(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】不透明な弾球遊技用樹脂基盤とその製造方法、及び、印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤
(51)【国際特許分類】
A63F 7/02 20060101AFI20230517BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230517BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230517BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230517BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
A63F7/02 310C
B32B27/20 A
B32B27/30 A
B32B7/023
B29C65/48
(21)【出願番号】P 2019062058
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】大澤 侑史
(72)【発明者】
【氏名】多賀 翔
(72)【発明者】
【氏名】塩田 道孝
【審査官】堀 圭史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-107085(JP,A)
【文献】特開2008-264496(JP,A)
【文献】特開2004-065732(JP,A)
【文献】特開2015-128526(JP,A)
【文献】特開2000-300742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63F 7/02
B32B 27/20
B32B 27/30
B32B 7/023
B29C 65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
85~50質量%のメタクリル系重合体と15~50質量%の多層構造ゴム粒子とを含有し、透明な又は白色以外の色を有する第1のメタクリル系樹脂組成物(A)からなる基材層と、
84.9~50質量%のメタクリル系重合体と15~
49.9質量%の多層構造ゴム粒子と0.1~3.0質量%の白色顔料とを含有する第2のメタクリル系樹脂組成物(B)からなる表面層とを含む積層シートからなり、
前記表面層の全光線透過率が30%以下であり、
前記積層シートの総厚みが8~22mmである、弾球遊技用樹脂基盤。
【請求項2】
第2のメタクリル系樹脂組成物(B)中
、前記メタクリル系重合体の含有量
は80~50質量%であ
り、前記多層構造ゴム粒子の含有量は15~45質量%である、請求項1に記載の弾球遊技用樹脂基盤。
【請求項3】
第2のメタクリル系樹脂組成物(B)中の前記白色顔料と前記多層構造ゴム粒子の濃度をそれぞれW(質量%)、R(質量%)としたとき、下記式(1)を充足する、請求項1又は2に記載の弾球遊技用樹脂基盤。
20≦R/W≦40・・・(1)
【請求項4】
前記白色顔料が酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫化亜鉛、及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の弾球遊技用樹脂基盤。
【請求項5】
第1のメタクリル系樹脂組成物(A)の全原料のうち100~5質量%が、前記弾球遊技用樹脂基盤に使用される前に1回以上成形加工に使用されたことのあるリワーク材である、請求項1~4のいずれか1項に記載の弾球遊技用樹脂基盤。
【請求項6】
第1のメタクリル系樹脂組成物(A)の全原料のうち100~5質量%は、前記弾球遊技用樹脂基盤に使用される前に1回以上成形加工に使用されたことのあるリワーク材を使用して、前記積層シートを成形する、請求項1~4のいずれか1項に記載の弾球遊技用樹脂基盤の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の弾球遊技用樹脂基盤の一方の表面に、接着剤層を介して、透明フィルムの一方の表面に印刷加工が施された印刷フィルムが積層された、印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤。
【請求項8】
前記印刷フィルム側から当該印刷フィルムを貫通して前記弾球遊技用樹脂基盤の内部又は裏面に到達する釘打ち用の孔が形成された、請求項7に記載の印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤。
【請求項9】
前記釘打ち用の孔の内部に釘が打ち込まれた、請求項8に記載の印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部が不透明な弾球遊技用樹脂基盤とその製造方法、及び、印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パチンコ台及びスロットマシーン等の弾球遊技機の基盤(以下、単に「弾球遊技用基盤」と言う。)の素材として、ベニヤ合板が広く用いられている。ベニヤ合板を用いた弾球遊技盤では、ベニヤ合板の遊技者側の表面に、透明フィルムの一方の面に印刷加工が施されたフィルム(以下、「印刷フィルム」とも言う。)が貼り合わされ、さらに、印刷フィルムを貫通する形でベニヤ合板に対して釘打ち用の孔開け及び釘打ちがなされる。
【0003】
弾球遊技用基盤の素材として、従来主流であったベニヤ合板に代わり、資源保護等の観点から、透明樹脂シート(透明樹脂板)の使用が検討されている(特許文献1の請求項1等)。本明細書において、特に明記しない限り、「シート」は可撓性を有しない板状物である。透明樹脂シートを用いた弾球遊技用基盤では、透明樹脂シートの裏面(遊技者側とは反対の面)に、印刷フィルムが貼り合わされ、遊技者側から透明樹脂シートに対して釘打ち用の孔開け及び釘打ちがなされる場合と、透明樹脂シートの表面(遊技者側の面)に印刷フィルムが貼り合わされ、さらに、印刷フィルムを貫通する形で透明樹脂シートに対して釘打ち用の孔開け及び釘打ちがなされる場合がある。
【0004】
透明樹脂シートの構成樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂及びメタクリル系樹脂等が挙げられる。ポリカーボネート系樹脂シートは、表面硬度が比較的低いため、遊技球との摩擦又は遊技球の衝突で傷が付きやすい傾向がある。メタクリル系樹脂シートは表面硬度が比較的高いため、遊技球との摩擦又は遊技球の衝突でも傷が付きにくい。しかしながら、一般的なメタクリル系樹脂は耐衝撃性が不充分であり、釘打ち時に打ち釘の周辺に白化又は割れ(ミクロクラック)が発生する恐れがある。打ち釘の周辺に樹脂割れが生じると、釘の保持力が低下し、外観上も好ましくない。特許文献2には、釘打ち時の樹脂割れを抑制するために、メタクリル系樹脂にアクリル系ゴム粒子を添加して、耐衝撃性を改善した弾球遊技用基盤が開示されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-61047号公報
【文献】特開2008-49137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ベニヤ合板を用いた弾球遊技盤では、以下の課題がある。ベニヤ合板では、一対の板を接着剤を用いて貼り合わせる際に空洞が形成されることがある。このように空洞が形成された場合、釘を打ち込んだ後の釘の保持力が不均一となり、釘の保持力の弱い部分では釘の緩みが生じる恐れがある。また、ベニヤ合板の表面に印刷フィルムを直接積層すると、印刷フィルムの演色性が低下する傾向があるため、通常はベニヤ合板の遊技者側の表面に白フィルム又は白紙を貼った後、印刷フィルムを貼る必要がある。この場合、工程数が増えるためコスト増に繋がり、好ましくない。さらに、ベニヤ合板は輸入に頼っていることから、供給国の自然災害、木材伐採による環境破壊、及び輸入に伴う諸問題等により、安定供給が難しい。
【0007】
一方、透明樹脂シートを用いた弾球遊技盤では、以下の課題がある。透明樹脂シートの表面に印刷フィルムを直接積層すると、印刷フィルムの演色性が低下する傾向があるため、透明樹脂シートの表面に白フィルム又は白紙を貼った後、印刷フィルムを貼ることが好ましい。この場合、工程数が増えるためコスト増に繋がり、好ましくない。また、一般的に、メタクリル系樹脂組成物中のゴム粒子の濃度を高くすれば、釘打ち時の樹脂割れを効果的に抑制できるが、孔開け加工又は切削加工の際には、樹脂融着により適切な加工が困難となる恐れがある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、釘打ち時の樹脂割れが抑制され、打ち釘の保持力が良好で、切削加工性が良好で、印刷フィルムを直接積層した場合にも印刷フィルムの演色性が良好な弾球遊技用樹脂基盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]~[8]の少なくとも一部が不透明な弾球遊技用樹脂基盤とその製造方法、及び印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤を提供する。
[1] 85~50質量%のメタクリル系重合体と15~50質量%の多層構造ゴム粒子とを含有し、透明な又は白色以外の色を有する第1のメタクリル系樹脂組成物(A)からなる基材層と、
84.9~50質量%のメタクリル系重合体と15~49.9質量%の多層構造ゴム粒子と0.1~3.0質量%の白色顔料とを含有するする第2のメタクリル系樹脂組成物(B)からなる表面層とを含む積層シートからなり、
前記表面層の全光線透過率が30%以下であり、
前記積層シートの総厚みが8~22mmである、弾球遊技用樹脂基盤。
【0010】
[2] 第2のメタクリル系樹脂組成物(B)中の前記白色顔料と前記多層構造ゴム粒子の濃度をそれぞれW(質量%)、R(質量%)としたとき、下記式(1)を充足する、[1]の弾球遊技用樹脂基盤。
20≦R/W≦40・・・(1)
[3] 前記白色顔料が酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫化亜鉛、及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]又は[2]の弾球遊技用樹脂基盤。
[4] 第1のメタクリル系樹脂組成物(A)の全原料のうち100~5質量%が、前記弾球遊技用樹脂基盤に使用される前に1回以上成形加工に使用されたことのあるリワーク材である、[1]~[3]のいずれかの弾球遊技用樹脂基盤。
【0011】
[5] 第1のメタクリル系樹脂組成物(A)の全原料のうち100~5質量%は、前記弾球遊技用樹脂基盤に使用される前に1回以上成形加工に使用されたことのあるリワーク材を使用して、前記積層シートを成形する、[1]~[3]のいずれかの弾球遊技用樹脂基盤の製造方法。
【0012】
[6] [1]~[4]のいずれかの弾球遊技用樹脂基盤の一方の表面に、接着剤層を介して、透明フィルムの一方の表面に印刷加工が施された印刷フィルムが積層された、印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤。
[7] 前記印刷フィルム側から当該印刷フィルムを貫通して前記弾球遊技用樹脂基盤の内部又は裏面に到達する釘打ち用の孔が形成された、[6]の印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤。
[8] 前記釘打ち用の孔の内部に釘が打ち込まれた、[7]の印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、釘打ち時の樹脂割れが抑制され、打ち釘の保持力が良好で、切削加工性が良好で、印刷フィルムを直接積層した場合にも印刷フィルムの演色性が良好な弾球遊技用樹脂基盤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】本発明に係る第1実施形態の弾球遊技用樹脂基盤の模式断面図である。
【
図1B】本発明に係る第2実施形態の弾球遊技用樹脂基盤の模式断面図である。
【
図2A】本発明に係る第1実施形態の印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤の模式断面図である。
【
図2B】本発明に係る第2実施形態の印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[弾球遊技用樹脂基盤]
本発明の弾球遊技用樹脂基盤は、
85~50質量%のメタクリル系重合体(PM)と15~50質量%の多層構造ゴム粒子(RP)とを含有し、透明な又は白色以外の色を有する第1のメタクリル系樹脂組成物(A)からなる基材層と、
84.9~50質量%のメタクリル系重合体(PM)と15~49.9質量%の多層構造ゴム粒子(RP)と0.1~3.0質量%の白色顔料とを含有するする第2のメタクリル系樹脂組成物(B)からなる表面層とを含む積層シートからなる。
【0016】
図面を参照して、本発明に係る第1、第2実施形態の弾球遊技用樹脂基盤の構成について、説明する。
図1A、
図1Bは要部模式断面図であり、同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は省略する。図中、符号11は基材層、符号12は表面層を示す。
図1Aに示す弾球遊技用樹脂基盤1Aは、基材層11の片面に表面層12が積層された2層構造の積層シートからなる。
図1Bに示す弾球遊技用樹脂基盤1Bは、基材層11の両面に表面層12が積層された3層構造の積層シートからなる。
弾球遊技用樹脂基盤1A、1Bは必要に応じて、1つ以上の他の樹脂層を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の弾球遊技用樹脂基盤において、表面層の全光線透過率は30%以下である。表面層の全光線透過率が30%以下であることで、本発明の弾球遊技用樹脂基盤は、少なくとも表面層部分が充分に不透明となる。
本発明の弾球遊技用樹脂基盤において、積層シートの総厚みは8~22mmであり、好ましくは8~19mm、より好ましくは8~16mmである。総厚みが8mm以上であれば、積層シートは釘を良好に保持することができ、総厚みが22mm以下であれば、積層シートの切削加工性が良好となる。
【0018】
(表面層)
<第2のメタクリル系樹脂組成物(B)>
表面層は、メタクリル系重合体(PM)と多層構造ゴム粒子(RP)と白色顔料とを含有する第2のメタクリル系樹脂組成物(B)からなる。
メタクリル系重合体(PM)は光沢、透明性、及び表面硬度等に優れる樹脂であるが、一般的にメタクリル系樹脂単独では耐衝撃性が不充分である。メタクリル系樹脂(PM)に多層構造ゴム粒子(RP)を添加することで、耐衝撃性が改善され、釘打ち時の樹脂割れが抑制される。釘打ち時の樹脂割れが抑制される結果、樹脂割れによる打ち釘の保持力の低下が抑制される。
第2のメタクリル系樹脂組成物(B)中の多層構造ゴム粒子(RP)の濃度が高くなる程、耐衝撃性が高くなるが、NC(numerical control machining)加工機(多軸孔開け機)等を用いた孔開け加工又はルータ(トリミング)等を用いた切削加工の際には、樹脂融着により適切な加工が困難となる恐れがある。
第2のメタクリル系樹脂組成物(B)中のメタクリル系重合体(PM)の含有量は84.9~50質量%であり、好ましくは80~55質量%、より好ましくは78~60質量%、特に好ましくは76~64質量%である。第2のメタクリル系樹脂組成物(B)中の多層構造ゴム粒子(RP)の含有量は15~49.9質量%であり、好ましくは20~45質量%、より好ましくは22~40質量%、特に好ましくは24~36質量%である。第2のメタクリル系樹脂組成物(B)の組成をこのように設計することで、釘打ち時の樹脂割れが抑制され、打ち釘の保持力が良好で、切削加工性が良好な弾球遊技用樹脂基盤が安定的に得られる。
【0019】
加熱溶融成形の安定性の観点から、第2のメタクリル系樹脂組成物(B)のメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは1~10g/10分、より好ましくは1.5~7g/10分、特に好ましくは2~4g/10分である。本明細書において、メタクリル系樹脂組成物のMFRは、特に明記しない限り、メルトインデクサーを用いて、温度230℃、3.8kg荷重下で測定される値である。
【0020】
<メタクリル系重合体(PM)>
メタクリル系重合体(PM)は、好ましくはメタクリル酸メチル(MMA)を含む1種以上のメタクリル酸炭化水素エステル(以下、単に「メタクリル酸エステル」とも言う。)に由来する構造単位を含む単独重合体又は共重合体である。メタクリル酸エステル中の炭化水素基は、メチル基、エチル基、及びプロピル基等の非環状脂肪族炭化水素基であっても、脂環式炭化水素基であっても、フェニル基等の芳香族炭化水素基であってもよい。メタクリル系重合体(PM)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0021】
メタクリル系重合体(PM)は、メタクリル酸エステル以外の1種以上の他の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸3-メトキシブチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ペンタフルオロエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、及びアクリル酸3-ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル等が挙げられる。中でも、入手性の観点から、MA、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、及びアクリル酸tert-ブチル等が好ましく、MA及びアクリル酸エチル等がより好ましく、MAが特に好ましい。メタクリル系重合体(PM)における他の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0022】
メタクリル系重合体(PM)は、好ましくはMMAを含む1種以上のメタクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。複数種の単量体を用いる場合は、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法としては特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等のラジカル重合法が好ましい。
【0023】
メタクリル系重合体(PM)の重量平均分子量(Mw)は特に制限されず、好ましくは40,000~500,000である。Mwが40,000以上であることでメタクリル系樹脂層は耐擦傷性及び耐熱性に優れるものとなり、Mwが500,000以下であることでメタクリル系樹脂層は成形性に優れるものとなる。本明細書において、特に明記しない限り、「Mw」はゲルパーエミーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される標準ポリスチレン換算値である。
【0024】
<多層構造ゴム粒子(RP)>
多層構造ゴム粒子(RP)は、好ましくはアクリル系多層構造ゴム粒子である。多層構造ゴム粒子(RP)としては、1種以上のアクリル酸アルキルエステル共重合体を含む1層以上のグラフト共重合体層を含むアクリル系多層構造ゴム粒子が挙げられる。かかるアクリル系多層構造ゴム粒子としては、特開2004-352837号公報等に開示のものを使用できる。アクリル系多層構造ゴム粒子は好ましくは、炭素数6~12のアクリル酸アルキルエステル単位を含む架橋重合体層を含むことができる。
多層構造ゴム粒子(RP)の層数は特に制限されず、2層でも3層以上でもよい。好ましくは、多層構造ゴム粒子(RP)は、最内層(RP-a)と1層以上の中間層(RP-b)と最外層(RP-c)とを含む3層以上のコアシェル多層構造粒子である。
【0025】
最内層(RP-a)の構成重合体は、MMA単位とグラフト性又は架橋性単量体単位とを含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。最内層(RP-a)の構成重合体中のMMA単位の含有量は、好ましくは80~99.99質量%、より好ましくは85~99質量%、特に好ましくは90~98質量%である。3層以上の多層構造粒子(RP)中の最内層(RP-a)の割合は、好ましくは0~15質量%、より好ましくは7~13質量%である。最内層(RP-a)の割合がかかる範囲内にあることで、メタクリル系樹脂層の耐熱性を高めることができる。
【0026】
中間層(RP-b)の構成重合体は、炭素数6~12のアクリル酸アルキルエステル単位とグラフト性又は架橋性単量体単位とを含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。中間層(RP-b)の構成重合体中のアクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、好ましくは70~99.8質量%、より好ましくは75~90質量%、特に好ましくは78~86質量%である。3層以上の多層構造ゴム粒子(RP)中の中間層(RP-b)の割合は、好ましくは40~60質量%、より好ましくは45~55質量%である。中間層(RP-b)の割合がかかる範囲内であることで、メタクリル系樹脂層の表面硬度を高め、メタクリル系樹脂層を割れ難くすることができる。
【0027】
最外層(RP-c)の構成重合体は、MMA単位を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。最外層(RP-c)の構成重合体中のMMA単位の含有量は、好ましくは80~100質量%、より好ましくは85~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。3層以上の多層構造粒子(RP)中の最外層(RP-c)の割合は、好ましくは35~50質量%、より好ましくは37~45質量%である。最外層(RP-c)の割合がかかる範囲内であることで、メタクリル系樹脂層の表面硬度を高め、メタクリル系樹脂層を割れ難くすることができる。
【0028】
多層構造ゴム粒子(RP)の粒子径は、好ましくは0.05~0.3μmである。粒子径は、電子顕微鏡観察及び動的光散乱測定等の公知方法により測定することができる。電子顕微鏡観察による測定は例えば、電子染色法により多層構造ゴム粒子(RP)の特定の層を選択的に染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて複数の粒子の粒子径を実測し、それらの平均値を求めることによって行うことができる。
【0029】
多層構造ゴム粒子(RP)は、多層構造ゴム粒子(RP)同士の膠着による取り扱い性の低下、及び、溶融混練時の分散不良による耐衝撃性の低下を抑制するため、多層構造ゴム粒子(RP)と分散用粒子(D)とを含むラテックス又は粉体の形態で用いることができる。分散用粒子(D)は例えば、MMAを主とする1種以上の単量体の(共)重合体からなり、多層構造ゴム粒子(RP)よりも相対的に粒子径の小さい粒子を用いることができる。
【0030】
分散用粒子(D)の粒子径は、分散性向上の観点から、できるだけ小さいことが好ましく、乳化重合法による製造再現性の観点から、好ましくは40~120nm、より好ましくは50~100nmである。分散用粒子(D)の添加量は、分散性向上効果の観点から、多層構造ゴム粒子(RP)と分散用粒子(D)との合計量に対して、好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%である。
【0031】
<白色顔料>
表面層(第2のメタクリル系樹脂組成物(B))は、1種又は2種以上の以上白色顔料を含む。白色顔料は着色剤の1種であり、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫化亜鉛、及び酸化亜鉛が挙げられる。中でも、弾球遊技用樹脂基盤の表面に印刷フィルムを直接貼り合わせた際の印刷フィルムの演色性の良さの観点から、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、及びこれらの組合せが特に好ましい。
【0032】
<表面層の全光線透過率>
本発明において、表面層の全光線透過率は30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下、最も好ましくは10%である。
本発明では、表面層が全光線透過率の充分に小さい不透明な白色層である。この場合、本発明の弾球遊技用樹脂基盤の表面に印刷フィルムを直接貼り合わせても、印刷フィルムの演色性が優れ、好ましい。なお、印刷フィルムは、本発明の弾球遊技用樹脂基盤の表面層上に貼り合わされる。
全光線透過率の充分に小さい不透明な表面層によって基材層の色が隠蔽されるため、基材層は白色以外の任意の色を有することができる。資源保護及びコスト削減等のために、基材層の原料の少なくとも一部にリワーク材を用いることができる。一般的に、着色リワーク材は色が邪魔になり、使用範囲が制限されるが、本発明では、基材層の色に制限がないため、基材層の原料として1種又は2種以上の任意の色のリワーク材を制限なく用いることができる。
表面層の全光線透過率が30%以下であれば、本発明の弾球遊技用樹脂基盤の表面に印刷フィルムを直接貼り合わせた場合の印刷フィルムの演色性が良好となり、かつ、基材層の色を効果的に隠蔽することができる。
「リワーク材」とは、過去に、シート、フィルム、又は他の任意の形状の成形品として1回以上成形加工されたことのある成形材料である。
【0033】
表面層の全光線透過率は、下記方法にて測定することができる。
積層シートから、スクレーパー、グラインダー、NCルータ、及びヤスリ等を用いて基材層を除去又は剥離し、表面を鏡面研磨し、得られた表面研磨表面層に対して、全光線透過率の測定を行うことができる。あるいは、積層シートから表面層のみを削り、削り屑を集めて所定の厚さのプレス成形板を作製し、全光線透過率の測定を行うことができる。
【0034】
表面層の上記全光線透過率は、白色顔料の添加量を調整することで、実現することができる。第2のメタクリル系樹脂組成物(B)中の白色顔料の添加濃度は、表面層の厚み及び所望の全光線透過率に応じて適宜設計される。添加量は、過少では全光線透過率が30%超となる恐れがあり、過多では、弾球遊技用樹脂基盤の靭性が低下して、釘打ち時又は切削加工時に樹脂割れが発生する恐れがある。添加濃度は0.1~3.0質量%であり、好ましくは0.1~2.0質量%、さらに好ましくは0.3~1.7質量%、特に好ましくは0.5~1.6質量%、最も好ましくは0.5~1.5質量%である。
【0035】
本発明の弾球遊技用樹脂基盤は、下記式(1)を充足することが好ましい。
20≦R/W≦40・・・(1)
上記式中、Wは第2のメタクリル系樹脂組成物(B)中の白色顔料の濃度(質量%)であり、Rは第2のメタクリル系樹脂組成物(B)中の多層構造ゴム粒子(RP)の濃度(質量%)である。R/Wは、多層構造ゴム粒子(RP)の濃度と白色顔料の濃度との比である。
R/Wが過小では、多層構造ゴム粒子(RP)の濃度が不足して、表面層が脆くなり、釘打ち時又は切削加工時に樹脂割れが発生する恐れがある。R/Wが過大では、白色顔料の添加量が不足して、表面層の全光線透過率が高くなり、弾球遊技用樹脂基盤の表面層側に印刷フィルムを貼り合わせた際の印刷フィルムの演色性が低下する恐れがある。
R/Wは、好ましくは20~40、より好ましくは22~35、特に好ましくは24~32、最も好ましくは26~30である。
【0036】
白色顔料の添加以外の手段を併用して、表面層の全光線透過率を調整してもよい。例えば、表面層にメタクリル系重合体(PM)と屈折率の異なる樹脂を添加する、あるいは、表面層の原料の少なくとも一部にリワーク材を用いる等の手段によっても、表面層の全光線透過率を低下させることができる。
【0037】
<メタクリル系重合体(PM)と屈折率の異なる樹脂>
メタクリル系重合体(PM)と屈折率の異なる樹脂としては、公知の樹脂を用いることができ、メタクリル系重合体(PM)との屈折率差が0.01以上である樹脂が好ましい。具体的には、変性メタクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスチレン、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、及びABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)等のスチレン系樹脂;ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系樹;ポリ塩化ビニル;ポリエステル;ポリアミド;ポリフェニレンサルファイド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリフェニレンオキサイド;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリアセタール等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。
【0038】
<その他の添加剤>
第2のメタクリル系樹脂組成物(B)は必要に応じて、上記以外の各種添加剤を含むことができる。他の添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、光拡散剤、艶消し剤、ブロック共重合体等の耐衝撃性改質剤、及び蛍光体等が挙げられる。第2のメタクリル系樹脂組成物(B)中のこれら添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。メタクリル系重合体(PM)と多層構造ゴム粒子(RP)との合計100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
第2のメタクリル系樹脂組成物(B)に対する白色顔料、必要に応じてメタクリル系重合体(PM)と屈折率の異なる樹脂、及び必要に応じて他の各種添加剤を添加させる場合、添加タイミングは特に制限されず、メタクリル系重合体(PM)の重合時、多層構造ゴム粒子(RP)の重合時、メタクリル系重合体(PM)と多層構造ゴム粒子(RP)の混合時のいずれのタイミングでもよい。
【0039】
(基材層)
<第1のメタクリル系樹脂組成物(A)>
基材層は、メタクリル系重合体(PM)と多層構造ゴム粒子(RP)とを含有し、透明な又は白色以外の色を有する第1のメタクリル系樹脂組成物(A)からなる。
表面層は白色顔料を含み、白色を呈するのに対し、基材層は透明である/又は白色以外の色を有することを除けば、基材層と表面層の主たる樹脂組成は同様である。
第1のメタクリル系樹脂組成物(A)に用いられるメタクリル系重合体(PM)及び多層構造ゴム粒子(RP)は、第2のメタクリル系樹脂組成物(B)に用いられるメタクリル系重合体(PM)及び多層構造ゴム粒子(RP)と同様であるので、これらの成分の詳細説明は省略する。
【0040】
第2のメタクリル系樹脂組成物(B)と同様、第1のメタクリル系樹脂組成物(A)中のメタクリル系重合体(PM)の含有量は85~50質量%であり、好ましくは80~55質量%、より好ましくは78~60質量%、特に好ましくは76~64質量%である。第2のメタクリル系樹脂組成物(B)と同様、第1のメタクリル系樹脂組成物(A)中の多層構造ゴム粒子(RP)の含有量は15~50質量%であり、好ましくは20~45質量%、より好ましくは22~40質量%、特に好ましくは24~36質量%である。第1のメタクリル系樹脂組成物(A)の組成をこのように設計することで、釘打ち時の樹脂割れが抑制され、打ち釘の保持力が良好で、切削加工性が良好な弾球遊技用樹脂基盤が安定的に得られる。
【0041】
第2のメタクリル系樹脂組成物(B)と同様、加熱溶融成形の安定性の観点から、第1のメタクリル系樹脂組成物(A)のメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは1~10g/10分、より好ましくは1.5~7g/10分、特に好ましくは2~4g/10分である。本明細書において、メタクリル系樹脂組成物のMFRは、特に明記しない限り、メルトインデクサーを用いて、温度230℃、3.8kg荷重下で測定される値である。
【0042】
<着色剤>
基材層は透明であってもよいし、白色以外の色を有していてもよい。
本発明では、不透明な表面層によって基材層の色が隠蔽されるため、基材層は白色以外の任意の色を有することができる。基材層(第1のメタクリル系樹脂組成物(A))は、1種又は2種以上の着色剤を含むことができる。着色剤としては、顔料及び有機染料が挙げられる。第1のメタクリル系樹脂組成物(A)は、白色の着色剤を含んでもよいが、この場合は他の色の着色剤と組み合わせて、基材層が白色以外の色を有するように調整することができる。
【0043】
顔料としては、カーボンブラック等の黒色顔料;酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫化亜鉛、及び酸化亜鉛等の白色顔料等が挙げられる。
有機染料としては、アンスラキノン類、アゾ類、アントラピリドン類、ペリレン類、アントラセン類、ペリノン類、インダンスロン類、キナクリドン類、キサンテン類、チオキサンテン類、オキサジン類、オキサゾリン類、インジゴイド類、チオインジゴイド類、キノフタロン類、ナフタルイミド類、シアニン類、メチン類、キノリン類、ピラゾロン類、ラクトン類、クマリン類、ビス-ベンズオキサゾリルチオフェン類、ナフタレンテトラカルボン酸類、フタロシアニン類、トリアリールメタン類、アミノケトン類、ビス(スチリル)ビフェニル類、アジン類、ローダミン類、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0044】
第1のメタクリル系樹脂組成物(A)中の着色剤の添加濃度は、特に制限されない。過多では、弾球遊技用樹脂基盤の靭性が低下して、釘打ち時又は切削加工時に樹脂割れが発生する恐れがある。添加濃度は、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下である。
【0045】
<その他の添加剤>
第2のメタクリル系樹脂組成物(B)と同様、第1のメタクリル系樹脂組成物(A)は必要に応じて、上記以外の各種添加剤を含むことができる。他の添加剤の例示及び好ましい添加量は、第2のメタクリル系樹脂組成物(B)と同様である。
第1のメタクリル系樹脂組成物(A)に対する着色剤及び必要に応じて他の各種添加剤を添加させる場合の添加タイミングについても、第2のメタクリル系樹脂組成物(B)と同様である。
【0046】
(他の樹脂層)
本発明の弾球遊技用樹脂基盤を構成する積層シートは必要に応じて、第1のメタクリル系樹脂組成物(A)からなる基材層、及び第2のメタクリル系樹脂組成物(B)からなる表面層の他に、1つ以上の他の樹脂層を含んでいてもよい。他の樹脂層の構成樹脂としては特に制限されず、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びこれらの樹脂の組成物等が挙げられる。
【0047】
(積層シートの成形方法)
第1のメタクリル系樹脂組成物(A)からなる基材層と、この基材層の少なくとも片面に積層された第2のメタクリル系樹脂組成物(B)からなる表面層とを含む積層シートは、押出成形法、キャスト成形法、及び射出成形法等の公知の成形方法を用いて成形することができる。各層中の多層構造ゴム粒子(RP)の均一分散性等の観点から、共押出成形法が好ましい。以下、共押出成形法による積層シートの製造方法について、説明する。
【0048】
メタクリル系重合体(PM)、多層構造ゴム粒子(RP)、白色顔料、及び必要に応じて他の添加剤を含む基材層用樹脂材料と、メタクリル系重合体(PM)、多層構造ゴム粒子(RP)、必要に応じて白色以外の着色剤、及び必要に応じて他の添加剤を含む表面層用樹脂材料とを用意する。
第1の押出機に投入された基材層用樹脂材料及び第2の押出機に投入された表面層用樹脂材料はそれぞれ加熱溶融され、基材層の少なくとも片面に表面層が積層された熱可塑性樹脂積層体の状態で、幅広の吐出口を有するTダイから溶融状態で共押出される。
溶融状態の基材層用樹脂材料及び表面層用樹脂材料はそれぞれ、積層前にフィルタにより溶融濾過することが好ましい。溶融濾過した各材料を用いて多層成形することにより、異物及びゲルに起因する欠点の少ない積層シートが得られる。
積層方式としては、Tダイ流入前に積層するフィードブロック方式、及びTダイ内部で積層するマルチマニホールド方式等が挙げられる。積層シートの層間の界面平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
Tダイから共押出された溶融状態の熱可塑性樹脂積層体は複数の冷却ロールを用いて加圧及び冷却され、冷却後に得られた積層シートは引取りロールによって引き取られる。
以上の共押出、冷却、及び引取りの工程は、連続的に実施される。
なお、本明細書では、主に加熱溶融状態のものを「熱可塑性樹脂積層体」と表現し、固化したものを「積層シート」と表現しているが、両者の間に明確な境界はない。
【0049】
積層シートのすべての原料についてバージン材を用いてもよいが、資源保護及びコスト削減等のために、少なくとも一部の原料にリワーク材を用いることができる。すべての原料について、リワーク材を用いてもよい。
「バージン材」とは、過去に成形加工に供されたことが一度もない成形材料である。
「リワーク材」とは、過去に、シート、フィルム、又は他の任意の形状の成形品として1回以上成形加工されたことのある成形材料である。リワーク材として利用される成形品としては、押出成形においてシート幅方向の両端部のトリミング処理によって生成された端材、押出成形において生産条件の調整時等に発生する板厚等の物性が規格外である規格外品、弾球遊技用樹脂基盤の切削加工によって生じる端材、押出成形以外の方法で成形された規格外成形品(射出成形品等)等が挙げられる。製品として出荷されない端材及び規格外品等を用いて得られたリワーク材を用いることで、資源を有効利用でき、好ましい。
リワーク材の形態としては、端材及び規格外品等のリワーク材用成形品を公知方法にて粉砕して得られた粉砕物、又は、この粉砕物を押出機等を用いて溶融混練し、ペレット等の形態に加工した加工物等が挙げられる。粉砕物を用いる場合、粉砕の程度は、押出機による溶融混練が安定して行える範囲であれば特に限定されない。粉砕物は例えば、最長長さが1~15mm程度のフレーク状不定形物であることが好ましい。
【0050】
資源保護及びコスト削減等のために、基材層の原料の少なくとも一部にリワーク材を用いることができる。一般的に、着色リワーク材は色が邪魔になり、使用範囲が制限されるが、本発明では、基材層の色に制限がないため、基材層の原料として1種又は2種以上の任意の色のリワーク材を制限なく用いることができる。
リワーク材の使用量は、基材層として必要な光学特性、表面硬度、外観、及び耐熱性等の物性を損なわない範囲内で、調整することができる。基材層の全原料のうち100~5質量%、好ましくは95~20質量%、特に好ましくは90~40質量%、最も好ましくは85~61質量%が、弾球遊技用樹脂基盤に使用される前に1回以上成形加工に使用されたことのあるリワーク材であることが好ましい。
基材層の原料の少なくとも一部に任意の色のリワーク材を用いる場合、ロットによって基材層の色が変わり、製品品質上、好ましくない場合がある。この場合、ロット間の基材層の色のばらつきをなくすために、リワーク材の色に関係なく、カーボンブラック等の黒色着色剤を添加して、基材層を黒色に調整してもよい。
【0051】
資源保護及びコスト削減等のために、表面層の原料の少なくとも一部にリワーク材を用いることができる。一般的に、リワーク材の使用量が増加するにつれて、リワーク材を用いた層の全光線透過率が低下する傾向がある。表面層の原料の少なくとも一部にリワーク材を使用することで、白色顔料及び/又は必要に応じて添加されるメタクリル系重合体(PM)と屈折率の異なる樹脂の使用量を低減しても、表面層の全光線透過率を低下させることができる。例えば、白色顔料及び/又はメタクリル系重合体(PM)と屈折率の異なる樹脂の種類によっては、その添加により表面層の靭性が低下する場合があるが、その使用量を低減できることで、表面層の靭性低下を抑制することができる。
リワーク材の使用量は、表面層の全光線透過率を低減でき、かつ、表面層として必要な光学特性、表面硬度、外観、及び耐熱性等の物性を損なわない範囲内で、調整することができる。表面層の全原料のうち100~5質量%、好ましくは95~20質量%、特に好ましくは90~40質量%、最も好ましくは85~61質量%が、弾球遊技用樹脂基盤に使用される前に1回以上成形加工に使用されたことのあるリワーク材であることが好ましい。
【0052】
基材層及び/又は表面層の原料の少なくとも一部にバージン材とリワーク材とを併用する場合、リワーク材は、メタクリル系重合体(PM)単独材料でもよいし、メタクリル系重合体(PM)と多層構造ゴム粒子(RP)とを含む樹脂組成物でもよいし、メタクリル系重合体(PM)及び多層構造ゴム粒子(RP)以外の1種以上の任意の樹脂(混合物)(例えば、AS樹脂等)でもよい。
【0053】
[印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤]
本発明の印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤は、上記の本発明の弾球遊技用樹脂基盤の一方の面に、接着剤層を介して、印刷加工を施された透明フィルムが積層されたものである。
【0054】
図面を参照して、本発明に係る第1、第2の実施形態の印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤の構成について、説明する。
図2A、
図2Bは要部模式断面図であり、同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は省略する。
図2Aに示す第1実施形態の印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤2Aは、
図1Aに示した第1実施形態の弾球遊技用樹脂基盤1Aと、その表面層12上に積層された印刷フィルム20とを含む。印刷フィルム20は、弾球遊技用樹脂基盤1Aの表面層12上に接着剤層30を介して積層されている。
図2Bに示す第2実施形態の印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤2Bは、
図1Bに示した第2実施形態の弾球遊技用樹脂基盤1Bと、その一方の表面層12上に積層された印刷フィルム20とを含む。印刷フィルム20は、弾球遊技用樹脂基盤1Bの一方の表面層12上に接着剤層30を介して積層されている。
【0055】
印刷フィルム20は、基材フィルムである透明フィルム21の一方の面に、文字、数字、記号、模様、パターン、図形、及び写真等の印刷加工が施されて、印刷層22が形成されたものである。印刷フィルム20の弾球遊技用樹脂基盤1A、1Bとの貼合せ面には、弾球遊技用樹脂基盤1A、1Bの表面に貼り合わされる前にあらかじめ接着剤層30が形成されていてもよい。接着剤層30は、弾球遊技用樹脂基盤1A、1Bの印刷フィルム20との貼合せ面にあらかじめ形成されていてもよい。弾球遊技用樹脂基盤1A、1Bの表面に印刷フィルム20を貼り合わせることで、意匠性が向上し、娯楽性が向上する。
【0056】
印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤2A、2Bには、印刷フィルム20側から印刷フィルム20を貫通して弾球遊技用樹脂基盤1A、1Bの内部又は裏面に到達する1つ以上の釘打ち用の孔(図示略)が形成され、各釘打ち用の孔の内部に釘(図示略)が打ち込まれる。
遊技者は、図示上方から矢印Aの方向に印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤2A、2Bを視認する。本実施形態では、弾球遊技用樹脂基盤1A、1Bに含まれる表面層12が全光線透過率が30%以下の不透明な層であるので、弾球遊技用樹脂基盤1A、1Bの表面に印刷フィルム20を直接貼り合わせても、印刷フィルム20の演色性が優れ、好ましい。
印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤2A、2Bは、上記以外の構成要素を有していてもよい。例えば、演出効果向上のために、印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤2A、2Bの裏面側(図示下側)に、液晶表示パネル等の表示パネル及びLED(発光ダイオード)等の照明装置等を取り付けてもよい。
【0057】
(印刷フィルム)
印刷フィルムの基材フィルムである透明フィルムとしては特に制限されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のポリエステル系樹脂フィルム;メタクリル系樹脂フィルム;メタクリル系樹脂とアクリル系ゴム粒子とを含む耐衝撃メタクリル系樹脂フィルム;ポリ塩化ビニル樹脂フィルム;ポリカーボネート系樹脂フィルム;セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP)フィルム;セルロース・アセテート・ブチレート(CAB)フィルム等が挙げられる。中でも、印刷性、メタクリル系樹脂層を含む弾球遊技用樹脂基盤との貼り合わせやすさ、孔開け加工性、切削加工性、環境試験における弾球遊技用樹脂基盤の反り抑制、及び環境試験における印刷フィルムの剥離の抑制等の観点から、PETフィルム等のポリエステル系樹脂フィルム、アクリル系ゴム粒子を含む耐衝撃メタクリル系樹脂フィルム、及びポリ塩化ビニル系樹脂フィルム等が好ましい。
印刷加工は、公知方法にて行うことができる。
【0058】
印刷フィルムの厚みを厚くすると、印刷性及び取り扱い性を向上でき、また、接着剤層の厚みを厚くできるため、環境試験において印刷フィルムの弾球遊技用樹脂基盤からの浮き又は剥離を効果的に抑制できる傾向がある。透明フィルムの厚みを薄くすると、印刷加工時の作業性を向上でき、また、切削加工時のバリ(切削屑)及び剥離を効果的に抑制できる傾向がある。かかる観点から、印刷フィルムの厚みは、好ましくは30~100μm、より好ましくは50~80μmである。
【0059】
接着剤層に用いて好適な接着剤は、弾球遊技用樹脂基盤と印刷フィルムとを良好に貼り付けることができればよく、特に制限されないが、アクリル酸エステル共重合体を含む公知のアクリル系接着剤が好ましい。アクリル酸エステル共重合体を含む接着剤は、常温(20~25℃)でも接着剤としての機能を良好に発現することができ、接着時に熱をかけても、印刷フィルムの剥がれが起こらないため好ましい。アクリル酸エステル共重合体中のアルキル基としては特に制限されず、メチル基、エチル基、ブチル基、及び2-エチルヘキシル基等が挙げられる。中でも、エチル基が好ましい。すなわち、アクリル酸エステル共重合体としては、アクリル酸エチル共重合体が好ましい。
【0060】
以上説明したように、本発明によれば、釘打ち時の樹脂割れが抑制され、打ち釘の保持力が良好で、切削加工性が良好で、印刷フィルムを直接積層した場合にも印刷フィルムの演色性が良好な弾球遊技用樹脂基盤を提供することができる。
【実施例】
【0061】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
[評価項目及び評価方法]
評価項目及び評価方法は、以下の通りである。
(重量平均分子量(Mw))
樹脂のMwは、下記の手順でGPC法により求めた。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC-8320(品番)を使用した。溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた。カラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel SuperMultipore HZM-M」の2本と「SuperHZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。樹脂4mgをテトラヒドロフラン(THF)5mlに溶解させて試料溶液を調製した。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分の条件で、試料溶液20μlを注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリスチレン10点についてGPC測定を行い、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいてMwを決定した。
【0062】
(多層構造ゴム粒子(RP)の体積基準平均粒径)
ダイヤモンドナイフを用いて弾球遊技用樹脂基盤から超薄切片を切り出し、リンタングステン酸を用いてアクリル酸ブチル部分を選択的に染色した後、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製「JSM-7600」)を用いて撮像した。粒子全体が写っている30個の多層構造ゴム粒子(RP)を無作為に選択し、各粒子について染色部分の直径を測定し、平均値を体積基準平均粒径とした。
【0063】
(各層中の多層構造ゴム粒子(RP)の含有量)
スクレーパー、グラインダー、NCルータ、及びヤスリ等を用いて、弾球遊技用樹脂基盤から表面層を除去し、基材層のみを残した。同様の方法にて、別の弾球遊技用樹脂基盤から基材層を除去し、表面層のみを残した。得られた各層について、以下の方法にて、多層構造ゴム粒子(RP)の含有量を求めた。
多層構造ゴム粒子と顔料とを含む基材層サンプル又は表面層サンプルを約80℃で一昼夜(12時間以上)乾燥した後、約0.7gの小片を切り出し、精秤した(W1)。その後、80mLのアセトンで小片を溶解させ、室温で約1日間静置した。得られた懸濁液を遠沈管内に入れ、久保田製作所製の遠心分離機(テーブルトップ、多本架遠心機、7780II)を用い、15000rpmで5分間の遠心分離を行った。上澄み液をデカンテーションにより除いた後、新たにアセトン80mLを加え、室温で1時間静置した。さらに、上記と同一方法と条件で遠心分離とデカンテーションを3回繰り返した。以上の操作後に得られた沈殿物をビーカーに移し、80℃のホットプレートを用いて加熱することで、アセトンを除去した。得られた樹脂(この樹脂は多層構造ゴム粒子と顔料からなる)の質量を精秤した(W2)。この樹脂を白金皿上に移し、バーナーで加熱することで多層構造ゴム粒子を分解除去した。最後に残った顔料の質量を精秤した(W3)。次式により、多層構造ゴム粒子の含有量(質量%)を算出した。
多層構造ゴム粒子の含有量(質量%)={(W2-W3)/W1}×100
【0064】
(表面層の全光線透過率)
弾球遊技用樹脂基盤から50mm×50mmの試験片を切り出し、スクレーパー、グラインダー、NCルータ、及びヤスリ等を用いて、基材層を除去した。残った表面層について、基材層を除去した側の表面を鏡面研磨した後、村上色彩技術研究所製「HM-150」を用いて全光線透過率を測定した。
【0065】
(釘打ち時の樹脂割れの有無)
弾球遊技用樹脂基盤に対して、ボール盤を用い、1.73mmφ径のドリルで、1個の貫通孔を形成した。次に、(株)島津製作所社製「オートグラフAG-2000B」を用い、上記貫通孔の内部に、500mm/minのスピードで、真鍮製ネジリ釘丸先(1.85mmφ径、釘頭を除いた部分の長さ26.5mm、ネジ部の長さ5.5mm)を表面層側から基盤厚の深さ分だけ打ち込んだ。同操作を10回繰り返し、目視にて、打ち釘の周辺の樹脂割れの有無を下記基準にて評価した。
<判定基準>
A(良):すべての釘打ち部の周辺に、樹脂割れが発生しなかった。
B(可):1~2箇所の釘打ち部の周辺に、樹脂割れが発生した。
C(不可):3箇所以上の釘打ち部の周辺に、樹脂割れが発生した。
【0066】
(釘の保持力)
弾球遊技用樹脂基盤に対して、ボール盤を用い、1.73mmφ径のドリルで、間隔を空けて10個の貫通孔を形成した。次に、(株)島津製作所社製「オートグラフAG-2000B」を用い、各貫通孔の内部に、500mm/minのスピードで、真鍮製ネジリ釘丸先(1.85mmφ径、釘頭を除いた部分の長さ26.5mm、ネジ部の長さ5.5mm)を表面層側から基盤厚の深さ分だけ打ち込んだ。次に、熱風オーブンを用い、上記基盤を吊り下げ状態で1時間45℃で加熱した後、熱風オーブンから基盤を取り出し、室温下で充分に自然冷却した。
次に、(株)島津製作所社製オートグラフ「AG-2000B」を用い、基盤に打ち込まれた10本の釘についてそれぞれ、釘頭をチャックで把持し、毎分25mmの速度で引き抜いた時の最大荷重(kg)を測定した。最大荷重の平均値を釘抜き強度として求めた。なお、釘打ち部の周辺に樹脂割れの生じているものは測定対象外とした。下記基準にて評価した。
<判定基準>
A(良):釘抜き強度が50kgf以上。
B(可):釘抜き強度が20kgf以上50kgf未満。
C(不可):釘抜き強度が20kgf未満。
【0067】
(切削加工性)
NCルータ(庄田鉄工株式会社製、ベーシックNCルータマシン「NC5001」)に超硬ルータビット(庄田鉄工株式会社製、直径:3mm、刃の角度:逃げ角17度、すくい角:25度、歯数:1、材質:超硬鋼材)を使用し、回転速度17000rpm、切削速度1.5m/分、切削長さ28mmの切削加工条件で、切削粉片吸引方式にて冷却しながら樹脂シートの穴開け切削加工を行い、加工面の表面粗さ(算術平均粗さRa(μm))を評価した。
算術平均粗さRa(μm)は、JIS B 0601(2001)に準拠して測定した。算術平均粗さRaは、株式会社小坂研究所製サーフコーダ「SE700」を使用し、測定倍率2000、測定速度0.5mm/秒、評価長さ4mm、カットオフ値0.8mmの条件にて測定した。下記基準にて評価した。
<光沢の判定基準>
A(良):切削加工面の全面が光沢を有する。
B(可):切削加工面の一部に光沢を有さない箇所がある。
C(不可):切削加工面の全面が光沢を有さない。
<欠けの判定基準>
A(良):切削加工面の全面に欠けがない。
B(可):切削加工面の一部に欠けが存在する。
C(不可):切削加工面の全面に欠けが存在する。
<融着の判定基準>
A(良):切削加工面の全面に融着がない。
B(可):切削加工面の一部に融着が存在する。
C(不可):切削加工面の全面に融着が存在する。
【0068】
(印刷フィルムの演色性)
透明フィルムとして75μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レフィルム加工(株)製、「ルミラー タイプT-60」)を用意した。このPETフィルムの一方の面に、オフセット印刷にて、赤色、黄色、橙色、緑色、水色、青色、紫色、白色、及び黒色をそれぞれ任意の形状で印刷し、印刷層を形成した。この印刷層上にアクリル酸エステル共重合体を含む市販のアクリル系接着剤を35μm厚で塗布して、接着剤層を形成した。このようにして得られた接着剤層付き印刷フィルムを弾球遊技用樹脂基盤の表面層上に貼り付けて印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤を得た。得られた印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂基盤を、三波長型蛍光灯を用いて照度2300~2600ルックスとなっている室内で、印刷フィルム側から目視確認し、下記基準にて評価した。
<判定基準>
A(良):印刷フィルムの演色性が良い。
B(可):印刷フィルムの演色性がやや劣る。
C(不可):印刷フィルムの演色性が悪い。
【0069】
[材料]
用いた材料は、以下の通りである。
<メタクリル系重合体(PM)>
(PM1)メタクリル酸メチル(MMA)単位とアクリル酸メチル(MA)単位とからなるメタクリル系共重合体(MMA:MA(質量比)=94:6、Mw=120,000)。
【0070】
<多層構造ゴム粒子(RP)>
(RP1)
以下の組成の共重合体からなる最内層(RP-a1)、中間層(RP-b1)、及び最外層(RP-c1)を順次形成して、3層構造のアクリル系多層構造ゴム粒子(RP1)を製造した。粒子径は0.23μmであった。
最内層(RP-a1):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=32.91/2.09/0.07、
中間層(RP-b1):アクリル酸ブチル単位/スチレン単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=37.00/8.00/0.90、
最外層(RP-c1):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位(質量比)=18.80/1.20。
【0071】
<分散用粒子(D)>
(D1)メタクリル系共重合体粒子、メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル単位(質量比)=90/10、粒子径:0.11μm。
【0072】
<多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)>
多層構造ゴム粒子(RP1)を含むラテックスと分散用粒子(D1)を含むラテックスとを固形分質量比67対33の割合で混合した。得られた混合ラテックスを-30℃で4時間かけて凍結させた。凍結したラテックスの2倍量の90℃温水に凍結ラテックスを投入し、溶解してスラリーとした後、20分間90℃に保持して脱水し、80℃で乾燥して多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)を得た。
【0073】
<着色剤>
(酸化チタン)大日精化工業株式会社製の酸化チタン(TiO2)。
(カーボンブラック)三菱ケミカル社製のカーボンブラック「#1000」。
【0074】
[実施例1]
基材層用樹脂材料として、多層構造ゴム粒子(RP1)濃度が28.1質量%、カーボンブラック濃度が0.01質量%となるように、メタクリル系樹脂(PM1)、多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)、及びカーボンブラック(黒色顔料)をドライブレンドした。
表面層用樹脂材料として、多層構造ゴム粒子(RP1)濃度が28.1質量%、酸化チタン濃度が1.0質量%となるように、メタクリル系樹脂(PM1)、多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)、及び酸化チタン(白色顔料)をドライブレンドした。
なお、すべての材料についてバージン材を用いた。
【0075】
150mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて溶融混練した基材層用樹脂材料と、65mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて溶融混練した表面層用樹脂材料とを、マルチマニホールド型ダイスを介して積層し、Tダイから溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を共押出した。次いで、複数の金属冷却ロールを用いて、溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を加圧及び冷却し、冷却後に得られた積層シートを一対の引取りロールによって引き取った。
以上のようにして、黒色の基材層(9.0mm厚)の片面に白色の表面層(1.0mm厚)が積層された2層構造の積層シートからなる弾球遊技用樹脂基盤(総厚み10.0mm)を得た。主な製造条件と評価結果をそれぞれ、表1、表2に示す。なお、以降の実施例及び比較例において、表に記載のない製造条件は共通条件とした。
【0076】
[実施例2~5、比較例1~4]
各層の組成と厚みを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、黒色の基材層の片面に白色の表面層が積層された2層構造の積層シートからなる弾球遊技用樹脂基盤を得、評価した。評価結果を表2に示す。
【0077】
[実施例6]
実施例6では、実施例1と同じ組成/厚みの条件で、実施例1と同様にして、黒色の基材層の片面に白色の表面層が積層された2層構造の積層シートからなる弾球遊技用樹脂基盤を得、評価した。
ただし、実施例6では、基材層用樹脂材料のうち80%については、実施例1で得られた積層シートを粉砕して得られたフレーク状不定形物(リワーク材)を用い、残りの20%について、多層構造ゴム粒子(RP1)濃度が28.1質量%、カーボンブラック濃度が0.01質量%となるように、メタクリル系樹脂(PM1)、多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)、及びカーボンブラック(黒色顔料)をドライブレンドしたバージン材を用いた。
表面層については、実施例1と同様、すべての材料についてバージン材を用いた。
主な製造条件と評価結果をそれぞれ、表1、表2に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
[結果のまとめ]
実施例1~5では、85~50質量%のメタクリル系重合体(PM)と15~50質量%の多層構造ゴム粒子(RP)と黒色顔料とを含有する第1のメタクリル系樹脂組成物(A)からなる基材層と、84.9~50質量%のメタクリル系重合体(PM)と15~49.9質量%の多層構造ゴム粒子(RP)と白色顔料とを含有する第2のメタクリル系樹脂組成物(B)からなる表面層とを含む積層シートからなり、表面層の全光線透過率が30%以下であり、積層シートの総厚みが8~22mmである弾球遊技用樹脂基盤を製造した。
これら実施例ではいずれも、釘打ち時の樹脂割れが抑制され、打ち釘の保持力が良好で、切削加工性が良好で、印刷フィルムを直接積層した場合にも印刷フィルムの演色性が良好な弾球遊技用樹脂基盤が得られた。
【0081】
実施例6では、基材層用樹脂材料の80%にリワーク材を用いた以外は実施例1と同様にして、弾球遊技用樹脂基盤を製造したところ、実施例1と同じ結果が得られた。基材層用樹脂材料の少なくとも一部にリワーク材を用いても、釘打ち時の樹脂割れが抑制され、打ち釘の保持力が良好で、切削加工性が良好で、印刷フィルムを直接積層した場合にも印刷フィルムの演色性が良好な弾球遊技用樹脂基盤が得られることが確認された。
【0082】
比較例1では、表面層に対する白色顔料の添加量が過多であったため、得られた弾球遊技用樹脂基盤は耐衝撃性が低く、釘打ち時に樹脂割れが発生し、切削加工時に欠けが発生した。
【0083】
比較例2では、表面層に対する白色顔料の添加量が不充分であったため、表面層の全光線透過率が30%を超え、得られた弾球遊技用樹脂基盤は、印刷フィルムを直接積層した場合にも印刷フィルムの演色性が不良であった。
なお、比較例2で得られた弾球遊技用樹脂基盤の一方の面に、白原着樹脂フィルム(染料を用いて全体が均一に白色に着色されたPETフィルム、75μm厚)を接着剤層(アクリル酸エステル共重合体を含む市販のアクリル系接着剤、35μm厚)を介して貼り合わせて、表面を不透明化した。表面を不透明化した基盤に対して、実施例1~6、比較例1~4と同様の方法で印刷フィルムを積層し、印刷フィルムの演色性の評価を行ったところ、A評価となった。このように、弾球遊技用樹脂基盤上に白色フィルムを貼り合わせてから印刷フィルムを積層することで、印刷フィルムの演色性を良くすることができるが、本来不要な白色フィルムの材料費及び白色フィルムを貼り合わせる工程が増えるため、コスト増となり、好ましくない。
【0084】
比較例3では、表面層に対する多層構造ゴム粒子(RP)の含有量を15質量%未満としたため、得られた弾球遊技用樹脂基盤は耐衝撃性が低く、釘打ち時に樹脂割れが発生し、切削加工時に欠けが発生した。
比較例4では、表面層に対する多層構造ゴム粒子(RP)の含有量を50質量%超としたため、得られた弾球遊技用樹脂基盤は切削加工性が不良であった。
【0085】
[従来例1]
弾球遊技用樹脂基盤用として広く使用されている板厚19mmのベニヤ合板(ラワン材)を用意し、釘の保持力を測定した。孔開け加工をせずに、ベニヤ合板に直接釘を打ち付けた以外は実施例1~6、比較例1~4と同様の方法で評価を実施した。結果はC評価(18kgf)であり、いずれの実施例及び比較例よりも劣る結果であった。
【0086】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0087】
1A、1B 弾球遊技用樹脂基盤
11 基材層
12 表面層
2A、2B 印刷フィルム付き弾球遊技用樹脂盤
20 印刷フィルム
21 透明フィルム
22 印刷層
30 接着剤層