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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】ガリウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 58/00 20060101AFI20230516BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20230516BHJP
   C22B 3/12 20060101ALI20230516BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20230516BHJP
   C25C 1/22 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C22B58/00
C22B7/00 G
C22B3/12
C22B3/44 101A
C25C1/22
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019116083
(22)【出願日】2019-06-24
(65)【公開番号】P2021001378
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】星 裕之
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-085510(JP,A)
【文献】特開昭50-084410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 58/00
C22B 3/12
C22B 3/44
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも鉄、希土類元素、ホウ素とガリウムを含む処理対象物に対して、
1)1.0mol/L以上、13.8mol/L以下のアルカリ金属の水酸化物を含む第一の水溶液に浸漬して、ガリウムを第一の水溶液に溶出させる溶解工程と、
2)溶解工程で得られた第二の水溶液を酸で中和することでガリウム含有沈殿物を生成し、ガリウム含有沈殿物を濾過することでガリウム含有化合物を得る沈殿回収工程と、
3)ガリウム含有化合物をアルカリ金属の水酸化物を含む第三の水溶液に溶解する再溶解工程と、
4)再溶解工程で得られた第四の水溶液に電極を設置し、通電することで電極表面に金属を電析する還元工程と、含むガリウムの回収方法。
【請求項2】
第一の水溶液の処理温度は、70℃以上、120℃未満であり、処理対象物の浸漬時間は、10分以上である、請求項1に記載のガリウムの回収方法。
【請求項3】
第一の水溶液の処理温度は、50℃以上、120℃未満であり、処理対象物の浸漬時間は、48時間以上である、請求項1に記載のガリウムの回収方法。
【請求項4】
第一の水溶液は、更に0.01mol/L以上、5.6mol/L以下の酸化剤を含み、処理温度は70℃以上、150℃未満であり、処理対象物の浸漬時間は10分以上である、請求項1に記載のガリウムの回収方法。
【請求項5】
酸化剤は、0.35mol/L以上、5.6mol/L以下である、請求項4に記載のガリウムの回収方法。
【請求項6】
酸で中和した第二の水溶液は、pHが5以上、6以下である、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のガリウムの回収方法。
【請求項7】
再溶解工程で使用する第三の水溶液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度が0.5mol/L以上、13.8mol/L以下である、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のガリウムの回収方法。
【請求項8】
再溶解工程で使用する第三の水溶液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度が0.5mol/L以上、1.0mol/L以下である、請求項7に記載のガリウムの回収方法。
【請求項9】
再溶解工程で使用する第三の水溶液へのガリウム含有化合物の添加量は、水溶液1Lあたり5g以上、1.6kg以下である、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のガリウムの回収方法。
【請求項10】
再溶解工程で使用する第三の水溶液へのガリウム含有化合物の添加量は、水溶液1Lあたり12g以上、1.6kg以下である、請求項9に記載のガリウムの回収方法。
【請求項11】
還元工程における電流密度が0.5A/cm以上、2.0A/cm以下である、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のガリウムの回収方法。
【請求項12】
処理対象物がR-T-B系永久磁石の磁石スラッジ、または前記磁石スラッジから希土類元素を除去することで得られる酸化鉄を主成分とする残渣である、請求項1乃至請求項11のいずれかに記載のガリウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウムを金属として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系永久磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありネオジムを必ず含む、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種であり鉄を必ず含む、Bはホウ素である)は優れた磁気特性を有していることから自動車や産業用機械、電子機器など様々な分野で使用されている。その使用量は電気自動車や電子機器の普及により増加が期待されている。一方、磁石の生産量の増加に伴って、磁石の製造工程で発生する切削屑や研削屑などの加工屑(以下、「磁石スラッジ」という)の量も増加している。磁石スラッジには有価な金属元素が含まれているので、回収して再利用することは重要な技術課題である。とりわけ希土類元素は高価であることから、積極的にリサイクルが行われている。
【0003】
R-T-B系永久磁石には添加材としてガリウムが使用されているものがある。ガリウムはおもにアルミニウム精錬の副産物として製造されているが、その生産量は少なく、長期的に安定な調達が懸念されている。したがって、磁石スラッジなどの廃棄物から希少金属であるガリウムを回収して再利用することは、原料の調達の観点から重要な課題である。
【0004】
ガリウムを含む化合物からガリウムを分離して回収する方法としては、特許文献1に記載の電解精錬法や、特許文献2に記載のアルカリ金属の水酸化物を混合して溶解する方法が知られている。
【0005】
特許文献1に記載の電解精錬法では、電解質を含む水溶液を使用し、ガリウムを含む原料を陽極として電解を行っている。陽極から溶け出したガリウムは陰極上に電析する。しかしながら、磁石スラッジなどのように酸化した粉末は導電率が低いため、この方法によりガリウムを回収することは困難である。
【0006】
特許文献2に記載の方法は、主成分としてガリウムを含む原料をアルカリ金属の水酸化物と混合、加熱し、水酸化物に転換した後、水に溶解して回収する方法である。しかしながら、磁石スラッジなどのようにガリウムの含有量が少ない場合は、ガリウムとアルカリ金属の水酸化物を効率よく反応させることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-192877号公報
【文献】特許第5002790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁石スラッジから回収したガリウムを磁石原料としてリサイクルするには、ガリウムを金属に還元する必要がある。ガリウムを金属に還元する方法としては電解精錬が知られている。ガリウムの融点は29.78℃であるので、ガリウムを金属単体として電析することができれば、わずかな昇温のみで容易にガリウムを液体の金属として電極などから分離して回収することができる。ところが、ガリウムを溶出させたアルカリ性水溶液を用いて直接電解精錬を行うと、ガリウムと同時に溶出した鉄やホウ素などがガリウムの電析を阻害する。電析物がこれらの不純物を含有すると、電析物の融点が上昇するため、ガリウムを液体金属として電極から分離して回収することは困難となる。特に、磁石の主成分である鉄や、微量な添加元素であるコバルトなどが溶出すると、これらの元素はガリウムより優先して電析するため、純度の高いガリウム金属を回収することが困難であった。また、アルカリ性の水溶液にはホウ素が溶解するが、ホウ素の溶解に伴ってアルカリが消耗するため、水溶液中のガリウム濃度を高くすることは困難であった。それに起因して、電流効率が低下し、リサイクル費用が高くなるという課題があった。
【0009】
そこで本発明は、不純物を低減し、液体金属としてガリウムを回収できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の点に鑑みてなされた本発明のガリウムの回収方法は、例示的な態様1において、少なくとも鉄、希土類元素、ホウ素とガリウムを含む処理対象物に対して、1)1.0mol/L以上、13.8mol/L以下のアルカリ金属の水酸化物を含む第一の水溶液に浸漬して、ガリウムを第一の水溶液に溶出させる溶解工程と、2)溶解工程で得られた第二の水溶液を酸で中和することでガリウム含有沈殿物を生成し、ガリウム含有沈殿物を濾過することでガリウム含有化合物を得る沈殿回収工程と、3)ガリウム含有化合物をアルカリ金属の水酸化物を含む第三の水溶液に溶解する再溶解工程と、4)再溶解工程で得られた第四の水溶液に電極を設置し、通電することに電極表面に金属を電析する還元工程と、を含むガリウムの回収方法である。
態様2において、溶解工程で使用する第一の水溶液の処理温度は、70℃以上、120℃未満であり、処理対象物の浸漬時間は、10分以上である、態様1に記載のガリウムの回収方法である。
態様3において、溶解工程で使用する第一の水溶液の処理温度は、50℃以上、120℃未満であり、処理対象物の浸漬時間は、48時間以上である、態様1に記載のガリウムの回収方法である。
態様4において、溶解工程で使用する第一の水溶液は、更に0.01mol/L以上、5.6mol/L以下の酸化剤を含み、処理温度が70℃以上、150℃未満であり、処理対象物の浸漬時間は10分以上である、態様1に記載のガリウムの回収方法である。
態様5において、酸化剤は、0.35mol/L以上、5.6mol/L以下である、態様4に記載のガリウムの回収方法である。
態様6において、酸で中和した第二の水溶液は、pHが5以上、6以下である、態様1乃至態様4のいずれかに記載のガリウムの回収方法である。
態様7において、再溶解工程で使用する第三の水溶液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度が0.5mol/L以上、13.8mol/L以下である、態様1乃至態様6に記載のガリウム回収方法である。
態様8において、再溶解工程で使用する第三の水溶液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度が0.5mol/L以上、1.0mol/L以下である、態様7に記載のガリウムの回収方法である。
態様9において、再溶解工程で使用する第三の水溶液へのガリウム含有化合物の添加量は、水溶液1Lあたり5g以上、1.6kg以下である、態様1乃至態様8のいずれかに記載のガリウムの回収方法である。
態様10において、再溶解工程で使用する第三の水溶液へのガリウム含有化合物の添加量は、水溶液1Lあたり12g以上、1.6kg以下である、態様9に記載のガリウムの回収方法である。
態様11において、還元工程における電流密度が0.5A/cm以上、2.0A/cm以下である、態様1乃至態様10のいずれかに記載のガリウムの回収方法である。
態様12において、処理対象物がR-T-B系永久磁石の磁石スラッジ、または前記磁石スラッジから希土類元素を除去することで得られる酸化鉄を主成分とする残渣である、態様1乃態様11のいずれかに記載のガリウムの回収方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、不純物を低減し、液体金属としてガリウムを回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のガリウムの回収方法は、少なくとも鉄、希土類元素、ホウ素とガリウムを含む処理対象物に対して、1)1.0mol/L以上、13.8mol/L以下のアルカリ金属の水酸化物を含む第一の水溶液に浸漬して、ガリウムを第一の水溶液に溶出させる溶解工程と、2)溶解工程で得られた第二の水溶液を酸で中和することでガリウム沈殿物を生成し、ガリウム含有沈殿物を濾過することでガリウム含有化合物を得る沈殿回収工程と、3)ガリウム含有化合物をアルカリ金属の水酸化物を含む第三の水溶液に溶解する再溶解工程と、4)再溶解工程で得られた第四の水溶液に電極を設置し、通電することに電極表面に金属を電析する還元工程と、を含むことを特徴とする。
以下、本発明の詳細を説明する。
【0013】
まず、本発明の方法の適用対象となる少なくとも鉄、希土類元素、ホウ素およびガリウムを含む処理対象物は、その他の微量元素としてコバルトやアルミニウム、珪素などを含んでいてもよい。具体的には、R-T-B系永久磁石が挙げられる。とりわけ、製造工程で発生した磁石スラッジに好適に適用することができる。
【0014】
このとき、磁石スラッジは完全に酸化している状態であっても未酸化の状態であっても良い。磁石スラッジに含まれる鉄(Fe)、希土類元素(R)、ホウ素(B)およびガリウム(Ga)の濃度は、たとえばFe:35~55wt%、R:22~30wt%、B:0.7~1.0wt%、Ga:0.02~0.6wt%である。
【0015】
また、磁石スラッジから希土類元素を回収(除去)した後の残渣であってもよい。希土類元素の回収方法(除去方法)としては、例えば磁石スラッジをロータリーキルンにより完全に酸化させた後、水中に分散させ、pHが3以上になるよう調整しながら酸を滴下することで回収(除去)すればよい。この他に、完全に酸化させた磁石スラッジを、その磁石スラッジに含まれる希土類元素の3.0倍よりわずかに多いモル数の水素イオンを含む酸に浸漬し、60℃以上で8時間以上加熱処理することによっても回収(除去)することができる。これらの操作によって得られる残渣の主成分は酸化鉄である。残渣中の希土類元素、ホウ素、ガリウム濃度は、たとえばR:0.8~5.4wt%、B:1.0~1.5wt%、Ga:0.03~0.3wt%である。
【0016】
処理対象物に対して本発明の効果を十分発揮するには、処理対象物は10μm以下の粒径D50(メジアン径)を有する粉末状であることが望ましい。処理対象物の粒径D50が10μmを超えると、粒子の内部のガリウムが十分溶出しない恐れがある。なお、D50は、気流分散式レーザー回折法により測定することができる。
【0017】
溶解工程においては、処理対象物をアルカリ金属の水酸化物を含む水溶液(第一の水溶液)に浸漬させることによって、処理対象物中のガリウムを第一の水溶液中に溶解する。溶解工程で使用するアルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが使用できる。これらのアルカリ金属の水酸化物のうち1種類もしくは2種類を水に溶解して使用する。このとき、アルカリ金属の水酸化物の濃度は1.0mol/L以上、13.8mol/L以下が好ましい。アルカリ金属の水酸化物の濃度が13.8mol/Lを超えると、室温での溶解度を超えるため、添加しても無駄になる。アルカリ金属の水酸化物の濃度が1.0mol/L未満になると、ガリウムを溶解する効果が低下する。
【0018】
本発明の溶解工程においては第一の水溶液に酸化剤を添加してもよい。酸化剤を添加することによって、鉄やコバルトなどの遷移金属の溶解を抑制することができ、還元工程で生成するガリウム金属の純度を高くすることができる。酸化剤としては、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウムなどが使用できる。これらの酸化物のうち1種類もしくは2種類を第一の水溶液に溶解して使用する。このとき、酸化剤の濃度は0.01mol/L以上、5.6mol/L以下が好ましい。酸化剤の濃度が5.6mol/Lを超えると鉄やコバルトなどの遷移金属の溶出を抑制する効果が飽和し、添加しても無駄になるからである。酸化剤の濃度が0.01mol/L未満になると、コバルトの溶出を抑制する効果が低下する。また、攪拌等による効果のバラツキを考慮すると、酸化剤の濃度は0.35mol/L以上とすることがさらに好ましい。
【0019】
第一の水溶液の温度は、酸化剤を添加しない場合は50℃以上、120℃未満であることが好ましい。第一の水溶液の温度が50℃を下回ると、ガリウムの収率が低下し、効率よくガリウムを回収できなくなる恐れがある。一方、第一の水溶液の温度が120℃以上になると鉄やコバルトの溶出量が増え、後の還元工程において回収するガリウムの純度を低下させ回収物を液体として回収できなくなる恐れがある。酸化剤を添加する場合の第一の水溶液の温度は、70℃以上、150℃未満であることが好ましい。第一の水溶液の温度が70℃を下回ると鉄の溶出量が増え、後の還元工程において回収するガリウムの純度を低下させ回収物を液体として回収できなくなる恐れがある。一方、150℃以上になると処理液の沸点を超えるため、処理対象物が粉末の場合、処理液の飛散によるガリウムの回収率が低下する恐れがある。
【0020】
上述のとおりアルカリ金属の水酸化物と酸化剤の濃度、および温度を調整した第一の水溶液に処理対象物を浸漬して処理を行う。このとき、第一の水溶液と処理対象物との反応を促進するため、必要に応じて攪拌を行うことが好ましい。攪拌方法としては、攪拌羽による攪拌や、空気をバブリングすることによる攪拌法が使用できる。特に、空気のバブリングにより攪拌する方法は、空気中の酸素が酸化剤として作用することでコバルトの溶出を抑制するという点でさらに好ましい。
【0021】
第一の水溶液への浸漬時間の下限値は処理温度や酸化剤の有無によって異なる。酸化剤を含まない第一の水溶液を用い、第一の水溶液の温度が70℃以上、120℃未満の場合、および酸化剤を用いる場合は、浸漬時間は10分以上が好ましい。浸漬時間が10分未満では処理対象物の温度が設定温度に達しないため、ガリウムの溶出が十分進行しない恐れがある。酸化剤を含まない第一の水溶液を用いる場合において第一の水溶液の温度が50℃以上、70℃未満の場合は、浸漬時間は48時間以上が好ましい。浸漬時間が48時間未満になるとコバルトの溶出量が大きくなり、後の還元工程においてガリウムを液体金属として回収することが困難になる恐れがある。また、浸漬時間の上限値は生産性を考慮するといずれの場合も96時間以下であることが好ましい。
【0022】
次に、溶解工程で得られた処理液(第二の水溶液)に酸を添加して中和することでpHを調整し、ガリウムを含有する沈殿(ガリウム含有沈殿物)を作製する。そして、ガリウム含有沈殿物を濾過し、ガリウム含有化合物を得る(沈殿回収工程)。この操作によって、第二の水溶液中に含まれるホウ素などの不純物を低減した状態でガリウム含有化合物を得ることができる。pHの調整値は5以上、6以下が好ましい。pHが5未満または6を超えるとガリウム含有沈殿物の沈殿量が減少し、収率が低下する恐れがある。pH調整には、塩酸、硫酸、硝酸などの酸が使用できる。
【0023】
次に、沈殿回収工程で得られたガリウム含有化合物を再びアルカリ金属の水酸化物を含む水溶液(第三の水溶液)に溶解する(再溶解工程)。再溶解工程で使用するアルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが挙げられる。これらのアルカリ金属の水酸化物のうち1種類もしくは2種類を水に溶解して使用する。このとき、アルカリ金属の水酸化物の濃度は低いほど好ましい。具体的には、0.5mol/L以上、13.8mol/L以下とすることが好ましい。アルカリ金属の水酸化物の濃度が13.8mol/Lを超えると、アルカリ金属の水酸化物の室温での溶解度を超えるため、添加しても無駄になる恐れがある。アルカリ金属の水酸化物の濃度が0.5mol/L未満になると、溶解量が減少し、続く還元工程において電流効率の低下を招く恐れがある。さらに好ましくは、0.5mol/L以上、1.0mol/L以下がよい。アルカリ金属の水酸化物の濃度が1.0mol/L以下にすることで、水の電気分解などの副反応を抑制し、電流効率を上げることができるからである。
【0024】
再溶解工程における第三の水溶液へのガリウム含有化合物の添加量は水溶液1Lあたり5g以上が好ましい。添加量が5g未満になると続く還元工程において電流効率が低くなり、還元に必要な電力量(すなわち、処理費用)が高くなる可能性がある。また、電析物を液体金属として回収することが困難となる可能性がある。さらに好ましくは、12g以上がよい。添加量が12g以上であれば電流効率が高く、ガリウムを液体金属として回収することが可能となる。また、添加量の上限は特にないが、ガリウム含有化合物の溶解によって水酸化物イオンが消費されることを考えると、1.6kg以下が好ましい。
【0025】
最後に、再溶解工程で得られた水溶液(第四の水溶液)に、電極を設置し、通電することで電極表面に金属を電析(電解精錬)する(還元工程)。この操作により、ガリウムを金属に還元することができる。還元工程における電流密度は0.5A/cm以上、2.0A/cm以下が好ましい。電流密度が0.5A/cm未満になると、電析物への不純物の取り込み量が多くなり、ガリウムを液体金属として回収できなくなる可能性がある。一方、電流密度が2.0A/cmを超えると、電流が過剰となり、電極上にヤケなどの不具合を生じ、ガリウムの酸化物などを生成する可能性がある。
【0026】
還元工程における第四の水溶液の温度はガリウムの融点である29.78℃以上が好ましい。温度をガリウムの融点以上とすることで、電極に付着したガリウムを、液体金属として電極から容易に分離して回収することができるからである。
【0027】
還元工程では再溶解工程で溶解したガリウムがすべて電析するまで通電を行ってもよいが、電析した分のガリウムを逐次添加もしくは再溶解工程においてあらかじめ多量に添加し、電解液の濃度を一定に保つことによって、同じ組成(品質)の電析物を連続的に回収することが可能である。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0029】
R-T-B系永久磁石の製造過程で発生した約10μmの粒径を有する磁石スラッジ(自然発火防止のため水中で保管したもの)を、吸引ろ過することで脱水した。なお、ICP分析(使用装置:島津製作所社製のICPV-1017)を行うために、この磁石スラッジを酸素含有雰囲気でさらに900℃で2時間熱処理した。その結果、ガリウム濃度は0.30~0.38wt%であった。
【0030】
比較例1:
900℃での熱処理を行う前の磁石スラッジ1kgを5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液10Lに浸漬し、スターラーで攪拌しながら110℃まで温度を上げた。温度が110℃に到達したら、その温度で6h保持した。その後、室温まで冷却し、吸引濾過器により水溶液と固形の残渣に分離した。こうして得られた水溶液にはガリウムが溶解しており、その濃度は123mg/Lであった。このガリウム含有水溶液50mlを電解液として、陽極にPtめっきTiワイヤ、陰極に表面積が1cmの銅板を用いて1.0A/cmの電流密度で1hの定電流電解を行った。その結果、黒色の被膜を得ることができたが、60℃以上に温度を上げても被膜が溶融することはなかった。このとき、電流効率は0.05%であった。
【0031】
なお、電流効率は電流効率(%)をa、電析に使用された電気量(C)をb、全電気量(C)をc、電解前のGa濃度(g/L)をd、電解後のGa濃度(g/L)をe、水溶液の体積(L)をf、電流密度(A/cm)をg、電極表面積(cm)をh、時間(秒)をiとし、下記(1)~(3)式に基づいて求めた。
a=b/c×100 …(1)
b=(d-e)×f÷69.723×3×96500 …(2)
c=g×h×i …(3)
【0032】
実施例1:
比較例1と同様にして作製したガリウム含有水溶液10Lに塩酸を添加し、pHを6に調整した。生成したガリウム含有沈殿物を吸引濾過器により回収し、大気中で16h乾燥させた。それによって7.8gの固体のガリウム含有化合物を得た。EDX分析を行った結果、ガリウム含有化合物の組成は表1の通りであった。
【0033】
【表1】
【0034】
こうして得られたガリウム含有化合物4.9gを5mol/L水酸化ナトリウム水溶液100 mlに添加し、完全に溶解させた。ICP分析の結果、この水溶液のガリウム濃度は7745mg/Lであった。この水溶液50mlを電解液として用い、陽極にPtめっきTiワイヤ、陰極に表面積が1cmの銅板を用いて1A/cmの電流密度で1hの定電流電解を行った。その結果、銀色の光沢を持つ液体の電析物(液体金属のガリウム)を得ることができた。このとき、電流効率は12.9%であった。比較例1と比べて高い電流効率で、ガリウムを液体金属として回収することができた。
【0035】
実施例2:
実施例1と同様にして作成したガリウム含有化合物2.5gを2.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100mlに添加し、完全に溶解させ、ガリウム濃度が3873mg/Lの水溶液を得た。この水溶液50mlを電解液として用いて、実施例1と同様にして定電流電解を行った結果、銀色の光沢を持つ液体の電析物(液体の金属ガリウム)を得ることができた。このとき、電流効率は6.6%であった。比較例1と比べて高い電流効率で、ガリウムを液体金属として回収することができた。
【0036】
実施例3:
実施例1と同様にして作成したガリウム含有化合物1.2gを1.3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100mlに添加し、完全に溶解させ、ガリウム濃度が1936mg/Lの水溶液を得た。この水溶液50mlを電解液として用いて、実施例1と同様にして定電流電解を行った結果、銀色の光沢を持つ液体の電析物(液体の金属ガリウム)を得ることができた。このとき、電流効率は3.3%であった。比較例1と比べて高い電流効率で、ガリウムを液体金属として回収することができた。
【0037】
実施例4:
実施例1と同様にして作成したガリウム含有化合物0.5gを0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100mlに添加し、完全に溶解させ、ガリウム濃度が775mg/Lの水溶液を得た。この水溶液50mlを電解液として用いて、実施例1と同様にして定電流電解を行った結果、白色ないし銀色の光沢を持つ液体の電析物(液体の金属ガリウム)を得ることができた。このとき、電流効率は0.5%であった。比較例1と電流効率はほぼ同じであったが、電析物を液体として回収することができた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、R-T-B系永久磁石の磁石スラッジなどの、鉄、希土類元素、ホウ素とガリウムを含む処理対象物から、生産量が少なく長期的に安定な調達が懸念される希少金属であるガリウムを回収できる点において、産業上の利用可能性を有する。