IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-酸化第一錫粉末 図1
  • 特許-酸化第一錫粉末 図2
  • 特許-酸化第一錫粉末 図3
  • 特許-酸化第一錫粉末 図4
  • 特許-酸化第一錫粉末 図5
  • 特許-酸化第一錫粉末 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】酸化第一錫粉末
(51)【国際特許分類】
   C01G 19/02 20060101AFI20230519BHJP
【FI】
C01G19/02 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020504792
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018045006
(87)【国際公開番号】W WO2019171692
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018039002
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 幸一
(72)【発明者】
【氏名】伊森 徹
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/133426(WO,A1)
【文献】特開2009-132571(JP,A)
【文献】特開平11-310415(JP,A)
【文献】特開2013-079186(JP,A)
【文献】特開2007-302496(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101367543(CN,A)
【文献】国際公開第2012/096172(WO,A1)
【文献】特開2012-051762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化第一錫及び不可避不純物からなる、酸化第一錫粉末であって、
乾燥質量における酸化第一錫の含有量が99.99質量%以上であり、
比表面積が0.5m2/g未満であり、
D50粒径が20~60μmであり、
粒度分布の半値幅が5~30μmである、酸化第一錫粉末。
【請求項2】
酸化第一錫中の水分含有量が1~5wt%である、請求項1に記載の酸化第一錫粉末。
【請求項3】
塩素含有量が1ppm以下であり、且つ硫黄含有量が10ppm以下である、請求項1~2のいずれかに記載の酸化第一錫粉末。
【請求項4】
ナトリウム含有量が5ppm以下であり、カリウム含有量が5ppm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の酸化第一錫粉末。
【請求項5】
アンチモン含有量が、5ppm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の酸化第一錫粉末。
【請求項6】
粉末のTAP密度が、1.0~4.0g/cm3の範囲にある、請求項1~5のいずれかに記載の酸化第一錫粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化第一錫粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
錫めっきを行うにあたって、陽極を金属錫ではなく不溶性電極(白金、貴金属酸化物等)を使用する場合がある。その際、電解液から消耗する錫イオン補給として、しばしば酸化第一錫の添加が行われる。酸化第一錫(SnO)は、酸化第二錫(SnO2)に比べ溶解速度が速く、補給液の製造が容易である。
【0003】
錫イオン補給用の酸化第一錫は、不純物が少ないことに加えて、溶解性が良好であることが求められる。溶解性の向上のためには、溶液との接触面積を増大させることが望ましいと従来から考えられている。例えば、特許文献1(特開2016-153361号)は、酸化第一錫の粉末の粒子を、板状の突起を有する形状とすることによって比表面積を増大させて、酸化第一錫の溶解性を改善する技術を開示している。
【0004】
一方、酸化第一錫の粉末の粒子において、このように比表面積を増大させると、酸化しやすくなるという不都合が生じる。酸化第一錫(SnO)が酸化すると、酸化第二錫(SnO2)が生じて、溶解性が悪化し、錫イオン補給用の酸化第一錫としての製品品質が低下してしまう。
【0005】
そこで、酸化第一錫の酸化を防ぐために、酸化防止剤がしばしば用いられる。例えば、特許文献2(特開2016-172885号)は、酸化第一錫を、酸化防止剤を混合した錠剤へと成型することによって、酸化を防止しつつ、溶解性を維持する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-153361号公報
【文献】特開2016-172885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化防止剤の添加は、酸化防止の観点からは有効である。一方で、近年高まっている錫イオン補給用の酸化第一錫の高純度化の要求からすれば、酸化防止剤であっても不純物であるために、添加されていないほうが望ましい。
【0008】
すなわち、錫イオン補給用の酸化第一錫であって、溶解性に優れると同時に、酸化防止剤の添加がなくても耐酸化性に優れた酸化第一錫が、求められている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、錫イオン補給用に好適に使用可能な酸化第一錫であって、溶解性に優れると同時に、耐酸化性に優れた酸化第一錫を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、後述する酸化第一錫粉末が、溶解性に優れると同時に、耐酸化性に優れた酸化第一錫粉末となることを見いだして、本発明に到達した。
【0011】
したがって、本発明は次の(1)を含む。
(1)
酸化第一錫及び不可避不純物からなる、酸化第一錫粉末であって、
乾燥質量における酸化第一錫の含有量が99.99質量%以上であり、
比表面積が0.5m2/g未満であり、
D50粒径が20~60μmであり、
粒度分布の半値幅が5~30μmである、酸化第一錫粉末。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸化第一錫粉末は、溶解性に優れると同時に、耐酸化性に優れた酸化第一錫粉末となっており、錫イオン補給用の酸化第一錫粉末として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は実施例1の酸化第一錫の溶解試験における溶液の外観を示す写真である。
図2図2は実施例1の酸化第一錫のSEM像の写真である。
図3図3は比較例1の酸化第一錫のSEM像の写真である。
図4図4は実施例1の大気放置24時間後の溶解試験における溶液の外観を示す写真である。
図5図5は比較例1の大気放置24時間後の溶解試験における溶液の外観を示す写真である。
図6図6は実施例1、2及び比較例1、2の酸化第一錫の粉末の粒度分布を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施の態様をあげて詳細に説明する。本発明は以下にあげる具体的な実施の態様に限定されるものではない。
【0015】
[酸化第一錫粉末]
本発明の酸化第一錫粉末は、好適な実施の態様において、
酸化第一錫及び不可避不純物からなる、酸化第一錫粉末であって、
乾燥質量における酸化第一錫の含有量が99.99質量%以上であり、
比表面積が0.5m2/g未満であり、
D50粒径が20~60μmであり、
粒度分布の半値幅が5~30μmである、酸化第一錫粉末である。
【0016】
好適な実施の態様において、この酸化第一錫粉末は、硫酸第一錫を、水溶液中で、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムによって中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程を、それぞれ下記条件で行うことによって、製造することができる。
【0017】
[中和反応]
好適な実施の態様において、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウム水溶液中へ、硫酸第一錫水溶液を添加することによって、中和反応が行われる。硫酸第一錫水溶液の添加は、公知の手段によって行うことができ、例えば滴下、噴出、噴霧等の手段を用いることができる。好適な実施の態様において、中和反応に際して、水溶液が適宜攪拌される。攪拌は、公知の手段によって行うことができる。
【0018】
[pH]
好適な実施の態様において、中和反応は例えばpH7.0~pH8.0の範囲の水溶液中で行われる。pH調整は、例えば、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、又はアンモニア水の添加によって、行うことができる。あるいは、反応溶液中に炭酸ガスを吹き込んでpH調整してもよい。pHの値は、後述する二段階の温度調整を通じて、上記範囲に維持されることが好ましい。
【0019】
[反応温度、時間]
好適な実施の態様において、中和反応させる溶液の温度は、2段階にわけて調整する。すなわち、硫酸第一錫溶液、及び炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウム水溶液の滴下によって中和反応を進行させる際の温度(一段目の反応温度)と、滴下の終了後に保持する際の温度(二段目の反応温度)の2段階にわけて温度調整する。滴下時の温度、すなわち、一段目の温度として、例えば60~70℃とすることができる。滴下の時間、すなわち、1段目の温度の保持時間は、例えば1~5時間とすることができる。滴下後の保持の温度、すなわち、2段目の温度として、例えば70~80℃とすることができる。滴下後の保持時間、すなわち、2段目の温度の保持時間は、例えば0.5~2時間とすることができる。
【0020】
[重炭酸アンモニウム濃度]
中和反応において重炭酸アンモニウム水溶液が使用される場合に、重炭酸アンモニウム濃度は、例えば80~200g/Lの範囲とすることができる。中和反応において炭酸アンモニウム水溶液が使用される場合にも、重炭酸アンモニウム濃度と同じ濃度範囲において、好適に使用できる。
【0021】
[錫濃度]
中和反応において硫酸第一錫水溶液が使用される場合に、硫酸第一錫水溶液中の錫濃度は、例えば20~100g/Lの範囲とすることができる。
【0022】
[酸化第一錫の析出]
中和反応によって、酸化第一錫が析出して、沈殿する。得られた沈殿を、固液分離して、酸化第一錫の粉末を得ることができる。固液分離は、公知の手段によって行うことができ、例えば吸引、圧搾ろ過、デカンテーション、遠心分離を使用することができる。酸化第一錫の粉末は、所望により、洗浄してもよく、例えば遠心分離機等の分離手段との組み合わせによって洗浄してもよい。
【0023】
[酸化第一錫粉末の純度]
本発明によって得られる酸化第一錫(SnO)粉末は、酸化第一錫及び不可避不純物からなり、酸化第一錫の含有量が例えば99.99質量%以上、好ましくは99.995質量%以上とすることができ、例えば99.99~99.995質量%、好ましくは99.99~99.999質量%の範囲とすることができる。後述する不純物の含有量は、ICP質量分析装置(通称ICP-MS)、ICP発光分光分析装置(通称ICP-OES)、フレーム原子吸光装置(通称AAS)、塩素・硫黄分析装置/ 全有機ハロゲン分析装置(通称TOX)、炭素・硫黄分析装置(通称LECO)分析によって求めることができる。
【0024】
[Cl含有量]
好適な実施の態様において、酸化第一錫粉末のCl含有量(塩素含有量)は、別途記載した含水率で含有される水分を除いた含有量として、例えば5ppm未満、好ましくは1ppm以下、更に好ましくは1ppm未満とすることができる。本発明の酸化第一錫は、その製造において塩酸系の水溶液の使用が回避されているために、Cl含有量の著しい低減を可能としている。Clの含有量はTOX((株)三菱ケミカルアナリテック製TOX-2100H)によって測定することができる。
【0025】
[S含有量]
好適な実施の態様において、酸化第一錫粉末のS含有量(硫黄含有量)は、別途記載した含水率で含有される水分を除いた含有量として、例えば20ppm未満、好ましくは10ppm以下、更に好ましくは10ppm未満とすることができる。本発明の酸化第一錫は、その製造において硫酸系の水溶液を使用されているにもかかわらず、S含有量の著しい低減を可能としている。Sの含有量はLECO(LECOジャパン合同会社製CSLS600)によって測定することができる。
【0026】
[Na含有量、K含有量]
好適な実施の態様において、酸化第一錫粉末のNa含有量(ナトリウム含有量)は、別途記載した含水率で含有される水分を除いた含有量として、例えば5ppm以下、好ましくは1ppm以下、さらに好ましくは1ppm未満(検出限界未満)とすることができる。好適な実施の態様において、酸化第一錫のK含有量(カリウム含有量)は例えば5ppm以下、好ましくは1ppm以下、さらに好ましくは1ppm未満(検出限界未満)とすることができる。本発明の酸化第一錫は、その製造においてナトリウム含有物質、カリウム含有物質の使用が回避されているために、Na含有量、K含有量の著しい低減を可能としている。Na、Kの含有量はAAS(アジレント・テクノロジー(株)製AA240FS)によって測定することができる。
【0027】
[その他不純物含有量]
好適な実施の態様において、酸化第一錫粉末の不純物含有量は、別途記載した含水率で含有される水分を除いた含有量として、Ag、As、Bi、Cd、Cr、Cu、In、Mg、Mn、Pb、Sb、Th、Tl、U、ZnはICP-MS((株)日立ハイテクサイエンス製SPQ9700)、Ca、Co、Fe、Ni、PはICP-OES((株)日立ハイテクサイエンス製SPS3500DD)によって測定した含有量として、以下の含有量とすることができる:
Agが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Asが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Biが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Caが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Cdが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Coが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Crが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Cuが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Feが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Inが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Mgが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Mnが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Niが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Pbが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Thが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Tlが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Uが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Znが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Pが20ppm以下、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは10ppm未満(検出限界未満)、Sbが5ppm以下、好ましくは2ppm以下、さらに好ましくは1.6ppm以下、あるいは0.1ppm以上、好ましくは0.5ppm以上、さらに好ましくは1.0ppm以上。
【0028】
[酸化第一錫粉末の形状]
好適な実施の態様において、酸化第一錫粉末(酸化第一錫粉)の2次粒子形状は、例えば球状、及び、それらが複数結合した形状となっている。
【0029】
[水分含有量]
好適な実施の態様において、酸化第一錫粉末は、例えば1~10重量%、好ましくは1~5重量%、さらに好ましくは1~4重量%の範囲の水分含有量(含水率)とすることができる。本発明における水分含有量は、乾燥での重量減によって測定することができる。
【0030】
[比表面積]
好適な実施の態様において、酸化第一錫粉末は、例えば1.0m2/g以下、好ましくは0.5m2/g以下、例えば0.1~1.0m2/g、好ましくは0.1~0.9m2/g、さらに好ましくは0.2~0.5m2/gの範囲の比表面積とすることができる。本発明における比表面積は、QUANTA CHROME製Monosorb MS-21によって測定することができる。
【0031】
[TAP密度]
好適な実施の態様において、酸化第一錫粉末は、例えば1.0~4.0g/cm3、好ましくは2.0~3.0g/cm3の範囲のTAP密度とすることができる。本発明におけるTAP密度は、株式会社セイシン企業製 TAPDENSER KYT-4000Kによって測定することができる。
【0032】
[50%粒径(D50)]
好適な実施の態様において、酸化第一錫粉末は、例えば20~60μm、好ましくは30~60μm、あるいは30~50μm、好ましくは40~60μmの範囲の50%粒径(D50)とすることができる。本発明における50%粒径(D50)は、マイクロトラック・ベル(株)MT3300EX2によって測定することができる。
【0033】
[粒度分布の半値幅]
好適な実施の態様において、酸化第一錫粉末の粒度分布の半値幅が、例えば50μm以下、好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下、さらに好ましくは25μm以下とすることができ、例えば1μm以上、あるいは5μm以上とすることができ、例えば5~40μm、好ましくは5~30μm、さらに好ましくは5~25μm、あるいは好ましくは10~25μmの範囲であるものとすることができる。この場合の半値幅とは、粒度分布のグラフにおいて、発生頻度の最大値の半分の頻度における粒径の大きい側と小さい側の差の値を長さの単位で表したもので、グラフの山形の広がりの程度を表す値である。この値が小さいほど、粒度のバラつきが少なく、個々の粒子の大きさが揃っていることを意味する。
【0034】
[溶解性]
本発明の酸化第一錫粉末は、溶解性に優れ、めっき液の補充のために、好適に使用することができる。本発明における溶解性とは、メタンスルホン酸溶液に対する溶解性をいう。この溶解性は、後述する実施例の条件下の溶解性として求めることができ、すなわち、メタンスルホン酸濃度100g/Lの溶液に酸化第一錫を100g/L添加して溶解させて、酸化第一錫が持つ黒色が消えて無色透明、或いは淡黄色になるまでの時間(溶解時間)を測定することで、定量化することができる。好適な実施の態様において、溶解後の濁度が20度となり、且つ溶解時間が30秒以下である場合に溶解性に優れるということができ、好ましくは20秒以下、さらに好ましくは10秒以下である場合に、特に優れた溶解性であるということができる。
【0035】
この溶解性の指標として、十分な時間経過後の濁度を用いる場合には、メタンスルホン酸に酸化錫を溶かし、溶解させて5分間静置させた後での濁度を指標とすることができる。濁度は純水(無色透明)では「20度」になり、最大値は「500度」となる。後述する実施例で示されるように、好適な実施の態様において、本発明による酸化第一錫粉末を溶解した溶液の濁度は「20度」とすることができる。濁度は、濁度計によって測定することができ、濁度計としては、例えば株式会社共立理化学研究所製デジタル濁度計500G(型式TB-500G)をあげることができる。
【0036】
[耐酸化性]
本発明の酸化第一錫粉末は、耐酸化性に優れ、長期にわたる保存の後にも、優れた溶解性を維持できるものとなっており、めっき液の補充のために、好適に使用することができる。本発明における耐酸化性とは、めっき液を作製した時に濁りにくいことをいう。好適な実施の態様において、本発明の酸化第一錫粉末は、耐酸化性に優れている。本発明において耐酸化性に優れるとは、具体的には、常温常圧の大気下で24時間保管した後に、上記溶解性試験において、溶解時間30秒以下で濁度20度以下となることを言う。
【0037】
[酸化第一錫粉末真空包装体]
好適な実施の態様において、得られた酸化第一錫粉末を、速やかにアルミラミネート袋によって真空包装して、酸化第一錫粉末真空包装体とすることができる。アルミラミネート袋としては、公知のアルミラミネート包装材を使用することができる。真空方法の手段としては、上記した本発明の酸化第一錫粉末の特性を損なわない手段であれば、公知の手段を使用することができる。
【0038】
[好適な実施の態様]
好適な実施の態様において、本発明は、次の(1)以下を含んでもよい。
(1)
酸化第一錫及び不可避不純物からなる、酸化第一錫粉末であって、
乾燥質量における酸化第一錫の含有量が99.99質量%以上であり、
比表面積が0.5m2/g未満であり、
D50粒径が20~60μmであり、
粒度分布の半値幅が5~30μmである、酸化第一錫粉末。
(2)
酸化第一錫中の水分含有量が1~5wt%である、(1)に記載の酸化第一錫粉末。
(3)
塩素含有量が1ppm以下であり、且つ硫黄含有量が10ppm以下である、(1)~(2)のいずれかに記載の酸化第一錫粉末。
(4)
ナトリウム含有量が5ppm以下であり、カリウム含有量が5ppm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の酸化第一錫。
(5)
アンチモン含有量が、5ppm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の酸化第一錫粉末。
(6)
粉末のTAP密度が、1.0~4.0g/cm3の範囲にある、(1)~(5)のいずれかに記載の酸化第一錫粉末。
(7)
メタンスルホン酸濃度100g/Lの溶液に酸化第一錫粉末を100g/L添加して、30秒未満で溶解し、溶解後の濁度が20度である、(1)~(6)のいずれかに記載の酸化第一錫粉末。
【実施例
【0039】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
[酸化第一錫の製造]
反応容器としてガラス製の50L丸底容器に純水を20L入れ、重炭酸アンモニウムを3.5kg投入し、反応母液とした(重炭酸アンモニウム175g/L)。
この溶液を65℃~70℃に加熱保持した。
予め、金属錫を電解して作製した硫酸錫溶液(Sn濃度100g/L)20Lを重炭酸アンモニウム溶液中へ滴下した。
【0041】
滴下反応中の液温はオイルバスで65℃~70℃を維持した(加熱保持温度一段目)。滴下は電磁定量ポンプを用い、約2時間かけて投入した。反応中は撹拌機を用いて撹拌した。反応中は酸性の硫酸錫溶液が入るために、pHは低下してゆく。そこでpHを7.0~7.5が維持できるように、重炭酸アンモニウム結晶を適宜投入した。
【0042】
滴下の終了後に、温度を75~80℃に上げてさらに約1時間保持した(加熱保持温度二段目)。その後、吸引濾過をして固液分離した。更に純水を上から30Lかけ流して洗浄した。洗浄後は乾燥せず、そのままアルミラミネート袋で二重に真空パックした。
【0043】
このようにして、粒子状の酸化第一錫を得た。この中和反応の反応式を以下に示す:

SnSO4+2(NH4)HCO3
→SnO+(NH4)2SO4+H2O+2CO2
【0044】
[酸化第一錫の評価]
得られた粒子状の酸化第一錫を、次のように評価した。
不純物含有量を、ICP-MS、ICP-OES、AAS、TOX、LECO等を用いて分析した。
含水率を、乾燥機と電子天秤を用いて分析した。
比表面積を、QUANTA CHROME製Monosorb MS-21を用いて測定した。
TAP密度を、株式会社セイシン企業製 TAPDENSER KYT-4000Kを用いて測定した。
粒度を、マイクロトラック・ベル株式会社MT3300EX2によって測定した。
得られた結果を、表1にまとめて示す。
【0045】
[溶解性]
得られた粒子状の酸化第一錫の溶解性を、次のように溶解時間を求めることによって、評価した。
濃度96%のメタンスルホン酸を7.5mL採取し、純水で50mLに希釈する。酸化第一錫5.0gを、50mLビーカー中のメタンスルホン酸水溶液へ速やかに投入し、スターラーによって500rpmで攪拌しながら、投入から溶解するまでの時間を測定した。この時の溶液温度は23℃であった。目視によって黒い濁りが無色透明となったことを目安として、溶解の終了と判定して時間を測定した。さらに、メタンスルホン酸に酸化錫を溶かし、溶解させて5分間静置させた後での濁度を、株式会社共立理化学研究所製デジタル濁度計500G(型式TB-500G)によって測定した。これらの結果をまとめて表1に示す。また、溶解試験における溶液の外観を図1に示す。
【0046】
[SEM画像]
得られた粒子状の酸化第一錫を、SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ、電子顕微鏡S-3000N)によって観察した。酸化第一錫のSEM像を図2に示す。
【0047】
[実施例2]
実施例2として、以下の条件を変更したことを除いて、実施例1と同様の手順で粒子状の酸化第一錫を得た。
すなわち、実施例1において、反応母液とするための重炭酸アンモニウムの投入量を増やして、重炭酸アンモニウム195g/Lとなるようにした。また、この溶液を60℃~65℃に加熱保持して、滴下反応中の液温は60℃~65℃を維持し(加熱保持温度一段目)、滴下は約3時間かけて行った。滴下の終了後に、温度を70~75℃に上げてさらに約2時間保持した(加熱保持温度二段目)。
得られた粒子状の酸化第一錫を、実施例1と同様に評価した。その結果を表1にまとめて示す。
【0048】
[比較例1]
市販の酸化第一錫(JX金属商事株式会社製)を用意して、実施例1と同様に、評価を行った。その結果を、表1にまとめて示す。又、この酸化第一錫のSEM像を図3に示す。
【0049】
[比較例2]
市販の酸化第一錫(JX金属商事株式会社製)を用意して、実施例1と同様に、評価を行った。その結果を表1にまとめて示す。なお、この比較例2で用意した市販品は、比較例1で用意した市販品とは製造ロットが異なる。
【0050】
【表1】
【0051】
[耐酸化性の評価(アルミラミネート)]
実施例1で得られた酸化第一錫を、アルミラミネート袋で二重に真空パックした状態で、40℃の温度で3ヶ月保管した。その後、上記と同様に溶解性の評価を行ったところ、溶解時間及び濁度は、8秒間及び20度の結果を得た。すなわち、3ヶ月の保管後においても、溶解性の低下はほとんど観察されず、優れた耐酸化性を備えることが明らかになった。
【0052】
[耐酸化性の評価(大気中保管)]
実施例1及び比較例1で得られた酸化第一錫を、酸化され易さの比較をする為、大気下、室温で24時間保管した。その後、上記と同様に溶解性の評価を行った。この結果を、次の表2にまとめて示す。尚、表2の上段は溶解時間(秒)、下段はその溶液の濁度(度)である。溶解試験における溶液の外観を図4(実施例1)、図5(比較例1)に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
この結果に示されるように、実施例では24時間保管後にも溶解後の濁度に変化が無いのに対し、比較例では24時間保管後には濁りが発生しており、実施例の酸化第一錫粉末は24時間保管後にも溶解後の濁度に現れる程度の酸化が生じていなかったのに対して、比較例では溶解後の濁度に現れる程度の酸化が進行していたことが明らかになった。
【0055】
[粒度分布の評価]
実施例1~2及び比較例1~2の酸化第一錫の粉末について、粒度分布を測定した結果を、図6及び表3に示す。図6のグラフにおいて、横方向の両矢印はそれぞれ、実施例1、2及び比較例1、2の曲線の半値幅となる位置を示す。
【0056】
【表3】
【0057】
この結果から、実施例1及び2は、比較例1及び2よりも半値幅が小さいことがわかった。実施例1及び2の酸化第一錫粉末のほうが耐酸化性に優れている理由は不明であるが、D50が小さく、同時に粒度が揃った粉体であることが関連していると本発明者は考えている。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、溶解性に優れると同時に、耐酸化性に優れた酸化第一錫粉末を提供することができる。本発明は産業上有用な発明である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6