(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】新規ドーパミン産生神経前駆細胞の誘導方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0797 20100101AFI20230522BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20230522BHJP
【FI】
C12N5/0797 ZNA
C12N5/0735
(21)【出願番号】P 2021131135
(22)【出願日】2021-08-11
(62)【分割の表示】P 2019085612の分割
【原出願日】2014-09-04
【審査請求日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2013184387
(32)【優先日】2013-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
(72)【発明者】
【氏名】土井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐俣 文平
(72)【発明者】
【氏名】関口 清俊
(72)【発明者】
【氏名】尾野 雄一
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/015457(WO,A1)
【文献】特表2006-521807(JP,A)
【文献】Front. Cell. Neurosci.,2013年02月15日,Vol.7, Article.11,pp.1-10
【文献】Stem Cells,2012年05月,Vol.30, No.5,pp.935-945
【文献】Nat. Commun.,2012年12月04日,Vol.3, No.1236,p.1-10
【文献】J. Cell. Biochem.,2010年02月01日,Vol.109, No.2,p.292-301
【文献】Exp. Neurol.,2009年09月,Vol.219, No.1,p.341-354
【文献】Stem Cell Reports,2014年03月11日,Vol.2, No.3,p.337-350
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lmx1a及びFoxa2が共陽性の細胞
であり、かつCorin陽性および/またはLrtm1陽性の細胞を含む
解離された細胞集団を、
BDNF及びGDNFの少なくとも一つの神経栄養因子を含む培養液中で浮遊培養する工程を含む、
Foxa2、Nurr1および/またはTH陽性のドーパミン産生神経
前駆細胞を含む細胞塊を製造する方法。
【請求項2】
解離された細胞集団が、Lmx1a及びFoxa2が共陽性の細胞を75.52±8.255%以上含む細胞集
団である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経栄養因子が、BDNFおよびGDNFである、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記神経栄養因子を含む培養液が、B27サプリメント、アスコルビン酸およびDibutyryl cyclic AMPをさらに含む、請求項1
~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記浮遊培養工程が、少なくとも7日間行われる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項6】
前記浮遊培養工程が、14日間から30日間行われる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞集団が、多能性幹細胞をBMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤、FGF8お
よびGSK3β阻害剤から成る群より選択される試薬を含む培養液中で細胞外基質上にて接着培養する工程によって得られた細胞集団である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記接着培養する工程が次の工程を含む、請求項
7に記載の方法;
(a)多能性幹細胞を細胞外基質上でBMP阻害剤およびTGFβ阻害剤を含む培養液中で接着
培養する工程、
(b)前記工程(a)で得られた細胞をBMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤およ
びFGF8を含む培養液中で細胞外基質上にて接着培養する工程、
(c)前記工程(b)で得られた細胞をBMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤、FGF8およびGSK3β阻害剤を含む培養液中で細胞外基質上にて接着培養する工程、および
(d)前記工程(c)で得られた細胞をBMP阻害剤およびGSK3β阻害剤を含む培養液中で細
胞外基質上にて接着培養する工程。
【請求項9】
前記接着培養工程が、少なくとも10日間行われる、請求項
7または
8に記載の方法。
【請求項10】
前記接着培養工程が、12日間から21日間行われる、請求項
7または
8に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞外基質が、ラミニンまたはその断片である、請求項
7~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞外基質が、ラミニン511E8である、請求項
7~
10のいずれか一項に記載の方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーパミン産生神経前駆細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は、中脳黒質のドーパミン産生神経細胞の脱落によって起きる神経変性疾患であり、現在、世界中で約400万人の罹患者がいる。パーキンソン病の治療として、L-DOPAまたはドーパミンアゴニストによる薬物治療、定位脳手術による凝固術または深部
電気刺激治療および胎児中脳移植などが行われている。
【0003】
胎児中脳移植はその供給源の組織の倫理的な問題があるとともに、感染の危険性も高い。そこで、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞か
ら分化誘導した神経細胞を用いた治療法が提案されている(非特許文献1)。しかし、分化誘導した神経細胞を移植した際に、良性腫瘍を形成する可能性および目的とするドーパミン産生神経細胞以外の細胞が原因と考えられるジスキネジアが指摘されており、生着し尚且つ安全な細胞を選択して移植することが求められている。
【0004】
そこで、ドーパミン産生神経細胞またはドーパミン産生神経前駆細胞のマーカーとなる遺伝子により移植に適した細胞を選別することが提案されているが(特許文献1~4)、マーカーの選択にも改善の余地があった。また、これらの文献では選別直後の細胞を投与することが適しているのか、または、この中間体細胞から誘導した細胞を投与することが良いのかについては検討されていない。
【0005】
さらに、生物由来成分の含有によるロット差の影響や価格の高騰を抑えるためには、ドーパミン産生神経細胞の製造方法には改良の余地があると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2005/052190
【文献】WO2006/009241
【文献】WO2007/119759
【文献】WO2013/015457
【非特許文献】
【0007】
【文献】Wernig M, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2008, 105: 5856-5861
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、パーキンソン病治療剤として適したドーパミン産生神経前駆細胞を製造することである。したがって、本発明の課題は、ドーパミン産生神経前駆細胞の製造工程または製造に必要なキットを提供することである。
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、ドーパミン産生神経前駆細胞のマーカー遺伝子と考えられている細胞表面膜タンパク質のCorinおよび/またはLrtm1に着目し、これを
指標として細胞を抽出し、さらに培養を継続した後に移植することで移植後もドーパミン産生細胞が生着することを見出し、本製造工程によりパーキンソン病治療剤としてのドーパミン産生神経前駆細胞を得られることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]次の工程を含む多能性幹細胞からドーパミン産生神経前駆細胞を製造する方法:
(i)多能性幹細胞をBMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤、FGF8およびGSK3β阻害剤から成る群より選択される試薬を含む培養液中で細胞外基質上にて接着培養する工程、
(ii)前記工程(i)で得られた細胞からCorinおよび/またはLrtm1陽性細胞を収集する工程、
(iii)前記工程(ii)で得られた細胞を神経栄養因子を含む培養液中で浮遊培養する工
程。
[2]細胞外基質が、ラミニン511またはその断片である、[1]に記載の方法。
[3]ラミニン511断片が、ラミニン511E8である、[2]に記載の方法。
[4]前記工程(i)が次の工程を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法;
(a)多能性幹細胞を細胞外基質上でBMP阻害剤およびTGFβ阻害剤を含む培養液中で接着
培養する工程、
(b)前記工程(a)で得られた細胞をBMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤およ
びFGF8を含む培養液中で細胞外基質上にて接着培養する工程、
(c)前記工程(b)で得られた細胞をBMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤、FGF8およびGSK3β阻害剤を含む培養液中で細胞外基質上にて接着培養する工程、
(d)前記工程(c)で得られた細胞をBMP阻害剤およびGSK3β阻害剤を含む培養液中で細
胞外基質上にて接着培養する工程。
[5]BMP阻害剤がLDN193189である、[1]から[4] のいずれかに記載の方法。
[6]TGFβ阻害剤がA83-01である、[1]から[4] のいずれかに記載の方法。
[7]SHHシグナル刺激剤がPurmorphamineである、[1]から[4] のいずれかに記載の方法
。
[8]GSK3β阻害剤がCHIR99021である、[1]から[4] のいずれかに記載の方法。
[9]前記神経栄養因子がBDNFおよびGDNFである、[1] から[8] のいずれかに記載の方法。
[10]前記工程(iii)の工程で用いる培養液が、B27サプリメント、アスコルビン酸およびDibutyryl cyclic AMPをさらに含む、[1] から[9] のいずれかに記載の方法。
[11]前記(i)および/または(iii)の工程で用いる培養液が、さらにROCK阻害剤を含
む、[1] から[10] のいずれかに記載の方法。
[12]ROCK阻害剤がY-27632である、[11]に記載の方法。
[13]前記工程(i)が、少なくとも10日間行われる、[1] から[12] のいずれかに記
載の方法。
[14]前記工程(i)が、12日間から21日間行われる、[1] から[13]のいずれかに記載の方法。
[15]前記工程(i)が、12日間から14日間行われる、[1] から[13]のいずれかに記載の方法。
[16]前記工程(iii)が、少なくとも7日間行われる、[1] から[15] のいずれかに記載の方法。
[17]前記工程(iii)が、14日間から30日間行われる、[1] から[16]のいずれかに記載の方法。
[18]前記工程(iii)が、14日間から16日間行われる、[1] から[17]のいずれかに記載の方法。
[19]Corinに結合する物質またはLrtm1に結合する物質が、CorinまたはLrtm1に結合する抗体またはアプタマーである、[1]から[18]のいずれかに記載の方法。
[20][1]から[19] のいずれかに記載の方法で得られる、ドーパミン産生神経前駆細
胞。
[21][1]から[19] のいずれかに記載の方法で得られるドーパミン産生神経前駆細胞
を含む、パーキンソン病治療剤。
[22]BMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤、FGF8、GSK3β阻害剤、細胞外基質
および神経栄養因子を含む、多能性幹細胞からドーパミン産生神経前駆細胞を作製するためのキット。
[23]抗Corin抗体および/または抗Lrtm1抗体をさらに含む、[22]に記載のキット。
[24]細胞外基質がラミニン511E8である、[22]または[23]に記載のキット。
[25]BMP阻害剤が、LDN193189である、[22] から[24]のいずれかに記載のキット。
[26]TGFβ阻害剤がA83-01である、[22] から[25]のいずれかに記載のキット。
[27]SHHシグナル刺激剤がPurmorphamineである、[22] から[26]のいずれかに記載
のキット。
[28]GSK3β阻害剤がCHIR99021である、[22] から[27]のいずれかに記載のキット。[29]神経栄養因子がBDNFおよびGDNFである、[22] または[28]のいずれかに記載の
キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パーキンソン病治療剤などに有用な、移植に適した生着率の高いドーパミン産生神経前駆細胞を効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1には、ドーパミン産生細胞の製造プロトコールの一例を示す。図中、"Y"はY-27632を示し、"AA"はAscorbic acidを示す。
【
図2】
図2は、コーティング剤としてMG(マトリゲル)、CS(CELLStart)、LM111(Laminin111E8)またはLM511(Laminin511E8)を用いて分化誘導した場合の12日目における、Tra-1-60陽性細胞の含有率、PSA-NCAM陽性細胞の含有率およびCorin陽性細胞の含有率を示すグラフである。
【
図3】
図3は、ヒトiPS細胞(836B3)および分化誘導工程の細胞の位相差像を示す(写真)。像はそれぞれ、分化誘導前(左図)、分化誘導直後(day0)(中央図)および誘導後12日目(day12)(右図)を示す。
【
図4】
図4は、分化誘導工程におけるCorin(○)、PSA-NCAM(□)およびTra-1-60(△)の陽性細胞数の含有率の変化を示す。day12以降は、ソーティングを行っていない条件での結果を示す。
【
図5】
図5は、未分化マーカーおよび分化マーカーの発現量の変化を示す。値は、day0の値を1とした場合の相対値で示す。
図5A中のday12において、Sox1、hGSC、Sox17、Brachyury、NanogおよびOct4の値を示す。
図5B中のday42において、Lmx1a、TH、Foxa2、Nurr1、Map2ab、En1およびOct4の値を示す。
【
図6】
図6は、poly-L-Ornithine /Laminin/Fibronectinコート上で培養して42日目の細胞の免疫染色像を示す(写真)。
【
図7】
図7は、12日目(day12)において抗Corin抗体を用いてソーティングした場合のCorin陽性、Corin陰性またはソーティングなしの細胞の遺伝子発現解析結果を示す。
図7Aは、各細胞におけるLmx1a、En1、Foxa2、Otx2、Gbx2、およびSix3の発現量を示す。発現量は、ソーティングなし(unsorted)を1とした場合の相対値にて示す。
図7Bは、day12でのソーティングしなかった(unsorted)細胞とCorin陽性細胞(Corin+)をマイクロアレイにより発現比較した解析結果を示す。
【
図8】
図8は、day12において抗Corin抗体を用いてソーティングしたCorin陽性細胞(Corin+)またはCorin陰性細胞(Corin-)、もしくはソーティングしなかった細胞(Unsorted)の遺伝子発現解析結果を示す。
図8Aは、各細胞におけるFoxa2/Lmx1a(上図)およびOtx2/Lmx1a/DAPI(下図)の三重染色像を示す(写真)。
図8Bは、各細胞におけるFoxa2陽性およびLmx1a陽性の細胞含有率を示す。
図8Cは各細胞におけるOtx2陽性およびLmx1a陰性の細胞含有率を示す。
図8D、各細胞および分化誘導前の細胞におけるOct4およびNanogの発現量を示す。
【
図9】
図9は、day21において抗Corin抗体を用いてソーティングしたCorin陽性細胞(Corin+)またはCorin陰性細胞(Corin-)、もしくはソーティングしなかった細胞(Unsorted)の遺伝子発現解析結果を示す。
図9Aは、各細胞におけるLmx1a、En1、Foxa2、Otx2、Gbx2、およびSix3の発現量を示す。発現量は、ソーティングなし(unsorted)を1とした場合の相対値にて示す。
図9Bは、各細胞におけるCorin/Lmx1a(上図)およびFoxa2/Lmx1a(下図)の二重染色像を示す(写真)。
図9Cは、各細胞におけるFoxa2陽性およびLmx1a陽性の細胞含有率を示す。
【
図10】
図10は、分化誘導28日目(day28)および42日目(day42)での細胞塊(sphere)の大きさの解析結果を示す。
図10Aは、各細胞塊の位相差像を示す(写真)。
図10Bは、各細胞塊の直径の値のグラフを示す。
【
図11】
図11は、分化誘導28日目(day28)および42日目(day42)での遺伝子発現解析結果を示す。
図11Aは、Foxa2/DAPIおよびNurr1/TH(チロシンヒドロキシラーゼ)に対する免疫染色像を示す(写真)。
図11Bは、day28(左図)およびday42(右図)におけるNurr1陽性細胞、Foxa2陽性細胞およびTH陽性細胞の含有率を示す。
図11Cは、Corin+およびUnsortedにおける、day42での1×10
6個の細胞から放出されるドーパミン(DA)、3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)およびセロトニン(5-HT)の量を示す。
【
図12】
図12は、ソーティング(day12)により採取されたCorin陽性細胞を培養して得られた細胞(Corin+)またはソーティングを行わず誘導した細胞(Unsorted)を分化誘導28日目にラット(6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)投与)の脳内移植した後16週目での移植片の様子を示す。
図12Aは、移植片のGFAP、Ki67およびヒト核の免疫染色像を示す(写真)。図中の枠内の拡大像を別途示す。
図12B、CおよびDは、それぞれday28、day42およびday19の細胞を移植した場合の移植片の大きさをプロットしたグラフを示す。
図12Eは、day28の細胞を移植した場合の移植片におけるKi67陽性細胞含有率を示す。
【
図13】
図13は、ソーティング(day12)により採取されたCorin陽性細胞を培養して得られた細胞(Corin+)、ソーティングを行わず誘導した細胞(Unsorted)または陰性対照(Medium)を分化誘導28日目(day28)および42日目(day42)にラット(6-OHDA投与)の脳内へ移植した結果を示す。
図13Aは、day28の細胞を投与した場合の移植後の各時期での単位時間あたりの旋回行動数を示す。
図13Bは、day28の細胞を投与した場合の移植片あたりのTH陽性細胞数をプロットしたグラフを示す。
図13Cは、day28の細胞を投与した場合の脳のTH(赤色)およびヒト核(緑色)の染色像を示す(写真)。
図13Dは、day42の細胞を投与した場合の移植後の各時期での単位時間あたりの旋回行動数を示す。
図13Eは、day42の細胞を投与した場合の移植片あたりのTH陽性細胞数をプロットしたグラフを示す。
図13Fは、day42の細胞を投与した場合の脳のTH(赤色)およびヒト核(緑色)の染色像を示す(写真)。
【
図14】
図14は、day28の細胞を移植した場合の移植片の解析結果を示す。
図14Aは、神経細胞(NeuN +)あたりのTH陽性細胞数をプロットしたグラフを示す。
図14Bは、ドナー細胞(human nuc+)あたりのTH陽性細胞数をプロットしたグラフを示す。
図14Cは、移植片のFoxa2/TH、Pitx3/TH、Nurr1/THおよびGirk2/THに対する二重染色像を示す(写真)。
【
図15】
図15は、ソーティング(day12)により採取されたCorin陽性細胞を培養して得られた細胞(Corin+)またはソーティングを行わず誘導した細胞(Unsorted)を分化誘導28日目にラット(6-OHDA投与)の脳内へ移植した結果を示す。
図15Aは、各細胞における16週目の移植片でのセロトニン(緑)/TH(赤)の二重染色像を示す(写真)。
図15Bは、各細胞における16週目での生存細胞(NeuN陽性細胞)あたりのセロトニン陽性細胞の含有率を示す。
【
図16】day28の細胞、day42の細胞および胎児腹側中脳細胞の遺伝子発現解析の結果を示す。
図16Aは、マイクロアレイを用いて、day12においてCorin陽性細胞でソートした細胞(d28 Corin+)およびソートしなかった細胞(d28 Unsorted)の発現比較した結果(左図)、ならびにCorin陽性細胞でソートした誘導28日目の細胞(d28 Corin+)および誘導42日目の細胞の発現比較した結果(右図)を示す。
図16Bは、day28の細胞(d28 Corin+)、day42の細胞(d42 Corin+)および胎児腹側中脳細胞(VM)に対してPCRを用いてCORIN、LMX1A、FOXA2、NURR1、THおよびTPH2を測定した結果を示す。胎児腹側中脳細胞(VM)の値を1として比較した数値で示す。
図16C、Corin陽性細胞でソートしたday28の細胞(d28 Corin+)、ソートしなかったday28の細胞(d28 Unsorted)、ソートしたday42の細胞(d42 Corin+)、ソートしなかったday42の細胞(d42 Unsorted)および胎児腹側中脳細胞(VM)のマイクロアレイをクラスター解析した結果を示す。
【
図17】
図17は、ソーティング(day14)により採取されたLrtm1陽性細胞を培養して得られた細胞の染色像を示す。
図17Aは、ソーティング後7日目のFoxa2、Lmx1aおよびDAPIでの染色像を示す(写真)。図中の数字は各陽性細胞の含有率を示し、二重染色の場合は、二重陽性細胞の含有率を示す。
図17Bは、Lrtm1陽性細胞をソーティングした細胞(Lrtm1+)およびソーティングしなかった細胞(Unsort)を21日間培養した後の各マーカー(Foxa2、Nurr1およびTH)の染色像を示す(写真)。図中の数字は各陽性細胞の含有率を示し、二重染色の場合は、二重陽性細胞の含有率を示す。
【
図18】ソーティング(day14)により採取されたLrtm1陽性細胞を1日培養して得られた細胞を10週齢SDラットに移植した後の移植片における各マーカー(Foxa2、THおよびNurr1)の免疫染色像を示す(写真)。
【
図19-1】
図19は、Lrtm1陽性細胞をソーティングにより採取した細胞をさらに培養した後の染色像を示す(左から、Foxa2/DAPI、Nurr1/DAPI、TH/DAPI、Foxa2+TH+/DAPI、Nurr1+TH+/DAPIおよびFoxa2+Nurr1+TH+/DAPIを示す)。図中の数字は染色像の陽性細胞率を示す。
図19Aは、分化誘導14日目にソーティングし、7日間培養後の染色像を示す。
【
図19-2】
図19は、Lrtm1陽性細胞をソーティングにより採取した細胞をさらに培養した後の染色像を示す(左から、Foxa2/DAPI、Nurr1/DAPI、TH/DAPI、Foxa2+TH+/DAPI、Nurr1+TH+/DAPIおよびFoxa2+Nurr1+TH+/DAPIを示す)。図中の数字は染色像の陽性細胞率を示す。
図19Bは、分化誘導14日目にソーティングし、14日間培養後の染色像を示す。
【
図19-3】
図19は、Lrtm1陽性細胞をソーティングにより採取した細胞をさらに培養した後の染色像を示す(左から、Foxa2/DAPI、Nurr1/DAPI、TH/DAPI、Foxa2+TH+/DAPI、Nurr1+TH+/DAPIおよびFoxa2+Nurr1+TH+/DAPIを示す)。図中の数字は染色像の陽性細胞率を示す。
図19Cは、分化誘導21日目にソーティングし、7日間培養後の染色像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、次の工程を含む多能性幹細胞からドーパミン産生神経前駆細胞を製造する方法を提供する;
(i)多能性幹細胞をBMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤、FGF8およびGSK3β阻害剤から成る群より選択される試薬を含む培養液中で細胞外基質上にて接着培養する工程、
(ii)前記工程(i)で得られた細胞からCorinおよび/またはLrtm1陽性細胞を収集する工程、
(iii)前記工程(ii)で得られた細胞を神経栄養因子を含む培養液中で浮遊培養する工
程。
【0014】
<多能性幹細胞>
本発明で使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、特に限定されないが、例えば胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線
維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞、ntES細胞、およびiPS細胞である。
【0015】
(A) 胚性幹細胞
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。
ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由
来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に発見され(M.J. Evans and M.H. Kaufman (1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された (J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。
【0016】
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培養液を用い
て行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばUSP5,843,780; Thomson JA, et al. (1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848; Thomson JA, et al. (1998), Science. 282:1145-1147; H. Suemori et al. (2006),
Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559; H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279;H. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。
【0017】
ES細胞作製のための培養液として、例えば0.1mM 2-メルカプトエタノール、0.1mM 非必須アミノ酸、2mM L-グルタミン酸、20% KSRおよび4ng/ml bFGFを補充したDMEM/F-12培養
液を使用し、37℃、2% CO2/98% 空気の湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができ
る(O. Fumitaka et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:215-224)。また、ES細胞は、3~4日おきに継代する必要があり、このとき、継代は、例えば1mM CaCl2および20% KSRを含
有するPBS中の0.25% トリプシンおよび0.1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて行うことができ
る。
【0018】
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にしてReal-Time PCR法で行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択
では、OCT-3/4、NANOG、ECADなどの遺伝子マーカーの発現を指標とすることができる(E. Kroon et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:443-452)。
ヒトES細胞株は、例えばWA01(H1)およびWA09(H9)は、WiCell Reserch Instituteから、KhES-1、KhES-2およびKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
【0019】
(B) 精子幹細胞
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で
継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41~46頁,羊土社(東京、日本))。
【0020】
(C) 胚性生殖細胞
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖
細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。
【0021】
(D) 人工多能性幹細胞
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNAまたはES細胞の未分化維
持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNA、あるいは低
分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み
合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem
Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D,
et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
【0022】
上記初期化因子には、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば
、PD184352、PD98059、U0126、SL327およびPD0325901)、Glycogen synthase kinase-3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5-azacytidine)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294 等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性
発現阻害剤など)、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤
またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA83-01)、p53阻害剤(
例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAお
よびshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295およびmir-302などのmiRNA、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2
、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれており、本明細書においては、これらの樹立効率の改善目的にて用いられた因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。
【0023】
初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
【0024】
一方、DNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター
、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとして
は、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性
遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。
【0025】
また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの
手法によって体細胞内に導入しても良く、分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびpseudouridine (TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いても良い(Warren L, (2010) Cell Stem Cell. 7:618-630)。
【0026】
iPS細胞誘導のための培養液としては、例えば、10~15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、2-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血
清培地(mTeSR、Stemcell Technology社)]などが含まれる。
【0027】
培養法の例としては、たとえば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培養液上で体細胞と初期化因子とを接触させ約4~7日間培養し、その後、細胞をフィ
ーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細
胞と初期化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培養液で培養し、該接触から約30~約45日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。
【0028】
あるいは、37℃、5% CO2存在下にて、フィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培養液(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ス
トレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、2-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25~約30日又はそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al. (2009), PLoS One. 4:e8067
またはWO2010/137746)、もしくは細胞外基質(例えば、Laminin-5(WO2009/123349)お
よびマトリゲル(BD社))を用いる方法が例示される。
【0029】
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げる
ため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。
【0030】
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103~約5×106細胞の範囲である。
【0031】
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞
が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬
剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マー
カー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
【0032】
本明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)
神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0033】
また、iPS細胞を移植用細胞の材料として用いる場合、拒絶反応が起こらないという観
点から、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一もしくは実質的に同一である体細胞を用いる
ことが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、HLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座あるいはHLA-Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有す
る体細胞である。
【0034】
(E) 核移植により得られたクローン胚由来のES細胞
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵
由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:
740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換すること
によって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み
合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47~52頁)。核移植に
おいては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
【0035】
(F) Multilineage-differentiating Stress Enduring cells(Muse細胞)
Muse細胞は、WO2011/007900に記載された方法にて製造された多能性幹細胞であり、詳
細には、線維芽細胞または骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間また
は16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞であり、SSEA-3およびCD105が陽性である。
【0036】
<ドーパミン産生神経前駆細胞>
本発明において、ドーパミン産生神経前駆細胞とは、特に断りがなければ、ドーパミン産生神経細胞またはドーパミン作動性ニューロンなどを含むものとする。また、ドーパミン産生神経前駆細胞は、他の細胞種が含まれている細胞集団であってもよく、好ましくはセロトニン神経細胞を含まない細胞集団である。ドーパミン産生神経前駆細胞は、Foxa2Nurr1および/またはTH陽性細胞を含有する細胞集団であることが望ましい。本発明におい
て、ヒトFoxa2としては、NCBIアクセッション番号NM_021784またはNM_153675で示される
ポリヌクレオチドおよびこれらがコードするタンパク質が挙げられる。本発明において、ヒトNurr1としては、NCBIアクセッション番号NM_006186で示されるポリヌクレオチドおよびこれらがコードするタンパク質が挙げられる。本発明において、ヒトTHとしては、NCBIアクセッション番号NM_000360、NM_199292またはNM_199293で示されるポリヌクレオチド
およびこれらがコードするタンパク質が挙げられる。
【0037】
<細胞外基質>
本発明において、細胞外基質とは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然由来であっても、人工物(組換え体)であってもよい。例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリンおよびラミニンといった物質またはこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BD Matrigel(商標)などの細胞からの調
製物であってもよい。好ましくは、ラミニンまたはその断片である。本発明においてラミニンとは、α鎖、β鎖、γ鎖をそれぞれ1本ずつ持つヘテロ三量体構造を有するタンパク
質であり、特に限定されないが、例えば、α鎖は、α1、α2、α3、α4またはα5であり、β鎖は、β1、β2またはβ3であり、ならびにγ鎖は、γ1、γ2またはγ3が例示される、より好ましくは、α5、β1およびγ1からなるラミニン511である。本発
明では、ラミニンは断片であってもよく、インテグリン結合活性を有している断片であれば、特に限定されないが、例えば、エラスターゼにて消化して得られる断片であるE8フラグメントであってもよい。従って、本発明では、WO2011/043405に記載されたラミニン511E8(好ましくはヒトラミニン511E8)が例示される。
【0038】
<BMP阻害剤>
本発明において、BMP阻害剤とは、Chordin、Noggin、Follistatin、などのタンパク質
性阻害剤、Dorsomorphin (すなわち、6-[4-(2-piperidin-1-yl-ethoxy)phenyl]-3-pyridin-4-yl-pyrazolo[1,5-a]pyrimidine)、その誘導体 (P. B. Yu et al. (2007), Circulation, 116:II_60; P.B. Yu et al. (2008), Nat. Chem. Biol., 4:33-41; J. Hao et al. (2008), PLoS ONE, 3(8):e2904)およびLDN193189(すなわち、4-(6-(4-(piperazin-1-yl)phenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl)quinoline)が例示される。DorsomorphinおよびLDN193189は市販されており、それぞれSigma-Aldrich社およびStemgent社から入手可能で
ある。本発明で使用されるBMP阻害剤は、好ましくは、LDN193189であり得る。
【0039】
培養液中におけるLDN193189の濃度は、BMPを阻害する濃度であれば特に限定されないが、例えば、1nM、10nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6
μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、100nMである。
【0040】
<TGFβ阻害剤>
本発明において、TGFβ阻害剤とは、TGFβの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、また
はALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質が挙げられ、例えば、Lefty-1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124 (GlaxoSmithKline)、 NPC30345、SD093、 SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、 LY580276 (Lilly Research Laboratories)、A83-01(WO 2009146408) およびこれらの誘導体などが例示される。本発明で使用されるTGFβ阻害剤は、好ましくは、A83-01であり得る
。
【0041】
培養液中におけるA83-01の濃度は、ALK5を阻害する濃度であれば特に限定されないが、例えば、1nM、10nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれ
らに限定されない。好ましくは、500nMから5μMであり、より好ましくは、500nMである。
【0042】
<SHHシグナル刺激剤>
本発明において、SHH(Sonic hedgehog)シグナル刺激剤とは、SHHが受容体であるPatched (Ptch1)に結合して引き起こされるSmoothened (Smo)の脱抑制およびさらに続くGli2
の活性化を引き起こす物質として定義され、例えば、SHH、Hh-Ag1.5 (Li, X., e t al., Nature Biotechnology, 23, 215~ 221 (2005).)、Smoothened Agonist, SAG (N-Methyl-N’-(3-pyridinylbenzyl)-N’-(3-chlorobenzo[b]thiophene-2-carbonyl)-1,4-diaminocyclohexane)、20a-hydroxycholesterol、Purmorphamineおよびこれらの誘導体などが例示
される(Stanton BZ, Peng LF., Mol Biosyst. 6:44-54, 2010)。本発明で使用されるSHHシグナル刺激剤は、好ましくは、Purmorphamineであり得る。
【0043】
培養液中におけるPurmorphamineの濃度は、Gli2を活性化する濃度であれば特に限定さ
れないが、例えば、1nM、10nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMで
あるがこれらに限定されない。好ましくは、2μMである。
【0044】
<GSK3β阻害剤>
本発明において、GSK3β阻害剤とは、GSK-3βタンパク質のキナーゼ活性(例えば、β
カテニンに対するリン酸化能)を阻害する物質として定義され、既に多数のものが知られているが、例えば、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK-3β阻害剤IX;6-ブロモインジルビン3'-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK-3β阻害剤VII(4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK-3βペプチド阻害剤;Myr-N-GKEAPPAPPQpSP-NH2(配列番号1))および高い選択性を有するCHIR99021(6-[2-[4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(4-methyl-1H-imidazol-2-yl)pyrimidin-2-ylamino]ethylamino]pyridine-3-carbonitrile)が挙げられる。これらの化合物は、例えばCalbiochem社やBiomol社等から市販
されており容易に利用することが可能であるが、他の入手先から入手してもよく、あるいはまた自ら作製してもよい。本発明で使用されるGSK-3β阻害剤は、好ましくは、CHIR99021であり得る。
【0045】
培養液中におけるCHIR99021の濃度は、例えば、1nM、10nM、50nM、100nM、500nM、750n
M、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、1μMである。
【0046】
<FGF8>
本発明において、FGF8とは、特に限定されないが、ヒトFGF8の場合、FGF8a、FGF8b、FGF8eまたはFGF8fの4つのスプライシングフォームが例示され、本発明のより好ましくは、FGF8bである。FGF8は、例えばWako社やR&D systems社等から市販されており容易に利用す
ることが可能であるが、当業者に公知の方法によって細胞へ強制発現させることによって得てもよい。
【0047】
培養液中におけるFGF8の濃度は、例えば、1ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、50ng/mL、100ng/mL、150 ng/mL、200ng/mL、250ng/mL、500ng/mL、1000ng/mL、2000ng/mL、5000ng/mLであるがこれらに限定されない。好ましくは、100ng/mLである。
【0048】
<細胞を選択する方法>
本発明において、細胞集団よりCorin陽性細胞および/またはLrtm1陽性細胞を選択する
ために、CorinまたはLrtm1に特異的に結合する物質を用いて行うことができる。Corinま
たはLrtm1に結合する物質は、抗体、アプタマーを用いることができ、好ましくは、抗体
もしくはその抗原結合断片である。
【0049】
本発明において、抗体はポリクローナルまたはモノクローナル抗体であってよい。これらの抗体は、当業者に周知の技術を用いて作成することが可能である(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987) Publish.John Wiley and Sons.Section 11.12-11.13)。具体的には、抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌または哺乳類細胞株等で発現し精製したCorinまたはLrtm1がコードするタンパク質、部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドあるいは糖脂質を精製して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、上述の免疫された非ヒト動物から得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987) Publish.John Wiley and Sons.Section 11.4-11.11)。抗体の抗原結合断片としては、抗体の一部(たとえばFab断
片)または合成抗体断片(たとえば、一本鎖Fv断片「ScFv」)が例示される。FabおよびF(ab)2断片などの抗体の断片もまた、遺伝子工学的に周知の方法によって作製することができる。例えば、Corinに対する抗体はWO2004/065599、WO2006/009241に記載の作製法により
、Lrtm1に対する抗体はWO2013/015457に記載の作製法により得ることができる。
【0050】
ヒトCorinは、NCBIのアクセッション番号NM_006587によりその配列を得ることができる。同様に、ヒトLrtm1は、NM_020678によりその配列を得ることができる。
【0051】
CorinまたはLrtm1を発現する細胞を認識または分離することを目的として、当該結合する物質は、例えば、蛍光標識、放射性標識、化学発光標識、酵素、ビオチンまたはストレプトアビジン等の検出可能な物質またはプロテインA、プロテインG、ビーズまたは磁気ビーズ等の単離抽出を可能とさせる物質と結合または接合されていてもよい。
【0052】
当該結合する物質はまた、間接的に標識してもよい。当業者に公知の様々な方法を使用して行い得るが、例えば、当該抗体に特異的に結合する予め標識された抗体(二次抗体)を用いる方法が挙げられる。
【0053】
ドーパミン産生神経前駆細胞を検出する方法として、フローサイトメーターまたはプロテインチップ等を用いることが含まれる。
【0054】
ドーパミン産生神経前駆細胞を抽出する方法には、当該結合する物質へ粒子を接合させ沈降させる方法、磁気ビーズを用いて磁性により細胞を選別する方法(例えば、MACS)、蛍光標識を用いてセルソーターを用いる方法、または抗体等が固定化された担体(例えば、細胞濃縮カラム)を用いる方法等が例示される。
【0055】
本発明において、CorinまたはLrtm1に特異的に結合するアプタマーは、当業者に周知の技術を用いて作成することが可能である(SELEX(systematic evolution of ligand by exponential enrichment)法:Ellington, A.D. & Szostak, J.W.(1990)Nature,346,818-822., Tuerk, C. & Gold, L.(1990)Science,249,505-510.。)
【0056】
<神経栄養因子>
本発明において、神経栄養因子とは、運動ニューロンの生存と機能維持に重要な役割を果たしている膜受容体へのリガンドであり、例えば、Nerve Growth Factor (NGF)、Brain-derived Neurotrophic Factor (BDNF)、Neurotrophin 3 (NT-3)、Neurotrophin 4/5 (NT-4/5)、Neurotrophin 6 (NT-6)、basic FGF、acidic FGF、FGF-5、Epidermal Growth Factor (EGF)、Hepatocyte Growth Factor (HGF)、Insulin、Insulin Like Growth Factor 1
(IGF 1)、Insulin Like Growth Factor 2 (IGF 2)、Glia cell line-derived Neurotrophic Factor (GDNF)、TGF-b2、TGF-b3、Interleukin 6 (IL-6)、Ciliary Neurotrophic Factor (CNTF)およびLIFなどが挙げられる。本発明において好ましい神経栄養因子は、GDNF、およびBDNFから成るグループより選択される因子である。神経栄養因子は、例えばWako社やR&D systems社等から市販されており容易に利用することが可能であるが、当業者に
公知の方法によって細胞へ強制発現させることによって得てもよい。
【0057】
培養液中におけるGDNF1の濃度は、例えば、0.1ng/mL、0.5ng/mL、1ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、15 ng/mL、20ng/mL、25ng/mL、30 ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、100 ng/mL、200ng/mL、500ng/mLであるがこれらに限定されない。好ましくは、10ng/mLである。
【0058】
培養液中におけるBDNF1の濃度は、例えば、0.1ng/mL、0.5ng/mL、1ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、15 ng/mL、20ng/mL、25ng/mL、30 ng/mL、40ng/mL、50ng/mL、100 ng/mL、200ng/mL、500ng/mLであるがこれらに限定されない。好ましくは、20ng/mLである。
【0059】
<工程(i)>
本発明において、前記工程(i)は、次の多段階の工程によって行われることが望まし
い;
(a)多能性幹細胞を細胞外基質上でBMP阻害剤およびTGFβ阻害剤を含む培養液中で接着
培養する工程、
(b)前記工程(a)で得られた細胞をBMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤およ
びFGF8を含む培養液中で細胞外基質上にて接着培養する工程、
(c)前記工程(b)で得られた細胞をBMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤、FGF8およびGSK3β阻害剤を含む培養液中で細胞外基質上にて接着培養する工程、
(d)前記工程(c)で得られた細胞をBMP阻害剤およびGSK3β阻害剤を含む培養液中で細
胞外基質上にて接着培養する工程。
【0060】
本発明において、工程(i)で用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基
礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、Glasgow's Minimal Essential Medium(GMEM)培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's
F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ
)およびこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、GMEM培地である。培地には、
血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、
脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオ
ールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グ
ルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し
得る。好ましい培養液は、KSR、2-メルカプトエタノール、非必須アミノ酸およびピルビ
ン酸を含有するGMEM培地である。この培養液へ適宜BMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナ
ル刺激剤、FGF8およびGSK3β阻害剤から成る群より選択される試薬を加えて培養することができる。
【0061】
工程(i)において、細胞外基質上にて接着培養するとは、細胞外基質によりコーティ
ング処理された培養容器を用いて培養することによって行い得る。コーティング処理は、細胞外基質を含有する溶液を培養容器に入れた後、当該溶液を適宜除くことによって行い得る。
【0062】
培養条件について、培養温度は、特に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2~5%である。
【0063】
培養期間は、Corinおよび/またはLrtm1陽性細胞が出現する期間であれば、特に限定さ
れないが、工程(i)は、少なくとも10日間行われることが望ましい。より好ましくは、12日間から21日間であり、さらに好ましくは、12日間から14日間である。
【0064】
また工程(i)内の工程(a)では、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、またはそれ以上の日数が挙げられる。好ましくは、1日である。同様に、工程(b)では、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、またはそれ以上の日数が挙げられる。好ましくは、2日である。同様に、工程(c)では、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、またはそれ以上の
日数が挙げられる。好ましくは、4日である。同様に、工程(d)では、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、またはそれ以上の日数が挙げられる
。好ましくは、5日以上である。
【0065】
多能性幹細胞は、細胞を解離させて用いてもよく、細胞を解離させる方法としては、例えば、力学的に解離する方法、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(例えば、Accutase(商標)およびAccumax(商標)など)またはコラゲナーゼ活性のみを有す
る解離溶液を用いた解離方法が挙げられる。好ましくは、トリプシンまたはその代替物(TrypLE CTS(Life Technologies)が例示される)を用いてヒト多能性幹細胞を解離する
方法が用いられる。細胞を解離させた場合、ROCK阻害剤を適宜、解離後に添加して培養することが望ましい。ROCK阻害剤を添加する場合、少なくとも1日間添加して培養すればよ
く、より好ましくは1日間である。
【0066】
<ROCK阻害剤>
本発明において、ROCK阻害剤とは、Rhoキナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものである
限り特に限定されず、例えば、Y-27632(例えば、Ishizaki et al., Mol. Pharmacol. 57, 976-983 (2000);Narumiya et al., Methods Enzymol. 325,273-284 (2000)参照)、Fasudil/HA1077(例えば、Uenata et al., Nature 389: 990-994 (1997)参照)、H-1152(
例えば、Sasaki et al., Pharmacol. Ther. 93: 225-232 (2002)参照)、Wf-536(例えば、Nakajima et al., Cancer Chemother Pharmacol. 52(4): 319-324 (2003)参照)および
それらの誘導体、ならびにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例えば
、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクターが挙げられる。ま
た、ROCK阻害剤としては他の低分子化合物も知られているので、本発明においてはこのような化合物またはそれらの誘導体も使用できる(例えば、米国特許出願公開第20050209261号、同第20050192304号、同第20040014755号、同第20040002508号、同第20040002507号
、同第20030125344号、同第20030087919号、及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。本発明で
は、1種または2種以上のROCK阻害剤が使用され得る。本発明で使用されるROCK阻害剤は、好ましくは、Y-27632であり得る。
【0067】
Y-27632の濃度は、例えば、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6
μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、10μMである。
【0068】
<工程(ii)>
(ii)のCorinおよび/またはLrtm1陽性細胞を収集する工程は、上述した<細胞を選択す
る方法>に基づいて行うことができる。
【0069】
<工程(iii)>
工程(iii)で用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調
製することができる。基礎培地としては、例えば、Glasgow's Minimal Essential Medium
(GMEM)培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、Neurobasal Mediumである。培地には、血清
が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBS
の血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオール
グリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタ
ミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、核酸(例えば、Dibutyryl cyclic
AMP(dbcAMP))などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい培養液は、B27サプリメント、アスコルビン酸およびdbcAMPを含有するNeurobasal Mediumである。この培養液へ適
宜神経栄養因子を加えて培養することができる。
【0070】
工程(iii)における、浮遊培養とは、細胞を培養容器へ非接着の状態で培養すること
であり、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養容器、若しくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA
)、非イオン性の界面活性ポリオール(Pluronic F-127等)またはリン脂質類似構造物(例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位とする水溶性ポリマー(Lipidure))によるコーティング処理した培養容器を使用して行うことができる。
【0071】
培養条件について、培養温度は、特に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2~5%である。
【0072】
培養期間は、Nurr1またはFoxa2陽性細胞が出現する期間であれば、特に限定されないが、工程(iii)は、少なくとも7日間行われることが望ましい。より好ましくは、7日間か
ら30日間であり、さらに好ましくは、14日間から21日間、または14日間から16日間であり、最も好ましくは、16日間である。
【0073】
工程(ii)に続いて工程(iii)を行う場合、ROCK阻害剤を適宜添加して培養すること
が望ましい。ROCK阻害剤を添加する場合、少なくとも1日間添加して培養すればよく、よ
り好ましくは1日間である。
【0074】
<パーキンソン病治療剤>
本発明で得られたドーパミン産生神経前駆細胞は、製剤としてパーキンソン病患者に投与することができる。得られたドーパミン産生神経前駆細胞を生理食塩水等に懸濁させ、患者の線条体領域に移植することによって行われる。従って、本発明では、上記の方法で多能性幹細胞より得られたドーパミン産生神経前駆細胞を含むパーキンソン病治療剤を提供する。
【0075】
本発明において、パーキンソン病治療剤に含まれるドーパミン産生神経前駆細胞の細胞数は、移植片が投与後に生着できれば特に限定されないが、例えば、15×104個以上含ま
れ得る。また、症状や体躯の大きさに合わせて適宜増減して調製されてもよい。
【0076】
ドーパミン産生神経前駆細胞の疾患部位への移植は、例えば、Nature Neuroscience,2,
1137(1999)もしくはN Engl J Med. ;344:710-9(2001)に記載されるような手法によって
行うことができる。
【0077】
<キット>
本発明での他の実施態様において、多能性幹細胞からドーパミン産生神経前駆細胞を作製するキットが含まれる。当該キットには、上述したドーパミン産生神経前駆細胞を作製する各工程に使用する培養液、添加剤または培養容器等が含まれる。例えば、抗Corin抗
体、抗Lrtm1抗体、BMP阻害剤、TGFβ阻害剤、SHHシグナル刺激剤、FGF8、GSK3β阻害剤、細胞外基質および神経栄養因子から成る群より選択される試薬が挙げられる。本キットには、さらに製造工程の手順を記載した書面や説明書を含んでもよい。
【0078】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0079】
実施例1
細胞および培養
ヒトES細胞(KhES-1)は、京都大学再生医科学研究所より受領した(Suemori H, et al. Biochem Biophys Res Commun. 345:926-32, 2006)。ヒトiPS細胞である404C2および836B3は、Oct3/4、Sox2、Klf4、L-MYC、LIN28およびp53shRNAをヒト線維芽細胞にエピソー
マルベクターにより導入して得られた細胞として京都大学の山中教授らより受領した (Okita ,et al, Nat Methods. 8:409-412, 2011)。
【0080】
ES細胞およびiPS細胞は、Miyazaki T et al., Nat Commun.3:1236, 2012に記載に準拠
した方法で培養した。簡潔には、Laminin511E8でコーティングした6 well plateにて培養した。
【0081】
このように得られたES細胞およびiPS細胞をTrypLE CTS(Life Technologies)を用いて解離し、別途用意したLaminin511E8(iMatrix-511、Nippi)でコーティングした6 well plateに1wellあたり4×10
4個を移し、上記培養方法にて4日間培養後、コンフルエントに
なったことを確認して、培地を10μM Y-27632(WAKO)、0.1μM LDN193189(STEMGENT)
および0.5μM A83-01(WAKO)を含有する基本培地A(8%KSR(Invitrogen)、1mM Sodium pyruvate(Invitrogen)、0.1mM MEM non essential amino acid(Invitrogen)および0.1mM 2-Mercaptoethanol(WAKO)を含有するGMEM(Invitrogen))に交換した。翌日(day1)、0.1μM LDN193189、0.5μM A83-01、2μM Purmorphamine(WAKO)および100ng/mL FGF8(WAKO)を含有する基本培地Aへ培地を交換した。2日後(day3)、0.1μM LDN193189、0.5μM A83-01、2μM Purmorphamine、100ng/mL FGF8および3μM CHIR99021(WAKO)を含有する基本培地Aへ培地を交換した。4日後(day7)、0.1μM LDN193189および3μM CHIR99021を含有する基本培地Aへ培地を交換した。以後、培地交換を1日に一度行った。また、上記のコーティング剤であるLaminin511E8を、マトリゲル(BD)、CELLstart(Invitrogen
)、またはLaminin111E8に置き換えて同様の実験を12日間行ったところ、いずれのコーティング剤を用いておこなってもPSA-NCAM陽性細胞、およびCorin陽性細胞が得られたが
、Laminin511E8を用いた場合、未分化細胞(Tra-1-60陽性細胞)の残存が少なく、Corin
陽性細胞の含有率が最も高かった(
図2)。Laminin511E8コーティングによる接着培養を行うことで浮遊培養を行うよりも一度に多量の細胞を取り扱うことが可能となり、所望の細胞の含有率も高くなることが確認された。以後は、Laminin511E8をコーティング剤として用いた。
【0082】
抗Corin抗体は以下の方法で作製した。まず、カニクイザルCorin遺伝子のうち、細胞外領域の一部(79-453アミノ酸)をコードする遺伝子配列を293E細胞に導入して、Corinタン
パク質の細胞外領域断片を発現させて回収した。回収したタンパク質をマウスに免疫したのち、リンパ球細胞を取り出してミエローマ細胞とフュージョンさせた。フュージョンさせた細胞集団より、Corinに反応性を持つクローンを選択した。このクローンの培養上清
を抗Corinモノクローナル抗体として用いた。
【0083】
0.1μM LDN193189および3μM CHIR99021を含有する基本培地Aでの培養から5日後(day12)、TrypLE CTSを用いて細胞を解離し、2%FBS、10μM Y-27632(WAKO)、20 mM D-glucoseおよび50μg/ml Penicillin/Streptomycinを含有するCa2+Mg2+-free HBSS(Invitrogen
)へ懸濁させた。上記の抗Corin抗体を添加し、4℃で20分間インキュベートし、FACSAriaII (BD)をもちいてソーティングを行いCorin陽性細胞を回収した。
【0084】
回収したCorin陽性細胞をLipidure-coat 96 well plate(NOF Corporation)に20000個/wellにて移し、基本培地B(B27 Supplement without vitamin A(Invitrogen)、20ng/mL BDNF、 10ng/mL GDNF、200mM Ascorbic acidおよび0.4mM dbcAMP(Sigma)を添加したNeurobasal medium(Invitrogen))を用いて浮遊培養した。この時、最初の培地は、30μMのY-27632を添加した培地を用いたが、3日に一度、半量ずつ交換した際には、Y-27632を添加しない培地を用いた。ソーティングから16日後(day28)、または、さらに14日間浮
遊培養を継続した(day42)細胞が移植に適しているか検討をおこなった。この時、培地
は、3日に一度、半量ずつ交換した。以上の培養方法のスキームを
図1に示した。
【0085】
一方、対照としてday12においてCorinによるソーティングを行なわずに同様に浮遊培養を行った。
【0086】
ソーティングの日程の検討
上記の方法でiPS細胞(836B3)から得られた各分化誘導時期の細胞の様子を
図3に示した。また、day12にてソーティングを行わず、day28に得られた細胞塊をPoly-L-ornithine、FibronectinおよびLaminin-coatディッシュへ移し、基本培地Bにて培養を14日間継続した場合(day42)のCorin、ポリシアル化(PSA)-NCAMおよびTra-1-60の各陽性細胞の含有率を
図4に示した。本分化誘導方法では、day7から神経細胞マーカーであるPSA-NCAM陽性細胞の含有率が増加し、day12あたりで大多数を占めた。フロアプレートマーカーであるCorin陽性細胞は、day10で現れ、day21から28にピークとなった。この傾向は、404C2を用い
ても同じであった。従って、Corin陽性細胞をソーティングして得るためには、day10以降で行うことが好ましいことが示唆された。
【0087】
続いて、day12までのOct4、Nanog、Sox1、Sox17、Brachyury、hGSCなどの発現を定量PCRにて測定し、経時変化を
図5Aに示した。SOX1は早期より発現し、以後その発現を維持
することが確認された。未分化マーカーであるOct4やNanogはその発現が減少することが
確認された。中胚葉マーカーであるBrachyuryは、一過的に発現が増加した後、減少した
。内胚葉マーカーであるSOX17は、低発現のままであった。一方、day12にてソーティングを行わず、day28に得られた細胞塊をPoly-L-ornithine、FibronectinおよびLaminin-coatディッシュへ移し、基本培地Bにて培養を14日間継続した場合(day42)の、Oct4、Map2ab、Lmx1a、En1、Nurr1、THおよびFoxa2の発現を測定し、経時変化を
図5Bに示した。上記のうちTH以外のマーカーは、day12にてその発現量がほぼプラトーに達していることが確
認された。この傾向は、404C2を用いた場合でも同じであった。
【0088】
ソーティングしない場合のday42の細胞を、TH(ドーパミン産生神経細胞マーカー)、Foxa2およびNurr1(いずれも中脳マーカー)に対して免疫染色を行ったところ、40%がTH
陽性であり、Foxa2およびNurr1と共発現していた。また、TH陽性細胞は、他のドーパミン産生神経細胞マーカーであるAADC、Pitx3およびGirk2も共発現していることが確認された(
図6)。
【0089】
Corinを指標としたソーティングの効果
上述のとおりday12でのソーティング直後の細胞における、各マーカー遺伝子の発現をPCRにより測定した(
図7A)。その結果、day12-Corin陽性細胞では、ソーティングしな
かった細胞と比較してCorinはもちろんのこと、中脳マーカーのLmx1aおよびEn1、ならび
にフロアプレートマーカーのFoxa2が高いことが確認された。一方、後脳マーカーのGbx2
および前脳マーカーのSix3はソーティングしなかった細胞と比較して低いことが確認された。同様の傾向が、404C2についても確認された。day12にてソートをした場合としなかった場合について、網羅的発現解析により比較したところ、吻側マーカーのPax6、尾側マーカーのFoxa2、早期神経マーカーのNeurog2、分裂終了神経細胞マーカーのNEFM(図に示さず)および非神経細胞マーカーのDLK1およびCYP1B1がソートしない細胞で発現が高いことが確認された(
図7B)。さらに、免疫染色をおこなったところ、Corin陽性細胞におい
て、Lmx1aおよびFoxa2の共陽性細胞の含有率が高くなっていることが確認された(
図8AおよびB:75.52±8.255% vs. 47.37±6.624%)。一方、中脳/後脳境界の吻側で発現しているOtx2陽性およびLmx1a陰性細胞はソートした細胞で減少していることが確認された(
図8C)。Oct4およびNanogの未分化マーカーについては大きな違いは見られなかった(
図8D)。
【0090】
続いて、day21にてソーティング直後の細胞において同様の検討を行ったところ、day21でのソーティングの方が、Corin陽性細胞の含有率は高かったが(45.47±47.61% (day21) vs. 18.97±15.49% (day12))、Lmx1aおよびFoxa2の発現量は、day21のソーティングによって変化が見られなかった(
図9A)。同様に、免疫染色においても、day21のソーテ
ィングによるCorin陽性細胞におけるLmx1aおよびFoxa2の共陽性細胞の含有率は、ソーテ
ィングしなかった細胞群と比較して有意差は見られなかった(
図9BおよびC)。
【0091】
以上より、day21と比較して、day12でのソーティングが好ましいことが確認された。
【0092】
ソーティング後の培養期間について
上述した培養方法を用いて誘導したday28およびday42における細胞について、day12で
のCorin陽性細胞のソーティングの有無によるドーパミン産生神経細胞の成熟化度につい
て検討した。Corin陽性細胞は、ソーティングをしなかった細胞と比較して、sphereの大
きさがday28およびday42で小さいことが確認された(
図10AおよびB)。day28とday42において免疫染色をおこなったところ、いずれの場合でも、day12ソーティング後におい
てFoxa2陽性細胞が70から75%の含有率であり、ソーティングしない場合に比べて高かっ
た(
図11AおよびB)。day28において、Nurr1陽性細胞およびTH陽性細胞はそれぞれ27.34±5.511%および2.098±1.243%であり、day42においては、19.91±6.966%および42.
04±4.481%であり、TH陽性細胞の含有率はday42においてday21に比較して高くなっていた。さらに、day42において、高塩化カリウム刺激による培地に放出されるドーパミン(DA)、3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)およびセロトニン(5-HT)をHPLCを用い
て定量したところ、Corinソーティングを行わなかった場合と比較して、Corinソーティングを行った細胞ではDAおよびDOPACの放出量が有意に多いことが確認された(
図11C)
。
【0093】
続いて、day12でCorinソーティングを行った細胞または行わなかった細胞を浮遊培養しday28またはday42にて、それぞれ4×10
5個を2μl(生理食塩水)に懸濁させ、パーキンソン病モデルラット(6-OHDA投与ラット)の大脳の線条体に22ゲージの注射針を用いて投与し、16週後の移植片の様子を観察した(
図12A)。まず、day28細胞を用いた場合の移
植片の大きさを測定したところ、Corin陽性細胞のソーティングを行った細胞では移植片
の大きさがほぼ一定(8.5~1.5mm
3)であったが(
図12B)、Corinソーティングを行わなかった場合、88.4~0.5mm
3とばらつきが大きいことが確認され、平均値では、34.96±37.52mm
3(ソーティング無)と3.45±2.932mm
3(ソーティング有)と有意差が見られた(
図1
2B)。さらに、day12でCorinソーティングを行った細胞または行わなかった細胞を浮遊培養し7日目(day19)に同様にパーキンソン病モデルラットへ投与したところ、ソーテ
ィング群にて有意に移植片の大きさが小さくなった(
図12D)。また、移植片におけるKi67陽性細胞の割合を定量したところ、ソーティングの有無にかかわらず、1%以下と低
い値であったが、Corinソーティングを行った細胞では有意に割合が低いことが確認され
た(
図12E)。一方、day42では、ソーティングの有無にかかわらず、移植片の大きさ
は1mm
3以下であり(
図12C)、Ki67陽性細胞は確認されなかった。
【0094】
続いて、左右のドーパミン濃度の不均衡によって起きるアンフェタミン誘導による旋回を検討したところ、day12においてCorin陽性細胞をソーティングした細胞(day28)および
ソーティングしなかった細胞(day28)を投与した群は共に、細胞を投与しなかった群(mediumのみ)と比較して、有意に旋回数が減少した。また、細胞投与後16週目では、ソー
ティングの有無による行動の変化に差はなかった(
図13A)。ここで、移植片におけるTH陽性細胞を観察したところ、Corinソーティングした細胞を移植した場合の方が有意にTH陽性細胞が残存していることが確認された(
図13BおよびC、6747±2341 cells/graft (ソーティング有) vs. 3436±2384 cells/graft (ソーティング無))。このときNeuN陽性細胞数(全神経細胞)あたりのTH陽性細胞数、またはhNc陽性細胞数(全生存細胞)あ
たりのTH陽性細胞数も同様にソーティングした場合において有意に高かった(
図14AまたはB)。さらに、他のドーパミン産生細胞マーカー(Foxa2、Nurr1およびPitx3)も共
発現していることが確認された。黒質緻密部のA9ドーパミン産生細胞のマーカーであるGirk2もまた約半数が共陽性であった(
図14C)。また、セロトニン細胞の数について観
察したところ、いずれの場合においても含有率が低かった(
図15AおよびB)。
【0095】
一方、同様にday12においてCorin陽性細胞をソーティングしたおよびソーティングしなかった細胞(day42)を投与したところ、異常旋回の改善に対してソーティングの有無に
よる有意差は見られなかった(
図13D)。さらに、移植片におけるTH陽性細胞の数と濃度においても同様に有意差が見られなかった(
図13EおよびF)。これらの結果と相関して、生存したTH陽性細胞の平均値は、day28移植で6747±2341 cells/graft(
図13B)
に対して、day42移植では1431±753.7 cells/graft(
図13E)とday28において生着細
胞数が多い傾向が見られた。
【0096】
続いて、マイクロアレイ解析により、day12ソーティングday28の細胞とソーティングなしday28の細胞、およびday12ソーティングday28の細胞とday12ソーティングday42の細胞
をそれぞれ比較した(
図16A)。day28の細胞において、ソーティングを行わない場合
、前脳マーカーであるPAX6の発現が高いことが確認された。一方、ソーティングした場合においてALCAMの発現が高いことが確認された。続いて、day28とday42の細胞との比較で
は、day28の細胞において、SHH、WNT5AおよびCORINの発現が高いことが確認された。一方、THはday42の細胞で発現が高いことが確認された。
【0097】
さらに、これまでパーキンソン病に対して臨床使用されている胎児腹側中脳細胞(7週齢)とCorin陽性細胞をday12でソーティングしたday28およびday42の細胞を比較した。ドーパミン産生神経細胞のマーカーであるTHおよびPITX3(図に示さず)は、day28の細胞と比較して胎児腹側中脳細胞において高発現していた。セロトニン作動性神経細胞のマーカーであるTPH2もまた胎児腹側中脳細胞で高発現していた(
図16B)。階層クラスター解析をおこなったところ、胎児中脳細胞は、day42の細胞により近似していることが確認さ
れた(
図16C)。day28の細胞は、軸索誘導に関連する遺伝子(SPON1およびSLIT2)が
発現していることから、胎児腹側中脳細胞より早期の発生段階の細胞であることが示唆されている。
【0098】
以上の結果より、Corin陽性細胞を選択した後、16日間浮遊培養した細胞(day28)を用いることで移植片の増殖やドーパミン産生細胞の生着を増加させることが可能であり、パーキンソン病の治療のために使用する細胞として適していることが示唆された。
【0099】
実施例2
細胞培養
ES細胞(Kh-ES1)をTrypLE CTS(Life Technologies)を用いて解離し、別途用意したLaminin511E8でコーティングした6 well plateに全量を移し、10μM Y-27632、0.1μM LDN193189、0.5μM A83-01を含有する基本培地A(8%KSR、1mM Sodium pyruvate、0.1mM MEM non-essential amino acidおよび0.1mM 2-Mercaptoethanolを含有するGMEM)で培養した。培養開始1日後(day1)、0.1μM LDN193189、0.5μM A83-01、2μM Purmorphamineおよび100ng/mL FGF8を含有する基本培地Aへ培地を交換した。培養開始3日後(day3)、0.1μM LDN193189、0.5μM A83-01、2μM Purmorphamine、100ng/mL FGF8および3μM CHIR99021を含有する基本培地Aへ培地を交換した。培養開始7日後(day7)、0.1μM LDN193189
、および3μM CHIR99021を含有する基本培地Aへ培地を交換した。day12(培養開始12日後)、B27 Supplement without vitamin A、2mM L-Glutamine、20ng/mLリコンビナントヒト(rh)BDNF、10ng/mL rhGDNF、400μM dbcAMP(Sigma)および200μM Ascorbic acidを添加したNeurobasal medium(Invitrogen)へ培地を交換した。指定がない限り培地交換は前
日の組成で毎日行った。
【0100】
day14(培養開始14日後)、TrypLE CTSを用いて細胞を解離し、抗Lrtm1抗体(WO2013/015457)を用いてFACSによりソーティングを行いLrtm1陽性細胞を回収した。
回収したLrtm1陽性細胞をLipidure-coat 96 well plate(Thermo)に20000個/wellにて移し、30μM Y-27632、B27 Supplement without vitamin A、2mM L-Glutamine、20ng/mL
リコンビナントヒト(rh)BDNF、10ng/mL rhGDNF、400μM dbcAMP、1% KSR、Penicillin/Streptomycin(Gibco)および200μM Ascorbic acidを添加したNeurobasal mediumを用いて浮遊培養した。その後、培地は、3日に一度、半量ずつY-27632を含まない培地へ交換した。ソーティングから7日後(day21)または21日後(day35)に各種実験に用いた。
【0101】
Lrtm1を指標としたソーティングの効果(免疫染色)
day21における免疫染色により細胞を調べたところ、Foxa2陽性細胞は87.4%、Lmx1a陽性
細胞は87.5%、Foxa2およびLmx1a陽性細胞は82.7%であった(
図17A)。一方、day35に
おけるソーティングの有無により比較したところ、Foxa2、Nurr1およびTH陽性細胞はLrtm1によりソーティングすることでその含有率が高くなった(
図17B)。
【0102】
Lrtm1を指標としたソーティングの効果(細胞移植)
Lrtm1によるソーティングの翌日(day15)に、10週齢SDラットの脳内へ10~15×10
4cells/tractを投与し、4週後において観察した。移植細胞由来(ヒト由来)のFoxa2、TH、Nurr1陽性細胞の生着が確認できた(
図18)。
【0103】
実施例3
細胞培養
ES細胞(Kh-ES1)をTrypLE CTS(Life Technologies)を用いて解離し、別途用意したLaminin511E8でコーティングした6 well plateに4×105個を移し、10μM Y-27632を含有するStemFit培地(Ajinomoto)で培養した。4日後、0.1μM LDN193189、0.5μM A83-01を含有する上述の基本培地Aへ培地を交換した(day0)。培養開始1日後(day1)、0.1μM LDN193189、0.5μM A83-01、2μM Purmorphamineおよび100ng/mL FGF8を含有する基本培地A
へ培地を交換した。培養開始3日後(day3)、0.1μM LDN193189、0.5μM A83-01、2μM Purmorphamine、100ng/mL FGF8および3μM CHIR99021を含有する基本培地Aへ培地を交換した。培養開始7日後(day7)、0.1μM LDN193189、および3μM CHIR99021を含有する基本
培地Aへ培地を交換した。day14(培養開始14日後)にソーティングまたは、B27 Supplement without vitamin A、2mM L-Glutamine、20ng/mLリコンビナントヒト(rh)BDNF、 10ng/mL rhGDNF、400μM dbcAMP(Sigma)および200μM Ascorbic acidを添加したNeurobasal medium(Invitrogen)へ培地を交換した。指定がない限り培地交換は前日の組成で毎日行った。
【0104】
ソーティング
上記の方法で培養し、day14(培養開始14日後)またはday21(培養開始21日後)にて、TrypLE CTSを用いて細胞を解離し、抗Lrtm1抗体(WO2013/015457)を用いてFACSによりソーティングを行いLrtm1陽性細胞を回収した。
【0105】
回収したLrtm1陽性細胞をLipidure-coat 96 well plate(Thermo)に2×104個/wellに
て移し、30μM Y-27632、B27 Supplement without vitamin A、2mM L-Glutamine、20ng/mLリコンビナントヒト(rh)BDNF、10ng/mL rhGDNF、400μM dbcAMP、1% KSR、Penicillin/Streptomycin(Gibco)および200μM Ascorbic acidを添加したNeurobasal mediumを用い
て浮遊培養した。その後、培地は、3日に一度、半量ずつY-27632を含まない培地へ交換した。ソーティングから7日後または14日後に各種実験に用いた。
【0106】
Lrtm1を指標としたソーティングの効果(免疫染色)
14 day-7 day(14日目にソーティングで、7日間培養)、14 day-14 day(14日目にソーティングで、14日間培養)および21 day-7 day(21日目にソーティングで、7日間培養)
において免疫染色(Foxa2、Nurr1、TH)により細胞を調べたところ、Foxa2陽性細胞の含
有率はいずれの条件においても90%以上確認されたが、Nurr1およびTH陽性細胞含有率は
、14 day-7 day、14 day-14 day、および21 day-7 dayでそれぞれ、13.1%、24.0%およ
び10.2%であった(
図19)。従って、14 day-14 dayにてFoxa2、Nurr1およびTH陽性細
胞の含有率が最も高かった。
【0107】
以上の結果、ソーティングの時期は、分化誘導開始21日目より14日目の方が良く、ソーティング後の培養期間は、7日間よりも14日間の方が良いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、再生医療、特にパーキンソン病の治療に有用である。
【配列表】