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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】水素供給システムおよび水素供給方法
(51)【国際特許分類】
   B65G 63/00 20060101AFI20230517BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20230517BHJP
   F17C 5/06 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
B65G63/00 H
C01B3/00 Z
F17C5/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021044491
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022143787
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2022-05-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】市村 欣也
【審査官】福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0115190(US,A1)
【文献】特開2001-004271(JP,A)
【文献】特開2009-113927(JP,A)
【文献】国際公開第2015/145748(WO,A1)
【文献】特開2000-095020(JP,A)
【文献】特開2013-095257(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0048497(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 63/00
C01B 3/00
F17C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素製造設備からコンテナターミナルに水素を供給する水素供給システムであって、
水素を充填される水素コンテナと、前記水素製造設備から水素の供給を受けるとともに前記水素コンテナに充填された状態の水素を前記コンテナターミナルに搬送する船舶と、前記コンテナターミナルに配置されていて前記水素コンテナの荷役を行う港湾荷役機器と、前記コンテナターミナルに形成されていて前記水素コンテナを載置する水素コンテナ貯蔵領域を備えていて、
前記港湾荷役機器が、水素の供給対象となる第一の前記港湾荷役機器と、前記水素コンテナ貯蔵領域から第一の前記港湾荷役機器まで前記水素コンテナを搬送する第二の前記港湾荷役機器とを有することを特徴とする水素供給システム。
【請求項2】
第一の前記港湾荷役機器に搭載されていた前記水素コンテナが、第二の前記港湾荷役機器により搬送された前記水素コンテナに交換される構成を有する請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項3】
第一の前記港湾荷役機器がコンテナを荷役する吊具を有していて、
第一の前記港湾荷役機器に搭載されている前記水素コンテナが、前記吊具により交換される構成を有する請求項2に記載の水素供給システム。
【請求項4】
前記水素コンテナが内部に配置されるカードルまたはガス容器を有していて、
第一の前記港湾荷役機器に搭載されている前記水素コンテナの前記カードルまたは前記ガス容器が、第二の前記港湾荷役機器により搬送された前記水素コンテナの前記カードルまたは前記ガス容器に交換される構成を有する請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項5】
前記水素コンテナが、コンテナと同じ大きさの枠体を有する一つのカードルで構成される請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項6】
制御機構を備えていて、
前記制御機構が、前記港湾荷役機器の位置および作業状態を把握する管理システムに組み込まれていて、且つ第一の前記港湾荷役機器に搭載されている水素の量をデータとして取得する取得部と、この取得部で得られる値が予め定められるしきい値以下となったときに第二の前記港湾荷役機器に前記水素コンテナの搬送を指示する指示部とを有する請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項7】
制御機構を備えていて、
コンテナ船が係船されて岸壁を専有する期間である係船スケジュールを管理する管理システムから前記係船スケジュールを取得して、前記水素コンテナを搬送する前記船舶が接岸可能な期間を抽出する構成を前記制御機構は有していて、
前記制御機構が、前記水素コンテナ貯蔵領域に保管されている水素の量をデータとして取得する取得部と、この取得部で得られる値が予め定められるしきい値以下となったときに前記船舶に前記期間および前記水素コンテナの搬送を指示する指示部とを有する請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項8】
水素製造設備からコンテナターミナルに水素を供給する水素供給方法であって、
前記水素製造設備から水素の供給を受けて水素を充填される水素コンテナが、前記水素製造設備から前記コンテナターミナルに船舶により搬送されて、その後前記コンテナターミナルに配置されている港湾荷役機器により、前記コンテナターミナルに形成される水素コンテナ貯蔵領域に載置されて、
前記水素コンテナ貯蔵領域に載置されている前記水素コンテナが、前記水素コンテナ貯蔵領域から水素の供給対象となる第一の港湾荷役機器まで、第二の港湾荷役機器により搬送されることを特徴とする水素供給方法。
【請求項9】
第一の前記港湾荷役機器に搭載されていた前記水素コンテナが、第二の前記港湾荷役機器により搬送された前記水素コンテナに交換される請求項8に記載の水素供給方法。
【請求項10】
第一の前記港湾荷役機器がコンテナを荷役する吊具を有していて、
第一の前記港湾荷役機器に搭載されている前記水素コンテナが、前記吊具により交換される請求項9に記載の水素供給方法。
【請求項11】
前記水素コンテナが内部に配置されるカードルまたはガス容器を有していて、
第一の前記港湾荷役機器に搭載されている前記水素コンテナの前記カードルまたは前記ガス容器が、第二の前記港湾荷役機器により搬送された前記水素コンテナの前記カードルまたは前記ガス容器に交換される請求項8に記載の水素供給方法。
【請求項12】
前記港湾荷役機器の位置および作業状況を把握する管理システムに予め組み込まれた制御機構を備えていて、
制御機構が、第一の前記港湾荷役機器に搭載されている水素の量をデータとして取得して、このデータの値が予め定められるしきい値以下となったときに第二の前記港湾荷役機器に前記水素コンテナの搬送を指示する請求項8に記載の水素供給方法。
【請求項13】
コンテナ船が係船されて岸壁を専有する期間である係船スケジュールを管理する管理システムから前記係船スケジュールを取得して、前記水素コンテナを搬送する前記船舶が接岸可能な期間を抽出する制御機構を予め備えていて、
制御機構が、前記水素コンテナ貯蔵領域に保管されている水素の量をデータとして取得して、このデータの値が予め定められるしきい値以下となったときに前記船舶に前記期間および前記水素コンテナの搬送を指示する請求項8に記載の水素供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテナターミナルに水素を供給する水素供給システムおよび水素供給方法に関するものであり、詳しくはコンテナターミナルに水素を供給する際の効率および安全性を向上できる水素供給システムおよび水素供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素製造車両の構成が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1にはLPG(液化石油ガス)スタンドからLPGの供給を受けて、LPGから水素を製造するとともに圧縮して、LPGガススタンドのガスタンクに高圧水素ガスを供給する構成が開示されている。
【0003】
ところで岸壁クレーンや門型クレーン等の港湾荷役機器が作業を行うコンテナターミナルにおいて、二酸化炭素の排出量の抑制が求められいる。岸壁クレーン等に燃料電池を搭載して、この燃料電池に水素を供給することでコンテナターミナルにおける二酸化炭素の排出量を抑制することが検討されている。
【0004】
コンテナターミナルにはLPGの供給源がないため、特許文献1に記載の水素製造車両が利用できない。そのためコンテナターミナルへの水素の供給は極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2000-95020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的はコンテナターミナルに水素を供給する際の効率および安全性を向上できる水素供給システムおよび水素供給方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための水素供給システムは、水素製造設備からコンテナターミナルに水素を供給する水素供給システムであって、水素を充填される水素コンテナと、前記水素製造設備から水素の供給を受けるとともに前記水素コンテナに充填された状態の水素を前記コンテナターミナルに搬送する船舶と、前記コンテナターミナルに配置されていて前記水素コンテナの荷役を行う港湾荷役機器と、前記コンテナターミナルに形成されていて前記水素コンテナを載置する水素コンテナ貯蔵領域を備えていて、前記港湾荷役機器が、水素の供給対象となる第一の前記港湾荷役機器と、前記水素コンテナ貯蔵領域から第一の前記港湾荷役機器まで前記水素コンテナを搬送する第二の前記港湾荷役機器とを有することを特徴とする。
【0008】
上記の目的を達成するための水素供給方法は、水素製造設備からコンテナターミナルに水素を供給する水素供給方法であって、前記水素製造設備から水素の供給を受けて水素を充填される水素コンテナが、前記水素製造設備から前記コンテナターミナルに船舶により搬送されて、その後前記コンテナターミナルに配置されている港湾荷役機器により、前記コンテナターミナルに形成される水素コンテナ貯蔵領域に載置されて、前記水素コンテナ貯蔵領域に載置されている前記水素コンテナが、前記水素コンテナ貯蔵領域から水素の供給対象となる第一の港湾荷役機器まで、第二の港湾荷役機器により搬送されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンテナターミナルにおいて通常のコンテナの荷役と同様に水素コンテナの荷役を実行および管理できる。コンテナターミナルに対して水素の供給を効率よく行うには有利である。また水素コンテナが公道を通ることなくコンテナターミナルに搬送されるため、水素を搬送する際の安全性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】水素供給システムの概略を例示する説明図である。
図2】水素コンテナを例示する説明図である。
図3】水素コンテナの変形例を例示する説明図である。
図4】水素コンテナの変形例を例示する説明図である。
図5】水素コンテナの変形例を例示する説明図である。
図6】水素供給システムの変形例を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、水素供給システムおよび水素供給方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1に例示するように水素供給システム1は、水素製造設備2で製造される水素を水素コンテナ3の状態で船舶4によりコンテナターミナル5に搬送する構成を有している。
【0013】
水素製造設備2は、水素を製造するための工場である。水素製造設備2は、液体水素または水素ガスを製造して船舶4に供給する構成を有している。水素製造設備2は望ましくは海に面した場所に建設されている。水素製造設備2は、FSO(Floating Storage and offloading system)などの船舶や、石油プラットフォームなどの洋上施設で構成されてもよい。水素製造設備2は発明の必須要件ではない。
【0014】
水素供給システム1は例えばコンテナ船で構成される船舶4を備えている。船舶4は、水素製造設備2からコンテナターミナル5に海路で水素を搬送する構成を有している。船舶4は、コンテナと同様に荷役可能な水素コンテナ3の状態で水素を搬送する。船舶4はコンテナ船に限定されない。船舶4は水素コンテナ3を搬送可能な構成を有していればよい。例えば水素製造設備2とコンテナターミナル5の距離が比較的近い場合は、タグボートに牽引される台船で船舶4が構成されてもよい。
【0015】
図2に例示するように水素コンテナ3は、枠状構造体6の中に一つのタンク7が固定されるタンクコンテナで構成することができる。水素コンテナ3は、20ftコンテナや40ftコンテナなど海上コンテナと同様の大きさに構成されていて、コンテナクレーン等で荷役可能な構成を有している。
【0016】
図3に例示するように水素コンテナ3は、通常のコンテナ8の内部に複数のガス容器(シリンダー)9が収容される構成であってもよい。図3では説明のためコンテナ8を破線で示している。ガス容器9の大きさや数は適宜設定することができる。
【0017】
図4に例示するように水素コンテナ3は、コンテナ8の内部に一つまたは複数のカードル10が収容される構成であってもよい。カードル10は、枠体11の内部に複数のガス容器9が配置されて、ガス容器9どうしが配管等で接続される構造を有している。図4では説明のためコンテナ8を破線で示している。コンテナ8に収納されるカードル10の大きさや数は適宜設定することができる。一つのカードル10を構成するガス容器9の大きさや数は適宜設定することができる。
【0018】
図5に例示するように水素コンテナ3は、通常のコンテナ8と同程度の大きさに構成される一つのカードル10で構成されてもよい。このカードル10の枠体11がコンテナ8と同じ大きさを有していて、コンテナクレーン等で荷役可能な構成を有している。
【0019】
図1に例示するように水素供給システム1はコンテナターミナル5に配置される複数の港湾荷役機器12を備えている。港湾荷役機器12は通常のコンテナ8を荷役する機器で構成されている。港湾荷役機器12は、例えば岸壁に設置されていて接岸した船舶4とコンテナターミナル5との間でコンテナ8の荷役を行う岸壁クレーン12aで構成される。港湾荷役機器12は、例えば岸壁クレーン12aと蔵置レーン13との間でコンテナ8の荷役を行う構内シャシ12bで構成される。蔵置レーン13は複数のコンテナ8が積み重ねられて載置される領域である。港湾荷役機器12は、例えば蔵置レーン13に沿って走行可能に配置されていて構内シャシ12bと蔵置レーン13との間でコンテナ8の荷役を行う門型クレーン12cで構成される。
【0020】
港湾荷役機器12は上記に限らず、コンテナターミナル5に配置されるあらゆる機器が含まれる。またコンテナターミナル5に配置されてコンテナ8の荷役を行える機器も港湾荷役機器12に含まれる。港湾荷役機器12は例えばトップリフターやフォークリフトやストラドルキャリアも含まれる。
【0021】
水素供給システム1は、コンテナターミナル5に形成されていて水素コンテナ3を載置する水素コンテナ貯蔵領域14を備えていてもよい。水素コンテナ貯蔵領域14は、複数の水素コンテナ3が積み重ねられて載置される領域である。水素コンテナ貯蔵領域14には、安全性を高めるために必要に応じてコンクリート壁15などの付帯設備が配置されてもよい。図1に例示する実施形態では、水素コンテナ貯蔵領域14に沿って走行する門型クレーン12cが配置されている。水素コンテナ貯蔵領域14における水素コンテナ3は、この門型クレーン12cにより荷役される。
【0022】
水素コンテナ貯蔵領域14における水素コンテナ3の荷役が、スタッカークレーンにより行われる構成にしてもよい。この場合は水素コンテナ貯蔵領域14に複数の水素コンテナ3をそれぞれ収容する棚が設置される。それぞれの棚に載置される水素コンテナ3をスタッカークレーンが棚に沿って上下方向および水平方向に移動するフォーク等により荷役する。スタッカークレーンを有する自動倉庫が、水素コンテナ貯蔵領域14に建造される構成にしてもよい。このとき水素コンテナ3は自動倉庫の屋内に載置されるため、安全性を向上するには有利である。
【0023】
スタッカークレーンを利用する構成により、水素コンテナ3を積み重ねて載置する場合に比べて、上下方向に収容できる水素コンテナ3の数を増加させることができる。水素コンテナ貯蔵領域14に必要となる面積を小さくすることができる。安全性を高めるために必要となるコンクリート壁15の量を抑制するには有利である。また水素コンテナ貯蔵領域14の面積を小さくすることで、通常のコンテナ8が載置される蔵置レーン13の面積の縮小量を抑制できる。
【0024】
水素コンテナ3は他のコンテナ8とは区別される状態で、水素コンテナ貯蔵領域14に載置されることが安全性の観点からは望ましい。通常のコンテナ8が載置される蔵置レーン13に水素コンテナ3が載置されてもよい。このとき水素供給システム1は水素コンテナ貯蔵領域14を備えない構成となる。
【0025】
コンテナターミナル5が管理棟16を有していてもよい。管理棟16は、コンテナターミナル5を管理する作業員等が作業を行う場所である。複数の港湾荷役機器12の状態を管理する管理システム17が管理棟16に配置されていてもよい。図1では説明のため管理システム17を破線で示している。
【0026】
管理システム17は例えばコンピュータで構成される。管理システム17は、港湾荷役機器12の位置や作業状態を把握する構成を有している。管理システム17は、蔵置レーン13に載置されているコンテナ8の位置やコンテナ番号を管理する構成を有していてもよい。管理システム17は、接岸した船舶4に積み込むコンテナ8のコンテナ番号を管理する構成を有していてもよい。また管理システム17は、コンテナターミナル5の岸壁に接岸する船舶4の識別や、接岸している期間等を管理する構成を有していてもよい。
【0027】
水素供給システム1を利用した水素供給方法について以下に説明する。図1に例示するようにまず船舶4が水素製造設備2において水素の供給を受ける。水素製造設備2では、製造された水素ガスが水素コンテナ3に充填される。水素ガスは例えば90MPaに加圧された状態で水素コンテナ3に充填される。水素ガスの圧力はこれに限らず、適宜設定することができる。例えば90MPa以上など水素ガスの圧力を大きくするほど、水素の搬送効率は良くなる。他方で例えば40MPa以下など水素ガスの圧力を小さくするほど、水素を充填するタンク7やガス容器9の製造コストを抑制できる。
【0028】
水素製造設備2において水素ガスを充填された水素コンテナ3が、船舶4に積み込まれる。船舶4は水素コンテナ3の状態で水素製造設備2から水素を受け取る。水素供給設備2と船舶4とをホース等で連結して、船舶4に積み込まれている水素コンテナ3に水素ガスを供給する構成にしてもよい。この場合、船舶4は水素ガスの状態で水素製造設備2から水素を受け取る。
【0029】
水素供給設備2から供給される水素は、液体水素であってもよい。液体水素の冷却が必要な場合は水素コンテナ3が冷却器または保冷構造を有する構成とすることが望ましい。本明細書において液体水素には、水素とトルエンとを化学反応させてたメチルシクロヘキサンも含まれる。
【0030】
水素製造設備2において船舶4は、水素ガスまたは液体水素の直接供給または水素コンテナ3としての供給を受ける。その後、船舶4は目的地であるコンテナターミナル5に水素コンテナ3の状態で水素を搬送する。
【0031】
コンテナターミナル5の岸壁に船舶4が接岸すると、岸壁クレーン12aは水素コンテナ3を船舶4から荷降ろしする。岸壁クレーン12aから水素コンテナ3を受け取った構内シャシ12bは、水素コンテナ貯蔵領域14に水素コンテナ3を搬送する。水素コンテナ貯蔵領域14に配置されている門型クレーン12cは、水素コンテナ3を水素コンテナ貯蔵領域14に載置する。
【0032】
水素コンテナ3は通常のコンテナ8と同様に、岸壁クレーン12aや構内シャシ12bや門型クレーン12c等により荷役される。水素コンテナ3は港湾荷役機器12によって蔵置レーン13または水素コンテナ貯蔵領域14に載置される。水素コンテナ3は通常のコンテナ8と同様に積み上げて載置することが可能である。トップリフターやフォークリフトやストラドルキャリアで水素コンテナ3の荷役が行われてもよい。
【0033】
水素を水素コンテナ3の状態で荷役できるので、岸壁クレーン12aなど通常のコンテナ8を荷役する港湾荷役機器12で水素の搬送が可能となる。通常のコンテナ8と同様に水素コンテナ3の荷役や管理をコンテナターミナル5で行うことが可能となる。コンテナターミナル5の既存の設備を利用して効率よく水素を搬送することができる。
【0034】
タンクローリ等の車両で水素を搬送する場合に比べて、船舶4で水素コンテナ3の状態で搬送する方が水素の搬送量を大規模化するには有利である。
【0035】
水素コンテナ3は水素製造設備2からコンテナターミナル5まで海上輸送により搬送される。水素製造設備2が海に面した場所に建設されている場合は、水素コンテナ3が公道をまったく通過することがない。水素コンテナ3が公道をまったくまたはほとんど通らないため、水素の搬送における安全性を向上できる。
【0036】
コンテナターミナル5に対してコンテナ8の搬入および搬出を行う複数の外来シャシにより、コンテナターミナル5の近辺で渋滞等が発生することがある。水素コンテナ3は、海からコンテナターミナル5に運び込まれるため、渋滞等の影響を受けずコンテナターミナル5への到着が遅れることがない。また外来シャシとは異なる経路で水素コンテナ3はコンテナターミナル5に搬送されるため、外来シャシの往来に与える影響を抑制することができる。
【0037】
水素供給システム1は、構内シャシ12bなどコンテナターミナル5の既存の設備を利用して水素の搬送を行うことができる。コンテナターミナル5において、構内シャシ12bや門型クレーン12cの自動運転が行われる場合であっても、通常のコンテナ8と同様に自動運転で水素コンテナ3の搬送が可能となる。コンテナターミナル5における安全性を向上するには有利である。水素製造車両やタンクローリ等が外部からコンテナターミナル5に侵入すると自動運転の妨げになったり、事故の原因となることがある。
【0038】
港湾荷役機器12の少なくとも一部に燃料電池が搭載されていて水素を燃料として動作を行う場合、この港湾荷役機器12に対する水素の供給が必要となる。水素の供給対象となる第一の港湾荷役機器12が岸壁クレーン12aであり、第一の港湾荷役機器12に対して水素コンテナ3を搬送する第二の港湾荷役機器12がトップリフターである場合を例に以下に説明する。
【0039】
まず第二の港湾荷役機器12であるトップリフターが水素コンテナ貯蔵領域14から第一の港湾荷役機器12である岸壁クレーン12aに水素コンテナ3を搬送する。トップリフターは、岸壁クレーン12aに搭載されていた使用済みの水素コンテナ3を、搬送してきた使用前の水素コンテナ3に交換する。岸壁クレーン12aの水素コンテナ3が換装されることになる。その際に水素コンテナ3から岸壁クレーン12aの燃料電池に水素を供給するためのホース等のつなぎ替えも作業員により適宜実施される。使用済みの水素コンテナ3は水素コンテナ貯蔵領域14までトップリフターにより搬送される。
【0040】
第二の港湾荷役機器12が構内シャシ12bで構成されてもよい。この場合に岸壁クレーン12aは、自身に搭載されていた使用済みの水素コンテナ3を、構内シャシ12bが搬送してきた使用前の水素コンテナ3に、自身の吊具を利用して交換する。構内シャシ12bは、使用済みの水素コンテナ3を水素コンテナ貯蔵領域14まで搬送する。門型クレーン12cは、構内シャシ12bに搭載されている使用済みの水素コンテナ3を吊り上げて、水素コンテナ貯蔵領域14に載置する。
【0041】
第一の港湾荷役機器12が岸壁クレーン12aや門型クレーン12cなどコンテナ8を荷役するための吊具を有している場合は、自身の吊具で水素コンテナ3の換装を行う構成としてもよい。
【0042】
岸壁クレーン12aなど第一の港湾荷役機器12に対して、ガス容器9やカードル10の換装を行う構成としてもよい。つまり水素コンテナ3全体の換装ではなく、水素コンテナ3の中身のガス容器9等の換装を行う構成としてもよい。
【0043】
例えば構内シャシ12bで搬送されてきた使用前の水素コンテナ3から、フォークリフト等でカードル10を取り出して、このカードル10を岸壁クレーン12aに搭載させる構成としてもよい。水素コンテナ3からガス容器9を取り出して、ガス容器9をチェーンブロック等で吊り上げて岸壁クレーン12aに設置する構成としてもよい。
【0044】
第二の港湾荷役機器12により搬送される水素コンテナ3と、第一の港湾荷役機器12の水素タンクとをホース等で接続して、差圧により水素ガスを供給する構成としてもよい。この場合、第一の港湾荷役機器12および第二の港湾荷役機器12のいずれもが、水素コンテナ3を吊り上げる吊具等を有さない構成であってもよい。
【0045】
水素コンテナ3に充填されている水素が液体水素の場合も水素ガスの場合と同様に、水素コンテナ3の換装、または液体水素をホース等で供給する構成のいずれであっても採用できる。液体水素をホース等で供給する場合は水素コンテナ3にポンプ等の動力機器が設置されていてもよい。
【0046】
燃料として液体水素が利用される場合は、港湾荷役機器12は液体水素を水素ガスに変換する変換器を有していてもよい。このとき変換器で変換された水素ガスが燃料電池に供給される。燃料を水素ガスとする方が、港湾荷役機器12において変換器が不要となりメンテナンスも容易となる。港湾荷役機器12の燃料を軽油から水素に切り替えるために必要となるコストと、切り替え後に定期的に発生するメンテナンスコストとを抑制できる。コンテナターミナル5における二酸化炭素の排出量を抑制するには有利である。
【0047】
ガス容器9やカードル10が水素コンテナ3に収納されている場合も、ガス容器9等と港湾荷役機器12とをホース等で接続して水素ガスまたは液体水素を供給する構成にできる。
【0048】
港湾荷役機器12(第一の港湾荷役機器12)に対する水素の供給を、通常のコンテナ8の搬送を行っている港湾荷役機器12(第二の港湾荷役機器12)により行うことが可能となる。港湾荷役機器12を利用して水素コンテナ3を搬送する構成であるため、複数台の港湾荷役機器12に対して同時に水素の供給を行うことが可能となる。例えば船舶4の接岸作業中に、複数台の岸壁クレーン12aに対して同時に且つ短時間で水素を供給することが可能となる。岸壁クレーン12aの荷役効率を向上するには有利である。
【0049】
第一の港湾荷役機器12が岸壁クレーン12aや門型クレーン12cなど、水素コンテナ貯蔵領域14までの移動が比較的困難な港湾荷役機器12の場合は、構内シャシ12bなど第二の港湾荷役機器12を利用することで効率よく水素を供給することが可能となる。
【0050】
通常のコンテナ8の荷役と同様に水素コンテナ3の搬送をコンテナターミナル5において行うことができる。通常のコンテナ8の荷役作業を妨げることなく第一の港湾荷役機器12に対する水素の供給を行うことが可能となる。
【0051】
港湾荷役機器12の自動運転によりコンテナ8が搬送されるコンテナターミナル5においては、第二の港湾荷役機器12の自動運転で水素コンテナ3を第一の港湾荷役機器12まで搬送することができる。コンテナターミナル5における安全性を向上するには有利である。自動で走行している港湾荷役機器12の中に作業員が運転する車両等が侵入すると、自動運転の妨げになったり事故の原因になったりする。水素供給システム1は、このような不具合を回避できる。
【0052】
水素コンテナ貯蔵領域14など水素コンテナ3を載置する場所を確保するのみで、コンテナターミナル5における水素コンテナ3の受け入れが可能となる。付帯設備等を設けず水素コンテナ貯蔵領域14の区画を決定するのみの場合は、燃料としての水素を導入する際に必要となるコストを特に抑制できる。そのためコンテナターミナル5において、水素を燃料として駆動する港湾荷役機器12を段階的に増やしていく場合に対応が可能となる。
【0053】
例えばコンテナターミナル5に水素スタンドを設ける場合は、港湾荷役機器12が水素の供給を受ける際に待機する駐機スペースや、地下に埋設されて水素を貯蔵するためのタンクや、水素を搬送するための配管等が必要となる。水素燃料の導入に必要となるコストが極めて大きくなる。まず二台の港湾荷役機器12の燃料を水素とする場合でも、大きな費用をかけて水素スタンドを建造する必要がある。水素燃料の普及の妨げになる。
【0054】
コンテナターミナル5において水素の製造や水素ガスの圧縮が行われない。コンテナターミナル5における安全性を向上するには有利である。また水素の製造や水素ガスの圧縮のために必要な許認可等も、コンテナターミナル5で取得する必要がないため、水素燃料の普及を促進するには有利である。
【0055】
使用前の水素コンテナ3とは反対となる経路で使用済みの水素コンテナ3は搬送される。具体的には使用済みの水素コンテナ3は、第二の港湾荷役機器12により水素コンテナ貯蔵領域14に搬送される。使用前の水素コンテナ3が船舶4により搬送されてきたとき、使用済みの水素コンテナ3が船舶4に積み込まれる。
【0056】
図6に例示するように水素供給システム1が制御機構18を備えていてもよい。制御機構18は例えば管理棟16に設置されるコンピュータで構成される。図6に例示する実施形態のように制御機構18が管理システム17に組み込まれる構成であってもよく、管理システム17とは独立する状態で設置される構成であってもよい。
【0057】
制御機構18は港湾荷役機器12に搭載されている水素の量をデータとして取得する取得部18aを有している。門型クレーン12cなど第一の港湾荷役機器12に設置されている水素コンテナ3に水素ガスが充填されている場合、水素コンテナ3の水素残量を圧力として取得する構成を取得部18aが有していてもよい。水素コンテナ3に液体水素が充填されている場合、水素コンテナ3の水素残量を液体水素の水位として取得する構成を取得部18aが有していてもよい。港湾荷役機器12に設置されているセンサ等からの情報を、無線通信により取得部18aが取得する構成にできる。
【0058】
取得部18aは、水素残量を所定時間ごとに間欠的に取得する構成でもよく、水素残量を連続的に取得することで常時監視を行う構成でもよい。燃料電池に流入する水素ガスの流量を流量計で取得して、この値から水素残量を推定する構成を、取得部18aが有しててもよい。取得部18aは複数の港湾荷役機器12のそれぞれの水素残量をそれぞれ取得する。
【0059】
制御機構18は指示部18bを有している。水素残量が例えば使用前の状態に対して30%以下など、予め定められるしきい値以下となったときにトップリフターなど第二の港湾荷役機器12に水素コンテナ3の搬送を指示部18bが指示する。トップリフターは、水素コンテナ貯蔵領域14から門型クレーン12cに向かって水素コンテナ3を搬送する。トップリフターは自動運転で制御されてもよく、作業員により操作される構成であってもよい。作業員によりトップリフターが操作される場合は、トップリフターの作業指示モニタに指示部18bからの指示が表示される。
【0060】
取得部18aが水素コンテナ貯蔵領域14に保管されている水素の量をデータとして取得する構成を有していてもよい。水素コンテナ貯蔵領域14に載置されている水素コンテナ3の全体数に対して使用前の水素コンテナ3の割合をデータとして取得部18aが取得する構成にできる。水素コンテナ貯蔵領域14に載置されている使用前の水素コンテナ3の数をデータとして、取得部18aが取得する構成としてもよい。図6に示される実施例では水素コンテナ貯蔵領域14はコンクリート壁15などの付帯設備を有さない。
【0061】
水素コンテナ貯蔵領域14に載置されている水素コンテナ3の全体数に対する使用前の水素コンテナ3の割合が50%以下など、予め定められるしきい値以下になったときに船舶4に水素コンテナ3の搬送を指示部18bが指示する構成にしてもよい。また水素コンテナ貯蔵領域14に載置されている使用前の水素コンテナ3の数が20個以下など所定の数以下になったとき、船舶4に水素コンテナ3の搬送を指示する構成にしてもよい。
【0062】
船舶4の作業指示モニタに指示部18bからの指示が表示される。船舶4は水素製造設備2に移動して水素の供給を受けた後に、コンテナターミナル5に移動する。コンテナターミナル5は船舶4から使用前の水素コンテナ3の供給を受ける。
【0063】
構内シャシ12bやトップリフターなどコンテナターミナル5において比較的容易に移動できる港湾荷役機器12が、水素が供給される対象である第一の港湾荷役機器12となる場合がある。このとき第一の港湾荷役機器12が水素コンテナ貯蔵領域14まで移動して、その場で水素の供給を受ける構成としてもよい。このとき水素コンテナ3を搬送するための第二の港湾荷役機器12が不要となる。また水素の供給は、水素コンテナ3を換装する構成であっても、水素ガスまたは液体水素を直接供給する構成であってもよい。
【0064】
水素供給システム1が制御機構18を備える場合は、取得部18aが構内シャシ12bなどの第一の港湾荷役機器12の水素の量を取得して、指示部18bが構内シャシ12bなどの第一の港湾荷役機器12に水素コンテナ貯蔵領域14までの移動を指示する構成にしてもよい。構内シャシ12bは水素コンテナ貯蔵領域14で水素の供給を受ける。
【0065】
管理システム17が複数の港湾荷役機器12の水素の量を取得する構成を有していてもよい。この場合、制御機構18の取得部18aは、管理システム17から港湾荷役機器12の水素の残量を取得する構成にしてもよい。
【0066】
コンテナ船が係船されて岸壁を専有する期間(係船スケジュール)を管理システム17が管理する構成を有していてもよい。この場合、制御機構18が係船スケジュールを管理システム17から取得して、水素コンテナ3を搬送する船舶4が接岸可能な期間を抽出して、この期間を含む情報を指示部18bから船舶4に連絡する構成としてもよい。
【0067】
港湾荷役機器12への水素の供給は、通常時にコンテナ8の荷役を行っている港湾荷役機器12で行うことができる。つまり管理システム17により管理されている複数の港湾荷役機器12により水素の供給を行うことができる。管理システム17により管理できない車両等がコンテナターミナル5の中を、水素の供給のために走行することがない。コンテナターミナル5における安全性を向上するには有利である。
【0068】
水素コンテナ3の搬送を行う第二の港湾荷役機器12の現在地や作業状況を管理システム17は把握することができる。第二の港湾荷役機器12に関する情報を管理システム17から取得することで、制御機構18は効率のよいタイミングで第二の港湾荷役機器12に水素の供給作業を行わせることが可能となる。水素供給システム18は、コンテナ8の荷役効率の低下を抑制しつつ、第一の港湾荷役機器12に対する水素の供給を実現することができる。
【0069】
港湾荷役機器12が自動運転で制御されている場合、制御機構18の指示部18bから管理システム17に指示を行う構成にしてもよい。管理システム17は通常のコンテナ8の荷役作業と同様に、構内シャシ12b等の第二の港湾荷役機器12に水素コンテナ3の荷役を指示することができる。コンテナ8の荷役作業の中に水素コンテナ3の搬送作業を組み込むことができるので、コンテナ8および水素コンテナ3の荷役効率を向上するには有利である。コンテナターミナル5の中で走行する港湾荷役機器12が、コンテナ8の荷役作業と同様に水素コンテナ3の搬送作業を自動で行うことができる。
【符号の説明】
【0070】
1 水素供給システム
2 水素製造設備
3 水素コンテナ
4 船舶
5 コンテナターミナル
6 枠状構造体
7 タンク
8 コンテナ
9 ガス容器
10 カードル
11 枠体
12 港湾荷役機器
12a 岸壁クレーン
12b 構内シャシ
12c 門型クレーン
13 蔵置レーン
14 水素コンテナ貯蔵領域
15 コンクリート壁
16 管理棟
17 管理システム
18 制御機構
18a 取得部
18b 指示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6