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特許7279546ニッケル酸化鉱石の浸出処理方法及びこれを含む湿式製錬方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の浸出処理方法及びこれを含む湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20230516BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20230516BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20230516BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/08
C22B3/22
C22B3/44 101A
C22B3/44 101B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019123475
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2021008654
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】中川 英一
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-085620(JP,A)
【文献】特開2019-035113(JP,A)
【文献】特開平09-194211(JP,A)
【文献】特開2013-159790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム及びマグネシウムを含有するニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーに硫酸を添加し、高温高圧条件下で硫酸浸出処理を施すことでニッケルを含む浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する浸出処理方法であって、
前記浸出液の遊離硫酸濃度が、前記ニッケル酸化鉱石のマグネシウム含有率に対するアルミニウム含有率の比に応じた所定の範囲内に収まるように前記硫酸の添加量を調整することを特徴とするニッケル酸化鉱石の浸出処理方法。
【請求項2】
前記比が2.0以上の場合は前記浸出液の前記遊離硫酸濃度が32g/L以上38g/L以下の範囲内となるように前記硫酸の添加量を調整し、前記比が2.0未満の場合は前記浸出液の前記遊離硫酸濃度が38g/Lを超え50g/L以下の範囲内となるように前記硫酸の添加量を調整することを特徴とする、請求項に記載のニッケル酸化鉱石の浸出処理方法。
【請求項3】
前記硫酸浸出処理を、高温高圧反応用の反応容器からなるオートクレーブ内において反応温度220~260℃で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の浸出処理方法。
【請求項4】
原料の前記ニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーに対して請求項1~のいずれか1項に記載のニッケル酸化鉱石の浸出処理方法を用いて浸出処理する高圧硫酸浸出工程と、該浸出処理により生成したニッケルを含む前記浸出液を浸出残渣から分離する固液分離工程と、該固液分離工程で得た前記浸出液に中和剤を添加して不純物を除去する中和工程と、該中和工程で不純物が除去された前記浸出液に硫化剤を添加して該ニッケルを硫化物の形態で回収する硫化工程とからなることを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温高圧下において硫酸を添加することで行うニッケル酸化鉱石の浸出処理方法及びこれを含む湿式製錬方法に関し、特に、遊離硫酸濃度を調整することによってアルミニウム浸出率を制御しながら行うニッケル酸化鉱石の浸出処理方法及びこれを含む湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル品位の低い低品位ニッケル酸化鉱石からニッケルやコバルト等の有価金属を回収する方法として、例えば特許文献1に開示されているような高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leach)法による湿式製錬プロセスが知られている。この湿式製錬プロセスは、原料の低品位ニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーに対して、高温高圧下で硫酸により浸出処理した後、引き続き湿式で処理して該有価金属を硫化物の形態で回収するものであり、低品位の原料鉱石から効率よく有価金属を回収することが可能になる。
【0003】
上記の高圧酸浸出法による湿式製錬プロセスは、一般的には下記の一連の湿式処理工程で構成されている。すなわち、原料としての低品位ニッケル酸化鉱石のニッケル品位や粒度を調整すると共に、水を添加して鉱石スラリーに調製する鉱石調合工程と、該鉱石スラリーを硫酸と共にオートクレーブと称する高圧反応用の反応容器に導入して高温加圧下でニッケルの硫酸浸出処理を行う浸出工程と、該浸出工程で生成した浸出スラリー中に残留する遊離硫酸を石灰石を用いて中和処理する予備中和工程と、該予備中和工程で中和処理された浸出スラリーを固液分離して浸出残渣が除去された貴液(浸出液)を得る固液分離工程と、該貴液を中和処理して主に鉄からなる不純物を除去することで中和終液を得る中和工程と、該中和終液に含まれる主に亜鉛からなる不純物を除去することでニッケル回収用母液を得る浄液工程と、該ニッケル回収用母液に硫化水素ガスを添加してニッケル及びコバルトを混合硫化物の形態で回収する硫化工程と、該混合硫化物の回収の際に排出される貧液及び上記固液分離工程から排出される浸出残渣をテーリングダムへ送液する前に中和処理して重金属類を所定の濃度まで除去する最終中和工程とから主に構成される。
【0004】
上記のHPAL法では、処理能力を高めるために様々な技術が導入されている。例えば上記特許文献1には、浸出処理終了時の遊離硫酸の濃度を35~45g/Lに調整する技術が開示されており、これにより浸出残渣の真密度が向上するので高密度の浸出残渣が安定的に生成され、結果的に浸出残渣を含むスラリーの固液分離性を向上できると記載されている。また、特許文献2には、上記の固液分離工程において、直列に接続した複数のシックナーを用いて多段洗浄しながら浸出残渣を沈降分離する技術が開示されている。なお、この特許文献2では、該多段洗浄の洗浄液に、上記硫化工程から排出される貧液が用いられている。
【0005】
更に特許文献3には、高圧硫酸浸出工程における酸素消費量をコントロールするため、鉱石スラリー中のMg+Alの品位を1.5~4.5%程度となるようにブレンドする技術が開示されている。また、特許文献4には、高いニッケル浸出率を維持しながら硫酸使用量を低減するため、浸出スラリー中の遊離硫酸濃度が所定の濃度となるように、鉱石スラリー中のMg/Ni比に応じて硫酸の添加量を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-350766号公報
【文献】特開2019-000834号公報
【文献】特開2014-037632号公報
【文献】特開2019-035113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、原料のニッケル酸化鉱石にはアルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)が不純物として含まれており、これらの品位が変動すると上記浸出液中のアルミニウム濃度やマグネシウム濃度も変動し、場合によっては上記予備中和工程においてアルミニウム水酸化物からなる澱物の発生量が増大し、後工程の固液分離の負荷が過負荷になったり、該固液分離後の液相の清澄度が悪化したりする問題が生ずることがあった。また、アルミニウム水酸化物からなる澱物は粒径が小さく比重が軽いため固液分離されにくく、上記清澄度がより一層悪化することがあった。
【0008】
このように、原料鉱石のアルミニウム品位やマグネシウム品位が変動すると、浸出工程以降の運転が不安定になり、湿式製錬プロセス全体としての処理能力が低下することがあった。本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、高温高圧下での硫酸浸出処理の原料として用いるニッケル酸化鉱石のAl品位やMg品位が変動しても、該硫酸浸出処理の際のアルミニウム浸出率を低く抑える方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、高温高圧条件下での硫酸浸出処理の原料として用いるニッケル酸化鉱石のAl/Mg比に応じて添加する硫酸量を調整することで、アルミニウム浸出率を低く抑えうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るニッケル酸化鉱石の浸出処理方法は、アルミニウム及びマグネシウムを含有するニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーに硫酸を添加し、高温高圧条件下で硫酸浸出処理を施すことでニッケルを含む浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する浸出処理方法であって、前記浸出液の遊離硫酸濃度が、前記ニッケル酸化鉱石のマグネシウム含有率に対するアルミニウム含有率の比に応じた所定の範囲内に収まるように前記硫酸の添加量を調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルミニウム浸出率を低く抑えることができるので、湿式製錬プロセス全体としての処理能力が低下するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るニッケル酸化鉱石の浸出処理方法が好適に含まれる湿式製錬方法のブロックフロー図である。
図2図1の湿式製錬方法が有する固液分離工程において好適に行われる連続向流洗浄法の模式的なプロセスフロー図である。
図3】本発明の実施例の浸出処理方法で使用した鉱石原料のAl/Mg比とそれらの浸出処理時のアルミニウム浸出率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るニッケル酸化鉱石の浸出処理方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。先ず、本発明の実施形態に係るニッケル酸化鉱石の浸出処理方法を含んだ一連の湿式処理工程からなる湿式製錬方法について説明し、次に、この湿式製錬方法に含まれる本発明の実施形態に係る浸出処理方法について説明する。
【0014】
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
本発明の実施形態に係る浸出処理方法を含んだニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、原料のニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーに対して高圧酸浸出法(HPAL法)によりニッケル及びコバルトを浸出した後、得られた浸出液に含まれる鉄や亜鉛等の不純物の除去処理を経て該ニッケル及びコバルトを混合硫化物の形態で回収するものである。
【0015】
具体的には、図1に示すように、このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル品位等を調整すべく複数種類のニッケル酸化鉱石を混合すると共に、水を加えて湿式で分級することで鉱石スラリーを調製する鉱石調合工程S1と、得られた鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す高圧硫酸浸出工程S2と、該浸出処理により得た浸出スラリーに中和剤を添加してpH調整を行う予備中和工程S3と、該pH調整された浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離することで浸出残渣の分離除去を行う固液分離工程S4と、該浸出残渣の分離除去により得たニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液に中和剤を添加することで該不純物元素を含む中和澱物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S5と、該中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る浄液工程S6と、該ニッケル回収用母液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を生成し、これを固液分離により回収する硫化工程S7と、上記固液分離工程S4で分離除去された遊離硫酸を含む浸出残渣の中和処理、及び上記硫化工程S7の固液分離の際に排出されるマグネシウム、アルミニウム、鉄等の不純物を含む貧液の中和処理を行う最終中和工程S8とから主に構成される。以下、これら一連の湿式処理工程の各々について詳細に説明する。
【0016】
(1)鉱石調合工程S1
鉱石調合工程S1では、リモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱に代表されるニッケル酸化鉱石が原料鉱石として用いられ、所望のニッケル品位や不純物品位となるように、ロット等が異なる複数種類の該ニッケル酸化鉱石を混合すると共に、粉砕機やスクリーンに導入してある程度粒径をそろえた後、湿式分級装置に水と共に導入してオーバーサイズの鉱石粒子を除去する。これにより、該湿式分級装置の篩下側から所定の粒度を有するニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを回収する。
【0017】
上記の湿式分級装置については、原料のニッケル酸化鉱石に対して所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子や夾雑物を除去し、篩下側に水と共にアンダーサイズの鉱石粒子を効率よく回収できるものであれば特に限定はなく、例えば、一般的な湿式振動篩やトロンメル等の回転式湿式篩を好適に用いることができる。また、この湿式分級装置で採用する分級点についても特に限定はないが、篩下側に回収されるニッケル酸化鉱石が後工程の高圧硫酸浸出工程において効率よく浸出処理されるようにするため、適切な目開きを有する篩が選定される。
【0018】
(2)高圧硫酸浸出工程S2
高圧硫酸浸出工程S2では、上記鉱石調合工程S1で調製されたニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを、硫酸と共に反応容器に導入し、圧力3.0~5.0MPaG程度、温度220~260℃程度の高温高圧条件下で浸出処理を行う。これにより、浸出反応と高温熱加水分解反応とが生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化とが行われ、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーが生成される。なお、上記の反応容器には、内部が堰により複数の区画室に区画された横型円筒形状のオートクレーブと称する高温高圧反応用の圧力容器が好適に用いられる。
【0019】
上記の鉱石スラリーに添加する硫酸の添加量は、ニッケル酸化鉱石中の鉄が浸出されるように過剰に添加される。その際、高圧硫酸浸出工程S2では、後工程の固液分離工程S4におけるヘマタイトを含む浸出残渣の固液分離性向上の観点から、上記浸出液のpHが0.1~1.0となるように硫酸の添加量を調整することが好ましい。なお、この浸出処理では、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、浸出液には、ニッケル、コバルト等の有価金属のほか、2価と3価の鉄イオンが含まれる。
【0020】
(3)予備中和工程S3
予備中和工程S3では、上記高圧硫酸浸出工程S2にて得た浸出スラリーに中和剤を添加して該浸出スラリーのpHを所定範囲内に調整する。上述したように、高圧硫酸浸出工程S2では、上記有価金属の浸出率を向上させるため、該有価金属の浸出に必要な硫酸の化学量論量よりも過剰の硫酸をオートクレーブに供給する。そのため、該浸出処理後にオートクレーブから抜き出される浸出スラリーは、浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸を含んでおり、そのpHは非常に低い。この余剰の硫酸を中和して、次工程の固液分離工程S4における多段洗浄を効率よく行うため、この予備中和工程S3では浸出スラリーのpHを所定の範囲に調整する。
【0021】
具体的には、固液分離工程S4に供給する浸出スラリーのpHが2~6程度となるようにpHを調整することが好ましい。このpHが2より低いと、後工程の設備を耐酸性とするためにかなりのコストが必要となる。逆にこのpHが6より高いと、浸出液中に浸出したニッケルが上記多段洗浄の過程で沈殿し、浸出残渣と共に除去されるのでニッケルの回収率が下がるうえ、該多段洗浄の洗浄効率が低下するおそれがある。
【0022】
予備中和工程S3では、後の中和工程S5でのpH変動幅の抑制、及び浄液工程S6や硫化工程S7での反応効率の向上の観点から、固液分離工程S4に供給する浸出スラリーのpH値を高めに設定しておくことが好ましい。しかしながら、浸出スラリーのpH値が高くなると、該浸出スラリー中に含まれる微粒子成分によるSS(懸濁物質)の量が増加するため、後工程の固液分離工程S4において沈降性が悪化して固液分離が不十分になったり、浄液工程S6において濾過機が目詰まりし易くなったりする問題が生ずることがあった。この問題を抑制するため、予備中和工程S3では、上記の固液分離工程S4に供給する浸出スラリーの液相部のpHが2.5~3.4となるように調整することがより好ましい。このpHの調整方法には特に限定はないが、例えば炭酸カルシウムスラリー等の中和剤の添加量を調整することによって上記のpHの範囲内に好適に調整することができる。
【0023】
(4)固液分離工程S4
固液分離工程S4では、上記予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを多段洗浄すると共に浸出残渣を重力沈降により分離除去することで、ニッケル及びコバルトのほか、不純物元素として亜鉛を含む浸出液を得ることができる。この固液分離工程S4では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後にシックナーなどの沈降分離装置を用いて固液分離することで、先ず浸出スラリーが洗浄液により希釈され、その後、沈降分離により浸出スラリー中の浸出残渣がシックナーの底部に沈降して濃縮スラリーの形態で排出される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。
【0024】
上記シックナーによる固液分離では、図2に示すような、直列に接続された複数のシックナーT~Tに上記浸出スラリーと洗浄液とを互いに向流になるように導入して多段で洗浄させる連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation法)を用いるのが好ましい。すなわち、連続する複数のシックナーT~Tのうち、最上流のシックナーTには予備中和工程S3でpH調製した浸出スラリーを導入し、最下流のシックナーTには洗浄液を導入する。
【0025】
上記複数のシックナーT~Tの各々においては、底部から抜き出される濃縮スラリーはスラリーポンプPを介して直ぐ下流側のシックナーに移送され(最下流シックナーTの濃縮スラリーは最終中和工程S8に移送される)、一方、上端部からオーバーフローする清澄液は直ぐ上流側のシックナーに移送される(最上流シックナーTの清澄液は中和工程S5に移送される)。これにより、浸出スラリーに含まれる残渣に付着している可溶性ニッケルやコバルトの量を低下させることができるので系内に新たに導入する洗浄液を削減できると共に、ニッケル及びコバルトの回収率を向上させることができる。なお、各シックナーには凝集剤を添加して浸出残渣を凝集させるのが好ましく、これにより沈降分離性をより一層高めることができる。
【0026】
上記最上流のシックナーTの上端部からオーバーフローする清澄液は、貴液として後工程の中和工程S5に送られる。固液分離工程S4では、この貴液の清澄性を高く維持することが好ましく、これにより後工程の中和工程S5や浄液工程S6において用いる濾過機などの固液分離装置の固液分離性が向上し、結果的に本湿式製錬プロセス全体としての生産性が向上する。すなわち、貴液の清澄度が低くて多くの浮遊粒子が含まれていると、例えば濾過機ではその圧力損失がすぐに増大して通液流量が早い段階で低下してしまい、この濾過機がネックになってプロセス全体の処理能力が低下してしまうおそれがある。
【0027】
上記の洗浄液には、ニッケルをほとんど含まず且つ固液分離工程S4以降の反応にほぼ悪影響を及ぼさない低pHの水溶液を用いるのが好ましく、特に、pH1~3程度の水溶液を用いるのがより好ましい。この洗浄液のpHが3よりも高いと、浸出液中にアルミニウムが含まれる場合には嵩の高いアルミニウム水酸化物が生成され、上記のシックナー内において浸出残渣の沈降不良の原因となるおそれがある。上記の条件を満たす洗浄液としては、限定するものではないが、例えば後工程の硫化工程S7から排出される貧液はpHが1~3程度であるので、これを繰り返して利用するのが好ましい。
【0028】
(5)中和工程S5
中和工程S5では、上記固液分離工程S4にて浸出残渣を分離除去することで得られる貴液(浸出液)に炭酸カルシウム等の中和剤を添加してpH調整し、これにより該貴液に含まれる不純物元素から中和澱物を生成する。この中和澱物をシックナー等を用いて分離除去してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を回収する。上記のpH調整では、該貴液の酸化を抑制しながら、中和終液のpHが好適には4以下、より好適には3.0~3.5、最も好適には3.1~3.2になるように該中和剤の添加量を調整する。これにより、高圧硫酸浸出工程S2で過剰に添加した硫酸を中和してニッケル回収用の母液の元になる中和終液を生成すると共に、該浸出液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物を中和澱物として除去することができる。なおこの中和澱物は、前工程の固液分離工程S4に戻してもよい。
【0029】
(6)浄液工程S6
浄液工程S6では、前工程の中和工程S5で生成した中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施し、これにより生成する亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。上記の硫化処理は、例えば微加圧された低圧反応槽内に該中和終液を導入しながら、該低圧反応槽の気相部に硫化水素ガスを吹き込むことによって行うのが好ましい。これにより、ニッケル及びコバルトに対して亜鉛を選択的に硫化して亜鉛硫化物として除去することができ、ニッケル回収用母液としての脱亜鉛終液を効率よく生成することができる。
【0030】
(7)硫化工程S7
硫化工程S7では、上記浄液工程S6で生成した脱亜鉛終液を硫化反応始液として硫化処理することで、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物を生成する。具体的には、該硫化反応始液を加圧された硫化反応槽に装入すると共に、この硫化反応槽内の気相部分に硫化水素ガスを吹き込み、硫化反応始液中に硫化水素ガスを溶解させる。これにより硫化反応を生じさせて、該硫化反応始液中に含まれるニッケル及びコバルトを混合硫化物として固定化させる。このニッケル及びコバルト混合硫化物を含むスラリーを、該硫化反応槽から抜き出してシックナー等の固液分離装置で固液分離することで、該混合硫化物を回収することができる。
【0031】
上記固液分離装置がシックナーの場合は、重力沈降により分離した混合硫化物がシックナーの底部から濃縮スラリーの形態で回収される。一方、該混合硫化物が分離された上澄み液は、貧液としてシックナーの上端部からオーバーフローにより排出される。この貧液は、ニッケル等の有価金属の濃度が極めて低い水準で安定化された水溶液であるが、硫化されずに残留する鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含んでいる。従って、この貧液は、通常は最終中和工程S8に移送されて無害化処理されるが、必要に応じて少なくとも一部が固液分離工程S4に戻されてニッケル回収のために再利用される。
【0032】
(8)最終中和工程S8
最終中和工程S8では、上記の固液分離工程S4で分離除去された遊離硫酸を含む浸出残渣と、上記の硫化工程S7で生成した混合硫化物を沈降分離、濾過等により回収する際に液相側に排出されるマグネシウム、アルミニウム、鉄等の不純物を含んだ貧液とに中和剤を添加して中和処理する。これにより、本湿式製錬プロセスから環境上の問題となるスラリーが系外に廃棄されるのを防ぐことができる。具体的には、上記の浸出残渣や貧液に中和剤を添加することによって所定のpH範囲に調整する。これにより浸出残渣に含まれる遊離硫酸がほぼ完全に中和されると共に、貧液に含まれる不純物が水酸化物として固定化される。このようにして生成される不純物の水酸化物を含むスラリーは、廃棄スラリー(テーリング)としてテーリングダム(廃棄物貯留場)に移送される。
【0033】
2.ニッケル酸化鉱石のスラリーの浸出処理方法
本発明の実施形態に係るニッケル酸化鉱石の浸出処理方法は、上記の湿式製錬方法のうち高圧硫酸浸出工程S2において実施される。この浸出処理方法は、その前工程の鉱石調合工程S1において調製された、アルミニウム及びマグネシウムを含有するニッケル酸化鉱石を浸出処理の対象としている。また、この浸出処理方法は、前述したように、オートクレーブと称する高温高圧下の反応容器内に装入した該ニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに対して硫酸により浸出処理を行うものであるため、ニッケルを含む浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを極めて効率よく生成することができる。
【0034】
すなわち、この浸出処理においては、上記鉱石スラリーに対して高温高圧下で硫酸を添加することにより、下記式i~式iiiで表される浸出反応と下記式iv~vで表される高温熱加水分解反応とを生じさせ、これによりニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。なお、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、生成される浸出スラリー中の液相部分には、ニッケルやコバルト等のほかに2価と3価の鉄イオンが通常含まれている。
【0035】
(浸出反応)
[式i]
MO+HSO→MSO+H
(式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
[式ii]
2Fe(OH)+3HSO→Fe(SO)+6H
[式iii]
FeO+HSO→FeSO+H
【0036】
(高温熱加水分解反応)
[式iv]
2FeSO+HSO+1/2O→Fe(SO)+H
[式v]
Fe(SO)+3HO→Fe+3HSO
【0037】
上記の浸出反応を効率よく行うと共に原料鉱石中の鉄の大部分をヘマタイトとして固定するため、上記オートクレーブ内では反応温度を好ましくは220~260℃程度、より好ましくは240~255℃程度に維持して浸出処理を行う。この反応温度が220℃未満では、高温熱加水分解反応の速度が遅くなるため反応溶液中に鉄が溶存したまま残り、この鉄を除去するため後工程の浄液工程S6の負荷が増加してニッケルとの分離が困難となる。逆に、この反応温度が260℃を超えると、高温熱加水分解反応自体は促進されるものの、高温高圧浸出を行う上記オートクレーブの材質の選定が困難となり、また温度上昇に要する熱エネルギーコストが上昇する。
【0038】
上記の浸出処理に際して上記鉱石スラリーに添加する硫酸の添加量は、一般的には上記式i~vから算出される化学量論量に比べて過剰量が添加され、例えば鉱石1トン当り150~250kg程度の硫酸が添加される。但し、硫酸の添加量は硫酸の消費コストの観点からは極力少ないのが好ましく、鉱石1トン当りの硫酸添加量が250kgを超えると、硫酸コストが高くなりすぎるので好ましくない。逆に鉱石1トン当りの硫酸添加量が150kg未満ではニッケルの浸出が不十分になるおそれがある。
【0039】
上記の浸出処理の対象となる原料のニッケル酸化鉱石は、リモナイト鉱やサプロライト鉱等に代表されるいわゆるラテライト鉱である。このラテライト鉱には通常はニッケルが0.8~2.5質量%程度の含有率で、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含まれている。また、このニッケル酸化鉱石は鉄の含有量が10~50質量%程度であり、これは主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態を有しているが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含まれている。なお、原料のニッケル酸化鉱石には、上記のラテライト鉱のほか、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石である、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられることがある。
【0040】
上記の浸出処理に際しては、前工程で調製された上記ニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに対して、硫酸を添加して浸出反応を生じさせる。このスラリーの形態の鉱石スラリーは、固形分濃度(スラリー濃度とも称する)が15~45質量%程度であることが好ましい。このスラリー濃度が15質量%未満では、所望の滞留時間を確保するために過大なオートクレーブが必要になるうえ、硫酸の添加量がこれに伴って増加するので好ましくない。逆に、このスラリー濃度が45質量%を超えると、設備の規模は小さくできるものの、高濃度スラリーの移送が困難になり、移送管内で閉塞が頻発したり、移送のために過度のエネルギーが必要になったりするので好ましくない。
【0041】
ところで、上記のニッケル酸化鉱石には、不純物としてアルミニウム及びマグネシウムが含まれており、これら不純物品位が原料ロットの切り替え等の理由により変動すると、固液分離工程S4以降の運転が不安定になることがあった。そこで本発明の実施形態の浸出処理方法においては、該ニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーに添加する硫酸の添加量を、該ニッケル酸化鉱石のマグネシウム含有率に対するアルミニウム含有率の比率で定義される質量基準のAl/Mgの比(以下、Al/Mg比とも称する)に応じて増減させ、これにより浸出スラリーに含まれる浸出液の遊離硫酸濃度を所定の範囲内に調整している。
【0042】
これにより、アルミニウム浸出率を制御できるので、ニッケル酸化鉱石中のAl/Mg比が通常よりも高くなっても、後工程の固液分離工程S4において固液分離の負荷が高くなりすぎたり、その固液分離性が悪化したりする問題を抑えることができる。なお、上記のアルミニウム含有率及びマグネシウム含有率は、例えば原料のニッケル酸化鉱石に対してICP発光分析法で分析することにより求めることができる。また、上記のアルミニウム含有率及びマグネシウム含有率を、それぞれアルミニウムの含有割合(又は品位)及びマグネシウムの含有割合(品位)ということがある。更に鉱石スラリーは原料のニッケル酸化鉱石に水を添加することで作製されるので、ニッケル酸化鉱石のAl/Mg比の値は、該ニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーのAl/Mg比の値と基本的には同じである。
【0043】
具体的に説明すると、鉱石スラリー中の固形分であるラテライト鉱等のニッケル酸化鉱石のアルミニウム含有率は通常2.0~3.5質量%程度の範囲内であり、マグネシウム含有率は通常0.8~1.8質量%程度の範囲内である。そのため、該ニッケル酸化鉱石のAl/Mg比は、およそ1.1~4.4の範囲となる。この程度のAl/Mg比の範囲内でアルミニウム及びマグネシウムを含有するニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーを高圧硫酸浸出工程S2において浸出処理したとき、ニッケル、マグネシウム、及びアルミニウムは下記式1~式3の浸出反応により浸出され、浸出したアルミニウムは一部が下記式4の加水分解反応により固定化される。
【0044】
[式1]
NiO+HSO=NiSO+H
[式2]
MgO+HSO=MgSO+H
[式3]
2Al(OH)+3HSO→Al(SO)+6H
[式4]
3Al(SO)+14HO→
2(HO)Al(SO)(OH)+5HSO
【0045】
上記の浸出処理では、アルミニウム浸出率が25.0%以下に抑えられるのが好ましい。このアルミニウム浸出率が25.0%を超えると浸出液中のアルミニウム濃度が過度になり、後工程の予備中和工程S3においてアルミニウム水酸化物からなる澱物の発生量が過大となり、固液分離工程S4の負荷が高くなりすぎて貴液の清澄度が悪化することがあった。また、アルミニウム水酸化物からなる澱物は、粒径が小さく比重が軽いためシックナーの沈降分離装置内において沈降しにくく、上記清澄度がより一層悪化することがあった。その結果、湿式製錬プロセス全体としての処理能力が低下することがあった。なお、アルミニウム浸出率(Al浸出率)は下記式5で定義することができる。
【0046】
[式5]
Al浸出率=(単位時間当たりの浸出液生成量×浸出液中のAl質量濃度)÷(単位時間当たりのニッケル酸化鉱石処理量×ニッケル酸化鉱石のAl品位)×100
【0047】
そこで、本発明の実施形態の浸出処理方法は、オートクレーブに装入する鉱石スラリーのAl/Mg比に応じた所定の範囲内に浸出液の遊離硫酸濃度が収まるように、該オートクレーブに添加する硫酸の添加量を調整している。例えば、該オートクレーブに装入する鉱石スラリーのAl/Mg比が増加傾向にあるときは、該オートクレーブから抜き出される浸出スラリーに含まれる浸出液の遊離硫酸濃度が減少するように硫酸の添加量を減少させ、該オートクレーブに装入する鉱石スラリーのAl/Mg比が減少傾向にあるときはその逆の操作を行う。
【0048】
より具体的に説明すると、該オートクレーブに装入する鉱石スラリーのAl/Mg比が例えば閾値2.0に対して多いか少ないかを判断し、該Al/Mg比が2.0以上の場合は、該オートクレーブから抜き出される浸出スラリーに含まれる浸出液の遊離硫酸濃度が32g/L以上38g/L以下の範囲内となるように該オートクレーブに添加する硫酸の添加量を調整する。
【0049】
浸出液の遊離硫酸濃度を上記範囲内に調整することで、アルミニウム及びマグネシウムを含むニッケル酸化鉱石を上記オートクレーブで浸出処理したときのアルミニウム浸出率を低く抑えることができる。すなわち、上記遊離硫酸濃度が38g/Lを超えると、上記浸出処理時のアルミニウム浸出率が高くなりすぎるおそれがある。逆に、上記遊離硫酸濃度が32g/L未満では、上記ニッケル酸化鉱石を上記オートクレーブで浸出処理したときのニッケル浸出率が所望の条件を満たさなくなるおそれがある。
【0050】
一方、上記オートクレーブに装入する鉱石スラリー中のAl/Mg比が2.0未満の場合は、該オートクレーブで浸出処理された後に該オートクレーブから抜き出される浸出スラリーに含まれる浸出液の遊離硫酸濃度が38g/Lを超え50g/L以下、より好ましくは40g/L以上50g/L以下の範囲内となるように該オートクレーブに添加する硫酸の添加量を調整する。
【0051】
このように、鉱石スラリーのAl/Mg比が2.0未満の場合に、上記のAl/Mg比が2.0以上の場合に比べて遊離硫酸濃度を高くする理由は、この遊離硫酸濃度を上記のAl/Mg比2.0以上の場合に比べて下げると、アルミニウム浸出率は若干下がるものの、鉱石スラリー中のマグネシウム品位が上記のAl/Mg比2.0以上の場合に比べて高いため、添加した硫酸が優先的にマグネシウムに使用され、遊離硫酸濃度を下げることによるアルミニウム浸出率の低減効果が得られにくくなって、逆にニッケル浸出率が低下するからである。
【0052】
すなわち、前述した高圧硫酸浸出工程S2で処理されるニッケル酸化鉱石のAl/Mg比が低い場合は(これはマグネシウム品位が相対的に高い場合に該当する)、上記式2の反応が優先的に進行するため、上記式3の反応を阻害したり、上記式4の反応を促進したりするため、アルミニウム浸出率が低水準になりやすい。一方、該高圧硫酸浸出工程S2で処理されるニッケル酸化鉱石のAl/Mg比が高い場合は(これはマグネシウム品位が相対的に低い場合に該当する)、上記式2が進行しても浸出液は十分な遊離硫酸濃度を維持しており、かつ該浸出液の金属イオン濃度は低いため、上記式3の反応を促進したり、上記式4反応を阻害したりするため、アルミニウム浸出率が高水準になりやすい。
【0053】
後者のように、原料のニッケル酸化鉱石のAl/Mg比が高い場合は、アルミニウム浸出率が高水準になりやすいため、浸出液中の遊離硫酸濃度の管理値をAl/Mg比が低い場合に比べて積極的に低減させる。これにより、上記式3の反応の進行を抑制したり、上記式4の反応を進行させたりすることができるので、結果的にアルミニウム浸出率が過大になるのを効果的に抑えることができる。
【0054】
以上、本発明のニッケル酸化鉱石の浸出処理方法について実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の代替例や変更例を含みうるものである。すなわち、本発明の権利範囲は、特許請求の範囲及びその均等の範囲に及びものである。次に、本発明の浸出処理方法について実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例
【0055】
<実施例>
Al含有率及びMg含有率がそれぞれ異なるラテライト鉱からなる試料1~6の原料鉱石を用意し、それらの各々に対して水を添加して固形分濃度が約40質量%の鉱石スラリーを調製した。これら試料1~6の鉱石スラリーの各々をオートクレーブに連続的に装入し、更に鉱石1トン当り200kgを目安として98%硫酸を連続的に添加して浸出温度が約253℃、浸出圧力が約4500kPaGの高温高圧条件下で硫酸浸出処理を行い、浸出スラリーを生成させた。
【0056】
その際、鉱石スラリーの装入流量は、該オートクレーブ内の滞留時間が60分となるように調整した。一方、硫酸の添加流量は、原料鉱石のAl/Mg比が2.0未満の場合は、オートクレーブから連続的に排出される浸出スラリーに含まれる浸出液の遊離硫酸濃度が38g/L以上50g/L以下の範囲内となるように調整し、原料鉱石のAl/Mg比が2.0以上の場合は、該浸出液の遊離硫酸濃度が32g/L以上38g/L以下の範囲内となるように調整した。
【0057】
このようにして各試料の原料鉱石を硫酸浸出処理して得た浸出スラリーをサンプリングし、これを濾紙を敷いたヌッチェに導入して浸出残渣を分離除去し、濾液側に回収した浸出液に含まれるアルミニウムの濃度をICP発光分析法により測定した。得られたアルミニウム濃度(質量%)を前述した式5の計算式に代入してアルミニウム浸出率を求めた。その結果を、原料鉱石のAl含有率、Mg含有率、Al/Mg比、及び浸出液の遊離硫酸濃度と共に下記表1に示す。また、鉱石原料のAl/Mg比とアルミニウム浸出率との関係を図3のグラフ上にプロットした。なお、原料鉱石のAl含有率及びMg含有率はICP発光分析法により測定し、浸出液の遊離硫酸濃度は中和滴定法により測定した。
【0058】
【表1】
【0059】
上記表1及び図3から分かるように、原料鉱石のAl/Mg比に応じた所定の範囲内に浸出液の遊離硫酸濃度が収まるように硫酸の添加量を調整することにより、Al浸出率を25.0%以下に抑えることができた。なお、Al/Mg比2.0未満の領域でも遊離硫酸濃度を下げるとアルミニウム浸出率は若干下がると考えられるが、遊離硫酸濃度低減によってニッケル浸出率が大きく低下してしまうため、わずかにアルミニウム浸出率を下げるために遊離硫酸濃度を下げることは、一般的には経済性の観点からは許容されない。
【0060】
<比較例>
Al含有率及びMg含有率がそれぞれ異なるラテライト鉱からなる試料7~12の原料鉱石を用意し、それらの各々に対して実施例と同様に水を添加して固形分濃度が約40質量%の鉱石スラリーを調製した。これら試料7~12の鉱石スラリーの各々に対して、その原料鉱石のAl/Mg比の値にかかわらず、常に浸出液の遊離硫酸濃度が40g/L以上50g/L以下の範囲内となるように硫酸の添加流量を調整した以外は上記実施例と同様にして浸出処理を行った。その結果を、原料鉱石のAl含有率、Mg含有率、Al/Mg比、及び浸出液の遊離硫酸濃度と共に下記表2に示す。また、鉱石原料のAl/Mg比とアルミニウム浸出率との関係を図3のグラフ上にプロットした。
【0061】
【表2】
【0062】
上記表2及び図3から分かるように、原料鉱石のAl/Mg比の値が2.0以上になる場合においても、常に浸出液の遊離硫酸濃度が40g/L以上50g/L以下の範囲内となるように硫酸の添加流量を調整したので、Al浸出率を25.0%以下に抑えることができなかった。
【0063】
上記の実施例及び比較例の結果から、原料鉱石のAl/Mg比の値に応じて遊離硫酸濃度を調整することで、所望のアルミニウム浸出率が得られることが分かる。すなわち、原料鉱石のAl/Mg比により好適な遊離硫酸濃度が異なることが分かった。例えば、原料鉱石のAl/Mg比が2.0以上の場合、浸出液の遊離硫酸濃度が低下するように硫酸添加量を減らすことで、アルミニウム浸出率を低減できることが分かった。これは、遊離硫酸濃度が低下することにより、アルミニウム浸出反応が阻害されるか、若しくは硫酸アルミニウムの加水分解反応が促進されるか、又はこれら両方によるものと思われる。
【符号の説明】
【0064】
S1 鉱石調合工程
S2 高圧硫酸浸出工程
S3 予備中和工程
S4 固液分離工程
S5 中和工程
S6 浄液工程
S7 硫化工程
S8 最終中和工程
~T シックナー
P スラリーポンプ
図1
図2
図3