IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

<>
  • 特許-フィルムロール及びその製造方法 図1
  • 特許-フィルムロール及びその製造方法 図2
  • 特許-フィルムロール及びその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】フィルムロール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230515BHJP
   B26D 1/14 20060101ALI20230515BHJP
   B26D 3/00 20060101ALI20230515BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
B26D1/14 B
B26D3/00 601B
G02B5/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020506497
(86)(22)【出願日】2019-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2019009582
(87)【国際公開番号】W WO2019176827
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2018044800
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝野 良治
(72)【発明者】
【氏名】風藤 修
(72)【発明者】
【氏名】油井 太我
(72)【発明者】
【氏名】松田 一彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 友
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/182010(WO,A1)
【文献】特開2015-033727(JP,A)
【文献】特開2005-306981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02、5/12-5/22、
G02B5/30、B26D1/14、B26D3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールフィルムが巻き取られてなるフィルムロールであって;
前記ポリビニルアルコールフィルムの長さが7,500~20,000mであり、
前記ポリビニルアルコールフィルムは、該フィルムの長さ方向に沿った2つの端部の少なくとも一方が切断刃によって切断されることによって形成された切断端部を有し、
前記切断端部における切断面の展開面積比(Sdr)が下記式(1)を満たすとともに、
前記ポリビニルアルコールフィルムの巻き始め部分における前記切断面の展開面積比Sdr(s)と前記ポリビニルアルコールフィルムの巻き終わり部分における前記切断面の展開面積Sdr(e)とが下記式(2)を満たすことを特徴とするフィルムロール。
Sdr≦0.085 (1)
0.10≦Sdr(s)/Sdr(e)≦1.00 (2)
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールフィルムを構成するポリビニルアルコールのけん化度が95~99.9モル%であり、粘度平均重合度が1,000~8,000である請求項1に記載のフィルムロール。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さが15~100μmである請求項1又は2に記載のフィルムロール。
【請求項4】
前記フィルムロールから巻き出された前記ポリビニルアルコールフィルムを延伸倍率5~7倍で延伸したときの前記ポリビニルアルコールフィルムの破断回数が、当該ポリビニルアルコールフィルム2000mあたり1回以下である請求項1~3のいずれかに記載のフィルムロール。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のフィルムロールの製造方法であって;
前記ポリビニルアルコールフィルムを巻き取りながら、該ポリビニルアルコールフィルムの長さ方向に沿った2つの端部の少なくとも一方を、下記の構成を満足する切断刃を用いて切断するフィルムロールの製造方法。
(a)ビッカース硬さ690以上1000以下の金属からなる丸刃である
(b)刃先の角度が21~26°である
(c)刃部分における非テーパー状基部の肉厚が0.05~1mmである
(d)丸刃の直径が40~60mmである
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコールフィルムが巻き取られてなるフィルムロールに関する。また本発明は、上記フィルムロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光の透過および遮蔽機能を有する偏光板は、光のスイッチング機能を有する液晶とともに、液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。このLCDの適用分野も開発初期の頃の電卓および腕時計などの小型機器から、近年では、ラップトップパソコン、液晶カラープロジェクター、車載用ナビゲーションシステム、液晶テレビ、スマートフォンおよび屋内外の計測機器などの広範囲の分野に拡大しており、かかる点から、より高品質でしかも低価格の偏光板が求められている。
【0003】
偏光板は、一般に、ポリビニルアルコールフィルム(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」、ポリビニルアルコールフィルムを「PVAフィルム」と略記することがある)を染色後に一軸延伸するか、染色しながら一軸延伸するか又は一軸延伸した後に染色して染色された一軸延伸フィルムをつくり、それをホウ素化合物で固定処理する方法や、前記の一軸延伸・染色処理の際に染色と同時にホウ素化合物で固定処理を行う方法などによって偏光フィルムを製造した後、その偏光フィルムの表面に三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルムなどの保護膜を貼り合わせることによって製造される。
【0004】
偏光板の製造に当っては、生産コストの低減などのために、長尺なPVAフィルムをロール状に巻いた原反フィルムを使用して、一軸延伸、染色、固定、保護膜の貼り合わせなどの工程を連続的に行う方法が広く採用されている。PVAフィルムでは、製膜後のPVAフィルムの幅方向の両端部は、中央部と厚みが異なっていたり、乾燥の程度が異なっていて、幅方向の両端部を残したままで一軸延伸すると安定した延伸が困難なことから、フィルムの幅方向の両端部を切断除去してからロール状に巻き取って偏光板メーカーなどの需要先に供給することが一般に行われている。
【0005】
特許文献1には、刃物を用いて、延伸加工前に予めビニルアルコール系重合体フィルムの幅方向の両端部を除去するように切断する方法であって、該切断に供されるビニルアルコール系重合体フィルムの温度が10℃乃至70℃で、揮発分が0.1%乃至10%である延伸加工用ビニルアルコール系重合体フィルムの切断方法が記載されている。この方法によれば、延伸加工時にフィルムの幅方向の両端部からの破断が少なく、均一な延伸が容易で、寒冷紗や偏光フィルムの製造原料として有用なPVAフィルムを得られるとされている。
【0006】
特許文献2には、フィルムの長さ方向に沿った2つの端部の少なくとも一方が切断刃によって形成した切断端部である長尺のポリビニルアルコール系重合体フィルムであって、前記切断端部の切断端面の表面粗さの度合いが、フィルムの全長にわたって、最大高さ(Ry)が50μm以下であるポリビニルアルコール系重合体フィルムが記載されている。このポリビニルアルコール系重合体フィルムは、フィルムの長さが3000m以上というような極めて長い場合であっても、フィルムの全長にわたって粗面化の度合いが極めて低く、滑らかな切断端面を有している。そのため、本発明のポリビニルアルコール系重合体フィルムを偏光フィルム等の製造目的で長さ方向に高延伸倍率で延伸した際に、長さ方向に沿った切断端部での亀裂の発生や、亀裂を起点とするフィルムの破断などを生ずることなく、延伸工程を連続的に生産性よく行うことができるとされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、3,000m以上の長尺のPVAフィルムが巻き取られてなるフィルムロールを製造した場合に、延伸加工時にフィルムの破断が多数発生することがあり改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-144418号公報
【文献】特開2005-306981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、3,000m以上の長尺のPVAフィルムが巻き取られてなるフィルムロールを製造した場合に、延伸加工時に発生するフィルムの破断を防止することのできるフィルムロールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、ポリビニルアルコールフィルムが巻き取られてなるフィルムロールであって;前記ポリビニルアルコールフィルムの長さが3,000~20,000mであり、前記ポリビニルアルコールフィルムは、該フィルムの長さ方向に沿った2つの端部の少なくとも一方が切断刃によって切断されることによって形成された切断端部を有し、前記切断端部における切断面の展開面積比(Sdr)が下記式(1)を満たすとともに、前記ポリビニルアルコールフィルムの巻き始め部分における前記切断面の展開面積比Sdr(s)と前記ポリビニルアルコールフィルムの巻き終わり部分における前記切断面の展開面積Sdr(e)とが下記式(2)を満たすことを特徴とするフィルムロールを提供することによって解決される。
【0011】
Sdr≦0.085 (1)
0.10≦Sdr(s)/Sdr(e)≦1.00 (2)
【0012】
このとき、前記ポリビニルアルコールフィルムを構成するポリビニルアルコールのけん化度が95~99.9モル%であり、粘度平均重合度が1,000~8,000であることが好ましい。また、前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さが15~100μmであることが好ましい。
【0013】
前記フィルムロールから巻き出された前記ポリビニルアルコールフィルムを延伸倍率5~7倍で延伸したときの前記ポリビニルアルコールフィルムの破断回数が、当該ポリビニルアルコールフィルム2000mあたり1回以下であることが好ましい。
【0014】
上記課題は、上記フィルムロールの製造方法であって;前記ポリビニルアルコールフィルムを巻き取りながら、該ポリビニルアルコールフィルムの長さ方向に沿った2つの端部の少なくとも一方を、下記の構成を満足する切断刃を用いて切断するフィルムロールの製造方法を提供することによっても解決される。
【0015】
(a)ビッカース硬さ690以上1850以下の金属からなる丸刃である
(b)刃先の角度が21~26°である
(c)刃部分における非テーパー状基部の肉厚が0.05~1mmである
(d)丸刃の直径が40~60mmである
【発明の効果】
【0016】
本発明のフィルムロールは、長さが3,000m以上の長尺のPVAフィルムが巻き取られてなるものであるが、このように長いPVAフィルムであってもフィルムロールの巻き取り始め部分と巻き終わり部分の両方において、切断端部における切断面の展開面積比(Sdr)が一定以下であるとともに、巻き始め部分における切断面の展開面積比Sdr(s)と巻き終わり部分における切断面の展開面積比Sdr(e)との比が一定範囲にある。したがって、延伸加工時においてフィルムの破断の発生を防止できるフィルムロールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】PVAフィルムロールの製造方法の一例を示す図である。
図2】丸刃を横から見た模式図である。
図3】丸刃における研磨部分の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(PVAフィルムロール)
本発明はPVAフィルムが巻き取られてなるフィルムロールに関する。本発明におけるPVAフィルムは、該フィルムの長さ方向に沿った2つの端部の少なくとも一方が切断刃によって切断されることによって形成された切断端部を有する。
【0019】
本発明においては、切断端部における切断面の展開面積比(Sdr)が下記式(1)を満たすとともに、PVAフィルムの巻き始め部分における切断面の展開面積比Sdr(s)と巻き終わり部分における切断面の展開面積Sdr(e)とが下記式(2)を満たすことが重要である。
【0020】
Sdr≦0.085 (1)
0.10≦Sdr(s)/Sdr(e)≦1.00 (2)
【0021】
切断面の展開面積比が上記式(1)及び(2)を満たすフィルムロールを製造した場合、長さが3,000m以上であっても延伸加工時にフィルムが破断することを防止することができる。
【0022】
本発明のフィルムロールの製造方法は特に限定されないが、好適な製造方法は、PVAフィルムを巻き取りながら、該PVAフィルムの長さ方向に沿った2つの端部の少なくとも一方を、切断刃を用いて切断する製造方法である。ここで図1を用いて、PVAフィルムロールの製造方法の一例を説明する。
【0023】
図1は、PVAフィルムロールの製造方法の一例を示した図である。説明を簡単にするため、図1では、PVAフィルムの長さ方向に沿った2つの端部のうちの一方が、切断刃によって切断される態様を示した。
【0024】
まず、巻き取りロール(図示せず)にPVAフィルムをセットするとともに、切断刃(図示せず)をセットする。そして、巻き取りロールを回転させてPVAフィルムの巻き取りを開始するとともに、切断刃によってPVAフィルムの長さ方向端部の切断を開始する(図1における「巻き始め部分」)。そして、PVAフィルムの長さ方向端部が切断され端部フィルムとして取り除かれながら、PVAフィルムが巻き取られる。
【0025】
このとき、「巻き始め部分」から所定の範囲において、検査用フィルムが採取される。具体的には、図1に示すように、端部フィルムが取り除かれた後、所定範囲において検査用フィルムが採取される。以下このフィルムを「検査用フィルム(巻き始め)」と称す。そして、検査用フィルムが採取された後は、端部フィルムが取り除かれたPVAフィルムが製品フィルム部分として巻き取られる。製品フィルム部分を巻き取った後、図1に示すように、所定範囲において検査用フィルムが再び採取される。以下このサンプルを「検査用フィルム(巻き終わり)」と称す。
【0026】
その後、PVAフィルムの巻き取りを終了するとともにPVAフィルムの切断を終了する(図1における「巻き終わり部分」)。このようにしてPVAフィルムロールが製造される。
【0027】
そしてこのとき採取された検査用フィルムは、PVAフィルムロールの品質を管理するための各種測定に供される。本実施形態では、採取された検査用フィルムを用いて、切断刃による切断面の展開面積比(Sdr;以下、単にSdrと略記することがある)を測定することにより、上記式(1)及び(2)の値を得る。
【0028】
上記の製造例では、PVAフィルムの巻き取りを終了するとともに切断を終了する例を示したが、この製造例に限られず、PVAフィルムの巻き取りを終了せずに、図1の「巻き終わり部分」で新しい切断刃に交換して、連続的にPVAフィルムロールを製造することもできる。
【0029】
また、上記の製造例では、PVAフィルムを巻き取りながら検査用フィルムを採取する例を示したが、この採取方法に限られず、PVAフィルムロールを製造した後、このロールからフィルムを繰り出して、検査用フィルムを採取することも可能である。
【0030】
本発明において、切断刃によって切断されることによって形成された切断端部における切断面の展開面積比(Sdr)が下記式(1)を満たすことが重要である。ここで、展開面積比(Sdr)とは、基準となる定義領域の表面積に対して、前記定義領域の表面積(展開面積)がどれだけ増大しているかを表すものである。
【0031】
Sdr≦0.085 (1)
Sdrは、ISO 25178に準じた方法により測定した値である。
【0032】
Sdrが0.085を超えると、延伸加工時に破断頻度が高くなり延伸フィルムの製造安定性に劣る。また、延伸倍率を高くすることもできず、光学特性に劣ることがある。Sdrは、0.084以下であることが好ましい。
【0033】
本発明においては、前記PVAフィルムの「巻き始め部分」における前記切断面の展開面積比Sdr(s)と前記PVAフィルムの「巻き終わり部分」における前記切断面の展開面積Sdr(e)とが下記式(2)を満たすことも重要である。ここで、Sdr(s)は、「検査用フィルム(巻き始め)」のSdrを測定することにより得ることができ、Sdr(e)は、「検査用フィルム(巻き終わり)」のSdrを測定することにより得ることができる。
【0034】
0.10≦Sdr(s)/Sdr(e)≦1.00 (2)
Sdr(s)及びSdr(e)は、ISO 25178に準じた方法により測定した値である。
【0035】
上記式(2)において、「巻き始め部分」と「巻き終わり部分」とでSdrの値が変化しなければ上記式(2)の値は1となる。一方、「巻き始め部分」に対して「巻き終わり部分」におけるSdrの値の変化が大きいほど上記式(2)の値は小さくなる。
【0036】
Sdr(s)/Sdr(e)が0.10未満の場合、延伸加工時にPVAフィルムが破断する。Sdr(s)/Sdr(e)は、0.12以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましい。
【0037】
このように、上記式(1)及び(2)を満たすフィルムロールを製造した場合、長さが3,000m以上であっても延伸加工時にフィルムが破断することを防ぐことができる。ここで、上記式(1)においてSdrの値が大きくなる理由の1つとして、切れ味の悪い切断刃を用いてPVAフィルムを切断した場合が挙げられる。また、上記式(2)において、「巻き始め部分」と「巻き終わり部分」とで展開面積が変化する理由の1つして、耐久性の不十分な切断刃を用いてPVAフィルムを切断した場合が挙げられる。上記式(1)及び(2)を満たすPVAフィルムロールを得るためには、切断刃の硬さや刃先の角度などを考慮しながら、適切な切断刃を選択する必要がある。上記式(1)及び(2)を満たすPVAフィルムロールを得る観点から、後述する構成(a)~(d)を満足する切断刃を用いることが好ましい。
【0038】
本発明におけるPVAフィルムの長さは3,000~20,000mである。PVAフィルムの長さが3,000m未満の場合、PVAフィルムロールの生産効率が低下する。PVAフィルムの長さは、5,000m以上であることが好ましく、7,500m以上であることがより好ましく、10,000m以上であることがさらに好ましい。一方、PVAフィルムの長さが20,000mを超える場合、フィルムロールの重量や、ロール径が大きくなるなどしてハンドリング性が低下し保管や輸送が困難になる。PVAフィルムの長さは、18,000m以下であることが好ましく、16,000m以下であることがより好ましく、14,000m以下であることがさらに好ましい。
【0039】
PVAフィルムの厚さは特に限定されず、15~100μmであることが好ましい。PVAフィルムの厚さが15μm未満であると、延伸加工時に破断するおそれがある。PVAフィルの厚さは20μm以上であることがより好ましい。一方、PVAフィルムの厚みが100μmを超えると、フィルムの切断中に切断刃が欠けるおそれがある。PVAフィルムの厚さは80μm以下であることがより好ましい。
【0040】
PVAフィルムの幅は特に限定されず、100mm以上であることが好ましい。一方、PVAフィルムの幅の上限は特に限定されないが、幅があまりに広すぎると、実用化されている装置で偏光フィルムを製造する場合などにおいて、均一に延伸することが困難になるおそれがある。PVAフィルムの幅は10,000mm以下であることが好ましい。ここでPVAフィルムの幅とは、図1で説明すると、端部フィルムが切断された後の、製品PVAフィルムの幅のことをいう。
【0041】
本発明において、前記切断面の算術平均粗さ(Ra)が、0.190μm以上であることが好ましい。また、前記切断面の最大高さ(Ry)が、1.100μm以上であることも好ましい。Ra及びRyの値は、切断面の表面粗さの度合いを示すものであるため、これらの値が高い場合、一般的には、延伸加工時にフィルムの破断が発生しやすくなる。しかしながら、本発明のフィルムロールにおいては、Ra又はRyが上記の値以上であったとしても、上記式(1)及び(2)を満たすことにより延伸加工時にフィルムが破断することを防ぐことができる。
【0042】
本発明において、前記フィルムロールから巻き出された前記PVAフィルムを延伸倍率5~7倍で延伸したときの前記PVAフィルムの破断回数が、当該PVAフィルム2000mあたり1回以下であることが好ましい。例えば、10,000mのPVAフィルムを延伸したときの破断回数が5回であれば、破断回数はPVAフィルム2000mあたり1回となる。延伸を連続的に効率性よく行う観点から、上記破断回数が実質的に0回であることがより好ましい。
【0043】
PVAフィルムを構成するPVAとしては、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。ビニルエステルの重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合などのいずれの方式でもよく、重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を適用することができる。ビニルエステルを重合反応に供する際に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択することができる。
【0044】
上記のビニルエステル系重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステル系モノマーのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステル系モノマーのみを用いて得られたものがより好ましいが、1種または2種以上のビニルエステル系モノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0045】
このようなビニルエステル系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。上記のビニルエステル系重合体は、これらの他のモノマーのうちの1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0046】
上記のビニルエステル系重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合に特に制限はないが、ビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0047】
本発明において、PVAフィルムを構成するPVAのけん化度が95~99.9モル%であることが好ましい。けん化度は99モル%以上であることがより好ましく、99.3モル%以上であることがさらに好ましく、99.8モル%以上であることが特に好ましい。一方、99.99モル%を超えるPVAは製造が困難である。けん化度はJIS K6726(1994)に準じて測定して得られる値である。
【0048】
PVAの粘度平均重合度(以下、「重合度」と略記することがある)が1,000~8,000であることが好ましい。重合度は1,500以上であることがより好ましく、2,000以上であることがさらに好ましい。また、均質なPVAフィルムの製造の容易性、延伸性などの点から、PVAの重合度は、8,000以下であることがより好ましく、6,000以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書でいうPVAの重合度は、JIS K6726(1994)の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、PVAを再けん化し、精製した後に30℃の水中で測定した極限粘度から求めることができる。
【0049】
PVAフィルムを製造する際には、1種のPVAを単独で使用してもよいし、重合度、けん化度、変性度などのうちの1つまたは2つ以上が互いに異なる2種以上のPVAを併用してもよい。PVAフィルムにおけるPVAの含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。
【0050】
PVAフィルムは可塑剤を含むことが好ましい。PVAフィルムが可塑剤を含むことにより、フィルムロールとする際の皺の発生を防止したり、二次加工の際の工程通過性を向上させたりすることができる。可塑剤としては多価アルコールが好ましく、具体的には、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらの可塑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの可塑剤の中でも、PVAとの相溶性や入手性などの観点から、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましい。PVAフィルムにおける可塑剤の含有量は、PVA100質量部に対して1~30質量部であることが好ましく、3~25質量部であることがより好ましく、5~20質量部であることがさらに好ましい。
【0051】
PVAフィルムは、その製造に使用される金属支持体からの剥離性の向上やPVAフィルムの取り扱い性の向上などの観点から、界面活性剤を含むことも好ましい。界面活性剤の種類に特に制限はないが、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤を好ましく使用することができる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型、ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。これらの界面活性剤は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
PVAフィルムにおける界面活性剤の含有量は、金属支持体からの剥離性やPVAフィルムの取り扱い性などの観点から、PVA100質量部に対して0.01~1質量部であることが好ましく、0.02~0.5質量部であることがより好ましく、0.05~0.3質量部であることがさらに好ましい。
【0053】
PVAフィルムには、上述のPVA系重合体、可塑剤、および界面活性剤以外の他の成分を、必要に応じ、さらに含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤、充填剤(無機物粒子、デンプン等)、防腐剤、防黴剤、上記した成分以外の他の高分子化合物などが挙げられる。
【0054】
PVAフィルムの製法は特に制限されず、従来既知の方法で製造することができる。一般的には、PVAを液体媒体または溶融助剤などと混合するか、液体媒体や溶融助剤などを含むペレットを用いて、製膜用原液または溶融液を調製し、その原液または溶融液を用いて製膜することによって製造される。
【0055】
製膜用原液や溶融液を調製するための液体媒体としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、水などを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を使用することができる。これらのなかでも、ジメチルスルホキシド、水、それらの混合物が好ましく用いられ、特に水がより好ましく用いられる。
【0056】
PVAフィルムの製造に当っては、上記した原液または溶融液中に可塑剤、界面活性剤を含有させることが好ましい。可塑剤、界面活性剤は上記したものを用いることができる。可塑剤及び界面活性剤の配合量は上記の量とすることができる。
【0057】
(PVAフィルムロールの製造方法)
本発明のPVAフィルムロールの好適な製造方法としては、上記PVAフィルムを巻き取りながら、該PVAフィルムの長さ方向に沿った2つの端部の少なくとも一方を、下記の構成(a)~(d)を満足する切断刃を用いて切断するフィルムロールの製造方法である。
【0058】
(a)ビッカース硬さ690以上1850以下の金属からなる丸刃である
(b)刃先の角度が21~26°である
(c)刃部分における非テーパー状基部の肉厚が0.05~1mmである
(d)丸刃の直径が40~60mmである
【0059】
切断刃は、ビッカース硬さが690以上1850以下の金属からなる丸刃であることが好ましい。ビッカース硬さが690未満の金属からなる丸刃は切れ味が悪く、平滑な切断端面を有するPVAフィルムが得られない。そのため、延伸加工時に当該PVAフィルムが破断し易くなるおそれがある。ビッカース硬さは700以上であることがより好ましい。
【0060】
一方、ビッカース硬さが1850を超える金属からなる丸刃は、切れ味が良いという利点がある。しかしながら、耐久性が劣るため、PVAフィルム切断中に刃先が欠け、巻き取り終わりまで平滑な切断端面を有するPVAフィルムが得られない。そのため、この場合も延伸加工時に当該PVAフィルムが破断し易くなるおそれがある。ビッカース硬さは1500以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、790以下であることが特に好ましい。
【0061】
丸刃に用いられる金属としては、鉄、ケイ素、マンガン、クロム、タングステンなどの金属又はこれらの合金が挙げられる。例えば、JIS G4308で示される、SKS7、SKS81などが挙げられる。
【0062】
刃先の角度は21~26°であることが好ましい。刃先の角度が21°未満の場合、刃先の耐久性が不十分となるおそれがある。一方、刃先の角度が26°を超える場合、切れ味が不十分となるおそれがある。刃先の角度は25°以下であることがより好ましい。本発明における刃先の角度は以下のように定義される。図2及び図3に示すように、丸刃における研磨部分を二等辺三角形ABCと近似する。このとき、刃の先端を頂点Aとする。そして、辺BCと直角に交わるように頂点Aから辺BCに向かって線を引き、交点をHとする。辺AHの長さ及び辺BHの長さから、直角三角形ABHにおける角度∠BAHを計算する。この角度∠BAHを2倍した値を刃先の角度と定義する。
【0063】
刃部分における非テーパー状基部の肉厚が0.05~1mmであることが好ましい。非テーパー状基部の肉厚が、0.05mm未満の場合、刃先の耐久性が低下するおそれがある。上記肉厚は0.1mm以上であることがより好ましい。一方、上記肉厚が1mmを超える場合、切断後のフィルム端部がカールする事がある。上記肉厚は0.8mm以下であることがより好ましい。
【0064】
丸刃の直径が40~60mmであることが好ましい。丸刃の直径が40mm未満の場合、刃先の同じ箇所で何度も切断することになり刃先が欠けるおそれがある。丸刃の直径は42mm以上であることがより好ましい。一方、丸刃の直径が60mmを超える場合、刃先の検査に時間を要してしまうおそれがある。丸刃の直径は55mm以下であることがより好ましい。
【0065】
こうして得られたPVAフィルムロールにおけるPVAフィルムを延伸することにより 延伸フィルムを得ることができる。延伸加工時にフィルムの破断を防止できるため、偏光性能が良好な偏光フィルムを好適に製造することができる。PVAフィルムから、偏光フィルムを製造するには、例えばPVAフィルムを染色、一軸延伸、固定処理、乾燥処理、さらに必要に応じて熱処理を行えば良く、染色、一軸延伸、固定処理の操作順に特に制限はない。また、各操作を二回またはそれ以上行っても良い。
【0066】
染色は、一軸延伸前、一軸延伸時、一軸延伸後のいずれでも可能である。染色に用いる染料としては、ヨウ素-ヨウ化カリウムや各種二色性染料などが、1種または2種以上の混合物で使用できる。通常、染色は、PVAフィルムを上記染料を含有する溶液中に浸漬させることにより行うことが一般的であるが、PVAフィルムに塗工したり、PVAフィルムに混ぜて製膜するなど、その処理条件や処理方法は特に制限されるものではない。
【0067】
一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法が使用でき、温水中(前記染料を含有する溶液中や後記固定処理浴中でも良い)または吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で行うことができる。延伸温度は特に限定されないが、PVAフィルムを温水中で延伸(湿式延伸)する場合の温度は通常30~90℃である。乾熱延伸する場合の温度は通常50~180℃である。
【0068】
また、一軸延伸処理の延伸倍率(多段で一軸延伸を行う場合は合計の延伸倍率)は、偏光性能の点から5倍以上であることが好ましい。延伸倍率の上限は特に限定されないが、均一な延伸を行うためには7倍以下であることが好ましい。延伸後のフィルムの厚みは、通常3~75μmである。
【0069】
延伸フィルムへの上記染料の吸着を強固にすることを目的に、固定処理を行うことが多い。固定処理に使用する処理浴には、通常、ホウ酸および/またはホウ素化合物が添加される。また、必要に応じて処理浴中にヨウ素化合物を添加しても良い。
【0070】
前記延伸フィルムの乾燥処理(熱処理)の温度は、通常、30~150℃で行う。
【実施例
【0071】
実施例1
(フィルムロールの作製)
けん化度99.9モル%、重合度2400のPVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物)のチップ100質量部を35℃の蒸留水2500質量部に24時間浸漬した後、遠心脱水を行い、PVA含水チップを得た。PVA含水チップ中の揮発分率は70質量%であった。そのPVA含水チップ333質量部(乾燥状態PVA換算で100質量部)に対して、グリセリン11質量部および界面活性剤(ラウリン酸ジエタノールアミド95質量%含有)0.3質量部を添加した後、よく混合して混合物とし、これを最高温度130℃のベント付き二軸押出機で加熱溶融した。
【0072】
得られた溶融状態のPVAを熱交換機で100℃に冷却した後、900mm幅のコートハンガーダイから表面温度を90℃にしたドラム上に押出製膜して、さらに熱風乾燥炉内を通して乾燥して、幅方向両端部(耳部)を、JIS G4404に規定された合金工具鋼であるSKS7からなる丸刃(ビッカース硬度:700、直径:45mm、刃先の角度:21°、非テーパー部の肉厚:0.3mm)を用いて切断することにより幅0.7mの長尺のPVAフィルムを連続的に製造した。なお、製膜速度は8m/分とした。製膜が安定した後のPVAフィルム(厚み75μm、長さ10,000m)は直径8インチのアルミニウム製の円筒状のコアに連続的に巻き取ってフィルムロールとした。以下の説明において、フィルムの巻き取りを開始するとともに切断を開始した点を「巻き始め部分」と称し、フィルムの巻き取りを終了するとともに切断を終了した点を「巻き終わり部分」と称すことがある。
【0073】
ここで、上記の丸刃の刃先の角度は21°である。以下、図2及び3用いて刃先の角度の測定方法について説明する。図2は、丸刃を横から見た模式図である。図2に示されるように、丸刃には、非テーパー部と刃先部があり、刃先部には研磨部分がある。この研磨部分でフィルムが切断される。図3は、研磨部分の模式図である。レーザー顕微鏡(50倍)を用いて研磨部分を観察して、当該研磨部分を二等辺三角形ABCと近似した。このとき、刃の先端を頂点Aとした。辺BCと直角に交わるように頂点Aから辺BCに向かって線を引き、交点をHとした。次いで、長さAH及びBHを測定した。測定された長さAH及びBHから直角三角形ABHにおける角度∠BAHを計算し、この角度∠BAHを2倍した値を刃先の角度とした。
【0074】
(展開表面積比(Sdr)の測定)
図1で説明したように、「検査用フィルム(巻き始め)」(フィルム長さ方向250μm×幅方向3000μm)を採取した。そして、レーザー顕微鏡(キーエンス社製の「VK-X200」)を用いて、ISO 25178に準じた方法により、切断端部における切断面の展開面積比(Sdr(s))を測定した。また、「検査用フィルム(巻き終わり)」(フィルム長さ方向250μm×幅方向3000μm)を採取して、上記と同様の方法により切断面の展開面積比(Sdr(e))を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
(算術表面粗さ及び最大高さの測定)
「検査用フィルム(巻き始め)」及び「検査用フィルム(巻き終わり)」の切断端部における切断面の算術平均粗さ(Ra:JIS B 0601-1994)及び最大高さ(Ry:JIS B 0601-1994)を、上記レーザー顕微鏡を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0076】
(破断回数の評価)
フィルムロールから巻き出されたフィルムを、長さ方向に延伸倍率6倍で延伸し、アルミニウム製の円筒状のコアに連続的に巻き取った。ここで、フィルムの巻き出しの始点は、上記フィルムロールにおける「巻き終わり部分」に相当し、巻き出しの終点は上記フィルムロールにおける「巻き始め部分」に相当する。その結果、巻き出しの始点から終点までフィルムが破断することなく延伸することができた。結果を表1に示す。
【0077】
(丸刃の欠けの個数)
切断開始前の刃先の欠けの個数及び切断終了後の刃先の欠けの個数を下記の評価基準に従い測定した。丸刃の刃先をマイクロスコープで一周観察して、刃の欠けの有無を確認した。欠けが確認された場合、その欠けを三角形と近似して、幅と高さから面積を算出した。その結果、面積が7.5μm以上であった場合、その欠けを「刃先の欠け」1個としてカウントした。
【0078】
実施例2~6、比較例1~4
PVAフィルムの厚さ、当該PVAフィルムを切断する丸刃の種類(ビッカース硬さ、及び刃先の角度)を表1に示すように変更した。そして、実施例1と同様にして、丸刃を用いて切断することによりPVAフィルムを連続的に製造し、フィルムロールを得た後、Sdr、Ra、Ryを測定するとともに、破断回数及び丸刃の欠けの個数を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
表1の実施例2~5に示すように、巻き出しの始点から終点までフィルムが破断することなく延伸することができた。また、表1の実施例6に示すように、延伸を始めてから2000m延伸するまでの間に、フィルムが1回破断したが、その後はフィルムが破断することなく延伸することができた。一方、表1の比較例1~4に示すように、延伸を始めてから2000m延伸するまでの間にそれぞれ5回(比較例1)、7回(比較例2)、3回(比較例3)、2回(比較例4)の破断が生じたので延伸を中止した(表1の「評価中止」)。
【0080】
【表1】
図1
図2
図3