は、液体である対象物の注入口81と、排出口82と、注入口81及び排出口82の各下端部と夫々連通した管状部材83と、から成る。なお、図例では、電源電極22、23、計測電極24、25、狭窄部26を点線で示している。管状部材83は、センサチップ2と対向する面のうち、少なくとも狭窄部26上が開口しており、管状部材83を流れる液体が直接的に狭窄部26と接触する。
【0033】
流路8を流れる液体の流量が大きいと、狭窄部26で発生した熱の拡散が早いので、抵抗温度は小さくなり、狭窄部26の電圧値も小さくなり、これとは逆に、流路8を流れる液体の流量が小さいと、狭窄部26で発生した熱の拡散が遅いので、抵抗温度は大きくなり、狭窄部26の電圧値も大きくなる。つまり、狭窄部26の電圧値を計測すれば、流路8を流れる液体の流量を計測することができる。すなわち、本変形例の物性測定装置1は、流量測定装置としても用いることができる。
【0034】
なお、本発明は、センサチップ2の一対の電源電極22、23間に、μmオーダーの狭窄部26を設け、電源回路3から狭窄部26に高速パルス電流を所定時間に連続的に印加し、電圧計側部4で、高速パルス電流に対応する狭窄部26の電圧の積分値を計測し、この計測値から対象物の物性を測定するものであれば、上記実施形態の構成に限られず、種々の変形が可能である。上記実施形態において、センサチップ2は、基板21上に2次元的に電源電極22、23、計測電極24、25、狭窄部26が形成された構成を示したが、例えば、先端が先細りとなった棒状部材の先端部に狭窄部26が設けられ、電源電極22、23、計測電極24、25は、軸部側に3次元的に形成されていてもよい。この構成によれば、先端部の狭窄部26を対象物に当接させる又は突き刺す等によっても、その対象物の物性を測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1 物性測定装置
2 センサチップ
22、23 電源電極
24、25 計測電極
24b、25b 配線パターン
26 狭窄部
3 電源回路
4 電圧計側部
7 保持筒
8 流路