(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】アンモニア合成触媒構造体及びその製造方法、アンモニア合成装置並びにアンモニアの合成方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/035 20060101AFI20230519BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20230519BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230519BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230519BHJP
B01J 37/18 20060101ALI20230519BHJP
C01C 1/04 20060101ALI20230519BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20230519BHJP
C01B 37/02 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
B01J29/035 M
B01J35/10 301G
B01J35/10 301H
B01J37/02 101C
B01J37/08
B01J37/18
C01C1/04 E
B01J37/16
C01B37/02
(21)【出願番号】P 2019521327
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2018021087
(87)【国際公開番号】W WO2018221699
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2017108631
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】中坂 佑太
(72)【発明者】
【氏名】吉川 琢也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 將行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尋子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】関根 可織
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534902(JP,A)
【文献】特開2016-059851(JP,A)
【文献】国際公開第2014/083772(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/097108(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01C 1/04
C01B 37/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの金属からなる、平均粒径0.7nm~5nmのアンモニア合成触媒物質と、
を備え、
前記金属が、Mo、W、Re、Fe、Co、Ru、Os、Cr、Mn、TcおよびRhからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記担体が、互いに連通
し、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかを構成する平均内径0.50nm~0.64nmの通
路と、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、
前記アンモニア合成触媒物質が、前記担体の少なくとも前記拡径部に包接されて存在していることを特徴とするアンモニア合成触媒構造体。
【請求項2】
前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、請求項1に記載のアンモニア合成触媒構造体。
【請求項3】
前記アンモニア合成触媒物質は、金属微粒子であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアンモニア合成触媒構造体。
【請求項4】
前記金属微粒子の金属元素(M)が、前記アンモニア合成触媒構造体に対して0.5~2.5質量%で含有されていることを特徴とする、請求項
3に記載のアンモニア合成触媒構造体。
【請求項5】
前記金属微粒子の平均粒径が、前記拡径部の内径以下であることを特徴とする、請求項3
または4に記載のアンモニア合成触媒構造体。
【請求項6】
前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.2~10であることを特徴とする、請求項3~
5のいずれか1項に記載のアンモニア合成触媒構造体。
【請求項7】
前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.3~8であることを特徴とする、請求項
6に記載のアンモニア合成触媒構造体。
【請求項8】
前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.4~3.6であることを特徴とする、請求項
7に記載のアンモニア合成触媒構造体。
【請求項9】
前記拡径部の内径は、0.7nm~50nmであることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか1項に記載のアンモニア合成触媒構造体。
【請求項10】
前記担体の外表面に保持された少なくとも1つの他のアンモニア合成触媒物質を更に備えることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか1項に記載のアンモニア合成触媒構造
体。
【請求項11】
前記担体に内在する前記少なくとも1つのアンモニア合成触媒物質の含有量が、前記担体の外表面に保持された前記少なくとも1つの他のアンモニア合成触媒物質の含有量よりも多いことを特徴とする、請求項
10に記載のアンモニア合成触媒構造体。
【請求項12】
前記ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることを特徴とする、請求項1~
11のいずれか1項に記載のアンモニア合成触媒構造体。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のアンモニア合成触媒構造体を有する、アンモニア合成装置。
【請求項14】
規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)
と構造規定剤とを混合して水熱処理する水熱処理工程と、
前記水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行う工程と、
を有し、
前記金属含有溶液が、Mo、W、Re、Fe、Co、Ru、Os、Cr、Mn、TcおよびRhからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含有することを特徴とする、アンモニア合成触媒構造体の製造方法。
【請求項15】
前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加することを特徴とする、請求項
14に記載のアンモニア合成触媒構造体の製造方法。
【請求項16】
前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、請求項
14または
15に記載のアンモニア合成触媒構造体の製造方法。
【請求項17】
前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することを特徴とする、請求項
14~
16のいずれか1項に記載のアンモニア合成触媒構造体の製造方法。
【請求項18】
前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項
14に記載のアンモニア合成触媒構造体の製造方法。
【請求項19】
触媒を用いて、窒素と水素からアンモニアを合成するアンモニアの合成方法であって、
前記触媒が、
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つのアンモニア合成触媒物質と、を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、
前記アンモニア合成触媒物質が、前記担体の少なくとも前記通路の拡径部に包接されて存在しているアンモニア合成触媒構造体を含み、
前記アンモニア合成触媒物質が、Mo、W、Re、Fe、Co、Ru、Os、Cr、Mn、TcおよびRhからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、アンモニアの合成方法。
【請求項20】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のアンモニア合成触媒構造体を用いて、窒素と水からアンモニアを合成することを特徴とする、アンモニアの合成方法。
【請求項21】
窒素と水素を、請求項
13に記載のアンモニア合成装置を用いてアンモニアに変換することを特徴とする、アンモニアの合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質構造の担体と金属微粒子等のアンモニア合成触媒物質とを備えるアンモニア合成触媒構造体及びその製造方法、アンモニア合成装置並びにアンモニアの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、硫安、尿素肥料等の人工肥料の原料として穀物生産に欠かせない化合物である。アンモニア合成方法として、ハーバー・ボッシュ法が知られている。ハーバー・ボッシュ法は、400~600℃、20~100MPaの条件下で窒素と水素との混合気体を直接反応させる。また、ハーバー・ボッシュ法では、Fe3O4を主成分とする鉄系触媒を使用する。ハーバー・ボッシュ法に要求される上記高温高圧条件を満たすためには、アンモニア合成装置に耐熱性、耐圧性が要求されるので、アンモニア合成装置が複雑化してしまう。アンモニア合成装置の複雑化を回避するため、低温低圧条件下で行えるアンモニア合成方法が求められる。
【0003】
そこで、低温低圧条件下で行えるアンモニア合成方法として、Mo、W、Re、Fe、Co、Ru及びOsからなる群から選択された1種の金属、またはFeとRu、RuとRe及びFeとMoからなる群から選択された金属の組み合わせをアンモニア合成触媒として用いることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、特許文献1では、低温低圧条件下で行えるアンモニア合成方法において、アンモニア合成触媒に担体を併用して活性を向上させることも行われていることが開示されている。上記担体としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、グラファイト、セリウム、マグネシア等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような触媒構造体では、触媒粒子が担体の表面或いは表面近傍に担持されているため、アンモニア合成中に原料を含む流体から受ける力、熱などの影響に因って触媒粒子が担体内で移動し、触媒粒子同士の凝集(シンタリング)が発生し易い。触媒粒子同士の凝集が生じると、触媒としての有効表面積が減少することで触媒活性が低下することから寿命が通常よりも短くなるため、触媒構造体自体を短期間で交換・再生しなければならず、交換作業が煩雑であると共に、省資源化を図ることができないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、触媒活性の低下を抑制して、長寿命化を実現することができるアンモニア合成触媒構造体及びその製造方法、アンモニア合成装置並びにアンモニアの合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの金属からなるアンモニア合成触媒物質と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記アンモニア合成触媒物質が、前記担体の少なくとも前記通路に存在していることによって、アンモニア合成触媒物質の触媒活性低下を抑制し、長寿命化を実現できるアンモニア合成触媒構造体が得られることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの金属からなる、平均粒径0.7nm~5nmのアンモニア合成触媒物質と、
を備え、
前記担体が、互いに連通する、平均内径0.50nm~0.64nmの通路を有し、
前記アンモニア合成触媒物質が、前記担体の少なくとも前記通路に存在していることを特徴とするアンモニア合成触媒構造体。
[2]前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、かつ
前記アンモニア合成触媒物質が、少なくとも前記拡径部に存在していることを特徴とする、[1]に記載のアンモニア合成触媒構造体。
[3]前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、[2]に記載のアンモニア合成触媒構造体。
[4]前記アンモニア合成触媒物質は、金属微粒子であることを特徴とする、[2]または[3]に記載のアンモニア合成触媒構造体。
[5]前記金属微粒子が、Mo、W、Re、Fe、Co、Ru、Os、Cr、Mn、TcおよびRhからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする、[4]に記載のアンモニア合成触媒構造体。
[6]前記金属微粒子の金属元素(M)が、前記アンモニア合成触媒構造体に対して0.5~2.5質量%で含有されていることを特徴とする、[4]または[5]に記載のアンモニア合成触媒構造体。
[7]前記金属微粒子の平均粒径が、前記拡径部の内径以下であることを特徴とする、[4]~[6]のいずれかに記載のアンモニア合成触媒構造体。
[8]前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.2~10であることを特徴とする、[4]~[7]のいずれかに記載のアンモニア合成触媒構造体。
[9]前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.3~8であることを特徴とする、[8]に記載のアンモニア合成触媒構造体。
[10]前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.4~3.6であることを特徴とする、[9]に記載のアンモニア合成触媒構造体。
[11]前記拡径部の内径は、0.7nm~50nmであることを特徴とする、[2]~[10]のいずれかに記載のアンモニア合成触媒構造体。
[12]前記担体の外表面に保持された少なくとも1つの他のアンモニア合成触媒物質を更に備えることを特徴とする、[1]~[11]のいずれかに記載のアンモニア合成触媒構造体。
[13]前記担体に内在する前記少なくとも1つのアンモニア合成触媒物質の含有量が、前記担体の外表面に保持された前記少なくとも1つの他のアンモニア合成触媒物質の含有量よりも多いことを特徴とする、[12]に記載のアンモニア合成触媒構造体。
[14]前記ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることを特徴とする、[1]~[13]のいずれかに記載のアンモニア合成触媒構造体。
[15][1]~[14]のいずれかに記載のアンモニア合成触媒構造体を有する、アンモニア合成装置。
[16]ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程と、
前記水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行う工程と、
を有することを特徴とする、アンモニア合成触媒構造体の製造方法。
[17]前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加することを特徴とする、[16]に記載のアンモニア合成触媒構造体の製造方法。
[18]前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、[16]または[17]に記載のアンモニア合成触媒構造体の製造方法。
[19]前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することを特徴とする、[16]~[18]のいずれかに記載のアンモニア合成触媒構造体の製造方法。
[20]前記水熱処理工程において、前記前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することを特徴とする、[16]に記載のアンモニア合成触媒構造体の製造方法。
[21]前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、[16]に記載のアンモニア合成触媒構造体の製造方法。
[22]触媒を用いて、窒素と水素からアンモニアを合成するアンモニアの合成方法であって、前記触媒が、
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つのアンモニア合成触媒物質と、を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記アンモニア合成触媒物質が、前記担体の少なくとも前記通路の拡径部に存在しているアンモニア合成触媒構造体を含んでいることを特徴とする、アンモニアの合成方法。
[23][1]~[14]のいずれかに記載のアンモニア合成触媒構造体を用いて、窒素と水からアンモニアを合成することを特徴とする、アンモニアの合成方法。
[24]窒素と水素を、[15]に記載のアンモニア合成装置を用いてアンモニアに変換することを特徴とする、アンモニアの合成方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、触媒活性の低下を抑制して、長寿命化を実現することができるアンモニア合成触媒構造体及びその製造方法、アンモニア合成装置並びにアンモニアの合成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るアンモニア合成触媒構造体の内部構造が分かるように概略的に示したものであって、
図1(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、
図1(b)は部分拡大断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のアンモニア合成触媒構造体の機能の一例を説明するための部分拡大断面図であり、
図2(a)は篩機能、
図2(b)は触媒能を説明する図である。
【
図3】
図3は、
図1のアンモニア合成触媒構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図1のアンモニア合成触媒構造体の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
[アンモニア合成触媒構造体の構成]
図1は、本発明の実施形態に係るアンモニア合成触媒構造体の構成を概略的に示す図であり、(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、(b)は部分拡大断面図である。なお、
図1におけるアンモニア合成触媒構造体は、その一例を示すものであり、本発明に係る各構成の形状、寸法等は、
図1のものに限られないものとする。
【0014】
図1(a)に示されるように、アンモニア合成触媒構造体1は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、該担体10に内在する、少なくとも1つのアンモニア合成触媒物質である金属微粒子20とを備える。
【0015】
アンモニア合成触媒構造体1において、複数の金属微粒子20,20,・・・は、担体10の多孔質構造の内部に包接されている。アンモニア合成触媒物質である金属微粒子20は、アンモニア合成触媒能(触媒活性)を有する物質であればよく、金属微粒子20の詳細については、後述する。
【0016】
担体10は、多孔質構造であり、
図1(b)に示すように、好適には複数の孔11a,11a,・・・が形成されることにより、互いに連通する通路11を有する。ここで金属微粒子20は、担体10の少なくとも通路11に存在しており、好ましくは担体10の少なくとも通路11に保持されている。
【0017】
このような構成により、担体10内での金属微粒子20の移動が規制され、金属微粒子20、20同士の凝集が有効に防止されている。その結果、金属微粒子20としての有効表面積の減少を効果的に抑制することができ、アンモニア合成触媒物質である金属微粒子20の触媒活性は長期にわたって持続する。すなわち、アンモニア合成触媒構造体1によれば、金属微粒子20の凝集による触媒活性の低下を抑制でき、アンモニア合成触媒構造体1としての長寿命化を図ることができる。また、アンモニア合成触媒構造体1の長寿命化により、アンモニア合成触媒構造体1の交換頻度を低減でき、使用済みのアンモニア合成触媒構造体1の廃棄量を大幅に低減することができ、省資源化を図ることができる。
【0018】
通常、アンモニア合成触媒構造体を、アンモニア合成の原料物質を含む流体中で用いる場合、流体から外力を受ける可能性がある。この場合、アンモニア合成触媒物質である金属微粒子20が、担体10の外表面に付着状態で保持されているだけであると、流体からの外力の影響で担体10の外表面から離脱しやすいという問題がある。これに対し、アンモニア合成触媒構造体1では、金属微粒子20は担体10の少なくとも通路11に存在しているため、流体による外力の影響を受けたとしても、担体10から金属微粒子20が離脱しにくい。すなわち、アンモニア合成触媒構造体1が流体内にある場合、流体は担体10の孔11aから、通路11内に流入するため、通路11内を流れる流体の速さは、流路抵抗(摩擦力)により、担体10の外表面を流れる流体の速さに比べて、遅くなると考えられる。このような流路抵抗の影響により、通路11内に保持された金属微粒子20が流体から受ける圧力は、担体10の外部において金属微粒子が流体から受ける圧力に比べて低くなる。そのため、担体10に内在する金属微粒子20が離脱することを効果的に抑制でき、金属微粒子20の触媒活性を長期的に安定して維持することが可能となる。なお、上記のような流路抵抗は、担体10の通路11が、曲がりや分岐を複数有し、担体10の内部がより複雑で三次元的な立体構造となっているほど、大きくなると考えられる。
【0019】
また、通路11は、ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部12とを有していることが好ましく、このとき、金属微粒子20は、少なくとも拡径部12に存在していることが好ましく、少なくとも拡径部12に包接されていることがより好ましい。また、拡径部12は、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔11a,11a同士を連通しているのが好ましい。これにより、担体10の内部に、一次元孔、二次元孔又は三次元孔とは異なる別途の通路が設けられるので、金属微粒子20の機能をより発揮させることができる。尚、ここでいう一次元孔とは、一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の孔、もしくは複数の一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の複数の孔(複数の一次元チャンネル)を指す。また、二次元孔とは、複数の一次元チャンネルが二次元的に連結された二次元チャンネルを指し、三次元孔とは、複数の一次元チャンネルが三次元的に連結された三次元チャンネルを指す。これにより、金属微粒子20の担体10内での移動がさらに規制され、金属微粒子20の離脱や、金属微粒子20、20同士の凝集をさらに有効に防止することができる。包接とは、金属微粒子20が担体10に内包されている状態を指す。このとき金属微粒子20と担体10とは、必ずしも直接的に互いが接触している必要はなく、金属微粒子20と担体10との間に他の物質(例えば、界面活性剤等)が介在した状態で、金属微粒子20が担体10に間接的に保持されていてもよい。
【0020】
図1(b)では金属微粒子20が拡径部12に包接されている場合を示しているが、この構成だけには限定されず、金属微粒子20は、その一部が拡径部12の外側にはみ出した状態で通路11に保持されていてもよい。また、金属微粒子20は、拡径部12以外の通路11の部分(例えば通路11の内壁部分)に部分的に埋設され、または固着等によって保持されていてもよい。
【0021】
また、通路11は、担体10の内部に、分岐部または合流部を含んで三次元的に形成されており、拡径部12は、通路11の上記分岐部または合流部に設けられるのが好ましい。
【0022】
担体10に形成された通路11の平均内径DFは、上記一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかを構成する孔11aの短径及び長径の平均値から算出され、0.50nm~0.64nmであり、好ましくは0.55nm~0.61である。また、拡径部12の内径DEは、例えば0.7nm~50nmであり、好ましくは1.1nm~40nm、より好ましくは1.1nm~3.3nmである。拡径部12の内径DEは、例えば後述する前駆体材料(A)の細孔径、及び包接される金属微粒子20の平均粒径DCに依存する。拡径部12の内径DEは、金属微粒子20を包接し得る大きさである。
【0023】
担体10は、ゼオライト型化合物で構成される。ゼオライト型化合物としては、例えば、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、陽イオン交換ゼオライト、シリカライト等のケイ酸塩化合物、アルミノホウ酸塩、アルミノヒ酸塩、ゲルマニウム酸塩等のゼオライト類縁化合物、リン酸モリブデン等のリン酸塩系ゼオライト類似物質などが挙げられる。中でも、ゼオライト型化合物はケイ酸塩化合物であることが好ましい。
【0024】
ゼオライト型化合物の骨格構造は、FAU型(Y型またはX型)、MTW型、MFI型(ZSM-5)、FER型(フェリエライト)、LTA型(A型)、MWW型(MCM-22)、MOR型(モルデナイト)、LTL型(L型)、BEA型(ベータ型)などの中から選択され、好ましくはMFI型であり、より好ましくはZSM-5である。ゼオライト型化合物には、各骨格構造に応じた孔径を有する孔が複数形成されており、例えばMFI型の最大孔径は0.636nm(6.36Å)、平均孔径0.560nm(5.60Å)である。
【0025】
以下、アンモニア合成触媒物質である金属微粒子20について詳しく説明する。
【0026】
金属微粒子20は一次粒子である場合と、一次粒子が凝集して形成した二次粒子である場合とがあるが、金属微粒子20の平均粒径DCは、好ましくは通路11の平均内径DFよりも大きく、且つ拡径部12の内径DE以下である(DF<DC≦DE)。このような金属微粒子20は、通路11内では、好適には拡径部12に存在しており、担体10内での金属微粒子20の移動が規制される。よって、金属微粒子20が流体から外力を受けた場合であっても、担体10内での金属微粒子20の移動が抑制され、担体10の通路11に分散配置された拡径部12、12、・・のそれぞれに存在する金属微粒子20、20、・・同士が接触するのを有効に防止することができる。
【0027】
また、金属微粒子20の平均粒径DCは、一次粒子および二次粒子のいずれの場合も、0.7~5nmであり、より好ましくは0.8nm以上4nm未満であり、更に好ましくは1.2~2.6nmである。また、通路11の平均内径DFに対する金属微粒子20の平均粒径DCの割合(DC/DF)は、好ましくは1.2~10であり、より好ましくは1.3~8であり、特に好ましくは1.4~3.6である。金属微粒子20の平均粒径DCが0.7nm~5nmと微粒子化されていることにより、優れた触媒活性を得ることができる。また、金属微粒子20の金属元素(M)は、アンモニア合成触媒構造体1に対して0.5~2.5質量%で含有されていることが好ましく、アンモニア合成触媒構造体1に対して0.5~1.5質量%で含有されていることがより好ましい。例えば、金属元素(M)がCoである場合、Co元素の含有量(質量%)は、{(Co元素の質量)/(アンモニア合成触媒構造体1の全元素の質量)}×100で表される。
【0028】
上記金属微粒子20は、酸化されていない金属で構成されていればよく、例えば、単一の金属で構成されていてもよく、あるいは2種以上の金属の混合物で構成されていてもよい。なお、本明細書において、金属微粒子20を構成する(材質としての)「金属」は、1種の金属元素(M)を含む単体金属と、2種以上の金属元素(M)を含む金属合金とを含む意味であり、1種以上の金属元素を含む金属の総称である。
【0029】
このような金属としては、アンモニア合成触媒としての触媒能を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、レニウム(Re)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)およびロジウム(Rh)からなる群から選択される少なくとも一種の金属、またはFeとRu、RuとRe、FeとMo等、上記各種金属の組み合わせ等が挙げられる。特に、低温条件下、低圧条件下でのアンモニア合成の観点から、Fe、Co、Ru、OsおよびRhからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが好ましい。
【0030】
また、金属微粒子20を構成する金属元素(M)に対する、担体10を構成するケイ素(Si)の割合(原子数比Si/M)は、10~1000であるのが好ましく、50~200であるのがより好ましい。上記割合が1000より大きいと、活性が低いなど、アンモニア合成触媒物質としての作用が十分に得られない可能性がある。一方、上記割合が10よりも小さいと、金属微粒子20の割合が大きくなりすぎて、担体10の強度が低下する傾向がある。なお、ここでいう金属微粒子20は、担体10の内部に保持され、または担持された微粒子をいい、担体10の外表面に付着した金属微粒子を含まない。
【0031】
[アンモニア合成触媒構造体の機能]
アンモニア合成触媒構造体1は、上記のとおり、多孔質構造の担体10と、担体10に内在する少なくとも1つのアンモニア合成触媒物質である金属微粒子20とを備える。アンモニア合成触媒構造体1は、担体10に内在する金属微粒子20が流体と接触することにより、金属微粒子20が触媒能を発揮する。具体的に、アンモニア合成触媒構造体1の外表面10aに接触した流体は、外表面10aに形成された孔11aから担体10内部に流入して通路11内に誘導され、通路11内を通って移動し、他の孔11aを通じてアンモニア合成触媒構造体1の外部へ出る。流体が通路11内を通って移動する経路において、通路11に存在している金属微粒子20と接触することによって、金属微粒子20のアンモニア合成触媒能に応じた触媒反応が生じる。また、アンモニア合成触媒構造体1は、担体10が多孔質構造であることにより、分子篩能を有する。
【0032】
まず、アンモニア合成触媒構造体1の分子篩能について、
図2(a)を用いて、流体がアンモニア合成の原料となる出発物質14(例えば、窒素分子、水素分子等)を含む気体である場合を例として説明する。
図2(a)に示すように、孔11aの孔径以下、言い換えれば、通路11の内径以下の大きさを有する出発物質14は、担体10内に流入することができる。一方、孔11aの孔径を超える大きさを有するアンモニア合成の原料とはならない非出発物質15は、担体10内へ流入することができない。このように、流体が複数種類の化合物を含んでいる場合に、担体10内に流入することができない化合物の反応は規制され、担体10内に流入することができる化合物を反応させることができる。
【0033】
反応によって担体10内で生成した化合物のうち、孔11aの孔径以下の大きさを有する分子で構成される化合物のみが孔11aを通じて担体10の外部へ出ることができ、反応生成物として得られる。一方、孔11aから担体10の外部へ出ることができない化合物は、担体10の外部へ出ることができる大きさの分子で構成される化合物に変換させれば、担体10の外部へ出すことができる。このように、アンモニア合成触媒構造体1を用いることにより、特定の反応生成物を選択的に得ることができる。
【0034】
アンモニア合成触媒構造体1では、
図2(b)に示すように、通路11の拡径部12にアンモニア合成触媒物質である金属微粒子20が包接されている。金属微粒子20の平均粒径D
Cが、通路11の平均内径D
Fよりも大きく、拡径部12の内径D
Eよりも小さい場合には(D
F<D
C<D
E)、金属微粒子20と拡径部12との間に小通路13が形成される。そこで、
図2(b)中の矢印に示すように、小通路13に流入した流体が金属微粒子20と接触する。各金属微粒子20は、拡径部12に存在しているため、担体10内での移動が制限され、微粒子化されているにもかかわらず、凝集が防止されている。これにより、担体10内における金属微粒子20、20同士の凝集が防止される。その結果、金属微粒子20と通路11に流入した出発物質14を含む流体との大きな接触面積を安定して維持することができ、優れた触媒活性を得ることができる。
【0035】
そして、通路11に浸入した出発物質14が金属微粒子20に接触すると、金属微粒子20による酸化分解反応によってアンモニアが合成される。また、アンモニア合成触媒構造体1を用いて、アンモニア合成装置が形成されてもよい。上記実施形態例に係るアンモニア合成触媒構造体1を用いることで、上記と同様の効果を奏するアンモニア合成装置を得ることができる。
【0036】
[アンモニア合成触媒構造体の製造方法]
図3は、
図1のアンモニア合成触媒構造体1の製造方法を示すフローチャートである。以下、担体に内在するアンモニア合成触媒物質が金属微粒子である場合を例に、アンモニア合成触媒構造体の製造方法の一例を説明する。
【0037】
(ステップS1:準備工程)
図3に示すように、先ず、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)を準備する。前駆体材料(A)は、好ましくは規則性メソ細孔物質であり、アンモニア合成触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物の種類(組成)に応じて適宜選択できる。
【0038】
ここで、アンモニア合成触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物がケイ酸塩化合物である場合には、規則性メソ細孔物質は、細孔径1~50nmの細孔が1次元、2次元または3次元に均一な大きさかつ規則的に発達したSi-O骨格からなる化合物であることが好ましい。このような規則性メソ細孔物質は、合成条件によって様々な合成物として得られるが、合成物の具体例としては、例えばSBA-1、SBA-15、SBA-16、KIT-6、FSM-16、MCM-41等が挙げられ、中でもMCM-41が好ましい。なお、SBA-1の細孔径は10~30nm、SBA-15の細孔径は6~10nm、SBA-16の細孔径は6nm、KIT-6の細孔径は9nm、FSM-16の細孔径は3~5nm、MCM-41の細孔径は1~10nmである。また、このような規則性メソ細孔物質としては、例えばメソポーラスシリカ、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスメタロシリケート等が挙げられる。
【0039】
前駆体材料(A)は、市販品および合成品のいずれであってもよい。前駆体材料(A)を合成する場合には、公知の規則性メソ細孔物質の合成方法により行うことができる。例えば、前駆体材料(A)の構成元素を含有する原料と、前駆体材料(A)の構造を規定するための鋳型剤とを含む混合溶液を調製し、必要に応じてpHを調整して、水熱処理(水熱合成)を行う。その後、水熱処理により得られた沈殿物(生成物)を回収(例えば、ろ別)し、必要に応じて洗浄および乾燥し、さらに焼成することで、粉末状の規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)が得られる。ここで、混合溶液の溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。また、原料は、担体の種類に応じて選択されるが、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)等のシリカ剤、フュームドシリカ、石英砂等が挙げられる。また、鋳型剤としては、各種界面活性剤、ブロックコポリマー等を用いることができ、規則性メソ細孔物質の合成物の種類に応じて選択することが好ましく、例えばMCM-41を作製する場合にはヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等の界面活性剤が好適である。水熱処理は、例えば、密閉容器内で、80~800℃、5時間~240時間、0~2000kPaの処理条件で行うことができる。焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことができる。
【0040】
(ステップS2:含浸工程)
次に、準備した前駆体材料(A)に、金属含有溶液を含浸させ、前駆体材料(B)を得る。
【0041】
金属含有溶液は、アンモニア合成触媒構造体の金属微粒子を構成する金属元素(M)に対応する金属成分(例えば、金属イオン)を含有する溶液であればよく、例えば、溶媒に、金属元素(M)を含有する金属塩を溶解させることにより調製できる。このような金属塩としては、例えば、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩等の金属塩が挙げられ、中でも硝酸塩が好ましい。溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0042】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、後述する焼成工程の前に、粉末状の前駆体材料(A)を撹拌しながら、前駆体材料(A)に金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(A)に、金属含有溶液を添加する前に予め、添加剤として界面活性剤を添加しておくことが好ましい。このような添加剤は、前駆体材料(A)の外表面を被覆する働きがあり、その後に添加される金属含有溶液が前駆体材料(A)の外表面に付着することを抑制し、金属含有溶液が前駆体材料(A)の細孔内部により浸入し易くなると考えられる。
【0043】
このような添加剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、分子サイズが大きく前駆体材料(A)の細孔内部には浸入できないため、細孔の内部に付着することは無く、金属含有溶液が細孔内部に浸入することを妨げないと考えられる。非イオン性界面活性剤の添加方法としては、例えば、後述する焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加するのが好ましい。非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量が50質量%未満であると上記の抑制作用が発現し難く、非イオン性界面活性剤を前駆体材料(A)に対して500質量%よりも多く添加すると粘度が上がりすぎるので好ましくない。よって、非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量を上記範囲内の値とする。
【0044】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)の量(すなわち、前駆体材料(B)に内在させる金属元素(M)の量)を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、後述する焼成工程の前に、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することが好ましく、50~200となるように調整することがより好ましい。例えば、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、原子数比Si/Mに換算して50~200とすることで、金属微粒子の金属元素(M)を、触媒構造体に対して0.5~2.5質量%で含有させることができる。前駆体材料(B)の状態で、その細孔内部に存在する金属元素(M)の量は、金属含有溶液の金属濃度、上記添加剤の有無、その他温度や圧力等の諸条件が同じであれば、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量に概ね比例する。また、前駆体材料(B)に内在する金属元素(M)の量は、アンモニア合成触媒構造体の担体に内在する金属微粒子を構成する金属元素の量と比例関係にある。したがって、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を上記範囲に制御することにより、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液を十分に含浸させることができ、ひいては、アンモニア合成触媒構造体の担体に内在させる金属微粒子の量を調整することができる。
【0045】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。洗浄溶液として、水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶液を用いることができる。また、前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、金属含有溶液に含まれる水分や、洗浄溶液の水分が、前駆体材料(A)に多く残った状態で、後述の焼成処理を行うと、前駆体材料(A)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。
【0046】
(ステップS3:焼成工程)
次に、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成して、前駆体材料(C)を得る。
【0047】
焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことが好ましい。このような焼成処理により、規則性メソ細孔物質の孔内に含浸された金属成分が結晶成長して、孔内で金属微粒子が形成される。
【0048】
(ステップS4:水熱処理工程)
次いで、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製し、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、アンモニア合成触媒構造体を得る。
【0049】
構造規定剤は、アンモニア合成触媒構造体の担体の骨格構造を規定するための鋳型剤であり、例えば界面活性剤を用いることができる。構造規定剤は、アンモニア合成触媒構造体の担体の骨格構造に応じて選択することが好ましく、例えばテトラメチルアンモニウムブロミド(TMABr)、テトラエチルアンモニウムブロミド(TEABr)、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)等の界面活性剤が好適である。
【0050】
前駆体材料(C)と構造規定剤との混合は、本水熱処理工程時に行ってもよいし、水熱処理工程の前に行ってもよい。また、上記混合溶液の調製方法は、特に限定されず、前駆体材料(C)と、構造規定剤と、溶媒とを同時に混合してもよいし、溶媒に前駆体材料(C)と構造規定剤とをそれぞれ個々の溶液に分散させた状態にした後に、それぞれの分散溶液を混合してもよい。溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。また、混合溶液は、水熱処理を行う前に、酸または塩基を用いてpHを調整しておくことが好ましい。
【0051】
水熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、密閉容器内で、80~800℃、5時間~240時間、0~2000kPaの処理条件で行うことが好ましい。また、水熱処理は、塩基性雰囲気下で行われることが好ましい。ここでの反応メカニズムは必ずしも明らかではないが、前駆体材料(C)を原料として水熱処理を行うことにより、前駆体材料(C)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造は次第に崩れるが、前駆体材料(C)の細孔内部での金属微粒子の位置は概ね維持されたまま、構造規定剤の作用により、アンモニア合成触媒構造体の担体としての新たな骨格構造(多孔質構造)が形成される。このようにして得られたアンモニア合成触媒構造体は、多孔質構造の担体と、担体に内在する金属微粒子を備え、さらに担体はその多孔質構造により複数の孔が互いに連通した通路を有し、金属微粒子はその少なくとも一部分が担体の通路に存在している。また、本実施形態では、上記水熱処理工程において、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製して、前駆体材料(C)を水熱処理しているが、これに限らず、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することなく、前駆体材料(C)を水熱処理してもよい。
【0052】
水熱処理後に得られる沈殿物(アンモニア合成触媒構造体)は、回収(例えば、ろ別)後、必要に応じて洗浄、乾燥および焼成することが好ましい。洗浄溶液としては、水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶液を用いることができる。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、沈殿物に水分が多く残った状態で、焼成処理を行うと、アンモニア合成触媒構造体の担体としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。また、焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことができる。このような焼成処理により、アンモニア合成触媒構造体に付着していた構造規定剤が焼失する。また、アンモニア合成触媒構造体は、使用目的に応じて、回収後の沈殿物を焼成処理することなくそのまま用いることもできる。例えば、アンモニア合成触媒構造体の使用する環境が、酸化性雰囲気の高温環境である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、構造規定剤は焼失し、焼成処理した場合と同様のアンモニア合成触媒構造体が得られるので、そのまま使用することが可能となる。
【0053】
以上説明した製造方法は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液に含まれる金属元素(M)が、酸化され難い金属種(例えば、貴金属)である場合の一例である。
【0054】
前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)が、酸化され易い金属種(例えば、Fe、Co、Cu等)である場合には、上記水熱処理工程後に、水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行うことが好ましい。金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)が、酸化され易い金属種である場合、含浸処理(ステップS2)の後の工程(ステップS3~S4)における熱処理により、金属成分が酸化されてしまう。そのため、水熱処理工程(ステップS4)で形成される担体には、金属酸化物微粒子が内在することになる。そのため、担体に金属微粒子が内在するアンモニア合成触媒構造体を得るためには、上記水熱処理後に、回収した沈殿物を焼成処理し、さらに水素ガス等の還元ガス雰囲気下で還元処理することが望ましい(ステップS5:還元処理工程)。還元処理を行うことにより、担体に内在する金属酸化物微粒子が還元され、金属酸化物微粒子を構成する金属元素(M)に対応する金属微粒子が形成される。その結果、担体に金属微粒子が内在するアンモニア合成触媒構造体が得られる。なお、このような還元処理は、必要に応じて行えばよく、例えば、アンモニア合成触媒構造体の使用する環境が、還元雰囲気である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、金属酸化物微粒子は還元されるため、還元処理した場合と同様のアンモニア合成触媒構造体が得られるので、担体に酸化物微粒子が内在した状態でそのまま使用することが可能となる。
【0055】
[アンモニア合成触媒構造体1の変形例]
図4は、
図1のアンモニア合成触媒構造体1の変形例を示す模式図である。
図1のアンモニア合成触媒構造体1は、担体10と、担体10に内在するアンモニア合成触媒物質である金属微粒子20とを備える場合を示しているが、この構成だけには限定されず、例えば、
図4に示すように、アンモニア合成触媒構造体2が、担体10の外表面10aに保持された他のアンモニア合成触媒物質である他の金属微粒子30を更に備えていてもよい。
【0056】
この他の金属微粒子30は、一又は複数の触媒能を発揮する物質である。他の金属微粒子30が有する触媒能は、金属微粒子20が有する触媒能と同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、金属微粒子20,30の双方が同一の触媒能を有する物質である場合、他の金属微粒子30の材料は、金属微粒子20の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。本構成によれば、アンモニア合成触媒構造体2に保持された触媒物質の含有量を増大することができ、触媒物質の触媒活性を更に促進することができる。
【0057】
この場合、担体10に内在する金属微粒子20の含有量は、担体10の外表面10aに保持された他の金属微粒子30の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、担体10の内部に保持された金属微粒子20による触媒能が支配的となり、安定的にアンモニア合成触媒物質の触媒能が発揮される。
【0058】
また、本発明において、触媒を用いて、窒素と水素からアンモニアを合成するアンモニアの合成方法が提供される。このような触媒は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、担体10に内在する少なくとも1つのアンモニア合成触媒物質と、を備え、担体10が、互いに連通する通路11を有し、アンモニア合成触媒物質が、担体10の少なくとも通路11の拡径部12に存在しているアンモニア合成触媒構造体1を含んでいる。すなわち、本発明では、上述のアンモニア合成触媒構造体を用いて、窒素と水素からアンモニアを合成するアンモニアの合成方法が提供される。特に、アンモニア合成触媒物質である金属微粒子20の平均粒径は、0.7nm~5nmであることが好ましく、また、通路11の平均粒径は、0.50nm~0.64nmであることが好ましい。
【0059】
このようなアンモニアの合成方法を実施する際の原料としては、分子状の窒素及び水素を主成分とする合成ガスであれば特に制限はないが、組成比はモル比でN2:H2=1:3であることが好ましい。また、反応条件は、反応温度として250~600℃の範囲、圧力として0.1~100MPa(絶対圧力)の範囲であることが好ましい。
【0060】
アンモニアの合成は、アンモニアの合成プロセスとして公知のプロセス、例えば、固定床、超臨界固定床、スラリー床、流動床等で実施することができる。好ましいプロセスとしては、固定床、超臨界固定床、スラリー床を挙げることができる。特にアンモニアの合成の代表的な方法は、従来のハーバー・ボッシュ法と同じく、原料の窒素と水素の混合気体を加熱加圧下で直接反応させ、N2+3H2→2NH3の反応よって生成したアンモニアを冷却又は水で吸収して分離する方法である。
【0061】
このように、窒素と水素からアンモニアを合成する方法において、本発明に係るアンモニア合成触媒構造体を使用することにより、上述したアンモニアの合成方法においても上記アンモニア合成触媒構造体が示す効果と同様の効果を得ることができる。
【0062】
また、本発明において、窒素と水素を、上述のアンモニア合成装置を用いてアンモニアに変換するアンモニアの合成方法が提供されていてもよい。このようなアンモニア合成装置は、上記アンモニア合成触媒構造体を利用してアンモニア合成ができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、反応器、反応管、反応カラム等の通常使用される反応装置を使用することができる。アンモニア合成触媒構造体を有するアンモニア合成装置を用いることにより、上記アンモニア合成触媒構造体が示す効果と同様の効果を得ることができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態に係るアンモニア合成触媒構造体について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0064】
(実施例1~144)
[前駆体材料(A)の合成]
シリカ剤(テトラエトキシシラン(TEOS)、和光純薬工業株式会社製)と、鋳型剤としての界面活性剤とを混合した混合水溶液を作製し、適宜pH調整を行い、密閉容器内で、80~350℃、100時間、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水およびエタノールで洗浄し、さらに600℃、24時間、空気中で焼成して、表1~8に示される種類および孔径の前駆体材料(A)を得た。なお、界面活性剤は、前駆体材料(A)の種類に応じて(「前駆体材料(A)の種類:界面活性剤」)以下のものを用いた。
・MCM-41:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(和光純薬工業株式会社製)
【0065】
[前駆体材料(B)および(C)の作製]
次に、表1~8に示される種類の金属微粒子を構成する金属元素(M)に応じて、該金属元素(M)を含有する金属塩を、水に溶解させて、金属含有水溶液を調製した。なお、金属塩は、金属微粒子の種類に応じて(「金属微粒子:金属塩」)以下のものを用いた。
・Co:硝酸コバルト(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Fe:硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Ru:塩化ルテニウム(III)n水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Rh:硝酸ロジウム(III)(n水和物)(和光純薬工業株式会社製)
【0066】
次に、粉末状の前駆体材料(A)に、金属含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加し、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させて、前駆体材料(B)を得た。
【0067】
なお、表1~8に示す添加剤の有無の条件が「有り」の場合は、金属含有水溶液を添加する前の前駆体材料(A)に対して、添加剤としてのポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル(NIKKOL BO-15V、日光ケミカルズ株式会社製)の水溶液を添加する前処理を行い、その後、上記のように金属含有水溶液を添加した。なお、添加剤の有無の条件で「無し」の場合については、上記のような添加剤による前処理は行っていない。
【0068】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有水溶液の添加量は、該金属含有水溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算したときの数値が、表1~8の値になるように調整した。
【0069】
次に、上記のようにして得られた金属含有水溶液を含浸させた前駆体材料(B)を、600℃、24時間、空気中で焼成して、前駆体材料(C)を得た。
【0070】
上記のようにして得られた前駆体材料(C)と、表1~8に示す構造規定剤とを混合して混合水溶液を作製し、密閉容器内で、80~350℃、表1~8に示すpHおよび時間の条件で、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水洗し、100℃で12時間以上乾燥させ、さらに600℃、24時間、空気中で焼成した。その後、焼成物を回収し、水素ガスの流入下で、400℃、350分間、還元処理して、表1~8に示す担体と触媒物質としての金属微粒子とを有する触媒構造体を得た(実施例1~144)。
【0071】
(比較例1)
比較例1では、MFI型シリカライトに平均粒径50nm以下の酸化コバルト粉末(II,III)(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を混合し、実施例と同様にして水素還元処理を行って、担体としてのシリカライトの外表面に、触媒物質としてコバルト微粒子を付着させた触媒構造体を得た。MFI型シリカライトは、金属を添加する工程以外は、実施例1~6と同様の方法で合成した。
【0072】
(比較例2)
比較例2では、コバルト微粒子を付着させる工程を省略したこと以外は、比較例1と同様の方法にてMFI型シリカライトを合成した。
【0073】
[評価]
上記実施例の触媒構造体および比較例のシリカライトについて、以下に示す条件で、各種特性評価を行った。
【0074】
[A]断面観察
上記実施例の触媒構造体および比較例のシリカライトについて、粉砕法にて観察試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(TITAN G2、FEI社製)を用いて、断面観察を行った。その結果、上記実施例の触媒構造体では、シリカライトまたはゼオライトからなる担体の内部に触媒物質が内在し、保持されていることが確認された。一方、比較例1のシリカライトでは、触媒物質が担体の外表面に付着しているのみで、担体の内部には存在していなかった。
【0075】
また、上記実施例のうち金属が鉄微粒子(Fe)である触媒構造体については、FIB(集束イオンビーム)加工により断面を切り出し、SEM(SU8020、日立ハイテクノロジーズ社製)、EDX(X-Max、堀場製作所社製)を用いて断面元素分析を行った。その結果、担体内部からFe元素が検出された。上記TEMとSEM/EDXによる断面観察の結果から、担体内部に鉄微粒子が存在していることが確認された。
【0076】
[B]担体の通路の平均内径および触媒物質の平均粒径
上記評価[A]で行った断面観察により撮影したTEM画像にて、担体の通路を、任意に500個選択し、それぞれの長径および短径を測定し、その平均値からそれぞれの内径を算出し(N=500)、さらに内径の平均値を求めて、担体の通路の平均内径DFとした。また、触媒物質についても同様に、上記TEM画像から、触媒物質を、任意に500個選択し、それぞれの粒径を測定して(N=500)、その平均値を求めて、触媒物質の平均粒径DCとした。結果を表1~8に示す。
【0077】
また、触媒物質の平均粒径及び分散状態を確認するため、SAXS(小角X線散乱)を用いて分析した。SAXSによる測定は、Spring-8のビームラインBL19B2を用いて行った。得られたSAXSデータは、Guinier近似法により球形モデルでフィッティングを行い、粒径を算出した。粒径は、金属が鉄微粒子である触媒構造体について測定した。また、比較対象として、市販品である鉄微粒子(Wako製)をSEMにて観察、測定した。
【0078】
この結果、市販品では粒径約50nm~400nmの範囲で様々なサイズの鉄微粒子がランダムに存在しているのに対し、TEM画像から求めた平均粒径が1.2nm~2.0nmの各実施例の触媒構造体では、SAXSの測定結果においても粒径が10nm以下の散乱ピークが検出された。SAXSの測定結果とSEM/EDXによる断面の測定結果から、担体内部に、粒径10nm以下の触媒物質が、粒径が揃いかつ非常に高い分散状態で存在していることが分かった。
【0079】
[C]金属含有溶液の添加量と担体内部に包接された金属量との関係
原子数比Si/M=50、100、200、1000(M=Co、Fe、Ru、Rh)の添加量で、金属微粒子を担体内部に包接させた触媒構造体を作製し、その後、上記添加量で作製された触媒構造体の担体内部に包接された金属量(質量%)を測定した。尚、本測定において原子数比Si/M=100、200、1000の触媒構造体は、それぞれ実施例1~384のうちの原子数比Si/M=100、200、1000の触媒構造体と同様の方法で金属含有溶液の添加量を調整して作製し、原子数比Si/M=50の触媒構造体は、金属含有溶液の添加量を異ならせたこと以外は、原子数比Si/M=100、200、1000の触媒構造体と同様の方法で作製した。
【0080】
金属量の定量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)単体か、或いはICPとXRF(蛍光X線分析)を組み合わせて行った。XRF(エネルギー分散型蛍光X線分析装置「SEA1200VX」、エスエスアイ・ナノテクノロジー社製)は、真空雰囲気、加速電圧15kV(Crフィルター使用)或いは加速電圧50kV(Pbフィルター使用)の条件で行った。XRFは、金属の存在量を蛍光強度で算出する方法であり、XRF単体では定量値(質量%換算)を算出できない。そこで、Si/M=100で金属を添加した触媒構造体の金属量は、ICP分析により定量し、Si/M=50および100未満で金属を添加した触媒構造体の金属量は、XRF測定結果とICP測定結果を元に算出した。
【0081】
この結果、少なくとも原子数比Si/Mが50~1000の範囲内で、金属含有溶液の添加量の増加に伴って、触媒構造体に包接された金属量が増大していることが確認された。
【0082】
[D]性能評価
上記実施例の触媒構造体および比較例のシリカライトについて、触媒物質がもつ触媒能を評価した。結果を表1~8に示す。
【0083】
(1)触媒活性
触媒活性は、以下の条件で評価した。
【0084】
まず、触媒構造体を、触媒中の含有金属量を揃えて常圧流通式反応装置に0.2g充填し、原料の窒素ガスと水素ガスとの混合ガスを触媒構造体に接触させ、アンモニア合成反応を行った。反応温度は400℃、反応圧力は1Kg/cm2、反応原料のフィード量は水素79000mol/h、窒素120000mol/hであった。得られたアンモニアは、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により成分分析した。また、反応成績は触媒1g、1hr当たりのアンモニア生成モル数で表現した。
【0085】
触媒反応時に、アンモニアガス生成量が500μmol/g・hr以上の場合は触媒活性が特に良好「◎」、300μmol/g・hr以上500μmol/g・hr未満の場合を触媒活性が良好「○」、100μmol/g・hr以上300μmol/g・hr未満の場合を触媒活性が良好ではないものの合格レベル「△」、100μmol/g・hr未満の場合を触媒活性が悪い「×」とした。
【0086】
(2)耐久性(寿命)
耐久性は、以下の条件で評価した。
【0087】
まず、上記評価(1)で使用した触媒構造体を回収し、650℃で、12時間加熱して、加熱後の触媒構造体を作製した。次に、得られた加熱後の触媒構造体を用いて、上記評価(1)と同様の方法により、アンモニア合成反応を行い、さらに上記評価(1)と同様の方法で、生成ガスおよび生成液の成分分析を行った。
【0088】
本実施例では、加熱後の触媒構造体による上記化合物の生成量(本評価(2)で求めた生成量)が、加熱前の触媒構造体による上記化合物の生成量(上記評価(1)で求めた生成量)に比べて、80%以上維持されている場合を耐久性(耐熱性)が優れていると判定して「◎」、60%以上80%未満維持されている場合を耐久性(耐熱性)が良好であると判定して「○」、40%以上60%未満維持されている場合を耐久性(耐熱性)が良好ではないものの合格レベル(可)であると判定して「△」、そして40%未満に低下している場合を耐久性(耐熱性)が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0089】
比較例1~2についても、上記評価(1)および(2)と同様の性能評価を行った。尚、比較例2は、担体そのものであり、触媒物質を有していない。そのため、上記性能評価では、触媒構造体に替えて、比較例2の担体のみを充填した。結果を表8に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
表1~8から明らかなように、断面観察により担体の内部に触媒物質が保持されていることが確認された触媒構造体(実施例1~144)は、単に触媒物質が担体の外表面に付着しているだけの触媒構造体(比較例1)および触媒物質を何ら有していない担体そのもの(比較例2)と比較して、アンモニア合成反応において優れた触媒活性を示し、触媒としての耐久性にも優れていることが分かった。
【0099】
一方、担体の外表面にのみ触媒物質を付着させた比較例1の触媒構造体は、触媒物質を何ら有していない比較例2の担体そのものと比較して、アンモニア合成反応における触媒活性は改善されるものの、実施例1~144の触媒構造体に比べて、触媒としての耐久性は劣っていた。
【0100】
上記結果より、本発明に係るアンモニア合成触媒構造体は、アンモニア合成において優れた触媒活性を示し、触媒としての耐久性に優れると推察することができる。
【0101】
[他の実施態様]
アンモニア合成触媒構造体を使用する方法であって、
前記アンモニア合成触媒構造体が、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つのアンモニア合成物質と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記アンモニア合成物質が、前記担体の少なくとも前記通路の拡径部に存在していることを特徴とする、アンモニア合成触媒構造体を使用する方法。
【符号の説明】
【0102】
1 アンモニア合成触媒構造体
10 担体
10a 外表面
11 通路
11a 孔
12 拡径部
20 金属微粒子
30 金属微粒子
DC 平均粒径
DF 平均内径
DE 内径