IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サノフイの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】雑音が低減した駆動機構
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20230516BHJP
   A61M 5/24 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
A61M5/315 550N
A61M5/24
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020533823
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2018086121
(87)【国際公開番号】W WO2019122085
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】17306877.6
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・ドナルド・クエンティン・コーリングス
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ロバート・クープ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・アントニー・ウェスト
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・フランシス・ギルモア
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・デーヴィッド・ヒギンス
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ディグビー・トゥーカー
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・キャロル
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・ロビン・クイッグ
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ・シュタイン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ブランケ
(72)【発明者】
【氏名】ソフィー・スレイデン
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-530799(JP,A)
【文献】特表平10-504672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0164354(US,A1)
【文献】特表2015-537159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達デバイス用の駆動機構であって、用量セレクタ(80)と、ハウジング(10)と、ギヤ要素を有するラチェットとを含み、該ギヤ要素は、用量セレクタに連結された複数のギヤ歯(121)と、ハウジングに対して回転不能に拘束され、少なくとも1つのつめ歯(43)を含むつめ要素とを含み、ここで少なくとも1つのつめ歯は、ギヤ歯に係合し、ギヤ歯に対向するように位置し、用量セレクタを使用して用量設定中に、ギヤ要素がハウジングに対して回転するとき、ギヤ要素およびつめ要素のうちの一方は、ギヤ要素およびつめ要素のうちの他方の要素に対して、第1の方向に沿って前後に動いて、対向するギヤ歯と少なくとも1つのつめ歯を係合解除および再係合させ、つめ要素および/またはギヤ要素は、雑音低減特徴部をその/それらの面に含み、該雑音低減特徴部は、ギヤ要素がつめ要素に対して回転するときに、つめ要素およびギヤ要素のそれぞれの他方の要素の1つまたは複数の歯が動いて再係合するときに発生する雑音を減衰させ、雑音低減特徴部は、
らせん形状のギヤ歯(223)、および対応するらせん形状の少なくとも1つのつめ歯(243)と、
面取り形状のギヤ歯(343)、および対応する面取り形状の少なくとも1つのつめ歯と、
ギヤ歯および/または少なくとも1つのつめ歯の少なくとも一部分の所定のセクションにおけるエラストマー材料の表面層(123)、またはエラストマー材料の本体(165、175、185)
のうちの少なくとも1つを含
雑音低減特徴部は、ギヤ要素または複数のつめ歯を有するつめ要素に取り付けられた環状カラー(160)を含み、該環状カラーは、エラストマー材料により形成された複数のカラー歯(165)を含み、該カラー歯は、ギヤ歯またはつめ歯の少なくとも一部分の外側セクションを形成するか、
雑音低減特徴部は、ギヤ要素または複数のつめ歯を有するつめ要素に取り付けられた内部栓(170)を含み、該内部栓は、エラストマー材料により形成された複数の栓歯要素(175)を含み、該栓歯要素は、ギヤ歯またはつめ歯のうちの少なくとも一方に取って代わるか、または
雑音低減特徴部は、ギヤ要素または複数のつめ歯を有するつめ要素に取り付けられた減衰フープ(180)を含み、内部栓は、エラストマー材料により形成された複数のフープ歯要素(185)を含み、該フープ歯要素は、ギヤ歯またはつめ歯のうちの少なくとも一方に取って代わる、
前記駆動機構。
【請求項2】
第1の方向は、駆動機構の長手方向であり、または該長手方向に対する径方向である、請求項1に記載の駆動機構。
【請求項3】
つめ要素は、駆動スリーブ(40)の正面に位置しており、駆動スリーブは、用量設定中にハウジング(10)に対して回転不能に拘束される、請求項1または2に記載の駆動機構。
【請求項4】
ギヤ歯は、用量設定中に用量セレクタ(80)に対して回転不能に拘束されるクラッチプレート(120)の正面に位置している、請求項1~3のいずれか1項に記載の駆動機構。
【請求項5】
雑音低減特徴部は、ギヤ歯(121)または少なくとも1つのつめ歯(43)の表面に、好ましくは内側セクション(43a、121a)に位置するグリース(150)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の駆動機構。
【請求項6】
栓歯要素およびフープ歯要素は、それが取って代わる歯に形状が対応している直線状の歯(165、175、185)、ノッチ付きセクション(176)、かにはさみ状セクション(178)、および小石状突出部(179)のうちの1つである、請求項1~5のいずれか1項に記載の駆動機構。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の駆動機構を含む薬物送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ユーザにより変更可能な複数の薬剤用量を選択および投薬するための、薬物送達デバイス用、特にペン型薬物送達デバイス用の駆動機構に関する。さらに本開示は、そうした薬物送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動機構は、用量セレクタと、ハウジングと、ギヤ要素を有するラチェットとを含み、このギヤ要素は、用量セレクタに連結された複数のギヤ歯と、ハウジングに対して回転不能に拘束され、少なくとも1つのつめ歯を含むつめ要素とを含み、ここで少なくとも1つのつめ歯は、ギヤ歯に係合し、ギヤ歯の反対側に位置付けられ、用量セレクタを使用して用量設定中、すなわち用量ダイヤル設定中に、ギヤ要素がハウジングに対して回転するとき、ギヤ要素およびつめ要素のうちの一方は、ギヤ要素およびつめ要素のうちの他方の要素に対して、第1の方向に沿って前後に動いて、反対側のギヤ歯と少なくとも1つのつめ歯を係合解除および再係合させる。ユーザが用量セレクタを回転させて用量を増加または減少させる用量設定中に、乗越えが可能なラチェット歯は雑音を発生させ、この雑音が薬物送達デバイスに沿って伝達され、音が大きすぎると知覚される。
【0003】
ペン型薬物送達デバイスには、正式な医療研修なしに人々により定期的な注射がおこなわれるという用途がある。これは、糖尿病患者の間でますます一般的になっていることがあり、この場合には、自己治療によって、こうした患者が自身の病を効果的に管理できるようになる。実際、こうした薬物送達デバイスによって、ユーザにより変更可能な複数の薬剤用量を、ユーザが個々に選択および投薬できるようになる。
【0004】
基本的に2つのタイプの薬物送達デバイス:すなわち、再設定可能なデバイス(すなわち、再使用可能)と、再設定不可能なデバイス(すなわち、使い捨て)が存在する。たとえば、使い捨てのペン型送達デバイスは、自己完結型のデバイスとして供給される。こうした自己完結型デバイスは、取外し可能な充填済みカートリッジを有していない。むしろ、充填済みカートリッジは、デバイス自体を破壊せずにこれらのデバイスから取り外したり交換したりすることはできない。その結果、こうした使い捨てのデバイスは、再設定可能な用量設定機構を有する必要がない。
【0005】
これらのタイプのペン型送達デバイス(大きい万年筆に似ていることが多いのでこう呼ばれる)は、一般に3つの主要素:すなわち、ハウジングまたはホルダに収容されることが多いカートリッジを含むカートリッジセクション;カートリッジセクションの一方の端部に連結されたニードルアセンブリ;およびカートリッジセクションの他方の端部に連結された用量設定セクションを含む。カートリッジ(アンプルと呼ばれることが多い)は、通常、医薬品(たとえば、インスリン)で充填されたリザーバと、カートリッジリザーバの一方の端部に位置する可動のゴムタイプの栓またはストッパと、細くなっていることが多い他方の端部に位置する穿孔可能なゴム封止部を有する上部とを含む。ゴム封止部を定位置に保持するために、クリンプ加工された環状の金属バンドが通常は使用される。カートリッジハウジングは通常プラスチックから作られることがあるが、カートリッジリザーバは、従来ガラスから作られてきている。
【0006】
ニードルアセンブリは、通常、交換可能な両頭針アセンブリである。注射前に、交換可能な両頭針アセンブリが、カートリッジアセンブリの一方の端部に取り付けられ、用量が設定され、次いで設定された用量が投与される。こうした取外し可能なニードルアセンブリは、カートリッジアセンブリの穿孔可能な封止部に通され、または押し込まれる(すなわちスナップ嵌めされる)。
【0007】
用量設定セクションまたは用量設定機構は、通常、用量を設定(選択)するために使用されるペン型デバイスの一部分である。多くの場合ボタンを作動させることによって開始される注射中、用量設定機構に収容されたスピンドルまたはピストンロッドは、カートリッジの栓またはストッパを押す。この力により、カートリッジに収容された医薬品が、取り付けられたニードルアセンブリを通って注射される。ほとんどの薬物送達デバイスおよび/またはニードルアセンブリの製造者およびサプライヤによって一般に推奨されているように、注射後、ニードルアセンブリは取り外され廃棄される。
【0008】
薬物送達デバイスのタイプをさらに区別することは、駆動機構を参照しておこなわれる:手動により、たとえばユーザが注射ボタンに力を加えることにより駆動されるデバイス、ばねなどにより駆動されるデバイス、およびこれら2つの概念を組み合わせたデバイス、すなわちユーザがなお注射力を加える必要があるばね支援デバイスが存在する。ばねタイプのデバイスは、予圧されたばねと、用量選択中にユーザにより負荷が加えられるばねとを含む。一部の蓄積エネルギーデバイスは、予圧されたばねと、たとえば用量設定中にユーザによって与えられる追加のエネルギーとの組合せを使用する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の目的は、操作音量が低減された駆動機構および薬物送達デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1の機能を有する駆動機構、および請求項13の機能を有する薬物送達デバイスによって解決される。
【0011】
特に、薬物送達デバイス用の駆動機構は、用量セレクタと、ハウジングと、ギヤ要素を有するラチェット(第1のクラッチとも呼ぶ)とを含み、このギヤ要素は、用量セレクタに連結された複数のギヤ歯と、ハウジングに対して回転不能に拘束され、少なくとも1つのつめ歯を含むつめ要素とを含み、ここで少なくとも1つのつめ歯は、ギヤ歯に係合し、ギヤ歯に対向するように位置し、用量セレクタを使用して用量設定中に、ギヤ要素がハウジングに対して回転するとき、ギヤ要素およびつめ要素のうちの一方は、ギヤ要素およびつめ要素のうちの他方の要素に対して、第1の方向に沿って前後に動いて、対向するギヤ歯と少なくとも1つのつめ歯を係合解除および再係合させ、つめ要素および/またはギヤ要素は、雑音低減特徴部をその/それらの面、たとえばその/それらの面の少なくとも一部分に含み、この雑音低減特徴部は、ギヤ要素がつめ要素に対して回転するときに、つめ要素およびギヤ要素のそれぞれの他方の要素の1つまたは複数の歯が動いて再係合するときに発生する雑音を減衰させる。
【0012】
雑音低減特徴部は、隣の戻り止め位置との再係合中に、ラチェットの1つの歯または複数の歯(すなわち、ギヤ歯または少なくとも1つのつめ歯)が衝突することによって生じる雑音を減衰させる。この衝突により生じる可聴音は、雑音低減特徴部によって低減され、この特徴部の様々な例を以下に提供する。雑音低減は、ギヤ歯の表面または少なくとも1つのつめ歯の表面の少なくとも一部分に位置するグリースによって実現されるか、ラチェット歯の形状を変更することによって実現されるか、エラストマー材料から成る表面層または本体により形成されるギヤ歯の表面または少なくとも1つのつめ歯の表面の少なくとも一部分に提供されるエラストマー材料によって実現される。
【0013】
本開示の一実施形態によれば、第1の方向は、駆動機構の長手方向であり、またはこの長手方向に対する径方向である。
【0014】
一実施形態では、つめ要素は、用量ダイヤル設定中にのみハウジングに回転不能に拘束され、一方、用量使用中には、つめ要素は、たとえば駆動スリーブとともにハウジングに対して回転してもよい。
【0015】
一実施形態では、駆動機構は、ばね駆動式の回転可能な駆動部材と、回転可能な被駆動部材と、被駆動部材と駆動部材を連結状態において回転不能に連結し、被駆動部材と駆動部材を連結解除状態において時計回りおよび/または反時計回りに相対的に回転できるようにするクラッチ/ラチェットと、クラッチを付勢してその連結状態にし、駆動部材と被駆動部材との相対的な軸方向運動を可能にして、ばねの付勢に対抗してクラッチを連結解除状態にする(クラッチ)ばねとを含む。
【0016】
さらに、一実施形態では、つめ要素は、駆動スリーブの形の被駆動部材に、たとえば駆動スリーブの正面に、すなわちその近位端に位置する。ギヤ要素は、駆動部材に、たとえばクラッチプレートの正面に位置してもよい。駆動スリーブは、用量設定中にハウジングに対して回転不能に拘束される。ラチェットの歯、すなわちギヤ歯および少なくとも1つのつめ歯は、クラッチプレートと駆動スリーブの間で1用量単位に対応する戻り止め位置を提供し、たとえばダイヤル設定用量を増加させるときの用量設定中など制限されない回転中と、たとえばダイヤル設定用量を減少させるときの用量設定中など、より制限された回転または制限された回転中とで異なる傾斜の歯角度に係合するように配置される。たとえば、ユーザが機構を1用量単位だけ増加させるのに充分なほど用量セレクタを回転させるとき、ギヤ要素は、1つのラチェット歯分だけ回転してもよい。この時点で、ラチェット歯(すなわちギヤ歯および少なくとも1つのつめ歯)は隣の戻り止め位置に再係合する。ラチェットの再係合によって可聴クリック音が生成され、ユーザが必要とする入力トルクが変化することによって、触覚フィードバックが与えられる。
【0017】
一実施形態によれば、ギヤ要素は、駆動部材の正面すなわちその遠位端に、クラッチプレートの形で位置し、これは用量設定中に用量セレクタに対して回転不能に拘束される。さらに、駆動スリーブまたはクラッチプレートは、たとえば以下でクラッチばねとも呼ぶ圧縮ばねによって、用量セレクタまたはクラッチプレートまたはハウジングに対抗して長手方向に付勢される。用量セレクタはさらにスプライン連結される。
【0018】
一態様によれば、雑音低減特徴部は、ギヤ歯または少なくとも1つのつめ歯の表面に、好ましくは駆動機構の長手方向軸の近くの内側セクションに位置するグリースを含む。一実施形態では、グリースは、つめ歯、たとえば駆動スリーブのつめ歯の縁部と、ギヤ歯の内側セクション、たとえばクラッチプレートのギヤ歯との間の空間を部分的に埋める。グリースの量が多いほど、音量は低減されるが、用量設定中のクリック音の明瞭さも低減されることがある。グリースの量は、音量の低減と明瞭さの低減のバランスを取るように最適化される。ギヤ要素またはつめ要素の周囲の周りの複数の「スポット」にグリースが塗布されるか、または周囲の周りにグリースが等しく広げられる場合に、音の改善が最も効果的であると思われる。
【0019】
高粘度のグリースが特に好適である。
一実施形態では、グリースはたとえば、
- クラッチプレートのギヤ歯と駆動スリーブのつめ歯の間に直接
- クラッチプレート/ボタンの支承面に、かつ/または
- 駆動ばねの外側表面に
位置してもよい。
【0020】
グリースの量、境界面、塗布パターン(たとえば、1つのスポットに塗布するか、2つのスポットまたはそれ以上のスポットに塗布するか、面全体に広げるか)のすべてが、音量低減の規模に影響し、特定の駆動機構に関して音量とクリック音の「明瞭さ」との最適なバランスを実現するように調節されることが可能である。
【0021】
別の態様によれば、雑音低減特徴部は、らせん形状のギヤ歯、および対応するらせん形状の少なくとも1つのつめ歯を含む。これは、らせん状の歯が合わさると、歯が互いに近づくにつれて接触面積が徐々に広がるという利点を有する。このように歯が次第に相互作用することにより、より長い期間にわたってラチェットの衝撃が拡散し、負荷がより均一に分散される。衝突に関わる力が低減されることにより、この境界面において発せられる音の振幅が低減される。
【0022】
別の態様によれば、雑音低減特徴部は、面取り形状のギヤ歯、および対応する面取り形状の少なくとも1つのつめ歯を含む。この実施形態では、ギヤ歯および少なくとも1つのつめ歯は、直線状の歯である。この実施形態は、面取り設計部の円錐状の接触により、歯の係合に加えられる「衝撃」を低減することができるという利点を有する。合わせ部分が先細りになった状態で嵌まる性質により、接触時間を長くすることができ、より長い期間にわたってエネルギーが分散されることから、衝突エネルギーが低減されると考えられた。
【0023】
一実施形態では、ギヤ歯の面取り形状は、長手方向軸の近くの内側セクションにおける歯の高さが、駆動機構の長手方向軸からさらに離れた外側セクションにおける高さより高くなるようなものである。
【0024】
別の態様によれば、雑音低減特徴部は、ギヤ歯および/または少なくとも1つのつめ歯の少なくとも一部分の所定のセクションにあるエラストマー材料の表面層、またはエラストマー材料の本体を含む。ギヤ歯および/または少なくとも1つのつめ歯の所定のセクションは、ギヤ歯および/もしくは少なくとも1つのつめ歯の正面側、ギヤ歯および/もしくは少なくとも1つのつめ歯の背面側、ギヤ歯および/もしくは少なくとも1つのつめ歯の径方向長さのセクション、ならびに/またはギヤ歯および/もしくは少なくとも1つのつめ歯の全数のうちの一部分、たとえば1つおきの歯、または2つおきの歯を含む。
【0025】
たとえば、クラッチプレートの交互の歯が、エラストマー材料で共成形され、これにより衝突の大きさを、以下の2つの方法よって低減する:
・ 駆動スリーブのいくつかの歯が柔らかい表面に衝突し、それにより運動学的エネルギーが動きと熱を介して分散される。
・ エラストマー材料が部材を減衰させ、雑音が響く時間を短くする。
【0026】
エラストマーの歯は、堅い歯を超えてわずかに進み、柔らかいゴム製の表面にラチェット歯が最初に接触することが保証される。
【0027】
本開示に関して、エラストマー材料は、たとえば射出成形可能なゴム混合物または熱可塑性エラストマー(TPE)であり、エラストマー材料は、たとえばスチレンブロックコポリマー(TPE-sまたはTPS)、熱可塑性オレフィン(TPE-oまたはTPO)、エラストマー合金(熱可塑性加硫物、TPE-vまたはTPV)、熱可塑性ポリウレタン(TPE-uまたはTPU)、熱可塑性コポリエステル(TPE-EまたはTPC)、および熱可塑性ポリアミド(TPE-AまたはTPA)を含むグループのうちの1つまたはそれ以上の組成物から成ってもよい。
【0028】
ギヤ歯および/または少なくとも1つのつめ歯の材料は、たとえばPC(ポリカーボネート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、およびPOM(ポリオキシメチレン)を含むグループのうちの1つまたはそれ以上の組成物から成ってもよい。
【0029】
別の態様によれば、雑音低減特徴部は、ギヤ要素または複数のつめ歯を有するつめ要素に取り付けられた環状カラーを含み、この環状カラーは、エラストマー材料により形成された複数のカラー歯を含み、1つのカラー歯は、1つのギヤ歯または1つのつめ歯の外側セクションを形成する。一実施形態では、ギヤ歯またはつめ歯の一部は短くなっており、1つのカラー歯によって補完される。短くなっているギヤ歯または短くなっているつめ歯は、組み合わされる歯の内側セクションを形成し、一方で機構の長手方向軸からより遠い距離にある外側セクションは、それぞれのカラー歯によって形成される。言い換えれば:カラー歯の径方向隣に位置してともに組み合わされた歯を形成するギヤ歯またはつめ歯は、異なる材料から成る。外側セクションに位置する材料(すなわち、カラー歯の材料)は、組み合わされた歯の内側セクションの材料(すなわちギヤ歯またはつめ歯の材料)よりも弾性が高い。こうした組み合わされた歯は、上述したように、全体的にらせん形状を有しても、全体的に面取り形状を有してもよい。ラチェット歯の内側セクションを形成するギヤ歯またはつめ歯は、周囲周りで所定の数(たとえば4つ)の集まりに等しく離間され、各集まりは、たとえば2つ、3つ、4つ、または5つの歯を含んでもよい。
【0030】
一実施形態では、環状カラーは、1つが内側リングであり1つが外側リングである2つの同心リング(または中空シリンダ)を含み、内側リングは、少なくとも2つの径方向ウェブにより外側リングに取り付けられる。たとえば円弧形状を有する少なくとも1つの空洞が、環状カラーの内側リングと外側リングの間に形成される。一実施形態では、外側リングは、その上側表面にカラー歯を含む。環状カラーは、内側リングと外側リングの間に形成された少なくとも1つの空洞を通ってギヤ歯またはつめ歯が突出するように、ギヤ要素またはつめ要素に取り付けられる。
【0031】
別の態様によれば、雑音低減特徴部は、ギヤ要素に、または複数のつめ歯を含むつめ要素に取り付けられた内部栓を含み、この内部栓は、エラストマー材料により形成された複数の栓歯要素を含み、この栓歯要素は、ギヤ歯またはつめ歯の少なくとも一方に取って代わる。
【0032】
一実施形態では、ギヤ歯またはつめ歯は、周囲周りで所定の数(たとえば4つ)の集まりに等しく離間され、各集まりは、たとえば2つ、3つ、4つ、または5つの歯を含んでもよい。ギヤ歯またはつめ歯の2つの隣り合う集まり間に、少なくとも1つの栓歯要素が周囲に位置している。
【0033】
一実施形態では、栓は、壺状の円形本体を含み、これは、円筒形セクションとプレート状ベースセクションとを有するU字状として断面が形成され、栓本体の上側リムは、その外側表面に栓歯を含む。プレート状ベースセクションは、貫通孔を有してもよい。栓歯は、ベースセクションとは反対側の円筒形セクションの上側リムに位置してもよい。ギヤ歯またはつめ歯が、栓歯要素とともに円形の周囲を完成させるように、強力な内部栓がギヤ要素またはつめ要素に取り付けられる。円形本体は、栓歯要素、およびギヤ歯またはつめ歯の内側セクションに位置する。つめ要素が駆動スリーブの正面によって形成される一実施形態では、内部栓は、駆動スリーブの内側空洞に入れられる。
【0034】
別の態様によれば、雑音低減特徴部は、ギヤ要素またはつめ要素に取り付けられた、複数のフープ歯要素を含む減衰フープを含み、内部栓は、エラストマー材料により形成された複数のフープ歯要素を含み、このフープ歯要素は、ギヤ歯またはつめ歯の少なくとも一方に取って代わる。
【0035】
一実施形態では、ギヤ歯またはつめ歯は、周囲周りで所定の数(たとえば4つ)の集まりに等しく離間され、各集まりは、たとえば2つ、3つ、4つ、または5つの歯を含んでもよい。ギヤ歯またはつめ歯の2つの隣り合う集まり間に、少なくとも1つのフープ歯要素が周囲に位置している。
【0036】
一実施形態では、減衰フープは、1つが内側リングであり1つが外側リングである2つの同心リング(または中空シリンダ)を含み、内側リングは、少なくとも2つの径方向ウェブにより外側リングに取り付けられる。たとえば円弧形状を有する少なくとも1つの空洞が、減衰フープの内側リングと外側リングの間に形成される。一実施形態では、少なくとも2つの径方向ウェブは、その上側表面にフープ歯要素を含む。減衰フープは、内側リングと外側リングの間に形成された少なくとも1つの空洞を通ってギヤ歯またはつめ歯が突出するように、ギヤ要素またはつめ要素に取り付けられる。フープ歯要素およびギヤ歯またはつめ歯は、ともに完全な周囲を形成する。
【0037】
別の実施形態では、栓歯要素およびフープ歯要素は、それが取って代わる歯にその形状が対応している直線状の歯、ノッチ付きセクション、かにはさみ状セクション、および小石状突出部のうちの1つである。
【0038】
一実施形態では、ノッチ付きセクションは、たとえばギヤ要素またはつめ要素の周囲に沿って延びる立方形状のノッチ付き突出部またはランドであり、ノッチ付き栓の形状は、その高さに切り込まれた1つの切込み付き歯に類似している。
【0039】
一実施形態では、かにはさみ状セクションは、ギヤ要素またはつめ要素の周囲に沿って延びるリム状のセクションであり、リムは、それが取って代わるつめ歯またはギヤ歯の径方向断面より小さい径方向断面を有する。2つの同心円状のまたは平行なリム状のセクションも、使用することができる。かにはさみ状セクションは、隣り合うギヤ歯またはつめ歯の径方向の幅のおおよそ半分に位置する。かにはさみ状セクションが、隣り合う2つ以上のギヤ歯またはつめ歯に取って代わる場合には、このセクションに沿ったノッチはなくてもよい。
【0040】
一実施形態では、小石状突出部は、つめ要素またはギヤ要素の表面からの突出部であり、切断された小石状または球体状のセクションを形成する。
【0041】
別の実施形態では、つめ要素、すなわち駆動スリーブは、中空シリンダとして形成された近位端セクションを含み、つめ歯は、この中空シリンダの外側面に位置しており、つめ歯の最も近位のセクションは、中空シリンダの近位面よりも高さが高い。つめ歯は、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上のつめ歯の集まりにグループ分けされ、各集まりは、中空シリンダの外側リムに沿った隣の集まりから、事前定義されたある一定の距離を有する。
【0042】
この問題はさらに、上述した駆動機構を含む薬物送達デバイスによって解決される。
【0043】
本開示によるラチェットは、たとえば互いに係合および係合解除するのに適した歯との形状嵌め(ポジティブフィット)により、または非ポジティブ(摩擦)連結により、またはこれらの組合せにより、2つの特徴部分を連結するのに適した特徴または機能である。ラチェットの作動、すなわち連結または連結解除の動作は、たとえば、ラチェット歯(すなわちギヤ歯および少なくとも1つのつめ歯)を係合解除するためのラチェット部分またはラチェット機能の相対的な動きを含んでもよく、かつ/またはラチェット部分またはラチェット機能に加えられる力の変化を含んでもよい。
【0044】
本開示の好ましい実施形態では、駆動機構はさらに、駆動部材に直接または間接的に連結されたねじりばねを含み、それにより駆動部材が第1の回転方向に回転することにより、ばねに荷重が加えられ(引っ張られ)、駆動部材が反対の第2の回転方向に回転することにより、ばねの荷重が軽減される(解放される)。ねじりばねの荷重を意図せず軽減することを防止しながら、用量設定中にラチェットを引き離すのに必要なトルクを低減させるために、つめ歯および/またはギヤ歯は、第2の回転方向においてより急な傾斜の歯角度を有してもよく、第1の回転方向においてより緩やかな傾斜の歯角度を有してもよい。さらに、または代替的に、歯は第2の回転方向においてより高い摩擦係数を有してもよく、第1の回転方向においてより低い摩擦係数を有してもよい。
【0045】
駆動部材は、たとえば数字スリーブまたは用量セレクタなどの用量設定部材に回転不能に拘束される別個の特徴部材であってもよい。駆動部材は、たとえばハウジングに対して、回転可能であるが軸方向に拘束されてもよく、またはらせん経路に沿って回転可能であってもよい。被駆動部材は、たとえば数字スリーブの内側に位置する管状要素であってもよい。一方、被駆動部材は、たとえばピストンロッドなど、さらなる特徴部材を駆動してもよい。
【0046】
ユーザにより変更可能な複数の薬剤用量を選択および投薬するための薬物送達デバイスは、好ましくは、上に定義した駆動機構と、被駆動部材に係合するピストンロッドとを含み、ここで駆動部材は、被駆動部材と用量セレクタとの間に動作可能に介在する。
【0047】
薬物送達デバイスはさらに、被駆動部材とハウジングを回転不能に連結および連結解除するための第2のクラッチを含んでもよい。好ましくは、被駆動部材は、第2のクラッチが被駆動部材とハウジングを回転不能に連結する第1の位置と、第2のクラッチがハウジングから被駆動部材を回転不能に連結解除する第2の位置との間で、ハウジングに対して軸方向に変位可能である。言い換えれば、薬物送達デバイスは、被駆動部材の回転を防ぐ用量設定(または修正)状態と、被駆動部材の軸方向運動によって被駆動部材の回転が可能になる用量投薬状態との間で、切り替えられることが可能である。これに関して、たとえばクラッチばねの付勢に対抗して、被駆動部材に直接または間接的に作用して軸方向に変位させるボタンが提供される。
【0048】
特に被駆動部材が、用量投薬に影響するピストンロッドなどに連結される実施形態では、用量設定(または修正)状態と、用量投薬状態とを切り替えるときに、被駆動部材が制御されない動きをするのを回避することが望ましい。被駆動部材のこうした制御されない動きは、設定された用量が投与前に修正されることになる恐れがあり、すなわち過小投与または過剰投与になる恐れがある。被駆動部材の制御されない動きを回避するために、被駆動部材とハウジングが第2のクラッチによって連結解除されたときには、クラッチの歯はその連結状態にあることが好ましい。さらに、クラッチの歯がその連結解除状態のときには、被駆動部材とハウジングは、第2のクラッチによって連結されることが好ましい。言い換えれば、被駆動部材は、駆動部材およびハウジングのうちの少なくとも一方に恒久的に連結される。
【0049】
さらに薬物送達デバイスは、薬剤を収容しているカートリッジを含んでもよい。「薬剤」または「薬剤製剤」という用語は、本明細書で用いられる場合、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味し、
ここで、一実施形態では、薬学的に活性な化合物は、最大1500Daまでの分子量を有し、かつ/あるいはペプチド、タンパク質、多糖、ワクチン、DNA、RNA、酵素、抗体もしくはそのフラグメント、ホルモン、もしくはオリゴヌクレオチド、または上述した薬学的に活性な化合物の混合物であり、
ここで、さらなる実施形態では、薬学的に活性な化合物は、糖尿病もしくは糖尿病に伴う合併症、たとえば、糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害、たとえば、深部静脈血栓塞栓症もしくは肺血栓塞栓症、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチの治療および/または予防に有用であり、
ここで、さらなる実施形態では、薬学的に活性な化合物は、糖尿病または糖尿病に伴う合併症、たとえば、糖尿病性網膜症の治療および/または予防のための少なくとも1つのペプチドを含み、
ここで、さらなる実施形態では、薬学的に活性な化合物は、少なくとも1つのヒトインスリンもしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)もしくはそのアナログもしくは誘導体、もしくはエキセンジン-3もしくはエキセンジン-4またはエキセンジン-3もしくはエキセンジン-4のアナログもしくは誘導体を含む。エキセンジン-4およびその誘導体に関するより詳細な情報は、同時係属中の出願PCT/EP2018/082640の開示に提供されており、これをこの程度まで参照により本明細書に組み込む。
【0050】
インスリンアナログは、たとえば、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0051】
インスリン誘導体は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0052】
ホルモンは、たとえば、Rote Liste、2008年版、50章に列挙されている脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、ゴセレリンである。
【0053】
多糖は、たとえば、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化形たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩である。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。
【0054】
抗体は、基本構造を共有するイムノグロブリンとしても公知の球状血漿タンパク質(約150kDa)である。これらは、アミノ酸残基に付加された糖鎖を有するので、糖タンパク質である。各抗体の基本的な機能単位はイムノグロブリン(Ig)単量体(Ig単位のみを含む)であり、分泌型抗体は、IgAなどの2つのIg単位を有する二量体、硬骨魚のIgMのような4つのIg単位を有する四量体、または哺乳動物のIgMのように5つのIg単位を有する五量体でもありうる。
【0055】
Ig単量体は、4本のポリペプチド鎖;システイン残基間のジスルフィド結合によって結合した2本の同一の重鎖および2本の同一の軽鎖からなる「Y」字型の分子である。各重鎖は約440アミノ酸長であり、各軽鎖は約220アミノ酸長である。重鎖および軽鎖はそれぞれ、これらの折り畳み構造を安定化する鎖内ジスルフィド結合を含む。各鎖は、Igドメインと呼ばれる構造ドメインで構成される。これらのドメインは、70~110個のアミノ酸を含み、そのサイズおよび機能に従って異なるカテゴリー(たとえば、可変すなわちV、および定常すなわちC)に分類される。これらは、2つのβシートが、保存されたシステインと他の荷電アミノ酸との間の相互作用によって一緒に保持される「サンドイッチ」形状を作り出す特徴的なイムノグロブリン折り畳み構造を有する。
【0056】
α、δ、ε、γ、およびμで表される5タイプの哺乳動物Ig重鎖が存在する。存在する重鎖のタイプにより抗体のアイソタイプが定義され、これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM抗体中に見出される。
【0057】
異なる重鎖はサイズおよび組成が異なり、αおよびγは約450個のアミノ酸を含み、δは約500個のアミノ酸を含み、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域、すなわち定常領域(C)と可変領域(V)とを有する。1つの種において、定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体で本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、αおよびδは、3つのタンデム型のIgドメインと、可撓性を加えるためのヒンジ領域とから構成される定常領域を有し、重鎖μおよびεは、4つのイムノグロブリンドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生された抗体では異なるが、単一B細胞またはB細胞クローンによって産生された抗体すべてについては同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0058】
哺乳動物では、λおよびκで表される2タイプのイムノグロブリン軽鎖が存在する。軽鎖は、2つの連続するドメイン、すなわち1つの定常ドメイン(CL)および1つの可変ドメイン(VL)を有する。軽鎖のおおよその長さは、211~217個のアミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を含み、哺乳動物の各抗体につき、軽鎖κまたはλの1つのタイプのみが存在する。
【0059】
すべての抗体の一般的な構造は非常に類似しているが、所与の抗体の固有の特性は、上記で詳述したように、可変(V)領域によって決定される。より具体的には、各軽鎖(VL)について3つおよび重鎖(HV)について3つの可変ループが、抗原との結合、すなわちその抗原特異性に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。VHドメインおよびVLドメインの両方からのCDRが抗原結合部位に寄与するので、最終的な抗原特異性を決定するのは重鎖と軽鎖の組合せであり、どちらか単独ではない。
【0060】
「抗体フラグメント」は、上記で定義した少なくとも1つの抗原結合フラグメントを含み、そのフラグメントが由来する完全抗体と本質的に同じ機能および特異性を示す。パパインによる限定的なタンパク質消化により、Igプロトタイプが3つのフラグメントに切断される。1つの完全なL鎖と約半分のH鎖とをそれぞれが含む2つの同一のアミノ末端フラグメントが、抗原結合フラグメント(Fab)である。サイズは同等であるが鎖間ジスルフィド結合を有する両方の重鎖の半分の位置でカルボキシル末端を含む第3のフラグメントは、結晶化可能なフラグメント(Fc)である。Fcは、炭水化物、相補結合部位、およびFcR部位を含む。限定的なペプシン消化により、Fab片とH-H鎖間ジスルフィド結合を含むヒンジ領域の両方を含む単一のF(ab’)2フラグメントが得られる。F(ab’)2は、抗原結合に対して二価である。F(ab’)2のジスルフィド結合を、Fab’を得るために切断することができる。さらに、重鎖および軽鎖の可変領域を融合して、単鎖可変フラグメント(scFv)を形成することができる。
【0061】
薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、たとえば、HClまたはHBr塩である。塩基性塩は、たとえば、アルカリもしくはアルカリ土類、たとえば、Na+、もしくはK+、もしくはCa2+から選択されるカチオン、またはアンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)、(式中、R1~R4は互いに独立に:水素、場合により置換されたC1~C6アルキル基、場合により置換されたC2~C6アルケニル基、場合により置換されたC6~C10アリール基、または場合により置換されたC6~C10ヘテロアリール基を意味する)を有する塩である。薬学的に許容可能な塩のさらなる例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」17版、Alfonso R.Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、Pa.、U.S.A.、1985およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載されている。
【0062】
薬学的に許容可能な溶媒和物は、たとえば、水和物である。
【0063】
次に添付図面を参照しながら、上述した動作原理の非限定的で例示的な実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】薬物送達デバイスの第1の実施形態を駆動機構の第1の実施形態とともに示す上面図である。
図2図1のデバイスの特徴部の分解図である。
図3図1のデバイスの近位端の断面図である。
図4図1のデバイスの駆動スリーブの側面斜視図である。
図5図1のデバイスのクラッチプレートの側面斜視図である。
図6図1のデバイスの駆動スリーブの別の側面斜視図である。
図7図1のデバイスの近位端の断面図である。
図8図7の拡大詳細図である。
図9図5のクラッチプレートの別の断面図である。
図10】駆動機構の第2の実施形態のクラッチプレートを示す側面斜視図である。
図11】駆動機構の第3の実施形態のクラッチプレートを示す側面斜視図である。
図12】駆動機構の第3の実施形態の駆動スリーブを示す側面斜視図である。
図13図12の駆動スリーブの上面図である。
図14】駆動機構の第4の実施形態の駆動スリーブを示す側面斜視図である。
図15】環状カラーを有する、駆動機構の第5の実施形態の駆動スリーブを示す側面斜視図である。
図16図15の駆動スリーブの側面斜視図である。
図17図15の環状カラーの側面斜視図である。
図18】内部栓を有する、駆動機構の第6の実施形態の駆動スリーブを示す側面斜視図である。
図19図18の駆動スリーブの側面斜視図である。
図20図18の内部栓の側面斜視図である。
図21】減衰フープを有する、駆動機構の第7の実施形態の駆動スリーブを示す側面斜視図である。
図22図21の駆動スリーブの側面斜視図である。
図23図21の減衰フープの側面斜視図である。
図24】異なる数の歯を有する、図21の実施形態に関連する駆動スリーブの側面斜視図である。
図25】異なる数の歯を有する、図21の実施形態に関連する別の駆動スリーブの側面斜視図である。
図26】内部栓を有する、駆動機構の第8の実施形態の駆動スリーブを示す側面斜視図である。
図27図26の内部栓を有する駆動スリーブの側面斜視図である。
図28図26の内部栓の側面斜視図である。
図29】内部栓を有する、駆動機構の第9の実施形態の駆動スリーブを示す側面斜視図である。
図30図29の内部栓の断面図である。
図31図29の内部栓の側面斜視図である。
図32】内部栓を有する、駆動機構の第10の実施形態の駆動スリーブを示す側面斜視図である。
図33図32の内部栓を有する駆動スリーブの側面斜視図である。
図34図32の内部栓の側面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1は、注射型ペンの形の薬物送達デバイスを示す。このデバイスは、遠位端(図1の左端)と近位端(図1の右端)を有する。この薬物送達デバイスの特徴的な部分を図2に示す。薬物送達デバイスは、本体またはハウジング10と、カートリッジホルダ20と、リードねじ(ピストンロッド)30と、駆動スリーブ40と、ナット50と、用量インジケータ(数字スリーブ)60と、ボタン70と、ダイヤルグリップまたは用量セレクタ80と、ねじりばね90と、カートリッジ100と、ゲージ要素110と、クラッチプレート120と、クラッチばね130と、支承部140とを含む。ニードルハブおよびニードルカバーを有する針配置(図示せず)を、さらなる特徴部として提供してもよく、これは上に説明したように、交換することができる。すべての特徴部は、機構の共通の主軸の周りに同心円状に位置する。
【0066】
以下でより詳細に説明するように、クラッチプレート120は、用量投薬中に駆動スリーブ40を駆動してハウジング10に対して回転させ、それによりピストンロッド30を前進させるばね駆動式の回転可能な駆動部材である。そしてクラッチプレート120は、これが回転不能に拘束されている数字スリーブ60によって駆動され、この数字スリーブ60は、ねじりばね90の一方の端部に取り付けられている。一方、駆動スリーブ40は、用量投薬中にピストンロッド30を駆動するが、用量投薬中にクラッチプレート120(および数字スリーブ60およびねじりばね90)によって駆動されるので、被駆動部材とみなされてもよい。
【0067】
ハウジング10または本体は、近位端の直径が大きい概ね管状の要素である。ハウジング10は、液体医薬品カートリッジ100およびカートリッジホルダ20のための場所、数字スリーブ60およびゲージ要素110で用量数を見るための窓、および用量セレクタ80を軸方向に保持するためのその外部表面の機能、たとえば周囲溝を提供する。インサート12は、ピストンロッド30に係合する内ねじ山を含む。ハウジング10はさらに、ゲージ要素110を軸方向に案内するための、内部で軸方向に配向された少なくとも1つのスロットなどを有する。図に示してある実施形態では、カートリッジホルダ20に部分的に重なる、軸方向に延びるストリップが、遠位端に設けてある。図2は、ハウジング10を単一のハウジング特徴部として示している。しかし、ハウジング10は、2つ以上のハウジング特徴部を含むことができ、これらは、デバイスのアセンブリ中に互いに恒久的に取り付けられる。駆動ばね90は、一方の端部でハウジング10に取り付けられる。
【0068】
カートリッジホルダ20は、ハウジング10の遠位側に位置し、それに恒久的に取り付けられている。カートリッジホルダは、透明または半透明の特徴部であってもよく、これはカートリッジ100を受けるために管状である。カートリッジホルダ20の遠位端には、針配置を取り付けるための手段を設けてもよい。取外し可能キャップ(図示せず)を、カートリッジホルダ20に嵌まるように提供してもよく、クリップ機能によってハウジング10に接する状態に保持してもよい。
【0069】
ピストンロッド30は、スプライン連結境界面を介して駆動スリーブ40に回転不能に拘束される。回転するときピストンロッド30は、ハウジング10のインサート12とのねじ山境界面を介して、駆動スリーブ40に対して軸方向に動かされる。リードねじ30は、ハウジング10のインサート12の対応するねじ山に係合する外ねじ山を有する細長い部材である。境界面は、ピストンロッド30にある少なくとも1つの長手方向の溝またはトラックと、ドライバ40の対応する突出部またはスプラインとを含む。リードねじ30にはその遠位端に、支承部140をクリップ取付けするための境界面が設けてある。
【0070】
駆動スリーブ40は、リードねじ30を囲む中空の部材であり、数字スリーブ60内に配置される。駆動スリーブ40は、クラッチプレート120とのラチェット境界面から、クラッチばね130との接点まで延びる。駆動スリーブ40は、クラッチばね130の付勢に対抗して、ハウジング10、ピストンロッド30、および数字スリーブ60に対して遠位方向に、またクラッチばね130の付勢下で反対の近位方向に、軸方向に可動である。ドライバ40の少なくとも1つの長手方向スプラインは、リードねじ30の対応するトラックに係合する。
【0071】
駆動スリーブ40とクラッチプレート120とのラチェット境界面またはクラッチ境界面は、駆動スリーブ40の近位端面に位置し本開示によるつめ要素を形成するつめ歯43のリングと、クラッチプレート120の遠位端面に位置し本開示によるギヤ要素を形成する対応するギヤ歯121のリングとを含む(図4および図5を参照)。
【0072】
ハウジング10とスプライン連結された歯の境界面11、42により、用量設定中に駆動スリーブ40の回転が防止される。この境界面は、駆動スリーブ40の遠位端にある径方向に延びる外側歯42のリングと、ハウジング特徴部10の径方向に延びる対応する内側歯11とを含む。ボタン70が押されると、駆動スリーブ40とハウジング10のスプライン歯が係合解除され、駆動スリーブ40がハウジング10に対して回転できるようになる。さらに数字スリーブ60とスプライン連結される歯の境界面は、ダイヤル設定中には係合しないが、ボタン70が押されたときに係合して、投薬中に駆動スリーブ40と数字スリーブ60との間の相対的な回転を防止する。好ましい実施形態では、この境界面は、数字スリーブ60の内側表面のフランジにおいて内側に向かうスプラインと、駆動スリーブ40の径方向に延びる外側スプラインのリングとを含む。これらの対応するスプラインは、それぞれ数字スリーブ60と駆動スリーブ40に位置し、それにより(軸方向に固定されている)数字スリーブ60に対して駆動スリーブ40を軸方向に動かすことによって、スプラインを係合または係合解除して、駆動スリーブ40と数字スリーブ60を回転不能に連結または連結解除する。
【0073】
ドライバ40は、ナット50用のらせん状トラックを提供するねじ山セクション、すなわちねじ山44を有する。さらに、最終用量当接部または止め具が設けられ、これは、ねじ山トラックの端部とすることができ、または好ましくは、ナット50の対応する最終用量止め具と相互作用するための回転ハードストップとすることができ、こうしてドライバのねじ山におけるナット50の動きが限定される。
【0074】
最終用量ナット50は、数字スリーブ60と駆動スリーブ40の間に位置する。最終用量ナット50は、スプライン連結境界面を介して数字スリーブ60に回転不能に拘束される。ダイヤル設定中にしか起きない数字スリーブ60と駆動スリーブ40との間の相対的な回転が生じるとき、最終用量ナット50は、ねじ山境界面(図6のねじ山44を参照)を介して、駆動スリーブ40に対してらせん状経路に沿って移動する。代替形態として、ナット50は、ドライバ40にスプライン連結され、数字スリーブ60にねじ込まれる。最終用量止め具は、ナット50に設けられ、カートリッジ100内の投薬可能な薬剤残量に対応して用量が設定されると、駆動スリーブ40の止め具に係合する。
【0075】
用量インジケータまたは数字スリーブ60は、管状の要素である。数字スリーブ60は、(用量セレクタ80を介した)用量設定中および用量修正中、ならびにねじりばね90による用量投薬中に回転する。数字スリーブ60は、たとえばハウジング内側表面のビードと数字スリーブ外側表面の溝とのスナップ係合によって、ハウジング10に対して軸方向に拘束されるが、ハウジング10に対して自由に回転する。駆動ばね90は、一方の端部で数字スリーブ60に取り付けられる。さらに数字スリーブ60は、数字スリーブの回転によってゲージ要素110が軸方向に変位するように、ゲージ要素110にねじ係合される。ゲージ要素110とともに数字スリーブ60は、ゼロ位置(「静止」)および最大用量位置を画成する。したがって数字スリーブ60は、用量設定部材とみなすことができる。数字スリーブ60は下側数字スリーブ60aを含んでもよく、これは、アセンブリ中にたとえばスナップ係合によって上側数字スリーブ60bにしっかり固定されて、数字スリーブ60が形成される。
【0076】
スプラインのリングの形を有するクラッチ特徴部は、用量設定中および用量修正中にボタン70のスプラインと係合するように、内側に向かって上側数字スリーブ60bに設けられる。クリッカアームが、数字スリーブ60の外側表面に設けられ、これが駆動スリーブ40およびゲージ部材110と相互作用して、フィードバック信号を生成する。さらに、下側数字スリーブ60aは、少なくとも1つの長手方向スプラインを含むスプライン連結境界面を介して、ナット50およびクラッチプレート120に回転不能に拘束される。さらに、下側数字スリーブ60aは、ねじりばね90を取り付けるための境界面を含む。
【0077】
ボタン70は、デバイスの近位端を形成する。遠位方向に突出してタッチ表面70bを形成するプレート状本体のリムに固定されたそれぞれのスリーブセクション70aによって、ボタン70が恒久的に用量セレクタ80にスプライン連結されるならば、有益である。図3に示してあるように、プレート状本体の近位面から遠位方向に、中央ステム72が延びていてもよい。このステム72には、上側数字スリーブ60bのスプラインと係合するためのスプラインをもつフランジが設けられる。したがって、ボタン70が押されていないとき、ステム72もスプラインを介して上側数字スリーブ60bにスプライン連結されるが、このスプライン境界面は、ボタン70が押されると連結解除される。ボタン70は、スプラインのある非連続的な環状のスカートを有してもよい。ボタン70が押されると、ボタン70のスプラインはハウジング10のスプラインに係合して、投薬中にボタン70(したがって用量セレクタ80)の回転を防止する。これらのスプラインは、ボタン70が解放されると係合解除されて、用量をダイヤル設定できるようになる。ボタンはさらに、プレート状本体の遠位面から突出する中央突出部73を含んでもよい。中央突出部73は、クラッチプレート120の近位表面において中心点支持部を形成する。用量投薬中に、ボタン70は、クラッチばね130の付勢に対抗して、ユーザの軸方向の押込み力をこの中央突出部を介して遠位方向に、クラッチプレート120まで伝達する。
【0078】
用量セレクタ80は、ハウジング10に軸方向に拘束される。用量セレクタ80は、スプライン連結境界面を介してボタン70に回転不能に拘束される。ボタン70の環状スカートによって形成されるスプライン機能と相互作用する溝を含むこのスプライン連結境界面は、用量ボタン70の軸方向位置とは無関係に、係合した状態に保たれる。用量セレクタ80または用量ダイヤルのグリップは、鋸歯状の外側スカートを有するスリーブ状の特徴部である。
【0079】
ねじりばね90は、その遠位端でハウジング10に取り付けられ、他方の端部で数字スリーブ60に取り付けられる。ねじりばね90は、数字スリーブ60の内側に位置し、駆動スリーブ40の遠位部分を囲む。用量セレクタ80を回転させて用量を設定するという動作により、数字スリーブ60がハウジング10に対して回転し、ねじりばね90にさらに荷重をかける。
【0080】
カートリッジ100はカートリッジホルダ20に受けられる。カートリッジ100は、可動のゴム栓をその近位端に有するガラスアンプルであってもよい。カートリッジ100の遠位端には、穿孔可能なゴム封止部が設けてあり、これはクリンプ加工された環状の金属バンドによって定位置に保持される。図に示してある実施形態では、カートリッジ100は標準的な1.5mlカートリッジである。このデバイスは、ユーザまたは医療従事者がカートリッジ100を交換することができないので、使い捨てとして設計される。しかし、カートリッジホルダ20を取外し可能にし、リードねじ30の巻戻しおよびナット50の再設定を可能にすることにより、デバイスの再使用可能な変形形態を提供することができる。
【0081】
図1および図2のゲージ要素110は、回転を防止するように拘束されるが、スプライン連結境界面を介してハウジング10に対して並進運動することができる。ゲージ要素110は、その内側表面にらせん機能を有し、これが数字スリーブ60のらせん状ねじ山の切込みに係合し、それにより数字スリーブ60の回転によってゲージ要素110の軸方向の並進運動が生じる。ゲージ要素110のこのらせん機能は、数字スリーブ60のらせん状切込みの端部に接する止め具当接部も形成して、設定可能な最小および最大の用量を制限する。
【0082】
ゲージ要素110は、中央のアパーチャまたは窓、およびこのアパーチャの両側に延びる2つのフランジを有する概ねプレート状または帯状の特徴部を有する。このフランジは、好ましくは透明ではなく、したがって数字スリーブを隠しまたは覆う一方で、アパーチャまたは窓は、下側数字スリーブ60aの一部分を見えるようにする。さらにゲージ要素110は、用量投薬の終わりに数字スリーブ60のクリッカアームと相互作用するカムおよび凹部を有する。
【0083】
クラッチプレート120(図5を参照)は、スリーブ状またはリング状の特徴部である。クラッチプレート120は、外側スプライン125を介して数字スリーブ60にスプライン連結される。クラッチプレート120は、つめ歯43およびギヤ歯121を含むラチェット境界面を介して、駆動スリーブ40にも連結される。ラチェット歯43、121は、数字スリーブ60と駆動スリーブ40の間で、各用量単位に対応した戻り止め位置を提供し、時計回りと反時計回りの相対的な回転中に異なる傾斜の歯角度に係合する。クリッカアーム123が、ボタン70のラチェット機能と相互作用するようにクラッチプレート120に設けられる。
【0084】
クラッチばね130は、圧縮ばねである。駆動スリーブ40、クラッチプレート120、およびボタン70の軸方向位置は、クラッチばね130の動作によって画成され、このクラッチばね130は、駆動スリーブ40に近位方向の力を加える。このばね力は、駆動スリーブ40、クラッチプレート120、およびボタン70を介して反作用を受け、「静止」しているときには、さらに用量セレクタ80を介してハウジング10から反作用を受ける。このばね力によって、駆動スリーブ40とクラッチプレート120の間のラチェット境界面が常に係合するようになる。「静止」位置では、ボタンのスプラインが数字スリーブのスプラインに係合し、駆動スリーブの歯42がハウジング10の内歯11に係合することも確実になる(図3を参照)。
【0085】
支承部140は、ピストンロッド30に軸方向に拘束され、液体薬剤カートリッジ内の栓に作用する。支承部140は、リードねじ30に軸方向にクリップ留めされるが、自由に回転する。
【0086】
図1に示してあるように「静止」状態のデバイスでは、数字スリーブ60は、ゲージ要素110とともにそのゼロ用量当接部に接するように位置付けられ、ボタン70は押下されていない。数字スリーブ60の用量マーキング「0」が、それぞれハウジング10およびゲージ要素110の窓を通して見える。
【0087】
デバイスのアセンブリ中に前もって巻かれた複数の巻きが加えられたねじりばね90は、トルクを数字スリーブ60に加え、ゼロ用量当接部によって回転が防止されている。
【0088】
ユーザは、用量セレクタ80を時計回りに回転させることによって液体薬剤の変更可能な用量を選択し、これにより数字スリーブ60においても同じ回転が生じる。数字スリーブ60の回転により、ねじりばね90に荷重がかかり、それに蓄積されるエネルギーが増大する。数字スリーブ60が回転すると、ゲージ要素110は、そのねじ係合によって軸方向に並進運動し、これによりダイヤル設定された用量の値が示される。ゲージ要素110は、窓領域の両側にフランジを有し、これが、ダイヤル設定された用量に隣接して数字スリーブ60に印刷されている数字を覆って、設定された用量の数字だけが確実にユーザに見えるようにする。
【0089】
薬物送達デバイスはさらに、このタイプのデバイスによくある個別の用量数の表示に加えて、視覚的フィードバック機能を提供してもよい。ゲージ要素110の遠位端によって、ハウジング10の窓を通したスライド式目盛りが作られる。代替形態として、異なるらせんトラック上で数字スリーブ60に係合する別個の特徴部を使用して、スライド式目盛りを形成することができる。
【0090】
ユーザによって用量が設定されると、ゲージ要素110は軸方向に並進運動し、移動する距離は、用量設定の大きさに比例する。この機能によって、用量設定のおおよその大きさに関する明確なフィードバックがユーザに与えられる。自動注射器機構の投薬速度は、手動注射デバイスの速度よりも速いことがあり、したがって投薬中に数字用量表示を読み取ることは不可能な場合がある。ゲージ機能は、用量の数字自体を読み取る必要なく、投薬の進行に関するフィードバックを、投薬中にユーザに提供する。たとえば、ゲージ表示は、ゲージ要素110の不透明な要素によって形成されて、その下の対照的な色の特徴部を明示してもよい。あるいは、明示可能な要素が、おおまかな用量数で印刷され、または他の指標で印刷されて、より正確な分解能を提供してもよい。さらに、ゲージ表示は、用量設定中および投薬中に、シリンジの動作をシミュレートしてもよい。
【0091】
駆動スリーブ40は、そのスプライン連結歯42がハウジング10の歯11と係合しているので、用量が設定され数字スリーブ60が回転しているときに、回転が防止される。したがって、ラチェットクラッチの境界面43、121を介して、クラッチプレート120と駆動スリーブ40の間で相対的回転が生じるはずである。
【0092】
用量セレクタ80を回転させるのに必要なユーザトルクは、ねじりばね90を巻き上げるのに必要なトルクと、ラチェットクラッチ境界面43、121を引き離すのに必要なトルクとの合計である。クラッチばね130は、ラチェットクラッチ境界面43、121に軸方向の力を提供し、クラッチプレート120を駆動スリーブ40に向けて付勢するように設計される。この軸方向負荷は、クラッチプレート120と駆動スリーブ40の歯の係合を維持するように作用する。歯43、121を用量設定方向に引き離すのに必要なトルクは、クラッチばね130によって加えられる軸方向負荷、ラチェット歯43、121の時計回りの傾斜角度、合わせ面同士間の摩擦係数、およびラチェットクラッチ境界面43、121の平均半径の関数である。駆動スリーブ40のつめ歯43を乗り越えるとき、クラッチプレート120は軸方向に前後に振動し、ここでクラッチプレートのギヤ歯121がつめ歯43の側面にぶつかり、1用量単位を表すクリック雑音が生成されるが、これは音が大きすぎると知覚されることが多い。この雑音を低減するための本発明の方策、すなわちつめ要素および/またはギヤ要素の表面の少なくとも一部分の雑音低減特徴部を、図7図34を参照しながら以下で詳細に説明する。
【0093】
ユーザが機構を1増加分(1用量単位)だけ増加させるのに充分なほど用量セレクタ80を回転させると、クラッチプレート120は、1つのラチェット歯43、121だけ駆動スリーブ40に対して回転する。この時点で、ラチェット歯は隣の戻り止め位置に再係合する。ラチェットの再係合によって可聴クリック音が生成され、必要な入力トルクが変化することによって触覚的フィードバックが与えられる。
【0094】
数字スリーブ60と駆動スリーブ40の相対的回転が可能になる。またこの相対的回転は、最終用量ナット50を、そのねじ山経路に沿って駆動スリーブ40のその最終用量当接部に向かって移動させる。
【0095】
用量セレクタ80にユーザトルクが加えられていないので、ここで数字スリーブ60は、ねじりばね90によって加えられるトルク下で、クラッチプレート120と駆動スリーブ40とのラチェットクラッチ境界面43、121だけによって、逆に回転するのが防止される。反時計回り方向においてラチェットクラッチ43、121を引き離すのに必要なトルクは、クラッチばね130によって加えられる軸方向負荷、ラチェット43、121の反時計回りの傾斜角度、合わせ面同士間の摩擦係数、およびラチェットクラッチ機能43、121の平均半径の関数である。ラチェットクラッチ43、121を引き離すのに必要なトルクは、ねじりばね90によって数字スリーブ60(したがって、クラッチプレート120)に加えられるトルクより大きくなくてはならない。したがって、これを確実にしながらも、ダイヤル設定トルクを可能な限り低くするために、ラチェット傾斜角度は、反時計回り方向において大きくなっている。
【0096】
ユーザはここで、用量セレクタ80を時計回り方向に回転させ続けることにより、選択用量を増やすことを選んでもよい。数字スリーブ60と駆動スリーブ40の間のラチェットクラッチ境界面43、121を引き離す工程は、用量の増加分ごとに繰り返される。用量増加分ごとに、ねじりばね90内にさらなるエネルギーが蓄積され、ラチェット歯の再係合によってダイヤル設定される増加分ごとに、可聴および触覚のフィードバックが提供される。ねじりばね90を巻き上げるのに必要なトルクが増大するにつれて、用量セレクタ80を回転させるのに必要なトルクは増大する。したがって、反時計回り方向においてラチェットクラッチ43、121を引き離すのに必要なトルクは、最大用量に到達したときに、ねじりばね90によって数字スリーブ60に加えられるトルクより大きくなくてはならない。
【0097】
最大用量の限界に到達するまでユーザが選択用量を増加し続けると、数字スリーブ60はその最大用量当接部で、ゲージ要素110の最大用量当接部に係合する。これにより、数字スリーブ60、クラッチプレート120、および用量セレクタ80のさらなる回転が防止される。
【0098】
どれくらい多くの増加分が機構によってすでに送達されているかに応じて、用量選択中に、最終用量ナット50はその最終用量当接部を駆動スリーブ40の止め具面に接触させてもよい。この当接により、数字スリーブ60と駆動スリーブ40の間のさらなる相対的回転が防止され、したがって、選択することができる用量が制限される。最終用量ナット50の位置は、数字スリーブ60と駆動スリーブ40の間の相対的回転の合計数によって決定され、これはユーザが用量を設定するときに毎回生じてきている。
【0099】
用量を選択済みの状態の機構では、ユーザはこの用量から任意の数の増加分を選択解除(修正)することができる。用量の選択解除は、ユーザが用量セレクタ80を反時計回りに回転させることによって実現される。ユーザによって用量セレクタ80に加えられるトルクは、ねじりばね90によって加えられるトルクと組み合わされたときに、クラッチプレート120と駆動スリーブ40の間のラチェット境界面43、121を反時計回り方向において引き離すのに充分になる。ラチェットクラッチ43、121が引き離されると、数字スリーブ60において(クラッチプレート120を介する)反時計回りの回転が生じ、これにより数字スリーブ60がゼロ用量位置に向かって戻り、ねじりばね90が巻き戻される。数字スリーブ60と駆動スリーブ40の間の相対的回転により、最終用量ナット50が、最終用量当接部から離れるようにそのらせん状経路に沿って戻る。
【0100】
用量を選択済みの状態の機構では、ユーザは機構を起動して、用量の送達を開始することができる。用量の送達は、ユーザがボタン70を軸の遠位方向に押下することによって開始される。
【0101】
タッチ表面70bを使用してボタン70が押下されると、ボタン70と数字スリーブ60の間のスプラインが係合解除され、ボタン70および用量セレクタ80が、送達機構から、すなわち数字スリーブ60、ゲージ要素110、およびねじりばね90から回転可能に係合解除される。ボタン70のスプラインは、ハウジング10のスプラインと係合して、投薬中にボタン70(したがって用量セレクタ80)の回転を防止する。ボタン70は投薬中に静止しているので、これを投薬クリッカ機構に使用することができる。ハウジング10の止め具機能は、ボタン70の軸方向移動を制限し、ユーザによって加えられる軸方向の何らかの誤った負荷に反作用して、内部特徴部が破損するリスクを低減する。
【0102】
クラッチプレート120および駆動スリーブ40は、ボタン70とともに軸方向に移動する。これにより、クラッチプレート120と数字スリーブ60の間でスプライン連結歯の境界面43、121が係合し、投薬中に駆動スリーブ40と数字スリーブ60の間の相対的回転が防止される。駆動スリーブ40とハウジング10の間のスプライン連結歯の境界面11、42は係合解除され、したがってここで駆動スリーブ40は回転することができ、数字スリーブ60を介したねじりばね90、およびクラッチプレート120によって駆動される。
【0103】
駆動スリーブ40の回転は、それとピストンロッド30がスプライン係合していることから、ピストンロッド30を回転させ、次いでピストンロッド30は、ハウジング10とねじ係合していることから前進する。数字スリーブ60の回転はまた、ゲージ要素110をそのゼロ位置まで軸方向に戻るように並進運動させ、これによりゼロ用量当接部が機構を停止させる。
【0104】
用量投薬中の触覚フィードバックは、クラッチプレート120に一体化された可撓性の片持ち梁状クリッカアームを介して提供される。このアームは、ボタン70の内側表面のラチェット機能と径方向に境界を接し、これによりラチェット歯の間隔が、1つの増加分の投薬に必要な数字スリーブ60の回転に対応する。投薬中、数字スリーブ60が回転し、ボタン70がハウジングに回転不能に連結されるとき、ラチェット機能は、クリッカアームに係合して、用量の増加分が送達されるたびに可聴クリック音を生成する。
【0105】
用量の送達は、ユーザがボタン70を押下し続ける間、上述した機械的相互作用によって継続される。ユーザがボタン70を解放すると、クラッチばね130は駆動スリーブ40を(クラッチプレート120およびボタン70とともに)その「静止」位置に戻し、駆動スリーブ40とハウジング10との間のスプラインを係合して、さらなる回転を防止し、用量送達を停止する。
【0106】
用量送達中、駆動スリーブ40と数字スリーブ60はともに回転し、それにより最終用量ナット50の相対運動は生じない。したがって、最終用量ナット50は、ダイヤル設定中にのみ、駆動スリーブ40に対して軸方向に移動する。
【0107】
数字スリーブ60がゼロ用量当接部に戻ることにより用量の送達が停止されると、ユーザはボタン70を解放してもよく、これにより駆動スリーブ40とハウジング10の間でスプライン歯11、42が再係合することになる。ここで機構は、「静止」状態に戻る。
【0108】
用量投薬の終わりに、数字スリーブ60のクリッカアームが、駆動スリーブ40の傾斜、ならびにゲージ要素110のカムおよび凹部と相互作用することにより、投薬中に提供される「複数のクリック音」とは別の「1回のクリック音」の形で、さらなる可聴フィードバックが提供されて、デバイスがそのゼロ位置に戻ったことをユーザに知らせる。この実施形態は、用量送達の終わりだけにフィードバックが生成され、デバイスがゼロ位置に戻るようにまたはゼロ位置から離れるようにダイヤル設定される場合には、フィードバックが生成されないようにすることができる。
【0109】
雑音低減特徴部の第1の実施形態を、図1図9、特に図7図9に示す。この実施形態では、駆動スリーブ40のつめ歯43の内側セクション43aと、クラッチプレート120のギヤ歯121の内側セクション121aにおいて、クラッチプレート120の周囲回りおよび駆動スリーブ40の近位面の複数のスポットにグリース150が付けられる。内側セクションは、駆動機構の長手方向軸に近いセクションである。グリース150は、つめ歯43およびギヤ歯121の戻り止めに入り込み、グリース150の粘性によって生じる、ラチェット構造部を乗り越えるときの歯の動きを減速させる。したがって、雑音の音量が軽減される。さらに、図8において参照番号34bによって印付けされている空間内にグリース150が流入することにより、駆動スリーブ40の内側表面40aと、クラッチプレート120の軸方向ステムの外側表面120aの間の摩擦が低減される。これにより雑音がさらに低減され、ラチェットの動きが向上する。
【0110】
雑音低減特徴部の第2の実施形態を、図10に示す。この実施形態では、雑音低減特徴部は、ギヤ歯121の表面の一部分におけるエラストマー材料から成る表面層123を含む。図10に示す実施形態では、1つおきのギヤ歯121の正面側、背面側、および上側が、表面層123によって覆われて、つめ歯43が、柔らかいエラストマー表面に最初に接触するようになっている。柔らかい表面層123は、雑音が響く時間を短縮し、したがって音量を低減する。エラストマー表面層を他のやり方で(たとえば、2つおきの歯に、所定の各ギヤ歯の正面側のみ、または背面側のみに)分配することも可能である。あるいは、エラストマー材料から成る表面層123を、つめ歯43に設けてもよい。エラストマー表面層123は、歯121、43の歯表面を、その径方向の長さ全体にわたって覆ってもよく、または、たとえば歯の径方向のどのセクションにおいて、乗り越える歯の衝撃が最初にまたは最大の力で加わるかという考えに基づいて、この長さの一部分を覆ってもよい。
【0111】
第3の実施形態では、雑音低減特徴部は、図11図13に示されるらせん状ギヤ歯221と、対応するらせん状つめ歯243とを含む。駆動スリーブ40はさらに、5つの歯234の集まりを2つと、それと交互になった3つの歯243の集まりを2つ含む、グループ分けされたつめ歯243を含む。らせん状の歯221、243を使用しているので、歯221、243が互いに近づくにつれて、接触面積が徐々に広がり、それによりラチェットの衝撃が長期間にわたって拡散され、負荷がより均一に分配される。これは、この境界面のおいて発せられる音の振幅を低減させる。
【0112】
次に図14を見ると、雑音低減特徴部の第4の実施形態は、面取り歯を含む。図14は、面取りつめ歯343を含む駆動スリーブ40を示し、ここで内側セクション343aにおける歯の高さは、径方向に沿ったそれぞれの歯の外側セクション343bにおける歯343の高さよりも高い。先の実施形態と同様に、駆動スリーブ40は、5つの歯343の集まりを2つと、それと交互になった3つの歯343の集まりを2つ有するグループ分けされたつめ歯343を含む。クラッチプレートのギヤ歯(図示せず)は、相補的な形状を有する。前の実施形態と同様に、この実施形態のラチェットの衝撃も、より長い期間にわたって拡散され、それによりこの境界面において発せられる音の振幅が低減される。
【0113】
雑音低減特徴部の別の実施形態を、図15図17に示す。ここで、駆動スリーブ40は、駆動スリーブ40の近位端に取り付けられた、エラストマー材料から成る環状カラー160を含む。環状カラー160は、内側リング(または中空シリンダ)161と外側リング(または中空シリンダ)162を含み、ここで内側リング161と外側リング162は同心円状に配置される。内側リング161は、4つの径方向ウェブ164によって外側リング162に取り付けられる。さらに、複数のカラー歯165は、駆動スリーブ40のつめ歯443を部分的に完成させるように、外側リング162の上側表面(正面)に位置付けられる。したがって、たとえば図4の実施形態と比較して、駆動スリーブのつめ歯443は短くなっている。環状カラー160の各径方向ウェブ164の位置において、駆動スリーブの歯が除去されている。この実施形態のつめ要素の各歯は、その径方向長さに関して、その内側セクションの駆動スリーブ40の材料と、その外側セクションの環状カラー160の材料とから成る組み合わされた歯を形成する。組み合わされた歯443、165は、上述したように、直線状、らせん状、または面取り状に形成することができる。先の実施形態と同様に、駆動スリーブ40は、5つの歯443の集まりを2つと、それと交互になった3つの歯443の集まりを2つ含むグループ分けされたつめ歯443を含む。クラッチプレートのギヤ歯の形状は、組み合わされたつめ歯443、165の形状に対応する。この実施形態は、歯の環状プロファイル全体との干渉を確保することにより、減衰を最大化する。
【0114】
雑音低減特徴部の次の実施形態を、図18図20に示す。ここで、駆動スリーブ40は、駆動スリーブ40の近位端に取り付けられた、エラストマー材料から成る内部栓170を含む。内部栓170は、壺状の円形本体171を含み、これは、円筒形セクション172とプレート状ベースセクション173とを有する断面がU字状として形成される。栓はさらに、駆動スリーブ40に栓170を固定するために、その外側リムにフランジ状セクション174を有してもよい。さらに、複数の栓歯175は、駆動スリーブ40のつめ歯543を完成させて、ともに完全な周囲を形成するように、円筒形セクション172の上側表面(正面)に位置付けられる。この歯543、175は、上述したように、直線状、らせん状、または面取り状に形成することができる。駆動スリーブ40は、2つの歯543の集まりを4つと、それと交互になった4つの栓歯175の集まりを4つ含むグループ分けされたつめ歯543を含む。クラッチプレートのギヤ歯の形状は、歯543、175の形状に対応する。この実施形態は、栓歯175のエラストマー材料の減衰により良好な雑音低減を保証し、さらに駆動機構の堅牢性を向上させる。
【0115】
図21図23に示す雑音低減特徴部の別の実施形態は、減衰フープ180を含む。ここで、減衰フープ180は、駆動スリーブ40の近位端に取り付けられたエラストマー材料から成る。減衰フープ180は、内側リング(または中空シリンダ)181と外側リング(または中空シリンダ)182を含み、ここで内側リング181と外側リング182は同心円状に配置される。内側リング181は、4つの径方向ウェブ184によって外側リング182に取り付けられる。さらに、複数のカラー歯185は、駆動スリーブ40のつめ歯643を完成させて、ともに完全な周囲を形成するように、径方向ウェブ184の上側表面(正面)に位置付けられる。つめ歯643は、外側リング182と内側リング181の間の空洞を通って突出する。この歯643、185は、上述したように、直線状、らせん状、または面取り状に形成することができる。駆動スリーブ40は、2つの歯643の集まりを4つと、それと交互になった4つのフープ歯185の集まりを4つ含むグループ分けされたつめ歯643を含む。クラッチプレートのギヤ歯の形状は、歯643、185の形状に対応する。この実施形態は、外側リング182によって形成される中実の外側形状を有し、これが減衰機能を強化する。
【0116】
図11図25に示す実施形態に関して、いずれの事例の駆動スリーブ40も、中空シリンダとして形成された近位端セクション47を含み、ここでつめ歯243、343、443、543、643は、この端部セクション47の外側表面(シェル面)に位置しており、ここでつめ歯243、343、443、543、643の最も近位のセクションは、近位端セクション47の近位面よりも高さが高い。つめ歯243、343、443、543、643は、2つ、3つ、4つ(図24を参照)、5つ、またはそれ以上のつめ歯の集まりにグループ分けされ、ここで各集まりは、端部セクション47の外側リムに沿った隣の集まりから、事前定義されたある一定の距離を有する。さらに図25にも示すように、単一のつめ歯を、駆動スリーブの端部セクション47の外側表面に取り付けてもよい。
【0117】
図26図28に示す実施形態は、図18図20の実施形態に類似しており、ここで栓歯175の各集まりが、ノッチ177のある立方形の突出部176に置き換えられている。各栓歯175は、栓170の上側表面から突出するノッチ付きセクションに置き換えられている。突出部は、栓170の周囲に沿って延びている。
【0118】
図29図31に示す実施形態は、図18図20の実施形態に類似しており、ここで栓歯175の各集まりが、栓170の上側端面(近位端面)から突出する圧縮可能リップ178(かにはさみ状セクション)に置き換えられている。リップ178は、つめ歯543によって遮られている栓の周囲に沿って延びている。リップ178の断面の幅は、栓170の円筒形セクション172の壁幅よりも狭い。
【0119】
図32図34に示す実施形態は、図18図20の実施形態に類似しており、ここで各栓歯175が、栓170の上側端面(近位端面)から突出する小石状突出部179に置き換えられている。小石状突出部179の列は、つめ歯543によって遮られている栓の周囲に沿って延びている。小石状突出部179は、栓170の上側端面から突出し、切断された小石または切断された球体のように形成される。
【0120】
上記の実施形態の立方形状の突出部176、リップ178、および小石状突出部179は、少なくとも部分的に、環状リング160の歯165、または減衰フープ180の歯185にも取って代わることができる。栓170の円筒形セクション172のフランジセクションの下側において、栓170の周囲の周りに収まっている複数の凹部179aが存在し、これは、駆動スリーブ40の近位端面にあるそれぞれの突出部に一致して、栓170を駆動スリーブ40に回転不能に固定する。
【符号の説明】
【0121】
10 ハウジング(ケーシング)
11 スプライン歯
12 インサート
20 カートリッジホルダ
30 ピストンロッド(リードねじ)
40 駆動スリーブ
40a 駆動スリーブ40の内側表面
42 スプライン歯
43 つめ歯
43a つめ歯の内側セクション
44 ねじ山
47 近位端セクション
50 ナット
60 用量設定要素
60a 下側数字スリーブ
60b 上側数字スリーブ
70 ボタン
70a スリーブセクション
70b タッチ表面
72 ステム
73 中央突出部
80 用量セレクタ
90 ねじりばね
100 カートリッジ
110 ゲージ要素
120 クラッチプレート
120a クラッチプレートのステムの外側表面
121 ギヤ歯
121a ギヤ歯の内側セクション
123 ギヤ歯121の表面層
130 クラッチばね
140 支承部
150 グリース
160 環状カラー
161 内側リング
162 外側リング
164 径方向ウェブ
165 カラー歯
170 内部栓
171 本体
172 円筒形セクション
173 プレート状セクション
174 フランジ状セクション
175 栓歯
176 突出部
178 リップ
179 小石状突出部
179a 凹部
180 減衰フープ
181 内側リング
182 外側リング
184 径方向ウェブ
185 フープ歯
223 らせん状ギヤ歯
243 らせん状つめ歯
343 面取りつめ歯
343a 面取りつめ歯の内側セクション
343b 面取りつめ歯の外側セクション
443 つめ歯
543 つめ歯
643 つめ歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-8】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34