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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20230516BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
B32B27/30 B
B32B27/00 104
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019024887
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020131476
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻野 斗馬
(72)【発明者】
【氏名】井上 弘康
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/115337(WO,A1)
【文献】特開2014-009334(JP,A)
【文献】特開2017-203986(JP,A)
【文献】特開2005-225996(JP,A)
【文献】特開2008-146062(JP,A)
【文献】特開2004-351870(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050743(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0177247(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ50μm以下の基材及び無機層を含む積層フィルムと、
前記積層フィルム上に直接設けられた樹脂層と、を含み、
前記基材は、結晶性を有する脂環式構造含有重合体及び結晶性を有するポリスチレン系重合体からなる群より選択される一種以上を含む樹脂のフィルムであり、
前記樹脂層は、引張弾性率が10Pa以上10Pa未満であり、
前記樹脂層は、重量平均分子量が40,000以上200,000以下であるブロック共重合体水素化物[2]、又は、重量平均分子量が40,000以上200,000以下である、前記ブロック共重合体水素化物[2]のアルコキシシリル基変性物[3]を含み、前記ブロック共重合体水素化物[2]は、重合体ブロック[A]と重合体ブロック[B]とを含むブロック共重合体[1]の、水素化物であり、前記重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロックであり、前記重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックであり、
前記樹脂層の厚みは、1μm以上100μm以下であり、
前記無機層は、ケイ素の酸化窒化物を含有する層であり、前記無機層の厚みは、10nm以上500nm以下であり、
前記積層フィルムの引張弾性率は、前記基材の引張弾性率より5%以上大きい、積層体。
【請求項2】
前記積層フィルムの引張弾性率は、前記基材の引張弾性率より7%以上大きい、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記基材の厚さが30μm以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記無機層の表面抵抗値は、10Ω/□以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記基材の応力緩和率が10%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムは、その用途によっては使用時に折り曲げられることがあり得る。そのため、光学フィルムは、耐折り曲げ性が求められることがある(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/152871号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、所定の重合体を含む層を3層備えるフィルムにより、耐折り曲げ性を向上することが、記載されている。
近年、可撓性のある画像表示素子の開発が進み、このような画像表示素子を含むタッチパネル等の部材にも、耐折り曲げ性が求められている。タッチパネルの部材として用いる光学フィルムは、粘着層及び接着層等を介して、タッチパネルに貼り付けられることがある。粘着層及び接着層等の層は、通常、軟質な層であるため、このような層を介して貼り付けられる光学フィルムは、折り曲げた後、折り曲げ状態から解放した際に折り跡が残りやすく、耐折り曲げ性の改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、基材及び無機層を含む積層フィルムと、積層フィルム上に直接設けられた樹脂層と、を含む積層体において、樹脂層の引張弾性率を所定範囲とし、かつ、積層フィルムの引張弾性率を基材の引張弾性率より5%以上大きくすることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下を提供する。
【0006】
[1] 厚さ50μm以下の基材及び無機層を含む積層フィルムと、
前記積層フィルム上に直接設けられた樹脂層と、を含み、
前記樹脂層は、引張弾性率が10Pa以上10Pa未満であり、
前記積層フィルムの引張弾性率は、前記基材の引張弾性率より5%以上大きい、積層体。
[2] 前記積層フィルムの引張弾性率は、前記基材の引張弾性率より7%以上大きい、[1]に記載の積層体。
[3] 前記基材の厚さが30μm以下である、[1]または[2]に記載の積層体。
[4] 前記無機層の表面抵抗値は、10Ω/□以上である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の積層体。
[5] 前記無機層が、ケイ素の酸化物及び酸化窒化物、ならびに、アルミニウムの酸化物及び酸化窒化物から選ばれる1種以上を含有する層である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の積層体。
[6] 前記基材の応力緩和率が10%以下である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐折り曲げ性が良好な積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態1の積層体を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施例1および2で製造した積層体を模式的に示す断面図である。
図3図3は、耐折り曲げ性の評価試験の方法を模式的に示す断面図である。
図4図4は、他の実施形態で説明する積層体を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。また、同一の要素には同一の符号を付して、その説明を省略することがある。
【0010】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0011】
[本発明の積層体の概要]
本発明の積層体は、厚さ50μm以下の基材及び無機層を含む積層フィルムと、積層フィルム上に直接設けられた樹脂層と、を含む。本発明の積層体において、樹脂層は、引張弾性率が10Pa以上10Pa未満であり、積層フィルムの引張弾性率は、基材の引張弾性率より5%以上大きい。
【0012】
[実施形態1]
以下、本発明に係る実施形態1の積層体について図1を参照しつつ説明する。図1は、実施形態1に係る積層体を模式的に示す断面図である。
【0013】
本実施形態の積層体100は、図1に示すように、厚さ50μm以下の基材11及び無機層12を含む積層フィルム20と、積層フィルム20上に直接設けられた樹脂層15と、を含む。
【0014】
[1.積層フィルム]
積層フィルム20は、基材11及び無機層12を含む。
【0015】
[1.1.基材]
基材11としては、重合体を含有する樹脂フィルムが挙げられる。このような樹脂フィルムに含まれる重合体としては、例えば、結晶性を有する脂環式構造含有重合体、及び、結晶性を有するポリスチレン系重合体(特開2011-118137号公報参照)などが挙げられる。中でも、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性に優れることから、結晶性を有する脂環式構造含有重合体が好ましい。結晶性を有する重合体とは、融点Mpを有する〔すなわち、示差走査熱量計(DSC)で融点Mpを観測することができる〕重合体をいう。以下の記載において結晶性を有する重合体を「結晶性重合体」ということがある。樹脂フィルムは、結晶性を有さない重合体を含んでいてもよい。
【0016】
脂環式構造含有重合体とは、分子内に脂環式構造を有する重合体であって、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素添加物をいう。また、脂環式構造含有重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0017】
脂環式構造含有重合体が有する脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる基材が得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0018】
脂環式構造含有重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。
また、脂環式構造含有重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0019】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる基材が得られ易いことから、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素添加物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素添加物等であって、結晶性を有するもの。
【0020】
具体的には、結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物であって結晶性を有するものがより好ましく、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0021】
前記のような結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、例えば、国際公開第2016/067893号に記載の方法により、製造しうる。
【0022】
結晶性重合体の融点Mpは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Mpを有する結晶性重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた基材を得ることができる。
【0023】
結晶性重合体のガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0024】
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0025】
結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0026】
結晶性重合体の結晶化度の範囲は、所望の性能に応じて、適宜選択しうる。結晶性重合体の結晶化度は、基材に高い耐熱性及び耐薬品性を付与することができるという観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。結晶性重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0027】
基材における、結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。結晶性重合体の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、基材の耐熱性を効果的に高めうる。
【0028】
基材は、結晶性重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー、及び、軟質重合体等の、結晶性重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0029】
基材は、例えば、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法によって製造しうる。これらの中でも、厚みの制御が容易であることから、押出成形法によって基材を製造することが好ましい。
【0030】
[基材の物性値]
本発明において、基材の厚さは、50μm以下である。基材の厚さは、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上である。基材の厚さが50μm以下であることにより、積層体を折り曲げやすいものとすることができる。基材の厚さが上記下限値以上であることにより、高い機械的強度を得ることができる。
【0031】
基材の引張弾性率(基材の引張弾性率T1)は、好ましくは10Pa以上、より好ましくは2×10Pa以上であり、好ましくは1011Pa以下、より好ましくは1010Pa以下である。基材の引張弾性率T1が前記下限値以上であることにより、積層体を折り曲げた後、折り曲げ状態から解放した際に折り跡が残りにくくなる。基材の引張弾性率T1は、測定装置として、恒温恒湿槽付の引張試験機(インストロン社製「5564型」)を用いて、測定温度23℃、測定湿度40%RHの条件で測定しうる。
【0032】
基材の応力緩和率は、好ましくは10%以下である。基材の応力緩和率が前記上限値以下であることにより、積層体を折り曲げた後、折り曲げ状態から解放した際に折り跡が残りにくくなる。
【0033】
本発明において、応力緩和率の測定は、例えば、以下の方法により行いうる。
測定装置として、恒温恒湿槽付の引張試験機(インストロン社製「5564型」)を用い、測定温度23℃、測定湿度40%RHの条件で、測定対象(基材)に、引張速度20mm/分で、2.0%の歪みを印加した後、10分間保持する操作を行って、歪みが2.0%に達した時点の応力値σ0と10分後の応力値σと、を測定し、応力緩和率を以下の式(1)より算出する。
応力緩和率(%)=[(σ-σ)/σ]×100 式(1)
【0034】
基材は、高い全光線透過率を有することが好ましい。具体的には、基材の全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。基材の全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0035】
[1.2.無機層]
無機層は、積層体を折り曲げたときに生じうる積層体の変形を抑制し、折れ跡を目立たなくしうる層である。無機層は無機材料によって形成される層である。
【0036】
[無機層の材料]
無機層を形成する無機材料としては、通常、無機酸化物(MO)、無機窒化物(MN)、無機炭化物(MC)、無機酸化炭化物(MO)、無機窒化炭化物(MN)、無機酸化窒化物(MO)及びこれらの混合物等があげられる。これらのうち、無機酸化物及び無機酸化窒化物が好ましい。前記Mとしてはケイ素、アルミニウム、マグネシウム等が挙げられる。
【0037】
無機材料としては、具体的には、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウムマグネシウム、酸窒化ケイ素アルミニウム及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの無機材料から形成される無機層は、着色の程度が小さいので光学用途に適している。
【0038】
本発明において、無機層が、ケイ素の酸化物及び酸化窒化物、ならびに、アルミニウムの酸化物及び酸化窒化物から選ばれる1種以上を含有する層であることが、より好ましい。このような層は、透明性が高く、光学用途に好適である。
【0039】
[無機層の物性値]
無機層の厚さは、好ましくは10nm以上、より好ましくは40nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下である。無機層の厚さが前記下限値以上であることにより、積層体を折り曲げた後、折り曲げ状態から解放した際に折り跡が残りにくくなる。無機層の厚さが前記上限値以下であることにより、積層体を折り曲げやすいものとすることができる。
【0040】
無機層の表面抵抗値は、好ましくは10Ω/□以上、より好ましくは1010Ω/□以上である。表面抵抗値が前記下限値以上であることにより、積層体を絶縁性の高いものとしうる。表面抵抗値は高ければ高いほど好ましいが、1020Ω/□以下としうる。
【0041】
無機層の表面抵抗値は、以下の方法により測定しうる。基材上に無機層を形成して積層フィルムとし、当該積層フィルムの無機層について、表面抵抗測定装置(三菱ケミカルアナリテック製MCP-HT800)を用いて、測定しうる。
【0042】
無機層の屈折率は、好ましくは1.4以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは2以下、より好ましくは1.8以下である。無機層の屈折率は以下の方法により測定しうる。基材上に無機層を形成して積層フィルムとし、当該積層フィルムの無機層について、分光エリプソメーター M-2000U(J.A.Woollam社製)を用いて、測定しうる。
【0043】
[1.3.積層フィルムに含まれうる任意の層]
積層フィルムは、基材及び無機層に組み合わせて、光学機能層など任意の層を備えうる。
【0044】
[1.4.積層フィルムの製造方法]
積層フィルムは、基材の上に無機層を形成することにより製造しうる。無機層の形成は、基材の上に無機層の材料(無機材料)を製膜することにより製造しうる。製膜方法は、特に限定されず、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト蒸着法、アーク放電プラズマ蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法等の形成方法を用いうる。
【0045】
[1.5.積層フィルムの物性値]
積層フィルムの引張弾性率(引張弾性率T)は、好ましくは1.05×10Pa以上、より好ましくは2.1×10Pa以上であり、好ましくは1011Pa以下、より好ましくは1010Pa以下である。引張弾性率Tが前記下限値以上であることにより、積層体を折り曲げた後、折り曲げ状態から解放した際に折り跡が残りにくくなる。積層フィルムの引張弾性率は、測定装置として、恒温恒湿槽付の引張試験機(インストロン社製「5564型」)を用い、無機層が割れない範囲で歪みを印加して測定しうる。
【0046】
本発明において、積層フィルムの引張弾性率は、基材の引張弾性率より5%以上大きい。つまり、基材よりも、基材及び無機層を含む積層フィルムでは引張弾性率が5%以上大きい。したがって、積層フィルムと樹脂層とを含む本発明の積層体では、無機層を含まない態様の積層体(基材及び樹脂層のみの積層体)よりも、折り曲げた後に折り曲げ状態から解放した際に折り跡が残りにくい。
【0047】
積層フィルムの引張弾性率は、基材の引張弾性率より7%以上大きいことが好ましく、15%以上大きいことがより好ましい。積層フィルムの引張弾性率が、基材の引張弾性率よりも、Z%大きい場合のZの値(Z値)は、下記式(2)で算出される。式(2)において、Tは積層フィルムの引張弾性率、T1は基材の引張弾性率である。
Z=[(T-T1)/T1]×100 式(2)
【0048】
[2.樹脂層]
樹脂層15は、積層フィルム20上に直接設けられた層である。
本実施形態において、樹脂層15は、図1に示すように積層フィルム20の無機層12側の面の上に直接設けられている。樹脂層は、粘着性又は接着性を有する層としうる。
【0049】
樹脂層15は、熱可塑性樹脂を含む樹脂により形成される層としうる。熱可塑性樹脂は、通常、熱可塑性の重合体を含み、必要に応じて任意の成分を更に含む。熱可塑性樹脂は粘着性または接着性を有するものを用いうる。
【0050】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂における熱可塑性の重合体の含有率は、熱可塑性樹脂の全重量に対して、好ましく55重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上であり、更に好ましくは65重量%以上である。熱可塑性樹脂における熱可塑性の重合体の含有率は、100重量%以下としうる。
【0051】
熱可塑性樹脂に含まれる重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の脂肪族オレフィン重合体;脂環式オレフィン重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリアリレート;セルロースエステル重合体;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリルサルホン;ポリ塩化ビニル;棒状液晶ポリマー;スチレン又はスチレン誘導体の単独重合体、又は、スチレン又はスチレン誘導体と任意のモノマーとの共重合体を含むポリスチレン系重合体;スチレンなどの芳香族化合物と、ブタジエンやイソプレンなどの共役ジエンとの共重合体の水素化物(芳香族環の水素化物を含む);ポリアクリロニトリル;ポリメチルメタクリレート;あるいは、これらの多元共重合ポリマー、などが挙げられる。また、ポリスチレン系重合体の単量体としうる任意のモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート及びブタジエンが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0052】
熱可塑性樹脂は、ブロック共重合体水素化物[2]又は前記ブロック共重合体水素化物[2]のアルコキシシリル基変性物[3]を含むことが好ましい。
【0053】
[ブロック共重合体水素化物[2]]
ブロック共重合体水素化物[2]は、下記のブロック共重合体[1]が水素化されている物質である。以下、ブロック共重合体水素化物[2]を、「水素化物[2]」ともいう。
【0054】
[ブロック共重合体[1]]
ブロック共重合体[1]は、ブロック共重合体[1]の1分子当たり2個以上の重合体ブロック[A]と、ブロック共重合体[1]1分子あたり1個以上の重合体ブロック[B]とを有するブロック共重合体である。
【0055】
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロックである。ここで、芳香族ビニル化合物単位とは、芳香族ビニル化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいう。
【0056】
重合体ブロック[A]が有する芳香族ビニル化合物単位に対応する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン;α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類;4-クロロスチレン、ジクロロスチレン、4-モノフルオロスチレン等の、置換基としてハロゲン原子を有するスチレン類;4-メトキシスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルコキシ基を有するスチレン類;4-フェニルスチレン等の、置換基としてアリール基を有するスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類;等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、吸湿性を低くできることから、スチレン、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類等の、極性基を含有しない芳香族ビニル化合物が好ましく、工業的入手のし易さから、スチレンが特に好ましい。
【0057】
重合体ブロック[A]における芳香族ビニル化合物単位の含有率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。重合体ブロック[A]において芳香族ビニル化合物単位の量が前記のように多いことにより、樹脂層の硬さ及び耐熱性を高めることができる。
【0058】
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物単位以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。重合体ブロック[A]は、任意の構造単位を、1種類で単独でも含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0059】
重合体ブロック[A]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、鎖状共役ジエン化合物単位が挙げられる。ここで、鎖状共役ジエン化合物単位とは、鎖状共役ジエン化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいう。鎖状共役ジエン化合物単位に対応する鎖状共役ジエン化合物としては、例えば、重合体ブロック[B]が有する鎖状共役ジエン化合物単位に対応する鎖状共役ジエン化合物の例として挙げるものと同じ例が挙げられる。
【0060】
また、重合体ブロック[A]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、芳香族ビニル化合物及び鎖状共役ジエン化合物以外の任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。任意の不飽和化合物としては、例えば、鎖状ビニル化合物、環状ビニル化合物等のビニル化合物;不飽和の環状酸無水物;不飽和イミド化合物;等が挙げられる。これらの化合物は、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、又はハロゲン基等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、吸湿性の観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、4,6-ジメチル-1-ヘプテン等の1分子当たり炭素数2~20の鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサン等の1分子当たり炭素数5~20の環状オレフィン;等の、極性基を有しないビニル化合物が好ましく、1分子当たり炭素数2~20の鎖状オレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。
【0061】
重合体ブロック[A]における任意の構造単位の含有率は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0062】
ブロック共重合体[1]1分子における重合体ブロック[A]の数は、好ましくは2個以上であり、好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下、特に好ましくは3個以下である。1分子中に複数個ある重合体ブロック[A]は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0063】
1分子のブロック共重合体[1]に、異なる重合体ブロック[A]が複数存在する場合、重合体ブロック[A]の中で、重量平均分子量が最大の重合体ブロックの重量平均分子量をMw(A1)とし、重量平均分子量が最少の重合体ブロックの重量平均分子量をMw(A2)とする。このとき、Mw(A1)とMw(A2)との比「Mw(A1)/Mw(A2)」は、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.0以下である。これにより、各種物性値のばらつきを小さく抑えることができる。
【0064】
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックである。前述のように、鎖状共役ジエン化合物単位とは、鎖状共役ジエン化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいう。
【0065】
この重合体ブロック[B]が有する鎖状共役ジエン化合物単位に対応する鎖状共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、吸湿性を低くできることから、極性基を含有しない鎖状共役ジエン化合物が好ましく、1,3-ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0066】
重合体ブロック[B]における鎖状共役ジエン化合物単位の含有率は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。重合体ブロック[B]において鎖状共役ジエン化合物単位の量が前記のように多いことにより、樹脂層の可撓性を向上させることができる。
【0067】
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物単位以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。重合体ブロック[B]は、任意の構造単位を、1種類で単独でも含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0068】
重合体ブロック[B]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、芳香族ビニル化合物単位、並びに、芳香族ビニル化合物及び鎖状共役ジエン化合物以外の任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物単位、並びに、任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位としては、例えば、重合体ブロック[A]に含まれていてもよいものとして例示したものと同じ例が挙げられる。
【0069】
重合体ブロック[B]における任意の構造単位の含有率は、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。重合体ブロック[B]における任意の構造単位の含有率が低いことにより、樹脂層の可撓性を向上させることができる。
【0070】
ブロック共重合体[1]1分子における重合体ブロック[B]の数は、通常1個以上であるが、2個以上であってもよい。ブロック共重合体[1]における重合体ブロック[B]の数が2個以上である場合、それらの重合体ブロック[B]は、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
【0071】
1分子のブロック共重合体[1]に、異なる重合体ブロック[B]が複数存在する場合、重合体ブロック[B]の中で、重量平均分子量が最大の重合体ブロックの重量平均分子量をMw(B1)とし、重量平均分子量が最少の重合体ブロックの重量平均分子量をMw(B2)とする。このとき、Mw(B1)とMw(B2)との比「Mw(B1)/Mw(B2)」は、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.0以下である。これにより、各種物性値のばらつきを小さく抑えることができる。
【0072】
ブロック共重合体[1]のブロックの形態は、鎖状型ブロックでもよく、ラジアル型ブロックでもよい。中でも、鎖状型ブロックが、機械的強度に優れ、好ましい。ブロック共重合体[1]が鎖状型ブロックの形態を有する場合、ブロック共重合体[1]の分子鎖の両端が重合体ブロック[A]であることが、樹脂層のベタツキを所望の低い値に抑えることができるので、好ましい。
【0073】
ブロック共重合体[1]の特に好ましいブロックの形態は、[A]-[B]-[A]で表されるように、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック共重合体;[A]-[B]-[A]-[B]-[A]で表されるように、重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]が結合し、更に該両重合体ブロック[B]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合したペンタブロック共重合体;である。特に、[A]-[B]-[A]のトリブロック共重合体であることが、製造が容易であり且つ物性を所望の範囲に容易に収めることができるため、特に好ましい。
【0074】
ブロック共重合体[1]において、ブロック共重合体[1]の全体に占める重合体ブロック[A]の重量分率wAと、ブロック共重合体[1]の全体に占める重合体ブロック[B]の重量分率wBとの比(wA/wB)は、特定の範囲に収まる。具体的には、前記の比(wA/wB)は、通常20/80以上、好ましくは25/75以上、より好ましくは30/70以上、特に好ましくは40/60以上であり、通常60/40以下、好ましくは55/45以下である。前記の比wA/wBが前記範囲の下限値以上であることにより、樹脂層の硬さ及び耐熱性を向上させたり、複屈折を小さくしたりすることができる。また、前記の比wA/wBが前記範囲の上限値以下であることにより、樹脂層の可撓性を向上させることができる。ここで、重合体ブロック[A]の重量分率wAは、重合体ブロック[A]全体の重量分率を示し、重合体ブロック[B]の重量分率wBは、重合体ブロック[B]全体の重量分率を示す。
【0075】
前記のブロック共重合体[1]の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは40,000以上、より好ましくは50,000以上、特に好ましくは60,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、特に好ましくは100,000以下である。
また、ブロック共重合体[1]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下であり、好ましくは1.0以上である。ここで、Mnは、数平均分子量を表す。
前記ブロック共重合体[1]の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の値として測定しうる。
【0076】
ブロック共重合体[1]の製造方法としては、例えば、リビングアニオン重合等の方法により、芳香族ビニル化合物を含有するモノマー組成物(a)と鎖状共役ジエン化合物を含有するモノマー組成物(b)を交互に重合させる方法;芳香族ビニル化合物を含有するモノマー組成物(a)と鎖状共役ジエン化合物を含有するモノマー組成物(b)を順に重合させた後、重合体ブロック[B]の末端同士を、カップリング剤によりカップリングさせる方法;が挙げられる。
【0077】
モノマー組成物(a)中の芳香族ビニル化合物の含有量は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。また、モノマー組成物(a)は、芳香族ビニル化合物以外の任意のモノマー成分を含有していてもよい。任意のモノマー成分としては、例えば、鎖状共役ジエン化合物、任意の不飽和化合物が挙げられる。任意のモノマー成分の量は、モノマー組成物(a)に対し、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0078】
モノマー組成物(b)中の鎖状共役ジエン化合物の含有量は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。また、モノマー組成物(b)は、鎖状共役ジエン化合物以外の任意のモノマー成分を含有していてもよい。任意のモノマー成分としては、芳香族ビニル化合物、任意の不飽和化合物が挙げられる。任意のモノマー成分の量は、モノマー組成物(b)に対して、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0079】
モノマー組成物を重合してそれぞれの重合体ブロックを得る方法としては、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位アニオン重合、配位カチオン重合などを用いうる。重合操作及び後工程での水素化反応を容易にする観点では、ラジカル重合、アニオン重合及びカチオン重合などを、リビング重合により行う方法が好ましく、リビングアニオン重合により行う方法が特に好ましい。
【0080】
重合は、重合開始剤の存在下で行いうる。例えばリビングアニオン重合では、重合開始剤として、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム等のモノ有機リチウム;ジリチオメタン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン等の多官能性有機リチウム化合物;などを用いうる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0081】
重合温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、特に好ましくは20℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、特に好ましくは70℃以下である。
【0082】
重合反応の形態は、例えば溶液重合及びスラリー重合などを用いうる。中でも、溶液重合を用いると、反応熱の除去が容易である。
溶液重合を行う場合、溶媒としては、各工程で得られる重合体が溶解しうる不活性溶媒を用いうる。不活性溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロ[4.3.0]ノナン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン等の脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、溶媒として脂環式炭化水素溶媒を用いると、水素化反応にも不活性な溶媒としてそのまま使用でき、ブロック共重合体[1]の溶解性が良好であるため、好ましい。溶媒の使用量は、全使用モノマー100重量部に対して、好ましくは200重量部~2000重量部である。
【0083】
それぞれのモノマー組成物が2種以上のモノマーを含む場合、ある1成分の連鎖だけが長くなるのを抑制するために、ランダマイザーを使用しうる。特に重合反応をアニオン重合により行う場合には、例えばルイス塩基化合物をランダマイザーとして使用することが好ましい。ルイス塩基化合物としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルフェニルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン等の第3級アミン化合物;カリウム-t-アミルオキシド、カリウム-t-ブチルオキシド等のアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0084】
[水素化物[2]]
水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]の不飽和結合を水素化して得られる重合体である。ここで、水素化されるブロック共重合体[1]の不飽和結合には、ブロック共重合体[1]の主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、芳香環の炭素-炭素不飽和結合を、いずれも含む。
【0085】
水素化率は、ブロック共重合体[1]の主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合及び芳香環の炭素-炭素不飽和結合の、好ましくは90%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。水素化率が高いほど、樹脂層の透明性、耐熱性及び耐候性を良好にでき、更には樹脂層の複屈折を小さくし易い。ここで、水素化物[2]の水素化率は、H-NMRによる測定により求めうる。
【0086】
特に、主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、樹脂層の耐光性及び耐酸化性を更に高くできる。
【0087】
また、芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上である。芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、重合体ブロック[A]を水素化して得られる重合体ブロックのガラス転移温度が高くなるので、樹脂層の耐熱性を効果的に高めることができる。
【0088】
水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは40,000以上、より好ましくは50,000以上、特に好ましくは60,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、特に好ましくは100,000以下である。水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)が前記の範囲に収まることにより、樹脂層の機械強度及び耐熱性を向上させることができ、更には樹脂層の複屈折を小さくし易い。
【0089】
水素化物[2]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下であり、好ましくは1.0以上である。水素化物[2]の分子量分布(Mw/Mn)が前記の範囲に収まることにより、樹脂層の機械強度及び耐熱性を向上させることができ、更には樹脂層の複屈折を小さくし易い。
【0090】
水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算の値で測定しうる。
【0091】
前述した水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]を水素化することにより、製造しうる。水素化方法としては、水素化率を高くでき、ブロック共重合体[1]の鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましい。このような水素化方法としては、例えば、国際公開第2011/096389号、国際公開第2012/043708号に記載された方法が挙げられる。
【0092】
具体的な水素化方法の例としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、及びレニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む水素化触媒を用いて水素化を行う方法が挙げられる。水素化触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。水素化触媒は、不均一系触媒、均一系触媒のいずれも使用可能である。また、水素化反応は、有機溶媒中で行うことが好ましい。
【0093】
[アルコキシシリル基変性物[3]]
アルコキシシリル基変性物[3]は、上述したブロック共重合体[1]の水素化物[2]に、アルコキシシリル基を導入して得られる重合体である。この際、アルコキシシリル基は、上述した水素化物[2]に直接結合していてもよく、例えばアルキレン基などの2価の有機基を介して間接的に結合していてもよい。アルコキシシリル基が導入されたアルコキシシリル基変性物[3]は、無機層との接着性に特に優れる。そのため、樹脂層は、通常、無機層との接着性に優れる。
【0094】
アルコキシシリル基変性物[3]におけるアルコキシシリル基の導入量は、アルコキシシリル基の導入前の水素化物[2]100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは0.3重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、特に好ましくは3重量部以下である。アルコキシシリル基の導入量を前記範囲に収めると、水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋度が過剰に高くなることを防止できるので、樹脂層の無機層に対する接着性を高く維持することができる。
アルコキシシリル基の導入量は、H-NMRスペクトルにて計測しうる。また、アルコキシシリル基の導入量の計測の際、導入量が少ない場合は、積算回数を増やして計測しうる。
【0095】
アルコキシシリル基変性物[3]は、前述したブロック共重合体[1]の水素化物[2]にアルコキシシリル基を導入することにより、製造しうる。水素化物[2]にアルコキシシリル基を導入する方法としては、例えば、水素化物[2]とエチレン性不飽和シラン化合物とを、過酸化物の存在下で反応させる方法が挙げられる。
【0096】
エチレン性不飽和シラン化合物としては、水素化物[2]とグラフト重合でき、水素化物[2]にアルコキシシリル基を導入できるものを用いうる。このようなエチレン性不飽和シラン化合物の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン等のビニル基を有するアルコキシシラン;アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン等のアリル基を有するアルコキシシラン;p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン等のp-スチリル基を有するアルコキシシラン;3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の3-メタクリロキシプロピル基を有するアルコキシシラン;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の3-アクリロキシプロピル基を有するアルコキシシラン;2-ノルボルネン-5-イルトリメトキシシラン等の2-ノルボルネン-5-イル基を有するアルコキシシラン;などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより得られやすいことから、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシランが好ましい。また、エチレン性不飽和シラン化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0097】
エチレン性不飽和シラン化合物の量は、アルコキシシリル基を導入する前の水素化物[2]100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは0.3重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、特に好ましくは3重量部以下である。
【0098】
熱可塑性樹脂において、水素化物[2]又はアルコキシシリル基変性物[3]の割合は、好ましくは80重量%~100重量%、より好ましくは90重量%~100重量%、特に好ましくは95重量%~100重量%である。
【0099】
[熱可塑性樹脂以外の任意の成分]
樹脂層を形成する樹脂は、熱可塑性樹脂以外に、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、水素化ポリブテンなどの流動パラフィンが挙げられる。
【0100】
樹脂層における、熱可塑性樹脂以外の任意の成分は、好ましくは45重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下である。樹脂層における、熱可塑性樹脂以外の任意の成分は、0重量%以上とし得る。
【0101】
[樹脂層の物性値]
樹脂層の厚さは、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上である。樹脂層の厚さが上限値以下であることにより、積層体を折り曲げやすいものとすることができる。
【0102】
樹脂層の引張弾性率(引張弾性率T2)は、10Pa以上10Pa未満である。引張弾性率T2は好ましくは10Pa以上、より好ましくは10Pa以上であり、好ましくは8×10Pa以下、より好ましくは5×10Pa以下である。引張弾性率T2が上記範囲内であることにより、積層体を折り曲げやすく、積層体を貼合する対象から剥がれにくいものとすることができる。樹脂層の引張弾性率は、恒温恒湿槽付の引張試験機(インストロン社製「5564型」)を用いて測定しうる。
【0103】
[積層体の製造方法]
積層体は、積層フィルムの上に直接樹脂層を設けることにより製造しうる。具体的には、樹脂層を構成する成分を含む樹脂液(樹脂組成物)を、積層フィルム上に塗布または印刷する方法、前記樹脂液を離型フィルム上に塗布して製膜された樹脂層を積層フィルムにラミネートする方法、樹脂層を構成する成分からなるペレットをフィルム状に成形して得られた樹脂層を積層フィルムにラミネートする方法等により形成しうる。
【0104】
[3.積層体が含みうる任意の層]
積層体は、積層フィルム及び樹脂層以外に、積層体の使用目的に応じて任意の層を含んでいてもよい。このような任意の層としては、例えば、樹脂層への異物の付着等を防止する保護層等が挙げられる。
【0105】
[4.積層体の用途]
本発明の積層体は、各種光学用途に使用することができる。例えば、タッチパネルの部材として使用することができる。
本発明の積層体は、耐折り曲げ性が良好であることから、特に可撓性を有する画像表示素子(フレキシブルディスプレイ素子)と組み合わせて、例えば、可撓性のあるタッチパネルなどの、可撓性を有する装置とすることができる。
【0106】
[5.作用・効果]
本実施形態において、積層体100は、厚さ50μm以下の基材11及び無機層12を含む積層フィルム20と、積層フィルム20上に直接設けられた樹脂層15と、を含み、積層フィルム20の引張弾性率は、基材11の引張弾性率より5%以上大きい。したがって、積層フィルム20と樹脂層15とを含む本実施形態の積層体100では、無機層を含まない態様の積層体(基材及び樹脂層のみの積層体)よりも、積層体を折り曲げた後に折り曲げ状態から解放した際に折り跡が残りにくい。その結果、本実施形態によれば、耐折り曲げ性が良好な積層体を提供することができる。
【実施例
【0107】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0108】
[評価方法]
[重量平均分子量及び数平均分子量の測定方法]
重合体の重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0109】
[重合転化率の測定方法]
重合体の合成途中の重合転化率は、GPCにより測定した。
【0110】
[水素化ブロック共重合体の水素化率の測定方法〕
重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、145℃で、H-NMR測定により測定した。
【0111】
[厚さの測定方法]
測定対象の積層体(フィルム)について、スナップゲージ(ミツトヨ製)で任意の4箇所の厚みを測定し、その平均値を厚さ(膜厚)として得た。
【0112】
[引張弾性率の測定]
JIS K7127に準拠して測定対象のフィルムの引張弾性率を測定した。測定対象のフィルムから、タイプ1Bのダンベル形状の試験片を打ち抜き測定試料とした。測定試料として、溶融押出し又は射出成型した際のフィルムの流れ方向(MD方向)に沿って5片と、流れ方向に直交するフィルム幅方向(TD方向)に沿って、5片との合計10片をフィルムから打ち抜いた。測定装置として、恒温恒湿槽付の引張試験機(インストロン社製「5564型」)を用いた。測定温度23℃、測定湿度40%RHの測定条件で測定を行った。また、引張速度は、20mm/分で実施し、MD方向に沿って打ち抜かれた試験片(N=5)及びTD方向に沿って打ち抜かれた試験片(N=5)の引張弾性率の平均値をフィルムの引張弾性率とした。
【0113】
[表面抵抗値の測定]
基材の上に無機層を形成して得られた積層フィルムの、無機層の表面抵抗値を、表面抵抗測定装置(三菱ケミカルアナリテック製MCP-HT800)を用いて、測定した。
【0114】
[無機層の屈折率の測定]
基材の上に無機層を形成して得られた積層フィルムの、無機層の屈折率を、分光エリプソメーターM-2000U(J.A.Woollam社製)を用いて測定した。
【0115】
[耐折り曲げ性試験]
実施例の積層体、比較例の積層体及び参考例のフィルム(以下、単に「積層体」ともいう)について、卓上型耐久試験器(ユアサシステム機器株式会社製「DLDMLH-FS」)を用いて、耐折り曲げ性の評価試験を行った(図3を参照)。図3は、耐折り曲げ性の評価試験の方法を模式的に示す断面図である。
【0116】
(曲げ半径3mmの条件での耐折り曲げ性の評価)
実施例及び比較例の積層体を、曲げ半径3mmとなるように、折り曲げて24時間静置した。積層体の折り曲げ及び静置は、2枚の板P1とP2との間隔Xを調整して行った(図3を参照)。その後、積層体を装置から取り出して、変形の状態を目視により観察した(1回目の目視観察)。さらに、1回目の目視観察後の積層体を、水平な台に12時間静置した後、2回目の目視観察を行い、下記評価基準により評価を行った。結果を表1に示す。評価結果がAであれば、耐折り曲げ性は、良好である。
(評価基準)
A:1回目の目視観察で積層体(フィルム)に変形が認められない。
B:1回目の目視観察で変形が認められるが、2回目の目視観察では変形が認められない。
C:1回目及び2回目の目視観察で、ともに変形が認められる。
【0117】
(曲げ半径2mmの条件での耐折り曲げ性の評価)
実施例の積層体、比較例の積層体及び参考例のフィルムについて、曲げ半径を2mmとしたこと以外は、曲げ半径3mmの条件のときと、同じ操作を行って、曲げ半径3mmの条件の場合と同じ評価基準により、耐折り曲げ性を評価した。結果を表1及び表2に示す。「曲げ半径2mm」という条件は、「曲げ半径3mm」よりも厳しい条件であるので、曲げ半径2mmの場合に評価結果がAであれば、耐折り曲げ性は、特に良好である。
【0118】
[応力緩和率の測定]
製造例1で製造した樹脂フィルムA及び参考例1~3のフィルムから、JIS K2127に規定するタイプ1Bの形状の試験片を打ち抜き、測定試料とした。測定装置として、恒温恒湿槽付の引張試験機(インストロン社製「5564型」)を用い、測定温度23℃、測定湿度40%RH、引張速度20mm/分で、2.0%の歪みを印加した後、10分間保持する操作を行って、歪みが2.0%に達した時点の応力値σ0と10分後の応力値σと、を測定し、応力緩和率を以下の式(1)より算出した。結果を表2に示す。
応力緩和率(%)=[(σ-σ)/σ]×100 式(1)
【0119】
[製造例1:基材の製造]
(1-1.ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物の製造)
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0120】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解した溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0121】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0122】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素添加物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0123】
前記の反応液に含まれる水素添加物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物28.5部を得た。この水素添加物の水素添加率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点Mpは262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0124】
(1-2.樹脂フィルムA(基材)の製造)
(1-1)で得たジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合して、基材の材料となる樹脂を得た。
【0125】
前記の樹脂を、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)に投入した。前記の二軸押出機によって、樹脂を熱溶融押出成形によりストランド状の成形体に成形した。この成形体をストランドカッターにて細断して、樹脂のペレットを得た。前記の二軸押出機の運転条件を、以下に示す。
・バレル設定温度:270℃~280℃
・ダイ設定温度:250℃
・スクリュー回転数:145rpm
・フィーダー回転数:50rpm
【0126】
引き続き、得られたペレットを、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機に供給した。このフィルム成形機を用いて、前記の樹脂からなる樹脂フィルムA(厚さ15μm、幅120mm)を、6.7m/分の速度でロールに巻き取る方法にて製造した。前記のフィルム成形機の運転条件を、以下に示す。
・バレル温度設定:280℃~290℃
・ダイ温度:270℃
・スクリュー回転数:30rpm
樹脂フィルムAの応力緩和率を測定したところ、9%であった。
【0127】
[製造例2:樹脂フィルムB(参考例3のフィルム)の製造]
製造例1の(1-2)において、熱溶融押出しフィルム成形機の巻き取り速度を2.5m/分に変更したこと以外は、製造例1と同じ操作を行い、厚さ40μmの樹脂フィルムBを得た。
【0128】
[製造例3:フィルムX(樹脂層)の製造]
(3-1.トリブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル変性物(a1-s)の製造)
国際公開第2014/077267号に記載された方法を参考にして、スチレン25部、イソプレン50部及びスチレン25部をこの順に重合して、トリブロック共重合体水素化物(a1)(重量平均分子量Mw=48,200;分子量分布Mw/Mn=1.04;主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率ほぼ100%)を製造した。さらに、前記国際公開第2014/077267号に記載された方法を参考にして、前記のトリブロック共重合体水素化物(a1)100部に、ビニルトリメトキシシラン2部を結合させて、トリブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル変性物(a1-s)のペレットを製造した。
【0129】
得られた変性物(a1-s)を用いて、射出成型により、厚さ10μmのフィルムXを得た。得られたフィルムXの引張弾性率を測定したところ、360MPa(3.6×10Pa)であった。
【0130】
[製造例4:フィルムY(参考例1のフィルム)の製造]
製造例3において得られたトリブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル変性物(a1-s)のペレットを用いて、射出成型により、厚さ40μmのフィルムYを得た。
【0131】
[実施例1:積層体の製造]
製造例1で製造した樹脂フィルムAを基材として用いて、図2に示す積層体を製造した。図2は実施例1および2の積層体200を模式的に示す断面図である。図2において11は基材、12は無機層、15は樹脂層、20は積層フィルムである。積層体200は、2枚の積層フィルム20と、当該積層フィルム20と積層フィルム20との間に設けられた樹脂層15とからなる。2枚の積層フィルム20は、それぞれ、無機層12側の面が樹脂層15と、直接接触している。積層体200は、以下の方法により製造した。
【0132】
樹脂フィルムA(厚さ15μm)の上に、スパッタ法により、屈折率が約1.7となるように厚さ200nmのケイ素の酸化窒化物(SiO=が1:0~2)の層を製膜して積層フィルムA1を得た。この積層フィルムA1から5×10cmの大きさのサンプルフィルムを2枚切り出した。2枚のサンプルフィルムを、製造例3で製造したフィルムXを用いて、加熱ラミネータにより貼り合わせて、積層体を得た。積層体を製造する際に、各サンプルフィルムの無機層(SiONの層)側の面をフィルムXの上に配した。得られた積層体は、積層フィルムA1、フィルムX、及び積層フィルムA1がこの順で重なった構成(積層フィルムA1/フィルムX/積層フィルムA1)であった(図2を参照)。この積層体の厚さは40μmであった。
得られた積層体について屈曲試験を行ったところ、R=3mm、R=2mmの条件のいずれにおいても、折れ跡は観察されなかった。
【0133】
[実施例2]
積層フィルムA1に代えて、以下の方法により製造した積層フィルムB1を用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体は、積層フィルムB1、フィルムX、及び積層フィルムB1がこの順で重なった構成(積層フィルムB1/フィルムX/積層フィルムB1)であった。この積層体の厚さは40μmであった。この積層体について、屈曲試験を行った。結果を表1に示す。
【0134】
(積層フィルムB1の製造方法)
製造例1で製造した樹脂フィルムA(厚さ15μm)の上に、スパッタ法により、屈折率が約1.7となるように、厚さ100nmのケイ素の酸化窒化物(SiO、)の層を製膜して積層フィルムBを製造した。
【0135】
[比較例1]
積層フィルムA1に代えて、製造例1で製造した樹脂フィルムA(厚さ15μm)を用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体は、樹脂フィルムA、フィルムX、及び樹脂フィルムAがこの順で重なった構成(樹脂フィルムA/フィルムX/樹脂フィルムA)であり、厚さは40μmであった。この積層体について、屈曲試験を行った。結果を表1に示す。比較例1の積層体は無機層を含まない。
【0136】
表1及び表2において、「折れ跡(R=3mm)」とは、耐折り曲げ試験において、曲げ半径3mmの条件とした場合を意味し、「折れ跡(R=2mm)」とは、耐折り曲げ試験において、曲げ半径2mmの条件とした場合を意味する。
表1において、表面抵抗値が1010Ω/□以上とは、表面抵抗値の測定装置の測定範囲の上限値(1010Ω/□)を超えていたことを意味する。
【0137】
【表1】
【0138】
[参考例1~3]
以下の参考例のフィルムについて、引張弾性率及び応力緩和率を測定し、耐折り曲げ試験を行った。結果を表2に示す。
参考例1:製造例4で製造したフィルムYであって、製造例3のフィルムX(樹脂層に対応)と同じ材料からなる厚さ40μmのフィルム。
参考例2:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱ケミカル(株)製、厚さ40μm)。
参考例3:製造例2で製造した樹脂フィルムBであって、製造例1の樹脂フィルムA(基材に対応)と同じ材料からなる厚さ40μmの樹脂フィルム。
【0139】
【表2】
【0140】
表1に示すように、基材及び無機層を含む積層フィルムと、積層フィルム上に直接設けられた樹脂層と、を含む実施例の積層体は、無機層を含まない比較例の積層体と比べて、折り曲げ後の変形が起こりにくい(折れ跡が残りにくい)ことが分かる。上記結果から、本発明で規定する要件を満たす実施例1及び2の積層体によれば、耐折り曲げ性が良好な積層体を実現しうる。
【0141】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態及び実施例では、積層フィルムの無機層の上に直接樹脂層を形成した積層体を示したが、これに限定されない。例えば、図4に示す積層体300であってもよい。図4は、本実施形態で説明する積層体を模式的に示す断面図である。この積層体300は、積層フィルム20の基材11の上に直接樹脂層15を形成した態様である。
【符号の説明】
【0142】
100,200,300…積層体
11…基材
12…無機層
15…樹脂層
20…積層フィルム
図1
図2
図3
図4