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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】回折バイオセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/47 20060101AFI20230512BHJP
【FI】
G01N21/47 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021502488
(86)(22)【出願日】2019-04-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2019059853
(87)【国際公開番号】W WO2020015872
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】102018212013.7
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390014281
【氏名又は名称】ドクトル・ヨハネス・ハイデンハイン・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】DR. JOHANNES HEIDENHAIN GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(74)【代理人】
【識別番号】100220065
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】ホルツアップフェル,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】クグラー,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シャーデ,マルコ
【審査官】古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0059855(US,A1)
【文献】国際公開第2017/006679(WO,A1)
【文献】David G. Angeley,Optical transduction technique utilizing gratings with a potential application towards biosensing,Proceedings of SPIE,Vol.4958,米国,2003年,p.1~12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01N 33/48 - G01N 33/98
C12M 1/00 - C12M 3/10
C12N 15/00 - C12N 15/90
C12Q 1/00 - C12Q 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(SUB)と、前記基板(SUB)に配置された光学バイオグリッド(BG)と、検出器(D)と、入射光(L)を放出するためのコヒーレントレーザ光源と、前記検出器(D)によって取得された強度ストリップシステムを評価するための評価ユニットとを備える、生体分子の選択的同定のための回折バイオセンサであって、前記光学バイオグリッド(BG)が、周期的に配置された前記生体分子のレセプタを有し、導波路(W)を伝搬する前記入射光(L)の回折の効率、したがって前記検出器(D)に入射する測定光束(ML)の強度が、同定対象の生体分子による前記光学バイオグリッド(BG)の質量占有率に依存する回折バイオセンサにおいて、
前記回折バイオセンサは、前記入射光(L)からデカップリングされ前記検出器(D)に向けられた参照光束(RL)を生成するためのデバイス(RG、ST1)を有し、参照光束(RL)を用いて、前記光学バイオグリッド(BG)によって前記入射光(L)から分離された前記測定光束(ML)に対する前記検出器(D)に入射する散乱光の位相位置が決定可能であり、
前記回折バイオセンサが、透明領域(SO)と、前記参照光束(RL)または前記測定光束(ML)を遮断する領域(SB)とを備える可動要素(S、S1、S2)または電子的に切り替え可能なスクリーンを含み、前記可動要素(S、S1、S2)によって、または前記電子的に切り替え可能なスクリーンによって、前記参照光束(RL)または前記測定光束(ML)の選択的な遮断が可能にされることを特徴とし、
前記光学バイオグリッド(BG)が、前記基板(SUB)に平坦に配置された前記導波路(W)に取り付けられている、回折バイオセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の回折バイオセンサであって、前記参照光束(RL)を生成するための前記デバイスが、参照格子(RG)またはビームスプリッタ(ST1)であり、前記参照格子(RG)または前記ビームスプリッタ(ST1)によって、前記入射光(L)の一部が、参照光束(RL)として前記検出器(D)に偏向されることを特徴とする回折バイオセンサ。
【請求項3】
請求項に記載の回折バイオセンサであって、前記参照格子(RG)が、前記導波(W)内で、前記光学バイオグリッド(G)の側方に配置されることを特徴とする回折バイオセンサ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の回折バイオセンサであって、前記回折バイオセンサが第2のビームスプリッタ(ST2)または偏向要素を備え、前記参照光束(RL)を生成するための前記デバイスが、入射光(L)の一部を参照光束(RL)として前記第2のビームスプリッタ(ST2)または前記偏向要素に偏向する第1のビームスプリッタ(ST1)であり、前記第2のビームスプリッタ(ST2)または前記偏向要素から、前記参照光束(RL)が測定光束(ML)と重なり合って、前記検出器(D)に偏向されることを特徴とする回折バイオセンサ。
【請求項5】
請求項に記載の回折バイオセンサであって、前記回折バイオセンサが第1および第2の対物レンズ(O1、O2)とフーリエスクリーン(FB)とを含み、前記測定光束(ML)のビーム経路内で、前記光学バイオグリッド(BG)の後、および前記第2のビームスプリッタ(ST2)または前記偏向要素の前に、前記第1および第2の対物レンズ(O1、O2)が配置され、前記第1および第2の対物レンズ(O1、O2)の間のフーリエ面に前記フーリエスクリーン(FB)が配置されることを特徴とする回折バイオセンサ。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の回折バイオセンサであって、前記回折バイオセンサが複数の集光レンズ(SL)を有するレンズアレイを含み、前記検出器(D)に向けられる参照光束(RL)を生成するための複数のデバイス(RG、ST1)、および複数の光学バイオグリッド(BG)からの前記参照光束(RL)および前記測定光束(ML)が、前記レンズアレイによって前記検出器(D)に偏向されることを特徴とする回折バイオセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折バイオセンサに関する。そのようなセンサは、光を回折するための回折格子に、検出対象の生体分子を吸着させることに基づく。回折された光に関する光検出器の信号は、生体分子によるバイオセンサの質量占有率に関する尺度として働く。
【背景技術】
【0002】
光学から、基板に配置された平面導波路が知られており、平面導波路は、光をカップリングまたはデカップリングするための光学格子を有する。そのような光学格子は、例えば基板または導波路にエッチングされた構造であり、したがって基板または導波路の材料からなる構造である。必要な格子周期は、使用する光の波長と、導波路の屈折率とに依存する。格子周期は、カップリング角に依存して、導波路内の光の実効波長の範囲内にある。典型的には、格子周期は、光の真空波長の約半分である。
【0003】
バイオセンサの分野では、光をカップリングおよびデカップリングするための格子も知られており、そのような格子は、生物学的物質からなり、検査対象の生体分子のためのレセプタとして機能する。そのような生体分子が、格子に構造化されたレセプタに付着する場合、生体分子は光学的に有効な格子を形成する。吸着された生体分子の有無にかかわらず格子に構造化されたそのようなレセプタを以下ではバイオグリッドと呼ぶ。そのようなバイオグリッドの回折効率は、生体分子による格子の質量占有率に依存するので、検出器によって測定される回折光の強度に基づいて、質量占有率に関する定量的な言明を行うことができる。
【0004】
国際公開第2015004264号から、回折バイオセンサが知られており、その回折バイオセンサでは、発散光は、基板を通って、導波路に光をカップリングするための光学格子に当たる。次いで、導波路を伝播する光は、デカップリング格子として作用するバイオグリッドに当たる。これにより、デカップリングされた光は、基板を通して検出器に合焦(又は、集束)される。検出器で測定される光強度は、検査対象の生体分子によるデカップリング格子の占有率に関する尺度である。しかし、2つのバイオグリッドの使用は、カップリングが2分の1に弱まることにより、信号が非常に低くなることを意味する。さらに、所望の測定光は、望ましくない散乱光を重ね合わされ、散乱光はさらに測定光に対して固定された位相関係にあり、測定光と干渉する可能性があるので、最適な測定信号が得られない。
【0005】
米国特許第7008794号にも回折バイオセンサが記載されている。ここでは、実際に所望の信号を際立たせるために、測定信号からバックグラウンド回折パターンを差し引くことが提案される。しかし、ここでも測定光に対する散乱光の固定位相関係は無視される。
【0006】
欧州特許出願公開第2618130号、欧州特許出願公開第2757374号、および欧州特許第2929326号にも、さらなるバイオセンサが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、バイオグリッドの比較的低い回折効率および妨害的散乱光にもかかわらず、散乱光の影響を低減することによって測定精度の向上が達成される、回折バイオセンサおよびその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1に記載の装置によって達成される。有利な詳細は、従属クレームからも明らかになる。
基板と、基板に配置された光学バイオグリッドとを備える、生体分子の選択的同定(又は、検出)のための回折バイオセンサであって、バイオグリッドが、生体分子ための周期的に配置されたレセプタを有し、入射光の回折の効率、したがって検出器に入射する測定光束の強度が、同定対象の生体分子によるバイオグリッドの質量占有率に依存する回折バイオセンサが開示される。このバイオセンサは、検出器に向けられた参照光束を生成するためのデバイスを有し、参照光束を用いて、測定光束に対する検出器に入射する散乱光の位相位置が決定可能である。
【0009】
この位相位置が分かれば、測定信号での散乱光の悪影響をなくすことができる。
コヒーレント光で散乱表面を照射するとき、いわゆるスペックルが発生する。スペックルとは、それ自体がランダムな位相位置と干渉し、それによりランダムな位相および振幅分布を生成する散乱光である。この現象は、回折バイオセンサ(例えば、上で引用した従来技術などにおけるもの)でも発生し、測定精度に影響を与える。回折測定場は、漂遊場によってコヒーレントに重ね合わされ、それによって歪曲される。2つの電場は、以下の式に従ってコヒーレントに重ね合わされる。
【0010】
M+S=I+I+2Ecos(φ-φ
ここで、EおよびEは、測定場および散乱場の電場強度であり、I=E およびI=E は、関連する強度であり(以下、簡潔に測定強度および散乱強度とも呼ぶ)、φおよびφはそれぞれの位相であり、IM+Sは検出面での関連する総強度である。ここで、式は、例えば平坦検出器の画素ごとに成り立ち、検出器面での位置依存性が暗黙的に含まれる。相対位相位置ΔφMS=φ-φが時間的に一定であるとき、積分時間が長くても、干渉項2Ecos(φ-φ)は平均してゼロにならない。ここで、漂遊場は、位相差ΔφMSが分かっているときにのみ修正することができる。したがって、本発明は、漂遊場を正しく差し引くことができ、したがって、乱されていない測定場Eまたはその強度Iを導出することができるようにするために、この位相差を測定するための装置および関連する方法を提供する。
【0011】
しかし、回折バイオセンサに関して、これまで散乱光は全く考慮されていないか、完全には考慮されていない。通常、漂遊場の強度Iを測定場の強度Iとは別個に決定し、その平均値を単純に差し引いて、測定場を求めることが提案される。しかし、この手法は、散乱光の位相位置が時間的にランダムに変化し、したがって干渉項が平均して打ち消される場合にのみ正しく、または測定場の強度が散乱場の強度よりも大幅に大きいことが成り立つときにほぼ正しい。それに対し、センサの検出限界付近での固定の散乱光位相および測定強度に関しては、この簡略化された手法では精度が不十分である。
【0012】
好ましくない散乱中心(すなわち、表面粗さ、表面の汚染、導波路の粒界、非特異的に付着された粒子/生体分子など、あらゆる種類の外乱)は、バイオグリッドと同様に光を散乱する。しかし、好ましくない散乱中心は構造化されておらず、ランダムに配置されるので、散乱光は、検出位置の方向に特異的にではなく、広い立体角で放射される。これが、回折バイオグリッドが不特定の付着に対して非常に堅牢である理由である。
【0013】
しかし、好ましくない散乱中心(とりわけ基板の粗さでの散乱の場合)は構造化されていないが、固定して配置されていることに留意すべきである。したがって、結果として生じる漂遊磁場Eの位相位置はランダムだが、それでも時間的に一定である。非常に小さいが無視できない漂遊磁場の部分のみが、検出位置の方向に放射される。検出対象の生体分子の回折バイオグリッドを生成し、適切なスクリーンおよびアパーチャによって他のすべてのモードを遮断する光モード(以下、測定モードと呼ぶ)のみを、検出光学系の最適な設計により検出器に到達させることができる。それにより、これらの他のモードでの散乱光が抑制され、検出器に到達しない。しかし、測定モードで放射される散乱光は、原理上抑制することができない。これは、電場強度Eおよび位相φと共に、検出される合計強度IM+Sに寄与する。結果として生じる干渉項2Ecos(φ-φ)を平均して打ち消すことはできない。測定強度Iが、合計強度IM+Sから散乱強度Iを単純に差し引くことによって決定される場合(すなわち、I≒IM+S-I)、大きさ2Ecos(φ-φ)の誤差があり、この誤差は、特にE≒Eの場合に測定精度を制限する。
【0014】
固定せずに配置された、すなわち変動する散乱中心によって生成される測定モードでの散乱光は、検出される強度の時間平均によって抑制することができる。これは、干渉項の期待値がゼロであるからである。
【0015】
いずれかのパラメータ(例えば、位置、波長、偏光など)が測定光の生成とは異なり、したがって測定モードでは放射されない望ましくない散乱光は、このパラメータを使用して抑制することができる。測定モードで放射される散乱光の一部は、測定光と同じ基板位置で生じ、同じ方向に同じ偏光で生成される。したがって、測定モードでの測定光および散乱光成分は、光学モードで分割不能に混合され、もはや分離することができない。例えば光源のコヒーレンス長を短縮する、導波路の位置をランダムに振動させる、または他の方法で位相位置をランダムに変動させることによって測定モードでの散乱強度を低減しようとするすべての試みが適していない。なぜなら、それらは、同じ程度だけコヒーレント測定強度も乱すからである。測定モードでの測定光と散乱光は、同じ位置または同じkベクトル分布で生成されるので、例えばスクリーンによる位置またはk空間でのフィルタリングも可能でない。乱されていない測定強度を再構成することができる唯一の方法は、測定場と漂遊場との位相差φMSを測定し、漂遊場をコヒーレントに差し引くことである。
【0016】
漂遊磁場Eの具体例として、これまで、コヒーレント光で散乱表面を照射したときに発生するスペックルのみを考慮した。漂遊磁場Eのさらなる具体的な例(および特殊なケース)は、バイオグリッドの光学バイアスである。
【0017】
バイオグリッドのウェブとギャップとの間に屈折率のコントラストがある場合、検出対象の生体分子の結合がなくても、一定のゼロ信号がバックグラウンドとして発生し、このバックグラウンドはバイアスと呼ばれる。このバイアスは、測定場と重なり合って強め合いまたは弱め合い、測定場を歪曲することがある。したがって、適切な材料で格子ギャップを充填すること(いわゆる「バックフィリング」)によってバイアスを最小限にする、さらにはなくすことが有利である。
【0018】
しかし、そのようなバイオグリッドのフォトリソグラフィ製造では、バイアスが完全になくなるように正確にバックフィリングを行うことは一般に不可能であり、したがって通常は、符号が分からないバイアスが残り、このバイアスが測定精度に影響を及ぼす。この問題に対処し得る解決策は、例えば、較正溶液の追加によるバイアスの測定であるが、これは複雑であり、非破壊で/可逆的には不可能であることがある。
【0019】
前述したスペックルと全く同様に、バイアスは、測定場Eとコヒーレントに重ね合わされた所与の位相φおよび強度I=E を有する漂遊電場Eとして説明することもできる。スペックルとは対照的に、バイアスは、その位相を任意にランダムに向けることはできず、測定場Eと同相(φ=φ、正のバイアス)または測定場Eと逆相(φ=φ+180°、負のバイアス)に向けられる限りにおいて、そのような漂遊磁場の特殊なケースである。
【0020】
測定場Eと漂遊場Eと位相差ΔφMSを測定するとき、電場Eの起源がスペックルであるかバイアスであるかを区別することはできない。したがって、測定場Eと漂遊場Eとの位相差ΔφMSの測定およびその後の漂遊場のコヒーレント減算のための提案される方法は、バイアスを測定または排除する可能性もある。
【0021】
それに伴うバイオセンサの測定精度の向上は特に有利である。これは、測定信号がバイアスまたはスペックルによってもはや歪曲されなくなるからである。さらに有利なのは、バックフィリングによってバイアスを完全になくす必要がないことであり、これにより、そのようなバイオグリッドの製造においてより大きな公差が許容される。
【0022】
本発明は、測定場Eと漂遊場Eとの未知の位相差ΔφMSを測定し、次いでコヒーレント差分生成によって漂遊場を完全に差し引くことができるようにすることを企図する。フローチャートは以下の通りであり、個々のステップを以下で詳しく説明する。
【0023】
(i)検出対象の生体分子を含む分析物の追加前および追加後の、所要の強度分布の測定。
(ii)位相計算の実施。
【0024】
(iii)位相が分かっている場合の漂遊場のコヒーレント減算による、乱されていない測定場への逆算。
ステップ(i)では、取得可能な強度分布が測定される。一般に、光波の未知の位相は、既知の参照波との干渉によって決定することができる。したがって、ここでは、測定場Eおよび漂遊場Eのすでに定義されている電場強度に加えて、参照場Eの電場強度が定義される。それぞれの強度について、I=E 、I=E 、およびI=E が成り立つ。測定場、散乱場、および参照場の様々な組合せ(すなわち、コヒーレントな重ね合わせ)の合計強度は、IM+S+R、IM+Sなどと表される。強度分布とは、特に、2次元検出器(例えばカメラ)での空間強度分布を意味する。これらの強度分布の評価は、カメラ画素ごとにも、領域ごとにも行うことができ、すなわち、計算能力を節約するために、精度を犠牲にしてカメラ画像の特定の領域を統合し、次いでこれらの領域に関して様々な評価を実施することができる。
【0025】
分析物の追加前に測定場なしの強度を測定することができ(バックグラウンド測定、I=0)、分析物の追加後に測定場ありの強度を測定することができる。参照場Iは、簡単な遮蔽によってオンとオフを切り替えることができる。さらに、Iのみを記録するために、測定場と漂遊場とが放出される領域を含むバイオグリッド全体を遮蔽することができる。それにより、基本的に、測定場、漂遊場、および参照場からなる以下の5つの組合せが、測定変数として実験により取得可能である。
【0026】
M+S+R=I+I+I+2Ecos(φ-φ)+2Ecos(φ-φ)+2Ecos(φ-φ
M+S=I+I+2Ecos(φ-φ
S+R=I+I+2Ecos(φ-φ
=I
=I
それに対し、測定モードでは常に測定場が漂遊場と混合して現れるので、IとI+Rは実験により取得可能でない(これが実際の問題である)。以下、目的は、所望の測定強度Iを計算できるようにすることである。
【0027】
すでに上で示したように、ステップ(ii)で、光波の未知の位相を、既知の参照波との干渉によって決定することができる。これには、参照位相が搬送波周波数として提供される搬送波法(D. Malacara, Interferogram analysis for optical testing, Kap 8 ”Spatial Linear und Circular Carrier analysis“参照)、または参照位相が少なくとも3つのステップで変更される位相シフト法(D. Malacara, Interferogram analysis for optical testing, Kap 7 ”Phase shifting interferometry“参照)のいずれかが適している。結果として、両方の方法は同じである。分析対象の出力波の未知の位相が決定される。以下、両方の方法を簡単に説明する。
【0028】
まず、搬送波法に基づく位相計算を述べる。
搬送波法では、例えば参照波の傾いた放射により、搬送波周波数fの提供によって参照位相φが変調される。平面参照波の場合、参照位相φは、幾何形状に応じて、以下の式によって与えられる。
【0029】
φ=2πf0xx+2πf0y
ここで、検出器での得られる強度分布は、縞模様、いわゆる「フリンジ」の出現によって特徴付けられる。
【0030】
平坦な傾斜していない出力波と共にのみ参照波が放射される場合、すべての位置での出力波の位相が同じであるので、この縞模様の空間周波数は、搬送波周波数に正確に対応する。対照的に、任意の出力波に関して、出力波の位相分布により、縞模様の最大値がシフトする。この縞模様は、縞の方向を横切ってシフトする。結果として得られるこの縞模様と乱されていない縞模様との偏差において、分析対象の出力波に関する所望の位相情報がコード化され、これを、例えば、あてはめ、ヒルベルト変換、またはフーリエ変換によって抽出することができる。対応するアルゴリズムは、文献において多くの形態で述べられている。例として、Takeda, J. Opt. Soc. Am. 72(1) (1982)によるアルゴリズム(簡単に言うと、強度分布のフーリエ変換、不要な周波数成分の削除、原点への搬送波周波数ピークのシフト、および逆変換)またはS. Wang, Optik 124 (2013), 1897-1901によるアルゴリズム(簡単に言うと、φ=arctan(sinφ/cosφ)に基づく差分生成および位相獲得を伴う4回のヒルベルト変換)が挙げられる。この方法およびさらなる方法に関しては、D. Malacara, Interferogram analysis for optical testing, Kap 8 ”Spatial Linear und Circular Carrier analysis“も参照されたい。
【0031】
安定した位相計算のために、参照波が、測定モードでの測定光および散乱光成分の開口数(と、フーリエ空間で参照波を完全に分離するための安全距離との和)よりも大きい角度で放射されることを保証すべきである。したがって、参照波は、バイオグリッド外で、参照波の横方向kベクトルが測定光の各横方向kベクトルよりも大きくなる(kmax=2πNA/λ)ように生成されなければならない。言い換えると、これは、参照波の波面の傾斜が、分析対象の出力波の傾斜よりも大きくなければならないことを意味する。このようにして、搬送周波数は残りの周波数スペクトルから分離され、前述した評価法を使用することができる。
【0032】
次に、位相シフト法に基づく位相計算を説明する。
搬送波法では、参照位相は、幾何形状依存性によって定義され、それ自体が空間的に変化するが、位相シフト法では、参照位相を能動的に変化、すなわちシフトさせなければならない。
【0033】
ここで、参照波の位相遅延は、多くの異なる方法によって達成することができる。文献で知られているのは、例えば、参照ビーム経路への平面平行(遅延)ガラス/プラスチックプレートの挿入、電気光学位相遅延要素、例えば液晶要素の導入、リニアアクチュエータによる参照ビーム経路内でのミラーのシフト、または参照ビーム経路内のビームに垂直な回折格子のシフトである。
【0034】
参照波の相対位相がいくつか(少なくとも3つ)の固定値に設定され、その結果得られる、参照波と出力波とのコヒーレントな重ね合わせの強度分布が記録される。
未知の位相のその後の計算に関しては、多くのアルゴリズム(3ステップ法、4ステップ法、5ステップ法など、連続法)が知られている(D. Malacara, Interferogram analysis for optical testing, Kap 6 ”Phase-Detection Algorithms“)。例として、ここでは、ステップ間に120°の位相差がある3ステップアルゴリズムを述べる。
【0035】
このために、参照波と出力波との重ね合わせの3つの画像が撮影され、参照波は、画像間でそれぞれ一定量(60°、180°、および300°)だけ位相が変化/遅延される。記録された強度は、以下の式Aに従って互いに算入される。所望の位相差φは、アークタンジェントによって得られる。
【0036】
φ=arctan(-√3(I-I)/(I-2I+I)) (式A)
この方法は、以下のことが成り立つので使用することができる。参照波の3つの位相遅延をφR1、φR2、φR3=60°、180°、300°とする。初期位相φを有する画像平面内の各点に関して、式I=a+b・cos(φ+φRi)の強度が得られる。これは、I=a+b・cosφ・cosφRi-b・sinφ・sinφRiと書き換えることができる。したがって、簡単な変形(D. Malacara, Interferogram analysis for optical testing, Kap 6.2.1 ”120° Three-Step-Algorithm“での導出)により、上の式Aが得られ、それにより、参照波に対する分析対象の出力波の未知の位相差が一意に再構成される。
【0037】
位相シフト法の欠点は、強度分布ごとに少なくとも3つの画像を撮影することであり、これは、多少の追加コストを意味する。この方法の利点は、搬送波法とは対照的に、参照波をk空間内で分離するために参照波を必ずしも斜めに放射する必要がないことである。
【0038】
ステップ(i)で述べた取得可能な強度分布と、放射された参照場に対する測定場および漂遊場の位相を測定することができるステップ(ii)で述べた方法とを用いて、次いで、ステップ(iii)で、所望の乱れていない測定強度Iを導出することができる。
【0039】
このために、上記の出力式を最大5つ使用する様々な方法が提供され、これらはすべて共通して、IS+RとIM+S+Rを少なくとも1回測定して、その後、干渉項の未知の位相を再構成しなければならない。以下、例として2つの評価方法を説明する。
【0040】
第1の評価方法(iii a)では、IS+RおよびIM+S+Rの強度分布の画像が撮影され、そこから、上記の方法の1つに従ってそれぞれ参照波に対する出力波(漂遊場E、または漂遊場と測定場の合成E+E)の位相差が計算される。次いで、強度分布Iの画像が撮影され、IS+RおよびIM+S+Rに関する上記の式からそれぞれの位相差の知識により、電場EおよびE+Eの量を計算する。ここで、電場Eまたは漂遊電場と測定電場との合成E+Eは、量と位相に関して既知であるので、これらをベクトル的に互いに差し引き、所望のEを得ることができる。
【0041】
詳細:強度分布IS+Rを測定する。ステップ(ii)で述べた位相計算の方法の1つを使用することによって、そこから、位相差(φ-φ)が計算される。位相シフト法の場合、ここで、位相差を含むcos項を有するいくつかの方程式が得られ、その方程式から位相を再構成することができる。搬送波法では、所望の位相情報が、搬送波周波数に対する縞模様の偏差から得られる。次いで、参照波Iの強度の記録と共に、散乱強度Iを以下のように計算することができる。
【0042】
【数1】
【0043】
ここで、量E=√Iおよび位相(φ-φ)を用いて、(参照波に対する)漂遊場Eの複素電場ベクトルが完全に既知である。
次いで、IM+S+Rが記録され、ステップ(ii)で述べた方法の1つを使用して、参照波に対する合成場の相対位相EM+S=E+Eが決定される。Iの知識により、ここでも同様に、EM+Sの量がIM+S+Rから計算される。ここで、EM+Sの複素電場ベクトルも、量と、参照波に対する位相とに関して完全に分かる。
【0044】
次いで、所望の測定場Eは、EM+SとEとのベクトル減算から得られ、その後の累乗に従って、I=|Eが得られる。差分生成により、参照波の位相はなくなる。
【0045】
この方法の利点は、3つの強度分布のみを記録すればよいことである。Iの代わりに強度分布IおよびIM+Sが記録される場合、参照波の影響を受けたこれらの強度分布からIを用いて位相決定後にこれらを逆算するのではなく、強度分布IおよびIM+Sから、I=|E|によって電場EおよびEM+Sの量を導出することもできる。次いで、4つの強度分布IM+S+R、IM+S、IS+R、およびIで同じ結果が得られる。
【0046】
第2の評価方法(iii b)では、まず、5つの測定量すべてを使用して、強度
clean=IM+S+R-IM+S-IS+R+I=2Ecos(φ-φ
が生成され、これは、すでに完全に漂遊場項を含まない。そこから、ステップ(ii)で述べた位相計算のためのアルゴリズムの1つを使用して、位相差(φ-φ)が計算される。位相シフト法(上記参照)では、ここでcos項を含む複数の方程式が得られ、そこから位相を再構成することができるが、搬送波法では1つの方程式だけである。次いで、測定強度Iが以下のように計算される。
【0047】
【数2】
【0048】
この方法の利点は、実験により取得可能なすべての情報が使用され、位相測定の前でも漂遊場を含まない強度分布がすでに得られることである。
搬送波法と位相シフト法とはどちらも、コヒーレントな差分生成である。これらの方法の測定の不確かさは、相対位相位置の測定の不確かさによって制限され、2Ecos(Δφ)である。したがって、測定強度Iの相対測定誤差は以下のようになる。
【0049】
【数3】
【0050】
相対誤差の標準偏差σは、以下のようである。
【0051】
【数4】
【0052】
簡単な差分生成IM+S-I(従来技術)では、位相位置は全く分からない。
【0053】
【数5】
【0054】
および
【0055】
【数6】
【0056】
したがって、位相をより正確に測定する各方法は、すでに従来技術に対する改良となっている。高精度を達成するためには、様々な測定間で相対位相位置が変化しないことを保証しなければならない。特に、ここで温度T、分析物濃度C、および圧力pが変化し得るので、バックグラウンド測定(I、IS+R)と実際の強度測定(IM+S、IM+S+R)との間での所要のサンプル交換が重要である。
【0057】
さらに、一般に成り立つように、2つの波の干渉コントラストが以下の式によって与えられる。
【0058】
【数7】
【0059】
したがって、2つの波の干渉コントラストはI=Iでその最大ξ=1に達する。搬送波法に関しても位相シフト法に関しても、これは、参照波Iの強度を、散乱光バックグラウンドIの強度にほぼ対応するように設定すべきであることを意味する。
【0060】
参照波の位相安定性および強度に対するこれらの考慮事項は、本発明の以下の実施形態、とりわけ参照波の生成に組み込まれる。また、本発明のさらなる利点および詳細は、図に基づく様々な実施形態の以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】平面参照波および合焦バイオグリッドを用いる、搬送波法による第1の実施形態を示す図である。
図2】平面参照波および合焦バイオグリッドを用いる、搬送波法による第1の実施形態を示す図である。
図3】平面参照波および合焦バイオグリッドを用いる、搬送波法による第1の実施形態を示す図である。
図4】平面参照波および合焦バイオグリッドを用いる、搬送波法による第1の実施形態を示す図である。
図5】球面参照波およびコリメートバイオグリッドを用いる、位相シフト法による第2の実施形態を示す図である。
図6】球面参照波およびコリメートバイオグリッドを用いる、位相シフト法による第2の実施形態を示す図である。
図7】球面参照波およびコリメートバイオグリッドを用いる、位相シフト法による第2の実施形態を示す図である。
図8】球面参照波およびコリメートバイオグリッドを用いる、位相シフト法による第2の実施形態を示す図である。
図9】球面参照波およびコリメートバイオグリッドを用いる、位相シフト法による第2の実施形態を示す図である。
図10】外部参照波および合焦バイオグリッドを用いる、位相シフト法による第3の実施形態を示す図である。
図11】外部参照波および合焦バイオグリッドを用いる、位相シフト法による第3の実施形態を示す図である。
図12】外部参照波および合焦バイオグリッドを用いる、位相シフト法による第3の実施形態を示す図である。
図13】外部参照波および合焦バイオグリッドを用いる、位相シフト法による第3の実施形態を示す図である。
図14】導波管内でのブラッグ偏向、およびセルスペーサを用いる第4の実施形態を示す図である。
図15】導波管内でのブラッグ偏向、およびセルスペーサを用いる第4の実施形態を示す図である。
図16】導波管内でのブラッグ偏向、およびセルスペーサを用いる第4の実施形態を示す図である。
図17】外部参照波と、光学系を用いて検出器に投影される合焦バイオグリッドを用いる、第5の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
第1の実施形態
図1~4は、2つの側面図XZ図1)およびYZ(図4)、ならびに構成部品であるバイオチップおよびスクリーンプレート(図2)ならびにシャッタ(図3)に関する平面図で、第1の実施形態を示す。
【0063】
コヒーレントレーザ光源(図示せず)からの光Lは、カップリング格子EKGを通って、基板SUBに配置されたバイオチップBCの平面導波路Wにカップリングされる。ここで、バイオチップBCによって、基板SUBと、基板SUBのおもて面および背面に配置された要素とが示される。光源および検出器ならびに可動スクリーンなどさらなる要素と共に、バイオセンサが得られる。
【0064】
コヒーレントレーザ光源の波長は、好ましくは400nm~1000nmの範囲内にある。カップリング格子EKGは、平面導波路Wの下側に位置している。平面導波路Wにカップリングされた光Lは、X方向に伝播し(導波路W外では、この光モードは指数関数的に低下する)、第1の参照格子RGに当たる。この第1の参照格子RGは、平面導波路Wの下側にある線形格子として構成され、好ましくは、カップリング格子EKGを生成するのと同じプロセスステップによって製造される。
【0065】
参照格子RGの線形格子形状により、デカップリングされた第1の参照光束RLがコリメートされる。参照光束RLは、好ましくはCMOSまたはCCDイメージセンサとして構成されたいくつかの個別検出器を有する検出器Dに到達する。平面導波路Wを伝播する光Lのごく一部のみが、第1の参照格子RGによってデカップリングされる。大部分は、第1のバイオグリッドBGにさらに伝播する。第1のバイオグリッドBGは、バイオチップBCの表面に格子状に、すなわち格子のウェブのように接続された第1の捕捉分子からなる。これらの第1の捕捉分子は、第1の分析物分子に特異的に結合し、それにより、第1の分析物分子も同様に格子状に付着し、その質量占有率が測定される。
【0066】
第1の分析物分子が捕捉分子に格子状に付着することによって、平面導波路Wを伝播する光Lのごく一部が、第1の測定光束MLとしてデカップリングされ、同様に検出器Dに到達する。ここで、上で引用した国際公開第2015004264号に記載されているように、バイオグリッドBGの格子形状は、デカップリングされた第1の測定光束MLが検出器D上の小さな合焦面(又は、焦点領域)に合焦されるように選択される。したがって、格子形状は、焦点距離fを有する回折レンズとなる。第1の参照格子RGおよび第1のバイオグリッドBGは、検出器Dの位置で第1の参照光束RLと第1の測定光束MLとが重ね合わされるように選択される。このコヒーレントな重ね合わせは、第1の強度ストリップシステムをもたらし、第1の強度ストリップシステムは、検出器Dによって取得され、評価ユニット(図示せず)で評価される。検出器Dの位置での2つの光束RL、MLの重ね合わせは、例えば、第1の参照格子RGのデカップリング角の選択によって達成することができ、このデカップリング角は、第1の参照格子RGの格子向きおよび格子定数によって与えられる。
【0067】
第1のバイオグリッドBGも、平面導波路Wを伝播する光Lのごく一部しかデカップリングしない。大部分は、第2の参照格子RGおよびそれに続く第2のバイオグリッドBGにさらに伝播する。第2の参照格子RGも、第1の参照格子RGと同様に線形格子として構成され、第2の参照光束RLをデカップリングし、第2の参照光束RLは、第1の参照光束からオフセットされて検出器Dに到達する。第2のバイオグリッドBGは、やはり格子状につなぎ留められた第2の捕捉分子からなる。格子形状は、第1のバイオグリッドBGの格子形状と同一であり、したがって同様に回折レンズとなる。第2の捕捉分子は、第1のバイオグリッドBGの第1の捕捉分子とは異なり、したがって別の特定の分析物分子に結合し、その質量占有率が測定される。第2の参照光束RLと第2の測定光束MLとは、やはり検出器Dの位置で重ね合わされ、第1の参照光束および第1の測定光束からオフセットされて現れ、独立して検出することができる。第2の強度ストリップシステムが生じ、検出器Dによって取得され、評価ユニット(図示せず)で評価される。
【0068】
バイオチップBCの平面図に示されるように、第1および第2の参照格子RGおよびバイオグリッドBGに加えて、さらなる参照格子RGおよびバイオグリッドBGが配置されて、さらなる分析物分子を検出することができる。すなわち、この例示的実施形態からの単一のバイオチップBCを用いて、4つの異なる分析物分子を調べることができる。
【0069】
バイオチップBCと検出器Dとの間のビーム経路にスクリーンプレートBPが導入される。スクリーンプレートBPは、複数の参照光束RLおよび測定光束RL、MLのための開口部OR、OMを有し、これらの光束RL、ML以外に生じる散乱光を遮断する。したがって、開口部OR、OMは、高い散乱光抑制を達成するためにできるだけ小さく、しかし参照光束RLおよび測定光束MLが著しく損なわれないように十分に大きく選択される。スクリーンプレートBPは、開口部OR、OMを有する薄い金属プレートとして形成することができる。代替として、ガラス板に吸収層を塗布し、開口部OR、OMを適宜設けることもできる。この第2の代替形態は、このガラス板が同時に光学モジュールのカバープレートにもなり得るという利点を有し、このカバープレートは、バイオチップの投入または取出し時に生じ得る汚染から検出器Dおよびさらなる光学部品を保護することができる。
【0070】
評価ユニット(図示せず)は、測定光束MLの合焦面で強度ストリップシステムを評価する。間に位置するイメージセンサの個別検出器または画素は、測定モード外で生じて評価には関連しない散乱光しか検出しないので、評価には使用されない。合焦面の領域のみにおけるこの画素の選択は、検出器Dの位置での仮想スクリーン構造に対応する。スクリーンプレートBPのスクリーン開口部OR、OMと共に、測定モードの位置および方向に関して対応する光のみを通過させるスクリーンシステムが得られる。光の位置および/または光の方向が測定モードと異なる他のすべてのモードは遮断される。これにより、所望のモードフィルタが得られる。
【0071】
本明細書の全般部分で説明したように、バイオグリッドBGの散乱測定強度Iの決定には一連の測定が必要であり、測定において、参照光束RLもしくは測定光束MLのいずれかのみ、または両方が一緒に検出される。したがって、バイオチップBCから検出器Dまでのビーム経路にシャッタSを挿入する必要がある。このシャッタSは、参照光束RLおよび/または測定光束MLが透過される開口部または透明領域SOを有する。x方向へのシャッタSのシフトにより、ビーム遮断領域SBを参照光束RLのビーム経路または測定光束RBのビーム経路に差し込むことができ、その結果、強度値IM+S+R、IM+S、およびIの測定が可能にされる。強度値IS+RおよびIの測定は、分析物分子の付着前に行われる。
【0072】
図1~4には、さらなる有利な構成要素が示されている。すなわち、隔壁Tは、ビームカップリングの領域をビーム検出の領域から分離する。さらに、ビーム捕捉器Fが、カップリング格子EKGを透過した光を吸収する。どちらも散乱光を減少させる。
第2の実施形態
図5~9は、2つの側面図XZ図5)およびYZ(図9)、ならびに構成部品であるバイオチップ(図6)およびスクリーンプレート(図7)ならびに複合シャッタ/遅延プレート支持体(図8)に関する平面図で、第2の実施形態を示す。
【0073】
第1の実施形態との相違点のみを以下に述べる。参照格子RGは、関連するバイオグリッドBGの下に(z方向に)あり、そこでそれぞれ、平面導波路W内で光のごく一部を球面波の形での参照光束RLとしてデカップリングする。この目的のために、参照格子RGは、曲線の格子線を有するチャープ格子として設計され、回折発散レンズとして機能する。それに対し、バイオグリッドBGは、一定の格子周期を有する線形格子として設計され、導波路Wからのコリメートされた測定光束MLをデカップリングする。ブラッグ条件に従った二次回折による平面導波路Wへの線形格子の逆反射を回避するために、デカップリングは角度α≠90°で行われる。図6の平面図から分かるように、参照格子RGは円形に定められ、それぞれ、バイオグリッドBGを有する円形リングによって取り囲まれている。したがって、生じる参照光束RLは、それぞれ関連する測定光束MLによって取り囲まれる。
【0074】
デカップリングされた測定光束MLおよび参照光束RLは、固定スクリーンプレートBP(図7)を通過し、その後、xおよびy方向にシフト可能な複合スクリーンおよび位相遅延プレートBPV(図8)に当たる。図8による平面図に見られるように、複合スクリーンおよび位相遅延プレートBPVに、参照光束RLまたは測定光束MLのいずれかを遮断することができるスクリーン要素B1、B2が提供される。さらに、参照光束RLのビーム経路に差し込むことができ、参照光束RLの位相をそれぞれ60°、180°、または300°遅延させる位相遅延要素V1、V2、V3もある。すべてのスクリーンおよび位相遅延要素B1、B2、V1、V2、V3は、測定光束MLおよび参照光束RLのラスタ内に配置され、したがって、光学作用はすべての参照光束RLおよび同様にすべての測定光束MLに関して常に同じである。
【0075】
スクリーン構造B1、B2、ならびに複合スクリーンおよび遅延プレートの対応するxおよびy方向シフトにより、強度値IおよびIM+S+R、IM+S(分析物の追加後)またはIS+RおよびI(分析物の追加前)を取得することが可能である。参照光束RLへの位相遅延要素V1、V2、V3の差込み時、参照光束の位相も遅延することができ、したがって、対応する干渉項の位相を位相シフト法に従って決定することができる。位相遅延要素V1、V2、V3は、所望の位相遅延を得るために、周囲媒体空気、例えばガラスまたは適切な厚さの透明ポリマーなどの透明で光学的に高密度の材料からなる。
【0076】
さらなる光線経路で、参照光束RLおよび測定光束MLがレンズアレイプレートに当たる。このレンズアレイプレートには、集光レンズSLが、測定光束RL、MLのラスタとして配置される。集光レンズはそれぞれ、下にある検出器Dに測定光束MLを合焦する。したがって、集光レンズSLまたはレンズアレイプレートと検出器Dとの間の距離は、集光レンズSLの焦点距離に等しくなるように選択される。参照光束RLも、レンズアレイプレートの集光レンズSLによって検出器Dに集束される。しかし、参照光束RLは球面波として放射されるので、検出器Dは、参照光束RLに関して合焦平面に位置していない。
【0077】
バイオグリッドBGの線形格子構造、したがってコリメートされた測定光束MLを、測定光束MLを検出器に合焦させる集光レンズSLを有するレンズアレイプレートと組み合わせて使用することには、以下に述べるかなりの利点がある。
【0078】
線形格子構造としてのバイオグリッドBGの製造は、回折レンズ構造の製造よりもはるかに容易である。回折レンズ構造は、局所格子定数の連続的な変化を有する。バイオグリッドBGの製造に必要な非接触リソグラフィでは、マスク格子のタルボット効果によって、マスク格子の様々な回折次数の妨害的干渉が生じて、好ましくない光変調がもたらされることにより、マスクから、製造すべきバイオチップBCの基板SUBへの光投影が損なわれる。回折レンズ構造の製造時、すべての局所格子定数が一様に適切に投影されるわけではなく、追加の変調が生じる。バイオグリッドBGの対応する外乱により、平面導波路Wの光は、より低い回折効率で平面導波路Wからデカップリングされ、散乱光として検出を乱す追加の光束が生じる。さらに、測定光束MLは、それらの断面にわたって妨害的強度変動を有し、この妨害的強度変動は、検出器Dでのより大きな合焦面、したがってより大きな測定ノイズをもたらす。線形格子構造を有するバイオグリッドBGの製造では、これらの欠点は生じない。さらに、例えば最適な露光発散の選択、最適な露光距離の選択、または最適な露光波長の選択によって、この1つの格子定数に関してリソグラフィを最適化することができる。露光強度の不可避の変動時、バイオグリッドBGのウェブ-ギャップ比の対応する変動が生じるが、この変動はそれらの横方向範囲にわたって一定である。したがって、測定光束MLの回折効率または強度も、横方向範囲にわたって一定のままであり、したがって、測定光束MLを回折限界で検出器Dに合焦させることができる。この結果、測定ノイズも小さくなる。
【0079】
線形格子構造を有するバイオグリッドBGの固定格子定数は、この格子定数に関するウェブ-ギャップ比の最適化を可能にする。これにより、カップリング効率が向上し、したがって測定光束MLの強度が向上する。
【0080】
この実施形態におけるデカップリングは、光学素子および平面導波路Wにおける多重反射および後方反射を抑制するために、バイオチップBCの法線に対してわずかに斜めに行うべきである。レンズアレイプレートの集光レンズSLの適切なレンズ形状によって、この角度は、必要に応じて検出器Dに対して垂直に再び揃えることができる。
【0081】
さらに、線形格子構造を有するバイオグリッドBGでは、導波路への後方反射を回避するために合焦格子内に提供される格子線を有さない従来技術(欧州特許出願第2618130号)に記載された区域も省略される。これにより、製造コストが低減され、バイオグリッドBGの表面積が大きくなることにより、測定光束MLの強度が高まる。
【0082】
線形格子構造としてのバイオグリッドBGのさらなる利点は、回折格子構造において横方向範囲にわたって変化する偏光とは対照的に、コリメートされた測定光束MLの一定の偏光である。曲率がないため、伝播波の偏光は常に格子線に平行であり、これはデカップリング効率を高める。
【0083】
線形格子構造を有するバイオグリッドBGの使用は、上述したように、その後の測定光束の合焦を必要とし、したがって、少なくとも1つの集光レンズSLまたはレンズアレイプレート(バイオチップBC上の複数のバイオグリッドBGに関して)の使用に関連付けられる。レンズアレイプレートの場合にのみ、集光レンズSLの互いの位置公差は十分に小さい。非常に狭いラスタに配置しなければならない個別レンズの調整は、非常に複雑である。
【0084】
レンズアレイプレートの集光レンズSLは、屈折性にすることも回折性にすることもできる。回折性の場合には、一段のバイナリ構造として、または有利には多段のブレーズド構造として製造することができる。
【0085】
検出器Dと集光レンズSLまたはレンズアレイプレートとの間の位置が固定であるので、走査光学系に対するバイオチップBCのシフト時に、検出器Dでの合焦面の位置は変化せず、これにより評価が簡略化される。3つの空間方向すべてにおけるそのようなシフトが、読み出しユニットへのバイオチップの投入時に、または熱ドリフトプロセスにより発生する可能性がある。x軸またはy軸周りでのバイオチップBCの回転のみが、合焦面をシフトさせる。したがって、バイオチップBCを、バイオチップBCの縁部の近くにあるストッパによって位置合わせしなければならない。90°に対するデカップリング角αの偏差が小さいため、z軸周りでの回転は影響がわずかであり、ストッパによって簡単に制御することもできる。
【0086】
検出器D上での参照光束RLの横方向範囲は、回折発散レンズの形での参照格子RGの焦点距離によって選択することができるので、この実施形態で使用される球面波の形での参照光束RLは有利である。したがって、参照光束RLは、検出器D上で、参照光束RLの均一な強度が測定光束MLの合焦面にわたって生じるように設計することができる。
【0087】
ここで使用される位相シフト法は、搬送波法と比較して、ビーム傾斜が小さい、すなわち開口数が小さい光束のみを必要とする。スクリーンプレートBPなどの光学部品での不可避の多重反射は、ビーム傾斜が小さいため、ある測定光束MLから隣接する測定光束MLへのクロストークを引き起こさない。それに応じて、測定精度が高められる。さらに、測定ビーム束MLおよび関連する参照ビーム束RLは、非常に隣接する位置でバイオチップBCからデカップリングされる。したがって、それに対応して、平面導波路Wの屈折率変化によって生じる測定光束MLと参照光束RLとの間の位相シフトに対する温度の影響は小さい。さらに、位相決定のために縞模様を評価する必要がなく、簡単な算術計算およびアークタンジェント生成のみが必要なので、評価ユニットでの計算量は、搬送波法におけるよりも少ない。
第3の実施形態
図10~13は、側面図XZ図10)、ならびに構成部品であるバイオチップ導波路(図11)、参照格子導波路を有するスクリーンプレートの上側(図12)、およびスクリーンプレートの下側(図13)に関する平面図で第3の実施形態を示す。第1の実施形態との相違点のみを以下に述べる。
【0088】
この実施形態でも、バイオグリッドBGは、回折レンズとして形成され、測定光束MLを検出器Dに合焦させる。参照光束Rは、スクリーンプレートBPを通過する。このために、スクリーンプレートBPは、基板SUB’、カップリング格子EKG、および別個の平面導波路Wを有する。コヒーレントレーザ光源(図示せず)からの光Lの一部は、液晶要素または電気光学変調器の形態での電気光学位相遅延要素PVEによって位相シフトされ、カップリング格子EKGを介してスクリーンプレートBPの平面導波路W’にカップリングされる。光は、そこで+x方向に参照格子RGへと伝播し、参照格子RGは参照光束RLをデカップリングする。参照格子RGは、参照光束がコリメートされるように線形格子として構成される。参照格子の格子定数は、導波路W’での後方反射を回避するために、参照光束RLがバイオチップBCの法線方向に対してわずかに傾斜して(α≠90)デカップリングされるように選択される。これは、欧州特許第2618130号で述べられているブラッグ区域と同様に行われる。ブラッグ区域では、ブラッグ条件に従う平面導波路への反射を回避するために、それぞれのバイオグリッドで格子線が省かれる。参照格子RGは、参照光束RLがそれぞれ関連する測定光束MLと検出器Dの位置で重なり合い、したがって干渉するように、バイオグリッドBGに対して位置決めされる。電気光学位相遅延要素PVEによる参照光束RLの位相シフトは、測定光束MLと参照光束MRとの間での相対位相のシフト、したがって上述した位相シフト法に従った評価ユニット(図示せず)での相対位相の決定を可能にする。
【0089】
x方向に可動のシャッタSは、光Lがそれぞれのカップリング格子EKGに当たる前に、測定光束MLまたは参照光束RLの遮断を可能にする。
バイオチップBCは、バイオグリッドBGに加えて、位相ドリフト関連格子PDBGとも呼ばれる参照用格子も支持する。バイオチップの平面導波路Wを伝播する光Lのごく一部が、この第1の参照用格子PDBGによってデカップリングされ、第1の参照用光束RZLを生成する。参照用格子PDBGは線形格子として構成されており、したがって第1の参照用光束RZL1がコリメートされて現れる。第1の参照光束RZL1は、その後、検出器Dによって検出される。スクリーンプレートBPは、さらなる参照格子RGを支持し、このさらなる参照格子RGは、バイオチップBC上の第1の参照用格子PDBGの下に配置され、同様に線形格子として構成される。ここでも、スクリーンプレートBPの平面導波路Wを伝播する光Lのごく一部がデカップリングされ、それにより、コリメートされた第2の参照用光束RZL2が生じる。第1の参照用光束RZL1と第2の参照用光束RZL1、RZL2とは、検出器Dの位置で重なり合って干渉する。
【0090】
第2の参照用光束RZL2は、電気光学位相遅延要素PVEによって位相シフトすることができ、ここでも、第1の参照用光束RZL1と第2の参照用光束RZL2との相対位相の決定を可能にする。この相対位相は、バイオチップBCとスクリーンプレートBPとの相対位置に依存する。しかし、相対位置は、測定光束MLと関連する参照光束RLとの相対位相にも影響を及ぼす。第1の参照用光束RZL1と第2の参照用光束RZL2との相対位相を決定することによって、測定光束MLと関連する参照光束RLとの相対位相の部分を決定して差し引くことができ、この相対位相の部分は、バイオチップBCとスクリーンプレートBPとの相対位置に依存する。したがって、測定期間中のスクリーンプレートBPに対するバイオチップBCの相対位置のドリフトを補償することができる。ここで、測定光束MLと関連する参照光束RLとの相対位相を決定する相対位置に関して高感度の方向があることに注意すべきである。また、第1の参照用光束RZL1と第2の参照用光束RZL2との相対位相に関して高感度の方向もある。それら2つの高感度の方向は、それぞれ、カップリング格子EKGの前での光束Lの方向、およびデカップリングされた光束の方向によって与えられる。それら2つの高感度の方向をできるだけ同一にすべきである。バイオチップBCとスクリーンプレートBPとに関するカップリング角が同じである場合、測定光束ML、参照光束、ならびに第1の参照用光束RZL1および第2の参照用光束RZL2に関して、同じデカップリング方向のための条件が得られる。これは、参照格子RGおよび参照用格子PDBGの適切な格子定数および格子方向によって可能である。
【0091】
必要に応じて、さらなる参照用格子PDBGをバイオチップBCに導入し、関連するRG参照格子をスクリーンプレートBPに導入することができる。相対位相の対応するさらなる測定は、バイオチップBCとスクリーンプレートBPとの間の線形シフトの補償に加え、回転の補償も可能にする。これにより、特に正確な変形実施形態が得られる。
【0092】
この実施形態の特別な利点は、参照格子RGが、検出装置に固定して構成された導波路W内に構造化されるだけでよく、各バイオチップに導波路Wが存在する必要はないことである。さらに、較正も簡略化される。また、参照光束RLの位相シフトのための可動部品は必要とされない。
【0093】
バイオチップまたはスクリーンプレートBPのカップリング格子EKGに当たる光束Lの空間的分離により、ビーム経路内の対応する構成要素によって光束Lの強度の個別の調整が可能である。したがって、測定光束MLと参照光束RLとの強度比を調整して、最適な検出のために最適化することができる。この場合、シャッタSは、カップリング格子EKGの前に配置され、したがって2つの光束のうちの1つが遮断される場合、生じる散乱光はより少ない。
第4の実施形態
図14~16は、側面図XZ図14)、ならびに構成部品であるバイオチップ(図15)、ならびにスクリーンプレートおよび複合シャッタ/遅延プレート支持体(図16)に関する平面図で、第4の実施形態を示す。
【0094】
第1の実施形態との相違点のみを以下に述べる。
この実施形態は、欧州特許第2929326号に記載されている構成に基づく。ここで、バイオグリッドBGは、平面導波路W内で光Lを偏向させるだけであり、平面導波路Wから光Lをデカップリングしない。バイオグリッドBGは、線形格子として設計される。導波路Wからのデカップリングは、追加のデカップリング格子AGによって行われる。
【0095】
上述した実施形態と同様に、バイオグリッドBGおよび参照格子RGで光成分を個別に遮蔽することができるように、光Lは、まず(後で参照格子RGで偏向される光成分のための)電気光学位相遅延要素PVEおよびシャッタSを通過する。第1の実施形態と同様に、光のカップリングは、カップリング格子EKGによって行われる。
【0096】
その後、x方向に伝播する光Lは、中央に第1の参照格子RGが形成された第1の線形の2部品バイオグリッドBGに当たる。両方の格子BG、RGの格子線は、光Lの伝播方向に対して等距離で斜めに形成され、導波路内の光をデカップリング格子AGの方向に偏向させるためのブラッグ条件を満たす。したがって、格子線間の距離dは、格子線に対する光Lの角度θによって、導波路内の光の波長λに関連付けられる。追加の妨害的回折次数を生成せずに回折効率を高めるために、回折次数nは通常、1である。
【0097】
バイオグリッドBGおよび参照格子RGによって偏向された全光Lのごく一部が、導波路Wの下側にある合焦デカップリング格子AGに当たり、それら両方の部分が検出器Dに偏向し、そこで重なり合う。両方の部分の確実な重ね合わせを保証するために、参照格子RGは、この参照光束RLの小さな発散を保証するためにわずかに湾曲形状にすることができる。適切なアクチュエータによるy方向でのカップリング格子EKGのカップリング角の連続的な変化も、バイオグリッドBGのブラッグ条件を満たすために、したがって測定強度を最適化するために有用である。
【0098】
導波路Wに残っている光成分は、別の場所にある次のバイオグリッドBGおよび参照格子RGにおいて偏向されてデカップリングされる。
さらに、適切な孔径を有する粒子スペーサMが提供される。この措置は、他のすべての実施形態に関しても有用であり得る。目的は、望ましくない散乱粒子SP(例えば細胞)をフィルタリングによって導波路Wから遠ざけておくことである。このために、粒子スペーサMは導波路Wのエバネッセント場の外に提供され、細孔径は、分析対象の生体分子または分析物Aが粒子スペーサMを通過することができる一方で、望ましくないより大きい粒子SPは上澄み液中に留まるように選択される。粒子スペーサMは、膜の形態で、または分子層もしくは多孔質カバー層として、導波路Wの近くまたは導波路W上に配置することができる。粒子スペーサMによって、腫瘍細胞(通常は直径10~30μm)などのより大きな粒子が、導波路W上またはその付近のエバネッセント場に達したときに散乱光バックグラウンドを変化させることが妨げられる。
【0099】
粒子スペーサMを用いるこの実施形態の利点は、分析物媒体と共に導入されるこれらのより大きな粒子または細胞によって変化されることなく同じ条件下で、測定波の有無にかかわらず散乱光バックグラウンドを測定することができることが保証されることである。
第5の実施形態
図17は、第5の実施形態をXZ側面図で示す。とりわけ第1の実施形態との相違点を説明する。
【0100】
コヒーレントレーザ光源LQからの光Lは、第1のビームスプリッタST1によって2つの部分に分割され、これらの部分は、以下で、互いに別々に測定光束ML(第1の部分)および外部参照光束RL(第2の部分)を生成するために使用される。
【0101】
ビームスプリッタST1で分割された光の第1の部分は、適切な第1のビーム成形光学系SFO1および第1のシャッタS1を通過した後、カップリング格子EKGを介して、基板SUBに配置されたバイオチップBCの平面導波路Wにカップリングされる。バイオグリッドBGは、この実施形態でも、焦点距離fを有する回折レンズとして構成され、導波路Wに対して距離fにある焦点面BEに測定光束MLを合焦させる。x方向に可動のシャッタS1は、光Lがそれぞれのカップリング格子EKGに当たる前に、測定光束MLの遮断を可能にする。
【0102】
焦点面BEは、焦点距離fobj,1およびfobj,2を有する2つの対物レンズO1、O2によって検出器Dに投影され、検出器Dは、焦点面BEから2fobj,1+2fobj,2の距離にある。したがって、同じ焦点距離fobj,1=fobj,2=fobjの2つの対物レンズO1、O2の場合、倍率M=-1の4f投影が得られる。この実施形態で使用される検出器D上への焦点面BEの光学的投影は、焦点面BEからの距離2fobj,1、または検出器Dからの距離2fobj,2でフーリエ面が得られるので特に有利であり、このフーリエ面に、k空間フィルタリング(すなわち角度フィルタリング)が実現されるように適切な開口部OFを有するフーリエスクリーンFBが導入される。このようにして、検出光学系の開口数は、測定モード以外のモードで放射される望ましくない散乱光が遮断されるように適合させることができる。したがって、これにより、望ましいモードフィルタが得られる。フーリエスクリーンFBは、XおよびY方向にシフト可能であるように設計されており、したがって、バイオチップBCからデカップリングされた測定光束MLの傾きは、RおよびR軸周りで補償することができる。
【0103】
ビームスプリッタST1で分割された光Lの第2の部分は、適切な第2のビーム成形光学系SFO2によってコリメートされ、外部参照光束RLとして使用される。z方向に可動の第2のシャッタS2は、参照光束RLの遮断を可能にする。次いで、参照光束RLは、第2のビームスプリッタST2(または偏向およびビームカップリングに使用される別の偏向要素)によって検出器Dに向けられ、測定光束MLと重なり合い、その結果両方の光束が検出器Dの位置で干渉する。搬送波法による位相測定を実施できるようにするために、第2のビームスプリッタST2の角度Rは、放射される参照光RLが測定モードでの測定光および散乱光成分の開口数よりも大きい角度で放射されるように選択すべきである。さらに、第2のビームスプリッタST2は、測定光束MLおよび散乱光の角度がドリフトする場合に、それに対応して参照光束RLの角度を追跡できるように、Rで調整可能であるように設計することができる。機械的追跡が提供されていない場合、測定光束MLと参照光束RLとの干渉により生じる強度ストリップシステムの周期を推定し、測定された位相を関連の傾き誤差だけ補正すべきである。
【0104】
図示される実施形態とは異なり、位相シフト法に従って位相測定を実施することもできる。この場合にも、第2のビームスプリッタST2の角度Rは、自由に選択可能であり、必ずしも調整可能に設計される必要はない。次いで、参照光束RLの位相を60°、180°、または300°遅延させるために、位相遅延要素を、適切な位置で参照光束RLのビーム経路に導入しなければならない。
【0105】
図示されている実施形態とは異なり、第1のビームスプリッタST1で分割された光の第2の部分は、第1の開口部OFに加えて、光軸からx方向にオフセットされてフーリエスクリーンFBに位置する小さな開口部を照明するために使用することもできる。照射されるこの小さい開口部は、第2の対物レンズO2のフーリエ面における点光源のように働き、その結果、検出器Dに向けられた平坦な参照光束が生じ、この参照光束は、測定光束MLと重なり合い、したがって検出器Dの位置で干渉する。この小さな第2の開口部と光軸との間の距離は、参照光束RLが測定光束MLおよび散乱光に対して傾いて検出器Dに放射される角度Rを決定し、ここでも、測定光束MLおよび散乱光の角度がドリフトした場合にそれに対応して参照光束RLの角度を追跡することができるように調整可能に選択することができる。また、第1のビームスプリッタST1からフーリエスクリーンFBへの光路は、光ファイバで光を案内することによってブリッジすることができる。
【0106】
これまでの実施形態とは対照的に、参照光束RLは、複数の参照格子RGによってではなく、第1のビームスプリッタST1によってデカップリングされる。1つの参照光束RLのみが生成され、すべての測定光束MLを測定するために使用される。この実施形態は、バイオチップBCの表面に参照格子RGのためのスペースを確保する必要がないので特に有利であり、バイオグリッドBGは、第1および第4の実施形態とは対照的に、より密に配置することができ、または第2および第3の実施形態とは対照的に、全面で使用することができる。さらに、参照格子RGの複雑な構造化がなくされ、検出装置に固定して設置されるビームスプリッタST1、ST2のみが必要とされることも有利である。
【0107】
この実施形態の欠点は、まず、参照光束RLと測定光束MLとの光学経路が一致しないことである。干渉安定性を達成するために、通常はいわゆる「共通経路」幾何形状が選択され、この幾何形状では、参照光束RLと測定光束MLとの光路はほぼ一致する、すなわち(第1、第2、および第4の実施形態と同様。また制限を伴って第3の実施形態とも同様)同じ光学要素を通過する。このようにして、機械的または熱的ドリフトプロセスが両方の光束RL、MLに同じ強さで作用することが保証され、したがって相対位相が一定に保たれる。しかし、この第5の実施形態で述べた解決策は、光束RL、MLの光路が異なるため、いわゆる「ダブルパス」幾何形状であり、この幾何形状はそのようなドリフトプロセスの影響を本質的に受けやすい。
【0108】
しかし、この欠点は特に簡単に解消することができる。不可避の漂遊磁場Eが、主に基板SUBの固定の粗さでの散乱によって生成されるので、結果として生じるスペックルバックグラウンドの位相分布φは時間的および空間的に一定であり、参照光束RLと測定光束MLとの間の相対位相のドリフトを測定して補償するために固有の位相標準として使用することができる。ここでは、例えば光源に対するおよび/または検出器に対するバイオチップのドリフトによって生じ得るスペックルバックグラウンドの一般的な位相オフセットが参照波の位相シフトに割り当てられ、これは同じ効果を有する。
【0109】
このために、第1の時点tで、強度分布IS+R、I、およびIが記録される。漂遊場と放射された参照場との相対位相位置はφ-φとする。後の時点tで、強度分布IS+R’が再度測定される。ここで、漂遊場と放射された参照場との相対位相位置はφ-φ’とする。散乱光の位相が一定である(φ=const.)という上記の前提条件の下で、平面検出器Dの各位置(すなわち画素ごと)での時点tとtの間の参照位相の差は、以下のように計算することができる。
【0110】
【数8】
【0111】
次いで、画素ごとに測定された、参照光束RLと散乱光との間の位相ドリフトΔφは、様々なドリフトプロセス(位相偏差、位相傾斜など)に関する対応する自由度を含む波面モデルで推定することができ、それにより、全体的な位相ドリフトΔφを得て、それに対応して、通常は減算によって補償することができる。
【0112】
散乱光と測定光束MLとが導波路Wの同じ位置に生じ、同じ光路に沿って検出器Dに投影されるので、それらの相対位相位置ΔφMS=φ-φは時間的に一定である。したがって、参照光束RLの位相は、散乱光の位相φに対してΔφだけドリフトするとき、測定光束MLの位相φに対してもΔφだけドリフトする。したがって、参照光束RLと測定光束MLとの間の位相ドリフトが決定され、その結果、2つのビーム束の間で干渉安定性を確立することができる。
【0113】
通常、参照光束RLと測定光束MLとの間の位相ドリフトが決定される時点tは、分析物の追加の時点の後である。この場合、強度分布IS+R’は取得可能でなくなる。しかし、分析物の追加時、信号強度は、測定光束MLの小さい合焦面内でのみ変化するため、合焦面外では、IM+S+R≒IS+R’が成り立つ。したがって、合焦面外での不変のスペックルバックグラウンドを、固有の位相標準として引き続き使用することができ、位相ドリフトΔφの対応する評価は、上記の式に従って同様に行われる。
【0114】
また、測定間のバイオチップの横方向シフトを、スペックルバックグラウンドの相関によって決定することができる。参照光束なしで測定する場合、スペックルバックグラウンドの強度分布がこの相関に使用される。参照光束を用いて、位置依存の位相分布を相関に使用することがより有益である。横方向シフトは、ソフトウェアによる画素割当てのシフトによって容易に修正することができる。
【0115】
この方法の利点は、スペックルバックグラウンドを検出器面全体にわたって固有の位相標準として使用することができ、したがって追加の参照用格子が必要とされないことである。
【0116】
ここで説明した例示的実施形態に対し、個別にまたは組み合わせて、以下に説明する一般化も可能である。
上述した実施形態では、より良く理解できるように、具体的な設計上の決定を伴った実現形態を例示してきた。しかし、これらの例は、一般性を制限することなく理解されるべきであり、様々な実施形態の基本的な機能原理に影響を与えることなく適宜変更することができる。
【0117】
・例えば、カップリング格子EKGおよび/または参照格子RGは、導波路Wの下側だけでなく、導波路Wの上側にも形成することができる。
・導波路Wを伝播する光LによるバイオグリッドBGおよび/または参照格子RGの励起の代わりに、励起は、バイオチップBCの境界面で全反射される光ビームによって行うこともできる。この境界面に、バイオグリッドBGと参照格子RGが位置する。ここで、全反射光のエバネッセント電場は、それぞれの格子を有する導波路による励起を用いる変形形態と全く同様に相互作用する。
【0118】
・検出器Dとして、カメラ(すなわち光検出器の2Dアレイ)の代わりに、検出位置ごとに平坦な個別の検出器と、測定場の直径、すなわち測定モードの直径を有するスクリーンを使用することができる。
【0119】
・位相シフタとして、ビームに対して垂直にシフト可能な回折格子も文献において知られている。これは、その回折次数において、ビームに対するウェブとギャップの位置に依存して位相が変化するからである。代替として、例えばピエゾアクチュエータによって動かされるミラーも、位相を変えるために参照ビームのビーム経路を変えることができる。
【0120】
・参照波が、例えば、参照ビームに導入された適切に方向付けられたλ/2プレートを通って測定波に垂直に偏光される場合、検出器の前にある回転可能な偏光フィルタによって、観察したいビーム成分を選択することができる。参照波または測定波の偏光と並行して、それぞれの波のみが測定される。参照波の偏光に対して0°から90°の間での調整時に、2つの部分波の相対強度を調整して最適な干渉コントラスト(上記参照)を得て、それらを検出器で干渉させることができる。
【0121】
・さらに、すべての変形形態において、クロストークを防ぐために、個々の検出位置の間にセパレータを導入することができる。
・バイオグリッドBGの検出器分解能と焦点径は、焦点径が5~50画素の範囲内で動くように選択すべきである。
【0122】
・搬送波法での検波器分解能および縞の間隔は、縞の間隔が5~50画素の範囲内で動くように選択すべきである。
・参照格子RGは、搬送波法において、バイオグリッドBGの前(第1の例示的実施形態に示されるように)でも後でも、x方向にオフセットして提供することができる。y方向へのオフセットを有する配置またはそれらの組合せも可能である。バイオグリッドBGに対してy方向でのみオフセットする利点は、参照格子RGとバイオグリッドBGとに関する導波路Wでの光路長が同じ長さであり、このことによって、参照格子とバイオグリッドとの間での位相のドリフトを最小限に抑えることである。参照格子がx方向でバイオグリッドの前後にそれぞれ置かれる場合、位相ドリフトは、2つの参照格子の1つを使用してバイオグリッドに対する位相差をそれぞれ1回計算することにより、算術的に補償することもできる。2つの参照格子の位相ドリフトは反対方向に挙動し、したがって修正することができる。
【0123】
・さらに、参照格子RGは、(例えば、2つの互いにねじれて形成された格子構造を重ね合わせる、または強く発散する波を生成することにより)周囲のいくつかのバイオグリッドBGに対して参照波を生成することもできる。その下にあるスクリーン構造は、生成された参照波から、それぞれのバイオグリッドBGに関する適切な部分波を選択する。
【0124】
・光束を遮断または解放するために、可動シャッタ(S)の代わりに、LCDなどの電子的に切り替え可能な要素を使用することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図17