(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】リチウム吸着剤の前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/30 20060101AFI20230517BHJP
B01J 20/08 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/08 A
(21)【出願番号】P 2020514416
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2019016479
(87)【国際公開番号】W WO2019203274
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2018081217
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018215587
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018215586
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
(72)【発明者】
【氏名】工藤 陽平
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】吉塚 和治
(72)【発明者】
【氏名】西浜 章平
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104941569(CN,A)
【文献】特開2001-240417(JP,A)
【文献】特表2005-518938(JP,A)
【文献】特開平06-031159(JP,A)
【文献】特開2010-058008(JP,A)
【文献】特開平11-180717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28;20/30-20/34
C01G 25/00-47/00;49/10-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)~(3):
(1)第1混合工程:マンガン塩と、水酸化アルカリと、を混合し水酸化マンガンを含有する第1スラリーを得る工程、
(2)第2混合工程:前記第1スラリーに水酸化リチウムを添加し、混合して第2スラリーを得る工程、
(3)酸化工程: 前記第2スラリーに酸化剤を添加して酸化物を得る工程、
を包含する、
ことを特徴とするリチウム吸着剤の前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記酸化工程の後に、前記酸化物を焼成する焼成工程が含まれる、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記マンガン塩が、硫酸マンガンである、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記第2混合工程における前記水酸化リチウムのモル量は、前記硫酸マンガンのモル量の4倍以上20倍以下である、
ことを特徴とする請求項4に記載のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記マンガン塩が、硝酸マンガンであり、
前記水酸化アルカリが、水酸化リチウムであり、
前記酸化剤がペルオキソ二硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ二硫酸ナトリウムである、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法。
【請求項7】
前記第1混合工程における前記水酸化アルカリのモル量は、前記
マンガン塩のモル量の2倍以上10倍以下である、
ことを特徴とする請求項1から
6のいずれかに記載のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法。
【請求項8】
前記酸化工程における水溶液の酸化還元電位が、銀塩化銀電極で300mV以上1000mV以下である、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法。
【請求項9】
前記酸化工程が、50℃以上80℃ 以下で行われる、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム吸着剤の前駆体の製造方法に関する。さらに詳しくは、リチウムを含有する水溶液からリチウムを吸着するリチウム吸着剤の前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムは、陶器またはガラスの添加剤、鉄鋼連続鋳造用のガラスフラックス、グリース、医薬品、電池等の産業界において広く利用されている。特に、二次電池であるリチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、電圧が高いことから、最近ではノートパソコンなどの電子機器のバッテリーまたは電気自動車・ハイブリッド車の車載バッテリーとしての用途が拡大しており、その需要が急増している。これに伴い、原料であるリチウムの需要が急増している。
【0003】
リチウムは、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムという形で、塩湖鹹水またはリチウムを含む鉱石、例えばリシア輝石(Li2O・Al2O3・2SiO4)等を原料とし、これらを精製して生産されてきた。しかし、製造コストを考慮すると、リチウム以外の不純物を除去してリチウムを水溶液に残すプロセスではなく、不純物が共存している水溶液からリチウムを選択的に回収するプロセスが望まれている。
【0004】
リチウムのみを選択的に回収するプロセスとして、無機系吸着剤であるマンガン酸リチウムを用いた方法が知られている。スピネル構造を持つマンガン酸リチウムは、酸と接触させてリチウムと水素とを入れ替える前処理を行うことで、リチウムに対して優れた選択吸着能力を持ち、イオン交換樹脂のように吸着と溶離を繰り返して使用することが可能である。
【0005】
すなわちマンガン酸リチウムは、リチウムを選択的に回収するプロセスにおいて、リチウム吸着剤の前駆体となる。このマンガン酸リチウムの製造には、焼成処理のみで製造する乾式法、および水溶液中でマンガン酸リチウムを製造する湿式法がある。
【0006】
特許文献1または2では、乾式法によりマンガン酸リチウムを製造する方法が開示されている。この乾式法では四酸化三マンガンと水酸化リチウムを粉砕混合し、空気又は酸素雰囲気で焼成して作製する。
【0007】
これに対し、特許文献3では、湿式法によりマンガン酸リチウムを作成する方法が開示されている。この湿式法ではマンガン酸リチウムを水溶液反応で作製した後、結晶化反応を促進するために加熱処理を行う。
【0008】
上記の湿式法は、γ-オキシ水酸化マンガンと水酸化リチウムとを混合し、加圧下100~140℃で水熱反応させ、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を得た後、400~700℃の範囲で加熱処理することで、3価のマンガンを4価に酸化し、構造を変化させることなく、安定なマンガン酸リチウム(Li2Mn2O5)を得る方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3937865号公報
【文献】特許第5700338号公報
【文献】特許第3388406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載の方法では、加圧条件で反応を行わせるために、オートクレーブなどの加圧容器が必要になる。しかし、商業規模での生産(例えば数トンオーダー)を行うためのオートクレーブは高額な設備であり、熱コストも高くなるなどの問題がある。さらにオートクレーブは圧力容器になるため、安全を確保するための法律で規制されており、厳重な管理が必要であるという問題がある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、圧力容器が不要な大気圧下にてリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、次の工程(1)~(3):(1)第1混合工程:マンガン塩と、水酸化アルカリと、を混合し水酸化マンガンを含有する第1スラリーを得る工程、(2)第2混合工程:前記第1スラリーに水酸化リチウムを添加し、混合して第2スラリーを得る工程、(3)酸化工程:前記第2スラリーに酸化剤を添加してリチウム吸着剤の前駆体を得る工程、を包含することを特徴とする。
第2発明のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、第1発明において、前記酸化工程には、前記第2スラリーに前記酸化剤を添加して得られた酸化物を焼成する工程が含まれることを特徴とする。
第3発明のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、第1発明または第2発明において、前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする。
第4発明のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、第1発明から第3発明のいずれかにおいて、前記マンガン塩が、硫酸マンガンであることを特徴とする。
第5発明のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、第4発明において、前記第2混合工程における前記水酸化リチウムのモル量は、前記硫酸マンガンのモル量の4倍以上20倍以下であることを特徴とする。
第6発明のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、第1発明または第2発明において、前記マンガン塩が、硝酸マンガンであり、前記水酸化アルカリが、水酸化リチウムであり、前記酸化剤がペルオキソ二硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ二硫酸ナトリウムであることを特徴とする。
第7発明のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、第1発明から第6発明のいずれかにおいて、前記第1混合工程における前記水酸化アルカリのモル量は、前記マンガン塩のモル量の2倍以上10倍以下であることを特徴とする。
第8発明のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、第1発明から第7発明のいずれかにおいて、前記酸化工程における水溶液の酸化還元電位が、銀塩化銀電極で300mV以上1000mV以下であることを特徴とする。
第9発明のリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、第1発明から第8発明のいずれかにおいて、前記酸化工程が、50℃ 以上80℃ 以下で行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明によれば、第1混合工程、第2混合工程、酸化工程を包含することにより、大気圧下にてリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムを製造することができる。この工程は大気圧下で実行できるので、コストを抑えてリチウム吸着剤の前駆体を製造することができる。
第2発明によれば、酸化工程に、酸化物を焼成する工程が含まれることにより、酸化物への酸化がより確実に行われる。
第3発明によれば、酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムであることにより、安価な材料が用いられるので反応のためのコストが抑制できると共に、酸化力を上げてさらに確実に酸化が行われる。
第4発明によれば、マンガン塩が硫酸マンガンであることにより、安価な材料が用いられるので反応のためのコストが抑制できる。
第5発明によれば、第2混合工程における水酸化リチウムのモル量が硫酸マンガンのモル量の4倍以上20倍以下であることにより、水酸化リチウムの使用量を抑えてコストを削減できるとともに、リチウムのインターカレーションを確実に進めることができる。
第6発明によれば、マンガン塩が硝酸マンガンであり、水酸化アルカリが水酸化リチウムであり、酸化剤がペルオキソ二硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ二硫酸ナトリウムであることにより、より確実にリチウム吸着剤の前駆体を製造することができる。 第7発明によれば、第1混合工程における水酸化アルカリのモル量が、マンガン塩のモル量の2倍以上10倍以下であることにより、水酸化アルカリの使用量を抑えてコストを削減できるとともに、用いられた硫酸マンガンの全てをマンガン酸リチウムとすることが可能となる。
第8発明によれば、酸化工程における水溶液の酸化還元電位が、銀塩化銀電極で300mV以上1000mV以下であることにより、高電位に対応可能な特別な設備にする必要がなく、設備のコストが抑えられるとともに、第1混合工程で得られた水酸化マンガンの全てをマンガン酸リチウムとすることができる。
第9発明によれば、酸化工程が50℃以上80℃以下で行われることにより、高温に対応した特別な設備にする必要がなく、設備のコストが抑えられるとともに、リチウムがインターカレーションすることでマンガン酸リチウムが生成される酸化工程で、この反応速度を効果的に上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法を示すフロー図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】本発明の第3実施形態に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法を示すフロー図である。
【
図4】
図1の製造方法で得られたリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムのX線回折測定の結果を示すグラフである。
【
図5】
図1の製造方法で得られたリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムの走査電子顕微鏡(SEM)での画像である。
【
図6】
図1の製造方法で得られたリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムの混合撹拌時間に対するリチウムの吸着量を示すグラフである。
【
図7】
図2の製造方法で得られたリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムのX線回折測定の結果を示すグラフである。
【
図8】
図2の製造方法で得られたリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムの走査電子顕微鏡(SEM)での画像である。
【
図9】
図2の製造方法で得られたリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムの混合撹拌時間に対するリチウムの吸着量を示すグラフである。
【
図10】
図3の製造方法で得られたリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムのX線回折測定の結果を示すグラフである。
【
図11】
図3の製造方法で得られたリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムの走査電子顕微鏡(SEM)での画像である。
【
図12】
図3の製造方法で得られたリチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムの振とう時間に対するリチウムの吸着量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具現化するためのリチウム吸着剤の前駆体の製造方法を例示するものであって、本発明はリチウム吸着剤の前駆体の製造方法を以下のものに特定しない。
【0016】
本発明に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、次の工程(1)~(3)を包含するものである。
(1)第1混合工程:マンガン塩と、水酸化アルカリと、を混合し水酸化マンガンを含有する第1スラリーを得る工程、
(2)第2混合工程:前記第1スラリーに水酸化リチウムを添加し、混合して第2スラリーを得る工程、
(3)酸化工程:前記第2スラリーに酸化剤を添加してリチウム吸着剤の前駆体を得る工程、
【0017】
リチウム吸着剤の前駆体の製造方法が、上記(1)第1混合工程、(2)第2混合工程、(3)酸化工程を含んで構成されていることにより、リチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムを製造することができる。この工程は大気圧下で実行できるのでオートクレーブ等の高価な設備を利用することがなくなり、熱コスト等のランニングコストも抑えながら、リチウム吸着剤の前駆体を製造することができる。また、オートクレーブ等の高圧装置を使用するには法的な規制があるところ、そのような法律上の規制に配慮する必要性が少なくなる。
【0018】
また、本発明に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、酸化工程には、第2スラリーに酸化剤を添加して得られた酸化物を焼成する工程が含まれることが好ましい。酸化工程に、酸化物を焼成する工程が含まれることにより、酸化物への酸化がより確実に行われる。
【0019】
また、本発明に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムであることが好ましい。酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムであることにより、安価な材料が用いられるので反応のためのコストが抑制できると共に、酸化力を上げてさらに確実に酸化が行われる。
【0020】
また、本発明に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、マンガン塩が、硫酸マンガンであることが好ましい。マンガン塩が硫酸マンガンであることにより、安価な材料が用いられるので反応のためのコストが抑制できる。
【0021】
また、本発明に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、マンガン塩が、硝酸マンガンであり、前記水酸化アルカリが、水酸化リチウムであり、前記酸化剤がペルオキソ二硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ二硫酸ナトリウムであることが好ましい。マンガン塩が硝酸マンガンであり、水酸化アルカリが水酸化リチウムであり、酸化剤がペルオキソ二硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ二硫酸ナトリウムであることにより、より確実にリチウム吸着剤の前駆体を製造することができる。
【0022】
また、本発明に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、第1混合工程における水酸化アルカリのモル量は、第1混合工程で用いられた硫酸マンガンのモル量の2倍以上10倍以下であることが好ましい。これにより、水酸化アルカリの使用量を抑えてコストを削減できるとともに、用いられた硫酸マンガンの全てをマンガン酸リチウムとすることが可能となる。
【0023】
また、本発明に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、第2混合工程における水酸化リチウムのモル量は、第1混合工程で用いられた硫酸マンガンのモル量の4倍以上20倍以下であることが好ましい。これにより、水酸化リチウムの使用量を抑えてコストを削減できるとともに、リチウムのインターカレーションを確実に進めることができる。
【0024】
また、本発明に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、酸化工程における水溶液の酸化還元電位が、銀塩化銀電極で300mV以上1000mV以下であることが好ましい。これにより、高電位に対応可能な特別な設備にする必要がなく、設備のコストが抑えられるとともに、第2混合工程で得られた水酸化マンガンの全てをマンガン酸リチウムとすることができる。
【0025】
また、本発明に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法は、酸化工程が50℃以上80℃以下で行われることが好ましい。これにより、高温に対応した特別な設備にする必要がなく、設備のコストが抑えられるとともに、リチウムがインターカレーションすることでマンガン酸リチウムが生成される酸化工程で、この反応速度を効果的に上げることができる。
【0026】
(第1実施形態)
<第1混合工程>
図1には、本発明の第1実施形態に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法を示す。
図1に示すように、第1混合工程では、硫酸マンガンと、水酸化アルカリと、が混合され、水酸化マンガンを含有する第1スラリーが得られる。この第1混合工程は中和を目的とする工程である。なお、この第1スラリーは、硫酸マンガンまたは水酸化アルカリのそれぞれを溶解した水溶液を混合したり、あるいは試薬等の固体を混合し、これを水等の溶媒で溶解して得られた溶液あるいは水溶液を用いたりして得られる。なお、以下は水溶液を混合した場合で述べる。
【0027】
硫酸マンガンを含む水溶液、および水酸化アルカリを含む水溶液の調製方法は特に限定されるものではない。例えばMnSO4・5H2O、または水酸化アルカリの一つとして水酸化ナトリウムが採用される場合、NaOH・H2Oのような水和物を水に溶かすことによって調製される。
【0028】
両水溶液の濃度は、特に限定されるものではない。ただし、水溶液にするために溶解度以下にする必要がある。水への硫酸マンガンの溶解度は、20℃で約63g/100g-H2Oであり、同じくアルカリの一つとして水酸化ナトリウムが採用される場合は水酸化ナトリウムの溶解度は20℃では約109g/100g-H2Oである。さらにアルカリの一つとして水酸化リチウムが採用される場合は水酸化リチウムの溶解度は20℃では約12g/100g-H2Oである。これらの溶解度を考慮して水溶液の濃度が決定される。
【0029】
硫酸マンガンを含む水溶液と、水酸化ナトリウムを含む水溶液と、が混合されることで水酸化マンガンを含有する第1スラリーが得られる([数1]参照)。
【0030】
[数1]
MnSO4+2NaOH → Mn(OH)2+2NaSO4
【0031】
なお、添加する水酸化アルカリのモル量は、理論上硫酸マンガンのモル量に対して2倍必要であるため、反応を確実に進めるために水酸化アルカリのモル量は、硫酸マンガンのモル量に対して当量、すなわち2倍以上であることが好ましい。また、加えられる水酸化アルカリに係るコストを考慮すると、水酸化アルカリのモル量は、硫酸マンガンのモル量に対して10倍以下であることが好ましい。
【0032】
なお、数1では水酸化アルカリの一つとして水酸化ナトリウムが取り上げられたが、硫酸マンガンを中和できる水酸化アルカリであれば、特にこれに限定されない。例えば水酸化リチウム、または水酸化カリウムなどが使用可能である。
【0033】
また、本実施形態では第1混合工程において硫酸マンガンが使用されたが、他のマンガン塩を用いることも可能である。
【0034】
<第2混合工程>
第2混合工程では、第1混合工程で得られた第1スラリーに水酸化リチウムが添加され、混合されて第2スラリーが得られる。第1混合工程で水酸化マンガンが生成された後、マンガン酸リチウム源として水酸化リチウムが添加される。この添加は、水溶液であっても問題ないが、液量が増加するのを抑制するために固形物で添加することが好ましい。
【0035】
ここで、Liの吸着剤として吸着容量が高いマンガン酸リチウムのLi/Mn比は、LiMn2O4の0.5倍以上1.0倍以下であることが知られている。たとえば、Li1.6Mn1.6O4のLi/Mn比は1.0である。
【0036】
第1混合工程で用いられた硫酸マンガンのモル量に対して、上記比率を考慮したモル量の水酸化リチウムが必要である。しかし、リチウムのインターカレーションを確実に進めるために、第2混合工程における水酸化リチウムのモル量は、第1混合工程で用いられた硫酸マンガンのモル量に対して4倍以上であることが好ましい。また、加えられる水酸化リチウムに係るコストを考慮すると、水酸化リチウムのモル量は、硫酸マンガンのモル量に対して20倍以下であることが好ましい。
【0037】
なお、第1混合工程での水酸化アルカリが水酸化リチウムの場合、第1混合工程が省略される場合もある。
【0038】
<酸化工程>
酸化工程では、第2混合工程で得られた第2スラリーに、次亜塩素酸ナトリウムが添加され、酸化物が得られる。なお、次亜塩素酸ナトリウムは、結晶等の固体で添加しても、あるいはあらかじめ溶解した水溶液等の形態で添加してもよい。
【0039】
第2混合工程で得られた第2スラリーに、次亜塩素酸ナトリウムが添加されることで酸化物であるマンガン酸リチウム、すなわちリチウム吸着剤の前駆体が得られる([数2]参照)。
【0040】
[数2]
Mn(OH)2+LiOH+NaClO →
0.625Li1.6Mn1.6O4+1.5H2O+NaCl
【0041】
酸化工程における水溶液の酸化還元電位は、銀塩化銀電極で300mV以上1000mV以下であることが好ましい。酸化還元電位が300mV未満の場合は、第1混合工程で得られた水酸化マンガンの全てをマンガン酸リチウムとすることができない場合がある。また、酸化還元電位が1000mVよりも大きい場合は、酸化工程の設備をこのような大きな酸化還元電位に耐えうるものにする必要があるからである。
【0042】
酸化工程における水溶液の酸化還元電位が、銀塩化銀電極で300mV以上1000mV以下であることにより、高電位にするための特別な設備にする必要がなく、設備のコストが抑えられるとともに、第2混合工程で得られた水酸化マンガンの全てをマンガン酸リチウムとすることができる。
【0043】
なお、酸化工程における次亜塩素酸ナトリウムの添加は、少量ずつ徐々に行うのが好ましい。次亜塩素酸ナトリウムは、マンガンを酸化する際に消費される。次亜塩素酸ナトリウムが添加されると一次的に酸化還元電位は上昇するが、マンガンを酸化する際に消費されると、これに伴い酸化還元電位は下降する。次亜塩素酸ナトリウムは、酸化還元電位が300mV以上になるように添加される。
【0044】
また、酸化工程は50℃以上80℃以下、更には60℃以上80℃以下で行われることが好ましい。酸化工程では、リチウムがインターカレーションすることでマンガン酸リチウムが生成される。酸化工程の温度が50℃未満である場合は、インターカレーションの反応速度が十分に上がらない。また酸化工程の温度が80℃よりも高い場合、酸化工程の設備を80℃よりも高い温度に耐えうるものにする必要があるからである。
【0045】
酸化工程が50℃以上80℃以下で行われることにより、高温に対応した特別な設備にする必要がなく、設備のコストが抑えられるとともに、リチウムがインターカレーションすることでマンガン酸リチウムが生成される酸化工程で、この反応速度を効果的に上げることができる。
【0046】
また、第2スラリーは50℃以上80℃以下の温度に保持された状態で、酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムが添加されることが好ましい。この状態で混合液が撹拌されることで、液中のマンガンが酸化される。
【0047】
なお、酸化工程では、圧力は大気圧で問題なく、加圧する必要はない。さらに、酸化物であるマンガン酸リチウムを確実に生成させるために、上記の温度で3時間以上は撹拌混合が続けられることが好ましい。
【0048】
酸化工程で生成された酸化物、すなわちマンガン酸リチウムであるリチウム吸着剤の前駆体は、固液分離され粉末状になる。
【0049】
なお、本発明では酸化工程において、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムが使用されたが、他の酸化剤を用いることも可能である。具体的には、塩素のオキソ酸(次亜塩素酸、亜塩素酸など)とその塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、塩素等が使用可能である。
【0050】
<吸着剤の調製>
上記の工程によって、優れたリチウムの吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウムが得られる。このようにして得られたマンガン酸リチウムは、塩酸などの酸と接触させることでリチウムと水素とが交換反応させられ、HXMnYO4の形態となる(例えばX=1.6、Y=1.6、またはX=1.33、Y=1.67)ことでリチウムを選択的に吸着することが可能となる。
【0051】
(第2実施形態)
図2には、本発明の第2実施形態に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法を示す。
図2に示すように、第1実施形態との相違点は、酸化工程の後に焼成工程が含まれる点である。第2実施形態の説明では、第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。すなわち説明が省略されている部分は、第1実施形態と同じである。
【0052】
<焼成工程>
焼成工程では、酸化工程で得られた酸化物が焼成され、リチウム吸着剤の前駆体が得られる。
【0053】
酸化工程で得られた酸化物は、マンガン酸リチウムである。このマンガン酸リチウムの粉末が分離され、乾燥されて乾粉となったあと、電気炉等の焼成炉を用いて2時間以上24時間以下の時間をかけて焼成される。このとき炉内の雰囲気は、酸素が存在する環境であればよく、例えば大気を炉内に供給することで実現できる。このときの温度は結晶化を促進するために500℃以上700℃以下の温度範囲が好ましい。
【0054】
(第3実施形態)
図3には、本発明の第3実施形態に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法を示す。
図3に示すように、第1実施形態との相違点は、第1混合工程において混合される物質が異なる点、酸化工程における酸化剤が異なる点、酸化工程の後に焼成工程が含まれる点である。第3実施形態の説明では、第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。すなわち説明が省略されている部分は、第1実施形態と同じである。
【0055】
<第1混合工程>
第1混合工程では、硝酸マンガンと、水酸化リチウムと、が混合され、水酸化マンガンを含有する第1スラリーが得られる。なお、この第1スラリーは、硝酸マンガンや水酸化リチウムのそれぞれを溶解した水溶液を混合したり、あるいは試薬等の固体を混合し、これを水などの溶媒で溶解して得られた溶液あるいは水溶液を用いたりして得られる。なお、以下は水溶液を混合した場合で述べる。
【0056】
硝酸マンガンを含む水溶液、および水酸化リチウムを含む水溶液の調製方法は特に限定されるものではない。例えば、Mn(NO3)2・6H2O、またはLiOH・H20のような水和物を水に溶かすことによって調製される。
【0057】
両水溶液の濃度は、特に限定されるものではない。ただし、水溶液にするために溶解度以下にする必要がある。水への硝酸マンガンの溶解度は、20℃で約140g/100g-水であり、同じく水酸化リチウムの溶解度は20℃では約12g/100g-水である。これらの溶解度を考慮して水溶液の濃度が決定される。
【0058】
硝酸マンガンを含む水溶液と、水酸化リチウムを含む水溶液と、混合されることで水酸化マンガンを含有する第1スラリーが得られる([数3]参照)。
【0059】
[数3]
Mn(NO3)2+2LiOH → Mn(OH)2+2LiNO3
【0060】
なお、添加する水酸化リチウムのモル量は理論上、硝酸マンガンのモル量に対して2倍必要であるため、反応を確実に進めるために水酸化リチウムのモル量は、硝酸マンガンのモル量に対して当量、すなわち2倍以上で、10倍以下であることが好ましい。
【0061】
<第2混合工程>
第2混合工程では、第1混合工程で得られた第1スラリーに水酸化リチウムが添加され、混合されて第2スラリーが得られる。第1混合工程で水酸化マンガンが生成された後、マンガン酸リチウム源として水酸化リチウムが添加される。この添加は、水溶液であっても問題ないが、液量が増加するのを抑制するために固形物で添加することが好ましい。
【0062】
ここで、Liの吸着剤として吸着容量が高いマンガン酸リチウムのLi/Mn比は、LiMn2O4の0.5倍以上1.0倍以下であることが知られている。たとえばLi1.33Mn1.67O4のLi/Mnは0.8である。
【0063】
第1工程で用いられた硝酸マンガンのモル量に対して、上記比率を考慮したモル量の水酸化リチウムが必要である。しかし、リチウムのインターカレーションを確実に進めるために、第2混合工程における水酸化リチウムのモル量は、第1工程で用いられた硝酸マンガンのモル量に対して10倍以上、50倍以下であることが好ましい。
【0064】
<酸化工程>
酸化工程では、第2混合工程で得られた第2スラリーに、ペルオキソ二硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ二硫酸ナトリウムが添加され、酸化物が得られる。なお、前記のペルオキソ二硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ二硫酸ナトリウムは結晶等の固体で添加しても、あるいは予め溶解した水溶液などの形態で添加してもよい。
【0065】
酸化工程で加えられるペルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)やペルオキソ二硫酸ナトリウム(過硫酸ナトリウム)の合計のモル量は、第1混合工程で用いられた硝酸マンガンのモル量の0.5倍以上、5倍以下であることが好ましい。ペルオキソ二硫酸アンモニウムの量がこのように規定されることにより、第1混合工程で用いられた硝酸マンガンの全てがマンガン酸リチウムとすることができるからである。
【0066】
また、第2スラリーは70℃以上、好ましくは80℃以上の温度に保持された状態で、酸化剤であるペルオキソ二硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ二硫酸ナトリウムが添加される。この状態で混合液が撹拌されることで、液中のマンガンが酸化される。
【0067】
第2スラリーの温度を上記の温度とするのは、酸化工程ではリチウムがインターカレーションすることでマンガン酸リチウムが生成されるところ、この反応速度を上げるには、温度を上げることが効果的であるからである。このときの圧力は大気圧で問題なく、加圧して100℃を超える温度にする必要はない。さらに、酸化物であるマンガン酸リチウムを確実に生成させるために、上記の温度で5時間以上は撹拌混合が続けられることが好ましい。
【0068】
<焼成工程>
焼成工程では、酸化工程で得られた酸化物が焼成され、リチウム吸着剤の前駆体が得られる。
【0069】
酸化工程で得られた酸化物は、マンガン酸リチウムである。このマンガン酸リチウムの粉末が分離され、乾燥されて乾粉となったあと、電気炉等の焼成炉を用いて2時間以上24時間以下の時間をかけて酸素雰囲気で焼成される。このときの温度は結晶化を促進するために500℃以上700℃以下の温度範囲が好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、本発明に係るリチウム吸着剤の前駆体の製造方法の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
<リチウム吸着剤の前駆体の調製>
実施例1は、第1実施形態での実施例である。容量200Lの耐熱性ダイライトタンクに約100Lの水を張り込み、粉末状の硫酸マンガン1水和物19.4kg(硫酸マンガン:115mol)を投入してインペラで攪拌混合して溶解させた後、重量濃度が48%の苛性ソーダ水溶液20kg(水酸化ナトリウム:240mol)を投入して水酸化マンガンのスラリーを作製した。水酸化マンガンのスラリーに粉末状の水酸化リチウム1水和物19.3kg(水酸化リチウム:460mol)を投入し、攪拌混合しながらテフロン(登録商標)ヒーターで加熱を行い、スラリーの温度を50℃以上とした。
【0072】
その後、酸化還元電位が銀塩化銀電極で300mV以上になるよう、重量濃度が12%の次亜塩素酸水溶液を適宜滴下した。最終的に安定して300mV以上の酸化還元電位を示すようになるには66Lの次亜塩素酸水溶液を要した。この状態で5時間攪拌混合を継続した。攪拌混合中は温度が50℃以下にならないよう、テフロン(登録商標)ヒーターで加熱を継続した。攪拌混合中の酸化還元電位はガラス電極を用いたORPメーターを用いて確認した。
【0073】
この操作によって黒色を呈する粉末が得られた。攪拌終了後、ブフナ漏斗で吸引濾過して粉末を固液分離して回収した。回収した粉末は純水で洗浄し、付着液を取り除いた後、大気中で24時間程度、80℃で乾燥を行った。乾燥後に得られたマンガン酸リチウムの粉末(リチウム吸着剤の前駆体)の重量は12kgであった。
【0074】
得られたリチウム吸着剤の前駆体のXRD(X-ray diffraction)で分析した結果を
図4に示す。
図4において、矢印で示した4箇所のピークがあるという結果より、Li
1.6Mn
1.6O
4が得られていることがわかる。また、リチウム吸着剤の前駆体のSEM画像を
図5に示す。
図5により、リチウム吸着剤の前駆体の状態を把握することができる。
【0075】
<リチウム吸着剤の調製(酸処理)>
得られたリチウム吸着剤の前駆体のうち10gを分取し、200mLのビーカーに入れ、塩酸(和光純薬工業製)を純水で希釈して1.0mol/Lに調製した塩酸水溶液150mLを加え、1時間程度混合撹拌した。混合撹拌後、スラリーをブフナ漏斗で吸引濾過して固液分離を行い、粉末を回収した。
【0076】
回収した粉末は、再度200mLのビーカーに入れ、1.0mol/Lに調製した塩酸水溶液150mLを加え、1時間程度混合撹拌した。混合撹拌後、スラリーをブフナ漏斗で吸引濾過して固液分離を行い、粉末を回収した。回収した粉末は約500mLの純水で洗浄して、付着液を除去した後、乾燥機を用いて60℃で24時間程度、大気中で乾燥させた。この操作により7gの吸着剤を得た。固液分離で回収したろ液をICP-AESで分析することで前駆体からのリチウムの脱離率を求めた。リチウムの脱離率は約78%であった。
【0077】
<リチウムの吸着>
塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カリウム(すべて和光純薬工業製)を純水に溶解させてリチウム濃度5g/L、ナトリウム濃度13g/L、マグネシウム濃度91g/L、カリウム濃度23g/Lの水溶液を調製し、調製した水溶液約70mLと酸処理で調製した吸着剤7gを200mLビーカーに入れて混合撹拌した。リチウムの吸着とともに、水溶液のpHが低下するため、混合撹拌中は8mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業製)を添加してpH7に調製した。
【0078】
攪拌混合後はスラリーをブフナ漏斗で吸引濾過することで固液分離を行い、ろ液中のリチウム濃度をICP-AESで分析することでリチウムの吸着量を求めた。攪拌混合時間とリチウムの吸着量の関係を
図6に示す。
図6の横軸は時間、縦軸はリチウムの吸着量である。
【0079】
一般的な強酸性陽イオン交換樹脂の交換容量が2mmol/gであることから、吸着能力の高いリチウム吸着剤が製造できたことが確認できた。
【0080】
(実施例2)
<リチウム吸着剤の前駆体の調製>
実施例2は、第2実施形態での実施例である。硫酸マンガン5水和物(和光純薬工業製)241g、水酸化リチウム1水和物84gをそれぞれ純水に溶解して、1Lにメスアップし、硫酸マンガン水溶液(1.0mol/L)と水酸化リチウム水溶液(2.0mol/L)を調製した。調製された水溶液を3Lビーカーに入れ、撹拌混合し、水酸化マンガンのスラリー(第1スラリー)を作製した。水酸化マンガンのスラリーに固形の水酸化リチウム1水和物を420g(10mol)添加し、撹拌混合を継続した(第2スラリー)。
【0081】
その後、第2スラリーを50℃まで加温し、有効濃度12%の工業用次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加し、酸化還元電位を銀塩化銀電極で測定して約400mVになるまで滴下した。その後、ウオーターバスを用いて、50~60℃の温度で5時間程、撹拌混合を継続した。得られた粉末(酸化物)は黒みがかった茶色であった。撹拌混合後、真空濾過し、粉末を純水で洗浄し、常温で真空乾燥した。乾燥後の粉末は乳鉢ですり潰した後、酸化雰囲気で600℃にて24時間焼成した。焼成後、約103gのリチウム吸着剤の前駆体、すなわちマンガン酸リチウムの粉末が得られた。
【0082】
得られた前駆体をXRD(X-ray diffraction)で分析した結果を
図7に示す。
図7において、矢印で示した4箇所のピークがあるという結果より、Li
1.6Mn
1.6O
4が得られていることがわかる。またリチウム吸着剤の前駆体のSEM画像を
図8に示す。
図8により、リチウム吸着剤の前駆体の状態を把握することができる。
【0083】
<リチウム吸着剤の調製(酸処理)>
得られたリチウム吸着剤の前駆体のうち、約90gを約1400mLの塩酸水溶液(1mol/L)と3Lビーカー内で1時間程度、混合撹拌した。混合撹拌後、スラリーを真空濾過(固液分離)して、ろ液と粉末を回収し、その粉末を、乾燥機を用いて60℃で24時間、大気中で乾燥させた。この操作を2回繰り返してリチウムの吸着剤を得た。操作後に回収した吸着剤の乾燥重量は約80gであった。固液分離で回収したろ液をICP-AESで分析することでリチウム吸着剤の前駆体からのリチウム脱離率を求めた。リチウムの脱離率は約80%であった。
【0084】
<リチウムの吸着>
塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カリウム(すべて和光純薬工業製)を純水に溶解させてリチウム濃度5g/L、ナトリウム濃度12g/L、マグネシウム濃度74g/L、カリウム濃度18g/Lの水溶液を調製した。調製した水溶液800mLと、上記「リチウム吸着剤の調製」で調製した吸着剤80gを1Lビーカーに入れて混合撹拌した。リチウムの吸着とともに、水溶液のpHが低下するため、混合撹拌中は8mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業製)を添加してpH7に調整した。
【0085】
攪拌混合後はスラリーをブフナ漏斗で吸引濾過することで固液分離を行い、ろ液中のリチウム濃度をICP-AESで分析することでリチウムの吸着量を求めた。攪拌混合時間とリチウムの吸着量の関係を
図9に示す。
図9の横軸は時間、縦軸はリチウムの吸着量である。
【0086】
一般的な強酸性陽イオン交換樹脂の交換容量が2mmol/gであることから、吸着能力の高いリチウム吸着剤が製造できたことが確認できた。
【0087】
(実施例3)
<リチウム吸着剤の前駆体の調製>
実施例3は、第3実施形態での実施例である。硝酸マンガン6水和物(和光純薬工業製)28.70g、ペルオキソニ硫酸アンモニウム(和光純薬工業製)11.41g、水酸化リチウム1水和物(和光純薬工業製)8.39gをそれぞれビーカーに測りとり、イオン交換水に溶解させた。その後、それぞれの水溶液を100mlにメスアップして、硝酸マンガン水溶液(1.0mol/L)、水酸化リチウム水溶液(1.0mol/L)、ペルオキソニ硫酸アンモニウム水溶液(0.5mol/L)に調製した。
【0088】
パイレックス(登録商標)製の500ml三角フラスコに硝酸マンガン水溶液(1.0mol/L)を全て入れ、スターラーで撹拌しながら、水酸化リチウム水溶液(1.0mol/L)を滴下して全て入れた(第1混合工程)。さらに混合撹拌しながら固形の41.96gの水酸化リチウム1水和物を加えてスラリー状にした(第2混合工程)。
【0089】
次にホットスターラーでスラリーを85℃に加温し、ペルオキソニ硫酸アンモニウム水溶液(0.5mol/L)を滴下し、全て入れた(酸化工程)。その後、10時間、85℃の温度を保持しながら撹拌混合を続けた。得られた粉末は茶色であった。
【0090】
撹拌終了後、ブフナ漏斗で吸引濾過して固液分離した。回収した粉末はイオン交換水で洗浄し、付着液を取り除いた後、12時間程度、120℃で真空乾燥を行った。乾燥後の粉末は乳鉢ですり潰した後、酸化雰囲気で600℃にて24時間焼成した(焼成工程)。
【0091】
得られた前駆体をXRD(X-ray diffraction)で分析した結果を
図10に示す。
図10の結果より、Li
1.37M
1.65O
4が得られていることがわかる。また、前駆体のSEM画像を
図11に示す。
図11により、得られたリチウム吸着剤の前駆体の状態を把握することができる。
【0092】
<リチウム吸着剤の調製(酸処理)>
次に1.0gの前駆体を三角フラスコに測りとり、1.0mol/Lの塩酸(和光純薬工業製)500mLを加え、24時間、160rpmで振とうした。その後、吸引濾過を行い、ろ液と粉末とを個別に回収した。回収した粉末はイオン交換水で洗浄した後、真空乾燥機で5時間乾燥させた。この操作を2回行い、リチウムの吸着剤を得た。ろ液はAAS(原子吸光法)で分析することで前駆体からのリチウム脱離率を求めた。Liの脱離率は100%であった。
【0093】
<リチウムの吸着>
塩化アンモニウムと25%アンモニア水溶液を用いてpHが8.5~8.6になるように調製した緩衝溶液と塩化リチウム0.1356gを混合し、200mLにメスアップすることで塩化リチウム水溶液(16mol/L)を調製した。この塩化リチウム水溶液10mLと酸処理した後の吸着剤0.01gを50mLの三角フラスコに入れ、浸透時間を5分、10分、15分、30分、1時間、2時間、7時間、24時間として160rpmで振とうさせた。振とう後は濾過を行い、ろ液中のリチウム濃度をAASで測定することでLiの吸着量を求めた。振とう時間に対するリチウムの吸着量を
図12に示す。
図12の横軸は時間、縦軸はリチウムの吸着量である。
【0094】
一般的な強酸性陽イオン交換樹脂の交換容量が2mmol/gであることから、吸着能力の高いリチウム吸着剤が製造できたことが確認できた。