(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】濃灰色焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20230516BHJP
A44C 27/00 20060101ALI20230516BHJP
A44C 5/02 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C04B35/488 500
A44C27/00
A44C5/02 Z
(21)【出願番号】P 2019123322
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
(72)【発明者】
【氏名】船越 肇
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 浩之
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-114964(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004090(WO,A1)
【文献】特開2016-216289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48-35/493
A44C 27/00
A44C 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al
2O
3換算で1.0質量%以上5.0質量%未満のアルミニウム、Mn
3O
4換算で0.7質量%を超え2.0質量%以下のマンガン、及びCo
3O
4換算で0.1質量%以上1.0質量%以下のコバルトを含有し、残部がイットリア含有ジルコニアであることを特徴とする焼結体。
【請求項2】
前記イットリア含有ジルコニアのイットリア含有量が、2.0mol%以上6.0mol%未満である請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
Al
2O
3換算したアルミニウムに対する、Co
3O
4換算したコバルトの質量割合が0を超え0.25以下である請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項4】
アルミニウム酸化物の結晶粒子を含む請求項1乃至3のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項5】
L
*a
*b
*表色系における明度L
*、色相a
*及び色相b
*が、以下を満たす請求項1乃至4のいずれか一項に記載の焼結体。
明度L
*:45≦L
*≦48
色相a
*:-1.0≦a
*≦1.0、及び、
色相b
*:-3.0≦b
*≦3.0
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はジルコニアを主相とする焼結体に関する。より詳しくは、本開示は重厚な印象を与える濃灰色を呈する焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアは、ランタノイド系希土類元素や遷移金属を着色剤として含むことで任意の呈色を示すことが知られている(例えば、特許文献1乃至3)。着色剤を含むジルコニアの焼結体は、機械用途等の従来の用途に加え、装飾部材及び外装部材等の審美性が要求される用途へ適用されてきている。用途の広がりに伴い、差別化された意匠性のみならず加工性も要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-59571号公報
【文献】特開2011-020879号公報
【文献】特開2013-126933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示では、多量のアルミニウムを含有するにも関わらず、ジルコニアを主相とし濃灰色を呈する焼結体であって、従来の濃灰色を呈する焼結体と比べ、研削深度の違いに起因し視認される色調差が抑制されたものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示においては、マンガンとアルミニウムとの複合酸化物を主な着色剤として含有する焼結体が、重厚な印象を与える濃灰色を呈することを見出した。さらに、このような焼結体は、焼結体全体が均一な色調であり、研削深度が異なる場合の視認される色調変化が抑制されることを見出した。
【0006】
すなわち、本開示の要旨は以下の通りである。
[1] Al2O3換算で1.0質量%以上5.0質量%未満のアルミニウム、Mn3O4換算で0.7質量%を超え2.0質量%以下のマンガン、及びCo3O4換算で0.1質量%以上1.0質量%以下のコバルトを含有し、残部がイットリア含有ジルコニアであることを特徴とする焼結体。
[2] 前記イットリア含有ジルコニアのイットリア含有量が、2.0mol%以上6.0mol%未満である上記[1]に記載の焼結体。
[3] Al2O3換算したアルミニウムに対する、Co3O4換算したコバルトの質量割合が0を超え0.25以下である上記[1]又は[2]に記載の焼結体。
[4] アルミニウム酸化物の結晶粒子を含む上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の焼結体。
【0007】
[5] L*a*b*表色系における明度L*、色相a*及び色相b*が、以下を満たす上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の焼結体。
明度L*:45≦L*≦48
色相a*:-1.0≦a*≦1.0、及び、
色相b*:-3.0≦b*≦3.0
【発明の効果】
【0008】
本開示により、多量のアルミニウムを含有するにも関わらず、ジルコニアを主相とし濃灰色を呈する焼結体であって、従来の濃灰色を呈する焼結体と比べ、研削深度の違いに起因し視認される色調差が抑制されたものを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る焼結体について、その実施形態の一例を示して説明する。
【0010】
本実施形態における焼結体は、ジルコニア、特にイットリア含有ジルコニア、を主相(マトリックス)とする焼結体であって、主として、ジルコニアの結晶粒子から構成される焼結体、いわゆるジルコニア焼結体である。
【0011】
イットリアはジルコニアの色調へほとんど影響することなく安定化剤として機能する。イットリア含有ジルコニアのイットリア含有量は、2.0mol%以上6.0mol%未満であることが好ましく、2.0mol%以上5.0mol%以下であることがより好ましく、2.6mol%以上3.4mol%以下であることが更に好ましい。
【0012】
イットリア含有量は、焼結体中のジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)の合計に対する、イットリアのモル割合(mol%)である。
【0013】
本実施形態の焼結体は、Al2O3(アルミナ)換算で1.0質量%以上5.0質量%以下のアルミニウム(Al)を含有する。好ましくは、アルミニウム含有量はAl2O3換算で2.0質量%以上4.0質量%以下である。アルミニウムの含有量が上記の範囲であることで、焼結体が少なくともアルミナの結晶粒子を含む。
【0014】
本実施形態の焼結体は、Mn3O4(酸化マンガン)換算で0.7質量%を超え2.0質量%以下のマンガン(Mn)を含有する。好ましくは、マンガン含有量はMn3O4換算で0.5質量%以上1.5質量%以下である。
【0015】
本実施形態の焼結体は、Co3O4(酸化コバルト)換算で0.1質量%以上1.0質量%以下のコバルト(Co)を含有する。好ましくは、コバルト含有量はCo3O4換算で0.2質量%以上0.5質量%以下である。
【0016】
イットリア含有ジルコニアの含有量は、アルミニウム、マンガン及びコバルトの残部であればよく、例えば、69.0質量%以上94.4質量%以下である。
【0017】
本実施形態の焼結体は、アルミニウムに対してコバルトが十分に少ない量であることが好ましく、Al2O3換算したアルミニウムに対する、Co3O4換算したコバルトの質量割合(以下、「Co/Al比」ともいう。)が0を超え0.25以下であることが好ましく、0.01以上0.2以下であることがより好ましい。
【0018】
本実施形態の焼結体におけるアルミニウム、マンガン及びコバルトの各元素は着色剤として機能する。焼結体におけるこれら元素の存在状態は任意であるが、アルミニウム、マンガン、及びコバルトの群から選ばれる1つ以上を含む酸化物であることが挙げられる。アルミニウム酸化物としてアルミナ(Al2O3)が、コバルト酸化物としてCoO、Co2O3、及びCo3O4の群から選ばれる少なくとも1つが、マンガン酸化物としてMnO、Mn2O3及びMnO2の群から選ばれる少なくとも1つが、例示できる。
【0019】
本実施形態の焼結体は、アルミニウム及びマンガンを含む複合酸化物を含有することが好ましく、アルミニウム及びマンガンを含む複合酸化物にコバルトが固溶したもの、を含有することがより好ましい。
【0020】
本実施形態の焼結体は、イットリア含有ジルコニアの結晶粒子に加え、アルミニウム酸化物の結晶粒子、並びに、アルミニウム、マンガン及びコバルトの群から選ばれる1つ以上を含む酸化物の結晶粒子、から構成されることが好ましい。
【0021】
さらに、アルミニウム、マンガン及びコバルトは、それぞれ、その一部がイットリア含有ジルコニアに固溶した状態であってもよい。
【0022】
本実施形態の焼結体はアルミニウム、マンガン及びコバルト以外の着色剤を含む必要はなく、例えば、鉄の含有量がFe2O3換算で0.01質量%未満であることが挙げられる。
【0023】
本実施形態の焼結体は色調に影響を与えない程度であれば不純物を含んでいてもよい。しかしながら、焼結体の色調に影響を与える不純物を含まないことが好ましく、色調に影響を与える不純物として、スズ、亜鉛、鉛、クロム及びカドミウムの群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、これら不純物の含有量は、それぞれ、500質量ppm以下であること、好ましくは100質量ppm以下であることが挙げられる。
【0024】
本実施形態の焼結体におけるイットリア含有ジルコニアの平均結晶粒径は0.2μm以上2μm以下、更には1μm以下であることが好ましい。平均結晶粒径が2μm以下であることで、装飾品等の部材として使用するのに十分な強度となる。
【0025】
本実施形態において、イットリア含有ジルコニアの平均結晶粒径は、インターセプト法で求めることが好ましく、本実施形態の焼結体の走査型顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察図で観察されるジルコニアの結晶粒子の無作為に200±50個の抽出し、抽出した結晶粒子の結晶径をインターセプト法で求めた平均値として求めることができる。
【0026】
イットリア含有ジルコニアの結晶粒子は、最大粒径が30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0027】
本実施形態の焼結体のジルコニアの結晶構造は正方晶を含み、結晶構造の主相が正方晶であることが好ましい。また、本実施形態の焼結体のジルコニア結晶構造は、正方晶及び立方晶の混晶であってもよい。正方晶は光学的に異方性を有する結晶構造である。正方晶を含むことによって光が反射されやすくなるため、焼結体の色調が透明感を有さなくなる。これに加え、アルミニウム酸化物の結晶粒子の存在により、焼結体全体としてムラが抑制された濃灰色を呈する。さらに、ジルコニア結晶構造の主相が正方晶であることによって、本実施形態の焼結体が高い強度を有する。
【0028】
本実施形態の焼結体、JIS R 1634に準じた方法で測定される密度(以下、「実測密度」ともいう。)が5.805g/cm3以上6.065g/cm3以下である、好ましくは5.825g/cm3以上6.042g/cm3以下であることが例示できる。このような密度は、相対密度として、95.0%以上、好ましくは99.0%以上、より好ましくは97.0%以上99.9%以下に相当する密度である。
【0029】
本実施形態において、相対密度は、真密度(g/cm3)に対する実測密度(g/cm3)の割合(%)で求めることができる。
【0030】
色調はJIS Z 8722に準拠したCIE1976L*a*b*表色系にて、一般的な分光測色計、例えばコニカミノルタ社製CM-700d、を使用したSCI方式によって測定することができる。
【0031】
本実施形態の焼結体の色調は、L*a*b*表色系における明度L*、色相a*及び色相b*といして、以下を満たすことが好ましい。
明度L*:45≦L*≦48、好ましくは45≦L*≦47
色相a*:-1.0≦a*≦1.0、好ましくは-0.5≦a*≦0.5、及び、
色相b*:-3.0≦b*≦3.0、好ましくは-3.0≦b*≦2.0
【0032】
本実施形態の焼結体は、上記の明度L*、色相a*又は色相b*のいずれかを満たすものではなく、上述の明度L*、色相a*及び色相b*を満たすことで、濃灰色に近い色調ではなく、黒色に極めて近い濃灰色の色調を呈する。
【0033】
本実施形態の焼結体は、以下の式から求められる色差△E1が2.0以下であり、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。これにより、焼結条件、特に焼成温度、が変わった場合であっても、目視による色調の変化が認識されにくくなる。
色差△E1={(L1
*-L2
*)2+(a1
*-a2
*)2+(b1
*-b2
*)2}0.5
【0034】
上記式において、L1
*、a1
*及びb1
*は、それぞれ、焼結温度T1で焼結して得られた焼結体の明度L*、色相a*及びb*である。L2
*、a2
*及びb2
*は、それぞれ、焼結温度T2で焼結して得られた焼結体の明度L*、色相a*及びb*であり、なおかつ、T2(℃)=T1-20(℃)ある。
【0035】
本実施形態の焼結体は、以下の式から求められる色差△E2が2.0以下であり、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。これにより、焼結体表面からの研削深度を変動させて意匠面を形成しても、目視による色調の変化が認識されにくくなる。
色差△E2={(L3
*-L4
*)2+(a3
*-a4
*)2+(b3
*-b4
*)2}0.5
【0036】
上記式において、L3
*、a3
*及びb3
*は、それぞれ、焼結体表面近傍の明度L*、色相a*及びb*である。L4
*、a4
*及びb4
*は、それぞれ、焼結体を焼結体表面から焼結体内部方向に向かって0.4mm加工した研削面の明度L*、色相a*及びb*である。焼結体表面近傍とは、焼結後の焼結体(焼肌の焼結体)表面に対する深度が0.2mmとなる研磨面である。
【0037】
本実施形態の焼結体は、JIS R 1601に準じた方法により測定される三点曲げ強度が800MPa以上1600MPa以下であり、好ましくは1000MPa以上1550MPa以下であり、より好ましくは1350MPa1500PMa以下である。これにより、適度に加工できる強度を有し、なおかつ、外装部材や装飾部材等、審美性が必要とされる主な用途に使用できる強度となる。
【0038】
本実施形態の焼結体は、宝飾品、時計部品、携帯用電子機器の外装部品等の様々な装飾部材への適用はもちろん、構造材料、光学材料、歯科材料等、従来のジルコニア焼結体の用途へも適用できる。
【0039】
次に、本実施形態の焼結体の製造方法について説明する。
【0040】
本実施形態の焼結体は、Al2O3換算で3.0質量%以上30.0質量%以下のアルミニウム化合物、Mn3O4換算で0.7質量%を超え2.0質量%以下のマンガン化合物、及びCo3O4換算で0.1質量%以上1.0質量%以下のコバルト化合物を含み、残部がイットリア含有ジルコニアである組成物を含む成形体を焼結する工程、を有する製造方法により製造することができる。
【0041】
組成物は、アルミニウム化合物、マンガン化合物、コバルト化合物及びイットリア含有ジルコニアが均一に混合された状態の組成物である。
【0042】
アルミニウム化合物は、アルミニウム(Al)を含有する化合物又は塩であればよく、アルミナ(Al2O3)又はその前駆体となるアルミニウム化合物であることが好ましく、アルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム及び塩化アルミニウムの群から選ばれる1以上であることが好ましく、アルミナであることがより好ましく、α-アルミナであることが更に好ましい。
【0043】
マンガン化合物は、マンガン(Mn)を含有する化合物又は塩であればよく、酸化マンガン、水酸化マンガン、オキシ水酸化マンガン、硝酸マンガン、及び塩化マンガンの群から選ばれる1以上であることが好ましく、酸化マンガン(MnO)、二酸化マンガン(MnO2)、及び四三酸化マンガン(Mn3O4)の群から選ばれる1以上であることがより好ましい。
【0044】
コバルト化合物は、コバルト(Co)を含有する化合物又は塩であればよく、酸化コバルト(II)、四三酸化コバルト、水酸化コバルト、硝酸コバルト及び塩化コバルトの群から選ばれる1つ以上であることが好ましく、酸化コバルト(II)、四三酸化コバルト及び水酸化コバルトの群から選ばれる1以上であることがより好ましい。
【0045】
組成物は、アルミニウム、マンガン及びコバルトの群から選ばれる2以上を含む複合酸化物を含んでいてもよい。
【0046】
イットリア含有ジルコニアは、イットリア安定化ジルコニアであることが好ましく、イットリアを含有する水和ジルコニアゾルが熱処理された状態のイットリア安定化ジルコニアであることがより好ましい。イットリア含有ジルコニアのイットリア含有量は2.0mol%以上4.0mol%以下であり、好ましくは2.5mol%以上3.5mol%以下である。
【0047】
組成物は、例えば、アルミニウム化合物、マンガン化合物、コバルト化合物及びイットリア含有ジルコニアを任意の方法で混合することで得られるが、アルミニウム化合物、マンガン化合物及びコバルト化合物の混合物と、イットリア安定化ジルコニアとを混合して得られた組成物であることが好ましい。アルミニウム化合物、マンガン化合物及びコバルト化合物の混合物としては、例えば、アルミニウム化合物、マンガン化合物及びコバルト化合物を粉砕混合して得られる混合物が挙げられ、平均粒子径が0.2μm以上1.0μm以下であることが挙げられる。
【0048】
成形体は組成物が成形された状態のものである。成形体は、焼結による収縮を考慮した上で任意の形状を有していればよい。成形体の形状は、用途に応じた任意形状であればよく、円板状、円柱状、多面体状、柱状、板状、球状又は略球状が例示できる。
【0049】
成形体は、公知の方法、例えば、一軸プレス、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及び射出成形の群から選ばれる少なくとも1種、によって、組成物を成形することで得られる。
【0050】
成形体を焼結することで、これが焼結体となる。焼結方法は任意であり、常圧焼結、ホットプレス、熱間静水圧プレス又はプラズマ焼結等、公知の焼結方法が挙げられる。簡便であるため、焼結方法は常圧焼結であることが好ましく、大気雰囲気での常圧焼結を挙げることができる。なお、常圧焼結とは焼結時に被焼結物に対して外的な力を加えず単に加熱することにより焼結する方法である。
【0051】
常圧焼結の場合、保持温度が1300℃を超え1550℃以下、好ましくは1350℃以0上1550℃以下であること、保持時間が1時間以上5時間以下、好ましくは2時間以上4時間以下であること、が例示できる。昇温時に1300℃以下の温度範囲の特定温度では保持しないことが好ましく、例えば1300℃以下の温度範囲の保持時間が30分以下であることが好ましい。
【0052】
常圧焼結後、焼結体を熱間静水圧プレス(以下、「HIP」ともいう。)処理してもよい。HIP処理の条件として、HIP処理雰囲気としてアルゴン雰囲気又は窒素雰囲気、HIP処理圧力として50MPa以上200MPa以下、HIP処理温度として1400℃以上1550℃以下、及び、HIP処理温度での保持時間として30分以上4時間以下、が例示できる。
【0053】
焼結後の焼結体は、必要に応じて研磨又は形状加工等、任意の加工を施してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。評価方法を以下に説明する。
【0055】
(色調の測定)
JIS Z 8722に準じた方法により、焼結体試料の色調を測定した。測定には、一般的な分光測色計(装置名:CM-700d、コニカミノルタ社製)を用いた。測定条件は以下のとおりである。
光源 : F2光源
視野角 : 10°
測定方式 : SCI方式
【0056】
焼結体試料サイズは、直径20mm×厚さ2.7mmのものとし、焼成面から0.2mm研削し研磨した面を色調評価面とした。色調評価有効面積は直径10mmを採用した。
【0057】
(三点曲げ強度)
曲げ試験は、JIS R 1601に準じた三点曲げ試験により測定した。測定は10回行い、その平均値をもって三点曲げ強度とした。測定は、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体試料を用い、支点間距離30mmとして実施した。
【0058】
(焼結体の実測密度)
JIS R 1634に準じた測定法により焼結体の実測密度を測定した。測定に先立ち乾燥後の焼結体の質量を測定した後,焼結体を水中に配置し、これを1時間煮沸することで前処理とした。
【0059】
(平均結晶粒径)
焼結体試料のイットリア含有ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径はインターセプト法により測定した。鏡面研磨した後の焼結体試料を熱エッチングし、その表面を走査型顕微鏡にて20,000倍で観察した。得られたSEM観察図からインターセプト法(k=1.78)によりジルコニアの結晶粒子の平均粒子径を測定した。測定したジルコニアの結晶粒子の粒子数は200±50個とした。
【0060】
実施例1
高純度アルミナ(Al2O3)粉末(住友化学製)、酸化コバルト(Co3O4)粉末(キシダ化学製)、及び、酸化マンガン(Mn3O4)粉末(東ソー日向製)に純水を混合し、ボールミルを使用して湿式混合してスラリーとした。当該スラリーに、加水分解法で水和ジルコニアゾルを焼成して得られた、BET比表面積が6.8m2/gである3mol%イットリア含有ジルコニア粉末を添加し、更に湿式混合したのち、これを大気中、100~130℃で乾燥して、Co/Al比が0.12であり、以下の組成を有する混合粉末を得た。
Al2O3 : 3.0質量%
Mn3O4 : 0.8質量%
Co3O4 : 0.35質量%
3mol%Y2O3含有ZrO2 : 残部
【0061】
乾燥後の混合粉末を金型に充填し、タッピングにより均一にした後、一軸成形圧1000kg/cm2で成形して成形体を得、これを以下のいずれかの焼結温度で常圧焼結して、本実施例の焼結体を3点得た。焼結条件は以下の通りである。
焼結雰囲気 : 大気中
焼結温度 : 1430℃、1450℃又は1470℃
昇温速度 : 100℃/時間
焼結時間 : 2時間
【0062】
本実施例の焼結体は、いずれも、アルミニウムを3.0質量%、マンガンを0.8質量%、及びコバルトを0.35質量%含有し、残部がイットリア含有量3mol%のイットリア含有ジルコニアからなる焼結体であり、Co/Al比は0.12であった。また、いずれの焼結体の密度も、相対密度として99.9%に相当する値であった。焼結温度1450℃で得られた焼結体の平均結晶粒径は0.68μmであった。
【0063】
得られた焼結体の表面(焼肌面)及び、焼肌面を0.2mm研磨した後の表面(研磨面)をそれぞれ目視にて観察した結果、いずれも重厚な濃灰色を呈していた。また、得られた3つの焼結体の研磨面の色差△E1は0.33~0.65であり、目視による色調変化は見られなかった。
【0064】
実施例2
混合粉末としてCo/Al比が0.13であり、以下の組成を有する粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、本実施例の焼結体を3点得た。
Al2O3 : 3.0質量%
Mn3O4 : 0.9質量%
Co3O4 : 0.4質量%
3mol%Y2O3含有ZrO2 : 残部
【0065】
本実施例の焼結体は、いずれも、アルミニウムを3.0質量%、マンガンを0.9質量%、及びコバルトを0.4質量%含有し、残部がイットリア含有量3mol%のイットリア含有ジルコニアからなる焼結体であり、Co/Al比は0.13であった。また、いずれの焼結体の密度も、相対密度として99.9%に相当する値であった。
【0066】
得られた焼結体の表面(焼肌面)及び、焼肌面を0.2mm研磨した後の表面(研磨面)をそれぞれ目視にて観察した結果、いずれも重厚な濃灰色を呈していた。また、得られた3つの焼結体の研磨面の色差△E1は0.37~0.67であり、目視による色調変化は見られなかった。
【0067】
これらの結果より、実施例の焼結体は焼結温度による色調変化が生じないことが確認できた。結果を下表に示す。
【0068】
【表1】
(研削面の色調評価)
実施例1乃至3において、焼結温度1450℃で焼結して得られた焼結体の三点曲げ強度を測定した。また、これらの焼結体を、それぞれ、表面から厚み方向に0.4mm研削し、研削面とした。当該研削面と、研削前の表面(研磨面)との色差を示す。
【0069】
【表2】
表2より、研削加工前後の式差△E
2は0.5以下であり、目視による色調変化は確認できなかった。これより、実施例の焼結体は表面及び内部とも同等に重厚な濃灰色を呈することが確認できる。いずれの焼結体も最大粒径が6μm以下であり、三点曲げ強度も1300MPaを超え1500MPa以下と、加工に適した強度を有することが確認できる。