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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-17
(45)【発行日】2023-05-25
(54)【発明の名称】遠心沈降式の粒径分布測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/04 20060101AFI20230518BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20230518BHJP
   G01N 21/49 20060101ALI20230518BHJP
   G01N 21/03 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
G01N15/04 A
G01N15/04 B
G01N21/01 B
G01N21/49 Z
G01N21/03 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020553915
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2019042264
(87)【国際公開番号】W WO2020090776
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018205631
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲司
(72)【発明者】
【氏名】赤松 武
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-279143(JP,A)
【文献】実開昭62-195747(JP,U)
【文献】特開平03-087636(JP,A)
【文献】特開2005-345086(JP,A)
【文献】実開昭62-115140(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/04
G01N 21/01
G01N 21/49
G01N 21/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料及び分散媒が収容されるセルを保持し、回転機構により回転されるセル保持体と、
前記セル保持体を回転可能に収容する収容空間を有する筐体と、
前記セルを冷却するための冷却用熱交換器とを備え
前記冷却用熱交換器により冷却された気体を前記収容空間に供給する供給路とを備える、遠心沈降式の粒径分布測定装置。
【請求項2】
前記収容空間を形成する上壁には、前記回転機構により回転しているセルに前記測定試料を導入するための空間部が形成されており、
前記供給路は、その一端が前記空間部に接続されており、前記空間部を介して前記収容空間に冷却された気体を供給する、請求項記載の遠心沈降式の粒径分布測定装置。
【請求項3】
前記供給路の他端は、前記収容空間の径方向外側に接続されており、
前記収容空間の気体が前記供給路を介して循環するように構成されている、請求項記載の遠心沈降式の粒径分布測定装置。
【請求項4】
前記収容空間の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサの検出温度により前記冷却用熱交換器を有する冷却器を制御する制御部とをさらに備える、請求項1乃至の何れか一項に記載の遠心沈降式の粒径分布測定装置。
【請求項5】
前記セルに光を照射する光照射部と、
前記セルを透過した光を検出する光検出部と、
前記光検出部からの光強度信号を取得して、粒径分布を算出する粒径分布演算部とをさらに備える、請求項1乃至の何れか一項に記載の遠心沈降式の粒径分布測定装置。
【請求項6】
前記粒径分布演算部は、前記温度センサの検出温度に基づいて、前記粒径分布を補正する、請求項4を引用する請求項5に記載の遠心沈降式の粒径分布測定装置。
【請求項7】
前記光照射部及び前記光検出部が前記収容空間の外部に設けられている、請求項又は記載の遠心沈降式の粒径分布測定装置。
【請求項8】
前記セル保持体の回転軸は上下方向に延びており、
前記収容空間を形成する面において前記セル保持体と対向する上下面が平面である、請求項1乃至の何れか一項に記載の遠心沈降式の粒径分布測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心沈降式の粒径分布測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の遠心沈降式の粒径分布測定装置としては、測定試料及び分散媒を収容したセルを回転させ、分散媒中で測定試料中の粒子を沈降させて、測定試料の粒径分布を測定するものがある。
【0003】
この粒径分布測定装置では、セルを保持するセル保持体を回転させるため、空気抵抗による摩擦熱が発生する。そして、この摩擦熱によってセル中の分散媒の温度が変化し、分散媒の粘性、密度又は屈折率が変化してしまう。特に粘性や密度が変化すると、粒子の沈降速度に大きな影響が出てしまう。その結果、粒径分布測定の精度を悪くなってしまう。
【0004】
このため、特許文献1に示すように、セル保持体の上部又は下部に設けた送風ファンにより送風によってセル又はセル保持体を冷却するものが考えられている。
【0005】
しかしながら、セル又はセル保持体に送風するだけでは、セル又はセル保持体の冷却性能が十分ではなく、セルに収容された分散媒の温度を一定に保つことが難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】東川 喜昭、「自然/遠心沈降式粒度分布測定装置CAPA-700」、Readout、株式会社堀場製作所、1992年1月、No.4、p.23-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、セルの冷却性能を向上させて、分散媒の温度を一定に保ち、測定精度を向上させることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る遠心沈降式の粒径分布測定装置は、測定試料及び分散媒が収容されるセルを保持し、回転機構により回転されるセル保持体と、前記セル保持体を回転可能に収容する収容空間を有する筐体と、前記セルを冷却するための冷却用熱交換器とを備えることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、冷却用熱交換器によりセルを冷却しているので、分散媒の粘度、密度又は屈折率を一定に保つことができ、粒子の沈降速度を正確に測定することができる。その結果、粒径分布を精度良く測定することができる。
【0010】
前記冷却用熱交換器により冷却された気体を前記収容空間に供給する供給路とを備えることがのぞましい。この構成であれば、冷却用熱交換器を収容空間の外部に設けることができるので、収容空間の内部構成を簡単にすることができ、局所的な摩擦熱を低減することができる。
【0011】
ラインスタート法による遠心沈降式の粒径分布測定装置とするためには、回転機構より回転しているセル内に前記測定試料を導入する試料導入機構を設けることが考えられる。この試料導入機構は、収容空間を形成する上壁においてセル保持体の回転中心部に設けられる。この構成とした場合には、前記収容空間を形成する上壁には、前記回転機構により回転しているセルに前記測定試料を導入するための空間部が形成される。この空間部としては、試料導入機構の試料導入路だけでなく、試料導入機構を設けるために形成される隙間等も含まれる。
また、収容空間においてセル保持体が回転すると、セル保持体の回転中心部が負圧となる。この特性を生かして、冷却された気体を収容空間に導入しやすくするためには、前記供給路は、その一端が前記空間部に接続されており、前記空間部を介して前記収容空間に冷却された気体を供給することが望ましい。この構成であれば、冷却された気体がセル保持体に沿って径方向外側に流れるのでセル保持体全体を冷却して温度を一定に保つことができる。
【0012】
収容空間の温度を一定に保ちやすくするためには、前記供給路の他端は、前記収容空間の径方向外側に接続されており、前記収容空間の気体が前記供給路を介して循環するように構成されていることが望ましい。
【0013】
セルの温度を一定に制御しやすくするためには、遠心沈降式の粒径分布測定装置が、前記収容空間の温度を検出する温度センサと、前記温度センサの検出温度により前記冷却機構を制御する制御部とをさらに備えることが望ましい。また、この構成であれば、セルの温度を所望の温度に制御することもできる。
【0014】
遠心沈降式の粒径分布測定装置は、前記セルに光を照射する光照射部と、前記セルを透過した光を検出する光検出部と、前記光検出部からの光強度信号を取得して、粒径分布を算出する粒径分布演算部とをさらに備えている。
【0015】
この構成において、温度センサを設けた構成を生かしてより精度良く粒径分布を測定するためには、前記粒径分布演算部は、前記温度センサの検出温度に基づいて、前記粒径分布を補正することが望ましい。
【0016】
光照射部及び/又は光検出部が収容空間の内部に設けられた構成では、回転するセル保持体と光照射部及び/又は光検出部との間で局所的に摩擦熱が大きくなってしまい、温度ムラが生じて温度調整が難しくなってしまう。
この問題を好適に解決するためには、前記光照射部及び前記光検出部が前記収容空間の外部に設けられていることが望ましい。
この構成であれば、光照射部及び光検出部によって局所的に摩擦熱が生じることがなく温度ムラを低減でき、冷却機構による効果と相俟って収容空間の温度を一層一定に保つことができる。
【0017】
前記セル保持体の回転軸は上下方向に延びており、前記収容空間を形成する面において前記セル保持体と対向する上下面が平面であることが望ましい。
この構成であれば、セル保持体と対向する上下面が平面、つまり、凹凸のない形状であるので、局所的に摩擦熱が生じることがなく温度ムラをより一層低減できる。
【発明の効果】
【0018】
以上に述べた本発明によれば、セルの冷却性能を向上させて、分散媒の温度を一定に保ち、測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置の構成を模式的に示す図である。
図2】同実施形態のセルが取り付けられたセル保持体の平面図である。
図3】同実施形態の光照射部の構成を模式的に示す図であり、(A)は側方から見た図であり、(B)は上方から見た図である。
図4】同実施形態の測定試料導入時の状態を模式的に示す部分断面図である。
図5】同実施形態の粒径分布測定装置の測定手順及び報知部の報知態様を示す模式図である。
図6】変形実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置の構成を模式的に示す図である。
図7】変形実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置の構成を模式的に示す図である。
図8】変形実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置の構成を模式的に示す図である。
図9】変形実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置の構成を模式的に示す図である。
図10】変形実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置の構成を模式的に示す図である。
図11】透光窓の変形例を示す模式図である。
図12】測定セルの変形例を示す断面図及び分解図である。
図13】測定セルの変形例を示す断面図である。
図14】測定セルの変形例を示す断面図である。
図15】測定セルの変形例において、(1)試料準備の段階、(2)回転開始前の状態、(3)回転開始後の状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0020】
100・・・遠心沈降式の粒径分布測定装置
C ・・・筐体
S ・・・収容空間
2 ・・・測定セル
3 ・・・セル回転機構
31 ・・・セル保持体
4 ・・・光照射部
5 ・・・光検出部
8 ・・・冷却機構
81 ・・・冷却器
82 ・・・供給路
TS ・・・温度センサ
10 ・・・制御部
15 ・・・粒径分布演算部
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る遠心沈降式の粒径分布測定装置について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
本実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置100は、例えばラインスタート法により粒径分布測定を行うものであり、図1に示すように、測定試料及び分散媒を収容する測定セル2と、当該測定セル2を回転させるセル回転機構3と、当該セル回転機構3による測定セル2の回転通過領域を挟んで設けられた光照射部4及び光検出部5とを備えている。なお、本実施形態の測定試料は、粒子が分散された試料懸濁液であり、分散媒は、密度勾配溶液である。
【0023】
測定セル2は、例えば樹脂製の透光性を有する材料から形成された角形セルである。この測定セル2には、密度勾配が形成された溶液である密度勾配溶液が収容される。この密度勾配溶液は、例えば、濃度の異なる複数のショ糖溶液を用いて形成されており、測定セル2の底側に行くに従って徐々に密度が大きくなるように多層状に収容されている。本実施形態では、参照セル6も設けられており、当該参照セル6には水が収容されている。
【0024】
セル回転機構3は、測定セル2に対して密度勾配の小さい方から大きい方に向かって遠心力が加わるように回転させるものである。
【0025】
具体的にセル回転機構3は、測定セル2及び参照セル6が着脱可能に取り付けられるセル保持体31と、当該セル保持体31を回転させる回転部32とを有している。
【0026】
セル保持体31は、図2に示すように、例えば円盤形状をなすものであり、その回転中心を挟むように測定セル2及び参照セル6が取り付けられる。ここで、測定セル2は、密度勾配の方向がセル保持体31の径方向に沿うように取り付けられる。また、セル保持体31には、セル形状に対応した取り付け凹部31aが形成されており、当該取り付け凹部31aにセル2、6を嵌め入れることによって取り付けられる。さらに、測定セル2及び参照セル6と取り付け凹部31aとの間には、ガイド機構(不図示)が設けられている。当該ガイド機構は、取り付け凹部31a又はセル2、6の一方に設けられたガイドレールと、他方に設けられたガイド溝とから構成される。セル2、6に設けられるガイドレール又はガイド溝は、セル2、6に一体に設けられたものであってもよいし、セル2、6に装着される部材に設けられたものであっても良い。
【0027】
そして、測定セル2及び参照セル6は、セル保持体31に対して着脱可能に構成されている。これらセル2、6がセル保持体31に対して着脱可能とされることによって、セル2、6は、装置本体に対して着脱可能となる。なお、セル2、6を装置本体から取り外す際には、開閉蓋13は開けられた状態である。測定セル2は装置本体に対して着脱可能に取り付けられているので、ラインスタート法による粒径分布測定を行う粒径分布測定装置100において測定セル2の洗浄を簡単にすることができる。特に、セル保持体31に対して測定セル2を着脱可能にすることによって装置本体から取り外せるように構成しているので、その取り外し作業を容易にして、洗浄時における取り扱いが簡単になる。
【0028】
また、セル保持体31の上面には、測定セル2及び参照セル6が回転中に不意に外れないようにするためのカバー体33が設けられている(図1参照)。セル保持体31の上面をカバー体33で覆うことによって、セル保持体31の上面の凹凸構造が少なくなり、回転時の摩擦抵抗が小さくなり、セル保持体31を回転しやすくするとともに、回転により生じる摩擦熱を小さくすることができる。
【0029】
測定セル2のセル保持体31への取り付け方としては、密度の大きい方が径方向外側となるように取り付けられる。これにより、セル保持体31が回転することによって、測定セル2に対して密度勾配の小さい方から大きい方に向かって遠心力が加わることになる。
【0030】
回転部32は、図1に示すように、セル保持体31の下面における中心部に接続された回転軸321と、当該回転軸321を回転させるモータ322とを有している。当該モータ322は、制御部10によってその回転数が制御される。なお、回転軸321は、セル保持体31に一体形成されたものであってもよいし、別体に形成されたものであっても良い。また、回転軸321は、1つの部材から構成されるものであってもよいし、複数の部材を接続して構成されたものであっても良い。
【0031】
上記のセル保持体31は、粒径分布測定装置100の筐体Cの内部に形成された収容空間Sに収容されている。当該収容空間Sを形成する下壁11には、回転部32の回転軸321が貫通している。なお、収容空間Sを形成する上壁12は、測定セル2を着脱する際に開閉される開閉蓋13により形成されている。
【0032】
光照射部4は、図1に示すように、セル2、6の回転通過領域(セル保持体31)の下方に設けられている。本実施形態の光照射部4は、収容空間Sの下壁11よりも下側に設けられており、当該下壁11に形成された透光窓W1を介してセル2、6に向かって光を照射する。具体的に光照射部4は、光源41と、当該光源41から出射された光を集光する集光レンズ42とを有している。光照射部4により射出された光は、セル保持体31に形成された光通過孔31hを通って測定セル2又は参照セル6に照射される。
【0033】
光源41は、図3に示すように、櫛状の電極を有するLEDである。そして、電極LED41は、その電極の配線方向がセル2、6の回転方向に沿うように設けられている。
【0034】
光検出部5は、図1に示すように、セル2、6の回転通過領域(セル保持体31)の上方に設けられている。本実施形態の光検出部5は、収容空間Sの上壁12よりも上側に設けられており、当該上壁12に形成された透光窓W2を介してセル2、6を透過した光を検出する。具体的に光検出部5は、光検出器51と、当該光検出器51により検出される光を集光する集光レンズ52とを有している。光検出部5により検出される光は、セル2、6を透過してカバー体33に形成された光通過孔33hを通り、集光レンズ52により集光される。
【0035】
ここで、光照射部4の集光レンズ42と光検出部5の集光レンズ52とは、光検出器51による観察領域が、電極を挟んで設けられた配線41yを含まない発光領域となるように設定されている。これにより、光検出器51にLED41の配線41yが結像しないようにして、測定精度が低下しないようにすることができる。
【0036】
光検出器51により得られた光強度信号は、粒径分布演算部15により取得されて、粒径分布演算部15によって粒径分布データが算出される。当該粒径分布データは、図示しない表示部によってディスプレイ上に表示される。
【0037】
本実施形態の粒径分布測定装置100は、図1及び図4に示すように、セル回転機構3より回転している測定セル2内に測定試料を導入する試料導入機構7を備えている。
【0038】
試料導入機構7は、セル回転機構3に設けられ、一端部が測定セル2に接続され、他端部がセル回転機構3の回転中心部において開口する試料導入管71を有している。
【0039】
試料導入管71は、測定セル2のキャップに一体形成されたものであってもよいし、測定セル2のキャップに着脱可能に接続されてものであっても良い。試料導入管71と測定セル2のキャップとが一体形成されている場合には、当該試料導入管71も測定セル2と同様にセル保持体31に対して着脱可能となる。
【0040】
ここで、試料導入管71の他端部は、当該他端部の開口が上方を向くように変形ブロック75により例えば円弧状などの曲線状に変形されている。
【0041】
また、試料導入機構7は、セル回転機構3の外部に設けられ、試料導入管71の他端部に対して進退可能に設けられた試料導入針72と、試料導入針72を退避方向に付勢する弾性体73とを有している。
【0042】
試料導入針72は、セル保持体31の上部にある開閉蓋13に昇降移動可能に設けられている。試料導入針72の上端部には、例えばピペット等により測定試料が注入される注入部74が設けられている。注入部74には、ピペットの先端部が差し込まれて測定試料が注入され、当該注入部74を介して試料導入針72から試料導入管71に測定試料が導入される。
【0043】
弾性体73は、例えばコイルばねであり、試料導入針72を上方向に付勢して試料導入針72が開閉蓋13の下面から上側に収納されるようにするものである。
【0044】
そして、この試料導入機構7において、測定試料を導入する場合には、例えばピペットを注入部74に差し込んで試料導入針72を下方向に押し込む。これにより試料導入針72が試料導入管71の他端部に差し込まれた状態となる。この状態で、注入部74に測定試料を注入すると、試料導入針72から試料導入管71に測定試料が導入される。このように試料導入機構7の試料導入針72が試料導入管71の他端部に対して進退移動可能であり、試料導入管71の他端部に進入した状態で測定試料が導入されるので、試料導入管71に測定試料を導入しやすくできる。
【0045】
一方、測定試料の導入後において、例えばピペットを注入部74から外すと、試料導入針72は弾性体73の弾性復帰力によって上方向に移動し、試料導入針72は開閉蓋13の下面よりも上側に引っ込む。このように試料導入後に試料導入針72が弾性体73により試料導入管71の他端部から退避するので、セル回転機構3が回転する際に試料導入針72が試料導入管71に接触して回転の邪魔となったり、それらが破損してしまうことを防ぐことができる。ここで、測定試料導入後においては、測定中における測定試料の揮発を防止するために、試料導入管71を閉塞して、測定セル2の内部空間と外部とを遮断する遮断機構を設けてもよい。この遮断機構の一例としては、試料導入管71の他端部開口を閉塞する蓋を設けることが考えられる。
【0046】
この試料導入機構7を用いて測定試料を測定セル2内に導入すると、ラインスタート法による粒径分布測定が開始される。ラインスタート法では、測定試料を導入してからの時間を計測することになるが、粒径分布測定装置100の測定開始ボタン(不図示)を押して測定を開始する必要がある。
【0047】
本実施形態では、測定試料を導入するタイミングを装置側でコントロールすることによって、ユーザが測定試料を導入する操作と装置100の測定開始ボタンを押す操作の両方を同時にする手間を省略している。具体的に粒径分布測定装置100は、試料導入機構7を用いたラインスタート法の開始タイミングを報知する報知部14を有している。この報知部14は、例えば音により試料導入タイミングをユーザに知らせるものである。例えば、カウントダウンにより試料導入タイミングを知らせることが考えられる。その他、ディスプレイ(不図示)上に試料導入タイミングを表示するものであっても良い。粒径分布演算部15は、この試料導入タイミングから粒径分布測定を開始する。このように報知部14により試料導入タイミングを報知しているので、ユーザが試料導入機構7を用いて測定試料を導入する際に、当該試料導入タイミングとラインスタート法の測定開始タイミングとを合わせやすくすることができる。
【0048】
次に粒径分布測定装置100の測定手順について報知部14による報知態様とともに図5を参照して簡単に説明する。
【0049】
まず空の測定セル2をセル保持体31にセットする。
【0050】
準備完了を示す「ready」ボタンを押して、回転を開始するための「START」ボタンを押し、セル回転機構3により測定セル2が設定回転数(例えば500rpm)に到達するのを待つ。
【0051】
その後、試料導入機構7を介して濃度の異なる複数のショ糖溶液を高濃度側から測定セル2に注入して、測定セル2内に密度勾配溶液を形成する。
【0052】
そして、校正するための「Cal」ボタンを押して、「START」ボタンを押すと、報知部14が「ピッ・ピッ・ピッ・ピー」と鳴り出す。最後の「ピー」のタイミングで校正液を試料導入機構7を介して測定セル2に導入する。最後の「ピー」のタイミングは、校正液の導入/回転上昇スタート/データ取得開始のタイミングである。これにより、校正液の測定が始まる。
【0053】
校正液の測定が終了すると、「Ready」ボタンと「START」ボタンを押して、500回転まで戻す。
【0054】
そして、測定を開始するための「Meas」ボタンを押して、「START」ボタンを押すと、報知部14が「ピッ・ピッ・ピッ・ピー」と鳴り出す。最後の「ピー」のタイミングで測定試料を試料導入機構7を介して測定セル2に導入する。最後の「ピー」のタイミングは、測定試料の導入/回転上昇スタート/データ取得開始のタイミングである。これにより、測定試料の測定が始まる。
【0055】
しかして、本実施形態の粒径分布測定装置は、図6に示すように、粒径分布測定装置100が測定セル2及び参照セル6を冷却する冷却機構8をさらに備えている。
【0056】
この冷却機構8は、セル保持体31を回転可能に収容する収容空間Sに冷気を供給してセル2、6を冷却するものである。具体的に冷却機構8は、冷却器81と、当該冷却器81により冷却された気体を収容空間Sに供給する供給路82とを備えている。冷却器81は、冷却用熱交換器を用いたものであり、ペルチェ素子を用いたものであってもよいし、冷却媒体を用いたものであってもよい。図6では、冷却器81を装置筐体Cの外部に設けた例を示しているが、装置筐体Cの内部に設けたものであっても良い。
【0057】
また、供給路82の一端は、収容空間Sの上壁に形成された測定試料を導入するための空間部接続されており、供給路82の他端は、収容空間Sの径方向外側に接続されている。なお、空間部は、ピペット等の試料導入器具が差し込まれる空間、試料導入機構7の試料導入針72の内部流路又は試料導入針72を設けるために形成された空間である。具体的に供給路82の一端は、収容空間Sの上壁に形成された空間部の上部開口に接続されており、供給路82の他端は、収容空間Sの側壁に開口している。ここで、供給路82の他端は、光照射部4及び光検出部5が設けられた側の側壁に開口している。
【0058】
このように接続された供給路82は、空間部に接続された一端が負圧となり、径方向外側に接続された他端が正圧となる。供給路82においては他端から一端に向かって気体が流れる。その途中で気体が冷却器81により冷却されて、冷却された気体が一端から収容空間Sの中央部に供給される。そして、その冷却された気体は、収容空間Sにおいて径方向外側に向かって流れ、供給路82の他端に流入する。これにより、気体が供給路82を介して循環することになる。この循環経路は、光照射部4及び光検出部5が配置された測定領域を通るので、当該測定領域における冷却性能を向上させることができる。なお、供給路82に気体を循環させるための循環ポンプを設けても良い。
【0059】
この冷却機構8の冷却器81は、制御部10により制御される。具体的には、収容空間Sの温度を検出する温度センサTSが設けられており、当該温度センサTSの検出温度に基づいて冷却器81が制御される。なお、循環ポンプが設けられている場合には、制御部10は、循環ポンプの回転数を制御して循環流量を調整するようにしても良い。
【0060】
この冷却機構8により、収容空間Sの温度を一定に保つことができるので、密度勾配溶液の粘度、密度又は屈折率を一定に保つことができ、粒子の沈降速度を正確に測定することができる。その結果、粒径分布を精度良く測定することができる。また、収容空間Sの内面(特に上面及び下面)が面一で凹凸の無い形状としているので、局所的に摩擦熱が生じることがなく温度ムラを低減でき、冷却機構8による効果と相俟って収容空間Sの温度をより一層一定に保つことができる。
【0061】
その他、粒径分布測定装置100の粒径分布演算部15は、光検出器51からの光強度信号から算出した粒径分布データを、前記温度センサTSの検出温度を用いて温度補正するものであっても良い。
【0062】
<本実施形態の効果>
本実施形態の遠心沈降式の粒径分布測定装置100によれば、冷却用熱交換器81によりセルを冷却しているので、分散媒の粘度、密度又は屈折率を一定に保つことができ、粒子の沈降速度を正確に測定することができる。その結果、粒径分布を精度良く測定することができる。
【0063】
ここで、供給路82の一端は、セル回転機構3により回転している測定2セルに測定試料を導入するための空間部に接続されているので、収容空間Sにおいてセル保持体31の回転中心部が負圧となる特性を生かして、冷却された気体を収容空間に導入しやすくすることができる。
【0064】
また、供給路82を介して収容空間Sの気体が循環するように構成されているので、収容空間Sの温度を一定に保ちやすくすることができる。
【0065】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0066】
冷却機構8の供給路82の構成としては次のものが考えられる。
図7図8及び図9に示すように、供給路82の一端を開閉蓋13において試料導入機構7が設けられた部分(空間部)に接続しても良い。図7図8において、供給路82の一端を試料導入機構7の試料導入針72が設けられた凹部13Mに接続されている。そして、図7の例では、試料導入針72と当該試料導入針72が刺し通される開閉蓋13の貫通孔13hとの間から冷却された気体を導入する構成である。図8の例では、試料導入針72の内部流路から冷却された気体を導入する構成である。図9の例では、試料導入針72を支持する支持体76に例えばメッシュ状の通気路761を設けた構成である。この支持体76は、開閉蓋13の貫通孔13hに取り付けられる。
【0067】
また、図10に示すように、試料導入機構7が試料導入針72及び弾性体73を有さずに、ピペットなどにより試料導入管71に直接試料を注入する構成が考えられる。この場合、開閉蓋13には、試料を導入するための空間部としてピペットなどが挿入される貫通孔13hが形成されている。この構成の場合、供給路82の一端を貫通孔13hに連通するように接続する。図10では、凹部13Mの底部に貫通孔13hが形成されているので、供給路82の一端は凹部13Mに接続される。
【0068】
図7図10の構成において、供給路82を構成する配管821にはピペットなどにより試料を導入するための蓋822が設けられている。この蓋822を開けることによって試料を導入することができる。試料導入後に蓋822を閉じることによって冷却された気体を漏らすことなく、収容空間Sに導入することができる。
【0069】
前記実施形態では、ラインスタート法による粒径分布測定を行うものであったが、ラインスタート法ではなく一様沈降法による粒径分布測定を行うものであっても良い。また、ラインスタート法及び一様沈降法を切り替えて粒径分布測定できるように構成しても良い。このとき、測定セル2には、媒体中に粒子を分散した試料分散液が収容される。また、ラインスタート法では、測定試料を導入したタイミングや測定試料を導入して測定開始ボタンを押したタイミングが測定開始タイミングとなるが、一様沈降法では、試料分散液を収容した測定セルの回転開始タイミングが測定開始タイミングとなる。
【0070】
前記実施形態のセル保持体31の光通過孔31h及びカバー体33の光通過孔33hの開口形状としては円形状とすることが考えられるが、この場合、分解能を向上させようとすると円形状を小さくすることになる。そうすると、光量が低下してしまうという問題ある。このため、光通過孔31h又は33hの少なくとも一方を、例えば、図11(A)に示すように、セル保持体の回転の接線方向に直線状に延びる直線スリット形状とし、或いは、図11(B)に示すように、セル保持体の回転方向に円弧状に延びる円弧スリット形状とすることが考えられる。このように光通過孔31h、33hをスリット形状とすることによって、分解能を向上しつつ光量の低下を防止することができる。ここで、光入射側であるセル保持体31の光通過孔31hは迷光を少なくするために絞った方が良いし、光出射側であるカバー体33の光通過孔33hは分解能を向上させるために上記のスリット形状とすることが良い。
【0071】
また、図12に示すように、測定セル2は、内部に測定試料の収容空間を形成する金属製のセル本体21と、当該セル本体21の遠心力方向に直交する対向壁2a、2bに設けられた窓部材22とを有するものであってもよい。対向壁2a、2bは平板状部分を有しており、窓部材22は対向壁2a、2bの平板状部分に設けられている。ここで、窓部材22は、その内面が対向壁2a、2bの平板状部分の内面と同一面上又は当該平板状部分の内面よりも外側に位置するように設けることが考えられる。このような構成であれば、測定セルが回転したときに、測定試料の遠心力が窓部材に加わらず、窓部材には窓部材自体の遠心力しか加わらないので、窓部材が破損することを防ぐことができる。
【0072】
具体的に測定セル2は、例えばアルミニウム等の金属製のセルであり、図12に示すように、互いに対向する側壁2a、2bに光を透過するための透光窓W1、W2が設けられている。セル2を金属製とすることによって、遠心力に耐える強度にすることができるとともに、耐薬品性に優れたものにできる。この例では、測定セル2は、金属製であり有底のセル本体21と、当該セル本体21の開口を塞ぐ樹脂製のキャップ(不図示)とを有するものである。
【0073】
透光窓W1、W2は、セル本体21の側壁2a、2bに形成された貫通孔2h1、2h2にガラス製の窓部材22を設けることにより構成されている。窓部材22がガラス製のため耐薬品性に優れている。この例の窓部材22は円盤形状をなすものであり、金属製のリング状部材23にはめ込まれている。そしてこのリング状部材23に窓部材22をはめ込んだ構造体をシール部材24を介して貫通孔2h1、2h2に取り付け、押さえ部材25により側壁2a、2bに締め付けて固定する。このとき、押さえ部材25の締め付け力はリング状部材23に伝わるよう構成されており、窓部材22が割れないようにしている。窓部材22には、3万G程度の力が加わるが、窓部材22の質量×3万Gの遠心力が加わるだけであり、窓部材22は壊れにくい。なお、セル全体がガラス製で、内部にサンプルが収容されたものでは、(セルの質量+サンプル質量)×3万Gの遠心力が加わり割れてしまう。
【0074】
また、図13に示すように、窓部材22の内側面22aが、対向壁2a、2bの内面2a1、2b1と面一となるように構成しても良い。つまり、窓部材22は、貫通孔2h1、2h2の内側開口を塞ぐように構成されている。このように構成することで貫通孔2h1、2h2による凹凸が無くなる。その結果、セル内の密度勾配が乱れたり、粒子の沈降が一様にならないといった問題を解決することができる。
【0075】
さらに、図14に示すように、測定セル2とセル保持体31とを一体構成としてもよい。この場合、セル保持体が21、内部に測定試料の収容空間を形成するセル本体となり、当該セル本体21の遠心力方向に直交する対向壁2a、2bに窓部材22が設けられる構成となる。この構成においても測定試料の遠心力が窓部材に加わらず、窓部材には窓部材自体の遠心力しか加わらないので、窓部材が破損することを防ぐことができる。
【0076】
また、測定セル2の構成としては、図15に示すものであっても良い。なお、この構成の測定セル2においては、前記実施形態の試料導入機構7は不要である。この測定セル2は、一端に開口部21Hが形成され、密度勾配溶液を収容するセル本体21と、セル本体21の開口部21Hを塞ぐとともに、内部に測定試料を保持する内部流路26Rが形成されたセルキャップ26とを備えている。セルキャップ26に形成された内部流路26Rは、一端部に試料導入口26R1が形成されており、他端部に試料導出口26R2が形成されている。そして、セル本体21にセルキャップ26が取り付けられた状態で、試料導入口26R1はセル本体21の外部に位置しており、試料導出口26R2はセル本体21の内部に位置している。また、内部流路26Rにおいて試料導入口26R1と試料導出口26R2との間には、測定試料を一時的に保持する保持流路部26R3と、当該保持流路部26R3の下流側に設けられ、試料導出口26R2に連通する拡大流路部26R4とが設けられている。なお、試料導入口26R1と保持流路部26R3は、測定セル2の回転軸方向に沿って設けられており、拡大流路部26R4は、測定セル2に加わる遠心力方向(回転径方向)に沿って設けられている。
【0077】
このように構成された測定セル2に測定試料を導入する場合には、図15(1)に示すように、セル本体21にセルキャップ26を取り付けた状態で、試料導入口26R1から測定試料を導入する。導入後において測定試料は、保持流路部26R3に保持される(図15(2)参照)。また、導入後において試料導入口26R1は、蓋体27により閉塞しても良い。この蓋体27により試料導入口26R1を閉塞することによって、測定試料の蒸発を防ぐとともに、内部流路26Rに空気溜まりができて密度勾配液が内部流路26R側に漏れ出ることを防ぐことができる。その後、測定セル2を回転させると、測定試料は遠心力を受けて、保持流路部26R3から拡大流路部26R4に移動する。このとき、図15(3)に示すように、拡大流路部26R4において、保持流路部26R3からの測定試料が広がり、試料導出口26R2から密度勾配溶液に導入されることになる。これにより、ストリーミング現象が起きないようにできる。なお、拡大流路部26R4が無く、内部流路26Rが単一径の場合には、測定試料が塊となって密度勾配液に導入され、ストリーミング現象によって、粒径分布を精度良く測定できないなどの問題が生じてしまう。
【0078】
前記実施形態では、測定セル2をセル保持体31から着脱可能に構成することによって測定セル2を装置本体から着脱可能に構成しているが、セル保持体31を装置本体から着脱可能に構成することによって測定セル2を装置本体から着脱可能に構成しても良い。この場合であっても、測定セル2の洗浄作業を簡単にするために、測定セル2をセル保持体31から着脱可能にすることが望ましい。
【0079】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、セルの冷却性能を向上させて、分散媒の温度を一定に保ち、測定精度を向上させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15