(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20230512BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
H05H1/46 R
H01L21/302 101D
H05H1/46 C
(21)【出願番号】P 2022141813
(22)【出願日】2022-09-07
(62)【分割の表示】P 2020571732の分割
【原出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 貴大
(72)【発明者】
【氏名】弘中 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】大越 康雄
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-009733(JP,A)
【文献】特開2018-073904(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125523(WO,A1)
【文献】特開2019-036483(JP,A)
【文献】特開2008-210598(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0193978(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波発生器が出力する電磁波により試料がプラズマ処理される処理室と、
プラズマを生成するための第1の高周波電力を、整合器を介して前記電磁波発生器に供給する第1の高周波電源と、
前記試料が載置される試料台と、
第2の高周波電力を前記試料台に供給する第2の高周波電源と、
前記整合器を制御する制御装置と
を備え、
前記整合器は、前記第1の高周波電源と前記電磁波発生器との間でインピーダンス整合を行い、
前記制御装置は、
前記第1の高周波電力を複数の振幅値を有する周期パターンによって変調すると共に、当該周期パターンの内で前記複数の振幅値のいずれかを出力する期間ごとに、変調された前記第1の高周波電力の、出力値、デューティ比および平均電力値それぞれの所定値に対応して設けたモードのいずれかを選択し、選択した当該モードに基づいて前記整合器による前記インピーダンス整合を制御する
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
電磁波発生器が出力する電磁波により試料がプラズマ処理される処理室と、
プラズマを生成するための第1の高周波電力を前記電磁波発生器に供給する第1の高周波電源と、
前記試料が載置される試料台と、
整合器を介して第2の高周波電力を前記試料台に供給する第2の高周波電源と、
前記整合器を制御する制御装置と
を備え、
前記整合器は、前記第2の高周波電源と前記試料台との間でインピーダンス整合を行い、
前記制御装置は、
前記第2の高周波電力を複数の振幅値を有する周期パターンによって変調すると共に、当該周期パターンの内で前記複数の振幅値のいずれかを出力する期間ごとに、変調された前記第2の高周波電力の、出力値、デューティ比および平均電力値それぞれの所定値に対応して設けたモードのいずれかを選択し、選択した当該モードに基づいて前記整合器による前記インピーダンス整合を制御する
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
試料がプラズマ処理される処理室と、
プラズマを生成するための第1の高周波電力を、整合器を介して供給する第1の高周波電源と、
前記試料が載置される試料台と、
第2の高周波電力を前記試料台に供給する第2の高周波電源と、
複数の振幅値を有し周期的に繰り返す波形により前記第1の高周波電力が変調される場合、前記整合器により整合を行うための要件が規定されたモードに対応する期間に前記整合を行うように前記整合器を制御する制御装置と
を備え、
前記モードは、前記変調された前記第1の高周波電力の値を基に前記整合を行うための要件が規定された第1モードと、前記変調された前記第1の高周波電力のデューティ比を基に前記整合を行うための要件が規定された第2モードと、前記変調された前記第1の高周波電力と前記期間のデューティ比との積である平均高周波電力値を基に前記整合を行うための要件が規定された第3モードを具備し、
前記期間は、前記複数の振幅値のいずれかに対応する前記波形の各期間である
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
試料がプラズマ処理される処理室と、
プラズマを生成するための第1の高周波電力を供給する第1の高周波電源と、
前記試料が載置される試料台と、
整合器を介して第2の高周波電力を前記試料台に供給する第2の高周波電源と、
複数の振幅値を有し周期的に繰り返す波形により前記第2の高周波電力が変調される場合、前記整合器により整合を行うための要件が規定されたモードに対応する期間に前記整合を行うように前記整合器を制御する制御装置と
を備え、
前記モードは、前記変調された前記第2の高周波電力の値を基に前記整合を行うための要件が規定された第1モードと、前記変調された前記第2の高周波電力のデューティ比を基に前記整合を行うための要件が規定された第2モードと、前記変調された前記第2の高周波電力と前記期間のデューティ比との積である平均高周波電力値を基に前記整合を行うための要件が規定された第3モードを具備し、
前記期間は、前記複数の振幅値のいずれかに対応する前記波形の各期間である
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置において、
前記モードは、前記変調された前記第1または前記第2の高周波電力の値を基に前記インピーダンス整合を行うための要件が規定された第1モードを具備することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置において、
前記モードは、前記変調された前記第1または前記第2の高周波電力のデューティ比を基に前記インピーダンス整合を行うための要件が規定された第2モードを具備することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置において、
前記モードは、前記変調された前記第1または前記第2の高周波電力と前記期間のデューティ比との積である平均高周波電力値を基に前記インピーダンス整合を行うための要件が規定された第3モードをさらに具備することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項3、請求項4または請求項7のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置において、
前記第3モードは、前記第3モードに対応する期間候補が複数の場合、前記変調された前記第1または前記第2の高周波電力の値を基に要件が規定された第3Aモードと、前記デューティ比を基に要件が規定された第3Bモードをさらに具備することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項9】
複数の振幅値を有し周期的に繰り返す波形により変調され整合器を介して供給された高周波電力により生成されたプラズマを用いて試料を処理するプラズマ処理方法において、
前記整合器により整合を行うための要件が規定されたモードに対応する期間に前記整合を行い、
前記モードは、前記変調された高周波電力の値を基に前記整合を行うための要件が規定された第1モードと、前記変調された高周波電力のデューティ比を基に前記整合を行うための要件が規定された第2モードと、前記変調された高周波電力と前記期間のデューティ比との積である平均高周波電力値を基に前記整合を行うための要件が規定された第3モードを具備し、
前記期間は、前記複数の振幅値のいずれかに対応する前記波形の各期間であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項10】
複数の振幅値を有し周期的に繰り返す波形により変調された高周波電力を整合器を介して試料が載置された試料台に供給しながら前記試料をプラズマ処理するプラズマ処理方法において、
前記整合器により整合を行うための要件が規定されたモードに対応する期間に前記整合を行い、
前記モードは、前記変調された高周波電力の値を基に前記整合を行うための要件が規定された第1モードと、前記変調された高周波電力のデューティ比を基に前記整合を行うための要件が規定された第2モードと、前記変調された高周波電力と前記期間のデューティ比との積である平均高周波電力値を基に前記整合を行うための要件が規定された第3モードを具備し、
前記期間は、前記複数の振幅値のいずれかに対応する前記波形の各期間であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスの高微細化、高集積化に伴い、様々なプラズマ処理技術が提案されている。その一つとして、高周波電源の供給電力を5~2100Hzの周期でパルス状にON・OFFするプラズマエッチング処理が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「供給電力を高速周期でレベル変化させることによって、堆積膜をアモルファス化するプラズマエッチング処理」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマ処理においては、高周波電源の供給電力を、プラズマや試料などの負荷(以下「プラズマ負荷」という)に効率よく供給することが好ましい。そのためには、高周波電源とプラズマ負荷との間のインピーダンスをなるべく整合させる必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1のように、供給電力を高速周期で変化させるケース(例えば、70マイクロ秒~200ミリ秒の複数レベルの出力を5~2100Hzの周期で繰り返すケース)では、供給電力の高速変化に起因してプラズマ負荷のインピーダンスが高速変動することが問題になる。
【0007】
一般に、プラズマ処理装置における整合器のインピーダンス値は、機械式の制御により変更される。そのような場合、高速なインピーダンス変動に追従してインピーダンス整合を行うことは技術的に困難になるおそれがある。
【0008】
さらに、インピーダンスが十分に整合しない場合、プラズマ負荷から高周波電源に向かって電力波が反射する。この反射波電力の重畳によって高周波電源の出力レベルは変動する。この反射波電力が許容範囲を超えて外乱になると、高周波電源の出力レベルを所望値に安定させることが技術的に困難になるおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、プラズマ処理において、高周波電源とプラズマ負荷とのインピーダンス不整合の影響を軽減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の代表的なプラズマ処理装置の一つは、電磁波発生器が出力する電磁波により試料がプラズマ処理される処理室と、プラズマを生成するための第1の高周波電力を整合器を介して電磁波発生器に供給する第1の高周波電源と、試料が載置される試料台と、第2の高周波電力を試料台に供給する第2の高周波電源と、整合器を制御する制御装置とを備え、整合器は、第1の高周波電源と電磁波発生器との間でインピーダンス整合を行い、制御装置は、第1の高周波電力を複数の振幅値を有する周期パターンによって変調すると共に、当該周期パターンの内で複数の振幅値のいずれかを出力する期間ごとに、変調された第1の高周波電力の、出力値、デューティ比および平均電力値それぞれの所定値に対応して設けたモードのいずれかを選択し、選択した当該モードに基づいて整合器によるインピーダンス整合を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、プラズマ処理において、高周波電源とプラズマ負荷とのインピーダンス不整合の影響を軽減することが可能になる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、高周波電源の出力設定の一例を説明する図である。
【
図3】
図3は、整合器に設定可能な複数のモードについて説明する図である。
【
図4】
図4は、制御装置207によるモードの自動選択を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0015】
<実施例1の構成>
【0016】
図1は、実施例1のプラズマ処理装置として、ECR(Electron Cyclotron Resonance)方式のマイクロ波プラズマエッチング装置100の構成を示す図である。
【0017】
同図において、マイクロ波プラズマエッチング装置100は、処理室201、電磁波供給部202A、ガス供給装置202B、高周波電源203、整合器204、直流電源205、フィルタ206、および制御装置207を備える。
【0018】
処理室201は、所定の真空度を保つ真空容器208と、真空容器208内にエッチングガスを導入するためのシャワープレート209と、真空容器208を密閉するための誘電体窓210と、真空容器208の排気を行う排気用開閉バルブ211と、排気速度可変バルブ212と、排気速度可変バルブ212を介して排気を行う真空排気装置213と、処理室201の外側から磁場を形成する磁場発生コイル214と、シャワープレート209に対向する位置にウェハ300(試料)を載置するための試料載置用電極215とを備える。
【0019】
ガス供給装置202Bは、シャワープレート209を介して処理室201内にエッチングガスを供給する。
電磁波供給部202Aは、電磁波を誘電体窓210から処理室201内に照射する導波管221と、プラズマを生成するための第1の高周波電力を整合器222Bを介して電磁波発生器222Cに供給する高周波電源222A(第1の高周波電源)とを備える。制御装置207は、高周波電源222A,整合器222B,および電磁波発生器222Cを制御して、電磁波発生器222Cが出力する電磁波をパルス状に変調する。なお、実施例1では、例えば2.45GHzのマイクロ波の電磁波が使用される。
【0020】
導波管221を介して処理室201に照射される電磁波は、磁場発生コイル214の磁場に作用して、処理室201内のエッチングガスを電離する。この電離作用によって高密度のプラズマが生成される。
【0021】
ウェハ300を載置する試料台に設けられる試料載置用電極215は、電極表面が溶射膜で被覆されており、フィルタ206を介して直流電源205が接続される。
【0022】
さらに、試料載置用電極215には、整合器204を介して高周波電源203(第2の高周波電源)が接続される。この高周波電源203の基本周波数は、例えば400kHzである。整合器204は、高周波電源203と試料載置用電極215との間でインピーダンスを変更する。
【0023】
制御装置207は、予め設定されるエッチングパラメータに従って、高周波電源203の供給電力の出力レベルを制御する。この出力レベルの制御によって、高周波電源203は、供給電力の出力レベルを所定の周期パターンで切り替えて出力する。出力された供給電力は、整合器204および試料載置用電極215を介して、プラズマやウェハ300などのプラズマ負荷に作用する。
【0024】
さらに、制御装置207は、供給電力の周期パターンの設定に基づいて、整合器204のモード設定を切り替える。この供給電力の周期パターンと、整合器204のモード設定との関係については、後述する。
【0025】
このように試料載置用電極215に与えられた電力は、プラズマ状のエッチングガスとウェハ300に作用し、ウェハ300に対するドライエッチング処理を実施する。
【0026】
なお、シャワープレート209、試料載置用電極215、磁場発生コイル214、排気用開閉バルブ211、排気速度可変バルブ212およびウェハ300は処理室201の中心軸に対して軸対称に配置される。そのため、エッチングガスの流れやプラズマにより生成されたラジカルおよびイオン、さらにエッチングにより生成された反応生成物はウェハ300に対し同軸に導入され、同軸に排気される。この軸対称の流れはエッチングレート、エッチング形状のウェハ面内均一性を向上させる効果がある。
【0027】
<高周波電源203の出力設定について>
次に、上述した供給電力の周期パターンについて説明する。
図2は、高周波電源203の出力設定の一例を説明する図である。
【0028】
図2の上段[1]は、高周波電源203が出力する供給電力の周期パターンの一例を示す。この周期パターンでは、次の期間A~Eを周波数625Hz(繰り返し周期1600μ秒)で繰り返す。
・期間A:供給電力400Wを100μ秒の期間でプラズマ負荷に出力する。
・期間B:供給電力250Wを200μ秒の期間で出力する。
・期間C:供給電力30Wを400μ秒の期間で出力する。
・期間D:供給電力200Wを250μ秒の期間で出力する。
・期間E:650μ秒のオフ期間
この周期パターンでは、期間A~Eの内で、期間Aが供給電力の出力レベルの大きい期間になる。
【0029】
次に、
図2の中段[2]は、この周期パターンの1周期における期間A~Eそれぞれのデューティ比を次式(1)に基づいて計算した結果を示す。
デューティ比(%)=供給電力の出力時間(秒)÷繰り返し周期(秒)×100 (1)
この周期パターンでは、期間A~Eの内で、期間Cが供給電力のデューティ比の大きい期間になる。なお、期間Eについては、供給電力がオフのため、供給電力のデューティ比は算出されない。
【0030】
さらに、
図3の下段[3]は、1秒当たりの平均電力を次式(2)に基づいて計算した結果を示す。
平均電力(W)=供給電力の設定値(W)×出力時間(秒)×周波数(Hz) (2)
この周期パターンでは、期間A~Eの内で、期間Bと期間Dとにおいて平均電力は最大かつ略等しくなる。そのため、平均電力レベルが高い期間候補は、期間Bおよび期間Dになる。
【0031】
<整合器204のモード設定について>
続いて、整合器204のモード設定について説明する。
図3は、整合器204に設定可能な複数のモードについて説明する図である。
以下、
図3を参照して個々のモードについて順に説明する。
【0032】
(1)第1モード…変調された高周波電力の値を基にインピーダンス整合を行う期間を規定するモード。例えば、供給電力の出力レベルの大きい期間(例えば出力レベルが最大の期間)に合わせてインピーダンス整合を行うモード。
図3に示す第1モードでは、整合器204は、供給電力の出力レベルの大きい期間Aに合わせてインピーダンス整合を行う。それ以外の期間B~Dでは、インピーダンスは整合しないため、プラズマ負荷から高周波電源203に向かって反射波電力が発生する。しかしながら、供給電力の出力レベルの大きな期間Aにおいて大きな反射波電力が生じないため、反射波電力のピーク値は低く抑えられる。その作用により、第1モードは、インピーダンス不整合の影響を軽減する。
【0033】
(2)第2モード…変調された高周波電力のデューティ比を基にインピーダンス整合を行う期間を規定するモード。例えば、供給電力のデューティ比の大きな期間(例えば出力時間が最長の期間)に合わせてインピーダンス整合を行うモード。
図3に示す第2モードでは、整合器204は、供給電力のデューティ比の大きい期間Cに合わせてインピーダンス整合を行う。それ以外の期間A~B、Dでは、インピーダンスは整合しないため、プラズマ負荷から高周波電源203に向かって反射波電力が発生する。しかしながら、出力時間の長い期間Cにおいて反射波電力が生じないため、反射波電力の影響する時間は短く抑えられる。その作用により、第2モードは、インピーダンス不整合の影響を軽減する。
【0034】
(3)第3Aモード…変調された高周波電力と期間のデューティ比との積である平均高周波電力値を基にインピーダンス整合する期間を規定するモード。例えば、平均電力の出力レベルの大きな期間(例えば平均出力レベルが最大の期間)に合わせてインピーダンス整合を行うモード。
ただし、平均電力の出力レベルの大きな期間候補が複数存在する場合は、期間候補の内で、供給電力の出力レベルの大きな期間に合わせてインピーダンス整合を行う。
図3に示す第3Aモードでは、整合器204は、平均電力の出力レベルの大きい期間B、Dの内で、供給電力の出力レベルの大きな期間Bに合わせてインピーダンス整合を行う。それ以外の期間A、C~Dでは、インピーダンスは整合しないため、プラズマ負荷から高周波電源203に向かって反射波電力が発生する。
しかしながら、平均電力の出力レベルが大きく、かつ供給電力の出力レベルが大きな期間Bにおいて大きな反射波電力が生じない。そのため、反射波電力の平均電力やピーク値は低く抑えられる。その作用により、第3Aモードは、インピーダンス不整合の影響を軽減する。
【0035】
(4)第3Bモード…変調された高周波電力と期間のデューティ比との積である平均高周波電力値を基にインピーダンス整合する期間を規定するモード。例えば、平均電力の出力レベルの大きな期間(例えば平均出力レベルが最大の期間)に合わせてインピーダンス整合を行うモード。
ただし、平均電力の出力レベルの大きな期間候補が複数存在する場合は、期間候補の内で、供給電力のデューティ比の大きな期間に合わせてインピーダンス整合を行う。
図3に示す第3Bモードでは、整合器204は、平均電力の出力レベルの大きい期間B、Dの内で、供給電力のデューティ比のより大きな期間Dに合わせてインピーダンス整合を行う。それ以外の期間A~Cでは、インピーダンスは整合しないため、プラズマ負荷から高周波電源203に向かって反射波電力が発生する。
しかしながら、平均電力の出力レベルが大きく、かつ供給電力のデューティ比が大きな期間Dにおいて大きな反射波電力が生じない。そのため、反射波電力の平均電力や影響する時間は低く抑えられる。その作用により、第3Bモードは、インピーダンス不整合の影響を軽減する。
【0036】
(5)第3モード…なお、平均電力の出力レベルの大きな期間候補が一つのみ存在する場合、第3Aモードおよび第3Bモードにおいて整合する期間は等しくなる。この場合、第3Aモードと第3Bモードとに動作上の差異はないため、どちらも第3モードとして扱うことができる。
すなわち、第3モードは、変調された高周波電力と期間のデューティ比との積である平均高周波電力値を基にインピーダンス整合する期間を規定するモード。例えば、平均電力の出力レベルの大きな期間(例えば平均出力レベルが最大の期間)に合わせてインピーダンス整合を行うモードである。
そのため、反射波電力の平均電力や影響する時間は低く抑えられる。その作用により、第3モードは、インピーダンス不整合の影響を軽減する。
【0037】
<制御装置207の動作について>
次に、制御装置207の動作について説明する。
図4は、制御装置207によるモードの自動選択を説明するフローチャートである。
ここでは、同図に示すステップ番号の順に説明する。
【0038】
ステップS01: 制御装置207は、マイクロ波プラズマエッチング装置100に設定されるエッチングパラメータを取得する。このエッチングパラメータに従って、制御装置207は、高周波電源203に出力設定する供給電力の周期パターン(例えば
図2参照)を決定する。
【0039】
ステップS02: 高周波電源203とプラズマ負荷との間でインピーダンスが不整合になると、高周波電源203からプラズマ負荷に供給される供給電力(瞬時的には進行波電力)に対して、プラズマ負荷から高周波電源203に戻る反射波電力が生じる。このとき、進行波電力と反射波電力が干渉して、最大2倍の電力ピークが発生する。
【0040】
そこで、制御装置207は、周期パターンの期間ごとの供給電力について、供給電力の2倍値が保護電力値(絶対定格)を超えるか否かを判定する。保護電力値を超える「供給電力の2倍値」が存在する場合、制御装置207はステップS03に動作を移行する。それ以外の場合、制御装置207はステップS05に動作を移行する。
ステップS03: 制御装置207は、「供給電力の2倍値」が保護電力値を超える期間が1つだけか否かを判定する。
【0041】
「超える期間」が1つであれば、制御装置207は、第1モードを選択する。第1モードであれば、供給電力の出力レベルが最大になる「超える期間」に合わせてインピーダンス整合が行われる。そのため、「超える期間」の反射波電力は抑制され、保護電力値を超える電力ピークは発生しない。また、「超える期間」の大きな反射波電力が抑制されるため、周期パターン全体を通して、高周波電源とプラズマ負荷との間のインピーダンス不整合の影響は軽減される。
【0042】
一方、「超える期間」が2つ以上の設定の場合、制御装置207はステップS04に動作を移行する。
【0043】
ステップS04: ここでは、「超える期間」が2つ以上である。この場合、「超える期間」の1つにおいてインピーダンス整合をとることは可能である。しかしながら、残りの「超える期間」においてはインピーダンスが不整合になるため、保護電力値を超える電力ピークが万一にも発生するおそれがある。そこで、制御装置207は、現在のエッチングパラメータが入力不可であることを工場の管理システムに通知する。その後、制御装置207は、ステップS01に動作を戻し、エッチングパラメータが再設定されるまで待機する。
【0044】
ステップS05: 次に、制御装置207は、周期パターンにおける供給電力の最大値が第1閾値th1を超えるか否かを判定する。ここでの第1閾値th1は、供給電力の最大値が周期パターン内において突出して大きいか否かを判定するための閾値であり、例えば100Wに設定される。
【0045】
ここで、供給電力の最大値が第1閾値th1を超えない場合、制御装置207はステップS06に動作を移行する。
【0046】
一方、供給電力の最大値が第1閾値th1を超える場合、制御装置207は、第1モードを選択する。第1モードであれば、供給電力の最大値が第1閾値th1を超える期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。そのため、この期間の大きな反射波電力が抑制される。その結果、周期パターン全体を通して、高周波電源とプラズマ負荷とのインピーダンス不整合の影響が軽減される。
【0047】
ステップS06: 続いて、制御装置207は、周期パターンの期間ごとの平均電力について、第2閾値th2を超えるか否かを判定する。ここでの第2閾値th2は、期間の平均電力が周期パターン全体において突出して大きいか否かを判定するための閾値であり、例えば60Wに設定される。
【0048】
ここで、平均電力が第2閾値th2を超える期間が存在する場合、制御装置207はステップS07に動作を移行する。
【0049】
一方、平均電力が第2閾値th2を超える期間が存在しない場合、周期パターン全体において平均電力の変化はなだらかであることが見込まれる。そこで、制御装置207は、第2モードを選択する。第2モードであれば、供給電力のデューティ比の大きな期間に合わせてインピーダンス整合が行われ、出力時間の長い期間において反射波電力が抑制される。そのため、平均電力の変化がなだらかな周期パターンにおいて、高周波電源とプラズマ負荷とのインピーダンス不整合の影響が軽減される。
ステップS07: 次に、制御装置207は、第2閾値th2を超える平均電力の値が1つだけか否かを判定する。
【0050】
第2閾値th2を超える平均電力の値が2つ以上の場合、制御装置207はステップS08に動作を移行する。
【0051】
一方、第2閾値th2を超える平均電力の値が1つであれば、制御装置207は、第3Aモードを選択する。第3Aモードでは、「第2閾値th2を超える平均電力」の期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。なお、「第2閾値th2を超える平均電力」の期間が複数存在する場合、これらの期間の内で供給電力の出力レベルのより大きな期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。
【0052】
この場合、平均電力が大きくかつ供給電力の出力レベルのより大きな期間において反射波電力が抑制される。そのため、平均電力が部分的に高くなる周期パターンにおいて、高周波電源とプラズマ負荷とのインピーダンス不整合の影響が軽減される。
【0053】
ステップS08: 制御装置207は、「第2閾値th2を超える平均電力」の期間が周期パターンに占めるデューティ比を算出する。制御装置207は、算出したデューティ比が第3閾値th3を超えるか否かを判定する。
【0054】
この第3閾値th3は、平均電力の高い期間の出力時間が長いか短いかを判定するための閾値であり、例えば31.25%(出力時間500μ秒)に設定される。
【0055】
ここで、平均電力の高い期間のデューティ比が第3閾値th3を超えた場合、制御装置207は第3Bモードを選択する。第3Bモードでは、「第2閾値th2を超える平均電力」の期間の内で、デューティ比の大きな期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。
【0056】
この場合、平均電力が大きくかつデューティ比の大きな期間(出力時間の長い期間)において反射波電力が抑制される。そのため、平均電力が継続的に高くなる周期パターンにおいて、高周波電源とプラズマ負荷とのインピーダンス不整合の影響が軽減される。
【0057】
一方、平均電力の高い期間のデューティ比が第3閾値th3を超えない場合、制御装置207は第3Aモードを選択する。この場合、平均電力が部分的に高くなる周期パターンにおいて、高周波電源とプラズマ負荷とのインピーダンス不整合の影響が軽減される。
【0058】
以上の一連の動作により、制御装置207は、高周波電源203に設定する周期パターンに応じて、整合器204のモードを適切に選択することが可能になる。
【0059】
<実施例1の効果など>
実施例1は、次のような効果を奏する。
【0060】
(1)実施例1では、第1モードを選択することにより、供給電力の出力レベルが大きい期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。その場合、供給電力の出力レベルが大きい期間に発生する反射波電力を抑制することが可能になる。
【0061】
(2)通常、プラズマ処理では、供給電力の出力レベルが大きい期間ほど、イオンやラジカルなどに与えるエネルギーが大きく、プラズマ処理に大きく寄与する。第1モードは、この期間に合わせてインピーダンス整合を行う。そのため、インピーダンスの不整合に起因するプラズマのエネルギー損失を低減して、プラズマ処理の処理効率を一段と高めることが可能になる。
【0062】
(3)実施例1では、第2モードを選択することにより、供給電力のデューティ比が大きい期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。その場合、供給電力のデューティ比が大きい期間に発生する反射波電力を抑制することが可能になる。
【0063】
(4)通常、プラズマ処理では、供給電力のデューティ比が大きい期間ほど、イオンやラジカルなどに継続的に与えるエネルギーが大きく、プラズマ処理に大きく寄与する。第2モードは、この期間に合わせてインピーダンス整合を行う。そのため、インピーダンスの不整合に起因するプラズマのエネルギーの損失を低減して、プラズマ処理の処理効率を一段と高めることが可能になる。
【0064】
(5)実施例1では、第3モード(第3Aモード,第3Bモード)を選択することにより、平均電力の出力レベルが大きい期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。したがって、この第3モードでは、平均電力の出力レベルが大きい期間に発生する反射波電力を抑制することが可能になる。
【0065】
(6)通常、プラズマ処理では、平均電力の出力レベルが大きい期間ほど、イオンやラジカルなどに与える平均的なエネルギーが大きく、プラズマ処理に大きく寄与する。第3モード(第3Aモード,第3Bモード)は、この期間に合わせてインピーダンス整合を行う。そのため、インピーダンスの不整合に起因するプラズマのエネルギー損失を低減して、プラズマ処理の処理効率を一段と高めることが可能になる。
【0066】
(7)実施例1では、第3Aモードを選択することにより、平均電力の出力レベルが大きく、かつ供給電力の出力レベルが大きい期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。したがって、この第3Aモードでは、平均電力と供給電力のいずれも大きい期間に発生する反射波電力を抑制することが可能になる。
【0067】
(8)実施例1では、第3Bモードを選択することにより、平均電力の出力レベルが大きく、かつ供給電力のデューティ比が大きい期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。したがって、この第3Bモードでは、平均電力とデューティ比のいずれも大きい期間に発生する反射波電力を抑制することが可能になる。
【0068】
(9)上述のように、実施例1では、モード選択によってインピーダンス整合を行う期間を変更することが可能になる。その結果、インピーダンス不整合の影響を効果的に軽減するモードを選択することが可能になる。
【0069】
(10)実施例1では、供給電力が第1閾値th1を超える期間が存在するか否かを判定し、「存在する」と判定された場合に第1モードを自動的に選択する。この場合、供給電力が第1閾値th1を超える期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。したがって、供給電力が第1閾値th1を超える期間に発生する反射波電力を自動的に抑制することが可能になる。
【0070】
(11)実施例1では、平均電力が第2閾値th2を超える期間が存在するか否かを判定し、「存在しない」と判定された場合に第2モードを自動的に選択する。この場合、全ての期間の平均電力が第2閾値th2を超えない状況において、供給電力のデューティ比が大きい期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。したがって、このような期間に発生する反射波電力を自動的に抑制することが可能になる。
【0071】
(12)実施例1では、平均電力が第2閾値を超える期間が存在するか否かを判定し、「存在する」と判定された場合に第3モード(第3Aモード,第3Bモード)を自動的に選択する。この場合、平均電力が第2閾値を超える期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。したがって、このような期間に発生する反射波電力を自動的に抑制することが可能になる。
【0072】
(13)実施例1では、第2閾値を超える平均電力の値がいくつ存在するかを判定し、「1種類のみ存在する」と判定された場合に第3Aモードを自動的に選択する。この場合、平均電力が第2閾値より大きく、かつ供給電力の出力レベルが大きい期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。したがって、このような期間に発生する反射波電力を自動的に抑制することが可能になる。
【0073】
(14)実施例1では、第2閾値を超える平均電力の値が複数存在し、かつ当該期間のデューティ比が第3閾値を超えないと判定した場合に、第3Aモードを自動的に選択する。この場合は、平均電力が第2閾値より大きく、かつ供給電力の出力レベルが大きい期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。したがって、このような期間に発生する反射波電力を自動的に抑制することが可能になる。
【0074】
(15)実施例1では、第2閾値を超える平均電力の値が複数存在し、かつ当該期間のデューティ比が第3閾値を超えると判定した場合に、第3Bモードを自動的に選択する。この場合は、平均電力が第2閾値より大きく、かつ供給電力のデューティ比が大きい期間に合わせてインピーダンス整合が行われる。したがって、このような期間に発生する反射波電力を自動的に抑制することが可能になる。
次に、実施例2について更に説明する。
【実施例2】
【0075】
<実施例2の構成>
実施例2のプラズマ処理装置である、ECR(Electron Cyclotron Resonance)方式のマイクロ波プラズマエッチング装置は、実施例1のマイクロ波プラズマエッチング装置100(
図1参照)と同じ構成である。そこで、実施例2の構成については、実施例1の構成説明および
図1を参照することとし、ここでの重複説明を省略する。
【0076】
<実施例2の動作に関する説明>
実施例2では、制御装置207が、高周波電源222Aと電磁波発生器222Cとの間の整合器222Bを用いて、インピーダンス整合を行う期間を制御する。
すなわち、制御装置207は、電磁波発生器(高周波電力)の変調に応じて、第1モード、第2モード、または第3モード(第3Aモード,第3Bモード)のいずれかによって規定される期間において、整合器222Bのインピーダンス整合を実施する。
なお、実施例2の具体的動作の流れは、インピーダンス整合の動作対象が、実施例1の『(第2の)高周波電源203、整合器204、および試料載置用電極215』から『(第1の)高周波電源222A、整合器222B、および電磁波発生器222C』に置き換わる点を除けば、実施例1の具体的動作の流れと同様である。
そこで説明を簡単にするため、実施例2の動作に関する説明としては、実施例1の動作に関する説明について動作対象の変更とそれに伴う必要な読み替えを行うこととし、ここでの重複説明を省略する。なお、閾値などの動作パラメータの具体的数値については、実験やシミュレーション演算によって設計可能である。
【0077】
<実施例2の効果など>
実施例2は、第1の高周波電源222Aについて、実施例1の上記効果(1)~(15)と同様の効果を得ることが可能になる。
【0078】
<実施形態の補足事項など>
なお、実施例1,2では、第1閾値th1、第2閾値th2、第3閾値th3、およびその他のパラメータについて説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。第1閾値th1、第2閾値th2、第3閾値th3、およびその他のパラメータは、プラズマ処理におけるガスや圧力などの条件に応じて、実験やシミュレーション演算などに基づいて最適値を設定すればよい。
【0079】
また、実施例1,2では、プラズマ処理の一つとして、エッチング処理を行うケースについて説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。本発明は、プラズマ処理において、変動する高周波電源とプラズマ負荷とのインピーダンス不整合の影響を軽減する用途に適用することが可能である。
【0080】
さらに、実施例1,2では、高周波電源の出力レベルが0W(オフ期間)については、いずれのモードにおいてもインピーダンス整合は行われない。そこで、このようなオフ期間については、インピーダンス整合を行う期間から事前に排除してもよい。
【0081】
また、実施例1,2を独立した実施例として説明した。しかしながら、実施例1と実施例2を同時に実施してもよい。
【0082】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。実施例1,2の全部または一部を適宜に組み合わせてもよい。また、実施例1,2の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0083】
100…マイクロ波プラズマエッチング装置、201…処理室、
202A…電磁波供給部、202B…ガス供給装置、203…第2の高周波電源、
204…整合器、205…直流電源、206…フィルタ、207…制御装置、
208…真空容器、209…シャワープレート、210…誘電体窓、
211…排気用開閉バルブ、212…排気速度可変バルブ、213…真空排気装置、
214…磁場発生コイル、215…試料載置用電極(試料台)、221…導波管、
222A…第1の高周波電源、222B…整合器、222C…電磁波発生器、
300…ウェハ