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特許7281736ポリα-1,3-グルカン多孔体ならびにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】ポリα-1,3-グルカン多孔体ならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20230519BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
C08J9/28 CEP
C08B37/00 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019088212
(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公開番号】P2020183478
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161942
【弁理士】
【氏名又は名称】鴨 みどり
(72)【発明者】
【氏名】原田 信幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 潤一
(72)【発明者】
【氏名】岩田 忠久
(72)【発明者】
【氏名】木村 聡
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503909(JP,A)
【文献】特表2017-520657(JP,A)
【文献】米国特許第09968910(US,B2)
【文献】特開2010-143991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/28
C08B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20×10 以上の重量平均分子量(Mw)を有するα-1,3-グルカンを架橋してなり、比表面積が5m/g以上であり、且つ生理食塩水に10分間浸漬し吸水した状態における200g重下での圧縮回復性が20%以上である、
ポリα-1,3-グルカン多孔体。
【請求項2】
前記比表面積が20m/g以上である、
請求項1に記載のポリα-1,3-グルカン多孔体。
【請求項3】
吸水量が5g/g以上である
請求項1又は2に記載のポリα-1,3-グルカン多孔体。
【請求項4】
ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液にゲル化剤を添加し、ゲル化物を得るゲル生成工程と、
該ゲル生成工程で得られた該ゲル化物を、洗浄、凍結乾燥する、凍結乾燥工程と
を含む
ポリα-1,3-グルカン多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記凍結乾燥工程において、前記ゲル化物を架橋後に、洗浄、凍結乾燥する
請求項4に記載のポリα-1,3-グルカン多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液が尿素を含む
請求項4又は5に記載のポリα-1,3-グルカン多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なポリα-1,3-グルカン多孔体ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源問題や廃棄物処理、環境保全の観点から、様々な分野において再生可能材料の開発と応用が求められてきている。その資源として注目されている材料の一つに天然高分子の一つである多糖類を原料とするバイオベースプラスチックがある。天然多糖類としてはセルロース(β-1,4-グルカン)、デンプン(α-1,4-グルカン)、キシラン(β-1,4-キシラン)等の植物由来のものや、カードラン(β-1,3-グルカン)やデキストラン(α-1,6-グルカン)等の微生物が生産するものがある。これらの多糖類を活用する試みが種々なされてきている。
【0003】
特許文献1には、生物工学的に産生され、かつ未乾燥のα(1→3)-グルカンを使用することによって、乾燥されたことがない限り、フィブリル構造を有さず、3次元ネットワークを形成する多糖類懸濁液を、機械的処理だけで調製することができるという方法が記載されている。未乾燥の初期湿潤α(1→3)-グルカン及び水をコロイドミルで粉砕することによって調製した、固形分が3.9%であるグルカンゲルを凍結乾燥したものとしては、図8に示すように、隔壁が厚いものが得られている。
【0004】
特許文献2には、α-1,3-グルカンのウェットケーキを凍結乾燥して、ポリα-1,3-グルカンポリマーを得たことが記載され、このポリマーは水分保持量4g/gを有することが記載されている。そして、このポリマーは、水溶液を吸収させる、パーソナルケア製品、家庭用品、薬品や工業製品として使用できることが記載されている。α-1,3-グルカンのウェットケーキを凍結乾燥して得たポリα-1,3-グルカンとしては、図9に示すように、隔壁が厚いものが得られている。
【0005】
また、特許文献3には、ポリα-1,3-グルカンならびにポリα-1,3-グルカンと種々の化合物とを含む成形体が調製されている。しかしながら、成形体の表面積や圧縮回復性等の各種特性は検討されていない。
ポリα-1,3-グルカン成形体としては、吸水性に優れ、且つ高い圧縮回復性を有する成形体が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2018-507293号公報
【文献】米国特許第9,968,910号公報
【文献】WO2018/093749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、高い圧縮回復性と優れた吸水性とを有する、ポリα-1,3-グルカン多孔体を提供することにある。
また、本発明の他の課題は、上記高い圧縮回復性と優れた吸水性とを有するポリα-1,3-グルカン多孔体を簡易に製造できる、ポリα-1,3-グルカン多孔体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリα-1,3-グルカンをアルカリ水溶液とした後にゲル化剤を添加してゲル化し、このゲルを凍結乾燥することにより、上記高い圧縮回復性と優れた吸水性とを有するポリα-1,3-グルカン多孔体を簡易に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体は、比表面積が5m/g以上であり、且つ生理食塩水に10分間浸漬し吸水した状態における200g重下での圧縮回復性が20%以上である。
上記比表面積は、好ましくは20m/g以上である。
また、本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体は、吸水量が5g/g以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体の製造方法は、ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液にゲル化剤を添加し、ゲル化物を得るゲル生成工程と、該ゲル生成工程で得られた該ゲル化物を、洗浄、凍結乾燥する、凍結乾燥工程とを含む。
また、上記凍結乾燥工程において、上記ゲル化物を架橋後に、洗浄、凍結乾燥することが好ましい。
さらに、上記ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液は尿素を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い圧縮回復性と優れた吸水性とを有する、ポリα-1,3-グルカン多孔体を提供できる。また、上記高い圧縮回復性と優れた吸水性とを有する吸水性ポリα-1,3-グルカン多孔体を簡易に製造できる、ポリα-1,3-グルカン多孔体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた本発明の一実施態様のポリα-1,3-グルカン多孔体の内部(断面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2】圧縮回復性測定時の状態を示す写真である。(a)は含水多孔体の圧縮前、(b)は圧縮途中、(c)は最大圧縮時、(d)は圧縮後の写真である。
図3】実施例2で得られた本発明の一実施態様のポリα-1,3-グルカン多孔体の内部(断面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4】実施例3で得られた本発明の一実施態様のポリα-1,3-グルカン多孔体の内部(断面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図5】実施例4で得られた本発明の一実施態様のポリα-1,3-グルカン多孔体の内部(断面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6】実施例5で得られた本発明の一実施態様のポリα-1,3-グルカン多孔体の内部(断面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7】実施例6で得られた本発明の一実施態様のポリα-1,3-グルカン多孔体の内部(断面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図8】従来例の凍結乾燥したポリα-1,3-グルカンゲルの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図9】別の従来例の凍結乾燥したポリα-1,3-グルカンウェットケーキの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ポリα-1,3-グルカン多孔体]
本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体は、比表面積が5m/g以上であり、且つ生理食塩水に10分間浸漬し吸水した状態における200g重下での圧縮回復性が20%以上である。
【0014】
本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体の比表面積は5m/g以上であり、実施例に記載の方法で求めることができる。上記比表面積は、20m/g以上であることが好ましく、40m/g以上であることがより好ましく、50m/g以上であることがさらに好ましく、60m/g以上であることが特に好ましい。なお、比表面積の上限としては特に限定されないが、通常100m以下程度である。本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体は、上記の大きい比表面積を有するため、種々の物質の吸着剤や担持媒体として有用である。
【0015】
また、本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体における、上記生理食塩水に10分間浸漬し吸水した状態における200g重下での圧縮回復性は、実施例に記載の方法で求めることができる。上記圧縮回復性は20%以上であり、好ましくは40%以上である。本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体は、上記圧縮回復性が20%以上であるため、200g重下で圧縮しても構造が破壊されず復元でき、柔軟性を有し、ハンドリングが容易となる。
【0016】
さらに、本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体は、好ましくは吸水性にも優れている。ポリα-1,3-グルカン多孔体の吸水量は、実施例に記載の方法で求めることができる。上記吸水量は、5g/g以上であることが好ましく、10g/g以上であることがより好ましく、15g/g以上であることがさらに好ましい。なお、吸水量の上限としては特に限定されないが、通常30g/g以下程度である。
【0017】
上記ポリα-1,3-グルカン多孔体を構成するポリα-1,3-グルカンとしては、特開2018-102249号公報に記載のα-1,3-グルカンの製造方法で得られるポリα-1,3-グルカンが好ましく使用できる。本製造方法により得られるα-1,3-グルカンは、グルコース単位がα-1,3-グリコシド結合によって直鎖状に重合した構造を有することを特徴とする。好ましくは、α-1,3-グルカンは、完全直鎖状の構造を有する。ここで、「完全直鎖状」とは、α-1,3-グルカンを構成するグルコース単位がα-1,3-グリコシド結合以外の分岐(グルコース及び他の糖による分岐)を有しないことを意味する。
【0018】
また、上記製造方法により得られるα-1,3-グルカンは、従来のα-1,3-グルカン合成手法では得られなかった大きな分子量を有することを特徴とする。具体的には、上記製造方法により得られるα-1,3-グルカンは、20×10以上の重量平均分子量(Mw)を有する。好ましくは、70×10以上、より好ましくは100×10以上、さらに好ましくは120×10以上の重量平均分子量(Mw)を有することができる。
【0019】
また、上記製造方法により得られるα-1,3-グルカンは、分子量のばらつきが少ないという利点を有する。具体的には、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnである多分散度(PDI;又は分子量分布ともいう)が、好ましくは1.0~2.5の範囲であり、より好ましくは1.0~2.0の範囲であり、さらに好ましくは1.0~1.7の範囲である。
【0020】
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定には、当該技術分野における公知の手法を用いることができ、例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、またはゲル透過クロマトグラフィー(GPC)などの手段を用いることができる。
【0021】
[ポリα-1,3-グルカン多孔体の製造方法]
本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体の製造方法は、ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液にゲル化剤を添加し、ゲル化物を得るゲル生成工程と、該ゲル生成工程で得られた該ゲル化物を、洗浄、凍結乾燥する、凍結乾燥工程とを含む。
【0022】
ゲル生成工程
ゲル生成工程では、ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液にゲル化剤を添加し、ゲル化物を得る。上記ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液は、ポリα-1,3-グルカンをアルカリ水溶液に溶解し、調製する。
【0023】
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の水溶液が挙げられる。中でも、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。アルカリ水溶液の濃度は、0.1~10モル/Lが好ましく、0.1~5モル/Lがより好ましく、0.1~1.5モル/Lがさらに好ましい。
【0024】
ポリα-1,3-グルカンは、特開2018-102249号公報に記載の、スクロースを原料として用いるα-1,3-グルカンの製造方法で得ることができる。該製造方法では、30℃以下の温度条件下で、スクロースとα-1,3-グルカン合成酵素とを反応させる反応工程を含むことが好ましく、上記反応工程で得られたポリα-1,3-グルカンは、脱イオン水で洗浄後、一晩程度凍結乾燥してもよい。
【0025】
ポリα-1,3-グルカンの含水量は、特に限定されず、ポリα-1,3-グルカン100質量%に対し、水分を0~240質量%程度含むものが使用でき、水分が0.1質量%未満であっても好適に使用できる。本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体の製造方法で用いるポリα-1,3-グルカンとしては、ポリα-1,3-グルカン100質量%に対し、水を25質量%未満含むものであることが好ましく、20質量%以下含むものであることがより好ましく、10質量%以下含むものであることがさらに好ましく、5質量%以下含むものであることが特に好ましい。ポリα-1,3-グルカンの含水量が上記範囲であると、ポリα-1,3-グルカンの保存や取扱いがより容易となり好ましい。
【0026】
上記α-1,3-グルカン合成酵素としては虫歯菌(Streptococcus salivarius)由来の酵素が好ましく、虫歯菌のα-1,3-グルカン合成酵素遺伝子をクローニングして得られた組み換え酵素がより好ましい。上記組み換え酵素は、ヒスチジンタグを有することが好ましい。
【0027】
上記ポリα-1,3-グルカンの反応工程は、5℃~20℃の温度条件下で行われることが好ましく、pH5.0以上、6.0未満の条件で行われることが好ましい。また、上記反応工程は、界面活性剤の存在下で行われてもよい。上記界面活性剤としては、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CATB)が好ましく使用できる。
【0028】
上記ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液におけるポリα-1,3-グルカン濃度は、上限としてはポリα-1,3-グルカンが溶解すればよく、高いことが好ましいが、上記水溶液100質量%中、例えば15質量%程度である。下限としては、0.5質量%程度が好ましく、1.0質量%程度がより好ましく、3.0質量%程度がさらに好ましく、5.0質量%程度が特に好ましい。ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液におけるポリα-1,3-グルカン濃度を上記のような範囲にすることで、ポリα-1,3-グルカン多孔体の比表面積を大きくすることができ、また、圧縮回復性も優れたものとすることができる。
【0029】
上記ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液に添加するゲル化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の塩;塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、グルコノデルタラクトン等の酸性ゲル化剤が挙げられる。中でも、塩が好ましく、塩化ナトリウムが好ましい。ゲル化剤の濃度としては、上記ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液100質量%中、5~15質量%が好ましく、6~12質量%がより好ましく、7~9質量%がさらに好ましい。上記ゲル化剤は、一度に加えても、数回に分けて加えてもよい。
【0030】
上記ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液はさらに尿素を含むことが好ましい。尿素の濃度としては、0.1~10モル/Lが好ましく、0.1~5モル/Lがより好ましく、0.1~1.0モル/Lがさらに好ましい。ポリα-1,3-グルカンアルカリ水溶液が尿素を含むことにより、最終的に得られる多孔体の骨格(隔壁)の厚さを薄くでき、比表面積を大きくできる。さらに、得られる多孔体の吸水時のウェット強度を顕著に高くできる。
【0031】
凍結乾燥工程
凍結乾燥工程では、上記ゲル生成工程で得られた上記ゲル化物を、洗浄、凍結乾燥する。ゲル化物の洗浄は、水や湯、エタノール等を使用して行うことができる。上記洗浄は、洗浄液が中性になるまで行うことが好ましい。続いて、上記洗浄後のゲル化物を凍結乾燥する。ゲル化物の凍結は、-80~-5℃で30分以上の時間で行うことができる。
【0032】
本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体の製造方法では、上記凍結乾燥工程において、上記ゲル化物を架橋後に、洗浄、凍結乾燥することが好ましい。上記ゲル化物の架橋はホウ酸を用いて行うことができる。本発明においては、ホウ酸による架橋は、ゲル化物の調製後に行うことが好ましい。上記架橋は、ゲル化剤によりゲル化したゲル化物を、0.1~5質量%程度のホウ酸水溶液に浸漬することにより行うことができる。浸漬時間は、30分~48時間程度であり、好ましくは1~20時間程度である。上記架橋後の洗浄、凍結乾燥は、上記と同様に行うことができる。
【0033】
<ポリα-1,3-グルカン多孔体の用途>
本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体は、紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料、化粧品、土壌改質剤、吸着剤、消臭剤、水浄化剤、金属イオン除去剤、海水の淡水化剤や、ゲルろ過クロマトグラフィー担体、徐放性薬剤担体、イオン交換クロマトグラフ担体、アフィニティクロマトグラフ担体等、キラル特性を活かした、従来のキラル充填剤よりもさらに優れた光学分割能を有する材料などの様々な分野に応用できる。
【実施例
【0034】
以下に、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。以下において、部は質量部を意味する。
【0035】
<多孔体の圧縮回復性>
サンプルとして生理食塩水に10分間浸漬し吸水した多孔体を用い、カトーテック(株)の圧縮試験機KES-G5を使用し、面積が2cmの円形治具を用い、200g重の荷重をかけて圧縮回復性(%)を測定した。値が100に近い程、回復性がよいことを示す。
【0036】
<多孔体の吸水量>
多孔体の吸水量はEDANA法(ERT441.2-02)に準拠して測定した。
具体的には、秤量した多孔体を不織布製の袋(60mm×60mm)に入れ、開口部をヒートシールした。その後、25℃±3℃に調温した脱イオン水1000ml中に入れ、30分間浸漬した。その後、袋を引き上げ、遠心分離機(H-122;株式会社コクサン製)を用いて、250Gの条件下で3分間脱水した。脱水後の袋について、その質量(W1)(単位;g)を測定した。また、多孔体を入れずに同様の操作を行い、そのときの袋の質量(W2)(単位;g)を測定した。次式(a)にしたがって、多孔体の吸水量を求めた。
多孔体の吸水量(g/g)={(W1-W2)/(多孔体の質量)}-1 ・・・ (a)
【0037】
<比表面積>
比表面積は、BET比表面積測定装置(Microtrac BEL社製BELSORP-MR6)を使用して測定した。
【0038】
<SEM画像>
日立ハイテクノロジー社製 FE-SEM SU8020を使用して撮影した。
【0039】
実施例1
100部のポリα-1,3-グルカンを2400部の0.5M尿素/1.0M水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。この水溶液に塩化ナトリウム192部を加え、ポリエチレン容器(容器サイズは底辺18mm×18mm、高さ30mm、以下同様)中でゲル化させた。
尚、実施例および比較例で使用したポリα-1,3-グルカンは、特開2018-102249号公報に記載の方法により、スクロースを原料として用い、30℃以下の温度条件下で、スクロースとα-1,3-グルカン合成酵素とを反応させて、脱イオン水で洗浄後、一晩凍結乾燥して製造したものを使用した。このものは2質量%の水分を含んでいた。α-1,3-グルカン合成酵素としては虫歯菌(Streptococcus salivarius)由来の酵素を使用した。このポリα-1,3-グルカンは、α-1,3-グリコシド結合によりグルコース単位が直鎖状に重合した構造を有し、重量平均分子量(Mw)は約20×10であった。
得られたゲル化物を1%ホウ酸水溶液に18時間浸漬し、架橋した。架橋後にゲル化物を洗浄液が中性になるまで湯洗浄して白色のゲル化物を得た。得られた白色のゲル化物を12時間冷凍庫に入れ、凍結固化後、減圧乾燥することでポリα-1,3-グルカン多孔体(1)を得た。
【0040】
得られたポリα-1,3-グルカン多孔体(1)の内部(断面)のSEM画像を図1に示した。ポリα-1,3-グルカン多孔体(1)の圧縮回復性は24%、比表面積は38.37m/g、吸水量は15.3g/gであった。
圧縮回復性測定時の状態を示す写真を図2(a)、(b)、(c)、(d)に示した。(a)は含水多孔体の圧縮前、(b)は圧縮途中、(c)は最大圧縮時、(d)は圧縮後の写真であり、ポリα-1,3-グルカン多孔体(1)は圧縮しても構造が破壊されず復元した。
また、ポリα-1,3-グルカン多孔体(1)のIRチャートは原料のポリα-1,3-グルカンのそれと同じであった。
【0041】
実施例2
100部のポリα-1,3-グルカンを1567部の0.5M尿素/1.0M水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。この水溶液に塩化ナトリウム125部を加え、ポリエチレン容器中でゲル化させた。得られたゲル化物を1%ホウ酸水溶液に18時間浸漬し、架橋した。
架橋後にゲル化物を洗浄液が中性になるまで湯洗浄して白色のゲル化物を得た。得られた白色のゲル化物を実施例1と同様に凍結乾燥することでポリα-1,3-グルカン多孔体(2)を得た。ポリα-1,3-グルカン多孔体(2)の内部(断面)のSEM画像を図3に示した。ポリα-1,3-グルカン多孔体(2)の比表面積は44.80m/gであり、吸水量は11.2g/gであった。
【0042】
実施例3
100部のポリα-1,3-グルカンを1150部の0.5M尿素/1.0M水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。この水溶液に塩化ナトリウム92部を加え、ポリエチレン容器中でゲル化させた。
得られたゲル化物を1%ホウ酸水溶液に18時間浸漬し、架橋した。
架橋後にゲル化物を洗浄液が中性になるまで湯洗浄して白色のゲル化物を得た。得られた白色のゲル化物を実施例1と同様に凍結乾燥することで、ポリα-1,3-グルカン多孔体(3)を得た。ポリα-1,3-グルカン多孔体(3)の内部(断面)のSEM画像を図4に示した。本発明のポリα-1,3-グルカン多孔体(3)の圧縮回復性は50%、比表面積は54.26m/gであり、吸水量は8.4g/gであった。
【0043】
実施例4
100部のポリα-1,3-グルカンを900部の0.5M尿素/1.0M水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。この水溶液に塩化ナトリウム72部を加え、ポリエチレン容器中でゲル化させた。
得られたゲル化物を1%ホウ酸水溶液に18時間浸漬し、架橋した。
架橋後にゲル化物を洗浄液が中性になるまで湯洗浄して白色のゲル化物を得た。得られた白色のゲル化物を実施例1と同様に凍結乾燥することで、ポリα-1,3-グルカン多孔体(4)を得た。ポリα-1,3-グルカン多孔体(4)の内部(断面)のSEM画像を図5に示した。ポリα-1,3-グルカン多孔体(4)の圧縮回復性は55%、比表面積は65.30m/gであり、吸水量は6.5g/gであった。
【0044】
実施例5
100部のポリα-1,3-グルカンを4900部の0.5M尿素/1.0M水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。この水溶液に塩化ナトリウム392部を加え、ポリエチレン容器中でゲル化させた。
得られたゲル化物を1%ホウ酸水溶液に18時間浸漬し、架橋した。
架橋後にゲル化物を洗浄液が中性になるまで湯洗浄して白色のゲル化物を得た。得られた白色のゲル化物を実施例1と同様に凍結乾燥することで、ポリα-1,3-グルカン多孔体(5)を得た。ポリα-1,3-グルカン多孔体(5)の内部(断面)のSEM画像を図6に示した。ポリα-1,3-グルカン多孔体(5)は水を吸水し吸水後も形状を維持していた。
【0045】
実施例6
100部のポリα-1,3-グルカンを2400部の1.0M水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。この水溶液に塩化ナトリウム192部を加え、ポリエチレン容器中でゲル化させた。
得られたゲル化物を1%ホウ酸水溶液に18時間浸漬し、架橋した。
架橋後にゲル化物を洗浄液が中性になるまで湯洗浄して白色のゲル化物を得た。得られた白色のゲル化物を実施例1と同様に凍結乾燥することで、ポリα-1,3-グルカン多孔体(6)を得た。ポリα-1,3-グルカン多孔体(6)の内部(断面)のSEM画像を図7に示した。ポリα-1,3-グルカン多孔体(6)の比表面積は16.93m/gであり、水を吸水し吸水後も形状を維持していた。
【0046】
実施例7
100部のポリα-1,3-グルカンを900部の0.5M尿素/1.0M水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。この水溶液に塩化ナトリウム72部を加え、ポリエチレン容器中でゲル化させた。
得られたゲル化物を水溶液に18時間浸漬した。18時間後にゲル化物を洗浄液が中性になるまで湯洗浄して白色のゲル化物を得た。得られた白色のゲル化物を実施例1と同様に凍結乾燥することで、ポリα-1,3-グルカン多孔体(7)を得た。ポリα-1,3-グルカン多孔体(7)の比表面積は8.34m/gであった。
【0047】
比較例1
原料である、2質量%の水分を含むポリα-1,3-グルカン試料(ポリα-1,3-グルカンを98質量%含む)を凍結乾燥して得られたポリα-1,3-グルカン構造体の圧縮エネルギーは、圧縮エネルギー測定中に構造体は破壊され、測定できなかった。
【0048】
実施例のポリα-1,3-グルカン多孔体では、比表面積が50m前後と大きい多孔体が得られた。なお、吸水試験においては、比表面積が30mを超えて大きくなるにつれて吸水量が低くなったが、水中に30分間浸漬することで測定しているため、多孔体中に細かい気泡が閉じ込められ、吸水量が小さい値となった可能性も考えられる。また、圧縮回復性は、比表面積が大きいほど、高い値を示した。
図1
図2
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図4
図5
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図9