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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】磁石用粉末の製造方法及び磁石用粉末
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/055 20060101AFI20230522BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230522BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20230522BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230522BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230522BHJP
   C22C 9/01 20060101ALN20230522BHJP
   C22C 9/02 20060101ALN20230522BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20230522BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20230522BHJP
   C22C 21/12 20060101ALN20230522BHJP
   C22C 18/00 20060101ALN20230522BHJP
【FI】
H01F1/055 130
B22F1/00 Y
H01F1/059 160
H01F1/055 110
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
C22C9/01
C22C9/02
C22C9/00
C22C14/00 Z
C22C21/12
C22C18/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019214170
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021086898
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤原 弘文
(72)【発明者】
【氏名】村崎 孝則
(72)【発明者】
【氏名】石野 尊拡
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 公洋
(72)【発明者】
【氏名】細川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】下島 康嗣
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-338603(JP,A)
【文献】特開平10-312918(JP,A)
【文献】特開2001-135509(JP,A)
【文献】特開2005-325450(JP,A)
【文献】特開2015-142119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/055
B22F 1/00
H01F 1/059
H01F 41/02
C22C 38/00
C22C 9/01
C22C 9/02
C22C 9/00
C22C 14/00
C22C 21/12
C22C 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料で構成された多結晶体の粒子に金属元素を粒界拡散させる粒界拡散工程と、
前記粒界拡散工程を行った粒子の過剰の金属元素を溶液による酸化還元反応により除去する除去工程と
前記除去工程を行った粒子が含有する水素元素を脱離させる水素脱離工程とを有し、
前記粒界拡散工程は、前記粒子と前記金属元素を不活性ガス雰囲気下で熱処理することによって行い、
前記水素脱離工程は、前記粒界拡散工程における熱処理の温度よりも低い温度で行うことを特徴とする磁石用粉末の製造方法。
【請求項2】
前記粒子が、微結晶のSm-Fe系多結晶体の粒子である請求項1に記載の磁石用粉末の製造方法。
【請求項3】
前記Sm-Fe系多結晶体の粒子は、主相がTbCu型の結晶構造である請求項に記載の磁石用粉末の製造方法。
【請求項4】
前記金属元素がZnである請求項1~のいずれか一項に記載の磁石用粉末の製造方法。
【請求項5】
前記水素脱離工程において、前記除去工程を行った粒子を、不活性ガス雰囲気下又は真空中、100~400℃で熱処理する請求項に記載の磁石用粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石用粉末の製造方法及び磁石用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
磁石用粉末の製造方法において、磁性材料で構成された多結晶体の粒子に非磁性相を粒界拡散させることが知られている。例えば、特許文献1には、NdFe14B相を含む多結晶体の粒子に非磁性相を接触させて、非磁性相を粒界拡散させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-234985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の磁石用粉末は、NdFe14B相を含む粒子に非磁性相が過剰に堆積することにより、磁石の体積分率が相対的に小さくなる虞があった。磁石の体積分率が相対的に小さくなると、残留磁束密度が低下する虞があった。本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁石の残留磁束密度を向上可能な磁石用粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための磁石用粉末の製造方法は、磁性材料で構成された多結晶体の粒子に金属元素を粒界拡散させる粒界拡散工程と、前記粒界拡散工程を行った粒子の過剰の金属元素を溶液による酸化還元反応により除去する除去工程とを有することを要旨とする。
【0006】
この構成によれば、粒界拡散工程を行った粒子の過剰の金属元素を溶液による酸化還元反応により除去する除去工程を有することより、磁石の体積分率を相対的に大きくして残留磁束密度を向上させることが可能になる。
【0007】
上記磁石用粉末の製造方法について、さらに、前記除去工程を行った粒子が含有する水素元素を脱離させる水素脱離工程を有することが好ましい。この構成によれば、除去工程の際に粒子に吸蔵された水素元素を除去することができる。粒子に吸蔵された水素元素を除去することにより、磁石の保磁力低下を抑制することが可能になる。
【0008】
上記磁石用粉末の製造方法について、前記粒子が、微結晶のSm-Fe系多結晶体の粒子であることが好ましい。この構成によれば、Sm-Fe系多結晶体の粒子は、レマネンスエンハンスメント効果(以下、「残留磁化促進効果」ともいう。)が働くことによって磁石の残留磁束密度をより向上させることが可能になる。
【0009】
上記磁石用粉末の製造方法について、前記Sm-Fe系多結晶体の粒子は、主相がTbCu型の結晶構造であることが好ましい。この構成によれば、金属元素の平均拡散率を高めることによる保磁力の向上効果が得られやすい。
【0010】
上記磁石用粉末の製造方法について、前記金属元素がZnであることが好ましい。この構成によれば、金属元素がZnであることにより、磁石用粉末の保磁力を好適に向上させることができる。
【0011】
上記磁石用粉末の製造方法について、前記水素脱離工程において、前記除去工程を行った粒子を、不活性ガス雰囲気下又は真空中、100~400℃で熱処理することが好ましい。この構成によれば、水素脱離工程をより好適に行うことができる。
【0012】
上記磁石用粉末の製造方法により製造された磁石用粉末であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁石用粉末の製造方法によれば、磁石の残留磁束密度を向上可能な磁石用粉末を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲を「~」を用いて表す場合、その両端の数値を含む。
本実施形態の磁石用粉末は、磁性材料で構成された粉末状の粒子として微結晶のSm-Fe系多結晶体の粒子を含む。
【0015】
ここで、「微結晶」とは、多結晶体を構成する多数の微小な単結晶を意味するものとする。また、磁石用粉末は、磁性粉末と言い換えることができる。
上記粒子を構成するSm-Fe系多結晶体は、Sm及びFeを構成元素とする多結晶体であってもよいし、Sm、Fe、及びその他元素を構成元素とする多結晶体であってもよい。その他元素としては、例えば、N、Zr、Co、Hf、Ga、Nd、Ti、Cr、Mn、V、Mo、W、Si、Re、Cu、Al、Ca、B、Ni、C、La、Ce、Pr、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Thが挙げられる。
【0016】
Sm-Fe系多結晶体は、その他元素を一種のみ含有するものであってもよいし、二種以上含有するものであってもよい。その他元素を一種のみ含有するSm-Fe系多結晶体としては、例えば、Sm-Fe-N系多結晶体が挙げられる。その他元素を二種以上含有するSm-Fe系多結晶体としては、例えば、Sm-Fe-N-Zr系多結晶体、Sm-Fe-N-Co系多結晶体、Sm-Fe-N-Hf系多結晶体が挙げられる。これらの中でも、Sm-Fe-N系多結晶体が好ましい。Sm-Fe-N系多結晶体としては、例えば、SmFe17(Xは、例えば、1~6)、SmFe93(Xは、例えば、1~20)が挙げられる。
【0017】
Sm-Fe系多結晶体は、大別してN元素を含有するものと含有しないものとがある。N元素を含有しないものは磁石ではないため、磁石用粉末を製造する際には、例えば、500℃までの高温にて、窒素、もしくは窒素含有ガスによる窒化処理が必要となる。
【0018】
Sm-Fe系多結晶体の結晶構造としては、例えば、TbCu型の結晶構造、ThZn17型の結晶構造が挙げられる。Sm-Fe系多結晶体の結晶構造は特に限定されるものではないが、主相がTbCu型の結晶構造であることが好ましい。ここで、「主相がTbCu型の結晶構造」とは、X線回折装置を用いてSm-Fe系多結晶体の粒子の回折角度や強度を測定した場合に、TbCu型の結晶構造のリファレンスと一致する結果が得られることを意味する。
【0019】
Sm-Fe系多結晶体の粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば、球状、柱状、板状、不定形状等のいずれであってもよい。
Sm-Fe系多結晶体の粒子の粒子径(D90)は、例えば、120μm以下であり、70μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。Sm-Fe系多結晶体の粒子の粒子径(D90)の下限値は、例えば、1μmである。粒子の粒子径は、例えば、レーザー回折・散乱法を用いた測定装置により測定することができる。また、Sm-Fe系多結晶体を構成する結晶粒の粒径(定方向平均径)は、例えば、30~500nmである。結晶粒の粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができる。
【0020】
Sm-Fe系多結晶体の粒子の内部には、金属元素としてZnが粒界拡散されている。すなわち、Sm-Fe系多結晶体の粒子の結晶粒界にはZnが含まれている。
磁石用粉末の製造方法について説明する。
【0021】
磁石用粉末は、以下に記載する粒界拡散工程、除去工程、水素脱離工程を順に経ることにより製造される。
(粒界拡散工程)
粒界拡散工程では、Sm-Fe系多結晶体の粒子の結晶粒界にZnを粒界拡散させる。
【0022】
Sm-Fe系多結晶体の粒子の結晶粒界にZnを粒界拡散させる拡散方法としては、例えば、公知の方法により用意したSm-Fe系多結晶体の粉末状の粒子と、金属粉末としてのZn粉末とを混合し、Ar雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下における常圧付近で、又は、10-4Pa台の真空中にて熱処理する方法が挙げられる。Sm-Fe系多結晶体の粉末状の粒子とZn粉末とを混合することに代えて、Sm-Fe系多結晶体の粒子にZnを湿式メッキで被覆してもよいし、Znをスパッタ、化学蒸着等で被覆してもよい。上記拡散方法において、Sm-Fe系多結晶体の粒子とZn粉末との混合比は、例えば、Znの含有割合が3~50質量%となる混合比であることが好ましい。熱処理の温度は、例えば、250~440℃であることが好ましい。熱処理の時間は、熱処理の温度に応じて適宜調整することができるが、例えば、5~50時間であることが好ましい。
【0023】
粒界拡散工程を行うことにより、Sm-Fe系多結晶体の粒子の結晶粒界にZnが粒界拡散されるとともに、粒子の表面に過剰のZnによる被覆層が形成される。粒界拡散したZnや被覆層に含まれるZnは、単体のZnや、ZnがSm-Fe系多結晶体に含まれるFeと形成した合金や、Sm、Fe及びZnが混在するアモルファスの状態で存在する。
【0024】
(除去工程)
除去工程では、粒界拡散工程を行った粒子の過剰のZnで構成された被覆層を溶液による酸化還元反応により除去する。酸化還元反応を行う溶液としては、例えば、酸性溶液、アルカリ性溶液、中性溶液が挙げられる。酸性溶液には、塩酸、硫酸等の溶液が用いられる。アルカリ性溶液には、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の溶液が用いられる。中性溶液には、塩化鉄(II)、過マンガン酸カリウム等の溶液が用いられる。例えば、塩酸の溶液を用いる場合、pHは-1~1であることが好ましい。水酸化カルシウムの溶液を用いる場合、pHは9~14.4であることが好ましい。過マンガン酸カリウムの溶液を用いる場合、pHは6.0~8.0であることが好ましい。
【0025】
除去工程の方法としては、例えば、粒界拡散工程を行ったSm-Fe系多結晶体の粒子を、酸化還元反応を行う溶液中に浸漬して、攪拌する方法が挙げられる。溶液の温度は、特に限定されず、室温(20℃)であってもよいが、25℃~70℃であることが好ましい。25℃~70℃であることにより、酸化還元反応をより短時間で行うことが可能になる。酸化還元反応の時間は、溶液の温度、溶液と粒子の量に応じて適宜調整できる。
【0026】
溶液中で粒子を攪拌する方法としては、特に限定されず、公知の攪拌子を用いて攪拌することができる。酸化還元反応の前後において、Sm-Fe系多結晶体の粒子を、適宜、水やアセトン等の有機溶媒を用いて洗浄してもよい。除去工程では、Znの被覆層を完全に除去してもよいし、一部の被覆層が残っていてもよい。
【0027】
(水素脱離工程)
水素脱離工程では、除去工程の際にSm-Fe系多結晶体の粒子に吸蔵された水素元素を除去する。具体的には、除去工程において、酸化還元反応を行う溶液に由来する水素元素のうちZnを溶解させた際にZnとイオン交換してSm-Fe系多結晶体の粒子の表面、結晶内部、及び、結晶粒界に吸蔵された水素元素を除去する。
【0028】
水素脱離の方法としては、例えば、除去工程を行った粒子を、不活性ガス雰囲気下又は真空中で熱処理することにより行うことができる。熱処理の温度は、特に限定されないが、100~400℃であることが好ましく、200~350℃であることがより好ましい。熱処理の温度は、粒界拡散工程における熱処理の温度よりも低いことがより好ましい。熱処理の温度が粒界拡散工程の熱処理温度よりも低いことにより、Sm-Fe系多結晶体の粒子に粒界拡散したZnの不要な拡散現象の進行を抑制することができる。熱処理の時間は、特に限定されず、1時間~4時間であることが好ましく、2時間~4時間であることがより好ましい。水素脱離工程では、Sm-Fe系多結晶体の粒子に吸蔵された水素元素を完全に除去してもよいし、一部の水素元素が残っていてもよい。
【0029】
以上の各工程を経ることにより、本実施形態の磁石用粉末を製造することができる。
磁石用粉末を用いて磁石を製造する方法は、特に限定されず、例えば、磁石用粉末を焼結する方法、磁石用粉末を圧縮成形する方法、バインダーを介して結合してボンド磁石とする方法等が挙げられる。これらの中でも、磁石用粉末を高密度化できる点から、磁石用粉末を焼結する方法、磁石用粉末を圧縮成形する方法を用いることが好ましい。
【0030】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)磁性材料で構成された多結晶体の粒子に金属元素を粒界拡散させる粒界拡散工程と、粒界拡散工程を行った粒子の過剰の金属元素を溶液による酸化還元反応により除去する除去工程とを有する。
【0031】
粒界拡散工程を行った粒子の過剰の金属元素を溶液による酸化還元反応により除去する除去工程を有することより、磁石の体積分率を相対的に大きくして残留磁束密度を向上させることが可能になる。
【0032】
(2)さらに、除去工程を行った粒子が含有する水素元素を脱離させる水素脱離工程を有する。除去工程の際に粒子に吸蔵された水素元素を除去することができる。したがって、粒子に吸蔵された水素元素を除去することにより、磁石の保磁力低下を抑制することが可能になる。
【0033】
(3)粒子が、微結晶のSm-Fe系多結晶体の粒子である。Sm-Fe系多結晶体の粒子は、残留磁化促進効果が働くことによって磁石の残留磁束密度をより向上させることが可能になる。
【0034】
(4)Sm-Fe系多結晶体の粒子は、主相が結晶磁気異方性の高いTbCu型の結晶構造である。したがって、金属元素の平均拡散率を高めることによる保磁力の向上効果が得られやすい。
【0035】
(5)金属元素がZnである。したがって、磁石用粉末の保磁力を好適に向上させることができる。
(6)水素脱離工程において、除去工程を行った粒子を、不活性ガス雰囲気下又は真空中、100~400℃で熱処理する。したがって、水素脱離工程をより好適に行うことができる。
【0036】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
磁性材料で構成された粉末状の粒子は、Sm-Fe系多結晶体の粒子に限定されない。例えば、Nd-Fe系多結晶体の粒子であってもよい。
【0037】
Sm-Fe系多結晶体の粒子に粒界拡散させる金属元素は、Znに限定されない。Sm-Fe系多結晶体の粒子に粒界拡散させる金属元素としては、例えば、Cu、Al、Sn、Nb、Zr、及び、Tiから選択される少なくとも1種の金属元素からなる単体金属、又は、これら金属元素やZnを含む合金が挙げられる。合金としては、例えば、CuSn、CuTi、CuAl、及び、TiZnから選択される少なくとも一種の合金が挙げられる。
【0038】
また、金属元素は、R-Mの組成で粒界拡散していてもよい。ここで、Rは1種類、または2種類以上の希土類元素、MはGa、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Hg、Ag、Auよりなる1種類以上である。
【0039】
除去工程において、粒界拡散工程を行った粒子の過剰の金属元素を溶液による酸化還元反応により除去する方法は、粒界拡散工程を行った粒子を溶液に浸漬する方法に限定されない。例えば、粒界拡散工程を行った粒子に対して、溶液を吹き付けて酸化還元反応を行ってもよい。
【0040】
本実施形態では、粒界拡散工程と水素脱離工程における不活性ガス雰囲気として、Arガスを用いていたが、この態様に限定されない。不活性ガスとして、例えば、窒素ガスやヘリウムガス等を用いてもよい。
【0041】
水素脱離工程における熱処理の温度は、粒界拡散工程における熱処理の温度と同じ温度であってもよく、粒界拡散工程における熱処理の温度より高い温度であってもよい。
本実施形態では、水素脱離工程において、除去工程を行った粒子を不活性ガス雰囲気下又は真空中で熱処理していたが、この態様に限定されない。水素脱離工程は、除去工程を行った粒子を空気雰囲気下で熱処理して行ってもよい。また、真空中や減圧雰囲気下で、熱処理せずに室温で行ってもよい。
【0042】
水素脱離工程は省略されていてもよい。例えば、除去工程において、アルカリ性の溶液を用いることによって、Sm-Fe系多結晶体の粒子への水素の吸蔵が抑制されている場合、水素脱離工程を省略することができる。
【実施例
【0043】
(実施例1)
Sm-Fe合金の原料を、底部に細孔を備えた石英製のノズルに入れ、Ar雰囲気下で高周波溶解した後、高速回転している銅製ロール上に溶湯を噴射することにより急冷してリボンを得た。得られたリボンをピンミルで粉砕して粉砕物を得た。得られた粉砕物に対して、Ar雰囲気下、750℃で1時間、熱処理した後、窒化処理を行うことにより、磁性材料で構成された粉末状のSm-Fe系多結晶体の粒子を得た。窒化処理は、熱処理を経た粉砕物を管状炉に入れ、Nガスを通過させつつ、450℃に24時間加熱することにより行なった。Sm-Fe系多結晶体の粒子の粒子径(D90)は、約10μmであった。また、Sm-Fe系多結晶体の粒子は、TbCu型の結晶構造を有していた。
【0044】
得られた粒子に、Znの含有割合が40質量%となるように粒子径(D90)が約10μmのZn粉末を混合して混合物を得た。この混合物をAr雰囲気下、10kPa(G)にて、350℃で10時間熱処理することにより、Znが粒界拡散した粒子を得た。
【0045】
得られた粒子を、水とアセトン溶液とを用いて個別に洗浄した後、室温(20℃)の過マンガン酸カリウムの溶液(pH7.9)中に浸漬して、30分間攪拌して酸化還元反応による処理を行った。
【0046】
酸化還元反応による処理を行った粒子を、水とアセトン溶液とを用いて個別に洗浄した後、Ar雰囲気下、200℃で2時間熱処理することにより、磁石用粉末を得た。
(実施例2~7、比較例1)
除去工程に用いる溶液の種類、処理時間と、水素脱離工程の条件を、表1のように変更した点を除いて、実施例1と同様にして磁石用粉末を得た。
【0047】
【表1】
(Sm-Fe系多結晶体の粒子の水素濃度の測定)
Sm-Fe系多結晶体の粒子の水素濃度の測定は、公知の昇温脱離ガス分析装置(TPD)を用いて、除去工程後の粒子及び水素脱離工程後の粒子の水素濃度を測定した。
【0048】
(保磁力及び残留磁束密度の測定)
保磁力の測定は、公知の振動試料型磁力計を用い、Sm-Fe系多結晶体の粒子の真密度を7.7g/cmとして、各実施例及び各比較例の粒子の保磁力を測定した。
【0049】
残留磁束密度の測定は、各実施例及び各比較例の粉末状の粒子を、公知の振動試料型磁力計を用いて残留磁束密度を測定した。
表1に、残留磁束密度と保磁力の変化量を示した。「残留磁束密度変化ΔBr(T)」における「除去工程後」の数値は、除去工程前に対する変化量を意味する。「水素脱離工程後」の数値は、除去工程後に対する変化量を意味する。
【0050】
「保磁力変化ΔHcj(kA/m)」における「除去工程前後」の数値は、除去工程の前後における変化量を意味する。「水素脱離工程前後」の数値は、水素脱離工程の前後における変化量を意味する。
【0051】
表1より、比較例1の磁石用粉末は、除去工程と水素脱離工程の両方を行っておらず、粒子の表面にZnを含有する被覆層が形成されていた。
これに対して、実施例1~7の磁石用粉末は、除去工程を行っていることにより、除去工程後の残留磁束密度が0.22T以上上昇することが確認された。また、実施例1~6は、除去工程に加えて水素脱離工程を行っていることにより、除去工程を行うことによって低下した保磁力が回復していることが確認された。特に、実施例2と4では、除去工程をアルカリ性の溶液を用いて行っているため、除去工程を行うことによる保磁力の低下自体が抑制されていた。