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特許7281131治療計画装置、治療計画方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】治療計画装置、治療計画方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230518BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61N5/10 H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019064207
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020162701
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業 術中の迅速な判断・決定を支援するための診断支援機器・システムの開発 量子線手術(クオンタム・ビーム・サージェリー)と放射線照射後手術における治療術中の迅速な判断・決定を支援するための診断支援機器・システム開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杜 航
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】平山 嵩祐
(72)【発明者】
【氏名】小橋 啓司
(72)【発明者】
【氏名】松浦 妙子
(72)【発明者】
【氏名】清水 伸一
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184929(JP,A)
【文献】特開2002-336365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部を含む断層画像情報を表示する表示装置と、
前記患部に設定された少なくとも1つの関心領域について照射された粒子線の線量分布の算出の要否を指定する算出指定情報の入力を受け入れる入力装置と、
前記算出指定情報に基づいて、前記線量分布の算出が指定された前記関心領域の前記線量分布を算出する演算装置と
を有する治療計画装置。
【請求項2】
前記演算装置は、前記断層画像情報に前記関心領域を重畳して表示させる表示制御信号を前記表示装置に送出する表示制御部を有する請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項3】
前記演算装置は、前記算出指定情報に基づいて、前記線量分布の算出が指定された前記関心領域の前記線量分布を算出する線量分布算出部を有する請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項4】
前記入力装置は、前記線量分布の算出が指定された前記関心領域について、前記線量分布または前記線量分布に基づいて算出可能な指標の基準値の設定の要否を指定する基準値指定情報の入力を受け入れる請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項5】
前記入力装置は、前記基準値指定情報として、前記基準値の設定が指定された前記関心領域についての前記基準値の入力を受け入れる請求項4に記載の治療計画装置。
【請求項6】
前記演算装置は、
前記基準値の設定が指定された前記関心領域について、算出した前記線量分布と前記基準値とを比較する比較部と、
前記比較部による比較結果を表示させる表示制御信号を前記表示装置に送出する表示制御部と
を有する請求項5に記載の治療計画装置。
【請求項7】
前記治療計画装置は、前記関心領域に照射される粒子線の照射計画を作成する照射計画作成装置を有し、
前記演算装置は、前記比較部による比較結果を前記照射計画作成装置に送出する比較結果送出部を有する
請求項6に記載の治療計画装置。
【請求項8】
前記演算装置は、前記比較部による比較結果に基づいて、前記関心領域に照射される粒子線の照射範囲を制御する制御信号を送出する制御信号送出部を有する請求項6に記載の治療計画装置。
【請求項9】
前記制御信号送出部は、前記制御信号として前記照射範囲を設定するゲート信号の幅を制御する信号を送出する請求項8に記載の治療計画装置。
【請求項10】
前記演算装置は、前記断層画像情報が更新されたら設定された前記関心領域及び前記算出指定情報を更新する請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項11】
患部を含む断層画像情報を表示し、
前記患部に設定された少なくとも1つの関心領域について照射された粒子線の線量分布の算出の要否を指定する算出指定情報の入力を受け入れ、
前記算出指定情報に基づいて、前記線量分布の算出が指定された前記関心領域の前記線量分布を算出する
治療計画装置により実施される治療計画方法。
【請求項12】
コンピュータにより実行されるコンピュータプログラムであって、
患部を含む断層画像情報を表示する表示機能と、
前記患部に設定された少なくとも1つの関心領域について照射された粒子線の線量分布の算出の要否を指定する算出指定情報の入力を受け入れる入力機能と、
前記算出指定情報に基づいて、前記線量分布の算出が指定された前記関心領域の前記線量分布を算出する演算機能と
を実現させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療計画装置、治療計画方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療は、粒子線加速器により加速された荷電粒子をがん患部に照射することにより、がん細胞を破壊するがん治療法である。粒子線は、飛程の終端付近で最も線量集中性が高い。このため、がん患部で多くのエネルギーを放出させて、健康組織へのダメージを低減する特徴がある。一方、限定された小さい領域で大きなエネルギーを放出するため、高精度な計算と照射が求められる。
【0003】
近年、細い粒子線ビームを用いて標的を塗りつぶすように照射する、スポットスキャニング法が主流な照射法になりつつある。どの角度からどのスポットへどのような照射量を照射すれば所望の線量分布を形成できるかは、最適化計算によって決定される。この過程を治療計画という。
【0004】
治療計画には、臓器の輪郭をROI(Region of Interest:関心領域)として入力する過程を含む。一般的に、異なる臓器は放射線に対する感度も違い、例えば同じ量の放射線を照射される場合は、骨に比べて粘膜がある臓器(腸など)はより大きなダメージを受ける。放射線にダメージされやすい臓器を危険臓器(OAR:Organ at Risk)という。多くの場合は医師がROI入力作業を行うが、近年はソフトウェアによる自動入力もある。
【0005】
治療計画によって作成された線量分布を評価する指標は臓器毎に異なり、医師によって指定される。例えば、「臓器Aが処方線量のX%以上を照射される体積は、Y%を超えてはならない」のような条件が最適化計算で用いられる。
【0006】
治療に必要な線量を、一定の回数に分ける事を分割(fractionation)という。患者の身体、精神的な負担を考慮すると治療の短期間化が望ましいため、治療期間を短縮する目的で寡分割治療(hypofractionated treatment)が提案された。これは、一回の照射する放射線の量を増やし、治療に必要な日数を減らす治療法である。
【0007】
一回に照射する放射線を多くするには、治療の安全性を保障しなければならない。そこで、一日の照射をさらに複数回に分け、実際に照射された粒子線が形成する線量分布を確認しながら治療する方法が提案された。このように、計画していた線量分布と実際に照射されたビームが形成する線量分布(以下、実効線量と呼ぶこともある)の差を最小限に留め、安全な寡分割照射を行う。
【0008】
また、分割回数によらず、治療中に実効線量を計算し、その結果に基づいて治療の続行、または中止、治療計画再作成の判断を行うことをオンラインアダプティブ治療(Online adaptive)という。
【0009】
特許文献1には、マーカー位置データと陽子線照射データを記録する機能を備え、時刻情報を基にしてこれらマーカー位置データと陽子線照射データとを同期して、スポット照射時のマーカー位置データと陽子線照射データを用いて陽子線照射の実績線量分布を計算する粒子線線量評価システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-176533
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
オンラインアダプティブ治療を実現するためには、治療中に粒子線治療装置から照射されたビームの位置、照射量、エネルギー、照射が行われた時刻のデータまたはログファイルを取得し、それに基づいて実効線量の計算を行う必要がある。しかも、一日の照射をさらに複数回に分け、実際に照射された粒子線が形成する線量分布を確認しながら治療する場合、照射毎に実効線量を計算する必要がある。
【0012】
しかし、粒子線の線量計算は、2つまたは3つのガウス分布を3次元CT上で畳み込み積分をする処理があり、計算時間に長時間を要する。従って、治療時間内に何回も実効線量を計算する場合は治療時間が延びてしまう。
【0013】
また、オンラインアダプティブ治療に限らず、治療時間内に実効線量を計算するニーズは存在する。
【0014】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、実効線量の計算を高速に行うことが可能な治療計画装置、治療計画方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決すべく、本発明の一つの観点に従う治療計画装置は、患部を含む断層画像情報を表示する表示装置と、患部に設定された少なくとも1つの関心領域について照射された粒子線の線量分布の算出の要否を指定する算出指定情報の入力を受け入れる入力装置と、算出指定情報に基づいて、線量分布の算出が指定された前記関心領域の線量分布を算出する演算装置とを有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、実効線量の計算を高速に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1に係る粒子線治療システムを示す概略構成図である。
図2】実施例1に係る粒子線治療装置を示す概略構成図である。
図3】実施例1の治療計画装置を示す構成図である。
図4】実施例1の線量計算装置の機能を示す構成図である。
図5】実施例1に係る粒子線治療システムの照射前の動作を示すフローチャートである。
図6】実施例1の照射計画作成装置による治療計画作成処理を示すフローチャートである。
図7】実施例1の線量計算装置による関心領域分類指定処理を示すフローチャートである。
図8】実施例1の線量計算装置による関心領域分類指定処理において表示される画面の一例を示す図である。
図9】実施例1に係る粒子線治療システムの線量分布算出動作を示すフローチャートである。
図10】実施例1の線量計算装置による線量分布算出の原理を説明する図である。
図11】実施例1の線量計算装置による線量分布算出の原理を説明する図である。
図12】実施例1の線量計算装置による線量分布算出の原理を説明する図である。
図13】実施例3の線量計算装置の機能を示す構成図である。
図14】実施例3に係る粒子線治療システムの線量分布算出動作を示すフローチャートである。
図15】実施例3の線量計算装置によるゲート幅制御の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
本発明の実施形態である治療計画装置は、陽子線や炭素線などの粒子線を用いた粒子線治療システムに適用される。粒子線治療システムは、患部に粒子線を照射することで、例えばがん患部の治療を行うシステムである。粒子線治療システムに用いられる粒子線は、上述した陽子線、炭素線など、既に実用化され、また、今後実用化されるであろう粒子線であれば限定はない。
【0020】
なお、本明細書において「情報」と「データ」とは同義であるとし、特に区別せずに用いる。また、「情報」「データ」と記されている場合、その個数についての限定はない。さらに、その形式に限定はない。加えて言えば、いわゆるテーブル形式で記憶媒体に保管、格納されているデータ等もここにいう「情報」「データ」である。
【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1である治療計画装置が適用される、実施例1に係る粒子線治療システムを示す概略構成図である。本実施例の粒子線治療システムSは、粒子線治療装置1と治療計画装置2とを有する。本実施例の粒子線治療システムSは、スポットスキャニング法を採用したものである。
【0022】
粒子線治療装置1は、患部に対して粒子線を照射してこの患部に対して治療を行う。
【0023】
治療計画装置2は、照射計画作成装置3と線量計算装置4とを有する。
【0024】
照射計画作成装置3は、患部に照射する粒子線の照射パラメータを決定する。決定される照射パラメータには、スポット毎のガントリー角度、エネルギー、照射位置、照射量が含まれている。照射計画作成装置3は、任意の粒子線の照射パラメータで照射した場合の線量分布を計算することができ、オペレータが標的に照射すべき線量を指定すると、照射計画作成装置3は患部が指定された線量で覆われるような線量分布を形成するために必要な粒子線の照射パラメータを最適化する計算を行う。照射計画作成装置3は、最適化計算の結果得られた照射パラメータで照射した場合の線量分布を計算し、オペレータ(含む医師)に提示する。照射計画作成装置3が計算した線量分布を医師が承認したら、照射計画作成装置3は照射パラメータを含む治療計画を粒子線治療装置1に送出する。
【0025】
照射計画作成装置3は、事前にX線CT装置により撮像した、患部を含む断層画像情報である3次元X線CT画像の入力を受け入れ、これに基づいて断層画像情報に対して関心領域(ROI)の輪郭を抽出する。
【0026】
線量計算装置4は、照射計画作成装置3から関心領域の輪郭に関するデータを含むROIデータを受け入れ、X線CT画像にROIの輪郭画像を重畳して表示する。そして、線量計算装置4は、オペレータ(含む医師)からROIの分類の指定入力を受け入れる。
【0027】
また、線量計算装置4は、粒子線治療装置1から実際に患部に照射した際の照射位置及び照射量に関するデータを含む照射ログデータの入力を受け入れる。また、線量計算装置4は、照射計画作成装置3からカーネルデータの入力を受け入れる。そして、線量計算装置4は、ROIの分類に基づいて、照射ログデータから得られるフルエンスマップ及びカーネルデータを用いて実効線量及び指標を算出する。
【0028】
照射計画作成装置3は、線量計算装置4により計算された実効線量等に基づいて、残りの照射計画における粒子線の照射パラメータの再度の最適化(再計画、修正)を行う。
【0029】
治療計画装置2、特に照射計画作成装置3及び線量計算装置4の動作の詳細については後に詳述する。
【0030】
なお、図1では照射計画作成装置3と線量計算装置4とは別々に図示されているが、これら照射計画作成装置3等は、後述する治療計画プログラム232が治療計画装置2上において実行されることで、1台の治療計画装置2内に仮想的に構成されている。
【0031】
図2は、実施例1に係る粒子線治療装置を示す概略構成図である。本実施例の粒子線治療装置1は、加速器、ビーム輸送系13、照射ノズル14、治療台15及び照射制御装置16を有する。図2では、加速器として入射器11、シンクロトロン加速器12の例を示したが、サイクロトロン加速器でも良い。ビーム輸送系13は回転ガントリーを有するが、固定照射ポートでも良い。
【0032】
入射器11で発生して加速された粒子線はシンクロトロン加速器12に入射し、このシンクロトロン加速器12でさらに加速されてビーム輸送系13に出射される。
【0033】
ビーム輸送系13は、複数の偏向電磁石13aと四極電磁石(図示せず)を備えており、シンクロトロン加速器12と照射ノズル14とに接続されている。また、ビーム輸送系13の一部と照射ノズル14は回転ガントリーに設置されており、ガントリーとともに回転することができる。シンクロトロン加速器12から出射された粒子線は、ビーム輸送系13内を通過しながら四極電磁石によって収束し、偏向電磁石13aによって方向を変えて照射ノズル14に入射する。
【0034】
照射ノズル14は、走査電磁石と線量モニタとビーム位置モニタ(いずれも図示せず)とを有する。走査電磁石は、標的の位置においてビーム軸に垂直な面内の所望の位置に陽子線が到達するように陽子線を偏向する。線量モニタは、標的に照射される粒子線の照射量を計測するモニタである。ビーム位置モニタは、標的に照射される粒子線が通過した位置を検出することで、標的に照射される陽子線の照射位置を間接的に計測するためのモニタである。照射ノズル14を通過した粒子線は、治療台15上の照射対象(図示せず)内の標的に到達する。なお、癌などの患者を治療する場合、照射対象は患者を表し、標的は患部などを表す。
【0035】
照射対象が載せられる治療台15は照射制御装置16からの指示に基づき、直交する3軸の方向へ移動することができ、さらにそれぞれの軸を中心として回転することができる。これらの移動と回転により、照射対象の位置を所望の位置に移動することができる。
【0036】
照射制御装置16は、シンクロトロン加速器12、ビーム輸送系13、照射ノズル14、治療台15などと接続されており、これらの機器を制御する。
【0037】
図3は、実施例1の治療計画装置2を示す構成図である。
【0038】
治療計画装置2は、例えば、マイクロプロセッサ(図中、CPU:Central Processing Unit)21、メモリ22、記憶装置23、通信インターフェース装置24、ユーザインターフェース装置25を有するコンピュータシステムとして構成される。
【0039】
記憶装置23は、例えば、フラッシュメモリデバイス、ハードディスクドライブ(HDD)などから構成されており、オペレーティングシステム231と治療計画プログラム232といったコンピュータプログラムを記憶している。これらのコンピュータプログラム231、232以外に、ドライバソフトウェアなどのソフトウェア(不図示)も記憶装置23に格納されている。
【0040】
マイクロプロセッサ21が、記憶装置23に格納された治療計画プログラム232をメモリ22に読み出して実行することにより、照射計画作成装置3及び線量計算装置4を含む治療計画装置2としての機能が実現される。
【0041】
通信インターフェース装置24は、粒子線治療装置1の照射制御装置16と通信するための装置である。ユーザインターフェース装置25は、治療計画装置2を使用するユーザ(医師)との間で情報を交換する装置である。ユーザインターフェース装置25は、情報出力装置と情報入力装置とを含む。情報出力装置としては、例えば、ディスプレイ、プリンタ、音声合成装置等がある。情報入力装置としては、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、音声認識装置等がある。例えば、治療計画の計算結果と、治療計画プログラム232への操作とはディスプレイに表示される。
【0042】
図4は、実施例1の線量計算装置4の機能を示す構成図である。本実施例の線量計算装置4は、制御部(演算装置)40、記憶部41、入力部(入力装置)42及び表示部(表示装置)43を有する。
【0043】
制御部40はマイクロプロセッサ201等からなり、線量計算装置4全体の制御を行う。制御部40は、線量分布算出部401、表示制御部402、比較部403及び比較結果送出部404を有する。
【0044】
線量分布算出部401は、入力部42が受け入れた、患部に設定された少なくとも1つの関心領域について照射された粒子線の線量分布の算出の要否を指定する算出指定情報に基づいて、線量分布の算出が指定された関心領域の実効線量(線量分布)を算出する。線量分布算出部401が行う実効線量の算出手順については後に詳述する。
【0045】
表示制御部402は、ユーザインターフェース装置205の情報出力装置であるディスプレイに各種画像を表示させるための表示制御信号を生成し、この表示制御信号をディスプレイに送出する。
【0046】
具体的には、表示制御部402は、治療計画装置2が受け入れた3次元X線CT画像(断層画像情報)をディスプレイに表示させるとともに、照射計画作成装置3が抽出した関心領域の輪郭画像をこのX線CT画像に重畳して表示させる。また、表示制御部402は、比較部403による比較結果をディスプレイに表示させる。比較部403による比較結果の具体例については後述する。
【0047】
比較部403は、基準値の設定が指定された関心領域について、線量分布算出部401が算出した実効線量と基準値とを比較する。この基準値は、入力部42が受け入れた、実効線量の算出が指定された関心領域について、実効線量または実効線量に基づいて算出可能な指標についての基準値である。入力部42は、この基準値の設定の要否及び基準値を基準値指定情報として受け入れる。
【0048】
指標の一例として、関心領域にどれだけの線量の粒子線を照射させるかという線量条件が挙げられる。ある関心領域について実効線量がこの線量条件を上回っても下回っても、その後の治療計画を再計画または中止する必要があるので、比較部403の比較結果に基づいて照射計画作成装置3が治療計画の再計画等を行い、また、粒子線治療装置1が粒子線照射を停止する。加えて、比較部403は、治療計画装置2のオペレータ(含む医師)に対して、上述の表示制御部402及びディスプレイを介して、比較部403の比較結果を報知し、時には警告表示を行う。
【0049】
比較結果送出部404は、比較部403の比較結果を照射計画作成装置3に送出する。
【0050】
記憶部41は、メモリ22及び記憶装置23等からなり、線量計算装置4の動作に必要なオペレーティングシステム231、治療計画プログラム232のうち線量計算装置4の動作にかかわるもの等のコンピュータプログラムを格納する。また、記憶部41は、線量計算装置4の制御動作における各種データが一時的に格納する。
【0051】
さらに、記憶部41は、照射ログデータ411、ROIデータ412、カーネルデータ413、フルエンスマップ414、断層画像情報415、算出指定情報416、基準値指定情報417、線量分布データ418及び線量指標データ419を格納する。これらデータのうち一部については既に説明しており、説明をまだ行っていないデータについては後に詳述する。
【0052】
入力部42はユーザインターフェース装置25の情報入力装置等からなり、線量計算装置4に対する各種データを受け入れ、受け入れたデータを制御部40、記憶部41に送出する。入力部42が受け入れるデータの一例として、算出指定情報、基準値指定情報などがある。
【0053】
表示部43はユーザインターフェース装置25の情報出力装置であるディスプレイ等からなり、制御部40の表示制御部402が生成した表示制御信号に基づいて、表示面に画面を表示する。表示部43が表示面に表示する画面の一例としては、断層画像情報であるX線CT画像、関心領域の輪郭画像、及び比較部403の比較結果などがある。
【0054】
図5は、実施例1に係る粒子線治療システムSの照射前の動作を示すフローチャートである。
【0055】
まず、治療計画装置2の照射計画作成装置3は治療計画を作成する(ステップS1)。治療計画作成処理の詳細は後述する。次に、照射計画作成装置3は、ステップS1で作成した治療計画を粒子線治療装置1に送信し(ステップS2)、粒子線治療装置1は治療計画を受信する(ステップS3)。
【0056】
そして、照射計画作成装置3は、ステップS1で作成した治療計画に基づいたカーネルデータ413を記憶装置23に保存する(ステップS4)。ここに、カーネルデータ413とは、患部を含む患者体内の予想される線量分布を算出する際に用いられるデータである。
【0057】
図6は、実施例1の照射計画作成装置3による治療計画作成処理を示すフローチャートである。図6に示すフローチャートは、図5におけるステップS1の詳細な動作を示すものである。
【0058】
まず、照射計画作成装置3は、照射対象の患者のX線CT画像を読み込む(ステップS11)。粒子線治療システムSの外部にあるX線CT装置は、このX線CT画像を撮像する。X線CT装置によるX線CT画像の撮像のタイミングは任意である。X線CT装置は、撮像直後にX線CT画像を照射計画作成装置3に送出してもよいし、X線CT装置が自身のまたは外部の記憶装置にX線CT画像を格納し、照射計画作成装置3が図6に示す治療計画作成処理を開始するにあたってX線CT画像を読み込んでもよい。
【0059】
次に、照射計画作成装置3は、ステップS11で読み込んだX線CT画像を線量計算装置4に送出し、線量計算装置4は関心領域設定処理を実行する(ステップS12)。線量計算装置4による関心領域設定処理の詳細は後述する。
【0060】
次に、照射計画作成装置3はビームの照射方向の設定入力を受け入れ(ステップS13)、患部、重要臓器へ入力する線量の処方入力を受け入れる(ステップS14)。これらビームの照射方向の設定及び患部、重要臓器へ入力する線量の処方は、医師によりユーザインターフェース装置205の情報入力装置が操作されることにより入力される。線量の処方には、例えば、どの患部にどれだけの線量のビームを照射するか、ビームから保護すべき重要臓器はどれかといった情報が含まれる。なお、ステップS13とステップS14との実行順序は任意であり、図6に示すような順序に限定されない。
【0061】
次に、照射計画作成装置3は、各スポットへの照射線量を最適化する(ステップS15)。さらに、照射計画作成装置3は、各スポットについての照射角度と照射線量とを決定した後、患者体内の線量分布を計算する(ステップS16)。
【0062】
そして、照射計画作成装置3は、治療計画の作成結果をユーザインターフェース装置25の情報出力装置であるディスプレイを通じて表示し(ステップS17)、作成した治療計画を記憶装置23へ保存する(ステップS18)。
【0063】
そして、医師が治療可能な治療計画だと判断するまで、医師による設定入力、処方入力を照射計画作成装置3が受け入れ、照射計画作成装置3は、受け入れた入力に基づいてステップS13~S18の処理を繰り返す。
【0064】
図7は、実施例1の線量計算装置4による関心領域分類指定処理を示すフローチャートである。図7に示すフローチャートは、図6におけるステップS12の詳細な動作を示すものである。
【0065】
まず、線量計算装置4の制御部40は、照射計画作成装置3からX線CT画像及び関心領域の輪郭画像を受信する(ステップS21)。制御部40は、受信したX線CT画像(断層画像情報415)及び関心領域の輪郭画像(ROIデータ412)を記憶部41に格納する。
【0066】
次いで、制御部40の表示制御部402は、ステップS21で受診したX線CT画像に関心領域の輪郭画像を重畳して表示させる表示制御信号を表示部43に送出する(ステップS22)。表示部43は、表示制御部402から送出された表示制御信号に基づいて、表示面にX線CT画像及び関心領域の輪郭画像を表示する。
【0067】
図8は、実施例1の線量計算装置4による関心領域分類指定処理において表示される画面の一例を示す図である。表示部43は、X線CT画像51と、このX線CT画像51に重畳して表示される関心領域の輪郭画像52とを有する画面50を表示する。
【0068】
図7のフローチャートに戻って、線量分布を確認したい関心領域があるか否かを判定し(ステップS23)、線量分布を確認したい関心領域があると判定したら(ステップS23においてYES)、入力部42は、医師等からの関心領域の指定入力を受け入れる(ステップS24)。次いで、入力部42は、ステップS24で指定入力を受け入れた関心領域について、医師等からその分類と線量条件(指標)の基準値との指定入力を受け入れる(ステップS25)。
【0069】
図8において、表示部43は、いずれの関心領域の指定入力を受け入れるかを選択するプルダウンメニュー53を表示する。入力部42は、このプルダウンメニュー53により選択された関心領域についての分類及び基準値の入力を受け入れる。
【0070】
入力部42は、ステップS25で登録できる分類の指定入力として、まず以下の3種類を受け入れる。すなわち、(1)最重要ROIであり、実効線量を監視し、予め決定した線量条件を満たさない場合は治療計画を再度作成する、(2)重要ROIであり、実効線量を監視するが、治療を中断する指標ではない、(3)一般ROIであり、治療中に実効線量を計算しない(実効線量の確認よりも計算効率を優先する)。
【0071】
照射計画作成装置3が抽出する関心領域は多数あるが、その中で、上述した危険臓器のように、実効線量を監視すべき臓器に対応する関心領域は限られている。そこで、実効線量を監視すべき関心領域を分類し、この関心領域については最低限実効線量を算出して監視する。これにより、線量分布算出部401が実効線量を算出する関心領域を減少させ、線量分布算出部401の演算速度を高めることができる。
【0072】
入力部42による分類の指定入力を受け入れない関心領域の分類は(つまりデフォルト値)は(3)一般ROIとする。すなわち、治療中の実効線量を監視する必要のない確認したくない関心領域については、入力部42は指定入力を受け入れる必要がない。線量分布算出部401は(3)一般ROIと分類された関心領域についての実効線量を算出しないため、記憶装置23の容量及び、治療中線量計算を行う照射制御装置16のメモリを節約する効果がある。
【0073】
表示部43は、関心領域の分類指定入力用に2つのチェックボックス54、55を表示する。一方のチェックボックス54は、プルダウンメニュー53が操作されることにより選択された関心領域について、実効線量を監視する旨の指定入力を入力部42が受け入れるチェックボックス54である。他方のチェックボックス55は、プルダウンメニュー53が操作されることにより選択された関心領域について、線量条件の指定入力を入力部42が受け入れるチェックボックス55である。
【0074】
図8において、チェックボックス54、55についての指定入力を入力部42が受け入れた関心領域は上述した(1)最重要ROIとしての指定入力であり、チェックボックス54のみの指定入力を入力部42が受け入れた関心領域は上述した(2)重要ROIとしての指定入力である。
【0075】
さらに、図8において、表示部43は、線量条件の基準値についての数値入力を受け入れるボックス56、57を表示する。ボックス56は基準値として「臓器Aが処方線量のX%以上を照射される体積は、Y%を超えてはならない」といった条件におけるY%の数値入力を入力部42が受け入れるボックス56である。一方、ボックス57は基準値として粒子線照射の継続の可否を判定するための実効線量の数値(単位はGy:グレイ)の入力を入力部42が受け入れるボックス57である。
【0076】
入力部42は、図8において表示部43が表示する登録ボタン58の操作入力を受け入れると、その時点で入力を受け入れている関心領域の分類及び基準値を受け入れる。制御部40は、入力部42が受け入れた情報を、算出指定情報416及び基準値指定情報417として記憶部41に格納する。この後、制御部40はステップS23に戻り、動作を継続する。
【0077】
一方、線量分布を確認したい関心領域がない(既に関心領域の登録等を行うべき関心領域がない)と判定したら(ステップS23においてNO)、制御部40は図7に示す動作を終了する。
【0078】
図9は、実施例1に係る粒子線治療システムSの線量分布算出動作を示すフローチャートである。
【0079】
まず、治療計画装置2の照射計画作成装置3は、図6のステップS18で記憶装置23に保存したカーネルデータ413を読み出し、線量計算装置4に送出する。線量計算装置4は、照射計画作成装置3から送出されたカーネルデータ413を読み込む(ステップS31)。
【0080】
一方、粒子線治療装置1は患者に対して粒子線を照射する(ステップS32)。そして、粒子線治療装置1が一定線量を患者に照射したら(例えば0.5Gy毎)、粒子線治療装置1は治療計画装置2に照射ログデータ411を送信する(ステップS33)。照射ログデータ411には、線量モニタによって測定した照射量、ビーム位置モニタによって測定した照射位置を含む 。
【0081】
治療計画装置2の線量計算装置4は、粒子線治療装置1から照射ログデータ411が送信されるのを待機しており、粒子線治療装置1から照射ログデータ411が送信されるとこれを受信する(ステップS34)。
【0082】
次いで、線量計算装置4の線量分布算出部401は、ステップS32で受信した照射ログデータ411に基づいてフルエンスマップ414を生成する(ステップS35)。さらに、線量分布算出部401は、ステップS35で生成したフルエンスマップ414に基づいて、分類(1)、(2)に分類された関心領域について実効線量を算出する(ステップS36)。
【0083】
そして、表示制御部402は、ステップS36で算出された実効線量を表す画面を表示部43の表示面に表示させるための表示制御信号を生成し、表示部43に送出する。表示部43はこの表示制御信号に基づいて実効線量を表す画面を表示面に表示する(ステップS37)。
【0084】
図10は、実施例1の線量計算装置4による線量分布算出の原理を説明する図である。
【0085】
患者に照射される粒子線は、仮想的なフルエンスマップ(流量)マップ(Fluence Map)414を形成する。フルエンスマップ414はマトリクス状に配置された要素jを有する。それぞれのフルエンスマップ要素jは、照射ログデータ411に基づいて算出された、実際にフルエンスマップ414の各要素jの平面位置から患者に照射された粒子線の照射量に相当する値を有する。
【0086】
図11は、実施例1の線量計算装置4による線量分布算出の原理を説明する図であり、ステップS31で読み込んだカーネルデータ413を示す図である。
【0087】
図10を参照して、カーネルデータ413は、フルエンスマップ414の各要素jから粒子線が患者体内に照射される際に、この粒子線が患者6の関心領域61の微小体積iのそれぞれでどのように吸収されるかを示す値(割合)をフルエンスマップ414の各要素について算出した値の集合である。言い換えれば、カーネルデータ413は、フルエンスマップ414の各要素jに単位照射量(すなわち照射量が1とする)が入射される場合、関心領域61の微小体積iのそれぞれに形成される線量分布を集合したものである。
【0088】
カーネルデータ413の各要素はKijは、フルエンスマップ414の各要素jが関心領域61の微小体積iに与える影響、すなわち線量寄与を示す。フルエンスマップ414の行414aは、微小体積iがフルエンスマップ414の各要素jから受ける影響を示す。フルエンスマップ414の列414bは、フルエンスマップ414の各要素jが微小体積iの全てに形成する線量分布を示す。
【0089】
図12は、実施例1の線量計算装置4による線量分布算出の原理を説明する図であり、線量分布算出部401による実効線量を算出する式を示す図である。
【0090】
関心領域の実効線量は、カーネルデータ413とフルエンスマップ414との積で表される。ここで、図12に示すように、カーネルデータ413及びフルエンスマップ414はそれぞれ行列で表されるので、関心領域の実効線量もこれら行列の積として表される。
【0091】
従来の関心領域の実効線量を算出する手順は、2つまたは3つのガウス分布を3次元X線CT上で畳み込み積分(convolution)するものである。従って、粒子線治療装置1による一定線量の粒子線照射の度に関心領域の実効線量を算出する作業に長時間を要していた。本実施例の線量分布算出部401による実効線量の算出手順は、図12に示すように行列積を求めるものであり、一般的な畳み込み積分による算出手順に比較して算出処理が簡易であり、その結果、一般的な手法より高速に実効線量を算出することができる。
【0092】
図9に戻って、比較部403は、分類(1)に分類された関心領域についてステップS36で算出された実効線量と設定された基準値とを比較し、実効線量が線量条件を満たすか否かを判定する(ステップS38)。実効線量が線量条件を満たすか否かの判定は、実効線量が基準値と略等しければ比較部403は線量条件を満たすと判定し、実効線量が基準値を上回っても下回っても比較部403は線量条件を満たさないと判定する。
【0093】
比較部403は、実効線量が線量条件を満たすと判定する際の、基準値に対する範囲を設定してもよい。つまり、実効線量が基準値に対して±Z1または±Z2%(Z1、Z2ともに正の数値)以内であれば、比較部403は実効線量が基準値と略等しいと判定することができる。
【0094】
そして、比較部403が、実効線量が線量条件を満たすと判定したら(ステップS38においてYES)、ステップS34に戻って、線量計算装置4は粒子線治療装置1から照射ログデータ411が送信されるのを待機する。
【0095】
一方、比較部403が、実効線量が線量条件を満たさないと判定したら(ステップS38においてNO)、表示制御部402は、実効線量が線量条件を満たさないことを報知する警告表示画面を表示部43の表示面に表示させるための表示制御信号を生成し、この表示制御信号を表示部43に送出する。表示部43は、表示制御部402から送出された表示制御信号に基づいて警告表示画面を表示する(ステップS39)。
【0096】
また、比較結果送出部404は、粒子線治療装置1による粒子線照射の停止を指示する照射停止指示信号を粒子線治療装置1に送出する(ステップS39)。粒子線治療装置1は、比較結果送出部404から送出された照射停止指示信号に基づいて、患者への粒子線照射を停止する(ステップS40)。
【0097】
そして、比較結果送出部404は照射計画作成装置3に比較部403の比較結果を送出する。照射計画作成装置3は、この比較結果に基づいて治療計画を再作成し(ステップS41)、再作成した治療計画を粒子線治療装置1に送信する(ステップS42)。粒子線治療装置1は照射計画作成装置3から送信された治療計画を受信し(ステップS43)、この治療計画に基づいて粒子線を照射する(ステップS44)。
【0098】
なお、照射計画作成装置3による治療計画の再作成は、入力部42が医師からの治療計画の再作成に関する指示入力を受け入れてから行ってもよい。また、入力部42が医師から粒子線治療装置1による治療の続行または中止に関する指示入力を受け入れたら、照射計画作成装置3は治療計画の再作成を行わないこともできる。
【0099】
このように構成される本実施例によれば、表示部43が患部を含むX線CT画像415を表示し、入力部42が、患部に設定された少なくとも1つの関心領域について線量分布の算出の要否を指定する算出指定情報416の入力を受け入れ、制御部40、特に線量分布算出部401が、算出指定情報416に基づいて線量分布の算出が指定された関心領域の線量分布を算出している。
【0100】
従って、本実施例によれば、線量分布算出部401が、線量分布の算出が指定された関心領域についてのみ線量分布を算出することができる。これにより、実効線量の計算を高速に行うことが可能な治療計画装置、治療計画方法及びプログラムを提供することができる。
【0101】
この結果、オンラインアダプティブ治療を行う際に、患者への実効線量を確認した上で粒子線照射を行うことができ、医師による判断を的確に支援することができる。また、計画した線量と照射された実効線量の差を微小な範囲に留めることが、より安全な治療を提供可能である。
【実施例2】
【0102】
上述の実施例1では、治療計画時のX線CT画像(断層画像情報415)を用いてカーネルデータ413を作成していたが、患者の身体、特に照射する標的である患部の近くで解剖学的変化が生じる恐れがある場合、照射を受ける日のX線CT画像からカーネルデータ413を作成することができる。
【0103】
解剖学的変化は、体重の増減、腫瘍の縮小、鼻づまりまたは組織の腫れなどを含む。その変化により、体内のビーム飛程が変化すること(すなわちビームが止まる位置が変化すること)が考えられる。患者身体の日々の変化を考慮し、カーネルデータ413を作成することで、より安全な治療を提供することができる。
【0104】
患者の当日のX線CT画像を撮影した後、そのX線CT画像を用いて図5のフローチャートを実施し、カーネルデータ413を作成する。既に一度同一の患者に対して図5のフローチャートを実行したことがある場合、関心領域についての臓器名または識別番号、関心領域の輪郭画像を含むROIデータ412、及び、算出指定情報416、基準値指定情報417を新しいX線CT画像に自動的に転写する。
【0105】
これにより、医師が操作する時間を減らすことができる。加えて、カーネルデータ413の計算は他の治療準備(例えば患者の位置決め)と並行に進めることができるので、X線CT画像を置き換えたことによる時間的ロスを低減することができる。
【実施例3】
【0106】
図13は、実施例3の線量計算装置4の機能を示す構成図である。なお、以下の説明において、実施例1と同様の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略化する。
【0107】
体幹、特に肺付近の呼吸により位置が変わる腫瘍を精度よく照射するために、動体追跡照射技術が開発された(例えば特許5976474号)。動体追跡照射では、一定頻度(例えば1秒間30回)で腫瘍付近のX線透視画像を撮影する。X線透視画像を計算機で解析することで、腫瘍の位置を求め、腫瘍位置が予め設定した範囲にあるときに、照射可能を意味するゲート信号を照射装置に送信する。照射装置が照射可能を意味するゲート信号が立ち上がる間に、ビームを照射する。
【0108】
なお、腫瘍位置の解析は、腫瘍付近に人工的に刺入したマーカの動きを解析するものと、患者の臓器の画像データのみで位置を解析する方法を含む。
【0109】
動体追跡照射技術により、動く臓器への高精度照射が可能になった。その一方、腫瘍が所定位置からずれた場合はビームを照射できないため、治療時間が増える可能性がある。ゲート信号の幅が広ければ(即ち立ち上がりの時間が長ければ)、照射できる時間も増えるため治療時間が短くなるが、照射時間内に臓器が移動しているため、照射の精度が低下する。ここで、精度と時間はトレードオフ関係にある。
【0110】
図13に示す本実施例の線量計算装置4は、上述の実施例1の線量計算装置4に加えて、制御信号送出部405を有する点のみ異なり、その他の構成要素については実施例1の構成要素と同一である。
【0111】
制御信号送出部405は、比較部403の比較結果に基づいて、関心領域に照射される粒子線の照射範囲を制御する制御信号を送出する。ここにいう制御信号とは、一例として、粒子線治療装置1に送出するゲート信号である。
【0112】
図14は、実施例3に係る粒子線治療システムSの線量分布算出動作を示すフローチャートである。
【0113】
図14に示すフローチャートにおいて、ステップS51~S57までは、図9に示す実施例1のフローチャートのステップS30~S37までと同様である。
【0114】
次いで、比較部403は、実効線量Tと線量指標Cとを比較する(ステップS58)。その結果、比較部403が、実効線量Tが線量指標Cより小さいと判定したら(ステップS58においてT<C)、制御信号送出部405は、現在粒子線治療装置1に送出しているゲート信号の幅を広げる制御を行う(ステップS59)。また、比較部403が、実効線量Tが線量指標Cより大きいと判定したら(ステップS58においてT>C)、制御信号送出部405は、現在粒子線治療装置1に送出しているゲート信号の幅を狭める制御を行う(ステップS60)。そして、比較部403が、実効線量Tが線量指標Cと略等しいと判定したら(ステップS58においてT=C)、ステップS54に戻って、線量計算装置4は粒子線治療装置1から照射ログデータ411が送信されるのを待機する。
【0115】
そして、制御信号送出部405は、ゲート信号を広げる、または狭める制御を行ったら、変更したゲート信号を粒子線治療装置1に送出する(ステップS61)。粒子線治療装置1は、線量計算装置4から受信したゲート信号に基づいて、粒子線照射に用いるゲート信号を変更する(ステップS62)。
【0116】
図15は、実施例3の線量計算装置4によるゲート幅制御の動作を説明する図である。線量指標Cとして安全な線量指標Cを設定すると、その指標の達成度により制御信号送出部405がゲート信号の幅にフィードバックをかけ、一定時間後には治療中の患者に対する最も効率が良いゲート幅で安定させる制御を行うことができる。
【0117】
従って、本実施例によれば、線量分布算出部401が実効線量を算出しているので、線量指標に対する実効線量の精度を確認しながらゲート信号の幅を調整することができる。これにより、本実施例の線量計算装置4によれば、照射の精度と照射時間とを最適化することができる。
【0118】
加えて、本実施例の線量計算装置4によれば、治療効果に影響しない、例えば過去の治療経験に基づく線量条件を常に満足する前提でゲート信号の幅を広げることにより、治療時間を短縮する効果が得られる。
【0119】
なお、本実施例において、動体追跡で監視した腫瘍位置と時間の関係を粒子線治療装置1が線量計算装置4に送信し、さらに、粒子線治療装置1が、照射量と照射位置に加え、時間情報を線量計算装置4に送信することができる。これにより、線量計算装置4において、腫瘍の移動量を照射位置に反映し、体動を考慮したフルエンスマップ414を作成する事が可能になる。
【変形例】
【0120】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0121】
一例として、上述の実施例1~3では一定線量毎に実効線量を算出する例を示した。実効線量を算出するタイミングはこれら実施例に限定されず、例えば、粒子線ビームのエネルギー、照射角度、時間で実効線量を計算するタイミングを決めることが可能である。
【0122】
また、実施例1~3では、照射計画作成装置3と線量計算装置4とは共通のハードウェアにより実現されるものとして説明したが、これらを別のハードウェアにより実現してもよい。
【0123】
さらに、線量計算装置4を構成するハードウェアはGPU(Graphics Process Unit)を搭載するものを含む。線量カーネルとフルエンスマップの行列掛け算をGPUを用いて並列に処理すればさらに計算が高速になる。
【0124】
さらに、実施例1~3では、一定線量毎に実効線量を計算する例を示した(例えば0.5Gyを照射するたびに実効線量を計算し、表示する)。当然、照射する線量は常に一定に保つ必要はない。
【0125】
寡分割治療において、例えば患者に10Gyを照射する必要がある時に、まず0.5Gyを照射し、一時停止する。その後、実効線量を計算し、線量分布または線量分布から計算可能な指標を治療計画での指標と比較する。治療計画での指標を達成している場合、次に照射する線量を1Gyに増やし、その後一時停止して実効線量を計算しても良い。治療に必要な線量、10Gyを全て照射するまでに、この過程を自動的に繰り返す機能を実装する事も考えられる。
【0126】
この機能により、安全な治療が見込める時に、実効線量の確認回数を減らし、効率的な治療を提供する事が可能である。
【0127】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0128】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0129】
S…粒子線治療システム 1…粒子線治療装置 2…治療計画装置 3…照射計画作成装置 4…線量計算装置 40…制御部(演算装置) 41…記憶部 42…入力部(入力装置) 43…表示部(表示装置) 401…線量分布算出部 402…表示制御部 403…比較部 404…比較結果送出部 405…制御信号送出部 411…照射ログデータ 412…ROIデータ 413…カーネルデータ 414…フルエンスマップ 415…断層画像情報 416…算出指定情報 417…基準値指定情報 418…線量分布データ 419…線量指標データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15