(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20230512BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20230512BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230512BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20230512BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230512BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230512BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C23C14/50 A
C23C14/04 A
C23C14/34 J
H01L21/68 R
H05B33/10
H05B33/14 A
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2019194253
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】10-2018-0157313
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 行生
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-031502(JP,A)
【文献】特開平07-321186(JP,A)
【文献】特開2004-349663(JP,A)
【文献】特開2008-042117(JP,A)
【文献】特開2003-037159(JP,A)
【文献】特開2011-026625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/50
C23C 14/04
C23C 14/34
H01L 21/683
H05B 33/10
H10K 50/00
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の複数の成膜対象領域にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、
少なくとも前記基板を吸着するための静電チャック
と、真空容器と、を有し、
前記静電チャックは、
吸着面に平行な方向に前記真空容器に搬出入可能であり、
第1電極部が設けられた第1領域と、第2電極部が設けられた第2領域と、を有し、
前記第1領域における前記
基板に対する静電引力が、前記第2領域における前記
基板に対する静電引力と異なるように構成されることを特徴とする
成膜装置。
【請求項2】
前記静電チャックは、前記第1領域における前記
基板に対する単位面積当たりの静電引力が、前記第2領域における前記
基板に対する単位面積当たりの静電引力より小さくなるように構成されることを特徴とする請求項1に記載の
成膜装置。
【請求項3】
前記第1領域に設けられた前記第1電極部の電極密度は、前記第2領域に設けられた前記第2電極部の電極密度より、小さいことを特徴とする請求項2に記載の
成膜装置。
【請求項4】
前記第1電極部及び前記第2電極部のそれぞれは、互いの櫛歯部が交互に噛み合うように対向して配置された一対の櫛歯電極を有し、
前記第1電極部の前記櫛歯部間の間隔は、前記第2電極部の前記櫛歯部間の間隔より、広いことを特徴とする請求項1に記載の
成膜装置。
【請求項5】
少なくとも前記第1及び第2電極部と前記
基板の吸着面との間に介在する誘電体部と、を有し、
前記第1領域における前記誘電体部の厚さは、前記第2領域における前記誘電体部の厚さより、大きいことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の
成膜装置。
【請求項6】
少なくとも前記第1及び第2電極部と前記
基板の吸着面との間に介在する誘電体部と、を有し、
前記第1領域における前記誘電体部の比抵抗は、前記第2領域における前記誘電体部の
比抵抗より、大きいことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の
成膜装置。
【請求項7】
少なくとも前記第1及び第2電極部と前記
基板の吸着面との間に介在する誘電体部と、を有し、
前記第1領域における前記誘電体部の誘電率は、前記第2領域における前記誘電体部の誘電率より、小さいことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の
成膜装置。
【請求項8】
前記
基板に対する成膜工程の少なくとも一部の期間において、前記第1電極部に印加される電圧が前記第2電極部に印加される電圧と異なるように制御する制御部を備えることを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の
成膜装置。
【請求項9】
前記
基板は、複数の成膜対象領域を有し、
前記第1領域が、前記
基板の前記成膜対象領域を含む領域を吸着し、
前記第2領域が、前記
基板の前記複数の成膜対象領域の間の領域を吸着することを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の
成膜装置。
【請求項10】
基板の複数の成膜対象領域にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、
少なくとも前記基板を吸着するための静電チャック
と、真空容器と、を有し、
前記静電チャックは、
吸着面に平行な方向に前記真空容器に搬出入可能であり、
前記
基板が吸着される吸着面に平行な第1方向、及び、前記吸着面に平行であり前記第1方向と交差する第2方向に、所定の間隔で離隔してマトリックス状に配置される複数の第1領域と、前記複数の第1領域の間の第2領域と、を有し、
前記第1領域における前記
基板に対する静電引力が、前記第2領域における前記
基板に対する静電引力と異なるように構成されることを特徴とする
成膜装置。
【請求項11】
前記静電チャックは、前記第1領域における前記
基板に対する単位面積当たりの静電引力が、前記第2領域における前記
基板に対する単位面積当たりの静電引力より小さくなるように構成されることを特徴とする請求項10に記載の
成膜装置。
【請求項12】
前記第1領域に設けられた第1電極部と、前記第2領域に設けられた第2電極部とを含む電極部を備え、
前記第1領域に設けられた前記第1電極部の電極密度が前記第2領域に設けられた前記第2電極部の電極密度より小さいことを特徴とする請求項10に記載の
成膜装置。
【請求項13】
前記第1電極部及び前記第2電極部のそれぞれは、互いの櫛歯部が交互に噛み合うように対向して配置された一対の櫛歯電極を有し、
前記第1電極部の前記櫛歯部間の間隔は、前記第2電極部の前記櫛歯部間の間隔より広いことを特徴とする請求項12に記載の
成膜装置。
【請求項14】
少なくとも前記第1及び第2電極部と前記
基板が吸着される吸着面との間に介在される誘電体部とを含み、
前記第1領域における前記誘電体部の厚さが前記第2領域における前記誘電体部の厚さより大きいことを特徴とする請求項12に記載の
成膜装置。
【請求項15】
少なくとも前記第1及び第2電極部と前記
基板が吸着される吸着面との間に介在される誘電体部とを含み、
前記第1領域における前記誘電体部の比抵抗が前記第2領域における前記誘電体部の比
抵抗より大きいことを特徴とする請求項12に記載の
成膜装置。
【請求項16】
少なくとも前記第1及び第2電極部と前記
基板が吸着される吸着面との間に介在される誘電体部とを含み、
前記第1領域における前記誘電体部の誘電率が前記第2領域における前記誘電体部の誘電率より小さいことを特徴とする請求項12に記載の
成膜装置。
【請求項17】
前記真空容器内に配置される成膜
源をさらに有し、
前記成膜源は、前記基板の長辺方向又は短辺方向に沿って前記基板に対して相対的に移動可能であることを特徴とする請求項
1~請求項16のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項18】
前記成膜源は、成膜材料を収納する収納手段と、前記成膜材料を加熱するための加熱手段と、を有することを特徴とする請求項
17に記載の成膜装置。
【請求項19】
前記成膜源は、スパッタリング用のターゲットを有することを特徴とする請求項
17に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の成膜源から放出された成膜材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に成膜することで、有機物層や金属層を形成する。
【0003】
上向成膜方式(デポアップ)の成膜装置において、成膜源は成膜装置の真空容器の下部に設けられ、基板は真空容器の上部に配置され、基板の下面に成膜が行われる。このような上向成膜方式の成膜装置の真空容器内において、基板はその下面の周縁部だけが基板ホルダによって保持されるので、基板がその自重によって撓み、これが成膜精度低下の1つの要因となっている。上向成膜方式以外の方式の成膜装置においても、基板の自重による撓みは生じる可能性がある。
【0004】
基板の自重による撓みを低減するための方法として、静電チャックを使う技術が検討されている。すなわち、基板の上面をその全体にわたって静電チャックで吸着することで、基板の撓みを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国特許公開公報2018-0053143号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、静電チャックを用いる成膜装置においては、静電チャックからの静電界のために、基板に成膜される膜の膜質や膜厚分布の均一性が低下する可能性がある。例えば、極性を有する材料を成膜する場合、静電チャックの静電界による誘電分極により膜の特性が変化したり、膜厚分布が不均一になったりすることがあり得る。また、スパッタリングにより成膜する装置の場合、静電チャックの静電界によってプラズマが乱れ、膜質や膜厚分布に影響を与える可能性がある。
【0007】
特許文献1(韓国公開特許公報第2018-0053143号)は、シャドーマスクが形成される部分にのみ電極が形成されている静電チャックで基板とマスクを吸着した状態で成膜を行う構成を開示しているが、この場合、基板及び/又はマスクに十分な大きさの吸着力を作用させることができない可能性がある。特に、大きなサイズの基板とマスクを用いて成膜を行う場合には、特許文献1の構成では、基板及びマスクを安定的に吸着しつつ、膜質や膜厚分布の均一性の高い膜を成膜することは困難となる。
【0008】
本発明は、静電チャックにより基板及び/又はマスクを安定的に吸着しつつ、静電チャックの電界による膜の膜質や膜厚分布の均一性への影響を低減することができる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様による成膜装置は、基板の複数の成膜対象領域にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、少なくとも前記基板を吸着するための静電チャックと、
真空容器と、を有し、前記静電チャックは、吸着面に平行な方向に前記真空容器に搬出入可能であり、第1電極部が設けられた第1領域と、第2電極部が設けられた第2領域と、を有し、前記第1領域における前記基板に対する静電引力が、前記第2領域における前記基板に対する静電引力と異なるように構成されることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2態様による成膜装置は、基板の複数の成膜対象領域にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、少なくとも前記基板を吸着するための静電チャックと、真空容器と、を有し、前記静電チャックは、吸着面に平行な方向に前記真空容器に搬出入可能であり、前記基板が吸着される吸着面に平行な第1方向、及び、前記吸着面に平行であり前記第1方向と交差する第2方向に、所定の間隔で離隔してマトリックス状に配置される複数の第1領域と、前記複数の第1領域の間の第2領域と、を有し、前記第1領域における前記基板に対する静電引力が、前記第2領域における前記基板に対する静電引力と異なるように構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、静電チャックにより基板及び/又はマスクを安定的に吸着しつつ、静電チャックの電界による膜の膜質や膜厚分布の均一性への影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による成膜装置の模式図である。
【
図3】
図3(a)~
図3(c)は、本発明の他の一実施形態による成膜装置の模式図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの概念図である。
図4(b)は、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの模式的平面図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、本発明の一実施形態による静電チャックの模式的断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態による静電チャックの電圧制御を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状等は、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0021】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好ましく適用することができる。基板の材料としては、ガラス、高分子材料のフィルム、金属等の任意の材料を選択することができ、基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミド等のフィルムが積層された基板であってもよい。また、成膜材料は、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物等)等の任意の材料を選択してもよい。なお、本発明は、加熱蒸発による真空蒸着装置以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を有する成膜装置
にも、適用することができる。本発明の技術は、具体的には、半導体デバイス、磁気デバ
イス、電子部品等の各種電子デバイスや、光学部品等の製造装置に適用可能である。電子デバイスの具体例としては、発光素子や光電変換素子、タッチパネル等が挙げられる。本発明は、中でも、OLED(Organic Light Emitting Diode)等の有機発光素子や、有機薄膜太陽電池等の有機光電変換素子の製造装置に好ましく適用可能である。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサ)も含む。
【0022】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
【0023】
図1の製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板の、マトリクス状に離隔されて配置された複数のデバイス形成領域に有機EL素子の形成のための成膜を行った後、デバイス形成領域の間の領域(スクライブ領域)に沿って該基板を切り出して、複数の小さなサイズのパネルに製作する。このように、本実施形態に係る電子デバイスの製造装置は、基板上に並んで設けられた複数のデバイス領域に対して成膜を行い、その後、デバイス領域の間の領域(スクライブ領域)に沿って該基板を切り出して複数の電子デバイスを製造する。
【0024】
本実施形態に係る電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置1の間を繋ぐ中継装置とを有する。
【0025】
クラスタ装置1は、基板Sに対する処理(例えば、成膜)を行う複数の成膜装置11と、使用前後のマスクMを収納する複数のマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13と、を備える。搬送室13は、
図1に示すように、複数の成膜装置11及びマスクストック装置12のそれぞれと接続されている。
【0026】
搬送室13内には、基板S及びマスクMを搬送する搬送ロボット14が配置されている。搬送ロボット14は、上流側に配置された中継装置のパス室15から成膜装置11へ基板Sを搬送する。また、搬送ロボット14は、成膜装置11とマスクストック装置12との間でマスクMを搬送する。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板S又はマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0027】
成膜装置11では、成膜源から放出された成膜材料がマスクMを介して基板S上に成膜される。搬送ロボット14からの、又は搬送ロボット14への、基板Sの受け渡し、基板SとマスクMの相対位置の調整(アライメント)、マスクM及び基板Sの固定、成膜等の一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0028】
有機EL表示装置を製造するための製造装置において、成膜装置11には、成膜される材料の種類によって、有機膜の成膜装置と、金属性膜の成膜装置とがあり、有機膜の成膜装置は、有機物の成膜材料を蒸着によって基板Sに成膜し、金属性膜の成膜装置は、金属性の成膜材料を蒸着又はスパッタリングにより基板Sに成膜する。なお、有機物の成膜材料をスパッタリングにより基板Sに成膜してもよい。有機EL表示装置を製造するための製造装置において、どのような成膜装置をどの位置に配置するかは、製造される有機EL素子の積層構造によって異なり、有機EL素子の積層構造に応じて、これを成膜するための複数の成膜装置11が配置される。例えば、後述するように、有機EL素子の場合、通常、アノードが形成されている基板S上に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送
層、電子注入層、カソードがこの順に積層されている構造を有するが、これらの層を順次成膜することができるように、基板Sの搬送の流れ方向に、これに合う成膜装置11が配置される。
【0029】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクMと、使用済みのマスクMとが、2つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクMを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納された新しいマスクMを成膜装置11に搬送する。
【0030】
クラスタ装置1には、基板Sの搬送の流れ方向において上流側からの基板Sを当該クラスタ装置1に受け渡すパス室15と、当該クラスタ装置1で成膜処理が完了した基板Sを下流側の他のクラスタ装置に受け渡すためのバッファ室16が連結される。搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Sを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の1つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Sを複数の成膜装置11の1つ(例えば、成膜装置11b)から受け取って、下流側に連結されたバッファ室16に搬送する。
【0031】
バッファ室16とパス室15との間には、基板Sの向きを変える旋回室17が設置される。旋回室17には、バッファ室16から基板Sを受け取って基板Sを180°回転させ、パス室15に搬送するための搬送ロボット18が設けられる。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置とで基板Sの向きが同じになり、基板処理が容易になる。
【0032】
パス室15、バッファ室16、旋回室17は、クラスタ装置間を連結する、中継装置であり、クラスタ装置の上流側及び/又は下流側に設置される中継装置は、パス室、バッファ室、旋回室のうち少なくとも1つを有する。
【0033】
成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13、バッファ室16、旋回室17等は、有機発光素子の製造の過程で、高真空状態に維持される。パス室15は、通常低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもよい。
【0034】
有機EL素子を構成する複数の層の成膜が完了した基板は、有機EL素子を封止するための封止装置(不図示)や基板を所定のパネルサイズに切断するための切断装置(不図示)等に搬送される。
【0035】
本実施形態では、
図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバを有してもよく、これらの装置やチャンバ間の配置も限定されない。
【0036】
例えば、本発明の一実施形態による電子デバイスの製造装置は、
図1に示すクラスタタイプではなく、インラインタイプであってもよい。つまり、基板SとマスクMをキャリアに搭載して、一列に並んだ複数の成膜装置の中をキャリアを搬送しながら成膜を行う構成としてもよい。また、クラスタタイプとインラインタイプを組み合わせたタイプの構成でもよい。例えば、有機層の成膜まではクラスタタイプの製造装置で行い、電極層(カソード層)の成膜工程から封止工程及び切断工程等は、インラインタイプの製造装置で行ってもよい。
【0037】
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
【0038】
<成膜装置>
図2及び
図3は、本発明の実施形態による成膜装置11の構成を示す模式図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板Sが水平面(XY平面)と平行となるよう固定された場合、基板Sの短手方向(短辺に平行な方向)をX方向(第1方向)、長手方向(長辺に平行な方向)をY方向(第2方向)とする。また、Z軸まわりの回転角をθで表す。
【0039】
図2は、成膜装置11の一例として、成膜材料を加熱することによって蒸発又は昇華させて、マスクを介して基板に成膜する蒸着成膜装置110の一例を示している。蒸着成膜装置110は、真空雰囲気又は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21の内部に設けられる、基板支持ユニット22と、マスク支持ユニット23と、静電チャック24と、成膜源25と、を有する。
【0040】
基板支持ユニット22は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送して来る基板Sを受け取って保持する手段であり、基板ホルダとも呼ばれる。
【0041】
マスク支持ユニット23は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送して来るマスクMを受け取って保持する手段であり、マスクホルダとも呼ばれる。
【0042】
マスクMは、基板S上に形成する薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク支持ユニット23によって支持される。マスクMは、基板S上の有機EL表示パネルの形成領域(デバイス形成領域)に対応する有効領域と、有効領域と有効領域の間の周囲領域(基板S上のスクライブ領域に対応する)を有する。
【0043】
マスクMの有効領域には、成膜材料の粒子を通過させるための少なくとも1つの開口が形成される。例えば、スマートフォン用の有機EL表示パネルを製造するのに使われるマスクMは、有機EL表示パネル内の有機EL素子の発光層を形成するために有機EL素子のRGB画素パターンに対応する微細な開口パターンが形成された金属製マスクであるファインメタルマスク(Fine Metal Mask)と、有機EL素子の共通層(正孔注入層、正孔
輸送層、電子輸送層、電子注入層等)を形成するのに使われるオープンマスク(Open Mask)と、を有する。
【0044】
マスクMの開口パターンは、成膜材料の粒子を通過させない遮断パターンによって定義される。
【0045】
基板支持ユニット22の上方には、基板S及び/又はマスクMを静電引力によって吸着し固定するための静電チャック24が設けられる。静電チャック24は、成膜前に基板S(第1被吸着体)を吸着して保持し、実施形態によっては、マスクM(第2被吸着体)をも吸着し保持する。その後、例えば、静電チャック24が基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)を保持した状態で、成膜を行い、成膜を完了した後に基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)に対する静電チャック24による保持を解除する。
【0046】
静電チャック24は、誘電体又は絶縁体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極等の電気回路が埋設された構造を有する。静電チャック24は、クーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、ジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよいし、グラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。静電チャック24は、グラジエント力タイプの静電チャックであることが好ましい。静電チャック24がグラジエント力タイプの静電チャックである場合、基板Sが絶縁性基板であっても、静電
チャック24によって良好に吸着することができる。
【0047】
静電チャック24は、1つのプレートで形成されてもよく、複数のサブプレートを有するように形成されてもよい。また、1つのプレートで形成される場合、その内部に複数の電気回路を有し、1つのプレート内で位置によって静電引力が異なるように制御してもよい。
【0048】
本実施形態に係る静電チャック24は、複数の第1領域と、前記複数の第1領域の間の第2領域と、を有する。後述するように、基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)又はマスクMの有効領域に対応する領域を吸着する静電チャック24の第1領域の単位面積当たりの静電引力が、基板Sのスクライブ領域又はマスクMの周囲領域に対応する領域を吸着する静電チャック24の第2領域の単位面積当たりの静電引力と異なるように構成又は制御される。
【0049】
例えば、静電チャック24の第1領域は、第2領域に比べて相対的に弱い単位面積当たりの吸着力を基板SやマスクMに加えるように、構成又は制御される。
【0050】
これにより、静電チャック24の電界による、デバイス形成領域(成膜対象領域)に成膜される膜の膜質や膜厚分布の均一性への影響を低減させながらも、従来の技術に比べて、より安定的に基板Sを吸着することができる。
【0051】
図2には示していないが、静電チャック24の吸着面とは反対側に基板Sの温度上昇を抑える冷却機構(例えば、冷却板)を設けることで、基板S上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制する構成としてもよい。
【0052】
成膜源25は、図示していないが、基板Sに成膜される成膜材料が収納されるるつぼ、るつぼを加熱するためのヒータ、成膜源25からの蒸発レートが一定になるまで成膜材料が基板Sに飛散することを阻むシャッタ等を有する。成膜源25は、点(point)成膜源
や線状(linear)成膜源等、用途に従って多様な構成を有することができる。成膜源25は、少なくとも、基板Sの長辺方向又は短辺方向に沿って基板Sの成膜面に平行に移動することができるように設置される。これにより、基板S全体にわたって成膜の厚さを均一にすることができる。また、蒸着成膜装置110が真空容器21内に2つの成膜ステージを有する場合、成膜源25は、基板Sの短辺方向に沿って1つのステージから他のステージに移動することができるように設置される。なお、成膜源25は、少なくとも、基板Sの短辺方向に沿って基板Sの成膜面に平行に移動することができるように設置されてもよい。
【0053】
図2に示していないが、蒸着成膜装置110は、基板Sに蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ及び膜厚算出ユニットを有する。
【0054】
真空容器21の上部外側(大気側)には、基板Zアクチュエータ26、マスクZアクチュエータ27、静電チャックZアクチュエータ28、位置調整機構29等が設けられる。これらのアクチュエータと位置調整機構は、例えば、モータとボールねじ、又はモータとリニアガイド等で構成される。基板Zアクチュエータ26は、基板支持ユニット22を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。マスクZアクチュエータ27は、マスク支持ユニット23を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。静電チャックZアクチュエータ28は、静電チャック24を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。
【0055】
位置調整機構29は、基板SとマスクMの相対的位置を調整するための機構である。位
置調整機構29は、静電チャック24全体を基板支持ユニット22及びマスク支持ユニット23に対して、X方向移動、Y方向移動、θ回転させる。本実施形態では、基板Sを吸着した状態で、静電チャック24をX、Y、θ方向に位置調整することで、基板SとマスクMの相対的位置を調整するアライメントを行う。
【0056】
真空容器21の外側上面には、上述したアクチュエータ及び位置調整機構の他に、真空容器21の上面に設けられた透明窓を介して、基板S及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影するためのアライメント用カメラ20を設置してもよい。本実施形態においては、アライメント用カメラ20は、矩形の基板S、マスクM及び静電チャック24の対角線に対応する位置、又は、矩形の4つのコーナー部に対応する位置に設置してもよい。
【0057】
本実施形態の蒸着成膜装置110に設置されるアライメント用カメラ20は、基板SとマスクMとの相対的な位置を高精度で調整するのに使われるファインアライメント用カメラであり、その視野角は狭いが高解像度を持つカメラである。本実施形態による蒸着成膜装置110は、ファインアライメント用カメラ20の他に相対的に視野角が広くて低解像度であるラフアライメント用カメラを有してもよい。ラフアライメント用カメラは、矩形の基板S、マスクM及び静電チャック24の対向する2つの辺の中央に対応する位置に設置されてもよい。
【0058】
なお、位置調整機構29は、アライメント用カメラ20によって取得した基板S(第1被吸着体)及びマスクM(第2被吸着体)の位置情報に基づいて、基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)を相対的に移動させて位置調整するアライメントを行う。
【0059】
蒸着成膜装置110は、制御部40を備える。制御部40は、基板Sの搬送及びアライメント、成膜源25の制御、成膜の制御等の機能を有する。制御部40はまた、静電チャック24への電圧の印加を制御する機能、つまり後述する
図4(a)の電圧制御部43の機能を有してもよい。
【0060】
制御部40は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/O等を持つコンピュータによって構成可能である。この場合、制御部40の機能はメモリ又はストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを使用してもよく、組込み型のコンピュータ又はPLC(Programmable Logic Controller)を使用してもよい。又は、制御部40の機能の一部
又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置毎に制御部が設置されていてもよく、1つの制御部が複数の成膜装置を制御するように構成してもよい。
【0061】
図3は、成膜装置11の他の一例として、スパッタ成膜装置111を示す。
図3(a)はX軸方向から見た模式図、
図3(b)はY軸方向から見た模式図、
図3(c)はZ軸方向から見た模式図である。
図3のスパッタ成膜装置111は、イオン化されたガス粒子を成膜材料のターゲットに衝突させることで、ターゲットの成膜材料を粒子化するという点で、ヒータにより成膜源を加熱して成膜源内の成膜材料を蒸発させて、粒子化する
図2の蒸着成膜装置110とは異なる。
図3において、
図2の蒸着成膜装置110の構成要素と類似の機能を持つ構成要素には同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0062】
図3に示すスパッタ成膜装置111は、例えば、マグネトロンスパッタ装置であってもよい。マグネトロンスパッタ装置は、ターゲットの表面に磁場を形成するための磁石を備え、ターゲットの表面近傍にループ状の磁束を形成するように構成される。このような構成によると、磁束に捕捉した電子によってアルゴンガス等の電離を促進させ、プラズマを
ターゲットの近傍に集中させて、ターゲットのスパッタリングの効率を高めることができる。
【0063】
スパッタ成膜装置111は、アルゴン等の不活性ガスが供給される真空容器21と、真空容器21内に搬入された基板Sと対向して配置される成膜源としての回転ターゲットユニット31A、31Bを備える。
【0064】
回転ターゲットユニット31A、31Bは、それぞれ、円筒形状の回転ターゲット310と、電源32から電力が供給される円筒状のカソード311と、回転ターゲット310の基板Sと対向する側の表面に磁場を形成する磁石ユニット312と、を備える。なお、カソード311は回転ターゲット310のバッキングチューブとして、回転ターゲット310と一体に形成されていてもよいし、回転ターゲット310そのものがカソード311の機能を兼ねていてもよい。
【0065】
一対の回転ターゲットユニット31A、31Bは、基板Sに対して相対移動しながら回転する。本実施形態では、一対の回転ターゲットユニット31A、31Bは、基板Sが静止した状態で水平方向(基板Sの成膜面に沿った方向)に移動しながら回転し、これによって基板S上にターゲット粒子を成膜する。一対の回転ターゲットユニット31A、31Bは、基板Sに対する相対移動方向に所定間隔を隔てて並列に配置され、一体となって同時に移動するように設置される。
【0066】
一対の回転ターゲットユニット31A、31Bのターゲットを、互いに異なる材料のターゲットにすることで、本実施形態のスパッタ成膜装置111は、一対の回転ターゲットユニット31A、31Bと基板Sを2回相対移動させて、2層の積層膜を成膜することができる。
【0067】
例えば、1層目の成膜時(1スキャン目)には、一方のターゲットユニット31Aによって成膜して、他方のターゲットユニット31Bはアノードとして機能する。
【0068】
2層目の成膜時(2スキャン目)には、他方のターゲットユニット31Bで成膜して、一方のターゲットユニット31Aはアノードとして機能するように、電源32からの出力電圧が制御される。
【0069】
このように、成膜時に、一方のターゲットユニットで成膜している間、他方のターゲットユニットがアノードとして機能するので、基板Sのスキャン位置に拘わらず、安定した電界が維持され、基板S全体にわたって、均一な膜厚で成膜することができる。ただし、本発明の一実施形態に係るスパッタ成膜装置111は、
図3に示す構成に限定されず、ターゲットユニットが2つではなく、他の数(例えば、1つ又は3つ以上の)の構成を持ってもよい。
【0070】
真空容器21内の下面側には、回転ターゲットユニット31A、31Bを案内する一対の案内レール33が水平方向に配置される。回転ターゲットユニット31A、31Bは、その両端を支持するエンドブロック34を介して、案内レール33に移動可能に支持される。
【0071】
回転ターゲットユニット31A、31Bは、X軸と平行な回転軸を有し、それぞれの回転ターゲットの回転軸が、Y軸方向に所定間隔を隔てて平行に配置されている。
【0072】
エンドブロック34の駆動機構は、特に図示していないが、リニアモータでもよいし、回転モータの回転運動を直線運動に変換するボールねじ等を用いた機構等であってもよい
。
【0073】
基板SとマスクMは、真空容器21の外部(キャリア又は搬送装置)において、静電チャック24に吸着され、静電チャック24に吸着された状態で図示していない搬送レールによって真空容器21内に搬入され、成膜位置に移動する。これによって、基板S及びマスクMが大型であっても、基板S及びマスクMをより安定的にスパッタ成膜装置111内に搬送することができる。このような実施形態においては、成膜装置は、静電チャック24を有するキャリア又は搬送装置と、スパッタ成膜装置111と、を有する。
【0074】
ただし、本発明はこれに限定されず、基板S及びマスクMが真空容器21内に搬入され、真空容器21内で静電チャック24によって吸着されて保持される構成にしてもよい。例えば、真空容器21内に搬入された基板Sは、基板支持ユニット22によって水平に(XY平面と平行に)支持され、真空容器21内に搬入されたマスクMは、基板Sの下方でマスク支持ユニット23によって支持されるようにしてもよい。このように基板支持ユニット22によって支持された基板Sとマスク支持ユニット23に支持されたマスクMは、真空容器21内に設置された静電チャック24によって吸着固定される。
【0075】
図3に示す実施形態に係る静電チャック24も、基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)又はマスクMの有効領域に対応する領域を吸着する静電チャック24の第1領域の単位面積当たりの静電引力が、基板Sのスクライブ領域又はマスクMの周囲領域に対応する領域を吸着する静電チャック24の第2領域の単位面積当たりの静電引力と異なるように構成又は制御される。
【0076】
例えば、静電チャック24の第1領域は、第2領域に比べて相対的に弱い単位面積当たりの吸着力を基板SやマスクMに加えるように構成又は制御される。これにより、静電チャック24の電界による基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)の近傍のプラズマの乱れを低減させ、これによりデバイス形成領域(成膜対象領域)に成膜された膜の膜質や膜厚分布の均一性への影響を低減させながらも、従来の技術に比べて、より安定的に基板Sを吸着することができる。
【0077】
図3では、基板Sが静止し、回転ターゲットユニット31A、31Bが相対的に水平移動する構成を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、基板Sが水平移動し、回転ターゲットユニット31A、31Bは、水平移動せずに回転のみをするように構成してもよく、基板Sと回転ターゲットユニット31A、31Bの両方が相対的に水平移動しながら成膜が行われるように構成してもよい。また、
図3では回転ターゲットユニットを備えたスパッタ成膜装置111について説明したが、本発明はこれに限定はされず、平板状のターゲットを有するプレーナーカソードユニットを備えたスパッタ成膜装置にも適用可能である。
【0078】
図2及び
図3では、蒸着成膜装置110及びスパッタ成膜装置111を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、静電チャック24によって吸着された基板SにマスクMを介して成膜を行う限り、他の成膜方法を使う成膜装置にも適用することができる。
【0079】
<静電チャックシステム及び吸着方法>
図4~
図6を参照して、本実施形態による静電チャックシステム41及び吸着方法について説明する。
【0080】
図4(a)は、本実施形態の静電チャックシステム41の概念的ブロック図であり、
図4(b)は、静電チャック24の模式的平面図である。また、
図5(a)及び
図5(b)は、本発明の一実施形態による静電チャック24の構成を説明するための模式的断面図で
ある。
【0081】
本実施形態の静電チャックシステム41は、
図4(a)に示すように、静電チャック24と、電圧印加部42と、電圧制御部43と、を有する。
【0082】
電圧印加部42は、静電チャック24の電極部に静電引力を発生させるための電圧を印加する。
【0083】
電圧制御部43は、静電チャックシステム41の吸着工程又は成膜装置11の成膜工程の進行に応じて、電圧印加部42から電極部に加えられる電圧の大きさ、電圧の印加開始タイミング、電圧の維持時間、電圧の印加順序等を制御する。
【0084】
電圧制御部43は、例えば、静電チャック24の電極部に備わる複数のサブ電極部241、241’、241”、242等への電圧印加をサブ電極部毎に独立に制御することができる。本実施形態では、電圧制御部43が成膜装置11の制御部40とは別途に構成されるが、本発明はこれに限定されず、成膜装置11の制御部40に統合されてもよい。
【0085】
静電チャック24は、誘電体又は絶縁体(例えば、セラミックの材質)のマトリックス内に金属電極等の電気回路が埋設された構造の静電チャックプレート部240を有する。
【0086】
静電チャックプレート部240は、絶縁体マトリクス240cに埋設された電極部240aと、誘電体部240bと、を有する。電極部240aは、電圧印加部42による電圧の印加によって吸着面に被吸着体(例えば、基板SやマスクM)を吸着させるための吸着力を発生させる。そして、誘電体部240bは、1つ以上の誘電体物質で形成され、少なくとも電極部240aと吸着面との間に介在する。静電チャックプレート部240は、基板Sの形状に対応する形状、例えば、矩形の形状を有する。
【0087】
図4(a)及び
図4(b)、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、静電チャック24は、被吸着体(基板S又はマスクM)が吸着される吸着面(XY面)に平行な第1方向(X方向)、及び、吸着面に平行であり第1方向(X方向)と交差する第2方向(Y方向)に、所定の間隔で離隔してマトリックス状に配置される複数の第1領域101と、複数の第1領域101の間の第2領域102と、を有する。本実施形態では、複数の第1領域101は、電極部240aの複数のサブ電極部241、
242等に対応する。第2領域102は、第2サブ電極部241’、241”、242’、242”等に対応する。本実施形態の電極部240aは、静電チャックプレート部240の長手方向(Y方向)及び/又は静電チャックプレート部240
の短手方向(X方向)に沿って、複数のサブ電極部に分割され、基板Sの複数のデバイス形成領域(成膜対象領域)にそれぞれ対応する複数の第1サブ電極部241~249と、基板Sのスクライブ領域に対応する複数の第2サブ電極部241’、241”、242’、242”等を有する。
【0088】
図4(b)に示すように、複数の第2サブ電極部241’、241”、242’、242”等は、X方向及びY方向において、複数の第1サブ電極部241~249の間及び静電チャック24の周縁部に設けられる。
【0089】
本実施形態において、静電チャック24は、複数の第1サブ電極部(241~249)が設けられた第1領域の単位面積当たりの吸着力が、複数の第2サブ電極部(241’、241”、242”、242”等)が設けられた第2領域の単位面積当たりの吸着力より小さくなるように構成又は制御される。例えば、
図4(b)に示すように、電極部240aは、基板Sのデバイス形成領域に対応する領域であるか、スクライブ領域に対応する領域であるかによって、電極密度が異なるように構成される。この場合、デバイス形成領域
に対応する第1領域に設けられる第1サブ電極部に印加する電圧と、スクライブ領域に対応する第2領域に設けられる第2サブ電極部に印加する電圧と、を同じに制御しても、第1領域における基板Sに対する静電引力が第2領域における基板Sに対する静電引力より小さくなるように電極密度を構成することができる。一方、電極部240aは、基板Sのデバイス形成領域に対応する領域であるか、スクライブ領域に対応する領域であるかによらず、電極密度が同じに構成してもよい。この場合、デバイス形成領域に対応する第1領域に設けられる第1サブ電極部に印加する電圧と、スクライブ領域に対応する第2領域に設けられる第2サブ電極部に印加する電圧と、が異なるように電圧制御を行うことで、第1領域における基板Sに対する静電引力が第2領域における基板Sに対する静電引力より小さくなるように制御することができる。
【0090】
各々の第1サブ電極部及び第2サブ電極部は、静電吸着力を発生させるためにプラス(第1極性)及びマイナス(第2極性)の電圧が印加される電極対44a、44bを有する。例えば、それぞれのサブ電極部は、プラス電圧が印加される第1電極44aと、マイナス電圧が印加される第2電極44bとを有する。
【0091】
第1電極44a及び第2電極44bは、
図4(b)に示すように、それぞれ櫛形状を有する。例えば、第1電極44a及び第2電極44bは、それぞれ複数の櫛歯部と、複数の櫛歯部に連結される基部とを有する。各電極44a、44bの基部は櫛歯部に電圧を供給し、複数の櫛歯部は、被吸着体との間で静電吸着力を生じさせる。1つのサブ電極部において、第1電極44aの各櫛歯部は、第2電極44bの各櫛歯部と対向し噛み合うように、交互に配置される。このように、各電極44a、44bの各櫛歯部が対向しかつ互いに入り組んだ構成とすることで、電極間の間隔を狭くすることができ、これにより大きな不均一電界を形成し、グラジエント力によって基板Sを安定的に吸着することができる。
【0092】
本実施形態においては、静電チャック24のサブ電極部241、241’、241”、242等の各電極44a、44bが櫛形状を有すると説明したが、本発明はそれに限定されず、被吸着体との間で静電引力を生じさせることができる限り、多様な形状を持つことができる。
【0093】
本実施形態の静電チャック24は、複数のサブ電極部に対応する複数の吸着部を有する。例えば、本実施形態の静電チャック24は、
図4(b)に示すように、複数のサブ電極部241、241’、241”、242等に対応する複数の吸着部141、141’、141”、142等を有することができる。
【0094】
吸着部は、静電チャック24の長手方向(Y軸方向)及び短手方向(X軸方向)に分割されるように設けられるが、これに限定されず、静電チャック24の長手方向又は短手方向だけに分割されるように設けられてもよい。複数の吸着部は、物理的に1つのプレートが複数のサブ電極部を持つことで構成されてもよく、物理的に分割された複数のプレートそれぞれが1つ又はそれ以上のサブ電極部を持つことで構成されてもよい。
【0095】
図4(b)に示す実施形態においては、複数の吸着部それぞれが複数のサブ電極部それぞれに対応するようにしているが、1つの吸着部が複数のサブ電極部に対応するようにしてもよい。
【0096】
例えば、電圧制御部43による複数の第1サブ電極部241~249への電圧の印加を制御することで、基板Sの吸着進行方向(X方向)と交差する方向(Y方向)に配置された3つの第1サブ電極部241、242、243が1つの第1吸着部を成すようにすることができる。すなわち、3つの第1サブ電極部241、242、243それぞれは、独立に電圧制御が可能であるが、これら3つの第1サブ電極部241、242、243に同時
に同じ電圧が印加されるように制御することで、これら3つの第1サブ電極部241、242、243が1つの吸着部として機能するようにすることができる。複数の吸着部それぞれにおいて独立に基板の吸着を制御することができる限り、その具体的な物理的構造及び電気回路的構造は限定されない。複数の第2サブ電極部(241’、241”、242’、242”等)も複数の第2サブ電極部が1つの吸着部を構成するようにすることができる。
【0097】
図5(a)及び
図5(b)に示す本発明の実施形態によれば、静電チャック24は、基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)又はマスクMの有効領域に対応する第1領域101における基板S又はマスクM等の被吸着体への単位面積当たりの静電引力が、基板Sのスクライブ領域又はマスクMの周囲領域に対応する第2領域102における被吸着体への単位面積当たりの静電引力より小さくなるように構成又は制御される。つまり、静電チャック24は、第1領域101の第1サブ電極部から生じる電界が第2領域102の第2サブ電極部から生じる電界より小さくなるように構成又は制御される。
【0098】
これにより、基板Sの吸着面のうち静電チャック24の第1領域101に吸着される領域に対応する領域、すなわち基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)に及ぼす電界の影響を低減することができ、基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)に成膜される膜の膜質や膜厚分布の均一性の低下を抑制することができる。スパッタ成膜装置111においてはさらに、基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)上のプラズマの乱れを低減することができるため、基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)に成膜される膜の膜質や膜厚分布の均一性の低下をより顕著に抑制することができる。また、基板Sのスクライブ領域に対応する領域だけでなく、基板Sのデバイス形成領域に対応する領域に対しても吸着力を加えることができ、大型の基板Sも安定的に保持することができる。
【0099】
静電チャック24の第1領域101での単位面積当たりの静電引力が、第2領域102での単位面積当たりの静電引力より小さくなるように構成する1つの方法は、静電チャックプレート部240を構成する電極部240aに印加される電圧が領域毎(吸着部毎又はサブ電極部毎)に異なるように制御することである。
【0100】
例えば、静電チャックプレート部240が複数のサブ電極部を有し、複数の領域(吸着部)に分割されている場合、基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)に対応する領域に吸着力を加える第1サブ電極部には、基板Sのスクライブ領域に対応する領域に吸着力を加える第2サブ電極部より相対的に低い電圧が印加されるように制御することができる。
【0101】
すなわち、本発明の一実施形態によると、電圧制御部43は、基板Sの吸着面のうちデバイス形成領域(成膜対象領域)に対応する領域を吸着する静電チャック24の第1領域101の第1サブ電極部241~249又はこれに対応する第1吸着部141~149に印加される電圧が、基板Sの吸着面のうちスクライブ領域に対応する領域を吸着する第2領域102の第2サブ電極部241’、241”、242’、242”等又はこれに対応する第2吸着部141’、141”、142’、142”等に印加される電圧より、その大きさが小さくなるように制御する。
【0102】
このように、基板Sの吸着面のうちデバイス形成領域(成膜対象領域)に対応する領域を吸着する静電チャック24の第1領域101の第1サブ電極部に印加される電圧を、基板Sの吸着面のうちスクライブ領域に対応する領域を吸着する静電チャック24の第2領域102の第2サブ電極部に印加される電圧より小さくすることで、基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)に対する静電チャック24の電界の影響を相対的に低減させながらも、基板Sへの吸着力の減少を抑えることができる。また、第1領域101の第1サブ
電極部に印加される電圧が第2領域102の第2サブ電極部に印加される電圧と異なるように電圧制御部43の電圧制御を行うことで本発明の固有な効果を達成することができるため、静電チャック24の構造を簡単にできる。
【0103】
図6(a)は静電チャック24の第1サブ電極部241~249に印加される電圧の時間変化を示し、
図6(b)は静電チャック24の第2サブ電極部241’、241”、242’、242”等に対し印加される電圧の時間変化を示す。それぞれ横軸は時間、縦軸は電圧を表す。例えば、
図6(a)に示すように、電圧制御部43は、静電チャック24による基板Sの吸着、マスクMの吸着が完了した後、成膜プロセスの開始時(t=T5)又は成膜プロセスのうちの少なくとも一部の期間において、複数の第1サブ電極部に印加される電圧を第4電圧V4から、それより小さな第5電圧V5に下げるように制御する。これに対し、
図6(b)に示すように、電圧制御部43は、第2サブ電極部に印加される電圧は成膜プロセス中に第4電圧V4に維持されるように制御する。なおここで「電圧V5が電圧V4より小さい」というときの電圧の大小関係は、電圧V5が印加された第1サブ電極部による単位面積当たりの静電吸着力が、電圧V4が印加された第2サブ電極部による単位面積当たりの静電吸着力より小さくなるような電圧の大小関係を意味し、電圧の極性等の条件によっては数学的な大小関係とは異なる場合がある。
【0104】
静電チャック24の第1領域101での単位面積当たりの静電引力が第2領域102での単位面積当たりの静電引力より小さくなるように構成する別の方法は、静電チャックプレート部240の電極部240a及び/又は誘電体部240bを、領域毎に、電気的特性が異なる物質で構成するか、又は、同一の物質であっても電気的特性が異なるように構成することである。例えば、電極部240aを構成する電極の密度を領域毎に異なるようにしてもよく、又は誘電体部240bを構成する誘電体の種類や厚さ等を領域毎に異なるようにしてもよい。以下、
図5(a)及び
図5(b)を参照して具体的に説明する。
図5(a)は静電チャックの24の領域毎に誘電体部の厚さ、比抵抗、誘電率を異ならせることによって領域毎に静電吸着力を異ならせる構成を概念的に示す図である。
図5(b)は静電チャックの24の領域毎に電極密度を異ならせることによって領域毎に静電吸着力を異ならせる構成を概念的に示す図である。
【0105】
図5(a)において、静電チャックプレート部240の誘電体部240bは、領域毎に異なる誘電体物質で構成してもよく、同一の誘電体物質であっても、その厚さが異なるようにしてもよい。より具体的に、前者の場合には、静電チャック24の第1領域101を構成する誘電体物質は、第2領域102を構成する誘電体物質より、比抵抗を大きくしてもよく、及び/又は、誘電率を小さくしてもよい。後者の場合、静電チャック24の第1領域101での誘電体部240bの厚さは、第2領域102での誘電体部240bの厚さより厚くすることができる。ここで、「誘電体部240bの厚さ」とは、該領域101、102において電極部の下面と、静電チャック24の吸着面との間の距離を指す。
図5(a)において、静電チャック24の第1領域101での誘電体部240bの厚さは、第1サブ電極部241の下面と静電チャック24の吸着面240cとの距離H1であり、静電チャック24の第2領域102での誘電体部240bの厚さは、第2サブ電極部241’の下面と静電チャック24の吸着面240cとの距離H2である。また、
図5(a)において、静電チャック24の第1領域101における誘電体部240b1の比抵抗は、静電チャック24の第2領域102における誘電体部240b2の比抵抗より大きい。また、
図5(a)において、静電チャック24の第1領域101における誘電体部240b1の誘電率は、静電チャック24の第2領域102における誘電体部240b2の誘電率より小さい。なお、
図5(a)では説明の都合上、上記の誘電体部の厚さ、誘電体物質の比抵抗、誘電体物質の誘電率の全ての条件を第1領域101と第2領域102とで異ならせる例を説明したが、少なくとも1つの条件を領域毎に異ならせることによって、領域毎に静電吸着力を異ならせればよく、異ならせる条件の組み合わせは限定されない。
【0106】
このような実施形態によれば、電極部240aの電極に領域によらず同一の電圧が印加されても、第1領域101の第1サブ電極部は、第2領域102の第2サブ電極部より単位面積当たりの静電引力が小さくなる。つまり、誘電体部240bの厚さ、誘電率、及び/又は比抵抗を調節することで、基板Sのデバイス形成領域に及ぼす静電チャック24の電極部からの電界の影響を調節することができる。なお、
図5(a)では、電極部240aの構成(例えば、電極密度等)を領域毎に異ならせていない例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、領域毎に、誘電体部240aの厚さ、誘電率、又は比抵抗だけでなく、電極密度も異なるように構成してもよい。
【0107】
すなわち、
図5(b)に概念的に示すように、静電チャックプレート部240の電極部240aを構成する電極は、領域に応じて電極密度が異なるように設けることができる。より具体的には、静電チャック24の第1領域101における第1サブ電極部241の電極密度が、第2領域102における第2サブ電極部241’の電極密度よりも小さくなるように、電極が設けられる。例えば、
図4(b)に示すように、静電チャックプレート部240の電極部240aの各々のサブ電極部が櫛形状を有する一対の電極で構成される場合は、第1領域101に設けられた第1サブ電極部の櫛歯部間の間隔を、第2領域102に設けられた第2サブ電極部の櫛歯部間の間隔よりも広くすることで、第1領域101が第2領域102よりも電極密度が小さくなるようにすることができる。すなわち、
図4(b)において、部分拡大
図Aは、隣接する第1サブ電極部及び第2サブ電極部244、244”、247の部分を拡大した図であり、第1サブ電極部244、247の櫛歯部間の間隔d1は第2サブ電極部244”の櫛歯部間の間隔d2より広い。また、部分拡大
図Bは、隣接する第1サブ電極部及び第2サブ電極部244、244’、245の部分を拡大した図であり、第1サブ電極部244、245の櫛歯部間の間隔d1は第2サブ電極部244’の櫛歯部間の間隔d2より広い。
【0108】
このような本発明の実施形態によれば、電極部240aの電極に領域によらず同一の電圧が印加されても、電極密度が相対的に小さい第1領域101の第1サブ電極部は、第2領域102の第2サブ電極部よりも単位面積当たりの静電引力が小さくなり、言い換えると、小さな電界を生じる。従って、電圧制御部43による電圧制御をより簡単にしながらも、基板Sの成膜対象領域に成膜される膜の膜質や膜厚分布の均一性の低下を抑制することができる。なお、
図5(b)では、誘電体部240bの構成(例えば、誘電体の比抵抗や誘電率等)を領域毎に異ならせていない例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、領域毎に、電極密度だけでなく、誘電体の比抵抗や誘電率等も異なるように構成してもよい。
【0109】
また、
図4(b)及び
図5(b)においては、有機EL表示装置の1つの表示パネルのサイズに対応する静電チャック24の第1領域全体にわたって同じ電極密度を有する例を示したが、本発明はこれに限定されず、基板Sの成膜対象領域に成膜される膜の膜質や膜厚分布の均一性の低下や成膜対象領域上のプラズマの乱れを低減することができる限り、第1領域101内の位置に応じて、電極密度を異なるようにしてもよい。すなわち、
図4(b)、
図5(a)、
図5(b)に示す例では、静電チャック24に、基板Sの複数のデバイス形成領域(成膜対象領域)に対応する複数の第1領域101があり、複数の第1領域101に対応する複数の吸着部141、142等が複数の第1サブ電極部241、242等によって構成されており、複数の第1サブ電極部241、242等の各々の電極密度(
図4(b)の例では一対の櫛形状の電極44a、44bの各々の櫛歯部間の間隔d1)が異なる第1サブ電極部241、242等の間で同じであるが、例えば第1サブ電極部241の電極密度と第1サブ電極部242の電極密度とを異ならせてもよい。また、各第1領域の内部において第1サブ電極部の電極密度は均一である。例えば、
図4(b)の例では、吸着部141に対応する第1領域101内の位置によらず一対の櫛形状の電極44a
、44bの各々の櫛歯部間の間隔はd1であるが、例えば第1領域101内におけるある位置では櫛歯部間の間隔をd1aとし、別の位置では櫛歯部間の間隔をd1bとするなど、第1領域101内の位置によって第1サブ電極部241の電極密度を異ならせてもよい。第2領域102に対応する吸着部141’、142’等を構成する第2サブ電極部241’、242’等についても同様に第2領域102内の位置に応じて電極密度を異ならせてもよい。また、電極密度に限らず、誘電体部の諸特性(厚さ、誘電率、比抵抗等)を第1領域101内や第2領域102内で位置に応じて異ならせてもよい。
【0110】
例えば、静電チャック24の第1領域101に対応する基板Sの成膜対象領域内に複数の画素を形成し、又は、いずれかの画素内でRGBのサブ画素を形成するために、オープンマスクやファインメタルマスクが使用される場合、基板Sの成膜対象領域内の位置に応じて、オープンマスクやファインメタルマスクの遮断部により成膜が行われない部分と、ファインメタルマスクの開口部に対応して成膜が行われる部分と、の両方が存在し得る。これらの部分の間で、電極密度や誘電体の特性/厚さ等が異なるようにしてもよい。これにより、基板Sで成膜が行われる領域とそうでない領域とにより細かく対応させて静電チャック24の電界による影響を調整することができる。
【0111】
本発明は、静電チャック24の第1領域101に設置された第1サブ電極部に印加される電圧と第2領域102に設置された第2サブ電極部に印加される電圧とを異なるようにする実施形態と、静電チャック24の電極部240aの電極密度や誘電体部240bの諸特性(厚さ、誘電率、比抵抗等)を第1領域101と第2領域102とで異なるようにする実施形態を組み合わせた構成にしてもよい。
【0112】
<成膜プロセス>
以下、本実施形態による吸着方法を採用した成膜方法について説明する。
【0113】
搬送室13の搬送ロボット14によって、真空容器21内にマスクMが搬入されて、マスク支持ユニット23に支持された状態で、成膜装置11の真空容器21内に基板Sが搬入され、基板支持ユニット22の支持部に支持される。
【0114】
続いて、静電チャック24が基板Sに向かって下降し、基板Sに十分に近接又は接触した後に、静電チャック24の第1サブ電極部及び第2サブ電極部に第1電圧V1を印加し、基板Sを吸着させる(t=T1)。
【0115】
静電チャック24への基板Sの吸着が完了した状態で(t=T2)、静電チャック24の第1サブ電極部及び第2サブ電極部に印加される電圧をそれぞれ第2電圧V2に下げる。
【0116】
次いで、静電チャック24に基板Sが吸着された状態で、基板SのマスクMに対する相対的な位置ずれを計測するために、基板SをマスクMに向かって下降させる。基板Sが計測位置まで下降すると、アライメント用カメラ20で基板SとマスクMに形成されたアライメントマークを撮影して、基板SとマスクMの相対的な位置ずれを計測する。
【0117】
計測の結果、基板SのマスクMに対する相対的位置ずれが閾値を超えることが判明した場合、静電チャック24を水平方向(XYθ方向)に移動させることで、静電チャック24に吸着された状態の基板Sを水平方向(XYθ方向)に移動させ、基板SをマスクMに対して、位置調整(アライメント)する。
【0118】
アライメント工程の後(t=T3)、静電チャック24の第1サブ電極部及び第2サブ電極部に第3電圧V3を印加して、マスクMを基板S越しに静電チャック24に吸着させ
る。マスクMの吸着が完了すると(t=T4)、静電チャック24の第1サブ電極部及び第2サブ電極部に印加される電圧を吸着保持電圧である第4電圧V4に下げる。
【0119】
本発明の一実施形態に係る吸着方法及び成膜方法によると、基板SとマスクMが成膜装置11の真空容器21内に搬入されて、真空容器21内に設置された静電チャック24により吸着固定されるが、本発明はこれに限定されず、例えば、真空容器21の外側で、例えば、キャリア(不図示)に設置された静電チャックにより基板SとマスクMが吸着固定された状態で、キャリア全体が真空容器21内に搬入されてもよい。
【0120】
本発明の吸着方法及び成膜方法の一実施形態によると、成膜工程の開始時(t=T5)又は少なくとも成膜工程の一部の期間において、静電チャック24の第1領域101に設置された第1サブ電極部に印加される電圧を第4電圧V4から第5電圧V5(<V4)に下げる。これにより、静電チャック24の第1サブ電極部による電界が基板Sのデバイス形成領域に成膜される膜の膜質や膜厚分布又は基板Sのデバイス形成領域上のプラズマ分布に影響を与えることを低減しながらも、第1サブ電極部に第5電圧V5を印加し、電圧印加をオフにはしないことで、静電チャック24による基板Sに印加される全体的な吸着力が過度に減少して基板Sの保持が不安定になることを抑制することができる。
【0121】
本発明の吸着方法及び成膜方法の他の実施形態によると、静電チャック24の第1領域101の誘電体部の諸特性(厚さ、誘電率、比抵抗等)及び/又は電極密度が第2領域102と異なるように構成することにより、成膜工程の間に、第1サブ電極部及び第2サブ電極部に同じ大きさの電圧が印加されても、第1サブ電極部からの電界が基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)に成膜される膜の膜質や膜厚分布又は基板Sのデバイス形成領域の近傍のプラズマ分布に影響を与えることを抑制することができる。つまり、このような実施形態においては、静電チャック24の第1サブ電極部に印加される電圧の制御は、
図6(a)のパターンに従うのではなく、第2サブ電極部と同様に、
図6(b)のパターンに従うことになる。これにより、領域毎に電圧制御を異ならせない単純な電圧制御を行いながらも、第1サブ電極部からの電界が基板Sのデバイス形成領域(成膜対象領域)に成膜される膜の膜質や膜厚分布又は基板Sのデバイス形成領域の近傍のプラズマ分布に影響を与えることを抑制することができる。
【0122】
続いて、加熱蒸発又はスパッタリングによって成膜源25の成膜材料をマスクMを介して基板Sに成膜する。
【0123】
所望の厚さに成膜した後(t=T6)、静電チャック24の第1サブ電極部に印加される電圧を第5電圧V5から第6電圧V6に下げ、第2サブ電極に印加される電圧を第4電圧V4から第6電圧V6に下げて、マスクMを先に分離する。
【0124】
続いて、静電チャック24の第1サブ電極部及び第2サブ電極部にゼロ(0)又は吸着時とは逆極性の電圧を印加し、基板Sを静電チャック24から分離する。上述した、基板SとマスクMの分離は、吸着の際と同様に、実施形態によって、真空容器21内で行われてもよく、その外側で行われてもよい。
【0125】
なお、上述の説明では、成膜装置11は、基板Sの成膜面が鉛直方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆる上向成膜方式(デポアップ)の構成としたが、これに限定はされず、基板Sが真空容器21の側面側に垂直に立てられた状態で配置され、基板Sの成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。
【0126】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下
、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0127】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図7(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図7(b)は1画素の断面構造を表している。
【0128】
図7(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施形態に係る有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組み合わせにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0129】
図7(b)は、
図7(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子毎に分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0130】
図7(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が1つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層が形成されることができる。
【0131】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0132】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び陽極64が形成された基板63を準備する。
【0133】
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0134】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0135】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、静電チャックにてマスクを基板越しに保持し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0136】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0137】
電子輸送層67まで形成された基板を金属材料の成膜装置で移動させて陰極68を成膜する。この際、金属材料の成膜装置は、加熱蒸発方式の成膜装置であってもよく、スパッタリング方式の成膜装置であってもよい。
【0138】
本発明によると、静電チャック24の第1領域101における基板Sに対する単位面積当たりの静電引力を、第1領域101の間に位置する第2領域102における基板Sに対する単位面積当たりの静電引力より小さくすることで、基板Sの成膜対象領域に対する静電チャック24の電界の影響を低減することができる。
【0139】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0140】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0141】
上記実施形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施形態の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適切に変形してもよい。
【符号の説明】
【0142】
11:成膜装置
21:真空容器
22:基板支持ユニット
23:マスク支持ユニット
24:静電チャック
41:静電チャックシステム
42:電圧印加部
43:電圧制御部
101:第1領域
102:第2領域
240:静電チャックプレート部
240a:電極部
240b:誘電体部