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特許7281155酸化型・還元型アルブミンを指標とした糖尿病合併症の進行の予測方法
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  • 特許-酸化型・還元型アルブミンを指標とした糖尿病合併症の進行の予測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】酸化型・還元型アルブミンを指標とした糖尿病合併症の進行の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230518BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20230518BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N30/88 J
G01N33/53 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018082283
(22)【出願日】2018-04-23
(65)【公開番号】P2019190935
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】矢冨 裕
(72)【発明者】
【氏名】門脇 孝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 由佳
(72)【発明者】
【氏名】池田 均
(72)【発明者】
【氏名】安川 恵子
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-504300(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013679(WO,A1)
【文献】特開2006-325528(JP,A)
【文献】特開2015-172603(JP,A)
【文献】OETTL, K. et al.,The redox state of human serum albumin in eye diseases with and without complications,Acta Ophthalmologica,2011年,Vol. 89,pp. e174-179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 30/88
G01N 33/53
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病合併症の進行を予測するためのデータ取得方法であって、
(a1)糖尿病哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を測定する工程;
(b1)工程(a1)と同一の糖尿病哺乳動物由来の、工程(a1)とは異なる日の試料中の酸化型アルブミン%を再測定する工程;
(c1)工程(a1)の測定値よりも工程(b1)の測定値が高い場合に、当該哺乳動物の糖尿病合併症が進行しているという基準を用いて、工程(a1)の測定値と工程(b1)の測定値とを比較する工程;
を含み、前記試料が、血清、血漿、尿、リンパ液、髄液、唾液及び歯肉液からなる群から選択され、酸化型アルブミン%が下記式:
酸化型アルブミン%=[酸化型アルブミン/(還元型アルブミン+酸化型アルブミン)]x100
を用いて算出される、方法。
【請求項2】
糖尿病哺乳動物がヒトであり、糖尿病合併症が、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害及び糖尿病に合併する心疾患からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料が、血清及び血漿からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a1)の1ヶ月以上後に工程(b1)が実施される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a1)及び工程(b1)における測定が、分子ふるい(ゲルろ過)カラム、イオン交換カラム及びアフィニティカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法、質量分析法、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)法、免疫法、酵素法並びに比色法からなる群から選択される方法により実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(a1)及び工程(b1)において測定される試料が、20mM以上の酸及び塩を含み、pH6.0以上pH7.5以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
糖尿病合併症が、糖尿病性腎症であり、さらに、糖尿病哺乳動物の尿タンパク値、尿アルブミン値、尿クレアチニン値及び推定糸球体濾過量(eGFR)のいずれか一以上を測定する工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
糖尿病合併症が、糖尿病性網膜症であり、糖尿病哺乳動物について得られた眼底所見の結果を確認する工程をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
糖尿病哺乳動物における糖尿病合併症が進行するか否かを判断するためのデータ取得方法であって、
(a1)糖尿病哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を測定する工程;
(b1)工程(a1)と同一の糖尿病哺乳動物由来の、工程(a1)とは異なる日の試料中の酸化型アルブミン%を再測定する工程;
(c1’)工程(a1)の測定値と工程(b1)の測定値とを比較する工程;
を含み、前記試料が、血清、血漿、尿、リンパ液、髄液、唾液及び歯肉液からなる群から選択され、酸化型アルブミン%が下記式:
酸化型アルブミン%=[酸化型アルブミン/(還元型アルブミン+酸化型アルブミン)]x100
を用いて算出される、方法。
【請求項10】
糖尿病合併症抑制物質のスクリーニング方法であって、
(a2)哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を測定する工程;
(b2)候補物質が投与された哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を再測定する工程;
(c2)工程(a2)の測定値と工程(b2)の測定値とを比較する工程;
(d2)工程(a2)の測定値よりも工程(b2)の測定値が低い場合に、工程(b2)で投与された候補物質を、糖尿病合併症抑制物質として選択する工程;
を含み、前記試料が、血清、血漿、尿、リンパ液、髄液、唾液及び歯肉液からなる群から選択され、酸化型アルブミン%が下記式:
酸化型アルブミン%=[酸化型アルブミン/(還元型アルブミン+酸化型アルブミン)]x100
を用いて算出される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化型・還元型アルブミンを指標とした糖尿病合併症の進行を予測する方法に関する。本発明はまた、上記方法を実施するためのキット、糖尿病哺乳動物における糖尿病合併症が進行するか否かを判断するためのデータ取得方法及び糖尿病合併症抑制物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、わが国で糖尿病を強く疑われる人は1000万人と推計され、平成9年に糖尿病実態調査が開始されて以降、継続的に増加している。糖尿病を発症した場合、血糖値の高い状態が続くため、多様な糖尿病合併症の発症にも留意が必要となる。糖尿病合併症の進行を抑制することは国家的に重要な課題でとなっている。糖尿病に関する新たな知見や、新たな機序の薬剤などの開発により糖尿病診療は大きく進展しており、糖尿病合併症予防のために、生活習慣の指導改善や薬剤投与による血糖管理は成果を収めつつある。糖尿病合併症と酸化ストレスとの関係については多くの仮説が報告されているが(非特許文献1)、糖尿病合併症の予測並びに管理及び抑制に有用で、日常臨床において実際に使用可能な酸化ストレスの検査は存在しない。
【0003】
一方、アルブミンは生体内で、還元型アルブミン又は酸化型アルブミンとして存在しており、健常若年者の血清中アルブミンは還元型が約80%、酸化型が約20%であることが知られる。これまでに、糖化アルブミンについては、糖尿病との関連性に関する研究が進んでいるが、酸化型・還元型アルブミンの糖尿病との関連性については、限られた報告しかなされていない。例えば、非特許文献2では、47名の糖尿病患者と28名の健常者について還元型アルブミン比率の比較がなされ、糖尿病患者において還元型アルブミンが低値であった(酸化型アルブミンが高値)こと、還元型アルブミン値と血糖値は関連したが、還元型アルブミン値とHbA1cとの関連はなかったことが示されている。しかしながら糖尿病の合併症の有無と還元型アルブミン値との関係はなかったと報告されている。
【0004】
一方、還元型・酸化型アルブミン検査は、従来技術では1検体の測定に約1時間時間を要していたが、本発明者らは、このような従来技術よりも精度が高く、短時間且つ簡便にこれらを測定する方法を見出している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-58278号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ferdinando Giacco et.al.,“Oxidative Stress and Diabetic Complications”, Circulation Research,107,1058-1070,2010
【文献】Eiji Suzuki et.al.,“Increased oxidized form of human serum albumin in patients with diabetes mellitus.”, Diabetes Research and Clinical Practice, 18, 153-158,1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような背景のもと、本発明は、簡便で精度の高い検査方法を用いて、糖尿病哺乳動物の糖尿病合併症の進行を予測する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
非特許文献2においては、糖尿病合併症と還元型アルブミン値との関連性はないと報告されていたが、本発明者らは、当該報告における症例数が糖尿病合併症を評価するには十分ではなかったのではないか、また、還元型アルブミンは酸化されやすいことから、測定時のサンプルの保存等、測定法の精度に問題があったのではないかと考えた。そして、非常に多くの症例において、適切にサンプルを調製し保存した上で糖尿病患者の酸化型・還元型アルブミンを測定したところ、酸化型アルブミンの増加(すなわち、還元型アルブミンの減少)が糖尿病合併症の発症及び悪化と高度に関連していることを見出し、酸化型アルブミンを指標して用いることにより糖尿病合併症の進行を予測可能であることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に関する。
【0009】
[1]
糖尿病合併症の進行を予測する方法であって、
(a1)糖尿病哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を測定する工程;
(b1)工程(a1)とは異なる日に、糖尿病哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を再測定する工程;
(c1)工程(a1)の測定値よりも工程(b1)の測定値が高い場合に、当該哺乳動物の糖尿病合併症が進行しているという基準を用いて、工程(a1)の測定値と工程(b1)の測定値とを比較する工程;
を含み、酸化型アルブミン%が下記式:
酸化型アルブミン%=[酸化型アルブミン/(還元型アルブミン+酸化型アルブミン)]x100
を用いて算出される、方法。
[2]
糖尿病哺乳動物がヒトであり、糖尿病合併症が、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害及び糖尿病に合併する心疾患からなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[3]
試料が、血清、血漿、尿、リンパ液、髄液、唾液及び歯肉液からなる群から選択される、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
工程(a1)の1ヶ月以上後に工程(b1)が実施される、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
工程(a1)及び工程(b1)における測定が、分子ふるい(ゲルろ過)カラム、イオン交換カラム及びアフィニティカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法、質量分析法、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)法、免疫法、酵素法並びに比色法からなる群から選択される方法により実施される、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
工程(a1)及び工程(b1)において測定される試料が、20mM以上の酸及び塩を含み、pH6.0以上pH7.5以下である、[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
糖尿病合併症が、糖尿病性腎症であり、さらに、糖尿病哺乳動物の尿タンパク値、尿アルブミン値、尿クレアチニン値及び推定糸球体濾過量(eGFR)のいずれか一以上を測定する工程を含む、[1]から[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
糖尿病合併症が、糖尿病性網膜症であり、糖尿病哺乳動物について得られた眼底所見の結果を確認する工程をさらに含む、[1]から[6]のいずれかに記載の方法。
[9]
糖尿病哺乳動物における糖尿病合併症が進行するか否かを判断するためのデータ取得方法であって、
(a1)糖尿病哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を測定する工程;
(b1)工程(a1)とは異なる日に、糖尿病哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を再測定する工程;
(c1’)工程(a1)の測定値と工程(b1)の測定値とを比較する工程;
を含み、酸化型アルブミン%が下記式:
酸化型アルブミン%=[酸化型アルブミン/(還元型アルブミン+酸化型アルブミン)]x100
を用いて算出される、方法。
[10]
糖尿病合併症抑制物質のスクリーニング方法であって、
(a2)哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を測定する工程;
(b2)哺乳動物に候補物質を投与後、哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を再測定する工程;
(c2)工程(a2)の測定値と工程(b2)の測定値とを比較する工程;
(d2)工程(a2)の測定値よりも工程(b2)の測定値が低い場合に、工程(b2)で投与された候補物質を、糖尿病合併症抑制物質として選択する工程;
を含み、酸化型アルブミン%が下記式:
酸化型アルブミン%=[酸化型アルブミン/(還元型アルブミン+酸化型アルブミン)]x100
を用いて算出される、方法。
[11]
[1]から[10]のいずれかに記載の方法を実施するためのキットであって:
酸及び塩を含む、酸化型アルブミン及び還元型アルブミンを含む試料の安定化剤と、
分子ふるい(ゲルろ過)カラム、イオン交換カラム及びアフィニティカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法、質量分析法、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)法、免疫法、酵素法並びに比色法からなる群から選択される方法に用いる、酸化型アルブミン及び還元型アルブミンを含む試料の測定手段と、
を含むキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便で精度の高い検査方法を用いて、糖尿病哺乳動物の糖尿病合併症の進行を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】健常人血清のヒト酸化型アルブミン(HNA)及びヒト還元型アルブミン(HMA)をHPLCで分析した結果を示す。
図2】酸化型アルブミン(HNA%)(図2A)、ヘモグロビンA1c(HbA1c)(図2B)又はグリコアルブミン(GA)(図2C)と、糖尿病性神経障害の有無との関係を示す。
図3】HNA%(図3A)、HbA1c(図3B)又はGA(図3C)と、糖尿病性腎症の病期との関係を示す。
図4】HNA%(図4A)、HbA1c(図4B)又はGA(図4C)と、糖尿病性網膜症の病期との関係を示す。
図5】HNA%(図5A)、HbA1c(図5B)又はGA(図5C)と、糖尿病患者の心疾患の既往との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好適な実施形態について以下に説明するが、以下の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。
【0013】
一態様において、本実施形態は、糖尿病哺乳動物における糖尿病合併症の進行を予測する方法に関する。本実施形態において、糖尿病哺乳動物とは、糖尿病の哺乳動物であれば特に限定されず、例えば、ヒト、ペット(イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット等)、家畜(ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ等)、実験動物(サル、マウス、ラット等)が挙げられる。一態様において、糖尿病哺乳動物由来の試料を複数回測定するという観点から、本実施形態の糖尿行哺乳動物は好ましくはヒト、ペット等であり、より好ましくはヒトである。
【0014】
糖尿病哺乳動物は、血糖値が高い状態が続くために血管や神経が侵され、全身の機能に様々な障害が起こり、糖尿病合併症を引き起こす。本実施形態において、糖尿病合併症とは、高血糖に伴って発症する合併症であれば特に限定されず、例えばヒト糖尿病の三大合併症として知られる糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症及び糖尿病性神経障害が挙げられる。これらの疾患は、高血糖が続いて細小血管の詰まりや血液の漏れが生じ、細小血管から栄養の供給を受ける末梢神経や、細小血管が張り巡らされている組織である網膜、腎臓に障害が起こることに起因する。
【0015】
これらの細小血管障害に加えて、本実施形態の糖尿病合併症としては、大血管障害に分類される脳梗塞、心疾患(狭心症、心筋梗塞等)、閉塞性動脈硬化症、さらには、糖尿病性足病変、歯周病、認知症、糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群、感染症、癌も挙げられる。一態様において、本実施形態の糖尿病合併症は、各哺乳動物において発生頻度の高い合併症及び/又は致死率の高い合併症であり、例えばヒト以外の哺乳動物では糖尿病ケトアシドーシスが挙げられ、ヒトでは、上記三大合併症である糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症及び糖尿病性神経障害並びに糖尿病に伴い発症する心疾患(冠動脈硬化症、狭心症、心筋梗塞等)が挙げられる。
【0016】
本実施形態において、糖尿病合併症の進行の予測とは、合併症未発症の状態から糖尿病合併症を発症することの予測、及び既に糖尿病合併症を発症している状態において、その病期が悪化することの予測、のいずれをも含む。
【0017】
一態様において、本実施形態の方法は、下記工程(a1)~(c1)を含む。
【0018】
工程(a1)は、糖尿病哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を測定する工程である。
【0019】
哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ウサギ、マウス、ラット等)の血中アルブミンは分子内に35個のシステイン残基(Cys)を有し、その内の34個のシステイン残基についてはシステイン残基同士が分子内でジスルフィド(S-S)結合を形成している。残りの1個のシステイン残基は、N末端から34番目のシステイン残基(Cys-34)であって、遊離のメルカプト基(SH基)を有するシステイン残基として存在する。さらに、4個のリシン残基を有し、このリシン残基が糖化を受ける。
【0020】
本実施形態において、還元型アルブミンとは、N末端から34番目のCys-34に遊離のSH基を有するアルブミンを指す(Alb-SH)。一方、酸化型アルブミンとは、Cys-34のSH基が遊離ではないアルブミンを指し、より具体的には、酸化型アルブミンは、Cys-34のSH基にCys又はグルタチオン等が結合している(Alb-SS-Cys、Alb-SS-グルタチオン等)。
【0021】
本実施形態において、ヒトの還元型アルブミン(Human Mercapto Albumin)を「HMA」、ヒトの酸化型アルブミン(Human Non mercaputo Albumin)を「HNA」ともいう。
【0022】
酸化型アルブミン%は下記式を用いて算出され、酸化型アルブミン%の測定は、試料中の酸化型アルブミン量及び還元型アルブミン量を測定した結果から算出することができる。
酸化型アルブミン%=[酸化型アルブミン/(還元型アルブミン+酸化型アルブミン)]x100
酸化型アルブミン%は、また、下記式を用いて算出した還元型アルブミン%を、100%から差し引いて算出することもできる。
還元型アルブミン%=[還元型アルブミン/(還元型アルブミン+酸化型アルブミン)]x100
さらに、後述のとおり、本実施形態において、酸化型アルブミン%の代わりに還元型アルブミン%を用いることもできる。
【0023】
試料中の酸化型アルブミン量及び還元型アルブミン量の測定方法は、これらの試料中の量を測定可能な方法である限り限定されず、分子ふるい(ゲルろ過)カラム、イオン交換カラム、アフィニティカラム等を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法、質量分析法、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)法等の分析装置を用いた方法並びに免疫法、酵素法及び比色法等が挙げられる。具体的な分析条件は、公知の手法に従い、適宜設定することができる。酸化型アルブミン及び還元型アルブミンの臨床意義を明らかにする過程においては、一態様において、簡便性及び分離対象物質に対する特異性、精度の観点から、HPLC法を用いることが好ましい。HPLCチャートのピーク解析により、酸化型アルブミン%を算出することができる。
【0024】
HPLC法による測定は、例えば、特許文献1を参照して実施することができる。より具体的には、まず、アルブミンの吸着及び分離性能を上げるために、流路及びカラムのpHをpH4.9以上7.0以下、好ましくはpH5.0以上6.8以下、より好ましくは5.5以上6.5以下に平衡化することができる。平衡化には、緩衝液(酢酸緩衝液、重炭酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等)を用いることができる。使用するカラムの分離性を高める公知の塩種を含めてもよく、例えば、カラムの疎水性相互作用を調節するようなイオン(疎水結合を強めるSO4 2-、F-、Cl-、NH4 +、K+、Na+等)を含むものであってもよい。カラムとしては、陰イオン交換カラム、好ましくは、第3級アミン基を有するカラム、より好ましくは、ジエチルアミノエチル基を有するカラムを用いることができる。試料をカラムに負荷後、カラムに吸着したアルブミンの溶出は、好ましくは、2価の塩化物(塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム等)を含む溶液を用いて実施することができる。検出には、蛍光検出、紫外吸光高度検出等を用いることができる。
【0025】
試料中のアルブミンは酸化されやすい状態にあるため、これを防ぐことで、より精度の高い測定を実施することができる。特に、試料を-80℃以下に保存することで、アルブミンの酸化を防ぐことができる。加えて、酸化防止方法としては、試料への安定化剤の添加、試料のpHの調整等が挙げられる。
【0026】
安定化剤としては、酸及び塩が挙げられる。酸としては、クエン酸、乳酸、リン酸、酢酸、グルコン酸、コハク酸、炭酸、塩酸、硫酸、硝酸、蓚酸、ホウ酸、又はそれらの水和物を使用することができ、好ましくはクエン酸又は酢酸を使用することができる。塩としては、酢酸塩、重炭酸塩、クエン酸塩、リン酸塩等を使用することができ、より具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム・二水和物等が挙げられ、好ましくは、クエン酸塩又は酢酸塩を用いることができる。酸及び塩の最終濃度(測定試料中の濃度)は、好ましくは20mM以上であり、より好ましくは50mM以上であり、さらに好ましくは70mM以上である。上限は塩と酸の種類により溶解度が異なるが、アルブミンを含む試料に溶解する濃度であればよい。
【0027】
本実施形態において、安定化剤は、さらに、糖類を含んでいてもよい。「糖類」としては、特に限定はなく、例えばデンプン、グリコーゲン等の多糖類;ラフィノース、スタキオース等の少糖類;スクロース、マルトース等の二糖類;六炭糖、五炭糖等の単糖類等が挙げられる。中でも、六炭糖が好ましい。六炭糖としては、例えば、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等のアルドヘキソース;プリコース、フルクトース、ソルボース、タガロース等のケトヘキトース;フコース、フクロース、ラムノース等のデオキシ糖等が挙げられる。糖類の最終濃度(測定試料中の濃度)は、0mM以上50mM以下であることが好ましい。
【0028】
アルブミンの安定化の観点から、試料のpHはpH6.0以上7.5以下であることが好ましく、pH7.0以上7.45以下であることがより好ましい。後述の実施例に記載のとおり、上述の安定化剤を添加した場合、試料は室温で25時間安定であることを本発明者らは確認している。
【0029】
酸化型アルブミン%(又は還元型アルブミン%)の測定の精度の指標として、CV値(変動係数)を用いることができる。例えば、工程(a1)で用いる測定方法は、同じ試料を1日に10回測定した場合の日内再現性、及び/又は同じ試料を10日間毎日測定した場合の日間再現性が、CV値3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
工程(a1)において測定する試料は、糖尿病哺乳動物由来の試料であり、アルブミンを含むものであれば特に限定されない。例えば、体外試料を用いることができ、より具体的には、血清、血漿、尿、リンパ液、髄液、唾液、歯肉液等を用いることができるがこれらに限定されない。一態様において、試料として好ましくは血清又は血漿を用いることができる。糖尿病哺乳動物は、1型、2型の糖尿病型、合併症の有無等に限定されない。
【0031】
工程(b1)は、工程(a1)とは異なる日に、糖尿病哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を再測定する工程である。
工程(b1)における酸化型アルブミンの測定は、工程(a1)と同様の手法を用いて行うことができ、工程(a1)と同一の糖尿病哺乳動物由来の試料について、工程(a1)における測定と同一の手法及び測定条件を用いて実施することが好ましい。
【0032】
工程(b1)の実施は、工程(a1)と異なる日であれば特に限定されないが、糖尿病合併症の進行を予測する観点から、工程(a1)の一定期間後に実施することが好ましく、例えば工程(a1)の1か月以上後、3か月以上後、6か月以上後、1年以上後に工程(b1)を実施することができる。好ましくは、工程(b1)は、工程(a1)のおよそ1ヶ月後に実施し、より好ましくは、1か月毎にこの測定を継続する。
【0033】
工程(c1)は、工程(a1)の測定値よりも工程(b1)の測定値が高い場合に、当該哺乳動物の糖尿病合併症が進行しているという基準を用いて、工程(a1)の測定値と工程(b1)の測定値とを比較する工程である。
【0034】
後述の実施例に示すとおり、本発明者らは、糖尿病合併症の進行と、糖尿病患者のHNA%の値が、正の相関を示すことを見出した。よって、工程(a1)の測定値と工程(b1)の測定値とを比較し、工程(b1)の測定値が高い場合に、当該哺乳動物が糖尿病合併症を発症する、又は当該哺乳動物が発症している糖尿病合併症の病期が悪化していると予測することができる。なお、糖尿病合併症の進行と、酸化型アルブミン%の値が正の相関を示すことは、すなわち、糖尿病合併症の進行と、還元型アルブミン%の値が負の相関を示すことを意味する。よって、本実施形態の別の態様において、酸化型アルブミン%の代わりに上述の還元型アルブミン%を用いて、還元型アルブミン%が低下した場合に、当該哺乳動物の糖尿病合併症が進行しているという基準を用いることもできる。
【0035】
酸化型アルブミン%値を変動させる要因(例えば、年齢、腎障害、肝障害、リウマチ等の有無、麻酔の有無、手術の有無等)が明らかである場合、かかる要因を加味して工程(a1)及び(b1)における測定値を補正してもよい。
【0036】
本実施形態の予測方法は、各々の糖尿病合併症の診断に用いられる公知の判断基準を参照して用いることもでき、また、各々の糖尿病合併症の他の指標の測定と組み合わせて用いることもできる。
【0037】
例えば、糖尿病合併症が糖尿病性腎症である場合、本実施形態の予測方法と、糖尿病性腎症の公知の指標である、糖尿病哺乳動物の尿タンパク値、尿アルブミン値、尿クレアチニン値及び推定糸球体濾過量(eGFR)等の測定とを組み合わせることで、より正確な予測を行うことができる。
【0038】
例えば、糖尿病合併症が、糖尿病性網膜症である場合、本実施形態の予測方法と、糖尿病性網膜症の診断指標である眼底所見の結果の確認とを組み合わせることで、より正確な、糖尿病性網膜症の進行の予測を行うことができる。
【0039】
酸化型アルブミン%の増加は、酸化ストレスと関連すると考えられるため、本実施形態の糖尿病合併症の進行の予測方法は、酸化ストレスが関連する他の疾患の進行の予測にも用いることができる。
【0040】
一態様において、本実施形態は、上記の工程(a1)~(c1)を含む、糖尿病合併症の診断方法(特に、インビトロ診断方法)に関する。
【0041】
一態様において、本実施形態は、上記の工程(a1)~(b1)及び下記工程(c1’)を含む、糖尿病哺乳動物における糖尿病合併症が進行するか否かを判断するためのデータ取得方法にも関する。
【0042】
工程(c1’)は、工程(a1)の測定値と工程(b1)の測定値とを比較する工程である。工程(a1)の酸化型アルブミン%の測定値よりも工程(b1)の酸化型アルブミン%の測定値が高い場合に、当該哺乳動物の糖尿病合併症が進行すると判断することができ、工程(a1)の測定値と工程(b1)の測定値が同じである場合に、当該哺乳動物の糖尿病合併症は進行していないと判断することができ、工程(a1)の測定値よりも工程(b1)の測定値が低い場合に、当該哺乳動物の糖尿病合併症は改善していると判断することができる。なお、上述のとおり、酸化型アルブミン%の増加は、還元型アルブミン%の減少を意味する。よって、本実施形態の別の態様において、酸化型アルブミン%の測定値の増加の代わりに、還元型アルブミン%の測定値の減少を確認することで、工程(c1’)を実施してもよい。
【0043】
本実施形態の方法によれば、糖尿病合併症の管理を行うこともできる。すなわち、上記工程(a1)~(c1)を含む方法によって、糖尿病合併症の進行が予測される場合に、生活習慣や食事、治療法等を見直し、見直しの一定期間後、見直し前の酸化型アルブミン%の測定を工程(a1)として、再度工程(b1)~(c1)を行うことで、見直した生活習慣や食事、治療法等の評価をし、糖尿病合併症の管理及び抑制を行うことができる。
【0044】
本実施形態の酸化型・還元型アルブミンを指標とした管理と、従来の血糖管理とを組み合わせることで、より効果的で確実な、糖尿病合併症の管理を実施することができる。従来、糖尿病の管理に関してはHbA1c、糖化アルブミン、血糖等、血糖関連検査を用いた管理が行われてきた。しかしながら、血糖関連検査の管理が適切に行われてきた患者においても完全に糖尿病合併症を抑制することは不可能であった。本実施形態によれば、酸化ストレスに着目した新たな指標を用いた管理を提供することができる。この新たな指標を、従来の血糖管理と併用して多面的に糖尿病患者の管理をすることで、糖尿病合併症のより正確かつ簡便な管理が可能となる。
【0045】
例えば、上記工程(b1)を、工程(a1)のおよそ1か月後に行うことを毎月繰り返し、この際に、酸化型アルブミン%のみならず、従来の血糖管理の指標であるHbA1c等も測定することで、糖尿病合併症のより正確かつ簡便な管理をすることができる。
【0046】
本実施形態はまた、以下の工程(a2)~(d2)を含む、糖尿病合併症抑制物質のスクリーニング方法にも関する。
【0047】
工程(a2)は、哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を測定する工程であり、上記工程(a1)を参照して実施することができる。哺乳動物は上記のものであれば特に限定されず、一態様において、好ましくは、ヒト又はマウス、ラット等のモデル動物である。
【0048】
工程(b2)は、哺乳動物に候補物質を投与後、哺乳動物由来の試料中の酸化型アルブミン%を再測定する工程であり、工程(b1)及び工程(a2)を参照して実施することができる。候補物質の投与は、候補物質に適した当業者に公知の手法を用いて実施することができる。投与は、単回投与でもいいし、一定期間の連続した投与であってもよい。
【0049】
工程(b2)における測定は、候補物質の単回投与の直後に行ってもよいし、一定期間の連続投与後に行ってもよいし、単回投与又は一定期間の連続投与後、所定の期間経過後に行ってもよい。例えば、工程(a2)における測定の1ヶ月程度後、又は1ヶ月毎に、工程(b2)を測定することができる。この際、従来の血糖管理の指標であるHbA1c等も測定することで、候補物質のより正確かつ多面的な評価をすることができる。
【0050】
工程(c2)は、工程(a2)の測定値と工程(b2)の測定値とを比較する工程である。
【0051】
工程(d2)は、工程(a2)の酸化型アルブミン%の測定値よりも工程(b2)の酸化型アルブミン%の測定値が低い場合に、工程(b2)で投与された候補物質を、糖尿病合併症抑制物質として選択する工程である。なお、酸化型アルブミン%の減少は、還元型アルブミン%の増加を意味する。よって、本実施形態の別の態様において、酸化型アルブミン%の測定値の減少の代わりに、還元型アルブミン%の測定値の増加を確認することで、工程(d2)を実施してもよい。
【0052】
このような方法により、候補物質の評価が可能となる。候補物質の投与の代わりに、特定の生活習慣の適用、食事の投与、治療法の実施を行うことで、これらの糖尿病合併症抑制作用を評価することもできる。
【0053】
本実施形態は、さらに、上記の方法のいずれかを実施するためのキットにも関する。
そのようなキットは、酸化型アルブミン及び還元型アルブミンを含む試料の安定化剤と、酸化型アルブミン及び還元型アルブミンを含む試料の測定手段とを含む。測定手段は、上記の方法について詳述したとおりである。
【0054】
安定化剤は、酸及び塩を含み、さらに糖類を含んでいてもよい。酸及び塩並びに糖類については上述したとおりであり、安定化剤中の各成分の濃度及び添加量は、上述の最終濃度及びpH(測定試料中の濃度、pH)を参照して適宜設定することができる。本実施形態の安定化剤は、粉体又は液体どちらの状態でもよい。粉体の状態である場合は、溶媒を用いて上述の最終濃度及びpHを考慮して適宜溶解すればよい。溶媒としては、例えば蒸留水、減菌水又は生理学的に適合性の水性電解液等が挙げられる。生理学的に適合性の水性電解液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール等、具体的にはエタノール、ポリアルコール等、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50等と併用してもよい。
【0055】
一態様において、本実施形態の安定化剤は、液体であり、20mM以上、好ましくは50mM以上、より好ましくは70mM以上の酸及び塩を含み、pHが酸性であり、pH3.0以上7.0以下であることが好ましく、pH4.0以上6.5以下であることがより好ましく、pH4.0以上6.0以下であることがさらに好ましく、pH4.0以上pH5.5以下であることが特に好ましい。
【実施例
【0056】
[実施例1]HNA%の測定
(1)安定化剤の調製
クエン酸、クエン酸ナトリウム及びグルコースを用いて、血液と混合後のクエン酸緩衝液濃度が70mM以上、グルコース濃度が50mM以下、及び血液と混合後のpHが6.0~7.5の範囲になるように安定化剤を調整した。
【0057】
(2)サンプルの調製
糖尿病患者、164人から、(1)において調整された安定化剤が1.5ml入った採血管に血液を約2ml採取した。なお、この状態で還元型・酸化型アルブミンは室温で25時間安定であることを確認した。通常に採血した採血管と同様、遠心分離し、得られた血漿を-80℃で測定時まで保存した。
【0058】
(3)HPLCによるアルブミンの分析
得られた血清サンプル又は血漿サンプルを用いて、HPLC(島津製作所製)で測定を行った。HPLCには、イオン交換基としてDEAE基(ジエチルアミノエチル基)を有するイオン交換樹脂が充填された陰イオン交換カラム(7.5mmΦ×50mmL)を使用した。以下のA液でカラムを平衡化後、サンプル3μLをロードし、以下の2種類の溶離液を用いたリニアグラジエント法によって測定した。
A液(アルブミン吸着液):60mM硫酸ナトリウムを含む25mMリン酸緩衝液
(pH6.0)
B液(アルブミン溶離液):1M MgCl2溶液
【0059】
検出は励起波長280nm、検出波長340nmにて蛍光検出により行った。測定結果の一例として、上記(2)と同様の手法で健常人について調製した血清サンプルを用いて10分以内で分離した例を図1に示す。
【0060】
結果から、下記式を用いて、アルブミン中のヒト酸化型アルブミンの割合(HNA%)を算出した。
HNA%=[ヒト酸化型アルブミン/(ヒト還元型アルブミン+ヒト酸化型アルブミン)]x100
【0061】
[試験例1]測定精度の確認
上記(2)と同様の手法で健常人について調製したサンプルを測定時まで-80℃で冷凍保存し、上記(3)の方法で同日内に10回分析を実施し、下記式を用いてHMA%を60算出して測定精度を確認したところ、平均値:79.9%、標準偏差(SD):0.24、変動係数(CV):0.30%であり、非常に高い測定精度であった。
【0062】
また、上記(2)と同様の手法で健常人について調製したサンプルを測定時まで-80℃で冷凍保存し、上記(3)の方法で10日間毎日分析を実施し、下記式を用いてHMA%を算出して測定精度を確認したところ、平均値:80.1%、標準偏差(SD):0.21、変動係数(CV):0.27%であり、やはり非常に高い測定精度であった。
ヒト還元型アルブミン%(HMA%)
=[ヒト還元型アルブミン/(ヒト還元型アルブミン+ヒト酸化型アルブミン)]x100
【0063】
[比較例1]HbA1cの測定
EDTA-NaF採血管を用い164名の糖尿病患者よりそれぞれ約2ml採血し、サンプル5μLをロードし、東ソー自動グリコヘモグロビン分析計G9(HPLC法)を用いて常法により測定した。
【0064】
[比較例2]グリコアルブミン(GA)の測定
サンプルは164名の糖尿病患者の血清4μLを日立LABOSPECT008装置にロードし、ルシカGA-L試薬(酵素法、旭化成ファーマ)を用いて常法により測定した。
【0065】
[実施例2]糖尿病合併症と酸化型アルブミンの相関
(1)糖尿病性神経障害と酸化型アルブミンの相関
実施例1で測定した164サンプルのHNA%値を、神経障害の有無に基づいて分類し、t検定により2群の鎖を検定した結果を図2Aに示す。図2A中、ダイヤモンドの上端と下端は95%信頼区間を示し、中央の長い線が群平均、その上下の2本の直線はオーバーラップマークと呼ばれる。2群間でオーバーラップマークが重ならない場合に有意差があると判定される。また、*:p<0.05である(以下、図2~5中の他のダイヤモンド及び「*」についても同様)。
図2Aから明らかなとおり、糖尿病性神経障害の有無と、HNA%とは相関し、これまで客観的マーカーのなかった糖尿病性神経障害の発症に関して、HNA%の増加(すなわち、HMA%の低下)が指標となることが示された。
一方、比較例1及び2で測定したHbA1c値及びGA値についても同様に分類して分析したところ、糖尿病性神経障害の有無とこれらの値の違いに有意差は見られなかった(図2B図2C)。
【0066】
(2)糖尿病性腎症と酸化型アルブミンの相関
糖尿病性腎症の病期は、尿タンパク値又はアルブミン値に基づいて以下の5つに分類されるため(2013年12月改訂。日本糖尿病学会、糖尿病性腎症合同委員会)、これらの値に基づいて、糖尿病患者を糖尿病性腎症の病期を分類した。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例1で測定した164サンプルのHNA%値を、各患者の糖尿病性腎症の病期1~5に基づいて分類し、ANOVA分析したものを図3Aに示す。図3Aから明らかなとおり、糖尿病性腎症のステージと、HNA%値が相関し、糖尿病性腎症の悪化に関して、HNA%の増加(すなわち、HMA%の低下)が指標となることが示された。
【0069】
一方、比較例1及び2で測定したHbA1c値及びGA値についても同様に分類・分析したところ、糖尿病性腎症の病期と相関する傾向はみられたが、特にステージが高くなると、神経障害の病期とこれらの値とは必ずしも相関しなかった(図3B図3C)。
【0070】
(3)糖尿病性網膜症と酸化型アルブミンの相関
糖尿病性網膜症の病期は、広く普及しているDavis分類では、眼底所見に基づき以下の3つに分けられる。
【0071】
【表2】
【0072】
眼底所見に基づいて、糖尿病患者の糖尿病性網膜症の病期を、以下の3つに分類した。
0:網膜症なし
1:単純網膜症(SDR)
2:増殖前網膜症以上(PPDR/PDR)
【0073】
実施例1で測定した164サンプルのHNA%値を、各患者の糖尿病性網膜症の病期0~2に基づいて分類し、ANOVA分析したものを図4Aに示す。図4Aから明らかなとおり、糖尿病性網膜症のステージ(特に、SDRとそれ以上のステージ)と、HNA%値が相関し、糖尿病性網膜症の悪化に関して、HNA%の増加(すなわち、HMA%の低下)が指標となることが示された。これまで眼球検査なしには判断できなかった糖尿病性網膜症のバイオマーカーとして、HNA%が使用可能であることが示された。
【0074】
一方、比較例1及び2で測定したHbA1c値及びGA値についても同様に分類・分析したところ、糖尿病性網膜症の病期との相関は明らかではなかった(図4B図4C)。
【0075】
(4)糖尿病患者の心疾患と酸化型アルブミンの相関
実施例1で測定した164サンプルのHNA%値を、各患者の採血時の心疾患の既往(糖尿病発症前の既往も含む)に基づいて分類し、t検定により2群の差を検定した結果を図5Aに示す。図5Aから明らかなとおり、糖尿病患者の心疾患の既往とHNA%値が相関し、糖尿病患者の心疾患の発症に関して、HNA%の増加(すなわち、HMA%の低下)が指標となることが示された。
【0076】
一方、比較例1及び2で測定したHbA1c値及びGA値についても同様に分類・分析したところ、糖尿病患者の心疾患の既往との相関は明らかではなかった(図5B図5C)。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、糖尿病合併症の発症又は悪化等の進行の予測を、非常に簡便に行うことができる。さらに、糖尿病合併症の管理及び抑制のため、糖尿病合併症の進行を防ぐため、ひいては未病の領域において酸化ストレスを増減させる、生活習慣、食事、サプリメント等の評価も行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5