(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】可塑剤組成物、当該可塑剤組成物を含む熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物及び当該熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の成形体
(51)【国際特許分類】
C08K 5/103 20060101AFI20230516BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C08K5/103
C08L75/04
(21)【出願番号】P 2022569734
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2021037987
(87)【国際公開番号】W WO2022130761
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020207419
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】野口 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】野口 崇史
(72)【発明者】
【氏名】所 寛樹
【審査官】蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-512284(JP,A)
【文献】米国特許第04608418(US,A)
【文献】国際公開第2020/006473(WO,A1)
【文献】特表2017-504706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 ~ 13/08
C08L 1/00 ~ 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジ安息香酸ジエチレングリコール及びジ安息香酸1,2-プロピレングリコールからなる熱可塑性ポリウレタン樹脂用可塑剤組成物であって、
前記ジ安息香酸ジエチレングリコール及び前記ジ安息香酸1,2-プロピレングリコールの質量比が、ジ安息香酸ジエチレングリコール:ジ安息香酸1,2-プロピレングリコール=60:40~80:20の範囲にある熱可塑性ポリウレタン樹脂用可塑剤組成物。
【請求項2】
室温で液体である請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂用可塑剤組成物。
【請求項3】
熱可塑性ポリウレタン樹脂及び請求項
1又は2に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂用可塑剤組成物を含む熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して前記熱可塑性ポリウレタン樹脂用可塑剤組成物の含有量が10~100質量部の範囲である請求項
3に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項
3又は
4に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の成形体。
【請求項6】
ポリイソシアネート成分、ポリオール成分及び請求項
1又は2に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂用可塑剤組成物を含有する反応原料の反応と成形を同時に行うポリウレタン樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑剤組成物、当該可塑剤組成物を含む熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物及び当該熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン(TPU)樹脂は、通常、成形加工を容易にする目的で可塑剤が添加される。可塑剤の添加によって、成形加工時の加工温度を低下させ、熱可塑性ポリウレタン樹脂に柔軟性をはじめとする種々の性能を付与することができる。
スポーツシューズの靴底用途の熱可塑性ポリウレタンでは、特に柔軟性が要求され、昨今ではスポーツシューズはコレクション的価値を有するため、その美的外観に対する要求も高まっている。
【0003】
熱可塑性ポリウレタン樹脂に用いられる可塑剤としては、フタル酸エステル、リン酸エステル、フェノールのアルキルスルホン酸エステル、安息香酸エステルなどが知られている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-47410号公報
【文献】特表2014-507514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、得られる成形体を着色せず、可塑化性能にも優れる可塑剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
熱可塑性ポリウレタン樹脂用の可塑剤に求められる性能としては、可塑化性能はもちろんのこと、熱可塑性ポリウレタン樹脂との相溶性や、熱可塑性ポリウレタン樹脂成形体とした場合に成形体を着色しないことも必要なほか、高いコスト性も求められる。
【0007】
熱可塑性ポリウレタン樹脂用の可塑剤としては、安息香酸エステルであるジプロピレングリコールジベンゾエート(DPGDB)が主流であるが、可塑剤としてジプロピレングリコールジベンゾエートを用いて得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂成型体は、やや黄色味を呈する場合があった。また、ジプロピレングリコールジベンゾエートの原料となるジプロピレングリコールは、化粧品用途などにおける需要増で価格が高騰傾向にあり、コスト性にも懸念があった。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ジ安息香酸ジエチレングリコールとジ安息香酸1,2-プロピレングリコールを特定の範囲の質量比で含有する可塑剤組成物を用いることで上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、ジ安息香酸ジエチレングリコール及びジ安息香酸1,2-プロピレングリコールからなる可塑剤組成物であって、前記ジ安息香酸ジエチレングリコール及び前記ジ安息香酸1,2-プロピレングリコールの質量比が、ジ安息香酸ジエチレングリコール:ジ安息香酸1,2-プロピレングリコール=50:50~80:20の範囲にある可塑剤組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、得られる成形体を着色せず、可塑化性能にも優れる可塑剤組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
[可塑剤組成物]
本発明の可塑剤組成物は、ジ安息香酸ジエチレングリコール及びジ安息香酸1,2-プロピレングリコールからなり、ジ安息香酸ジエチレングリコール及びジ安息香酸1,2-プロピレングリコールの質量比が、ジ安息香酸ジエチレングリコール:ジ安息香酸1,2-プロピレングリコール=50:50~80:20の範囲にある。
【0013】
本発明の可塑剤組成物は、ジ安息香酸1,2-プロピレングリコールとジ安息香酸ジエチレングリコールを含有することで、例えば熱可塑性ポリウレタン樹脂に用いた場合に、得られる成形体が黄色味を呈することを防ぐことができる。
また、ジ安息香酸ジエチレングリコールの原料であるジエチレングリコールは、例えばジプロピレングリコールよりもずっと安価な化合物であり、本発明の可塑剤組成物はコスト性能にも優れる。
【0014】
本発明の可塑剤組成物において、ジ安息香酸ジエチレングリコール及びジ安息香酸1,2-プロピレングリコールの質量比は、ジ安息香酸ジエチレングリコール:ジ安息香酸1,2-プロピレングリコール=50:50~80:20の範囲であり、好ましくはジ安息香酸ジエチレングリコール:ジ安息香酸1,2-プロピレングリコール=60:40~80:20の範囲であり、より好ましくはジ安息香酸ジエチレングリコール:ジ安息香酸1,2-プロピレングリコール=65:35~75:25の範囲である。
【0015】
本発明の可塑剤組成物において、「ジ安息香酸ジエチレングリコール及びジ安息香酸1,2-プロピレングリコールからなる」とは、可塑剤としてジ安息香酸ジエチレングリコール及びジ安息香酸1,2-プロピレングリコール以外を含まないという意味である。即ち、本発明の可塑剤組成物は、ジ安息香酸ジエチレングリコール及びジ安息香酸1,2-プロピレングリコールの可塑剤ジブレンド組成物である。
【0016】
本発明の可塑剤組成物は、好ましくは室温で液体である。
ここで「室温」とは25℃を意味し、「室温で液体」とは25℃で流動性を示す状態にあることを意味する。
【0017】
本発明の可塑剤組成物は、ジエチレングリコール、プロパン-1,2-ジオール及び安息香酸をエステル化触媒存在下で反応させることで製造することができる。
前記エステル化触媒としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒;ジブチル錫オキサイド等のスズ系触媒;p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸系触媒などが挙げられる。
前記エステル化触媒の使用量は、適宜設定すればよいが、通常、反応原料の全量100質量部に対して、0.001~0.1質量部の範囲で使用する。
尚、エステル化反応においてエステル化触媒は必須ではなく、エステル化触媒を使用しないでもよい。
【0018】
前記エステル化反応における反応温度及び反応時間は適宜設定すればよく、例えば100~300℃の温度範囲で2~25時間という条件が採用できる。
また、前記エステル化反応において溶媒は使用しても使用しなくてもよい。エステル化反応に溶媒を使用する場合、当該溶媒としてはエステル化反応を阻害するものでなければ特に限定されず、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒を使用できる。溶媒の使用量は適宜設定するとよい。
【0019】
上記のほか、市販又は別途調製したジ安息香酸ジエチレングリコールと、市販又は別途調製したジ安息香酸1,2-プロピレングリコールとを特定の質量比となるように混合することでも本発明の可塑剤組成物は製造できる。
【0020】
本発明の可塑剤組成物は、熱可塑性ポリウレタン樹脂用可塑剤として好適に用いることができる。本発明の可塑剤組成物は、優れた可塑化効果を示すだけでなく、結晶化しにくい特性も有し、低温下であっても結晶として析出しにくい特性を有する。
また、本発明の可塑剤組成物は、得られる成形体を着色することが無く、人目に触れる成形体にも問題無く使用することができる。
【0021】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物]
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、本発明の可塑剤組成物及び熱可塑性ポリウレタン樹脂を含む。
【0022】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、市販品を用いればよく、公知の方法で製造するでもよい。
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、例えばポリイソシアネート成分と、ポリオール成分とを反応させることにより製造できる。
【0023】
ポリイソシアネート成分としては、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの直鎖状または分岐鎖状(非環式)の脂肪族ジイソシアネート;3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート;IPDI)、4,4’-、2,4’-または2,2’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-または1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンなどの環式の脂肪族ジイソシアネート(脂環族ジイソシアネート);2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-、2,4’-または2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;1,3-または1,4-キシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0024】
ポリオール成分は、例えば数平均分子量が60以上400未満の低分子量ポリオールと、数平均分子量が400以上10,000以下の高分子量ポリオールに分類できる。
【0025】
低分子量ポリオールとしては、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの直鎖ジオール;1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)などの分岐鎖ジオールなどが挙げられる。
【0026】
高分子量ポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテルポリオール;ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステルポリオール;ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0027】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造に用いるポリイソシアネート成及びポリオール成分は、それぞれ1種単独でも2種以上の併用でもよい。
【0028】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物における本発明の可塑剤組成物の含有量は、熱可塑性ポリウレタン樹脂との相溶性等の観点から、熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して10~100質量部の範囲が好ましい。
【0029】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、熱可塑性ポリウレタン樹脂と本発明の可塑剤組成物を含めばよく、可塑剤以外のその他添加剤等を含んでもよい。
その他添加剤としては、例えば、難燃剤、安定剤、安定化助剤、着色剤、加工助剤、充填剤、酸化防止剤(老化防止剤)、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、架橋助剤等を例示することができる。
【0030】
難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等の無機系化合物;クレジルジフェニルホスフェート、トリスクロロエチルフォスフェート、トリスクロロプロピルフォスフェート、トリスジクロロプロピルフォスフェート等のリン系化合物;塩素化パラフィン等のハロゲン系化合物等が例示される。
難燃剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常0.1~20質量部である。
【0031】
安定剤としては、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸化合物;ジメチルスズビス-2-エチルヘキシルチオグリコレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズビスブチルマレエート、ジブチルスズジラウレート等の有機錫系化合物;アンチモンメルカプタイド化合物;酸化ランタン、水酸化ランタン等のランタノイド含有化合物等が例示される。
安定剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常0.1~20質量部である。
【0032】
安定化助剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリデシルフォスファイト等のホスファイト系化合物;アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のベータジケトン化合物;グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等のポリオール化合物;過塩素酸バリウム塩、過塩素酸ナトリウム塩等の過塩素酸塩化合物;ハイドロタルサイト化合物;ゼオライト等が例示される。
安定化助剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常0.1~20質量部である。
【0033】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、硫化鉛、ホワイトカーボン、チタン白、リトポン、べにがら、硫化アンチモン、クロム黄、クロム緑、コバルト青、モリブデン橙等が例示される。
着色剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常1~100質量部である。
【0034】
加工助剤としては、例えば、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、ブチルステアエレート、ステアリン酸カルシウム等が例示される。
加工助剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常0.1~20質量部である。
【0035】
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、珪藻土、フェライト等の金属酸化物;ガラス、炭素、金属等の繊維及び粉末;ガラス球、グラファイト、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウムなどが例示される。
充填剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常1~100質量部である。
【0036】
酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート]メタン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等のフェノール系化合物;アルキルジスルフィド、チオジプロピオン酸エステル、ベンゾチアゾール等の硫黄系化合物;トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン酸系化合物;ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛等の有機金属系化合物等が例示される。
酸化防止剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常0.2~20質量部である。
【0037】
紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリシレート、p-tert-ブチルフェニルサリシレート等のサリシレート系化合物;2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-ジオクチルアミノメチルベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物の他、シアノアクリレート系化合物等が例示される。
紫外線吸収剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常0.1~10質量部である。
【0038】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系の光安定剤が例示できる。具体的には、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート(混合物)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドリキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1(オクチルオキシ)-4-ピペリジル)エステル及び1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールと高級脂肪酸のエステル混合物、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの重縮合物、ポリ{(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル){(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}}、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N'-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、N,N',N'',N'''-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン等が例示される。
光安定剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常0.1~10質量部である。
【0039】
滑剤としては、例えば、シリコーン、流動パラフィン、バラフィンワックス、ステアリン酸金属やラウリン酸金属塩などの脂肪酸金属塩;脂肪酸アミド類、脂肪酸ワックス、高級脂肪酸ワックス等が例示される。
滑剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常0.1~10質量部である。
【0040】
帯電防止剤としては、例えば、アルキルスルホネート型、アルキルエーテルカルボン酸型又はジアルキルスルホサクシネート型のアニオン性帯電防止剤;ポリエチレングリコール誘導体、ソルビタン誘導体、ジエタノールアミン誘導体などのノニオン性帯電防止剤;アルキルアミドアミン型、アルキルジメチルベンジル型などの第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム型の有機酸塩又は塩酸塩などのカチオン性帯電防止剤;アルキルベタイン型、アルキルイミダゾリン型などの両性帯電防止剤等が例示される。
帯電防止剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常0.1~10質量部である。
【0041】
架橋助剤としては、テトラエチレングリコールジメタアクリレート、ジビニルベンゼンジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、トリメトキシエトキシビニルシラン等の多官能モノマーがあげられ、
架橋助剤を熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に配合する場合、その配合量は熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して通常0.5~30質量部である。
【0042】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。
例えば、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、熱可塑性ポリウレタン樹脂、本発明の可塑剤組成物、任意成分(前記その他可塑剤及び前記その他添加剤)をブレンダー、プラネタリーミキサー、バンバリーミキサー等の混錬機を用いて混合することにより調製することができる。
【0043】
熱可塑性ポリウレタン樹脂成形体は、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を、真空成形、圧縮成形、押出成形、カレンダー成形、プレス成形、ブロー成形、粉体成形等の公知の成形方法で成形することにより得られる。
【0044】
熱可塑性ポリウレタン樹脂成形体を得る方法は上記に限定されない。例えば熱可塑性ポリウレタン樹脂の原料であるポリイソシアネート成分及びポリオール成分と、本発明の可塑剤組成物とを押出機に導入し、押出機内で溶融混錬とともに重合反応を行って、熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造と当該熱可塑性ポリウレタン樹脂の成形を同時に行うことでも可塑性ポリウレタン樹脂成形体を得ることができる。
【0045】
熱可塑性ポリウレタン樹脂成形体は、ベルト、チューブ、ホース、電線被覆材、ケーブル被覆材、消防ホース、パッキング類、バンパー、シート材、エアーマット、合成皮革、靴底、時計バンド、カメラグリップ、スマホケース、タブレットケース、医療用チューブ、スキー板、ラケット等に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
尚、本発明は下記実施例に限定されない。
【0047】
本願実施例において、酸価の値は、下記方法により評価した値である。
<酸価の測定方法>
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
【0048】
(実施例1:可塑剤組成物の調製)
ジエチレングリコール288g(2.72モル)、プロパン-1,2-ジオール158g(2.08モル)、安息香酸976g(8.00モル)、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.427gを、温度計、撹拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込んだ。窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、反応液の酸価が4以下になるまで230℃で加熱を続け、生成する水を連続的に除去した。反応後、230~200℃で反応液中の未反応のグリコールを減圧留去し、可塑剤Aを得た。
【0049】
得られた可塑剤Aの組成をガスクロマトグラフィー(以下GCと略記)、ガスクロマトグラフ質量分析(以下GCMSと略記)および核磁気共鳴(以下NMRと略記)により確認した。具体的には得られた可塑剤A及び可塑剤Aの加水分解物を、下記条件でGC測定、GCMS測定及びNMR測定することにより、可塑剤Aの組成を確認した。
その結果、可塑剤Aは、ジ安息香酸ジエチレングリコール及びジ安息香酸1,2-プロピレングリコールからなり、ジ安息香酸ジエチレングリコール:ジ安息香酸1,2-プロピレングリコール(質量比)=70:30であった。
【0050】
[GC測定条件]
測定装置 :ガスクロマトグラフGC-2010(株式会社島津製作所製)
検出器 :FID
カラム :キャピラリーカラムDB-5(0.25mm×30m、0.25μm)
カラム温度 :50℃→300℃(昇温速度10℃/min)→(5min Hold)
キャリアガス:ヘリウム
[GC-MS測定条件]
測定装置 :ガスクロマトグラフ質量分析計GCMS-QP2010Plus(株式会社島津製作所製)
カラム :キャピラリーカラムZB-5(0.25mm×30m、0.25μm)
カラム温度 :50℃→300℃(10℃/min.)→(5min.Hold)
キャリアガス:ヘリウム
[NMR測定条件]
装置 :日本電子株式会社製 ECA 500
測定モード:逆ゲート付きデカップリング
溶媒 :重水素化クロロホルム
パルス角度:30°パルス
試料濃度 :30質量%
積算回数 :2,000
【0051】
得られた可塑剤Aについて、その物性と性能を以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0052】
(結晶性評価)
得られた可塑剤を容器中で80℃で均一に溶解し、-18℃の冷蔵庫中に保管した。保管を開始してから1日後及び7日後のそれぞれで容器内を目視で確認し、以下の基準で可塑剤の結晶性を評価した。
結晶化の痕跡が無い:〇
結晶化の痕跡が有る:×
【0053】
(可塑化性能評価)
熱可塑性ポリウレタン樹脂(パンデックスT-8180N、DICコベストロポリマー株式会社製)100質量部、得られた可塑剤20質量部及び滑剤(Licolub WE-4、クラリアントケミカルズ株式会社製)0.5質量部を混合し、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(A1)を得た。
140~150℃に加熱した2本ロールで調製した熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(A1)を5分混錬した後、混錬後の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(A1)を1.0mm厚の成形体が得られる金型(1.0mm厚金型)と140~150℃に熱したプレス機とを用いて成形し、1.0mm厚のシートを作製した。
【0054】
得られたシートについて、JISK7311-1995に従って100%モジュラス(伸び100%時の引張応力)、300%モジュラス(伸び300%時の引張応力)及び破断伸び率を評価した。具体的には、1.0mm厚のシートを用いて、下記条件にて引張試験を実施し、100%モジュラス、300%モジュラス及び破断伸び率を評価した。
尚、破断伸び率は、1.0mm厚シートが引張破断した時の標線間距離から初期の標線間距離20mmを引いた値を標線間距離20mmで除して百分率で表したものである。
測定機器 :テンシロン万能材料試験機(株式会社オリエンテック製)
サンプル形状 :ダンベル状3号形
標線間距離 :20mm
チャック間距離:60mm
引張速度 :200mm/分
測定雰囲気 :温度23度、湿度50%
【0055】
上記可塑化性能評価について、可塑剤の添加量を20質量部から40質量部に変えた他は同様にして100%モジュラス、300%モジュラス及び破断伸び率を評価した。
【0056】
100%モジュラス及び300%モジュラスの値が低いほど、熱可塑性ポリウレタン樹脂を可塑化させる効果が高いことを示す。また、破断伸び率が高いほど、熱可塑性ポリウレタン樹脂を可塑化させる効果が高いことを示す。
【0057】
(着色性評価)
熱可塑性ポリウレタン樹脂(Leadthane 685AS、Shanghai Lejoin Polymer Materials Co., Ltd製)100質量部及び得られた可塑剤10質量部を混合して、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(A2)を得た。得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(A2)を120℃にて72時間加熱し、加熱後の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(A2)の着色を目視で確認し、可塑剤を含まない熱可塑性ポリウレタン樹脂と比較して着色しているかどうかを、以下の基準で評価した。
着色無し:〇
若干の着色有り:△
着色有り:×
【0058】
(比較例1:ジ安息香酸ジプロピレングリコール可塑剤)
ジプロピレングリコール590g(4.40モル)、安息香酸976g(8.00モル)、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.470gを、温度計、撹拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込んだ。窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、酸価が4以下になるまで230℃で加熱を続け、精製する水を連続的に除去した。反応後、230~200℃で未反応のグリコールを減圧留去することによって、ジ安息香酸ジプロピレングリコールを得た。
【0059】
可塑剤Aの代わりにジ安息香酸ジプロピレングリコールを可塑剤B’として用い、実施例1と同様にして結晶性、可塑化性能及び着色性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例2:ジ安息香酸1,2-プロピレングリコール可塑剤)
プロパン-1,2-ジオール365g(4.80モル)、安息香酸976g(8.00モル)、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.402gを、温度計、撹拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込んだ。窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、酸価が4以下になるまで230℃で加熱を続け、精製する水を連続的に除去した。反応後、230~200℃で未反応のグリコールを減圧留去することによって、ジ安息香酸1,2-プロピレングリコールを得た。
【0061】
可塑剤Aの代わりにジ安息香酸1,2-プロピレングリコールを可塑剤C’として用い、実施例1と同様にして結晶性、可塑化性能及び着色性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例3:ジ安息香酸ジエチレングリコール可塑剤)
可塑剤Aの代わりに市販のジ安息香酸ジエチレングリコール(ECOD-FLEX314、ECOD SPECIALTIES(Wuhan)Co.,Ltd製)を可塑剤D’として用い、実施例1と同様にして結晶性及び着色性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例4:ジ安息香酸トリエチレングリコール可塑剤)
トリエチレングリコール660g(4.40モル)、安息香酸976g(8.00モル)、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.491gを、温度計、撹拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込んだ。窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、酸価が4以下になるまで230℃で加熱を続け、精製する水を連続的に除去した。反応後、230~200℃で未反応のグリコールを減圧留去することによって、ジ安息香酸トリエチレングリコールを得た。
【0064】
可塑剤Aの代わりにジ安息香酸トリエチレングリコールを可塑剤E’として用い、実施例1と同様にして結晶性の評価を行った。結果を表1に示す。
尚、可塑剤E’は実施例1及び比較例1~3の可塑剤と異なり室温にて固体であった。
【0065】
(比較例5:可塑剤組成物)
比較例3のジ安息香酸ジエチレングリコール70質量部と比較例4のジ安息香酸トリエチレングリコール30質量部を80℃にて液体にして混合して、ジ安息香酸ジエチレングリコールとジ安息香酸トリエチレングリコールの可塑剤組成物を可塑剤F’とした。
【0066】
可塑剤Aの代わりに可塑剤F’を用い、実施例1と同様にして結晶性及び着色性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
実施例1の可塑剤組成物は、安価なジ安息香酸ジエチレングリコールを多量に含むにもかかわらず、高価な比較例1のジ安息香酸ジプロピレングリコール及び比較例2のジ安息香酸1,2-プロピレングリコールよりも特に可塑化性能において優れた性能を示していることが分かる。比較例3-5のジ安息香酸ジエチレングリコール及び/又はジ安息香酸トリエチレングリコールからなる可塑剤は、結晶が生じてしまっているほか、着色も生じてしまっていることが分かる。