(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】冷凍積層パン生地用品質向上剤、パン類の製造方法およびパン類の品質向上方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/26 20060101AFI20230519BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20230519BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20230519BHJP
A21D 13/10 20170101ALI20230519BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20230519BHJP
A21D 13/16 20170101ALN20230519BHJP
【FI】
A21D2/26
A21D2/16
A21D2/14
A21D13/10
A21D13/00
A21D13/16
(21)【出願番号】P 2019149455
(22)【出願日】2019-08-16
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】荒井 努
(72)【発明者】
【氏名】相田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】小熊 有香
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-183114(JP,A)
【文献】特開2018-186811(JP,A)
【文献】特開平08-196200(JP,A)
【文献】特開2019-092458(JP,A)
【文献】特開2017-127270(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157577(WO,A1)
【文献】特開2011-036133(JP,A)
【文献】特開2001-161258(JP,A)
【文献】特開2000-253816(JP,A)
【文献】特開平08-173033(JP,A)
【文献】特開平07-170904(JP,A)
【文献】特開2012-029575(JP,A)
【文献】特開2014-117237(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0316044(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヘミセルラーゼと、(B)α-アミラーゼと、(C)乳化剤として(C1)グリセリン脂肪酸エステルおよび(C2)有機酸モノグリセリドと
、(D)焙煎小麦粉とを含有
し、
小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、(A)ヘミセルラーゼ20~250U、(B)α-アミラーゼ20~250U、(C1)グリセリン脂肪酸エステル0.03~0.5質量%、(C2)有機酸モノグリセリド0.05~1.0質量%で用いられ、
(C2)有機酸モノグリセリドと(C1)グリセリン脂肪酸エステルとの質量比((C2):(C1))が1:2~3:1であることを特徴とする冷凍積層パン生地用品質向上剤。
【請求項2】
(C2)有機酸モノグリセリドがジアセチル酒石酸モノグリセリドである請求項1に記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤。
【請求項3】
(C1)グリセリン脂肪酸エステルが脂肪酸モノグリセリドである請求項1または2に記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤。
【請求項4】
(D)焙煎小麦粉が、小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、20~500mgで用いられる請求項1~3のいずれかに記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤。
【請求項5】
さらに(E)アスコルビン酸もしくはその塩を含有し、前記(E)アスコルビン酸もしくはその塩が、小麦粉を主体とする穀粉原料に対して、20~400ppmで用いられる請求項1~4のいずれかに記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤を用いることを特徴とするパン類の製造方法。
【請求項7】
冷凍生地に請求項1~5のいずれかに記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤を用いることを特徴とするパン類の品質向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍積層パン生地用品質向上剤、前記冷凍積層パン生地用品質向上剤を用いるパン類の製造方法およびパン類の品質向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のパン市場では、人手不足の深刻化や外食産業における需要の増大などにより、時間効率の向上と作業の更なる簡便化が求められており、冷凍状態で保存、流通し、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、レストラン等の店舗などで解凍・焼成を行う冷凍積層パン生地を使用したパン類の市場が伸長傾向にある。
【0003】
このようなパン類に関する技術としては、特定量の折り込み用油脂組成物を折り込んだ生地を用いることで、ホイロ後の生地を冷凍前に圧縮しても、生地浮き(膨らみ)のよいクロワッサン等の層状膨化食品用のホイロ後冷凍生地を提供する技術(例えば、特許文献1参照)、アルギン酸エステルをパン生地に添加することで、冷凍期間にかかわらず、また、パン生地の種類にかかわらず一定の体積の安定した品質のパンを得ることができるホイロ後冷凍パン生地を提供する技術(例えば、特許文献2参照)、セルロース化合物と、セルラーゼと、グリセリド乳化剤と、補酵素と、抗酸化剤と、親水コロイド材料とを含有させることで、冷凍生地を改良する技術(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0004】
また、パン類の品質改良剤として、ペクチンや小麦活性グルテンの添加量が僅かであっても十分なボリュームを得ることができ、しかもペクチンによる食物繊維の強化という副次的効果も期待できる技術として、ペクチンまたはペクチンとガム類に対して小麦活性グルテンおよび乳化剤を添加し、さらにシスチンまたはアスコルビン酸のうちの少なくとも1種を添加する技術も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
しかしながら、パン生地と油脂、各種クリーム等を重ね合わせた積層生地を冷凍した冷凍積層パン生地を用いるパン類の製造方法において、製造されるパン類のボリュームが大きく、且つ形の均整等の外観や、歯切れや口溶け等の食感にも優れるパン類を容易に製造する技術としては、未だ満足のいくものは提供されていないのが現状である。
【0006】
また、従来、冷凍積層パン生地を使用したパン類は、成型し冷凍したものを解凍した後にホイロ工程を行ったり、成型し、ホイロ工程を行った後に冷凍するといった工程を経て製造されているが、解凍後にホイロ工程を行う場合は、時間がかかり、作業の効率が落ちてしまうという問題があり、一方、ホイロ工程を行った後に冷凍する場合は、流通や保存の際のかさが大きく、また、壊れやすいという問題がある。
【0007】
したがって、積層パン生地を成型後に冷凍する方法、特に成型後にホイロ工程を行わない方法に適用した場合でも、製造されるパン類のボリュームが大きく、且つパン製品の外観、食感にも優れるパン類を容易に製造することができる技術も強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-36133号公報
【文献】特開2016-198061号公報
【文献】特表2017-500853号公報
【文献】特開平8-173013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、パン生地と油脂、各種クリーム等を重ね合わせた積層生地を冷凍した冷凍積層パン生地を用いるパン類の製造方法において、製造されるパン類のボリュームが大きく、且つ外観、食感にも優れるパン類を容易に製造することができる冷凍積層パン生地用品質向上剤、パン類の製造方法およびパン類の品質向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、冷凍積層パン生地を用いるパン類の製造時に、ヘミセルラーゼと、α-アミラーゼと、特定の乳化剤とを添加・配合することにより、製造されるパン類のボリュームを大きくし、且つ外観や食感を良好なものとすることができることを知見した。
【0011】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> (A)ヘミセルラーゼと、(B)α-アミラーゼと、(C)乳化剤として(C1)グリセリン脂肪酸エステルおよび(C2)有機酸モノグリセリドとを含有することを特徴とする冷凍積層パン生地用品質向上剤である。
<2> 小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、(A)ヘミセルラーゼ20~250Uおよび(B)α-アミラーゼ20~250Uで用いられる前記<1>に記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤である。
<3> (C2)有機酸モノグリセリドがジアセチル酒石酸モノグリセリドであり、小麦粉を主体とする穀粉原料に対して、前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドが0.05~1.0質量%で用いられる前記<1>または<2>に記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤である。
<4> (C1)グリセリン脂肪酸エステルが脂肪酸モノグリセリドであり、小麦粉を主体とする穀粉原料に対して、前記脂肪酸モノグリセリドが0.03~0.5質量%で用いられる前記<1>~<3>のいずれかに記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤である。
<5> (C2)有機酸モノグリセリドと(C1)グリセリン脂肪酸エステルとの質量比((C2):(C1))が1:2~3:1である前記<1>~<4>のいずれかに記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤である。
<6> さらに(D)焙煎小麦粉を含有し、前記(D)焙煎小麦粉が、小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、20~500mgで用いられる前記<1>~<5>のいずれかに記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤である。
<7> さらに(E)アスコルビン酸もしくはその塩を含有し、前記(E)アスコルビン酸もしくはその塩が、小麦粉を主体とする穀粉原料に対して、20~400ppmで用いられる前記<1>~<6>のいずれかに記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤である。
<8> 前記<1>~<7>のいずれかに記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤を用いることを特徴とするパン類の製造方法である。
<9> 冷凍生地に前記<1>~<7>のいずれかに記載の冷凍積層パン生地用品質向上剤を用いることを特徴とするパン類の品質向上方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、パン生地と油脂、各種クリーム等を重ね合わせた積層生地を冷凍した冷凍積層パン生地を用いるパン類の製造方法において、製造されるパン類のボリュームが大きく、且つ外観、食感にも優れるパン類を容易に製造することができる冷凍積層パン生地用品質向上剤、パン類の製造方法およびパン類の品質向上方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(冷凍積層パン生地用品質向上剤)
本発明の冷凍積層パン生地用品質向上剤は、(A)ヘミセルラーゼと、(B)α-アミラーゼと、(C)乳化剤として(C1)グリセリン脂肪酸エステルおよび(C2)有機酸モノグリセリドとを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0014】
<パン類>
本発明の冷凍積層パン生地用品質向上剤は、冷凍積層パン生地を用いるパン類の製造方法のうち、積層パン生地を成型後に冷凍する方法に好適であり、特に成型後にホイロ工程を行わない方法でも、製造されるパン類のボリュームが大きく、且つパン製品の外観、食感にも優れるパン類を容易に製造することができる。
【0015】
本発明におけるパン類(菓子類を含む)としては、パン生地と油脂、各種クリーム等を重ね合わせた積層生地を用いて製造されるパン類であれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、デニッシュ、クロワッサン、パイ、ペストリー、ミルフィーユなどが挙げられる。
【0016】
<(A)ヘミセルラーゼ>
前記ヘミセルラーゼとしては、飲食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、アスペルギウス属、トリコデルマ属等の微生物由来のヘミセルラーゼ、大麦や小麦など穀物由来のヘミセルラーゼなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ヘミセルラーゼは、例えば、天野エンザイム株式会社の「アマノ」90、三菱ケミカルフーズ株式会社のスクラーゼX、ディー・エス・エムジャパン株式会社のベイクザイム HS2000、ベイクザイム BXP5001、ベイクザイム Real-X、ノボザイム社のペントパン500 BGなどの市販品を適宜使用することができる。
前記ヘミセルラーゼの前記冷凍積層パン生地用品質向上剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量や活性などに応じて適宜選択することができる。
【0017】
<(B)α-アミラーゼ>
前記α-アミラーゼとしては、飲食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、アスペルギウス・オリゼ(Aspergillus oryzae)等のアスペルギウス属、バチルス・サブチリス(Bacillus subtillis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・リチェニフォルミス(Bacillus licheniformis)等のバチルス属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属等の微生物由来のα-アミラーゼ、大麦や小麦など穀物由来のα-アミラーゼなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記α-アミラーゼは、例えば、新日本化学工業株式会社のスミチームAS、三菱ケミカルフーズ株式会社のコクラーゼ、ノボザイム社のノバミル 10000 BG、ノバミル 3D BG、ディー・エス・エムジャパン株式会社のベイクザイム P500、ベイクザイム AN301、天野エンザイム株式会社のビオザイムAなどの市販品を適宜使用することができる。
前記α-アミラーゼの前記冷凍積層パン生地用品質向上剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量や活性などに応じて適宜選択することができる。
【0018】
<(C)乳化剤>
前記乳化剤は、(C1)グリセリン脂肪酸エステルと、(C2)有機酸モノグリセリドとを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の乳化剤を含む。
【0019】
<<(C1)グリセリン脂肪酸エステル>>
前記グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの持つ3つのヒドロキシ基のうち1つまたは2つに脂肪酸がエステル結合した構造を有する。
前記脂肪酸としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素数8~22の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられる。これらの中でも、風味の観点から、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸を主成分とする脂肪酸が好ましい。
【0020】
前記グリセリン脂肪酸エステルは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、(C2)の有機酸モノグリセリドとの相乗効果が奏されるという点で、脂肪酸モノグリセリドが好ましく、炭素数12~20の脂肪酸モノグリセリドがより好ましい。
【0021】
前記グリセリン脂肪酸エステルは、市販品を適宜選択することができる。
前記グリセリン脂肪酸エステルの前記冷凍積層パン生地用品質向上剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量などに応じて適宜選択することができる。
【0022】
<<(C2)有機酸モノグリセリド>>
前記有機酸モノグリセリドは、グリセリン1分子に対し脂肪酸1分子と有機酸1分子または2分子が結合した構造を有する。
前記有機酸としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらの中でも、食品用途に使用されるコハク酸、クエン酸、ジアセチル酒石酸が好ましく、ジアセチル酒石酸がより好ましい。
前記脂肪酸としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸等の炭素数8~22の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられる。これらの中でも、風味の観点から、パルミチン酸、ステアリン酸を主成分とする脂肪酸が好ましい。
【0023】
前記有機酸モノグリセリドは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、(C1)のグリセリン脂肪酸エステルとの相乗効果が奏される点で、ジアセチル酒石酸モノグリセリドが好ましい。
【0024】
前記有機酸モノグリセリドは、市販品を適宜選択することができる。
前記有機酸モノグリセリドの前記冷凍積層パン生地用品質向上剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量などに応じて適宜選択することができる。
【0025】
<<その他の乳化剤>>
前記その他の乳化剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、レシチン、酵素処理レシチン等の天然乳化剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の合成乳化剤などが挙げられる。
前記その他の乳化剤は、市販品を適宜選択することができる。
前記その他の乳化剤の前記冷凍積層パン生地用品質向上剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量などに応じて適宜選択することができる。
【0026】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、(D)焙煎小麦粉;(E)アスコルビン酸もしくはその塩;グルテン、小麦粉、コーンスターチ等の食品素材;システインもしくはその塩;パン類の製造に用いられる成分などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、製造されるパン類のボリューム、外観および食感がより向上するため、(D)焙煎小麦粉、(E)アスコルビン酸もしくはその塩を含有させることが好ましい。
前記その他の成分の前記冷凍積層パン生地用品質向上剤における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0027】
<<(D)焙煎小麦粉>>
前記焙煎小麦粉は、焙焼小麦粉、ローストフラワーとも称され、小麦粉を乾式下に高温(通常、品温90~160℃)で熱処理することにより得られる。
前記焙煎小麦粉としては、製パンや製菓に従来用いられているものを適宜選択して用いることができ、例えば、熱処理されていない通常の小麦粉を品温95~150℃の条件下で10~40分間焙焼して得られる焙煎小麦粉などが挙げられる。また、市販品を適宜選択することもできる。
前記焙煎小麦粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記焙煎小麦粉の前記冷凍積層パン生地用品質向上剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量などに応じて適宜選択することができる。
【0028】
<<(E)アスコルビン酸もしくはその塩>>
前記アスコルビン酸もしくはその塩としては、飲食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、市販品を適宜選択することができる。
前記塩としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩などが挙げられる。前記塩は、1種の塩を用いてもよいし、2種以上の塩を併用してもよい。
前記アスコルビン酸もしくはその塩の前記冷凍積層パン生地用品質向上剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量などに応じて適宜選択することができる。
【0029】
<態様>
前記冷凍積層パン生地用品質向上剤は、前記(A)ヘミセルラーゼと、前記(B)α-アミラーゼと、前記(C1)グリセリン脂肪酸エステルと、前記(C2)有機酸モノグリセリドと、必要に応じて前記その他の成分とを同一の包材に含む態様であってもよいし、前記各成分の1つまたは複数を別々の包材に入れ、使用時に各成分を混合して穀粉原料に添加する態様であってもよいし、前記各成分をそれぞれ穀粉原料に添加する態様であってもよい。
【0030】
<使用量>
前記冷凍積層パン生地用品質向上剤の使用量としては、特に制限はなく、後述する各成分の使用量に応じて、適宜選択することができ、例えば、小麦粉を主体とする穀粉原料(以下、単に「穀粉原料」と称することがある。)に対して、0.1~5質量%の範囲などが挙げられる。
【0031】
<<(A)ヘミセルラーゼ>>
前記ヘミセルラーゼの使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、通常20~250U(「U」は活性単位(ユニット)を表す。以下同様。)の範囲であり、50~200Uの範囲が好ましく、80~160Uの範囲がより好ましい。前記ヘミセルラーゼの使用量が、20U未満であると十分な添加効果が得られないことがあり、250Uを超えるとパン類のボリュームや外観および食感に悪影響が生じるおそれがある。
【0032】
本発明において、前記ヘミセルラーゼの活性は、以下の方法で測定することができる。
基質(キシラン10mg/mL)1mLに0.1N酢酸緩衝液(pH4.5)3mLを加え、攪拌後、40℃で10分間予熱する。その後、酵素液1mLを加え40℃で30分間反応する。反応後、ソモギー溶液2mLを加えて振り混ぜ、沸騰水中で20分間加熱する。冷却後、ヒ素モリブデン酸アンモニウム溶液1mLを加えて振り混ぜ、水で全量を25mLとし、遠心分離(3000rpm、10分間)した後、波長500nmの吸光度を測定する。上記条件下において、1分間に100mgのキシロースに相当する還元糖を生成するのに要する酵素量を100単位(U)とする。
【0033】
<<(B)α-アミラーゼ>>
前記α-アミラーゼの使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、通常20~250Uの範囲であり、40~180Uの範囲が好ましく、80~140Uの範囲がより好ましい。前記α-アミラーゼの使用量が、20U未満であると十分な添加効果が得られないことがあり、250Uを超えるとパン類のボリュームや外観および食感に悪影響が生じるおそれがある。
【0034】
本発明において、前記α-アミラーゼの活性単位の定義は、デンプンを基質として、pH5.0、30℃において、25分間反応させた後にヨウ素で呈色させ、吸光度(620nm)における可溶性デンプンの変換率が毎時1.0gである酵素量を1Uとする。
【0035】
<<(C)乳化剤>>
-(C1)グリセリン脂肪酸エステル-
前記グリセリン脂肪酸エステルの使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、小麦粉を主体とする穀粉原料に対して、通常0.03~0.5質量%の範囲であり、0.05~0.4質量%の範囲が好ましい。前記使用量が好ましい範囲内であると、製造されるパン類のボリューム、外観および食感がより良好である点で、有利である。
【0036】
-(C2)有機酸モノグリセリド-
前記有機酸モノグリセリドの使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、小麦粉を主体とする穀粉原料に対して、通常0.05~1.0質量%の範囲であり、0.1~0.5質量%の範囲が好ましい。前記使用量が好ましい範囲内であると、製造されるパン類のボリューム、外観および食感がより良好である点で、有利である。
【0037】
前記(C2)有機酸モノグリセリドと(C1)グリセリン脂肪酸エステルの配合比としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、質量比((C2):(C1))として、1:2~3:1の範囲が好ましく、1:1~2:1の範囲がより好ましい。前記配合比が好ましい範囲内であると、製造されるパン類のボリューム、外観および食感がより良好である点で、有利である。
【0038】
前記その他の乳化剤の使用量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0039】
<<(D)焙煎小麦粉>>
前記焙煎小麦粉を使用する場合の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、20~500mgの範囲が好ましく、50~200mgの範囲がより好ましい。前記使用量が好ましい範囲内であると、製造されるパン類のボリューム、外観および食感がより良好である点で、有利である。
【0040】
<<(E)アスコルビン酸もしくはその塩>>
前記アスコルビン酸もしくはその塩を使用する場合の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、小麦粉を主体とする穀粉原料に対して、20~400ppmの範囲が好ましく、50~250ppmの範囲がより好ましい。前記使用量が好ましい範囲内であると、製造されるパン類のボリューム、外観および食感がより良好である点で、有利である。
【0041】
<小麦粉を主体とする穀粉原料>
前記小麦粉を主体とする穀粉原料とは、強力粉、準強力粉、中力粉、デュラム小麦粉等の小麦粉を主として含有するものであり、これら各種小麦粉を組み合わせたものでもよい。また、小麦粉として全粒粉を用いてもよいが、この場合、全粒粉に含まれる小麦ふすま部分は、ふすまとして換算する。当該穀粉は、小麦粉の他に、大麦粉、ライ麦粉、ライ小麦粉、そば粉、米粉、オーツ麦粉を含んでいてもよい。
【0042】
(パン類の製造方法)
本発明のパン類の製造方法は、パン類の製造工程において、少なくとも本発明の冷凍積層パン生地用品質向上剤を用い、必要に応じて更にその他の成分を用いる。
【0043】
前記パン類の製造方法は、パン生地と油脂、各種クリーム等を重ね合わせて折込んだ冷凍積層パン生地を用いる方法であれば、特に制限はなく、冷凍積層パン生地を用いる以外は、通常の手順で発酵、成型、焼成する方法が挙げられる。
前記パン類の製造方法における生地の冷凍の時期としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、積層パン生地を成型後に冷凍する方法が好適に挙げられる。本発明のパン類の製造方法によれば、特に成型後にホイロ工程を行わない方法でも、製造されるパン類のボリュームが大きく、且つパン製品の外観、食感にも優れるパン類を容易に製造することができる。
また、前記パン類の製造方法は、必要に応じてパン生地の調製工程に冷蔵(リタード)工程を設けてもよい。前記パン生地の冷蔵工程は、小麦粉を主体とする穀粉原料とイースト、塩、水とその他の原料を混合・混捏してパン生地を製造した後であればいずれの段階に設定してもよく、例えばフロアタイム後、折込工程前~途中~後、成型後等が挙げられる。
【0044】
前記パン類の製造方法では、冷凍(凍結)状態のパン生地をそのまま焼成してもよいし、冷凍状態のパン生地を解凍した後に焼成してもよい。
前記解凍および焼成の条件としては、特に制限はなく、対象のパン類の種類や大きさなどに応じて適宜選択することができる。
本発明のパン類の製造方法によれば、冷凍状態のパン生地をそのまま焼成した場合であっても、冷凍状態のパン生地を解凍した後に焼成した場合であっても、製造されるパン類のボリュームが大きく、且つパン製品の外観、食感にも優れるパン類を容易に製造することができる。
【0045】
<使用量>
前記パン類の製造方法における本発明の冷凍積層パン生地用品質向上剤の使用量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、上記した本発明の(冷凍積層パン生地用品質向上剤)の<使用量>の項目に記載した量とすることができる。
前記冷凍積層パン生地用品質向上剤は、通常、パン生地の製造時に、添加・配合する。
【0046】
前記パン類の製造方法においては、前述の穀粉原料において、水、イースト(生イースト、ドライイースト等)、油脂、所望によりその他の製パン原料を混合・混捏する工程を含むが、その他の製パン原料として、通常、パン類の製造に用いられるもの、例えばサワー種、パネトーネ種、ルヴァン種等の各種発酵種;イーストフード;砂糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水あめ、麦芽糖、乳糖等の糖類;卵又は卵粉;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ヨーグルト粉末、ホエー粉末などの乳製品;ショートニングやバター、マーガリンやその他の動植物油等の油脂類;上記(C1)および(C2)以外の乳化剤;膨張剤;増粘剤;甘味料;香料;システインもしくはその塩;着色料;食塩等の無機塩類;グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、リパーゼ等の酵素類;食物繊維を適宜使用することができる。
【0047】
(パン類の品質向上方法)
本発明のパン類の品質向上方法は、パン類の製造工程において、冷凍生地に少なくとも本発明の冷凍積層パン生地用品質向上剤を用い、必要に応じて更にその他の成分を用いる。
前記パン類の品質向上方法は、上述した本発明のパン類の製造方法と同様にして行うことができる。
【0048】
本発明の冷凍積層パン生地用品質向上剤、パン類の製造方法およびパン類の品質向上方法によれば、パン生地と油脂、各種クリーム等を重ね合わせた冷凍積層パン生地を用いるパン類の製造方法において、製造されるパン類のボリュームが大きく、且つ形の均整等の外観や、歯切れや口溶け等の食感も優れるパン類を容易に製造することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例、比較例および試験例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0050】
(実施例1、比較例1~4:冷凍積層パン生地用品質向上剤の製造)
下記の表1-1の配合により、対照、実施例1および比較例1~4の冷凍積層パン生地用品質向上剤を製造した。なお、各冷凍積層パン生地用品質向上剤は、食品素材(グルテン)の量を適宜変更し、全量が1.0gになるように調整した。
なお、使用した成分の詳細は、以下の通りである。
・ ヘミセルラーゼ:製品名「ベイクザイム BXP5001」、ディー・エス・エムジャパン株式会社製
・ α-アミラーゼ:製品名「ビオザイムA」、天野エンザイム株式会社製
・ グリセリン脂肪酸エステル:「脂肪酸モノグリセリド」(製品名「エマルジーMS」)、理研ビタミン株式会社製
・ 有機酸モノグリセリド:「ジアセチル酒石酸モノグリセリド」(製品名「ポエムW-90VP」)、理研ビタミン株式会社製
・ 焙煎小麦粉:製品名「ローストフラワーRD」、フレッシュ・フード・サービス株式会社製
【0051】
【0052】
(試験例1:冷凍生地クロワッサンの製造)
上記実施例1、比較例1~4または対照の冷凍積層パン生地用品質向上剤を用いて、下記の配合・工程によりクロワッサンを製造した。
<配合>
・ 小麦粉(強力粉) 100.0質量部
・ 冷凍積層パン生地用品質向上剤 1.0質量部
・ 生イースト 6.0質量部
・ 砂糖 8.0質量部
・ 食塩 1.8質量部
・ 油脂(マーガリン) 5.0質量部
・ 水 56.0質量部
〔※ ロールイン油脂 45.0質量部(対生地)〕
<工程>
・ ミキシング ↓(油脂)低速3分中速12分
・ 捏上温度 18℃
・ フロア時間 -5℃、30分
・ 折込条件 3つ折り、3回
・ 最終圧延(生地厚) 2.5~3.0mm
・ 分割重量 50g
・ 成型 クロワッサン成型
・ 凍結条件 -40℃、20分
・ 保存条件 -20℃
・ 焼成条件 凍結状態で焼成(120℃、10分→160℃、8分→185℃、8分→200℃、2分)
【0053】
<評価>
製造したクロワッサンの外観(パン容積と形状の安定性)と食感(歯切れ、口溶け)について、下記の評価基準に従って10名で評価した。得られた結果の平均点を下記の表1-2に示す。
【0054】
-外観(パン容積と形状の安定性)-
5点 : ボリュームが大きく、形の均整が取れている。
4点 : ボリュームが大きく、形の均整がやや取れている。
3点 : ボリュームはやや大きいが、形の均整にやや欠ける。
2点 : ボリュームがやや小さく、形の均整にやや欠ける。
1点 : ボリュームが小さく、形の均整に欠ける。
【0055】
-食感(歯切れ、口溶け)-
5点 : 歯切れ、口溶けのいずれにも優れる。
4点 : 歯切れがよく、口溶けもよい
3点 : やや歯切れがよく、口溶けもややよい。
2点 : やや弾きがあり、ややくちゃつきがある。
1点 : 弾きがあり、くちゃつきがある。
【0056】
【0057】
表1-2に示したように、本発明の製剤の一例である実施例1の製剤を用いた場合、製造されたパン類のボリュームが大きく、且つ外観および食感も良好なパン類が得られることが確認された。
【0058】
(試験例2)
<冷凍積層パン生地用品質向上剤の製造>
下記の表2の配合により、対照および試験例2-1~2-7の冷凍積層パン生地用品質向上剤を製造した。なお、各冷凍積層パン生地用品質向上剤は、食品素材(グルテン)の量を適宜変更し、全量が1.5gになるように調整した。
なお、使用した成分の詳細は、上記実施例1および比較例1~4において使用したものと同様である。
【0059】
<冷凍生地クロワッサンの製造>
上記で製造した試験例2-1~2-7または対照の冷凍積層パン生地用品質向上剤を小麦粉100.0質量部に対して1.5質量部用いたこと以外は、試験例1の配合・工程と同様にしてクロワッサンを製造した。また、製造したクロワッサンの外観および食感を試験例1と同様の評価基準に従って評価した。得られた結果を下記の表2に示す。
【0060】
【0061】
表2に示したように、ヘミセルラーゼやα-アミラーゼの配合量を変えた場合でも、本発明の効果が得られることが確認された。
【0062】
(試験例3)
<冷凍積層パン生地用品質向上剤の製造>
下記の表3の配合により、対照および試験例3-1~3-3の冷凍積層パン生地用品質向上剤を製造した。なお、各冷凍積層パン生地用品質向上剤は、食品素材(小麦粉)の量を適宜変更し、全量が2.0g(試験例3-3のみ2.5g)になるように調整した。
なお、使用した成分の詳細は、上記実施例1および比較例1~4において使用したものと同様である。
【0063】
<冷凍生地クロワッサンの製造>
上記で製造した試験例3-1~3-3または対照の冷凍積層パン生地用品質向上剤を小麦粉100.0質量部に対して2.0質量部(試験例3-3のみ2.5質量部)用いたこと並びに凍結し-20℃で保存した後に、下記の条件で解凍し、次いで焼成を行ったこと以外は、試験例1の配合・工程によりクロワッサンを製造した。また、製造したクロワッサンの外観および食感を試験例1と同様の評価基準に従って評価した。得られた結果を下記の表3に示す。
・ 解凍条件 4℃、約16時間
・ 焼成条件 180℃、23分
【0064】
【0065】
表3に示したように、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、焙煎小麦粉、アスコルビン酸の配合量を変えた場合でも、本発明の効果が得られることが確認された。
【0066】
本発明の冷凍積層パン生地用品質向上剤によれば、ボリュームが大きく、且つ外観、食感にも優れるパン類を容易に製造することができるので、前記冷凍積層パン生地用品質向上剤は上記実施例の項目に記載したパン類に限らず、デニッシュ、クロワッサン、パイ、ペストリー、ミルフィーユ等の積層生地を用いて製造されるパン類に好適に用いることができる。