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特許7279635非水系二次電池多孔膜用組成物、非水系二次電池用多孔膜の製造方法および非水系二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】非水系二次電池多孔膜用組成物、非水系二次電池用多孔膜の製造方法および非水系二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/446 20210101AFI20230516BHJP
   H01M 50/431 20210101ALI20230516BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230516BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230516BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230516BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20230516BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20230516BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20230516BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20230516BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M50/431
H01M50/443 E
H01M10/0566
H01M4/13
H01M50/443 M
H01M50/414
H01M50/411
H01M50/443
H01M50/42
H01M50/451
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019525349
(86)(22)【出願日】2018-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2018021716
(87)【国際公開番号】W WO2018235601
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2017119673
(32)【優先日】2017-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】浅野 順一
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-207547(JP,A)
【文献】特開2016-054302(JP,A)
【文献】特開2014-229406(JP,A)
【文献】特開2015-191886(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157899(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002366(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/00-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子と、結着材と、界面活性剤と、水とを含む非水系二次電池多孔膜用組成物であって、
前記結着材は、芳香族ビニル単量体単位を5質量%以上60質量%以下含有する重合体を含み、
前記界面活性剤の含有割合が、前記無機粒子100質量部に対して、34551/101300質量部以上9277/10130質量部以下であり、
前記重合体の質量M1に対する前記界面活性剤の質量M2の比M2/M1が、0.01以上0.5以下であり、
前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤を含む、非水系二次電池多孔膜用組成物。
【請求項2】
前記重合体が粒子状重合体であり、
前記粒子状重合体の体積平均粒子径D50が0.05μm以上0.6μm以下である、請求項に記載の非水系二次電池多孔膜用組成物。
【請求項3】
前記重合体が、アルキル基の炭素数が6以上20以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を30質量%以上90質量%以下の割合で含む、請求項1または2に記載の非水系二次電池多孔膜用組成物。
【請求項4】
前記界面活性剤の含有割合が、前記無機粒子100質量部に対して、4372/10130質量部以下である、請求項1~の何れかに記載の非水系二次電池多孔膜用組成物。
【請求項5】
請求項1~の何れかに記載の非水系二次電池多孔膜用組成物を用いて非水系二次電池用多孔膜を形成する工程を含む、非水系二次電池用多孔膜の製造方法。
【請求項6】
正極、負極、セパレーターおよび電解液を備える非水系二次電池の製造方法であって、
請求項に記載の非水系二次電池用多孔膜の製造方法を用いて、前記正極、負極およびセパレーターからなる群から選択される少なくとも1つの電池部材の表面に非水系二次電池用多孔膜を形成する工程を含む、非水系二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池多孔膜用組成物、非水系二次電池用多孔膜および非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、「二次電池」と略記する場合がある)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そして、二次電池は、一般に正極、負極、そして正極と負極とを隔離して正極と負極との間の短絡を防ぐセパレーターなどの電池部材を備えている。また、二次電池においては、電極(正極および負極)やセパレーター上に、それらの耐熱性や強度の向上を目的として、多孔膜を保護層として設けることがある。
【0003】
ここで、多孔膜としては、有機粒子や無機粒子などの非導電性粒子をバインダーで結着して形成したものが挙げられる。このような多孔膜は、通常、非導電性粒子やバインダーなどの多孔膜材料を水などの分散媒に溶解または分散させたスラリー組成物(以下、「多孔膜用組成物」と称することがある)を用意し、この多孔膜用組成物を電極やセパレーターなどの基材上に塗布および乾燥させて形成される。
【0004】
そして、近年、非水系二次電池の更なる高性能化を目的として、多孔膜の改良が盛んに行われている(例えば、特許文献1参照)。
具体的には、例えば特許文献1では、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を35質量%以上含み、かつ、芳香族モノビニル単量体単位を20質量%以上65質量%以下含むランダム共重合体よりなり、非水系電解液に対する膨潤度が1倍超2倍以下である粒子状重合体を含む非水系二次電池多孔膜用バインダーを用いることで、多孔膜の耐久性を向上させ、且つ、多孔膜用組成物の高せん断下での安定性を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/145967号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の非水系二次電池多孔膜用バインダーを用いた多孔膜用組成物には、多孔膜用組成物を用いて形成した多孔膜のピール強度を向上させると共に多孔膜用組成物を用いて形成した多孔膜を備える二次電池の出力特性を向上させるという点において改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、ピール強度に優れる多孔膜を形成可能であり、且つ、出力特性に優れる非水系二次電池を提供可能な非水系二次電池多孔膜用組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、ピール強度に優れ、且つ、出力特性に優れる非水系二次電池を提供可能な非水系二次電池用多孔膜、および、当該非水系二次電池用多孔膜を備え、優れた出力特性を発揮し得る非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、無機粒子、芳香族ビニル単量体単位を有する重合体を含む結着材および界面活性剤を含有し、且つ、界面活性剤の含有割合を所定の範囲内とした多孔膜用組成物を用いることで、ピール強度に優れる多孔膜および出力特性に優れる非水系二次電池が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物は、無機粒子と、結着材と、界面活性剤と、水とを含む非水系二次電池多孔膜用組成物であって、前記結着材は、芳香族ビニル単量体単位を含有する重合体を含み、前記界面活性剤の含有割合が、前記無機粒子100質量部に対して、0.25質量部以上5質量部以下であることを特徴とする。このように、芳香族ビニル単量体単位を含有する重合体を含む結着材と、特定の割合の界面活性剤とを含む多孔膜用組成物を用いれば、ピール強度に優れる多孔膜および出力特性に優れる非水系二次電池を得ることができる。
なお、本発明において、界面活性剤の量は、JIS K0400(1999)に準拠して測定することができる。
【0010】
ここで、本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物は、前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤、硫黄原子を含むアニオン性界面活性剤、または、これらの混合物を含むことが好ましい。界面活性剤が、非イオン性界面活性剤、硫黄原子を含むアニオン性界面活性剤、または、これらの混合物を含めば、多孔膜用組成物の泡立ちを抑制し、ピンホール等の欠陥が少ない多孔膜を良好に形成することができる。
【0011】
さらに、本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物は、前記重合体の質量M1に対する前記界面活性剤の質量M2の比M2/M1が、0.01以上0.5以下であることが好ましい。重合体および界面活性剤が上述の範囲の割合で含まれれば、多孔膜用組成物の泡立ちを抑制してピンホール等の欠陥が少ない多孔膜を良好に形成することができると共に、多孔膜のピール強度を更に高めることができる。さらに、二次電池の出力特性も高めることもできる。
【0012】
また、本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物は、前記重合体が、アルキル基の炭素数が6以上20以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を30質量%以上90質量%以下の割合で含むことが好ましい。アルキル基の炭素数が6以上20以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を上述した割合で含む重合体を使用すれば、多孔膜のピール強度および二次電池の出力特性を更に高めることができる。
【0013】
さらに、本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物は、前記重合体が、芳香族ビニル単量体単位の含有割合が5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。芳香族ビニル単量体単位を上述した割合で含む重合体を使用することにより、多孔膜のピール強度および二次電池の出力特性を更に高めることができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用多孔膜は、上述した非水系二次電池多孔膜用組成物から形成されたことを特徴とする。当該多孔膜は、ピール強度に優れていると共に、出力特性に優れる非水系二次電池を提供可能である。
【0015】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池は、正極、負極、セパレーターおよび電解液を備え、前記正極、負極、およびセパレーターからなる群から選択される少なくとも1つの電池部材の表面に上述した非水系二次電池用多孔膜を備える。当該非水系二次電池は、出力特性に優れており、高性能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物によれば、ピール強度に優れる多孔膜および出力特性に優れる非水系二次電池を提供することができる。
そして、本発明によれば、ピール強度に優れ、且つ、出力特性に優れる非水系二次電池を提供可能な非水系二次電池用多孔膜、および、当該非水系二次電池用多孔膜を備え、優れた出力特性を発揮し得る非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池用多孔膜は、本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物を用いて形成される。加えて、本発明の非水系二次電池は、少なくとも1つの電池部材の表面に、本発明の非水系二次電池用多孔膜を備えるものである。
【0018】
(非水系二次電池多孔膜用組成物)
本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物は、無機粒子、結着材、界面活性剤および水を含み、任意にその他の成分を更に含有し得るスラリー組成物である。
本発明の多孔膜用組成物を使用することで、ピール強度に優れた二次電池用多孔膜および出力特性に優れた二次電池が提供される。
【0019】
<無機粒子>
無機粒子は、非導電性を有し、多孔膜用組成物において分散媒として使用される水および二次電池の非水系電解液に溶解せず、それらの中においても、その形状が維持される粒子である。そして無機粒子は、電気化学的にも安定であるため二次電池の使用環境下で、多孔膜中に安定に存在する。多孔膜用組成物が無機粒子を含むことで、得られる多孔膜の網目状構造が適度に目詰めされ、リチウムデンドライトなどが多孔膜を貫通するのを防止し、電極の短絡の抑制をより一層確かなものとすることができる。
【0020】
無機粒子としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、水和アルミニウム酸化物(ベーマイト)、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、BaTiO、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子、窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物粒子、シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の非水溶性金属塩粒子、タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子などを挙げることができる。
【0021】
これらの中でも、無機粒子としては酸化物粒子または非水溶性金属塩粒子が好ましい。
なお、無機粒子の粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている無機粒子と同様とすることができる。
【0022】
<結着材>
本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物に用いられる結着材は、得られる多孔膜の強度を確保すると共に、多孔膜に含まれる成分が多孔膜から脱離しないように保持する。そして、結着材は、芳香族ビニル単量体単位を含有する重合体を含む。なお、結着材は、芳香族ビニル単量体単位を含有する重合体以外の重合体を有していてもよい。
【0023】
[芳香族ビニル単量体単位を含有する重合体]
芳香族ビニル単量体単位を含有する重合体(以下、単に「重合体」と称することがある。)は、少なくとも芳香族ビニル単量体単位を含み、任意に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位および/またはその他の単量体単位を更に含み得る。そして、多孔膜用組成物中における当該重合体の状態は、特に限定されないが、通常は粒子状である。
なお、本発明において「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。また本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
以下、本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物に用いられる結着材に含まれる、芳香族ビニル単量体単位を含有する重合体について詳述する。
【0024】
‐芳香族ビニル単量体単位‐
芳香族ビニル単量体単位を形成しうる芳香族ビニル単量体としては、スチレン、スチレンスルホン酸およびその塩(例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムなど)、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、4-(tert-ブトキシ)スチレンなどが挙げられる。これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
重合体が芳香族ビニル単量体単位を含むことで、多孔膜のピール強度を高めることができると共に、二次電池の出力特性を高めることができる。
【0025】
重合体における芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、任意であるが、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記上限値以下であると、多孔膜のピール強度を更に高めることができる。また、芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記下限値以上であると、二次電池の出力特性を更に高めることができる。
【0026】
‐(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位‐
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を形成しうる(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロへキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。中でも、多孔膜のピール強度を向上させつつ、二次電池の出力特性を向上させる観点からは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、アルキル基の炭素数が6以上20以下であるものが好ましく、シクロへキシル(メタ)アクリレートおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートがより好ましく、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
なお本発明において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
重合体における、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合は、任意であるが、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。そして、重合体は、アルキル基の炭素数が6以上20以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合が、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、二次電池の出力特性を更に向上させることができる。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合が上記下限値以上であれば、多孔膜のピール強度を更に向上させることができる。
【0028】
‐その他の単量体単位‐
重合体は、上述した芳香族ビニル単量体単位、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位以外のその他の単量体単位を含んでいてもよい。そのようなその他の単量体単位としては、特に限定されることなく、酸性基含有単量体単位、架橋性単量体単位が挙げられる。なお、重合体における、その他の単量体単位の含有割合は、特に限定されることなく、例えば10質量%以下、好ましくは5質量%以下とすることができる。
なお、上述した通り、酸性基含有単量体単位および架橋性単量体単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位および芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位である。従って、酸性基含有単量体単位を形成しうる酸性基含有単量体および架橋性単量体単位を形成しうる架橋性単量体には、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体および芳香族ビニル単量体(例えば、スチレンスルホン酸およびその塩など)は含まれない。
【0029】
‐酸性基含有単量体単位
酸性基含有単量体単位を形成しうる酸性基含有単量体としては、カルボン酸基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、リン酸基含有単量体などを挙げることができる。
【0030】
カルボン酸基含有単量体としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E一メトキシアクリル酸、β-ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。さらに、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどが挙げられる。
【0031】
スルホン酸基含有単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。
【0032】
リン酸基含有単量体としては、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0033】
‐架橋性単量体単位
架橋性単量体単位を形成しうる架橋性単量体としては、重合した際に架橋構造を形成しうる単量体を用いることができる。具体的には、熱架橋性の架橋性基及び1分子あたり1つのエチレン性二重結合を有する単官能性単量体、及び1分子あたり2つ以上のエチレン性二重結合を有する多官能性単量体が挙げられる。単官能性単量体に含まれる熱架橋性の架橋性基の例としては、エポキシ基、N-メチロールアミド基、オキセタニル基、オキサゾリン基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
そして、架橋性単量体は、疎水性であっても親水性であってもよい。
なお、本発明において、架橋性単量体が「疎水性」であるとは、当該架橋性単量体が親水性基を含まないことをいい、架橋性単量体が「親水性」であるとは、当該架橋性単量体が親水性基を含むことをいう。ここで架橋性単量体における「親水性基」とは、カルボン酸基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、エポキシ基、チオール基、アルデヒド基、アミド基、オキセタニル基、オキサゾリン基を指す。
【0035】
疎水性の架橋性単量体(疎水性架橋剤)としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン-トリ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート類;ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタンなどの多官能アリル/ビニルエーテル類;そしてジビニルベンゼンなどが挙げられる。
親水性の架橋性単量体(親水性架橋剤)としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メチロールアクリルアミド、アクリルアミドなどが挙げられる。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
‐重合体の調製‐
重合体は、上述した単量体を含む単量体組成物を重合することにより調製される。単量体組成物中の単量体をある程度重合したオリゴマーの状態でなく、単量体の状態で重合を開始することで、ブロック共重合体およびグラフト共重合体の生成を抑制し、ランダム共重合体である重合体を得ることができる。
ここで、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、通常、所望の重合体における単量体単位の含有割合と同様にする。
重合体の重合様式は、特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。そして、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とする。
【0037】
‐重合体の性状‐
重合体の性状は特に限定はされないが、好ましくはランダム共重合体である。なお、重合体が粒子状重合体であり、当該粒子状重合体がコア構造とシェル構造とを備える場合、シェル構造がランダム共重合体であることが好ましい。以下、これらの性状を含めた重合体の性状について詳述する。
【0038】
‐ランダム共重合体構造およびガラス転移温度
重合体がランダム共重合体であることで、重合体を均質化でき、重合体の電解液に対する耐久性を高めることができ、また多孔膜用組成物中での分散性も高めることができる。また、多孔膜用組成物の粘度の上昇を抑えることができるため、乾燥時に多孔膜から水分を除去し易くなる。
そして本発明において、重合体がランダム共重合体であるか否かは、ガラス転移温度を測定することにより判断する。
具体的には、共重合体である重合体が、ガラス転移温度を一つ有する場合は、その重合体はランダム共重合体に該当する。一方、重合体がガラス転移温度を二つ以上有する場合は、その重合体はランダム共重合体構造を有さず、ブロック共重合体やグラフト共重合体などに該当する。
なお、本発明において、重合体の「ガラス転移温度」は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0039】
そして、ランダム共重合体である重合体のガラス転移温度は、好ましくは10℃以下、より好ましくは5℃以下、特に好ましくは0℃以下である。また、重合体のガラス転移温度の下限は特に限定されないが、通常-100℃以上である。
【0040】
‐粒子径
重合体が粒子状重合体である場合、該粒子状重合体の体積平均粒子径D50は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.2μm以上であり、好ましくは0.6μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。粒子状重合体の体積平均粒子径D50が上記範囲にあることで、得られる多孔膜の耐久性を良好にできる。なお、粒子状重合体の「体積平均粒子径D50」は、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0041】
多孔膜用組成物中における、重合体の含有割合は、特に限定されないが、無機粒子100質量部に対して、1.5質量部以上であることが好ましく、2.0質量部以上であることがより好ましく、2.5質量部以上であることが更に好ましく、4.0質量部以上であることが特に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、9.0質量部以下であることがより好ましく、6.5質量部以下であることが更に好ましい。重合体の含有割合が上記下限値以上であれば、多孔膜のピール強度を更に高めることができる。また、重合体の含有割合が上記上限値以下であれば、二次電池の出力特性を更に向上させることができる。
【0042】
<界面活性剤>
界面活性剤は、多孔膜用組成物を基材に塗布する際に、組成物の濡れ性を向上させて均一塗工性を高める濡れ剤として作用する。
界面活性剤は、特に限定されないが、多孔膜用組成物の泡立ちを抑制し、ピンホール等の欠陥が少ない多孔膜を良好に形成する観点からは、好ましくは、非イオン性界面活性剤、硫黄原子を含むアニオン性界面活性剤、または、これらの混合物である。

ここで、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、反応性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系界面活性剤およびポリオキシエチレンアルキルアミン系界面活性剤などが挙げられる。中でも、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが好ましい。 また、硫黄原子を含むアニオン性界面活性剤としては、スルホン酸塩界面活性剤および硫酸エステル塩界面活性剤などが挙げられる。中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
なお、乳化重合を用いて調製した重合体を含む結着材を使用する多孔膜用組成物においては、界面活性剤は、重合時に使用する乳化剤であってもよい。即ち、本発明では、界面活性剤を乳化剤として使用して製造した結着材と、非導電性粒子と、濡れ剤としての界面活性剤と、水と、任意のその他の成分とを混合して多孔膜用組成物を調製することにより、乳化剤として使用した界面活性剤と濡れ剤としての界面活性剤とが多孔膜用組成物中に併存して含まれていてもよい。
【0043】
多孔膜用組成物中における、界面活性剤の含有割合は、無機粒子100質量部に対して、0.25質量部以上5質量部以下であることが必要であり、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.35質量部以上、更に好ましくは0.4質量部以上であり、好ましくは4.5質量部以下、より好ましくは3.5質量部以下、更に好ましくは1.4質量部以下である。界面活性剤の含有割合が無機粒子100質量部に対して0.25質量部以上であれば、多孔膜用組成物の濡れ性が向上し、電極やセパレーター等の電池部材に多孔膜を良好に形成することができる。特に、多孔膜用組成物を用いてセパレーターに多孔膜を形成した場合には、多孔膜を形成したセパレーターの熱収縮率を低減する(即ち、耐熱収縮性を高める)ことができる。また、界面活性剤の含有割合が無機粒子100質量部に対して5.0質量部以下であれば、多孔膜のピール強度を高めることができる。さらに、多孔膜用組成物の泡立ちを抑制し、ピンホール等の欠陥が少ない多孔膜を良好に形成することができる。
【0044】
そして、多孔膜用組成物中における、上述した重合体の質量M1に対する界面活性剤の質量M2の比M2/M1は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.08以上、特に好ましくは0.1以上であり、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.3以下である。質量比M2/M1が上記下限値以上であれば、二次電池の出力特性を向上させることができる。また、質量比M2/M1が上記上限値以下であれば、多孔膜のピール強度を高めることができる。さらに、多孔膜用組成物の泡立ちを抑制し、ピンホール等の欠陥が少ない多孔膜を良好に形成することができる。
【0045】
<その他の成分>
多孔膜用組成物は、上述した成分以外にも、その他の任意の成分を含んでいてもよい。前記任意の成分は、多孔膜を用いた二次電池における電池反応に過度に好ましくない影響を及ぼさないものであれば、特に制限は無い。また、前記任意の成分の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
前記任意の成分としては、例えば、電解液分解抑制剤、粘度調整剤などが挙げられる。
【0046】
[粘度調整剤]
上述のその他の成分の中でも、多孔膜用組成物は、粘度調整剤を含むことが好ましい。多孔膜用組成物が粘度調整剤を含むことで、多孔膜用組成物を増粘させて塗布し易い粘度に調整することができる。
そして、粘度調整剤としては、例えば、天然高分子、半合成高分子及び合成高分子などの水溶性の高分子を挙げることができる。
ここで、本発明においてある物質が「水溶性」であるとは、25℃において、その物質0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が1.0質量%未満であることをいう。なお、水のpHによって溶解性が変わる物質については、少なくともいずれかのpHにおいて上述した「水溶性」に該当するのであれば、その物質は「水溶性」であるとする。
【0047】
‐天然高分子‐
天然高分子としては、例えば、植物または動物由来の多糖類および蛋白質、並びにこれらの微生物等による発酵処理物、これらの熱処理物が挙げられる。
そしてこれらの天然高分子は、植物系天然高分子、動物系天然高分子および微生物産出天然高分子等に分類することができる。
植物系天然高分子としては、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、マンナン、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(カッソウエキス)、澱粉(コメ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦等に由来するもの)、グリチルリチンが挙げられる。動物系天然高分子としては、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチンが挙げられる。微生物産生天然高分子としては、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、プルランが挙げられる。
【0048】
‐半合成高分子‐
半合成高分子としては、セルロース系半合成高分子が挙げられる。そしてセルロース系半合成高分子は、ノニオン性セルロース系半合成高分子、アニオン性セルロース系半合成高分子およびカチオン性セルロース系半合成高分子に分類することができる。
【0049】
ノニオン性セルロース系半合成高分子としては、例えば、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、マイクロクリスタリンセルロース、等のアルキルセルロース類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、アルキルヒドロキシエチルセルロース、ノノキシニルヒドロキシエチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース類が挙げられる。
【0050】
アニオン性セルロース系半合成高分子としては、上記のノニオン性セルロース系半合成高分子を各種誘導基により置換した置換体およびその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩など)が挙げられる。具体的には、セルロース硫酸ナトリウム、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びそれらの塩が挙げられる。
【0051】
カチオン性セルロース系半合成高分子としては、例えば、低窒素ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(ポリクオタニウム-4)、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム-10)、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(ラウリルジメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム-24)が挙げられる。
【0052】
‐合成高分子‐
合成系高分子としては、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸またはアクリル酸塩とビニルアルコールとの共重合体、無水マレイン酸またはマレイン酸もしくはフマル酸と酢酸ビニルとの共重合体の完全または部分ケン化物、変性ポリビニルアルコール、変性ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸、エチレン-ビニルアルコール共重合体、酢酸ビニル重合体、カルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体などが挙げられる。
【0053】
そしてこれらの粘度調整剤の中でも、多孔膜に耐熱性を付与する観点からは、カルボキシルメチルセルロースおよびその塩、カルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体が好ましい。さらに、二次電池への持ち込み水分量を減少させ、電気的特性を向上させる観点からは、カルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体が特に好ましい。
なお、多孔膜用組成物中の粘度調整剤の配合量は、無機粒子100質量部当たり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。粘度調整剤の配合量が上述の範囲内であることで、多孔膜用組成物に適度な粘度が付与され、また、得られる多孔膜の耐久性を向上させることができる。
【0054】
<非水系二次電池多孔膜用組成物の調製>
多孔膜用組成物の調製方法は、特に限定はされないが、通常は、無機粒子と、結着材と、界面活性剤と、水と、必要に応じて用いられる任意の成分とを混合して得られる。混合方法は特に制限されないが、各成分を効率よく分散させるべく、混合装置として分散機を用いて混合を行う。なお、結着材に含まれる重合体を乳化重合により調製した場合には、当該重合体の調製に使用した水を多孔膜用組成物の調製に使用してもよい。即ち、多孔膜用組成物は、重合体の水分散液に無機粒子と界面活性剤とを添加して調製してもよい。
分散機は、上記成分を均一に分散および混合できる装置が好ましい。例を挙げると、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。なかでも、高い分散シェアを加えることができることから、ビーズミル、ロールミル、フィルミックス等の高分散装置が特に好ましい。
【0055】
そして、多孔膜用組成物の固形分濃度は、通常、多孔膜を製造する際に作業性を損なわない範囲の粘度をスラリー組成物が有する範囲で任意に設定すればよい。具体的には、多孔膜用組成物の固形分濃度は、通常10~50質量%とすることができる。
【0056】
(非水系二次電池用多孔膜)
上述した二次電池多孔膜用組成物を、例えば適切な基材の表面に塗布することで塗膜を形成し、形成した塗膜を乾燥することにより、基材上に非水系二次電池用多孔膜を形成することができる。この多孔膜は、ピール強度に優れ、当該多孔膜を備える非水系二次電池は、出力特性に優れる。
【0057】
ここで、多孔膜用組成物を塗布する基材は、多孔膜用組成物の塗膜を形成する対象となる部材である。基材に制限は無く、例えば離型基材の表面に多孔膜用組成物の塗膜を形成し、その塗膜を乾燥して多孔膜を形成し、多孔膜から離型基材を剥がすようにしてもよい。このように離型基材から剥がされた多孔膜を自立膜として二次電池に用いることもできる。
しかし、多孔膜を剥がす工程を省略して製造効率を高める観点からは、基材として電池部材を用いることが好ましい。このような電池部材の具体例としては、セパレーターおよび電極などが挙げられる。セパレーターおよび電極上に設けられた多孔膜は、これらの耐熱性や強度などを向上させる保護層として好適に使用することができる。
【0058】
<セパレーター>
セパレーターとしては、特に限定されないが、有機セパレーターなどの既知のセパレーターが挙げられる。ここで有機セパレーターは、有機材料からなる多孔性部材であり、有機セパレーターの例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微孔膜または不織布などが挙げられ、強度に優れることからポリエチレン製の微多孔膜や不織布が好ましい。なお、有機セパレーターの厚さは、任意の厚さとすることができ、通常0.5μm以上、好ましくは5μm以上であり、通常40μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0059】
<電極>
電極(正極および負極)としては、特に限定されないが、集電体上に電極合材層が形成された電極が挙げられる。
集電体、電極合材層中の電極活物質(正極活物質、負極活物質)および電極合材層用結着材(正極合材層用結着材、負極合材層用結着材)、並びに集電体上への電極合材層の形成方法は、既知のものを用いることができ、例えば特開2013-145763号公報に記載のものを挙げられる。
【0060】
<非水系二次電池用多孔膜の形成方法>
上述したセパレーター、電極などの電池部材上に多孔膜を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
1)多孔膜用組成物を電池部材の表面(電極の場合は電極合材層側の表面、以下同じ)に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)多孔膜用組成物に電池部材を浸漬後、これを乾燥する方法;
3)多孔膜用組成物を、離型基材上に塗布、乾燥して多孔膜を製造し、得られた多孔膜を電池部材の表面に転写する方法;
これらの中でも、前記1)の方法が、多孔膜の膜厚制御をしやすいことから特に好ましい。該1)の方法は、詳細には、多孔膜用組成物を電池部材上に塗布する工程(塗布工程)、電池部材上に塗布された多孔膜用組成物を乾燥させて多孔膜を形成する工程(多孔膜形成工程)を備える。
【0061】
塗布工程において、多孔膜用組成物を電池部材上に塗布する方法は、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。なかでも、均一な多孔膜が得られる点で、グラビア法が好ましい。
また多孔膜形成工程において、電池部材上の多孔膜用組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥条件は特に限定されないが、乾燥温度は好ましくは50~150℃で、乾燥時間は好ましくは5~30分である。
【0062】
なお、正極、負極、およびセパレーターには、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した本発明の多孔膜以外の構成要素が設けられていてもよい。例えば、必要に応じて、電池部材と本発明の多孔膜との間に他の層を設けてもよい。この場合、本発明の多孔膜は電池部材の表面に間接的に設けられることになる。また、本発明の多孔膜の表面に、更に別の層を設けてもよい。
【0063】
なお、基材上に形成された多孔膜の厚みは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは1μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下である。多孔膜の厚みが0.01μm以上であることで、多孔膜の強度を十分に確保することができ、20μm以下であることで、電解液の拡散性を確保し該多孔膜を用いた二次電池の出力特性を向上させることができる。
【0064】
(非水系二次電池)
本発明の非水系二次電池は、正極、負極、セパレーター、および電解液を備え、前記正極、負極、およびセパレーターからなる群から選択される少なくとも1つの電池部材の表面に上述の非水系二次電池用多孔膜を備える。
本発明の非水系二次電池は、本発明の多孔膜用組成物から得られる多孔膜を備えているので、出力特性に優れ、高性能である。
【0065】
<正極、負極、セパレーター、および多孔膜>
正極、負極、セパレーター、および多孔膜には、上記(非水系二次電池用多孔膜)の項で挙げたものと同様のものを用いることができ、多孔膜を正極、負極、セパレーターの表面に設ける方法も、これらの項で挙げた手法を採用することができる。
【0066】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0067】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池においては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0068】
<非水系二次電池の製造方法>
非水系二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造し得る。なお、正極、負極、セパレーターのうち、少なくとも一つの部材を多孔膜付きの部材とする。ここで、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例
【0069】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。
実施例および比較例において、粒子状重合体のガラス転移温度および体積平均粒子径D50は以下の方法を用いて測定した。そして、多孔膜用組成物の破泡性、多孔膜のピール強度、セパレーターの耐熱収縮性および非水系二次電池の出力特性は、以下の方法により評価した。
【0070】
<ガラス転移温度>
粒子状重合体を含む水分散液を50%湿度、23~25℃の環境下で3日間乾燥させて、厚み1±0.3mmのフィルムを得た。このフィルムを、120℃の熱風オーブンで1時間乾燥させた。その後、乾燥させたフィルムをサンプルとして、JIS K7121に準じて、測定温度-100℃~180℃、昇温速度5℃/分にて、示差走査熱量分析計(DSC6220SII、ナノテクノロジー社製)を用いてガラス転移温度(℃)を測定した。
<体積平均粒子径D50>
レーザー回折・光散乱方式粒度分布測定装置(LS230、ベックマンコールター社製)を用いて、粒子状重合体の体積平均粒子径D50を測定した。
<破泡性>
多孔膜用組成物の破泡性の評価は、JIS K3362のロスマイルス試験法に基づいて行った。具体的には、得られた多孔膜用組成物50mlに、上方900mmから、同組成物200mlを30秒間で、25℃の環境下で滴下し、滴下が終了した15秒後の泡の高さを測定した。1サンプルに付き3回の測定を繰り返し、その3回の算術平均を下記の基準で評価した。泡の高さが低い程、破泡性に優れている。
A:泡の高さが10mm未満
B:泡の高さが10mm以上30mm未満
C:泡の高さが30mm以上
<ピール強度>
得られた二次電池用セパレーター(多孔膜付きセパレーター)を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とした。また、予め試験台にセロハンテープを固定した。このセロハンテープとしては、JIS Z1522に規定されるものを用いた。そして、多孔膜付きセパレーターから切り出した試験片を、多孔膜側を下にしてセロハンテープに貼り付けた。その後、セパレーターの一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。測定を3回行い、測定した応力の平均値を求めて、これをピール強度とした。そして、下記の基準で評価した。ピール強度が大きいほど、多孔膜が電解液浸漬前の接着性に優れることを示す。
A:ピール強度が120N/m以上
B:ピール強度が90N/m以上120N/m未満
C:ピール強度が90N/m未満
<耐熱収縮性>
得られた二次電池用セパレーター(多孔膜付きセパレーター)を幅10cm×長さ10cmに切り出し、試験片とする。試験片を150℃に温度調節したオーブン内に1時間放置した後、各辺の長さを測定し、最も収縮率の大きい辺の収縮率を熱収縮率として下記基準で評価した。熱収縮率が小さいほど、耐熱収縮性に優れる。
A:熱収縮率が3.0%未満
B:熱収縮率が3.0%以上5.0%未満
C:熱収縮率が5.0%以上10.0%未満
D:熱収縮率が10.0%以上
<出力特性>
作製した二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後に、25℃の環境下で、4.2V、0.1C、5時間の充電の操作を行い、その時の電圧V0(V)を測定した。その後、-10℃環境下で、1Cの放電レートにて放電の操作を行い、放電開始15秒後の電圧V2(V)を測定した。電圧変化ΔV(mV)をΔV={V0-V2}×1000の式を用いて算出し、下記のように評価した。この値が小さいほど出力特性(低温特性)に優れることを示す。
A:電圧変化ΔVが500mV以下
B:電圧変化ΔVが500mV超700mV以下
C:電圧変化ΔVが700mV超900mV以下
D:電圧変化ΔVが900mV超
【0071】
(実施例1)
<結着材の調製>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、および過硫酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、80℃に昇温した。一方、別の容器中で、イオン交換水50部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王ケミカル社製、「ネオペレックスG15」)0.8部、アルキル基の炭素数が8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体として2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)65部、芳香族ビニル単量体としてスチレン(ST)30部、架橋性単量体としてアリルメタクリレート(AMA)1.0部、および酸性基含有単量体としてアクリル酸(AA)4.0部を混合して単量体組成物を得た。この単量体組成物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、80℃で反応を行った。添加終了後、さらに80℃で3時間撹拌して反応を終了し、結着材としての粒子状重合体を含む水分散液を製造した。
得られた粒子状重合体のガラス転移温度を測定したところ、観測されたガラス転移温度は一点のみ(-15℃)であり、粒子状重合体がランダム共重合体であることを確認した。また粒子状重合体の体積平均粒子径D50は300nmであった。
【0072】
<非水系二次電池多孔膜用組成物の調製>
無機粒子としてのアルミナフィラー(日本軽金属社製、「LS256」)100部に対して、上述の粒子状重合体(結着材)の水分散液を固形分相当で4部、粘度調整剤としてカルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体(荒川化学社製、「ポリストロン(登録商標)117」)1.5部、非イオン性のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、「エマルゲン120」)0.4部を混合し、多孔膜用組成物を調製した。
得られた多孔膜用組成物を用いて、破泡性を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
<多孔膜および多孔膜付きセパレーターの製造>
ポリエチレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、厚み16μm)を用意した。用意した有機セパレーターの片面に、上述のようにして得られた多孔膜用組成物を塗布し、50℃で10分乾燥させた。これにより、厚み18μmの多孔膜付きセパレーターを得た。
得られた多孔膜付きセパレーターを用いて、ピール強度および耐熱収縮性を評価した。結果を表1に示す。
【0074】
<負極の製造>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3-ブタジエン33部、イタコン酸(IA)3.5部、ST63.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却して反応を停止し、負極合材層用結着材(SBR)を含む混合物を得た。上記負極合材層用結着材を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却し、所望の負極合材層用結着材を含む水分散液を得た。
負極活物質としての人造黒鉛(体積平均粒子径:15.6μm)100部、粘度調整剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製「MAC350HC」)の2%水溶液を固形分相当で1部、およびイオン交換水を混合して固形分濃度68%に調整した後、25℃で60分間さらに混合した。さらにイオン交換水で固形分濃度を62%に調整した後、25℃で15分間さらに混合した。上記混合液に、上記の負極合材層用結着材を固形分相当量で1.5部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度が52%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い二次電池負極用スラリー組成物を得た。
得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理してプレス前の負極原反を得た。このプレス前の負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmのプレス後の負極を得た。
【0075】
<正極の製造>
正極活物質としての体積平均粒子径12μmのLiCoOを100部、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、「HS-100」)を2部、正極合材層用結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製、「#7208」)を固形分相当で2部と、N-メチルピロリドンとを混合し全固形分濃度が70%となる量とした。これらを混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
得られた正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、プレス前の正極原反を得た。このプレス前の正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層の厚みが80μmのプレス後正極を得た。
【0076】
<二次電池の製造>
上記で得られたプレス後の正極を49cm×5cmに切り出して正極合材層側の表面が上側になるように置き、その上に120cm×5.5cmに切り出した非水系二次電池用セパレーター(多孔膜付きセパレーター)を、正極がセパレーターの長手方向左側に位置するように配置した。さらに、上記で得られたプレス後の負極を、50cm×5.2cmに切り出し、これをセパレーター上に、負極合材層側の表面がセパレーターに向かい合うように、かつ、負極がセパレーターの長手方向右側に位置するように配置した。これを捲回機により、セパレーターの長手方向の真ん中を中心に捲回し、捲回体(積層体)を得た。この捲回体を60℃、0.5MPaでプレスし、扁平体とした後、電池の外装としてのアルミ包材外装で包み、電解液(溶媒:EC/DEC/VC(体積混合比)=68.5/30/1.5、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入した。さらに、アルミ包材外装の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミ包材外装を閉口した。その後、アルミ包材外装に封入した捲回体をアルミ包材外装ごと温度80℃、圧力1MPaで2分間プレスし、非水系二次電池として放電容量1000mAhの捲回型リチウムイオン二次電池を製造した。
得られた二次電池を用いて、出力特性を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2、3)
多孔膜用組成物の調製時に、エマルゲン120の使用量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、結着材、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、および二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例4)
結着材の調製時に、2-EHAに替えてシクロヘキシルアクリレート(CHA)を使用した以外は、実施例1と同様にして、結着材、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、および二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。なお、結着材の調製時に得られた粒子状重合体のガラス転移温度を測定したところ、観測されたガラス転移温度は一点のみ(20℃)であり、粒子状重合体がランダム共重合体であることを確認した。また粒子状重合体の体積平均粒子径D50は300nmであった。
【0079】
(実施例5、6)
結着材の調製時に、STと2-EHAの使用量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、結着材、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、および二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。なお、結着材の調製時に得られた粒子状重合体のガラス転移温度を測定したところ、観測されたガラス転移温度は一点のみ(実施例5:-50℃、実施例6:25℃)であり、粒子状重合体がランダム共重合体であることを確認した。また粒子状重合体の体積平均粒子径D50は300nmであった。
【0080】
(実施例7、8)
多孔膜用組成物の調製時に、結着材およびエマルゲン120の使用量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、結着材、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、および二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例9)
多孔膜用組成物の調製時に、無機粒子としてアルミナに替えてベーマイトを使用した以外は、実施例1と同様にして、結着材、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、および二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例10)
多孔膜用組成物の調製時に、エマルゲン120に替えて硫黄原子を含むアニオン性界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスG15、花王ケミカル社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、結着材、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、および二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例11)
多孔膜用組成物の調製時に、粘度調整剤としてポリストロン117の代わりにカルボキシメチルセルロース(CMC)を使用した以外は、実施例1と同様にして、多孔膜用結着剤、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、および二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例1、2)
多孔膜用組成物の調製時に、エマルゲン120の使用量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、結着材、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、および二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1より、無機粒子、芳香族ビニル単量体単位を含む重合体を含む結着材および界面活性剤を含有し、且つ、界面活性剤の含有割合を所定の範囲内とした多孔膜用組成物を用いた実施例1~11では、ピール強度に優れる多孔膜および出力特性に優れる非水系二次電池を得られることがわかる。なお、当該実施例1~11で用いた多孔膜用組成物は破泡性にも優れている。さらに、当該多孔膜用組成物を用いて形成した多孔膜を備えるセパレーターは、耐熱収縮性にも優れている。
一方、界面活性剤の含有割合が所定の範囲を超える比較例1の多孔膜は、ピール強度に劣ることがわかる。また、比較例1の多孔膜用組成物は破泡性に劣ることもわかる。
また、界面活性剤の含有割合が所定の範囲を下回る比較例2の二次電池は、出力特性に劣る。そして、比較例2の多孔膜付きセパレーターは、耐熱収縮性にも劣ることがわかる。
【0087】
表1より、さらに以下のことを読み取ることができる。
実施例1~3より、界面活性剤の含有割合を調節することで、多孔膜用組成物の破泡性および多孔膜のピール強度を向上させることができ、また、セパレーターの耐熱収縮性を向上させうることがわかる。
実施例1、5、6より、重合体における芳香族ビニル単量体単位およびアルキル基の炭素数が6以上20以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合を調節することで、多孔膜のピール強度および二次電池の出力特性を向上させうることがわかる。
実施例1、7、8より、重合体の質量M1に対する界面活性剤の質量M2の比M2/M1を調節することで、多孔膜用組成物の破泡性、多孔膜のピール強度および二次電池の出力特性を向上させうることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、ピール強度に優れる多孔膜および出力特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池多孔膜用組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、ピール強度に優れ、且つ、出力特性に優れる非水系二次電池を提供可能な非水系二次電池用多孔膜、および、当該非水系二次電池用多孔膜を備え、出力特性に優れる非水系二次電池を提供することができる。