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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】加熱用チョコレート
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/32 20060101AFI20230522BHJP
   A23G 1/46 20060101ALI20230522BHJP
   A23G 1/40 20060101ALI20230522BHJP
   A21D 13/31 20170101ALI20230522BHJP
【FI】
A23G1/32
A23G1/46
A23G1/40
A21D13/31
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018063620
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019170291
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-12-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】397059157
【氏名又は名称】大東カカオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】明星 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】中川 翔
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 勉
【審査官】山本 英一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/141915(WO,A1)
【文献】特開2010-088374(JP,A)
【文献】特開2010-227001(JP,A)
【文献】特開2009-232795(JP,A)
【文献】特開2004-222571(JP,A)
【文献】特表2014-526267(JP,A)
【文献】国際公開第2009/068248(WO,A1)
【文献】特開平10-028530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性食物繊維を4~50質量%、無脂カカオ固形分を1質量%未満、粉乳を3質量%未満含有する焼成用チョコレート(ただし、砂糖51.2重量部、乳糖3.0重量部、粉末セルロース6.0重量部、カカオバター7.3重量部、植物油脂32.5重量部、レシチン0.4重量部、HLB15のショ糖脂肪酸エステル0.4重量部が配合された焼成チョコレート様食品を除く)。
【請求項2】
前記不溶性食物繊維がセルロースである請求項1に記載の焼成用チョコレート。
【請求項3】
糖類を30~75質量%含有し、糖類の含有量に対する砂糖の含有量の質量比が0.5以上である請求項1又は請求項2に記載の焼成用チョコレート。
【請求項4】
前記焼成用チョコレートがベーカリー製品生地と共に焼成される請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の焼成用チョコレート。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の焼成用チョコレートと、ベーカリー製品生地とを組み合わせて、焼成して得られるベーカリー製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱して使用される無脂カカオ固形分を実質的に含有しないチョコレートに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
チョコレートは、菓子の中でも一般消費者に広く好まれている商品である。チョコレートは、ベーカリー製品と組み合わせて使用されることが多い。チョコレートがベーカリー製品と組み合わせて使用される場合、チョコレートは加熱前のベーカリー製品生地と共に加熱されることが多い。そのため、ベーカリー製品生地と共に加熱されるチョコレートは、耐熱保形性を有することが必要であった。ベーカリー製品生地と共に加熱されるチョコレートとしては、特許文献1~5等のチョコレートが提案されている。
【0003】
チョコレートの種類には、カカオマスやココアパウダー等のカカオ成分が配合されていて、無脂カカオ固形分を含有するダークチョコレート、ミルクチョコレートがある。また、この他にも、チョコレートの種類には、カカオ成分が配合されておらず、無脂カカオ固形分を実質的に含有しないホワイトチョコレートやホワイトチョコレートに果実等が添加されたチョコレートが存在する。ホワイトチョコレートに果実等が添加されたチョコレートは、カラーチョコレートとも言われる。ホワイトチョコレート、カラーチョコレートのような無脂カカオ固形分を実質的に含有しないチョコレートは、ベーカリー製品生地と共に加熱して使用される場合もある。しかしながら、ベーカリー製品生地と共に加熱して使用される場合、無脂カカオ固形分を実質的に含有しないチョコレートは、ダークチョコレート、ミルクチョコレートのような無脂カカオ固形分を含有するチョコレーと比較して、耐熱保形性に劣るという欠点があった。
【0004】
従って、耐熱保形性を有する、無脂カカオ固形分を実質的に含有しない加熱用チョコレートの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-269121号公報
【文献】特開2001-314156号公報
【文献】国際公開第2005/029970号
【文献】特開2007-252364号公報
【文献】特開2007-259802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐熱保形性を有する、無脂カカオ固形分を実質的に含有しない加熱用チョコレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、不溶性食物繊維を特定量配合すると、耐熱保形性を有する、無脂カカオ固形分を実質的に含有しない加熱用チョコレートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明は、不溶性食物繊維を4~50質量%、無脂カカオ固形分を1質量%未満、粉乳を3質量%未満含有する焼成用チョコレート(ただし、砂糖51.2重量部、乳糖3.0重量部、粉末セルロース6.0重量部、カカオバター7.3重量部、植物油脂32.5重量部、レシチン0.4重量部、HLB15のショ糖脂肪酸エステル0.4重量部が配合された焼成チョコレート様食品を除く)である。
本発明の第2の発明は、前記不溶性食物繊維がセルロースである第1の発明に記載の焼成用チョコレートである。
本発明の第3の発明は、糖類を30~75質量%含有し、糖類の含有量に対する砂糖の含有量の質量比が0.5以上である第1の発明又は第2の発明に記載の焼成用チョコレートである。
本発明の第4の発明は、前記焼成用チョコレートがベーカリー製品生地と共に焼成される第1の発明~第3の発明のいずれか1つの発明に記載の焼成用チョコレートである。
本発明の第5の発明は、第1の発明~第4の発明のいずれか1つの発明に記載の焼成用チョコレートと、ベーカリー製品生地とを組み合わせて、焼成して得られるベーカリー製品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、耐熱保形性を有する、無脂カカオ固形分を実質的に含有しない加熱用チョコレートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、不溶性食物繊維を4~50質量%、無脂カカオ固形分を1質量%未満含有する。
【0011】
本発明でチョコレートは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規上で規定されたチョコレートに限定されない。本発明でチョコレートとは、食用油脂、砂糖等の甘味成分を主原料とし、必要により香料、乳化剤等を加え、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、成形工程、冷却工程等の全部乃至一部)を経て製造され、油脂が連続相をなし、実質的に水を含有しない食品(好ましくは水分含量が3質量%以下である。)である。
本発明で加熱用チョコレートは、加熱して使用されるチョコレートである。
【0012】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、不溶性食物繊維を含有する。本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、不溶性食物繊維を4~50質量%含有し、好ましくは4~30質量%含有し、より好ましくは5~25質量%含有する。加熱用チョコレートの不溶性食物繊維の含有量が前記範囲であると、耐熱保形性を有するチョコレートが得られる。なお、本発明でチョコレートが耐熱保形性を有するとは、チョコレートが加熱された(好ましくは200℃で14分間加熱された)時に、加熱前後でチョコレートの形状に変化が少ないことである。
【0013】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートの製造に使用される不溶性食物繊維は、好ましくはセルロースであり、より好ましくは結晶セルロースである。
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートの製造に使用されるセルロースは、平均粒子径が好ましくは5~60μmであり、より好ましく10~50μmであり、さらに好ましくは10~30μmである。
【0014】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、無脂カカオ固形分を1質量%未満含有し、好ましくは0.5質量%未満含有し、より好ましくは0.1質量%未満含有する。チョコレートの無脂カカオ固形分の含有量が前記範囲であると、実質的に無脂カカオ固形分を含有しないチョコレートが得られる。なお、本発明で無脂カカオ固形分とは、カカオ豆、カカオニブ、カカオマス、ココアパウダー等のカカオ分から油脂、水分を除いた固形分のことである。
【0015】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、好ましくは糖類を含有する。本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、糖類を好ましくは30~75質量%含有し、より好ましくは35~70質量%含有し、さらに好ましくは40~65質量%含有する。加熱用チョコレートの糖類の含有量が前記範囲であると、耐熱保形性をより有するチョコレートが得られる。なお、本発明で糖類とは、単糖類、二糖類のことである。糖類の具体例は、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖、ブドウ糖、果糖等である。
【0016】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、好ましくは砂糖を含有する。本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、砂糖を好ましくは30~75質量%含有し、より好ましくは35~70質量%含有し、さらに好ましくは40~65質量%含有する。加熱用チョコレートの砂糖の含有量が前記範囲であると、耐熱保形性をより有するチョコレートが得られる。
【0017】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、糖類の含有量に対する砂糖の含有量の質量比が好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは0.9以上である。加熱用チョコレートの糖類の含有量に対する砂糖の含有量の質量比が前記範囲であると、耐熱保形性をより有するチョコレートが得られる。
【0018】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、粉乳を好ましくは3質量%未満含有し、より好ましくは2質量%未満含有し、さらに好ましくは1質量%未満含有する。加熱用チョコレートの粉乳含有量が前記範囲であると、耐熱保形性をより有するチョコレートが得られる。なお、粉乳の具体例は、全脂粉乳、脱脂粉乳等が挙げられる。
【0019】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、好ましくは油脂を含有する。本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、油脂を好ましくは15~50質量%含有し、より好ましくは20~45質量%含有し、更に好ましくは25~40質量%含有する。なお、本発明で油脂とは、チョコレートに含まれる全ての油脂を合わせた全油脂分である。すなわち、油脂は、配合される油脂の他に、含油原料(全脂粉乳等)に含まれる油脂(乳脂等)を含む。
本発明の実施の形態に係る加熱用チョコレートの製造に使用される油脂は、一般的にチョコレートの製造に使用される食用油脂であれば、特に制限されない。チョコレートの製造に使用される食用油脂としては、例えば、ココアバター、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、サル脂、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、乳脂等や、これらの加工油脂(水素添加油、分別油、エステル交換油)等が挙げられる。これらの食用油脂は2種以上組み合せて使用することもできる。
【0020】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、前記成分の他に、チョコレートに一般的に配合される原料を使用することができる。具体的には、例えば、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール等の糖アルコール、ラフィノース等のオリゴ糖、アスパルテーム、ステビア、サッカリン等の甘味料、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、コーヒー粉末等の各種粉末、ガム類、澱粉類、レシチン、リゾレシチン、酵素分解レシチン、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、酸化防止剤、着色料、香料等を使用することができる。
【0021】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、従来公知のチョコレートの製造方法で製造することができる。本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、例えば、油脂、砂糖、乳化剤等を原料とし、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)、冷却工程等を経て製造される。本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、好ましくは微粒化工程を経て製造される。
【0022】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、耐熱保形性を有する。なお、前述したように、本発明でチョコレートが耐熱保形性を有するとは、チョコレートが加熱された(好ましくは200℃で14分間加熱された)時に、加熱前後でチョコレートの形状に変化が少ないことである。
【0023】
本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、加熱して使用される。本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、チョコレート自体を加熱して使用することができる。また、本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、ベーカリー製品生地と共に加熱して使用することもできる。本発明の実施の形態の加熱用チョコレートは、好ましくはベーカリー製品生地と共に加熱して使用される。加熱用チョコレートを加熱する手段としては、焼成、蒸す、揚げる(フライ)、マイクロ波(電子レンジ)等が挙げられる。加熱用チョコレートを加熱する手段は、好ましくは焼成である。なお、本発明でベーカリー製品生地とは、ベーカリー製品の加熱前の生地のことである。
【0024】
本発明の実施の形態のベーカリー製品は、本発明の実施の形態の加熱用チョコレートと、ベーカリー製品生地とを組み合わせて、加熱することで得られる。なお、本発明でベーカリー製品とは、穀粉(小麦粉等)、油脂(ショートニング、マーガリン、バター等)、糖類(砂糖等)、乳製品(牛乳、粉乳、クリーム等)、卵類(全卵、卵黄、卵白等)、塩類(食塩等)、膨張剤(重曹、ベーキングパウダー等)、乳化剤(レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等)、イースト、水等を原料としたベーカリー製品生地を、加熱することで得られる製品のことである。
チョコレートと、ベーカリー製品生地とを組み合わせる手段としては、包む、巻く、混合、接着、被覆、挟む、注入、埋没、トッピング等が挙げられる。また、加熱用チョコレートと、ベーカリー製品生地とを加熱する手段としては、焼成、蒸す、揚げる(フライ)、マイクロ波(電子レンジ)等が挙げられる。加熱用チョコレートと、ベーカリー製品生地とを加熱する手段は、好ましくは焼成である。
【0025】
本発明の実施の形態のベーカリー製品は、例えば、ビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、カットパン、ウェハース、サブレ、ラングドシャ、マカロン等の焼き菓子、バターケーキ類(パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ等)、スポンジケーキ類(ショートケーキ、ロールケーキ、トルテ、デコレーションケーキ、シフォンケーキ等)、シュー菓子、発酵菓子、パイ、ワッフル等の洋生菓子、菓子パン、フランスパン、シュトーレン、パネトーネ、ブリオッシュ、ドーナツ、デニッシュ、クロワッサン等のパンである。本発明の実施の形態のベーカリー製品は、好ましくはクロワッサンである。
【0026】
本発明の実施の形態のベーカリー製品は、本発明の実施の形態のチョコレートと、ベーカリー製品生地とを組み合わせて加熱すること以外、従来公知のベーカリー製品の製造方法で製造することができる。
本発明の実施の形態のベーカリー製品は、本発明の実施の形態のチョコレートと、ベーカリー製品生地とを組み合わせて、好ましくは190~230℃、10~20分間加熱し、より好ましくは200~210℃、14~18分間加熱することで製造する。
【0027】
本発明の実施の形態のベーカリー製品は、チョコレートが耐熱保形性を有する。
【実施例
【0028】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。しかし、本発明はこれらに何ら制限されない。
【0029】
〔チョコレートの製造〕
表1~2に示された配合のチョコレートを、通常のチョコレートの製造方法(混合、微粒化、精練、冷却)で製造した(チョコレートに含まれる水分の含有量は3質量%以下だった。)。製造されたチョコレートを縦15mm、横110mm、厚さ5mmに成形した。なお、使用した結晶セルロースは、平均粒子径が20μmだった。
【0030】
〔チョコレートクロワッサンの製造〕
成形された各チョコレートを市販のクロワッサン生地(縦160mm、横120mm、厚さ3.0mm)で巻いて、オーブン(上火温度:210℃、下火温度:200℃)で14分間焼成することで、チョコレートクロワッサンを製造した。
【0031】
〔チョコレートクロワッサンの評価〕
焼成された各チョコレートクロワッサンの先端部のチョコレートの形状と、焼成された各チョコレートクロワッサンを真ん中でカットした時の中心部のチョコレートの形状を、目視にて以下の評価基準で評価した。評価結果が両方共に○である場合、チョコレートが耐熱保形性を有しているとした。評価結果を表1~2に示した。
○:形状が焼成前と変わらない。
△:チョコレートが一部融けて、形状が焼成前から変化している。
×:チョコレートがほとんど融けて、形が残っていない。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
表1、2から分かるように、実施例のチョコレートは、耐熱保形性を有していた。
一方、表1、2から分かるように、比較例のチョコレートは、耐熱保形性を有していなかった。