(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】応力発光データ処理装置、応力発光データ処理方法、応力発光測定装置および応力発光試験システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/70 20060101AFI20230522BHJP
G01L 1/00 20060101ALI20230522BHJP
G01L 1/24 20060101ALI20230522BHJP
G01N 3/06 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
G01N21/70
G01L1/00 B
G01L1/00 E
G01L1/24 Z
G01N3/06
(21)【出願番号】P 2019094544
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】津田 智哉
(72)【発明者】
【氏名】篠山 智生
(72)【発明者】
【氏名】山本 聡
(72)【発明者】
【氏名】徐 超男
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-190865(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/033648(JP,A1)
【文献】特開2009-085756(JP,A)
【文献】特開2001-215157(JP,A)
【文献】特開2015-075477(JP,A)
【文献】特開2009-053050(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109135741(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
G01N 3/00 - G01N 3/62
G01L 1/00 - G01L 1/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力発光物質の発光強度の時間変化を示す発光データを取得するデータ取得部と、
前記取得された発光データのうち、前記応力発光物質に荷重が印加されていない時点に対応する部分を無荷重部分として決定する決定部と、
前記決定された無荷重部分に基づいて、前記取得された発光データにおいて荷重印加に起因しない成分をバックグラウンド成分として特定するバックグラウンド特定部と、
前記取得された発光データから前記特定されたバックグラウンド成分を除去することにより荷重印加に起因する成分を応力発光成分として生成するバックグラウンド除去部とを備え、
前記決定部は、使用者による指定に基づいて前記無荷重部分を決定する、応力発光データ処理装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記取得された発光データの変化に基づいて前記無荷重部分を決定する、請求項
1記載の応力発光データ処理装置。
【請求項3】
前記バックグラウンド特定部は、前記決定部により決定された前記無荷重部分を曲線で近似することにより前記バックグラウンド成分を特定する、請求項1
または2記載の応力発光データ処理装置。
【請求項4】
前記バックグラウンド除去部により生成された応力発光成分に基づいて、前記応力発光物質に発生した応力を算出する応力算出部をさらに備える、請求項1~
3のいずれか一項に記載の応力発光データ処理装置。
【請求項5】
前記データ取得部は、前記応力発光物質の複数の領域についての発光データを取得し、
前記決定部は、前記複数の領域の各々について発光データにおける前記無荷重部分を決定し、
前記バックグラウンド特定部は、前記複数の領域の各々について発光データにおける前記バックグラウンド成分を特定し、
前記バックグラウンド除去部は、前記複数の領域の各々について前記発光データから前記バックグラウンド成分を除去することにより前記応力発光成分を生成する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の応力発光データ処理装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の応力発光データ処理装置と、
応力発光物質に励起光を照射する励起光照射部と、
前記励起光が照射された前記応力発光物質の発光強度を検出し、検出された発光強度の時間変化を示す発光データを生成する発光検出部とを備え、
前記応力発光データ処理装置の前記データ取得部は前記発光検出部により生成された発光データを取得する、応力発光測定装置。
【請求項7】
請求項
6記載の応力発光測定装置と、
応力発光物質に荷重を印加する荷重印加装置とを備え、
前記応力発光測定装置の前記決定部は、前記荷重印加装置による前記応力発光物質への荷重印加の開始タイミングおよび終了タイミングの少なくとも一方に基づいて前記無荷重部分を決定する、応力発光試験システム。
【請求項8】
応力発光物質の発光強度の時間変化を示す発光データを取得するステップと、
前記取得された発光データのうち、前記応力発光物質に荷重が印加されていない時点に対応する部分を無荷重部分として決定するステップと、
前記決定された無荷重部分に基づいて、前記取得された発光データにおいて荷重印加に起因しない成分をバックグラウンド成分として特定するステップと、
前記取得された発光データから前記特定されたバックグラウンド成分を除去することにより荷重印加に起因する成分を応力発光成分として生成するステップとを含み、
前記無荷重部分を決定するステップは、使用者による指定に基づいて前記無荷重部分を決定することを含む、応力発光データ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力発光物質の発光強度の時間変化を示す発光データを処理する応力発光データ処理装置、応力発光データ処理方法、応力発光測定装置および応力発光試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
応力発光物質は、応力に応じた強度で発光する。このような応力発光物質が塗布または混入された測定対象物に荷重が印加されると、測定対象物の歪みに応じて応力発光物質も歪むため、応力発光物質に応力が生じる。応力発光物質の発光をカメラで撮影し、得られた画像を解析することにより、測定対象物の歪みまたは測定対象物に印加された荷重の分布を測定することができる。
【0003】
通常は、応力発光物質の発光強度を高くするために、応力発光物質に励起光が一定時間照射された後に発光強度の測定が行われる。応力発光物質は残光性を有するため、応力発光物質の発光強度は、励起光の照射期間中に一定の値を示し、照射終了時点から緩やかに減衰する。励起光の照射終了後の測定期間において測定対象物に荷重が印加されると、残光性により減衰する発光強度にピークが生じる。
【0004】
例えば、特許文献1には、応力発光体(応力発光物質)に入力された荷重の定量評価が可能な応力発光評価装置が記載されている。特許文献1記載の応力発光評価装置においては、応力発光体に荷重が入力されたときの発光強度が検出されるとともに、応力発光体に荷重が入力されていないときの発光強度が検出される。応力発光体に荷重が入力されたときの発光強度と、荷重が入力されていないときの発光強度との差分により、応力発光体に入力された荷重による発光強度が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の応力発光評価装置においては、応力発光体に荷重が入力されたときと、応力発光体に荷重が入力されていないときとで、発光強度を2回検出する必要がある。そのため、荷重の入力による発光強度を検出するために時間を要する。また、発光強度の検出条件が第1回目と第2回目とで変化する可能性がある。発光強度の検出条件が変化した場合には、荷重の入力による発光強度を正確に算出することができない。
【0007】
本発明の目的は、荷重の印加に起因する発光強度成分を短時間でかつ正確に生成することを可能な応力発光データ処理装置、応力発光データ処理方法、応力発光測定装置および応力発光試験システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)第1の発明に係る応力発光データ処理装置は、応力発光物質の発光強度の時間変化を示す発光データを取得するデータ取得部と、取得された発光データのうち、応力発光物質に荷重が印加されていない時点に対応する部分を無荷重部分として決定する決定部と、決定された無荷重部分に基づいて、取得された発光データにおいて荷重印加に起因しない成分をバックグラウンド成分として特定するバックグラウンド特定部と、取得された発光データから特定されたバックグラウンド成分を除去することにより荷重印加に起因する成分を応力発光成分として生成するバックグラウンド除去部とを備え、決定部は、使用者による指定に基づいて無荷重部分を決定する。
【0009】
この応力発光データ処理装置においては、発光データのうち応力発光物質に荷重が印加されていない時点に対応する無荷重部分が特定され、特定された無荷重部分に基づいて荷重印加に起因しないバックグラウンド成分が特定される。発光データからバックグラウンド成分が除去されることにより荷重印加に起因する応力発光成分が生成される。この場合、バックグラウンド成分を特定するために発光データを複数回取得する必要がなく、共通の発光データを用いてバックグラウンド成分および応力発光成分を特定することができる。したがって、荷重の印加に起因する発光強度成分を短時間でかつ正確に生成することが可能となる。
【0010】
また、決定部は、使用者による指定に基づいて無荷重部分を決定する。この場合、バックグラウンド成分を特定するために用いる無荷重部分を使用者の認識に基づいて任意に選択することができる。
【0011】
(2)決定部は、取得された発光データの変化に基づいて無荷重部分を決定してもよい。この場合、無荷重部分が自動的に決定される。それにより、使用者の手間が削減される。
【0013】
(3)バックグラウンド特定部は、決定部により決定された無荷重部分を曲線で近似することによりバックグラウンド成分を特定してもよい。この場合、バックグラウンド成分を容易に特定することができる。
【0014】
(4)応力発光データ処理装置は、バックグラウンド除去部により生成された応力発光成分に基づいて、応力発光物質に発生した応力を算出する応力算出部をさらに備えてもよい。この場合、応力発光物質に発生した応力を短時間でかつ正確に検出することができる。
【0015】
(5)データ取得部は、応力発光物質の複数の領域についての発光データを取得し、決定部は、複数の領域の各々について発光データにおける無荷重部分を決定し、バックグラウンド特定部は、複数の領域の各々について発光データにおけるバックグラウンド成分を特定し、バックグラウンド除去部は、複数の領域の各々について発光データからバックグラウンド成分を除去することにより応力発光成分を生成してもよい。この場合、応力発光物質の複数の領域における応力の分布を短時間でかつ正確に得ることができる。
【0016】
(6)第2の発明に係る応力発光測定装置は、第1の発明に係る応力発光データ処理装置と、応力発光物質に励起光を照射する励起光照射部と、励起光が照射された応力発光物質の発光強度を検出し、検出された発光強度の時間変化を示す発光データを生成する発光検出部とを備え、応力発光データ処理装置のデータ取得部は発光検出部により生成された発光データを取得する。
【0017】
この応力発光測定装置においては、励起光照射部により応力発光物質へ励起光が1回照射されることによりバックグラウンド成分および応力発光成分を含む発光データが得られ、この発光データを用いてバックグラウンド成分および応力発光成分を特定することができる。したがって、荷重の印加に起因する発光強度成分を短時間でかつ正確に生成することが可能となる。
【0018】
(7)第3の発明に係る応力発光試験システムは、第2の発明に係る応力発光測定装置と、応力発光物質に荷重を印加する荷重印加装置とを備え、応力発光測定装置の決定部は、荷重印加装置による応力発光物質への荷重印加の開始タイミングおよび終了タイミングの少なくとも一方に基づいて無荷重部分を決定する。
【0019】
その応力発光試験システムによれば、応力発光物質に荷重が印加されるとともに、荷重の印加に起因する発光強度成分を短時間でかつ正確に生成することが可能となる。
【0020】
(8)第4の発明に係る応力発光データ処理方法は、応力発光物質の発光強度の時間変化を示す発光データを取得するステップと、取得された発光データのうち、応力発光物質に荷重が印加されていない時点に対応する部分を無荷重部分として決定するステップと、決定された無荷重部分に基づいて、取得された発光データにおいて荷重印加に起因しない成分をバックグラウンド成分として特定するステップと、取得された発光データから特定されたバックグラウンド成分を除去することにより荷重印加に起因する成分を応力発光成分として生成するステップとを含み、無荷重部分を決定するステップは、使用者による指定に基づいて無荷重部分を決定することを含む。
【0021】
その応力発光データ処理方法によれば、バックグラウンド成分を特定するために発光データを複数回取得する必要がなく、共通の発光データを用いてバックグラウンド成分および応力発光成分を特定することができる。したがって、荷重の印加に起因する発光強度成分を短時間でかつ正確に生成することが可能となる。また、バックグラウンド成分を特定するために用いる無荷重部分を使用者の認識に基づいて任意に選択することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、荷重の印加に起因する発光強度成分を短時間でかつ正確に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係る応力発光データ処理装置を備えた応力発光測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】応力発光物質の発光強度の時間変化を示す図である。
【
図3】
図1の応力発光データ処理装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【
図4】
図3の応力発光データ処理装置の動作を説明するための図である。
【
図5】
図3の応力発光データ処理装置の動作を説明するための図である。
【
図6】
図3の応力発光データ処理装置の動作を説明するための図である。
【
図7】応力発光データ処理プログラムにより行われる応力発光データ処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【
図8】
図1の応力発光測定装置を備えた応力発光試験システムの構成を示すブロック図である。
【
図9】無荷重部分を指定する方法の他の例を示す図である。
【
図10】無荷重部分を指定する方法のさらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る応力発光データ処理装置、それを備えた応力発光測定装置および応力発光試験システム、ならびに応力発光データ処理方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
(1)応力発光測定装置の構成
図1は、本発明の実施の形態に係る応力発光データ処理装置を備えた応力発光測定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、応力発光測定装置100は、応力発光データ処理装置10に加えて、測定制御部20、操作部30、表示部40、励起光照射部50および発光検出部60を備える。
【0026】
測定対象物1の表面には、応力発光物質2が塗布される。なお、応力発光物質2が測定対象物1の内部に混入されていてもよい。応力発光物質2としては、例えば、スピネル構造、コランダム構造もしくはβアルミナ構造の応力発光物質、ケイ酸塩の応力発光物質、欠陥制御型アルミン酸塩の高輝度応力発光物質、または高輝度メカノルミネッセンス材料から生成された応力発光物質等が挙げられる。高輝度メカノルミネッセンス材料は、ウルツ鉱型構造と閃亜鉛鉱型構造とが共存する構造を有し、酸化物、硫化物、セレン化物またはテルル化物を主成分として構成される。測定対象物1に荷重が印加されると、応力発光物質2にも荷重が印加され、応力発光物質2に応力が発生する。
【0027】
応力発光データ処理装置10および測定制御部20は、パーソナルコンピュータPCならびに応力発光データ処理プログラムおよび測定制御プログラムにより実現される。パーソナルコンピュータPCは、CPU(中央演算処理装置)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリメモリ)および記憶装置等により構成される。応力発光データ処理装置10の構成の詳細については後述する。
【0028】
測定制御部20は、応力発光データ処理装置10、励起光照射部50および発光検出部60の動作を制御する。また、測定制御部20は、後述する発光検出部60により出力される発光データを記憶する。発光データは、時間軸上で変化する複数のデータ値を有する。
【0029】
励起光照射部50は、例えばLED(発光ダイオード)または蛍光灯等の光源を含み、応力発光物質2を励起するための励起光を測定対象物1に照射する。これにより、応力発光物質2が発光する。発光検出部60は、CCD(電荷結合素子)カメラまたはCMOS(相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサ等の撮像装置を含む。撮像装置は、二次元に配列された複数の画素を有する。以下の説明では、発光検出部60の画素を単に画素と呼ぶ。発光検出部60は、撮像装置に代えて、フォトダイオード、フォトンカウンタまたは光電子増倍管等を含んでもよい。発光検出部60は、応力発光物質2の発光強度の時間変化を画素ごとに検出し、検出した発光強度の時間変化を示す発光データを画素ごとに出力する。
【0030】
操作部30は、例えばマウス等のポインティングデバイスおよびキーボードを含み、応力発光データ処理装置10または測定制御部20に指示を与えるために使用者により操作される。操作部30は、表示部40と重なるように設けられたタッチパネルを含んでもよい。表示部40は、例えばLCD(液晶ディスプレイ)パネルまたは有機EL(エレクトロルミネッセンス)パネルを含み、応力発光データ処理装置10または測定制御部20により与えられる各種データおよび画像を表示する。
【0031】
(2)発光強度の時間変化
図2は、応力発光物質2の発光強度の時間変化を示す図である。
図2(a),(b)の横軸は時間を示し、縦軸は発光強度を示す。後述する
図4~
図6、
図9および
図10においても同様である。
図2(a)は、応力発光物質2への励起光の照射の終了後に測定対象物1に荷重が印加されない場合の発光強度の変化を示し、
図2(b)は、応力発光物質2への励起光の照射の終了後に測定対象物1に荷重が印加された場合の発光強度の変化を示す。
【0032】
応力発光物質2に励起光が一定時間照射された後、励起光の照射が終了すると、
図2(a)に示されるように、発光強度は照射終了時点から緩やかに減衰する。一方、励起光の照射終了後の測定期間において測定対象物1に荷重が印加されると、
図2(b)に示されるように、緩やかに減衰する発光強度にピークが生じる。
【0033】
ここで、発光強度の変化において荷重印加に起因しない成分をバックグラウンド成分と呼ぶ。また、発光強度の変化において荷重印加に起因する成分を応力発光成分と呼ぶ。
図2(a)の例では、発光強度の変化がバックグラウンド成分のみを含む。一方、
図2(b)の例では、発光強度の変化が応力発光成分およびバックグラウンド成分を含む。
【0034】
本実施の形態では、
図1の測定制御部20は、応力発光成分およびバックグラウンド成分を含む
図2(b)の発光強度の変化を示す発光データを画素ごとに記憶する。
図2(b)の発光強度の変化から応力発光成分を生成するためには、バックグラウンド成分を特定する必要がある。
【0035】
(3)応力発光データ処理装置
図3は、
図1の応力発光データ処理装置10の機能的な構成を示すブロック図である。
図4~
図6は、
図3の応力発光データ処理装置10の動作を説明するための図である。応力発光データ処理装置10は、自動モードまたは手動モードで選択的に動作する。使用者は、
図1の操作部30を操作することにより応力発光データ処理装置10の動作モードを自動モードと手動モードとで切り替えることができる。
【0036】
図3に示すように、応力発光データ処理装置10は、データ取得部11、区間決定部12、指定受付部13、バックグラウンド特定部14、バックグラウンド除去部15および応力算出部16を含む。
図1のパーソナルコンピュータPCのCPUがROMまたは記憶装置等の記憶媒体(記録媒体)に記憶された応力発光データ処理プログラムを実行することにより、
図3の構成要素(11~16)の機能が実現される。なお、
図3の構成要素(11~16)の一部または全てが電子回路等のハードウエアにより構成されてもよい。本実施の形態では、区間決定部12および指定受付部13が決定部の例である。
【0037】
データ取得部11は、
図1の測定制御部20から発光データを取得し、取得した発光データに基づいて発光強度の時間変化を示す曲線(以下、発光曲線と呼ぶ。)を
図1の表示部40に表示させる。
図4には、表示部40に表示される発光曲線C1の一例が示される。表示部40に表示される発光曲線C1は、発光検出部60の特定の1つの画素により検出される発光強度の変化を示していてもよく、発光検出部60の複数の画素により検出される発光強度の平均値の変化を示していてもよい。発光曲線C1は、応力発光物質2に発生する応力の変化を示すピークPKを有する。
【0038】
以下、発光データにおいて、測定対象物1に荷重が印加されている期間に対応する区間を応力発光区間R3と呼び、測定対象物1に荷重が印加されてない期間に対応する区間を無荷重区間R1,R2と呼ぶ。時間軸上で無荷重区間R1は応力発光区間R3の前に位置し、無荷重区間R2は応力発光区間R3の後に位置する。
図4には、発光曲線C1における無荷重区間R1、応力発光区間R3および無荷重区間R2が示される。
【0039】
区間決定部12は、自動モード時に、データ取得部11により取得された発光データの変化に基づいて、発光データにおける無荷重区間R1,R2および応力発光区間R3を自動的に決定する。この場合、無荷重区間R1,R2が無荷重部分に相当する。具体的には、区間決定部12は、発光データの1階微分、2階微分またはそれらの両方に基づいて無荷重区間R1と応力発光区間R3との境界および応力発光区間R3と無荷重区間R2との境界を判定し、判定結果に基づいて無荷重区間R1、応力発光区間R3および無荷重区間R2を決定する。
【0040】
例えば、発光データの1階微分および2階微分を算出することにより発光曲線C1における極小部分および極大部分を判定することができる。それにより、極小部分および極大部分をそれぞれピークPKの左端E1およびピークPKの頂点TPと判定することができる。ピークPKの左端E1は無荷重区間R1と応力発光区間R3との境界に相当する。また、時間軸上でピークPKの頂点TPの後において発光曲線C1の傾きが急激に変化する部分をピークPKの右端E2と判定することができる。ピークPKの右端E2は、応力発光区間R3と無荷重区間R2との境界に相当する。なお、無荷重区間R1,R2および応力発光区間R3の決定方法は、上記の方法に限定されず、発光データの変化に基づく他の数学的方法により決定されてもよい。
【0041】
指定受付部13は、手動モード時に、
図1の操作部30からの指定を受け付ける。具体的には、使用者は、表示部40に表示された発光曲線C1を視認しつつ操作部30を操作することにより、発光曲線C1において無荷重区間R1,R2に含まれると認識する複数の部分(ピークPKから外れた複数の部分)を指定する。
図4の例では、4個の点P1~P4が指定されることにより無荷重区間R1内の点P1から点P2までの無荷重範囲R10および無荷重区間R2内の点P3から点P4までの無荷重範囲R20が指定される。無荷重範囲R10,R20が無荷重部分に相当する。なお、使用者が指定する点の数は4に限らず、使用者は任意の複数の点を指定することにより任意の数の無荷重区間を指定することができる。
【0042】
バックグラウンド特定部14は、自動モード時に、区間決定部12により決定された無荷重区間R1,R2における複数のデータ値を用いて応力発光区間R3における複数のデータ値を補間することによりバックグラウンド成分を特定する。具体的には、バックグラウンド特定部14は、無荷重区間R1,R2における複数のデータ値を最小二乗法等の回帰分析によりスプライン曲線、指数曲線等の曲線で近似し、近似曲線をバックグラウンド曲線として算出する。バックグラウンド曲線はバックグラウンド成分を表す。
図5には、バックグラウンド曲線C2が一点鎖線で図示される。
【0043】
バックグラウンド特定部14は、手動モード時に、指定受付部13により受け付けられた無荷重範囲R10内の複数のデータ値および無荷重範囲R20内の複数のデータ値を用いて応力発光区間R3のデータ値を補間することによりバックグラウンド成分を特定する。具体的には、バックグラウンド特定部14は、無荷重範囲R10における複数のデータ値および無荷重範囲R20における複数のデータ値を最小二乗法等の回帰分析によりスプライン曲線、指数曲線等の曲線で近似し、
図5に示されるように、近似曲線をバックグラウンド曲線C2として算出する。なお、使用者により指定された複数の点P1,P2,P3,P4のデータ値を用いてバックグラウンド曲線C2が算出されてもよい。
【0044】
バックグラウンド除去部15は、データ取得部11により取得された発光データからバックグラウンド特定部14により特定されたバックグラウンド成分を除去する。それにより、応力発光成分が得られる。例えば、バックグラウンド除去部15は、
図4の発光曲線C1の各データ値から
図5のバックグラウンド曲線C2の対応するデータ値を減算する。それにより、
図6に示されるように、応力発光区間R3における応力発光成分を示す応力発光曲線C0が得られる。
【0045】
応力算出部16は、バックグラウンド除去部15により得られた応力発光成分に基づいて、応力発光物質2に発生した応力を算出する。例えば、
図6の応力発光曲線C0の高さを検出することにより応力を算出することができる。また、算出された応力に基づいて測定対象物1に印加された荷重を算出することができる。
【0046】
データ取得部11により取得された複数の画素に対応する発光データについてバックグラウンド特定部14およびバックグラウンド除去部15により応力発光成分が得られ、応力算出部16により応力が算出される。それにより、応力発光物質2の応力の面分布が算出され、応力発光物質2の応力の面分布に基づいて測定対象物1に印加された荷重の面分布が算出される。
【0047】
(4)応力発光データ処理
図7は、応力発光データ処理プログラムにより行われる応力発光データ処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0048】
まず、データ取得部11は、測定制御部20から画素ごとに発光データを取得する(ステップS1)。また、データ取得部11は、取得された発光データに基づいて、任意の画素に対応する発光曲線を表示部40(
図1)に表示させる(ステップS2)。
【0049】
次に、データ取得部11は、手動モードが選択されているか否かを判定する(ステップS3)。使用者は、操作部30(
図1)を操作することにより、動作モードとして自動モードまたは手動モードを選択することができる。
【0050】
自動モードが選択されている場合、区間決定部12は、ステップS1で取得された発光データのうち予め定められた画素に対応する発光データの変化に基づいて無荷重区間R1,R2および応力発光区間R3を決定する(ステップS4)。ステップS4で決定された無荷重区間R1,R2および応力発光区間R3は、他の画素に対応する発光データにも適用される。バックグラウンド特定部14は、各画素に対応する発光データにおける無荷重区間R1,R2内の複数のデータ値に基づいて、バックグラウンド成分を画素ごとに生成する(ステップS5)。
【0051】
ステップS3で自動モードが選択されない場合、すなわち手動モードが選択された場合、指定受付部13は、無荷重範囲R10,R20の指定を受け付けたか否かを判定する(ステップS6)。使用者は、操作部30を操作することにより、表示部40に表示された発光曲線上の複数の点を指定することにより無荷重範囲R10,R20を指定することができる。無荷重範囲R10,R20の指定が受け付けられた場合、バックグラウンド特定部14は、指定された無荷重範囲R10,R20内の複数のデータ値に基づいて、バックグラウンド成分を画素ごとに生成する(ステップS7)。
【0052】
ステップS5またはステップS7の後、バックグラウンド除去部15は、各画素に対応する発光データから当該画素に対応するバックグラウンド成分を除去することにより応力発光成分を生成する(ステップS8)。その後、応力算出部16は、応力発光成分に基づいて応力発光物質2における応力および測定対象物1に印加された荷重を算出する(ステップS9)。
【0053】
(5)応力発光試験システム
図8は、
図1の応力発光測定装置100を備えた応力発光試験システムの構成を示すブロック図である。
図8に示すように、応力発光試験システム300は、応力発光測定装置100に加えて荷重印加装置200を備える。本実施の形態では、測定制御部20は、荷重の印加の開始タイミングおよび終了タイミングを示す荷重印加信号LAを荷重印加装置200に与える。
【0054】
荷重印加装置200は、荷重印加信号LAにより示された開始タイミングおよび終了タイミングに従って、測定対象物1に荷重を印加する。また、荷重印加装置200には、荷重の印加の開始および終了を指示する外部トリガ信号TRが入力されてもよい。この場合、荷重印加装置200は、外部トリガ信号TRに応答して測定対象物1への荷重の印加を開始および終了するとともに、測定制御部20に荷重の印加の開始および終了を通知する通知信号NFを与える。なお、荷重印加装置200に入力される外部トリガ信号TRが測定制御部20にも入力されてもよい。
【0055】
測定制御部20は、発光検出部60により生成される発光データにおいて、荷重印加信号LA、外部トリガ信号TRまたは通知信号NFに基づいて荷重印加の開始タイミングおよび荷重印加の終了タイミングを特定する。例えば、測定制御部20は、発光データに荷重印加の開始タイミングおよび荷重印加の終了タイミングを示すタイミングデータを付与する。タイミングデータは、発光データにおいて荷重印加の開始時点および終了時点に対応するデータ値を識別する識別データであってもよく、あるいは、荷重印加の開始時点および終了時点を示す時間データであってもよい。
【0056】
応力発光試験システム300の応力発光測定装置100に含まれるデータ取得部11(
図3)は、測定制御部20から発光データとともにタイミングデータを取得する。区間決定部12(
図3)は、タイミングデータに基づいて発光データにおける無荷重区間R1,R2および応力発光区間R3を決定することができる。この場合、荷重印加装置200による測定対象物1への印加の開始タイミングおよび印加の終了タイミングに基づいて無荷重区間R1,R2および応力発光区間R3を正確に決定することができる。
【0057】
なお、応力発光試験システム300の応力発光測定装置100において、
図7に示した応力発光データ処理が行われてもよい。
【0058】
(6)効果
本実施の形態に係る応力発光測定装置100においては、励起光照射部50により応力発光物質2へ励起光が1回照射されることにより、バックグラウンド成分および応力発光成分を含む発光データが発光検出部60により生成される。応力発光データ処理装置10においては、発光データにおいて無荷重区間R1,R2または無荷重範囲R10,R20が自動的にまたは手動で特定され、特定された無荷重区間R1,R2または無荷重範囲R10,R20に基づいてバックグラウンド成分が特定される。発光データからバックグラウンド成分が除去されることにより応力発光成分が生成される。この場合、バックグラウンド成分を特定するために発光データを複数回取得する必要がなく、共通の発光データを用いてバックグラウンド成分および応力発光成分を特定することができる。したがって、荷重の印加に起因する発光強度成分を短時間でかつ正確に生成することが可能となる。
【0059】
(7)他の実施の形態
(a)上記実施の形態では、発光データにおける無荷重部分として、応力発光区間R3の前後の無荷重区間R1,R2が決定され、または応力発光区間R3の前後の無荷重範囲R10,R20が指定されるが、本発明はこれに限定されない。発光データにおける無荷重部分として、無荷重範囲R10,R20の一方が決定され、または無荷重範囲R10,R20の一方が指定されてもよい。この場合には、バックグラウンド特定部14は、一方の無荷重区間または一方の無荷重範囲に基づいてバックグラウンド成分を特定する。
【0060】
(b)上記実施の形態では、自動モードまたは手動モードで無荷重部分が決定されるが、本発明はこれに限定されず、自動モードと手動モードとの組み合わせにより無荷重部分が決定されてもよい。例えば、一または複数の無荷重部分が自動モードで決定され、他の一または複数の無荷重部分が手動モードで決定されてもよい。
【0061】
(c)手動モードでの無荷重部分の指定方法は複数の点を指定する
図4の方法に限定されず、他の方法により発光曲線C1の一または複数の無荷重部分が指定されてもよい。
【0062】
図9は、無荷重部分を指定する方法の他の例を示す図である。
図9の例においては、発光曲線C1を表示する画面上で縦軸方向に平行に延びかつ横軸方向に並ぶ複数(本例では4個)の直線L1~L4が指定される。指定された直線L1と直線L2との間の範囲、および直線L3と直線L4との間の範囲が無荷重区間R1,R2に含まれる無荷重部分(無荷重範囲)として指定される。
【0063】
図10は、無荷重部分を指定する方法のさらに他の例を示す図である。
図10の例においては、発光曲線C1を表示する画面上で複数(本例では2個)の矩形状の枠F1,F2が指定される。
図10の例においては、枠F1,F2は矩形状を有するが、楕円形状または長円形状等の他の形状を有してもよい。また、枠F1,F2に代えて、横軸方向に延びる線分が指定されてもよい。
【0064】
(d)
図8の実施の形態において、荷重印加信号LA、外部トリガ信号TRおよび通知信号NFは荷重の印加の開始タイミングおよび終了タイミングの両方を示すが、本発明はこれに限定されない。荷重印加信号LA、外部トリガ信号TRおよび通知信号NFが荷重の印加の開始タイミングおよび終了タイミングのいずれか一方を示してもよい。この場合、区間決定部12は無荷重区間R1および無荷重区間R2のいずれか一方を決定し、バックグラウンド特定部14は一方の無荷重区間に基づいてバックグラウンド成分を特定してもよい。
【0065】
(e)上記実施の形態では、応力発光データ処理装置10のデータ取得部11が測定制御部20に記憶された発光データを取得するが、本発明は、これに限定されず、応力発光データ処理装置10のデータ取得部11が発光検出部60により生成される発光データをリアルタイムに取得してもよい。この場合、区間特定部12が荷重印加信号LA、外部トリガ信号TRまたは通知信号NFに応答して無荷重区間R1,R2および応力発光区間R3をリアルタイムに特定してもよい。
【0066】
(f)上記実施の形態において、応力発光データ処理装置10は自動モードまたは手動モードで選択的に動作するが、本発明はこれに限定されない。応力発光データ処理装置10は自動モードのみで動作してもよいし、手動モードのみで動作してもよい。応力発光データ処理装置10が自動モードのみで動作する場合には、応力発光データ処理装置10に指定受付部13が設けられなくてもよい。応力発光データ処理装置10が手動モードのみで動作する場合には、応力発光データ処理装置10に区間決定部12が設けられなくてもよい。
【0067】
(g)上記実施の形態において、応力発光データ処理装置10は応力算出部16を有するが、本発明はこれに限定されない。応力発光データ処理装置10は応力算出部16を有しなくてもよい。応力発光物質2に発生した応力または測定対象物1に印加された荷重は、応力発光データ処理装置10により取得された応力発光成分に基づいて、パーソナルコンピュータPCの他のソフトウエアにより算出されてもよいし、他の情報処理装置により算出されてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…測定対象物,2…応力発光物質,10…応力発光データ処理装置,11…データ取得部,12…区間決定部,13…指定受付部,14…バックグラウンド特定部,15…バックグラウンド除去部,16…応力算出部,20…測定制御部,30…操作部,40…表示部,50…励起光照射部,60…発光検出部,100…応力発光測定装置,200…荷重印加装置,300…応力発光試験システム