(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置及び振動抑制機構
(51)【国際特許分類】
H01J 37/16 20060101AFI20230515BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
H01J37/16
F16F15/02 A
F16F15/02 C
(21)【出願番号】P 2021574381
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003529
(87)【国際公開番号】W WO2021152793
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 周一
(72)【発明者】
【氏名】清水 利彦
(72)【発明者】
【氏名】矢畑 清志
(72)【発明者】
【氏名】小川 博紀
(72)【発明者】
【氏名】江藤 隼
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-027280(JP,A)
【文献】特開平08-195179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/16
H01J 37/09
F16F 15/02
G05D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象となる試料を内部に収容する試料室と、
前記試料室の上部に配置され、荷電粒子源から発生する荷電粒子線を前記試料上に照射し走査する鏡筒と、
前記鏡筒に着脱可能に設置される振動抑制機構と、を備え、
前記振動抑制機構は、前記鏡筒に固定される固定子と、
前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に移動可能に支持される環状の可動子と、
前記可動子を前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に振動させる複数のアクチュエータと、
前記固定子に固定される複数の振動センサと、
前記振動センサの出力信号に応じて前記アクチュエータを制御するコントローラと、を有
し、
前記鏡筒を軸方向から見たときに、前記可動子が前記固定子の内側に配置され、前記アクチュエータが前記固定子に外側から設置されていることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
観察対象となる試料を内部に収容する試料室と、
前記試料室の上部に配置され、荷電粒子源から発生する荷電粒子線を前記試料上に照射し走査する鏡筒と、
前記鏡筒に着脱可能に設置される振動抑制機構と、を備え、
前記振動抑制機構は、前記鏡筒に固定される固定子と、
前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に移動可能に支持される環状の可動子と、
前記可動子を前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に振動させる複数のアクチュエータと、
前記固定子に固定される複数の振動センサと、
前記振動センサの出力信号に応じて前記アクチュエータを制御するコントローラと、を有し、
前記鏡筒を軸方向から見たときに、前記可動子が前記固定子の外側に配置され、前記アクチュエータが前記可動子に外側から設置されていることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の荷電粒子線装置であって、
前記可動子は、前記固定子に対して前記アクチュエータの動作方向に低剛性な弾性部材により支持されており、
前記アクチュエータが前記固定子に対して前記可動子を振動させることで前記鏡筒に発生する振動を減衰することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1
または2に記載の荷電粒子線装置であって、
前記アクチュエータは、圧電素子と、
前記圧電素子に予圧を付加して保護するケースと、
前記ケースの一端から突出し変位を出力する先端部と、を有し、
前記圧電素子により前記先端部が伸縮することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1
または2に記載の荷電粒子線装置であって、
前記可動子の重心が、前記複数のアクチュエータの推力線の略交点上に位置することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
荷電粒子線装置の鏡筒に着脱可能に設置され、当該鏡筒に発生する振動を抑制する振動抑制機構であって、
鏡筒に固定される固定子と、
前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に移動可能に支持される環状の可動子と、
前記可動子を前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に振動させる複数のアクチュエータと、
前記固定子に固定される複数の振動センサと、
前記振動センサの出力信号に応じて前記アクチュエータを制御するコントローラと、を備え
、
前記可動子が前記固定子の内側に配置され、前記アクチュエータが前記固定子に外側から設置されていることを特徴とする振動抑制機構。
【請求項7】
荷電粒子線装置の鏡筒に着脱可能に設置され、当該鏡筒に発生する振動を抑制する振動抑制機構であって、
鏡筒に固定される固定子と、
前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に移動可能に支持される環状の可動子と、
前記可動子を前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に振動させる複数のアクチュエータと、
前記固定子に固定される複数の振動センサと、
前記振動センサの出力信号に応じて前記アクチュエータを制御するコントローラと、を備え、
前記可動子が前記固定子の外側に配置され、前記アクチュエータが前記可動子に外側から設置されていることを特徴とする振動抑制機構。
【請求項8】
請求項
6または7に記載の振動抑制機構であって、
前記可動子は、前記固定子に対して前記アクチュエータの動作方向に低剛性な弾性部材により支持されており、
前記アクチュエータが前記固定子に対して前記可動子を振動させることで前記鏡筒に発生する振動を減衰することを特徴とする振動抑制機構。
【請求項9】
請求項
6または7に記載の振動抑制機構であって、
前記アクチュエータは、圧電素子と、
前記圧電素子に予圧を付加して保護するケースと、
前記ケースの一端から突出し変位を出力する先端部と、を有し、
前記圧電素子により前記先端部が伸縮することを特徴とする振動抑制機構。
【請求項10】
請求項
6または7に記載の振動抑制機構であって、
前記可動子の重心が、前記複数のアクチュエータの推力線の略交点上に位置することを特徴とする振動抑制機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型電子顕微鏡などの荷電粒子線装置に係り、特に、像ゆれの要因となる装置の振動を抑制可能な荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子の微細化に伴い、半導体の製造装置や検査装置にも高精度化やスループットの向上が要求されている。半導体ウェハ上に形成されたパターンの形状・寸法の評価や欠陥の検査のために、荷電粒子線装置の一つである走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)が用いられる。
【0003】
SEMによるウェハの測定や検査工程では、カラム上部に備えられた電子銃から荷電粒子線をウェハ上に照射し、ウェハから放出された二次電子を検出することによって観察画像を取得し、その明暗の変化からパターン寸法の測定や欠陥の観察を行う。
【0004】
ところで、SEMの更なる高分解能化のため、荷電粒子線の補正装置などを加えると、カラムが大型化してカラムの剛性低下を引き起こす。また、スループット向上のためにウェハ移動用のステージを高速化すると、ステージ動作時の駆動反力が増加する。その結果、ウェハ観察時のカラムの振動が増加し、荷電粒子線の照射位置の変動による観察画像のゆがみやパターンエッジの振動を生じる(以下、「像ゆれ」とも称する)。
【0005】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、取り外しの容易な振動抑制機構を備えた荷電粒子線装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1のように、振動センサと加振器(アクチュエータ)を用いた能動的な振動抑制機構を採用する場合、アクチュエータの寿命を考慮する必要がある。故障や寿命でアクチュエータの交換が必要な場合に、アクチュエータの交換が容易であることが望ましい。
【0008】
また、上述したように、SEMなどの荷電粒子線装置では、更なる高精度化(高分解能化)とスループット向上が要求されており、装置振動の抑制、特に、像ゆれの要因となるカラム(鏡筒)の振動の抑制が重要な課題となっている。
【0009】
上記特許文献1の振動抑制機構は、固定リングとボルトにより、カラム(鏡筒)への取り付け、取り外しを容易に行うことが可能な構造であるが、振動センサと対を成す加振器(アクチュエータ)が、X方向とY方向にそれぞれ1組ずつ配置されているのみで、振動低減の効果は限定的である。
【0010】
そこで、本発明の目的は、メンテナンス性に優れ、かつ、カラム(鏡筒)の効果的な制振が可能な振動抑制機構とそれを用いた荷電粒子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、観察対象となる試料を内部に収容する試料室と、前記試料室の上部に配置され、荷電粒子源から発生する荷電粒子線を前記試料上に照射し走査する鏡筒と、前記鏡筒に着脱可能に設置される振動抑制機構と、を備え、前記振動抑制機構は、前記鏡筒に固定される固定子と、前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に移動可能に支持される環状の可動子と、前記可動子を前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に振動させる複数のアクチュエータと、前記固定子に固定される複数の振動センサと、前記振動センサの出力信号に応じて前記アクチュエータを制御するコントローラと、を有し、前記鏡筒を軸方向から見たときに、前記可動子が前記固定子の内側に配置され、前記アクチュエータが前記固定子に外側から設置されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、荷電粒子線装置の鏡筒に着脱可能に設置され、当該鏡筒に発生する振動を抑制する振動抑制機構であって、鏡筒に固定される固定子と、前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に移動可能に支持される環状の可動子と、前記可動子を前記鏡筒の軸方向と垂直な方向に振動させる複数のアクチュエータと、前記固定子に固定される複数の振動センサと、前記振動センサの出力信号に応じて前記アクチュエータを制御するコントローラと、を備え、前記可動子が前記固定子の内側に配置され、前記アクチュエータが前記固定子に外側から設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メンテナンス性に優れ、かつ、カラム(鏡筒)の効果的な制振が可能な振動抑制機構とそれを用いた荷電粒子線装置を提供することができる。
【0014】
これにより、荷電粒子線装置の高精度化(高分解能化)とスループット向上が図れる。
【0015】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1における荷電粒子線装置の概略構成を示す断面図である。
【
図2】実施例1における振動抑制機構の斜視図である。
【
図3】実施例1における振動抑制機構の側面図である。
【
図4】実施例1における振動抑制機構の平面図(上面図)である。
【
図6】実施例2における振動抑制機構の斜視図である。
【
図7】実施例2における振動抑制機構の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0018】
図1から
図5を参照して、本発明の実施例1の振動抑制機構と荷電粒子線装置について説明する。
【0019】
図1は、本実施例の荷電粒子線装置100の概略構成を示す断面図である。
図2及び
図3は、それぞれ振動抑制機構20の斜視図及び側面図であり、カラム(鏡筒)2に取り付けられた状態を示している。
図4は、振動抑制機構20の平面図(上面図)であり、
図5は、
図4のA部拡大図である。なお、各図中に示すように座標系(X,Y,Z)を定める。
【0020】
図1に示すように、荷電粒子線装置100は、主要な構成として、試料室1と、試料室1の上部に設置されたカラム(鏡筒)2とを備えている。試料室1の内部には、X方向に移動可能なXテーブル3と、Y方向に移動可能なYテーブル4とで構成される試料ステージ5を備えている。
【0021】
観察対象となる試料6は、試料ステージ5上に載置される。試料室1の内部は、図示しないターボ分子ポンプ(主ポンプ)とドライポンプ(補助ポンプ)により真空状態に維持される。
【0022】
カラム(鏡筒)2の上部には電子銃7が備えられており、電子銃7は一次電子線8を発生させ、カラム(鏡筒)2の内部を介して試料6に照射する。電子銃7への配線7aは、電子銃7の上方より導かれる。
【0023】
カラム(鏡筒)2の内部には、コンデンサレンズ9と、走査偏向器10と、対物レンズ11とを備えている。カラム(鏡筒)2の内部は、イオンポンプ12を用いた真空排気により、超高真空状態に維持される。カラム(鏡筒)2の上部には、固定リング25が取り付けられ、スペーサ26を介して振動抑制機構20が取り付けられている。
【0024】
振動抑制機構20は、
図2及び
図3に示すように、慣性質量部材21と、慣性質量部材21に設置されたアクチュエータ22a,22bと、慣性質量部材21に設置された振動センサ23a,23bと、振動センサ23a,23bの出力信号に応じてアクチュエータ22a,22bを駆動制御するコントローラ24とを備えている。
【0025】
図4及び
図5を用いて、振動抑制機構20の詳細な構成とその動作(作用)を説明する。
図5は、
図4のA部拡大図であり、アクチュエータ22aの取り付け部の詳細を示している。
【0026】
慣性質量部材21は、環状の可動子21aと、可動子21aの外側に固定子21bとを備えている。固定子21bは、スペーサ26を介して固定リング25に固定される(
図3参照)。可動子21aと固定子21bは、X方向可動子21c、Y方向可動子21d、板バネ21eを介して連結されている。なお、慣性質量部材21は、板バネ21eの部分を薄く加工した一体の部品として形成してもよい。
【0027】
X方向可動子21cは、平行平板構造をなす板バネ21eにより固定子21bに連結されて、固定子21bに対してX方向に低剛性に支持されている。同様に、Y方向可動子21dは、平行平板構造をなす板バネ21eにより固定子21bに連結されて、固定子21bに対してY方向に低剛性に支持されている。
【0028】
環状の可動子21aは、平行平板構造をなす板バネ21eによりX方向可動子21cに連結されて、X方向可動子21cに対してY方向に低剛性に支持されている。また、可動子21aは、平行平板構造をなす板バネ21eによりY方向可動子21dに連結されて、Y方向可動子21dに対してX方向に低剛性に支持されている。
【0029】
アクチュエータ22a,22bは、円筒形の金属ケースに予圧を付加された状態で収められた積層圧電素子であり、電圧を加えると金属ケースから突出した先端部が伸縮する。アクチュエータ22a,22bは、先端部を可動子21aに向けた状態で固定子21bの外側から挿入されて、アクチュエータ22a,22bの金属ケースが固定子21bに固定される。
【0030】
アクチュエータ22aの先端部がX方向可動子21cと接続され、アクチュエータ22bの先端部がY方向可動子21dと接続される。積層圧電素子の最大ストロークは一般に全長の0.1%程度のオーダであり、アクチュエータ22a,22bの伸縮量は高々数十μm~数百μm程度と微小である。
【0031】
アクチュエータ22aが伸縮すると、アクチュエータ22aの先端部と接続されたX方向可動子21cがX方向に動作し、可動子21aもX方向に動作する。この時、可動子21aとY方向可動子21dはX方向に低剛性に連結されているため、Y方向可動子21dは可動子21aのX方向の動作を妨げない。
【0032】
同様にして、アクチュエータ22bを伸縮すると、アクチュエータ22bの先端部と接続されたY方向可動子21dがY方向に動作し、可動子21aもY方向に動作する。アクチュエータ22a,22bの伸縮量が微小であるため、可動子21aはアクチュエータ22a,22bにより独立にXY方向に動作することができる。
【0033】
振動抑制機構20は、可動子21aの駆動反力をカラム(鏡筒)2に発生する振動に対する制振力として用いる。振動センサ23a,23bは、例えば加速度センサであり、それぞれX方向、Y方向の振動を検出するように固定子21bに固定される。なお、振動センサ23a,23bは、カラム(鏡筒)2の振動を検出するように、カラム(鏡筒)2や固定リング25に固定されていても良い。また、速度や変位を検出することができれば、加速度センサ以外のセンサであっても良い。
【0034】
本実施例の効果について説明する。観察対象の試料6は、試料ステージ5により所望の位置に位置決めされる。電子銃7により発生された一次電子線8は、カラム(鏡筒)2内のコンデンサレンズ9により絞られ、対物レンズ11により試料6の表面に焦点を合わせた状態で照射され、走査偏光器10により試料6表面上を二次元的に走査される。一次電子線8を照射された試料6の表面からは二次電子が放出され、図示しない二次電子検出器により検出されて観察画像を得る。
【0035】
試料ステージ5の位置決め動作や、イオンポンプ12の動作、または設置環境由来の外乱などによりカラム(鏡筒)2に発生した振動は、振動センサ23a,23bにより検出される。
【0036】
コントローラ24は、振動センサ23a,23bの出力信号に応じて、カラム(鏡筒)2の振動を抑えるようにアクチュエータ22a,22bを駆動し、可動子21aを振動させて制振力を生じさせる。試料6の観察時のカラム(鏡筒)2の振動が低減されることにより、試料6に対する一次電子線8の照射位置の振動も低減し、像ゆれを抑えて、より高精度な観察画像を得ることができる。
【0037】
アクチュエータ22a,22bが慣性質量部材21の外側から設置されているため、振動抑制機構20を分解することなく、アクチュエータ22a,22bを容易に着脱することができる。そのため、カラム(鏡筒)2のベーキング時にアクチュエータ22a,22bを一時的に取り外したり、アクチュエータ22a,22bの故障時や寿命時(定期交換時)の交換が容易となり、メンテナンス性を向上することができる。
【0038】
アクチュエータ22a,22bと振動センサ23a,23bがそれぞれXY方向を向いているため、カラム(鏡筒)2のXY平面内の任意の方向の振動を検出して低減することができる。
【0039】
以上説明したように、本実施例の荷電粒子線装置100は、観察対象となる試料6を内部に収容する試料室1と、試料室1の上部に配置され、荷電粒子源(電子銃7)から発生する荷電粒子線(一次電子線8)を試料6上に照射し走査するカラム(鏡筒)2と、カラム(鏡筒)2に着脱可能に設置される振動抑制機構20を備えており、振動抑制機構20は、カラム(鏡筒)2に固定される固定子21bと、カラム(鏡筒)2の軸方向と垂直な方向(XY方向)に移動可能に支持される環状の可動子21aと、可動子21aをカラム(鏡筒)2の軸方向と垂直な方向(XY方向)に振動させる複数のアクチュエータ22a,22bと、固定子21bに固定される複数の振動センサ23a,23bと、振動センサ23a,23bの出力信号に応じてアクチュエータ22a,22bを制御するコントローラ24を有するように構成される。
【0040】
そして、カラム(鏡筒)2を軸方向から見たときに、可動子21aが固定子21bの内側に配置され、アクチュエータ22a,22bが固定子21bに外側から設置されている。
【0041】
また、可動子21aは、固定子21bに対してアクチュエータ22a,22bの動作方向に低剛性な弾性部材(板バネ21e)により支持されており、アクチュエータ22a,22bが固定子21bに対して可動子21aを振動させることでカラム(鏡筒)2に発生する振動を減衰する。
【0042】
また、アクチュエータ22a,22bは、圧電素子と、圧電素子に予圧を付加して保護するケースと、ケースの一端から突出し変位を出力する先端部を有しており、圧電素子により先端部が伸縮するように構成されている。
【0043】
なお、本実施例では、アクチュエータ22a,22bと振動センサ23a,23bがそれぞれXY方向を向いた状態で振動抑制機構20が設置されているが、カラム(鏡筒)2の軸周りに回転させた状態で設置しても構わない。つまり、アクチュエータ22aと振動センサ23aとを結ぶ仮想直線と、アクチュエータ22bと振動センサ23bとを結ぶ仮想直線が必ずしも直交するように配置する必要はない。
【0044】
カラム(鏡筒)2の振動モード(振動方向)は必ずしもXY方向に一致しているとは限らないため、アクチュエータ22a,22bと振動センサ23a,23bがそれぞれカラム(鏡筒)2の振動モード(振動方向)に沿う様に設置することで、制御系の設計を容易にすることができる。
【0045】
カラム(鏡筒)2の振動抑制作用において、環状の可動子21aは振動を低減(減衰)する「おもり」として機能する。1つの可動子21aをX方向とY方向の2方向に動作させてカラム(鏡筒)2を制振するため、X方向とY方向で別々に可動子を用意する場合と比べて、振動抑制機構20を軽量化することができる。また、動作する可動子21aが固定子21bの内側に配置されているため、可動部が周囲の部品と干渉しづらくなり、装置の信頼性と安全性を担保できる。
【0046】
なお、複数のアクチュエータ22a,22bは、可動子21aの重心が複数のアクチュエータ22a,22bの推力線の略交点上に位置するように配置するのが望ましい。このように配置することで、アクチュエータ22a,22bの動作のみで、効果的にカラム(鏡筒)2に発生する振動を減衰することができる。
【0047】
また、カラム(鏡筒)2は柱状構造物であるため、一般に上部の振幅が大きくなりやすく、振動抑制機構20の設置個所としては振幅の大きな上部が効果的な制振には望ましい。
【0048】
また、カラム(鏡筒)2の上部には電子銃7が配置されており、磁場を発生する電磁式のアクチュエータを振動抑制機構20に用いると、一次電子線8に影響して観察画像に悪影響を与える。非磁性のアクチュエータを用いることで、観察画像への影響を抑えることが可能である。本実施例のアクチュエータ22a,22bは積層圧電素子により駆動されるため、観察画像への悪影響なく制振が可能である。積層圧電素子は応答も高速であるため、比較的高周波の振動の低減も可能である。
【0049】
また、本実施例ではカラム(鏡筒)2の最上部に振動抑制機構20が設置されているが、カラム(鏡筒)2の振動モードや振動の周波数によっては、カラム(鏡筒)2の上部以外の箇所の振幅が大きいこともあり、振動抑制機構20はカラム(鏡筒)2の最上部以外の位置に設置されていても構わない。その場合、慣性質量部材21の内径をカラム(鏡筒)2の外径よりも大きくなるようにすれば良い。
【0050】
また、カラム(鏡筒)2に複数の振動抑制機構20を設置しても良い。複数の振動抑制機構20を用いることで、複数の振動モードの振動を効果的に制振することができる。
【実施例2】
【0051】
図6から
図8を参照して、本発明の実施例2の振動抑制機構について説明する。本実施例では、実施例1に対して、より大きな制振力が得られる振動抑制機構の例を説明する。
【0052】
図6及び
図7は、本実施例の振動抑制機構30の斜視図及び平面図(上面図)であり、それぞれ実施例1の
図2,
図4に相当する。また、
図8は、
図7のB部拡大図である。
【0053】
図6に示すように、カラム(鏡筒)2の上部には、固定リング25が取り付けられ、(
図6では図示しない)スペーサ26を介して振動抑制機構30が取り付けられている。
【0054】
振動抑制機構30は、慣性質量部材31と、慣性質量部材31に設置されたアクチュエータ22a,22bと、慣性質量部材31に設置された振動センサ23a,23bと、振動センサ23a,23bの出力信号に応じてアクチュエータ22a,22bを駆動制御するコントローラ24とを備えている。
【0055】
慣性質量部材31は、固定子31bと、固定子31bの外側に環状の可動子31aとを備えている。固定子31bは、図示しないスペーサ26を介して固定リング25に固定される。可動子31aと固定子31bは、X方向可動子31c、Y方向可動子31d、板バネ31eを介して連結されている。なお、慣性質量部材31は、板バネ31eの部分を薄く加工した一体の部品として形成してもよい。
【0056】
X方向可動子31cは、平行平板構造をなす板バネ31eにより固定子31bに連結されて、固定子31bに対してX方向に低剛性に支持されている。同様に、Y方向可動子31dは、平行平板構造をなす板バネ31eにより固定子31bに連結されて、固定子31bに対してY方向に低剛性に支持されている。
【0057】
環状の可動子31aは、平行平板構造をなす板バネ31eによりX方向可動子31cに連結されて、X方向可動子31cに対してY方向に低剛性に支持されている。また、可動子31aは、平行平板構造をなす板バネ31eによりY方向可動子31dに連結されて、Y方向可動子31dに対してX方向に低剛性に支持されている。
【0058】
アクチュエータ22a,22bは、先端部を固定子31bに向けた状態で可動子31aの外側から挿入されて、アクチュエータ22a,22bの金属ケースが可動子31aに固定される。
【0059】
アクチュエータ22aの先端部がY方向可動子31dと接続され、アクチュエータ22bの先端部がX方向可動子31cと接続される。
【0060】
アクチュエータ22aが伸縮すると、可動子31aとX方向可動子31cがX方向に動作する。アクチュエータ22bが伸縮すると、可動子31aとY方向可動子31dがY方向に動作する。アクチュエータ22a,22bの伸縮量が微小であるため、可動子31aはアクチュエータ22a,22bにより独立にXY方向に動作することができる。
【0061】
振動抑制機構30は、可動子31aの駆動反力をカラム(鏡筒)2に発生する振動に対する制振力として用いる。振動センサ23a,23bは、それぞれX方向、Y方向の振動を検出するように固定子31bに固定される。なお、振動センサ23a,23bは、カラム(鏡筒)2の振動を検出するように、カラム(鏡筒)2や固定リング25に固定されていても良い。
【0062】
以上説明したように、本実施例の荷電粒子線装置は、カラム(鏡筒)2を軸方向から見たときに、可動子31aが固定子31bの外側に配置され、アクチュエータ22a,22bが可動子31aに外側から設置されている。
【0063】
本実施例では、可動子31aが固定子31bの外側に位置するため、可動部と周囲の部品との干渉に注意する必要があるが、可動子31aを大型化して振動抑制機構30の制振力を大きくするのが容易となる。その他の効果については、実施例1と同じである。
【0064】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記の実施例は本発明に対する理解を助けるために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…試料室、2…カラム(鏡筒)、3…Xテーブル、4…Yテーブル、5…試料ステージ、6…試料、7…電子銃、7a…(電子銃の)配線、8…一次電子線、9…コンデンサレンズ、10…走査偏向器、11…対物レンズ、12…イオンポンプ、20,30…振動抑制機構、21,31…慣性質量部材、21a,31a…可動子、21b,31b…固定子、21c,31c…X方向可動子、21d,31d…Y方向可動子、21e,31e…板バネ、22a,22b…アクチュエータ、23a,23b…振動センサ、24…コントローラ、25…固定リング、26…スペーサ、100…荷電粒子線装置。